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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F04C
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  F04C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  F04C
管理番号 1133220
審判番号 無効2005-80063  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-02-28 
確定日 2006-03-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第2670770号発明「ベ-ンポンプ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯の概要
本件特許第2670770号に係る発明についての出願は、昭和61年5月20日に特許出願され、平成7年11月24日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成7年12月25日付けで手続補正がなされ、平成9年7月11日に特許の設定登録がなされ、平成10年4月17日付けで特許異議の申立てがなされ、平成10年8月25日付けで本件特許を維持するとの決定がなされたものである。(訂正請求はなされなかった。)
これに対し平成17年2月28日に請求人より本件無効審判の請求がなされ、平成17年5月19日に被請求人より審判事件答弁書が提出された。その後、請求人から、平成17年7月6日付けで上申書が提出され、被請求人から平成17年11月1日付けで上申書が提出され、平成17年11月18日に口頭審理が実施された。
さらに、請求人から平成17年11月28日付けで上申書が提出され、被請求人から平成17年11月28日付けで上申書が提出されたものである。

2.本件特許発明
本件特許第2670770号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。
「1.外部に開口するカムリング収納部が形成されたハウジングと、
前記カムリング収容部に収容されたフロントプレートと、
該フロントプレートに接するように前記カムリング収容部に収容され、前記カムリング収容部開口側に位置するロータと、
内周にカム面を有してリング状に形成され、内部に前記ロータを回転自在に収納するカムリングと、
前記ハウジング内に回転自在に支持され回転駆動力が伝達されると共に前記ロータに結合されるドライブシャフトと、
該ドライブシャフトの突端部を回転自在に支持する軸受部及び該軸受部の中心から離れた位置において少なくとも一対のノックピン穴が形成されると共に前記カムリング収容部開口を封止するリヤカバーと、
該リヤカバーに形成されたノックピン穴に挿入され、前記カムリングを繋留するためのノックピンとを備えたベーンポンプにおいて、
前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定すると共に前記カムリングに係合部を形成し、該係合部に前記ノックピンの圧入固定部から突出した部分を係合して前記カムリングを回転方向に位置決め固定し、
また、前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされていることを特徴とするベーンポンプ。」

3.請求人の主張の概要
請求人は、「特許第2670770号の特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として概ね次の無効理由1ないし4のように主張するとともに、証拠方法として、審判請求時に甲第1号証ないし甲第12号証を提出し、平成17年7月6日付け上申書において請求理由の要旨を変更しないものとして、甲第13号証ないし甲第16号証を提出した。さらに、平成17年11月28日付け上申書において甲第17号証ないし甲第21号証を提出した。

(1)無効理由1
本件特許発明に係る出願に対する平成7年12月25日付け手続補正は、明細書の要旨を変更するものであり、本件特許発明に係る出願は、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第2条第2項の規定により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第40条の規定により、平成7年12月25日とみなされる。
したがって、本件特許発明は、甲第5号証に記載された発明、及び、本件特許発明の「フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」なる構成に係わる周知技術(甲第12号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件特許は、昭和62年改正前特許法第123条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件特許発明は、甲第6号証に記載された発明、設計上の技術常識(甲第7号証、甲第10号証)、及び、周知技術(甲第10号証、甲第11号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件特許は、昭和62年改正前特許法第123条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。

(3)無効理由3
本件特許発明は、甲第11号証に記載された発明、及び、設計上の技術常識(甲第7号証、甲第10号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件特許は、昭和62年改正前特許法第123条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。

(4)無効理由4
本件特許発明に係わる出願の明細書に記載された発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載は、それぞれ昭和62年改正前特許法第36条第3項、及び、第4項に規定する要件を満たしていない。よって、本件特許は、同特許法第123条第1項第3号の規定により無効とすべきである。

(5)証拠方法
甲第1号証 特許第2670770号公報
甲第2号証 本件特許発明に係る出願に対する平成7年12月25日付け手続補正書
甲第3号証 本件特許発明に係る出願に対する拒絶査定不服審判事件(平成7年第24681号)の平成7年12月25日付け審判請求理由補充書
甲第4号証 本件特許発明に係る出願の願書に最初に添付した明細書及び図面
甲第5号証 特開昭62-271982号公報
甲第6号証 特開昭60-111075号公報
甲第7号証 「機械設計ハンドブック」機械設計ハンドブック編集委員会編、共立出版、昭和30年4月25日発行、2-46頁、2-47頁、表紙、奥付
甲第8号証 「標準機械設計図表便覧〔改訂増補2版〕」小栗冨士雄著、共立出版、昭和35年6月5日発行、434頁、435頁、表紙、奥付
甲第9号証 「精説機械製図-新訂版-」和田稲苗外4名著、実教出版、1978年(昭和53年)3月20日発行、96頁、97頁、表紙、奥付
甲第10号証 実願昭55-187552号(実開昭57-112093号)のマイクロフィルム
甲第11号証 特公昭41-18986号公報
甲第12号証 特開平4-224291号公報
甲第13号証 「図解機械用語辞典第2版」工業教育研究会編、日刊工業新聞社、昭和58年1月30日発行、34、35頁、表紙、奥付
甲第14号証 特公平1-47349号公報
甲第15号証 特開平9-112222号公報
甲第16号証 実公平7-34219号公報
甲第17号証 特開昭56-29088号公報
甲第18号証 特開昭55-17696号公報
甲第19号証 特開昭55-93991号公報
甲第20号証 特開昭59-162380号公報
甲第21号証 「JISにもとづく機械設計製図便覧第4版」大西清著、理工学社、1984年9月20日発行、17-22から17-25頁、表紙、奥付

4.被請求人の主張概要
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、概ね次の(1)ないし(3)のように主張するとともに、証拠方法として乙第1号証を提出し、平成17年11月1日付け上申書において、証拠方法として乙第2号証を提出した。さらに、平成17年11月28日付け上申書において、証拠方法として乙第3号証ないし乙第4号証を提出した。

(1)本件特許発明に係る出願の出願日が平成7年12月25日とみなされるという理由はないから、甲第5号証に記載された発明は、本件特許発明に係る出願前公知の発明ではない。したがって、本件特許は、特許法第29条第2項に違反してなされたものではないから、本件特許は、昭和62年改正前特許法第123条第1項第1号の規定に該当しない。

(2)本件特許発明は、甲第6号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、又は甲第11号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、本件特許は、特許法第29条第2項に違反してなされたものではないから、本件特許は昭和62年改正前特許法第123条第1項第1号の規定に該当しない。

(3)本件特許発明に係る明細書の、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載は、それぞれ昭和62年改正前特許法第36条3項及び4項の規定に違反するものではないから、本件特許は、同特許法第123条第1項第3号に該当しない。

(4)証拠方法
乙第1号証 平成10年異議第71815号の異議決定
乙第2号証 「機械工学事典」、日本機械学会編、丸善、1997年8月20日発行、第50頁
乙第3号証 米国特許第4373871号明細書
乙第4号証 「機械工学事典」、日本機械学会編、丸善、1997年8月20日発行、第546頁

5.当審の判断
5-1.無効理由1
(1)請求人の要旨変更の主張概要
請求人は、審判請求書で、概ね次のように主張した。
平成7年12月25日付け手続補正書により、特許請求の範囲に「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」なる構成要件を加えた。また、本件特許発明に係る出願の願書に最初に添付した明細書9頁15行(以下、本件特許発明に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は図面を、それぞれ「当初明細書」、「当初図面」という。)に「フロントプレート28は、ハウジング21に形成されたカムリング収納部22内面に径方向に位置決めされ」(特許公報3頁6列1ないし3行)との文言を加えた。そして、当初明細書又は当初図面には、フロントプレートに関して、次のア.ないしオ.に示されたように記載されているが、何れも、次のア.ないしオ.の理由により、フロントプレートが径方向に位置決めされることを示唆するものではなく、ア.ないしオ.以外に本件特許発明のフロントプレートに関する記載は一切ない。したがって、前記補正は、当初明細書、又は当初図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、前記補正は、明細書の要旨を変更するものである。

ア.当初明細書8頁3から8行の「カムリング収納部22には大円部と小円部とからなるカム面26aを有するカムリング26と、このカムリング26内に回転自在に収納されたロータ27と、カムリング26の一側端を閉止するフロントプレート28とが収納されている。」の記載は、フロントプレート28等がカムリング収納部22に収納されていることを示すのみであり、フロントプレートが径方向に位置決めされることを示唆するものではない。

イ.当初明細書9頁8から15行の「また、第4図にも示すようにハウジング21の内周壁面およびフロントプレート28の外周壁面には断面略半円状の切欠部36、37が形成され、切欠部35、36、37は全体として一つの穴38を構成しており、この穴38にノックピン34を嵌入することによって、ハウジング21にフロントプレート28、カムリング26およびリヤプレート30が組付けられている。」の記載は、フロントプレート28に切欠部37が形成され、ノックピン34を嵌入することによって、ハウジング21にフロントプレート28を組付けることを示すものであるが、フロントプレートが径方向に位置決めされることを示唆するものではない。

ウ.当初明細書9頁20から10頁3行の「ハウジング21内に収装されたドライブシャフト24にフロントプレート28、ロータ27を挿通させ、ドライブシャフト24とロータ27とをスプライン嵌合させる。」の記載は、ハウジング21内に収装されたドライブシャフト24にフロントプレート28等を挿通させることを示すのみであり、フロントプレートが径方向に位置決めされることを示唆するものではない。

エ.当初明細書10頁20から11頁10行の「また、ハウジング21に形成された切欠部36、フロントプレート28に形成された切欠部37およびハウジング21の内周面21aが粗く切削されて、切欠部36、37および内周面21aとノックピン34との間に少々隙間があっても、カムリング21は切欠部36、37および内周面21aに頼らす、ノックピン34にのみ頼ってロータ27の中心とカム面26aの中心とを一致させるので、何ら問題はない。したがって、切欠部36、37および内周面21aを精密に切削加工する必要がなく、この分だけこのベーンポンプの製造コストを低下させることができる。」(口頭審理調書によれば、「カムリング21」は、「カムリング26」のことである。)の記載は、切欠部37および内周面21aが粗く切削されて、切欠部37および内周面21aとノックピン34との間に少々隙間があっても、何ら問題はないことを示している。したがって、この記載は、フロントプレートが径方向に位置決めされることを示唆するものではない。
また、フロントプレート28に切欠部37が形成され、ノックピン34を嵌入した場合でも、このように粗く切削されて少々隙間のある切欠部37とノックピン34により、フロントプレートが径方向に位置決めされることはあり得ない。仮にフロントプレート28がハウジング21の内周面21aに接しているとしても、粗く切削された内周面21aによりフロントプレートが径方向に位置決めされることはないとみるのが極く自然というべきである。ハウジング21の内周面21aのうち、カムリングが収容される部分は粗く、フロントプレートが収容される部分は精密に加工される如くにみることは、自明の範囲を明らかに超えるものと言わざるを得ない。

オ.当初図面のうち第1図と第4図によれば、フロントプレート28とハウジング21の内周面21aとの隙間の有無は明らかではない。見方によっては、フロントプレート28がハウジング21の内周面21aに接しているように見えるかも知れない。しかし、内周面21aは粗く切削されたものであり、このような粗く切削された内周面21aによりフロントプレートが径方向に位置決めされることはない。更に、第3図では、ノックピン34と、これに隙間なく嵌合しカムリング26を回転方向に位置決めしているはずの切欠部35との間に隙間の存在が見られる。このように本件特許発明に係る図面は、厳密さを敢えて省いた模式図というべきものであり、フロントプレート28がハウジングに形成されたカムリング収納部内面に径方向に位置決めされているか否かの如く微妙な構成を、図面の模式的記載のみから自明とすることは許されない。

(2)当審の要旨変更に対する判断
特許請求の範囲における「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」なる構成、及び明細書9頁15行の「フロントプレート28は、ハウジング21に形成されたカムリング収納部22内面に径方向に位置決めされている。」(特許公報3頁6列1行から3行)なる記載が、当初明細書又は当初図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるかについて検討する。

ア.当初明細書9頁8から15行には「また、第4図にも示すようにハウジング21の内周壁面およびフロントプレート28の外周壁面には断面略半円状の切欠部36、37が形成され、切欠部35、36、37は全体として一つの穴38を構成しており、この穴38にノックピン34を嵌入することによって、ハウジング21にフロントプレート28、カムリング26およびリヤプレート30が組付けられている。」と記載されていることから、ハウジング21にフロントプレート28が組付けられていることがわかる。組付けるという語義には、それぞれの部品が、所定の位置に正しく配置されるという意味を有している。しかも、通常フロントプレートは、ガタつく状態で組付けることはあり得ない。
よって、少なくとも、ハウジング21にフロントプレート28が、ガタつくことなく、所定の位置に正しく配置されていることがわかる。

イ.当初明細書第8頁第16から20行の「第2図にも示すように軸受穴32の中心から離れたリヤカバー30の所定位置には、軸受穴32を中心として点対称に一対のノックピン穴33が穿設され、ノックピン穴33にはノックピン34が圧入(植設)されている。一方、第3図にも示すように、カムリング26の外周壁には断面略半円状の切欠部35が形成されている。切欠部35にノックピン34を嵌合させると、カムリング26はリヤプレート30に取付けられて軸受穴32の中心とカム面26aの中心とは一致する。」なる記載、及び前記5-1.(1)エ.で引用した当初明細書10頁20から11頁10行の記載において、第4図を見て取ると、これらの記載通りに隙間部が表現されている。そして、第4図において、28と表示された部材は、24と表示された部材の軸線に関して外側2箇所、内側2箇所で、21と表示された部材と接して描かれている。
なお、第3図において、34の外周から引き出された35と、26と表示された部材との間に隙間があるように記載されているが、この隙間は軽微な誤記であり、第4図から見て取れる内容に影響を及ぼすものではない。

ウ.ベーンポンプにおいて、本件特許発明のフロントプレートに相当する部材を、少なくともハウジングに対して径方向に位置決め固定する点は、作動上当然必要なことであり技術常識である。そして、この点は甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された発明のベーンポンプにおいても示されており、また、請求人も審判請求書11頁15、16行、同26頁12から15行において、本件発明の「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」なる構成はベーンポンプにおいて周知であると認めている。
なお、この点は本件特許発明における本質とすべきものともいえない。

エ.位置決めにおいて、必要とされるべき位置決め精度に応じて部材間の接触面の加工精度が決められるものであり、「粗く切削されて」いること自体をもって位置決めされていないとすることはできず、当初明細書10頁20行から11頁10行の記載の文意を考慮しても、フロントプレートがハウジングに対して径方向に位置決め固定されていないとすることはできない。甲第3号証4頁1から6行の記載についても、フロントプレートがハウジングに対して径方向に位置決め固定されていないとまで被請求人自ら主張するものではない。

オ.前記5-1.(2)ア.ないしエ.から総合的に判断すれば、特許請求の範囲における「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」なる構成、及び明細書9頁15行の「フロントプレート28は、ハウジング21に形成されたカムリング収納部22内面に径方向に位置決めされている。」(特許公報3頁6列1行から3行)なる記載は、当初明細書又は当初図面に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。

よって、本件特許発明に係る出願の出願日は、平成7年12月25日とみなされることはなく、昭和61年5月20日であり、甲第5号証は、本件特許発明に係る出願の出願日前に頒布された刊行物ではない。したがって、本件特許発明の「フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」なる点が、周知技術であったとしても、本件特許は、特許法第29条第2項に違反してなされたものではないから、本件特許は、昭和62年改正前特許法第123条第1項第1号の規定に該当しない。

5-2.無効理由2
(1)請求人の主張概要
請求人は、審判請求書で、概ね次のア.ないしイ.のように主張した。
ア.本件特許発明は、甲第6号証に記載された発明、及び設計上の技術常識に基づいて、また、甲第6号証に記載された発明、設計上の技術常識、及び周知技術に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものである。そして、甲第6号証、設計上の技術常識、及び周知技術の開示事項として、次のa.ないしf.の点が開示されている。

a.甲第6号証(特開昭60-111075号)
a-1.「ポンプ10はポンプ・ハウジング12を包含し、この中にポンプ駆動軸14が回転自在に支持されている。ポンプ駆動軸14はハウジング12に押込んだ軸受・シール組立体16と、端カバーを構成するスラスト・プレート20内に配置した軸受組立体18とで支持されている。」(2頁右下欄11から18行)

a-2.「スラスト・プレート20はハウジング12に形成した開口22にしまりばめで嵌合しており、鋼製の錠止リング24によって左方に動けないようになっている。ハウジング12内にはリング型のシール26が配置してあり、これはスラスト・プレート20と協働してハウジング12の内部から大気に流体が漏れないようにしている。」(2頁右下欄19行から3頁左上欄6行)

a-3.「スラスト・プレート20は、カムリング28、圧力プレート30、ロータ32および複数のベーン34と共に、普通には回転グループと呼ばれる液圧ポンプ構造を形成している。スラスト・プレート20、カムリング28および圧力プレート30は一対のドエルピン36によって軸線方向の整合状態に保持され、また、圧力プレート30とハウジング12の間に延在する反作用ピン(図示せず)によってハウジング12に対して静止状態に保持されている。」(3頁左上欄7〜17行)

a-4.「ロータ32はポンプ駆動軸14とスプライン結合されており、原動機によってポンプ駆動軸14が回転すると、ロータ32が回転する。ベーン34はロータ32に形成されたスロット38内に摺動自在に配置してある。各ベーン34の半径方向外端はカムリング28の内周面に形成したカム面40と接触し続ける。」(3頁左上欄18行から右上欄5行)

b.甲第7号証(「機械設計ハンドブック」)
b-1.「2.2.2 ピン ピンには平行ピン、テーパピン、継手ピンおよび割ピンがある。a.平行ピン これは分解組立を行う2部品の合せ面の関係位置を常に一定に保つ必要のある場合に用いられ、普通ノックピンと呼ばれる。JES第246号に1〜50mm直径に対する規格がある。」(2-46頁14から18行)

b-2.「ノック穴は両部品に対し同時穿孔を行うか、あるいは同一の治具板を用いて穿孔する。通常穴はH2穴とし、ノックは植込側をr2またはp2静合、辷り側をh2滑合に仕上げる。従ってピンには微小な段違いを生ずる」 (2-46頁20から24行)

c.甲第8号証(「標準機械設計図表便覧」)
甲第8号証には、ハメアイに関する新旧規格(JESとJIS)の対照表が示されている。(435頁)この表中に、JESの「H2r2」が、JISの「H7u6〜H7r6(H7t7〜H7r7)」に該当することが示されている。また、JESの「H2p2」が、JISの「H7r6あるいはH7p6(H7p7)」に該当することが示されている。また、JESの「H2h2」が、JISの「H7h6またはH7h7」に該当することが示されている。

d.甲第9号証(「精説機械製図」)
d-1.「5.常用はめあい 穴と軸の種類と等級は、必要に応じてどのように組み合わせてもよいが、不用意に組み合わせると技術的に意味がなくなる。そこで、規格(JIS B 0401)では機械工業で広く実用されている組合せをもつはめあいを常用はめあいとし、これを穴基準と軸基準の両はめあい方式に対して規定している。」(96頁9から13行)

d-2.「表3-3は、船用機器に対する常用はめあいの使用例を示したもので、適用概念と事例が併記されている。」(96頁16〜17行)

d-3.表3-3のうち、穴「H7」、軸「(p7)p6」の欄には、「主としてキーなどを使用せずに圧入又は打ち込んで固定するはめあいで、特別な場合には分離することがある。」と記載されている。また、穴「H7」、軸「h7 h6」の欄には、「精密なしゅう動部のはめあいで、手で移動できる。」と記載されている。(97頁)

e.甲第10号証(実願昭55-187552号(実開昭57-112093号)のマイクロフィルム)
e-1.「従来、ベーンポンプとして第1図に示すものが一般に用いられている。第1図において、1はポンプハウジングであり、このハウジング1は第1図右側端が開口され、この開口をエンドカバー2で覆い、このエンドカバー2を前記ハウジング1の右側端面にボルト締めにより固定している。前記ハウジング1とエンドカバー2で囲まれた内部にロータ3が収容され、このロータ3には第1図には図示省略した多数のベーンが放射状に嵌合され、これらのベーンはロータ3の半径方向に移動可能になっている。前記ロータ3の外周側にはカムリング5が嵌合され、カムリング5の楕円形の内周面に前記ベーンが摺接されている。ロータ3およびカムリング5の両側端面が1対のサイドプレート6、7で挟持され、」(明細書2頁12行から3頁7行)

e-2.「前記ロータ3の中心部には回転軸9が嵌合固定され、この回転軸9は左側のサイドプレート5およびハウジング1の左側部分を貫通し、回転軸9のハウジング1から突出した端部に図示省略した駆動源から駆動力が伝達されるようになっている。また、左側のサイドプレート6とカムリング5の左側部の外周面がそれぞれハウジング1の内周面に密接して嵌合され」(明細書3頁16行から4頁4行)

e-3.「以下、この考案の一実施例につき第2図、第3図を参照して説明する。これらの図において、13は一方の位置決めピンであり、第1図に示し前述した位置決めピン13と同構成であり、ポンプハウジング1から圧力室11内に突出するように形成したボス部1cに、位置決めピン13の第2図左側端部が打込み固定され、サイドプレート6の穴6b、カムリング5の基準孔5aに前記位置決めピン13が貫通され、かつこの位置決めピン13の右側端部が右側のサイドプレート7の底をもつ孔7aに嵌合されている。」(明細書8頁1から12行)

e-4.「16は他方の位置決めピンであり、この位置決めピン16は一方の位置決めピン13より長さが短く、この位置決めピン13と対向するように180°の角度間隔を設けて、平行に配設されている。そして、左側のサイドプレート7に設けた底をもつ打込み用孔6cに他方の位置決めピン16の左側端部が打込み固定され、カムリング5に形成された孔5bに他方の位置決めピン16が貫通され、かつこの位置決めピン16の右側端部が右側のサイドプレート7の底をもつ孔7bに嵌合されている。」(明細書8頁12行から9頁2行)

e-5.「この実施例において、前記孔6b、7a、5bおよび7bは、これらの一部を第3図に示すように、孔を形成する部材の半径方向に沿った長孔に形成されている。」(明細書9頁2から5行)

e-6.「なお、この実施例の前述した以外の構成およびポンプの作動は、第1図に示す従来のものと同様であるから説明を省略するが、右方のサイドプレート7とエンドカバー2は一体構成としても差し支えない。」(明細書9頁10から14行)

f.甲第11号証(特公昭41-18986号)
f-1.「図の第1-5図に示されたポンプは本体、円筒状の中空の内部を有する鋳物又は本体部分20により構成されたケーシング又はかこい、本体20の開放端に伸縮自在にはいる円筒状ボス22を有する端部キャップ又はブロック21を備えて居り本体20の溝に受入れられたO-リング23によりそれに密封されている。端部キャップ21は4本の螺子により本体20に取付けられ、螺子の一つは第1図に見られる、端部キャップ21は本体20に対し四つの角位置の一つまで廻転せられこれに取付けられる。」(2頁右欄20から30行)

f-2.「キャップ21に向合った本体20の端壁26はポンプの作動軸27がそれを貫通して延びて居る穴を備えている。軸27はボール・ベアリング28によりこの穴の中で廻転するように支えられ、」(2頁右欄34から37行)

f-3.「かこいの内部に在る軸27の端は端部キャップ21の中心穴又は凹処内部で取合っている針型ローラー・ベヤリング31中に廻転するよう担持されている。」(2頁右欄41から44行)

f-4.「カム・リング32は溝37、38の間で本体20に構成された環状リブ40により半径方向に支えられている。カム・リング32はローターと隣接するほぼ板との間に適当に中心を合わさせ比較的緩いスプライン接続を通じて軸方向に動くよう軸27に取付けられているローター44を取巻いている。」(3頁左欄14から21行)

f-5.「ほほ板43は仕上げられたカム・リング32に衝合わせているその側面は滑かな平坦面を為す、そして本体20の端壁の穴まで延びている円筒状ボス61により取巻かれている中心穴59を備え且つ本体の溝に具えられたO-リング62により密封されている。ほほ板43の中心穴は軸27に係合しポンプの本体又はかこいの外側への液の損失を防止し且又本体の内部への空気の侵入を防止するオイル・シール63を受入れている。ほほ板43の放射方向の最外側の円筒状周辺側はO-リング65により本体20に封鎖されている。」(3頁右欄1から11行)

f-6.「ピン70(第2図)はカム・リング32、端部キャップ21及びほほ板43の中に構成された穴の中まで延びている。夫々の穴の中のピン70はポンプが組立てられるときこれらのエレメントの中心を合わせる例用を為し且つ作動中ほほ板43の廻転を防止する作用をする。ピン70とそれらの穴はカム・リング32が端部キャップ21とほほ板43との間に角関係で90°だけ離れた二つの位装の何れかに保持されるように配置されている。」(3頁右欄19から28行。「位装」は位相の誤り。)

イ.そして、請求人は、以下のa.ないしd.ように主張した。
a.本件特許発明の構成要件「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」は、フロントプレートがカムリング収納部内面に対して径方向に位置決めされていることを意味するという前提に立った場合、甲第6号証のものと本件特許発明が見かけ上相違するのは、本件特許発明の「ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定」することだけである。

b.甲第7号証ないし甲第9号証に示すように、一般的なものであるノックピンの両端のうち何れか一方のみを圧入固定することは、設計上の技術常識である。
甲第6号証のもののベーンポンプにおいて、ドエルピン36をスラスト・プレート20にのみ圧入固定している旨の直接の記載はないが、2部品の合せ面の関係位置を常に一定に保つ必要のある場合に用いられるピンとして「ノックピン」を用い、その両端のうち何れか一方のみを圧入固定すること、そして、この圧入固定は、軸受・シール組立体16を備えたハウジング12にしまりばめで固定され且つ軸受組立体18を備えた(したがって圧力プレート30やカムリング28を位置決めするための基準となる)スラスト・プレート20のみとすることは、甲第7号証の設計上の技術常識を適用して当業者が容易になし得たことに過ぎない。

c.甲第10号証には、一方の位置決めピン13をポンプハウジング1に「打込み固定」し、これをサイドプレート6、カムリング5に貫通させ、右側のサイドプレート7に嵌合させること、更に、他方の位置決めピン16を左側のサイドプレートの打込み用孔6cに「打込み固定」し、これをカムリングに貫通させ、右側のサイドプレート7に嵌合させることが記載されている。甲第10号証に記載された発明の「左側のサイドプレート6」は本件特許発明の「フロントプレート」に相当し、甲第10号証のものの「右側のサイドプレート7」は本件特許発明の「リヤカバー」に相当するので、甲第10号証のものは、本件特許発明のように「リヤカバーにのみ圧入固定」したものではない。しかしこのことは、甲第10号証のものの「右側のサイドプレート7」に「回転軸9」の軸受部を形成していないことから、単に設計上の位置決め基準をポンプハウジング1及び左側のサイドプレート6側にしただけの話である。
これに対し、甲第6号証のものは、ポンプ駆動軸14をスラスト・プレート20の軸受組立体18で支持することとし、圧力プレート30には軸受部を設けていない。この場合には、設計上の位置決め基準をスラスト・プレート20とし、位置決めピンをスラスト・プレート20にのみ圧入固定することが、むしろ設計上の常識的な判断である。甲第10号証のものは、甲第6号証のものや本件特許発明と同一の技術分野に属している。かかる甲第10号証のものに表れた設計上の常識的な判断を、上記甲第7号証の技術常識を前提として甲第6号証のものに適用し、本件特許発明のようにすることは当業者が容易になし得たことに過ぎない。さらに、本件特許発明の効果も、甲第6号証のもののベーンポンプが奏する効果以上のものではない。

d.本件特許発明の「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」は、フロントプレートがカムリング収納部内面に接して径方向に位置決めされていることを意味するという前提に立った場合、甲第6号証のものと本件特許発明が見かけ上相違するのは、本件特許発明の「ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定」することと、フロントプレートが「カムリング収容部内面に接して」いることだけである。
「ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定」することは、前述のように、甲第6号証のものに、設計上の技術常識を適用し、当業者が容易になし得たことである。また、本件特許発明のフロントプレートがカムリング収納部内面に接して径方向に位置決めされることは、甲第6号証のものに対して、甲第10号証や甲第11号証に開示された周知技術を適用し、当業者が容易になし得たことである。

(2)被請求人の主張概要
被請求人は、答弁書で概ね次のア.ないしウ.のように主張した。
ア.本件特許発明と甲第6号証に記載された発明とを対比すると、次の相違点1ないし2において相違する。
a.相違点1
本件特許発明は「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定すると共に前記カムリングに係合部を形成し、該係合部に前記ノックピンの圧入固定部から突出した部分を係合して前記カムリングを回転方向に位置決め固定し、」の構成を備えているのに対し、甲第6号証に記載された発明は、そのような構成を備えない点。
b.相違点2
本件特許発明は、カムリング収納部開口を「リヤカバー」によって封止しているのに対し、甲第6号証に記載された発明は、カムリング収納部内に収容されたスラストプレートにより開口を閉止している点。
そして、甲第7号証、甲第10号証、及び甲第11号証は、前記相違点1ないし2における本件特許発明の構成を開示するものではない。たとえ甲第6号証に記載された発明に、甲第7号証、甲第10号証、及び甲第11号証に記載された発明を適用しても本件特許発明を想起することはできない。
また、請求人は、甲第10号証のものに対して、ハウジング1やサイドプレート6にピン13、16を打込み固定しているのはサイドプレート7に回転軸9の軸受を形成していないからであり、サイドプレート7に軸受部を形成すればサイドプレート7にのみピンを圧入固定することがあたかも技術常識であるかの如く主張するが、全く根拠がない。請求人が引用する甲第11号証のものでも、端部キャップ21に軸受部31が形成されているが、端部キャップ21にピン70を圧入固定していない。

イ.組み合わせの阻害要因
甲第6号証に記載された発明に、甲第7、10、11号証に記載された技術事項を適用しても本件特許発明を想起できないだけでなく、むしろ甲第6号証に記載された発明のスラストプレート20のみに、ピンを圧入固定することには、答弁書15頁15から28行に記載の実際の組付け作業上の阻害要因があり、甲第6号証に記載された発明に甲第7、10、11号証に記載された技術事項を適用することにより本件特許発明を容易に発明できたという主張が妥当でない。

ウ.本件特許発明による格別の作用効果
前記相違点1、2における本件特許発明の構成に基づいて本件特許発明は以下のとおり格別の作用効果(イ)及び(ロ)を奏する。
a.作用効果(イ)
リヤプレートに植設したノックピンをカムリングの係合部に係合させるだけで、カムリングのカム面の中心とロータの中心とを一致させることができるので、カムリングの係合部のみを精密に切削加工すればよく、このため加工精度が出し易く、他に精密加工を行う必要がないので、このベーンポンプの製造コストを低下させることができる。
b.作用効果(ロ)
組付けの際には、まず、ノックピンを圧入したリヤカバーを下にした状態でカムリング、フロントプレートを順次ノックピンに係止し、最後にカムリング収納部開口を下側に向けた状態でハウジングを上方からかぶせて組み付けることができる。したがって組付け作業が単純であるから組付けによりカム面の中心とロータの中心とがずれるということもなく、作業効率も大幅に向上することができる。(なお、作用効果(ロ)については口頭審理調書により訂正された。)
これに対し、甲第6号証に記載された発明は、前記相違点1、2における本件特許発明の構成のために、前記の作用効果(イ)及び作用効果(ロ)を奏することができず、また、甲第6号証に記載された発明に、甲第7、10、11号証に記載された技術事項をどのように適用しても本件特許発明の格別の作用効果(イ)及び作用効果(ロ)を奏し得ない。

(3)請求人、被請求人の上申書における主張概要
ア.平成17年7月6日付け請求人の上申書
請求人は、平成17年7月6日付け上申書で概ね以下のように主張し、位置決めの定義として、甲第13号証を提出し、リヤカバーを例示するものとして、甲第14号証ないし甲第16号証を提出した。
a.本件特許発明と甲第6号証に記載された発明との相違点は、「ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定」するか否かである。
b.甲第6号証のものにおいて、圧入固定する部材を、軸受・シール組立体16を備えたハウジング12にしまりばめで固定され且つ軸受組立体18を備えた(したがって圧力プレート30やカムリング28を位置決めするための基準となる)スラストプレート20のみとすることは、当業者が容易になし得たことに過ぎない。
c.相違点2については、甲第10号証や甲第11号証には本件特許発明の「リヤカバー」が開示されているし、このような「リヤカバー」は甲第10号証や甲第11号証を引用するまでもなく周知である。甲第6号証に「リヤカバー」が開示されていないとしても、甲第6号証のもののスラストプレート20に代えて甲第10号証や甲第11号証のものあるいは周知のリヤカバーを用いることに、何ら困難性はない。
d.被請求人が主張する組付けの不都合は机上の空論にすぎず、阻害要因の立証は一切なされていない。仮に被請求人主張のような不都合が生じるとしても、それは甲第6号証のものにおいて「スラストプレート20にのみドエルピン36を圧入固定する」か、あるいは甲第6号証の構成のままとするかに関係なく生じるものである
e.作用効果(イ)は、甲第6号証のものが奏する効果以上のものではない。作用効果(ロ)は本件特許発明に係わる出願の明細書に記載されていないし、本件特許発明に係わる出願の明細書又は図面の記載から当業者が推論できる効果でもない。被請求人主張のように甲第6号証のものの反作用ピンが存在すると組付けに不都合が生じるのであれば、本件特許発明においても、反作用ピンがあるときは同様の不都合が生じることになる。

イ.平成17年11月28日付け被請求人の上申書
被請求人は、平成17年11月28日付け上申書で概ね以下のように主張し、乙第3号証を提出し、しまりばめの定義として、乙第4号証を提出した。
a.本件特許発明に係わる出願の明細書の従来技術の欄には、米国特許第4373871号明細書(乙第3号証)が記載されているが、この乙第3号証の発明は、軸受け部がリヤカバーに設けられているにもかかわらず、ピンはリヤカバーと反対側のハウジングにしっかりと固定されている。したがって、請求人の主張する設計常識は、これを裏付ける根拠がないばかりか、これとは逆の技術を開示する証拠が存在する。
b.答弁書16頁11から15行の作用効果(ロ)は、口頭審理調書に記載されているとおり、組み付けの際には、リヤカバーにノックピンを圧入する。そのノックピンにカムリングを嵌合する。更に、ハウジングにドライブシャフトを収装し、ドライブシャフトの突端部をリヤカバーの軸受穴に嵌入する。したがって、組み付け作業が単純であるから組み付けによりカム面の中心とロータの中心とがずれるということもなく、作業効率も大幅に向上するということである。
すなわち、別個独立の組み付け工程で行われ、同時に2つ以上の精密な位置合わせを行う必要がなく、作業が単純になり組み付けの際カム面の中心とロータの中心がずれることがない。
c.答弁書8頁8から11行の相違点2を、本件特許発明は、カムリング収納部開口をリヤカバー(リアプレート)によって封止しているのに対し、甲第6号証に記載された発明は、ハウジングに形成した開口にスラストプレートをしまりばめで嵌合している点と訂正した。

ウ.平成17年11月28日付け請求人の上申書
請求人は、平成17年11月28日付け上申書で概ね以下のように主張し、軸受側(位置決めの基準側)に位置決めピンを圧入固定したことが技術常識であるとして、第17号証ないし甲第20号、機械製図の技術常識として、甲第21号証を提出した。
a.甲第6号証に記載された発明も甲第11号証に記載された発明も、ハウジングにはピンが入っていないのであるから、ピンを圧入固定する部材がハウジングとなるはずがない。甲第6号証のものの例で言えばスラスト・プレート20、カムリング28又は圧力プレート30のうち何れかの部材にドエルピン36を圧入固定する場合、ハウジング12にしまりばめで固定されかつ軸受組立体18を備えた(したがって圧力プレート30やカムリング28を位置決めするための基準となる)スラスト・プレート20をドエルピン36の圧入先にするとすることは容易であるという請求人の主張は、米国特許第4373871号に基づく被請求人の主張によって何ら妨げられるものではない。
b.機械製図では各組付部品は基準部を基準位置としてそれらの組付位置を管理することになっている。このような機械製図の技術常識に従って甲第6号証のもののポンプをみたとき、各組付部品は、ロータの中心を基準部としてそれらの組付位置を管理されなければならない。そして、カムリング28、圧力プレート30は、ロータの中心(基準部)にそれらの組付構造上近い、基準側たるスラスト・プレート20を介してそれらの組付位置を管理されなければならないことになる。甲第6号証のもののポンプで、ドエルピン36をカムリング28、圧力プレート30とスラスト・プレート20のいずれの側に圧入すべきであるかについてみるならば、ドエルピン36は当然にロータの中心(基準部)に近い基準側たるスラスト・プレート20に圧入されなければならない。即ち、甲第6号証に記載のドエルピン36の圧入先はスラスト・プレート20とすることが技術常識である。
c.作用効果(イ)は甲第6号証や甲第11号証のものが奏する効果以上のものではないし、「ノックピンをリヤカバーにのみ圧入固定」するか否かとは無関係の効果である。口頭審理で訂正された内容では作用効果(ロ)において肝心なフロントプレートの存在を脱落させている。作用効果(ロ)は本件明細書から推考できるものでない。

(4)当審の判断
ア.甲第6号証に記載された発明
前記5-2.(1)a-1.ないしa-4.より、甲第6号証には次の発明が記載されている。
「外部に開口するカムリング収納部が形成されたハウジング12と、
前記カムリング収納部に収容された圧力プレート30と、
前記圧力プレート30に接するように前記カムリング収納部に収容され、前記カムリング収納部開口側に位置するロータ32と、
内周にカム面40を有してリング状に形成され、内部に前記ロータ32を回転自在に収納するカムリング28と、
前記ハウジング12内に軸受・シール組立体16で回転自在に支持され回転駆動力が伝達されると共に前記ロータ32に結合されるポンプ駆動軸14と、
前記ポンプ駆動軸14の突端部を回転自在に支持する軸受組立体18及び前記軸受組立体18の中心から離れた位置において一対のドエルピン穴が形成されると共に前記ハウジング12に形成した開口にしまりばめで嵌合している端カバーを構成するスラストプレート20と、
前記スラストプレート20に形成された前記ドエルピン穴に挿入され、前記カムリング28を繋留するためのドエルピン36とを備えたベーンポンプにおいて、
前記スラストプレート20、前記カムリング28、及び前記圧力プレート30は一対の前記ドエルピン36によって軸線方向の整合状態に保持して前記カムリング28を回転方向に位置決めし、
また、前記圧力プレート30は、前記ハウジング12との間に延在する反作用ピンによって前記ハウジング12に対して静止状態に保持されているベーンポンプ。」

イ.対比
口頭審理調書によれば、本件特許発明の「カムリング収容部」は、「カムリング収納部」のことであり、同「リヤカバー」は、「リヤプレート30」のことであることに関しては、請求人、被請求人双方に争いはない。(以下、引用文を除き、カムリング収納部と記載する。)
本件特許発明と甲第6号証に記載された発明を対比すると、甲第6号証に記載された発明における「圧力プレート30」、「ポンプ駆動軸14」、「軸受組立体18」、「ドエルピン穴」、「スラストプレート20」、「ドエルピン36」は、本件特許発明における「フロントプレート」、「ドライブシャフト」、「軸受部」、「ノックピン穴」、「リヤカバー」、「ノックピン」に相当するものである。また、甲第6号証に記載された発明におけるポンプ駆動軸14が「前記ハウジング12内に軸受・シール組立体16で回転自在に支持され」とは、技術的に本件特許発明の「前記ハウジング内に回転自在に支持され」に相当する。
したがって、両発明は、「外部に開口するカムリング収納部が形成されたハウジングと、前記カムリング収容部に収容されたフロントプレートと、該フロントプレートに接するように前記カムリング収容部に収容され、前記カムリング収容部開口側に位置するロータと、内周にカム面を有してリング状に形成され、内部に前記ロータを回転自在に収納するカムリングと、前記ハウジング内に回転自在に支持され回転駆動力が伝達されると共に前記ロータに結合されるドライブシャフトと、該ドライブシャフトの突端部を回転自在に支持する軸受部及び該軸受部の中心から離れた位置において少なくとも一対のノックピン穴が形成されると共に前記カムリング収容部開口を封止するリヤカバーと、該リヤカバーに形成されたノックピン穴に挿入され、前記カムリングを繋留するためのノックピンとを備えたベーンポンプ」である点で一致し、次の点において相違する。

a.相違点A
本件特許発明では、「前記カムリング収容部開口を封止するリヤカバー」であり、「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定すると共に前記カムリングに係合部を形成し、該係合部に前記ノックピンの圧入固定部から突出した部分を係合して前記カムリングを回転方向に位置決め固定し、また、前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」のに対して、甲第6号証に記載された発明では、「前記ハウジング12に形成した開口にしまりばめで嵌合している端カバーを構成するスラストプレート20」であり、「前記スラストプレート20、前記カムリング28、及び前記圧力プレート30は一対の前記ドエルピン36によって軸線方向の整合状態に保持して前記カムリング28を回転方向に位置決めし、また、前記圧力プレート30は、前記ハウジング12との間に延在する反作用ピンによって前記ハウジング12に対して静止状態に保持されている」点。

ウ.判断
相違点Aについて検討する。

a.前記5-2(1)ア.a-3.にみられるように、甲第6号証には本件特許発明の「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定する」点は記載されていない。
そして、請求人の主張は、概ね、次のようなものである。
ノックピンの両端のうち何れか一方のみを圧入固定することは、設計上の技術常識である。この圧入固定は、軸受・シール組立体16を備えたハウジング12にしまりばめで固定され且つ軸受組立体18を備えたスラスト・プレート20のみとすることは、設計上の技術常識を適用して当業者が容易になし得たことに過ぎない。また、甲第6号証のものは、ポンプ駆動軸14をスラスト・プレート20の軸受組立体18で支持することとし、圧力プレート30には軸受部を設けていない。この場合には、設計上の位置決め基準をスラスト・プレート20とし、位置決めピンをスラスト・プレート20にのみ圧入固定することが、むしろ設計上の常識的な判断である。

b.ここで、本件特許発明の「リヤカバー」は、単なる語義だけからとらえるべきでなく、本件特許発明の全体構成との関連のなかで位置づけるべきである。すなわち、回転駆動力が伝達されるドライブシャフトが、ハウジング内に回転自在に支持されたベーンポンプにおいて、ドライブシャフトの突端部を回転自在に支持する軸受部が形成されると共に前記カムリング収納部開口を封止するものが「リヤカバー」である。
このため、「回転駆動力が伝達されるドライブシャフトが、ハウジング内に回転自在に支持されたベーンポンプにおいて、ドライブシャフトの突端部を回転自在に支持する軸受部が形成されると共に前記カムリング収容部開口を封止するリヤカバーにのみノックピンを圧入固定する」という構成(以下、これを「構成A」という。)について検討する。
なお、構成Aは、本件特許発明と甲第6号証に記載された発明の一致点である「回転駆動力が伝達されるドライブシャフトが、ハウジング内に回転自在に支持されたベーンポンプにおいて、ドライブシャフトの突端部を回転自在に支持する軸受部が形成される」を追加した構成であって、これを除けば相違点Aにおける本件特許発明の構成に含まれている。そして、構成Aの「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定する」なる構成は、甲第6号証に記載されていないと請求人は認めている。

c.請求人の主張を検討すると、ノックピンの両端のうち何れか一方のみを圧入固定するという一般的な設計上の技術常識だけをもってして、甲第6号証のものにおいて、ドエルピン36を、スラスト・プレート20、カムリング28、圧力プレート30、ハウジング12のうちで、それぞれに圧入する場合としない場合とが存在する中で、わざわざスラスト・プレート20のみに圧入固定することが、その他の理由なくして、設計上の常識的な判断とすることはできない。

次に、甲第6号証のものにおいて、圧力プレート30には軸受部を設けていない場合には、設計上の位置決め基準をスラスト・プレート20とし、ドエルピン36をスラスト・プレート20にのみ圧入固定することが、設計上の常識的な判断といえるかについて検討する。
甲第6号証のものは、ハウジング12内に軸受・シール組立体16でポンプ駆動軸14を支持しており、軸受はスラスト・プレート20の軸受組立体18と、ハウジング12の軸受・シール組立体16との2箇所に存在している。そして、軸受組立体18はポンプ駆動軸14の突端部を支持しているにすぎず、軸受・シール組立体16は本体であるドライブ側を支持している。突端部で支持していない本体側の片持ちのものが数多くみられるように(甲第10号証等)、むしろ本体側の軸受・シール組立体16を、設計上の位置決め基準と考えるのが設計上の常識的な判断というべきである。これは乙第3号証のFIG.4、3列49行目の記載等からも裏付けられる。
また、甲第6号証の第1図自体では圧力プレート30が、ドエルピンに依存してハウジング12とは無関連であるかのようにみられるが、圧力プレート30は、前記ハウジング12との間に延在する反作用ピンによって、軸受・シール組立体16の存在するハウジング12に対して静止状態に保持されており、乙第3号証FIG.4のような場合を踏まえれば、圧力プレート30に軸受がないからといって、軸受組立体18を、即、軸受・シール組立体16に比して設計上の位置決め基準とする根拠も存在しない。
よって、軸受・シール組立体16に比して、軸受組立体18の方を設計上の位置決め基準とする根拠は存在しない。しかも、わざわざドエルピン36をスラスト・プレート20にのみ圧入する必然性もない。(甲第10号証のものにおいては、甲第6号証のものの圧力プレート30相当部に圧入されている。)

したがって、第6号証のものにおいて、スラスト・プレート20、圧力プレート30、ハウジング12等のうちで、それぞれに圧入する場合としない場合とが存在する中で、ドエルピン36をスラスト・プレート20にのみ圧入固定することが、設計上の常識的な判断、及び当業者が容易になしえたとする根拠は認められない。

前記5-2.(3)ウ.b.の請求人の主張は、甲第6号証のものにおいて圧力プレート30は、前記ハウジング12との間に延在する反作用ピンによってハウジング12に対して静止状態に保持されている点を欠落させており、また、甲第6号証のものに極めて類似した乙第3号証FIG.4のように、ドエルピンがハウジングに達しているケースを全く考慮しておらず、採用できない。

d.各号証に記載された発明
甲第7号証ないし甲第9号証は、ノックピンの両端のうち何れか一方のみを圧入固定する一般的技術を示すものである。
甲第10号証には、一方の位置決めピン13をポンプハウジング1に「打込み固定」し、これをサイドプレート6、カムリング5に貫通させ、右側のサイドプレート7に嵌合させること、更に、他方の位置決めピン16を左側のサイドプレートの打込み用孔6cに「打込み固定」し、これをカムリングに貫通させ、右側のサイドプレート7に嵌合させることが記載されている。甲第10号証ものは、回転軸9をポンプハウジング1に片持ちで支持し、位置決めピン13をポンプハウジング1に「打込み固定」するだけのものであって、何ら構成Aを示すものではなく、また、本件特許発明のようにハウジングとリヤカバーの両方に軸受があって、あえてリヤカバー側にノックピンが圧入されることを想到させるものともいえない。
甲第11号証は、無効理由2においては、前記5-2(1)イ.d.の主張に対して示されたもので、何ら構成Aを示すものではなく、また、本件特許発明のようにハウジングとリヤカバーの両方に軸受があって、あえてリヤカバー側にノックピンが圧入されることを想到させるものともいえない。なお、甲第12号証は、平成4年8月13日に公開され、無効理由1において、本件特許発明のフロントプレートの径方向の位置決めに関して示されたものである。
甲第14号証ないし甲第16号証は、本件特許発明に係わる出願後のもので、前記5-2(2)の請求人の主張する相違点2に関して、リヤカバーの語義のもつ技術的内容を示すために示されたものである。
甲第17号証ないし甲第21号証はノックピンの圧入固定に関して提出されたものであるが、甲第17号証のものは圧入とは明記されておらず、また、甲第17号証ないし甲第20号証のものは何れも駆動軸を片持ちで支持するものであって、本件特許発明のようにハウジングとリヤカバーの両方に軸受があって、ドライブシャフトを突端部で支持するようなリヤカバー側にノックピンが圧入されることを想到させるものとはいえない。甲第21号証も機械製図の技術常識を示すものにすぎず、これも同様である。

このように、請求人が提出した何れのものにも、構成Aは示されていない。また、何れのものにも、このようなベーンポンプにおいて、ドライブ側の本体に対し、リアカバー側をあえて設計上の位置決め基準とする技術思想は読み取れない。

e.本件特許発明の作用効果
e-1.構成Aにより、本件特許発明に係わる明細書記載の「一方、ノックピン34に切欠部35を嵌入させてカムリング26をノックピン34に繋留させ、カムリング26をリヤプレート30に取付ける。リヤプレート30にカムリング26が取付けられると、軸受穴32の中心とカム面26aの中心は一致する。ノックピン34の穴38に嵌入してカムリング収納部22にカムリング26を収納するとともに、リヤプレート30の軸受穴32にベアリング31を介してドライブシャフト24の突端部24aを嵌入させる。ドライブシャフト24はロータ27の中心部を挿通しているので、カム面26aの中心とロータ27の中心とは一致する。このように、カム面26aの中心とロータ27の中心とを一致させるためにカムリング26はノックピン34のみに頼っているので、ノックピン34に嵌合する切欠部35のみを精密に切削加工すればよく、加工精度が出し易い。」(本件特許発明に係る出願の明細書10頁3から19行、特許公報3頁6列10ないし24行)にみられるように、カムリング26をノックピン34に繋留させて組み付けるから、作業が単純で作業効率が大幅に向上でき、「カムリングの係合部のみを精密に切削加工すればよく、このため加工精度が出し易く、他に精密加工を行う必要がないので、このベーンポンプの製造コストを低下させることができる。また、組付の際に、カム面の中心とロータの中心とがずれるということもない」(本件特許発明に係る出願の明細書12頁13から18行、特許公報4頁7列6ないし11行)という格別な作用効果が生ずる。

e-2.前記「リヤプレート30にカムリング26が取付けられると、軸受穴32の中心とカム面26aの中心は一致する。」、前記「組付の際に、カム面の中心とロータの中心とがずれるということもない」という作用効果にみられるように、具体的には次のような作用効果が、構成Aにより生じる。
本件特許発明のリヤカバーとカムリングとの関係は、「ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定すると共に前記カムリングに係合部を形成し、該係合部に前記ノックピンの圧入固定部から突出した部分を係合して」とされている。また、本件特許発明の「リヤカバー」は、「リヤプレート30」のことであって(口頭審理調書)、通常リアプレートとはカムリングとは接しているものであること、「カムリング26の他端側である開口側を封止するリヤプレート30はリヤカバーとしてハウジング21を密閉しており」なる記載(本件特許発明に係る出願の明細書8頁8から10行、特許公報3頁5列24ないし26行)、及び、本件特許発明の第1図、第4図の記載を裏付けとすれば、リヤカバーとカムリングの間は介在するものがなく接している。本体であるハウジングにノックピンを圧入した場合に比べ、ノックピンが傾くことなく、圧入による効果とあわせて、カム面中心とロータ中心を高精度で一致させることができるという作用効果が生じる。

したがって、前記5-2.(4)ウ.b.ないしe.と、被請求人主張の実際の組み付け作業上の阻害要因を合わせて、総合的に判断すれば、本件特許発明の構成Aは、当業者が容易になしえたものとすることはできず、本件特許発明が、甲第6号証ないし甲第11号証、甲第17号証ないし甲第21号証に記載された発明または周知技術に基づいて、当業者が容易になしえたものとすることはできない。

5-3.無効理由3
(1)請求人の主張概要
請求人は、審判請求書で、本件特許発明は、甲第11号証に記載された発明、及び設計上の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張し、請求人は、概ね以下のア.ないしウ.のように主張し、前記5-2.(1)イ.a.ないしc.とほぼ同じ主張となっている。

ア.甲第11号証のものと本件特許発明が見かけ上相違するのは、本件特許発明の「ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定」するか否かだけである。

イ.ノックピンの両端のうち何れか一方のみを圧入固定することは、設計上の技術常識である。甲第11号証のもののベーンポンプにおいて、ピン70を端部キャップ21にのみ圧入固定している旨の直接の記載はないが、2部品の合せ面の関係位置を常に一定に保つ必要のある場合に用いられるピンとして「平行ピン」すなわち「ノックピン」を用い、その両端のうち何れか一方のみを圧入固定すること、そして、この圧入固定は、軸27を支持するボール・ベヤリング28を備えた本体20に取付けられて角位置が決められ且つ軸27を担持する針型ローラー・ベヤリング31を備えた(したがってほほ板43やカム・リング32を位置決めするための基準となる)端部キャップ21のみとすることは、甲第7号証の設計上の技術常識を適用して当業者が容易になし得たことに過ぎない。

ウ.甲第10号証には、一方の位置決めピン13をポンプハウジング1に「打込み固定」し、これをサイドプレート6、カムリング5に貫通させ、右側のサイドプレート7に嵌合させること、更に、他方の位置決めピン16を左側のサイドプレートの打込み用孔6cに「打込み固定」し、これをカムリングに貫通させ、右側のサイドプレート7に嵌合させることが記載されている。甲第10号証のものの「左側のサイドプレート6」は本件特許発明の「フロントプレート」に相当し、甲第10号証のものの「右側のサイドプレート7」は本件特許発明の「リヤカバー」に相当するので、甲第10号証のものは、本件特許発明のように「リヤカバーにのみ圧入固定」したものではない。しかしこのことは、甲第10号証のものの「右側のサイドプレート7」に「回転軸9」(ドライブシャフト)の軸受部を形成していないことから、単に設計上の位置決め基準をポンプハウジング1及び左側のサイドプレート6側にしただけの話である。
これに対し、甲第11号証のものは、軸27を端部キャップ21の針型ローラー・ベヤリング31で担持することとし、ほほ板43には軸受部を設けていない。この場合には、設計上の位置決め基準を端部キャップ21とし、位置決めピンを端部キャップ21にのみ圧入固定することが、むしろ設計上の常識的な判断である。甲第10号証のものは、甲第11号証のものや本件特許発明と同一の技術分野に属している。かかる甲第10号証のものに表れた設計上の常識的な判断を、上記甲第7号証の技術常識を前提として甲第11号証のものに適用し、本件特許発明のようにすることは当業者が容易になし得たことに過ぎない。本件特許発明の効果も、甲第11号証のもののベーンポンプが奏する効果以上のものではない。

(2)被請求人の主張概要
被請求人は、答弁書で概ね次のア.ないしイ.のように主張した。
ア.本件特許発明と甲第11号証に記載された発明とを対比すると、次の相違点1ないし2において相違する。
a.相違点1
本件特許発明は「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定すると共に前記カムリングに係合部を形成し、該係合部に前記ノックピンの圧入固定部から突出した部分を係合して前記カムリングを回転方向に位置決め固定し、」の構成を備えているのに対し、甲第11号証に記載された発明は、そのような構成を備えていない点。
b.相違点2
本件特許発明は、カムリング収納部開口をリヤカバーによって封止しているのに対し、甲第11号証に記載された発明は、カムリング収納部内に延在する円筒状ボス22を有する端部キャップ21により閉止している点。
相違点1及び2における本件特許発明の構成を甲第7、10号証が開示しないから、甲第11号証に記載された発明に、甲第7、10号証に記載された発明を適用しても本件特許発明を想起することはできない。

イ.甲第11号証に記載された発明においては、カムリング32が溝37、38の間で、本体20に構成された環状リブ40により半径方向に支持されている。一方、端部キャップ21の円筒状ボス22は本体20の開口部の内部に延在し、Oリング23により密封されている。端部キャップ21のみにピンを圧入固定した場合、環状リブ40によって既に位置決めされているカムリングの穴部にピンを係合するという作業と、端部キャップ21の円筒状ボス22を開口部に密封するという作業を同時に行う必要があり、その組付け作業は著しく困難なものとなる。
したがって、組付けによりカムリングのカム面の中心と、ロータの中心がずれることもなく組付け作業効率も大幅に向上するという本件特許発明の効果を奏することはできない。

(3)請求人の上申書における主張概要
請求人は、平成17年7月6日付け上申書で概ね次のように主張した。
被請求人が「開示しない」と主張している事項は、すべて「ノックピンをリヤカバーにのみ圧入固定」するか否かに帰する事項であり、被請求人主張の相違点2は存在せず、阻害要因はなく、甲第11号証のものが奏する効果以上のものではない。

(4)当審の判断
ア.甲第11号証に記載された発明
前記5-2.(1)f-1.ないしf-6.より、甲第11号証には次の発明が記載されている。
「外部に開口するカムリング収納部が形成された本体20と、
前記カムリング収納部に収容されたほほ板43と、
前記ほほ板43に接するように前記カムリング収納部に収容され、前記カムリング収納部開口側に位置するローター42と、
内周にカム面を有してリング状に形成され、内部に前記ロータ42を回転自在に収納するカム・リング32と、
前記本体20内に回転自在に支持され、回転駆動力が伝達されると共に、前記ロータ42に結合される作動軸27と、
前記作動軸27の突端部を回転自在に支持する針型ローラー・ベアリング31及び前記針型ローラー・ベアリング31の中心から離れた位置において一対のピン穴が形成されると共に前記カムリング収納部開口を封止する円筒状ボス22を有する端部キャップ21と、
前記端部キャップ21に形成された前記ピン穴に挿入され、前記カムリング32を繋留するためのピン70とを備えたベーンポンプにおいて、
前記ピン70を前記端部キャップ21、前記カムリング32、前記ほほ板43に形成された前記ピン穴に係合して前記カムリングを回転方向に位置決めし、
また、前記ほほ板43は、前記本体20内に形成されたカムリング収納部内面に径方向に位置決めされているベーンポンプ。」

イ.対比
本件特許発明と甲第11号証に記載された発明を対比すると、甲第11号証に記載された発明における「本体20」、「ほほ板43」、「作動軸27」、「針型ローラー・ベアリング31」、「ピン穴」、「端部キャップ21」、「ピン70」は、本件特許発明における「ハウジング」、「フロントプレート」、「ドライブシャフト」、「軸受部」、「ノックピン穴」、「リヤカバー」、「ノックピン」に相当するものである。
したがって、両発明は、「外部に開口するカムリング収納部が形成されたハウジングと、前記カムリング収容部に収容されたフロントプレートと、該フロントプレートに接するように前記カムリング収容部に収容され、前記カムリング収容部開口側に位置するロータと、
内周にカム面を有してリング状に形成され、内部に前記ロータを回転自在に収納するカムリングと、前記ハウジング内に回転自在に支持され回転駆動力が伝達されると共に前記ロータに結合されるドライブシャフトと、該ドライブシャフトの突端部を回転自在に支持する軸受部及び該軸受部の中心から離れた位置において少なくとも一対のノックピン穴が形成されると共に前記カムリング収容部開口を封止するリヤカバーと、該リヤカバーに形成されたノックピン穴に挿入され、前記カムリングを繋留するためのノックピンとを備えたベーンポンプにおいて、前記ノックピンを前記カムリングに係合して前記カムリングを回転方向に位置決めし、また、前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされているベーンポンプ。」である点で一致し、次の点において相違する。

a.相違点A
本件特許発明では、「前記カムリング収容部開口を封止するリヤカバー」であり、「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定すると共に前記カムリングに係合部を形成し、該係合部に前記ノックピンの圧入固定部から突出した部分を係合して前記カムリングを回転方向に位置決め固定し」ているのに対して、甲第11号証に記載された発明では、「前記カムリング収納部開口を封止する円筒状ボス22を有する端部キャップ21」であり、「前記ピン70を前記端部キャップ21、前記カムリング32、前記ほほ板43に形成された前記ピン穴に係合して前記カムリングを回転方向に位置決めし」ている点。

ウ.判断
相違点Aについて検討する。
前記5-2.(4)ウ.b.と同様に、本件特許発明の「回転駆動力が伝達されるドライブシャフトが、ハウジング内に回転自在に支持されたベーンポンプにおいて、ドライブシャフトの突端部を回転自在に支持する軸受部が形成されると共に前記カムリング収容部開口を封止するリヤカバーにのみノックピンを圧入固定する」という構成(これは、「構成A」と同様である。)について検討する。
請求人は、前記無効理由3においても、構成Aの「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定する」なる構成は、甲第11号証に記載されていないと認めているように、甲第11号証に記載された発明において、「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定する」なる構成は示されていない。
前記5-2.(1)ア.f-6.なる記載より、甲第11号証に記載された発明において、ピン70は、端部キャップ21、カムリング32、ほほ板43の三者に挿入され「これらエレメントの中心を合わせる」ことを行い、また、これら三者のうちでカムリング32だけを90度位相をずらした後、ピン70は三者に挿入されることがわかる。そして、端部キャップ21、カムリング32、ほほ板43の三者は、環状リブ40、円筒状ボス22、本体20で支持、拘束を受けているなかで、組み付け上の都合を考慮すれば、あえて2本のピン70を端部キャップ21に圧入する必然性は認められない。一方、本件特許発明は、このような支持、拘束を必ずしも必要としない。また、位置決め基準と圧入とは、圧入する場合としない場合の選択肢があるなかで、必ずしも相関性のあるものでもなく、位置決め基準だからといって、圧入するというものでもない。
したがって、甲第11号証に記載された発明において、ピン70を端部キャップ21にのみ圧入固定すること、すなわち、構成Aの「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定する」なる構成が、設計上の常識的な判断、及び当業者が容易になしえたとする根拠は認められない。
さらに、甲第7号証ないし甲第10号証のみならず請求人の提出した何れのものにも、構成Aは示されておらず、また、甲第11号証に記載された発明において、構成Aのようにするという動機付けもない。そして、構成Aにより前記5-2.(4)ウ.e.のような作用効果が生じる。
よって、本件特許発明が、甲第11号証、甲第7号証ないし甲第10号証、甲第17号証ないし甲第21号証に記載された発明または周知技術に基づいて、当業者が容易になしえたものとすることはできない。

5-4.無効理由4
(1)請求人の主張概要
請求人は、審判請求書で、概ね次のア.ないしオ.のように主張した。
ア.本件特許発明の構成要件「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」は、フロントプレートを如何にして径方向に位置決めするのか、その具体的な方法は、本件特許発明に係わる明細書の特許請求の範囲および発明の詳細な説明にも記載されていない。
発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が本件特許発明を実施しようとしても、切欠部36、37および内周面21aが粗く切削されてしまっていては、当業者といえどもフロントプレートを容易に位置決めすることはできない。
よって、本件特許発明に係わる明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易に実施をすることができる程度に発明の目的、構成及び効果を記載したものではないから、昭和62年改正前特許法36条3項に違反する。

イ.本件特許発明の構成要件「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」は、フロントプレートが「カムリング収容部内面に接して径方向に位置決めされている」ことを意味するのか、これに限らず「カムリング収容部内面に対して径方向に位置決めされている」ことを意味するのか、不明瞭である。
したがって、本件特許発明に係わる明細書の特許請求の範囲は、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものということはできないから、同特許法36条4項に違反する。

ウ.本件特許発明の構成要件「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」は、フロントプレートは「カムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」と規定するのみで「カムリング収容部内面によってのみ径方向に位置決めされている」とは明記していない。したがって、「カムリング収容部内面によっても、他の位置決め手段によっても、径方向に位置決めされている」場合をも含むかのような表現となっている。

本件特許発明に係わる出願の出願人は、甲第3号証の4頁7から20行において、甲第6号証のように「スラスト・プレート20、カムリング28及び圧力プレート30は一対のドエルピン36によって軸線方向の整合状態に保持され」ている場合は、本件特許発明の効果を奏しないと主張している。これによれば、本件特許発明発明のフロントプレートが、カムリング収納部内面によっても、更にノックピンによっても、径方向に位置決めされている場合は、本件特許発明の効果を奏しないことになる。
この点に関し、平成17年7月6日付け上申書で、請求人は次のように主張している。
フロントプレートがカムリング収納部内面とノックピンの両方で位置決めされる場合を本件特許発明の技術的範囲に含むとすれば、本件特許発明はその効果、すなわち「カムリングの係合部のみを精密に切削加工すればよく、他に精密加工を行う必要がない」という効果を奏することができない。また、この場合、内周面21aやフロントプレートの切欠部37に十分な隙間をもたせないと、内周面21aによって径方向に位置決めされるフロントプレートやその切欠部の位置が、径方向にずれてしまう。
したがって、フロントプレートが「カムリング収容部内面によってのみ径方向に位置決めされている」ことが、本件特許発明の必須構成要件というべきである。よって、本件特許発明に係わる明細書の特許請求の範囲は、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものということはできないから、同特許法36条4項に違反する。

また、本件特許発明の構成要件「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」は、フロントプレートが「カムリング収容部内面によってのみ径方向に位置決めされている」のか、「カムリング収容部内面によっても、他の位置決め手段によっても、径方向に位置決めされている」場合をも含むのか、不明瞭である。その意味でも本件特許発明の特許請求の範囲は、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものではないから、同特許法36条4項に違反する。

エ.本件特許発明に係わる明細書の特許請求の範囲は、構成要件「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」においてフロントプレートを「径方向」に位置決めすることを規定しているが、フロントプレートを「回転方向」に位置決めすることは特定していない。
また、本件特許発明の出願人は、平成7年12月25日付け審判請求理由補充書(甲第3号証)により、「フロントプレートが、ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされているだけである」(4頁1〜3行)と述べており、フロントプレートを「回転方向」には位置決めしないかの如き主張をしている。
しかし、フロントプレートを「径方向」に位置決めするだけで「回転方向」には位置決めしないものとすれば、カムリングの大円部と小円部からなるカム面26aと、フロントプレートに形成された吸入口26b及び吐出口26cとの位置関係がずれてしまい、ベーンポンプの機能を発揮することができない。
したがって、フロントプレートを「回転方向」に位置決めすることも必須構成要件というべきであり、これを特定しない本件特許発明の特許請求の範囲は、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものではないから、同特許法36条4項に違反する。
また、フロントプレートを「径方向」に位置決めするだけで「回転方向」には位置決めしなくても、ベーンポンプの機能を発揮することができるのであれば、本件特許発明の特許請求の範囲には、フロントプレートを「回転方向」に位置決めしていないベーンポンプも含まれることになる。そのようなベーンポンプは本件特許発明に係る明細書の発明の詳細な説明に記載されていないし、自明のものということもできない。よって本件特許発明の特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に記載した事項を記載したものではないから、同特許法36条4項に違反する。

オ.本件特許発明に係わる明細書の特許請求の範囲は、構成要件「前記ノックピンを前記リヤカバーにのみ圧入固定すると共に前記カムリングに係合部を形成し、該係合部に前記ノックピンの圧入固定部から突出した部分を係合して前記カムリングを回転方向に位置決め固定し」において、カムリングを「回転方向」に位置決め固定することを規定しているが、カムリングを「径方向」に位置決め固定することは特定していない。
しかし、カムリングを「回転方向」に位置決め固定するだけで「径方向」には位置決め固定しないものとすれば、カムリングが径方向にずれてしまい、「カムリングのカム面の中心とロータの中心とを一致させる」という本件特許発明の効果を奏することができないし、ベーンポンプの機能を発揮することもできない。
したがって、カムリングを「径方向」に位置決め固定することも必須構成要件というべきであり、これを特定しない本件特許発明に係わる明細書の特許請求の範囲は、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものではないから、同特許法36条4項に違反する。
また、カムリングを「回転方向」に位置決め固定するだけで「径方向」には位置決め固定しなくても、ベーンポンプの機能を発揮することができるのであれば、本件特許発明に係わる明細書の特許請求の範囲には、カムリングを「径方向」に位置決め固定していないベーンポンプも含まれることになる。そのようなベーンポンプは本件特許発明に係る明細書の発明の詳細な説明に記載されていないし、自明のものということもできない。よって、本件特許発明に係わる明細書の特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に記載した事項を記載したものではないから、同特許法36条4項に違反する。

(2)当審の判断
ア.前記(1)ア.の請求人の主張について
前記5-1.(2)において検討したように、「フロントプレート28は、ハウジング21に形成されたカムリング収納部22内面に径方向に位置決めされている。」なる点は、当初明細書又は当初図面に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められる。請求人も審判請求書11頁15、16行、同26頁12から15行において周知であると認めているように、この点は、甲第3号証の被請求人の主張にかかわらず、技術常識にすぎないものであり、ピン、ハウジング内周面、反作用ピン等により、当業者が容易に実施をすることができる程度のものである。

イ.前記(1)イ.の請求人の主張について
本件特許発明に係わる明細書の特許請求の範囲の「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」なる記載自体に不明瞭な点はない。
フロントプレートが「カムリング収容部内面に接して径方向に位置決めされている」ことを意味するのか、「カムリング収容部内面に対して径方向に位置決めされている」ことを意味するのか不明瞭であるから、発明の構成に欠くことができない事項を記載したものということはできないとする主張は採用できない。

ウ.前記(1)ウ.の請求人の主張について
ノックピンによって径方向に位置決めされている場合やフロントプレートがカムリング収納部内面とノックピンの両方で位置決めされる場合でも、加工の粗密の程度、機能的に必要とされる位置決めの精度を考慮すれば、本件特許発明の効果を奏し、不都合は生じないものであり、請求人の主張は採用できない。したがって、フロントプレートがカムリング収納部内面によってのみ径方向に位置決めされていることが、本件特許発明の必須構成要件とはいえない。
また、「前記フロントプレートは、前記ハウジングに形成されたカムリング収容部内面に径方向に位置決めされている」としか記載されておらず、位置決め手段は特定する必要もないから、フロントプレートがカムリング収納部内面によってのみ径方向に位置決めされているのか、カムリング収納部内面によっても、他の位置決め手段によっても、径方向に位置決めされている場合をも含むのか不明瞭であるという請求人の主張は採用できない。

エ.前記(1)エ.の請求人の主張について
ベーンポンプにおいて、フロントプレートが回転方向に位置決めされることは、甲第6、10、11号証にも記載されているとおり、技術常識であり、技術常識を請求の範囲に特定しなかったからと言って特許法第36条4項に違反するものではない。

オ.前記(1)オ.の請求人の主張について
ベーンポンプにおいて、カムリングが径方向に位置決め固定されることは、甲第6、10、11号証にも記載されているとおり技術常識であり、技術常識を特許請求の範囲に特定しなかったからと言って特許法第36条4項に違反するものではない。

したがって、本件特許発明に係わる出願の明細書に記載された発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載は、それぞれ昭和62年改正前特許法第36条第3項、及び、第4項に規定する要件を満たしている。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-12 
結審通知日 2006-01-17 
審決日 2006-01-31 
出願番号 特願昭61-117066
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F04C)
P 1 113・ 532- Y (F04C)
P 1 113・ 531- Y (F04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 好二柳田 利夫  
特許庁審判長 大橋 康史
特許庁審判官 清田 栄章
飯塚 直樹
登録日 1997-07-11 
登録番号 特許第2670770号(P2670770)
発明の名称 ベ-ンポンプ  
代理人 保坂 延寿  
代理人 井沢 博  
代理人 塩川 修治  

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