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審決分類 審判 訂正 特29条の2 訂正する H01S
審判 訂正 2項進歩性 訂正する H01S
管理番号 1103512
審判番号 訂正2004-39145  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-01-06 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-06-21 
確定日 2004-07-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3395631号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3395631号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
特許第3395631号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、先の出願(特願平9-99494号)に基づく優先権を主張して平成10年3月3日に出願され、平成15年2月7日に設定登録され、その後、奥田誠より特許異議の申立てがなされて、異議2003-72509号として審理され、平成16年3月8日付けで、「特許第3395631号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定がなされたところ、該決定を取り消す旨の訴え(平成16年(行ヶ)第165号)が東京高裁に提起され、その後平成16年5月27日に訂正審判2004-39111が請求され、さらに平成16年6月21日に本件訂正審判が請求された。
なお、上記訂正審判2004-39111は平成16年7月9日付けで取り下げられた。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正事項
1)訂正事項1
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を
「【請求項1】異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなり、結晶欠陥が107個/cm2以下である窒化物半導体を基板とし、
その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、
その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板M面(1-100)の劈開面と一致する劈開面であって、
かつ該窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されていることを特徴とする窒化物半導体素子。」と訂正する。
2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4及び7を以下の通り訂正する。
「【請求項4】 窒化物半導体層と異なる材料よりなる異種基板上部に、表面に窒化物半導体が成長しないか、若しくは成長しにくい性質を有する材料から成る保護膜を部分的に形成し、窒化物半導体をその保護膜上部にまで成長させて、窒化物半導体基板を作製する第1の工程と、窒化物半導体基板上部に活性層を含む素子構造となる窒化物半導体層を積層する第2の工程と、異種基板上部に成長された窒化物半導体基板より、異種基板を除去する第3の工程と、窒化物半導体基板のM面(1-100)で活性層を含む窒化物半導体層を劈開する第4の工程とを備えることを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。」
「【請求項7】 前記第1の工程は、C面(0001)を主面とするサファイア基板上部にそのサファイア基板のA面(11-20)に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する工程、若しくはA面(11-20)を主面とするサファイア基板上部にそのサファイア基板のR(1-102)面に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する工程、又は(111)面を主面とするスピネル基板上部にそのスピネル基板の(110)面に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する工程の内のいずれか1種の工程を含み、前記保護膜上部に窒化物半導体を成長させることを特徴とする請求項4乃至6の内のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。」
3)訂正事項3
明細書の段落0007の「【0007】【課題を解決するための手段】本発明の窒化物半導体素子は、結晶欠陥が107個/cm2以下である窒化物半導体を基板とし、その基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板M面(11-00)の劈開面と一致する劈開面であって、かつ該基板下部にはn電極が形成されていることを特徴とする。」を、
「【0007】【課題を解決するための手段】本発明の窒化物半導体素子は、異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなり、結晶欠陥が107個/cm2以下である窒化物半導体を基板とし、その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板M面(1-100)の劈開面と一致する劈開面であって、かつ該窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されていることを特徴とする。」に訂正する。
4)訂正事項4
明細書の段落0009の「M面(11-00)」を「M面(1-100)」に訂正する。
5)訂正事項5
明細書の段落0011の「A面(112-0)」を「A面(11-20)」に、「R(11-02)面」を「R(1-102)面」に訂正する。
6)訂正事項6
明細書の段落0013の「(11-00)面」を「(1-100)面」に、「(11-02)面」を「(1-102)面」に、「(112-0)」を「(11-20)」に訂正する。
7)訂正事項7
明細書の段落0031の「A面(112-0)」を「A面(11-20)」に、「R(11-02)面」を「R(1-102)面」に訂正する。
8)訂正事項8
明細書の段落0041の「In0.1Ga0.9N」を「In0.1Ga0.9N」に訂正する。
9)訂正事項9
明細書の段落0042の「n型Al0.2Ga0.8N」を「n型Al0.2Ga0.8N」に訂正する。
10)訂正事項10
明細書の段落0044の「アンドープのIn0.2Ga0.8Nよりなる井戸層、25オングストロームと、アンドープIn0.05Ga0.95Nよりなる障壁層」を「アンドープのIn0.2Ga0.8Nよりなる井戸層、25オングストロームと、アンドープIn0.05Ga0.95Nよりなる障壁層」に訂正する。
11)訂正事項11
明細書の段落0045の「p型Al0.3Ga0.9N」を「p型Al0.3Ga0.9N」に訂正する。
12)訂正事項12
明細書の段落0047の「p型Al0.2Ga0.8N」を「p型Al0.2Ga0.8N」に訂正する
13)訂正事項13
図1における「M面(11-00)」を「M面(1-100)」に、「A面(112-0)」を「A面(11-20)」に、「R(11-02)面」を「R(1-102)面」に訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
a)訂正事項1について
上記訂正事項1は、請求項1において、基板が、ア)「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成」されてなることを限定し、イ)「基板」を「窒化物半導体からなる基板」と訂正するとともに、ウ)「M面(11-00)」を「M面(1-100)」と訂正するものである。
上記ア)に関しては、特許明細書の【0022】に、「このように異種基板1の上に成長させた窒化物半導体層2上に第1の保護膜11を形成し、その上に第1の窒化物半導体3を成長させると、・・・露出した窒化物半導体層2上に第1の窒化物半導体3が選択成長される。さらに成長を続けると、第1の窒化物半導体3が第1の保護膜11の上に覆いかぶさって行き、隣接した第1の窒化物半導体3同士でつながって、図4に示すように、あたかも第1の保護膜11の上に第1の窒化物半導体3が成長したかのような状態となる。」と記載されている。
上記イ)に関しては、特許明細書の【0009】に、「窒化物半導体基板上部に活性層を含む素子構造となる窒化物半導体層を積層する第2の工程と、異種基板上部に成長された窒化物半導体基板より、異種基板を除去する第3の工程と、窒化物半導体基板のM面(11-00)で活性層を含む窒化物半導体層を劈開する第4の工程とを備えることを特徴とする。本発明の製造方法において、第2の工程と、第3の工程の順序は問わない。つまり第3の工程は、第2の工程の先に行っても良いし、後で行うこともできる。」と記載されている。また同じく【0059】に、「つまりサファイア基板上に保護膜を介して、窒化物半導体基板を作製した後、サファイア基板、保護膜を研磨して除去し、SiドープGaN基板のみとする。このGaN基板の上に実施例1と同様にしてレーザ素子構造となる窒化物半導体層を成長させる。」と記載されており、該訂正事項が、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることは明らかであるばかりでなく、窒化物半導体の形成時には異種基板上に成長されるが、最終的に得られた窒化物半導体素子の状態においては、異種基板が除去されていることが明瞭になった。
また、ウ)に関しては、M面の表示に関し、軸方向を示す「-」は本来は数字の上に付するところ、これを特許明細書のように(11-00)と表記したものであるが、これを誤解の無いように一般的な表記である(1-100)としたものであるから、明りょうでない記載の釈明にあたる。
よって、上記訂正は、基板が窒化物半導体からなること、及び該基板が「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成」されてなることを限定するとともに、明りょうでない記載を明りょうにしたものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
b)訂正事項2について
上記訂正事項2は、上記ウ)の訂正事項と同様に、M面,A面,R面の表記を訂正するもであって、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書及び図面の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡大し又は変更するものでもない。
c)訂正事項3〜7,13について
上記訂正事項3〜7,13は、上記特許請求の範囲の訂正に伴って発明の詳細な説明を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書及び図面の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡大し又は変更するものでもない。
d)訂正事項8〜12について
上記訂正事項8〜12は、下付文字で表記すべき数字を正しく記載するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書及び図面の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡大し又は変更するものでもない。

2-3.独立特許要件の判断
2-3-1.訂正発明
独立特許要件の判断の対象となる請求項に係る発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のものである。
「【請求項1】異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなり、結晶欠陥が107個/cm2以下である窒化物半導体を基板とし、
その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、
その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板M面(1-100)の劈開面と一致する劈開面であって、
かつ該窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されていることを特徴とする窒化物半導体素子。
【請求項2】前記活性層端面がレーザ素子の共振面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】前記基板はSiドープされた基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体素子。」(以下、「訂正発明1」ないし「訂正発明3」という。)

2-3-2.刊行物
独立特許要件を判断するに当たり、本件特許に対する特許異議申立事件である2003年異議第72509号において提出された甲号証である以下の文献を対象となる刊行物として検討する。
上記特許異議申立事件において、異議申立人は、本件の請求項1〜3に係る発明は、下記刊行物1、3又は2、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである旨、及び請求項1〜3に係る発明についての優先権主張は認められず、下記に先願明細書として提示した特許出願の願書に最初に添付した明細書および図面に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである旨主張している。
刊行物1:特開平8-116090号公報(異議申立人の提出した甲第1号証。以下同様。)
刊行物2:Journal of Crystal Growth 166(1996)pp.583-589(甲第2号証)
刊行物3:特開平8-330678号公報(甲第3号証)
先願明細書:特願平10-5682号の当初明細書及び図面(特開平11-103135号公報参照)(甲第4号証)

本件の出願前公知であり、かつ、本件の優先権の主張の基礎となる先の出願の出願前公知の刊行物である刊行物1(特開平8-116090号公報)には、次のことが記載されている。
「【0014】本発明はこのような問題を解決し、格子定数の不整合や熱膨張係数の相違に基づく結晶欠陥や転位の発生を極力抑えた半導体発光素子の製法を提供することを目的とする。
【0015】本発明のさらに他の目的は半導体レーザのように端面に平行な2つの鏡面を必要とする半導体発光素子にもチッ化ガリウム系化合物半導体を用いて劈開により端面の鏡面をうることができる半導体発光素子の製法を提供することを目的とする。
【0016】【課題を解決するための手段】本発明の半導体発光素子の製法は、(a)半導体単結晶基板上にチッ化ガリウム系化合物半導体層を成膜する工程、(b)前記半導体単結晶基板を除去する工程、および(c)該半導体結晶基板を除去して残余した前記チッ化ガリウム系化合物半導体層を新たな基板として、少なくともn型層およびp型層を含むチッ化ガリウム系化合物半導体単結晶層をさらに成長する工程を有する。」、
「【0023】まず、図1(a)に示されるように、半導体単結晶基板1の表面にMOCVD法によりチッ化ガリウム系化合物半導体層からなる低温バッファ層2および高温バッファ層3を成長する。」
「【0027】つぎに図1(b)に示されるように、半導体単結晶基板1の裏面側から機械的研磨または化学的研磨をし、半導体結晶基板1および低温バッファ層2を除去する。この機械的研磨は、たとえばダイヤモンド粉を使用する研磨装置により行い、化学的研磨は、たとえば硫酸と過酸化水素の混合液により行う。」、
「【0028】つぎに図1(c)に示されるように、残されたチッ化ガリウム系化合物半導体層からなる高温バッファ層(チッ化ガリウム系化合物半導体層)3を新たな基板として反応炉内に配設し、前述と同様の方法でチッ化ガリウム系化合物半導体からなる低温バッファ層4を0.01〜0.2μm程度、高温バッファ層5を1〜40μm程度設ける。・・・」、
「【0029】つぎに図1(d)に示されるように、n型クラッド層6、ノンドープまたはn型もしくはp型の活性層7、p型クラッド層8、キャップ層9を順次形成する。・・・」、
「【0030】前述のクラッド層などの半導体層でn型層にするためには、Si、Ge、SnをSiH4、GeH4、SnH4などのガスとして反応ガス内に混入することによりえられる。・・・」、
「【0033】ついで、Au、Alなどの電極材料を蒸着やスパッタ法などにより成膜し、裏面側には全面に下部(n側)電極11が形成され、表面側はLEDのばあいは発光領域を確保するため、または半導体レーザのばあいは電流注入領域を規制するため、中心部のみに残るようにパターニングして上部(p側)電極10が形成され、そののち各チップに劈開することにより、図1(e)に斜視図で示されるように半導体発光素子チップが形成される。」、
「【0035】本発明によれば、半導体単結晶基板上にチッ化ガリウム系化合物半導体層を成長させたのち、半導体単結晶基板を除去し、チッ化ガリウム系化合物半導体層を新たな基板としてその上に動作層のチッ化ガリウム系化合物半導体単結晶層を成長しているため、格子定数や熱膨張係数は非常に近くなり、格子欠陥や転位は発生しにくい。」、
「【0040】まず、前述の図1(b)に示されるような50〜200μmの厚さに形成されたn型AlxGayIn1-x-yNの半導体層からなる新たな基板とされたチッ化ガリウム系化合物半導体層基板3の表面に400〜700℃の低温でn型AlvGawIn1-v-wN(0≦v<1、0<w≦1、0<v+w≦1、v≦x、1-x-y≦1-v-w)からなる低温バッファ層4を0.01〜0.2μm程度MOCVD法により成長し、ついで700〜1200℃の高温でチッ化ガリウム系化合物半導体層基板3と同じ組成のn型AlxGayIn1-x-yNからなる高温バッファ層5を1〜40μm程度の厚さに設けた。さらに700〜1200℃でn型AlxGayIn1-x-yNからなるn型クラッド層6を0.1〜2μm程度の厚さに設け、ノンドープのAlpGaqIn1-p-qN(0≦p<1、0<q≦1、0<p+q≦1、p<x、1-p-q>1-x-y)からなる活性層7を0.05〜0.1μm程度の厚さに成長させ、さらにp型AlxGayIn1-x-yNからなるp型クラッド層8を1〜2μm成長させた。その上にAlrGasIn1-r-sN(0≦r<1、0<s≦1、0<r+s≦1、r≦x、1-x-y≦1-r-s)からなるキャップ層9を0.2μm程度の厚さ設ける。」、
「【0044】実施例2
本実施例は半導体レーザ型発光素子の実施例で、各層の形成および電極の形成までは実施例1と全く同様に形成し、電極形成後に上部電極11の両側のキャップ層9およびp型クラッド層8の上部をエッチングしてメサ型形状にしたものである。このような構造にすることにより電流を活性層の中心部だけに集中させることができ、しかも劈開により端面が鏡面になっているため、端面で反射させて発振させることができ、出力が0.2mW程度の青色半導体レーザ型発光素子がえられた。」、
「【0046】【発明の効果】本発明によれば、基板が絶縁基板でないため、下部側の電極を基板の裏面に形成すればよく、従来のように上面側からエッチングして下部の導電型層を露出させて電極を形成する必要がない。そのため、ドライエッチング工程が不要になり、構造プロセスが簡単になるとともにエッチング時に発生しやすいコンタミネーションによる抵抗に基因する特性劣化も生じない。
【0047】さらに基板もクラッド層などの厚い層と同じチッ化ガリウム系化合物半導体層からなっているため、同種の結晶が揃うことになり容易に劈開することができ、簡単に鏡面をうることができる。その結果、青色の半導体レーザも容易にうることができる。
【0048】また基板もチッ化ガリウム系化合物半導体層からなっているため、動作層と同種の半導体層であり、格子定数などが一致して格子整合がとれ、結晶欠陥や転位の発生を防止できる。その結果、半導体層が高品質になり、素子の発光効率や寿命が向上する。」、
図3は、第2実施例を示すものであり、チッ化ガリウム系半導体層基板3の下部には「下部(n型)電極11」が図示されている。
<刊行物1に開示された発明>
以上の記載からみて、刊行物1には以下の発明が開示されていると認める。
「半導体単結晶基板上にn型チッ化ガリウム系化合物半導体層を成膜し前記半導体単結晶基板を除去して得たチッ化ガリウム系化合物半導体層を基板とし、その基板上部に少なくともn型層およびp型層を含むチッ化ガリウム系化合物半導体単結晶層が積層されてなる半導体レーザ型発光素子であって、裏面側には全面に下部(n側)電極が形成され、劈開により鏡面になっている端面で反射させて発振させるチッ化ガリウム系化合物半導体素子」(以下、「引用発明」という。)

刊行物2(Journal of Crystal Growth 166(1996)pp.583-589)には、「GaNの高圧成長-青色レーザへの新たな期待」と題して、おおよそ以下の事項が記載されている。
「GaNに基づくIII-V半導体技術における最近の重要な進歩は、GaN素子の応用において広汎な関心を生み出した。GaNレーザの作製に対する残りの障害は、熱的かつ格子整合した基板の欠如であることが議論される。III-V窒化物の熱力学的性質が検討され、高圧窒素化でのGaN小プレートの成長における最近の進歩が示される。現在成長時のGaN結晶が良好な構造上の性質、平坦な表面、小さい転位密度および(0001)結晶面に対して垂直な劈開面を有することが示される。これらの性質は、GaN基板がレーザ技術に対する新たな期待を提供することを示唆している。」(要約)
「現在、バルクGaN単結晶の成長のための唯一の方法が存在する。この方法では、液体ガリウム中の原子状窒素の希釈溶液から1500〜1900Kの温度でかつ20kbarまでの窒素圧力で結晶化が行われている。」(583頁右下欄21行〜584頁左上欄3行)
「良質のGaN小プレートの転位密度は約105cm-2であり、サファイア基板上に成長されたMOCVDまたはMBE層中の欠陥密度よりもかなり小さい。」(587頁左欄10行〜12行)
「レーザの作製の観点からの重要な性質は、(0001)面に対して垂直な面{1010}に沿って劈開するGaN小プレートの能力である。これが図7に示される。高圧力成長GaN中の自由電子濃度は約1019cm-3である。」(587頁右欄1行〜6行)
「図7.{10-10}面に沿って劈開されたGaN結晶」(587頁の図7の説明(注:マクロン付き数字は数字の前に「-」を付した。))
「表2
N2の高圧力下で成長されたGaN結晶の物理的性質
性質 値 方法
・・・
転位密度 〜105cm-2 Gaでのエッチング
・・・
電子濃度 〜1019cm-3 光学的ホール効果」(588頁の表2)
「良好な構造上の性質、低い転位濃度、(0001)面の平坦性、劈開能力および良好な導電率等の上記のGaN小プレートの全ての性質は、それらをMOCVDレーザ技術のための非常に有望な基板にする。プレーナ技術用の基板としてGaN結晶を用いるために最も重要な要因はそれらの格子および熱的整合であることは明らかである。」(588頁左欄7行〜同頁右欄3行)

刊行物3(特開平8-330678号公報)には、次の事項が記載されている。
「【0010】・・・一般的にInGaAlN系化合物半導体、就中上記のGa1-xAlxN系化合物半導体をクラッド層材料として使用する場合、n型ドーパントとしてはキャリヤ濃度の制御が容易なSiが好ましい。・・・
【0015】基板1としては、InGaAlN系の半導体層を形成するための基礎となり、かつ導電性を有し、表面に電極を形成できるものであればよい。例えば、結晶体、好ましくはGaN、SiC、ZnO等が挙げられ、特にGaNおよびSiCの単結晶が挙げられる。・・・本発明において導電基板1をGaN、SiCなどの劈開性の単結晶材料にて構成すると、その劈開性を利用して発光部の両端面に理想的な鏡面を容易に作製することができる利点がある。なおその劈開面には、一層あるいはそれ以上の多数の適当な誘電体薄膜をコートしてその反射率を制御することもできる。
【0016】バッファ層1aはGaNからなり、結晶基板1上にInGaAlN系の半導体層を形成するに際し、その結晶品質を向上させるための層として必要に応じて設けられる。図1の実施例では、基板1はn導電型を有するが、p型であってもよい。・・・
【0017】・・・導電性基板1上に、必要に応じてバッファ層1aを形成し、その上に順次基板と同じ導電型の該1番目のクラッド層2a(例えばGaAlN)、活性層2c(例えばアンドープのInGaN)、基板と異なる導電型の該2番目のクラッド層2b(例えばGaAlN)を順次成長させる。p型の導電型を得るために必要であれば結晶成長後に熱処理、電子線照射処理等の後処理を施す。次いで、該発光部の上面にフォトリソグラフィーによってマスクを形成し、RIEによるエッチングを施して、発光部2の全体をストライプ構造とする。・・・
【0023】電極は上下共に公知の材料、構造のものを利用してよく、例えばp側電極5にはAuが、n側電極4にはAl、In等が例示される。」

先願明細書(特願平10-5682号)には、次のことが記載されている。
「【0022】本発明のGaN系結晶成長用基板は、・・・マスク領域上・・・良質の結晶を利用し、その低転位となる部分にGaN系半導体素子(以下、単に「素子」ともいう)を形成するためのものである。また、そのマスク領域・非マスク領域の幅を、素子の活性部の幅以上、素子の全幅以下に限定することが重要である。・・・これによって、最小限のマスク領域によって高い品質の素子を確保することができる。・・・
【0054】【実施例】実施例1
本実施例では、・・・個々の素子の形状と等しいマスク領域を有するGaN系結晶成長用基板を製作した後、これにGaN結晶層を成長させて結晶基板とし、マスク領域上にダブルヘテロ接合構造を形成してLEDとし、非マスク領域で分断して素子を個々に分断し、図5(a)に示す形状の素子を得た。
【0055】〔GaN系結晶成長用基板の製作〕直径2インチ、厚さ330μm、C面サファイア基板上に、MOVPE装置を使って、厚さ20nmのAlNバッファー層を低温成長し、続いて1.5μmのGaN薄層を成長し、ベース基板とした。この基板の表面に、SiO2薄膜からなり、図2に示す態様のマスク層をスパッタリング法で形成し、本発明によるGaN系結晶成長用基板を得た。
【0056】マスク層の形成パターンは、1つのマスク領域が、<11-20>方向290μm×<1-100>方向290μmの正方形であって、目的のLEDの活性層に一致する形状である。このマスク領域をマトリクス状となるように<11-20>方向、<1-100>方向、共に10μmの間隔を於いて配置した。従って、マスク領域同士の中心間ピッチは、<11-20>方向、<1-100>方向、共に300μmである。また、非マスク領域は、幅10μmの帯状の領域が直交する格子状である。
【0057】〔GaN結晶層の形成〕上記GaN系結晶成長用基板をHVPE装置に装填し、図7に示すように、非マスク領域を出発点として200μmのn型GaN結晶層を形成した。GaN結晶はマスク層上を横方向にも成長しマスク層を完全に覆った。n型GaN結晶層の表面の平坦性は良好であった。
【0058】〔発光素子の形成〕n型GaN結晶層を基板としてその上に、全面に、n-GaN層/n-AlGaN層/n-InGaN層/InGaN層(活性層)/p-AlGaN層/p-GaN層を順次成長させ、さらにp型側・n型側の各々の電極を形成し、ダブルヘテロ接合構造のLEDをマトリクス状に含む積層体を完成させた。
【0059】〔個々の素子への分断〕ポイントスクライバーにて、図4(b)に示すように、格子状の非マスク領域に切り込みを入れて分断し、個々に分断されたLEDを得た。
【0060】本実施例によって、マスク領域を効率良く活性部に対応させて素子を形成でき、しかも、非マスク領域において個々の素子に分断し得ることが確認できた。また、このLEDと、従来の非マスク領域上に形成され転移を含む低品質のGaN系結晶基板を用いたLEDとを、発光輝度および寿命特性の点で比較したところ、本発明の製造方法によって得られたLEDの方が、発光輝度、寿命特性どちらも1.5倍に特性が向上していることがわかった。
【0061】実施例2
本実施例では、形成すべき目的の素子をストライプレーザとし、図1に示すように、マスク層を、GaN結晶の<1-100>方向に延びる平行縞状とした。GaN系結晶成長用基板の製作は、実施例1と同様に行い、マスク層のパターンを、幅150μm、中心ピッチ300μmとした。
【0062】〔ストライプレーザ構造の形成〕GaN系結晶成長用基板上に厚さ100μmのGaN結晶層を形成して基板とし、その上に、全面に、n-GaN層/n-AlGaN層/n-GaN層/InGaN多重量子井戸層/p-AlGaN層/p-GaN層/p-AlGaN層/p-GaN層を順次成長させ、積層体をRIE(Reactive Ion Etching)で8μmの幅に残してエッチングし、図6において4で示すように、ストライプ状とした。このとき、マスク層上のほぼ中央にストライプが形成されるように位置合せを行い、ストライプの方位を<1-100>方向に正確に合わせた。研磨によってC面サファイア基板を除去し、全体の厚みを80μmとした。
【0063】〔個々の素子への分断〕ストライプの長手方向と直交する面を分断面として、即ち、図6のS1、S2およびこれらに平行に500μmピッチでへき開(M面でのへき開)し、<11-20>方向に隣合った素子同士がつながった状態のものを多数得た。各々の反射器面に必要なコーティングを一括して施して共振器を仕上げた後、図6のU1〜U4に沿って切断し、個々のレーザチップを得た。・・・
【0070】【発明の効果】本発明によるGaN系結晶成長用基板を用いることによって、マスク領域の上・・・の良好な品質の結晶をより無駄なく素子の活性部に対応させることができる。しかも、結晶の出発点となる非マスク領域を、最終的な素子の分断に利用することも可能である。従って、高品質に形成した領域をロスすることが少なく、もとのベース基板の限られた面積を有効に利用できる。・・・
【図6】本発明のGaN系結晶成長用基板を用いたGaN系ストライプレーザの製造工程における状態例を示す斜視図である。図中の左右両端の破線は、破断線を意味している。また、同図では、電極を省略している。


2-3-3.対比・判断
進歩性について>
(1)訂正発明1について
訂正発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「チッ化ガリウム系化合物半導体」、「半導体単結晶基板上にn型チッ化ガリウム系化合物半導体層を成膜し前記半導体単結晶基板を除去して得たチッ化ガリウム系化合物半導体層」、「少なくともn型層およびp型層を含むチッ化ガリウム系化合物半導体単結晶層」、「劈開により鏡面になっている端面」、「下部(n側)電極」は、それぞれ、訂正発明1の「窒化物半導体」、「基板」、「活性層を含む素子構造」、「窒化物半導体素子の対向する活性層端面」、「n電極」に相当するから、両者は、「窒化物半導体を基板とし、その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板の劈開面と一致する劈開面であって、かつ該窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されている窒化物半導体素子」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:窒化物半導体からなる基板が、訂正発明1では、「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されて」なるのに対し、引用発明は、そのような規定がない点。
相違点2:基板の結晶欠陥数が、訂正発明1では、「107個/cm2以下」であるのに対して、引用発明はその規定がない点。
相違点3:劈開面が、訂正発明1では、「M面(1-100)」であるのに対して、引用発明はその規定がない点。

刊行物2には、窒化物半導体素子を実現するにあたり、熱的かつ格子整合した基板の欠如が問題であることが指摘され、転位密度は約105cm-2である良質の窒化物半導体に属するGaN小プレートが開示されているが、これは高圧窒素化でのGaN小プレートが(0001)面に対して垂直な面{1010}({1-100}と等価)に沿って劈開することを示すとともに、GaN基板のレーザ技術に対する可能性を提示するものである。
また、刊行物3には、GaNの導電性基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層され、劈開性を利用して発光部の両端面に鏡面を作成し、基板下部にn電極が形成されている窒化物半導体レーザが記載されている。
しかしながら、刊行物2は、具体的な製造方法が異なる(本願発明のものは有機金属気相成長法であるのに対し、刊行物2のものは液体ガリウムの液相での成長)ことから、これを主に有機金属気相成長法で製造される窒化物半導体素子に適用する動機付けを欠くばかりでなく、GaN小プレートを示すのみであって一様な半導体層として形成し得ることの記載もなく、また劈開面であるM面を活性層の端面とすることについても明記があるとはいえない。
また、刊行物3には上記記載事項が記載されているにしても、上記相違点1〜3を示すものではない。
結局、刊行物2,3には、基板が「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されて」なるとの事項は記載されていない。そして、訂正発明1は、該相違点1の技術的事項を前提として、成長の際の窒素源のガスのモル比を調整して結晶欠陥数を調整することにより達成された基板の結晶欠陥数を、相違点2のように記載したものであって、格子欠陥が非常に少なく特定の面方位(M面)で劈開した鏡面状共振面を得ることができるとの明細書記載の作用効果を奏するものである。

よって、訂正発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(2)訂正発明2,3について
訂正発明2は、訂正発明1を引用して限定するものであり、訂正発明3は、訂正発明1,2を引用してさらに限定するものであるから、上記訂正発明1が上記判断((1)訂正発明1について)のように容易といえない以上、訂正発明2,3も容易になし得るものではない。

<特許法第29条の2について>
(1)判断の基準となる特許出願日
本件特許1〜3は、何れも、結晶欠陥数が107個/cm2以下である窒化物半導体を基板とすることを、発明を特定する技術事項とするものである。しかし、本件の優先権主張の基礎とする先の出願(特願平9-99494号)には、窒化物半導体を基板とすること、保護膜上部に形成した窒化物半導体層の結晶欠陥が少なくなること、本件特許1〜3の基板を用いた場合に格子欠陥の少ない結晶性のよい窒化物半導体を成長させることができることが記載されているが、基板の結晶欠陥の具体的数は記載されていない。そして、同出願の明細書の記載から、基板の結晶欠陥数が保護膜を設けず形成した場合に比べて少なくなることは読みとれるが、その場合の欠陥の数が107個/cm2以下であることまでは読みとれない。
したがって、本件特許1〜3の出願日は、現実の特許出願日(平成10年3月3日)とする。

(2)対比・判断
[訂正発明1について]
先願明細書の要部を書き出すと、
「【0054】【実施例】実施例1・・・
【0055】〔GaN系結晶成長用基板の製作〕
・・・厚さ330μm、C面サファイア基板上に、MOVPE装置を使って、厚さ20nmのAlNバッファ層を低温成長し、続いて1.5μmのGaN薄層を成長し、ベース基板とした。この基板の表面に、SiO2薄膜からなり、図2に示す態様のマスク層をスパッタリング法で形成し、本発明による成長用基板を得た。・・・
【0061】実施例2
本実施例では、形成すべき目的の素子をストライプレーザとし、図1に示すように、マスク層を、GaN結晶の<1-100>方向に延びる平行縞状とした。GaN系結晶成長用基板の製作は、実施例1と同様に行い、マスク層のパターンを、幅150μm、中心ピッチ300μmとした。
【0062】〔ストライプレーザ構造の形成〕
GaN系結晶成長用基板上に厚さ100μmのGaN結晶層を形成して基板とし、その上に、全面に、n-GaN層/n-AlGaN層/n-GaN層/InGaN多重量子井戸層/p-AlGaN層/p-GaN層/p-AlGaN層/p-GaN層を順次成長させ、積層体をRIE(Reactive Ion Etching)で8μmの幅に残してエッチングし、図6において4で示すように、ストライプ状とした。このとき、マスク層上のほぼ中央にストライプが形成されるように位置合せを行い、ストライプの方位を<1-100>方向に正確に合わせた。研磨によってC面サファイア基板を除去し、全体の厚みを80μmとした。
【0063】〔個々の素子への分断〕
・・・500μmピッチでへき開(M面でのへき開)し、<11-20>方向に隣合った素子同士がつながった状態のものを多数得た。」と記載されている。

訂正発明1と先願発明(先願明細書に記載された発明)とを対比するに、先願明細書における「GaN系結晶」、「ベース基板1」、「n-GaN層/n-AlGaN層/n-GaN層/InGaN多重量子井戸層/p-AlGaN層/p-GaN層/p-AlGaN層/p-GaN層」、「へき開されたM面」は、それぞれ訂正発明1の「窒化物半導体」、「基板」、「活性層を含む素子構造」、「窒化物半導体素子の対向する活性層端面」に相当するから、両者は、「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなる窒化物半導体を基板とし、その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板M面(1-100)の劈開面と一致する劈開面である窒化物半導体素子」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3:訂正発明1では、基板の「結晶欠陥数が107個/cm2以下である」のに対して、先願発明はその規定がない点。
相違点4:訂正発明1では、「窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されている」のに対して、先願発明はその規定がない点。

上記相違点について検討する。
先願明細書記載のものは、基板を研磨することによってC面サファイア基板を除去するものであるにしても、AlNバッファ層を除去するとの記載がない以上、AlN層を下層に有することになるが、該AlN層の下に電極を設けたとすれば、これは「窒化物半導体からなる基板下部」にn電極を形成したものとはいえない。そして、C面サファイア基板を除去することが、電極形成のために行われるとも記載されていない。
また、先願明細書には、「全体の厚みを80μmとした」と記載されているが、発光層を含む層構成の各層の具体的な層厚が明記されていない以上、全体の厚みを80μmとした場合に、最下層がどの層になるのかは明記されていないから、やはり上記相違点4が直接開示されているとはいえない。
とすれば、先願明細書に、C面サファイア基板を除去する点が記載され、基板下部に電極を設置することが一般的に周知であるとしても、もともと先願明細書には、基板下部にn電極が形成する点が記載されておらず、基板を窒化物半導体からなるものとすることも明記されているとはいえないのであるから、先願発明は、相違点4の技術的事項を有するものとはいえない。
さらに、相違点3については、本件特許明細書に「【0026】また、結晶欠陥の転位の傾向は、保護膜を形成した後、第1の窒化物半導体3を成長させる際に3族源のガスに対する窒素源のガスのモル比(V/III比)を変えることにより調整できる。・・・V/III比が2000以下の場合は、窓部上部のみに転位が観測され保護膜上部にはほとんど欠陥が見られなくなり、・・・107個/cm2以下・・・である。また、V/III比が2000より大きい場合は、・・・108個/cm2以上となる傾向がある。」と記載されており、上記規定が、成長の際の窒素源のガスのモル比(V/III比)に関連してなされた限定であることが理解できるところ、先願明細書には、結晶欠陥数及びその調整方法が記載されていないのであるから、調整を考慮せずに形成された窒化物半導体の結晶欠陥数が同程度(107個/cm2以下)であると推認することはできないので、両者が『「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなり」,「窒化物半導体を基板」』との点で相違がないにしても、「結晶欠陥が107個/cm2以下である」点において差異を有する。
よって、訂正発明1は、先願発明と同一とはいえない。

[訂正発明2,3について]
訂正発明2は、訂正発明1を引用して限定するものであり、訂正発明3は、訂正発明1,2を引用してさらに限定するものであるから、上記訂正発明1が上記判断([訂正発明1について])のように容易といえない以上、訂正発明2,3も容易になし得るものではない。

2-3-4.まとめ
上記のとおり、訂正発明1及び2は、独立して特許を受けることができるものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、平成15年改正前の特許法第126条第1項ただし書きないし第4項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
窒化物半導体素子及び窒化物半導体素子の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなり、結晶欠陥が107個/cm2以下である窒化物半導体を基板とし、
その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、
その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板M面(1-100)の劈開面と一致する劈開面であって、
かつ該窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されていることを特徴とする窒化物半導体素子。
【請求項2】 前記活性層端面がレーザ素子の共振面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】 前記基板はSiドープされた基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】 窒化物半導体層と異なる材料よりなる異種基板上部に、表面に窒化物半導体が成長しないか、若しくは成長しにくい性質を有する材料から成る保護膜を部分的に形成し、窒化物半導体をその保護膜上部にまで成長させて、窒化物半導体基板を作製する第1の工程と、窒化物半導体基板上部に活性層を含む素子構造となる窒化物半導体層を積層する第2の工程と、異種基板上部に成長された窒化物半導体基板より、異種基板を除去する第3の工程と、窒化物半導体基板のM面(1-100)で活性層を含む窒化物半導体層を劈開する第4の工程とを備えることを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項5】 前記保護膜が、第1の工程で異種基板の表面に成長させた窒化物半導体層の表面に部分的に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項6】 前記保護膜がストライプ形状を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項7】 前記第1の工程は、C面(0001)を主面とするサファイア基板上部にそのサファイア基板のA面(11-20)に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する工程、若しくはA面(11-20)を主面とするサファイア基板上部にそのサファイア基板のR(1-102)面に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する工程、又は(111)面を主面とするスピネル基板上部にそのスピネル基板の(110)面に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する工程の内のいずれか1種の工程を含み、前記保護膜上部に窒化物半導体を成長させることを特徴とする請求項4乃至6の内のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項8】 前記活性層はストライプ状の保護膜上部に位置しており、前記第4の工程において、そのストライプに対して垂直な方向で劈開することを特徴とする請求項6または7に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項9】 前記第1の工程で保護膜形成後に成長させる窒化物半導体は、3族源のガスに対する窒素源のガスのモル比(V/III比)が2000以下であることを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はレーザ素子、LED素子等の発光素子、光センサー、太陽電池等の受光素子、あるいはトランジスタ等の電子デバイスに使用される窒化物半導体(InXAlYGa1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりなる窒化物半導体素子と、その窒化物半導体素子の製造方法に係り、特に窒化物半導体を基板とする窒化物半導体素子と製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】窒化物半導体は高輝度青色LED、純緑色高輝度LEDの材料として、本出願人により最近実用化されたばかりである。また本出願人はこの材料を用いて青色レーザ素子で、世界で初めて406nmの室温での連続発振に成功した。(日経エレクトロニクス、1996年、12月2日号、技術速報)このレーザ素子は活性層にInXGa1-XNの多重量子井戸構造を有し、活性層両端の共振面はエッチングにより形成されており、20℃において、閾値電流密度3.6kA/cm2、閾値電圧5.5V、1.5mW出力において、27時間の連続発振を示す。
【0003】現在のLED素子、レーザ素子共に、窒化物半導体の成長基板にはサファイアが用いられている。周知のようにサファイアは窒化物半導体との格子不整が13%以上もあるため、この上に成長された窒化物半導体の結晶は格子欠陥が非常に多い。一般に結晶欠陥の多い半導体はレーザ素子には不向きであり、実用化は難しいとされている。また、サファイアの他に、ZnO、GaAs、Si等の基板を用いた素子も報告されているが、これらの基板上では結晶性の良い窒化物半導体が成長しにくいため、LEDでさえ実現されていない。
【0004】また、サファイアを基板とするレーザ素子は、その活性層の共振面を劈開により形成することが難しいという欠点を有している。本出願人は先にサファイア上部に窒化物半導体が積層されたウェーハを、サファイアのM面で劈開して窒化物半導体の劈開面を形成する技術を示したが、歩留、共振面の平行性等の性能において、実用化するには十分満足できるものではなかった。
【0005】一方、窒化物半導体と完全に格子整合する窒化物半導体の基板を作製する試みも成されているが(例えば、特開昭61-7621、特公昭61-2635、特開昭51-3779、特開平7-165498、特開平7-202265等)実際には、窒化物半導体基板を得ることは非常に難しく、未だ実現していないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このように、窒化物半導体を基板とする窒化物半導体素子については、ほとんど知られておらず、例えば基板を如何にしてチップ状に分割するかも知られていない。従って本発明はこのような事情を鑑みて成されたものであって、窒化物半導体を基板とする窒化物半導体素子と、その窒化物半導体素子の新規な製造方法を提供することにあり、特に窒化物半導体基板を有してなるレーザ素子とレーザ素子の共振面を形成する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の窒化物半導体素子は、異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなり、結晶欠陥数が107個/cm2以下である窒化物半導体を基板とし、その基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板M面(1-100)の劈開面と一致する劈開面であって、かつ該窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されていることを特徴とする。
【0008】特に、窒化物半導体層がレーザ素子構造となっている場合には、レーザ素子の活性層端面がレーザ素子の共振面であることを特徴とする。また、前記基板はSiドープされた基板であることを特徴とする。
【0009】本発明の窒化物半導体素子の製造方法は、窒化物半導体層と異なる材料よりなる異種基板上部に、表面に窒化物半導体が成長しないか、若しくは成長しにくい性質を有する材料から成る保護膜を部分的に形成し、窒化物半導体をその保護膜上部にまで成長させて、窒化物半導体基板を作製する第1の工程と、窒化物半導体基板上部に活性層を含む素子構造となる窒化物半導体層を積層する第2の工程と、異種基板上部に成長された窒化物半導体基板より、異種基板を除去する第3の工程と、窒化物半導体基板のM面(1-100)で活性層を含む窒化物半導体層を劈開する第4の工程とを備えることを特徴とする。本発明の製造方法において、第2の工程と、第3の工程の順序は問わない。つまり第3の工程は、第2の工程の先に行っても良いし、後で行うこともできる。
【0010】好ましくは、前記第1の工程で異種基板上部に部分的に保護膜を形成し、窒化物半導体をその保護膜上部にまで成長させる。更に好ましくは前記第1の工程で異種基板表面に成長させた窒化物半導体層の表面に、部分的に保護膜を形成し、窒化物半導体をその保護膜上部にまで成長させる。保護膜を形成すると、保護膜上部に成長した窒化物半導体層の結晶欠陥が少なくなり、更に保護膜と保護膜の間(窓部)の上部も結晶欠陥が少なくなるので、基板とする窒化物半導体の結晶性が非常に良くなる。さらに好ましくは保護膜をストライプ形状とする。ストライプとすると窒化物半導体の異方性成長の性質が利用できる。保護膜は異種基板表面に直接接して形成することもできるし、また異種基板の上に窒化物半導体層を数十μm以下に薄く成長させた後、その窒化物半導体層の表面に接して形成することもでき、異種基板の上部に形成されていればよい。異種基板上に窒化物半導体層を成長させた後、保護膜を形成して行うと、保護膜上部に成長させる窒化物半導体層の表面に生じる結晶欠陥がより少なくなり好ましい。
【0011】また、本発明の製造方法では、第1の工程で、C面(0001)を主面とするサファイア基板上部にそのサファイア基板のA面(11-20)に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する工程、若しくはA面(11-20)を主面とするサファイア基板上部にそのサファイア基板のR(1-102)面に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する工程、または(111)面を主面とするスピネル基板上部にそのスピネル基板の(110)面に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する工程の内のいずれか1種の工程を含み、その保護膜上部に窒化物半導体を成長させることを特徴とする。
【0012】特に保護膜を形成する場合、本発明の製造方法では、所定の動作をする活性層はストライプ状の保護膜上部に位置しており、前記第4の工程において、そのストライプに対して垂直な方向で劈開することを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】図1はC軸配向した窒化物半導体の結晶構造を示すユニットセル図である。窒化物半導体は正確には菱面体構造であるが、この図に示すように六方晶系で近似できる。本発明の素子では、対向する活性層端面は窒化物半導体のM面での共振面とされている。M面とはこの図に示すように六角柱の側面を示す面であり、それぞれ6種類の面方位で示すことができるが、全て同一M面を示しているため、本明細書では(1-100)面が全てのM面を代表して示しているものとする。同様に、R面とは六角柱の一底辺からC軸に対して斜めに六角柱を切断した面方位で示す面であり、各底辺6辺についてそれぞれ6種類の面方位で示すことができるが、全て同一M面を示しているため、本明細書では(1-102)面がR面を代表して示しているものとする。さらにA面とはこの図に示すように、六方形の近接した2点から、C軸に対して、六角柱を垂直に切断した面を示し、六角形各頂点についてそれぞれ6種類の面方位で示すことができるが、全て同一A面を示しているため、本明細書では(11-20)面がA面を代表して示しているものとする。
【0014】本発明の窒化物半導体素子において、基板とする窒化物半導体はInXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)であれば、どのような組成でも良いが、好ましくはアンドープ(undope)GaNとする。アンドープGaNは最も結晶性の良い窒化物半導体を基板となるような厚膜、例えば100μm以上の厚膜で成長させやすい。またGaNにSi、Ge、S、Se等の4族元素よりなるn型不純物をドープすることもできる。n型不純物は、好ましい範囲の導電性を制御して、GaNの結晶性を維持するためには、1×1017/cm3〜5×1021/cm3の範囲でドープすることが望ましい。
【0015】素子構造が積層される窒化物半導体基板主面の面方位は特に問わないが、M面で劈開できる主面を有する窒化物半導体基板を選択し、好ましくC面、A面を主面とする窒化物半導体基板を用いる。また主面をC面、A面から数度、面方位をずらした窒化物半導体基板を用いることもできる。
【0016】窒化物半導体基板の上に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層を積層した窒化物半導体素子は、その基板と格子整合するために、結晶性のよい窒化物半導体層が成長できる。従来ではサファイア、ZnO、Si、GaAs等の異種基板上に窒化物半導体層を積層していたが、異種基板の上に成長された窒化物半導体結晶は、格子定数のミスマッチ、熱膨張係数差等の要因により、格子欠陥が非常に多く、また窒化物半導体結晶の方位がそろいにくく、基板の劈開により、一定した窒化物半導体素子の劈開面を得ることが難しかった。本発明の素子では窒化物半導体基板の上に、素子構造となる窒化物半導体層を成長させているため、その窒化物半導体層には結晶欠陥が非常に少なく、また面方位がそろった結晶が成長できる。そのため窒化物半導体基板のM面を劈開することにより、活性層を含む窒化物半導体素子が、同じくM面で一致して劈開されるために、方位がそろった鏡面に近い劈開面を得ることができる。しかも図1に示すように、M面は互いに平行な面を有しているため、その面を共振面としたレーザ素子を作製すると、非常に反射率の高い面を得ることができる。
【0017】本発明の製造方法の第1の工程において、異種基板は窒化物半導体と異なる材料よりなる基板であればどのようなものでも良く、例えば、サファイアC面の他、R面、A面を主面とするサファイア、スピネル(MgA12O4)のような絶縁性基板、SiC(6H、4H、3Cを含む)、ZnS、ZnO、GaAs、Si等の従来知られている窒化物半導体と異なる基板材料を用いることができる。この異種基板上に窒化物半導体層を厚膜で成長させて、窒化物半導体基板を作製する。窒化物半導体基板を作製するには、好ましくは次に述べる方法で作製する。
【0018】即ち、異種基板上部(必ずしも接してしなくても良い)に部分的に保護膜を形成し、この保護膜上部に窒化物半導体を成長させる。好ましくは異種基板表面に成長させた窒化物半導体の表面に部分的に保護膜を形成し、この保護膜上部に窒化物半導体を成長させる。保護膜の材料としては保護膜表面に窒化物半導体が成長しないか、若しくは成長しにくい性質を有する材料を好ましく選択し、例えば酸化ケイ素(SiOX)、窒化ケイ素(SiXNY)、酸化チタン(TiOX)、酸化ジルコニウム(ZrOX)等の酸化物、窒化物、またこれらの多層膜の他、1200℃以上の融点を有する金属等を用いることができる。これらの保護膜材料は、窒化物半導体の成長温度600℃〜1100℃の温度にも耐え、その表面に窒化物半導体が成長しないか、成長しにくい性質を有している。保護膜材料を窒化物半導体表面に形成するには、例えば蒸着、スパッタ、CVD等の気相製膜技術を用いることができる。また、部分的(選択的)に形成するためには、フォトリソグラフィー技術を用いて、所定の形状を有するフォトマスクを作製し、そのフォトマスクを介して、前記材料を気相製膜することにより、所定の形状を有する保護膜を形成できる。保護膜の形状は特に問うものではなく、例えばドット、ストライプ、碁盤面状の形状で形成できるが、後に述べるように、ストライプ状の形状で特定の面方位に形成することが望ましい。
【0019】図2乃至図6は、第1の工程における窒化物半導体ウェーハの各構造を示す模式的な断面図である。以下この図面を元にして好ましい第1の工程の作用を説明する。なお図において、1は異種基板、2は窒化物半導体層(保護膜を形成する下地層となる層)、3は基板となる第1の窒化物半導体層、11は第1の保護膜を示す。
【0020】第1の工程では、図2に示すように、異種基板1上部に窒化物半導体層2を成長させた表面に、第1の保護膜11を部分的に形成する。また、異種基板1と窒化物半導体層2の間に、格子定数不整を緩和する低温成長バッファ層(図示されていない)を形成しても良い。バッファ層を形成すると、結晶欠陥を更に少なくすることができ好ましい。異種基板上部に成長させられる窒化物半導体層2としては、アンドープ(不純物をドープしない状態、undope)のGaN、n型不純物をドープしたGaN、又はSiをドープしたGaNを用いることができる。窒化物半導体層2は、高温、具体的には900℃〜1100℃、好ましくは1050℃で異種基板上に成長され、膜厚は1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。この範囲であると本発明の効果を得るのに好ましい。異種基板1と窒化物半導体層2との間に形成されるバッファ層は、AlN、GaN、AlGaN、InGaN等が900℃以下200℃以上の温度で、膜厚数十オングストローム〜数百オングストロームで成長される。このバッファ層は異種基板1と窒化物半導体層2との格子定数不正を緩和するために形成されるが、窒化物半導体の成長方法、基板の種類等によっては省略することも可能である。
【0021】また、本発明において、第1の保護膜11は、異種基板1に直接接して形成されてもよく、異種基板1上部に例えばZnO等の半導体層を成長させその半導体層の上に形成されてもよい。異種基板1に第1の保護膜11を直接形成した場合、図6に示すように、第1の保護膜11を異種基板1上に直接形成した場合、隣接する第1の保護膜11と第1の保護膜11との間にバッファ層を形成してもよい。この場合に用いられるバッファ層は、上記異種基板1と窒化物半導体層2との間に形成されるバッファ層と同様のものが挙げられる。
【0022】次に、図3に示すように、窒化物半導体層2の上部に第1の保護膜11を形成した上部に第1の窒化物半導体3を成長させる。第1の窒化物半導体3としては、好ましくはアンドープ(不純物をドープしない状態、undope)のGaN、若しくはn型不純物をドープしたGaNが挙げられる。このように異種基板1の上に成長させた窒化物半導体層2上に第1の保護膜11を形成し、その上に第1の窒化物半導体3を成長させると、第1の保護膜11の上には窒化物半導体3が成長せず、露出した窒化物半導体層2上に第1の窒化物半導体3が選択成長される。さらに成長を続けると、第1の窒化物半導体3が第1の保護膜11の上に覆いかぶさって行き、隣接した第1の窒化物半導体3同士でつながって、図4に示すように、あたかも第1の保護膜11の上に第1の窒化物半導体3が成長したかのような状態となる。
【0023】このように成長した第1の窒化物半導体層3の表面に現れる結晶欠陥(貫通転位)は、従来のものに比べ非常に少なくなる。しかし、第1の窒化物半導体3の成長初期における窓部の上部と保護膜の上部のそれぞれの結晶欠陥の数は著しく異なる。つまり、異種基板上部の第1の保護膜11が形成されていない部分(窓部)に成長されている第1の窒化物半導体3の部分には、異種基板1と窒化物半導体層2との界面から結晶欠陥が転位し易い傾向にあるが、第1の保護膜11の上部に成長されている第1の窒化物半導体層3の部分には、縦方向へ転位している結晶欠陥はほとんどない。
【0024】例えば、図4に示すように、異種基板1から第1の窒化物半導体層3の表面に向かって示している複数の細線によって結晶欠陥を模式的に示している。このような結晶欠陥は、異種基板1と窒化物半導体層2との格子定数のミスマッチにより、異種基板1の上に成長される窒化物半導体層2に、非常に多く発生する。そして、第1の保護膜11が形成されていない窓部の結晶欠陥のほとんどは、第1の窒化物半導体3を成長中、異種基板と窒化物半導体層2の界面から表面方向に向かって転位をする。しかし、この窓部から発生した結晶欠陥は、図4に示すように、第1の窒化物半導体層3の成長初期にはほとんどが転位しているが、第1の窒化物半導体層3の成長を続けるうちに、途中で表面方向に転位する結晶欠陥の数が激減する傾向にあり、第1の窒化物半導体層3の表面まで転位する結晶欠陥が非常に少なくなる。一方、第1の保護膜11上部に形成された第1の窒化物半導体層3は基板から成長したものではなく、隣接する第1の窒化物半導体層3が成長中につながったものであるため、結晶欠陥の数は基板から成長したものに比べて、成長のはじめから非常に少なくなる。この結果、成長終了後の第1の窒化物半導体層3の表面(保護膜上部及び窓部上部)には、転位した結晶欠陥が非常に少なく、あるいは透過型電子顕微鏡観察によると保護膜上部にはほとんど見られなくなる。この結晶欠陥の非常に少ない第1の窒化物半導体層3を、素子構造となる窒化物半導体の成長基板に用いることにより、従来よりも結晶性に優れた窒化物半導体素子を実現できる。
【0025】また、第1の窒化物半導体層3の表面の窓部及び保護膜上部共に結晶欠陥が少なくなるが、成長初期に結晶欠陥が多かった窓部の上部に成長した第1の窒化物半導体層3の表面には、保護膜上部に成長したものに比べやや結晶欠陥が多くなる傾向がある。このことは恐らく、窓部に成長する第1の窒化物半導体層3の成長の途中で、多くの結晶欠陥の転位が止まったものの、わずかに転位を続ける結晶欠陥が窓部のほぼ直上部に転位し易い傾向があるのではないかと考えられる。
【0026】また、結晶欠陥の転位の傾向は、保護膜を形成した後、第1の窒化物半導体3を成長させる際に3族源のガスに対する窒素源のガスのモル比(V/III比)を変えることにより調整できる。まずV/III比を2000以下にする場合は、結晶欠陥の転位がまっすぐ表面まで達しなく、成長の途中で転位が90°曲がり易くなるようである。これに対し、V/III比を2000より大きくする場合は、結晶欠陥が表面方に転位を続けるのもが、V/III比を2000以下にする場合に比べ、多くなりやすい。このような結晶欠陥の転位の違いによる結晶欠陥の数を表面透過型電子顕微鏡観察によると、V/III比が2000以下の場合は、窓部上部のみに転位が観測され保護膜上部にはほとんど欠陥が見られなくなり、例えば窓部上部の結晶欠陥濃度が、ほぼ108個/cm2以下、好ましくは107個/cm2以下であり、保護膜上部では、ほぼ107個/cm2以下、好ましくは106個/cm2以下である。また、V/III比が2000より大きい場合は、窓部及び保護膜上部両方に渡って転位が見られ結晶欠陥の数が例えば108個/cm2以上となる傾向がある。V/IIIの好ましい値としては2000〜100、1500〜500であり、この範囲であると、上記結晶欠陥の転位が表面まで転位しにくくなり良好な結晶性を有する窒化物半導体を得られやすい。
【0027】また、本発明において、図5に示すように、第2の保護膜12を第1の窒化物半導体層3の表面の結晶欠陥が現れ易いと思われる部分や、表面に現れた結晶欠陥を覆うように設けることが好ましい。このように第2の保護膜12を設けると、第1の窒化物半導体層3の表面に現れた結晶欠陥の更なる転位が防止でき、更に素子構造を形成した後で窓部上部の転位を中断した結晶欠陥がレーザ素子等を作動中に活性層等へ再転位する恐れが考えられるが、これを防止でき好ましい。本発明において、第2の保護膜12を形成する位置は特に限定されず、第1の窒化物半導体層3の表面に部分的に、好ましくは現れている結晶欠陥の上に形成され、更に好ましくは第1の窒化物半導体層3の成長初期に結晶欠陥が存在する窓部の上部である。例えば、第2の保護膜12の形成する位置の一実施の形態として、図5に示すように、第1の窒化物半導体層3の窓部の上部に、第2の保護膜12を形成する。つまり、基板と窒化物半導体層との界面から発生した格子欠陥が表面に現れ易いと考えられる窓部の上部の第1の窒化物半導体層3の表面に第2の保護膜12を形成し、第1の保護膜11上部に成長されている第1の窒化物半導体層3の表面を露出させることが望ましい。このように第2の保護膜12を、第1の保護膜11の窓部に対応する第1の窒化物半導体層3の表面に形成することにより、窓部から結晶欠陥が転位を続けた場合、結晶欠陥の転位を第2の保護膜12で止めることができる。
【0028】なお、図5では図4で成長させた第1の窒化物半導体層3表面の凹凸を少なくするため、研磨してフラットな面としているが、特に研磨せず、そのまま第1の窒化物半導体層3の表面に第2の保護膜12を形成しても良い。好ましくは第2の保護膜12の面積を第1の保護膜11の窓の面積よりも大きくする。具体的には、保護膜の形状をドット、ストライプ等で形成した場合には、単位ドットの表面積、単位ストライプ幅を窓よりも大きくする。なぜなら、結晶欠陥は必ずしも基板から垂直に転位するのではなく、斜めに入ったり、途中で折れ曲がって転位する場合が多い。そのため第1の保護膜11の直上部にある第1の窒化物半導体層3に結晶欠陥が侵入してくる可能性が考えられるため、図5に示すように、第2の保護膜12の表面積を窓よりも大きくすることが望ましい。
【0029】次に、第2の保護膜12が形成された第1の窒化物半導体層3上に第2の窒化物半導体層4を成長させると、同様に、最初は第2の保護膜12の上には第2の窒化物半導体層4は成長せず、第1の窒化物半導体層3の上にのみ選択成長する。第1の窒化物半導体層3の上に成長させる第2の窒化物半導体層4は、同じ窒化物半導体であり、しかも結晶欠陥の少ない第1の窒化物半導体層3の上に成長させているので、格子定数のミスマッチによる結晶欠陥が発生しにくい。第1の窒化物半導体層3の表面に結晶欠陥が少ないため、第2の窒化物半導体層4に転位する結晶欠陥も少なくなり、第1の窒化物半導体層3よりもさらに結晶性の良い第2の窒化物半導体層4が成長できる。なお本発明の第1の工程において、第1の窒化物半導体層3、第2の窒化物半導体層4、いずれの窒化物半導体も基板として用いることができる。
【0030】さらに好ましい態様として、保護膜の形状をストライプとする。ストライプとすることにより、窒化物半導体の異方性成長が利用できる。即ち、窒化物半導体は異種基板上では、ある一定の方位に対して成長しやすい傾向にあるため、成長しやすい方向に対して垂直なストライプ状の保護膜を設けることにより、保護膜上部で窒化物半導体がつながって成長しやすい傾向にある。なお保護膜の面積は露出している異種基板の面積(窓)よりも大きくする方が格子欠陥の少ない窒化物半導体が得られやすい。
【0031】第1の工程の特に好ましい態様として、C面(0001)を主面とするサファイア基板上部にそのサファイア基板のA面(11-20)に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する。若しくはA面(11-20)を主面とするサファイア基板上部にそのサファイア基板のR(1-102)面に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する。又は(111)面を主面とするスピネル基板上部にそのスピネル基板の(110)面に対して垂直なストライプ形状を有する保護膜を形成する。いずれの工程を用いても良い。そして前記保護膜上部に窒化物半導体を成長させる。図7は異種基板の主面側の模式的な平面図である。この図はサファイアC面を主面とし、オリエンテーションフラット(オリフラ)面をA面としている。この図に示すように保護膜のストライプをA面に対して垂直方向で、互いに平行なストライプを形成する。図7に示すように、サファイアC面上に窒化物半導体を選択成長させた場合、窒化物半導体は面内ではA面に対して平行な方向で成長しやすく、垂直な方向では成長しにくい傾向にある。従ってA面に対して垂直な方向でストライプを設けると、ストライプとストライプの間の窒化物半導体がつながって成長しやすくなり、図2〜図5に示した結晶成長が容易に可能となる。
【0032】同様に、A面を主面とするサファイア基板を用いた場合についても、例えばオリフラ面をR面とすると、R面に垂直方向に対して、互いに平行なストライプを形成することにより、ストライプ幅方向に対して窒化物半導体が成長しやすい傾向にあるため、結晶欠陥の少ない窒化物半導体層を成長させることができる。
【0033】またスピネル(MgAl2O4)に対しても、窒化物半導体の成長は異方性があり、窒化物半導体の成長面を(111)面とし、オリフラ面を(110)面とすると、窒化物半導体は(110)面に対して平行方向に成長しやすい傾向がある。従って(110)面に対して垂直な方向にストライプを形成すると窒化物半導体層と隣接する窒化物半導体同士が保護膜の上部でつながって、結晶欠陥の少ない結晶を成長できる。上記説明は図5のように第2の保護膜12を形成する場合も同様に、第1の保護膜11と平行方向のストライプを第1の窒化物半導体層3表面に形成することが望ましい。なおスピネルは立方晶であるため特に図示していない。
【0034】図8は図7の一部を拡大して示す模式的な平面図である。この図に示すように窒化物半導体はC面を主面としA面をオリフラ面としたサファイア基板上では、保護膜上部に成長させる窒化物半導体基板のM面がオリフラ面に対して平行な方向で成長する傾向にある。そのため、活性層を有する窒化物半導体素子をその窒化物半導体基板の上に成長させた際に、活性層部分を保護膜上部に位置するように設計すると、結晶性の良い窒化物半導体素子を成長させることができる。しかも、第4の工程において、窒化物半導体基板をそのストライプ状の保護膜に対して垂直な方向で劈開すると、窒化物半導体素子はM面で劈開されるために、レーザ素子を作製する場合には、平行な共振面を容易に得ることができる。なお、図8はC面を主面とするサファイアについて示すものであるが、同様にA面を主面とするサファイア、(111)面を主面とするスピネルについても同様である。
【0035】
【実施例】
[実施例1]本実施例はMOVPE(有機金属気相成長法)について示すものであるが、本発明の方法は、MOVPE法に限るものではなく、例えばHVPE(ハライド気相成長法)、MBE(分子線気相成長法)等、窒化物半導体を成長させるのに知られている全ての方法を適用できる。
【0036】(第1の工程)2インチφ、C面を主面とし、オリフラ面をA面とするサファイア基板上に、温度510℃でGaNよりなるバッファ層(図示されていない)を150オングストロームと、温度1050℃でアンドープGaN層2を3μm成長させ、その上にストライプ状のフォトマスクを形成し、CVD装置によりストライプ幅10μm、ストライプ間隔(窓)6μmのSiO2よりなる保護膜を0.1μmの膜厚で形成する。ストライプ方向は図7に示すように、オリフラ面に対して垂直な方向で形成する。
【0037】保護膜形成後、基板を反応容器内にセットし、温度を1050℃まで上昇させ、原料ガスにTMG、アンモニア、シランガスを用い、Siを1×1018/cm3ドープしたGaNよりなる窒化物半導体層を150μmの膜厚で成長させる。基板となる窒化物半導体層の好ましい成長膜厚は、先に形成した保護膜11の膜厚、大きさによっても異なるが、保護膜11の表面を覆い、保護膜上部にまで成長させるために、保護膜の膜厚に対して10倍以上、さらに好ましくは50倍以上の膜厚で成長させることが望ましい。また、保護膜の大きさは特に限定しないが、例えばストライプで形成した場合、好ましいストライプ幅は0.5〜100μm、さらに好ましくは1μm〜50μm程度の幅で形成することが望ましく、ストライプピッチは、ストライプ幅よりも狭くすることが望ましい。つまり保護膜の面積を窓よりも大きくする方が、結晶欠陥の少ない窒化物半導体層が得られる。
【0038】窒化物半導体層成長後、ウェーハを反応容器から取り出し、窒化物半導体層の表面をラッピングして鏡面状とし、SiドープGaNよりなる窒化物半導体基板を得る。
【0039】(第2の工程)次にSiドープGaN基板を作製したウェーハを再度MOCVD装置の反応容器に移送し、レーザ素子構造となる窒化物半導体層を基板上に成長させる。図9は本発明の窒化物半導体素子の一構造を示す模式断面図であり具体的にはレーザ素子の構造を示している。このレーザ素子は共振面に平行な方向、即ち窒化物半導体基板のM面に平行な方向で素子を切断した際の図を示している。図9を元に第2の工程以下を説明する。
【0040】SiドープGaNを主面とするウェーハをMOVPE装置の反応容器内にセットし、1050℃でこのGaN基板40の上にSiを1×1018/cm3ドープしたGaNよりなる第2のバッファ層41を2μm成長させる。第2のバッファ層41は900℃以上の高温で成長させる窒化物半導体単結晶層であり、従来より成長される基板と窒化物半導体との格子不整合を緩和するための低温で成長させるバッファ層とは区別される。また、この第2のバッファ層41は膜厚100オングストローム以下、さらに好ましくは70オングストローム以下、最も好ましくは50オングストローム以下の互いに組成が異なる窒化物半導体を積層してなる歪超格子層とすることが好ましい。歪超格子層とすると、単一窒化物半導体層の結晶性が良くなるため、高出力なレーザ素子が実現できる。
【0041】(クラック防止層42)次にSiを5×1018/cm3ドープしたIn0.1Ga0.9Nよりなるクラック防止層42を500オングストロームの膜厚で成長させる。このクラック防止層42はInを含むn型の窒化物半導体、好ましくはInGaNで成長させることにより、Alを含む窒化物半導体層中にクラックが入るのを防止することができる。クラック防止層は100オングストローム以上、0.5μm以下の膜厚で成長させることが好ましい。100オングストロームよりも薄いと前記のようにクラック防止として作用しにくく、0.5μmよりも厚いと、結晶自体が黒変する傾向にある。なお、このクラック防止層42は省略することもできる。
【0042】(n側クラッド層43)次に、Siを5×1018/cm3ドープしたn型Al0.2Ga0.8Nよりなる第1の層、20オングストロームと、アンドープ(undope)のGaNよりなる第2の層、20オングストロームとを交互に100層積層してなる総膜厚0.4μmの超格子構造とする。n側クラッド層43はキャリア閉じ込め層、及び光閉じ込め層として作用し、Alを含む窒化物半導体、好ましくはAlGaNを含む超格子層とすることが望ましく、超格子層全体の膜厚を100オングストローム以上、2μm以下、さらに好ましくは500オングストローム以上、1μm以下で成長させることが望ましい。超格子層にするとクラックのない結晶性の良いキャリア閉じ込め層が形成できる。
【0043】(n側光ガイド層44)続いて、Siを5×1018/cm3ドープしたn型GaNよりなるn型光ガイド層44を0.1μmの膜厚で成長させる。このn側光ガイド層44は、活性層の光ガイド層として作用し、GaN、InGaNを成長させることが望ましく、通常100オングストローム〜5μm、さらに好ましくは200オングストローム〜1μmの膜厚で成長させることが望ましい。このn側光ガイド層44は通常はSi、Ge等のn型不純物をドープしてn型の導電型とするが、特にアンドープにすることもできる。超格子とする場合には第1の層及び第2の層の少なくとも一方にn型不純物をドープしてもよいし、またアンドープでも良い。
【0044】(活性層45)次に、アンドープのIn0.2Ga0.8Nよりなる井戸層、25オングストロームと、アンドープIn0.05Ga0.95Nよりなる障壁層、50オングストロームを交互に積層してなる総膜厚175オングストロームの多重量子井戸構造(MQW)の活性層45を成長させる。
【0045】(p側キャップ層46)次に、バンドギャップエネルギーがp側光ガイド層47よりも大きく、かつ活性層45よりも大きい、Mgを1×1020/cm3ドープしたp型Al0.3Ga0.9Nよりなるp側キャップ層46を300オングストロームの膜厚で成長させる。このp側キャップ層46はp型としたが、膜厚が薄いため、n型不純物をドープしてキャリアが補償されたi型、若しくはアンドープとしても良く、最も好ましくはp型不純物をドープした層とする。p側キャップ層17の膜厚は0.1μm以下、さらに好ましくは500オングストローム以下、最も好ましくは300オングストローム以下に調整する。0.1μmより厚い膜厚で成長させると、p型キャップ層46中にクラックが入りやすくなり、結晶性の良い窒化物半導体層が成長しにくいからである。Alの組成比が大きいAlGaN程薄く形成するとLD素子は発振しやすくなる。例えば、Y値が0.2以上のAlYGa1-YNであれば500オングストローム以下に調整することが望ましい。p側キャップ層46の膜厚の下限は特に限定しないが、10オングストローム以上の膜厚で形成することが望ましい。
【0046】(p側光ガイド層47)次に、バンドギャップエネルギーがp側キャップ層46より小さい、Mgを1×1020/cm3ドープしたp型GaNよりなるp側光ガイド層47を0.1μmの膜厚で成長させる。この層は、活性層の光ガイド層として作用し、n側光ガイド層44と同じくGaN、InGaNで成長させることが望ましい。また、この層はp側クラッド層48を成長させる際のバッファ層としても作用し、100オングストローム〜5μm、さらに好ましくは200オングストローム〜1μmの膜厚で成長させることにより、好ましい光ガイド層として作用する。このp側光ガイド層は通常はMg等のp型不純物をドープしてp型の導電型とするが、特に不純物をドープしなくても良い。なお、このp型光ガイド層を超格子層とすることもできる。超格子層とする場合には第1の層及び第2の層の少なくとも一方にp型不純物をドープしてもよいし、またアンドープでも良い。
【0047】(p側クラッド層48)次に、Mgを1×1020/cm3ドープしたp型Al0.2Ga0.8Nよりなる第1の層、20オングストロームと、Mgを1×1020/cm3ドープしたp型GaNよりなる第2の層、20オングストロームとを交互に積層してなる総膜厚0.4μmの超格子層よりなるp側クラッド層48を形成する。この層はn側クラッド層43と同じくキャリア閉じ込め層として作用し、超格子構造とすることによりp型層側の抵抗率を低下させるための層として作用する。このp側クラッド層48の膜厚も特に限定しないが、100オングストローム以上、2μm以下、さらに好ましくは500オングストローム以上、1μm以下で成長させることが望ましい。
【0048】量子構造の井戸層を有する活性層45を有するダブルヘテロ構造の窒化物半導体素子の場合、活性層45に接して、活性層45よりもバンドギャップエネルギーが大きい膜厚0.1μm以下のAlを含む窒化物半導体よりなるキャップ層46を設け、そのキャップ層46よりも活性層から離れた位置に、キャップ層46よりもバッドギャップエネルギーが小さいp側光ガイド層47を設け、そのp側光ガイド層47よりも活性層から離れた位置に、p側光ガイド層47よりもバンドギャップが大きいAlを含む窒化物半導体を含む超格子層よりなるp側クラッド層48を設けることは非常に好ましい。しかもp側キャップ層46のバンドギャップエネルギーが大きくしてある、n層から注入された電子がこのキャップ層46で阻止されるため、電子が活性層をオーバーフローしないために、素子のリーク電流が少なくなる。
【0049】(p側コンタクト層49)最後に、Mgを2×1020/cm3ドープしたp型GaNよりなるp側コンタクト層49を150オングストロームの膜厚で成長させる。p側コンタクト層は500オングストローム以下、さらに好ましくは400オングストローム以下、20オングストローム以上に膜厚を調整する。以上のようにして素子構造となる窒化物半導体層を積層成長させたところ、窒化物半導体素子部分の面方位はGaN基板40の面方位と一致していた。
【0050】反応終了後、反応容器内において、ウェーハを窒素雰囲気中、700℃でアニーリングを行い、p型層をさらに低抵抗化する。アニーリング後、ウェーハを反応容器から取り出し、図9に示すように、RIE装置により最上層のp型コンタクト層20と、p型クラッド層19とをエッチングして、4μmのストライプ幅を有するリッジ形状とし、リッジ表面の全面にNi/Auよりなるp電極51を形成する。リッジ形成位置はGaN基板を作成する際に、サファイア基板の上に形成したストライプ状の保護膜の直上部に相当する位置とし、ストライプ状の保護膜に平行なストライプ上のリッジを形成する。
【0051】次に、図9に示すようにp電極51を除くp側クラッド層48、コンタクト層49の表面にSiO2よりなる絶縁膜50を形成し、この絶縁膜50を介してp電極51と電気的に接続したpパッド電極52を形成する。
【0052】(第3の工程)p電極形成後、ウェーハのサファイア基板1、バッファ層、GaN層2、保護膜を研磨、除去し、SiドープGaN基板40の表面を露出させ、そのGaN基板40の表面全面に、Ti/Alよりなるn電極53を0.5μmの膜厚で形成し、その上にヒートシンクとのメタライゼーション用にAu/Snよりなる薄膜を形成する。
【0053】(第4の工程)次に、n電極側53からストライプリッジに対して垂直な位置、即ち、GaN基板40のM面で基板を劈開し、活性層の端面M面に共振面を作製する。
【0054】最後に、共振面にSiO2とTiO2よりなる誘電体多層膜を形成し、p電極に平行な方向で、バーを切断してレーザチップとする。レーザチップをフェースアップ(GaN基板とヒートシンクとが対向した状態)でヒートシンクに設置し、pパッド電極52をワイヤーボンディングして、室温でレーザ発振を試みたところ、室温において、閾値電流密度2.1kA/cm2、閾値電圧4.2Vで、発振波長405nmの連続発振が確認され、500時間以上の寿命を示した。
【0055】[実施例2]異種基板にA面を主面とし、R面をオリフラ面とするサファイアを用いる。保護膜はSi3N4を用い、実施例1と同様にR面に対して垂直なストライプ形状とする。ストライプ幅は12μm、ストライプ間隔(窓)4μm、膜厚0.1μmとする、そしてこの保護膜の上に、C軸配向した、アンドープGaNよりなる窒化物半導体基板を120μmの膜厚で成長させ、このGaN基板の上に実施例1と同様にしてC軸配向した窒化物半導体レーザ素子構造を成長させ、同様にしてレーザ素子を作製したところ、実施例1のレーザ素子とほぼ同等の特性を有するレーザ素子が得られた。
【0056】[実施例3]HVPE(ハイドライド気相成長)法により窒化物半導体基板を得る。まず、(111)面を主面とし、オリフラ面を(110)面とする、1インチφのスピネル(MgAl2O4)基板を用意する。このスピネル基板の表面に実施例1と同様にして、フォトマスクを形成し、SiO2よりなる保護膜11を、オリフラ面に対して垂直なストライプ形状で形成する。なおストライプ幅は12μm、ストライプ間隔は6μmとする。
【0057】HVPE装置では、石英よりなる反応容器管の内部にGaメタルを入れた石英ボートを設置する。さらに石英ボートから離れた位置に、斜めに傾けた前述の基板1を設置する。なお、反応容器内のGaメタルに接近した位置にはハロゲンガス供給管が設けられ、ハロゲンガス供給間とは別に、基板に接近した位置にはN源供給管が設けられている。ハロゲンガス管より窒素キャリアガスと主に、HClガスを導入する。この際Gaメタルのボートは900℃に加熱し、スピネル基板側は1050℃に加熱してある。そして、HClガスとGaを反応させてGaCl3を生成させ、スピネル基板側に接近したN源供給管からはアンモニアガスを同じく窒素キャリアガスと主に供給し、さらに、ハロゲンガスと共にシランガスを供給し、成長速度50μm/hrで3時間成長を行い、厚さ150μmのSiを1×1018/cm3ドープしたGaNを成長させる。
【0058】後はMOVPE法を用い、実施例1と同様にしてGaN基板の上にレーザ素子構造となる窒化物半導体層を積層して窒化物半導体レーザ素子を得たところ、実施例1のレーザ素子とほぼ同等の特性を有するレーザ素子が得られた。
【0059】[実施例4]実施例1において第2の工程と、第3の工程の順序を逆にする他は同様にしてレーザ素子を得る。つまりサファイア基板上に保護膜を介して、窒化物半導体基板を作製した後、サファイア基板、保護膜を研磨して除去し、SiドープGaN基板のみとする。このGaN基板の上に実施例1と同様にしてレーザ素子構造となる窒化物半導体層を成長させる。なおリッジストライプを形成する位置は、サファイア基板、保護膜が除去されているため、窒化物半導体素子成長前に起点となる目印をGaN基板側に入れてある。このレーザ素子も実施例1とほぼ同等の特性を示した。
【0060】[実施例5]実施例1で得られた150μmのSiドープGaN基板表面に、実施例1と同様にして、ストライプ幅10μm、ストライプ間隔6μmのSi3N4よりなる第2の保護膜を0.1μmの膜厚で形成する。なお、第2の保護膜の位置は、図6に示すように、先に形成した第1の保護膜11の位置とずらせて、第1の保護膜11の6μmの窓の位置に、第2の保護膜の10μmのストライプがくるようにマスク合わせをしていると共に、第1の保護膜11と平行なストライプを形成している。
【0061】第2の保護膜形成後、再度ウェーハを反応容器に戻し、原料ガスにTMG、アンモニア、シランガスを用い、Siを1×1018/cm3ドープしたGaNよりなる第2の窒化物半導体層を150μmの膜厚で成長させた後、反応容器から取り出し表面を鏡面研磨して、今度は第2の窒化物半導体層を基板とする。
【0062】第2の工程から後は実施例1と同様にしてレーザ素子の構造となる窒化物半導体層を積層してレーザ素子を作製する。但しリッジストライプを形成する際、リッジストライプのストライプ位置は、後から形成した第2の保護膜の直上部にあたる窒化物半導体層に形成する。このレーザ素子は、室温において、閾値電流密度2.0kA/cm2、閾値電圧4.0Vで、発振波長405nmの連続発振が確認され、1000時間以上の寿命を示した。
【0063】
【発明の効果】窒化物半導体は理想の半導体として現在評価されているにもかかわらず、窒化物半導体基板が存在しないために、異種基板の上に成長された格子欠陥の多い窒化物半導体デバイスで実用化されている。そのためレーザ素子のような結晶欠陥が即、寿命に影響するデバイスを実現すると、数十時間で素子寿命がつきていた。ところが、本発明の成長方法によると、従来成長できなかった窒化物半導体基板が得られるため、この窒化物半導体基板の上に、素子構造となる窒化物半導体層を積層すると、格子欠陥の非常に少ない窒化物半導体デバイスが実現できる。しかも、窒化物半導体基板を特定の面方位で劈開しているため、基板上に成長させた窒化物半導体素子の劈開面が鏡面状となって、その面を共振面とすると反射率の高い共振面が作製できる。このように本発明の方法を用いることにより従来実現できなかったレーザ素子をほぼ実用化レベルまでにできる。また本発明はレーザ素子だけではなく、窒化物半導体基板を用いたLED素子、受光素子、太陽電池、トランジスタ等の窒化物半導体を用いたあらゆる電子デバイスに適用でき、産業上の利用価値は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 C軸配向した窒化物半導体の結晶構造を示すユニットセル図。
【図2】 第1の工程の窒化物半導体ウェーハの各構造を示す模式断面図。
【図3】 第1の工程の窒化物半導体ウェーハの各構造を示す模式断面図。
【図4】 第1の工程の窒化物半導体ウェーハの各構造を示す模式断面図。
【図5】 第1の工程の窒化物半導体ウェーハの各構造を示す模式断面図。
【図6】 第1の工程の窒化物半導体ウェーハの各構造を示す模式断面図。
【図7】 好ましい第1の工程を説明する異種基板主面側の模式的な平面図。
【図8】 図7の一部を拡大して示す模式的な平面図。
【図9】 本発明の窒化物半導体素子の一構造を示す模式断面図。
【符号の説明】
1・・・・異種基板
2・・・・バッファ層
3・・・・基板となる第1の窒化物半導体層
4・・・・基板となる第2の窒化物半導体層
11・・・・第1の保護膜
12・・・・第2の保護膜
【図面】









 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2004-07-14 
出願番号 特願平10-50859
審決分類 P 1 41・ 16- Y (H01S)
P 1 41・ 121- Y (H01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 山下 崇
町田 光信
登録日 2003-02-07 
登録番号 特許第3395631号(P3395631)
発明の名称 窒化物半導体素子及び窒化物半導体素子の製造方法  
代理人 堀川 かおり  
代理人 小野 由己男  
代理人 小野 由己男  
代理人 堀川 かおり  

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