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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A01D34
管理番号 1024650
異議申立番号 異議1999-70732  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-04-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-02-26 
確定日 2000-08-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第2791881号「コンバイン」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2791881号の特許を取り消す。 
理由 一、手続の経緯
特許第2791881号に係る発明についての出願は、平成3年4月10日に出願された実願平3-32837号の出願の一部を平成8年8月21日に分割して実願平8-9174号としたものを、さらに出願変更して特願平8-239786号の特許出願としたものであり、平成10年6月19日にその発明についての特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人井関農機株式会社(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成11年8月5日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月30日に訂正請求がなされた後、平成12年2月8日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成12年4月25日に訂正明細書を補正する手続補正書が提出され、さらに、平成12年5月15日付けで手続補正指令(方式)がなされ、その指定期間内である平成12年6月9日に前記平成11年9月30日付けの訂正請求書を補正する手続補正書(訂正請求書)が提出されたものである。

二、訂正の適否についての判断
1.訂正請求に対する補正の適否について
特許権者は、訂正請求書の訂正の内容を次の[1]〜[4]のように補正することを求めるものである。
[1]訂正事項a
「【請求項1】走行機体(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)と前記引起部材(18)及び刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取作業入力軸(77)との間を連動連結する刈取伝動軸(76)を、引起部材(18)及び刈刃(21)の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する構成にして設けると共に、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設けたことを特徴とするコンバイン。」を
「【請求項1】走行機体(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)から前記穀稈引起部材(18)と刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取伝動軸(76)の入力側を、軸芯方向に摺動自在で、かつ、左右回動自在に刈取入力軸(73)に連動連結して、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設けたことを特徴とするコンバイン。」と補正する。
[2]訂正事項b
「【0003】【課題を解決するための手段】然るに、本発明は、走行機体の前部に、刈取主フレームを介して左右方向横軸回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材と刈刃を前記刈取主フレームに対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸と同一軸芯上に刈取入力軸を配設し、この刈取入力軸と前記引起部材及び刈刃に対して動力を伝達する刈取作業入力軸との間を連動連結する刈取伝動軸を、引起部材及び刈刃の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸と刈取作業入力軸間の距離変化を吸収する構成にして設けると共に、前記刈取主フレームの上方に刈取伝動軸を設けたもので、刈取部に動力を伝える刈取伝動軸を、刈取主フレームによって安全かつ確実に保護し得るものである。」を
「【0003】【課題を解決するための手段】然るに、本発明は、走行機体の前部に、刈取主フレームを介して左右方向横軸回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材と刈刃を前記刈取主フレームに対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸と同一軸芯上に刈取入力軸を配設し、この刈取入力軸から前記穀稈引起部材と刈刃に対して動力を伝達する刈取伝動軸の入力側を、軸芯方向に摺動自在で、かつ、左右回動自在に刈取入力軸に連動連結して、前記刈取主フレームの上方に刈取伝動軸を設けたもので、刈取部に動力を伝える刈取伝動軸を、刈取主フレームによって安全かつ確実に保護し得るものである。」と補正する。
[3]訂正事項c
「【0018】上記から明らかなように、走行機体である機台(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸である刈取入力ケース(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材である引起ケース(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記刈取入力ケース(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)と前記引起部材(18)及び刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取作業入力軸(77)との間を連動連結する刈取伝動軸(76)を、引起部材(18)及び刈刃(21)の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する構成にして設けると共に、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設け、刈取部(7)に動力を伝える刈取伝動軸(76)を、刈取主フレーム(25)によって安全かつ確実に保護するように構成している。」を
「【0018】上記から明らかなように、走行機体である機台(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸である刈取入力ケース(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材である引起ケース(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記刈取入力ケース(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)から前記穀稈引起部材(18)と刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取伝動軸(76)の入力側を、軸芯方向に摺動自在で、かつ、左右回動自在に刈取入力軸(73)に連動連結して、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設け、刈取部(7)に動力を伝える刈取伝動軸(76)を、刈取主フレーム(25)によって安全かつ確実に保護するように構成している。」と補正する。
[4]訂正事項d
「【0021】【考案の効果】以上実施例から明らかなように本発明は、走行機体(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)と前記引起部材(18)及び刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取作業入力軸(77)との間を連動連結する刈取伝動軸(76)を、引起部材(18)及び刈刃(21)の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する構成にして設けると共に、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設けたもので、刈取部(7)に動力を伝える刈取伝動軸(76)を、刈取主フレーム(25)によって安全かつ確実に保護できるものである。」を
「【0021】【発明の効果】以上実施例から明らかなように本発明は、走行機体(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)から前記穀稈引起部材(18)と刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取伝動軸(76)の入力側を、軸芯方向に摺動自在で、かつ、左右回動自在に刈取入力軸(73)に連動連結して、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設けたもので、刈取部(7)に動力を伝える刈取伝動軸(76)を、刈取主フレーム(25)によって安全かつ確実に保護できるものである。」と補正する。
しかし、上記の補正[1]〜[4]は、単に誤記を補正するものではなく、「この刈取入力軸(73)と前記引起部材(18)及び刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取作業入力軸(77)との間を連動連結する刈取伝動軸(76)を、引起部材(18)及び刈刃(21)の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する構成にして設けると共に、」を、「この刈取入力軸(73)から前記穀稈引起部材(18)と刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取伝動軸(76)の入力側を、軸芯方向に摺動自在で、かつ、左右回動自在に刈取入力軸(73)に連動連結して、」に変更するものであるから、前記補正[1]〜[4]は、訂正請求書の要旨を変更するものと認められ、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に違反するものであり、採用しない。

2.訂正の内容
特許権者の求めている訂正の内容は、次の(1)〜(4)のとおりである。
(1)訂正事項a
特許明細書の特許請求の範囲の「【請求項1】走行機体の前部に、刈取主フレームを介して左右方向横軸回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材と刈刃を前記刈取主フレームに対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸と同一軸芯上に刈取入力軸を配設し、この刈取入力軸から前記引起部材と刈刃に対して動力を伝達する刈取伝動軸を伸縮自在かつ屈折自在に取付けると共に、前記刈取主フレームの上方に刈取伝動軸を設けたことを特徴とするコンバイン。」の記載を、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【請求項1】走行機体(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)と前記引起部材(18)及び刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取作業入力軸(77)との間を連動連結する刈取伝動軸(76)を、引起部材(18)及び刈刃(21)の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する構成にして設けると共に、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設けたことを特徴とするコンバイン。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書の「【0003】【課題を解決するための手段】然るに、本発明は、走行機体の前部に、刈取主フレームを介して左右方向横軸回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材と刈刃を前記刈取主フレームに対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸と同一軸芯上に刈取入力軸を配設し、この刈取入力軸から前記引起部材と刈刃に対して動力を伝達する刈取伝動軸を伸縮自在かつ屈折自在に取付けると共に、前記刈取主フレームの上方に刈取伝動軸を設けたもので、刈取部に動力を伝える刈取伝動軸を、刈取主フレームによって安全かつ確実に保護し得るものである。」の記載を、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【0003】【課題を解決するための手段】然るに、本発明は、走行機体の前部に、刈取主フレームを介して左右方向横軸回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材と刈刃を前記刈取主フレームに対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸と同一軸芯上に刈取入力軸を配設し、この刈取入力軸と前記引起部材及び刈刃に対して動力を伝達する刈取作業入力軸との間を連動連結する刈取伝動軸を、引起部材及び刈刃の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸と刈取作業入力軸間の距離変化を吸収する構成にして設けると共に、前記刈取主フレームの上方に刈取伝動軸を設けたもので、刈取部に動力を伝える刈取伝動軸を、刈取主フレームによって安全かつ確実に保護し得るものである。」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許明細書の「【0018】上記から明らかなように、走行機体である機台(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸である刈取入力ケース(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材である引起ケース(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記刈取入力ケース(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)から前記引起ケース(18)と刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取伝動軸(76)を伸縮自在かつ屈折自在に取付けると共に、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設け、刈取部(7)に動力を伝える刈取伝動軸(76)を、刈取主フレーム(25)によって安全かつ確実に保護するように構成している。」の記載を、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【0018】上記から明らかなように、走行機体である機台(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸である刈取入力ケース(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材である引起ケース(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記刈取入力ケース(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)と前記引起部材(18)及び刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取作業入力軸(77)との間を連動連結する刈取伝動軸(76)を、引起部材(18)及び刈刃(21)の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する構成にして設けると共に、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設け、刈取部(7)に動力を伝える刈取伝動軸(76)を、刈取主フレーム(25)によって安全かつ確実に保護するように構成している。」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の「【0021】【発明の効果】以上実施例から明らかなように本発明は、走行機体(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)から前記引起部材(18)と刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取伝動軸(76)を伸縮自在かつ屈折自在に取付けると共に、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設けたもので、刈取部(7)に動力を伝える刈取伝動軸(76)を、刈取主フレーム(25)によって安全かつ確実に保護できるものである。」の記載を、
明りょうでない記載の釈明を目的として、
「【0021】【考案の効果】以上実施例から明らかなように本発明は、走行機体(3)の前部に、刈取主フレーム(25)を介して左右方向横軸(26)回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材(18)と刈刃(21)を前記刈取主フレーム(25)に対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸(26)と同一軸芯上に刈取入力軸(73)を配設し、この刈取入力軸(73)と前記引起部材(18)及び刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取作業入力軸(77)との間を連動連結する刈取伝動軸(76)を、引起部材(18)及び刈刃(21)の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する構成にして設けると共に、前記刈取主フレーム(25)の上方に刈取伝動軸(76)を設けたもので、刈取部(7)に動力を伝える刈取伝動軸(76)を、刈取主フレーム(25)によって安全かつ確実に保護できるものである。」と訂正する。
3.訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否
特許権者は、上記訂正事項aの訂正の目的を、特許請求の範囲の請求項1に係る発明における特定事項の「明りょうでない記載の釈明」であるとしている。
しかしながら、上記訂正事項aの訂正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特定事項の「この刈取入力軸から前記引起部材と刈刃に対して動力を伝達する刈取伝動軸を伸縮自在かつ屈折自在に取付ける」が、「この刈取入力軸(73)と前記引起部材(18)及び刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取作業入力軸(77)との間を連動連結する刈取伝動軸(76)を、引起部材(18)及び刈刃(21)の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する構成にして設ける」と訂正される結果、「刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離」と記載される、いわゆる「互いに平行ではない2軸間の距離」が、刈取入力軸(73)のどの点から刈取作業入力軸(77)のどの点までの距離として定義される距離であるのか、明細書に明確に記載されてなく不明である。
したがって、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特定事項が依然として明りょうではないから、明りょうでない記載が訂正事項aの訂正によって解消されたということができないので、訂正事項aの訂正が、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であると認めることができない。
(2)新規事項の有無
上記訂正事項aないしdの訂正における「刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化」という技術事項が、願書に添付した明細書(すなわち、「特許明細書」)又は図面に記載されていないので、訂正事項aないしdの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではない。
ちなみに、特許権者が平成11年9月30日付け特許異議意見書の2頁26行〜3頁14行において「記載されていた事項に基づくものである」と主張している明細書の段落【0016】及び【0017】には、上記「刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化」という技術事項は記載されてなく、また示唆もない。
(3)拡張・変更の存否
上記訂正事項aの訂正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特定事項が、「この刈取入力軸から前記引起部材と刈刃に対して動力を伝達する刈取伝動軸を伸縮自在かつ屈折自在に取付ける」から、「この刈取入力軸(73)と前記引起部材(18)及び刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取作業入力軸(77)との間を連動連結する刈取伝動軸(76)を、引起部材(18)及び刈刃(21)の直線的な横方向移動によって変化する刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する構成にして設ける」に訂正される結果として、訂正前では刈取伝動軸が「伸縮自在かつ屈折自在」であったものが、訂正後の刈取伝動軸(76)は、単に刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の距離変化を吸収する(訂正前の「伸縮自在」に相当)のみであり、刈取入力軸(73)と刈取作業入力軸(77)間の角度変化を吸収する(訂正前の「屈折自在」に相当)ことが欠落していることにより、訂正事項aの訂正は特許請求の範囲を実質上拡張、又は変更するものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項の規定において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の訂正に関する規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

三、特許異議申立てについての判断
1.本件発明
本件特許明細書の請求項1に係る発明(以下、これを「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】走行機体の前部に、刈取主フレームを介して左右方向横軸回りで昇降揺動自在に連結された穀稈引起部材と刈刃を前記刈取主フレームに対して横方向に相対スライド移動自在に構成すると共に、前記左右方向横軸と同一軸芯上に刈取入力軸を配設し、この刈取入力軸から前記引起部材と刈刃に対して動力を伝達する刈取伝動軸を伸縮自在かつ屈折自在に取付けると共に、前記刈取主フレームの上方に刈取伝動軸を設けたことを特徴とするコンバイン。」

2.申立の理由の概要
特許異議申立人は、請求項1に係る発明についての特許は、その明細書が特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、取り消されるべき旨を主張している。

3.判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その段落【0016】及び【0017】に「【0016】図1及び図5及び図8に示す如く、前記右引起パイプ(38)も前記縦軸(52)と同様にフィードチェン(5)の穀稈受継ぎ面(5a)に対して側面視で略直角に設けると共に、前記連結パイプ(48)をフィードチェン(5)の穀稈受継ぎ面(5a)と側面視で略平行に設け、連結パイプ(48)内でこの軸芯上に設ける断面六角の伝動軸(76)と前記縦伝動軸(70)及び右引起パイプ(38)内でこの軸芯上に設ける刈取作業入力軸(77)との軸角度を側面視で略直角に設け、刈取作業部材の左右移動に追従して縦伝動軸(70)を中心に伝動軸(76)を左右に回動させることにより、ユニバーサルジョイントなど不等速自在軸継手を用いることなく、等速軸継手であるベベルギヤ(72)(71)(78)により、縦伝動軸(70)と伝動軸(76)間の伝動を行えるように構成している。」及び「【0017】また、右引起パイプ(38)に対して回転自在に設けた前記刈取作業入力ケース(47)から支持パイプ(79)を突出固設させ、その支持パイプ(79)に連結パイプ(48)の出力側を摺動自在に嵌合させると共に、刈取出力ケース(46)に内装する入力ベベルギヤ(78)に前記伝動軸(76)をこの軸方向にのみ摺動自在に嵌合させ、またその伝動軸(76)の入力側端を出入自在に内挿させる軸カバー(80)を刈取出力ケース(46)に一体取付けし、刈取作業部材の直線的な左右移動に追従させて前記連結パイプ(48)をこの出力側で伸縮させる一方、伝動軸(76)をこの入力側で伸縮させ、これら連結パイプ(48)及び伝動軸(76)の長さ調節を行うように構成している。」と記載されている(特許掲載公報7欄2行〜7欄29行参照)。
このように、上記の発明の詳細な説明には、断面六角の伝動軸(76)を内部にこの軸芯上に有する連結パイプ(48)の出力側が、支持パイプ(79)に摺動自在に嵌合されると共に、伝動軸(76)の入力側が入力べベルギヤ(78)に対して摺動自在に嵌合される構成が記載され、刈取作業入力軸(77)と縦伝動軸(70)及び入力べベルギヤ(78)との間の距離が刈取作業部材の直線的な左右移動によって変化しても、前記構成により、その距離変化が吸収されるようになっているものであり、伝動軸(76)自体の長さが伸縮自在であるということは記載されていない。
また、同じく上記の発明の詳細な説明によれば、縦伝動軸(70)と伝動軸(76)間の伝動が刈取作業部材の左右移動に追従できるように、縦伝動軸(70)を中心に伝動軸(76)が左右に回動できるようになっていて、また、連結パイプ(48)の出力側が摺動自在に嵌合される支持パイプ(79)を突出固設している刈取作業入力ケース(47)が右引起パイプ(38)に対して回転自在に設けられているものであって、伝動軸(76)自体が屈折自在であるということは記載されていない。
そして、このような発明の詳細な説明の記載に対して、特許請求の範囲の請求項1には、「この刈取入力軸から前記引起部材と刈刃に対して動力を伝達する刈取伝動軸を伸縮自在かつ屈折自在に取付ける」という特定事項が記載されている。
しかしながら、該特定事項は、刈取入力軸(73)から前記引起部材(18)と刈刃(21)に対して動力を伝達する刈取伝動軸(伝動軸76)自体が伸縮自在かつ屈折自在であることを意味するものであるから、該特定事項が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項ではないものとなっている。
すなわち、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の「この刈取入力軸から前記引起部材と刈刃に対して動力を伝達する刈取伝動軸を伸縮自在かつ屈折自在に取付ける」の特定事項が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されてない。
したがって、明細書の発明の詳細な説明に記載されていない事項を、本件発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分されるものとして特許請求の範囲の請求項1に記載しているので、本件特許第2791881号に係る発明の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第5項第1号に規定された「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」の要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第5項第1号の要件を満たしていないので、特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。

 
異議決定日 2000-07-04 
出願番号 特願平8-239786
審決分類 P 1 651・ 534- ZB (A01D34)
最終処分 取消  
前審関与審査官 郡山 順関根 裕  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 佐藤 昭喜
新井 重雄
登録日 1998-06-19 
登録番号 特許第2791881号(P2791881)
権利者 セイレイ工業株式会社
発明の名称 コンバイン  

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