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審決分類 審判 全部無効 発明同一 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) A01K
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) A01K
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) A01K
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て一部成立) A01K
管理番号 1111835
審判番号 無効2004-35155  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-05-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-23 
確定日 2004-12-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3027289号発明「中通し釣竿とその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3027289号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3027289号の請求項2ないし5に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の2を請求人の負担とし、3分の1を被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3027289号の出願は、平成5年12月15日(優先権主張 平成5年9月3日)に特許出願され、平成12年1月28日にその発明について特許権の設定登録がなされた後、その特許について、平成16年3月23日に本件無効審判が請求され、平成16年6月7日に答弁書と共に訂正請求書が提出され、これに対し平成16年7月16日に弁駁書が提出されたものである。

2.請求人の主張
請求人は、下記の証拠方法を提示し、特許第3027289号の請求項1ないし6に係る発明の特許は、次の理由により特許法第123条第1項第1号、第2号又は第4号に該当し、無効とすべきものである旨主張する。
(1)本件請求項1、2及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、或いは、その発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものである(以下、「無効理由1」という。)。
(2)本件請求項1、2及び5に係る発明は、本件の出願前に出願され、その後に公開された甲第2号証の発明と実質的に同一発明であるので、その特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものである(以下、「無効理由2」という。)。
(3)本件の平成10年2月27日付の手続補正書(甲第4号証)による補正は、平成5年改正前特許法第41条の要件を満たさない要旨変更にかかる補正であり、同法第40条により本件出願日は補正日である平成10年2月27日に繰り下がる結果、本件請求項1ないし6の発明は、甲第3号証に記載された発明、或いは、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、その特許は特許法第29条の規定に違反してされたものである(以下、「無効理由3」という。)。
(4)本件明細書の記載が不明瞭であるので、本件特許は、特許法第36条第4項、第5項で規定する記載要件を満たしていない出願に対してされたものである(以下、「無効理由4」という。)。

甲第1号証:フランス特許第2123967号明細書
甲第2号証:特願平5-158735号(特開平7-39277号)の願書に最初に添付した明細書又は図面
甲第3号証:本件出願(特願平5-343104号)の公開特許公報(特開平7-115878号公報)
甲第4号証:本件出願における平成10年2月27日付け手続補正書

3.被請求人の反論
(1)「甲第1号証のテープ4は、単に、イグサを構成する糸の間に巻き付けられるもので、このテープの幅が2つの螺旋の間のスペースに等しく厚さがイグサの高さに等しいものであっても、それは単に配置されているという状態にとどまり、『釣糸案内部材とマンドレルとの隙間を充填するように或いは塞ぐように配置されている』ということはできないので、甲第1号証のようにテープ4を配置しても、樹脂強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形する際に、テープとイグサとの間の隙間から樹脂がマンドレル側に流入し、本発明の効果を発揮し得ない。」(答弁書4頁27行〜5頁6行)
(2)「甲第2号証の水溶性フィルム5は本件発明の樹脂流入阻止部材ではない。すなわち、甲第2号証には『相隣接するセラミックス間に水溶性樹脂層を形成する』、『セラミックスを捲回されていない個所には水溶性樹脂層が形成する。』と記載されているだけで、セラミックス(本発明の釣糸ガイド部材に対応)とマンドレルとの隙間に充填されるようにも、隙間を塞ぐようにも配置されてはいない。従って、甲第1号証のテープ4と同様に、樹脂強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形する際に、微細な隙間から樹脂が流入し、本発明の効果を発揮できない。
しかも、水溶性フィルム5は、焼成時には軟化せず、水洗時に溶出除去されるものである。従って、このことからも、水溶性フィルム5がセラミックスとマンドレルとの隙間に充填されるものでも隙間を塞ぐこともないことが理解できる。」(答弁書7頁1〜11行)
(3)「訂正請求後の請求項4(訂正請求前の請求項5)記載の発明は、訂正請求後の請求項2又は3を引用している。本件明細書には訂正請求後の請求項2の発明に関し『請求項2によれば、弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着するため、少なくとも釣糸案内部材の横断面の一部分が受け部材層に埋没し、この上にプリプレグを巻回して巻回プリプレグ層を形成して一体焼成すると、前記埋没部分にはバリの付着が防止され、成形後に受け部材層を除去すれば竿管内面から内方に突出し、釣糸を損傷させることなく円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる。成形時には、受け部材層の存在のために釣糸案内部材の存在によって巻回プリプレグ層に無理な押圧力が作用しないため、竿管が外に凸状態に形成されることが防止できる。即ち繊維の蛇行が防止され、高強度で高品質の釣竿が成形される。』と記載され(【0040】)、訂正請求後の請求項3に関し『請求項3によれば、弾性部材チューブの外側に横断面の少なくとも一部分が埋没しつつ装着している釣糸案内部材を、該弾性部材チューブ内面に作用する均等圧力によって釣糸案内部材には適切な圧力が作用し、一体焼成すると一体化が確実になると共に、チューブを除去すれば、前記埋没部分が竿管内面から内方に突出する。また、外型の存在によって巻回プリプレグ層は外側に突出することがない。従って、成形時に繊維の蛇行が防止され、成形された竿管は高強度であると共に品質が向上する。また、釣糸案内部材の、少なくともその一部が弾性部材のチューブに埋没しているため、その埋没部にはバリの発生が防止され、釣糸を損傷させることなく円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる。』と記載されている(【0041】)。
引用した請求項2,3の発明に関する上記の記載から、訂正請求後の請求項4の発明は、釣糸案内部材がどの様な状態であればバリの発生が防止されているのか明確である。」(答弁書10頁12行〜11頁7行)

4.当審の判断
4-1.訂正請求について
4-1-1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、次のとおりである(下線部分が訂正個所である)。
(1)訂正事項aについて
特許明細書の特許請求の範囲に記載された「【請求項1】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、マンドレルに釣糸案内部材を装着すると共に、該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し、その後、前記釣糸案内部材の上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記樹脂流入阻止部材を除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法。」を、
「【請求項1】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、マンドレルに釣糸案内部材を装着すると共に、該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に、樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し、その後、前記釣糸案内部材の上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記樹脂流入阻止部材を除去する中通し竿の製造方法であって、前記樹脂流入阻止部材は、離型剤、シーリング剤及び緊締テープの群から選択され、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充填され又は該隙間を塞ぐように配設されていることを特徴とする中通し釣竿の製造方法。」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許明細書の特許請求の範囲に記載された請求項2を削除する。
(3)訂正事項c
特許明細書の特許請求の範囲に記載された「【請求項3】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、弾性部材のチューブの外側に釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し、該巻回プリプレグ層の上から外型を被せ、前記チューブ内に圧力を作用させて加熱成形し、前記外型を外すと共に、前記チューブを除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法。」を、
「【請求項2】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記受け部材層を除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法。」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の特許請求の範囲に記載された「【請求項4】」を「【請求項3】」と訂正する。
(5)訂正事項e
特許明細書の特許請求の範囲に記載された「【請求項5】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿であって、」を、
「【請求項4】請求項2又は請求項3記載の方法によって製造された中通し釣竿であって、」と訂正する。
(6)訂正事項f
特許明細書の特許請求の範囲に記載された「【請求項6】」を「【請求項5】」と訂正する。
(7)訂正事項g
特許明細書の段落【0007】の記載を、
「【課題を解決するための手段】上記目的に鑑みて請求項1では、樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、マンドレルに釣糸案内部材を装着すると共に、該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に、樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し、その後、前記釣糸案内部材の上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記樹脂流入阻止部材を除去する中通し竿の製造方法であって、前記樹脂流入阻止部材は、離型剤、シーリング剤及び緊締テープの群から選択され、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充填され又は該隙間を塞ぐように配設されていることを特徴とする中通し釣竿の製造方法を提供する。」と訂正する。
(8)訂正事項h
特許明細書の段落【0008】の記載を、
「【0008】請求項2では、樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記受け部材層を除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法を提供する。」と訂正する。」と訂正する。
(9)訂正事項i
特許明細書の段落【0009】の記載を、
「【0009】また請求項3では、樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、弾性部材のチューブの外側に釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し、この巻回プリプレグ層の上から外型を被せ、前記チューブ内に圧力を作用させて加熱成形し、前記外型を外すと共に、前記チューブを除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法を提供する。請求項4では、請求項2又は請求項3記載の方法によって製造された中通し釣竿であって、竿管内部に一体的に加熱成形された釣糸案内部材がバリの発生を防止された状態で突出していると共に、該釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されていることを特徴とする中通し釣竿を提供する。請求項5では、樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿であって、竿管内部に突出するよう一体的に加熱成形された釣糸案内部材と竿管本体層との間に、樹脂材の層が介在していることを特徴とする中通し釣竿を提供する。」と訂正する。
(10)訂正事項j
特許明細書の段落【0011】の記載を、
「【0011】請求項2の方法では、釣糸案内部材はマンドレルに直接ではなく、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介在させて装着しているため、装着状態で釣糸案内部材は少なくとも横断面の一部分がこの受け部材層内に埋もれる。従って、この上に繊維強化プリプレグを巻回して加熱成形して樹脂が流れても、釣糸案内部材の前記埋もれた部分の残り部分が繊維強化プリプレグと一体化するだけであり、竿管の成形後にマンドレルと当該受け部材層を取り出せば、釣糸案内部材は受け部材層に埋もれていた部分だけ竿管内方に安定的に突出する。また、釣糸案内部材は軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介在させているため、プリプレグが釣糸案内部材の近傍で外に凸状態になり難く、繊維が蛇行して竿管の強度が低下するということを防止できる。」と訂正する。
(11)訂正事項k
特許明細書の段落【0012】の記載を、
「【0012】請求項3の方法では、弾性部材チューブの外側に釣糸案内部材を装着していると共に、巻回プリプレグ層の外側を外型によって覆っているため、チューブ内に圧力を作用させると、釣糸案内部材は巻回プリプレグ層の内周に押し付けられた状態で加熱成形されるが、巻回プリプレグ層の外周面は外型の内面に沿っており、外方には拡径できない他、圧力は釣糸案内部材のみならずチューブ全体に均一に作用するため、押し付けられた釣糸案内部材はこの巻回プリプレグ層内に全体が埋没することはなく、せいぜい部分的な埋没に留まる。従って、一体成形後にチューブを取り出せば、釣糸案内部材は竿管の内方に安定的に突出している。また、外型を被せると共に弾性部材チューブを介在させているため、プリプレグが釣糸案内部材の近傍で外に凸状態になり難く、繊維が蛇行して竿管の強度が低下するということを防止できる。請求項4の釣竿は、バリの発生を防止された釣糸案内部材が竿管内方に突出しているため、釣糸の案内時において、該釣糸を損傷させたり糸抵抗を増大させることを防止して釣糸を円滑に案内できる。しかも、釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されているため、従来の、釣糸案内部材近くの繊維が蛇行した竿管に比べ、竿管強度が大きく向上する。請求項5の釣竿は、釣糸案内部材と竿管本体層との間に樹脂材の層が介在しているため、釣糸案内部材と竿管本体層との一体化強度が向上する。」と訂正する。
(12)訂正事項l
特許明細書の段落【0040】の記載を、
「【0040】請求項2によれば、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着するため、少なくとも釣糸案内部材の横断面の一部分が受け部材層に埋没し、この上にプリプレグを巻回して巻回プリプレグ層を形成して一体焼成すると、前記埋没部分にはバリの付着が防止され、成形後に受け部材層を除去すれば竿管内面から内方に突出し、釣糸を損傷させることなく円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる。成形時には、受け部材層の存在のために釣糸案内部材の存在によって巻回プリプレグ層に無理な押圧力が作用しないため、竿管が外に凸状態に形成されることが防止できる。即ち繊維の蛇行が防止され、高強度で高品質の釣竿が成形される。」と訂正する。
(13)訂正事項m
特許明細書の段落【0041】の記載を、
「【0041】請求項3によれば、弾性部材チューブの外側に横断面の少なくとも一部分が埋没しつつ装着している釣糸案内部材を、該弾性部材チューブ内面に作用する均等圧力によって釣糸案内部材には適切な圧力が作用し、一体焼成すると一体化が確実になると共に、チューブを除去すれば、前記埋没部分が竿管内面から内方に突出する。また、外型の存在によって巻回プリプレグ層は外側に突出することがない。従って、成形時に繊維の蛇行が防止され、成形された竿管は高強度であると共に品質が向上する。また、釣糸案内部材の、少なくともその一部が弾性部材のチューブに埋没しているため、その埋没部にはバリの発生が防止され、釣糸を損傷させることなく円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる。請求項4の釣竿は、バリの発生を防止された釣糸案内部材が竿管内方に突出しているため、釣糸案内時において、該釣糸を損傷させたり糸抵抗を増大させることを防止し、釣糸を円滑に案内できる。しかも、釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されているため、従来の、釣糸案内部材近くの繊維が蛇行した竿管に比べ、竿管強度が大きく向上する。請求項5の釣竿は、釣糸案内部材と竿管本体層との間に樹脂材の層が介在しているため、釣糸案内部材と竿管本体層との一体化強度が向上する。」と訂正する。

4-1-2.訂正の適否
(1)訂正事項aについて
特許明細書には、「・・・該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し、・・・」(【請求項1】)、
「・・・例えば前記離型剤をこれら釣糸案内部材14’の前後であって、マンドレル10との隙間に充填する。この充填した離型剤を24で示す。離型剤の他、樹脂流入阻止部材としてはろー材、シリコン等のシーリング剤等も使用できる。」(段落【0027】)、と記載されている。
上記訂正事項aは、特許明細書の前記記載に基づいて、請求項1に係る発明において、「樹脂流入阻止部材は、離型剤、シーリング剤及び緊締テープの群から選択され、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充填され又は該隙間を塞ぐように配設されている」構成を付加して限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、そして、上記訂正事項aによる訂正は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって新規事項を追加するものでなく、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
この訂正について、請求人は、「『緊締テープ』を隙間に充填させる形態、『離型剤』により隙間を塞ぐ形態をも包含するものである。それらの形態については、願書に添付した明細書又は図面には記載されておらず、したがって、記載した事項の範囲内ではない。」(弁駁書3頁26行〜4頁1行)と主張する。
しかしながら、「充填」とは、物を詰めて欠けた所や空所を満たすことであり、形状の定まっていない「離型剤」、「シーリング剤」の場合には、「充填」の用語を用い、また、幅や厚さがあり形状が定まっている「緊締テープ」は「配設」の用語を用いるのが自然であるといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明においても、
「・・・例えば前記離型剤をこれら釣糸案内部材14’の前後であって、マンドレル10との隙間に充填する。」(段落【0027】)、
「・・・その前後のマンドレル10との間に離型剤や他のワックス等を充填する等してもよい。」(段落【0038】)、
「・・・この緊締テープ26に代えて、釣糸案内部材14’の前後とマンドレル10との隙間を型取った成形チューブを該釣糸案内部材の前後に配設して樹脂の流入を阻止しても良い。」(段落【0037】)と、上記のように用語が使われている。
また、仮に、「離型剤が隙間を塞ぐように配設されている」が含まれるとしても、これは「離型剤が隙間に充填され」と表現が異なるが実質的な構成が相違しているとは認められない。
したがって、上記訂正事項aによる訂正は特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、請求人の主張は採用できない。
(2)訂正事項bについて
上記訂正事項bは、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3)訂正事項cについて
上記訂正事項cにおいて、「【請求項3】」を「【請求項2】」とする訂正は、請求項2を削除したことに伴い、請求項の番号を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、「弾性部材」を「軟質の弾性部材」とする訂正は、「弾性部材」が「軟質の弾性部材」であるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「軟質の弾性部材」については、「軟質のゴムチューブ12」と記載されているので、上記訂正事項cによる訂正は特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項d及びfについて
上記訂正事項d及びfは、請求項2を削除したことに伴い、請求項の番号を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(5)訂正事項eについて
上記訂正事項eは、中通し釣竿が、「請求項2又は請求項3記載の方法によって製造された」ものであることに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項g〜mについて
上記訂正事項g〜mは、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項g〜mによる訂正は特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって新規事項を追加するものでなく、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4-1-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正請求を認める。

4-2.本件発明
上記「4-1.訂正請求について」で示したように上記訂正が認められるから、本件特許第3027289号の請求項1ないし5に係る発明(以下、「請求項1の発明」・・・「請求項5の発明」という。)は、訂正後の特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、マンドレルに釣糸案内部材を装着すると共に、該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に、樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し、その後、前記釣糸案内部材の上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記樹脂流入阻止部材を除去する中通し竿の製造方法であって、前記樹脂流入阻止部材は、離型剤、シーリング剤及び緊締テープの群から選択され、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充填され又は該隙間を塞ぐように配設されていることを特徴とする中通し釣竿の製造方法。
【請求項2】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記受け部材層を除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法。
【請求項3】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、弾性部材のチューブの外側に釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し、該巻回プリプレグ層の上から外型を被せ、前記チューブ内に圧力を作用させて加熱成形し、前記外型を外すと共に、前記チューブを除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法。
【請求項4】請求項2又は請求項3記載の方法によって製造された中通し釣竿であって、竿管内部に一体的に加熱成形された釣糸案内部材がバリの発生を防止された状態で突出していると共に、該釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されていることを特徴とする中通し釣竿。
【請求項5】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿であって、竿管内部に突出するよう一体的に加熱成形された釣糸案内部材と竿管本体層との間に、樹脂材の層が介在していることを特徴とする中通し釣竿。」

4-3.無効理由1(特許法第29条違反)について
請求人は、特許査定時の請求項1、2及び5に係る発明が特許法第29条の規定に違反して特許されたと主張する(上記「2.請求人の主張」参照。)が、上記訂正により特許査定時の請求項2が削除されたので、訂正後の請求項1及び4に係る発明が特許法第29条の規定に違反して特許されたかについて検討する。
4-3-1.甲第1号証記載の発明
甲第1号証(フランス特許第2123967号明細書)には、
(a)「本発明は、部材の製造後に付属品を追加することなく糸の滑りをよくできるように部材の製造時と同じ内部構造を持つ釣竿用補強プラスチック製筒状部材に関する。」(翻訳書2頁3〜5行)、
(b)「釣竿用補強プラスチック製筒状部材は織られた布または不織布をマンドレルに巻付けるか、あるいは例えばガラス繊維の糸を適切に配置することによって一般的に得られる。布または糸全体の結合はしみこませた樹脂によって保証される。この製造方法はよく知られているので本願で記述する必要はない。部材の製造のベースはマンドレルであって、それは一般的に金属からなり、円筒形または円錐形をしている。筒状部材の内部の寸法を決めるのはこのマンドレルであり、マンドレルは部材の加熱後引き抜かれる。」(翻訳書2頁6〜12行)、
(c)「非常に長い部材もしくは直径が短い部材においては、上記製造方法を適用することは困難である。この場合以下に述べる別の技術を用いてもよい。平滑なマンドレルにイグサ(jonc)を構成する糸を巻き付けるのに同時にもしくは糸を取り付ける前に、幅が2つの螺旋の間のスペースに等しく厚さがイグサ(jonc)の高さに等しい柔軟なテープを巻き付ける。・・・イグサ(jonc)との同時巻き付けであってもなくても、テープの各端の間隔をイグサの幅と等しくする。図2はこの製造方法を示す。この図において、マンドレルは3で、テープは4で、イグサ(jonc)を実現するための取り付け部は5で示される。この巻き付けに関しては、筒状部材を作成する場合の通常の技術にしたがって実施される。使用されるテープはテフロンのような非接着性の物からなり、劣化することなく部材の加熱に必要な温度に耐えなければならない。従って引抜きは困難なしに行われ、部材とテープが共にマンドレル上を長手方向に滑ることが容易にわかる。部材が一旦引き出されると、単一成形のユニットすなわちロッド部材を得るためには(巻いた)テープを内部から繰り出すしかない。」(翻訳書3頁10〜24行)。
上記記載によると、甲第1号証には、
平滑なマンドレル3にイグサ(jonc)を構成する糸を巻き付けるのと同時に、もしくは、糸を取り付ける前に、幅が2つの螺旋の間のスペースに等しく厚さがイグサ(jonc)の高さと等しい柔軟なテープ4を巻き付け、それらの上に、樹脂をしみこませた、織られた布、不織布、又はガラス繊維の糸を適切に配置したものを、マンドレル3に巻付けて加熱し、加熱後マンドレルを引き抜くとともに、テープ4を取り出し、糸の滑りをよくできる内部構造を有する釣竿及びその製造方法(以下、「甲第1号証の発明」という。)が記載されていると認められる。
4-3-2.対比・判断
(1)請求項1の発明について
請求項1の発明と甲第1号証の発明とを対比すると、甲第1号証の発明における「樹脂をしみこませた、織られた布、不織布、又はガラス繊維の糸を適切に配置もの」は、請求項1の発明における「樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグ」に相当し、また、甲第1号証の発明における「イグサ(jonc)」及び「糸の滑りをよくできる内部構造を有する釣竿」は、請求項1の発明における「釣糸案内環状体」及び「中通し竿」に対応し、さらに、請求項1の発明における「マンドレルに釣糸案内部材を装着すると共に、該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に、樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し」と甲第1号証の発明における「イグサ(jonc)を構成する糸を巻き付けるのと同時に、もしくは、糸を取り付ける前に、幅が2つの螺旋の間のスペースに等しく厚さがイグサ(jonc)の高さと等しい柔軟なテープ4を巻き付け」とは、「マンドレルに釣糸案内部材とテープ等の部材を配設し」ということができる。さらに、マンドレルに樹脂を含浸した繊維強化プリプレグを巻回して焼成して釣竿を形成する際に加圧することは常套手段である。
そうすると、請求項1の発明と甲第1号証の発明とは、
樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、マンドレルに釣糸案内部材とテープ等の部材を配設し、その後、前記釣糸案内部材の上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記テープ等の部材を除去する中通し竿の製造方法で一致し、次の点で構成が相違する。
相違点(A)
マンドレルに釣糸案内部材とテープ等の部材を配設するのに、請求項1の発明では、マンドレルに釣糸案内部材を装着すると共に、該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に、テープ等の部材(樹脂流入阻止部材)を配設しているのに対し、甲第1号証の発明では、マンドレル3に釣糸案内部材(イグサ)を構成する糸を巻き付けるのと同時に、もしくは、糸を取り付ける前に、テープ等の部材(テープ4)を巻き付けている点、
相違点(B)
マンドレルに配設されているテープ等の部材が、請求項1の発明では、「樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材」であり、「前記樹脂流入阻止部材は、離型剤、シーリング剤及び緊締テープの群から選択され、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充填され又は該隙間を塞ぐように配設されている」のに対し、甲第1号証の発明では、テープ4であり、釣糸案内部材(イグサ)とマンドレル3との隙間を塞ぐように配設されているのか不明である点。
上記相違点(A)及び(B)について検討する。
甲第1号証の発明は、幅が2つのイグサ(jonc)の間のスペースに等しく厚さがイグサ(jonc)の高さに等しい柔軟なテープ4を、イグサ(jonc)を構成する糸を巻き付けるのと同時に、もしくは、糸を取り付ける前に、マンドレル3に巻き付けている、すなわち、甲第1号証の発明は、イグサ(jonc)2の高さに等しい柔軟なテープ4を、イグサ(jonc)を巻き付けるのと同時に、もしくは、イグサ(jonc)を取り付ける前に、イグサ(jonc)とテープ4とにスペース(隙間)が生じないようにマンドレル3に巻き付けている。
しかしながら、甲第1号証の発明は、イグサ(jonc)を巻き付けるのと同時に、もしくは、イグサ(jonc)を取り付ける前に、テープ4を巻き付けることに必然性があるとはいえず、結局は、マンドレル3にイグサ(jonc)とテープ4とを隙間無く巻き付けばよいのであるから、甲第1号証の発明において、マンドレル3にイグサ(jonc)を配設すると共に、該イグサ(jonc)の前後とマンドレルとの間に、テープ4を配設することは当業者が容易に想到できることである。また、マンドレル3に巻き付けたテープ4は、柔軟なものであってイグサ(jonc)の間に隙間がが生じないようにマンドレル3に巻き付けられているから、プレプレグの樹脂がイグサ(jonc)の前後とマンドレル3との間に流入することを防止するものと認められる。
そして、請求項1の発明が奏する効果は、甲第1号証に記載された発明から予測できる程度であって格別顕著なものではないから、請求項1の発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、本件の特許明細書には、請求項1の発明が奏する効果として「釣糸案内部材の前後に空間が生じ、バリ状物によって囲まれることなく焼成竿管内面から釣糸案内部材が安定的に露出する。従って、釣糸が損傷すること無く円滑に案内され、釣糸挿通抵抗が小さくなる。」と記載されているが、釣糸案内部材の前後に生じる空間は、わずかの幅(図4における流入阻止部材24が設けられた部分)であり、竿管内面のほとんどの部分が釣糸案内部材の内面と同一面に位置しているから、釣糸と竿管内面との摩擦は、釣糸案内部材とその前後のわずかな空間の部分で軽減されるのみであり、請求項1の発明の釣糸案内部材は、釣糸案内部材としての格別の効果があるとはいえないものである。

(2)請求項4の発明について
請求項4の発明と甲第1号証の発明とを対比すると、両者は、
樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿であって、竿管内部に一体的に加熱成形された釣糸案内部材が突出している中通し釣竿で一致し、少なくとも、
中通し釣竿が、請求項4の発明では、「軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記受け部材層を除去すること」、又は、「弾性部材のチューブの外側に釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し、該巻回プリプレグ層の上から外型を被せ、前記チューブ内に圧力を作用させて加熱成形し、前記外型を外すと共に、前記チューブを除去する」ことによって製造されたものであるのに対し、甲第1号証の発明ではそのような製造方法で製造されていない点で、構成が相違する。
上記相違点について検討するに、上記相違点における請求項4の発明の製造方法は、公知とはいえず、そして、請求項4の発明は、特許明細書記載の効果を奏するものであるから、請求項4の発明が、甲第1号証の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4-4.無効理由2(特許法第29条の2違反)について
請求人は、特許査定時の請求項1、2及び5に係る発明が特許法第29条の2の規定に違反して特許されたと主張する(上記「2.請求人の主張」参照。)が、上記訂正により特許査定時の請求項2が削除されたので、訂正後の請求項1及び4に係る発明が特許法第29条の2の規定に違反して特許されたかについて検討する。
4-4-1.甲第2号証記載等の発明
(1)甲第2号証(特願平5-158735号(特開平7-39277号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の記載が認められる。
(ア)「芯金の外周に所定ピッチでセラミックスを装着する工程と、相隣接するセラミックス間に水溶性樹脂層を形成する工程と、この水溶性樹脂層およびセラミックスの外周にプリプレグシートを捲回する工程と、このプリプレグシートと上記セラミックスと上記水溶性樹脂層とを加熱焼成して管状体を成形する工程と、この管状体から上記芯金を引抜く工程と、上記管状体を水洗して上記水溶性樹脂層を溶出する工程とを包含することを特徴とする中通し竿の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項2)、
(イ)「【従来の技術】・・・この中通し竿にあっては釣糸が内部に付着して操作性が悪化するのを防止するため、案内部材が形成されているものが従来より提案されている(特開平4-341133号)。この公報に記載された中通し竿の製造方法にあっては、マンドレルの外周面に案内環状体を巻き付け装着し、この外周に複数プリプレグを積層し、焼成するといったものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上述の製造方法にあっては、焼成時にプリプレグ101が案内環状体102を包み込んでしまい(図15参照)、案内環状体が竿管内周部に突出する構成が得られないといった問題点がある。
【0005】本発明は上述のような問題点に鑑みてなされたものであり、釣糸の接触時の滑りが良好で、案内部材を竿管の内周面に確実に突出させることのできる中通し竿および中通し竿の製造方法を提供することを目的とする。」(2頁左欄32行〜同頁右欄1行)、
(ウ)「図3において、芯金3にアルミナムオキサイド(Al2O3)撚糸4を所定ピッチ・・・で捲回する。そして、相隣接するアルミナムオキサイド撚糸4間に所定幅(例えば3mm、8mm)、厚さ80μmの水溶性フィルム5を捲回する。・・・さらに、図2に示すようにこれらアルミナムオキサイド撚糸4および水溶性フィルム5の外周にエポキシ樹脂を含浸した一方向引揃え炭素繊維プリプレグ6を周方向に捲回し、さらにその外周にエポキシ樹脂を含浸した一方向引揃え炭素繊維プリプレグ7を軸方向に捲回し、これらを複数回巻き付ける。その後、最外周に成形テープ・・・を巻き付け、加熱焼成する。」(3頁左欄19〜33行)、
(エ)「この加熱焼成時、一方向引揃え炭素繊維プリプレグ6,7中のエポキシ樹脂は80℃付近から液状となり、芯金と成形テープとの間を流動する。そして、このエポキシ樹脂は約100℃でゲル化し、アルミナムオキサイド撚糸4と一方向引揃え炭素繊維プリプレグ6とが一体化する。」(3頁左欄34〜39行)、
(オ)「その後、芯金3を引抜き、成形された管状体8を水洗すると、・・・水溶性フィルム5は溶出し、アルミナムオキサイド撚糸4の部分が、竿管内周面より突出し、案内部2として作用することとなる。」(3頁左欄43〜47行)、
(カ)「なお、上述実施例においては、水溶性フィルム5を使用したが、必ずしもフィルムである必要はなく、水溶性樹脂塗料を塗布するようにしても良い。」(3頁右欄1〜3行)、
(キ)「【0022】図14は本発明における他の実施例を示す図であり、芯金3の外周に複数個のセラミックスリング31,31,31,…を嵌め込み、このセラミックスリング31間に水溶性フィルム5を捲回するようにしたものである。」(3頁右欄46〜50行)、
(ク)「【発明の効果】本発明は上述のように構成したことにより、釣糸の滑りが良好であり、途中で切れたりするおそれがない。また、竿内面が摩耗することがない。さらに上述のように製造することにより、竿管の内周面に確実に案内部を突出成形させることができる等の効果を奏する。」(4頁左欄8〜13行)。
上記記載によると、先願明細書には、
芯金3の外周に所定ピッチでセラミックスを装着し、相隣接するセラミックス間に水溶性樹脂層を形成し、この水溶性樹脂層およびセラミックスの外周に、エポキシ樹脂を含浸した一方向引揃え炭素繊維プリプレグ6を周方向に捲回し、さらにその外周にエポキシ樹脂を含浸した一方向引揃え炭素繊維プリプレグ7からなるプリプレグシートを軸方向に捲回し、これらを複数回巻き付け、このプリプレグシートと上記セラミックスと上記水溶性樹脂層とを加熱焼成して管状体を成形し、この管状体から上記芯金3を引抜き、上記管状体を水洗して上記水溶性樹脂層を溶出する中通し竿及びその製造方法(以下、「先願明細書の発明」という。)が記載されていると認められる。

4-4-2.対比・判断
(1)請求項1の発明について
請求項1の発明と先願明細書の発明とを対比すると、先願明細書の発明の「中通し竿」、「芯金3」、「セラミックス」及び「エポキシ樹脂を含浸した一方向引揃え炭素繊維プリプレグ7からなるプリプレグシート」が請求項1の発明の「中通し釣竿」、「マンドレル」、「釣糸案内部材」及び「樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグ」に相当しており、また、請求項1の発明の「樹脂流入阻止部材」は釣糸案内部材が樹脂に埋もれることを防止するものであり、また、先願明細書の発明の「水溶性樹脂層」は釣糸案内部材(セラミックス)がプレプレグに埋没するのを防止するものであるから、両者は埋没防止部材ということができる。さらに、マンドレルに樹脂を含浸した繊維強化プリプレグを巻回して焼成して釣竿を形成する際に加圧することは常套手段である。
そうすると、請求項1の発明と先願明細書の発明とは、
樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、マンドレルに釣糸案内部材を装着すると共に、該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に、埋没防止部材を配設し、その後、前記釣糸案内部材の上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記埋没止部材を除去する中通し竿の製造方法で一致し、次の点で一応構成が相違する。
相違点
釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に配設されている埋設防止部材が、請求項1の発明では、「樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材」であり、「前記樹脂流入阻止部材は、離型剤、シーリング剤及び緊締テープの群から選択され、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充填され又は該隙間を塞ぐように配設されている」のに対し、甲第1号証の発明では、水溶性樹脂層であり、水溶性樹脂層がセラミックスとマンドレルとの隙間を塞ぐように配設されているのか不明である点。
上記相違点について検討する。
本件特許明細書には、樹脂流入阻止部材に関し、「【0027】図3はその方法の1実施例としての途中過程を示しており、まずマンドレル10の表面に焼成竿管との分離性能を向上させる離型剤を塗布する。・・・ここでは僅かに内径寸法の異なる3個の釣糸案内部材14’を夫々の停止位置まで挿入した後、例えば前記離型剤をこれら釣糸案内部材14’の前後であって、マンドレル10との隙間に充填する。この充填した離型剤を24で示す。」と記載されており、請求項1の発明は、マンドレル10に塗布する離型剤によって樹脂流入阻止部材を構成している。
一方、先願明細書には、水溶性樹脂層に関し、「なお、上述実施例においては、水溶性フィルム5を使用したが、必ずしもフィルムである必要はなく、水溶性樹脂塗料を塗布するようにしても良い。」(上記(カ)の記載参照)と記載されており、水溶性樹脂層を水溶性樹脂塗料を塗布して形成すると、水溶性樹脂塗料は釣糸案内部材の前後とマンドレル(芯金3)との間に流入し、釣糸案内部材の前後からマンドレル(芯金3)への樹脂が流れていくことを防止するといえる。
そうすると、上記相違点には、実質的な構成の差異があるとは認められず、請求項1の発明は、先願明細書の発明と実質的に同一であると認められる。
以上のとおり、請求項1の発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された上記先願出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であると認められ、しかも、請求項1の発明の発明者が上記先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも、本件出願の時において、その出願人が上記先願出願の出願人と同一であるとも認められないので、請求項1の発明の特許は特許法第29条の2第1項の規定に違反してされたものである。
(2)請求項4の発明について
請求項4の発明と先願明細書の発明とを対比すると、両者は、
樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿であって、竿管内部に一体的に加熱成形された釣糸案内部材が突出している中通し釣竿で一致し、
中通し釣竿が、請求項4の発明では、「軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記受け部材層を除去すること」、又は、「弾性部材のチューブの外側に釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し、該巻回プリプレグ層の上から外型を被せ、前記チューブ内に圧力を作用させて加熱成形し、前記外型を外すと共に、前記チューブを除去する」ことによって製造されたものであるのに対し、先願明細書の発明ではそのような製造方法で製造されていない点で、少なくとも相違する。
そして、上記相違点について検討するに、上記相違点における請求項4の発明における中通し釣竿の製造方法は、中通し釣竿の製造方法として周知・慣用技術とはいえないので、請求項4の発明が先願明細書の発明と同一とすることはできない。

4-5.無効理由3について
請求人は、平成10年2月27日付の手続補正書による補正は、次の(1)及び(2)の理由により要旨変更であると主張する。
(1)本件請求項2に係る発明は出願当初明細書(甲第3号証)に記載されておらず、また請求項2に係る発明の作用の記載(本件明細書段落【0011】)及び、効果の記載(本件明細書段落【0040】)も出願当初明細書には記載されていない。
(2)本件請求項3における「弾性部材」は、出願当初明細書(甲第3号証)には「軟質の弾性部材」とされていたものを、本件の平成10年2月27日付の手続補正書(甲第4号証)により、上位概念である「弾性部材」に補正されたものであり、弾性部材の範疇に入る物質を拡張したものであり、明細書の要旨を変更するものである。
しかしながら上記訂正請求により、請求項2並びに請求項2に係る発明の作用及び効果についての記載は削除され、また、「弾性部材」は「軟質の弾性部材」と訂正されたので、請求人が要旨変更であるとする上記(1)及び(2)の理由は解消されたので、本件出願日は、上記手続補正書が提出された平成10年2月27日に出願されたものとみなされず、平成5年12月15日(優先権主張 平成5年9月3日)に特許出願されたものである。
そうすると、特開平7-115878号公報(甲第3号証)は本件出願前に頒布されたものではないから、甲第3号証によっては請求項1ないし5の発明の特許が特許法第29条の規定に違反してされたものとすることはできない。

4-6.無効理由4(特許法第36条第5項違反)について
請求人は、次の(1)ないし(5)の点で特許明細書の記載が不備であると主張するので、各主張について検討する。
(1)特許査定時の本件請求項1における「該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し」の記載は、「該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に」が「樹脂が流入する」に係るのか「樹脂流入阻止部材を配設し」に係るのかその構成が不明瞭であるとする点(請求書17頁13〜16行)。
前記記載は「該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に、樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し、」と訂正され、不備は解消された。
(2)訂正後の請求項1における「前記樹脂流入阻止部材は、離型剤、シーリング剤及び緊締テ-プの群から選択され、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充填され又は該隙間を塞ぐように配設されている」の記載において、樹脂流入阻止部材(離型剤、シーリング剤、緊綿テープ)と、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充填され又は該隙間を塞ぐように配設されている」との組み合わせ関係が不明であるとする点(弁駁書4頁16〜21行)。
上記点は、「4-1-2.訂正の適否」における「(1)訂正事項aについて」に記載した理由により不明瞭とはいえない。
(3)訂正後の請求項4における「……釣糸案内部材がバリの発生を防止された状態で突出している」及び「……竿管の強化繊維の蛇行が防止されていること」の記載は釣竿の構成ではなく作用効果の記載にほかならないもので、釣糸案内部材がどの様な状態であればバリの発生が防止されているのか、どの様な状態であれば強化繊維の蛇行が防止されていることになるのか不明であり、物品の構成を特定するための記載としては不明瞭であるとする点(弁駁書5頁3〜16行)。
訂正後の請求項4の発明は、「請求項2又は請求項3記載の方法によって製造された中通し釣竿であって、竿管内部に一体的に加熱成形された釣糸案内部材がバリの発生を防止された状態で突出していると共に、該釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されていることを特徴とする中通し釣竿。」である。
そして、特許明細書には、
「請求項2によれば、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着するため、少なくとも釣糸案内部材の横断面の一部分が受け部材層に埋没し、この上にプリプレグを巻回して巻回プリプレグ層を形成して一体焼成すると、前記埋没部分にはバリの付着が防止され、成形後に受け部材層を除去すれば竿管内面から内方に突出し、釣糸を損傷させることなく円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる。成形時には、受け部材層の存在のために釣糸案内部材の存在によって巻回プリプレグ層に無理な押圧力が作用しないため、竿管が外に凸状態に形成されることが防止できる。即ち繊維の蛇行が防止され、高強度で高品質の釣竿が成形される。」(段落【0040】)、
「請求項3によれば、弾性部材チューブの外側に横断面の少なくとも一部分が埋没しつつ装着している釣糸案内部材を、該弾性部材チューブ内面に作用する均等圧力によって釣糸案内部材には適切な圧力が作用し、一体焼成すると一体化が確実になると共に、チューブを除去すれば、前記埋没部分が竿管内面から内方に突出する。また、外型の存在によって巻回プリプレグ層は外側に突出することがない。従って、成形時に繊維の蛇行が防止され、成形された竿管は高強度であると共に品質が向上する。また、釣糸案内部材の、少なくともその一部が弾性部材のチューブに埋没しているため、その埋没部にはバリの発生が防止され、釣糸を損傷させることなく円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる。・・・」(段落【0041】)、と記載されている。
そうすると、請求項4の発明における中通し釣竿は、請求項2又は請求項3記載の方法によって製造することにより、バリの発生が防止され、繊維の蛇行が防止された構成となるものであり、請求項4に記載された「一体的に加熱成形された釣糸案内部材がバリの発生を防止された状態で突出していると共に、該釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されている」は、その請求項の前段において請求項2又は請求項3を引用し、該記載の方法によって製造された中通し釣竿の構成を特定しているのであり、この記載が不明瞭であるとは認められない。
(4)特許請求の範囲の請求項1に記載された「該隙間を塞ぐように配設されている」の記載は、「ように」とはどの様な意味か不明瞭であり、また、明細書には記載されていないとする点(弁駁書4頁22行〜5頁2行)。
特許請求の範囲に記載された「該隙間を塞ぐように配設されている」に関し、発明の詳細な説明には、「このマンドレル10に所定の釣糸案内部材14’を套嵌させ、その状態のマンドレル10に緊締テープ26を巻回する。・・・次に、釣糸案内部材14’の上部Z2の緊締テープ26等を除去すべくナイフ等でカットする。これによって釣糸案内部材14’の前後とマンドレル10との間は、残りの緊締テープによって塞がれる。」(明細書段落【0035】)と記載されており、残りの緊締テープは釣糸案内部材14’の前後とマンドレル10との間を塞ぐように配設されているといえるから、特許請求の範囲に記載された「該隙間を塞ぐように配設されている」は明細書に記載されており、また、不明瞭な記載ともいえない。
(5)訂正後の本件明細書において、緊締テープ(ポリプロピレンテープ)を用いて釣糸案内部材とマンドレルとの隙間を塞ぐものは、焼成時に、緊締テープや外型によって加圧しつつ焼成するものであるので、当然、樹脂が漏れることになるし、緊締テープの綾が、釣糸案内部材14’の上部Z2の縁に掛かっていたとしても、圧力によりマンドレル側に押されることにより、はずれて樹脂が漏れることも当然であるので、本件発明の目的を達成できないとする点(弁駁書6頁1行〜7頁2行)。
緊締テープを用いて釣糸案内部材とマンドレルとの隙間を塞ぐことについて、明細書には、「マンドレル10に所定の釣糸案内部材14’を套嵌させ、その状態のマンドレル10に緊締テープ26を巻回する。その後、セロハンテープのような接着剤を含むもので釣糸案内部材14’の前後近くの緊締テープ26の領域Z1を仮固定し、次に、釣糸案内部材14’の上部Z2の緊締テープ26等を除去すべくナイフ等でカットする。これによって釣糸案内部材14’の前後とマンドレル10との間は、残りの緊締テープによって塞がれる。」(明細書段落【0035】)と記載されており、緊締テープ26を、その切断面と釣糸案内部材とが密接するようにカットすれば樹脂の漏れを防止することが可能であるといえるので、緊締テープ(ポリプロピレンテープ)を用いたものが本件発明の目的を達成できないとはいえない。

4-7.結び
以上、詳述したように、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項又は同法第29条の2の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
本件特許の請求項2ないし5に係る発明の特許は、請求人の主張及び証拠方法によっては無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その3分の2を請求人の負担とし、3分の1を被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
中通し釣竿とその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、マンドレルに釣糸案内部材を装着すると共に、該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に、樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し、その後、前記釣糸案内部材の上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記樹脂流入阻止部材を除去する中通し竿の製造方法であって、前記樹脂流入阻止部材は、離型剤、シーリング剤及び緊締テープの群から選択され、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充填され又は該隙間を塞ぐように配設されていることを特徴とする中通し釣竿の製造方法。
【請求項2】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記受け部材層を除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法。
【請求項3】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、弾性部材のチューブの外側に釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し、該巻回プリプレグ層の上から外型を被せ、前記チューブ内に圧力を作用させて加熱成形し、前記外型を外すと共に、前記チューブを除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法。
【請求項4】請求項2又は請求項3記載の方法によって製造された中通し釣竿であって、竿管内部に一体的に加熱成形された釣糸案内部材がバリの発生を防止された状態で突出していると共に、該釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されていることを特徴とする中通し釣竿。
【請求項5】樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿であって、竿管内部に突出するよう一体的に加熱成形された釣糸案内部材と竿管本体層との間に、樹脂材の層が介在していることを特徴とする中通し釣竿。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成し、内部に釣糸案内部材を設けた中通し釣竿とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】釣糸の滑り性の向上や竿管内面の摩耗損傷防止等の観点から、竿管内面に単一繊維の釣糸案内環状体を一体化させる方法が特開平4-341133号に開示されている。即ち、マンドレルの外周面に単一繊維を適数箇所巻き付け、この上からプリプレグを巻回して常法に従って竿管を一体形成する。またマンドレルに段差部を設け、この段差部に釣糸案内環状体を位置決めしてプリプレグを巻回する方法等が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】然しながら、釣糸案内環状体は、その内面がマンドレル外面によって規制されているため、外側からプリプレグを巻回すると、該プリプレグは釣糸案内環状体近傍が外方に凸状になり、その他の部分がマンドレルの表面に沿ってマンドレルに接触する。即ち、プリプレグによる竿管の成形では該竿管内面と釣糸案内環状体の内面とが面一になり、釣糸案内環状体が竿管内面から内方に突出することができない上、加熱成形時にプリプレグから樹脂がマンドレル表面に流れて釣糸案内環状体が樹脂に埋もれてしまうため、釣糸案内環状体は竿管内面の内方に露出できない。
【0004】また釣糸案内環状体の内面を一部露出することがあってもその周囲に樹脂がバリ状に貼り付いていることが多く、この状態で釣糸を案内するとそのバリ状樹脂によって釣糸が損傷することがあり、安定した釣糸案内機能を発揮できない。マンドレルに位置決めの段差部を設けた場合も、単一繊維の大きさでは同様に樹脂によって埋没する。
【0005】こうした問題の他、前述のようにプリプレグは釣糸環状体の近傍で外に凸状態になり、繊維が蛇行して竿管の強度が低下するという問題もある。
【0006】依って本発明は、竿管表面から安定して露出し、釣糸を円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる中通し釣竿や、竿管強度や釣糸案内部材との一体化強度の向上した中通し釣竿とその製造方法の提供を目的とする。
【0007】【課題を解決するための手段】上記目的に鑑みて請求項1では、樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、マンドレルに釣糸案内部材を装着すると共に、該釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に、樹脂が流入することを防止する樹脂流入阻止部材を配設し、その後、前記釣糸案内部材の上に前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記樹脂流入阻止部材を除去する中通し竿の製造方法であって、前記樹脂流入阻止部材は、離型剤、シーリング剤及び緊締テープの群から選択され、装着された釣糸案内部材とマンドレルとの隙間に充埴され又は該隙間を塞ぐように配設されていることを特徴とする中通し釣竿の製造方法を提供する。
【0008】請求項2では、樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回して加圧、加熱して成形し、前記マンドレルを引き抜くと共に、前記受け部材層を除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法を提供する。」と訂正する。
【0009】また請求項3では、樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿の製造方法であって、弾性部材のチューブの外側に釣糸案内部材を装着し、該釣糸案内部材の上から前記樹脂を含浸又は混合した繊維強化プリプレグを巻回し、この巻回プリプレグ層の上から外型を被せ、前記チューブ内に圧力を作用させて加熱成形し、前記外型を外すと共に、前記チューブを除去することを特徴とする中通し釣竿の製造方法を提供する。請求項4では、請求項2又は請求項3記載の方法によって製造された中通し釣竿であって、竿管内部に一体的に加熱成形された釣糸案内部材がバリの発生を防止された状態で突出していると共に、該釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されていることを特徴とする中通し釣竿を提供する。請求項5では、樹脂をマトリックスとして強化繊維によって強化形成された竿管内に釣糸を挿通させる中通し釣竿であって、竿管内部に突出するよう一体的に加熱成形された釣糸案内部材と竿管本体層との間に、樹脂材の層が介在していることを特徴とする中通し釣竿を提供する。
【0010】
【作用】上記第1の方法では、釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に樹脂流入阻止部材を配設し、その後にプリプレグを巻回するため釣糸案内部材はプリプレグの樹脂によって埋もれることは無い。この焼成後に樹脂流入阻止部材を除去するため、釣糸案内部材の前後に空間が生じ、焼成竿管内面から釣糸案内部材が安定的に露出する。また樹脂流入阻止部材が焼成時に粉末状等になり、マンドレルの引き抜き時に一部が自然に除去され、残りが釣竿使用中等に徐々に除去される場合等においても特許請求の範囲において述べる樹脂流入阻止部材の除去である。
【0011】請求項2の方法では、釣糸案内部材はマンドレルに直接ではなく、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介在させて装着しているため、装着状態で釣糸案内部材は少なくとも横断面の一部分がこの受け部材層内に埋もれる。従って、この上に繊維強化プリプレグを巻回して加熱成形して樹脂が流れても、釣糸案内部材の前記埋もれた部分の残り部分が繊維強化プリプレグと一体化するだけであり、竿管の成形後にマンドレルと当該受け部材層を取り出せば、釣糸案内部材は受け部材層に埋もれていた部分だけ竿管内方に安定的に突出する。また、釣糸案内部材は軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介在させているため、プリプレグが釣糸案内部材の近傍で外に凸状態になり難く、繊維が蛇行して竿管の強度が低下するということを防止できる。
【0012】請求項3の方法では、弾性部材チューブの外側に釣糸案内部材を装着していると共に、巻回プリプレグ層の外側を外型によって覆っているため、チューブ内に圧力を作用させると、釣糸案内部材は巻回プリプレグ層の内周に押し付けられた状態で加熱成形されるが、巻回プリプレグ層の外周面は外型の内面に沿っており、外方には拡径できない他、圧力は釣糸案内部材のみならずチューブ全体に均一に作用するため、押し付けられた釣糸案内部材はこの巻回プリプレグ層内に全体が埋没することはなく、せいぜい部分的な埋没に留まる。従って、一体成形後にチューブを取り出せば、釣糸案内部材は竿管の内方に安定的に突出している。また、外型を被せると共に弾性部材チューブを介在させているため、プリプレグが釣糸案内部材の近傍で外に凸状態になり難く、繊維が蛇行して竿管の強度が低下するということを防止できる。請求項4の釣竿は、バリの発生を防止された釣糸案内部材が竿管内方に突出しているため、釣糸の案内時において、該釣糸を損傷させたり糸抵抗を増大させることを防止して釣糸を円滑に案内できる。しかも、釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されているため、従来の、釣糸案内部材近くの繊維が蛇行した竿管に比べ、竿管強度が大きく向上する。請求項5の釣竿は、釣糸案内部材と竿管本体層との間に樹脂材の層が介在しているため、釣糸案内部材と竿管本体層との一体化強度が向上する。
【0013】
【実施例】以下、本発明を添付図面に示す実施例に基づき、更に詳細に説明する。図1は中通し釣竿の第1の製造方法を示す。マンドレル10の外表面10Sは軟質のゴムチューブ12によって覆われていると共に、このゴムチューブ12の外側には、長手方向に適宜な間隔でリング状の釣糸案内部材14が装着されている(a)。この釣糸案内部材14の装着はゴムチューブ12をマンドレル10に装着した後にそれぞれ装着してもよく、また、ゴムチューブ12に予め装着した状態でこのゴムチューブ12をマンドレル10に套嵌してもよい。
【0014】この釣糸案内部材14は、ボロンやセラミックスの単一繊維でもよく、また、その他の滑り性の良い材料から成るリング部材、例えばセラミックスリング等でもよい。また、離散的なリング部材ではなくて、1又は2以上の螺旋状案内部材であってもよい。更には、目の粗い、例えば目の大きさが数ミリ程度のネットをゴムチューブ12に巻回し、該ネットによって複数の釣糸案内部材14を同時に形成することもできる。この場合のネットの材料はセラミックス、金属、撥水性の樹脂材等任意である。
【0015】上記ゴムチューブ12の代りにゴムテープを巻回してマンドレル10の外表面10Sを覆ってもよい。また、軟質のゴムのような軟質の弾性部材ではなくて、粘土状の部材によってマンドレル10の外表面10Sを覆い、これに釣糸案内部材14を装着してもよい。何れにしても釣糸案内部材14の横断面の一部分(半分程度が好ましい)がこれらゴムチューブ12等に埋没することが必要である。軟質弾性部材としてはシリコン等でもよい。
【0016】このように釣糸案内部材14の横断面の一部分がゴムチューブ12に埋没した状態で、この上に、好ましくは下記のプリプレグの樹脂と同じ樹脂材のシートを巻回して樹脂材シート層16を形成する(b)。その後、強化繊維に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を含浸又は混合したプリプレグを必要回数巻回して巻回プリプレグ層18を形成する(b)。
【0017】この層18は1種類のプリプレグで形成するとは限らず、例えば内層と外層は繊維を主に周方向に引き揃えたプリプレグにより、中層は繊維を主に長手方向に引き揃えたプリプレグによって3層構造に形成してもよい。また、図1(b)では樹脂材シート層16と巻回プリプレグ層18とが同じ程度の厚さに描かれているが、これは判り易く描いたためであり、実際には樹脂材シート層16は巻回プリプレグ層18よりも相当薄い。
【0018】上記樹脂材シート層16が存在すると、釣糸案内部材14と巻回プリプレグ層18との一体化が容易になるが、本発明ではこの層16を設けることは必須ではない。
【0019】こうして巻回プリプレグ層18を形成した後、緊締テープか又は金型等の外型によって加圧しつつ加熱し、釣糸案内部材14を巻回プリプレグ層18に一体化させ、それを冷却してマンドレル10を引き抜き、ゴムチューブ12をも取り去り、竿管を成形する。こうして成形した竿管は釣糸案内部材14が図1(a),(b)に示したゴムチューブ12内に埋没していた分だけ内方に突出して竿管内に固着されている。また、マンドレル10と釣糸案内部材14との間に軟質のゴムチューブ12等を介在させているため、プリプレグ層18が外方に膨出することが防止低減できる。
【0020】受け部材層12の材料によっては、加熱成形後に該受け部材層12が再使用できなく変化する場合も有るが、このことは本発明の構成に影響しない。
【0021】次に、図2を参照しながら本発明に係る中通し釣竿の第2の製造方法につき説明する。この実施例ではマンドレル10を使用しているが、マンドレル10は必須ではない。軟質弾性部材のゴムから成り、底22Bを具備するゴムチューブ22の外側に所望の位置間隔で釣糸案内部材14を装着し、これをマンドレル10に套嵌させ、釣糸案内部材14の横断面の一部分(半分程度が好ましい。)を埋没させる(a)。
【0022】この上から、第1の製造方法において説明したのと同様に、樹脂材シートを巻回して樹脂材シート層16を形成する。その上からプリプレグを巻回して巻回プリプレグ層18を形成する(b)。樹脂材シート層16は第1の製造方法の場合と同様に必須ではないが、釣糸案内部材14と巻回プリプレグ層18との一体化を容易にするために介在させることが好ましい。
【0023】この上から上型20Aと下型20Bとから成る外型20を被せ、ゴムチューブ22の端部22Mから該ゴムチューブ22の内部に油圧(水圧)や空気圧によって内圧を作用させる(c)。こうして巻回プリプレグ層18の外周を外型20の内面20Sに押し付ける。従って、内圧の如何によらず巻回プリプレグ層18の外形は規制されており、既述の公報開示の方法による場合のように外側に凸状になることはない。
【0024】また、内圧は流体圧であるためゴムチューブ22の内面に均等に圧力が作用して適切圧力で釣糸案内部材14が樹脂材シート層16を介して巻回プリプレグ層18の内面に押し付けられる。従って、プリプレグ層18の内面部が大きく外側に凸状に湾曲することが防止される。
【0025】この状態で加熱して釣糸案内部材14を巻回プリプレグ層18の内面と一体化させる。その後冷却して圧力を下げ、マンドレル10とゴムチューブ22を取り外す。軟質の弾性部材22として、ゴムチューブの代りにシリコンチューブにすれば耐久性が向上する。釣糸案内部材14は第1の製造方法の場合と同様な部材が使用できる。
【0026】以上の軟質の受け部材層12や軟質弾性部材チューブ22の存在は、釣糸案内部材14とマンドレル10との間に樹脂が流入することを阻止する部材としても作用するが、以下においてはこれらのような軟質部材をマンドレルとの間に介在さることなく、単に釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に樹脂流入阻止部材を配設させる場合の中通し釣竿の他の製造方法について説明する。
【0027】図3はその方法の1実施例としての途中過程を示しており、まずマンドレル10の表面に焼成竿管との分離性能を向上させる離型剤を塗布する。その後セラミックス等のリング部材であって、図4に断面の拡大図を示すように内周形状が円形であって外周形状が偏平な釣糸案内部材14’を夫々の内径寸法に応じてマンドレル10の先から留まる位置まで挿入する。ここでは僅かに内径寸法の異なる3個の釣糸案内部材14’を夫々の停止位置まで挿入した後、例えば前記離型剤をこれら釣糸案内部材14’の前後であって、マンドレル10との隙間に充填する。この充填した離型剤を24で示す。離型剤の他、樹脂流入阻止部材としてはろー材、シリコン等のシーリング剤等も使用できる。
【0028】こうして準備した上に巻回プリプレグ層18を形成する。既述のように、この巻回プリプレグ層18は内層18A、中層18B、外層18Cから構成してもよく、内層と外層は周方向に引き揃えられた強化繊維を主体とし、中層は長手方向に引き揃えられた強化繊維を主体とする。こうして巻回したプリプレグ層18は図4に示すように、釣糸案内部材14’の存在位置が幾分外方向に膨出しているが、加圧する際に図2の(C)で示すような外型を使用すれば、この膨出を防止することもできる。
【0029】緊締テープによって加圧する場合は、前記膨出が残るが、釣糸案内部材14’の断面形状を円形でなくて外周側の形状を偏平に設定したのもこの膨出を低く押さえるためであり、その膨出の程度は図1のような円形断面の釣糸案内部材の場合と比べて少量となる。従って、図1を用いて説明した第1の方法の場合においてもこのような偏平な釣糸案内部材14’を用いれば、その膨出量は更に低減できる。
【0030】また、釣糸案内部材14’の断面形状が図4のように三日月形状であれば,断面における前後端部の存在によって焼成竿管内面に一体的に食い込み、竿管と釣糸案内部材14’との結合をより強固にすることができる。
【0031】こうして竿管を焼成した後マンドレル10を引き抜き、その後、溶剤によって離型剤24を溶解させて除去でき、釣糸案内部材14’の前後は竿管の内面との間に空間を生じて安定的に露出している。また、マンドレル10の外表面に沿っていたので、釣糸案内部材14’の最内周は該釣糸案内部材14’の近傍を除いた竿管内面の延長上にあり、殆ど面一状態である。この場合でも釣糸案内部材14’の前後が竿管内面から安定露出した状態に形成されているため、釣糸を損傷させることなく円滑に案内できる。
【0032】また離型剤24は溶剤によって溶解されなくとも、焼成で粉末状になっているため、マンドレル10の引き抜き時にその一部分は落下し、残部は釣竿の使用に従って徐々に落下して自然除去される。この場合も本発明における樹脂流入防止部材の除去の範囲である。樹脂流入阻止部材は加熱によって粉末状にしたり、溶剤によって溶かしたり、或いは機械的に擦って除去したりできる。
【0033】次に図5は、図3の場合と異なり釣糸案内部材14’の最内周が竿管の内面に対して突出すると共に、釣糸案内部材の前後で竿管の内面に凹凸が少なくなるよう形成されて、釣糸案内部材14’の位置が外面方向に膨出しないように形成されるべく、離型剤を各釣糸案内部材14’の前後のみならず、各釣糸案内部材問のマンドレル表面にも層状に厚く塗布した状態を示す。
【0034】こうして準備した上にプリプレグを巻回して加圧焼成し、マンドレル10を引き抜き、内面の離型剤の掃除をすれば竿管の内面から内方に突出した釣糸案内部材14’を有する中通し釣竿が提供できる。
【0035】図6は図5で説明した離型剤の代りに、緊締テープ(ポリプロピレンテープ)を用いる場合について説明する。まずマンドレル10に離型剤を通常の場合と同様に塗布する。次に、このマンドレル10に所定の釣糸案内部材14’を套嵌させ、その状態のマンドレル10に緊締テープ26を巻回する。その後、セロハンテープのような接着剤を含むもので釣糸案内部材14’の前後近くの緊締テープ26の領域Z1を仮固定し、次に、釣糸案内部材14’の上部Z2の緊締テープ26等を除去すべくナイフ等でカットする。これによって釣糸案内部材14’の前後とマンドレル10との間は、残りの緊締テープによって塞がれる。
【0036】こうして釣糸案内部材14’の外周面を露出させ、更にはこの露出面をマスキングして緊締テープ26の上に離型剤を塗布する。そうしてマスキング部材を除去してプリプレグを巻回し、緊締テープや外型によって加圧しつつ焼成する。その後、マンドレル10を引き抜き、更には、竿管の内周から緊締テープ26を除去する。これによって釣糸案内部材14’は竿管内面から内方に突出でき、釣糸を円滑に案内できる。
【0037】この場合、前記領域Z1のみの緊締テープ26を残し、他部分を除去すれば図3や図4に示した場合と同様に、釣糸案内部材14’の最内周は該釣糸案内部材14’の近くを除いた竿管の内面と面一となるが、釣糸案内部材の前後のみは竿管の内面から露出する。この場合も釣糸が円滑に案内できることは前記例の通りである。この緊締テープ26に代えて、釣糸案内部材14’の前後とマンドレル10との隙間を型取った成形チューブを該釣糸案内部材の前後に配設して樹脂の流入を阻止しても良い。
【0038】以上においては釣糸案内部材14’は個別のリング部材として説明したが、長い針金状の部材をマンドレル10に螺旋状に巻回して、その前後のマンドレル10との間に離型剤や他のワックス等を充填する等してもよい。また、第1や第2の製法の場合と同様に樹脂材シートを使用した方が釣糸案内部材14と巻回プリプレグ18との一体化を容易にすることも同様である。
【0039】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように本第1の発明によれば、釣糸案内部材の前後とマンドレルとの間に樹脂流入阻止部材を配設し、その後にプリプレグを巻回して焼成するため、釣糸案内部材がプリプレグと一体化されると共に、プリプレグの樹脂によって埋もれることは無く、この焼成後に樹脂流入阻止部材を除去するため、釣糸案内部材の前後に空間が生じ、バリ状物によって囲まれることなく焼成竿管内面から釣糸案内部材が安定的に露出する。従って、釣糸が損傷すること無く円滑に案内され、釣糸挿通抵抗が小さくなる。
【0040】請求項2によれば、軟質の弾性部材か又は粘土状部材の受け部材層を介してマンドレルに釣糸案内部材を装着するため、少なくとも釣糸案内部材の横断面の一部分が受け部材層に埋没し、この上にプリプレグを巻回して巻回プリプレグ層を形成して一体焼成すると、前記埋没部分にはバリの付着が防止され、成形後に受け部材層を除去すれば竿管内面から内方に突出し、釣糸を損傷させることなく円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる。成形時には、受け部材層の存在のために釣糸案内部材の存在によって巻回プリプレグ層に無理な押圧力が作用しないため、竿管が外に凸状態に形成されることが防止できる。即ち繊維の蛇行が防止され、高強度で高品質の釣竿が成形される。
【0041】請求項3によれば、弾性部材チューブの外側に横断面の少なくとも一部分が埋没しつつ装着している釣糸案内部材を、該弾性部材チューブ内面に作用する均等圧力によって釣糸案内部材には適切な圧力が作用し、一体焼成すると一体化が確実になると共に、チューブを除去すれば、前記埋没部分が竿管内面から内方に突出する。また、外型の存在によって巻回プリプレグ層は外側に突出することがない。従って、成形時に繊維の蛇行が防止され、成形された竿管は高強度であると共に品質が向上する。また、釣糸案内部材の、少なくともその一部が弾性部材のチューブに埋没しているため、その埋没部にはバリの発生が防止され、釣糸を損傷させることなく円滑に案内して釣糸の挿通抵抗を小さくできる。請求項4の釣竿は、バリの発生を防止された釣糸案内部材が竿管内方に突出しているため、釣糸案内時において、該釣糸を損傷させたり糸抵抗を増大させることを防止し、釣糸を円滑に案内できる。しかも、釣糸案内部材の前後に亘って竿管の強化繊維の蛇行が防止されているため、従来の、釣糸案内部材近くの繊維が蛇行した竿管に比べ、竿管強度が大きく向上する。請求項5の釣竿は、釣糸案内部材と竿管本体層との間に樹脂材の層が介在しているため、釣糸案内部材と竿管本体層との一体化強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明に係る第2の発明の説明図である。
【図2】図2は本発明に係る第3の発明の説明図である。
【図3】図3は本発明に係る第1の発明の説明図である。
【図4】図4は図3の部分拡大図である。
【図5】図5は第1の発明の他の実施例を示す部分縦断面図である。
【図6】図6は第1の発明の更に他の実施例を示す部分縦断面図である。
【符号の説明】
10マンドレル
12受け部材層
14,14’釣糸案内部材
16樹脂シート層
18巻回プリプレグ層
20外型
22軟質の弾性部材チューブ
24樹脂流入阻止部材
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-10-05 
結審通知日 2004-10-08 
審決日 2004-10-26 
出願番号 特願平5-343104
審決分類 P 1 112・ 121- ZD (A01K)
P 1 112・ 531- ZD (A01K)
P 1 112・ 534- ZD (A01K)
P 1 112・ 161- ZD (A01K)
最終処分 一部成立  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 藤井 俊二
白樫 泰子
登録日 2000-01-28 
登録番号 特許第3027289号(P3027289)
発明の名称 中通し釣竿とその製造方法  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 小林 茂雄  
代理人 中村 誠  
代理人 中村 誠  
代理人 井上 裕史  
代理人 河野 哲  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 平井 真以子  
代理人 河野 哲  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 岩坪 哲  
代理人 幸長 保次郎  

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