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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08F
管理番号 1386148
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-03 
確定日 2022-07-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6838863号発明「フォトレジスト用樹脂、フォトレジスト樹脂の製造方法、フォトレジスト用樹脂組成物、及びパターン形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6838863号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6838863号(請求項の数5。以下、「本件特許」という。)は、平成28年3月16日(優先権主張:平成27年4月22日)の出願(特願2016−52778号)に係るものであって、令和3年2月16日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和3年3月3日である。)。
その後、令和3年9月3日に、本件特許の請求項1に係る特許に対して、特許異議申立人である森田弘潤(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

特許異議申立て以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年12月27日付け 取消理由通知書
令和4年 3月 4日 意見書(特許権者)
同年 5月10日 上申書(申立人)

申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第1号証 特開2010−168434号公報
・甲第2号証 特開2011−57857号公報
・甲第3号証 森田弘潤作成、シミュレーション結果報告書、2021年9月3日
・甲第4号証 「アゾ重合開始剤総合カタログ」、和光純薬工業株式会社、2009年4月、第8頁
・甲第5号証 森田弘潤作成、試験結果報告書、2021年9月3日
以下、「甲第1号証」〜「甲第5号証」を「甲1」〜「甲5」という。

第2 特許請求の範囲の記載
特許第6838863号の特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の請求項1〜5に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」という。また、明細書及び特許請求の範囲を「本件明細書等」という。)

「【請求項1】
単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、
前記重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに前記単量体を滴下開始し、前記単量体の滴下開始後から滴下終了時(前記単量体と前記重合開始剤の滴下が同時に終了する場合は前記単量体及び前記重合開始剤の滴下終了時であり、前記単量体及び前記重合開始剤それぞれの滴下が終了する時刻が異なる場合は後に滴下が終了した成分の滴下終了時)までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItC)と、前記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、常にItC>ItDであり、
前記単量体の滴下開始後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、前記tA後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、常にMwtA<MwtBである、フォトレジスト用樹脂の製造方法。
【請求項2】
単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により連鎖移動剤の存在下前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、
前記単量体の滴下開始前に重合溶媒に重合開始剤を存在させておき、
前記単量体及び重合開始剤の滴下開始後(前記単量体と前記重合開始剤の滴下を同時に開始する場合は前記単量体及び前記重合開始剤の滴下開始後であり、前記単量体及び前記重合開始剤それぞれの滴下を開始する時刻が異なる場合は後に滴下を開始した成分の滴下開始後)から滴下終了時(前記単量体と前記重合開始剤の滴下が同時に終了する場合は前記単量体及び前記重合開始剤の滴下終了時であり、前記単量体及び前記重合開始剤それぞれの滴下が終了する時刻が異なる場合は後に滴下が終了した成分の滴下終了時)までの間の任意の時刻tEにおける反応溶液中の前記連鎖移動剤の濃度(CtE)と、前記tE後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tFにおける反応溶液中の前記連鎖移動剤の濃度(CtF)との関係が、常にCtE>CtFであり、
前記滴下開始後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、前記tA後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、常にMwtA<MwtBである、フォトレジスト用樹脂の製造方法。
【請求項3】
単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、
前記単量体の滴下量が滴下する全単量体に対して15重量%未満のときに反応温度の降温を開始し、前記単量体及び前記重合開始剤の滴下開始時(前記単量体と前記重合開始剤の滴下を同時に開始する場合は前記単量体及び前記重合開始剤の滴下開始後であり、前記単量体及び前記重合開始剤それぞれの滴下を開始する時刻が異なる場合は後に滴下を開始した成分の滴下開始後)の温度(T0)と滴下終了時(前記単量体と前記重合開始剤の滴下が同時に終了する場合は前記単量体及び前記重合開始剤の滴下終了時であり、前記単量体及び前記重合開始剤それぞれの滴下が終了する時刻が異なる場合は後に滴下が終了した成分の滴下終了時)の温度(T1)との関係が、T0>T1であり、前記滴下開始後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tGにおける反応溶液の温度(TtG)と、前記tG後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tHにおける反応溶液の温度(TtH)との関係が、常にTtG>TtHであり、
前記滴下開始後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、前記tA後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、常にMwtA<MwtBである、フォトレジスト用樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフォトレジスト用樹脂と感放射線性酸発生剤とを混合してフォトレジスト用樹脂組成物を製造する、フォトレジスト用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のフォトレジスト用樹脂組成物を基板に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を露光し、次いでアルカリ溶解する工程を少なくとも含むパターン形成方法。」

第3 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)取消理由1(進歩性
本件の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内または外国において、頒布された甲1に記載された発明及び甲1及び甲2に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件の請求項1に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書で主張する申立の理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1(サポート要件)
本件の請求項1の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、本件の請求項1に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

内容の概要は、「第4 2(6)」で示すとおりである。

(2)申立理由2(実施可能要件
本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明は、下記の点で、当業者が本件の請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって、本件の請求項1に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

内容の概要は、「第4 3(5)」で示すとおりである。

(3)申立理由3(進歩性
本件の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に頒布された甲1又は甲2に記載された発明及び甲1〜甲5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件の請求項1に係る発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した取消理由1及び申立人がした申立理由1〜3によっては、いずれも、本件発明1に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。
なお、取消理由1と申立理由3とは、同じ進歩性の理由なので、以下では併せて検討する。

1 取消理由1及び申立理由3について
(1)甲1〜甲5の記載事項並びに甲1及び甲2に記載された発明について
ア 甲1
甲1の請求項1には、「少なくとも1種類の単量体および重合開始剤を滴下する、半導体製造用レジストに含まれるメタクリル系のラクトン構造を含む共重合体の重合方法であって、全重合開始剤添加量をA(g)、開始剤滴下時間をB(時間)、重合前に予め仕込まれた重合開始剤添加量および重合開始から30分後までに投入された重合開始剤添加量をX(g)とするとき、X(g)>1/2(時間)×A(g)/B(時間)を満足する重合方法。(ただし、Bは1時間を越える期間とし、単量体および重合開始剤のいずれもが容器中に投入された時点を重合開始とする。また、「g」および「時間」は単位である。)」が記載され、同請求項3には、「滴下重合開始前に、全重合開始剤添加量の1〜50%を容器中に予め一括添加しておく請求項1または2に記載の重合方法。」が記載され、同請求項4には、「滴下重合開始前に、全重合開始剤添加量の1〜50%を容器中に予め滴下により添加しておく請求項1または2に記載の重合方法。」が記載されている。
また、発明の詳細な説明の段落【0001】、【0007】〜【0008】、【0010】、【0031】〜【0036】、【0039】、【0047】以降の実施例の記載、特に、甲1の請求項1を引用する請求項4の具体例である実施例2に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「下記の化学式で表される

化合物(1−1)、化合物(1−2)及び化合物(1−3)を2−ブタノンに溶解させた単量体溶液、重合開始剤であるジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を2−ブタノンに溶解させた開始剤溶液を重合釜に滴下する、半導体製造用レジストに含まれるメタクリル系のラクトン構造を含む共重合体の重合方法であって、開始剤溶液の滴下を開始した5分後に、単量体溶液の滴下を開始し、重合開始剤の添加量A(g)は5.58g、開始剤滴下時間B(時間)は3.08時間、重合前に予め仕込まれた重合開始剤添加量および重合開始から30分後までに投入された重合開始剤添加量X(g)は1.06gであり、X(g)>1/2(時間)×A(g)/B(時間)を満足する重合方法。(ただし、Bは1時間を越える期間とし、単量体および重合開始剤のいずれもが容器中に投入された時点を重合開始とする。また、「g」および「時間」は単位である。)」(以下「甲1発明」といい、上記「X(g)>1/2(時間)×A(g)/B(時間)」を「甲1発明の不等式」という。)

また、甲1の請求項1を引用する請求項3の具体例である実施例1に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「下記の化学式で表される

化合物(1−1)、化合物(1−2)及び化合物(1−3)を2−ブタノンに溶解させた単量体溶液、重合開始剤であるジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を2−ブタノンに溶解させた開始剤溶液を重合釜に滴下する、半導体製造用レジストに含まれるメタクリル系のラクトン構造を含む共重合体の重合方法であって、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)と2−ブタノンとを重合釜に入れて混合し、単量体溶液と開始剤溶液を別々に滴下し、重合開始剤の添加量A(g)は5.58g、開始剤滴下時間B(時間)は3.00時間、重合前に予め仕込まれた重合開始剤添加量および重合開始から30分後までに投入された重合開始剤添加量X(g)は2.66gであり、X(g)>1/2(時間)×A(g)/B(時間)を満足する重合方法。(ただし、Bは1時間を越える期間とし、単量体および重合開始剤のいずれもが容器中に投入された時点を重合開始とする。また、「g」および「時間」は単位である。)」(以下「甲1発明A」という。)

イ 甲2
甲2の請求項1には、「反応器内に単量体および重合開始剤を供給しながら、該反応器内で重合体を生成する工程を有する重合体の製造方法であって、
単量体の全供給量のうちの12.5質量%が、前記反応器内に供給された時点で、
重合開始剤の全供給量のうちの25質量%以上が、該反応器内に供給されていることを特徴とする重合体の製造方法。」が記載されている。
また、発明の詳細な説明の段落【0001】、【0004】〜【0006】、【0012】、【0028】、【0034】〜【0035】、【0037】、【0049】、【0050】以降の実施例の記載、特に、甲2の請求項1の具体例である実施例1に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。

「溶媒である乳酸エチル、重合開始剤であるジメチル−2,2’−アゾビスブチレート及び【化1】

で表される単量体からなる第1の混合物の滴下開始と同時に、溶媒である乳酸エチル及び重合開始剤であるジメチル−2,2’−アゾビスブチレートからなる第2の混合物を滴下し、第1の混合物は4時間滴下し、第2の混合物は0.1時間滴下し、単量体の全供給量のうちの12.5質量%が反応容器内に供給された時点で、重合開始剤の全供給量のうち70.9質量%が反応容器内に供給されている重合体の製造方法」(以下「甲2発明」という。)

ウ 甲3
甲3は、申立人が作成した「シミュレーション結果報告書」と題する書証であって、甲1の実施例1及び甲2の実施例1に記載の条件で重合反応を行った場合、重合開始剤の濃度が本件発明1の特定(詳細は省略する。)を満たすかを確認するために行ったシミュレーション計算の結果を示したものである。
具体的には、以下の記載がされている。
(甲3a)「2 シミュレーション方法
以下に引用する、特開2013−103997号公報(発明の名称:低分子量レジスト用共重合体の製造方法)の段落【0041】〜【0042】に記載された方法でシミュレーションを行った。(特開2013−103997号公報の段落【0041】〜【0042】の記載は省略する。)」(第1頁第16行〜第3頁第3行)

(甲3b)「3 特開2010−168434号公報の実施例1の記載
特開2010−168434号公報の実施例1に係る記載は以下のとおりである。
([実施例1]【0050】〜【0052】の記載は省略する。)
なお、上記の記載中、重合開始剤の商品名は明らかではないものの、化学名が同じである「ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート(和光純薬工業社製、V601 (商品名))」のカタログ値により半減期を求めた。
また、上記実施例1では、予め重合釜に2.08gの開始剤が仕込まれており、単量体溶液の滴下開始までの時間は記載されていないが、シミュレーションにおいては「10分」として計算した。」(第3頁第4行〜第4頁第3行)

(甲3c)「4 特開2011−57857号公報の実施例1の記載
特開2011−57857号公報の実施例1に係る記載は以下のとおりである。
(【0057】、【0064】〜【0065】の記載は省略する。)
なお、シミュレーションにおいては、漏斗1(単量体+開始剤)及び漏斗2(開始剤)の同時滴下開始時を−6分とし、漏斗2の滴下終了時を0分として計算した。」(第4頁第4行〜第5頁表の下2行)

(甲3d)「5 結果
添付のとおり。
特開2010−168434号公報の実施例1及び特開2011−57857号公報の実施例1に記載の条件で重合反応を行った場合、重合開始剤の濃度(特開2011−57857号公報の実施例1については漏斗2の滴下終了時以降の重合開始剤の濃度)が、特許第6838863号公報の特許請求の範囲の規定(記載を省略する。)を満たすことが確認された。
・・・
特開2010−168434号公報の実施例1
・・・

●備考
・重合剤初期はり(重合釜に予め仕込んでおく)
・モノマー滴下開始を0分とした
・初期はりを加温して滴下開始までの時間は記載されていないが、「10分」とした。
・・・
特開2011−57857号公報の実施例1
・・・

■備考
・漏斗1及び漏斗2の同時滴下開始時を−6分とした
・漏斗2の滴下終了時を0分とした
・先行重量:1.3+73.9*6/240
・滴下重量:73.9*234/240」(第5頁下から13行〜第8頁右欄)

エ 甲4
甲4は、和光純薬工業株式会社が作成した「アゾ重合開始剤総合カタログ」と題する書証であって、溶液中におけるその他アゾ開始剤の半減期が以下のグラフとして記載されている。


オ 甲5
甲5は、申立人が作成した「試験結果報告書」と題する書証であって、甲1の実施例1に記載の条件で重合反応を行った場合、生成したポリマーの重量平均分子量が本件発明1の特定(詳細は省略する。)を満たすかを確認するために行った再現試験を示したものである。
具体的には、以下の記載がされている。
(甲5a)「2 方法
以下に引用する、特開2010−168434号公報の段落【0050】から【0052】の記載のとおりに、単量体溶液、開始剤溶液及び重合釜の溶液を調整し、重合反応を行った。
([実施例1]【0050】〜【0052】の記載は省略する。)」(第1頁第13行〜第2頁第11行)

(甲5b)「3 試験結果
上記2の方法で行われた試験の結果を以下の表に示す。

上表に示すとおり、特開2010−168434号公報の実施例1に記載の条件で重合反応を行った場合、生成したポリマーの重量平均分子量が、特許第6838863号公報の特許請求の範囲の規定(記載を省略する。)を満たすことが確認された。」(第2頁第12行〜下から2行)

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲1発明との対比・判断
a 対比
甲1発明の「単量体溶液」及び「開始剤溶液」を「滴下する」「半導体製造用レジストに含まれるメタクリル系のラクトン構造を含む共重合体の重合方法」は、滴下重合法であることは明らかであり、また、甲1発明では、ラジカル発生剤であることが明らかなジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を重合開始剤として使用しており、甲1発明の重合はラジカル重合であるといえるから、甲1発明の上記重合方法は、本件発明1の「単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法」に相当する。
甲1発明の「開始剤溶液の滴下を開始した5分後に、単量体溶液の滴下を開始」は、本件発明1の「前記重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに前記単量体を滴下開始」と「前記重合開始剤の滴下開始後に前記単量体を滴下開始」に限りにおいて一致する。

そうすると、甲1発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、
前記重合開始剤の滴下開始後に前記単量体を滴下開始するフォトレジスト用樹脂の製造方法。」

<相違点1>
単量体の滴下開始が、本件発明1では「重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのち」であるのに対し、甲1発明では「開始剤溶液の滴下を開始した5分後」である点

<相違点2>
本件発明1では「前記単量体の滴下開始後から滴下終了時(滴下終了時の定義は省略する。)までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItC)と、前記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、常にItC>ItD」であると特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点

<相違点3>
本件発明1では「前記単量体の滴下開始後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、前記tA後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、常にMwtA<MwtB」であると特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点

b 判断
事案に鑑み相違点3から検討する。
甲1には、分子量の非常に高い成分の生成を限りなく抑制した重合方法に関する記載はされているが、重合反応が進行している際に、経時的に製造される重合体の重量平均分子量が大きくなることは記載されていない。
また、甲2の発明の詳細な説明の段落【0001】には、技術分野として、「本発明は重合体の製造方法、該製造方法により得られるリソグラフィー用重合体、該リソグラフィー用重合体を用いたレジスト組成物、および該レジスト組成物を用いて、パターンが形成された基板を製造する方法に関する。」と記載され、同【0004】には、背景技術として、「レジストパターンの微細化に伴って、リソグラフィー用重合体の品質への要求も厳しくなっている。例えば重合過程で生成する微量の高分子量成分(ハイポリマー)は、リソグラフィー用重合体のレジスト用溶媒への溶解性やアルカリ現像液への溶解性の低下の原因となり、その結果レジスト組成物の感度が低下する。」と記載され、同【0006】には、発明が解決しようとする課題として、「溶媒への溶解性が良好であり、レジスト組成物に用いたときに高い感度が得られる重合体の製造方法・・・を提供すること」が記載されている。
この上で、特許請求の範囲の請求項1には、「反応器内に単量体および重合開始剤を供給しながら、該反応器内で重合体を生成する工程を有する重合体の製造方法であって、
単量体の全供給量のうちの12.5質量%が、前記反応器内に供給された時点で、
重合開始剤の全供給量のうちの25質量%以上が、該反応器内に供給されていることを特徴とする重合体の製造方法。」が記載され、同【0034】には、「本発明では、単量体が供給される期間の初期における重合開始剤の供給量を多くする。」と記載され、同【0028】には、「重合開始剤の使用量(全供給量)は、重合開始剤の種類に応じて、また得ようとする重合体の目標分子量に応じて設定される。重合開始剤の使用量が多いと、得られる重合体の分子量が小さくなり、重合開始剤の使用量が少ないと、得られる重合体の分子量が大きくなる傾向がある。
重合開始剤の使用量(全供給量)の範囲は、特に限定されないが、単量体の合計(全供給量)の100質量部に対して、0.1〜40.0質量部の範囲が好ましく、0.3〜30.0質量部の範囲がより好ましい。」と記載されている。

このように、甲2には、リソグラフィー用重合体のレジスト用溶媒への溶解性やアルカリ現像液への溶解性の低下、その結果レジスト組成物の感度が低下する原因となる微量の高分子量成分(ハイポリマー)の生成を抑制し、溶媒への溶解性が良好であり、レジスト組成物に用いたときに高い感度が得られることを目的として、反応器内に単量体および重合開始剤を供給しながら、重合体を生成する重合体の製造方法であって、概略すると、単量体が供給される期間の初期における重合開始剤の供給量を多くする製造方法に関する発明が記載されている。
そして、重合開始剤の使用量(全供給量)は、重合開始剤の種類に応じて、また得ようとする重合体の目標分子量に応じて設定され、重合開始剤の使用量が多いと、得られる重合体の分子量が小さくなり、重合開始剤の使用量が少ないと、得られる重合体の分子量が大きくなる傾向があることが記載され、単量体の合計に対する重合開始剤の使用量(全供給量)の数値範囲が記載されている。
上記した甲2の重合開始剤の使用量(全供給量)に関する記載は、「重合開始剤の使用量(全供給量)」と記載され、また、単量体の合計に対する重合開始剤の使用量(全供給量)の数値範囲が記載されていることからすると、あくまで単量体の合計に対する重合開始剤の全供給量が多いと得られる重合体の分子量が小さくなり、重合開始剤の全供給量が少ないと、得られる重合体の分子量が大きくなる傾向があることが記載されているといえ、重合反応が進行している際に、重合開始剤の濃度が高いと製造される重合体の分子量が小さくなり、重合開始剤の濃度が低いと製造される重合体の分子量が大きくなることを述べるものではない。

そうすると、いくら甲2の記載をみた当業者であったとしても、甲1発明において相違点3を構成する動機づけがあるとはいえない。

c 小括
よって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明及び甲2の記載事項から当業者が容易に発明をできたものとはいえない。

(イ)甲1発明Aとの対比・判断
a 対比
甲1発明Aの「単量体溶液」及び「開始剤溶液」を「滴下する」「半導体製造用レジストに含まれるメタクリル系のラクトン構造を含む共重合体の重合方法」は、滴下重合法であることは明らかであり、また、甲1発明Aでは、ラジカル発生剤であることが明らかなジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を重合開始剤として使用しており、甲1発明Aの重合はラジカル重合であるといえるから、甲1発明Aの上記重合方法は、本件発明1の「単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法」に相当する。

そうすると、甲1発明Aと本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法である、
フォトレジスト用樹脂の製造方法。」

<相違点4>
本件発明1では「重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに」「単量体を滴下開始」しているのに対し、甲1発明Aでは「単量体溶液と開始剤溶液を別々に滴下」している点

<相違点5>
本件発明1では「前記単量体の滴下開始後から滴下終了時(滴下終了時の定義は省略する。)までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItC)と、前記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、常にItC>ItD」であると特定されているのに対し、甲1発明Aではそのような特定がない点

<相違点6>
本件発明1では「前記単量体の滴下開始後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、前記tA後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、常にMwtA<MwtB」であると特定されているのに対し、甲1発明Aではそのような特定がない点

b 判断
(a)相違点4について
甲1発明Aでは「単量体溶液と開始剤溶液を別々に滴下」しているが、これは、本件発明1のように、まず重合開始剤を滴下したのちに単量体を滴下するものまで特定するものではない。
そこで、相違点4の容易想到性について検討する。
甲1には、その段落【0010】によれば、欠陥の原因となりやすい分子量の非常に高い成分の生成を限りなく抑制した重合方法を提供することを課題とし、請求項1に記載された発明が記載されているといえる。
この上で同【0033】には、甲1発明の不等式を満足することで、「重合開始剤が単量体に対して過剰に存在し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーでは検出できない程微量の非常に分子量の高い成分の生成を抑制することが可能となる。」と記載されている。そして、同【0035】には、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィーでは検出できない程微量の非常に分子量の高い成分の生成を抑制する好ましい重合法」の具体例の1つ目として、「重合釜に重合開始剤溶液の一部をあらかじめ仕込んでおき、重合温度まで加熱した後、重合開始剤溶液および単量体溶液を滴下により添加し、重合開始30分間、重合釜に重合開始剤が単量体に対して過剰に存在させる方法」が記載され、甲1発明Aは、この重合方法の具体例であるといえる。
ここで、甲1の【0035】には、上記好ましい重合法の具体例の2つ目として、「重合釜に重合溶剤の一部をあらかじめ仕込んでおき、重合温度まで加熱した後、先に重合開始剤溶液を滴下し、重合釜に重合開始剤が存在している状態で単量体溶液を滴下する方法」が記載されているが、これら好ましい重合法の2つの具体例は、甲1に記載された請求項1に記載された発明の別個の具体例であるといえ、好ましい製造方法の具体例の1つ目の方法に対して、2つ目の方法を適用することに動機づけがあるとはいえない。

(b)相違点6について
事案に鑑み、次に相違点6を検討する。
この点について、甲5には、甲1の実施例1に記載の条件で重合反応を行った場合、生成したポリマーの重量平均分子量が本件発明1の特定を満たすことが記載されているが、これはあくまで甲1の実施例1における試験結果が記載されているだけであって、上記(a)で述べた相違点4を本件発明1で特定した方法とした場合の試験結果を示すものではない。また、相違点4を本件発明1で特定した方法とした場合であっても、甲5の記載と同じ試験結果になるという技術常識はない。
以上のとおりであるので、甲5に記載された試験結果を直ちに甲1発明Aに適用して相違点6が本件発明1と一致するとはいえない。
よって、相違点6は実質的な相違点である。
また、上記(ア)bで述べたように、甲1及び甲2の記載をみた当業者であっても、相違点6が動機づけられるともいえない。

c 小括
よって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明並びに甲1、甲2及び甲5の記載事項から当業者が容易に発明をできたものとはいえない。

(ウ)甲2発明との対比・判断
a 対比
甲2発明の「【化1】

で表される単量体」は、フォトレジスト用樹脂の単量体であることは明らかであり、また、「単量体からなる第1の混合物」及び「重合開始剤であるジメチル−2,2’−アゾビスブチレート」を含む「第2の混合物」を「滴下」する「重合体の重合方法」は、滴下重合法であることは明らかであり、さらに、甲2発明では、ラジカル発生剤であることが明らかなジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)を重合開始剤として使用しており、甲2発明の重合はラジカル重合であるといえるから、甲2発明の上記重合方法は、本件発明1の「単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法」に相当する。

そうすると、甲2発明と本件発明1とは、以下の点において一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法である、
フォトレジスト用樹脂の製造方法。」

<相違点7>
本件発明1では「重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに」「単量体を滴下開始」しているのに対し、甲2発明では「第1の混合物の滴下開始と同時に、」「第2の混合物を滴下し」ている点

<相違点8>
本件発明1では「前記単量体の滴下開始後から滴下終了時(滴下終了時の定義は省略する。)までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItC)と、前記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、常にItC>ItD」であると特定されているのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点

<相違点9>
本件発明1では「前記単量体の滴下開始後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、前記tA後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、常にMwtA<MwtB」であると特定されているのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点

b 判断
事案に鑑み相違点9から検討する。
上記(ア)bで述べたように、甲2には、リソグラフィー用重合体のレジスト用溶媒への溶解性やアルカリ現像液への溶解性の低下、その結果レジスト組成物の感度が低下する原因となる微量の高分子量成分(ハイポリマー)の生成を抑制し、溶媒への溶解性が良好であり、レジスト組成物に用いたときに高い感度が得られることを目的として、反応器内に単量体および重合開始剤を供給しながら、重合体を生成する重合体の製造方法であって、概略すると、単量体が供給される期間の初期における重合開始剤の供給量を多くする製造方法に関する発明が記載されている。
そして、重合開始剤の使用量(全供給量)は、重合開始剤の種類に応じて、また得ようとする重合体の目標分子量に応じて設定され、重合開始剤の使用量が多いと、得られる重合体の分子量が小さくなり、重合開始剤の使用量が少ないと、得られる重合体の分子量が大きくなる傾向があることが記載され、単量体の合計に対する重合開始剤の使用量(全供給量)の数値範囲が記載されている。
上記した甲2の重合開始剤の使用量(全供給量)に関する記載は、「重合開始剤の使用量(全供給量)」と記載され、また、単量体の合計に対する重合開始剤の使用量(全供給量)の数値範囲が記載されていることからすると、あくまで単量体の合計に対する重合開始剤の全供給量が多いと得られる重合体の分子量が小さくなり、重合開始剤の全供給量が少ないと、得られる重合体の分子量が大きくなる傾向があることが記載されているといえ、重合反応が進行している際に、重合開始剤の濃度が高いと製造される重合体の分子量が小さくなり、重合開始剤の濃度が低いと製造される重合体の分子量が大きくなることを述べるものではない。

そうすると、いくら甲2の記載をみた当業者であったとしても、甲2発明において相違点9を構成する動機づけがあるとはいえない。

c 小括
よって、相違点7及び8について検討するまでもなく、本件発明1は甲2に記載された発明及びに甲2の記載事項から当業者が容易に発明をできたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1及び申立理由3によっては本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由1について
(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件明細書等の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(本a)「【0003】
一般的に滴下重合を用いた場合、単量体の滴下初期においては系中の重合開始剤濃度が低いため、滴下後期よりも分子量が高いポリマーが生成する。分子量が高いポリマーは溶剤に対する溶解性が低く、経時異物の発生や、露光プロセス時の欠陥の発生を引き起こす可能性がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、滴下重合における滴下初期の分子量が高い成分の生成が抑制されたフォトレジスト用樹脂及びその製造方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、上記フォトレジスト用樹脂を含有するフォトレジスト用樹脂組成物、及び該フォトレジスト用樹脂組成物を用いたパターン形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、単量体及び重合開始剤を滴下重合する工程において、重合反応の初期から終期にかけて分子量の高い成分を生成させることによって、滴下初期の分子量の高い成分の生成を効率よく抑制できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。」

(本b)「【0073】
[本発明のフォトレジスト用樹脂の製造方法]
本発明のフォトレジスト用樹脂は、単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により重合開始剤の存在下単量体をラジカル重合させる滴下重合によって得られる。即ち、本発明のフォトレジスト用樹脂の製造方法は、単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により上記単量体をラジカル重合させる滴下重合工程を少なくとも含む。また、上記滴下重合法において、上記滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、上記滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、tA<tBを満たす時、MwtA<MwtBである。このため、本発明のフォトレジスト用樹脂は、重合開始から滴下終了にかけて分子量が低い成分から生成していくので、分子量が高い成分の生成が抑制されている。」

(本c)「【0099】
上記滴下重合法において、MwtA<MwtBとなる本発明のフォトレジスト用樹脂の具体的な製造方法としては、下記(i)〜(iii)に記載の製造方法が好ましい。また、上記滴下重合法において、下記(i)〜(iii)のいずれか一つを採用してもよいし、2以上を組み合わせて採用してもよい。
(i)単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により上記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、上記重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに上記単量体を滴下開始し、上記単量体の滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の上記重合開始剤の濃度(ItC)と、上記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の上記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、ItC>ItDであるフォトレジスト用樹脂の製造方法;
・・・
【0100】
上記(i)において、上記tCは、単量体及び重合開始剤の滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻である。上記tDは、上記滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻である。なお、上記tCと上記tDとは、「tC<tD」の関係にある。なお、上記(i)において、上記tC及び上記tDにおける「滴下開始後」及び「滴下終了時」は、単量体の滴下開始後及び滴下終了時である。
【0101】
上記(i)において、上記時刻tCにおける反応溶液中の重合開始剤の濃度(ItC)と、上記時刻tDにおける反応溶液中の重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、ItC>ItDである。すなわち、単量体の滴下開始後から滴下終了時までの間は、重合開始剤が重合反応のために消費され、反応溶液中は常に「ItC>ItD」の関係が成り立ち、重合反応の初期から終期にかけて重合反応が進むに連れて重合開始剤の濃度が低下していく。なお、上記重合開始剤の濃度には、単量体の重合反応に使用され、生成したポリマー中に取り込まれる重合開始剤に由来する構造単位は含まれない。
【0102】
上記(i)において、単量体の滴下は、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに開始する。即ち、上記(i)では、まず重合開始剤の滴下を開始し、その後10分以上経過したのちに単量体の滴下を開始する。単量体の滴下開始は、重合開始剤の滴下開始後、30分以上経過後が好ましく、より好ましくは1時間以上経過後である。これにより、単量体の滴下開始時には、反応容器内に多量の重合開始剤が存在するため、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる。また、滴下すべき重合開始剤を予め反応容器内に入れておく場合と比べて、滴下する重合開始剤の量を増やしてスケールアップした場合であっても、単量体の滴下開始時において活性化された重合開始剤が反応容器内に十分に存在することになるため、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる。なお、上記端単量体の滴下開始は、特に限定されないが、重合開始剤の滴下開始後24時間以内であることが好ましく、より好ましくは12時間以内である。
【0103】
上記(i)において、上記ItCは、単量体の滴下開始前の反応容器内の重合開始剤の濃度(重合開始剤の初期濃度)よりも低ければ特に限定されない。また、上記ItDは、上記ItCよりも低ければ特に限定されない。
【0104】
上記(i)において、上記重合開始剤の初期濃度は、特に限定されないが、反応溶液の重量(100重量%)に対して、0.1〜5.0重量%が好ましく、より好ましくは0.2〜3.0重量%である。
【0105】
上記(i)において、滴下終了時の反応溶液中の重合開始剤の濃度は、特に限定されないが、反応溶液の重量(100重量%)に対して、0.05〜4.0重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜2.0重量%である。
【0106】
上記(i)において、重合開始剤を滴下した際に、反応溶液中の重合開始剤の濃度が上昇しないようにする観点から、滴下する重合開始剤の濃度は、滴下直前の反応溶液中の重合開始剤の濃度よりも低いことが好ましい。滴下する重合開始剤が溶液である場合、上記溶液中の重合開始剤の濃度は、特に限定されないが、上記溶液の重量(100重量%)に対して、0.1〜5.0重量%が好ましく、より好ましくは0.2〜3.0重量%である。」

(本d)「【実施例】
【0135】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に より限定されるものではない。なお、樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフラン溶媒を用いたGPC測定(ゲル浸透クロマトグラフ)により求めた。標準試料にポリスチレンを使用し、検出器としては屈折率計(Refractive Index Detector;RI検出器)を用いた。また、GPC測定には、昭和電工(株)製カラム(商品名「KF−806L」)を3本直列につないだものを使用し、カラム温度40℃、RI温度40℃、テトラヒドロフラン流速0.8mL/分の条件で行った。分子量分布(Mw/Mn)は上記測定値より算出した。なお、実施例2は参考例として記載するものである。
【0136】
実施例1
還流管、撹拌子、3方コックを備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、シクロヘキサノン88.84gを入れて温度を80℃に保ち、撹拌しながら、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]2.04g、シクロヘキサノン47.16gを混合した溶液(重合開始剤を含有する溶液)を2時間かけて一定速度で滴下した。滴下終了後続けて、1−シアノ−5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン58.83g(0.238mol)、1−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシアダマンタン11.24g(0.048mol)、1−(1−メタクリロイルオキシ−1−メチルエチル)アダマンタン49.92g(0.191mol)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]6.12g、シクロヘキサノン544.00gを混合した溶液(単量体及び重合開始剤を含有する溶液)を6時間かけて一定速度で滴下した。上記溶液の滴下開始後、所定の時間に反応容器からサンプリングを行い、サンプリングした反応液を分析することで、反応容器内の重合開始剤の濃度、生成ポリマーの分子量を確認した(表1)。上記溶液の滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに2時間続けた。
重合反応終了後、該反応溶液の10倍量のヘプタンと酢酸エチル8:2(重量比)の混合液(25℃)中に撹拌しながら滴下した。生じた沈殿物を濾別、減圧乾燥することにより、所望の樹脂105.8gを得た。回収したポリマーをGPC分析したところ、Mw(重量平均分子量)が7200、分子量分布(Mw/Mn)が1.78であった。
・・・
【0139】
実施例4
還流管、撹拌子、3方コックを備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート43.81g、プロピレングリコールモノメチルエーテル29.21gを入れて温度を80℃に保ち、撹拌しながら、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]1.09g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート28.19g、プロピレングリコールモノメチルエーテル18.79gを混合した溶液(重合開始剤を含有する溶液)を1時間かけて一定速度で滴下した。滴下終了後続けて、メタクリル酸−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−2−イル51.98g(0.234mol)、メタクリル酸−3,5−ジヒドロキシアダマンタン−1−イル14.75g(0.059mol)、メタクリル酸−1−エチルシクロペンタン−1−イル53.27g(0.293mol)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]6.59g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート216.00g、プロピレングリコールモノメチルエーテル144.00gを混合した溶液(単量体及び重合開始剤を含有する溶液)を6時間かけて一定速度で滴下した。上記溶液の滴下開始後、所定の時間に反応容器からサンプリングを行い、サンプリングした反応液を分析することで、反応容器内の重合開始剤の濃度、生成ポリマーの分子量を確認した(表1)。上記溶液の滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに2時間続けた。
重合反応終了後、該反応溶液を200.00gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈し、希釈後反応溶液の7.5倍量のヘプタンと酢酸エチル8:2(重量比)の混合液(25℃)中に撹拌しながら該希釈後反応溶液を滴下した。生じた沈殿物を濾別、減圧乾燥することにより、所望の樹脂112.2gを得た。回収したポリマーをGPC分析したところ、Mw(重量平均分子量)が7200、分子量分布(Mw/Mn)が1.85であった。
・・・
【0141】
実施例6
還流管、撹拌子、3方コックを備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート209.60g、メチルエチルケトン314.40gを入れて温度を80℃に保ち、撹拌しながら、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]6.68g、チオグリコール酸メチル(連鎖移動剤)3.08g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート57.60g、メチルエチルケトン86.40gを混合した溶液(重合開始剤及び連鎖移動剤を含有する溶液)を8時間かけて一定速度で滴下した。前記溶液の滴下開始後、2時間が経過した段階で、メタクリル酸−2−(6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−2−イルオキシ)−2−オキソエチル249.49g(0.818mol)、メタクリル酸−1−(アダマンタン−1−イル)−1−メチルプロピル150.51g(0.545mol)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート372.80g、メチルエチルケトン559.20gを混合した溶液(単量体を含有する溶液)を6時間かけて一定速度で滴下した。上記溶液の滴下開始後、所定の時間に反応容器からサンプリングを行い、サンプリングした反応液を分析することで、反応容器内の重合開始剤の濃度、生成ポリマーの分子量を確認した(表1)。上記溶液の滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに2時間続けた。
重合反応終了後、該反応溶液を666.67gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈し、希釈後反応溶液の7.5倍量のヘプタンと酢酸エチル8:2(重量比)の混合液(25℃)中に撹拌しながら該希釈後反応溶液を滴下した。生じた沈殿物を濾別、減圧乾燥することにより、所望の樹脂342.0gを得た。回収したポリマーをGPC分析したところ、Mw(重量平均分子量)が10400、分子量分布(Mw/Mn)が1.89であった。
【0142】
実施例7
還流管、撹拌子、3方コックを備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート209.60g、メチルエチルケトン314.40gを入れて温度を80℃に保ち、撹拌しながら、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]19.20g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート57.60g、メチルエチルケトン86.40gを混合した溶液(重合開始剤を含有する溶液)を7時間かけて一定速度で滴下した。前記溶液の滴下開始後、1時間が経過した段階で、メタクリル酸−2−(6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−2−イルオキシ)−2−オキソエチル249.49g(0.818mol)、メタクリル酸−1−(アダマンタン−1−イル)−1−メチルプロピル150.51g(0.545mol)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート372.80g、メチルエチルケトン559.20gを混合した溶液(単量体を含有する溶液)を6時間かけて一定速度で滴下した。上記溶液の滴下開始後、所定の時間に反応容器からサンプリングを行い、サンプリングした反応液を分析することで、反応容器内の重合開始剤の濃度、生成ポリマーの分子量を確認した(表1)。上記溶液の滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに2時間続けた。
重合反応終了後、該反応溶液を666.67gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈し、希釈後反応溶液の7.5倍量のヘプタンと酢酸エチル8:2(重量比)の混合液(25℃)中に撹拌しながら該希釈後反応溶液を滴下した。生じた沈殿物を濾別、減圧乾燥することにより、所望の樹脂353.3gを得た。回収したポリマーをGPC分析したところ、Mw(重量平均分子量)が10500、分子量分布(Mw/Mn)が1.98であった。
【0143】
実施例8
還流管、撹拌子、3方コックを備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート322.70g、メチルエチルケトン215.13gを入れて温度を80℃に保ち、撹拌しながら、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]38.00g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート53.20g、メチルエチルケトン35.47gを混合した溶液(重合開始剤を含有する溶液)を6時間かけて一定速度で滴下した。前記溶液の滴下開始後、2時間が経過した段階で、メタクリル酸−5,5−ジオキソ−4−オキサ−5−チアトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−2−イル195.45g(0.758mol)、メタクリル酸−1−(シクロヘキサン−1−イル)−1−メチルエチル106.06g(0.505mol)、メタクリル酸−2−メチルアダマンタン−2−イル98.48g(0.421mol)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート584.10g、メチルエチルケトン389.40gを混合した溶液(単量体を含有する溶液)を4時間かけて一定速度で滴下した。上記溶液の滴下開始後、所定の時間に反応容器からサンプリングを行い、サンプリングした反応液を分析することで、反応容器内の重合開始剤の濃度、生成ポリマーの分子量を確認した(表1)。上記溶液の滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに2時間続けた。
重合反応終了後、該反応溶液を666.67gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈し、希釈後反応溶液の7.5倍量のヘプタンと酢酸エチル8:2(重量比)の混合液(25℃)中に撹拌しながら該希釈後反応溶液を滴下した。生じた沈殿物を濾別、減圧乾燥することにより、所望の樹脂300.4gを得た。回収したポリマーをGPC分析したところ、Mw(重量平均分子量)が5200、分子量分布(Mw/Mn)が1.65であった。
【0144】
実施例9
還流管、撹拌子、3方コックを備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート534.80gを入れて温度を80℃に保ち、撹拌しながら、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]11.20g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート100.80gを混合した溶液(重合開始剤を含有する溶液)を6時間かけて一定速度で滴下した。前記溶液の滴下開始後、2時間が経過した段階で、メタクリル酸−2−オキソテトラヒドロフラン−3−イル58.05g(0.341mol)、メタクリル酸−2−(6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−2−イルオキシ)−2−オキソエチル156.21g(0.512mol)、メタクリル酸−1−(シクロヘキサン−1−イル)−1−メチルエチル143.41g(0.683mol)、メタクリル酸−2−エチルアダマンタン−2−イル43.24g(0.171mol)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート964.40gを混合した溶液(単量体を含有する溶液)を4時間かけて一定速度で滴下した。上記溶液の滴下開始後、所定の時間に反応容器からサンプリングを行い、サンプリングした反応液を分析することで、反応容器内の重合開始剤の濃度、生成ポリマーの分子量を確認した(表1)。上記溶液の滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに2時間続けた。
重合反応終了後、該反応溶液を666.67gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈し、希釈後反応溶液の7.5倍量のヘプタンと酢酸エチル8:2(重量比)の混合液(25℃)中に撹拌しながら該希釈後反応溶液を滴下した。生じた沈殿物を濾別、減圧乾燥することにより、所望の樹脂330.0gを得た。回収したポリマーをGPC分析したところ、Mw(重量平均分子量)が12600、分子量分布(Mw/Mn)が2.10であった。
【0145】
比較例1
還流管、撹拌子、3方コックを備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、シクロヘキサノン136.00gを入れて温度を80℃に保ち、撹拌しながら、1−シアノ−5−メタクリロイルオキシ−3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン58.83g(0.238mol)、1−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシアダマンタン11.24g(0.048mol)、1−(1−メタクリロイルオキシ−1−メチルエチル)アダマンタン49.92g(0.191mol)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]8.16g、シクロヘキサノン544.00gを混合した溶液(単量体及び重合開始剤を含有する溶液)を6時間かけて一定速度で滴下した。上記溶液の滴下開始後、所定の時間に反応容器からサンプリングを行い、サンプリングした反応液を分析することで、反応容器内の重合開始剤の濃度、生成ポリマーの分子量を確認した(表1)。単量体溶液の滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに2時間続けた。
重合反応終了後、該反応溶液の10倍量のヘプタンと酢酸エチル8:2(重量比)の混合液(25℃)中に撹拌しながら滴下した。生じた沈殿物を濾別、減圧乾燥することにより、所望の樹脂97.7gを得た。回収したポリマーをGPC分析したところ、Mw(重量平均分子量)が7100、分子量分布(Mw/Mn)が1.82であった。
【0146】
比較例2
還流管、撹拌子、3方コックを備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート72.00g、プロピレングリコールモノメチルエーテル48.00gを入れて温度を80℃に保ち、撹拌しながら、メタクリル酸−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−2−イル51.98g(0.234mol)、メタクリル酸−3,5−ジヒドロキシアダマンタン−1−イル14.75g(0.059mol)、メタクリル酸−1−エチルシクロペンタン−1−イル53.27g(0.293mol)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]7.44g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート216.00g、プロピレングリコールモノメチルエーテル144.00gを混合した溶液(単量体及び重合開始剤を含有する溶液)を6時間かけて一定速度で滴下した。上記溶液の滴下開始後、所定の時間に反応容器からサンプリングを行い、サンプリングした反応液を分析することで、反応容器内の重合開始剤の濃度、生成ポリマーの分子量を確認した(表1)。単量体溶液の滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに2時間続けた。
重合反応終了後、該反応溶液を200.00gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈し、希釈後反応溶液の7.5倍量のヘプタンと酢酸エチル8:2(重量比)の混合液(25℃)中に撹拌しながら該希釈後反応溶液を滴下した。生じた沈殿物を濾別、減圧乾燥することにより、所望の樹脂107.1gを得た。回収したポリマーをGPC分析したところ、Mw(重量平均分子量)が7000、分子量分布(Mw/Mn)が1.82であった。
【0147】
比較例3
還流管、撹拌子、3方コックを備えた丸底フラスコに、窒素雰囲気下、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート224.00g、メチルエチルケトン336.00gを入れて温度を80℃に保ち、撹拌しながら、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート[和光純薬工業(株)製、商品名「V−601」]18.40g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート57.60g、メチルエチルケトン86.40gを混合した溶液(重合開始剤を含有する溶液)及び、メタクリル酸−2−(6−シアノ−5−オキソ−4−オキサトリシクロ[4.2.1.03,7]ノナン−2−イルオキシ)−2−オキソエチル249.49g(0.818mol)、メタクリル酸−1−(アダマンタン−1−イル)−1−メチルプロピル150.51g(0.545mol)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート358.40g、メチルエチルケトン537.60gを混合した溶液(単量体を含有する溶液)を同時に滴下開始し、それぞれ6時間かけて一定速度で滴下した。上記溶液の滴下開始後、所定の時間に反応容器からサンプリングを行い、サンプリングした反応液を分析することで、反応容器内の重合開始剤の濃度、生成ポリマーの分子量を確認した(表1)。単量体溶液の滴下終了後、反応溶液の撹拌をさらに2時間続けた。
重合反応終了後、該反応溶液を666.67gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートで希釈し、希釈後反応溶液の7.5倍量のヘプタンと酢酸エチル8:2(重量比)の混合液(25℃)中に撹拌しながら該希釈後反応溶液を滴下した。生じた沈殿物を濾別、減圧乾燥することにより、所望の樹脂357.8gを得た。回収したポリマーをGPC分析したところ、Mw(重量平均分子量)が10100、分子量分布(Mw/Mn)が2.02であった。
・・・
【0158】
実施例10
実施例1〜9及び比較例1〜3で得られた各樹脂2.0gに、1−メトキシ−2−プロピルアセテート18.0gをそれぞれ添加し、6時間23℃で攪拌した。攪拌終了後、目視にて溶解有無を確認し、以下の基準で評価した。結果を、表1の「溶解試験」の欄に示した。
○(良好):溶液が透明で溶け残りが見られない。
×(不良):溶け残りが見られる、または溶液が白濁している。
【0159】
【表1】



(4)本件発明1の課題について
本件発明1の課題は、本件明細書等の発明の詳細な説明の段落【0008】及び本件明細書等の全体の記載からみて、滴下重合における滴下初期の分子量が高い成分の生成が抑制されたフォトレジスト用樹脂の製造方法を提供することであると認める。

(5)判断
本件発明1は、その請求項1の「単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、
前記重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに前記単量体を滴下開始し、前記単量体の滴下開始後から滴下終了時(前記単量体と前記重合開始剤の滴下が同時に終了する場合は前記単量体及び前記重合開始剤の滴下終了時であり、前記単量体及び前記重合開始剤それぞれの滴下が終了する時刻が異なる場合は後に滴下が終了した成分の滴下終了時)までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItC)と、前記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、常にItC>ItDであり、
前記単量体の滴下開始後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、前記tA後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、常にMwtA<MwtBである、フォトレジスト用樹脂の製造方法。」という記載により特定される発明である。

この発明に関して、本件明細書等の発明の詳細な説明の段落【0073】には、本発明のフォトレジスト用樹脂の製造方法として、「滴下重合法において、上記滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、上記滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、tA<tBを満たす時、MwtA<MwtBである。このため、本発明のフォトレジスト用樹脂は、重合開始から滴下終了にかけて分子量が低い成分から生成していくので、分子量が高い成分の生成が抑制されている」という記載がされ(摘記(本b))、また、同【0099】には、MwtA<MwtBとなる本発明のフォトレジスト用樹脂の具体的な製造方法として、「(i)単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により上記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、上記重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに上記単量体を滴下開始し、上記単量体の滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の上記重合開始剤の濃度(ItC)と、上記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の上記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、ItC>ItDであるフォトレジスト用樹脂の製造方法」という記載がされ(摘記(本c))、同【0102】には、単量体の滴下開始のタイミングについて、「単量体の滴下は、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに開始する。即ち、上記(i)では、まず重合開始剤の滴下を開始し、その後10分以上経過したのちに単量体の滴下を開始する。単量体の滴下開始は、重合開始剤の滴下開始後、30分以上経過後が好ましく、より好ましくは1時間以上経過後である。これにより、単量体の滴下開始時には、反応容器内に多量の重合開始剤が存在するため、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる。また、滴下すべき重合開始剤を予め反応容器内に入れておく場合と比べて、滴下する重合開始剤の量を増やしてスケールアップした場合であっても、単量体の滴下開始時において活性化された重合開始剤が反応容器内に十分に存在することになるため、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる。」と記載されている(摘記(本c))。

このように、本件明細書等の発明の詳細な説明には、分子量が高い成分の生成が抑制されているフォトレジスト用樹脂の製造方法としては、滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、上記滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、tA<tBを満たす時、MwtA<MwtBとなる方法が記載され、MwtA<MwtBとなるための具体的な製造方法としては、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに単量体を滴下開始し、単量体の滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の重合開始剤の濃度(ItC)と、上記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の上記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、ItC>ItDであることが記載され、単量体の滴下開始のタイミングについては、単量体の滴下開始時に反応容器内に多量の重合開始剤が存在するため、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる、ということを前提に、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのち、好ましくは30分以上経過後、より好ましくは1時間経過後に開始することが記載されているといえる。

そして、同【0135】以降には、本件発明1の具体例として、実施例1、4、6〜9が記載され、フォトレジスト溶媒であるといえる1−メトキシ−2−プロピルアセテートに対する溶解性が良好であることが記載されている。一方、本件発明1の具体例ではない比較例1〜3では、上記した溶解性が不良であることが記載されている(摘記(本d))。
ここで、同【0003】には、「分子量が高いポリマーは溶剤に対する溶解性が低く、経時異物の発生や、露光プロセス時の欠陥の発生を引き起こす可能性がある。」と記載されている(摘記(本a))ことからすると、上記実施例における1−メトキシ−2−プロピルアセテートに対する溶解性が良好であることは、分子量が高いポリマーの生成が抑制されたと解することができ、上記した実施例は、本件発明1の課題を解決しているということができる。

上記で示したように、本件明細書等の発明の詳細な説明によれば、単量体の滴下開始時に、反応容器内に多量の重合開始剤が存在すると、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる、ということを前提に、単量体の滴下時期が、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちであることが必要であると理解できるのであり、本件発明1で特定される単量体の滴下時期を採用することにより、本件発明1で特定される重合開始剤の濃度とポリマーの重合平均分子量を満足するフォトレジスト用樹脂の製造方法が実施でき、分子量が高い成分の生成が抑制されているフォトレジスト用樹脂が製造できるといえる。そして、本件発明1の課題が解決できることが具体的なデータと共に記載された実施例に接した当業者であれば、本件発明1の全般にわたり本件発明1の課題を解決できると認識できるということができ、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。

(6)申立人の主張
ア 申立人は特許異議申立書にて、概略、以下の2点について主張する。
(ア)実施例からは、せいぜい、重合開始剤の滴下開始後1時間経過したのちに単量体を滴下開始した場合に本件発明1の課題が解決できることを読み取れるのみであり、重合開始剤先行供給時間が「10分」にすぎない場合、単量体の滴下初期における重合開始剤の量が十分に多くない蓋然性が高いといわざるを得ず、分子量が高い成分の生成抑制という課題が解決できない(特許異議申立書第14頁第3行〜第15頁第25行、以下「主張(ア)」という。)。

(イ)重合開始剤先行供給時間を規定するのみならず、単量体の滴下開始時点における重合開始剤の供給量(ないし濃度)や滴下の速度等も、分子量が高いポリマーの生成抑制のための重要なファクターであり、これらの点を規定しないことには上記課題を解決し得ない(特許異議申立書第15頁第26行〜第16頁第8行、以下「主張(イ)」という。)。

イ 検討
主張(ア)及び(イ)をまとめて検討する。
上記(5)で述べたように、本件明細書等の発明の詳細な説明には、単量体の滴下開始時に、反応容器内に多量の重合開始剤が存在すると、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる、ということを前提に、単量体の滴下時期が、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちであることが記載されていると理解できるのであり、本件発明1で特定する単量体の滴下時期を採用することにより、分子量が高い成分の生成が抑制されているフォトレジスト用樹脂が製造できるといえるのであり、単量体の滴下時期が、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したののちである場合でも本件発明1の課題は一定程度解決できると認識できる。
また、上で述べたとおりであるから、重合開始剤の供給量(ないし濃度)や滴下の速度を特定しなくても、本件発明1の課題は解決できると認識できる。
一方、申立人は、具体的なデータを挙げて本件発明1が課題を解決できると認識できないことを主張しているわけでもない。
よって、主張(ア)及び(イ)は採用できない。

(7)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1によっては本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由2について
(1)特許法第36条第4項第1号の考え方について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、方法の発明では、その方法を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。
よって、この観点に立って、本願の実施可能要件の判断をする。

(2)特許請求の範囲の記載について
上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載について
上記2(3)に記載したとおりである。

(4)判断
本件発明1は、その請求項1の「単量体及び重合開始剤を滴下する滴下重合法により前記単量体をラジカル重合させて得られるフォトレジスト用樹脂の製造方法であって、
前記重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに前記単量体を滴下開始し、前記単量体の滴下開始後から滴下終了時(前記単量体と前記重合開始剤の滴下が同時に終了する場合は前記単量体及び前記重合開始剤の滴下終了時であり、前記単量体及び前記重合開始剤それぞれの滴下が終了する時刻が異なる場合は後に滴下が終了した成分の滴下終了時)までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItC)と、前記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の前記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、常にItC>ItDであり、
前記単量体の滴下開始後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、前記tA後から前記滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、常にMwtA<MwtBである、フォトレジスト用樹脂の製造方法。」という記載により特定される発明である。

この発明に関して、本件明細書等の発明の詳細な説明の段落【0073】、【0099】、【0102】には、上記2(5)で示した事項が記載され、上記2(5)で述べたように、本件明細書等の発明の詳細な説明には、分子量が高い成分の生成が抑制されているフォトレジスト用樹脂の製造方法としては、滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tAにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtA)と、上記滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tBにおける生成したポリマーの重量平均分子量(MwtB)との関係が、tA<tBを満たす時、MwtA<MwtBとなる方法が記載され、MwtA<MwtBとなるための具体的な製造方法としては、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちに単量体を滴下開始し、単量体の滴下開始後から滴下終了時までの間の任意の時刻tCにおける反応溶液中の重合開始剤の濃度(ItC)と、上記tC後から滴下終了時までの間の任意の時刻tDにおける反応溶液中の上記重合開始剤の濃度(ItD)との関係が、ItC>ItDであることが記載され、単量体の滴下開始のタイミングについては、単量体の滴下開始時には、反応容器内に多量の重合開始剤が存在するため、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる、ということを前提に、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのち、好ましくは30分以上経過後、より好ましくは1時間経過後に開始することが記載されているといえる。
そして、同【0135】以降には、本件発明1の具体例として、実施例1、4、6〜9が記載されており、これらの実施例は、本件発明1で特定するタイミングで単量体の滴下開始時期とすることにより本件発明1で特定される重合開始剤の濃度とポリマーの重合平均分子量を満足するフォトレジスト用樹脂の製造方法である。

そうすると、上記で示した本件明細書等の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、本件発明1の製造方法を実施することができるといえる。

(5)審判請求人の主張
ア 申立人は特許異議申立書にて、概略、以下の2点について主張する。
(ア)発明の詳細な説明には、重合開始剤の滴下開始後10分から60分までの間に単量体を滴下する実施例が記載されていないから、本件発明1で特定される重合開始剤の濃度とポリマーの重合平均分子量を満足するフォトレジスト用樹脂の製造方法を実施するには、過度の試行錯誤を必要とする(特許異議申立書第17頁第5行〜第18頁第3行、以下「主張(ア)」という。)。

(イ)発明の詳細な説明には、本件発明1で特定される重合開始剤の濃度とポリマーの重合平均分子量を満足するフォトレジスト用樹脂の製造するための具体的な手段は記載されておらず、技術常識でもないから、本件発明1を実施するには、過度の試行錯誤を必要とする(特許異議申立書第18頁第4行〜第20頁第8行、以下「主張(イ)」という。)。

イ 検討
(ア)主張(ア)について
上記(4)で述べたように、本件明細書等の発明の詳細な説明によれば、本件発明1は、単量体の滴下開始時に、反応容器内に多量の重合開始剤が存在すると、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる、ということを前提に、単量体の滴下時期が、重合開始剤の滴下開始後10分以上経過したのちであることが特定されていると理解できるのであり、本件発明1で特定する単量体の滴下時期を採用することにより、本件発明1で特定される重合開始剤の濃度とポリマーの重合平均分子量を満足するフォトレジスト用樹脂が製造できるといえる。
そうすると、単量体の滴下時期について、重合開始剤の滴下開始後10分〜60分の具体例の記載がなくても、本件発明1で特定される重合開始剤の濃度とポリマーの重合平均分子量を満足するフォトレジスト用樹脂が製造できるといえ、過度の試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要はないといえる。
一方、申立人は、具体的なデータを挙げて本件発明1が実施可能でないことを主張している訳でもない。
よって、主張(ア)は採用できない。

(イ)主張(イ)について
上記(ア)で述べたとおり、本件明細書等の発明の詳細な説明によれば、本件発明1は、単量体の滴下開始時に、反応容器内に多量の重合開始剤が存在すると、重合反応の初期に重量平均分子量が大きいポリマーが生成しにくくなる、ということを前提に、本件発明1で特定する単量体の滴下時期を採用することにより、本件発明1で特定される重合開始剤の濃度とポリマーの重合平均分子量を満足するフォトレジスト用樹脂が製造できるといえる。
一方、申立人は、具体的なデータを挙げて本件発明1が実施可能でないことを主張している訳でもない。
よって、主張(イ)は採用できない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由2によっては本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
当審が通知した取消理由及び特許異議申立人が主張する申立理由によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-30 
出願番号 P2016-052778
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08F)
P 1 652・ 537- Y (C08F)
P 1 652・ 536- Y (C08F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 佐藤 健史
橋本 栄和
登録日 2021-02-16 
登録番号 6838863
権利者 株式会社ダイセル
発明の名称 フォトレジスト用樹脂、フォトレジスト樹脂の製造方法、フォトレジスト用樹脂組成物、及びパターン形成方法  
代理人 弁理士法人G−chemical  

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