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審決分類 審判 全部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 訂正を認める。無効としない G09F
審判 全部無効 発明同一 訂正を認める。無効としない G09F
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効としない G09F
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない G09F
管理番号 1087161
審判番号 無効2002-35490  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-10-08 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-11-14 
確定日 2003-08-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3321776号発明「品質等表示ラベルの基布」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3321776号の特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)についての出願は、平成4年3月12日に特許出願され、平成14年6月28日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
(2)請求人株式会社青山は、平成14年11月14日付けで、本件発明についての特許を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする趣旨の審決を求める無効審判を請求し、平成15年6月3日付けで口頭審理陳述要領書及び第2口頭審理陳述要領書を、平成15年6月12日付けで上申書を、平成15年6月26日付けで第2上申書を、それぞれ提出した。
(3)これに対して、被請求人は、平成15年2月17日付けで答弁書及び訂正請求書を、平成15年6月3日付けで口頭審理陳述要領書を、平成15年6月23日付けで上申書を、それぞれ提出した。
(4)平成15年6月3日に第1回口頭審理が行われた。

2.請求人の主張及び提示した証拠方法
請求人は、証拠として、甲1、2号証を提示するとともに、以下に示す旨の無効理由1及び無効理由2を主張している。
〈無効理由1〉
(イ)平成15年2月17日付けの訂正請求書による訂正は、各訂正事項が新規事項の追加には該当せず、適正なものであると認める。(口頭審理陳述要領書第2頁1行〜18行、第1回口頭審理調書の「請求人 1」の項を参照)
(ロ)本件訂正発明と甲第1号証記載の発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】カレンダー加工された織物(織物の構成繊維の断面が多角形異型断面であるものを除く。)と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなり、該織物は、該カレンダー加工によって織物表面が平滑にされた、該合成樹脂膜表面に転写によって印字される品質等表示ラベルの基布。
【相違点1】本件訂正発明は、織物の構成繊維がアセテート繊維ではないのに対して、甲第1号証記載の発明は、織物の構成繊維がジアセテート繊維である点。
【相違点3】本件訂正発明は、カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされるのに対して、甲第1号証記載の発明は、カレンダー加工による構成繊維の移動ついて明らかではない点。
【相違点4】本件訂正発明は、カレンダー加工によって、織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフラジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっているのに対して、甲第1号証記載の発明は、カレンダー加工後の織物の通気度について明らかではない点。
(第1回口頭審理調書の「請求人 2」の項を参照)
(ハ)相違点3に関して、本件訂正発明の凸部を形成している構成繊維の移動による平滑と、甲第1号証記載の発明の構成繊維の移動によらない平滑との間には、加工方法に差異があるのみで、平滑な織物表面という加工結果には差異はない。すなわち、本件訂正発明の「織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、」は平滑な織物表面の構造を特定する構成ではない。また、仮に、上記の事項が平滑な織物表面の構造を特定する構成であるとしても、当該事項に関する本件特許の明細書の記載からは、特別の構造を意味するとは云えない。したがって、相違点3に関して、本件訂正発明及び甲第1号証記載の発明の間に実質的差異はない。(口頭審理陳述要領書第3頁下から7行〜第4頁4行、第1回口頭審理調書の「請求人 9」の項を参照)
(ニ)相違点4に関して、表示ラベルに使用される基布は、当然に通気度の値が20cc/cm2/秒以下のものであり、また、市販で入手可能な材料の中で甲第1号証の実施例記載の織物に近い構造の試料を用いて行った、参考資料4及び参考資料5で示す実験結果からみて、甲第1号証記載の織物の通気度の値は20cc/cm2/秒以下のものであり、したがって、相違点4に関して、本件訂正発明及び甲第1号証記載の発明の間に実質的差異はない。(口頭審理陳述要領書第第4頁5行〜10行、23行〜26行、第1回口頭審理調書の「請求人 7」の項を参照)
(ホ)相違点1、2をもたらす「除くクレーム」は、そもそも、構成要件からその下位概念に属する特定のものを除外することにより実質的差異が認められることによって進歩性ある発明の特許性を認める例外的取り扱いであり、したがって、その除外を認めたときは、先願発明との同一を脱するとしてもただちに進歩性を認定できることができる発明とはならない。しかし、本件発明と甲第1号証記載の発明で、除くクレームに関する相違点1以外の相違点3、4では実質的差異はなく、本件訂正発明が相違点1以外の構成で先願発明に当たる甲第1号証記載の発明と同一でないといえないから、除くクレームに関する相違点1は実質上の相違点ではない。(口頭審理陳述要領書第第4頁11行〜22行、第1回口頭審理調書の「請求人 3」の項を参照)
(ヘ)そうすると、本件発明は甲第1号証記載の発明と同一であり、したがって、本件発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであって、無効とすべきである。
〈無効理由2〉
(ト)本件訂正発明と甲第2号証記載の発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
【一致点】カレンダー加工された織物(織物の構成繊維がアセテート繊維であるものを除く。)と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなり、該織物は、該カレンダー加工によって織物表面が平滑にされた、該合成樹脂膜表面に転写によって印字される品質等表示ラベルの基布。
【相違点2】本件訂正発明は、織物の構成繊維が多角形異型断面のものでないのに対して、甲第2号証記載の発明は、経糸に略台形状の異型断面糸を使用する点。
【相違点3】本件訂正発明は、カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされるのに対して、甲第1号証記載の発明は、カレンダー加工による構成繊維の移動ついて明らかではない点。
【相違点4】本件訂正発明は、カレンダー加工によって、織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフラジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっているのに対して、甲第1号証記載の発明は、カレンダー加工後の織物の通気度について明らかではない点。
(第1回口頭審理調書の「請求人 2」の項を参照)
(チ)相違点3に関して、本件訂正発明の凸部を形成している構成繊維の移動による平滑と、甲第2号証記載の発明の繊維の熱軟化による平滑との間には、加工方法に差異があるのみで、平滑な織物表面という加工結果には差異はない。すなわち、本件訂正発明の「織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、」は平滑な織物表面の構造を特定する構成ではない。また、仮に、上記の事項が平滑な織物表面の構造を特定する構成であるとしても、当該事項に関する本件特許の明細書の記載からは、特別の構造を意味するとは云えない。したがって、相違点3に関して、本件訂正発明及び甲第2号証記載の発明の間に実質的差異はない。(口頭審理陳述要領書第6頁5行〜24行、第1回口頭審理調書の「請求人 9」の項を参照)
(リ)相違点4に関して、表示ラベルに使用される基布は、当然に通気度の値が20cc/cm2/秒以下のものであり、また、市販で入手可能な材料の中で甲第2号証の実施例記載の織物に近い構造の生地を用いて行った、参考資料4及び参考資料5で示す実験結果からみて、甲第2号証記載の織物の通気度の値は20cc/cm2/秒以下のものであり、したがって、相違点4に関して、本件訂正発明及び甲第2号証記載の発明の間に実質的差異はない。(口頭審理陳述要領書第第6頁25行〜第7頁12行、第1回口頭審理調書の「請求人 7」の項を参照)
(ヌ)相違点2をもたらす「除くクレーム」は、そもそも、構成要件からその下位概念に属する特定のものを除外することにより実質的差異が認められることによって進歩性ある発明の特許性を認める例外的取り扱いであり、したがって、その除外を認めたときは、先行技術との同一を脱することを前提に進歩性を認定できることができる発明でなければならない。しかし、本件発明と甲第2号証記載の発明で、除くクレームに関する相違点2以外の相違点3、4では実質的差異はなく、本件訂正発明が相違点2以外の構成で先行技術に当たる甲第2号証記載の発明との対比で進歩性があるといえないから、除くクレームに関する相違点2は実質上の相違点ではない。(口頭審理陳述要領書第第7頁13行〜23行、第1回口頭審理調書の「請求人 3」の項を参照)
(ル)甲第2号証第1頁右下欄6行〜14行の「しかしながら・・・現状であった。」の記載では、平滑性を得られない理由が不明であることから、上記記載に接した当業者が断面円形構造の繊維を用いることを断念するであろうとまでは云うことができない。(第1回口頭審理調書の「請求人 8」の項を参照)
(ヲ)そうすると、本件発明は甲第2号証記載の発明であるか、甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、本件発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、無効とすべきである。
〈請求人の提示した証拠方法〉
甲第1号証:特開平5-173486号公報
甲第2号証:特開平4-12838号公報

3.被請求人の主張
被請求人は、上記の無効理由1及び無効理由2に対して以下の旨を主張している。
(1)無効理由1に対して
(イ)本件訂正発明と甲第1号証記載の発明との一致点及び相違点は、上記のとおりであると認める。(第1回口頭審理調書「被請求人 1」の項を参照)
(ロ)相違点1、3、4は実質的な相違点である。(答弁書第5頁下から4行〜第6頁14行を参照)
(ハ)相違点4に関して、請求人の提出した平成15年6月3日付け口頭審理陳述要領書に添付の参考資料4、同日付け第2口頭審理陳述要領書に添付の参考資料5の試験結果は、使用する織物が対応する甲第1号証記載のものと構造等で異なるから、甲第1号証の追試結果ではなく、したがって、参考資料4、5の結果では、甲第1号証の織物の通気度の値が20cc/cm2/秒以下であるのか否か不明である。また、表示ラベルに使用される基布には、通気度の値が20cc/cm2/秒より大きいものも存在する。(第1回口頭審理調書「被請求人 4、5」の項を参照)
(ニ)したがって、本件発明は、甲第1号証記載の発明と同一ではない。
(2)無効理由2に対して
(ホ)本件訂正発明と甲第2号証記載の発明との一致点及び相違点は、上記のとおりであると認める。(第1回口頭審理調書「被請求人 1」の項を参照)
(ヘ)甲第2号証の記載において、多角形異型断面糸の加熱押圧時に交互配列構造の形成によって平滑性を向上させるとの記載からみて、断面円形構造の繊維を用いた場合に平滑性を得られない理由は明確であり、したがって、甲第2号証第1頁右下欄6行〜14行の「しかしながら・・・現状であった。」の記載は、上記記載に接した当業者に断面円形構造の繊維を用いることを断念させる阻害要因であるとともに、相違点2は実質的な相違点である。(答弁書第9頁16行〜第10頁3行、第11頁15行〜18行、第1回口頭審理調書「被請求人 6」の項を参照)
(ト)相違点3、4は実質的な相違点である。(答弁書第10頁4行〜第11頁10行を参照)
(チ)相違点4に関して、請求人の提出した平成15年6月3日付け口頭審理陳述要領書に添付の参考資料4、同日付け第2口頭審理陳述要領書に添付の参考資料5の試験結果は、使用する織物が対応する甲第2号証記載のものと構造等で異なるから、甲第2号証の追試結果ではなく、したがって、参考資料4、5の結果では、甲第2号証の織物の通気度の値が20cc/cm2/秒以下であるのか否か不明である。また、表示ラベルに使用される基布には、通気度の値が20cc/cm2/秒より大きいものも存在する。(第1回口頭審理調書「被請求人 4、5」の項を参照)
(リ)したがって、本件発明は、甲第2号証記載の発明ではないし、また、甲第2号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4.訂正の適否
(1)訂正の内容
被請求人が求めている訂正の内容は以下のとおりである。
〈訂正事項a〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載される、
「カレンダー加工された織物 と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりな ることを特徴とする、該合成樹脂膜表面に転写によって印字される品質等表示ラベルの基布。」を、
「カレンダー加工された織物(織物の構成繊維がアセテート繊維であるものを除く。また、織物の構成繊維の断面が多角形異型断面であるものを除く。)と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなり、該織物は、該カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされ、この結果、該織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフランジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっていることを特徴とする、該合成樹脂膜表面に転写によって印字される品質等表示ラベルの基布。」と訂正する。
なお、下線は訂正個所を明確にするために、当審で付したものである。
〈訂正事項b〉
本件特許明細書の段落【0007】に記載される、
「カレンダー加工された織物と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなること」を、
「カレンダー加工された織物(織物の構成繊維がアセテート繊維であるものを除く。また、織物の構成繊維の断面が多角形異型断面であるものを除く。)と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなり、該織物は、該カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされ、この結果、該織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフランジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっていること」と訂正する。
〈訂正事項c〉
本件特許明細書の段落【0008】に記載される「従来公知のポリエステル系合成繊維,ポリアミド系合成繊維,アセテート系半合成繊維等の各種合成繊維」を「従来公知のポリエステル系合成繊維,ポリアミド系合成繊維等の各種合成繊維」と訂正する。
〈訂正事項d〉
本件特許明細書の段落【0010】に記載される「通気度の値が20cc/cm2/秒以下となることが多い。」を「通気度の値が20cc/cm2/秒以下となる。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aのうち、織物の構成繊維がアセテート繊維及び多角形異型断面であるものを除くとの事項は、特許法第29条の2に係る先願明細書(甲第1号証)に記載された事項及び特許法第29条第1項第3号に係る先行技術としての頒布刊行物(甲第2号証)に記載された事項のみを請求項1に記載した事項から除外する、いわゆる「除くクレーム」である。上記先願明細書、先行技術に係る記載事項は事実に係ることであり、このような明確な事項のみを請求項に記載した事項から除外することは、当該記載した事項の枠組みに変更をもたらさないごく軽微な補正であること、また、進歩性はあるが先願明細書又は先行技術と重複するために新規性等がないような発明について、このような補正を認めないこととした場合には発明の適正な保護が図れないことから、当該「除くクレーム」に係る事項は新規事項に該当しないと云うべきである。また、「カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされ、この結果、該織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフランジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっている」は、本件特許明細書の段落【0009】、【0010】に記載されている。そして、訂正事項aは、織物の構成繊維、カレンダー加工の構成繊維に及ぼす作用、及びカレンダー加工後の織物の通気度を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項のb、c、dは、上記訂正事項aに付随的に生じる記載の不備を解消するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上の通りであるから、上記訂正は、平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書き、及び、同条第5項において準用する平成6年法改正前の特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

5.本件発明
上記4.で示したように上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、
『カレンダー加工された織物(織物の構成繊維がアセテート繊維であるものを除く。また、織物の構成繊維の断面が多角形異型断面であるものを除く。)と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなり、該織物は、該カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされ、この結果、該織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフラジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっていることを特徴とする、該合成樹脂膜表面に転写によって印字される品質等表示ラベルの基布。』にあるものと認める。
なお、請求項1には「フランジール法」と記載されているが、JIS L 1096に規定された通気度試験法は「フラジール形法」であることから、「フランジール法」は「フラジール法」の誤記と認め、本件発明を上記のように認定した。「フランジール」が「フラジール」の誤記であることは、請求人、被請求人ともに認めている(第1回口頭審理調書「請求人 4」、「被請求人 3」の項を参照)。

6.甲第1、2号証記載の発明
(1)甲第1号証には、
(イ)「【産業上の利用分野】本発明は,繊維製品の品質表示や取扱い表示に用いるプリントネーム用ラベルの改良に関するものである。」(段落【0001】)、
(ロ)「基布を熱カレンダー加工してウレタン樹脂コーティング後の表面の平滑性を向上させることが印字性を高めるうえで効果的である。」(段落【0006】)、
(ハ)「(実施例1)精練後,蛍光染料で増白されたジアセテート繊維の5枚朱子織物(経糸B75d/f,緯糸B120d/f,経糸密度265本/インチ,緯糸密度87本/インチ)を熱カレンダー加工して表面を平滑化した。この織物に・・・ウレタン樹脂付着量を種々変更して多層コーティング加工し,120℃で10分間熱処理した。得られた布帛を35mm幅に熱融着カットし,40mm幅の油性インクリボンテープ[(株)リコー製]を用い,熱転写印字機[(株)高木精密製]で25Vの印加電圧をかけ,2mm文字を熱転写印字して各種評価を行った。」(段落【0014】)と記載されている。
上記の摘記事項(イ)〜(ハ)からみて、特願平3-345329号の願書に最初に添付した明細書には、
『熱カレンダー加工されたジアセテート繊維の5枚朱子織物と、該織物の熱転写される面に多層コーティングされたウレタン樹脂コーティングとよりなり、該織物は、該熱カレンダー加工によって織物表面を平滑化した、該ウレタン樹脂コーティング表面に熱転写によって印字される品質表示や取扱い表示用いるプリントネーム用ラベルの基布』の発明(以下、「甲第1号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)甲第2号証には、
(ニ)「本発明は、商品の品質表示などに使用される印刷用テープなどの印刷用シート状物に関する。」(第1頁左下欄12行〜13行)、
(ホ)「[従来の技術]従来、商品の品質表示などに使用される織布を基材とする印刷用シート状物は、例えば緯糸および経糸として、断面円形構造を有するマルチフィラメント糸を使用した0.1〜0.2mm程度の極めて薄手の織布・・・の少なくとも一方の面を、該面の平滑度向上のため繊維の熱軟化点近傍温度で加熱押圧してやるか、またはこの押圧面上に直接樹脂を溶融押し出して貼着させるか、もしくは樹脂溶液を直接塗布して乾燥させることにより得られていた。・・・しかしながら、前記に示すような印刷用シート状物は、織布の構成繊維である緯糸および経糸として、断面円形構造を有するマルチフィラメント糸を使用しているため、被印刷面の平滑性を向上させるために該面を繊維の熱軟化点近傍温度で加熱押圧して面修正しても被印刷面の平滑度が向上し難く、また平滑度を向上させるために押圧面上に樹脂層を積層して被印刷面を形成しても充分な平滑性が得られないのが現状であった。」(第1頁左下欄14行〜同頁右下欄14行)、
(ヘ)「本発明は、少なくとも経糸に多角形異型断面糸を使用した織布の少なくとも一方の面を加熱押圧して面修正したのち、該面に、樹脂層を・・・積層してなる印刷用シート状物を提供するものである。・・・本発明にいう多角形異型断面糸とは、繊維断面の形状が略三角形、略四角形または略台形など、すなわち繊維断面の形状が円形(楕円形も含む)でない構造のものをいい、・・・。これは、織布面の加熱押圧時、該面で交互配列構造を形成し、被印刷面の平滑性を向上させるからである。」(第2頁左上欄15行〜同頁右上欄13行)、
(ト)「本発明にいう印刷とは、・・・複写、転写なども含む広い概念であり、狭義の印刷に限定するものではない。」(第4頁左上欄2行〜4行)、
(チ)「実施例1 経糸に繊維断面が略台形状の異型断面糸で50デニール/38フィラメントのマルチフィラメント糸を使用し、緯糸に75デニール/32フィラメントの繊維断面が円形のマルチフィラメント糸を使用した2/1綾織り生地・・・に、熱カレンダーを用いて温度160℃、クリアランス0.05mmで面修正した。・・・次いで、熱カレンダーを用い、160℃の温度で前記ポリウレタン樹脂層を面修正した前記ポリエステル生地に加熱圧着した。得られたものの表面平滑性は、偏差値0.45μmであり、極微細な印刷が正確に施されるものであった。」(第4頁左上欄8行〜同頁右上欄9行)と記載されている。
上記摘記事項(ニ)、(へ)、(ト)、(チ)からみて、甲第2号証には、
『160℃で熱カレンダー加工された、縦糸に繊維断面が略台形状の異型断面糸でマルチフィラメント糸を使用し、緯糸に繊維断面が円形のマルチフィラメント糸を使用した2/1綾織りの厚み0.1mmのポリエステル生地と、該生地の少なくとも片面にコーティング・乾燥されたポリウレタン樹脂とよりなり、該生地は、該熱カレンダー加工によって、温度160℃、クリアランス0.05mmで面修正し、加熱押圧面で交互配列構造を形成して被印刷面の平滑性を向上させた、該ポリウレタン樹脂表面に転写等によって印刷される品質表示などの使用される印刷用シート状物』の発明(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

7.無効理由1について
(1)本件発明と甲第1号証記載の発明との対比
本件発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、後者の「熱カレンダー加工」は、その技術的意義からみて、前者の「カレンダー加工」に相当し、以下同様にして、後者の「ジアセテート繊維の5枚朱子織物」は前者の「織物」に、後者の「織物の熱転写される面」は前者の「織物の少なくとも片面」に、後者の「多層コーティングされた」は前者の「接合された」に、後者の「ウレタン樹脂コーティング」は前者の「合成樹脂膜」に、後者の「熱転写」は前者の「転写」に、後者の「品質表示や取扱い表示用いるプリントネーム用ラベル」は前者の「品質等表示ラベル」に、それぞれ相当する。
してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉カレンダー加工された織物と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなり、該織物は、該カレンダー加工によって織物表面が平滑にされた、該合成樹脂膜表面に転写によって印字される品質等表示ラベルの基布。
〈相違点1〉本件発明は、織物の構成繊維がアセテート繊維ではないのに対して、甲第1号証記載の発明は、織物の構成繊維がジアセテート繊維である点。
〈相違点2〉本件発明は、織物の構成繊維が多角形異型断面のものでないのに対して、甲第1号証記載の発明は、構成繊維の断面形状が明らかではない点。
〈相違点3〉本件発明は、カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされるのに対して、甲第1号証記載の発明は、カレンダー加工による構成繊維の移動について明らかではない点。
〈相違点4〉本件発明は、カレンダー加工によって、織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフラジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっているのに対して、甲第1号証記載の発明は、カレンダー加工後の織物の通気度について明らかではない点。

(2)当審の判断
相違点3につき検討するに、本件発明において、「織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられ」たことは、カレンダー加工後の平滑化された織物表面の繊維分布構造を表現するものであるから、カレンダー加工後の平滑化された織物の構造を特定するものといえる。したがって、「本件訂正発明の凸部を形成している構成繊維の移動による平滑と、甲第1号証記載の発明の構成繊維の移動によらない平滑との間には、加工方法に差異があるのみで、平滑な織物表面という加工結果には差異はなく、本件訂正発明の「織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、」は平滑な織物表面の構造を特定する構成ではない。」とする請求人の主張(「請求人の主張」の(ハ))は採用できない。
一方、甲第1号証記載の発明においては、カレンダー加工後の平滑化された織物がどのような構造になっているのか特定されていない。また、カレンダー加工によって織物が平滑化されることは、請求人が参考資料1、2として提出した特開昭54ー147289号公報、特開平1ー151654号公報、及び、甲第2号証の記載からみて、本件特許の出願前に周知の事項であったものと認められるものの、織物が平滑化される際の繊維の構造には種々の態様があることも窺える。
してみると、甲第1号証記載の発明は、相違点3に係る本件発明の構成を備えている、ということはできない。
また、甲第1号証記載の発明が相違点1に係る本件発明の構成を備えていないことは明らかである。
したがって、相違点2、4について検討するまでもなく、本件発明は甲第1号証記載の発明と同一である、とすることはできない。

8.無効理由2について
(1)本件発明と甲第2号証記載の発明との対比
本件発明と甲第2号証記載の発明とを対比すると、後者の「160℃で熱カレンダー加工」は、その技術的意義からみて、前者の「カレンダー加工」に相当し、以下同様にして、後者の「コーティング・乾燥」は前者の「接合」に、後者の「ポリウレタン樹脂」は前者の「合成樹脂膜」に、後者の「転写等によって印刷される」は前者の「転写によって印字される」に、後者の「品質表示などの使用される印刷用シート状物」は前者の「品質等表示ラベルの基布」に、それぞれ相当する。また、後者の「縦糸に繊維断面が略台形状の異型断面糸でマルチフィラメント糸を使用し、緯糸に繊維断面が円形のマルチフィラメント糸を使用した2/1綾織りの厚み0.1mmのポリエステル生地」は前者の「織物(織物の構成繊維がアセテート繊維であるものを除く。)」に相当する。
してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉カレンダー加工された織物(織物の構成繊維がアセテート繊維であるものを除く。)と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなり、該織物は、該カレンダー加工によって織物表面が平滑にされた、該合成樹脂膜表面に転写によって印字される品質等表示ラベルの基布。
〈相違点2’〉本件訂正発明は、織物の構成繊維が多角形異型断面のものでないのに対して、甲第2号証記載の発明は、経糸に略台形状の異型断面糸を使用する点。
〈相違点3’〉本件訂正発明は、カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされるのに対して、甲第2号証記載の発明は、カレンダー加工によって多角形異型断面糸が加熱押圧面で交互配列構造を形成することによって織物表面が平滑にされるものであって、カレンダー加工による構成繊維の移動について明らかではない点。
〈相違点4〉本件訂正発明は、カレンダー加工によって、織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフラジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっているのに対して、甲第1号証記載の発明は、カレンダー加工後の織物の通気度について明らかではない点。

(2)当審の判断
相違点2’、3’につき検討するに、本件発明において、「織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられ」たことは、カレンダー加工後の平滑化された織物表面の繊維分布構造を表現するものであるから、カレンダー加工後の平滑化された織物の構造を特定するものといえる。そして、本件発明は、織物の構成繊維として多角形異型断面でないものを使用している。
一方、甲第2号証記載の発明は、多角形異型断面糸を用いるものであって、該多角形異型断面糸が、カレンダー加工後の平滑化された織物の加熱押圧面で交互配列構造となっており、甲第2号証記載の発明におけるカレンダー加工後の平滑化された織物の構造が、本件発明のそれと同一であるとはいえない。
また、相違点4について検討するに、請求人の提出した平成15年6月3日付け口頭審理陳述要領書に添付の参考資料4、同日付け第2口頭審理陳述要領書に添付の参考資料5で使用する織物は、ともに繊度が約70デニールのポリアミド繊維である経糸と緯糸とを平織りで織った物であって、甲第2号証で唯一具体的に示されている、繊度50デニールのポリエステル繊維からなる経糸と、繊度75デニールのポリエステル繊維からなる緯糸とを綾織りで織った甲第2号証記載のポリエステル生地とは、繊維の種類、糸の繊度及び織り方で大きく異なることから、当該参考資料4、5の実験結果は甲第2号証記載の発明の追試結果と云えず、また、表示ラベルに使用される基布はその通気度の値が当然に20cc/cm2/秒以下であるとする根拠も見出せない。してみると、甲第2号証記載の発明は相違点4に係る本件発明の構成を備えている、ということはできない。
したがって、本件発明は甲第2号証記載の発明である、とすることはできない。
そして、甲第2号証の「[従来の技術]・・・しかしながら、・・・織布の構成繊維である緯糸および経糸として、断面円形構造を有するマルチフィラメント糸を使用しているため、被印刷面の平滑性を向上させるために該面を繊維の熱軟化点近傍温度で加熱押圧して面修正しても被印刷面の平滑度が向上し難く、また平滑度を向上させるために押圧面上に樹脂層を積層して被印刷面を形成しても充分な平滑性が得られないのが現状であった。」との記載(上記の摘記事項(ホ)を参照)(第1頁左下欄14行〜同頁右下欄14行)は、「本発明にいう多角形異型断面糸とは、繊維断面の形状が略三角形、略四角形または略台形など、すなわち繊維断面の形状が円形(楕円形も含む)でない構造のものをいい、・・・。これは、織布面の加熱押圧時、該面で交互配列構造を形成し、被印刷面の平滑性を向上させるからである。」(上記の摘記事項(ヘ)を参照)との記載も併せてみると、断面円形構造の繊維を用いた場合には、交互配列構造を形成できないから、平滑性を得られないことを示しているとするのが相当である。してみると、甲第2号証の上記記載は、その記載に接した当業者に、織物表面を平滑なものとするためには、断面円形構造の繊維を用いることを妨げさせるもので、いわゆる阻害要因があると云うべきである。
してみると、本件発明は、甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることもできない。

9.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
品質等表示ラベルの基布
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 カレンダー加工された織物(織物の構成繊維がアセテート繊維であるものを除く。また、織物の構成繊維の断面が多角形異型断面であるものを除く。)と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなり、該織物は、該カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされ、この結果、該織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフランジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっていることを特徴とする、該合成樹脂膜表面に転写によって印字される品質等表示ラベルの基布。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、各種衣料の裏側やポケットの内側に縫着される品質等表示ラベルの基布に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
各種衣料に縫着されている品質等表示ラベルは、その衣料の素材,クリーニング適性,サイズ等を表示するものである。衣料の素材等の品質は、織物製の基布(一般的にはテープ状基布)上に、各種の印刷手段で印刷によって記録される。近年、この印刷手段として、サーマルヘッド方式が採用されることが多くなっている。サーマルヘッド方式は、熱溶融性インクが含浸された印字媒体に、所定の箇所が加熱されたサーマルヘッドが押し当てられ、印字媒体の所定箇所の熱溶融性インクを溶融させ、そしてこの溶融したインクを織物製の基布に転写するというものである。
【0003】
従って、このサーマルヘッド方式を利用して印刷する場合、基布に凹凸があると、凸部にのみインクが転写され、凹部にはインクが転写されないということがあった。即ち、印字に欠損箇所が生じるのである。特に、品質等表示ラベルの場合には、基布が織物製であるため、凹凸が激しく、鮮明な印字が行なえないということがあった。
【0004】
このため、織物製の基布の表面に、インクを吸収しやすい微多孔性合成樹脂膜又は無孔性合成樹脂膜(以下、両者をまとめて「合成樹脂膜」と言う。)を設け、この合成樹脂膜によって基布の凹凸を少なくすることが、行なわれている。合成樹脂膜を設けることにより、印字性能は向上するが、それでも満足できるものではなかった。即ち、目視によって印字を読み取る場合には、ある程度満足しうるものであるが、光学的にこの印字を読み取る場合には、しばしば読み取り不能になる場合があった。これは、近年、品質表示に加えて商品管理(主に在庫管理,品質管理)用にバーコード印刷が多用されるようになり、品質等表示ラベルを縫着した衣料について、直接、光学的にバーコード表示を読み取って、その商品の選別、仕分け又は入出荷管理をすることが行なわれているからである。
【0005】
織物製の基布の場合には、紙等の材料で構成された基布に比べて、凹凸が激しく、従って、合成樹脂膜を設けても、光学的に読み取り可能となる程度の平滑性が得られにくいのである。このようなことから、合成樹脂の塗布を複数回繰り返し、合成樹脂膜の厚みを厚くして、織物製基布の凹凸を完全に隠蔽してしまうような試みもなされている。しかし、合成樹脂の塗布を複数回繰り返すことは、織物製基布の製造コストが高くなるという欠点が新たに生じる。また、合成樹脂膜の厚みを厚くすると、衣料に品質等表示ラベルをミシンで縫着する場合に、ミシン針の貫通がスムーズでなくなり、縫着効率も低下するという欠点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、使用する織物製の基布自体の平滑性を向上させることにより、合成樹脂の塗布を従来どおりに行なっても、光学的に読み取り可能な程度の印字ができる、平滑性を基布に付与しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、カレンダー加工された織物(織物の構成繊維がアセテート繊維であるものを除く。また、織物の構成繊維の断面が多角形異型断面であるものを除く。)と、該織物の少なくとも片面に接合された合成樹脂膜とよりなり、該織物は、該カレンダー加工によって、織物表面の凸部を形成している構成繊維が、織物表面の凹部に移動せしめられて、織物表面が平滑にされ、この結果、該織物は、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフランジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となっていることを特徴とする、該合成樹脂膜表面に転写によって印字される品質等表示ラベルの基布に関するものである。
【0008】
本発明で使用する織物の素材としては、従来公知のポリエステル系合成繊維,ポリアミド系合成繊維等の各種合成繊維を用いることができる。特に、各種合成繊維の中でも、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド系合成繊維が好適に使用しうる。これは、合成樹脂膜の素材として、ポリアミド系樹脂が使用されることが多いので、この合成樹脂膜との親和性や密着性の良好なポリアミド系合成繊維が使用されるのである。ポリアミド系合成繊維は、短繊維であっても長繊維であってもよいが、一般的に長繊維であるのが好ましい。この理由は、短繊維を使用して得られる織物に比べて、長繊維を使用して得られる織物の方が平滑性に優れているからである。また、得られる織物の引張強力も高いからである。織物の組織も、従来公知の各種の組織を使用することができる。例えば、タフタ,ツイル,サテン等が採用されるが、特に、タフタを使用するのが好ましい。この理由は、織組織の中でも、タフタが最も平滑性に優れ、且つ引張強力も高く、更に低目付のものを得られるからである。
【0009】
以上の如き織物は、その織組織に起因して、紙や合成樹脂製フィルムに比べると、表面の凹凸が激しい。従って、この織物にカレンダー加工を施す。カレンダー加工は、加熱された一対の平滑ロール間に織物を導入することによって、織物を厚み方向に加圧して、表面の凸部を凹部に押し込めるのである。即ち、織物表面の凸部を形成している構成繊維を、織物表面の凹部に移動させることによって、織物表面を平滑にするものである。このカレンダー加工の条件としては、平滑ロールの温度は150〜160℃程度であり、平滑ロール間の線圧は6〜7kg/cm2程度であるのが、好ましい。
【0010】
このような表面が平滑な織物は、物性的には、JIS L 1096に規定された通気度試験法のフランジール法で測定した通気度の値が20cc/cm2/秒以下となる。通気度がこのように低いということは、織物を構成する経糸及び緯糸間の間隙に構成繊維が移動しているということである。即ち、一般的に織物の凹部となる、経糸及び緯糸相互間の間隙に、織物の凸部を形成している繊維が移動しているということであり、平滑性に優れているということである。通気度の値が20cc/cm2/秒を超えると、織物の経糸及び緯糸相互間の間隙、即ち凹部が存在し、平滑性が低下するので、好ましくない。
【0011】
以上のように、表面が平滑化された織物の、片面又は両面に微多孔性又は無孔性の合成樹脂膜を接合する。合成樹脂膜の材料としては、従来公知の材料を使用することができる。特に、ポリアミド系樹脂又はポリウレタン系樹脂を使用するのが好ましい。これは、織物の構成繊維としてポリアミド系繊維を使用する場合が多いので、織物との親和性及び密着性を良好にするためである。微多孔性合成樹脂膜を設ける手段としては、ポリアミド系樹脂等の合成樹脂と、炭酸カルシウム等の無機粒子とが均一に混合された溶液中に、織物を浸漬する。具体的には、ポリアミド系樹脂を塩化カルシウム/メタノール系の混合溶媒に溶解させ、更に可塑剤,耐候剤,酸化防止剤を適宜加えた溶液中に織物を浸漬する。この浸漬によって、織物の両面に混合溶液が塗布される。その後、凝固浴に、混合溶液が塗布された織物を導入し、合成樹脂を凝固させる。凝固させた後、洗浄浴に導入して、残存した混合溶媒を洗い落とす。そうすると、混合溶媒が洗い落とされた箇所に微細な孔が形成され、微多孔性の合成樹脂膜が形成されるのである。この浸漬塗布手段による場合には、織物の両面に微多孔性合成樹脂膜が接合されることになるが、例えばコーターを使用する塗布手段の場合には、織物の片面にのみ微多孔性合成樹脂膜を接合することも可能である。なお、合成樹脂膜が微多孔性となっているのは、サーマルヘッド方式で印字した場合、熱溶融性インクを吸収しやすくし、ヘッドにクッション効果を与え、鮮明な印字を得るためである。また、無孔性合成樹脂を設ける手段としては、ポリウレタン系樹脂溶液をコーター等で塗布し、乾燥すればよい。
【0012】
以上のようにして得られた、品質等表示ラベルの基布は、一般的にサーマルヘッド方式によって印字しやすいように、テープ形状に裁断される。なお、合成樹脂膜が接合された織物に、カレンダー加工を施して、品質等表示ラベルの基布としてもよい。このカレンダー加工によって、合成樹脂膜の表面が平滑化されると共に、織物と合成樹脂膜とが緊密に接合せしめられるのである。そして、この基布には、衣料の素材等の品質及びその他の表示が印字されて、品質等表示ラベルとなる。この品質等表示ラベルは、衣料の裏側やポケットの内側に縫着されて、使用されるのである。
【0013】
【作用及び発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る品質等表示ラベルの基布は、カレンダー加工された織物を使用して、製造されるものである。即ち、織物表面が平滑性に優れているので、この表面に更に合成樹脂膜を接合して基布を得ると、この基布表面の平滑性も更に向上する。従って、このように凹凸の少ない、平滑な基布を用いて、サーマルヘッド方式等で衣料の素材等の品質を印字すると、この印字は欠損が少なく、非常に鮮明なものになる。依って、バーコード印刷等を施して、光学的読み取り手段で印字を読み取っても、誤読や読み取り不能となることが少ないという効果を奏する。
【0014】
また、織物表面が平滑であるため、合成樹脂膜の厚さを厚くして、得られる基布の表面の平滑化を図る必要が少なくなる。従って、合成樹脂の使用量や合成樹脂の塗布回数が少なくてすみ、基布を廉価に製造しうるという効果も奏する。更には、合成樹脂膜の厚さを薄くできるため、この基布を使用した品質等表示ラベルを衣料に縫着する際に、縫着しやすく、縫着効率を向上しうるという効果をも奏する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-07-01 
結審通知日 2003-07-04 
審決日 2003-07-15 
出願番号 特願平4-89649
審決分類 P 1 112・ 113- YA (G09F)
P 1 112・ 161- YA (G09F)
P 1 112・ 121- YA (G09F)
P 1 112・ 831- YA (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁木 浩  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 松縄 正登
林 茂樹
登録日 2002-06-28 
登録番号 特許第3321776号(P3321776)
発明の名称 品質等表示ラベルの基布  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 松永 宣行  
代理人 奥村 茂樹  

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