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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01F |
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管理番号 | 1128959 |
異議申立番号 | 異議2003-73605 |
総通号数 | 74 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2002-08-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-29 |
確定日 | 2005-10-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3421656号「セラミックインダクタ用フェライト材料及び部品」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3421656号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 本件特許第3421656号に係る手続きの主な経緯は次のとおりである。 特許出願(特願2001-38805号) 平成13年 2月15日 特許権設定登録 平成15年 4月18日 特許異議申立(異議申立人:雨山 範子) 平成15年12月29日 取消理由通知 平成16年10月 5日 特許異議意見書・訂正請求書 平成16年12月14日 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の【請求項1】(1箇所)、【請求項3】(2箇所)、【請求項4】(2箇所)及び【請求項5】(2箇所)における「比表面積」を「BET法により測定した比表面積」と訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】(1箇所)、【0009】(2箇所)、【0010】(2箇所)、【0011】(2箇所)、【0077】(1箇所)、【0078】(1箇所)、【0079】(2箇所)、【0080】(2箇所)及び【0081】(2箇所)における「比表面積」を「BET法により測定した比表面積」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、「比表面積」の測定法を「BET法により測定した」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明に当たり、この点は、訂正前の段落【0021】の記載から明らかである。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、特許請求の範囲の訂正に伴い発明の詳細な説明の対応部分の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に当たる。 また、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 訂正の適否のむすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3 特許異議申立及びこれについての判断 1 本件発明 上記第2で示したように上記訂正は認められるので、本件請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1〜5」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】Ni系フェライト材料において、原料であるニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いることを特徴とするフェライト材料。 【請求項2】前記Ni系フェライト材料の組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgOが残部から構成された請求項1記載のフェライト材料。 【請求項3】フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるチップ部品であって、このフェライト磁性層が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成されていることを特徴とするチップインダクタまたはチップビーズ部品。 【請求項4】フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるインダクタ部を少なくとも有する複合積層部品であって、このフェライト磁性層が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2 /gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成されていることを特徴とする複合積層部品。 【請求項5】フェライト磁心の磁心が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成されていることを特徴とするフェライト磁心。」 2 特許異議申立の理由及び取消理由通知の内容 (1) 特許異議申立の理由 特許異議申立人は、証拠として、 1.刊行物1(甲第1号証):フェライト部会 技術委員会、「ソフトフェライト用原料の現状」、電子材料工業会、昭和61年10月、P1-4、P77-84 2.刊行物2(甲第2号証):特開平11-144934号公報 3.刊行物3(甲第3号証):特開2000-164418号公報 4.刊行物4(参考資料1):羽多野重信 外2名著、「ビギナーズブックス16 はじめての粉体技術」、株式会社工業調査会、2000年11月15日、P24-25 5.刊行物5(参考資料2):京都工芸繊維大学 無機材料工学科編、「セラミックス実験マニュアル」、日刊工業新聞社、1989年10月30日、P21-22 6.刊行物6(参考資料3):特開2000-306719号公報 7.刊行物7(参考資料4):特開平10-335131号公報 を提出し、本件特許の請求項1〜5に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件請求項1〜5に係る発明についての特許を取り消すべき旨主張している。 (2) 取消理由通知の概要 取消理由通知の概要は、以下のとおりである。 「1)本件特許の請求項1〜5に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1〜7に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 記 1.刊行物1(甲第1号証):フェライト部会 技術委員会、「ソフトフェライト用原料の現状」、電子材料工業会、昭和61年10月、P1-4、P77-84 2.刊行物2(甲第2号証):特開平11-144934号公報 3.刊行物3(甲第3号証):特開2000-164418号公報 4.刊行物4(参考資料1):羽多野重信 外2名著、「ビギナーズブックス16 はじめての粉体技術」、株式会社工業調査会、2000年11月15日、P24-25 5.刊行物5(参考資料2):京都工芸繊維大学 無機材料工学科編、「セラミックス実験マニュアル」、日刊工業新聞社、1989年10月30日、P21-22 6.刊行物6(参考資料3):特開2000-306719号公報 7.刊行物7(参考資料4):特開平10-335131号公報 本件請求項1〜5に係る発明は、特許異議申立人が提出した特許異議申立書の「3.申立ての理由」記載の理由により、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 3 刊行物に記載された発明 (1)刊行物1に記載された発明 刊行物1の第83頁表25「酸化ニッケルの品質代表例」には、ソフトフェライト用A社のNi粉体として、Sが0.03%で粒径0.8μmのものが記載されている。 (2)刊行物2に記載された発明 刊行物2には、「フェライト粉末の製造方法」に関して以下の点が記載されている。 「【請求項1】 フェライト構成元素の原料粉末を混合して混合物を得、これを仮焼するフェライト粉末の製造方法において、前記混合物が塩素成分をClに換算して100〜1000ppmおよび/または硫酸成分をSに換算して750〜2000ppm含有することを特徴とするフェライト粉末の製造方法。 【請求項2】 前記フェライト粉末がFeおよび、Ni、Cu、ZnまたはMgの少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1のフェライト粉末の製造方法。」 「【0017】まず、基本組成原料、必要により副成分原料との混合物を用意する。基本成分としては酸化鉄、NiO、ZnO、CuO、MgO等が用いられ、さらに、上記副成分金属酸化物が用いられる。基本組成原料、副成分原料は酸化物の他、炭酸塩など焼成により酸化物となるものを用いてもよい。さらに、不純物としてCa、Mn、Co、Al、Si、P、Cr、B等が含まれていてもよい。これら各原料は、フェライトの最終組成として適宜配合される。原料粉末の粒径は0.1〜3.0μmとすることが好ましい。0.1μm未満であると、凝集しやすく混合粉の分散性が悪くなるため高い仮焼温度が必要となり、3.0μmを越えると粒径が大きい分だけ拡散速度の影響が大きくなるため、高い仮焼温度が必要となる。 【0018】ついで、基本組成成分原料および副成分原料とを混合する。このとき、混合時に塩素成分または硫酸成分を添加する。または、混合物が塩素成分または硫酸成分を含有するような原料を用いてもよい。含有量は、塩素成分はClに換算して100〜1000ppm、硫酸成分はSに換算して750〜2000ppmとする。どちらの場合においても、前記範囲未満であると、仮焼温度を低下させる効果がなくなる。また、前記範囲を超えると仮焼後に焼結した際に、残留するClやS量が多くなってしまうため、焼結密度が大きく低下してしまう。なお、残留ClやS量を低減させ、焼結密度を十分に保つためには、塩素成分はClに換算して790ppm以下、硫酸成分はSに換算して1700ppm以下にすることが好ましく、さらにはそれぞれ630ppm以下、1400ppm以下とすることが好ましい。また、添加効果を十分に得るためにはClは320ppm以上、Sは1000ppm以上添加することが好ましい。」 「【0024】<実施例1>NiO粉末(粒径0.3μm)を50mol%、およびFe2O3粉末(試薬特級、粒径0.3μm)を50mol%となるように混合し、これにFeSO4をSに換算して750ppm、1400ppmとなるように添加した。これらをボールミルを用いて湿式混合し、ついでこの混合物をスプレードライヤーにより乾燥した。これを500〜1100℃の範囲で仮焼してNiフェライト粉末を得た。また、硫酸成分を添加しないものについても同様にしてNiフェライト粉末を作製した。このNiフェライト粉末についてXRDを用いてスピネル生成率を調べた。この結果を図1に示す。」 【0027】の【表1】には、S量500、750ppmにおいて、焼結密度がピークになる点が記載されている。 (3)刊行物4に記載された発明 刊行物4の第24頁下から2行〜第25頁第1行には、「粉体の単位体積あるいは単位質量あたりの表面積を比表面積といい,粒子径にほぼ反比例する。粒子が球の場合には完全に反比例する。このことから,微粉体の粒度を表わす値として,実用上よく用いられている」と記載され、第25頁第10行〜第13行には、「比表面積の測定は、・・・ガス吸着法(BET法)」と記載されている。 4 本件発明と刊行物に記載された発明との対比・判断 (1) 本件発明1について 本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「酸化ニッケル」は、本件発明1の「ニッケル化合物」に相当し、刊行物1に記載された発明の「Sが0.03%(300ppm)」は、本件発明1の「イオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppm」に含まれるものであるから、両者は、 [一致点] 「ニッケル化合物のイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料。」で一致し、 [相違点] 相違点1:本件発明1は、ニッケル化合物をNi系フェライト材料に用いているのに対して、刊行物1に記載された発明では、ソフトフェライト用と記載されている点、 相違点2:本件発明1のニッケル化合物は、「BET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/g」であるのに対して、刊行物1に記載された発明では、粒径0.8μmである点で相違する。 そこで、上記相違点について検討する。 相違点1:刊行物1には、酸化ニッケル(ニッケル化合物)がソフトフェライト用として記載されており、酸化ニッケル(ニッケル化合物)をNi系フェライト材料に用いることは、当業者が容易になし得たことである。 相違点2:比表面積は、微粉体の粒度を表すものであり、粉体の比表面積と粒径との間に反比例的な相関があること、及びBET法を用いて比表面積を測定することは、刊行物4にも示されるように技術常識である。 そして、本件発明1では、比表面積の上限を粉体の分散性の条件により限定しており、この点は、Ni系フェライト材料に関する刊行物2において、粒径の下限を分散性の条件により限定しているのと同様である。 また、本件発明1では、比表面積の下限を「仮焼成してもニッケル化合物は固溶されずフェライト構成元素化合物が残存」(【0018】)するか否かで限定しているが、実施例(【0033】)を見れば明らかなように700〜800℃の低温で仮焼成しており、低温でも仮焼成がフェライト構成元素化合物が残存するなどの問題なく行えるように限定されている。そして、刊行物2では、粒径の上限を「高い仮焼温度が必要」(【0017】)か否かで限定しており、どちらも低温での仮焼成が問題なく行えるように限定されている点で同じである。さらに、一般的に粒径が大きすぎると焼結性が悪く焼結体密度が低下することは、常識である。 また、刊行物1,2の粒径0.8μm,0.3μmは、球と仮定すれば、それぞれ1.08,2.87m2/gである。 ゆえに、比表面積(粒径)の上限・下限(下限・上限)は、粉体の分散性、仮焼成を考慮して、実験等により当業者が適宜決定し得たものであり、本件発明1のようにBET法により測定した比表面積を1.0〜10m2/gとすることは、当業者が容易になし得たことである。 さらに、本件発明1の効果についても、当業者の予想の範囲内のものである。 したがって、本件発明1は、刊行物1、2から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2) 本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の構成に「前記Ni系フェライト材料の組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgOが残部から構成された」点が追加されたものである。 ゆえに、本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者の一致点及び相違点1,2は、上記本件発明1と同様であり、さらに、 相違点3:本件発明2は、「前記Ni系フェライト材料の組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgOが残部から構成された」ものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、そのような組成が記載されていない点で相違する。 そこで、上記相違点について検討する。 相違点1,2:上記本件発明1と同様である。 相違点3:刊行物2の【0024】に「NiO粉末(粒径0.3μm)を50mol%、およびFe2O3粉末(試薬特級、粒径0.3μm)を50mol%となるように混合し、・・・Niフェライト粉末を得た」とあるように、「Ni系フェライト材料の組成がFe2O3=50モル%、ZnO=0モル%、CuO=0モル%、NiO=50モル%、MgOが残部から構成された」、すなわち相違点3の組成に含まれるNi系フェライト材料は、公知の組成であり、当業者が適宜採用し得たものである。 さらに、本件発明2の効果についても、当業者の予想の範囲内のものである。 したがって、本件発明2は、刊行物1、2から当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3) 本件発明3〜5について 本件発明3〜5は、本件発明1又は2の構成のフェライト材料を「フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるチップ部品であるチップインダクタまたはチップビーズ部品のフェライト磁性層」、「フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるインダクタ部を少なくとも有する複合積層部品のフェライト磁性層」、又は「フェライト磁心」に適用したものである。 ゆえに、本件発明3〜5と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者の一致点と相違点1〜3は、上記本件発明1又は2と同様であり、さらに、 相違点4:本件発明3〜5は、Ni系フェライト材料をチップインダクタ、チップビーズ部品、複合積層部品のフェライト磁性層、又はフェライト磁心に適用したものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、そのような用途の記載がない点で相違する。 そこで、上記相違点について検討する。 相違点1〜3:上記本件発明1又は2と同様である。 相違点4:Ni系フェライト材料をチップインダクタ、チップビーズ部品、複合積層部品のフェライト磁性層、又はフェライト磁心に適用することは、周知であり、当業者が適宜適用し得たものである。 さらに、本件発明3〜5の効果についても、当業者の予想の範囲内のものである。 したがって、本件発明3〜5は、刊行物1、2から当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1〜5についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件発明1〜5についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 セラミックインダクタ用フェライト材料及び部品 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】Ni系フェライト材料において、原料であるニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いることを特徴とするフェライト材料。 【請求項2】前記Ni系フェライト材料の組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgOが残部から構成された請求項1記載のフェライト材料。 【請求項3】フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるチップ部品であって、このフェライト磁性層が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成されていることを特徴とするチップインダクタまたはチップビーズ部品。 【請求項4】フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるインダクタ部を少なくとも有する複合積層部品であって、このフェライト磁性層が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成されていることを特徴とする複合積層部品。 【請求項5】フェライト磁心の磁心が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成されていることを特徴とするフェライト磁心。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はセラミックインダクタ用フェライト材料に係り、特に各種磁性材料として用いられるフェライト焼結体に使用される温度特性のすぐれた安定なフェライト材料に関するものである。 【0002】 【従来の技術】例えばチップインダクタやチップビーズ等の積層チップ部品は、通常、磁性体ペーストと内部導体ペーストを厚膜技術により積層一体化した後に焼成し、外部電極ペーストを用いて外部電極を形成した後、焼成することにより製造される。この場合、磁性層に用いられる磁性材料としては、低温焼結が可能なNi-Cu-Znフェライトが一般的に用いられている。 【0003】 ところでNi-Cu-ZnフェライトやNi-Znフェライトを用いる場合、フェライト原料中のSやClの含有量に応じて、電磁気特性や焼結性に影響を及ぼすことが知られている(特許第2867196号公報、特開平11-144934号公報)、このSやClは、フェライトの原料である酸化鉄を製造するときに、硫酸鉄を出発原料としたり塩化鉄を出発原料とすることにもとづくものである。また高密度のフェライト焼結体を得るために添加物(焼結助剤)を入れる製造方法が提案されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】従来のフェライト材料において、内部導体に用いられているAgの融点以下の焼成温度では、空孔が少ない高密度な焼結体が得られず、耐湿負荷試験等で磁気特性が劣化する。そこで高い温度で焼成したり、添加物により高密度化が図られても、その副作用として内部導体の断線や消失、Agの拡散あるいはCuの偏析にともない粒界に異相が生じてインダクタンスやQや温度特性を劣化させたり、拡散したAgによりマイグレーション現象が発生し、絶縁抵抗の劣化やショート不良を引き起こすという問題点があった。 【0005】 従って本発明の目的は、Ni系フェライト材料において、添加物を使用しなくとも積層チップ部品及び磁心が高密度でしかも温度特性が小さなフェライト材料を提供することである。 【0006】 【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明者等が研究の結果下記(1)〜(2)によりこの目的を達成できるフェライト材料を提供できること及び下記(3)〜(5)によりこの目的を達成できるフェライト部品を提供できることを見出した。 【0007】 (1)Ni系フェライト材料において、原料であるニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いることを特徴とするフェライト材料。 【0008】 (2)前記Ni系フェライト材料の組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgOが残部から構成された前記(1)記載のフェライト材料。 【0009】 (3)フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるチップ部品であって、このフェライト磁性層が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成されていることを特徴とするチップインダクタまたはチップビーズ部品。 【0010】 (4)フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるインダクタ部を少なくとも有する複合積層部品であって、このフェライト磁性層が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成されていることを特徴とする複合積層部品。 【0011】 (5)フェライト磁心の磁心が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成されていることを特徴とするフェライト磁心。 【0012】 この本発明によればセラミックインダクタ用フェライト材料において、ニッケル化合物の比表面積とS成分の含有量を所定範囲内に設定することで添加物を用いなくても高密度化が図られ、高密度にもかかわらず温度特性の小さなフェライト材料が得られる。このフェライト材料で構成されたフェライト磁心および積層チップ部品は、耐湿性と温度特性に優れ、更に焼結体密度やインダクタンスのばらつきを小さくすることも可能である。 【0013】 【発明の実施の形態】一般にフェライト材料は、鉄化合物および他のフェライト構成元素化合物を混合し、これを仮焼成することにより得られる。この仮焼成工程においてフェライト混合粉体中に含有するSやClの量によりスピネル結晶となる固相反応速度が変わることが知られている。この反応速度の違いにより原料あるいは中間生成物が残存していたり熱解離による偏析により異相が生じ、粉体組成を不均一にさせるため、焼結体密度や磁気特性に悪影響を及ぼす。 【0014】 また仮焼成後の粉体を粉砕した粉体中に残留するSやClの量により磁気特性に影響を及ぼすことも知られている。このSやClは、フェライト構成元素化合物中に含有するものである。 【0015】 本発明者等が、このような知見に基づき検討を行ったところ、フェライト材料においてニッケル化合物の比表面積とS成分の含有量を規制することにより、添加物を用いなくとも高密度化が図られ、高密度にもかかわらず温度特性の小さなフェライト材料を見出した。 【0016】 以下に本発明のフェライト材料を具体的に説明する。まずフェライト構成元素化合物、例えばFe2O3、NiO、CuO、ZnO、MgOを出発材料として使用し、焼成後に目的とする組成となるように秤量し、純水とともにボールミル等により湿式混合する。 【0017】 湿式混合したものをスプレードライヤー等により乾燥し、その後仮焼成する。そして仮焼成したものを純水とともにボールミル等により湿式粉砕する。湿式粉砕したものをスプレードライヤー等により乾燥し、フェライト粉体が得られる。このときニッケル化合物に関しては、比表面積1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmの原料を用いる。 【0018】 ニッケル化合物の比表面積が1.0m2/g未満の場合、仮焼成してもニッケル化合物は固溶されずフェライト構成元素化合物が残存し、焼結体密度の値が耐湿性を保証する焼結体密度4.85g/cm3より低くなる。また10m2/gを超えると粉体の取り扱いが悪く水と混合したとき軽いために表面に浮き混合性がよくない。そのため湿式混合後の粉体のニッケル化合物の分散が悪いため、仮焼成後にニッケル化合物は固溶されにくく、フェライト構成元素化合物が残存し、焼結体密度が4.85g/cm3よりも低くなり、耐湿性が保証されない。 【0019】 また比表面積が1.0〜10m2/gにあっても、S成分が100ppm未満であると焼結体密度が低くなり、耐湿性が保証されない。また1000ppmを超えると焼結体密度は高くなるが、Agの拡散やCuの偏析が増大し、インダクタンスや温度特性が劣化する。 【0020】 ここで温度特性とは25℃と85℃のインダクタンスを測定し、25℃を基準としたときの変化率である。温度特性は±3%以内であることが必要であり、更には±2%以内が望ましく、このため温度特性が±2%かつ焼結体密度が4.85g/cm3を十分に満足するには、ニッケル化合物の比表面積は2〜5m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で250〜700ppmがより好ましい。 【0021】 なお、上記比表面積はBET法により測定すればよい。またイオウ含有量は、酸素雰囲気中で原料であるニッケル化合物を酸化燃焼させ、変換されたSO2を赤外線検出器で分析すればよい。 【0022】 混合粉体の仮焼成において、最適の仮焼成温度を求めるためには、温度を変えて仮焼成した粉体をX線回折装置にて測定し、スピネル合成率の最も高い仮焼温度を選択すればよい。 【0023】 ここで、スピネル合成率とは、粉末X線回折におけるスピネル型フェライトの(311)面のピーク強度(Isp311)と、α-Fe2O3の(104)面のピーク強度(IFe104)と、CuOの(111)面のピーク強度(ICu111)より、次式で表される値のことである。また、X線回折は、線源がCu、電圧40kV、電流40mA、走査速度2°/minで測定した。 【0024】 スピネル合成率=Isp311/(Isp311+IFe104+ICu111)×100(%) スピネル合成率が96%未満ではフェライト構成元素化合物が多く残存し、焼結体密度が低いため96%以上が好ましく、最適温度を決めるためには更には99%以上が好ましい。 【0025】 本発明においてフェライトの組成範囲を限定した理由は以下の通りである。 【0026】 主成分のFe2O3が25〜52モル%の範囲外であるとき、焼結体密度が4.85g/cm3に達せず低くなり、比透磁率やQや絶縁抵抗IRの劣化等の問題を生じる。 【0027】 ZnOが40モル%を超えるとQの低下を招き、キュリー温度が100℃以下となり、実用的でない。 【0028】 CuOが20モル%を超えるとQが低下する。また複合積層部品に用いた場合にコンデンサ材料等の異材質との接合面にCuOやZnOが析出し、IRが低下する。 【0029】 NiOが65モル%を超えるとAgの融点以下では焼結しない。NiOが1%未満の場合は絶縁抵抗IRが劣化する。 【0030】 NiOの一部をMgOに置換すると焼結体密度や比透磁率を維持しつつ温度特性が改善されるが、15モル%を超えると焼結体密度や比透磁率が劣化するため、これ以下が好ましい。 【0031】 またこの他にCo、Mn等の酸化物が全体の2wt%程度以下含有されていてもよい。これらのCo、Mnは焼結体密度を改善するものではないがCoはQを改善し、Mnは絶縁抵抗IRを改善するものである。 【0032】 本発明の一実施例を以下に説明する。焼成後の組成が、Fe2O3=49.0モル%、NiO=25.0モル%、CuO=12.0モル%、ZnO=14.0モル%となるように秤量し、純水とともにボールミルで湿式混合し、スプレードライヤーにより乾燥した。なおこのとき、原料である酸化ニッケルを、その比表面積が1から71m2/gであり、イオウ成分の含有量がS換算で0から1130ppmのものを使用した。 【0033】 次にこの混合粉末を700〜800℃で10時間仮焼成した。その後、仮焼成粉体を純水とともにボールミルで湿式粉砕し、スプレードライヤーにより乾燥した。そして得られた粉砕粉体100重量部に対してポリビニルアルコールを10重量部加えて顆粒としトロイダル形状にプレス成形した。 【0034】 この成形体を880℃で2時間焼成し、焼結体を得た。焼結体密度は焼結体の重さと寸法から計算した。また比透磁率μiとQはトロイダルに銅製ワイヤーを20ターン巻き、LCRメーターにより測定周波数10MHz、測定電流0.5mAでインダクタンスとQを測定し、下記の式を用いて比透磁率μiを求めた。 【0035】 比透磁率μi=(le×L)/(μo×Ae×N2) le:磁路長 L:試料のインダクタンス μo:真空中の透磁率 Ae:試料の断面積 N:コイルの巻き数 次に積層チップインダクタを作成した。前記の粉砕粉体100重量部に対して、エチルセルロース4重量部、テルピネオール78重量部を加え、3本ロールにて混練して、磁性用ペーストを調製した。一方、平均粒径0.6μmのAg100重量部に対して、エチルセルロース2.5重量部、テルピネオール40重量部を加え、3本ロールにて混練して、内部電極用ペーストを調製した。このような磁性体層用ペーストと内部電極用ペーストを交互に印刷積層した後、850℃で2時間の焼成を行い、積層型チップインダクタを得た。 【0036】 この3216タイプ(縦横の寸法が3.2×1.6mm)の積層チップインダクタの寸法は3.2mm×1.6mm×1.2mmであり、巻数は5.5ターンとした。次いで上記の積層型チップインダクタの端部に外部電極を600℃で焼き付けて形成し、測定周波数10MHz、測定電流0.1mAでLCRメータを用いてインダクタンスLおよびQを測定した。 【0037】 トロイダル及び積層チップインダクタのインダクタンスの温度特性は、25℃と85℃の測定周波数1MHzにおけるインダクタンスを測定し、25℃を基準としたときの変化率である。 【0038】 この結果を表1に示す。 【0039】 【表1】 【0040】 表1から明らかなように、ニッケル化合物の比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmの範囲でないと、比較例1〜6より明らかな如く、焼結体密度がトロイダルで4.85g/cm3、チップインダクタで5.15g/cm3を下回り、耐湿性を保証できない。 【0041】 またニッケル化合物のS成分が1000ppmを超えると、比較例7に示す如く、焼結体密度は耐湿性を保証できる密度に達するものの、温度特性が±3%を超えた大きな値を示す。 【0042】 本発明の範囲内のフェライト材料であれば焼結体密度がトロイダルで4.85g/cm3、チップインダクタで5.15g/cm3以上であり、温度特性が±3%以内に抑えられることがわかる。 【0043】 特にニッケル化合物の比表面積が2〜5m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で250〜700ppmの場合には、実施例3、4、5、7、8に示す如く、焼結体密度と温度特性がさらにすぐれたものが得られる。 【0044】 次に本発明のフェライト材料Fe2O3=49モル%、ZnO=25モル%、CuO=9モル%、NiO=17モル%を使用したLC複合積層部品について、図1により説明する。 【0045】 図1に示すLC複合部品1は、セラミック誘電体層21と内部電極層22とを積層して構成されるコンデンサ部2と、セラミック磁性体層31と内部導体32とを積層して構成されるインダクタ部3とを一体化したものであり、表面に外部電極41が形成されている。 【0046】 なおコンデンサ部2とインダクタ部3は、従来公知の構造とすればよく、外形は通常はほぼ直方体の形状である。LC複合部品1の寸法には特に制限はなく、用途に応じて適宜設定することができ、1.6〜10.0mm×0.8〜15.0mm×1.0〜5.0mm程度とすることができる。 【0047】 インダクタ部3のセラミック磁性体層31は本発明のフェライト材料で構成されたものである。すなわち、本発明のフェライト材料をエチルセルロース等のバインダとテルピネオール、ブチルカルビトール等の溶剤とともに混練して得た磁性体層用ペーストを、内部電極用ペーストと交互に印刷積層し、インダクタ部3を形成することができる。この磁性体層用ペースト中のバインダおよび溶剤の含有量には制限はなく、例えばバインダの含有量は1〜5重量%、溶剤の含有量は10〜50重量%程度の範囲で設定することができる。 【0048】 またインダクタ部3は、セラミック磁性体層用シートを用いて形成することもできる。すなわち本発明のフェライト材料を、ポリビニルブチラールやアクリルを主成分としたバインダとトルエン、キシレン等の溶媒とともにボールミル中で混練して得たスラリーを、ポリエステルフィルム等の上にドクターブレード法等で塗布し乾燥して磁性体層シートを得る。この磁性体層用シート中のバインダの含有量には制限はなく、例えば1〜5重量%程度の範囲で設定することができる。 【0049】 インダクタ部3の内部電極32を構成する導電材に特に制限はないが、インダクタとして実用的なQを得るために抵抗率の小さいAgを主体とした導電材を用いて形成することが好ましい。通常Ag、Ag合金、Cu、Cu合金等が用いられる。内部電極32は各層が長円形状であり、隣接する内部電極32の各層は、スパイラル状に導通が確保されているので、内部電極32は閉磁路コイル(巻線パターン)を構成し、その両端に外部電極41が接続されている。 【0050】 このような場合、内部導体32の巻線パターンすなわち閉磁路形状は種々のパターンとすることができ、またその巻数も用途に応じ適宜選択すればよい。またインダクタ部3の各部寸法等には制限はなく、用途に応じ適宜選択すればよい。 【0051】 なお、内部導体32の厚さは、通常3〜50μm程度、巻線ピッチは通常10〜400μm程度、巻数は通常1.5〜50.5ターン程度とされる。また磁性層31のベース厚は通常100〜500μm、内部導体32、32間の磁性層厚は通常10〜100μm程度とする。 【0052】 コンデンサ部2のセラミック誘電体層21に用いる材料には特に制限はなく、種々の誘電体材料を用いてよいが、焼成温度が低いことから、酸化チタン系誘電体を用いることが好ましい。またその他、チタン酸系複合酸化物、ジルコン酸系複合酸化物、あるいはこれらの混合物を用いることもできる。また焼成温度を低下させるために、ホウケイ酸ガラス等のガラスを含有させてもよい。 【0053】 具体的には、酸化チタン系としては、必要に応じNiO、CuO、Mn3O4、Al2O3、MgO、SiO2等、特にCuOを含むTiO2等が、チタン酸系複合酸化物としては、BaTiO3、SrTiO3、CaTiO3、MgTiO3やこれらの混合物が、ジルコン酸系複合酸化物としては、BaZrO3、SrZrO3、CaZrO3、MgZrO3やこれらの混合物等が使用される。また混合材料を用いない場合、例えば非磁性Znフェライト等を用いることができる。 【0054】 コンデンサ部2のセラミック誘電体層21に用いられる材料を各種バインダおよび溶剤とともに混練して得た誘電体層用ペーストを、内部電極用ペーストと交互に印刷積層し形成することができる。この誘電体層用ペースト中のバインダ及び溶剤の含有量には制限はなく、例えばバインダの含有量は1〜5重量%、溶剤の含有量は10〜50重量%程度の範囲で設定することができる。 【0055】 また誘電体層用シートを用いて形成することもできる。すなわち誘電体材料を、各種バインダと溶媒とともにボールミル中で混練して得たスラリーを、ポリエステルフィルム等の上にドクターブレード法等で塗布し乾燥して誘電体層用シートを得る。この誘電体層シートを、内部電極用ペーストと交互に積層し、形成することができる。この誘電体層用シート中のバインダの含有量には制限はなく、例えば1〜5重量%程度の範囲で設定することができる。 【0056】 コンデンサ部2を構成する内部電極層22を形成する導電材に特に制限はなく、Ag、Pt、Pd、Au、Cu、Niや例えばAg-Pd合金など、これらを一種以上含有する合金等から選択すればよいが、特にAg、Ag-Pd合金などのAg合金等が好適である。 【0057】 コンデンサ部2の各部寸法には特に制限はなく、用途等に応じ適宜選択すればよい。なお誘電体層21の積層数が1〜100、誘電体層の一層あたりの厚さが10〜150μm、内部電極層22の一層あたりの厚さが3〜30μm程度である。 【0058】 外部電極41に用いる導体材に特に制限はなく、Ag、Pt、Pd、Au、Cu、Niや、例えばAg-Pd合金などこれらを一種以上含有する合金等から選択すればよい。また外部電極41の形状や寸法等には特に制限はなく、目的や用途に応じて適宜決定すればよいが、厚さは通常3〜200μm程度である。 【0059】 内部導体用ペースト、内部電極用ペーストおよび外部電極用ペーストは、それぞれ上記した各種導電性金属、合金、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した各種バインダおよび溶剤とを混練して作成する。 【0060】 LC複合部品1を製造するに際しては、例えば、まず磁性体層用ペーストおよび内部導体用ペーストをPET(ポリエチレンテレフタレート)等の基板上に積層印刷し、インダクタ部3を形成する。その上に誘電体層用ペーストおよび内部電極用ペーストを積層印刷し、コンデンサ部2を形成する。またはコンデンサ部2を先に形成し、その上にインダクタ部3を形成してもよい。 【0061】 なお磁性体層用ペーストや誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部導体用ペーストや内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップを形成してもよい。この場合、磁性体層に隣接する誘電体層は直接印刷すればよい。 【0062】 次いで外部電極用ペーストをグリーンチップに印刷ないし転写し、磁性体層用ペースト、内部導体用ペースト、誘電体層用ペースト、内部電極層用ペーストおよび外部電極用ペーストを同時焼成する。 【0063】 また先にグリーンチップを焼成し、その後に外部電極用ペーストを印刷ないし転写して焼成することもできる。 【0064】 焼成温度は800〜930℃、特に850〜900℃とすることが好ましい。焼成温度が800℃未満であると焼成不足となり、一方930℃を超えるとフェライト材料中に内部電極材料が拡散して電磁気特性を著しく低下させることがある。また焼成時間は0.05〜5時間、特に0.1〜3時間とすることが好ましい。焼成は酸素分圧PO2=1〜100%で行う。 【0065】 また外部電極焼き付けのための焼成温度は、通常500〜700℃程度、焼成時間は、通常10分〜3時間程度であり、焼成は通常空気中で行う。 【0066】 本発明では焼成時および焼成後、大気より酸素を過剰に含む雰囲気中で熱処理を行うことが好ましい。 【0067】 酸素過剰雰囲気中で熱処理を行うことによって、Cu、Zn等の金属やCu2O、Zn2O等の抵抗が低い酸化物の形で析出した物や析出していた物を、CuO、ZnO等の抵抗が高く、実害のない酸化物の形で析出させることができる。 【0068】 また前記熱処理は焼成時および焼成後に行うことが好ましい。 【0069】 例えばグリーンチップの焼成と外部電極を焼き付けるための焼成とを同時に行う場合は、この焼成の時およびこの焼成の後、またグリーンチップの焼成後に外部電極を焼き付けるための焼成を行う場合は、外部電極を焼き付ける時や外部電極を焼き付けた後に所定の熱処理を行うことが好ましい。なお後者のように2度焼成を行う場合には、場合によってはさらにグリーンチップの焼成時および焼成後に熱処理を行ってもよい。 【0070】 熱処理雰囲気中の酸素分圧比は、20.8〜100%、より好ましくは50〜100%、特に好ましくは100%が好ましい。 【0071】 なお酸素分圧比が前記20.8%未満では、Cu、Zn、Cu2O、Zn2O等の析出を抑制する能力が低下する。 【0072】 このような酸素過剰雰囲気中での熱処理は、通常、焼成時や外部電極の焼き付け時に同時に行われるため、熱処理温度や保持時間等の諸条件は焼成条件や外部電極焼き付け条件と同様であるが、熱処理のみを単独で行う場合、熱処理温度は550〜900℃、特に650〜800℃、保持時間は0.5〜2時間、特に1〜1.5時間とすることが好ましい。 【0073】 なおLC複合部品以外の複合積層部品の場合も前記の通り作製すればよい。 【0074】 このようにして製造されたLC複合部品等の複合積層部品は、外部電極に半田付け等を行うことにより、プリント基板上等に実装され、各種電子機器等に使用される。 【0075】 磁性体層中のFe2O3、NiO、CuO、ZnO、MgO組成の分析は、ガラスビート法による蛍光X線分析で測定することができる。 【0076】 【発明の効果】本発明によれば下記の効果を奏することができる。 【0077】 (1)ニッケル系フェライト材料において、原料であるニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gでかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を使用することにより、添加物を用いなくとも高密度化を図ることができ、しかも高密度であるにもかかわらず温度特性の小さなフェライトを得るフェライト材料を提供することができる。そしてこのフェライト材料で構成された積層チップ部品やフェライト磁心は高密度のため耐湿性が良く、しかも温度特性のすぐれたものを提供することができる。 【0078】 (2)ニッケル系フェライト材料において、原料であるニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gでかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmであり、フェライト材料の組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgOが残部のフェライト材料により、添加物を用いなくとも高密度化を図ることができ、高密度にもかかわらず温度特性がすぐれるとともに、Agの融点以下でも焼結可能なフェライト材料を提供することができる。そしてこのフェライト材料で構成された積層チップ部品やフェライト磁心も同様なすぐれた特性を有する。 【0079】 (3)フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるチップ部品であって、このフェライト磁性層が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成することにより、高密度であるにもかかわらず温度特性が小さくしかもAgの融点以下でも焼結可能なチップインダクタ又はチップビーズ部品を提供することができる。 【0080】 (4)フェライト磁性層と内部導体とを積層して構成されるインダクタ部を少なくとも有する複合積層部品であって、このフェライト磁性層が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成することにより、高密度であるにもかかわらず温度特性が小さくしかもAgの融点以下でも焼結可能な複合積層部品を提供することができる。 【0081】 (5)フェライト磁心の磁心が、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いたNi系フェライト材料、または、原料のニッケル化合物のBET法により測定した比表面積が1.0〜10m2/gかつイオウ成分の含有量がS換算で100〜1000ppmである原料を用いるとともにその組成がFe2O3=25〜52モル%、ZnO=0〜40モル%、CuO=0〜20モル%、NiO=1〜65モル%、MgO残部から構成されるNi系フェライト材料で構成することにより、高密度であるにもかかわらず温度特性が小さくしかもAgの融点以下でも焼結可能なフェライト磁心を提供することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明のセラミックインダクタ用フェライト材料を用いた複合積層部品の一例である。 【符号の説明】 1 LC複合部品 2 コンデンサ部 3 インダクタ部 21 セラミック誘電体層 22 内部電極 31 セラミック磁性体層 32 内部導体 41 外部電極 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-08-19 |
出願番号 | 特願2001-38805(P2001-38805) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZA
(H01F)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 江畠 博 |
特許庁審判長 |
橋本 武 |
特許庁審判官 |
岡 和久 今井 淳一 |
登録日 | 2003-04-18 |
登録番号 | 特許第3421656号(P3421656) |
権利者 | TDK株式会社 |
発明の名称 | セラミックインダクタ用フェライト材料及び部品 |
代理人 | 平岡 憲一 |
代理人 | 山谷 晧榮 |
代理人 | 山谷 晧榮 |
代理人 | 平岡 憲一 |
代理人 | 今村 辰夫 |
代理人 | 今村 辰夫 |