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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する B29C
審判 訂正 発明同一 訂正する B29C
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B29C
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B29C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B29C
管理番号 1072428
審判番号 訂正2002-39222  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-12-02 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-10-17 
確定日 2002-12-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2891987号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2891987号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の訂正の要旨は、特許第第2891987号発明(平成10年3月13日特許出願、平成11年2月26日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、下記(a)ないし(g)のとおり訂正することを求めるものである。
(a)特許請求の範囲の【請求項】1行の「上端がほぼ正方形に開口したコップ形状」を「ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁から立ち上がって前記上端開口部の周縁に到る側部とを備え、前記上端開口部の周縁の四隅部にのみ鍔部が形成されたコップ形状」と訂正する。
(b)特許請求の範囲の【請求項1】3〜4行の「上端開口部のそれぞれの隣接対向辺に」を、「上端開口部の前記四隅部を除く周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に」と訂正する。
(c)特許明細書の段落番号【0015】1行の「上端開口部2a」を「上端開口部2b」と訂正する。
(d)同書の【符号の説明】の欄における上端開口部の符号「2a」を「2b」と訂正する。
(e)同書の段落番号【0015】3行の「鍔部6」を「鍔部4」と訂正する。
(f)同書の段落番号【0008】3行の「上端がほぼ正方形に開口したコップ形状」を「ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁から立ち上がって前記上端開口部の周縁に到る側部とを備え、前記上端開口部の周縁の四隅部にのみ鍔部が形成されたコップ形状」と訂正する。
(g)同書の段落番号【0008】5行の「上端開口部のそれぞれの隣接対向辺に」を、「上端開口部の前記四隅部を除く周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に」と訂正する。

2.当審の判断
そこで、これらの訂正事項について検討する。
(2-1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項(a)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された個々の「育苗ポット」の形態を「上端がほぼ正方形に開口したコップ形状」を有するものから「ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁から立ち上がって前記上端開口部の周縁に到る側部とを備え、前記上端開口部の周縁の四隅部にのみ鍔部が形成されたコップ形状」を有するものに限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書の段落番号【0012】、【0015】、【図2】及び【図3】の記載内容を根拠とするものである。
すなわち、特許明細書の段落番号【0012】に「この樹脂成形体1の各育苗ポット2は、図2(a)(b)に示すように上端がほぼ正方形に開口したコップ形状を有し、例えば、底部2aが円形、上端開口部2bがほぼ正方形で、その間の側部2cは円形の底部周縁から立ち上がった直後からほぼ正方形となっている。」、「尚、育苗ポット2の形状はこれに限らず、円形の底部周3縁から若干立ち上がった部位まで円形でそこから上端開口部周縁までほぼ正方形をなすものであってもよい。」と記載され、段落番号【0015】に「尚、この育苗ポット用樹脂成形体1の各育苗ポット2の上端開口部2aには、図2(a)及び図3(a)に示すようにその周縁四隅部に鍔部4を形成することにより育苗ポット2の変形を防止する補強機能を具備し」と記載されている。さらに、【図2】及び【図3】に、ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部(2b)と、底部(2a)と、底部(2a)の周縁から立ち上がって前記上端開口部(2b)の周縁に到る側部(2c)とを備え、前記上端開口部(2b)の周縁の四隅部にのみ鍔部(4)が形成されたコップ形状を有する育苗ポット(2)が明りように記載されている。
上記訂正事項(b)は、特許請求の範囲の請求項1における「隣接対向辺」を上端開口部の「前記四隅部を除く周縁を構成する」ものに限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書の段落番号【0013】、【0015】、【図1】及び【図2】の記載内容を根拠とするものである。
すなわち、特許明細書の段落番号【0013】に「この樹脂成形体1における各育苗ポット2の連接状態は以下のとおりである。相互に隣接する育苗ポット2の上端開口部2bのそれぞれの隣接対向辺2dに連接部3を一体的に形成する」と記載され、段落番号【0015】に「尚、この育苗ポット用樹脂成形体1の各育苗ポット2の上端開口部2aには、図2(a)及び図3(a)に示すようにその周縁四隅部に鍔部4を形成することにより育苗ポット2の変形を防止する補強機能を具備し」と記載されている。さらに、【図1】及び【図2】、特に拡大図である図2(a)(b)に、相互に隣接する育苗ポット(2)の隣接対向辺(2d)が、上端開口部(2b)の周縁のうち、鍔部(4)が形成された四隅部を除く周縁を構成し、そのような隣接対向辺(2d)に連接部(3)が一体的に形成されていることが明りように記載されている。
上記訂正事項(c)ないし(e)は、誤記の訂正を目的とするものである。
上記訂正事項(f)及び(g)は、上記訂正事項(a)及び(b)の訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明とを整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項(a)ないし(g)は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2-2)独立特許要件
次に、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か検討する。
訂正後の本件の請求項1に係る発明(以下、本件発明1という。)は次のとおりである。
「ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁から立ち上がって前記上端開口部の周縁に到る側部とを備え、前記上端開口部の周縁の四隅部にのみ鍔部が形成されたコップ形状かつ、所定の樹脂材料を主成分とした複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の前記四隅部を除く周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連接部を一体的に形成し、各育苗ポットに土壌を収容した状態で所望の育苗ポットを、隣接する他の育苗ポットから引き千切ることにより前記連接部を破断可能としたことを特徴とする育苗ポット用樹脂成形体。」
これに対して、本件発明1の出願日前に出願され当該出願後に出願公開されたものの願書(特願平9ー20674号)に最初に添付された明細書又は図面(特開平10ー215689号公報、以下、先願明細書という。)には、次のことが記載されている。
「【0007】本発明は、上記に鑑みてなしたものであり、野菜や花き等の植物苗を育苗するのに使用する育苗用ポットとして、土入れのための土詰め器へのセット作業や置床等の際の取扱いを容易にし、その作業の省力化および能率向上を図ることを目的とする。」、
「【0013】【作用】上記の本発明の育苗用ポットによれば、複数のポットが側壁上端に有する連結耳部同士の連結部で分離可能に連結されているので、必要な個数をワンタッチでアンダートレイや籠トレイ等に収容セットできて、土詰め器に容易に並べることができ、ポット1鉢ずつを並べてセットしていた従来に比して、数十倍の高能率で作業できる。」、
「【0014】またこの育苗用ポットは、各ポットの側壁上端に連結耳部があってこれが一種の補強縁としての役目を果すことと、複数のポット同士が連結耳部で連結されていて側壁の折れ曲りを相互に規制するように作用することとが相まって、形態保持性が高く、従来法のようにアンダートレイや籠トレイ等を用いなくても、土入れ時にポットの腰折れが生じるおそれはない。」、
「【0015】しかも、育苗土充填後あるいは育苗後に、各ポット毎に分離する場合には、前記の連結耳部同士の連結部を引き裂くようにすれば、薄肉に形成されていることもあって、容易に分離できる。」、
「【0019】図に示すように、本発明に係る連結形の育苗用ポット(A)は、全体がポリエチレンや塩化ビニル樹脂等の合成樹脂により比較的薄肉に型形成されてなり、上方ほど径大のテーパ状をなしかつ上端開口縁(2)で終端する筒状の側壁(3)と、該側壁(3)の下端に連接されかつ1もしくは複数の排水孔(4)を有する底壁(5)とにより単一の鉢体形状をなすポット(1)が形成されるとともに、該ポット(1)の複数体が縦横それぞれ複数列をなすように並列して連結されている。」、
「【0020】その連結形態として、各ポット(1)の側壁(3)の上端開口縁(2)に僅かに外方への張出し状をなす連結耳部(6)を有し、隣接するポット(1)(1)同士が前記連結耳部(6)(6)の部分で分離可能に連結成形されている。(7)はその連結部を示す。図の場合、前記の各連結部(7)が同一平面内にあって、全体としてトレイ形をなしている。」、
「【0021】前記各ポット(1)の連結耳部(6)は、テーパ状をなす側壁(3)に対して交差角度(θ)が90°〜105°の角度で外方に延出しており、各ポット毎の単体に分離した状態での保形性および体裁や取扱い易さを考慮して、その幅は通常1〜5mmの範囲に設定される。」、
「【0022】また前記の連結耳部(6)(6)同士の連結部(7)としては、隣接するポット(1)(1)の連結耳部(6)(6)同士を引き裂き分離可能に連結できるものであれば、その位置や数および形状はどのようなものであってもよい。例えば、連結耳部(6)の各辺の1個所で連結するほか、間隔をおいて複数個所で連結することができる。」、
「【0029】例えば、特殊形態の保持トレイや籠トレイ等の土詰め器を用いて各ポット(1)に育苗土を充填する場合に、必要な個数のポット(1)を仕切り目空間を有する土詰め器にワンタッチで収容セットすることができ、土詰め器に容易に並べることができるもので、ポット1個ずつを並べていた従来方式に比して、数十倍の高能率で土詰め作業を行なうことができる。」、
「【0032】そして、育苗土の充填後あるいは育苗後の出荷の際に各ポット(1)毎に分離する場合、前記の連結耳部(6)(6)同士の連結部(7)の個所を引き裂くようにすれば、容易に分離することができる。」。
したがって、先願明細書には、「ほぼ正方形に開口した上端の上端開口縁2と、底壁5と、底壁5の周縁と上端開口縁2の周縁との間の側壁3とを備え、かつ、複数個の各ポット1を縦横方向に整列させて平面配置したもので、各ポット1が上端開口縁2に外方への張出し状をなす連結耳部6を有し、該連結耳部6に連結部7を設けて、隣接する各ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連結部7を形成し、各ポット1に土壌を収容した状態で所望のポット1を、隣接する他のポット1から引き千切ることにより前記連結部7を破断可能とした育苗用ポットA」の発明が記載されていると認められる。

本件発明1と、先願明細書記載の発明(以下、先願発明という。)とを対比すると、先願発明の「各ポット1」、「上端開口縁2」、「底壁5」、「側壁3」、「育苗用ポットA」が、本件発明1の「複数個の育苗ポット」、「上端開口部」、「底部」、「側部」、「育苗ポット用樹脂成形体」に、それぞれ相当し、先願発明の「連結部7」と本件発明1の「連設部」とは、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結し、隣接する他の育苗ポットから引き千切ることにより破断可能とした「連設部分」で共通し、先願発明は「全体がポリエチレンや塩化ビニル樹脂等の合成樹脂により比較的薄肉に型形成されて」(【0019】)いることから、本件発明1と同様に「所定の樹脂材料を主成分とした」ということができ、
両者は、ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁から立ち上がって前記上端開口部の周縁に到る側部とを備えたコップ形状を有し、かつ、所定の樹脂材料を主成分とした複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する「連接部分」を一体的に形成し、各育苗ポットに土壌を収容した状態で所望の育苗ポットを、隣接する他の育苗ポットから引き千切ることにより前記「連接部分」を破断可能とした育苗ポット用樹脂成形体である点で一致し、
育苗ポット用樹脂成形体が、本件発明1は、前記上端開口部の周縁の四隅部にのみ鍔部が形成されたコップ形状を有すると共に、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の前記四隅部を除く周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連接部を一体的に形成したのに対し、先願発明は、複数個の育苗ポット(各ポット1)が上端開口部(上端開口縁2)の全周縁に外方への張出し状をなす連結耳部6を有し、複数個の育苗ポット(各ポット1)の側部(側壁3)の上端開口部(上端開口縁2)に外方への張出し状をなす連結耳部6を連結する連結部7を一体的に形成したものである点で相違する。
すなわち、本件発明1の「連設部分」は、上端開口部の鍔部を有しない周縁を構成する隣接対向辺同士を一体的に形成した連設部からなるのに対し、先願発明の「連設部分」は、上端開口部(上端開口縁2)の全周縁に外方への張出し状をなす鍔部(連結耳部6)同士を連結する連結部7からなる点で相違する。
そして、この相違点の本件発明1に係る構成は、本件出願前に頒布された特開平4-173024号公報、特開平7-203776号公報、実願昭53-98637号(実開昭55-14482号)のマイクロフィルム等にも記載されておらず、本件特許の出願前に周知又は慣用のものではない。
したがって、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一ではなく、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
また、他に本件発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができないものとする理由を発見しない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、且つ同条第2項ないし第4項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
育苗ポット用樹脂成形体及びその製造装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁から立ち上がって前記上端開口部の周縁に到る側部とを備え、前記上端開口部の周縁の四隅部にのみ鍔部が形成されたコップ形状を有し、かつ、所定の樹脂材料を主成分とした複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の前記四隅部を除く周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連接部を一体的に形成し、各育苗ポットに土壌を収容した状態で所望の育苗ポットを、隣接する他の育苗ポットから引き千切ることにより前記連接部を破断可能としたことを特徴とする育苗ポット用樹脂成形体。
【請求項2】 上端がほぼ正方形に開口したコップ形状を有し、かつ、所定の樹脂材料を主成分とした複数個の育苗ポットが真空成形により連続的に形成されたシート材をその一部を残して各育苗ポットごとに切断する装置であって、前記育苗ポットと対応させて開口した複数個の筒状切断刃を並べて平面配置し、相互に隣接する前記切断刃の隣接対向辺を、その対向面を研磨加工により折り返し面の除去で完全平坦面として密着状態で衝合し、その尖端状の両刃が形成された一枚刃の隣接対向辺の一部を切り欠いて各育苗ポットを連接するための微小な幅寸法を持つ逃げを形成した刃体を具備したことを特徴とする育苗ポット用樹脂成形体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は育苗ポット用樹脂成形体及びその製造装置に関し、詳しくは、植物の種苗を生育させるために使用する簡易な育苗ポットを多数個連設した樹脂成形体、及びその樹脂成形体をシート材から製作するための製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、植物の種から発芽した苗を生育させる場合、上端が開口した円形コップ状の樹脂成形体からなる育苗ポットと通称される簡易容器を使用し、その育苗ポット内の土壌に苗を植え付けるようにしている。
【0003】
一方、この種の育苗ポットは、ブロー成形により製作されたものであるので薄く非常に柔軟で変形しやすいため、土壌を入れたり、運搬したりする取り扱いが難しい。そのため、多数個の育苗ポットを一括して収納する枠状ケースを使用するようにしているのが一般的である。この枠状ケースは、硬質樹脂製のもので、育苗ポットの形状に合わせて縦横方向に仕切られた多数個の凹部を具備し、各凹部に育苗ポットが収納されて支持される。
【0004】
この種の枠状ケースに多数個の育苗ポットを収納するに際しては、育苗ポットがブロー成形により製作されるために多数個の育苗ポットを積み重ねた状態からその育苗ポットを作業者が一つ一つ抜き取ることになる。作業者は、積み重ねられた多数個の育苗ポットから一つ一つ抜き取りながら、それぞれの育苗ポットを枠状ケースの凹部に挿入する。尚、このようにして枠状ケース内に育苗ポットを収納した上で、各育苗ポット内に土壌及び苗等を供給することになる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、作業者が育苗ポットを枠状ケース内に収納するに際しては、積み重ねられた多数個の育苗ポットから一つ一つ抜き取らなければならない。一方、前述したように育苗ポットはブロー成形により製作され、薄く非常に柔軟で変形しやすいものであるため、積み重ねられた状態の育苗ポットが密着しやすく、その結果、育苗ポットを一つずつ抜き取ることが困難となり、二個取りや三個取りが発生してスムーズな作業が難しくなる。
【0006】
また、作業者は育苗ポットを枠状ケースに一つずつ挿入しなければならず、作業時間がかかって作業効率が非常に悪いという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、育苗ポットを枠状ケースにスムーズに挿入でき、その作業時間の短縮化を容易に実現し得る育苗ポット用樹脂成形体及びその製造装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための技術的手段として、本発明の育苗ポット用樹脂成形体は、ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁から立ち上がって前記上端開口部の周縁に到る側部とを備え、前記上端開口部の周縁の四隅部にのみ鍔部が形成されたコップ形状を有し、かつ、所定の樹脂材料を主成分とした複数個の育苗ポットを縦横方向に整列させて平面配置したもので、相互に隣接する前記育苗ポットの上端開口部の前記四隅部を除く周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に、隣接する育苗ポット同士を微小な幅寸法でのみ連結する連接部を一体的に形成し、各育苗ポットに土壌を収容した状態で所望の育苗ポットを、隣接する他の育苗ポットから引き千切ることにより前記連接部を破断可能としたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の育苗ポット用樹脂成形体の製造装置は、上端がほぼ正方形に開口したコップ形状を有し、かつ、所定の樹脂材料を主成分とした複数個の育苗ポットが真空成形により連続的に形成されたシート材をその一部を残して各育苗ポットごとに切断する装置であって、前記育苗ポットと対応させて開口した複数個の筒状切断刃を並べて平面配置し、相互に隣接する前記切断刃の隣接対向辺を、その対向面を研磨加工により折り返し面の除去で完全平坦面として密着状態で衝合し、その尖端状の両刃が形成された一枚刃の隣接対向辺の一部を切り欠いて各育苗ポットを連接するための微小な幅寸法を持つ逃げを形成した刃体を具備したことを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を図1乃至図10に示して説明する。
【0011】
本発明の育苗ボット用樹脂成形体1は、図1(a)(b)に示すように所定の樹脂材料、例えばポリプロピレン(PP)を主成分として、例えばポリエチレン(PE)を所定量混入した樹脂材料からなる多数個の育苗ポット2を縦横方向に整列させて平面配置した状態で連設したものである。尚、この樹脂成形体1の主成分としては、前述のポリプロピレン(PP)以外に、ポリスチレン樹脂(PS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ペット樹脂(PAT)、ポリエチレン樹脂(PE)等でも可能である。
【0012】
この樹脂成形体1の各育苗ポット2は、図2(a)(b)に示すように上端がほぼ正方形に開口したコップ形状を有し、例えば、底部2aが円形、上端開口部2bがほぼ正方形で、その間の側部2cは円形の底部周縁から立ち上がった直後からほぼ正方形となっている。尚、育苗ポット2の形状はこれに限らず、円形の底部周縁から若干立ち上がった部位まで円形でそこから上端開口部周縁までほぼ正方形をなすものであってもよい。
【0013】
この樹脂成形体1における各育苗ポット2の連設状態は以下のとおりである。相互に隣接する育苗ポット2の上端開口部2bのそれぞれの隣接対向辺2dに連接部3を一体的に形成する。この連接部3は、育苗ポット2内に所定量の土壌が収容された状態でその育苗ポット2を引き千切ることにより隣接する育苗ポット2から個々に分離できるように破断可能とした。
【0014】
育苗ポット2の材質の主成分である例えばポリプロピレン(PP)は一般的に破断しにくい性質のものであるが、前述したように土壌が収容された育苗ポット2を連接部3を破断させることにより隣接する他の育苗ポット2から分離できるようにするためには、その連接部3の厚みや幅寸法、土壌の量などの諸条件により左右される。本出願人は、例えば、土壌の量が150〜200g程度であれば、連接部3の厚みが0.1〜0.35mm程度、好ましくは0.2mm程度で、その幅寸法が0.2〜0.7mm程度、好ましくは0.5mm程度であればよいことを確認している。このようにすれば、逆に育苗ポット2内に土壌を収容しない空の状態の場合には、その育苗ポット2を引き千切ろうとしても容易に引き千切ることが困難で各育苗ポット2がばらばらになることはない。
【0015】
尚、この育苗ポット用樹脂成形体1の各育苗ポット2の上端開口部2bには、図2(a)及び図3(a)に示すようにその周縁四隅部に鍔部4を形成することにより育苗ポット2の変形を防止する補強機能を具備し、また、その鍔部4の若干下方位置に凸状のスタック5を形成することにより、図3(b)に示すように樹脂成形体1を保管時などに積み重ねた状態とした場合でも相互に密着することなく、樹脂成形体1の二個取りや三個取りが生じることなく樹脂成形体1を一個ずつ確実に取り出すことができる。
【0016】
本発明の樹脂成形体1では多数個の育苗ポット2を縦横方向に整列させて平面配置した状態で連設したものであるため、従来のようにブロー成形により製作された多数個の育苗ポットを積み重ねた状態からその育苗ポットを作業者が一つ一つ抜き取る際に生じる二個取りや三個取り等の不具合が発生することはない。更に、この樹脂成形体1は、例えばポリプロピレン(PP)を主成分とした樹脂材料からなるために破断しにくく、育苗ポット2が引っ張られたとしても土壌を収容していない空の状態ではその取り扱い時に連接部3が容易に破断してばらばらになることもない。
【0017】
一方、前述したように育苗ポット2内に土壌を入れたり、その育苗ポット2を運搬したりする取り扱い上、図4(a)(b)に示すように多数個の育苗ポット2を一括して収納する枠状ケース6を使用するのが一般的である。
【0018】
この枠状ケース6は、同図に示すように硬質樹脂製のもので、育苗ポット2の形状に合わせて縦横方向に仕切られた多数個の区画部7を具備し、各区画部7は育苗ポット2を収納する凹状を有し、育苗ポット2の上端開口部2bを囲撓する上部支持部7aと、育苗ポット2の側部2cを上下方向に沿って支える側部支持部7bと、育苗ポット2の底部2aを下方から支える底部支持部7cとで構成される。
【0019】
本発明の育苗ポット用樹脂成形体1を使用すれば、図5(a)(b)に示すようにこの種の枠状ケース6に多数個の育苗ポット2を一括して同時に収納することが可能となる。枠状ケース6に一括して収納された多数個の育苗ポット2は、枠状ケース6の区画部7にそれぞれ挿入され、各区画部7では、育苗ポット2が上部支持部7a、側部支持部7b及び底部支持部7cで支えられた状態で収納される。
【0020】
このようにして枠状ケース6内に育苗ポット2を収納した上で、各育苗ポット2内に土壌及び苗等を供給することになる。その後、育苗ポット2を枠状ケース6から取り出す場合、図6(a)(b)に示すように育苗ポット2内には所定量の土壌mが存在するために重く、取り出そうする育苗ポット2を把持して持ち上げれば、隣接する他の育苗ポット2との連接部3が容易に破断して、必要とする育苗ポット2と不要な育苗ポット2とが分離し、その不要な育苗ポット2のみが枠状ケース6に残存する。
【0021】
以上で説明した育苗ポット用樹脂成形体1は、図7(a)(b)に示すような製造装置でもって製作することができる。
【0022】
この製造装置は、複数個の育苗ポット2を縦横方向に整列させて連続的に平面配置した樹脂成形体1の原型であるシート材を連接部3を残して各育苗ポット2ごとに切断することにより樹脂成形体1を製作するための刃体8を具備する。この刃体8は、その平面形状を樹脂成形体1に対応させた、ほぼ正方形の上端開口部9aを有する複数個の筒状切断刃9を相互に密着させて平面配置しベース10上に植設したものである。尚、11は育苗ポット8を収容するためにベース10に形成された丸穴である。
【0023】
この刃体8における切断刃9は、図8(a)に示すように一方の側に傾斜した刃面12を有し、かつ、他方の側に微小な折り返し面13を有する帯板状の片刃をその上端開口部9aが育苗ポット2の上端開口部2aとほぼ一致させた形状となるように前述の刃面12を内側にした状態で筒状としたものである。そして、これら複数個の切断刃9を縦横方向に整列させて密着させた状態で接合一体化するが、この時、各切断刃9の相互に隣接する対向辺9dを、図8(b)に示すように片刃の外側対向面を研磨加工により切削して折り返し面13を除去することにより完全平坦面14として内側の刃面12のみを残した状態で衝合する。これにより、隣接対向辺9dでは、両側に刃面12を有する両刃をなし、その隣接対向辺9d以外では、内側に刃面12を有する片刃をなす。このようにして隣接する切断刃9の隣接対向辺9dどおしを密着させた状態で複数箇所でスポット溶接などにより両者を接合一体化する。また、図9(a)(b)に示すように前述した切断刃9の隣接対向辺9dのほぼ中央部位を切り欠いて微小な逃げ15を潰し加工により形成する。
【0024】
以上のような構造を有する刃体8を用いることにより、樹脂成形体1が製作される。即ち、図10(a)(b)に示すように前述したような樹脂成形体1の原型であるシート材1’を刃体8上に位置決め配置し、そのシート材1’に対して刃体8を当接させた状態でプレス加工すれば、切断刃9によりシート材1’が切断され、切断刃9の逃げ15により連設部3が残された状態でその連接部3以外の部位が切断されて樹脂成形体1が製作される。
【0025】
この刃体8によれば、切断刃9の隣接対向辺9dが一枚刃であるので、樹脂成形体1の各育苗ポット2の隣接対向辺2dが連接部3を残して確実に切断される。また、切断刃9の全周に亘って繋ぎ目がないので、樹脂成形体1の全周に亘って連接部3を残して確実に切断され、切り残しが発生することもない。
【0026】
【発明の効果】
本発明に係る育苗ポット用樹脂成形体によれば、従来のように作業者が育苗ポットを一つ一つ枠状ケース内に収納するような手間をかける必要がなく、多数個の育苗ポットを枠状ケースに一括して同時に収納することができるので、作業時間の短縮化が図れて作業効率が飛躍的に向上する。
【0027】
また、従来のように育苗ポット単体であれば、積み重ねられた多数個の育苗ポットから一つ一つ抜き取る際に二個取りや三個取りが発生していたが、多数個の育苗ポットを連設した樹脂成形体では、積み重ねられた状態でも相互に密着しにくく、二個取りや三個取りが生じにくくてスムーズな抜き取り作業が容易に実現でき作業性も大幅に向上する。
【0028】
更に、育苗ポット内に土壌が収容された状態で、その育苗ポットを樹脂成形体の他の育苗ポットから分離させるに際しては、隣接する育苗ポット同士を連結する連接部が微小な幅寸法のみで形成されているから、各育苗ポットに土壌を収容した状態で所望の育苗ポットを、隣接する他の育苗ポットから引き千切るだけで簡単に分離させることができるので、その分離作業に手間取ることはない。
【0029】
また、本発明に係る育苗ポット用樹脂成形体の製造装置によれば、構造簡単な刃体を使用するだけで、各育苗ポットの上端開口部の全周に亘って連接部を残して確実に切断された前述の樹脂成形体を容易に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
(a)は本発明に係る育苗ポット用樹脂成形体の実施形態を示す平面図
(b)は(a)の正面図
【図2】
(a)は図1(a)の部分拡大平面図
(b)は(a)のA-A線に沿う断面図
【図3】
(a)は育苗ポットの上端開口部の隅部を示す要部拡大断面図
(b)は(a)の育苗ポットを積み重ねた状態を示す要部拡大断面図
【図4】
(a)は育苗ポットを収容する枠状ケースを示す平面図
(b)は(a)の正面図
【図5】
(a)は枠状ケースに樹脂成形体を収納する前の状態を示す正面図
(b)は枠状ケースに樹脂成形体を収納した後の状態を示す正面図
【図6】
(a)は樹脂成形体から育苗ポットを引き千切る状態を示す部分拡大平面図
(b)は(a)のB-B線に沿う断面図
【図7】
(a)は本発明に係る育苗ポット用樹脂成形体の製造装置を構成する刃体を示す部分拡大平面図
(b)は(a)の正面図
【図8】
(a)は図7(a)のC-C線に沿う部分拡大断面図
(b)は図7(a)のD-D線に沿う部分拡大断面図
【図9】
(a)は刃体の切断刃の隣接対向辺に設けられた逃げを示す部分拡大正面図
(b)は図7(a)のE-E線に沿う部分拡大断面図
【図10】
(a)は樹脂成形体の原型であるシート材を刃体により切断する前の状態を示す部分拡大断面図
(b)は樹脂成形体の原型であるシート材を刃体により切断した後の状態を示す部分拡大断面図
【符号の説明】
1 育苗ポット用樹脂成形体
2 育苗ポット
2b 上端開口部
2d 隣接対向辺
3 連接部
8 刃体
9 切断刃
9d 隣接対向辺
14 完全平坦面
15 逃げ
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許明細書を次のとおりに訂正する。
(a)特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の【請求項】1行の「上端がほぼ正方形に開口したコップ形状」を「ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁から立ち上がって前記上端開口部の周縁に到る側部とを備え、前記上端開口部の周縁の四隅部にのみ鍔部が形成されたコップ形状」と訂正する。
(b)特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の【請求項1】3〜4行の「上端開口部のそれぞれの隣接対向辺に」を、「上端開口部の前記四隅部を除く周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に」と訂正する。
(c)誤記の訂正を目的として、特許明細書の段落番号【0015】1行の「上端開口部2a」を「上端開口部2b」と訂正する。
(d)誤記の訂正を目的として、同書の【符号の説明】の欄における上端開口部の符号「2a」を「2b」と訂正する。
(e)誤記の訂正を目的として、同書の段落番号【0015】3行の「鍔部6」を「鍔部4」と訂正する。
(f)明りようでない記載の釈明を目的として、同書の段落番号【0008】3行の「上端がほぼ正方形に開口したコップ形状」を「ほぼ正方形に開口した上端の上端開口部と、底部と、底部の周縁から立ち上がって前記上端開口部の周縁に到る側部とを備え、前記上端開口部の周縁の四隅部にのみ鍔部が形成されたコップ形状」と訂正する。
(g)明りようでない記載の釈明を目的として、同書の段落番号【0008】5行の「上端開口部のそれぞれの隣接対向辺に」を、「上端開口部の前記四隅部を除く周縁を構成するそれぞれの隣接対向辺に」と訂正する。
審決日 2002-11-28 
出願番号 特願平10-63177
審決分類 P 1 41・ 851- Y (B29C)
P 1 41・ 853- Y (B29C)
P 1 41・ 161- Y (B29C)
P 1 41・ 852- Y (B29C)
P 1 41・ 856- Y (B29C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 早野 公惠  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 白樫 泰子
佐藤 昭喜
登録日 1999-02-26 
登録番号 特許第2891987号(P2891987)
発明の名称 育苗ポット用樹脂成形体及びその製造装置  
代理人 熊野 剛  
代理人 山根 広昭  
代理人 江原 省吾  
代理人 山根 広昭  
代理人 江原 省吾  
代理人 城村 邦彦  
代理人 白石 吉之  
代理人 城村 邦彦  
代理人 白石 吉之  
代理人 田中 秀佳  
代理人 熊野 剛  
代理人 田中 秀佳  

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