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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01C
管理番号 1018312
異議申立番号 異議2000-70564  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-04-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-09 
確定日 2000-07-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第2933126号「田植機の植付装置」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2933126号の特許を維持する。 
理由 一、手続の経緯
本件特許第2933126号の発明は、昭和58年12月13日に出願された実願昭58-192806号の考案の一部を実願平5-63597号として分割出願され、該分割出願を平成8年7月3日に特願平8-191345号として出願変更されたものに係り、平成11年5月28日にその発明について特許の設定登録がなされた後、特許異議申立人山本進(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされたものである。

二、本件発明
本件の発明の要旨は、特許明細書及び図面及び記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものである。
「1.植付爪(14)を植付ユニット別に停止させるユニットクラッチ(48)を切にしたとき、その植付爪(14)に対応する苗縦送り部材(43)を連動して停止させる縦送りクラッチ(68)を設ける田植機の植付装置において、縦送り駆動カム(40a)の駆動によって複数条用の苗縦送り部材(43)・・・を同時に作動させる縦送り従動カム(40b)を回転支軸(58)に設け、該回転支軸(58)に苗縦送り部材(43)を遊転軸支させ、前記回転支軸(58)を介して苗縦送り部材(43)を苗載台(13)に取付けると共に、前記回転支軸(58)と苗縦送り部材(43)の連結途中で植付ユニット別に縦送り力を入切させる複数の縦送りクラッチ(68)・・・を設け、回転支軸(58)に対し前記苗縦送り部材(43)を植付ユニット別に係脱自在に縦送りクラッチ(68)を介して連結させ、前記ユニットクラッチ(48)及び縦送りクラッチ(68)を植付ユニット別に入切する複数のユニットクラッチレバー(57a)(57b)(57c)を左右方向に並設させたことを特徴とする田植機の植付装置。」(以下、これを「本件発明」という。)

三、特許異議申立て
(1)申立ての理由の概要
申立人は、下記の証拠方法を提示して、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物である下記甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明、並びに甲第4号証ないし甲第4号証の5に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件特許は取り消されるべきものである旨を主張している。

甲第1号証:実願昭53-141411号(実開昭55-56521号)のマイクロフィルム
甲第2号証:実公昭57-53125号公報
甲第3号証:実公昭56-49300号公報
甲第4号証:特開昭57-12913号公報
甲第4号証の2:特開昭57-198014号公報
甲第4号証の3:特公昭57-56845号公報
甲第4号証の4:実願昭55-134565号(実開昭57-56419号)のマイクロフィルム
甲第4号証の5:実開昭57-119617号公報
参考資料1:本件出願(特願平8-191345号)に係る平成9年10月21日付けの審判請求理由補充書

(2)甲号各証の記載事項
・甲第1号証には、つぎの事項が記載されている。
「例えば、田圃の端部において装置に備えられた条数より少ない半端な条数の 苗植付けを行う場合、・・(中略)・・半端な条数の苗植付作業を、マット状苗を取外したりする事無く容易に行えるようにする事を目的とする。」(2頁1行〜11行)、
「前記ベルトコンベア(3)は、苗植付爪(2)・・夫々に対応する部分(3a)・・に分割構成されると共に、それら4個の分割部分(3a)・・夫々の搬送始端側及び終端側のベルト車(4),(5)が、支持フレーム(6)に架設した支軸(7),(8)に遊嵌されている。」(3頁1行〜6行)、
「前記分割部分(3a)・・夫々の搬送終端側のベルト車(5)・・夫々に爪車(13)を連設すると共に、前記支軸(8)から前記爪車(13)・・に近接位置させてアーム(14)を延設し、アーム(14)・・夫々に前記爪車(13)・・に係合する爪(15)を設け、そして、前記横送り軸(11)と前記アーム(14)・・の1個をリンク(16)を介して連動連結してあり、もって、ベルトコンベア(3)が往復移動に伴って方向転換する際に、前記横送り軸(11)が回転され、それに伴いアーム(14)・・を一体揺動し、爪(15)・・を介してベルト車(5)・・を所定角度回転させベルトコンベア(3)を駆動し、そこに載置のマット状苗を苗植付爪(2)・・側に所定量づつ間歇的に供給していけるように構成してある。」(3頁11行〜4頁4行)、
「前記爪(15)・・夫々は、アーム(14)に揺動自在に取付けられると共に、引っ張りスプリング(17)が張設され、かつ、その取付位置を、爪(15)・・を爪車(13)・・に係合させる状態及び爪車(13)・・から係合解除してストッパー(18)に接当させた状態夫々を維持できるように設定し、クラッチ(19)・・に構成してあり、例えば畦際近くにおいて、2条分等半端な条数分の植付けを行うような場合、不要な2条分の分割部分(3a),(3a)に対して前記爪(15)・・を係合解除すると共に、支軸(7)とベルト車(4)間の摩擦に抗して人為的に分割部分(3a),(3a)を逆方向に駆動回転させてマット状苗を引上げ、その状態で停止させ、それらマット状苗が植付爪(2),(2)に供給される事の無い状態で他の2条分のみの苗植付けを行えるように構成してある。」(4頁10行〜5頁5行)、
「尚、爪(15)・・と田植機の操縦部近くに配設の操作レバーとを運動連結し、操縦部からクラッチ(19)・・に対する操作を行えるように構成しても良い。」(5頁6行〜9行)、
「それら回動帯分割部分(3a)・・夫々に対して各別に駆動及び停止させるためのクラッチ(19)・・を設けてある」(1頁9行〜11行)。
以上の記載からみて、甲第1号証には「縦送り駆動用のリンク16の駆動によって苗植付爪2夫々に対応する部分3aに分割構成されるベルトコンベア3を間歇回転させる夫々のベルト車5・・・を個々に作動させる夫々のアーム14を支軸8に設け、該支軸8に夫々のベルト車5を遊嵌させ、該ベルト車5に爪車13を連設し、前記支軸8を介して夫々のベルト車5を苗載台に取付けると共に、横送り軸11と前記アーム14の1個をリンク16を介して連動連結してあり、前記夫々のアーム14と夫々のベルト車5の連結途中に苗植付条ごとにリンク16からの縦送り力を入切させる夫々の爪車13と夫々の爪15とからなる複数のクラッチ19・・・を設けて、夫々のアーム14に対し前記夫々のベルト車5を植付条ごとに係脱自在にクラッチ19を介して連結させた田植機の苗植付装置」が記載されていると認める。
・甲第2号証には、つぎの事項が記載されている。
「(1)苗載置台に、各植付爪に対応して繰出方向に苗を間欠送りする苗縦送り機構を装備し、上記各植付爪の植付クラッチを各別に断続可能に構成すると共に、各植付クラッチの操作レバーを夫々対応する苗縦送り機構に連動連結し、各植付クラッチの操作レバーを「入」から「切」方向に切換操作した際、該操作レバーの切換操作により停止した植付爪(15)に対応する苗縦送り機構の作動を自動的に停止させるべく構成したことを特徴とする田植機における植付クラッチ装置。」(実用新案登録請求の範囲の第1項)、
「16は植付クラッチ操作レバーであって、該操作レバー16はシャフトケース14に固着されたホルダ17を介してシャフトケースの軸線方向に摺動自在に支持されており、その外方端側は下方に折曲せられて握り部16aが形成され、またその内方端にはフック18が係止ピン19を介して装着されていて、該フック18と植付クラッチAのクラッチレバー20とは弾機20aにより連結されている。そして、植付クラッチ操作レバー16の押引操作によりプランターケース13に内蔵された植付クラッチAを断続させるようになっている。」(3欄24行〜35行)、
「本実施例に示した如く、8条植の田植機で植付作業を行っている際、一枚の圃の最終畦際で例えば6条分の植え代が残るような場合、余分な一対の苗植付爪15,15の作動を停止させたり、或いは、最終回の前回で一対の苗植付爪15,15の作動を休止し残る3対の苗植付爪で6条植えを行えば最終回で8条植えを行ない得て、畦際まで手植えを行うことなく機械植えが可能となるが、このような場合、作動を停止させるべき植付爪15,15に対応する植付クラッチ操作レバー16を弾機29に抗して引張ると、該操作レバー16にフック18および弾機20aを介して連結されたクラッチレバー20が第4図における反時計方向に回動してクラッチAが切れ、それに対応する一組の苗植付爪15,15の作動が停止する。」(5欄25行〜40行)、
「一方、上記操作レバー16の引操作により作動フォーク28も同時に第4図左方向に移動するので筒体33および該筒体33の両端に固定された駆動カム33a,33bも同方向に一体的に移動するため、筒体33の一端部は駆動シャフト32のピン34から離脱すると共に、他端部が係合部36aに係合固定され、そのため、筒体33および駆動カム33a,33bの回転は停止し駆動シャフト32のみが遊転する。その結果上記苗植付爪15,15に対応する苗縦送り機構の作動も同時に停止することとなる。」(6欄5行〜15行)、
「なお、各植付クラッチ操作レバー16をワイヤを介して操縦席位置まで延設し、上記レバー操作を手許操作可能に構成することもできるものである。」(3頁6欄43行〜4頁7欄1行)。
・甲第3号証には、つぎの事項が記載されている。
「7は苗タンクで左右側枠を左右幅を仕切る仕切板及び底板とで土付板状苗Aを二個載置できるように平面視を長方形状に形成してあって、前記操縦ハンドル6の上部に沿わせて配設し、裏面側を支持体8,9で横移動自由に架設してある。」(2頁3欄8行〜12行)、
「12は回転軸で、前記苗タンク7の前側部側底板下部に回転自在に横方向へ軸受されてあって、この軸12にラチエットホイル13と回動レバー14付きのラチエット爪15とを設けて、該回動レバー14を矢印イ方向に回転するときにラチエット爪15がラチエットホイル13の係合して軸12を同じく矢印イ方向に回転するようになっている。16は回転レバー14の先端部に回転自在に設けられたカムフロアーである。21は回動レバー復帰用のばねである。17は揺動カムで、中間部を前記操縦ハンドル6に枢着18してあって、基部側を前記植付部伝動ケース3内に設けられた間欠揺動機構にアーム19及びロッド20を介して連接され、先端部は、前記苗タンク7が左右横移動終端に達したときに前記回動レバー14のカムフロアー16位に相対向する部位に配設してある。そして、前記間欠揺動機構は、苗タンク7を左右往復横移動する往復横移動機構に関連させて、該苗タンク7を横端に至らしめたときにのみ作動するようにしてあり、このときアーム19を矢印ロ方向に一定量回動するようになっている。」(2頁3欄18行〜39行)、
「そして、一枚の圃場で苗植付け作業が終りに近づき畦畔際を植付ける場合に、田植機に装備されている全挿苗杆4で苗植付けをすると苗植付け条列の幾つかが圃場からはみ出してしまい、したがって最後の一行程を植付けないで植残しが起るような場合には、最終植付行程の前段植付工程において、畦際側に植付けをしない欠株植付条を起させる調整をするとよい。このために、植付けしないで空植えさせる挿苗杆4に対応する苗タンク7に設けられている苗床送ローラー22を回転しないように切替機構26(36の誤記)を操作する。即ち、レバー28を第3図仮想線の状態から実線の状態に操作して移動片31の爪29を苗床送ローラー22のクラッチ爪27に係合する。そして、この状態で、土付板状苗Aの苗床前端面を苗床送ローラー22の苗床係合爪23に第1図の如く係合させる。すると、苗タンク7の横端に至り、回転軸12が回転されても、摩擦式クラッチ機構24部の回転子25と苗床送ローラー22との間で滑りが発生して該苗床送ローラー22が停止状態を保持する。したがって、土付板状苗Aは苗床受板33部にまで滑落ちることなく第1図に示した状態に保持されていて植付けしない空植付条を起させるのである。」(3頁5欄15行〜6欄5行)。
・甲第4号証ないし甲第4号証の5のそれぞれには、ユニットクラッチを植付ユニット別に入切する複数のユニットクラッチレバーを左右方向に並設する技術、が記載されていると認める。

(3)当審の判断
本件発明と上記甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明、並びに甲第4号証ないし甲第4号証の5に記載の周知技術とを対比すると、上記甲号各証のいずれにも、本件発明の「植付爪(14)を植付ユニット別に停止させるユニットクラッチ(48)を切にしたとき、その植付爪(14)に対応する苗縦送り部材(43)を連動して停止させる縦送りクラッチ(68)を設ける田植機の植付装置において、複数条用の苗縦送り部材(43)・・・を同時に作動させる縦送り従動カム(40b)を回転支軸(58)に設け、該回転支軸(58)に苗縦送り部材(43)を遊転軸支させ、」の構成が記載されていない。
そして、本件発明は、上記構成により、特許明細書に記載のような「回転支軸(58)に苗縦送り部材(43)を多重軸形に支持させることができ、回転支軸(58)軸芯上などに縦送りクラッチ(68)をコンパクトに取付けることができると共に、縦送り従動カム(40b)に縦送り駆動力を伝達させる縦送り駆動入力を従来のように植付ユニット数分だけ設ける必要がなく、また回転支軸(58)に縦送り従動カム(40b)を設けることによって従来のように苗載台(13)左右往復動用の横送り部材(37)を兼用して縦送り力を伝達させる必要がなく、縦送り従動カム(40b)によって回転支軸(58)に直接伝達させる縦送り駆動入力によって全ての植付ユニットの苗縦送り部材(43)を駆動でき、回転支軸(58)に至るまでの駆動系を全ての苗縦送り部材(43)に共用でき、従来に比べて縦送り駆動構造の簡略化並びに製造コストの低減などを容易に行うことができ、しかも植付ユニット別に設ける複数のユニットクラッチレバー(57a)(57b)(57c)を左右方向に並設させるから、前記各レバー(57a)(57b)(57c)を植付ユニットと同一配列にするだけで、機体左側(または右側)のレバー(57b)操作で左側(または右側)の植付爪(14)と縦送り部材(43)の動力を入切でき、前記レバー(57a)(57b)(57c)操作性の向上並びに誤認操作防止などを容易に図ることができるものである。」という効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明は、上記甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明、並びに甲第4号証ないし甲第4号証の5に記載の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたもの、とすることができない。

(4)異議申立人の主張の検討
1.申立人は、本件発明は、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明を適用し、さらに甲第4号証ないし甲第4号証の5に記載の周知技術を付加することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
しかしながら、甲第1号証に記載の発明は、「植付爪(14)を植付ユニット別に停止させるユニットクラッチ(48)」を備えるものではなく、本件発明の前提構成である「植付爪(14)を植付ユニット別に停止させるユニットクラッチ(48)を切にしたとき、その植付爪(14)に対応する苗縦送り部材(43)を連動して停止させる縦送りクラッチ(68)を設ける田植機の植付装置」という構成を欠いているばかりでなく、本件発明の特徴構成の1つである「前記ユニットクラッチ(48)及び縦送りクラッチ(68)を植付ユニット別に入切する複数のユニットクラッチレバー(57a)(57b)(57c)」という構成をも欠いているものである。
してみると、甲第1号証に記載の発明は、発明の目的が本件発明の目的と相違し、その構成が本件発明の目的を達成するための本質的な主要な構成を具備しない発明であるから、甲第1号証は本件発明の個々の構成の一部が記載されているに過ぎないものである。
しかるに、申立人は、甲第1号証に記載の発明を主たる引用例に位置づけて本件発明と対比することにより、本件発明に対する一致点及び相違点を検討しているが、申立人の主張の前提としている甲第1号証に記載の発明は、上記のとおり本件発明の上記前提構成及び特徴構成を具備していないので、本件発明と甲第1号証に記載の発明とを対比したときの一致点及び相違点に基づいて展開している申立人の取消の理由は、採用することができない。
したがって、甲第4号証ないし甲第4号証の5に「ユニットクラッチを植付ユニット別に入切する複数のユニットクラッチレバーを左右方向に並設する技術」が記載されて、本件発明の「複数のユニットクラッチレバー(57a)(57b)(57c)を左右方向に並設させ」の構成が、本件発明の出願前の周知技術であると認められるとしても、本件発明が、上記甲第1号証に記載の発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明を適用し、さらに甲第4号証ないし甲第4号証の5の周知技術を付加することにより当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

2.つぎに、申立人はその特許異議申立書において主張をしてはいないが、甲第2号証に記載の発明と甲第3号証に記載の発明との組合せについても検討する。
甲第2号証に記載の発明は、駆動シャフト32に筒体33が摺動自在に遊嵌され、ピン34の係合により駆動シャフト32と一体的に回動する筒体33に駆動カム33a、33bが設けられていて、該駆動カム33a、33bが苗載置台12と一体的に左右往復移動するカムフォロア35に係合することにより苗縦送り機構を駆動させて苗を縦送りし、植付爪15に対応する植付クラッチ操作レバー16を弾機29に抗して引くことにより、筒体33の一端部からピン34の係合が外れ、筒体33の他端部が係合部36aに係合されることにより駆動シャフト32による筒体33の一体的回動が切離されて、筒体33上の駆動カム33a、33bがカムフォロア35に係合しないことにより苗縦送り機構が停止され、そのとき、植付クラッチ操作レバー16の引操作に連動して、植付クラッチAが切断されて、プランタケースごとのシャフトケース14に内蔵された伝動軸14aによる一組の苗植付爪15、15の作動が停止するものである。そして、甲第2号証に記載の発明の「駆動シャフト32」「植付クラッチ操作レバー16」「植付クラッチA」「筒体33へのピン34の係合/筒体33の係合部36aへの係合の切換操作」「カムフォロア35」「駆動カム33a、33b」が、それぞれ本件発明の「回転支軸(58)」「複数のユニットクラッチレバー(57a)(57b)(57c)」「ユニットクラッチ(48)」「縦送りクラッチ(68)」「苗縦送り部材(43)」「縦送り駆動カム(40a)」に相当するものである。
また、甲第3号証に記載の発明は、回転軸12に回動レバー14が設けられていて、該回動レバー14に揺動カム17が係合することにより回転軸12を回転させ、該回転軸12に苗床送ローラー22が摺動自在に遊嵌されるとともに、苗床送ローラー22の一端部側に設けられたクラッチばね26の付勢による摩擦クラッチ機構24により苗床送ローラー22を回転軸12と一体的に駆動させて苗を縦送りし、回転軸12の端部に同軸に設けられたレバー28をクラッチばね26に抗して苗床送ローラー22の他端部を押すことにより、苗床送ローラー22の他端部のクラッチ爪27がレバー28の爪29に係合されることにより回転軸12による苗床送ローラー22の摩擦クラッチ機構24の摩擦に滑りが生じて一体的回動が解除され、苗床送ローラー22による苗縦送りが停止されるものであり、甲第3号証に記載の発明の「回転軸12」「レバー28」「切替機構36」「苗床送ローラー22」「揺動カム17」が、それぞれ本件発明の「回転支軸(58)」「複数のユニットクラッチレバー(57a)(57b)(57c)」「縦送りクラッチ(68)」「苗縦送り部材(43)」「縦送り駆動カム(40a)」に相当するものである。
そうしてみると、いずれも本件発明の「回転支軸58」に相当するところの、甲第2号証に記載の発明の「駆動シャフト32」に代えて、甲第3号証に記載の発明の「回転軸12」を採用したとしても、甲第2号証に記載の発明の「駆動シャフト32」が、本件発明の縦送り駆動カム(40a)に相当する駆動カム33a、33bを筒体32を介して駆動させることによりカムフォロアー35を従動させるものであるのに対して、甲第3号証に記載の発明の「回転軸12」は、本件発明の縦送り駆動カム(40a)に相当する揺動カム17を駆動するのではなく、逆に揺動カム17の揺動により回動レバー14が従動され、その結果回転軸12自体が回転されるものであるから、甲第2号証に記載の発明に甲第3号証に記載の発明を適用しても、本件発明の「複数条用の苗縦送り部材(43)・・・を同時に作動させる縦送り従動カム(40b)を回転支軸(58)に設け、該回転支軸(58)に苗縦送り部材(43)を遊転軸支させ、」という構成を得ることができない。
以上のとおりであるから、甲第4号証ないし甲第4号証の5に「ユニットクラッチを植付ユニット別に入切する複数のユニットクラッチレバーを左右方向に並設する技術」が記載されて、本件発明の「複数のユニットクラッチレバー(57a)(57b)(57c)を左右方向に並設させ」の構成が、本件発明の出願前の周知技術であると認められるとしても、甲第1号証ないし甲第3号証には、本件発明の「植付爪(14)を植付ユニット別に停止させるユニットクラッチ(48)を切にしたとき、その植付爪(14)に対応する苗縦送り部材(43)を連動して停止させる縦送りクラッチ(68)を設ける田植機の植付装置において、複数条用の苗縦送り部材(43)・・・を同時に作動させる縦送り従動カム(40b)を回転支軸(58)に設け、該回転支軸(58)に苗縦送り部材(43)を遊転軸支させ、」が記載されてなく、本件発明の個々の構成の一部が記載されているにすぎないから、本件発明は、上記甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明、並びに甲第4号証ないし甲第4号証の5の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたもの、とすることもできない。
そして、本件発明は、上記構成により特許明細書に記載の前記効果を奏するものと認められる。
3.まとめ
上記1.及び2.に記載したとおり、本件発明は、上記甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明、並びに甲第4号証ないし甲第4号証の5の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたもの、とすることができない。

四、むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の申立ての理由及び提出した証拠方法によって、本件発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2000-06-16 
出願番号 特願平8-191345
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 郡山 順中村 圭伸  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 佐藤 昭喜
吉村 尚
登録日 1999-05-28 
登録番号 特許第2933126号(P2933126)
権利者 ヤンマー農機株式会社
発明の名称 田植機の植付装置  
代理人 北村 修一郎  

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