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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1137145
審判番号 不服2004-21848  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-03-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-21 
確定日 2006-05-25 
事件の表示 特願2003-315633「カラー画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月18日出願公開、特開2004- 82736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成7年3月31日に出願された特願平7-97626号の一部を特許法44条1項の規定により新たな特許出願とした特願2001-159504号の一部をさらに特許法44条1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成16年9月14日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月21日付けで本件審判請求がされるとともに、同年11月22日付けで特許請求の範囲及び明細書についての手続補正(特許法17条の2第1項4号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年11月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項
本件補正は、補正前請求項3を削除する(これに伴い、補正前請求項4の項番が繰り上がり、同項が引用する請求項が「請求項1ないし3のいずれか」から「請求項1または2」と補正されることを含む。この補正事項は請求項削除を目的としたものであり何の問題もない。)とともに、補正前請求項1記載の「前記Niの少なくとも1つは2以上の光を所定の方向に偏向するただ1つの偏向手段」を「前記Niの黒画像は他の色の画像より高解像度で2以上の光を所定の方向に偏向するただ1つの偏向手段」と補正する(以下「本件補正事項」という。)ものである。

2.補正目的違反
本件補正事項が「請求項の削除」(特許法17条の2第4項1号)、「誤記の訂正」(同項3号)又は「明りようでない記載の釈明」(同項4号)のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。
本件補正事項は形式的には、請求項1に係る発明を減縮するものである。しかし、特許法17条の2第4項2号は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を無条件に認めているのではなく、「補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。」との条件を付している。
本件補正前の請求項1の記載は「ΣNi(N1+N2+・・・+NM)本で、Mは2以上の整数、Niは1以上の整数である光源と、回転可能に形成された反射面を有し前記Niの少なくとも1つは2以上の光を所定の方向に偏向するただ1つの偏向手段と前記光源と前記偏向手段の光路間に配置された、前記光源からのそれぞれNi本の光を偏向手段による走査方向と垂直な方向に収束させるM群に対してそれぞれ1つのレンズとを含む第1の光学手段と、前記偏向手段により偏向されたΣNi本の光を所定像面に等速で走査するように結像する第2の光学手段と、前記第2の光学手段と前記所定像面の間に配置され、M群の光を分離し、異なる場所に導く分離手段と、を含む光走査装置と、
前記光走査装置により提供されるM群の画像光に対応する画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部により形成されたM群の画像を被転写媒体に転写する転写手段と、
前記被転写媒体に転写された画像を前記被転写媒体に定着する定着手段と、を有することを特徴とするカラー画像形成装置。」というものであり、ここには解像度に関する課題と関連する構成は一切見あたらない。
そして、本件補正事項は、本件補正前請求項1発明の課題に加えて、「カラー画像形成装置」における黒画像とそれ以外の色画像の解像度に関する課題(段落【0218】の「カラー画像に対応するレーザビームに適した光学装置は、黒画像に対応するレーザビームに適した光学装置に比較して解像度が要求されないことから、黒画像に対応するレーザビームに適した光学装置を利用することは、コストを増大させることになる。」との記載からみて、コストを増大させることなく黒画像の解像度だけを向上させるとの課題)を追加するものであるから、補正前後の請求項1に係る発明の「解決しようとする課題が同一」であると認めることはできない。
したがって、本件補正事項は特許法17条の2第4項2号にいう「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものと認めることもできないから、本件補正事項を含む本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。

3.新規事項追加
本件補正事項によれば、「偏向手段」に「前記Niの黒画像は他の色の画像より高解像度」とする機能が備わっていることになる。
しかし、そのようなことは願書に最初に添付した明細書又は図面には一切記載されていないし、自明な事項でもない。
したがって、本件補正事項を含む本件補正は平成6年改正前特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項の規定に違反している。

4.独立特許要件欠如その1
本件補正が限定的減縮を目的とするものと認めることはできないが、仮にそうであるとした場合の判断を以下において行う。
本件補正事項によれば、「偏向手段」に「前記Niの黒画像は他の色の画像より高解像度」とする機能が備わっていることになるが、どのようにすれば同機能を偏向手段が備えることになるか皆目検討がつかない。そのことは明細書を精査しても同じである。
したがって、明細書の記載は「発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」といえないから、平成6年改正前特許法36条4項に規定する要件を満たさない。
本件補正事項が誤記であるとすると、重大な誤記であり、特許請求の範囲の記載は平成6年改正前特許法36条5項2号に規定する要件を満たさない。
すなわち、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は特許出願の際独立して独立して特許を受けることができない(請求項1を引用する請求項2,3に係る発明も同様である。)。

5.独立特許要件欠如その2
(1)補正発明の認定
本件補正後の請求項1の記載は次のとおりである。
「ΣNi(N1+N2+・・・+NM)本で、Mは2以上の整数、Niは1以上の整数である光源と、回転可能に形成された反射面を有し、2以上の光を所定の方向に偏向するただ1つの偏向手段と前記光源と前記偏向手段の光路間に配置された、前記光源からのそれぞれNi本の光を偏向手段による走査方向と垂直な方向に収束させるM群に対してそれぞれ1つのレンズとを含む第1の光学手段と、前記偏向手段により偏向されたΣNi本の光を所定像面に等速で走査するように結像する第2の光学手段と、前記第2の光学手段と前記所定像面の間に配置され、M群の光を分離し、異なる場所に導く分離手段と、を含む光走査装置と、
前記光走査装置により提供されるM群の画像光に対応する画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部により形成されたM群の画像を被転写媒体に転写する転写手段と、
前記被転写媒体に転写された画像を前記被転写媒体に定着する定着手段と、
を有することを特徴とするカラー画像形成装置。」
ここで、「ΣNi(N1+N2+・・・+NM)」との記載について、数学上の約束事に従えば、総和される対象がNiと(N1+N2+・・・+NM)の積であることになるが、それはあまりにも不自然であるから、(N1+N2+・・・+NM)はΣNiの説明記載、すなわちiが1からMまでであることを述べたものと解する。また、本件補正事項には上記のとおりの記載不備があるから、「黒画像に割り当てられるNiが2以上」であり、偏向手段ではなくカラー画像形成装置全体として、「黒画像は他の色の画像より高解像度」となるように構成されているとの趣旨に解する。
そうすると、本件発明を次のように認定することができる。
「ΣNi(i=1〜M)本で、Mは2以上の整数、黒画像に割り当てられるNiは2以上でその他のNiは1以上の整数である光源と、回転可能に形成された反射面を有し2以上の光を所定の方向に偏向するただ1つの偏向手段と前記光源と前記偏向手段の光路間に配置された、前記光源からのそれぞれNi本の光を偏向手段による走査方向と垂直な方向に収束させるM群に対してそれぞれ1つのレンズとを含む第1の光学手段と、前記偏向手段により偏向されたΣNi本の光を所定像面に等速で走査するように結像する第2の光学手段と、前記第2の光学手段と前記所定像面の間に配置され、M群の光を分離し、異なる場所に導く分離手段と、を含む光走査装置と、
前記光走査装置により提供されるM群の画像光に対応する画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部により形成されたM群の画像を被転写媒体に転写する転写手段と、
前記被転写媒体に転写された画像を前記被転写媒体に定着する定着手段と、
を有し、黒画像は他の色の画像より高解像度となるように構成されていることを特徴とするカラー画像形成装置。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-96780号公報(以下「引用例1」という。)には、次のア及びイの記載が図示とともにある。
ア.「本発明は、例えばレーザービームプリンタ、レーザービーム複写機等に代表されるように電子写真方式を利用して像担持体上を露光して画像を形成する画像形成装置に関するもので、特に、前記露光をおこなう走査光束を複数設けて、多重多色又はカラー画像を形成する装置に関するものである。」(1頁右下欄7〜13行)
イ.「第5図ないし第10図は本発明の第2実施例を示す。第5図は装置全体の概略図、第6図は第5図の光路展開説明図、第7図は第6図の側面図、第8図は第5図のレーザー光源を示す部分図、第9図及び第10図は第5図の部分拡大斜視図である。本装置において、レーザ発振器170,171,172,173から放射された複数のレーザー光束は、それぞれシリンドリカルレンズ15a,15b,15c,15d及びミラー151,152,153により、回転多面鏡102とモータ101より構成される光偏光器(審決注;「光偏向器」の誤記と認める。以下では、誤記訂正の上引用する。)の反射面上に副走査方向に集光され、この光偏向器により偏向され、副走査方向に屈折力をもたない走査方向のみfθ特性をもつレンズ103,104を通り、折り返しミラー110,111,112,113,120,121,122,123,130,131,132,133又は161,162,163により光路を折り曲げられ、感光ドラム1(Bk,Y,M,C)面上に集光し光走査される。ここで光偏向器の前(審決注;「光偏向器の後」の誤記と解する。)に設けられるアナモフィックレンズ140,141,142,143は光偏向器、回転多面鏡の反射面と各感光ドラム1(Bk,Y,M,C)面上に共役点をもつように設定してあるため、回転多面鏡の反射面が倒れてもレーザービームが感光体面上に集光する副走査方向の位置を変動させないことが可能であり、副走査方向の走査ムラを解消している。光走査系は、以上説明した構成により、感光ドラム1(Bk,Y,M,C)に潜像形成する。この潜像は各被照射体上で各々Bk,Y,M,C色の現像器により現像され、転写材に次々に多重転写され、マルチカラー又はフルカラー画像を出力する。」(4頁左下欄2行〜右下欄14行)

(3)引用例1記載の発明の認定
引用例1の第5図及び第7図においては、回転多面鏡から各感光ドラムまでの距離が概略等しいように図示されており、同じく第8図においては、各レーザ発振器から回転多面鏡までの距離が概略等しいように図示されている。
レーザー光束は、走査方向については走査方向のみfθ特性をもつレンズ103,104(4個のレーザー光束に共通のレンズ)により感光ドラムに結像し、副走査方向についてはシリンドリカルレンズ15a,15b,15c,15dにより回転多面鏡面に集光した後、アナモフィックレンズ140,141,142,143により感光ドラムに結像している。このことからも、各レーザ発振器から回転多面鏡までの距離及び回転多面鏡から各感光ドラムまでの距離は等しいと理解しなければならない。
引用例1の記載イの「折り返しミラー110,111,112」は、4個のレーザー光束の1つだけを反射し、他を反射しないことにより4個のレーザー光束を分離するものである。
したがって、記載ア,イを含む引用例1の全記載及び図示(特に、第5図〜第10図及びその関連記載)によれば、引用例1には次の発明が記載されていると認めることができる。
「4個のレーザ発振器、1つの回転多面鏡及び4個の感光ドラムを用いたカラー画像形成装置であって、
各レーザ発振器から回転多面鏡までの距離及び回転多面鏡から各感光ドラムまでの距離が等しいように設定されており、
各レーザ発振器と回転多面鏡間には、回転多面鏡面に副走査方向に集光させるためのシリンドリカルレンズが設けられており、
回転多面鏡と各感光ドラム間には、4個のレーザ発振器の4個のレーザー光束を共通に各感光ドラム面に走査方向に結像するためのfθ特性をもつレンズが設けられるとともに、
fθ特性をもつレンズと各感光ドラム間には、4個のレーザー光束の1つだけを反射し、他を反射しないことにより4個のレーザー光束を分離するミラーが設けられており、
分離された各レーザー光束の各光路中には、回転多面鏡の反射面と各感光ドラム面上に共役点をもつように設定したアナモフィックレンズが設けられており、
各感光ドラムにはBk,Y,M,C色の現像器が配され、各感光ドラムに形成される潜像を現像した後、転写材に次々に多重転写するカラー画像形成装置。」(以下「引用発明1」という。)

(4)補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1の「Bk,Y,M,C色」は、それぞれ黒色、イエロー色、マゼンタ色及びシアン色の意味であり、補正発明の「M」に相当する引用発明1における数は「4」である。補正発明において、黒色を除くNiは1であってもよいのだから、黒色を除くNiについては相違がない。また、補正発明の「ΣNi」とは、単に光源の総数を表現しただけであるから、「ΣNi(i=1〜M)本で、Mは2以上の整数、各Niは1以上の整数である光源」を有する点で、補正発明と引用発明1は一致する(いうまでもなく、補正発明の「光源」に相当するものは「レーザ発振器」である。)。
引用発明1の「回転多面鏡」(又は、当然具備されるモータとを併せた偏向器)は補正発明の「回転可能に形成された反射面を有し2以上の光を所定の方向に偏向するただ1つの偏向手段」に相当する。
引用発明1の「副走査方向」と補正発明の「偏向手段による走査方向と垂直な方向」に相違はないから、引用発明1において各レーザ発振器と回転多面鏡間に設けられた「シリンドリカルレンズ」(個数は4個)は、補正発明の「前記光源と前記偏向手段の光路間に配置された、前記光源からのそれぞれNi本の光を偏向手段による走査方向と垂直な方向に収束させるM群に対してそれぞれ1つのレンズとを含む第1の光学手段」に相当する。
fθ特性が「光を所定像面に等速で走査するように結像する」特性の意味であることは技術常識に属するから、引用発明1の「4個のレーザ発振器の4個のレーザー光束を共通に各感光ドラム面に走査方向に結像するためのfθ特性をもつレンズ」と補正発明の「ΣNi本の光を所定像面に等速で走査するように結像する第2の光学手段」とは、「ΣNi本の光を所定像面に等速で走査するように走査方向に結像する第2の光学手段」の限度で一致する(「所定像面」に相当するのは「感光ドラム面」である。)。
引用発明1の「4個のレーザー光束を分離するミラー」は補正発明の「前記第2の光学手段と前記所定像面の間に配置され、M群の光を分離し、異なる場所に導く分離手段」に相当する。
引用発明1における4個の「感光ドラム」と「Bk,Y,M,C色の現像器」は、補正発明の「前記光走査装置により提供されるM群の画像光に対応する画像を形成する画像形成部」に相当し(引用発明1が「光走査装置」を有すること、及びBk,Y,M,Cのそれぞれに対応した4群の画像光に対応する画像を形成することはいうまでもない。)、引用発明1では「現像した後、転写材に次々に多重転写する」のだから、補正発明の「前記画像形成部により形成されたM群の画像を被転写媒体に転写する転写手段」を有する(「被転写媒体」に相当するのは「転写材」である。)ことは明らかである。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「ΣNi(i=1〜M)本で、Mは2以上の整数、各Niは1以上の整数である光源と、回転可能に形成された反射面を有し2以上の光を所定の方向に偏向するただ1つの偏向手段と前記光源と前記偏向手段の光路間に配置された、前記光源からのそれぞれNi本の光を偏向手段による走査方向と垂直な方向に収束させるM群に対してそれぞれ1つのレンズとを含む第1の光学手段と、前記偏向手段により偏向されたΣNi本の光を所定像面に等速で走査するように走査方向に結像する第2の光学手段と、前記第2の光学手段と前記所定像面の間に配置され、M群の光を分離し、異なる場所に導く分離手段と、を含む光走査装置と、
前記光走査装置により提供されるM群の画像光に対応する画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部により形成されたM群の画像を被転写媒体に転写する転写手段とを有し、
Niの1つは黒画像に割り当てられているカラー画像形成装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明では、黒画像に割り当てられるNi(以下「Nk」と表記する。)が2以上で、黒画像は他の色の画像より高解像度となるように構成されているのに対し、引用発明1ではNk=1であり、黒画像と他の色の解像度がどうなっているのか不明である点。
〈相違点2〉第2の光学手段につき、補正発明では単に「結像する」としており、副走査方向にも結像すると解されるのに対し、引用発明1では走査方向だけに結像し、分離された各レーザー光束の各光路中のアナモフィックレンズにより副走査方向に結像する点。
〈相違点3〉補正発明が「被転写媒体に転写された画像を前記被転写媒体に定着する定着手段」を有するのに対し、引用発明ではその点明らかでない点。

(5)相違点についての判断
〈相違点1について〉
本願出願日前に頒布された特開平4-245262号公報(以下「引用例2」という。)には、「本発明では線密度をBk信号に対しては、200dpi、Y,M,C各信号に対しては100dpiとしている。このように線密度を変えた理由は下記するような意図と実験の結果にもとづく。Bk信号の高線密度200dpiは、Bk信号の持つ役割が黒画像,文字画像の現像にも使用することと、カラー画像の輪郭の鮮鋭度を重視したことと、Bk現像器12dに用いた二成分磁気ブラン現像器の階調再現性は高線密度露光においても良好であるからである。」(段落【0015】)と記載、要するに黒画像を他の色の画像より高解像度とすることが記載されている。したがって、引用発明1において、黒画像を他の色の画像より高解像度とすることを妨げる特段の理由がない限り、そのようにすることは当業者にとって想到容易である。
そこで、上記特段の理由の有無について検討する。引用発明1では、引用例1第5図のとおり、4個の感光ドラムと1個の搬送体(符番5)が接触しており、この接触部を転写材(被転写媒体)が通過する構成となっている。その場合、4個の感光ドラムに対しての露光が同時に行われる蓋然性が極めて濃厚であり、そのため4個の感光ドラムの周速度を同一にしなければならない。他方、走査方向の解像度はレーザー発振器の変調周期を短くすることにより実現できるけれども、黒画像用の感光ドラムの周速度が他のドラムと同一である以上、引用発明1において単に変調周期を短くしただけでは、副走査方向の解像度を大きくできない。
この点につきさらに検討するに、本願出願日前に頒布された特開平6-202021号公報(以下「引用例3」という。)には、「本発明は、レーザプリンタ装置において、感光体の移動速度を変化させずに実効的に副走査方向の高い解像度を得る。」(【要約】の【目的】欄)及び「書き込みに必要なレーザスポツト1個を形成する光源として複数のレーザ素子を用い、その複数のレーザ素子の出力の合成によつてレーザスポツトのピーク位置をシフトさせ、感光体上の走査方向と直交する副走査方向の解像度を上げるようにした」(同【構成】欄)との記載があるから、引用例3記載の技術(光源として複数のレーザ素子を用いる)を適用すれば、引用発明1において、4個の感光ドラムの周速度を同一としたままで黒画像の解像度を走査方向のみならず、副走査方向にも高くすることができる。すなわち、上記特段の理由になる可能性のあることがらは、引用例3記載の技術採用により克服できるのであるから、黒画像を他の色の画像より高解像度とすることを妨げる理由にはならない。
加えて、引用例2,3に記載の技術を同時に採用すれば、Nkが2以上との構成にも自然に至ることになる。
もっとも、引用発明1ではNk=1、かつ走査方向と垂直な方向に収束させるレンズ(シリンドリカルレンズ)が1つなのであるから、Nkを2以上とした場合にも走査方向と垂直な方向に収束させるレンズが1つでよいのかどうかは別途検討しなければならない。そこで検討するに、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-28918号公報の第1図及び第7図には、複数のレーザ光源(これら図では3つ)からの光束を共通のシリンダレンズ(符番24,25)により副走査方向に収束する様子が図示されているほか、引用例3の【図1】にも単一のシリンドリカルレンズが図示されているだけであるから、Nkが2以上であっても単一のシリンドリカルレンズで事足りることは明らかである。
以上のとおりであるから、相違点1に係る補正発明の構成をなすことは当業者にとって想到容易である。

〈相違点2について〉
引用発明1では、回転多面鏡から各感光ドラムまでの距離が等しいように設定されている。補正発明では直接的にはその限定がされていないものの、M群の光を分離した後に何らのパワー部材を配置せず、かつ副走査方向に収束されたM群の光がM群の所定像面に結像する以上、偏向手段と各所定像面間の距離は事実上等しくなるように設定されており、「第2の光学手段」が副走査方向にもパワーを有しており、引用発明1の「アナモフィックレンズ」と同様の結像機能を有すると解される。
そして、回転多面鏡から各感光ドラムまでの距離が等しいように設定されている以上、引用発明1における4個のアナモフィックレンズは、回転多面鏡から感光ドラムまでの光路における光学的に等価な位置に配されていると理解しなければならない。
そうすると、相違点2とは、副走査方向の結像機能を担う光学部材(レンズ)が、M群の光を分離する前の光路に設けられる(補正発明)か、分離した後の光路に設けられる(引用発明1)かの相違につきる。
そして、副走査方向の結像機能を担う光学部材を偏向手段(回転多面鏡)から所定像面(感光ドラム面)に至る光路のどの位置に設けるかは、分離手段の位置、形成すべきドットサイズ、光学部材のサイズ(所定像面に近い位置に設ければ、長尺状とならざるを得ない。)等を総合的に考慮した上で決定すべき設計事項にすぎない。
加えて、特開平6-308406号公報に「偏向手段と被走査面との間に設けられる結像光学系にアナモフイックな長尺レンズを被走査面近傍に配置する方法(審決注;引用発明1はこれに当たる。)や、アナモフイックなfθレンズを結像光学系とする方法(審決注;補正発明はこれに当たる。)が知られている。」(段落【0005】)と記載があるとおり、副走査方向の結像機能を「fθ特性をもつレンズ」に持たせることは周知であるから、相違点2に係る補正発明の構成を採用するおとはなお一層設計事項というべきである。

〈相違点3について〉
引用例1に明記はないものの、電子写真方式を利用した画像形成装置では、被転写媒体に転写された画像を前記被転写媒体に定着することが普通であり、引用発明1にも定着手段が存すると解すべきである。すなわち、相違点3は実質的相違点ではない。
百歩譲って、引用発明1が定着手段を有さないとしても、設計事項程度の軽微な相違にすぎない。

(6)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1〜3は実質的相違点でないか、これら相違点に係る補正発明の構成を採用することが設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1及び引用例2,3記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は特許法17条の2第4項の規定及び平成6年改正前特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項の規定に違反しており、仮に特許法17条の2第4項の規定に適合するとすると、補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないため、同条5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。
したがって、特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明は平成16年7月20日付けで補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「ΣNi(N1+N2+・・・+NM)本で、Mは2以上の整数、Niは1以上の整数である光源と、回転可能に形成された反射面を有し前記Niの少なくとも1つは2以上の光を所定の方向に偏向するただ1つの偏向手段と前記光源と前記偏向手段の光路間に配置された、前記光源からのそれぞれNi本の光を偏向手段による走査方向と垂直な方向に収束させるM群に対してそれぞれ1つのレンズとを含む第1の光学手段と、前記偏向手段により偏向されたΣNi本の光を所定像面に等速で走査するように結像する第2の光学手段と、前記第2の光学手段と前記所定像面の間に配置され、M群の光を分離し、異なる場所に導く分離手段と、を含む光走査装置と、
前記光走査装置により提供されるM群の画像光に対応する画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部により形成されたM群の画像を被転写媒体に転写する転写手段と、
前記被転写媒体に転写された画像を前記被転写媒体に定着する定着手段と、を有することを特徴とするカラー画像形成装置。」
なお、ここでも「ΣNi(N1+N2+・・・+NM)」とあるのは「ΣNi(i=1〜M)」の趣旨に解する。

2.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
本願発明と引用発明とは、
「ΣNi(i=1〜M)本で、Mは2以上の整数、各Niは1以上の整数である光源と、回転可能に形成された反射面を有し2以上の光を所定の方向に偏向するただ1つの偏向手段と前記光源と前記偏向手段の光路間に配置された、前記光源からのそれぞれNi本の光を偏向手段による走査方向と垂直な方向に収束させるM群に対してそれぞれ1つのレンズとを含む第1の光学手段と、前記偏向手段により偏向されたΣNi本の光を所定像面に等速で走査するように走査方向に結像する第2の光学手段と、前記第2の光学手段と前記所定像面の間に配置され、M群の光を分離し、異なる場所に導く分離手段と、を含む光走査装置と、
前記光走査装置により提供されるM群の画像光に対応する画像を形成する画像形成部と、
前記画像形成部により形成されたM群の画像を被転写媒体に転写する転写手段とを有するカラー画像形成装置。」である点で一致し、「第2[理由]5(4)」で述べた〈相違点2〉及び〈相違点3〉並びに次の相違点1’で相違する(相違点2,3については、「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
〈相違点1’〉本願発明では「前記Niの少なくとも1つは2以上」としているのに対し、引用発明ではすべてのNiが1である点。

3.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
相違点2,3については「第2[理由]5(5)」で述べたとおり、実質的相違点でないか又は設計事項である。(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
そこで、相違点1’について検討する。
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-150607号公報(以下「引用例4」という。)には、「黒色成分像のうちピクチャー像に対応する画像信号が入力される第4の露光装置420はその主走査ビームにより感光体ベルト1の第4の位置に第4の露光主走査ラインL4を形成し、さらに黒色成分像のうち文字像に対応する画像信号が入力される第5の露光装置520はその主走査ビームにより感光体ベルト1の前記第4の位置の近傍に第5の露光主走査ラインL5を形成する(図2参照)。」(段落【0018】)との記載があり、【図2】には「第4の露光装置420」及び「第5の露光装置520」によって、感光体ベルト1の概略同一位置に露光することが図示されており、黒色成分像のための露光装置数が2である以上、光源数も2である。
引用発明1においても、引用例4記載の発明同様、黒色成分像のための光源数を2とすることには何の困難性もない。ところで、引用発明1では、異なる感光ドラムに露光するに際しても、共通の回転多面鏡を用いているのであるから、黒色成分像のための感光ドラムを露光する光源数を2とした場合でも、共通の回転多面鏡により走査するのは当然の帰結である。
そればかりか、相違点1’に係る本願発明の構成は、「前記Niの少なくとも1つは2以上」と限定するだけであるから、すべてのNiが同一数(ただし2以上)のものを含んでいる。そして、感光ドラムを露光するに当たり、露光速度を速くしたり、あるいは解像度を向上するために、光源数を複数(2以上)とすることは、例をあげるまでもなく周知であるから、引用発明1において、4個の感光ドラムすべてに対して光源を2以上用いることは設計事項というべきである。
また、Nkを2以上とした場合にも走査方向と垂直な方向に収束させるレンズが1つでよいのかどうかについては「第2[理由]5(5)」で検討したとおり、何の問題もない。
以上のとおりであるから、相違点1’に係る本願発明の構成を採用することは、設計事項または当業者にとって想到容易である。
そして、相違点1’,2,3に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用例4記載の発明若しくは周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-27 
結審通知日 2006-03-28 
審決日 2006-04-10 
出願番号 特願2003-315633(P2003-315633)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B41J)
P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三橋 健二  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤井 勲
藤本 義仁
発明の名称 カラー画像形成装置  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 哲  
代理人 村松 貞男  
代理人 橋本 良郎  
代理人 河野 哲  
代理人 村松 貞男  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 中村 誠  
代理人 橋本 良郎  
代理人 中村 誠  

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