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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09C
管理番号 1062399
審判番号 不服2001-8165  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-05-17 
確定日 2002-08-20 
事件の表示 昭和63年特許願第323295号「署名交換方法」拒絶査定に対する審判事件〔平成 2年 6月29日出願公開、特開平 2-170184、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯および本願発明

本願は昭和63年12月23日の特許法第30条第1項の規定の適用申請を伴う出願であって、その請求項1乃至7に係る発明(以下、「本願発明1乃至7」という)は、平成14年7月11日付けの手続補正書で補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載された次のとおりのものであると認める。

【請求項1】
取引者装置Aの使用者である取引者Aにより作成され、取引者装置Bの使用者である取引者Bとの間で取り引きされる取引文書に係るディジタル署名を交換する署名交換方法において、
前記取引者装置Bは、
前記取引文書を当該取引者Bが了承したかどうかを判定し、
前記取引文書が了承された場合に、ハッシュ関数を用いて前記取引文書を変換した前記取引文書を特定できる特定情報と、予備的な署名であることを示す第1の記号とを含み前記取引文書を除くデータとから、前記取引者Bの秘密鍵を用いた前記取引者Bの予備のディジタル署名を生成し、
前記取引者Bの前記予備のディジタル署名を前記取引者装置Aへ送信し、
前記取引者装置Aは、
前記取引者Bの前記予備のディジタル署名を検証し、
前記検証にて、前記取引者Bの前記予備のディジタル署名が正しいことを確認した場合に、前記ハッシュ関数を用いて前記取引文書を変換した前記特定情報と、正式な署名であることを示す第2の記号とを含み前記取引文書を除くデータとから、前記取引者Aの秘密鍵を用いた前記取引者Aの正式なディジタル署名を生成し、
前記取引者Aの前記正式なディジタル署名を前記取引者装置Bへ送信し、
前記取引者装置Bは、
前記取引者Aの前記正式なディジタル署名を検証し、
前記検証にて、前記取引者Aの前記正式なディジタル署名が正しいことを確認した場合に、前記ハッシュ関数を用いて前記取引文書を変換した前記特定情報と、正式な署名であることを示す第2の記号とを含み前記取引文書を除くデータとから、前記取引者Bの秘密鍵を用いた前記取引者Bの正式なディジタル署名を生成し、
前記取引者Bの前記正式なディジタル署名を前記取引者装置Aへ送信し、
前記取引者装置Aは、
前記取引者Bの前記正式なディジタル署名を検証することを特徴とする署名交換方法。

【請求項2】
請求項1に記載の署名交換方法において、
前記取引者装置A、取引者装置B間の取引に係る署名交換上の争いが生じた場合、
調停者装置は、
前記取引者装置Aに対して、前記特定情報と前記取引文書に対する事前合意の有無を示す前記取引者Aの主張データを前記調停者装置へ送信するように指示し、
前記取引者装置Bに対して、前記特定情報と前記取引文書に対する事前合意の有無を示す前記取引者Bの主張データを前記調停者装置へ送信するように指示し、
受信した前記取引者Aおよび前記取引者Bの主張データが共に「事前合意有り」であるとき、
前記取引者Aの正式なディジタル署名を前記調停者装置経由で前記取引者装置Bへ送信するように、前記取引者装置Aに対して指示し、
前記取引者Bの正式なディジタル署名を前記調停者装置経由で前記取引者装置Aへ送信するように、前記取引者装置Bに対して指示し、
前記取引者Aまたは前記取引者Bの主張データの少なくとも一方が「事前合意無し」であるとき、
所定の判定基準に基づいて、前記取引者A、前記取引者Bのいずれが不当であるかを判定することを特徴とする署名交換方法。

【請求項3】
請求項2に記載の署名交換方法において、
前記調停者装置は、
前記取引者装置Aからの主張データが「事前合意無し」であり、かつ、前記取引者装置Bからの主張データが「事前合意有り」である場合、
前記取引者装置Aに対して、
前記取引者Bによる前記予備または正式なディジタル署名を既に受信している場合は、受信している前記取引者Bによる予備または正式なディジタル署名を前記調停者装置へ送信するように指示し、
前記取引者装置Bに対して、
前記取引者Aによる前記正式なディジタル署名を既に受信している場合は、受信している前記取引者Aによる正式なディジタル署名を前記調停者装置へ送信するように指示し、
前記取引者装置Aから前記取引者Bの正式なディジタル署名を受信しておらず、前記取引者装置Bから前記取引者Aの正式なディジタル署名を受信していないとき、「判定できず」の旨のデータを出力し、
前記取引者装置Bから前記取引者Aの正式なディジタル署名を受信しているとき、「取引者Aは不当である」の旨のデータを出力し、
前記取引者装置Aから前記取引者Bの正式なディジタル署名を受信しており、
前記取引者装置Bから前記取引者Aの正式なディジタル署名を受信していないとき、「取引者Bは不当である」の旨のデータを出力することを特徴とする署名交換方法。

【請求項4】
請求項2に記載の署名交換方法において、
前記調停者装置は、
前記取引者装置Aからの主張データが「事前合意有り」であり、かつ、前記取引者装置Bからの主張データが「事前合意無し」である場合、
前記取引者装置Aに対して、
前記取引者Bによる前記予備または正式なディジタル署名を既に受信している場合は、受信している前記取引者Bによる予備または正式なディジタル署名を前記調停者装置へ送信するように指示し、
前記取引者装置Bに対して、
前記取引者Aによる前記正式なディジタル署名を既に受信している場合は、受信している前記取引者Aによる正式なディジタル署名を前記調停者装置へ送信するように指示し、
前記取引者装置Aから前記取引者Bの予備および正式なディジタル署名のいずれも受信しておらず、前記取引者装置Bから前記取引者Aの正式なディジタル署名を受信していないとき、「判定できず」の旨のデータを出力し、
前記取引者装置Aから前記取引者Bの予備および正式なディジタル署名のいずれも受信しておらず、前記取引者装置Bから前記取引者Aの正式なディジタル署名を受信しているとき、「取引者Aは不当である」の旨のデータを出力し、
前記取引者装置Aから前記取引者装置Bの予備または正式なディジタル署名を受信しているとき、「取引者Bは不当である」の旨のデータを出力することを特徴とする署名交換方法。

【請求項5】
請求項2に記載の署名交換方法において、
前記調停者装置は、
前記取引者装置Aおよび取引者装置Bからの主張データがいずれも「事前合意無し」である場合、
前記取引者装置Aに対して、
前記取引者Bによる前記予備または正式なディジタル署名を既に受信している場合は、受信している前記取引者Bによる予備または正式なディジタル署名を前記調停者装置へ送信するように指示し、
前記取引者装置Bに対して、
前記取引者Aによる前記正式なディジタル署名を既に受信している場合は、受信している前記取引者Aによる正式なディジタル署名を前記調停者装置へ送信するように指示し、
前記取引者装置Aから前記取引者Bの予備および正式なディジタル署名のいずれも受信しておらず、前記取引者装置Bから前記取引者Aの正式なディジタル署名を受信していないとき、「判定できず」の旨のデータを出力し、
前記取引者装置Aから前記取引者Bの予備および正式なディジタル署名のいずれも受信しておらず、前記取引者装置Bから前記取引者Aの正式なディジタル署名を受信しているとき、「取引者Aは不当である」の旨のデータを出力し、
前記取引者装置Aから前記取引者Bの予備または正式なディジタル署名を受信しており、前記取引者装置Bから前記取引者Aの正式なディジタル署名を受信していないとき、「取引者Bは不当である」の旨のデータを出力し、
前記取引者装置Aから前記取引者Bの予備または正式なディジタル署名を受信しており、前記取引者装置Bから前記取引者Aの正式なディジタル署名を受信しているとき、「取引者Aおよび取引者Bは不当である」の旨のデータを出力することを特徴とする署名交換方法。

【請求項6】
請求項2ないし請求項5のいずれか一に記載の署名交換方法において、
前記調停者装置は、
前記取引者装置Aおよび前記取引者装置Bから受信したディジタル署名のうち前記衝突の争点となったものを、前記調停者装置が保持する無効化リストに記録して、前記無効化リストに記録されたディジタル署名と同一のディジタル署名がさらに送信されてきた場合は調停動作を中止することを特徴とする署名交換方法。

【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一に記載の署名交換方法において、
暗号変換により予備のディジタル署名に変換される前記データおよび暗号変換により正式なディジタル署名に変換される前記データは、それぞれの暗号変換がされる時刻に基づく所定の時刻を示す時刻データをそれぞれ含むことを特徴とする署名交換方法。


2.本願における特許法第30条第1項適用申請手続きの適否

特許出願が特許法第30条第1項の適用を申請する際に、特許法第30条第4項の規定に基づいて、提出する証明書面が満たすべき要件は、

ア.特許を受けようとする発明が、「研究集会で文書をもって発表」された場合は、その書面に
1.研究集会名
2.主催者名
3.開催日
4.開催場所
5.文書の種類
6.発表者名
7.文書に表現されている発明の内容
が明示され、かつ証明される必要がある。(審査便覧10.36A)
また、
イ.特許受けようとする発明が、「刊行物に発表」された場合は、その書面に
1.刊行物名、巻数、号数
2.発行年月日
3.発行所
4.該当頁
5.著者名
6.発表された発明の内容
が明示され、かつ証明される必要がある。(審査便覧10.35A)

2-1.添付書類に関して

本願には、特許法第30条第1項の適用を受けるのに必要な書類として次に掲げるものが添付されている。

1.KAZUO TAKARAGI, RYOICHI SASAKI
「A Practical and Fair Protocol for Signing Contract」
(表紙およびp1-13並びにFig.1およびtable1-2の全20頁)

2.SC20/WG1・3小委員会議事録 (全1頁)

3.情報処理学会VOL.29 1988 NO.8 表紙、目次およびp952-953

4.Cryptographic Technique for Non-Repudiation Service
Part3 : Non-Repudiation with proof of acceptance service
Source : Japanese national memmber body
Data : September 1988 (p1-21の全21頁)

5.(SC20国内委員会資料) 報告者 宝木(日立) 宮口(NTT)
SC20/WG2会議報告 (p1-3の全3頁)

以下、上記添付書類1乃至5(以下、「証明書面1乃至5」という。なお出願人は、証明書面1乃至3を併せて「証明書面1」、証明書面4および5を併せて「証明書面2」としている)が、特許法第30条第4項の規定を満たしているか否かを検討するに、

2-2.証明書面の適否

2-2-1.証明書面1乃至5が、上記アの要件を満たすかの検討

a)証明書面1
本文内容の概略:証明書面1には、本願発明1乃至4と同等の技術内容が開示されている。
公開日または刊行日:同書類には、同書類の第1頁の右上に手書きと思しき書体で〔88-1-3〕とあるのみで、公開日或いは刊行日に相当する記載は一切ない。
公開方法:証明書面1には、公開場所、公開方法に関する記載は一切ない。
著者:アルファベットで「KAZUO TAKARAGI, RYOICHI SASAKI」と表記されており、本願の発明者と同一であると認める。
発行所等:証明書面1には、発行所、出版社、印刷所などを示す記載はない。

b)証明書面2
その第2行目に「63.8.23 太田(NTT)」とあることから、この議事録が書かれた日付が昭和63年8月23日であり、議事録作成者がNTTの太田氏であることが類推される。
また、同第3行目の「1.日時 昭和63年7月8日(金) 13:30〜16:30」なる記載から、「SC20/WG1・3小委員会」が上記日時で行われたことが読み取れる。
そして、同第3乃至4行目に「3.出席者 中島(KDD)・・・(中略)・・・宝木(日立)」と記載され(以下、「記載3」という)、同第5乃至8行に、
「4.資料
88-1-1 SC20ロンドン会議出席報告
88-1-2 SCドキュメント類
88-1-3 A Practical Fair Protocol for Signing Contract」と記載され(以下、「記載4」という)、
さらに、同第27乃至30行目に「5.5否認拒否(1)宝木氏が、資料(88-1-3)を用いて提案概要を説明した.宝木氏は、次回の専門委員会までに国際会議に持参する寄書案を作成し、各委員にFaxで配送する.各委員は,次回の専門委員会にコメントを持ち寄る.」と記載(以下、「記載5」という)されており、
記載4における「 A Practical Fair Protocol for Signing Contract」と証明書面1の表題とが一致し、記載4および記載5における「(88-1-3)」が、証明書面1に手書きで書き加えられたと思しき「〔88-1-3〕」と一致することから、
証明書面2の目的は、本願の発明者の一人である宝木氏が、昭和63年7月8日に開催された「SC20/WG1・3小委員会」に出席し、そこで、証明書面1を公開したことを証明しようとすること、
および、記載5における「国際会議に持参する寄書案」が、証明書面4および記載7における「Non-repudiationに関する日本の寄書」に対応するものであることを示すことにあると認められる。

c)証明書面3
その第953頁左欄第6乃至7行目に「○7月8日(金)規格役員会,SC20/WG1・3,SC21/WG4,SC23,SSI」と記載され(以下、「記載6」という)、記載6中の「SC20/WG1・3」が、証明書面2の小委員会の名称と一致することから、証明書面3の目的は、情報処理関係の技術者・研究者に広く知られた刊行物「情報処理」を用いて、「SC20/WG1・3小委員会」が、昭和63年7月8日に確かに開催されたことを証明することにあると認められる。

d)証明書面4
本文内容の概略:証明書面4には、証明書面1と同じく、本願発明1乃至4と同等の技術内容が開示されている。
公開日または刊行日:第1頁に「Data : September 1988」という記載がある。
公開方法:証明書面4中には、第1頁の右上に手書きと思しき書体で、
「WG2/N14
(TURIN14)」
と記載され、該記載の次行に、タイプ打と思しき書体で、
「ISO/IEC/JTC1/SC20」と記載され、該記載に引き続いて、手書きと思しき所定で、
「/(判読不能)N(但し、“N”はタイプ打ちに見える)」と記載されているのみで、
本文中に、公開場所、或いは公開方法を指し示す記載は見当たらない。
著者:第1頁に「Source : Japanese National member body」という記載はあるが、証明書面4中には、該書類の著者に関しては、何ら記載されていない。
発行所等:証明書面4には、発行所、出版社、印刷所などを示す記載はない。

e)証明書面5

1.証明書面5の第1頁から、この証明書面5が、報告者を宝木(日立)、宮口(NTT)とする。「SC20/WG2会議」参加の報告書であり、この 「SC20/WG2会議」は、1988年9月14日から同16日にかけて、イタリアのトリノで開催され、日本からの参加者が、上記、宝木(日立)および宮口(NTT)であったことことが読み取れる。 そして、この証明書面5の第1頁に、
2.「資料:SC20/WG2/TURIN1〜TURIN17」
と記載され、この記載中の「SC20/WG2/TURIN」が証明書面4の右上に手書きと思しき書体で記載された、
「WG2/N14
(TURIN14)」
と一部符合すること、および、
同証明書面5の第1頁に、
「(5)Non-repudiation(事後の不当な否認の防止)
Non-repudiationに関する日本の寄書に対し、内容がフレームワーク(SC21の範囲)かメカニズム(SC20の範囲)か何れに属するか明確になっていない」と記載され(以下、「記載7」という)、また、
同証明書面5の第3頁に、
「(4)JTC1の雰囲気は、今年7月のベルリン会議後、一変した、今、Non-repudiationに関する新作業課題の設立提案(正式フォーマット)をJTCに提出するのは(以下略)」と記載され(以下、「記載8」という)、記載7および8中の「Non-repudiation」および「JTC1」が、証明書面4にも含まれていることから、
この証明書面5の目的は、証明書面4が本願の発明者の一人である宝木氏が参加した日本国外で開催された会議にて、1988年9月14日から同16日の間に公開されたことを証明することにあると認められる。

そこで、証明書面1および証明書面2並びに証明書面3から、証明書面1が、昭和63年7月8日(金)に開催された、「SC20/WG1・3小委員会」で公開されたことが示されているかを検討すると、

上記bで示したように、証明書面2から「SC20/WG1・3小委員会」において、本願の発明者の一人である宝木氏が「88-1-3 A Practical Fair Protocol for Signing Contract」という資料を用いて説明を行ったこと、また、証明書面1および証明書面2から前記資料名が証明書面1の表題と同一なことが確認でき、また、上記cで示したように証明書面3から、「SC20/WG1・3小委員会」が昭和63年7月8日に開催されたことが確認でき、そして、証明書面1から証明資料1の著者が本願発明者の宝木氏および佐々木氏であろうことは一応確認できる。
しかしながら、上記aで示したように、
証明書面1には、公開日に関しては何ら記載されていない、
また、証明書面1と証明書面2の資料に記載された「88-1-3 A Practical Fair Protocol for Signing Contract」とは単に表題が同一なだけで、証明書面2にはこの資料「88-1-3 A Practical Fair Protocol for Signing Contract」の内容に関しては何ら記載されていない、
さらに、、証明書面1の他の箇所が全てタイプ打ち、あるいはそれに類した活字を用いて印刷されたものであるのに対して、証明書面1に記載された「〔88-1-3〕」は上記aでも指摘したように、手書きと思しき書体で記載されていて、この「〔88-1-3〕」という記載が、どの時点で記載されたものか、証明書面1からは確認することはできない、
以上のことから、証明書面2に示された「SC20/WG1・3小委員会」において、宝木氏に用いた資料(88-1-3)が証明書面1と同一のものであることを、証明書面1および証明書面2並びに証明書面3から確認することはできない。

次に、証明書面2および証明書面4並びに証明書面5から、証明書面4の著者が発明者と同一であり、かつ、この証明書面4がイタリアのトリノで開催された 「SC20/WG2会議」で公開されたことが示されているかを検討すると、

上記bの記載5における「寄書案」と、上記eの記載7における「Non-repudiationに関する日本の寄書」では、共に「寄書」という用語を用いてはいるが、
証明書面1乃至5において、証明書面2における「寄書案」と証明書面5における「Non-repudiationに関する日本の寄書」とが同一であることを示す記述は見当たらず、また、証明書面1乃至5の内容から類推したとしても、上記「寄書案」と「Non-repudiationに関する日本の寄書」とが同一であることを確認することはできない。
また、記載5における「Non-repudiationに関する日本の寄書」中の「Non-repudiation」という用語が証明書面4にも用いられているが、証明書面5には「Non-repudiationに関する日本の寄書」の内容に関しては何ら記載されておらず、単に同一の用語が用いられているだけで、証明書面5における「Non-repudiationに関する日本の寄書」が、証明書面4であることを、証明書面1乃至5から確認することはできない。

2-2-1のb.公開場所に関して

上記2-2-1で検討したように、証明書面2および3並びに5は、
証明書面1が「昭和63年7月8日に開催された「SC20/WG1・3小委員会」」で公開されたこと、および、
証明書面4が「1988年9月14日から同16日にかけて、イタリアのトリノで開催された「SC20/WG2会議」」で公開されたことを証明しようとするものであるが、
この「SC20/WG1・3小委員会」と「SC20/WG2会議」は、共に、「SC20」に関連する会議であり、「SC20」とは、“国際標準機構(ISO)において、暗号関連技術の規格化ないしは標準化を検討する組織”であることから、これらの会議が、「発明者による試験」および「特許庁長官の指定する学術団体が開催する研究集会」あるいは「博覧会」の類に属さないことは明らかである。

2-2-2.証明書面1乃至5が、上記イの要件を満たすかの検討

2-2-2のa.証明書面1に関して

証明書面1には、上記aで指摘したように、発行日あるいは刊行日に相当する記載はない。従って、証明書面1が、本願の出願日前6ヶ月以内に公開あるいは刊行されたものであることを証明書面1から確認することはできない。
また、証明書面2によって、証明書面1の公開日あるいは刊行日を証明することができないことは上述したとおりである。

2-2-2のb.証明書面4に関して
上記eで示したように、証明書面4には、著者に相当する記載はなく、また、証明書面1乃至5の内容からは、証明書面4の著者が、本願の2人の発明者であることを確認することはできない。

以上、2-1乃至2-2で検討したように、証明書面1乃至5は、上記アおよびイに示した、本願が特許法第30条第1項の規定の適用を受けるために必要な、特許法第30条第4項に規定された証明書面が満たすべき要件を満たしていない。

したがって、本願は、特許法第30条の新規制喪失の例外規定の適用を受けることができない。

なお、審判請求人は、審判請求時に、追加の証明書面を添付しているが、特許法第30条第1項の規定の適用を受けようとするための証明書面は出願後30日以内に提出しなければならないものであるから、この追加の証明書面をもって特許法第30条第1項の規定の適用を受けようとする申請が完備したことにはならない。
また、新たに添付された証明書は、昭和63年7月8日に宝木氏が資料「88-1-3 A Practical Fair Protocol for Signing Contract」を用いて説明したことを証明するに止まり、この資料「88-1-3 A Practical Fair Protocol for Signing Contract」と証明書面1とが確かに同一のものであることを証明するものではない。


3.本願に添付された上記証明書面の公知性

3-1.証明書面1に関して、

上記証明書面1についての公知性は、上記2-2-1および2-2-2のaで検討したとおり。

3-2.証明書面4に関して、

上記証明書面4の公知性に関して、審判請求人は平成14年4月8日付の意見書において、以下のように主張すると共に、同日付で手続補足書としてISO/IEC Joint Technical Comitiee1のDirectivesのpdfファイルの紙出力を提出している。

「2.2.意見の内容
以下、証明書面について、意見を再度申し述べる。
2.2.1.証明書面4についての従来の主張
本審判請求人は、平成13年8月1日付の補正書、および、平成12年1月31日付けの意見書において、上記証明書面4の公開性、情報性および頒布性について、以下のように主張した。ただし、以下の引用における「証明書面2?1」とは上記証明書面4に相当する。
「・公開性、情報性および頒布性について
当該SC20/WG2は、情報技術に関する国際規格の審議及びこれに関する調査研究、審議などを目的とするものである。さらに、出席者に守秘義務はなく、また、配布した資料を秘密にしておく義務もない。限定出版物であったとしても学会誌と同様に扱われるべきものである。
すなわち、証明書面2?1は公開性、情報性を有することは明らかである。したがって、頒布性をも有する。」
2.2.2.証明書面4の種類
を参照すれば、証明書面4の第1頁に記載されている「WG2/N14」「ISO/IEC/JTC1/SC20/〜N」は、証明書面4がWorking Documents、より具体的には寄書(contribution)であることを示していることがわかる。寄書とは、memberが規格のための様々な研究報告、意見、提案等を行うためのものである。
本審判請求人による再検討においても、証明書面4は、ISO/IEC/JTC1/SC20においてJapanese national member bodyが「Non- Repudiation(否認不可)技術」に係わる技術的な提案を行ったものであり、上記寄書(contribution)に相当すると判断する。
2.2.3.文書の取り扱い方法
同じく参考文献の107頁の「H7 Access Control to JTC 1 documents」の項と、109頁〜111頁の「Annex HD」の「Document Access Classification List」、「Action Identifiers」、「Acceptable Forms of Document Distribution」とその注釈の各項は、各種資料の配付、資料へのアクセスについて言及している。
具体的には、「H7.1 Open and restricted documents」の項には、「ISO, IEC and JTC 1 policies require that while some information be publicly available, other information must be kept private to defined recipients. Document availability is defined in Annex HD」とあり、「Annex HD」の注釈には、「ISO/TC/SC working documents are not intended for free distribution outside the ISO system as defined above.」と記されている。
さらに、「Annex HD Document Access Classification List」には、各国からの参加者(National member body)による寄書(contribution)を含むProject-related Documents、すなわちISO/TC/SC working documentsについては、自由な配布を意図せず、アクセスをISO関係者に限定することが示されている。
2.2.4.証明書面4についての判断
前項で引用した現状の規定とworking document(より具体的には寄書(contribution))という証明書面4の種類とその内容について本審判請求人が再検討した結果、証明書面4はその当時も配布が限定された文書であり、かつ、その内容は提案段階にあるもので不特定多数の人に公開されてよいものではなく、したがってISO/IEC/JTC1/SC20において証明書面4を受け取った者はその内容に関して少なくとも暗黙の守秘義務を負っていたと思料する。すなわち、証明書面4は公開性、情報性、頒布性を持たない秘密性のある文書であって、特許法に規定される「刊行物」ではなかったと判断する。
以上の通り、本審判請求人が申し述べてきた「証明書面4は刊行物である」という平成12年1月31日付け意見書と平成13年8月1日補正書での主張は、本審判請求人の検討不足に基づいたものであるから、改めて「証明書面4は刊行物ではない」と主張する。
また、当該証明書面4が刊行物であることを否定する材料はないとのご認定であるが、証明書面4が刊行物であることを肯定する根拠も示されていないので、証明書面4は、その第1頁に発行日あるいは刊行日に該当する記載が存在したとしても、刊行物ではなかったと判断する。」

そこで、上記審判請求人の主張について検討する。

3-2-1.手続補足書に関して、

上記手続補足書として提出された文献の出典として、審判請求人が意見書において示している上記URLについて調査すると、
確かに、上記URLからDirectivesのPDFファイルがzip圧縮形式で取得可能であり、取得したPDFファイルの内容は、審判請求人が手続補足書として提出した文献と同一である。
そして、上記URLに対応するWEBサイトは、ISO(the International Organization for Standardization)およびIEC(the International Electrotechnical Commission)共同の技術に関する委員会であるISO/IEC JTC1のホームページであることから、上記文献は国際的に認証された文献であり、その記載内容の信憑性に問題はない。
但し、前記PDFファイルの最終更新日は1999年9月23日であり、前記ファイルの更新履歴や、前記ファイルの以前のバージョンに対応するファイルを前記WEBサイトから取得することはできなかった。
以降、当審がISO/IEC JTC1のホームページから取得した、審判請求人が手続補足書として提出した文献と同一の内容を有するPDFファイルを「参考資料」として検討を行う。

3-2-2.証明書面4の公知性に関して、

そこで、上記「参考資料」を参照して、証明書面4が公開を目的として頒布された文書、あるいは刊行物と呼べるものであるかについて検討する。

証明書面4は、上記2-2-1のdでも指摘したように、その右上にタイプ打ちと思しき書体で「ISO/IEC/JTC1/SC20」と記載されている。

この点に関して、「参考資料」を参照すると、「参考資料」には、
「8.2 JTC1のワーキング・ドキュメントの番号付与の規則
・・・・(中略)・・・・
8.2.3 参照番号は、文字Nで2つの部分に分割して作成される:
・ JTC1と、そのワーキング・ドキュメントが属する、適切な、分科会或いは作業部会
・ 全体的な通し番号
それ故、JTC1に関係するワーキング・ドキュメントのための、参照番号は次のように作成する。
ISO/IEC JTC1 Nn
Date
そして、分科会に関係するワーキング・ドキュメントについては、次のように作成する。
ISO/IEC JTC1/SCaNn
Date
ここで、aは分科会の番号を、nは全体的な通し番号を表す。
作業部会に関するワーキング・ドキュメントについては、次のように作成する。
ISO/IEC JTC1/SCa/WGbNn
Date
ここで、aおよびbは分科会および作業部会、それぞれの番号を表し、nは全体的な通し番号を表している。」(第30頁右欄第10行乃至第31頁左欄第13行より訳出)と記載され、
この「参考資料」の記載内容と、証明書面4の上記記載とを比較することによって、
証明書面4が、ISO/IEC JTC1の分科会であるSC20に関係するワーキング・ドキュメントであることが読み取れる。

また、証明書面4には、上記2-2-1のdで指摘したように、
その第1頁に、
「Source : Japanese National member body」と記載されていて、
この記載から、証明書面4がメンバー国である日本の組織体によるものであると読み取れる。

この点に関して「参考資料」を参照すると、「参考資料」には、
「Contribution(寄稿文書)はJTC1あるいはその下部組織に、メンバーの何れからも、或いは、何れかの下部組織の直接的な報告としても提出され得る。」(第27頁右欄第26乃至29行より訳出)、
と記載されていて、メンバーが提出したドキュメントは、Contribution(寄稿文書)として扱われることが示されている。

以上の点から、「参考資料」より証明書面4は、「ISO/IEC JTC1の分科会であるSC20に関係する日本からのContribution(寄稿文書)」であると解することができる。

次に、ISO/IEC JTC1におけるContribution(寄稿文書)の取り扱いについて、「参考資料」を参照すると、その第107頁に、
「H7 JTC1文書へのアクセス制限
H7.1 公開および制限された文書
ISO,IECそしてJTC1の方策においては、いくつかの情報が公に使用可能とされる一方で、他の情報は限定された受容者のために秘密を維持しなければならないことを要求する。文書の使用可能性については、付属書類HDに定義する。」(第107頁第13乃至16行より訳出)と記載されている。
そして、「参考資料」の第109乃至111頁に記載された「付属書類HD」は「文書入手分類表(Document Access Classification List)」(以下、「表1」という)、「用途の識別(Action Identifier)」(以下、「表2」という)および「文書配布の好ましい形態(Acceptable Forms of Distribution)」(以下、「表3」という)の3つの表から構成され、表1は、「文書の分類/タイプ(Document Classification/Type)」、「用途の識別(Action Identifier)」および「文書配布の好ましい形態(Acceptable Forms of Distribution)」の3つの項目からなり、表2は、表1の「用途の識別」の項目に記載された記号の解説を示した表、表3は、表1の「文書配布の好ましい形態」の項目に記載された記号の解説を示した表となっている。
この「付属書類HD」でContribution(寄稿文書)の扱いを参照すると、表1の一部分である第110頁の表の「文書の分類/タイプ」の項の第13乃至15欄に「National Body Contribution」、「Officer’s Contribution」および「Liaison Organization Contribution」と記載され、これらContribution(寄稿文書)の「配布の形態」を表1の「文書配布の好ましい形態」の項で確認すると、全て「P,Def」と記載されている。
次に、この「P,Def」の意味について表3を参照すると、
「P」とは「Paper」即ち「紙による配布」を意味し、
「Def」とは「Defined-access FTP or WWW site(access limited to participants in the ISO system)」即ち「FTPあるいはWWWサイトへの制限されたアクセス(ISO組織内の参加者に限定されたアクセス)」を意味することが記載されている。
そして、以上参照してきた「参考資料」の最終更新日が上記したように「1999年9月23日」であることから、
「参考資料」から、Contribution(寄稿文書)は1999年9月23日の時点以降は、ネットワーク経由のアクセスに関しては制限がかけられていたことは明らかである。
更に、JTC1のドキュメントの配布に関しては、「参考資料」の第111頁に、
「ISO/TC/SCのワーキング・ドキュメントは上記制限のように、ISO組織の外部へ自由に配布することを意図していない。」(第111頁*以降の記載の第9乃至10行より訳出)と記載されていることから、
「紙」による配布に際しても制限がかけられているものと解されるので、
よって、「参考資料」より、Contribution(寄稿文書)は1999年9月23日の時点以降は、配布に制限かけられた非公開の文書であるものと解される。
ここで、ISO(the International Organization for Standardization)およびIEC(the International Electrotechnical Commission)共同の技術に関する委員会であるISO/IEC JTC1は情報技術等に関する国際規格の標準化を行う委員会であるから、そこで配布される文書に関するアクセス制限に関する扱いが、「参考資料」に明文の記載がない以上、1999年9月23日以前と以後で異なるとは考え難い。
したがって、1999年9月23日以前の時点であっても、Contribution(寄稿文書)は、配布に制限のかけられた非公開の文書であるものと解される。

以上検討したように、「参考資料」より「証明書面4」が 、ISO/IEC JTC1の分科会であるSC20に関係する、メンバー国である日本の組織体からのContribution(寄稿文書)であることが読み取れ、
Contribution(寄稿文書)は、配布に制限かけられた非公開の文書であるものとのと解され、
加えて、ISO/IEC JTC1のホームページからは、ISO/IEC/JTC1/SC20に関する情報は何ら公開されていないことから、
「証明書面4」は、配布に制限のかけられた非公開の文書と解され、
また、職権探知によっても、他に、「証明書面4」を公開したという証拠も得られないので、
審判請求人が意見書において、「「証明書面4」は刊行物である」あるいは「「証明書面4」は刊行物でない」との何れの主張をするにしても、「参考資料」およびISO/IEC JTC1のホームページから得られる情報ならびに職権探知の結果より、
「証明書面4」は刊行物とは言えない。


4.引用刊行物記載の発明

一方、当審が平成14年5月27日付けで通知した拒絶の理由で引用した「宝木和夫、白石高義、佐々木良一「ICカード利用の電子取引用認証方式」電気学会論文誌C、Vol.107-C No.1 1987年1月,p.46-53」(以下、「引用刊行物1」という)には次の事項が記載されている。

a.「〔認証プロトコル基本手順〕
〔ステップ1〕Aは通信文mを作成し、Bに送る(UA-1,TA-1)。
〔ステップ2〕Bは通信文に対し、Bの復号鍵sBを用いてBの電子割印WB’=E(c1(m),sB)を作成し、WB’をAに送る。ここに,c1(m)は,mのハッシュ・トータルに時刻,通し番号,名前等の取引状況を表すデータをつなげたものである。ただし,c1(m)は取引が成立するための正式な形式は満足しないものである。また、E(c1(m),sB」は非対称暗号鍵において,鍵sBを用いてデータc1(m)を暗号化して得られる暗号データである。(UB-1,TB-1)。
〔ステップ3〕Aは,Bの電子割印WB’に対し,Bの復号鍵pBを用いて,復号データvB=D(WB’,pB)を作成し,c1(m)=vBになることを確認した後,Bは信用できるか否かに応じて次の動作を行う。つまり,もし,Bが信用できなければ,Aはセンターに対し,Bの電子割印WB’の有効性を問い合わせる。もし,Bが信用できれば,センターに問い合わせる必要はない。(TA-2〜TA-6,Sc-1)。
〔ステップ4〕Aの電子捺印WA=E(c2(m),sA)をBに送る。また,c2(m)はmのハッシュトータルに時刻,通し番号,名前などの取引情報を表すデータを結合したものであり,取引が成立するための正式な開式を満足するものである(TA-7)。
〔ステップ5〕Bは,Aの電子捺印WAに対し,Aの復号鍵pAを用いて,復号データvB’=D(WB,pB)を作成し,c2(m)=vB’になることを確認する。ここに,D(WB,pB)は,非対称鍵暗号において,鍵pBを用いてデータWBを復号して得られるデータである。確認できれば,Bの電子捺印WB=E(c2(m),sB)をAに送ると共に,Aの電子捺印WA,Bの電子捺印WB,および,通信文mを格納する。(TB-4〜TB-8)
〔ステップ6〕Aは,Bの電子捺印WBに対し,Bの復号鍵pBを用いて,復号データvA’=D(wA,pA)を作成し,c2(m)=vA’になることを確認する。確認できれば,Aの電子捺印WA,Bの電子捺印WB,および,通信文mを格納する。(TA-10〜TA-13)。」(第49頁左欄第10行乃至右欄4行より引用)


5.本願発明と引用刊行物に記載の発明との対比

そこで、本願発明1と引用刊行物1に記載の発明(以下、「引用発明1」という)とを対比すると、

引用発明1における「通信文m」、「Bの電子割印」、「mのハッシュトータル」、「Aの電子捺印」および「Bの電子捺印」がそれぞれ、本願発明1における「取引文書」、「取引者Bの予備的なディジタル署名」、「特定情報」、「取引者Aの正式なディジタル署名」および「取引者Bの正式なディジタル署名」に対応していることから、

本願発明1と引用発明1とは、

取引者装置Aの使用者である取引者Aにより作成され、取引者装置Bの使用者である取引者Bとの間で取引される取引文書に係るディジタル署名を交換する署名交換方法に於いて、
前記取引者装置Bは、
ハッシュ関数を用いて前記取引文書を変換した特定情報から、前記取引者Bの秘密鍵を用いた前記取引者Bの予備のディジタル署名を前記取引者Aへ送信し、
前記取引者Aは、
前記取引者Bの前記予備のディジタル署名を検証し、
前記検証にて、前記取引者Bの前記予備のディジタル署名が正しいことを確認した場合に、ハッシュ関数を用いて前記取引文書を変換した特定情報から、前記取引者Aの秘密鍵を用いた前記取引者Aの正式なディジタル署名を生成し、
前記取引者Aは前記正式なディジタル署名を前記取引者装置Bへ送信し、
前記取引者装置Bは、
取引者Aの前記正式なディジタル署名を検証し、
前記検証にて、前記取引者Aの正式なディジタル署名が正しいことを確認した場合に、ハッシュ関数を用いて前記取引文書を変換した特定情報から、前記取引者Bの秘密鍵を用いた前記取引者Bの正式なディジタル署名を生成し、
前記取引者Bの前記正式なディジタル署名を前記取引者装置Aへ送信し、
前記取引者装置Aは、
前記取引者Bの前記正式なディジタル署名を検証することを特徴とする署名交換方法
である点で一致し、

本願発明1においては、「取引者装置Bは、取引文書を取引者Bが了承したかどうかを判定」しているのに対して、
引用発明1においては、「取引者装置B」において、取引者Bにより取引文書の了承の確認を行うことは言及されていない点。(相違点1)、

本願発明1においては、予備あるいは正式な署名を生成する際に、「予備の署名であることを示す第1の記号」および「正式な署名であることを示す第2の記号」を「特定情報」と組み合わせたものを用いているのに対して、
引用発明1においては、「第1の記号」および「第2の記号」を用いずに「予備の署名」か「正式な署名」かの識別を行っている点(相違点2)、

本願発明1においては、取引者Bの予備のディジタル署名、取引者Aの正式なディジタル署名および取引者Bの正式なディジタル署名を作成する際に、”同一のハッシュ関数を用いて取引文書を変換した特定情報”を用いているのに対して、
引用発明1においては、同一のハッシュ関数を用いる点は言及されていない点(相違点3)、
で、相違している。


6.相違点についての判断

6-1.相違点1および2に関して、

「取引者装置B」において、「取引者B」が「取引文書」を「了承したかどうかを判定」する点、および、
「予備のディジタル署名」、または、「正式なディジタル署名」を生成する際に、どちらの署名であるかを示す「第1の記号」および「第2の記号」を用いて識別するように構成することは当業者が適宜行い得る程度の事項である。

6-2.相違点3に関して、

「予備のディジタル署名」および「正式なディジタル署名」を生成する場合に、同一の「ハッシュ関数」を用いて「取引文書を変換」する点は、引用文献1に記載されておらず、また、示唆をもされていない。
また、先行技術文献中に「予備のディジタル署名」と「正式なディジタル署名」を作成する際に、同一の「ハッシュ関数」を用いることを示唆した文献は見出せず、
当該技術分野の技術常識から見て、同一の「ハッシュ関数」を用いることが自明な事項であるとも認められない。
よって、本願発明1は、引用発明1および当該技術分野の周知技術から容易に導き出せないものである。


7.本願発明2乃至7と引用発明1との対比および判断

本願発明2乃至7に関する何れの構成も、引用発明1には言及されておらず、また、
これら発明は当業者にとって自明の構成とは認められず、これらの発明を拒絶するに足る先行技術文献も見出せない。


8.むすび

以上のとおりであり、本願発明は、その出願前日本国内において公然知られた発明であったとすることはできないので、本願発明は特許法第29条1項1号に該当し、特許を受けることができないとした原審の判断は妥当でない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2002-08-06 
出願番号 特願昭63-323295
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G09C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中里 裕正  
特許庁審判長 馬場 清
特許庁審判官 石井 茂和
長島 孝志
発明の名称 署名交換方法  
代理人 作田 康夫  

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