• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01H
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01H
管理番号 1386207
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-04-05 
確定日 2022-06-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第6946117号発明「車両用操作装置およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6946117号の請求項1、5〜7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6946117号の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成29年8月30日の出願であって、令和3年9月17日にその特許権の設定登録がされ、同年10月6日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許の請求項1、5〜7に係る特許に対し、令和4年4月5日に特許異議申立人黒崎惇子は、特許異議の申立てを行った。

2.本件発明
特許第6946117号の請求項1〜8に係る特許(以下、「本件発明1」〜「本件発明8」という。)は、特許掲載公報に掲載された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
貫通する開口が設けられた上壁と、前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部および下部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部と、前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部と、を有するケースと、
前記上壁の上面において前記開口を塞ぐ押圧部と、前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部と、を備え、上方から前記押圧部が押圧されることで変形するボタン部材と、
前記ケースに収納され、前記押圧部により押圧される被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材と、
を備える車両用操作装置。
【請求項2】
前記上壁は複数の前記開口を有し、前記複数の開口それぞれにおいて複数の前記ボタン部材が篏合し、前記複数のボタン部材と一体に成形され前記上壁の上面において前記複数のボタン部材を接続する第1接続部を備える請求項1に記載の車両用操作装置。
【請求項3】
貫通する開口が設けられた上壁と、前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部と、前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部と、を有するケースと、
前記上壁の上面において前記開口を塞ぐ押圧部と、前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合する筒状部と、を備え、上方から前記押圧部が押圧されることで変形するボタン部材と、
前記ケースに収納され、前記押圧部により押圧される被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材と、
前記上壁は複数の前記開口を有し、前記複数の開口それぞれにおいて複数の前記ボタン部材が篏合し、前記複数のボタン部材と一体に成形され前記上壁の上面において前記複数のボタン部材を接続する第1接続部と、
前記複数のボタン部材および前記第1接続部と一体に成形され前記上壁の下面において前記複数のボタン部材を接続する第2接続部と、
を備える車両用操作装置。
【請求項4】
前記押圧部の上面の中央部は周縁部に対し上方に突出する請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用操作装置。
【請求項5】
前記ボタン部材および前記ケースは樹脂からなり、前記ボタン部材は前記ケースより柔らかい請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用操作装置。
【請求項6】
前記ボタン部材および前記ケースは熱可塑性樹脂からなる請求項5に記載の車両用操作装置。
【請求項7】
貫通する開口が設けられた上壁と、前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部および下部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部と、前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部と、を有するケースを金型内に配置し、前記上壁の上面において前記開口を塞ぐ押圧部と、前記開口の側面において、前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部と、を備え、上方から前記押圧部が押圧されることで変形するボタン部材を、射出成形する工程と、
前記押圧部により押圧される被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材を前記ケース内に設置する工程と、
を含む車両用操作装置の製造方法。
【請求項8】
貫通する開口が設けられた上壁と、前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部と、前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部と、を有するケースを金型内に配置し、前記上壁の上面において前記開口を塞ぐ押圧部と、前記開口の側面において、前記突出部および前記凹部と勘合する筒状部と、を備え、上方から前記押圧部が押圧されることで変形するボタン部材を、射出成形する工程と、
前記押圧部により押圧される被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材を前記ケース内に設置する工程と、
を含み、
前記上壁は複数の前記開口を有し、前記複数の開口それぞれに複数の前記ボタン部材が篏合し、
前記ボタン部材を射出成形する工程は、前記複数のボタン部材と、前記上壁の上面において前記複数のボタン部材を接続する第1接続部と、前記上壁の下面において前記複数のボタン部材を接続する第2接続部と、を、前記第1接続部に設けられた射出ゲートを用い射出成形する工程を含む車両用操作装置の製造方法。

3.申立理由の概要
特許異議申立人黒崎惇子は、証拠として以下の甲第1号証〜甲第3号証を提出し、請求項1、5〜7に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1、5〜7に係る特許は、取り消すべきものである旨主張する。

甲第1号証:特開2015−44464号公報
甲第2号証:特開2009−190534号公報
甲第3号証:特開平9−245556号公報

4.甲第1号証〜甲第3号証に記載された事項及び引用発明
(1)甲第1号証に記載された事項及び引用発明
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電動自転車等の車両に取付けられる表示装置および表示装置の操作ボタンの取付方法に関する。」

イ「【0027】
図2〜図4に示すように、表示部材17には、電源のオンとオフとを切換えるための電源用操作ボタン67(操作ボタンの一例)が設けられている。図11〜図13に示すように、第1のケース20(ケースの一例)内には、電源用スイッチであるタクトスイッチ68(切換スイッチの一例)が設けられている。タクトスイッチ68は第1の回路基板22に取付けられている。操作ボタン67は、タクトスイッチ68を外部から操作して切換えるためのものである。また、操作ボタン67とタクトスイッチ68との間をシールする弾性変形自在な防水部材69が、第1のケース20内に設けられて、操作ボタン67とタクトスイッチ68との間に配置されている。
【0028】
第1のケース20には、ボタン取付用孔71と防水部材取付用孔72とが形成されている。ボタン取付用孔71は第1のケース20の外部に開口している。また、ボタン取付用孔71と第1のケース20の内部とが防水部材取付用孔72を介して連通している。操作ボタン67はボタン取付用孔71に出退自在に嵌め込まれている。」

ウ「【0030】
図15(a)に示すように、防水部材取付用孔72は小径部76と大径部77とを有している。大径部77は、小径部76よりも奥に形成されており、第1のケース20の内部に開口している。また、小径部76と大径部77との境界部分には、大径部77から小径部76に向かって次第に縮径する段付部78が形成されている。さらに、防水部材取付用孔72の径方向における外側には、円環状の溝79が形成されている。この溝79は、防水部材取付用孔72の開口端部を取り囲むように形成され、ボタン取付用孔71の側に開放されている。
【0031】
図12に示すように、防水部材69は、防水部材取付用孔72に着脱自在に嵌め込まれて、防水部材取付用孔72を閉塞するとともに、操作ボタン67を外側に突出させる方向へ付勢し、且つ、操作ボタン67の操作をタクトスイッチ68に伝達する。図12,図16に示すように、防水部材69は、ゴム等の弾性材料で製作されており、円形の胴部81と、胴部81から径方向における外側へ張り出す鍔部82とを有している。鍔部82には、突部83が全周にわたり形成されている。胴部81が防水部材取付用孔72に嵌め込まれるとともに、突部83が溝79に嵌め込まれて接着剤で溝79の内面に接着されている。
【0032】
また、組み込み時において、防水部材取付用孔72に嵌め込まれた防水部材69の位置が防水部材取付用孔72の外側へずれるのを防止するためのずれ止め部84が、胴部81に複数形成されている。これらずれ止め部84は、胴部81の外周面から径方向における外側へ突出しており、胴部81の周方向において90°おきの4箇所に設けられている。また、ずれ止め部84の外径は、防水部材取付用孔72の小径部76の孔径よりも大きく、大径部77の孔径よりも小さい。ずれ止め部84は、防水部材69の脱抜方向Fにおいて、防水部材取付用孔72の段付部78(図15(a)参照)に係止可能である。」

エ「【0034】
そして、図12に示すように、操作ボタン67を内方Gへ押すと、防水部材69が操作ボタン67の突起部74に押されて弾性変形し、操作ボタン67の操作が防水部材69を介してタクトスイッチ68に伝達され、タクトスイッチ68がオンに切換えられる。これにより、バッテリ9に蓄えられた電力が、第2の回路基板37から、第1および第2の接続端子23,38を介して、第1の回路基板22に供給され、図2に示すように、様々な走行情報が表示部材17の液晶画面ユニット21に表示される。」

オ「【図12】



カ「【図15】



キ「【図16】



ク 【図12】から、第1のケース20の壁に、第1のケース20の内部と連通する開口であるボタン取付用孔71と防水部材取付用孔72が設けられていることが看取できる。

ケ 【図12】及び【図15】から、第1のケース20の内部と連通する方向で防水部材取付用孔72がボタン取付用孔71の奥に形成されていることが看取できる。

コ 【図12】及び摘記事項エから、防水部材69が操作ボタン67の突起部74に押されて弾性変形した際、操作ボタン67の操作は、防水部材69の胴部81を介してタクトスイッチ68に伝達されるものと認められる。

サ 摘記事項ウから、第1のケース20と防水部材69とを、突部83が溝79に嵌め込まれて接着剤で溝79の内面に接着する工程があるものと認められる。

シ 摘記事項イから、第1のケース20(ケースの一例)内に、電源用スイッチであるタクトスイッチ6を設置する工程があるものと認められる。

以上の摘記事項ア〜キ、認定事項ク〜シから、甲第1号証には、次の2つの発明(以下、「甲1発明1」、「甲1発明2」という。)が記載されている。

(甲1発明1)
第1のケース20の内部と連通する開口であるボタン取付用孔71と防水部材取付用孔72が設けられている第1のケース20の壁と、第1のケース20の内部と連通する方向で防水部材取付用孔72がボタン取付用孔71の奥に形成され、防水部材取付用孔72は、小径部76と、小径部76よりも奥に形成された大径部77と、大径部77から小径部76に向かって次第に縮径する段付部78が形成されており、防水部材取付用孔72の径方向における外側には、円環状の溝79が防水部材取付用孔72の開口端部を取り囲むようにボタン取付用孔71の側に形成された、第1のケース20と、
防水部材取付用孔72を閉塞し、防水部材取付用孔72に嵌め込まれる円形の胴部81と、胴部81から径方向における外側へ張り出す鍔部82と、鍔部82の全周にわたって形成され第1のケース20の内部と連通する方向に突出して溝79に嵌め込まれる突部83と、胴部81の外周面から径方向における外側へ突出しており防水部材取付用孔72の段付部78に係止可能であるずれ止め部84と、を備え、操作ボタン67の突起部74に押されて弾性変形する防水部材69と、
第1のケース20内に設けられ、操作ボタン67の操作が防水部材69の胴部81を介して伝達されるタクトスイッチ68と、
を備える電動自転車等の車両に取付けられる表示装置。


(甲1発明2)
第1のケース20の内部と連通する開口であるボタン取付用孔71と防水部材取付用孔72が設けられている第1のケース20の壁と、第1のケース20の内部と連通する方向で防水部材取付用孔72がボタン取付用孔71の奥に形成され、防水部材取付用孔72は、小径部76と、小径部76よりも奥に形成された大径部77と、大径部77から小径部76に向かって次第に縮径する段付部78が形成されており、防水部材取付用孔72の径方向における外側には、円環状の溝79が防水部材取付用孔72の開口端部を取り囲むようにボタン取付用孔71の側に形成された、第1のケース20と、
防水部材取付用孔72を閉塞し、防水部材取付用孔72に嵌め込まれる円形の胴部81と、胴部81から径方向における外側へ張り出す鍔部82と、鍔部82の全周にわたって形成され第1のケース20の内部と連通する方向に突出して溝79に嵌め込まれる突部83と、胴部81の外周面から径方向における外側へ突出しており防水部材取付用孔72の段付部78に係止可能であるずれ止め部84と、を備え、操作ボタン67の突起部74に押されて弾性変形する防水部材69を、突部83が溝79に嵌め込まれて接着剤で溝79の内面に接着する工程と、
第1のケース20内に設けられ、操作ボタン67の操作が防水部材69の胴部81を介して伝達されるタクトスイッチ68を第1のケース20内に設置する工程と、
を備える電動自転車等の車両に取付けられる表示装置の製造方法。

(2)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、表示画面部に表示されている表示内容を切換える場合等に操作される操作体を備えた表示装置、および、このような表示装置を備えた自転車、および、表示画面部を作動させる回路基板の保持方法に関する。」

イ「【0026】
ケース21は上部ケース体29と下部ケース体30とからなる上下二分割構造を有し、これら上部および下部ケース体29,30の材質には、例えば耐候性の優れたプラスチック(ASA樹脂等)が用いられる。上部ケース体29と下部ケース体30とは複数本のねじ(図示省略)によって着脱自在に連結されている。尚、上部ケース体29と下部ケース体30との連結部分はパッキン32によってシールされている。また、下部ケース体30は環状の取付部材33によりハンドル13に取り付けられている。」

ウ「【0029】
図3,図5,図6に示すように、上部ケース体29には、前記各タクトスイッチ27a〜27dを外部から操作するための複数の押しボタン41a〜41d(操作体の一例)が設けられている。各押しボタン41a〜41dは上部ケース体29に一体成形されている。このうち、第1の押しボタン41a(一方の操作体の一例)と第2の押しボタン41b(他方の操作体の一例)とは回路基板23の厚さ方向A(上下方向)に直交する前後方向B(一方向)において相対向しており、第1の押しボタン41aと第2の押しボタン41bとの間に回路基板23が配置されている。」

エ「【0033】
尚、前記押しボタン41a〜41dの材質である弾性材としては、例えばエラストマー(例えば、ゴム、アクリル系樹脂等)が用いられている。また、上部ケース体29に形成された凸部49が各押しボタン41a〜41dの凹部44に嵌まり込んでいる。押しボタン41a〜41dの外部操作部45に外力が作用していない状態では、押圧操作部46の内端はタクトスイッチ27a〜27dから離間している。」

オ「【図6】



(3)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【0001】 産業上の利用分野
この発明は洗濯機、電子レンジなどの家電製品、カーオーディオなど自動車の内装品、電話などの構成部品である操作パネルにおいて、樹脂銘板と熱可塑性エラストマーで成形されたボタンと熱可塑性樹脂で成形された操作パネル基体とが成形により一体化された操作パネルに関するものである。」

イ「【0006】 実施例
次に具体的な製造法を示す。まず操作項目などが印刷されている樹脂銘板を作成する。・・・次にこのように製造された樹脂銘板に対してポリエステル系熱可塑性エラストマーをボタンの形に射出成形を行う。まず簡単に図の説明をする。図11はこの成形で使用する金型であるが、1が可動側、2が固定側、3がパーティングライン、4は樹脂銘板でこの部分に樹脂銘板が収まるようになっており、金型が締められるとこの樹脂銘板は固定される。また5がゲートである。また図12は可動側の金型の正面図であり、1の部分に樹脂銘板が収まるようになっている。2はボタンが成形される部分である。よって図11の4(あるいは図12の2の位置)に樹脂銘板をはめ込み、熱可塑性エラストマーを射出成形する。最後に操作パネルの基体の部分の射出成形を行う。まず図の説明を簡単に行うが、図13はこの成形に使用する金型で、1が固定側、2が可動側、3がパーティングライン、4は樹脂銘板、5が熱可塑性エラストマー成形ボタンである。また図14はこの金型の固定側の正面図であり、1が樹脂銘板が収まる部分、2がボタンが収まる部分、3がゲートである。このように金型にはあらかじめ操作パネルを成形する部分の他にボタンが一体成形された樹脂銘板を固定する部分があり、この中にこれをはめ込み、アクリルまたはアクリロニトリル−スチレン樹脂により射出成形する。これにより操作パネルが完成される。本操作パネルは他にも次に示すような製造方法でも製造できる。すなわち樹脂銘板と熱可塑性エラストマーで成形されたボタンを操作パネルの基体を成形する型に固定し、アクリルあるいはアクリロニトリル−スチレン樹脂により一体成形する方法である図13で説明すると、エラストマーの成形ボタンを図の金型の可動側のエラストマー成形ボタンがはめ込まれている部分にはめ込み、樹脂銘板を図の金型の固定側の銘板がはめ込まれている部分にはめ込み成形するということになる。ただしこの際のエラストマーの成形ボタンは図13のような樹脂銘板を挟み込んでいる形のものではいけない。・・・」

ウ「【図11】



エ「【図13】



5.当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「第1のケース20」は、本件発明1の「ケース」に相当する。
甲1発明1の「第1のケース20の内部と連通する開口であるボタン取付用孔71と防水部材取付用孔72」は、第1のケース20の内部に連通しているのであるから、本件発明1の「貫通する開口」に相当し、甲1発明1の「第1のケース20の壁」は、本件発明1の「上壁」に相当する。
甲1発明1の「ボタン取付用孔71」は、「第1のケース20の内部と連通する方向で防水部材取付用孔72がボタン取付用孔71の奥に形成され」るのであるから、本件発明1の「上部」に相当する。
甲1発明1の「防水部材取付用孔72」の「小径部76」、「大径部77」は、「防水部材取付用孔72」が「ボタン取付用孔71」の奥に形成されるとともに、「防水部材取付用孔72は、小径部76と、小径部76よりも奥に形成された大径部77と、大径部77から小径部76に向かって次第に縮径する段付部78が形成されて」いるのであるから、本件発明1の「中央部」及び「下部」に相当する。
そして、甲1発明1の「小径部76」は、甲第1号証の【図12】を参酌すると、「ボタン取付用孔71」及び「大径部77」より小径であるから、本件発明1の「前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部および下部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部」に相当する。
また、甲1発明1の「円環状の溝79」は、「防水部材取付用孔72の径方向における外側には、円環状の溝79が防水部材取付用孔72の開口端部を取り囲むようにボタン取付用孔71の側に形成され」るのであって、防水部材取付用孔72の小径部76が突出部に相当するのであるから、本件発明1の「前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部」に相当する。

してみると、甲1発明1の「第1のケース20の内部と連通する開口であるボタン取付用孔71と防水部材取付用孔72が設けられている第1のケース20の壁と、第1のケース20の内部と連通する方向で防水部材取付用孔72がボタン取付用孔71の奥に形成され、防水部材取付用孔72は、小径部76と、小径部76よりも奥に形成された大径部77と、大径部77から小径部76に向かって次第に縮径する段付部78が形成されており、防水部材取付用孔72の径方向における外側には、円環状の溝79が防水部材取付用孔72の開口端部を取り囲むようにボタン取付用孔71の側に形成された、第1のケース20」は、本件発明1の「貫通する開口が設けられた上壁と、前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部および下部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部と、前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部と、を有するケース」に相当するといえる。

甲1発明1の「タクトスイッチ68」は、「第1のケース20内に設けられ、操作ボタン67の操作が防水部材69を介して伝達される」のであるから、「前記ケースに収納され、被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材」の限りにおいて、本件発明1の「前記ケースに収納され、前記押圧部により押圧される被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材」と一致する。

甲1発明1の「電動自転車等の車両に取付けられる表示装置」は、本件発明1の「車両用操作装置」に相当する。

してみると、本件発明1と甲1発明1とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
「貫通する開口が設けられた上壁と、前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部および下部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部と、前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部と、を有するケースと、
前記ケースに収納され、被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材と、
を備える車両用操作装置。」

(相違点1)
本件発明1では、「前記上壁の上面において前記開口を塞ぐ押圧部と、前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部と、を備え、上方から前記押圧部が押圧されることで変形するボタン部材」を備えるのに対して、甲1発明1では、「防水部材取付用孔72を閉塞し、防水部材取付用孔72に嵌め込まれる円形の胴部81と、胴部81から径方向における外側へ張り出す鍔部82と、鍔部82の全周にわたって形成され第1のケース20の内部と連通する方向に突出して溝79に嵌め込まれる突部83と、胴部81の外周面から径方向における外側へ突出しており防水部材取付用孔72の段付部78に係止可能であるずれ止め部84と、を備え、操作ボタン67の突起部74に押されて弾性変形する防水部材69」を備える点。

(相違点2)
「被押圧部」を押す部材が、本件発明1では「上壁の上面において前記開口を塞ぐ押圧部」であるのに対して、甲1発明1では「操作ボタン67の操作が防水部材69の胴部81を介して伝達される」点。


イ 判断
相違点1について検討する。
申立人は、甲1発明1の「防水部材69」について、「甲1発明における『防水部材69』は、突出部である小径部76および凹部である溝79に勘合(当審注:嵌合の誤記と認められる。)する胴部81と鍔部82(突部83)を有する筒状体であって、小径部76およびその下部に接触しており(明細書段落0031、図16参照)、本件特許発明1における『筒状部』に相当する。」(特許異議申立書第11ページ第7行〜第10行)と主張する。
しかしながら、上記4.(1)ウに摘記したとおり、甲第1号証には、「防水部材69」の「胴部81」に関して「ずれ止め部84は、防水部材69の脱抜方向Fにおいて、防水部材取付用孔72の段付部78(図15(a)参照)に係止可能である。」(段落【0032】)と記載されているから、「胴部81」の「ずれ止め部84」が接触するのは「段付部78」である。
さらに甲第1号証には、「段付部78」に関して「小径部76と大径部77との境界部分には、大径部77から小径部76に向かって次第に縮径する段付部78が形成されている」(段落【0030】)と記載されているから、甲1発明1の「小径部76」が本件発明1の「突出部」に相当する場合、甲1発明1の「段付部78」は、本件発明1の「突出部」の「下面」に相当するものというべきである。
してみると、甲1発明1は、本件発明1の「前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部」に相当する構成を備えないことが明らかである。
そして、本件発明1は、「前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部」を備えることにより、「押圧部70の突出部77が矢印100のように押圧されると・・・界面112には筒状部71が上ケース30aの開口34dの内面に押圧されるような応力が加わる。これにより、筒状部71が剥離されることが抑制される。」(本件特許明細書の段落【0053】)という格別の効果を奏するものである。

さらに、甲第2号証及び甲第3号証を参酌しても、「前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部」を備える記載はなく、それを示唆する記載もない。

してみると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1ではないことが明らかであり、当業者であっても、甲1発明1に基いて容易に発明をすることができたものともいえない。

(2)本件発明5、6について
本件発明5、6も、本件発明1の「前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部」と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明1に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明7について
ア 対比
本件発明7と甲1発明2とを対比する。
甲1発明2の「第1のケース20」は、本件発明7の「ケース」に相当する。
甲1発明2の「第1のケース20の内部と連通する開口であるボタン取付用孔71と防水部材取付用孔72」は、第1のケース20の内部に連通しているのであるから、本件発明7の「貫通する開口」に相当し、甲1発明2の「第1のケース20の壁」は、本件発明7の「上壁」に相当する。
甲1発明2の「ボタン取付用孔71」は、「第1のケース20の内部と連通する方向で防水部材取付用孔72がボタン取付用孔71の奥に形成され」るのであるから、本件発明7の「上部」に相当する。
甲1発明2の「防水部材取付用孔72」の「小径部76」、「大径部77」は、「防水部材取付用孔72」が「ボタン取付用孔71」の奥に形成されるとともに、「防水部材取付用孔72は、小径部76と、小径部76よりも奥に形成された大径部77と、大径部77から小径部76に向かって次第に縮径する段付部78が形成されて」いるのであるから、本件発明7の「中央部」及び「下部」に相当する。
そして、甲1発明2の「小径部76」は、甲第1号証の【図12】を参酌すると、「ボタン取付用孔71」及び「大径部77」より小径であるから、本件発明7の「前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部および下部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部」に相当する。
また、甲1発明2の「円環状の溝79」は、「防水部材取付用孔72の径方向における外側には、円環状の溝79が防水部材取付用孔72の開口端部を取り囲むようにボタン取付用孔71の側に形成され」るのであるから、本件発明7の「前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部」に相当する。

してみると、甲1発明2の「第1のケース20の内部と連通する開口であるボタン取付用孔71と防水部材取付用孔72が設けられている第1のケース20の壁と、第1のケース20の内部と連通する方向で防水部材取付用孔72がボタン取付用孔71の奥に形成され、防水部材取付用孔72は、小径部76と、小径部76よりも奥に形成された大径部77と、大径部77から小径部76に向かって次第に縮径する段付部78が形成されており、防水部材取付用孔72の径方向における外側には、円環状の溝79が防水部材取付用孔72の開口端部を取り囲むようにボタン取付用孔71の側に形成された、第1のケース20」は、本件発明7の「貫通する開口が設けられた上壁と、前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部および下部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部と、前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部と、を有するケース」に相当するといえる。

甲1発明2の「第1のケース20内に設けられ、操作ボタン67の操作が防水部材69の胴部81を介して伝達されるタクトスイッチ68を第1のケース20内に設置する工程」は、「被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材を前記ケース内に設置する工程」の限りにおいて、本件発明7の「前記押圧部により押圧される被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材を前記ケース内に設置する工程」と一致する。

甲1発明2の「電動自転車等の車両に取付けられる表示装置の製造方法」は、本件発明7の「車両用操作装置の製造方法」に相当する。

してみると、本件発明7と甲1発明2とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
「貫通する開口が設けられた上壁と、前記開口の側面において貫通方向の中央部が上部および下部に対しリング状に前記開口の内側に突出する突出部と、前記突出部の上面の外側が下側にリング状に凹む凹部と、を有するケースと、
被押圧部を有し、前記被押圧部が押圧されることにより駆動する操作部材を前記ケース内に設置する工程と、
を含む車両用操作装置の製造方法。」

(相違点3)
本件発明7では、「ケースを金型内に配置」し、「前記上壁の上面において前記開口を塞ぐ押圧部と、前記開口の側面において、前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部と、を備え、上方から前記押圧部が押圧されることで変形するボタン部材を、射出成形する工程」を備えるのに対して、甲1発明2では、「防水部材取付用孔72を閉塞し、防水部材取付用孔72に嵌め込まれる円形の胴部81と、胴部81から径方向における外側へ張り出す鍔部82と、鍔部82の全周にわたって形成され第1のケース20の内部と連通する方向に突出して溝79に嵌め込まれる突部83と、胴部81の外周面から径方向における外側へ突出しており防水部材取付用孔72の段付部78に係止可能であるずれ止め部84と、を備え、操作ボタン67の突起部74に押されて弾性変形する防水部材69を、突部83が溝79に嵌め込まれて接着剤で溝79の内面に接着する工程」を備える点。

(相違点4)
「被押圧部」を押す部材が、本件発明7では「上壁の上面において前記開口を塞ぐ押圧部」であるのに対して、甲1発明2では「操作ボタン67の操作が防水部材69の胴部81を介して伝達される」点。

イ 判断
相違点3について検討する。
上記(1)イで論じたとおり、甲1発明2は、本件発明7の「前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部」に相当する構成を備えないことが明らかである。
そして、本件発明7は、「前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部」を備えることにより、「押圧部70の突出部77が矢印100のように押圧されると・・・界面112には筒状部71が上ケース30aの開口34dの内面に押圧されるような応力が加わる。これにより、筒状部71が剥離されることが抑制される。」(本件特許明細書の段落【0053】)という格別の効果を奏するものである。

さらに、甲第2号証及び甲第3号証を参酌しても、「前記開口の側面において前記突出部および前記凹部と勘合し、前記突出部と前記下部とに接触する筒状部」を備える記載はなく、それを示唆する記載もない。

してみると、相違点4について検討するまでもなく、本件発明7は、当業者であっても、甲1発明2に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではなく、同条第2項の規定により特許を受けることができない発明でもない。また、本件発明5〜7についても、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではない。
したがって、本件発明1、5〜7は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、5〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、5〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-06-15 
出願番号 P2017-165898
審決分類 P 1 652・ 113- Y (H01H)
P 1 652・ 121- Y (H01H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 尾崎 和寛
間中 耕治
登録日 2021-09-17 
登録番号 6946117
権利者 太陽誘電株式会社
発明の名称 車両用操作装置およびその製造方法  
代理人 片山 修平  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ