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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1386198
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-03-22 
確定日 2022-06-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6942495号発明「六方晶窒化ホウ素の保管方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6942495号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6942495号の請求項1〜10に係る特許についての出願は、平成29年3月22日に出願され、令和3年9月10日にその特許権の設定登録がされ、同年9月29日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年3月22日に特許異議申立人 安藤 宏(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6942495号の請求項1〜10の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1〜10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
粉末X線回折法による黒鉛化指数が3.0以下であり、かつ医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素濃度が20ppm以下である六方晶窒化ホウ素を、真空状態とした包装容器内に収納する、六方晶窒化ホウ素の保管方法であって、
前記六方晶窒化ホウ素を40℃、75%RHで6ヶ月間保管後の溶出ホウ素濃度が20ppm以下である、六方晶窒化ホウ素の保管方法。
【請求項2】
粉末X線回折法による黒鉛化指数が3.0以下であり、かつ医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素濃度が20ppm以下である六方晶窒化ホウ素を、露点を0℃以下とした希ガス、窒素、空気から選ばれる1種以上のガスが満たされている包装容器内に収納する、六方晶窒化ホウ素の保管方法であって、
前記六方晶窒化ホウ素を40℃、75%RHで6ヶ月間保管後の溶出ホウ素濃度が20ppm以下である、六方晶窒化ホウ素の保管方法。
【請求項3】
前記六方晶窒化ホウ素が化粧料の原料用である、請求項1または2記載の六方晶窒化ホウ素の保管方法。
【請求項4】
前記包装容器がアルミ蒸着を施されている樹脂製の袋である、請求項1乃至3いずれか1項に記載の六方晶窒化ホウ素の保管方法。
【請求項5】
前記六方晶窒化ホウ素が粉末状である、請求項1乃至4いずれか1項に記載の六方晶窒化ホウ素の保管方法。
【請求項6】
粉末X線回折法による黒鉛化指数が3.0以下であり、かつ医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素濃度が20ppm以下である六方晶窒化ホウ素が、真空状態とした包装容器内に収納されており、
前記六方晶窒化ホウ素を40℃、75%RHで6ヶ月間保管後の溶出ホウ素濃度が20ppm以下である、包装体。
【請求項7】
粉末X線回折法による黒鉛化指数が3.0以下であり、かつ医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素濃度が20ppm以下である六方晶窒化ホウ素が、露点を0℃以下とした希ガス、窒素、空気から選ばれる1種以上のガスが満たされた包装容器内に収納されており、
前記六方晶窒化ホウ素を40℃、75%RHで6ヶ月間保管後の溶出ホウ素濃度が20ppm以下である、包装体。
【請求項8】
前記六方晶窒化ホウ素が化粧料の原料用である、請求項6または7に記載の包装体。
【請求項9】
前記包装容器がアルミ蒸着を施されている樹脂製の袋である、請求項6乃至8いずれか1項に記載の包装体。
【請求項10】
前記六方晶窒化ホウ素が粉末状である、請求項6乃至9いずれか1項に記載の包装体。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証〜甲第7号証を提出し、以下の理由により、請求項1〜10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(進歩性
本件発明1〜10は、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平10−45161号公報
甲第2号証:特開2004−35273号公報
甲第3号証:特開昭63−274603号公報
甲第4号証:特開平10−36105号公報
甲第5号証:国際公開第2014/049956号
甲第6号証:特開2016−204054号公報
甲第7号証:特開2013−116770号公報

第4 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願の日前に公知となった甲第1号証(特開平10−45161号公報)には、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものである。以下、同様である。)。
「【請求項1】 水分透湿度(g/m2・24h)が4.0以下である外層及び/または中間層からなるシートと、昜ヒートシール性の内層よりなるシートを用い六方晶窒化ホウ素を密封してなる包装体。
【請求項2】 外層がアルミ箔であり、昜ヒートシール性の内層がポリエチレンフィルムである請求項1記載の包装体。
【請求項3】 外層がポリエチレンフィルムにアルミニウムを蒸着したシートよりなる請求項1記載の包装体。」

「【0002】
【従来の技術】・・・
【0003】BN粉末は、粗反応生成物を鉱酸を用いて洗浄をおこない、しかる後水洗して常圧乾燥または減圧乾燥しBN粉末を得る方法が知られてるが(特開平4−17883号公報)、乾燥後の保存状態が悪いと空気中の水分を吸収して加水分解を起こし、B2O3とNH3に変化してBNの純度が低下する。・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、空気中の水分による加水分解性のあるBNの加水分解を防止し密封包装することにより、BNの特性を損なうことなく保存し、長期間の保存に耐える包装体を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、包装材料として水分透湿度が小さい素材を用い、易ヒートシール性を持つフィルム及びシート素材を用いた複合材料を使用して密封包装することにより、水分を長期間遮断しBNの加水分解を防止出来ることを見いだし、本発明を完成するに至った。」

「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明を更に詳細に説明する。
・・・
【0008】本発明で用いる外層及び/または中間層には、・・・ポリエチレンフィルムにアルミニウムを蒸着したアルミ蒸着フィルムも用いられる。
・・・
【0010】本発明は単体での短所を多層化により加水分解性のあるBNの加水分解を防止し密封包装することにより、BNの特性を損なうことなく保存し、長期間の保存に耐える構造としたものである。・・・」

「【0013】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明する。なお、重量%は単に%で表す。
実施例1
比表面積が160m2/gで水分量が1.05%のBN粉末10g(Aサンプル)と比表面積が70m2/gで水分量が0.62%のBN粉末10g(Bサンプル)厚み12μmのポリエステルを外層に、厚み7μmのアルミ箔を中間層に、厚み30μmのポリエチレンを内層に用い、15cm四方の包装材内(水分透湿度=0.08)にヒートシール機(富士インパルス社製FA型オートシーラー)を用いて密封し、BN包装体を得た。該包装体を室温25℃、相対湿度90%で保存し吸湿量を確認した。その結果を表1に示す。24時間後の吸湿量はAサンプルが0.02%、Bサンプルが0.01%であった。さらに4週間経過しても吸湿量は各々0.19%、0.07%で何れもアンモニア臭など異常は見られなかった。」

2 本件特許に係る出願の日前に公知となった甲第2号証(特開2004−35273号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
白色度が95.0以上、タップ密度が0.20g/cm3以上、120℃の加圧熱水中に1日間浸漬後の溶出ほう素および溶出窒素の合計量が800μg/g以下であることを特徴とする六方晶窒化ほう素粉末。
・・・
【請求項4】
黒鉛化指数(GI)が2.0以下で、比表面積が15m2/g以下の六方晶窒化ほう素粉末を、六方晶窒化ほう素1モルに対し0.02〜0.5化学当量の酸水溶液で洗浄・乾燥した後、炭素と接触させないようにして、窒素雰囲気下、1800〜1950℃で1〜5時間熱処理することを特徴とする請求項1記載の六方晶窒化ほう素粉末の製造方法。」

「【0002】
【従来の技術】
hBN粉末は、潤滑性、耐熱性、高熱伝導性、電気絶縁性など数多くの優れた性質を有するため、固体潤滑剤、溶融ガラスなどの離型剤、セラミックス高温焼成用敷粉あるいは絶縁放熱シート用充填材などとして広汎に応用されている。また、上記特性に加え、白色度や、耐加水分解性が比較的高いことから、近年は外観を重視する樹脂用充填材や化粧品用原料にまで用途が拡大しつつある。
・・・
【0005】
一方、hBN粉末の耐加水分解性が不充分であると、加水分解によりほう素や窒素を含む溶出成分が発生する。このため、長期間保管後のhBN粉末を用いた場合に、樹脂用充填材では溶出成分が電気絶縁性を低下させ、また化粧品用原料では溶出窒素がアンモニアに変化して臭気を発生する恐れがあるので、保管には乾燥雰囲気下で密閉しておくなどの細心の注意が必要であった。」

「【0009】
【発明の実施の形態】
以下、更に詳しく本発明について説明する。
・・・
【0014】
本発明で用いられるhBN粉末原料は、粉末X線回折法による黒鉛化指数(GI)が2.0以下、特に1.5以下で、比表面積が15m2/g以下、特に10m2/g以下であることが好ましい。このようなhBN粉末は、酸洗浄によって効率的に不純物が除去される。
【0015】
GIは、hBN粉末のX線回折図の(100)、(101)及び(102)回折線の積分強度比(すなわち面積比)から、式、GI=[面積{(100)+(101)}/[面積(102)]、によって算出できる(J.Thomas.et.al、J.Am.Chem.Soc.、84、4619[1962])。GIは、hBN粉末の結晶性の指標であり、結晶性が高いほどこの値が小さくなり、粒子の鱗片形状が発達し、完全に結晶化(黒鉛化)したhBN粉末ではGIが1.6になるとされているが、高結晶性でかつ粒子が充分に成長したhBN粉末の場合、粉末が配向しやすいためGIはさらに小さくなる。」

「【0039】
【発明の効果】
本発明によれは、樹脂用充填材や化粧品用原料として用いた場合に、得られる樹脂成形体や化粧品が均一な外観を呈し、また長期間保管後にこれらの用途に使用しても性能低下が極めて小さい、白色度および耐加水分解性が高いhBN粉末が提供される。本発明の製造方法によれば、このようなhBN粉末を工業的規模で容易に製造することができる。」

3 本件特許に係る出願の前に公知となった甲第3号証(特開昭63−274603号公報)には、以下の事項が記載されている。
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、酸素、炭素、水溶性硼素化合物の含有が極めて少ない六方晶窒化硼素の高純度化方法に関し、更に詳しくは、電子材料、非酸化性セラミック焼成用充填粉末、化粧品原料、医療用添加剤、立方晶窒化硼素の原料に使用する極めて高純度の六方晶窒化硼素を得る方法に関する。」(1ページ左下欄18行〜右下欄4行)。

「結晶構造を定量化する方法として結晶子の大きさを測定する方法(学振117委員会法)がある。結晶子の大きさはc軸方向の平均厚さ(Lc)とa軸方向の平均直径(La)で表されるが(002)のX線回折ピークが最も強度が強いのでLcが精度も良い。Lcで結晶構造を評価すると100Å以下では乱層構造であり、100Å〜400Åでは準黒鉛構造をとり、400Å以上では完全に六方晶構造であった。特にBNの重要な特性の1つである潤滑性はLcが400Å以上でないと発現されなかった。また非表面積を窒素吸着法で測定したところ完全に黒鉛構造のBNは4〜10m2/gであったが、準黒鉛構造のBNは25〜100m2/gであった。また大気中の湿分との反応性についても差異がみられ、準黒鉛構造のBN粉末を1ケ月間ポリエチレン製の容器に保存しておくとBNの加水分解により発生したアンモニア臭が感ぜられたが、一方黒鉛構造のBNからは検知されなかった。この点からも結晶質のBNの方が耐加水分解性に優れ比表面積も小さいことから本方法の原料として適している。・・・」(3ページ右下欄1行〜4ページ左上欄1行)

「〔発明の効果〕
以上の説明から明らかなように、本発明に係る六法晶窒化棚素の高純度化方法によれば、酸素、炭素及び水溶性硼素化合物の含有量の極めて低い六法晶窒化硼素を得ることが出来、具体的には、表1に示すように酸素及び炭素ともに1000ppm以下、水溶性硼素化合物は20ppm以下という高純度な六法晶窒化硼素を得る効果がある。」(6ページ右下欄14行〜7ページ左上欄1行)

4 本件特許に係る出願の前に公知となった甲第4号証(特開平10−36105号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】・・・
【0003】・・・また、化粧品用の原料として用いられる六方晶BNの場合、温水中での溶出ホウ素が20ppm以下と定められており、特に比表面積が5m2/gを越える微粒子BNでは、この基準をクリアーすることが困難である。」

「【0030】
【発明の効果】・・・更に、化粧品用の原料として用いられる六方晶BNの場合も、温水中での溶出ホウ素を低減でき、この基準をクリアーすることが可能となった。」

5 本件特許に係る出願の前に公知となった甲第5号証(国際公開第2014/049956号)には、以下の事項が記載されている。
「技術分野
[0001] 本発明は、高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末およびその製造方法に関し、化粧料に適用した場合に、化粧もちの格段の向上を図ろうとするものである。
また、本発明は、上記した窒化ホウ素粉末を用いた化粧料に関するものである。」

「発明を実施するための形態
[0023] 以下、本発明を具体的に説明する。
・・・
[0025] ・・・
また、Bが溶出すると肌へのダメージが大きいため、溶出B量は100ppm以下まで低減することが望ましい。・・・」

「実施例1
[0037] 以下、本発明の実施例について説明する。
・・・
[0039] なお、BN粉末の撥水性、吸油量および溶出B量はそれぞれ、次のようにして測定した。
・・・
(3)溶出B量
医薬部外品原料規格2006の規定に準じて溶出B量を測定した。
具体的には、粉体2.5gをテフロン(登録商標)製ビーカーに秤取りエタノール10mlを加えて良くかき混ぜ、さらに新たに煮沸した冷却した水40mlを加えてかき混ぜた後、50℃で1時間加温する。その後に、この液を濾過して濾液中のBを測定する。
・・・
[0040]
[表1]



「請求の範囲
[請求項1] 扁平形状をなすBNの一次粒子および該一次粒子の凝集体からなり、水の浸透速度が1mm2/s未満で、かつ吸油量が100ml/100g〜500ml/100gであることを特徴とする高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。
[請求項2] 前記BNの一次粒子が、平均長径:2〜20μm、厚み:0.05〜0.5μmの扁平形状をなすことを特徴とする請求項1に記載の高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。
[請求項3] 可溶性ホウ素量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の高撥水性・高吸油性窒化ホウ素粉末。
・・・
[請求項6] 請求項1ないし4のいずれかに記載の窒化ホウ素粉末を含有する化粧料。」

6 本件特許に係る出願の前に公知となった甲第6号証(特開2016−204054号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
フッ素原子を含むイオン性化合物、またはフッ素原子を含むイオン性化合物を含有する組成物を包装材料で包装してなる包装体であって、前記イオン性化合物または前記組成物中の水分量が1000ppm以下であり、前記包装材料が少なくとも1層の金属層を含むことを特徴とするイオン性化合物の包装体。
・・・
【請求項14】
包装体内部が真空である請求項1〜12のいずれかに記載の包装体。」

「【背景技術】
・・・
【0003】
フッ素原子を含むイオン性化合物は、加水分解を受けてフッ酸を発生し易い。フッ酸は強酸であり、保存容器を侵すおそれがある。また、電池用途等では水の存在は悪影響をもたらすため、イオン性化合物中の水の存在量はできるだけ低減させなければならない。」

「【課題を解決するための手段】
・・・
【0011】
包装体内部に乾燥空気または乾燥不活性ガスを有する態様、あるいは、包装体内部が真空である態様は、いずれも本発明の包装体の好ましい実施態様である。」

「【発明を実施するための形態】
・・・
【0019】
なお、防湿の観点からは、袋を何重にもして用いることが好ましく、それらの間に乾燥不活性ガスや乾燥空気を充填、あるいは真空にすることが好ましい。」

7 本件特許に係る出願の前に公知となった甲第7号証(特開2013−116770号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
導電性カーボンブラックを含有する未硬化のミラブル型の導電性シリコーンゴムコンパウンドを、透湿度が10g/m2・24時間以下の気密容器に収容するとともに、前記気密容器内を真空、または乾燥気体が充填された状態としてなることを特徴とする導電性シリコーンゴムコンパウンド包装体。」

「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記した従来技術の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、長期保存による可塑度の経時的な低下や物性の経時的な変化は、意外なことに雰囲気中の水分に原因があり(この経時変化は雰囲気の湿度が高ければ高いほど大きくなる傾向が観察された。・・・」

「【発明を実施するための形態】
・・・
【0023】
また、本発明において、このような気密容器に導電性シリコーンゴムコンパウンドを収容する際には、導電性シリコーンゴムコンパウンドを収容後、容器内を減圧して真空にするか、あるいは、容器内に乾燥気体を充填することが好ましい。乾燥気体としては、乾燥空気のほか、窒素ガスなどの不活性ガスを使用することができる。これにより、導電性シリコーンゴムコンパウンドの水分との接触をほぼ完全に遮断することが可能となり、導電性シリコーンゴムコンパウンドの経時的な可塑度の低下、物性の変化をほぼ完全に防止することができる。
【0024】
なお、このような観点からも前述したアルミラミネート袋は気密容器として好ましく使用される。すなわち、例えば、アルミラミネート袋に導電性シリコーンゴムコンパウンドを投入し、アルミラミネート袋の口部にノズルを挿入した後、口部をパッドで挟み込むなどしてアルミラミネート袋とノズルの隙間を閉塞する。その状態でノズルから吸引し、内部を真空にし、口部を熱融着シールなどにより密封する。あるいは、ノズルを介してアルミラミネート袋内に不活性ガスを充填し、その後、口部をシールして密封する。これにより、導電性シリコーンゴムコンパウンドの長期保存性に優れた包装体を得ることができる。」

第5 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記第4 1の記載によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「六方晶窒化ホウ素を、外層がポリエチレンフィルムにアルミニウムを蒸着したシートよりなる包装材内に密封する、六方晶窒化ホウ素の保管方法。」(以下、「甲1発明1」という。)

「六方晶窒化ホウ素を、外層がポリエチレンフィルムにアルミニウムを蒸着したシートよりなる包装材内に密封した包装体。」(以下、「甲1発明2」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
(ア)甲1発明1の「包装材」、「密封」は、それぞれ、本件発明1の「包装容器」、「収納」に相当する。

(イ)以上から、本件発明1と甲1発明1との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「六方晶窒化ホウ素を、包装容器内に収納する、六方晶窒化ホウ素の保管方法。」

<相違点>
相違点1−1:「六方晶窒化ホウ素」について、本件発明1は、「粉末X線回折法による黒鉛化指数が3.0以下であ」るのに対し、甲1発明1は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点1−2:「六方晶窒化ホウ素」について、本件発明1は、「医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素濃度が20ppm以下である」のに対し、甲1発明1は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点1−3:本件発明1は、「包装容器内」を「真空状態とし」ているのに対し、甲1発明1は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点1−4:本件発明1は、「前記六方晶窒化ホウ素を40℃、75%RHで6ヶ月間保管後の溶出ホウ素濃度が20ppm以下である」のに対し、甲1発明1は、そのような構成を備えているか不明である点。

イ 判断
事案に鑑み相違点1−4から検討する。
相違点1−4に係る本件発明1の構成である「前記六方晶窒化ホウ素を40℃、75%RHで6ヶ月間保管後の溶出ホウ素濃度が20ppm以下である」点については、甲第1号証〜甲第7号証のいずれにも記載も示唆もない。
また、本件発明1が奏する効果は、本件明細書の【0010】の記載によれば、「医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素濃度が20ppm以下である、化粧料用の原料などとして好ましく用いられる六方晶窒化ホウ素を、高温高湿の環境下に置いても、保管期間中の前記溶出ホウ素濃度の増加を最小限に抑える保管方法を提供することができる」というものであり、当該効果は、甲第1号証〜甲第7号証のいずれにも記載も示唆もないから、本件特許に係る出願時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものである。
以上から、甲1発明1に甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明を適用して、相違点1−4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明1とを対比する。
(ア)甲1発明1の「包装材」、「密封」は、それぞれ、本件発明2の「包装容器」、「収納」に相当する。

(イ)以上から、本件発明2と甲1発明1との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「六方晶窒化ホウ素を、包装容器内に収納する、六方晶窒化ホウ素の保管方法。」

<相違点>
相違点2−1:「六方晶窒化ホウ素」について、本件発明2は、「粉末X線回折法による黒鉛化指数が3.0以下であ」るのに対し、甲1発明1は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点2−2:「六方晶窒化ホウ素」について、本件発明2は、「医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素濃度が20ppm以下である」のに対し、甲1発明1は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点2−3:本件発明2は、「包装容器内」には、「露点を0℃以下とした希ガス、窒素、空気から選ばれる1種以上のガスが満たされている」のに対し、甲1発明1は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点2−4:本件発明2は、「前記六方晶窒化ホウ素を40℃、75%RHで6ヶ月間保管後の溶出ホウ素濃度が20ppm以下である」のに対し、甲1発明1は、そのような構成を備えているか不明である点。

イ 判断
事案に鑑み相違点2−4から検討する。
相違点2−4は、上記相違点1−4と同じ内容であるから、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、甲1発明1に甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明を適用して、相違点2−4に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件発明2は、甲1発明1及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(4)本件発明3〜5について
本件発明3〜5は、いずれも本件発明1又は本件発明2の全ての構成を有するものであるから、上記(2)及び(3)で検討したのと同様の理由により、本件発明3〜5は、甲1発明1及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(5)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲1発明2とを対比する。
(ア)甲1発明2の「包装材」、「密封」は、それぞれ、本件発明6の「包装容器」、「収納」に相当する。

(イ)以上から、本件発明6と甲1発明2との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「六方晶窒化ホウ素が、包装容器内に収納されている、包装体。」

<相違点>
相違点3−1:「六方晶窒化ホウ素」について、本件発明6は、「粉末X線回折法による黒鉛化指数が3.0以下であ」るのに対し、甲1発明2は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点3−2:「六方晶窒化ホウ素」について、本件発明6は、「医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素濃度が20ppm以下である」のに対し、甲1発明2は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点3−3:本件発明6は、「包装容器内」を「真空状態とし」ているのに対し、甲1発明2は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点3−4:本件発明6は、「前記六方晶窒化ホウ素を40℃、75%RHで6ヶ月間保管後の溶出ホウ素濃度が20ppm以下である」のに対し、甲1発明2は、そのような構成を備えているか不明である点。

イ 判断
事案に鑑み相違点3−4から検討する。
相違点3−4は、上記相違点1−4と同じ内容であるから、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、甲1発明2に甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明を適用して、相違点3−4に係る本件発明6の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明2及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(6)本件発明7について
ア 対比
本件発明7と甲1発明2とを対比する。
(ア)甲1発明2の「包装材」、「密封」は、それぞれ、本件発明7の「包装容器」、「収納」に相当する。

(イ)以上から、本件発明7と甲1発明2との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「六方晶窒化ホウ素が、包装容器内に収納されている、包装体。」

<相違点>
相違点4−1:「六方晶窒化ホウ素」について、本件発明7は、「粉末X線回折法による黒鉛化指数が3.0以下であ」るのに対し、甲1発明2は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点4−2:「六方晶窒化ホウ素」について、本件発明7は、「医薬部外品原料規格2006に準拠して測定される溶出ホウ素濃度が20ppm以下である」のに対し、甲1発明2は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点4−3:本件発明7は、「包装容器内」には、「露点を0℃以下とした希ガス、窒素、空気から選ばれる1種以上のガスが満たされ」ているのに対し、甲1発明2は、そのような構成を備えているか不明である点。
相違点4−4:本件発明7は、「前記六方晶窒化ホウ素を40℃、75%RHで6ヶ月間保管後の溶出ホウ素濃度が20ppm以下である」のに対し、甲1発明2は、そのような構成を備えているか不明である点。

イ 判断
事案に鑑み相違点4−4から検討する。
相違点4−4は、上記相違点1−4と同じ内容であるから、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、甲1発明2に甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明を適用して、相違点4−4に係る本件発明7の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1発明2及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(7)本件発明8〜10について
本件発明8〜10は、いずれも本件発明6又は本件発明7の全ての構成を有するものであるから、上記(5)及び(6)で検討したのと同様の理由により、本件発明8〜10は、甲1発明2及び甲第2号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

(8)小括
以上のとおり、本件発明1〜10は、甲第1号証〜第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1〜10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由1には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-05-30 
出願番号 P2017-056127
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 後藤 政博
河本 充雄
登録日 2021-09-10 
登録番号 6942495
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 六方晶窒化ホウ素の保管方法  
代理人 速水 進治  

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