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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61F
管理番号 1138849
審判番号 無効2005-80358  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-09-11 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-12-14 
確定日 2006-06-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3666582号発明「貼付剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3666582号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3666582号の請求項1に係る発明についての出願は、特願平6-275571号(平成6年10月14日出願)を原出願とする特許法第44条第1項の規定による特許出願である特願2001-77126号であり、平成17年4月15日に設定登録(請求項の数1)されたものである。
そして、平成17年12月14日にリードケミカル株式会社より無効審判が請求され、平成18年3月22日に被請求人久光製薬株式会社より答弁書が提出されたものである。

II.本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「伸縮性を有する支持体と、前記支持体の一面の略全面に展着された膏体と、前記膏体の全面に貼着された、切れ目部を有する1枚の剥離シートとを備えた貼付剤であって、前記貼付剤を左右に引張るだけで前記剥離シートと前記支持体との伸び率の違いにより前記剥離シートのみが分断されることを特徴とする、前記貼付剤。」 (以下「本件特許発明」という。)

III.請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
主張1:
本件特許の請求項1に係る発明は、その特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物の甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
主張2:
本件特許に係る特願2001-77126号の特許出願についての平成17年2月21日付け手続補正は願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内でなされたものでないから、本件特許は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり、よって、本件特許は、同法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
主張3:
本件特許の請求項1に係る発明と第3566960号特許の請求項1に係る発明とは同一の発明であり、且つ、本件特許に係る特願2001-77126号の 特許出願と第3566960号特許に係る特願2003-316093号の特許出願は同日になされたものであって、しかも協議により定めた一の特許出願人もいないから、本件特許は、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、よって、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

〈証拠方法〉
甲第1号証:実開平1-165023公報(実願昭63-60096号のマイクロフィルム)公開日:平成1年11月17日
甲第2号証:実開昭50-133797号公報(実願昭49-43270号のマイクロフィルム)公開日:昭和50年11月 4日
甲第3号証:特願2001-77126号の特許出願についてなされた平成17年2月21日付け手続補正書
甲第4号証:特開2001-245918号公報(特願2001-77126号の公開特許公報)公開日:平成13年9月11日
甲第5号証:特開平8-112305号公報 (特願平6-275571号の公開特許公報)公開日:平成8年5月7日
甲第6号証:特許第3566960号公報 発行日:平成16年9月15日
参考資料:特許第3666582号公報 発行日:平成17年6月29日

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。
(1)主張1に対し、
(i)引用例1および同2を組み合わせることは、その組合せに至る動機付けに欠くばかりか、むしろその動機付けを妨げる要因があり、同組み合わせることには困難性があり、本発明には進歩性がある。
(ii)仮に引用例1および同2を組み合わせたとしても、本発明に想到することは不可能であり、この点においても本発明には進歩性がある。
(iii)本発明は、両引用例から予測される範囲を越えた顕著な作用効果を奏するものであるから、仮に、万が一引用例1に引用例2を組み合わせることに困難性がないとしても、本発明には進歩性がある。
(2)主張2に対し、
(i)手続補正が適法であるか否かの基準となるのは、本件特許出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項であって、本件特許出願の分割の基礎となる原特許出願の当初明細書又は図面の記載とは関係がない。
(ii)本件特許出願についてなされた平成17年2月21日付手続補正は、特許法の規定に何ら違反するものではない。事実、該補正は拒絶査定不服審判手続においてなされたものであるが、適法なものと認められたため、特許審決を受けるに至ったのである。
(3)主張3に対し、
(i)本件発明に係る特許出願は、対象発明に係る特許出願の出願分割の基礎となる出願である以上、特許法第44条第1項に記載の出願分割の要件、ならびに同第2項に記載の出願分割の効果を考えれば、そもそも両発明が同一でありかつ両出願日が同一であるという請求人の主張は、両立し得ない矛盾したものであることは明らかである。すなわち、本件発明に係る特許出願においては、特許法第39条第2項違背に基づく無効理由は存在し得ない。
(ii)請求人が本件特許が違背していると主張する特許法第39条第2項について、審査基準(審査基準第II部第4章3.4(乙第19号証6〜7頁))を参照しても、本件特許発明と対照発明は同一でないことは明らかである。

IV.当審の判断
まず、請求人の主張1について、検討する。
(1)甲1及び2号証の記載事項
[甲第1号証の記載事項]
記載事項a:「1 支持体の面に粘着層を設け粘着層に剥離紙を仮着した貼付材であって、前記剥離紙にはこれを分割して剥離する切断容易な連結部を有する切り込み線を設けた貼付材。
3 切り込み線が波形状若しくは鋸刃形状に形成されている請求項1または2記載の貼付材。
4 連結部が波形状若しくは鋸刃形状切り込み線の山と谷の中間部位にある請求項1、2または3記載の貼付材。」(実用新案登録の請求の範囲第1、3、4項、第1〜7図)

記載事項b:「本案は貼付剤、貼り薬、救急ばんそうこう等の手当用貼付剤やラベルなどの貼り札のような貼付材に関する。」(明細書1頁下より3行〜末行)

記載事項c:「布、プラスチックフィルム、紙、不織布等の薄手若しくは厚手の生地、柔軟性、伸縮性に富む各種のシート状生地で形成された支持体(1)の面に薬剤を含み若しくは含まない粘着層(2)を設け、該粘着層の面には、切断容易な連結部(5a)を有し、2若しくはそれ以上に分割して剥離できる切り込み線(5)を有する剥離紙(3)が仮着されている。上記の切り込み線に設けられる連結部(5a)は、例えば約1mm以下、好ましくは0.3〜0.5mm程度に形成してよい場合が多く、該連結部は ・・・ミシン目でもよい。」(明細書3頁下より6行乃至4頁7行)

記載事項d:「剥離紙を剥がすさい貼付材を切り込み線のほぼ中心線に沿って剥離紙の反対側に適当に折り曲げれば、山部又は谷部が粘着層から剥離するから、その剥離端が把持部となり、容易に剥離できる。」(明細書4頁14行乃至18行)

[甲第2号証の記載事項]
記載事項e:「絆創膏の粘着面の中央部に消毒ガーゼ及び綿等からなる消毒パッドを貼付したパッド付絆創膏の粘着面及びパッド面を、破線状の切込みを施した1枚の剥離用薄板を用いて被覆保護してなることを特徴とする新規な救急絆創膏。」(実用新案登録請求の範囲、第3及び4図)

記載事項f:「本考案品を使用するには、まず、第5図に示されるように本案救急絆創膏の両端部を指先でつまみ図中Q方向へ同時に引張ることにより粘着シート及び剥離用薄板の伸び率の相違を利用して該剥離用薄板の破線状の切込みを完全に破断し2枚の剥離用薄板とする。この際、使用する剥離用薄板は粘着シートに比べて伸び率が小さくしかも容易に切断されうるものが望ましい。然る後に、本案救急絆創膏を第6図に示されるように彎曲させて把手部5を突出させ突出した把手部を指先でつかみ剥離用薄板を剥離しパッド面を露出させ人体の傷口等に付着させ次に絆創膏粘着面を皮膚に貼着し使用する。このように本考案品の剥離用薄板は破線状の切込みを切断するまでは、単一の剥離用薄板として絆創膏粘着面及びパッド面を被覆保護してなり柔軟なる粘着シートの支持体として働いている・・ 」(明細書4頁13行乃至5頁9行、第5及び6図)

3.対比
引用文献1の支持体は、伸縮性を有するものであり(記載事項c)、支持体の面に設けられた粘着層は、本件特許発明の「支持体の一面の略全面に展着された膏体」に相当し、また、引用文献1の剥離紙はこれを分割して剥離する切断容易な連結部を有する切り込み線を設けたものであるから、本件特許発明の「膏体の全面に貼着された、切れ目部を有する1枚の剥離シート」に相当する。
これらの点を考慮して、本件特許発明と甲第1号証に記載されたものとを対比すると、
両者は、「伸縮性を有する支持体と、前記支持体の一面の略全面に展着された膏体と、前記膏体の全面に貼着された、切れ目部を有する1枚の剥離シートとを備えた貼付剤」である点で一致し、以下の点で相違している。
本件特許発明では、貼付剤を左右に引張るだけで剥離シートと支持体との伸び率の違いにより剥離シートのみが分断されるのに対し、甲第1号証記載の発明では、剥離紙を剥がすさい貼付材を切り込み線のほぼ中心線に沿って剥離紙の反対側に適当に折り曲げて、山部又は谷部を粘着層から剥離して、その剥離端を把持部として剥離するものである点。

4.当審の判断
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明では、剥離シートを剥がす際の方法が上記相違点にあげたように相違している。
この点に関し、甲第2号証には、救急絆創膏の剥離用薄板(本件特許発明における剥離シートに対応するものである。)を剥がす際の方法として、剥離用薄板の両端部を指先でつまみ図中Q方向(第5図を参照すれば、絆創膏の長手左右方向)へ同時に引張ることにより粘着シート及び剥離用薄板の伸び率の相違を利用して該剥離用薄板の破線状の切込みを完全に破断し剥離するものであって、この際、使用する剥離用薄板は粘着シートに比べて伸び率が小さくしかも容易に切断されうるものが望ましい旨記載されている(記載事項f)。
甲第2号証において記載されているのは、救急絆創膏の剥離シートを剥離する際の方法に関する記載であって、救急絆創膏には消毒パッドが設けられているという本件特許発明の貼付剤とは異なる構成を有するものではあるが、粘着シート(本件特許発明における支持体に対応するものである。)及び剥離用薄板(本件特許発明における剥離シートに対応するものである。)の伸び率の相違を利用して剥離用薄板の破線状の切込みを完全に破断し剥離するものであるから、その基本的な作用効果は本件特許発明と同一のものである。
そして、両者とも粘着力を利用して人体に貼付する医療用材料であって、その剥離シートの剥離方法についての技術であるから、甲第2号証に記載されている技術を貼付剤の剥離シートに適用することを妨げるような格別の事情も認められない。
よって、甲第2号証に記載の技術を貼付剤に適用することに何ら困難性は認めらず当業者が容易になし得たことと認められる。

V.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は甲第1及び2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、請求人の主張する他の理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-14 
結審通知日 2006-04-18 
審決日 2006-05-10 
出願番号 特願2001-77126(P2001-77126)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A61F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 二ッ谷 裕子  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 溝渕 良一
種子 浩明
登録日 2005-04-15 
登録番号 特許第3666582号(P3666582)
発明の名称 貼付剤  
代理人 柳田 幸男  
代理人 加藤 勉  
代理人 清水 利亮  
代理人 丸山 芳子  
代理人 萼 経夫  
代理人 葛和 清司  
代理人 鳥越 雅文  
代理人 高橋 利昌  
代理人 小野塚 薫  
代理人 米山 一弥  

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