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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B01D
管理番号 1135910
審判番号 無効2005-80105  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-04-05 
確定日 2006-05-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第2891953号発明「除湿装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2891953号の請求項5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
出願 平成8年12月27日(特願平8-350902号)
(実願昭63-151375号に基づく変更出願)
審査請求日 平成9年1月21日
手続補正書 平成9年10月6日
手続補正書 平成10年1月14日
特許査定 平成11年2月9日
登録 平成11年2月26日
(特許第3506164号)
特許異議申立 平成11年11月16日及び17日
(平成11年異議74218号)
訂正請求書 平成12年5月23日
異議の決定 平成13年11月30日
無効審判請求日 平成16年4月5日
答弁書 平成17年6月27日
口頭審理陳述要領書 平成18年2月3日
口頭審理調書 平成18年2月3日
上申書(被請求人) 平成18年2月17日
II.本件特許発明
本件特許の請求項5に係る発明は、平成12年5月23日付け訂正請求書により訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項5に記載された次のとおりのものである。
「ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容し、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、前記ハウジングは少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなり、前記ケース内には、前記中空糸膜の束を収容し、前記キャップを単一構造により構成するとともに、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成し、前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された除湿装置。」(以下、「本件特許発明」という。)

III.請求人の主張
これに対して、審判請求人は、
(無効理由1)請求項5が新規に追加された平成9年10月6日付け手続補正書による補正及び請求項5にキャップを単一構造により構成することが追加された平成10年1月14日付け手続補正書による補正は、明細書及び図面の要旨を変更するものであるので、本件特許発明は、その公開公報である甲第1号証及び本件特許の原出願の公告公報である甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法(昭和62年法)第123条第1項第1号により、本件特許を無効とすべきものである。
(無効理由2)平成12年5月23日付け提出の訂正請求書による訂正は、訂正前の請求項5に記載の発明に、新たなパージ通路の概念を持ち込むものであり、訂正前の特許請求の範囲を実質的に拡張し、または変更することに該当し、あるいは、願書に添付した明細書および図面の記載の範囲を超えた訂正に該当するので特許法(平成8年法)第120条の4第2項および第3項の規定に違反してなされたものであるから、同特許法第123条第1項第8号により、本件特許を無効とすべきものである。
(無効理由3)本件特許発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第3号証乃至甲第7号証中の甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明を考慮すると、甲第3号証と甲第6号証及び/又は甲第7号証に記載された発明の組み合わせに基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法(昭和62年法)第123条第1項第1号により、本件特許を無効とすべきものである。
と主張している。
IV.被請求人の主張
一方、被請求人は、請求人による上記無効理由1〜3の主張はいずれも下記の理由により失当であり、受け入れることができないものである旨主張している。
無効理由1について
平成9年10月6日付け手続補正書による補正及び平成10年1月14日付け手続補正書による補正の追加事項1〜9のうち、請求人が具体的に要旨変更であると指摘する追加事項1(ケースと該ケースの端部を閉塞するキャップ),2(ハウジングは少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなり),4(キャップを単一構造により構成する)は、いずれも要旨変更に該当しないから、無効理由1には理由がない。
無効理由2について
平成12年5月23日付け提出の訂正請求書による訂正は、訂正前の請求項5に記載の発明に、新たなパージ通路の概念を持ち込むものでなく、訂正前の特許請求の範囲を実質的に拡張し、または変更するものでなく、願書に添付した明細書および図面の記載の範囲内においてなされたものであるから、無効理由2には理由がない。
無効理由3について
甲第3号証に記載された発明は、本件特許発明との対比から、第1相違点として、「パージエア分岐部位を含むパージエア取入れ領域がキャップ内に形成されている点」、第2相違点として「パージエア取入領域から低圧領域へ送るためのパージ通路全体がハウジング内に組み込み形成されている点」が存在すること、甲第3号証では、製品の一部分を生成物排出管20から取出し、還流ライン22を通して、チューブと外壁の空間60に供給することが開示されているが、生成物排出管及び還流ラインを装置の外部に設けうるものであって、これら通路全体をハウジング内組み込むことが示されてはいない。また、同号証においては機構の簡素化コンパクト化に配慮するものではないので、第1相違点及び第2相違点を導き出すことはできない。
甲第4号証及び甲第5号証においても上記相違点は少なくとも存在し、この点につき請求人との間で争いはない。
甲第6号証には、確かにハウジング内に通路が形成されているが、この混合ガス分離装置のパージガス通路27を流れるガスは、第2図及び第3図で示されるとおりガス導入部21に近接する区域から取出されることから、実質上除湿前のものを用いていることになり、本件特許発明のように高圧領域を通過した除湿直後のエアを利用するものではない。
そうすると、甲第6号証に記載された発明では、混合ガス分離装置全体をコンパクト化することを意図するものであるとしても、掃引空気として除湿エアを用いる場合において、パージ通路の配置機構の簡素化・コンパクト化等を図るための手段についてまでも教示するものではなく、中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアの一部を低圧領域内に送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成することは導き出せない。
また、甲第3号証に記載の発明は、装置中に供給流体とパージ流体(還流流体)が向流方向に流され、パージ流体は除湿されたものであるのに対して甲第6号証に記載の発明は、前処理混合ガスとパージガスが略同一方向に流され、パージガスは実質上除湿されておらず、ガス流路又は通路の設計環境が基本的に異なるものであり、また、両発明を組み合わせる動機付けもなく、本件特許発明の上記構成を導き出すことは容易になし得ることではない。甲第4号証及び甲第5号証を考慮しても同様の結果である。
甲第7号証に記載された乾燥塔15は図1及び図3から乾燥剤21を内蔵する円筒壁16と、円筒壁16の下端側を閉塞する底部材18と、円筒壁16の上端を閉塞する頭部部材17とを有しているが、甲第7号証では、単に乾燥剤21の隙間をエアが流通しているだけであり、中空糸膜のように内外で圧力差をもたせることのできるものとは異質のものである。そのため甲第7号証では、逆止弁24を設け、タンク28から還流される乾燥エアを、通路25を介して室9を経て乾燥剤21へ供給している。したがって、甲第7号証のパージ通路には、管路27,23などの外部配管も含まれ、甲第7号証の乾燥塔15では、中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアの一部を低圧領域内へ送るためのパージ通路全体がハウジング内に組み込み形成するものとはいえず、そのような構成も導き出せない。
また、甲第3号証に記載の発明は、中空糸を利用したものであるのに対して、甲第7号証に記載の発明は、乾燥剤を使用したものであり、その使用形態、特にパージエアの取り扱いが全く異なるもので、パージ通路の設計環境が基本的に異なる。また、その両発明を組み合わせる動機付けもなく、本件特許発明の上記構成を導き出すことは容易になし得ることではない。
なお、甲第6号証に記載の発明、さらには甲第4号証及び甲第5号証の発明を含め合わせても、本件特許発明の上記構成を当業者が容易に導き出すことができたという根拠は一切見出し得ない。
以上のとおり、本件特許発明は、甲第3号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求人が主張する無効理由3には理由がない。
V.甲第3乃至7号証の記載事項について
V-1.甲第3号証(米国特許第3735558号明細書:異議決定における引用例2)には、
V-1-1.「本発明の連続処理方法は、特に空気の乾燥に用いられ、これに関連して、好適には、断面方向に比べて長手方向に長い、水蒸気に対して浸透性のある1つ以上の中空半浸透膜に圧縮された供給湿潤空気を通過させ、水蒸気を除去するために、中空糸膜体の半浸透性の膜壁により上記湿潤空気から分離された、上記の供給に対して向流または逆流する、製品の一部および/または、供給湿潤空気より湿度の低い空気などの分離された供給ガスパージ流体を有する、実際の供給湿潤空気の流量と少なくとも実質的に同じ流量の第2のガス流体あるいはパージガスを上記の供給流体よりも低い圧力下で通過させ、それにより、中空糸膜の膜壁に沿って圧力勾配および水蒸気濃度勾配を生成し、中空糸膜の膜壁を介して供給湿潤空気から第2のガス流体またはパージ流体への水蒸気の浸透を誘導促進し、供給湿潤空気より水蒸気が実質的に少ない実質的な乾燥空気の製品として収集する。」(第5欄第6乃至26行)、
V-1-2.「本発明の好ましい態様が第1図、第2図に示される。ここで番号10は多数本の中空浸透糸膜(以下、中空糸膜という)の束であり、供給側の端部Aと製品側の端部Bで外管又は外殻部12に密着結合されている。中空糸膜の束の両端はヘッダ部14及び16のような支持部材でそれぞれ保持されている。この装置は、混合供給流体、製品流体、及び還流流体またはパージ流体のための導管18,20,21,22を設けられている。番号18は混合供給流体の導入管であり、供給側の端部A近傍で中空糸膜10の中空部分あるいは流路に通じている。還流流体またはパージ流体の導入口22は、中空糸膜10と外殻部12との間の領域60に通じており、装置の製品側の端部Bの近傍に位置する。還流流体またはパージ流体の排出口24は、中空今句10と外殻部12との間の領域60に通じており、装置の製品側の端部Aの近傍に位置する。装置の端部は通常の手順により、封止部材26,28及び製品側の端部Bに、それぞれプレナム又は領域34,36を備える。領域34は導入口18からの混合供給流体を各中空糸膜10から製品を集める役目をする。
第1図の装置の製品側の端部Bの詳細を第3図に示す。第3図に示すとおり、製品の排出口20は製品回収管38及び還流流体導入管39、導管22に通じている。弁又はオリフィス40が製品回収路38に設けられ、システムからの製品の取り出し量を制御する。弁又はオリフィス42が還流流体の導入管39,22に設けられ、製品排出口20からの製品を定量通過させると共に膨張させ、中空糸膜10より低いパージ圧力に調整する。還流流体の導管22は、還流流体導管22への外部パージ流体の流量を調整する減圧調整器と流量調整手段の機能を併せ持つ制御弁46を有するパージ流体導入管44,45にも通じている。」(第6欄第41行乃至第7欄第第17行)、
V-1-3.「図1,2及び3の装置を用いる本発明のプロセスを実施する際、排出流20において製品の一部は分流し、制御弁42を通して所定の圧力まで減圧されて、還流流体の導管22を経て中空糸膜と外殻部12との間の領域60へ供給される。その還流流体は、より低い全圧の下で全ての製品成分を含有することになり、そのため還流流体の各成分は、高圧相または製品相よりも低い分圧となる。したがって、各成分の圧力勾配及び濃度勾配は中空糸膜10の膜壁越し又は膜壁に沿って存在し、それらは、所定あるいは重要な成分を通過させる推進力となる。中空糸膜10が、水、二酸化炭素、四塩化炭素あるいはアセチレンのような特定の成分について高透過性を持つ材料で作られているなら、これらの成分は、供給流体中の他の成分よりもはるかに高い割合で中空糸膜の膜壁を透過する。このため、製品側の端部の高圧相は少しずつ希薄となり、還流流体は、外殻領域60を中空糸膜の束の供給側端部に向かって向流するにつれ、高濃度化が増す。徐々に、流れ(横)方向の成分の勾配が中空糸膜の束に沿って生じる。半透過性中空糸膜の材質、混合供給流体、およびそこから分離される重要な成分の特性により、数日から数週間という期間に及ぶ暗転した状態が得られる。その結果、排出される製品は、高い透過性の成分濃度が低く、排出される還流流体は、高い透過性の成分濃度が高くなる。」(第7欄第18乃至52行)
V-1-4.「上記のプロセスまたは装置において、供給流体は外殻部と中空糸との間の領域に導入されて、外殻部内を流れ、還流流体またはパージ流体は中空糸膜の束を介して向流するよう導入されることが分かる。しかし実際上は、混合供給流体である高圧相を、大きな外殻部ではなく、小さな中空部材または中空糸膜に供給するほうが、外殻部を高圧に耐えられるよう設計する必要がない点で好ましい。」(第11欄第6乃至16行)
V-1-5.「本発明の装置は、用途に応じて都合のよい形状あるいは構成を採用することができる。外殻部と中空糸膜熱交換器の形状と同様な、長い中空糸膜が長い外殻部に密着して納められた形状を採用してもよい。中空糸膜と外殻部は、狭い空間内に収容するためにコイル状または積み重ねた構成にしてもよい。さらに、装置又はシステムの全体あるいはその部品に、機械的保護のための保護ケース又は外殻を用いてもよい。」(第11欄第44乃至53行)、
V-1-6.「本発明に従い空気の除湿を行う場合には、圧縮空気は貯蔵タンク27から導管76、圧力調整器78、導管80、水飽和器82、導管84を通ってノックアウトタンク86に流れ、、そのあと導管88を通って本発明の浸透分離器90に流れる。製品流体は、導管92、93を通り、また弁94を通ってドライエア利用手段95に流れる。分離器90から排出される製品の一部は、弁94により所望の外部への製品流を調整し、排出管92から導管97と所望のパージ流に調整された弁96とに流し、導管97及び100を通って浸透分離器に流すことによって分岐させる。分岐された流体は、外殻部と中空糸膜との間の領域を向流的に通過し、最後に、導管102を通って供給側の端部から大気中に放出され、番号104で一般的に示す流量及び露点を測定される。還流パージの代わりに、外部パージタンク106からの外部パージを導管108、流体制御弁110、導管100を通って分離器90に流し、混合供給流体中の浸透性分を排出することもできる。」(第13欄第65行乃至第14欄第20行)、
V-2. 甲第4号証(特開昭53-97246号公報:異議決定における引用例1)には、「図1〜5は本発明の空気除湿装置の構造の好ましい態様を示す一例である。
図1は、空気除湿装置の縦断面図であり、数字1は減湿すべき空気(A)の入口孔、2及び3は処理された空気(A)中の湿分を系外に放出するための孔(掃引空気を使用する場合は、2又は3のいずれかが掃引空気の入口孔で、他方が出口孔で、また、場合によっては一方の孔径のサイズを調節して減圧できる。)、4は除湿処理された空気(B)の出口孔5は掃引空気を帰一に分布できる中空棒にあけられた空気噴出孔(本発明にいては必須ではない)、6は中空繊維の多数本よりなる膜束、7は容器、8は隔板(各中空繊維膜又は平面膜を、その両端部それぞれの附近で固定保持し孔2,3と孔1,4とを膜を介して連なり、直接には空間的に連ならないようにするための封止体)膜の端口は隔板は孔1及び孔4に向かって開口し、端口は隔板中埋もれていない。
図2は図1において容器7を除いた内容物を示し、数字9は中空繊維膜束(円柱状に書かれている)、9は隔板を示す。
図3は空気除湿装置の縦断面図であり、数字1は空気(A)の入口孔、2は空気(B)の出口孔、3及び4は図1における2と3に対応する孔(掃引空気用の孔)、3
5は隔板、6は膜(繊維状膜又は平面膜)、7は容器、8は掃引空気の通路の好ましい方向(空気(A)の流れとは対向方向)を示す。
図4は空気除湿装置の縦断面図であり数字1〜5は図3における1〜5とそれぞれ同様であり、6は膜(チュブラータイプの膜)、7は容器を示す。
図5は空気除湿装置の縦断面図であり、数字1〜5は図3における1〜5と同様であり、4は膜を、7は容器を示す。」(第4頁右上欄第16行乃至同右下欄第12行)が記載され、この記載から、空気除湿装置の分野において、中空繊維膜6の内側を高圧領域とし、中空繊維膜6の外側を低圧領域とする場合で、パージのための掃引空気の出入口孔を互いに逆に設けて掃引空気を中空繊維内の減湿すべき空気流の順方向と対向方向を任意に選択しうることが記載されている。
V-3. 甲第5号証(特開昭62-42723号公報(本件当初明細書において開示された先行技術))には、ガス分離装置1は、甲第3号証および甲第4号証とは逆に、ガス分離膜2の外側を原料ガスが供給される高圧領域とし、その内側を水蒸気などの透過ガスが流通する低圧領域とするものであるが、水蒸気の除去された非透過ガスの一部を分離ラインを経て、乾燥ガス供給ラインに流通し、乾燥ガスとしてガス分離膜の透過ガス側に供給してもよいことが記載されている。(図2および同第6頁右上欄第8乃至11行目参照)
V-4. 甲第6号証(特開昭63-258620号公報:異議決定における引用例3)には、
V-4-1.「本発明は、混合ガスを、前処理した後分離膜により分離する混合ガス分離装置・・・水蒸気を選択的に除去して該混合ガスを乾燥する除湿機として利用されるもので、配管の一部に組み込むことも可能なコンパクト構造としたものである。」(第1頁右下欄第10行乃至第2頁左上欄第3行)、
V-4-2.「(c)ガス分離膜の透過側に大量のパージガスを供給して透過した水蒸気の分圧を低下させて、混合ガスを除湿する方法(特開昭50-2674号公報参照)」。
(d)特定の水蒸気選択透過性を有する芳香族ポリイミド製のガス分離膜を使用し、且つ該ガス分離膜の透過側に乾燥ガスを流通させて、混合ガスを除湿する方法(特開昭62-42723号公報参照)。」(第2頁右上欄第14行乃至同左下欄2行)、
V-4-3.「更に、上記の公知の方法の実施に用いられる装置は、何れも、コンパクト化についての考慮はなされていないため、それらの設置箇所にかなり制限を受け、また、操作に労力を要するものが多い。
従って、本発明の目的は、混合ガスを効率よく分離でき、且つ設置場所に制限されず使い易いコンパクトな混合ガス分離装置を提供することにある。
(問題を解決するための手段)
本発明者らは、種々検討した結果、分離膜を具備した分離膜装置と、熱交換器を具備した混合ガス前処理装置とをフランジ部を介して筒状に一体的に結合した装置が前記目的を達成できることを知見した。」(第2頁左下欄第18行乃至同右下11行)
V-4-4. 「分離装置20について説明すると、21は前処理混合ガス導入部、22は非透過ガス導出部、23は透湿ガス導出部、24は分離膜で、分離膜装置20は図示の実施例の場合、塔状体20’の内部に分離膜24として中空糸を塔状体20’の軸方向に多数密に配設してあり、該中空糸24は、それらの両端部を管板29、30によって固定されており、それらの内部は空隙部31を介して透過ガス導出部23に連通しており、該中空糸24を透過した透過ガスを透過ガス導出部23から導出させるようになしてある。また、前処理混合ガス導入部21は前記混合ガス導出部12に対向して設けてあり、上記各中空糸24の間隙に連通させ、前処理された混合ガスを該間隙に第2図上矢標の如く送出させるようになしてある。
また、分離膜装置20は、上記前処理混合ガス導入部21から中空糸24の上記間隙に送出され中空糸24を透湿しなかった非透過ガスを、筒状体20’の内周壁に沿って形成されている流路32を経て非透過ガス導出部22から導出させるようになしてある。
また、中空糸24内に透過した透過ガスのパージを円滑に行うために、第3図に示す如く、筒状体20’の周壁部28の一部にパージガス通路27を、前処理混合ガス導入部21側の管板29の外側に形成した空隙33と前記流路32とを連通させて設け、非透過ガスの一部をパージガス用弁26で流量を調整して上記空隙33に送り、中空糸24内を通過させるようになしてある。尚、第2図及び第3図に示す実施例においては、周壁部28が筒状体20’と別体に構成してあるが、この周壁部28は筒状体20’の一部であっても良い。」(第3頁右上欄第18行乃至右下欄第10行)、
V-4-5.「本発明混合ガス分離装置は、分離膜を備えた装置と、熱交換器を具備した混合ガス前処理装置とをフランジ部を介して筒状に一体的に結合したコンパクトなものであるため、混合ガスを効率良く分離でき、また設置個所に制限されず且つ使い易い。また、本発明の混合ガス分離装置は、コンパクトな筒状形であるため、配管の一部に容易に組み込むことも可能である。」(第4頁右上欄第2乃至9行)
V-5. 甲第7号証(特公昭43-12880号公報:異議決定における引用例4)には、
V-5-1.「第3図を参照すれば、容器即ち乾燥塔15は円筒壁16、頭部部材17及び底部材18を有し、之等は組立てられて内部に室9を有している。・・・室9の中には目的に適った乾燥剤か、網目か又は任意の水分除去材料で構成され得る水分除去濾過器が配置されている。この濾過器に非常に良く適することが判明している材料の組合せは、入口13に隣接してひどい水分即ち水滴を非常に良く除去するステンレス鋼金網及びそれに続いて蒸気状体の水分を抽出するシリカゲルの如き乾燥剤21である。・・・第3図を参照すれば、放下弁33が室9の入口側から大気の如き低圧帯域への通路を制御するのは明らかである。此の通路は図示の如く、底部材18の内部に放下弁33に依つて遮断される通路44及び42を有し、該弁は通路44と42との間の連通を常時閉じるようにばね圧で荷重されている・・・室9の圧搾空気出口側にあるパージ装置の入口端に、本発明では通路25が頭部部材17に、又管路27を介して貯蔵タンク28を室9の圧搾空気出口側へ連通し且出口23を側路する弁24が設けられている。空気調整部材26は此の通路25の中に配置されて、此の通路25を通つて流さしめられるパージ空気の量を制御し、此の量は部材26にある制限開口26aの大きさに依つて制限される。・・・操作中、室9のパージは次の通りにして起こるのである。貯蔵タンク28が調整器30を作動せしめるように所定程度まで圧搾空気で充填されれば何時でも調整器30は圧縮機10を附加圧搾空気を供給しないように停止する機構を作動せしめ且同時に室9を大気へ通気する弁33を開く。此の事が起きる時には室9の中の高圧空気は非常に迅速に即ち爆発的に大気へ脱出して自らと共に該室内の重い水分蓄積を搬出する。同時に或る程度の乾燥圧搾空気はタンク28から逆転して管路27、通路25を通つて室9へ逆流し始めて勿論制流開口26aに依つて調整される。此の乾燥圧縮空気は制流開口26aを通つて調整されるに従つて急速に膨脹し、又無熱再生の原理に拠つてその相対湿度さえも低下するから室9の中の乾燥剤及び次いで放下弁33を通つて大気へ流れる際にそれより以前に室9の中の乾燥剤に依つて吸着された水分を容易に拾上げ即ち吸着して自らと共に搬出する。」(第3頁左欄第41行乃至同5頁右欄第16行)、
V-5-2.第3図から、通路25等を設けた頭部部材17が同一ハッチングにより示され、単一構造であることが認められる。(第3図)
VI.当審の判断
無効理由3について
甲第6号証の記載事項V-4-1.には、「除湿機として利用されるもので、配管の一部に組み込むことも可能なコンパクト構造としたものである。」とし、具体的な手段としては、記載事項V-4-4.にあるように「中空糸24内に透過した透過ガスのパージを円滑に行うために、筒状体20’の周壁部28の一部にパージガス通路27を、前処理混合ガス導入部21側の管板29の外側に形成した空隙33と前記流路32とを連通させて設け、非透過ガスの一部をパージガス用弁26で流量を調整して上記空隙33に送り、中空糸24内を通過させるようになしてある。実施例においては、周壁部28が筒状体20’と別体に構成してあるが、この周壁部28は筒状体20’の一部であっても良い。」と記載されている。
甲第6号証の記載事項を本件特許発明に則して整理すると、「分離膜装置20の筒状体20’の内部に分離膜として軸方向に芳香族ポリイミド製中空糸を多数密に配設し、中空糸の内部は透過ガス導出部23に連通し、中空糸の間隙に混合ガスを導入部から送出させるようにし中空糸を透過しなかった非透過ガスを筒状体の内周壁に沿って形成されている流路32を経て非透過ガス導出部から導出させるようにし、中空糸内に透過した透過ガスのパージを円滑に行うために筒状体の周壁の一部にパージガス通路27を空隙33と流路32を連通させて設け、非透過ガスの一部を空隙33に送るようにした除湿機。」という発明が記載されているといえる(以下、「引用発明」という。)。
本件特許発明と引用発明を対比すると、引用発明の「筒状体20’」、「中空糸24」、「流路32」及び「除湿機」が本件発明の「ケース」、「中空糸膜」、「取出通路」及び「除湿装置」に相当し、パージガス通路を設けた周壁28とフランジ25によって筒状体20’は一体的に結合されているから、該周壁と該フランジが本件特許発明におけるキャップに相当するものと認められ、本件特許発明の「ハウジング」は、キャップとケースを備えればよいから、引用発明の分離膜装置も当然、前記筒状体、周壁及びフランジ等からハウジングの構成を有するものと認められる。また、中空糸を透過するためには、非透過の側が高圧であり、透過した側が低圧でパージガス通路となることは明らかである。したがって、両発明は、「ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容し、中空糸膜の一方の側を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の他方の側をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、前記ハウジングは少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなり、前記ケース内には、前記中空糸膜の束を収容し、そのキャップ内には、圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、パージエア分岐部位を含み、高圧領域の非透過圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成し、圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された除湿装置」の点で一致し、両発明は以下の点で相違するものと認められる。
相違点(1):本件特許発明では、引用発明とは逆に中空糸の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とし、中空糸外部をパージエアが流通する低圧領域とする点。
相違点(2):本件発明では、取出通路は高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路であり、その途中で分岐されたパージガスは除湿直後の圧縮エアであるのに対して、引用発明では、取出通路は筒状体の内周壁に沿って形成され、除湿の程度の様々なガスが流れており、パージエア分岐部位は取出通路の下部から分岐されているから、実質上除湿前のエアをパージガスに用いる点。
相違点(3):本件特許発明では、キャップを単一構造により構成するのに対して、引用発明では、周壁とフランジが別体である点。
これら相違点について検討する。
相違点(1)については、本件の平成12年5月23日付け訂正請求書による訂正前の特許明細書における請求項5では、「ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容し、中空糸膜の内外一方を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の内外他方をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、前記ハウジングは少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなり、前記ケース内には、前記中空糸膜の束を収容し、前記キャップを単一構造により構成するとともに、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成した除湿装置。」とされ、中空糸のどちらに高圧領域を設定するか、は特定されていなかったのであり、さらに、甲第3号証の記載事項V-1-4.には、ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容した除湿装置において混合供給流体である高圧相を中空糸膜に供給するほうが好ましいことが記載されるように、どちらを高圧相とするかは当業者であれば適宜選択しうる程度の設計事項にすぎないものである。
相違点(2)については、甲第3号証や甲第5号証には、パージエアとして除湿したエアを用いることが記載されており、引用発明において、除湿下エアを用いることを妨げる要因はない。
甲第3号証には、中空糸膜を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路の途中で分岐し、その一部をパージエアとして中空糸膜の外側領域へ供給することが記載されているから、引用発明において中空糸膜中を圧縮エアを通過させる構成としたときに、甲第3号証の除湿直後の圧縮エアを使用する技術を適用することは当業者であれば容易に想到しうるものである。そして、その際、パージ通路全体をハウジング内とする構成を変更する必要性はなく、当業者であれば係る構成を採用することは適宜になし得ることである。
さらに、相違点(3)についても、甲第3号証の記載事項V-1-6.には、中空糸膜による除湿方法においてもパージタンクを採用することが記載され、除湿原理が異なるものの甲第3号証と同様にタンクからの圧搾空気のパージを用い、単一構造による頭部部材を採用し、頭部部材内に通路や弁を設けてパージ空気の流量を制御する発明が甲第7号証に記載され、甲第6号証において別体で構成された周壁を筒状体の一部としても良いことが記載されているので、引用発明において、さらに、構成をコンパクトにするという示唆から、甲第7号証の頭部部材の単一構造を採用し、周壁とフランジの組み合わせで単一構造とすることは、当業者であれば容易に採用し得る設計事項にすぎないものである。
そして、本件特許発明が奏するパージ通路用配管を除湿装置外部に設ける必要がなくなり、機構の簡素化及びコンパクト化が著しくなり、外部配管における設置スペースの問題も解消するという効果も、上記相違点(2)についての検討で述べたとおり、甲第6号証に甲第5号証を引用する形で教示されている「乾燥ガス分岐ラインのコンパクト化」の効果と同様であるから、格別のものとすることができない。
なお、被請求人から提出された平成18年2月17日付け上申書を考慮しても、上記判断を変更することはできない。
VII.むすび
従って、引用発明において相違する掃引空気として除湿エアを用いる構成を甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づき採用し、甲第7号証に記載されるようにキャップを単一構造により構成し、本件特許発明とすることは当業者であれば容易であり、本件特許発明は甲第3乃至7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-10 
結審通知日 2006-03-15 
審決日 2006-03-29 
出願番号 特願平8-350902
審決分類 P 1 123・ 121- Z (B01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 敬子村守 宏文中野 孝一  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 野田 直人
松本 貢
登録日 1999-02-26 
登録番号 特許第2891953号(P2891953)
発明の名称 除湿装置  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 山田 強  
代理人 山田 強  
代理人 星野 雅秀  
代理人 三和 晴子  

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