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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 B41M 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) B41M 審判 全部申し立て 2項進歩性 B41M 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 B41M 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 B41M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B41M |
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管理番号 | 1081297 |
異議申立番号 | 異議2001-73226 |
総通号数 | 45 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-06-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-12-03 |
確定日 | 2003-05-26 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3172298号「インクジェット記録シート」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3172298号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3172298号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成4年12月3日に特許出願され、平成13年3月23日に設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 田井靖人(以下、「申立人1」という。)及び特許異議申立人 日本製紙株式会社(以下、「申立人2」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成14年2月19日付けで取消理由通知がなされ、意見書が提出され、その後申立人らへの審尋に対する回答に基づいて平成14年9月5日付けで再度取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年11月18日に意見書の提出とともに訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 a.訂正事項a 発明の詳細な説明の【0036】の記載の 「実施例4」を、 「参考例1」と訂正する。 b.訂正事項b 発明の詳細な説明の【0037】の記載の 「実施例5」を、 「参考例2」と訂正し、 「実施例4」を、 「参考例1」と訂正する。 c.訂正事項c 発明の詳細な説明の【0040】の記載の 「実施例4」を、 「参考例1」と訂正する。 d.訂正事項d 発明の詳細な説明の【0041】の記載の 「実施例1〜5」を、 「実施例1〜3」と訂正する。 e.訂正事項e 発明の詳細な説明の【0042】の記載の【表1】 「 」を、 「 」と訂正する。 f.訂正事項f 発明の詳細な説明の【0043】の記載の 「実施例1〜5」を、 「実施例1〜3」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項a〜fは、特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。 そして、これらの訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 (1)特許異議の申立ての理由の概要 申立人1は、本件出願は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていないものである旨主張し、請求項1〜3に係る特許を取り消すべき旨主張している。また、申立人1は、請求項1〜3に係る発明は、申立人1が提出した甲第1号証ないし甲第2号証の1〜3に記載された発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものであり特許を受けることができないものである旨主張し、また、請求項1〜3に係る発明は、申立人1が提出した甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張し、請求項1〜3に係る特許を取り消すべき旨主張している。 申立人2は、申立人2が提出した甲第1号証ないし甲第3号証を根拠にして、請求項1〜3に係る発明は、その出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないものである旨主張し、請求項1〜3に係る特許を取り消すべき旨主張している。 (2)当審における再度の取消理由通知(平成14年9月5日付け)の概要 当審による審尋に対し申立人2が回答書に添付して提出した参考資料を根拠にして、請求項1〜3に係る発明は、申立人2が提出した参考資料2に記載された発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものであり特許を受けることができないものであるとし、また、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていないとしたものである。 (3)本件の請求項1〜3に係る発明 上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された以下のとおりのものである。 「【請求項1】 主成分として木材パルプと顔料からなる支持体上に、少なくとも1層以上のインク受理層が設けられたインクジェット記録シートに於いて、該支持体中に含有される顔料含有量が5〜35重量%であり、該記録シートの内部結合強度が150〜455g/cmであることを特徴とするインクジェット記録シート。 【請求項2】 支持体に塗設されるインク受理層が、塗工量1〜10g/m2であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録シート。 【請求項3】 支持体に含有される顔料含有量が、5〜30重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録シート。」 (4)申立人1に関係する取消理由について (4)-1 29条について (4)-1.1 申立人1が提出した各甲号証の記載 申立人1が提出した各甲号証には、以下の事項が記載されている。 甲第1号証:特開平1-160674号公報 1a.「(1)基紙上に顔料とバインダーとよりなるコート層を0.5乃至8g/m2の量で設けた被記録材において、ステキヒトサイズ度を1乃至15秒とし、前記顔料が少なくともアルミニウム酸化物粒子及びBET法による比表面積が10乃至200m2/gの含硅素系顔料を含むことを特徴とする被記録材。 (2)基紙のJIS-P-8128による灰分量が2乃至15%である特許請求の範囲第(1)項に記載の被記録材。」(特許請求の範囲) 1b.「灰分が2%に満たない場合には付着したインク滴が基紙表面の繊維方向に沿って大きく滲み、ドット形状が悪く且つインク滴の滲みが必要以上に大きくなってしまう。又、逆に15%を超える場合には、被記録材自体にコシがなくなってしまう外に基紙からの粉落ちを生じてしまうため好ましくない。」(5頁右下欄18行〜6頁左上欄4行) 1c.「本発明では、基紙の表面の強度、平滑度、耐水性等を強化する目的で、澱粉、酸化澱粉、ポリビニルアルコール等従来公知の表面サイズ剤を用いて表面サイズプレスを行ってもよい。」(6頁左上欄16〜19行) 1d.「実施例1乃至7及び比較例1乃至2 原料パルプとしてC.S.F410mlのLBKP100部を使用し、これを填料として炭酸カルシウムを添加後、中性サイズ剤(AKD、ディックハーキュレス製)0.005部を添加して坪量70g/m2に抄紙した。 次いで濃度2%のポリビニルアルコール液(PVA-177、クラレ製)をサイズプレス装置にて付着させ、基紙のサイズ度を本発明における好適範囲内に調整した。この基紙のJIS-P-8128の方法による灰分量を測定したところ8.0%であった。 この基材の面に下記の組成の塗工液を乾燥時塗工量が3.5g/m2となるようにバーコーター法で塗布し、120℃で2分間乾燥して本発明の被記録材及び比較用の被記録材を得た。 顔料 25部 ポリビニルアルコール液(PVA-177、クラレ製) 5部 ポリビニルアルコール液(PVA-105、クラレ製) 5部 水 200部 実施例1乃至7及び比較例1乃至2で用いた顔料を後記第1表に示した。」(8頁右上欄15行〜左下欄18行) 甲第2号証の1:特開昭61-29582号公報 21a.「実施例1 濾水度370ml csfのLBKP80部、濾水度400ml csfのNBKP20部、重質炭酸カルシウム13部、カチオン澱粉1部、アルキルケテンダイマーサイズ剤(ハーコンW ディックハーキュレス社製)0.12部及びポリアルキレンポリアミンエピクロルヒドリン樹脂0.4部から成るスラリーから、長網抄紙機にて坪量68g/m2の原紙を抄造し、抄造時にサイズプレス装置で酸化澱粉を固型分で1.5g/m2付着させて中性コート原紙を製造した。この原紙のステキヒトサイズ度は35秒で冷水抽出PHは9.2であった。 塗工液として、多孔性無機顔料の合成シリカ(サイロイド404、富士デヴィソン社製)100部、水溶性樹脂のポリビニルアルコール(PVA117、クラレ社製)70部、その他ケイ酸ソーダ6部、消泡剤0.2部から成る濃度16%の水性塗工液を作り、エアナイフコーターで前記中性原紙に固型分9g/m2になるように塗抹、乾燥した。次いで軽くスーパーカレンダーを通して、実施例1の記録用紙とした。この記録用紙のベック平滑度は130秒で冷水抽出PHは9.8であった。本記録用紙についてインクジェット適性を評価した結果を表1に示す。」(7頁左下欄6行〜右下欄9行) 甲第2号証の2:特開昭61-43593号公報 22a.「実施例2〜7 濾水度370ml csfのLBKP80部、濾水度400ml csfのNBKP20部、重質炭酸カルシウム13部、カチオン澱粉1部、アルキルケテンダイマーサイズ剤(ハーコンW ディックハーキュレス社製)0.12部及びポリアルキレンポリアミンエピクロルヒドリン樹脂0.4部から成るスラリーから、長網抄紙機にて坪量68g/m2の原紙を抄造し、抄造時にサイズプレス装置で酸化澱粉を固型分で1.5g/m2付着させて中性コート原紙を製造した。この原紙のステキヒトサイズ度は35秒であった。 第1塗工液として、合成シリカ(ニップシールLP、日本シリカ工業社製)100部を水400部に分散したスラリーをビスコミルを通して、凝集粒子を粉砕し、ポリビニルアルコール15部を加えて濃度18%の水性第1塗工液を作り、エアナイフコーターで前記中性コート原紙に固型分13g/m2になるように塗沫、乾燥し下塗り紙を作製した。次いで第2塗工液として合成シリカ(サイロイド74、富士デヴィソン社製)100部、水溶性樹脂のポリビニルアルコール(PVA117、クラレ社製)40部、カチオン性樹脂としてネオフィックスRPD(日華化学社製)7部、無水硫酸マグネシウム(MgSO4)を各々1部、5部、10部、20部、40部、60部、その他消泡剤少量から成る濃度13%の第2塗工液を作り、エアナイフコーターで前記第1塗工液下塗り紙の上に固型分5g/m2になるように塗抹、乾燥した。次いでスーパーカレンダーを通して、各々実施例2、3、4、5、6、7の記録用紙とした。この記録用紙についてインクジェット適性を評価した結果を表2に示す。」(7頁左下欄6行〜右下欄9行) 甲第2号証の3:特開昭63-274583号公報 23a.「実施例2〜5 水度370mlCSFのLBKP80部、 水度400mlCSFのNBKP20部、重質炭酸カルシウム13部、カチオン澱粉1部、アルキルケテンダイマーサイズ剤(ハーコンW、ディックハーキュレス社製)0.08部及びポリアルキレンポリアミンエピクロルヒドリン樹脂0.4部から成るスラリーから、長網抄紙機にて坪量68g/m2の原紙を抄造し、抄造時にサイズプレス装置で酸化澱粉を固型分で2g/m2付着させてコート原紙を製造した。この原紙のステキヒトサイズ度は21秒であった。 塗工液として合成シリカ(ミズカシルP78D、水沢化学工業社製)100部、水溶性樹脂のポリビニルアルコール(PVA117、クラレ社製)30部、及び表1の化合物1〜4で示されるPAA-AG誘導体各20部から成る固型分18%の液を作成し上記コート原紙表面にワイヤーロッドにて乾燥固型分10g/m2と成るように塗布乾燥し、次いで軽くスーパーカレンダーを掛けて仕上げ、それぞれ実施例2〜5の記録紙とした。これらの記録紙についてインクジェット適性を測定した結果を表-4に示す。」(8頁右上欄2行〜左下欄4行) 甲第3号証:「記録材料マニュアル」株式会社トリケップス 昭和56年1月30日発行 II-4-1〜II-4-14頁(「第4章 インクジェット用紙」十条製紙 名井博) 3a.「普通紙という呼称は製紙用語にはないが、ユーザー側でいう普通紙は、印刷、筆記用に広く用いられている色の白い上質紙を指すことが多い。この上質紙をインクジェット記録に用いたとき、しばしばインク吸収の遅い点が問題になる。上質紙の製造に際しては、筆記時のインクの滲みを抑える目的で、予め原料パルプ中に疎水化剤(製紙用語ではサイズ-size剤と呼ぶ)を加えて紙に疎水性を持たせてある。インクジェット記録の場合は、これがマイナスに作用して、紙層中へのインクの吸収が遅れ、画面を汚したり、記録紙の操作性を妨げたりすることがある。このために、インクジェットプリンターの用紙としてはサイズ剤を効かさない特別抄造の専用紙が用いられることが多い。」(II-4-1頁15〜22行) 3b.「晒化学パルプをそのまま抄いたのでは、フワフワした柔かい弱い紙しかできないので、パルプを水中で叩いて繊維を柔軟にし、部分的に細かく割裂させ、親水性を強めて粘状化させる。この処理を叩解と称する。叩解を進めたパルプは、繊維間のからみ合いと接着を増して、締った、固い、強い紙が得られるようになる。叩解は紙質を左右する重要な工程である。 次に叩解されたパルプに対し、何種類かの補助原料、薬品が加えられる。これらは紙の白さと不透明性を増し、肌を滑らかにするための填料(白土等の白色微粉末)、滲み防止用のサイズ剤とその定着剤、でんぷん、ガム等の紙力増強剤、あるいは紙を白く見せるための青味染料等である。このうち、インクジェット記録紙にとって関連の深いサイズ剤については項を改めて説明する。」(II-4-6頁30行〜II-4-7頁5行) 3c.「3.2.3 抄造、サイズプレス、コーティング 典型的な長網抄紙機の構造を第2図に示す。濃度0.5〜1.0%程度にまで薄められた完成原料は、走行するワイヤーの上に流れ出し、自然脱水と吸引脱水により濃度20%程度のウエットシートになる。次いでフェルト上に移行し、数基のプレスロールにより、60%程度にまで絞られた後、蒸気を通した数十本のドライヤーの間を通って、最終的には水分6〜7%にまで乾燥される。最後に数段の金属ロールを重ねたカレンダーを通って締められ、平滑性と光沢とを与えられた後、リールに巻き取られる。 ドライヤーの中間位置にあるサイズプレスは、隣接した2本のロールの間にでんぷん等の溶液を貯め、ほぼ完成された紙を通して軽い含浸処理を行う装置である。この主な目的は、紙表面のケバを寝かせ、表面の強度を増して印刷時の紙剥けを防ぐためのものであるが、若干のサイズ効果をも伴うので、サイズプレス処理を指して表面サイズと呼ぶこともある。 今まで述べてきた非塗工紙のほかに、高級印刷に広く用いられているコート紙、アート紙と呼ばれる塗工紙がある。これは紙表面にカオリン等の板状の填料を、でんぷん、ゴムラテックス等のバインダーと共に塗布して、スーパーカレンダー(金属ロールとコットンロール間で強圧する装置)で強光沢を与えた紙で、印刷インクが紙表面にとどまるため、光沢のある緻密な印刷物が得られる。塗工処理は、サイズプレスと同じように抄紙機上で行われることもあるが、多くは抄紙機と別のコーターと呼ばれる塗工機で行われる。 写真7は上質紙の表面、写真8はコート紙の表面の電子顕微鏡写真を示す。前者が繊維の網目構造を示しているのに対し、後者は填料によって繊維が完全に覆われているのを知ることができる。」(II-4-7頁6行〜末行) 3d.「サイズ剤の効果の程度を判定する試験法はいくつかあるが、一般に用いられるのは水が紙厚方向に滲透貫通するまでに要する時間を測るステキヒトサイズ度(JIS P-8122)である。」(II-4-9頁4〜5行) 3e.「填料の効果を上げるためには、できるだけ粒径の小さいものを、なるべく多く加えればよいことになるが、細かい填料は紙への留まりが悪く、また必要量以上の増量は紙の強度を下げる等のマイナス効果があるので、実用上は限度がある。」(II-4-11頁12〜19行) 甲第4号証:太田徳也、松田泰昌 監修「インクジェット記録技術」株式会社トリケップス 平成元年8月15日発行 161〜176頁(「第11章 インクジェットプリンタ用紙」三菱製紙 妹尾季明) 4a.「2.インクジェット記録用紙の要求特性 インクジェット記録では原理的にはどのような物にでも記録できる。この特徴を生かしてどのような紙でも記録できるはずで、用紙を選ばないのが特徴でありたとえば一般に広く使用されている印刷用紙(ノンコート紙、コート紙など)が使用できるはずである。事実、現在ではモノクロのインクジェット記録では一般の上質紙が使用でき、印字品位も優れたものが出てきており、実用上も十分な性能になっていると思われる。しかし、インクの吸収性を考慮したインクジェット記録用紙を使用した方が印字品位はさらによくなる。このことは、一般に使用されている印刷用紙は、従来の印刷インクに適合するように設計されているためであることを示している。 インクジェットプリンタは用途によって設計コンセプトが異なり、ノズルヘッド、インク組成などがメーカや機種によっても異なるため、インクジェット記録時のインク吸収性、印字画像の解像度などインクジェット記録用紙に対する要求特性が異なる。このためインクジェット記録用紙の要求特性といっても、一概にインク吸収性が大きく、印字画像の解像度が高ければよいとはいえない。実際には各プリンタに適合した用紙が必要になる。特にモノクロに比較して、カラーでは用紙上の1点に2個以上のドットが重なるため実質的に単位面積あたりのインク量が増し、十分なインク吸収性がないとインクが流れ出して滲み過ぎてぼけた画像となったり、インクが紙に到達する際に飛散したり到達してからあふれたりして記録したくない白紙部分を汚したりする。次に挙げる用紙に対する要求特性に沿ってプリンタに適合した紙の開発が必要になる。 … ここでは、総論としてのインクジェット用紙の要求特性の主な項目をまとめて示すことにする。 (1)インク吸収性……乾燥性・濃度・色再現性に影響する。 (2)ドット解像度……印字・画像のシャープネスに影響する。 (3)ドット真円性……印字・画像のシャープネスに影響する。 (4)ドットの適度の滲み…濃度・色再現性・シャープネスに影響する。 これらは、各インクジェットプリンタによって要求特性が異なるため、要求特性に適合するようにバランスをとる必要がある。 (5)画像の耐水性・耐光性…濃度・色再現性に影響する。 画像の変退色の少ないこと。 (6)インク吸収の際にコックリング(紙のボコツキ)が少ないこと。 (7)インクの裏抜けが少ないこと。 (8)坪量 (9)厚さ (10)平滑度 (11)剛直度 (12)白色度 (13)不透明度 (14)表面強度 (15)カール (16)伸縮 (17)筆記性 などのほか (18)印刷適性 (19)プリンタ走行性に関係する摩擦特性 など一般的な紙の特性を要求されることがある。これらの特性も各種のプリンタによってその要求が異なるため、それぞれに適合した設計をしなければならない。」(162頁7行〜末行,165頁1〜13行) 4b.「3.用紙の設計 インクジェット記録方式には、コンティニュアス型とオンデマンド型があり、インクジェット用インクとしては、水を主溶媒とする水性インクや油性インク、磁性インク、固体インク、WAXを主体とした熱溶融インクやその他のインクが挙げられるが、ここでは現在多くのプリンタが採用している“水性インク”を対象とするインクジェット用紙について述べる。 現在市販されているインクジェット用紙は (1)ノンコートタイプ紙 (2)コートタイプ紙 に大別される。ノンコートタイプ紙は、一般印刷用上質紙に近いもので、木材パルプ繊維、填料、定着剤、サイズ剤、表面サイズ剤などによって構成されており、インク吸収性は良いものの、ドットの形状が悪く木材パルプ繊維に沿っていわゆるフェザリングが生じやすいため真円性が低くなってしまう。 コートタイプ紙は、原紙表面に微細な顔料、バインダなどを塗布することによって、均一なインク吸収性を得るための微細な空隙を有した塗装構造とすることによって、吸収性、解像度、真円性などの記録特性のバランスを取っている。 以下、インクジェット用紙の設計について、紙の製造の観点から述べてみたい。」(165頁14〜32行) 4c.「3.1 抄 紙 紙の製造工程は大きく分けると下記のようになる。 (1)パルプ化……木材繊維を抽出する工程 (2)叩解…………水中で繊維を膨潤、フィブリル化させる工程 (3)抄紙…………シート化し、繊維を脱水乾燥する工程 … パルプ化して得られた木材繊維は、叩解によって水中で繊維をもみほぐして、これにより繊維間の絡み合い、結合を起こさせる。叩解によって紙の物性は著しく変化し、インクの吸収性に関係する紙層内の空隙構造も変わる。叩解された繊維を水で希釈し、網上でシート化し、脱水乾燥する。このとき、繊維スラリーに填料(たとえば、クレー、タルク、カオリン、重質・軽質炭酸カルシウム、合成微粒子シリカなど)、サイズ剤(ロジンサイズ、アルキルケテンダイマーなどに代表される合成サイズ剤など)、それらの定着剤やその他の添加剤を添加する。 填料は用紙の不透明度、白色度、平滑性、インク吸収性を改善する目的で加えられる。 セルロース繊維は非常に親水性であり、水は繊維表面を容易に濡らすため、サイズ剤を用いて紙の水濡れ性及び浸透に対する抵抗を与える。無サイズ〜低サイズの紙は水性インクの吸収性はよいものの、滲みが大きく裏抜けしやすい。一方、中サイズ〜高サイズの紙は滲みが小さく裏抜けしにくいものの吸収性が低下する。したがって、サイズ剤の増減が水性インクの吸収性に与える影響は大きい。 なお、サイズ法には前述した内添サイズ法と、すでにできあがった紙表面にサイズプレスなどによりサイズ剤を与える表面サイズ法とがある。ノンコートタイプ紙は勿論、コートタイプの原紙でも通常どちらか、または両方のサイズ法を施している。」(165頁33行〜166頁27行) 4d.「3.3.1 抄紙用素材 (1)パルプ繊維……針葉樹、広葉樹それぞれのパルプ繊維を必要に応じて配合する。 (2)填 料 ……クレー、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、アルミノ珪酸ソーダ、合成微粒子シリカなど。 (3)内添サイズ剤…ロジン系サイズ剤。アルキルケテンダイマーなどに代表される合成中性サイズ剤。 (4)表面サイズ剤…酸化澱粉、変性澱粉、PVA(ポリビニルアルコール)など。 (5)その他の素材…カチオン性樹脂やその他の合成樹脂など。 これらは吸収性、解像度、真円性、滲み、色再現性などを考慮してその配合比が決められる。」(167頁29行〜168頁5行) 4e.「(8)表面強度 表面強度は各種の測定法があるが、ここでは一般の印刷用紙などに使われているデニソンワックスによる方法を例示した。一般の印刷用紙と比較して、インクジェット用紙は吸収性を確保するために表面強度は比較的弱い傾向にある。特にコートタイプインクジェット用紙では、主にコート層によってインクの吸収性を確保しようとするとコート層自身也」原紙との接着性を弱くすることになる。表面強度の弱いコートタイプインクジェット用紙に一般的な印刷を行うとコート層が剥がれたりして紙粉が発生して、印刷トラブルを起こしたりするため、このような場合は特に注意を払いながら印刷する必要がある。また、紙の加工工程でも紙粉の発生をできるだけ少なくする工夫が必要である。吸収性を確保しながら、表面強度の強いインクジェット用紙を設計する必要がある。」(171頁20〜30行) 甲第5号証:大江礼三郎 翻訳・監修「紙およびパルプ 製紙の化学と技術 第3巻」有限会社内外産業調査会 昭和58年4月30日第1刷発行 69〜83頁(「第15章 充填」) 5a.「填料使用量 パルプ繊維と顔料の価格比からすると、填料を多く使う方が有利のように思われる。表面サイズによればかなり多量の填料を増やすこともできる。しかし、塗工紙が著しく伸びているのに、填料の消費量はこれと逆行しているようである。その理由として、強度をもたない塗工層を保持するためには原紙の強度が高いことが要求されるので、塗工紙中の填料の量を減らさなければならないためである。 強度よりも光学的性質や印刷性が必要とされる紙の場合、必ず填料が使用されている。すなわち、クラフト紙やライナーには填料は使われていないが、印刷用紙、あるいはワックス含浸紙やグラシンなどの包装用紙には必ずといってよい程、使用されている。填料の添加量は、通常10から15%であるが、安価な填料の場合、30%まで添加されることもある。二酸化チタンの場合には、特別な品質要求がない限り、10%以上添加されることはあり得ない。オフセット印刷用紙の場合、クレー50%、炭化カルシウム50%の比率で、合計20から30%の填料が使用されることもある。この場合、サイジングはアルカリ側で合成サイズ剤を、繊維にサイズ剤を定着するのにはカチオンでん粉を、リテンション向上剤にはアニオン性高分子電解質を使用することが必要である。」(73頁左欄16行〜右欄12行) 5b.「填料の効果 紙に填料を添加する主な目的は、不透明度と白色度の向上にある。さらに紙の印刷適性の向上も重要な目的の1つである。印刷適性を向上させる理由は多々ある。紙の平滑度、外観は、とくにカレンダー後に向上するが、顔料はインキの吸収と浸透にも有効に作用する。たとえばクレー粒子は繊維よりもインキに馴染み易く、また紙の中に細い毛細管を多数、形成させることになる。 填料を紙に添加することによって得られる性質として、紙の柔さ、寸法安定性の向上、水などの液体の吸収性の向上が挙げられる。この他にも填料を添加する場合がある。たとえばシガレット・ペーパーに炭酸カルシウムを使用する例で、これは燃焼速度を調節するためであり、導電性紙の場合、電気伝導剤として炭素を使用することがある。塗工層に含有される顔料が、以上のような特殊な効果を併有することもありうる。 填料を多く使用すると、好ましからざる効果が生じることもある。主として強度とサイジングの低下である。普通であれば、填料添加量10から15%位まではサイジングに影響はないが、炭酸カルシウムのようなアルカリ性顔料が少量でもあると、サイジングに悪影響がある。顔料は繊維よりも重いから、紙の比重が高くなる傾向があり、換言すれば、かさと剛度が低下することになり、これは印刷機への給紙に好ましくない。さらに紙粉も欠点の1つであって、カレンダー、リワインダー、印刷機で認められる。機械パルプを配合した紙、あるいは紙の水分が低い場合に紙粉はとくに著しくなる。紙粉は、填料がシートの構造を弱体化するために起る。紙粉の灰分含有量は、紙の灰分含有量よりも高くはないが、かといって填料が紙粉の原因ではないということにはならない。紙粉を抑える方法としては、でん粉などの内添薬品を添加して内部結合強度を高めること、あるいはサイズプレスででん粉などの添加剤を使用すればより効果的である。」(74頁左欄21行〜右欄末行) 5c.「強度に及ぼす填料の影響 填料を添加すれば紙の光学的性質は向上するが、その代償として強度がかなり低下する。強度低下には2つの理由がある。 1.無充填紙と充填紙を同一秤量について比較している。充填紙は繊維含有量が少いから、当然強度が低くなる。 2.紙の強度は繊維-繊維結合によっている。顔料粒子は繊維間に入り込み、繊維間結合を阻害する。このため、繊維-空気、顔料-空気の界面の数が増加し、不透明度は向上する。 強度の低下とは繊維間結合の減少によるものであるから、各強度的性質についてその低下の程度は同一でない。周知のように引張り強さと破裂強さは同一傾向を示す。また対数表示した耐折強さと裂断長の間にも明確な関連があることも知られている。これらの関係は填料の有無と無関係であるから、填料を添加した場合、引張り強さ、破裂強さ、耐折強さに大体、同程度の影響があることになる。 しかし、引裂き強さは全く異なっている。引張り強さと引裂き強さが逆の関係になることは、よく認められている。Davidsonは、チョークのような顔料を少量添加すると引裂き強さが増加すると報告している。しかし、Aarefjordは、ある種の填料によっては、程度は少いが明確に引裂き強さを低下させるとしている。結果は図15-4である。図15-4によれば、填料の%と引裂き強さの関係は直線的であって、填料を10%添加すると引裂き強さは約10%低下する。これは繊維含有豊が減少するために引裂きが低下するので、填料自体は引裂きには何らマイナスの効果はないことを意味している。 填料の添加は、引張り強さ、破裂強さ、耐折強さに大きく影響する。大ざっぱに表現すると填料が10%入ると、引張り強さと破裂強さは20%、25%低下し、耐折強さはそれ以上に低下する。工業的な場合には、その効果は製紙工程上の色々な因子によって左右される。未叩解パルプの方が叩解パルプよりも填料の添加による引張り強さの低下が大きい。図15-5に示すように、填料の添加による強度低下は原質によって異なる。曲線が示すように、短繊維パルプの方が長繊維パルプよりも填料の影響を受け易く、原料の木材の種類や蒸解方法によっても相違がある。 填料を大量に使用すると、強度はかなり失われる。これを改善するのには2つの方法がある。1つは原質にもっと強度を出すパルプ繊維を配合すること、1つはもっと性能の良い填料を使うことによって填料混合量を減らすことである。填料含有量を減少させれば、紙中の填料の容積が減り、シートの内部結合を阻害することが少くなるから、紙の強度低下は減少する。第3の方法としては填料の使用による紙の強度低下をサイズプレスによる表面サイズを強化することで補うことである。これはピック強度が問題になっているような場合には特に効果的である。」(81頁左欄25行〜82頁右欄10行) (4)-1.2 申立人1が主張する29条1項3号について 申立人1は、本件発明1〜3は、申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明と同一であるので、あるいは申立人1が提出した甲第2号証の1〜3に記載された各発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する旨主張する。 (4)-1.2.1 甲第1号証との対比・判断 申立人1が提出した甲第1号証(特開平1-160674号公報)には、本件発明1における「記録シートの内部結合強度が150〜455g/cmであること」について記載されていない。そして、申立人1は、甲第1号証に記載のものが、「記録シートの内部結合強度が150〜455g/cm」であることについて、実際に追試をして確かめているわけでもない。 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。本件発明1を引用する本件発明2,3についても、同様である。 (4)-1.2.2 甲第2号証の1〜3との対比・判断 申立人1が提出した甲第2号証の1〜3(特開昭61-29582号公報、特開昭61-43593号公報、特開昭63-274583号公報)には、本件発明1における「記録シートの内部結合強度が150〜455g/cmである」ことについて記載されていない。そして、申立人1は、甲第2号証の1〜3に記載のものが、「記録シートの内部結合強度が150〜455g/cmである」ことについて、実際に追試をして確かめているわけでもない。 したがって、本件発明1は、甲第2号証の1〜3に記載された発明であるとすることはできない。本件発明1を引用する本件発明2,3についても、同様である。 (4)-1.3 申立人1が主張する29条2項について 申立人1は、本件発明1〜3は、申立人1が提出した甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張する。 (4)-1.3.1 対比・判断 本件発明1と、申立人1が提出した甲第1号証に記載された発明ないし甲第2号証の1〜3に記載された発明とは、本件発明が「記録シートの内部結合強度が150〜455g/cmである」のに対し、上記各発明においては、その点についての記載がない点で相違する。 そして、申立人1が提出した甲第3号証ないし甲第4号証にも、記録シートの内部結合強度を150〜455g/cmとすることについて記載されていないし、示唆もされていない。 したがって、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。本件発明1を引用する本件発明2,3についても、同様である。 (4)-2 36条について (4)-2.1 申立人1が主張する明細書の記載不備について 申立人1は、本件出願は、明細書の記載が概ね以下の理由で不備のため、特許法第36条第4項、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていないものである旨主張する。 1.審査過程の意見書において、特許権者は、サイズ度が特定の範囲に無いと、記録適性を有さないと主張するが、サイズ度の記載はない。従って、本件特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみ記載しているとは言えない。 2.本件実施例は、甲第1号証や甲第2号証の1〜3の実施例と殆ど同一である。配合や製造方法が殆ど同じであっても、得られる内部結合強度が大きく異なるのであれば、その達成手段を明細書中に記載すべきである。従って、本件特許の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる程度に記載されていない。 3.実施例4及び5は、請求項1の顔料含有量を満足していない。とくに、実施例5は最も優れた発明である。従って、顔料含有量の範囲の内と外とで、どのように発明の作用効果が異なるのか判断できず、技術的意義がいかなる点にあるのか明らかでない。 (4)-2.2 当審の判断 1.サイズ度が特定の範囲であることが必要であることは、本件特許明細書には特に記載されていない。したがって、本件特許請求の範囲に特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないとすることはできない。 2.本件特許明細書には、明細書記載の内部結合強度を達成する手段が例えば実施例として記載されている。したがって、本件特許の発明の詳細な説明に、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる程度に記載されていないとすることはできない。 3.顔料含有量の範囲の上限を35重量%で区切ったのは、出願当初の記載に合わせたためである。また、申立人1の指摘する実施例4及び5は、上記訂正により、実施例ではなく参考例(参考例1及び2)であることが明確にされた。 したがって、訂正後の本件明細書には記載の不備は認められないので、特許法第36条第4項、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていないとすることはできない。 (5)申立人2に関係する取消理由について (5)-1 29条1項2号について 申立人2は、申立人2が提出した甲第1号証ないし甲第3号証を根拠にして、本件発明1〜3は、その出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないものである旨主張する。 (5)-1.1 申立人2が提出した各甲号証 申立人2が提出した甲第1号証ないし甲第3号証は、概ね以下のようなものである。 甲第1号証:横川・ヒューレット・パッカード(株)の「For Macintosh HP Desk Writer Family」のカタログ 「別売りアクセサリー」の表には、カラープリント用専用紙であるカット紙A4サイズ仕様の製品番号「51630Z」が記載されている。この表の下には、「*の製品は、HP Desk Writer専用です。☆の製品は91年11月発売予定。」と記載されている。 甲第2号証:実験成績証明書(日本製紙株式会社商品研究所 小沢裕司 作成、平成13年11月25日付け) HP51630Zインクジェット記録用紙の走査型顕微(SEM)鏡観察結果及び分析結果。測定結果:支持体部分の顔料含有率…12.3重量%、内部結合強度…161g/cm、塗工量…1.4g/m2。 甲第3号証:測定したインクジェット記録用紙が入っていた、HP51630Zインクジェット記録用紙の包装袋のコピー 甲第2号証で検証した紙が、HP51630Zのインクジェット記録用紙であることの裏付け。 (5)-1.2 当審の判断 当審の審尋事項:「1.特許異議申立書中の甲第2号証実験成績証明書で使用したサンプル「HP51630Z(CX JetSeries CutSheet Paper,製品番号70-18)」の購入時期を証明することができますか。2.「製品番号HP51630Z」のインクジェット記録用紙が、例えば平成3年、平成6年頃、または現在でも、製品スペックが変わっていないことを証明することができますか。」に対する申立人2の回答書によれば、「1.購入時期を証明することは出来ません。2.該当する商品が現在市販されていないので、証明することは出来ません。」とのことであった。 したがって、上記証拠によっては、本件発明1〜3が、その出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるとすることはできない。 (5)-2 29条1項3号について 申立人2は回答書に添付して提出した参考資料を根拠にして、本件発明1〜3は、申立人2が提出した参考資料2に記載された発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものであり特許を受けることができないものであると主張する。(取消理由を通知した。) (5)-2.1 申立人2が提出した参考資料 申立人2が提出した参考資料1は概ね以下のようなものであり、申立人2が参考資料2には、以下の事項が記載されている。 参考資料1:実験成績証明書(日本製紙株式会社商品研究所 柳内晃一 作成、平成14年8月12日付け) 特開平2-188287号公報の実施例1を追試し、62g/m2の支持体シートを及び、塗工量が片面2g/m2の記録シートを作成し、測定サンプルとした。支持体シートの顔料含有率:7.5%、内部結合強度:316g/cmの測定結果を得た。 参考資料2:特開平2-188287号公報 「実施例1 原料パルプとしてフリーネス(C.S.F)350mlのLBKP100部を使用し、填料としてカオリン(カオリナイト属、球形凝集体、平均一次粒子径0.1μ、比重2.2)を10部加え、更にサイズ剤として強化ロジンサイズ剤(コロパールCS、星光化学工業(株)製)0.15部、硫酸バンド1部を添加して抄紙機により抄紙して坪量62g/m2の支持体シートを得た。 次に、水約1264mlに超微粉末状シリカ(平均一次粒子径12nm、BET比表面積200m2/g)100部を分散させ、添加剤としてカチオン性樹脂(ポリジメチルジアリルアンモニウム塩、平均分子量約120,000)の28%水溶液35.7部、更にバインダーとしてポリビニールアルコールA(鹸化度約99%、平均重合度1700)の10%水溶液100部を加えて、全体として固形分8%水溶液の塗布液を調製する。この塗布液を、サイズプレス機を用いて、上述の支持体シートの上に片面約2g/m2(固形分)塗布して実施例1の記録シートを作成した。」(5頁右上欄10行〜左下欄10行) (5)-2.2 権利者が提出した実験成績証明書 これに対し権利者は意見書に添付して特開平2-188287号公報記載の実施例1についての実験成績証明書(三菱製紙株式会社総合研究所商品開発センター 妹尾季明 作成、平成14年11月13日付け)〔顔料含有率:8.0%(支持体)、内部結合強度:120g/cm、重色にじみ率:1.45、印字後うねり評価:C、地汚れ:Bの実験結果〕を提出して、「異議申立人の実験データと内部結合強度が大きく異なる結果となりました。異なる結果の1つの要因として、理由は定かではありませんが、特開平2-188287号公報の実施例1にできるだけ近い薬品で、現在入手可能なもので構成したことによるとも考えられます。」と意見書で主張した。この点は、実験成績証明書では、以下のように記載されている。「なお、ロジンサイズ剤と填料が同じものを使用することができなかった。強化ロジンサイズ剤として、星光化学工業(株)製のコロパールCSは、古いカタログがないため、参考資料1に示す最新のカタログ(2002.09)で確認したが、コロパールCSはカタログになく、現在販売されている同社製のコロパールS-50Xを使用した。また、カオリンとしては、特開平2-188287号公報に記載されるカオリナイト属、球形凝集体、平均一次粒子径0.1μ、比重2.2がなかったので、市販の1級カオリンを使用した。」 (5)-2.3 当審の判断 申立人2の結果と、権利者の結果とが大きく異なっている(特に内部結合強度の結果)。申立人2の実験成績証明書では、例えば、使用した薬品について特に記載がないが、権利者側の主張によれば、現在では特開平2-188287号公報記載の薬品には入手不可能なものがあると認められるが、申立人2の実験成績証明書にはそのことについて何ら記載がない。したがって、申立人2の追試実験は、特開平2-188287号公報記載の実施例1の忠実な追試であるとは認めることができないものである。 したがって、申立人2の回答書に添付して提出した実験成績証明書を根拠にしては、本件発明1〜3は、特開平2-188287号公報に記載された発明と同一であるとすることはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1〜3に係る特許を取り消すことができない。 また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 インクジェット記録シート (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】主成分として木材パルプと顔料からなる支持体上に、少なくとも1層以上のインク受理層が設けられたインクジェット記録シートに於いて、該支持体中に含有される顔料含有量が5〜35重量%であり、該記録シートの内部結合強度が150〜455g/cmであることを特徴とするインクジェット記録シート。 【請求項2】支持体に塗設されるインク受理層が、塗工量1〜10g/m2であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録シート。 【請求項3】支持体に含有される顔料含有量が、5〜30重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット記録シート。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、インクを用いて記録するインクジェット記録シートに関するものであり、特に、インクジェット記録後のシート表面のうねりとインクの滲み及び地汚れを著しく減少させたインクジェット記録シートに関するものである。 【0002】 【従来の技術】インクジェット記録方式は、種々の作動原理によりインクの微小液滴を飛翔させて紙などの記録シートに付着させ、画像・文字などの記録を行なうものであるが、高速、低騒音、多色化が容易、記録パターンの融通性が大きい、現像-定着が不要等の特徴があり、漢字を含め各種図形及びカラー画像等の記録装置として種々の用途に於いて急速に普及している。更に、多色インクジェット方式により形成される画像は、製版方式による多色印刷やカラー写真方式による印画に比較して、遜色のない記録を得ることが可能である。又、作成部数が少なくて済む用途に於いては、写真技術によるよりも安価であることからフルカラー画像記録分野にまで広く応用されつつある。 【0003】このインクジェット記録方式で使用される記録シートとしては、通常の印刷や筆記に使われる上質紙やコーテッド紙を使うべく、装置やインク組成の面から努力が成されてきた。しかし、装置の高速化・高精細化あるいはフルカラー化などインクジェット記録装置の性能の向上や用途の拡大に伴い、記録シートに対してもより高度な特性が要求されるようになった。即ち、当該記録シートとしては、印字ドットの濃度が高く色調が明るく鮮やかであること、インクの吸収が早く印字ドットが重なった場合に於いてもインクが流れ出したり滲んだりしないこと、印字ドットの横方向への拡散が必要以上に大きくなく、且つ周辺が滑らかでぼやけないこと等の高い画像再現性が要求される。 【0004】このような要求に対して、従来からいくつかの提案がなされてきた。例えば支持体表面にシリカ系顔料を主成分とした空隙層となるインク受理層を設けて、インク吸収性を向上させる工夫がなされてきた(特開昭52-9074号公報、同58-72495号公報等)。このインク受理層によってインク吸収性を上げ、高い印字ドット濃度やインク滲みがない印字ドットを得るために、特開昭55-51583号公報及び特開昭56-157号公報には、非膠質シリカ粉末を配合する提案がある。また、色彩性や鮮明性はインク中の染料のインク受理層に於ける分布状態にあることに着目し、染料成分を吸着する特定の剤を用いる提案(特開昭55-144172号公報)もなされてきた。 【0005】また、インクジェット記録後の問題として、印字後のシート表面にうねりの発生がある。印字後の記録シート表面にうねりが存在すると、画像再現性に優れても官能的に評価される美観の低下がある。このうねりは、浸透してきたインクによって、支持体層の木材パルプの伸縮に起因した凹凸の発生である。従って、支持体層へのインクの浸透を防止することがうねりを回避する対策となるが、このことは、インク受理層で多量のインクを吸収することと同意であり、インク受理層を増やすこと、インク受理層のバインダーに起因する塗層の剥離(粉落ち)が発生する。 【0006】しかし、インク受理層を増やさずに、インクの浸透を抑えることは、インク受理層や支持体の空隙量を減らすことと同意となり、その結果、インク受理層や支持体の空隙量が減ることによって、インク受理層や支持体へのインクの浸透が遅れ、インクが未乾燥となり、インクが重ねてドット印字される重色部では、ドット周辺にインクが溢れたり、インクジェット記録装置内でのシートの搬送中に、搬送装置周辺の機器と接触して、ドットが擦れ、地汚れと呼ばれるドットの擦れ汚れが発生する。この擦れ汚れが広範囲に発生すると非画線部が汚れて美観を損なうばかりか、極めて狭い範囲であると隣合うドットが接触し合い、ドットの肥大化に伴う鮮明性の低下や混色による色彩性の悪化が生じて、画像再現性を大きく劣ることになる。 【0007】特に、近年のビジュアル化指向の高まりから、インクジェット記録シートには、鮮明性や色彩性に対する要求ばかりでなく、印字後のシート平坦性の要求も強い。また、印字後のシート表面の平坦性は、インクジェット記録装置内の搬送性にも関わっており、印字によってうねりが発生し、そのうねりが大きいとインクジェット記録装置内での紙づまりを引き起こすこともある。このことから、印字後にインクの滲みがなく、シート表面のうねりが少ない美観に優れた特性が必要となっているが、これら相反した特性を向上させる難しさがある。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】かかる現状に鑑み、本発明の目的は、印字後のシート表面のうねりが少なく、鮮明性や色彩性に関係するインクの滲み及び地汚れを著しく減少させたコートタイプインクジェット記録シートを得ることにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、インクジェット記録シートについての種々の検討を重ねた結果、木材パルプと顔料を主成分として成る支持体に於いて、支持体中の顔料含有量と該支持体の内部結合強度を特定の範囲にすることにより、本発明の目的が達成させることを見い出した。即ち、本発明は、主成分として木材パルプと顔料からなる該支持体上に、少なくとも1層以上のインク受理層が設けられたインクジェット記録シートに於いて、該支持体中の顔料含有量が5〜35重量%であり、且つ該記録シートの内部結合強度が150〜455g/cmであることを特徴とするインクジェット記録シートを提供するものである。 【0010】本発明に係るインクジェット記録シートの内部結合強度は、木材パルプと顔料を主成分として構造化する支持体の厚さ方向に於ける強度を示すパラメータであるが、本発明者等は、この内部結合強度と顔料含有量が交絡して、印字後のうねりとインクの滲みに関係することを見い出した。 【0011】本発明に係る内部結合強度は、Tappi Useful Methods 403で測定されるものであり、通常は支持体を測定する場合が多い。しかし、支持体表面に塗工される際の塗工液中の溶媒が支持体中央部まで浸透し、支持体に構造変化をもたらすため、支持体の内部結合強度が変化することから、実際に印字される状態のシートで測定することが好ましい。この内部結合強度が低いと支持体は、外から加えられる力に対して変形し易いことを示し、高いと変形し難いことを意味する。印字後のシート表面のうねりは、支持体層まで浸透してきたインクによる木材パルプの伸縮が起因しており、この伸縮を抑えること、即ち内部結合強度を高くすることでこのうねりの回避が可能であることを見い出した。しかし、内部結合強度を上げるためには、バインダーや紙力増強剤と呼ばれるポリアクリルアミド系やポリアクリルアマイド系の添加剤の増量を必要とするが、このような方法による内部結合強度の向上にはサイズ性の向上が付随しており、サイズ性の向上によって、インクの滲みは向上するが、インク浸透の遅れによる上記した地汚れ等の問題が生じる。 【0012】本発明に係る支持体の内部結合強度は、木材パルプと木材パルプ及び木材パルプと顔料さらに顔料と顔料が組合わさった支持体の構造で決定される。また、インク浸透に関係するサイズ性は、浸透してくるインクと支持体との苛電状態で決定する化学的な側面と毛管浸透で示されるような支持体の空隙で決まる物理的な側面を有している。特に、内部結合強度とサイズ性は相反する関係で存在しており、例えば、支持体中の顔料含有量の増大は、木材パルプと木材パルプとの水素結合によって生じる強度の発現を低下させるために、内部結合強度を悪化させるが、顔料と顔料が作る構造により、空隙が増え上記した物理的な側面による浸透が促進する特徴を持つことになる。 【0013】このことから、本発明の目的を満足するためには、支持体中の顔料含有量と内部結合強度を高く設定してインクジェット記録シートを形成すれば良いと考えられる。しかし、内部結合強度と顔料含有量を高くしても、印字後のシート表面のうねりは良化するが、印字後にインクの浸透が遅れ、地汚れの発生することから、内部結合強度が150〜455g/cm、顔料含有量が5〜35重量%、好ましくは5〜30重量%の特定の範囲にあるときのみに、印字後のシート表面のうねりがなく、インクの滲みも少ないインクジェット記録シートの得られることが判った。 【0014】インク受理層の塗工量は特に限定されるものではないが、あまり少ないとノンコートタイプインクジェット記録シートと同様にインクの吸収性は良いものの、画像濃度・色彩性・鮮明性が低く、フェザリングが発生する。また、あまり塗工量が多いと塗工又は含浸後の乾燥工程における乾燥負荷が高まり、塗工又は含浸速度の低下に伴う生産性の低下ばかりでなく、高負荷での乾燥では、インク受理層を構成する塗被組成物中のバインダーが、蒸発する溶媒と共にインク受理層表面に移動して、その表面の空隙量を低下させるために、記録時に地汚れなどの発生がある。塗工量の多いインク受理層で生じる問題は、塗被組成物の濃度や乾燥工程の能力に影響されるが、望ましくは、1〜10g/m2である。また、本発明においては、バックコート層を設けても構わない。バックコート層の塗工量は特に限定されるものではなく、塗工又は含浸する装置や乾燥工程の能力に合わせた選択が望ましい。 【0015】本発明に用いられる支持体は、木材パルプと顔料を主成分として構成される。木材パルプとしては、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等のパルプを含み、必要に応じて従来公知の顔料やバインダー及びサイズ剤や定着剤、歩留まり向上剤、カチオン化剤、紙力増強剤等の各種添加剤を1種以上用いて混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤ抄紙機等の各種装置で支持体の製造が可能であり、酸性、中性、アルカリ性で抄造できる。また、該支持体にそのままインク受理層を設けても良いし、澱粉、ポリビニルアルコール等でのサイズプレスやアンカーコート層を設けた後にインク受理層を設けても良い。さらには、該支持体の平坦化をコントロールする目的で、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置を使用しても良い。 【0016】本発明に用いられる支持体及びインク受理層やバックコート層には、公知の白色顔料を1種以上用いることができる。例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。上記の中でもインク受理層中に主体成分として含有する白色顔料としては多孔性無機顔料が好ましく、多孔性合成非晶質シリカ、多孔性炭酸マグネシウム、多孔性アルミナ等があげられ、特に細孔容積の大きい多孔性合成非晶質シリカが好ましい。 【0017】また、接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、シリル変性ポリビニルアルコール等;無水マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス;アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体、アクリル酸及びメタクリル酸の重合体又は共重合体等のアクリル系重合体ラテックス;エチレン酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス;或いはこれらの各種重合体のカルボキシル基等の官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化合成樹脂系等の水性接着剤;ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂等の合成樹脂系接着剤が挙げられ、1種以上で使用される。 【0018】さらに、その他の添加剤として、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤等を適宜配合することもできる。 【0019】本発明の支持体に、インク受理層またはバックコート層を塗工及び含浸する方法は、各種ブレードコータ、ロールコータ、エアーナイフコータ、バーコータ、ロッドブレードコータ、ショートドウェルコータ、サイズプレス等の各種装置をオンマシンあるいはオフマシンで用いることができる。また、塗工又は含浸後には、マシンカレンダー、TGカレンダー、スーパーカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダーを用いて仕上げても良い。 【0020】本発明で云うインクとは、下記の着色剤、液媒体、その他の添加剤からなる記録液体である。着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、反応性染料或は食品用色素等の水溶性染料が挙げられる。 【0021】インクの溶媒としては、水及び水溶性の各種有機溶剤、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトンアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個のアルキレングリコール類;グリセリン、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類等が挙げられる。これらの多くの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルが好ましい。その他の添加剤としては、例えば、PH調節剤、金属封鎖剤、防カビ剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、湿潤剤、界面活性剤、及び防錆剤等が挙げられる。 【0022】本発明におけるインクジェット記録シートは、インクジェット記録シートとしての使用に留まらず、記録時に液状であるインクを使用するどのような記録シートとして用いてもかまわない。例えば、熱溶融性物質、染顔料などを主成分とする熱溶融性インクを樹脂フィルム、高密度紙、合成紙などの薄い支持体上に塗布したインクシートを、その裏面より加熱し、インクを溶融させて転写する熱転写記録用受像シート、熱溶融性インクを加熱溶融して微小液滴化、飛翔記録するインクジェット記録シート、油溶性染料を溶媒に溶解したインクを用いたインクジェット記録シート、光重合型モノマー及び無色または有色の染顔料を内包したマイクロカプセルを用いた感光感圧型ドナーシートに対応する受像シートなどが挙げられる。これらの記録シートの共通点は、記録時にインクが液体状態である点である。液状インクは、硬化、固化又は定着までに、記録シートのインク受理層の深さ方向又は水平方向に対して浸透又は拡っていく。上述した各種記録シートは、それぞれの方式に応じた吸収性を必要とするもので、本発明のインクジェット記録シートを上述した各種の記録シートとして利用しても何ら構わない。更に、複写機・プリンター等に広く使用されている電子写真記録方式のトナーを加熱定着する記録シートとして、本発明におけるインクジェット記録シートを使用しても構わない。 【0023】 【作用】本発明に係るインクジェット記録シートに於いて、支持体中の顔料含有量が5重量%未満で、該記録シートの内部結合強度が150g/cm未満では、印字後のシート表面にうねりが生じ、さらにはインクの滲みも悪化する。また、該記録シートの内部結合強度が500g/cmを超えると、印字後のシート表面にうねりは発生しないが、インクの厚さ方向への浸透が抑制されるために、インクは面方向に拡散してインク滲みの悪化が生じる。さらに顔料含有量の影響は少なくなり、インクの浸透及び拡散が遅いために、インクジェット記録装置内で地汚れが生じて、美観を損なう。このため内部結合強度の上限は455g/cm程度となる。 【0024】該支持体中の顔料含有量が5〜35重量%であり、且つ該記録シートの内部結合強度が150〜455g/cmであるときに、印字後のシート表面のうねりがなく、インクの滲みの少ないインクジェット記録シートが得られる。 【0025】 【実施例】以下に、本発明の実施例をあげて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。又、実施例に於いて示す「部」及び「%」は、特に明示しない限り重量部及び重量%を示す。測定及び評価結果は、特に明記しない限り、JIS P8111に規定される環境下で行った。 【0026】1)支持体中の顔料含有量 支持体の絶乾重量W0を秤量し、ルツボに秤量した支持体を入れ温度550℃で燃焼させて、ルツボ中の残物の重量Wを秤量後、下記数1で顔料含有量Pを算出した。単位は[%]である。 【0027】 【数1】P=(W/W0)×100[%] 【0028】2)インクジェット記録シートの内部結合強度 Tappi Useful Methods 403で規定される方法に従い、Internal Bond Tester(熊谷理機工業社製)を用いて測定した。尚、測定単位はg/cmと表示するが、g・cm/cm2と同意である。 【0029】3)重色にじみ率 重色にじみ率は、マゼンタインク単色ドット径(M)と、シアンインクとマゼンタインクの重色ドット径(CM)の比(CM/M)で、良否を判定した。CM/M値は1.0以上となり、1.0に近い値が、単色ドットと重色ドットの径が等しく、鮮明性と色彩性が良いことを示す。 【0030】4)うねり うねりは印字後のシート面を目視により下記基準で判定した。品質上問題とならないのは、A及びBの評価である。 A:うねりは判らず、美観を損なわない。 B:うねりは小さく、美観を損なうことはない。 C:うねりは大きく、美観が損なわれる。 【0031】5)地汚れ シアンインクとマゼンタインク及びイエローインクから成る重色ドットを印字後、すぐに印字面に白紙を押し当てて、白紙に転写されたインク状態を目視により下記基準で判定した。インクジェット記録装置内で地汚れとならないのは、A及びBの評価である。 A:インクの転写は確認されず、地汚れにはならない。 B:僅かにインクの転写が確認されるが、実用上地汚れになることはない。 C:インクの転写が白紙全面にあり、地汚れとなる。 【0032】実施例1 支持体は、LBKP(濾水度400mlcsf)80部とNBKP(濾水度450mlcsf)20部から成る木材パルプ100部に対して、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム/タルクの比率が10/10/10の顔料7部、市販アルキルケテンダイマー0.10部と分子量500万の市販のカチオン系アクリルアミド0.05部を調成後、長網抄紙機で抄造し、坪量90g/m2、顔料含有量5.2%の支持体を得て、カレンダー装置を用いて平坦化した。支持体表面にインク受理層とバックコート層を設けた後にカレンダー処理を行い、内部結合強度216g/cmである実施例1のインクジェット記録シートを得た。 【0033】インク受理層は、合成非晶質シリカ(ファンシールX37B:徳山曹達社製)100部とポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)50部、カチオン性染料定着剤(スミレーズレジン1001:住友化学工業社製)20部を調液し、固形分濃度13%で、エアーナイフコータにより塗工量5g/m2となるように支持体表面に塗工した。さらに、インク受理層の設けられた反対面に、バックコート層を設けた。バックコート層は、カオリン(ハイドラスパース:Huber社製)100部とポリビニルアルコール(Rポリマー1130:クラレ社製)5部及びスチレン・ブタジエン系ラテックス(0617:日本合成ゴム社製)15部を調液し、固形分濃度35%で、エアーナイフコータにより塗工量5g/m2となるようにインク受理層の反対面に塗工した。 【0034】実施例2 支持体は実施例1と同じ条件で得た後に、インクラインドサイズプレス機を用いて、澱粉(MS3800:日本食品加工社製)を3g/m2付着させた後、カレンダー装置を用いて平坦化した。その後、実施例1と同じインク受理層とバックコート層塗設し、カレンダー処理を行い、内部結合強度455g/cmである実施例2のインクジェット記録シートを得た。 【0035】実施例3 支持体は、LBKP(濾水度400mlcsf)80部とNBKP(濾水度450mlcsf)20部から成る木材パルプ100部に対して、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム/タルクの比率が10/10/10の顔料15部、市販アルキルケテンダイマー0.10部と分子量500万の市販のカチオン系アクリルアミド0.05部、市販のカチオン化澱粉1.0部と硫酸バンド0.5部をを調成後、長網抄紙機で抄造し、坪量90g/m2、顔料含有量10.2%の支持体を得て、カレンダー装置を用いて平坦化した。支持体表面に実施例1と同じインク受理層とバックコート層を設けた後にカレンダー処理を行い、内部結合強度280g/cmである実施例3のインクジェット記録シートを得た。 【0036】参考例1 支持体は、LBKP(濾水度350mlcsf)80部とNBKP(濾水度400mlcsf)20部から成る木材パルプ100部に対して、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム/タルクの比率が10/10/10の顔料60部、市販アルキルケテンダイマー0.05部と分子量700万の市販のカチオン系アクリルアミド0.05部、市販のカチオン化澱粉1.0部と硫酸バンド0.5部を調成後、長網抄紙機で抄造し、坪量90g/m2、顔料含有量35.5%の支持体を得て、カレンダー装置を用いて平坦化した。支持体表面にインク受理層とバックコート層を設けた後にカレンダー処理を行い、内部結合強度152g/cmである参考例1のインクジェット記録シートを得た。 【0037】参考例2 支持体は参考例1と同じ条件で得た後に、インクラインドサイズプレス機を用いて、澱粉(MS3800:日本食品加工社製)を4g/m2付着させた後、カレンダー装置を用いて平坦化した。その後、実施例1と同じインク受理層とバックコート層塗設し、カレンダー処理を行い、内部結合強度424g/cmである参考例2のインクジェット記録シートを得た。 【0038】比較例1 支持体は、LBKP(濾水度400mlcsf)80部とNBKP(濾水度450mlcsf)20部から成る木材パルプ100部に対して、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム/タルクの比率が30/35/35の顔料5部、市販アルキルケテンダイマー0.10部と分子量200万の市販のカチオン系アクリルアミド0.05部を調成後、長網抄紙機で抄造し、坪量90g/m2、顔料含有量3.9%の支持体を得て、カレンダー装置を用いて平坦化した。支持体表面にインク受理層とバックコート層を設けた後にカレンダー処理を行い、内部結合強度136g/cmである比較例1のインクジェット記録シートを得た。 【0039】比較例2 支持体は実施例1と同じ条件で得た後に、インクラインドサイズプレス機を用いて、澱粉(MS3800:日本食品加工社製)を5g/m2付着させた後、カレンダー装置を用いて平坦化した。その後、実施例1と同じインク受理層とバックコート層塗設し、カレンダー処理を行い、内部結合強度560g/cmである比較例2のインクジェット記録シートを得た。 【0040】比較例3 支持体は参考例1と同じ条件で得た後に、インクラインドサイズプレス機を用いて、澱粉(MS3800:日本食品加工社製)を6g/m2付着させた後、カレンダー装置を用いて平坦化した。その後、実施例1と同じインク受理層とバックコート層塗設し、カレンダー処理を行い、内部結合強度512g/cmである比較例3のインクジェット記録シートを得た。 【0041】表1に実施例1〜3及び比較例1〜3の評価結果を示す。 【0042】 【表1】 【0043】表1の如く、本発明に係る支持体中の顔料含有量を5〜35重量%、インクジェット記録シートの内部結合強度150〜455g/cmの特定の範囲にある実施例1〜3が、印字後のうねり及び地汚れが良好であり、重色にじみ率も低く画像の鮮明性や色彩性に優れていることが判る。これに対して、上記特定の範囲にない比較例1〜3は重色にじみ率が高く、さらには、内部結合強度の低い比較例1では印字後のうねりが悪く、内部結合強度が高い比較例2、3では、顔料含有量にあまり関係なく地汚れも悪化することが判る。特に、比較例2、3で生じた重色にじみ率の増大は、支持体厚さ方向への浸透が阻害されて、面方向への拡散によって生じたものと考えられる。 【0044】 【発明の効果】本発明によれば、インクジェット記録シートに於ける支持体中の顔料含有量と該記録シートの内部結合強度を特定の範囲にして、該記録シートを形成することによって、インクジェット記録後のシート表面のうねりとインクの滲み及び地汚れを著しく減少させることができる。 |
訂正の要旨 |
特許の請求範囲と実施例との整合を取るため、 a.特許公報【0036】段内の「実施例4」を『参考例1』に訂正する。 b.【0037】段内の「実施例5」を『参考例2』に、また、「実施例4」を『参考例1』に訂正する。 c.【0040】段内の「実施例4」を『参考例1』に訂正する。 d.【0041】段内の「実施例1〜5」を『実施例1〜3』に訂正する。 e.【0042】段の【表1】の 「【表1】 」を 『【表1】 』 に訂正する。 f.【0043】段内の「実施例1〜5」を『実施例1〜3』に訂正する。 |
異議決定日 | 2003-05-12 |
出願番号 | 特願平4-324359 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
YA
(B41M)
P 1 651・ 112- YA (B41M) P 1 651・ 113- YA (B41M) P 1 651・ 832- YA (B41M) P 1 651・ 121- YA (B41M) P 1 651・ 531- YA (B41M) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
矢沢 清純 |
特許庁審判官 |
植野 浩志 伏見 隆夫 |
登録日 | 2001-03-23 |
登録番号 | 特許第3172298号(P3172298) |
権利者 | 三菱製紙株式会社 |
発明の名称 | インクジェット記録シート |
代理人 | 滝田 清暉 |
代理人 | 下田 昭 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 柳井 則子 |