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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E01F
管理番号 1141412
判定請求番号 判定2005-60071  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2000-10-17 
種別 判定 
判定請求日 2005-09-29 
確定日 2006-08-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第3628208号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「発光タイル」は、特許第3628208号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、判定請求人が製造・販売の準備をしているという判定請求書添付の別紙物件目録記載の発光タイル(以下、「イ号タイル」という。)は、被請求人が特許権者であるところの特許第3628208号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)の技術的範囲に属さない、との判定を求めるものである。

2.本件発明の出願経過
本件判定請求書の「6 請求の理由」の項にも示されているように、本件発明の出願経過等の概略を示すと、次のとおりである。
(1)出 願 平成11年 4月12日
(2)出願公開 平成12年10月17日
(3)審査請求 平成13年 7月11日
(4)拒絶理由の通知 平成16年 7月26日
(5)意見書・補正書の提出 平成16年 9月14日
(6)特許査定 平成10年11月30日
(7)特許登録 平成10年12月17日

3.本件発明
本件発明は、願書に添付された明細書及び図面(以下、「特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その構成要件を分説すると、次のとおりである。

A:少なくとも一部が透光性領域となっている板状のタイル面部を備えているとともに、
B:タイル面部の透光性領域を透過した太陽光をおのおの受光して起電力を発生するよう並べて配置された複数個の太陽電池と、
C:太陽電池に発生した電力を蓄積する電気二重層コンデンサと、
D:発光面をタイル面部の裏面に臨ませるようにして配置された面状発光手段と、
E:周囲照度が予め定めた設定照度以下の場合には電気二重層コンデンサの蓄積電力を面状発光手段へ自動的に供給して面状発光手段の発光面を光らせる発光制御手段とを、
F:タイル面部の裏面側に備えるとともに、
G:前記太陽電池が前記面状発光手段の発光面の周囲に沿って設置されていることを特徴とする
H:発光タイル。

4.イ号タイル
判定請求書添付の別紙物件目録(イ号タイルの構成及びイ号図面)の記載によれば、イ号タイルの構成は、次のものと認められる。

(イ号タイルの構成)
(a1)角形容器状のタイル本体20と、
(a2)その上面開口を塞ぐように配置され、全体が透光性を備え、表面に凹凸のアクセント21aが付されているタイル蓋体21と
を備えると共に、
(b)タイル蓋体21の透光性領域を透過した太陽光を受光して起電力を発生するよう配置された一枚の太陽電池2と、
(c)太陽電池に発生した電力を蓄積する電気二重層コンデンサ3と、
(d)タイル蓋体21の裏面に対し、略直角方向から照らすようにタイル本体20の下部に配置された、点状光源であるLEDランプ4aと、
(i)そのLEDランプの光をタイル蓋体の裏面に集めるための反射板22と、
(e)太陽電池に形成した貫通孔に配置した照度センサ23の出力が予め定めた設定値以下の場合には電気二重層コンデンサ3の蓄積電力をLEDランプ4aへ自動的に供給してLEDランプを光らせる発光制御手段24とを、
(f)タイル本体20の内部で、前記タイル蓋体21の裏面側に備えるとともに、
(g)前記太陽電池2がアクセント21aの部分を囲む額縁状の形態を備えていることを特徴とする
(h)発光タイル1。

5.本件発明とイ号タイルとの対比
(1)両当事者の主張
イ号タイルの構成a2、c、e、f、hが、本件発明の構成要件A、C、E、F、Hを、それぞれ充足することは、審判請求人も認めているとともに、被請求人(特許権者)も平成17年12月12日付け答弁書において認めていることから、両当事者間に争いがないといえる。
一方、本件発明の構成要件B、D、Gをイ号タイルの構成が充足するか否かについて、特に、本件発明の「面状発光手段」をイ号タイルが備えているといえるか否かについて、両当事者間に争いがある。

そこで、上記の争いがある点につき、以下検討する。

(2)本件発明の構成要件Dとイ号タイルの構成との対比
最初に、上記「面状発光手段」を規定するところの本件発明の構成要件Dについて検討する。

(イ)本件発明の構成要件Dにおける「発光面をタイル面部の裏面に臨ませるようにして配置された面状発光手段」の技術的意義について

ところで、本件発明の構成要件Dにおける「発光面をタイル面部の裏面に臨ませるようにして配置された面状発光手段」の技術的意義が、その発光手段自体の「発光面」が「タイル面部の裏面に臨ませるようにして配置」できるように当該タイル面部の裏面と同様な平面状のものとして構成されている「発光手段」を意味するものであるのか、又はそれ以外のものを意味するのかが、特許請求の範囲に記載された事項からは必ずしも明らかでない。

そこで、特許明細書の記載を参酌すると、次の記載がある。
(a)段落【0002】〜【0005】には、「従来、庭や道路などの地面あるいはビルや家屋などの壁面に設けられるタイルのひとつとして、発光機能をもつ発光タイルがある。従来の発光タイルは、透明なプレート状タイル面部の裏側に小型の蛍光灯が設置された構成となっており、施工の際には蛍光灯と外部電源との間の配線が同時に行われる。…(中略)…
しかしながら、従来の発光タイルの場合、施工・保守性や意匠性あるいは非常時の対応性が十分ではないという問題がある。施工の際には蛍光灯と外部電源の間の配線工事を必ず行わなければならない。…(中略)…
また、線発光体である蛍光灯は輝度が高く、眩しい上に蛍光灯の形が透けて見えたりすることから、見た目に美しいとは言えない。」との記載がある。
(b)段落【0017】には、「つまり、請求項1の発光タイルには、太陽電池および電気二重層コンデンサによる自家発電機能が備わっているので、…(中略)…発光機能はしっかり維持される。また、本発明の発光タイルの発光手段は、点状や線状ではなくて面状であるので、眩しすぎたり、目障りになったりするようなことはなく、従来に比べて意匠性が高くなる。」との記載がある。
(c)段落【0036】には、「一方、面状発光部4は、図6に示すように、タイル面部1Aに対して面平行(向かい合う面が平行)の状態で配置された透明プレート4Bと、透明プレート4の対抗する一対の端面4C,4Dの側からそれぞれ透明プレート4B内へ面方向に光を入射する4個の発光ダイオード(LED)4E〜4Hを具備するとともに、透明プレート4Bのタイル面部1Aに近い方の表面4Iの側が光散乱面となっており、透明プレート4Bのタイル面部1Aに遠い方の表面(裏面)4Jの側が光反射面となっている。」との記載がある。
(d)段落【0041】には、「発光ダイオード4E〜4Hが点灯すると、図8に示すように、発光ダイオード4E〜4Hから透明プレート4Bへ入射した光が裏面4Jの側の光反射面で反射してタイル面部1Aの方へ向きを変え、表面4Iの側の光散乱面で散乱を受けながらタイル面部1Aから周囲へ放出される。面状発光部4は面状発光体であるから発光面Aは柔らかくて見た目に好ましい。そして、光反射面による光反射によって入射光の大部分が放出されるので、発光面4Aが明るい上に、光散乱面による光散乱(光拡散)で発光面4Aは非常に柔らかい感じになる。加えて、発光ダイオード4E〜4Hの光の入射方向が互い違いとなっていて、透明プレート4B内に万遍なく光が入射されるので、発光面4Aは光むらが少ない均一なものとなる。」との記載がある。
(e)段落【0055】には、「(1)上記の実施例の発光タイルの場合、面状発光部4は透明プレート4Bの表面4Iの側を光散乱面とし、裏面4Jの側を光反射面とする構成であったが、透明プレートの裏面4Jの側を光乱反射面(光拡散反射面)とする面状発光部を備えた構成のものが、変形例として挙げられる。変形例の発光タイルでは、発光面4Aが非常に柔らかい(ソフトな)感じのものとなり、また、透明プレート4Bの表面4Iの側の光散乱面は省略できる。」との記載がある。
(f)段落【0059】には、「(3)実施例の発光タイルでは、発光ダイオード式の面状発光部4を用いる構成であったが、面状発光部をEL(エレクトロルミネッセンス)素子で構成したものが、変形例として挙げられる。」との記載がある。
(g)段落【0064】には、「【発明の効果】以上に詳述したように、請求項1の発光タイルによれば、…(中略)…非常時対応性が向上するのに加え、発光手段が面状であるので、眩しすぎたり目障りになったりすることはなく意匠性も向上する。」との記載がある。

上記の記載事項a〜gによれば、本件発明の発光タイルの発光手段は、「点状」、すなわち、ランプ等の点光源のものでもなく、「線状」、すなわち、線発光体である蛍光灯でもないものであって、発光手段自体が「面状」の発光部を有するものであり、このことにより眩しすぎたり、目障りになったりするようなことがないものを指す、これをより具体的にいえば、本件発明の発光タイルの発光手段は、(例えば、)「透明プレート4Bの表面4Iの側を光散乱面とし、裏面4Jの側を光反射面とする構成」を備えた平面状の発光手段や「EL(エレクトロルミネッセンス)素子で構成した」平面状の発光手段であるということができ、他方、発光手段自体がこのような平面状の発光部を有しないものでも良いことを例示する他の記載やこれを示唆するような他の記載も、明細書中に何ら見出し得ない。
以上のことから、本件発明の構成要件Dにおける「発光面をタイル面部の裏面に臨ませるようにして配置された面状発光手段」は、その発光手段自体が有する「発光面」が「タイル面部の裏面に臨ませるようにして配置」できるように当該裏面と同様の平面状のものとして構成されている「発光手段」を意味するものと解するのが相当である。

(ロ)対比
そうすると、判定請求人が主張するように、本件発明の構成要件Dとイ号タイルの構成dとは、前者が「発光面をタイル面部の裏面に臨ませるようにして配置された面状発光手段」である、いいかえれば、その発光手段自体が有する「発光面」が「タイル面部の裏面に臨ませるようにして配置」できるように当該裏面と同様の平面状のものとして構成されている「発光手段」であるのに対して、後者が「タイル蓋体21の裏面に対し、略直角方向から照らすようにタイル本体20の下部に配置された、点状光源であるLEDランプ4aと、」「そのLEDランプの光をタイル蓋体の裏面に集めるための反射板22と」から構成された発光手段であるという点で、両者に構成上異なる部分があるということができる。

ところで、本件発明の構成要件Dとイ号タイルの構成dとが相違する部分について、判定請求人は均等の要件を満たさないものであるから、イ号タイルは本件発明の技術的範囲に属しないと主張する。
そこで、イ号タイルが本件発明の構成要件Dを充足するといえるか否かの点について、均等論の適用の可否を含めて、以下に検討する。

6.イ号タイルが本件発明の構成要件Dを充足するか否かについて
(1)均等論適用の要件について
そこで、本件発明の構成とイ号タイルとが構成上異なる部分につき、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成6年(オ)1083号)が判示する次の5つの要件に従って、均等論の適用の余地があるか否かにつき検討する。

(均等論が適用できるための5つの要件)
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、
・その部分が特許発明の本質的部分ではなく(第一要件)、
・その部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(第二要件)、
・このように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第三要件)、
・対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく(第四要件)、かつ、
・対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第五要件)は、
その対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」

(2)第四要件(対象製品の容易推考性)について
最初に、上記5つの要件の内の第四要件(対象製品の容易推考性)について検討する(ちなみに、本件発明の出願経過等を参酌して見ても、本件発明を特許性があるとする本質的部分、すなわち、実質的な技術的特徴部分が把握しがたい)。

(イ)本件特許の出願時における公知技術について
ところで、当審判合議体によれば、本件特許の出願時において下記の公知文献が存在していたことが明らかである。

公知文献:特開平8-319607号公報

上記公知文献には、「自発光式表示装置」の発明に関して、図面の図1〜5とともに次の記載がある。
a.「【請求項1】箱状をなすケースの平坦な上面に太陽電池とELを配設するとともに、太陽電池からの電力を蓄電する蓄電池と、周囲が所定の明るさ以下になったとき蓄電池から電力を供給してELを自発光させる制御装置とを内部に収容したことを特徴とする自発光式表示装置。」(【特許請求の範囲】)
b.「【発明の属する技術分野】この発明は、ELを用いた自発光式路面舗装用ブロックなどに好適な自発光式表示装置に関する。なお、本出願においてELとは、EL(エレクトロルミネッサンス)素子、電導膜並びにガラス、樹脂もしくはアルミの保護膜等で構成される面発光装置全体を意味するものとする。
【従来の技術】このような自発光式表示装置として、交差点に設けられるマーカーが公知である。このマーカーは略4角錐台状をなし、上面に太陽電池を設け、側面にLEDを配設し、かつ内部に太陽電池からの電力を蓄電する蓄電池と、周囲の照度が所定値以下になったとき蓄電池から電力を供給してLEDを自発光させる制御装置とを内部に収容してある。」(【0001】〜【0002】)
c.「【発明の実施の形態】図1乃至図5に基づいて舗装用ブロックとして構成された一実施の形態を説明する。図1はこのブロックの図2における1-1線に沿う断面であり、図2は全体の外観斜視図、図3は構成部品を分解した展開斜視図、図4は電気部品の平面配置を示す図、図5は制御装置のブロック図である。
これらの図に明らかなように、ブロックは、透明板10、太陽電池20、EL30、上ケース40及び下ケース50を備え、上下のケースを合わせることにより略箱状をなすケースの内部空間に、蓄電池60と制御装置70が収容されている(図4参照)。
透明板10はガラスなどの適宜材料を舗装用として十分な強度を有する厚さに形成したものであり、太陽電池20はEL30の表示に邪魔にならないように配置され、EL30は必要により適当な表示形状に形成される。
上ケース40及び下ケース50は必要強度を得るため、アルミ合金など適宜剛性材料で形成され、かつ軽量化のため多数のリブ41、51が格子状に形成されている。なお、格子状以外にもハニカム状など種々な補強構造を採用できる。
また、蓄電池60を収容できる半円弧状の凹部42、52及び制御装置70の収容部43、53が形成されている。さらに各リブ41、51を横断するように配線用のコード穴44と凹部54が形成されている。
上ケース40の上部には透明板10、太陽電池20、EL30を収容するための凹部45が形成され、その底部45aは平坦部になっている。またそのコーナー部には小凹部46a、bが形成され、それぞれに配線用のコード穴47a、bが貫通して形成されている。
図1に明らかなように、凹部45内にはEL30、太陽電池20及び透明板10がこの順に入れられ、太陽電池20の周囲は透明接着剤21で透明板10とEL30とへ接着されている。なお、太陽電池20が設けられない範囲は、透明板10とEL30の間に形成される略太陽電池20の厚み分の間隙を透明接着剤21の層のみで埋めている。」(【0006】〜【0012】)
d.「図5に明らかなように、制御装置70は太陽電池20の電力を過放電過充電防止回路72を介して蓄電池60と接続されている。蓄電池60の電力は過放電過充電防止回路72を介してEL駆動回路73と接続する。
このEL駆動回路73は太陽電池20の発電量から照度を検出する照度検出回路71及び所定時間だけEL30を駆動させるためのタイマー回路74と接続し、これらで定められた所定条件でインバータ回路75を介してEL30を点灯させる。」(【0016】〜【0017】)
e.「次に、本実施の形態の作用を説明する。図1において、上面を露出して土97中に埋設された状態で、昼間は太陽電池20で発電した電力が蓄電池60へ蓄えられる。夜間など、周囲が所定の明るさになると、照度検出回路71が働きタイマー回路74で設定された間EL30を点灯させる。」(【0019】)
f.「【発明の効果】この自発光式表示装置は、太陽電池がケース上面の平坦部へ設けられているため、十分な取付面積を確保し、かつ太陽電池が昼間の受光量で発電し、十分な電力を確保できる。この電力は蓄電池へ蓄えられ、夜間など周囲が所定の明るさ以下になると、制御装置が蓄電池からELへ電力を供給して自発光させることができる。
このELによる表示は、略180゜の広い範囲から認識可能であるため、 路面表示など水平な表示面にすることを可能にできる。」(【0024】〜【0025】)
g.図面の図2及び図3には、角形状の上ケース40及び下ケース50を用いた態様が示されており、また、図2には、長方形状の透明板10の下側に配置された太陽電池20とEL30との配置形態につき、当該透明板10の上方右側寄りの位置に同様の長方形状のEL30が配置されているとともに、当該長方形状のEL30の左辺及び下辺の周囲に沿ってL字状に太陽電池20が配置されている態様が示されている。

上記記載事項ないし図面に示された内容を総合すると、上記公知文献には次の発明(以下、「公知発明」という。)が記載されていると認めることができる。
(公知発明)
「角形状の上ケース40及び下ケース50を合わせることにより箱状をなすケースの平坦な上面に、透明板10と、太陽電池20及びEL(エレクトロルミネッセンス)30とを配設するとともに、太陽電池20からの電力を蓄電する蓄電池60と、照度を検出する照度検出回路71により周囲が所定の明るさ以下になったとき蓄電池60から電力を供給してEL30を自発光させる制御装置70とを内部に収容した自発光式表示装置であって、
長方形状の透明板10の下側に配置された太陽電池20とEL30との配置形態として、当該透明板10の上方右側寄りの位置に同様の長方形状のEL30が配置され、当該長方形状のEL30の左辺及び下辺の周囲に沿ってL字状に太陽電池20を配置するように構成した自発光式表示装置。」

(ロ)対比・判断
そこで、イ号タイルの構成と公知発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、公知発明の「自発光式表示装置」がイ号タイルの「発光タイル」に相当するものであることが明らかであるから、同様に、公知発明の「角形状の上ケース40及び下ケース50を合わせることにより箱状をなすケース」、「ケースの平坦な上面に、」配設された「透明板10」、「太陽電池20」、「照度を検出する照度検出回路71」、「EL30を自発光させる制御装置70」は、イ号タイルの構成の「角形容器状のタイル本体20」、「その上面開口を塞ぐように配置され、全体が透光性を備え」た「タイル蓋体21」、「太陽電池2」、「照度センサ23」、「発光制御手段24」に、それぞれ相当する。
また、公知発明の「太陽電池20からの電力を蓄電する蓄電池60」とイ号タイルの構成の「太陽電池に発生した電力を蓄積する電気二重層コンデンサ3」とは、共に「太陽電池に発生した電力を蓄積する手段」である点で共通する。
同様に、公知発明の「EL30」とイ号タイルの構成の「タイル蓋体21の裏面に対し、略直角方向から照らすようにタイル本体20の下部に配置された、点状光源であるLEDランプ4a」とは、共に「タイル本体20の下部に配置された発光手段」である点で共通する。

そうすると、両者は、
「角形容器状のタイル本体と、その上面開口を塞ぐように配置され、全体が透光性を備えているタイル蓋体とを備えると共に、タイル蓋体の透光性領域を透過した太陽光を受光して起電力を発生するように配置された太陽電池と、太陽電池に発生した電力を蓄積する手段と、タイル本体の下部に配置された発光手段と、照度センサの出力が予め定めた設定値以下の場合には電力を蓄積する手段の蓄積電力を発光手段へ自動的に供給して発光手段を光らせる発光制御手段とを、タイル本体の内部で、前記タイル蓋体の裏面側に備える発光タイル。」
である点で一致し、次の点で一応相違するということができる。

(相違点1)
タイル蓋体部分の構成に関して、イ号タイルが「表面に凹凸のアクセント21aが付されている」ものであるのに対して、公知発明がこのような構成を備えていない点。
(相違点2)
太陽電池の構成に関して、イ号タイルが「一枚の太陽電池」であるとともに、当該「太陽電池に形成した貫通孔」に「照度センサ23」を配置したものであるのに対して、公知発明が、このような一枚の太陽電池から成るものといえるのかが明らかでないとともに、そのような貫通孔を備えていない点。
(相違点3)
太陽電池に発生した電力を蓄積する手段につき、イ号タイルが「電気二重層コンデンサ3」を用いているのに対して、公知発明が「蓄電池60」を用いている点。
(相違点4)
発光手段の構成に関して、イ号タイルが「タイル蓋体21の裏面に対し、略直角方向から照らすようにタイル本体20の下部に配置された、点状光源であるLEDランプ4a」を用いるとともに、「そのLEDランプの光をタイル蓋体の裏面に集めるための反射板22」を設けているのに対して、公知発明が「長方形状の透明板10の下側に配置された」「EL(エレクトロルミネッセンス)30」を用いている点。
(相違点5)
太陽電池の配置形態につき、イ号タイルが、「太陽電池2」が「全体が透光性を備え、表面に凹凸のアクセント21aが付されているタイル蓋体21」の「アクセント21aの部分を囲む額縁状の形態を備えている」ものであるのに対して、公知発明が「透明板10の上方右側寄りの位置に同様の長方形状のEL30が配置され、当該長方形状のEL30の左辺及び下辺の周囲に沿ってL字状に太陽電池20を配置するように構成した」ものである点。

(各相違点の検討)
そこで、上記の各相違点について、以下検討する。
(相違点1について)
タイル蓋体部分の発光手段による光が透過する部分の表面に、凹凸のアクセントを付すようにするか否かは、当業者が、発光手段による光の装飾的な効果等を配慮して、適宜採用し得た事項であるといえる。
(相違点2について)
ところで、判定被請求人(特許権者)も、平成17年12月12日付け答弁書(例えば、第3頁参照)において、「「太陽電池パネル」は、複数個の太陽電池セル、または複数個の太陽電池モジュールで構成されるものである」と主張しているところ、同上答弁書により提出された乙第1号証(電子通信用語辞典、(社)電子通信学会編、昭和59年11月30日発行、第459頁)にも記載されているように、複数個の太陽電池の素子を平面基板上に並べて相互に接続したものを1枚の太陽電池パネルとして構成することは、従来より周知の技術であったということができる。
また、公知発明の「照度を検出する照度検出回路71」は「周囲が所定の明るさ以下になった」ことを検出するものであるから、当該周囲の明るさを検出する部分を設ける際にはタイル本体の外表面により近い位置に設けることが望ましいことも自明な事項であって、そのような外表面により近い位置に設ける場合に、太陽電池に貫通孔を設けて配置するものとするか否かは、当業者が適宜選択し得た設計的事項である。
(相違点3について)
例を示すまでもなく、電力を蓄積する手段として電気二重層コンデンサを用いることは、従来より周知の技術である。
(相違点4について)
同様に、道路や壁面等に設置される発光ブロックの表面に配置された透光板の裏面に対し、略直角方向から照らすように当該透光板の下部に点状光源であるLED(発光ダイオード)ランプを配置するように構成することも、例えば、特開平10-219638号公報に示されるように、従来より周知の技術である。
また、判定被請求人(特許権者)は、イ号タイルの発光手段の構成に関して、同上答弁書(例えば、第3頁参照)により乙第3号証(実願昭62-6819号(実開昭63-114398号)のマイクロフィルム)を提出しているが、当該乙第3号証にも示されるように、「発光装置を備えた道路標識」の技術分野においても、その発光手段として光源ランプの光を反射面を用いて拡散するように構成したものは、従来より周知の技術であったといえる。
(相違点5について)
太陽電池の配置形態をどの様なものと選択するかは、発光タイルの具体的な適用態様に応じて当業者が適宜選択し得る設計的事項である(例えば、特開平4-309198号公報の図3には、イ号タイルと同様の太陽電池を用いた照明器具において、その表面の発光手段による光が透過する部分を、太陽電池が設けられていない中央部分に配置するという形態を採用したことが示されている)。
そして、公知発明のL字状とした太陽電池の配置形態を、額縁状のものに変更したことによっても、(意匠的効果の相違はあるとしても)その技術的作用・効果において格別な相違があるものということもできない。

以上のことから、上記相違点1〜5に係るイ号タイルの構成は、いずれも従来より周知の技術を公知発明に適用することにより当業者が適宜採用し得たものといえるから、結局、イ号タイルの構成は、本件発明の特許出願時における公知技術並びに従来より周知の技術から、その出願時に当業者が容易に推考できたものであるということができる。

(3)まとめ
以上検討したとおり、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁、最高裁平成6年(オ)1083号)が判示するところの均等論が適用できるための5つの要件の内、少なくとも第四要件(対象製品の容易推考性)を満たすということができないのであるから、本件発明の構成要件Dとイ号タイルの構成とが構成上異なる部分につき、均等論の適用ができないというべきである。
したがって、イ号タイルの構成は、本件発明の構成要件Dを充足するということができない。

7.むすび
以上検討したとおり、本件発明の他の構成要件の充足性について検討するまでもなく、イ号タイルは、本件発明の構成要件Dを充足するということができないから、本件発明の技術的範囲に属しない。
 
別掲
別紙 物件目録(イ号タイル)

(1)イ号タイルの構成
(a1)角形容器状のタイル本体20と、
(a2)その上面開口に塞ぐように配置され、全体が透光性を備え、表面に凹凸
のアクセント21aが付されているタイル蓋体21とを備えると共に、
(b)タイル蓋体21の透光性領域を透過した太陽光を受光して起電力を発生す
るよう配置された一枚の太陽電池2と、
(c)太陽電池に発生した電力を蓄積する電気二重層コンデンサ3と、
(d)タイル蓋体21の裏面に対し、略直角方向から照らすようにタイル本体2
0の下部に配置された、点状光源であるLEDランプ4aと、
(i)そのLEDランプの光をタイル蓋体の裏面に集めるための反射板22と、
(e)太陽電池に形成した貫通孔に配置した照度センサ23の出力が予め定めた
設定値以下の場合には電気二重層コンデンサ3の蓄積電力をLEDランプ4aへ
自動的に供給してLEDランプを光らせる発光制御手段24とを、
(f)タイル本体20の内部で、前記タイル蓋体21の裏面側に備えるとともに、
(g)前記太陽電池2がアクセント21aの部分を囲む額縁状の形態を備えてい
ることを特徴とする
(h)発光タイル1。


(2)イ号図面の簡単な説明
【図1】 イ号タイルの平面図である。
【図2】 図1のII-II線断面図である。


 
判定日 2006-07-20 
出願番号 特願平11-104058
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (E01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 宮川 哲伸
柴田 和雄
登録日 2004-12-17 
登録番号 特許第3628208号(P3628208)
発明の名称 発光タイル  
代理人 秋山 重夫  
代理人 杉谷 勉  

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