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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680251 審決 特許
無効2008800199 審決 特許
無効2008800108 審決 特許
無効200680074 審決 特許
訂正200639179 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B41J
審判 全部無効 特29条の2  B41J
審判 全部無効 2項進歩性  B41J
管理番号 1171275
審判番号 無効2005-80144  
総通号数 99 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-10 
確定日 2007-06-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3257597号「インクジェット記録装置用インクタンク」の特許無効審判事件についてされた平成18年 5月22日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成18年(行ケ)第10282号 平成18年 9月29日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3257597号の請求項1?4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の主な経緯
平成 4年 2月19日 分割原出願(特願平4-32226号)
平成12年12月21日 本件特許に係る出願
(特願2000-388604号)
平成12年12月21日 本件特許に係る出願に係る審査請求
平成13年12月 7日 本件特許登録(特許第3257597号)
平成14年 8月19日 本件特許に対する異議申立
(異議2002-72022)
平成15年12月25日 取消理由通知(起案日)
平成16年 3月15日 訂正請求・異議意見書
平成16年 7月14日 異議決定(異議2002-72022)
(結論:訂正を認める。請求項1乃至5に係る
特許を維持する。)(起案日)
平成17年 5月12日 本件無効審判請求
(無効2005-80144)
平成17年 9月 6日 答弁書
平成17年11月17日 口頭審理(双方ともに陳述要領書を提出)
平成17年12月19日 上申書(請求人)
平成17年12月19日 上申書(被請求人)
平成18年 5月22日 無効審決(無効2005-80144)
(起案日)
平成18年 6月22日 審決取消訴訟の提起
(平成18年(行ケ)第10282号)
平成18年 7月31日 訂正審判請求(訂正2006-39130)
平成18年 9月29日 特許法181条2項による差し戻し決定
(平成18年(行ケ)第10282号)
平成18年10月 3日 訂正請求のための期間指定通知(特許法
第134条の3第2項)(起案日)
平成18年10月16日 訂正請求(訂正2006-39130に
添付された訂正明細書を本件無効審判請求に
おける訂正請求とみなす。)
(以下、「本件訂正請求」という。)
平成18年12月 8日 本件訂正請求に対する弁駁書(請求人)
平成19年 1月17日 請求人に対する通知書
(訂正2006-39179の訂正認容審決が
確定したことの通知)(起案日)
平成19年 1月17日 請求人に対する審尋(起案日)
平成19年 1月18日 被請求人に対する通知書(請求人への上記
審尋を行った旨の通知)(起案日)
平成19年 1月29日 請求人の上申書
平成19年 2月 2日 被請求人の回答書
平成19年 3月30日 被請求人の意見書

2.本件訂正請求の適否に対する当審の判断
(1)本件訂正請求の内容
本件訂正請求は、以下の訂正事項からなる。

[訂正事項a]訂正前の請求項2における「と、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。」を「と、からなり、前記インク取り出し口の外縁を前記フィルムより外側に突出させたインクジェット記録装置用インクタンク。」と訂正する。
[訂正事項b]訂正前請求項3を削除する。
[訂正事項c]訂正前請求項4の項番号を「3」に繰り上げる。
[訂正事項d]訂正前請求項5の項番号を「4」に繰り上げるとともに、引用する「請求項4」を「請求項3」に訂正する。
[訂正事項e]訂正前段落【0018】中の「またインク供給針が挿通された時点では、取出し口近傍の未破損領域でシール材の抜け出しを防止することができる。」を「またインク供給針が挿通された時点では、インク供給針はその本体の外周にインク取り出し口とフィルムの未破損領域の間で保持されたシール材の内周が密着してインクタンクとのシールが確保される。」と訂正する。

(2)訂正目的
訂正事項aは、異議2002-72022において訂正された本件の特許明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0011】に「図4に示したようにインク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させ外輪形状にする」或いは同段落【0016】に「前述のとおり、インク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させることにより、」と記載されていることを根拠として、請求項2に係る発明において、「インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させた」構成を付加するものであって、訂正前請求項2を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

訂正事項bは、訂正前請求項3を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

訂正事項c及びdは、訂正前請求項4は訂正前請求項1または請求項2を引用し、訂正前請求項5は訂正前請求項4を引用していたところ、いずれも訂正事項bによる訂正前請求項3の削除に伴う訂正後の特許請求の範囲の記載の整合を図るものであって、その引用関係自体を変更するところはない。
そして、これら訂正後請求項3及び請求項4が訂正後請求項1を引用する場合において、訂正事項c及びdは、訂正後請求項3及び請求項4は訂正前後でその記載内容を実質的に変更するところはないところから、明りようでない記載の釈明を目的とするものと認める。
しかし、前記訂正事項aによる訂正前請求項2に関する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は、これら訂正後請求項3及び請求項4が訂正後請求項2を引用する場合においても及ぶので、前記訂正事項aは、訂正後請求項3及び請求項4に関して、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認める。

訂正事項eは、訂正前の本件特許明細書の段落【0014】の「インク供給針9は、その本体の外周にインク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン6の内周が密着して、インクタンク1とのシールが確保される。」なる記載を根拠として、「シール材」が、「インク取り出し口3」と「フィルム4」との間で保持されたこと、「インク供給針はシール材の内周が密着してインクタンクとのシールが確保される」と訂正するものである。
ここで、もともと訂正前請求項1?5項には、フィルム部材がシール材の抜け出しを防止する特定を有するとの特定はなく、前記段落【0014】の記載を合わせて検討すれば、「シール材」によって抜け出し防止の機能があるとはいえず、訂正事項eに係る訂正前の段落【0018】の記載が誤記であることは明らかである。
よって、訂正事項eは、その誤った作用効果の記載を削除し、インク供給針が挿通された時点でのシール材がもともと持っている作用効果について記載したものであるから、誤記の訂正に相当するものと認める。

請求人は、平成18年12月6日付け弁駁書において、シール材が抜け落ちない程度の強度を備えたものであるか否かを問わないことになるから、前記訂正事項eが明りようでない記載の釈明とはいえず、実質上特許請求の範囲の変更・拡張を行うものであると主張している。
しかしながら、前記のように、当該訂正事項eは、明らかな誤記である作用効果の記載を削除し、インク供給針が挿通された時点でのシール材がもともと持っている作用効果について記載したものであって、本件訂正請求により訂正された各請求項に係る発明の奏する作用効果と整合するものである。
よって、請求人のいう、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更したものと解すべきものではなく、請求人の主張は当たらない。

また、請求人は、訂正事項aについて、独立特許要件を満たさないとも主張しているが、特許法第134条の2第5項で同法第126条第5項を準用するに際しての読み替え規定によれば、訂正の適否を判断する際に、独立特許要件を判断すべきなのは、審判請求されていない請求項についての訂正であって、審判請求された請求項についての訂正はこの限りでないことから、この主張は検討を要しない。

前記のように、訂正事項a?dは、特許請求の範囲の減縮を、また、訂正事項c、dは、明りようでない記載の釈明を、更に、訂正事項eは、誤記の訂正を目的とするものであって、特許法第134条の2ただし書きの規定に適合しており、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので、本件訂正請求による訂正を認める。

3.本件特許発明
前記のように本件訂正請求による訂正を認めたことにより、本件特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明は、訂正された本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されたとおりの次のものと認める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項2】キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、
インクを収容する容器と、
インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、
前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、
前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなり、
前記インク取り出し口の外縁を前記フィルムより外側に突出させた
インクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項3】前記インクが多孔質体に保持された状態で前記容器に収容されている 請求項1、または請求項2に記載のインクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項4】前記インク取り出し口の上流側が前記インク吸収用多孔質体に弾接している
請求項3に記載のインクジェット記録装置用インクタンク。

以下、請求項順に「訂正発明1」?「訂正発明4」という。訂正箇所には下線を付した。

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明の特許を無効とするとの審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証ないし甲第20号証を提出し、概ね以下の二つの無効理由3-1、3-2を主張している。
請求人は、平成18年12月6日付け弁駁書において、本件訂正請求が認められるべきでないと主張するが、前記のように本件訂正請求自体は適正なものであるから、この主張は採用できない。
また、請求人は、同弁駁書において、本件訂正請求が独立特許要件を満たさないとも主張するが、前記のように訂正請求の適否を検討するに際して、独立特許要件を満たすか否かの検討を行うのは無効審判の請求がされていない請求項に係る訂正の場合であるし、訂正請求の適否は、直前の明細書である異議2002-72022の異議決定で訂正請求が認められた明細書と対比して行うことが求められているに過ぎない。
そして、本件審判請求における無効理由の検討は、本件特許に係る出願の分割適否を含めて以下で行っており、当該請求人の主張は検討の限りではない。

なお、本件訂正請求が認められたことにより、本件特許請求の範囲の各請求項に係る発明は前記訂正発明1?4となっているが、請求人は本件訂正請求を認めた場合についての無効理由詳細を提示していないので、請求人の主張については、無効審判請求がなされた時点における本件特許請求の範囲の請求項1、2、4及び5に係る発明に対応する訂正発明1?4に読み替えて記載する。
ここで、訂正前の請求項1に係る発明は訂正発明1に、訂正前の請求項2に係る発明は訂正発明2に、訂正前の請求項4に係る発明は訂正発明3に、及び訂正前の請求項5に係る発明は訂正発明4に各々対応する。

甲第1号証の1:本件特許公報(特許第3257597号)
甲第1号証の2:異議2002-72022の異議決定
甲第2号証:当初明細書(原出願:特願平4-32226号)
甲第3号証:原出願における平成11年2月18日付け手続補正書
(特願平4-32226号)
甲第4号証の1:特開平5-229133号公報(原出願の公開公報)
甲第4号証の2:原出願の特許公報(特許第3246516号)
甲第5号証:特開平4-257452号公報
甲第6号証:実願昭62-109914号
(実開昭64-16334号)のマイクロフィルム
甲第7号証:特開昭63-3961号公報
甲第8号証:特開平1-180351号公報
甲第9号証:特開平3-295665号公報
甲第10号証:特開昭63-22653号公報
甲第11号証:特開平3-92356号公報
甲第12号証:実願昭59-200491号
(実開昭61-115641号)のマイクロフィルム
甲第13号証:特開平4-14462号公報
甲第14号証:特開平4-110157号公報

甲第15号証:広辞苑第4版、第2073頁、「パッキング」の項
甲第16号証:原出願における平成12年10月17日付け拒絶理由通知書
(原出願:特願平4-32226号)
甲第17号証:原出願における平成12年12月21日付け手続補正書
(原出願:特願平4-32226号)
甲第18号証:原出願における平成12年12月21日付け意見書
(原出願:特願平4-32226号)
甲第19号証:純正品及び、エコリカ・リサイクルインクカートリッジに
於けるリングの抜け落ち確認試験結果報告書
甲第20号証:特開平3-219961号公報

3-1 無効理由(その1)
(1)本件特許の出願日について
本件特許は、平成12年12月21日に原出願(特願平4-32226号)から分割出願されたものである(甲第1号証の1)が、原出願は、出願当初の明細書(甲第2号証)を平成11年2月18日付けの手続補正(甲第3号証)で全文補正し、当該補正後の請求項2に、シール材の構成を特定する文言として「供給針の筒胴部の外周に弾接してインクの流出を防止する」という語を新たに追加するとともに、原出願の明細書の要旨であった「インクタンク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることにより、簡単な構造で安価にフィルムを保護し、使用者が不用意にフィルムを破るのを防止できる点」について当該補正後の請求項5に限定する構成要素として残しているものの、課題を解決するための手段及び発明の効果の項目からは削除して、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出された構成を含まないインクタンクも対象となるようにその内容が変更されている。
しかし、この平成11年2月18日付け手続補正(甲第3号証)は、原出願の明細書の要旨を変更するものであるから、平成5年改正前特許法第40条の規定に基づき、原出願の出願日は、平成11年2月18日に繰り下がるものである。
そうすると、本件特許については、分割による出願日の遡及効は、要旨変更のあった手続補正がなされた平成11年2月18日の時点までしか得られないこととなる。

また、仮に、平成11年2月18日付けの手続補正(甲第3号証)が原出願の明細書の要旨を変更するものではないと判断されたとしても、特許法第44条における分割の適否は、原出願の出願当初の明細書(甲第2号証)を基準として判断されるべきところ、分割出願された本件特許の明細書(甲第1号証の1)には、平成11年2月18日付け手続補正書(甲第3号証)における上記の変更に加えて、同補正書には記載のなかった「またインク供給針が挿通された時点では、取出し口近傍の未破損領域でシール材の抜け出しを防止することができる。」なるフィルムで封止されることによる実質的効果が追加されているから、本件特許の分割出願は、出願当初の明細書に記載された発明とは同一性を欠くこととなり、出願日の遡及効が認められない不適法な分割出願と認められる。

よって、本件特許の分割出願は、出願日の遡及効が認められない不適法な分割出願と認められる。
そうすると、本件特許については、分割による出願日の遡及効が認められず、平成12年12月21日の分割時に出願されたものとみなされるべきである。

以上のとおりであるから、以下の無効理由が存在する。

(2)原出願の出願公開公報(甲第4の1号証)を主たる引用文献とする特許法第29条の規定に該当する違反について
訂正発明1?4は、本件出願における不適法な出願分割により、出願日の遡及効が得られないか、又は、原出願における要旨変更補正により、出願日の遡及効が平成11年2月18日時点までしか得られないために、甲第4の1号証に記載された発明と同一か、又は同発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に該当し、訂正発明1?4に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(3)特開平4-257452号公報(甲第5号証)を主たる引用文献とする特許法第29条の規定に該当する違反について
訂正発明1、3、4は、本件出願における不適法な出願分割により、出願日の遡及効が得られないか、又は、原出願における要旨変更補正により、出願日の遡及効が平成11年2月18日時点までしか得られないために、その出願前に日本国内において頒布された甲第5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正発明1、3、4に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

3-2 無効理由(その2)
(1)前記「3-1 無効理由(その1)」で指摘する不適法な出願分割或いは原出願における要旨変更補正がなく、本件出願日が原出願の平成4年2月19日に遡及効が認められるとしても、以下の無効理由が存在する。

(2)特許法第29条の規定に該当する違反について
訂正発明1?4は、甲第6?13号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、訂正発明1?4に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

(3)特許法第29条の2の規定に該当する違反について
また、訂正発明1、3、4は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された特開平4-110157号(甲第14号証)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、その発明者が上記出願(甲第14号証))の発明者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願が上記出願(甲第14号証)の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定に該当し、訂正発明1、3、4に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求め、請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がないと主張している(なお、被請求人の主張についても、請求人の主張と対比する上で、訂正発明1?4に読み替えて記載する。)。

4-1 無効理由(その1)の主張に対して
訂正発明1?4は、適法に分割出願されたものであると共に、原出願における手続補正に要旨変更は存在せず、訂正発明1?4の出願日は原出願の出願日まで遡及効を有するのであるから、これら分割不適法或いは原出願における要旨変更の存在を前提とする請求人主張は理由がない。

4-1-1 原出願における平成11年2月18日付け手続補正に要旨変更が含まれるとの主張に対して
要旨変更があるとして問題とされる原出願の当該補正後の請求項2に記載した事項は、全て、「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載」された事項の範囲内のものである。

(1)「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通して、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、前記円錐面に前記筒胴部の内径よりも小さな直径のインク供給針が複数穿設されたインク供給針を備えたインクジェット記録装置に着脱されるインクタンク」について(構成(1))
原出願の当初明細書の段落【0012】「…インク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン6の内周とインク供給針9の外周が密着し、インクタンク1とインク供給針9の接続部のシールが確保される。…」及び【0013】「…インク供給針9の先端は円錐形状をしており、円錐面には直径φ0.3mmのインク供給孔9aが複数個空けられている。…」との記載があるように、原出願の当初明細書には、「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通して、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、前記円錐面に前記筒胴部の内径よりも小さな直径のインク供給孔が複数穿設されたインク供給針を備えたインクジェット記録装置に着脱されるインクタンク」を示す構成が開示されている。

(2)「1つの面に前記インク供給針が挿通可能なインク取り出し口を備えた容器」について(構成(2))
原出願の当初明細書に添付された【図2】及び【図3】のとおり、インク容器の1つの面にインク供給針9が挿通可能なインク取り出し口3を備えた構成が開示されているから、原出願の当初明細書には、「1つの面に前記インク供給針が挿通可能なインク取り出し口を備えた容器」を示す構成が開示されている。

(3)「インクを保持して前記容器に収容されたインク吸収用多孔質体」について(構成(3))
原出願の当初明細書の段落【0011】「…インクタンク1はややテーパ形状の内部に多孔質吸収材2を装填しており、多孔質吸収材2内インクを保持、貯蔵している。…」及び【図2】から明らかなように、原出願の当初明細書には、「インクを保持して前記容器に収容されたインク吸収用多孔質体」を示す構成が開示されている。

(4)「前記インク取り出し口に設けられ、かつ前記インク供給針が挿通された状態で、前記インク供給針の筒胴部の外周に弾接してインクの流出を防止するシール材」について(構成(4))
原出願の当初明細書の【請求項1】「…該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材」、段落【0012】「…それと同時にインク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン6の内周とインク供給針9の外周が密着し、インクタンク1とインク供給針9の接続部のシールが確保される。…」(ここで、「パッキン6」とは、前記「シール材」に相当する。)及び【図2】、【図3】から明らかなように、原出願の当初明細書には、「前記インク取り出し口に設けられ、かつ前記インク供給針が挿通された状態で、前記インク供給針の筒胴部の外周に弾接してインクの流出を防止するシール材」を示す構成が開示されている。

(5)「インクジェット記録装置用インクタンク」について(構成(5))
原出願の当初明細書の段落【0011】「図1は本発明によるインクジェット記録装置に用いるインクタンクの実施例を示した図である。」記載にあるように、「インクジェット記録装置用インクタンク」を示す構成が開示されている。

(6)発明の目的について
当該手続補正後の原出願の明細書に記載された発明の目的は、
「インクタンク交換時に記録ヘッドへの空気の侵入を可及的に抑え、かつ接続部のシールを確保しつつ、安全なインク供給針を備えたインクジェット式記録装置を提供するものである。また本発明の他の目的は、同上記録装置に適したインクタンクを提供すること」
である。
他方、原出願の当初明細書には、発明の目的として、
「インクタンク交換時に侵入する空気が少なく、また接続部のシールを確保しつつ、安全なインクジェット式記録装置を提供する」
という点で、共通し、発明の目的に変更はない。

(7)作用・効果について
当該手続補正後の原出願明細書に記載された発明の効果は、
「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、インクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、インク供給針は、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、かつ円錐面に前記筒胴部の内径よりも小さな直径のインク供給孔が複数穿設されているので、インク供給針の先端の先鋭度を下げることができて、また、複数のインク供給針によりメニスカスの体積を減少させてインクタンクの脱着による空気の侵入を防止することができる。」
ことである。
これに対して、原出願の当初明細書には発明の効果として、次のような記載がある。
「本発明によれば、インク供給針に微小径のインク供給孔を設けたことによりインクタンク交換時の気泡の侵入が少ないインク供給装置を提供できる。またインクタンクのインク取り出し口外縁をフィルムより突出させることにより、簡単な構造で安価にフィルムを保護し、使用者が不用意にフィルムを破るのを防止できる。さらにフィルムに薄く伸びにくい膜を用いることにより、インクタンクとインク供給針間で発生するシール不良を防止することができる。、」
以上のとおり、両者は、「インク交換時の空気の侵入を防止する」という点で共通する。
また、当該手続補正後の明細書には、「インク供給針は、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、かつ円錐面に前記筒胴部の内径よりも小さな直径のインク供給孔が複数穿設されているので、インク供給針の先端の先鋭度を下げることができ」とも記載されているが、前記のとおり、インク供給針は、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、かつ円錐面に前記筒胴部の内径よりも小さな直径のインク供給針が複数穿設されている」ことは、原出願の当初明細書にも開示された構成であり、インク供給針の先端の先鋭度を下げることができるとの作用効果は、原出願の当初明細書の構成に基づいて当然に生じた効果に過ぎない。
なお、東京高裁昭和55年11月12日判決(取消訴訟集(昭和55年)549頁)では、「補正により明細書に記載した作用効果が、出願当初の明細書又は図面に記載された発明の構成に基づいて当然生ずるものにすぎないものであるときは、そのような作用効果の記載をもって要旨変更とすることはできない。」としている
いずれにしても、当該補正前も補正後も作用効果に実質的な変更はない。

(8)原出願の当初明細書の「インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出している」という部分について
当該「インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出している」という部分に関して、原出願の当初明細書には以下の記載がある。
段落【0014】「…しかし一方では、使用者のハンドリングによりフィルム4を不用意に破る危険性がある。そこでインク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させ外輪形状にすることで、図4に示すように使用者の指16等が直接フィルム4に強く触れることがなく、インクタンク1を交換する時に不用意にフィルム4を破るのを防止している。またこのような構造にすることにより、他部品を用いることのない単純な構造、即ち低コストでフィルム4を保護することができる。」
段落【0017】「インク取り出し口3に配したフィルム4に薄膜を用いた場合、フィルム4をより確実に保護する必要がある。まず前述のとおり、インク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させることにより、単純な構造で目的を達成できる。さらに図6に示すように、インク取り出し口外縁3aの端に強度の強い第2のフィルム20を貼ることで、より確実にフィルム4を保護してもよい。なお、第2のフィルム20とパッキン6の距離を十分確保することで、図5に示したようなシール不良が発生することはない。また第2のフィルム20をインクタンク交換時に剥がすようにして使用することでも、シール不良を防止し、かつフィルム4を保護することができることは言うまでもない。」
これらの記載にみられるように、請求項の「インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していること」という部分は、「フィルムを保護する」 という目的のために採られた構成である。
原出願の当初明細書記載の発明及び補正後の発明の目的は、従来技術の
(1)インクタンク交換時に記録ヘッドに流れる気泡の量が多く、印字不良を発生させる要因となっていること。
(2)インク供給針は先端が鋭く加工されており危険であるため、その安全性を確保する必要があること。
という技術的課題を解決することにあり、「インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出」させることによって、「フィルムを保護する」ということは、原出願発明の本来の目的を達成するための構成ではなく、付加的な構成にすぎない。
かかる付加的な部分を削除しても、発明の本来の目的、さらには、発明の本質には、何ら変わりはないのであり、請求人が主張するような発明の「要旨を変更」したことにはならない、というべきである。

(9)まとめ
以上のとおり、原出願の当初明細書のインクカートリッジは、平成11年2月18日付け手続補正後の発明の構成とインク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出する構成とからなるものであったのに対して、当該補正後は補正後の発明の構成のみからなるインクカートリッジに補正されたものであって、技術事項の全部は、原出願の当初明細書に記載されている。
よって、当該補正は「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載」された事項の範囲内でなされたものであり、かつ発明の目的や作用効果を変更するものではないから、請求人の要旨変更の主張は理由がない。

4-1-2 本件出願の分割出願に際して、原出願の当初明細書に記載された発明との同一性を欠き、不適法な分割であるとの主張に対して
原出願の当初明細書添付の図3及び分割直前の明細書の【図3】にも同様に、フィルムがパッキン(シール部材)を支えている図が記載されている以上、上記図3から、フィルムがパッキン(シール部材)の抜け出しを防止する程度の強度を備えていることは明白である。
よって、本件特許は、適法に分割出願されたものであって、請求人の分割不適法の主張は理由がない。

4-2 無効理由(その2)の主張に対して
(1)訂正発明1?4が、甲第6?13号証から容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に該当するとの主張に対して
請求人は、甲第6?13号証を漫然と並べ、各号証に個々に記載された技術事項をあたかも一つの公知文献であるかのように取り扱い、その全体と訂正発明1?4との一致点と相違点を抽出して議論を行っている。
しかし、発明を、個別の技術要素に分解して、その個別の技術要素を含む刊行物を羅列し、その個別の技術要素がそれぞれ個別の刊行物に仮に記載されているからといって、発明の進歩性を特許法第29条第2項に従って否定することはできない。
この点において、請求人の主張は、その論理自体において失当である。

(2)訂正発明1、3、4が、特開平4-110157号(甲第14号証)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定により無効との主張に対して
甲第14号証第1図及び第2図のインクカートリッジ30に取り付けられる繊維束部材49は、インク供給針ではないから、甲第14号証にはインク供給針を挿通してインクを供給するものは記載されていない。
また、甲第14号証記載のパッキン40は、インク受容部42の外周に弾接して外部の空気がインク路33へ直接的に侵入するのを防止するものであるが、インク供給針の外周にシール材が弾接していない構成である。
よって、これらの甲第14号証の構成をもって、訂正発明1、3、4と同一であるとは到底いえず、特許法第29条の2の要件を充足する余地は全くない。

5.甲号各証の記載内容
5-1 甲第1号証の1:本件特許公報(特許第3257597号)
【特許請求の範囲】
「【請求項1】 インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項2】 キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給針が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、
インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項3】 前記インク取り出し口の外縁が、前記容器の面よりも外側に突出している請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項4】 前記インクが多孔質体に保持された状態で前記容器に収容されている請求項1、または請求項2に記載のインクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項5】 前記インク取り出し口の上流側が前記インク吸収用多孔質体に弾接している請求項4に記載のインクジェット記録装置用インクタンク。」

【0003】「【発明が解決しようとする課題】これによれば、パイプの先端を斜めにカットした注射針状のインク供給針が不要となり、カートリッジを記録ヘッドに安全に装着できるものの、シール材が多孔質弾性体で構成されているため、シール材の細孔を通して表面にインクがにじみ出るという問題や、フィルムがインク収容領域側に位置するため、インク供給針の挿通により破損したフィルムがインク供給針に接触してインクの流れを阻害するという問題がある。本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、安全なインク供給針に対応でき、かつ記録ヘッドに確実にインクを供給することができるインクジェット記録装置インクタンクを提供することである。」

【0004】「【課題を解決するための手段】このような問題を解消するため本発明においては、インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、から構成されている。」

【0005】「【作用】インク取り出し口がゴム栓に比較して簡単に挿通することができるフィルムにより封止されているので、先鋭度の低いインク供給針でも簡単に挿通でき、またインク供給針に挿通後は環状シール材により気密性を確保する。またインク供給針が挿通された後の破損したフィルムは、インク供給針の先端には到達しないため、インクの流れを阻害することにはならない。」

【0007】「一方、インクタンク1は、図1に示したように通気孔7により外気と連通する内部には、多孔質吸収材2が装填されていて、多孔質吸収材2内にインクを保持、貯蔵している。インク取り出し口3は、タンク内に突出するように延長され、その上面にナイロン繊維またはステンレス繊維からなるフィルタ5が熱溶着または接着剤により固定され、フィルタ5を多孔質吸収材2に押し付けている。」

【0018】「【発明の効果】以上、説明したように本発明においては、インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ容器の底面に筒状に形成されてインクが流入するインク取り出し口と、インク取り出し口に設けられ、インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、シール材のインク供給針の挿通側を封止し、かつインク取り出し口に接着されたフィルムとから構成されているので、ゴム栓に比較して簡単に挿通することができるフィルムにより封止されているので、先鋭度の低いインク供給針が使用でき、またインク供給針の挿通により破損したフィルムによるインク供給針の封鎖がなく、確実に記録ヘッドにインクを供給でき、さらには未使用状態ではフィルムによりインクの流出を防止でき、またインク供給針が挿通された時点では、取出し口近傍の未破損領域でシール材の抜け出しを防止することができる。」

5-2 甲第2号証:当初明細書(原出願:特願平4-32226号)
「発明の名称:インクジェット記録装置」
【特許請求の範囲】
「【請求項1】 インクジェット記録装置において、記録ヘッドと該記録ヘッドにインクを供給するインクタンクと、該インクタンクからインクを抽出するインク供給針と、前記インクタンクのインク取り出し口に配されたフィルムと、該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク供給針の先端に少なくとも1個の微小径からなるインク供給孔を設け、前記インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】 インク取り出し口外縁の最大内径あるいは最長対角線長さをdとすると、
(インク取り出し口外縁の突出量)≧d/10
であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】 インク取り出し口に配したフィルムに薄膜を用いたことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。」

【従来の技術】
【0002】「従来、インクジェット記録装置の記録ヘッドへのインク供給は、交換式のインクタンクが多く用いられている。交換式のインクタンクにおいて記録ヘッドとの接続部から気泡の侵入が少なく、またインクの漏れが発生しないような構成が考案されている。従来のインクタンクからインクを抽出する技術としては、特開平3-92356号広報に記載されたものがある。これは図7に示すようにインクタンク30下部のインク取り出し口34にゴム栓31を具備し、このゴム栓31に金属製のインク供給針32を挿入しインクを抽出していた。インク供給針32はゴム栓31に貫通させるため、ステンレス製のパイプを先端が鋭い針となるように絞り加工を行い、さらにインクの流路としてパイプの側面に直径1mm程度のインク供給孔33を設けていた。」

【発明が解決しようとする課題】
【0004】「しかし前述の従来技術では、インクタンクの交換時にインク供給孔は大気と接触するために、凹形状のメニスカスが生じるが、従来のステンレス製のインク供給針はインク供給孔が1mm程度と大きく、従ってメニスカスの体積が大きく、インクタンク交換時に記録ヘッドに流れる気泡の量が多く、印字不良を発生させる要因となっている。」

【0005】「またインク供給針は先端が鋭く加工されており危険のため、安全性を確保するためにはシャッタ等の安全装置の設置が必要であった。」

【0006】「本発明はかかる従来技術の課題を解決するものであり、その目的とするところは、インクタンクの交換時に流路に侵入する気泡が少なく、また接続部のシールを確保した信頼性の高い、かつ低コストで安全なインク供給装置を装備したインクジェット記録装置を提供するものである。」

【課題を解決するための手段】
【0007】「 本発明はインクジェット記録装置において、記録ヘッドと該記録ヘッドにインクを供給するインクタンクと、該インクタンクからインクを抽出するインク供給針と、前記インクタンクのインク取り出し口に配されたフィルムと、該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク供給針の先端に少なくとも1個の微小径からなるインク供給孔を設け、前記インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることを特徴とする。」

【0008】「さらにインク取り出し口外縁の最大内径あるいは最長対角線長さをdとすると、
(インク取り出し口外縁の突出量)≧d/10
であることを特徴とする。」

【0009】「またインク取り出し口に配したフィルムに薄膜を用いたことを特徴とする。」

【実施例】
【0011】「図1は本発明によるインクジェット記録装置に用いるインクタンクの実施例を示した図である。インクタンク1はややテーパ形状の内部に多孔質吸収材2を装填しており、多孔質吸収材2内にインクを保持、貯蔵している。多孔質吸収材2に押し付けられて、インクタンク1下部のインク取り出し口3にナイロン繊維またはステンレス繊維よりなるフィルタ5がある。フィルタ5は熱溶着または接着剤により固定されている。インク取り出し口3の外気側にはフィルム4が溶着あるいは接着されている。フィルム4とフィルタ5との間には空間8が形成されインクで満たされており、空間8にはインク取り出し口3とフィルム4間で保持したパッキン6が装着されている。インク取り出し口外縁3aはフィルム4に対し外側に突出して外輪形状をなしている。なお、7は通気孔である。」

【0012】「図2はキャリッジ12上に配した記録ヘッド10とインクタンク1の設置状態の実施例を示した図である。記録ヘッド10はキャリッジ12に固定され、インクタンク1はキャリッジ12に作られたガイド13に沿って上方より挿入する。インクタンク1を度当たるまで挿入すると、インク供給針9がフィルム4を破り、インク供給針9の先端部のインク供給孔9aは空間8内へ突出する。それと同時にインク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン6の内周とインク供給針9の外周が密着し、インクタンク1とインク供給針9の接続部のシールが確保される。」

【0013】「インク供給針9の先端は円錐形状をしており、円錐面には直径φ0.3mmのインク供給孔9aが複数個空けられている。インク供給孔9aには図3で示すようにメニスカス15が形成されている。しかしインク供給孔9aの直径はφ0.3mmと小さいため、メニスカス15の体積は大径のインク供給孔の場合と比較しても十分に小さい。従ってインクタンク1の交換時にインク供給孔9aより侵入する空気を微小量に抑えることができる。」

【0014】「フィルム4はアルミ、ポリスチレン、ナイロンの3層構造である。フィルム4にはインクタンク1内に空気が侵入するのを防ぐためのガスバリア性に優れた膜層が設けられており、本実施例ではアルミを用いている。アルミの代わりにステンレス、ポリプロピレン等を用いることも可能である。インクタンク1はポリスチレンで成形されており、フィルム4のポリスチレン面とインクタンク1のポリスチレンで熱溶着されフィルム4は固着している。フィルム4の総厚みは50μm程度で十分に薄いため、樹脂成形で安全性の高いインク供給針9であっても容易に貫通できる。しかし一方では、使用者のハンドリングによりフィルム4を不用意に破る危険性がある。そこでインク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させ外輪形状にすることで、図4に示すように使用者の指16等が直接フィルム4に強く触れることがなく、インクタンク1を交換する時に不用意にフィルム4を破るのを防止している。またこのような構造にすることにより、他部品を用いることのない単純な構造、即ち低コストでフィルム4を保護することができる。」

【0015】「インク取り出し口外縁3aの突出量について、本発明者が種々実験を重ねた結果、インク取り出し口外縁3aの最大内径(d)に対し、インク取り出し口外縁3aの突出量(h)を、h≧d/10とするのが好ましいことが判明した。この時、使用者が通常の取り扱いをする限り、例えば故意に指の爪先をフィルム4に立てるようなことをしなければ、フィルム4が破れることはない。ここで突出量を大きくすればするほどフィルム4をより安全に保護することはできるが、それに伴いインクを抽出する位置、即ち空間8がノズルに対し高くなりインクの供給圧に影響したり、また高さ方向のレイアウトに影響する等の問題が発生するため、より好ましくは、
d/4≧h≧d/10である。なおインク取り出し口3の形状が多角形の場合は、最長対角線長さをdとする。」

【0016】「ここでインクタンク1が40℃を越えるような場所に放置された場合を考える。インクタンク1がまだ熱い状態のうちにインクタンク1をインク供給針9に接続すると、インク供給針9がフィルム4を破る時にフィルム4は通常より伸びる。そして図5に示されるように、伸びたフィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込み、隙間17が形成されてシールが十分に確保されない場合がある。そこでインク取り出し口3に配するフィルム4には、例えばポリスチレン層さらにナイロン層を廃したような、より薄く伸びにくい膜を用い、フィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込む前に確実に破れるようにする。・・・」

【0017】「インク取り出し口3に配したフィルム4に薄膜を用いた場合、フィルム4をより確実に保護する必要がある。まず前述のとおり、インク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させることにより、単純な構造で目的を達成できる。さらに図6に示すように、インク取り出し口外縁3aの端に強度の強い第2のフィルム20を貼ることで、より確実にフィルム4を保護してもよい。なお、第2のフィルム20とパッキン6の距離を十分確保することで、図5に示したようなシール不良が発生することはない。また第2のフィルム20をインクタンク交換時に剥すようにして使用することでも、シール不良を防止し、かつフィルム4を保護することができることは言うまでもない。」

【発明の効果】
【0018】「本発明によれば、インク供給針に微小径のインク供給孔を設けたことによりインクタンク交換時の気泡の侵入が少ないインク供給装置を提供できる。またインクタンクのインク取り出し口外縁をフィルムより突出させることにより、簡単な構造で安価にフィルムを保護し、使用者が不用意にフィルムを破るのを防止できる。さらにフィルムに薄く伸びにくい膜を用いることにより、インクタンクとインク供給針間で発生するシール不良を防止することができる。」

【図面】
実施例を示す図1?図5では、いずれも、インク取り出し口の外縁はフィルムより外側に突出した状態が記載されており、特許請求の範囲に記載された発明の実施例を示す図6では、図1ないし図5と同様の位置にフィルムが接着されているインク取り出し口の外縁にさらにフィルムが接着されて、フィルムが二重になっている状態が記載されている。また、図4では、指の第一関節より先端部の腹の部分がインク取り出し口の外縁に接触しているが、フィルムには接触していない状態が記載されている。

5-3 甲第4号証の1:特開平5-229133号公報
「発明の名称:インクジェット記録装置」
当該甲4の1は、原出願の出願公開公報であり、原出願の出願当初明細書に相当するものである。
よって、当該甲4の1の記載内容として、先の「5-2 甲第2号証:当初明細書(原出願:特願平4-32226号)」の前記摘記を援用する。

5-4 甲第4号証の2:原出願の特許公報(特許第3246516号)
「発明の名称:インクジェット記録装置、及びこれに使用するインクタンク」
当該原出願の特許公報は、訂正2002-39114号の特許審決公報のごとくに訂正がなされている(提出された乙第1号証の記載内容)に加え、その後に請求された訂正2006-39179による訂正審判の認容審決が確定したので、その記載を省略する。
なお、訂正が認容された特許請求の範囲の記載は、「6.乙号証の記載内容」の箇所に記載する。

5-5 甲第5号証:特開平4-257452号公報
「発明の名称:インクジェット記録装置」

【特許請求の範囲】
「【請求項1】 インクジェット記録装置において、インクを注入したインクタンクと、該インクタンクからインクを抽出する樹脂成形のインク供給針と、前記インクタンクのインク取り出し口に融着したフィルムと前記インク取り出し口と、前記フィルム間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク供給針の先端に複数個の微小径からなるインク供給孔を設けたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】 インク供給針の先端に直径がφ0.1?φ0.4mmの範囲の複数個のインク供給孔を設けたことを特徴とする請求項1のインクジェット記録装置。」

【発明の詳細な説明】
【0002】「・・・従来、インクタンクからのインク抽出方法は図6に示す如く、インクタンク30下部のインク流出口にゴム栓31を具備し、このゴム栓31に金属製のインク供給針32を挿入しインクを抽出していた。インク供給針32は、ゴム栓31に貫通させるため、ステンレス製のパイプを先端が鋭い針となるように絞り加工を行い、更にインクの流路として、パイプの側面に直径が1mm程度のインク供給孔33を設けていた。」

【0005】「更にインクタンクの交換時にインク供給孔は大気と接触するために、凹形状のメニスカスが生じるが、従来のステンレス製のインク供給針はインク供給口がφ1mm程度と大きく、従ってメニスカスの体積が大きく、インクタンク交換時にインクジェットヘッドに流れる気泡の量が多く、印字不良を発生させる要因となっている。」

【0006】「また従来のインク供給針は先端が鋭く加工されており危険のため、安全性を確保するためには、シャッタ等の安全装置の設置が必要であった。」

【0007】「本発明はかかる従来技術の課題を解決するものであり、その目的とするところは・・・インクタンクの交換時に流路に侵入する気泡の少ない、且つ低コストで安全なインク供給装置を装備したインクジェット記録装置を提供するものである。」

【0010】「図中1はインクタンク、2はインクタンクに挿入したインク含浸体のフォーム、3はインクタンク1に設けたインク取り出し口、4はインク取り出し口4(注:3の誤記と認められる。)に熱融着したアルミラミネートフィルム(以後フィルムと称する)、5はインク取り出し口4(注:3の誤記と認められる。)に貼られたフィルタ6は樹脂成形のインク供給針、7はキャリッジ、8はインクである。また9はインク供給針6とヘッドを接続する供給パイプ、10はインクジェットヘッド(以後ヘッドと称す)、11はインク供給針6とインクタンク1のシールを確保するパッキンである。インク供給針6の先端は円錐形状をしており、円錐面には直径φ0.3mmのインク供給孔6-aが多数個あけられている。フィルム4はアルミとポリエチレンとナイロンの3層構造をしており総厚みは50μmである。従って十分に薄いため、樹脂成形で安全性の高いインク供給針6であっても容易に貫通できる。」

【0011】「次に図1、図2、図3を用いて動作の説明を行う。・・・インクタンク1を上から下に装着すると、インク供給針6がフィルム4を破る。その直後インクタンク1のインク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン11の内周とインク供給針6の外周が密着しインクタンク1とインク供給針6の接続部のシールが確保される。」

【0012】「このメニスカス12の持つ毛細管力はインク供給孔6-aの直径がφ0.3mmの場合-50mmAq程度である。一方インクタンク1の内部の負圧はインク8が満たんの初期状態で-30mmAq程度であり、従ってインク供給孔6-aに形成したメニスカス12でインク8を保持できる。」

【0014】「図4は通常のインクタンク1の交換時のインク供給針6の詳細を示す図であり、図1においてヘッド10内にインク8が充填されている状態を示す。インク供給針6のインク供給孔6-aには図で示すようにメニスカス13が形成されている。しかしインク供給孔6-aは上記のよう直径0.3mmと小さい為、メニスカス13の体積は大径のインク供給孔の場合と比較しても十分に小さい。従ってインクタンク1の交換時にインク供給孔6-aより浸入する空気は微少量に抑えることができる。」

【図面】
図1、図2及び図3は、甲5に記載された発明の実施例を示しており、甲5の上記記載内容を併せ考慮すると、その内容は次のとおりである。
インクタンク1、キャリッジ7、インクジェットヘッド10が記載され、インクタンク1がキャリッジ7に装着されている状態が示されているが、インクタンク1の底面にはインク取り出し口3が設けられ、キャリッジ7にはインク供給針6が設置され、このインク供給針6がインク取り出し口3の底面に接着されているフィルム4を突き破ってインク取り出し口3内に進入している。インク供給針6はインクジェットヘッド10に連通し、インクタンク1内のインクはインク供給針6を通してインクジェットヘッド10のノズル10-aに達するようになっている。インク供給針6には、先端を上向きにした場合に、図面上左右に突出しているフランジ(縁)様部材(以下「フランジ部材」という)が付いている。インク取り出し口3には、フィルムの内側部分に、インク供給針6の先端からフランジ部材までの部分の外周にその内周が密着し、かつ、インク取り出し口の内周にその外周が密着しているパッキン11が配置されている。インク供給針6は、先端が円錐面として形成されており、先端にはインク供給孔6-aが複数個穿設され、同インク供給孔6-aにはメニスカス12が形成されている。

5-6 甲第11号証:特開平3-92356号公報
「発明の名称:インクジェット記録装置」

特許請求の範囲の請求項1
「ヘッド基板の片面に設けられた流路と、該流路に連通して該流路反対面へ貫通したノズルと、前記流路に連通したインク供給口に設けた第一のフィルターと、該供給口に連通し前記第1のフィルター上方に設けた供給針と、該供給針に着脱可能に設置され、上部に通気孔を有するインクタンクとを備え、該インクタンクにおいて内部にインクを保持吸収するための吸収材と該吸収材に接触してインクタンク出口に配された第2のフィルターと該第2のフィルターと空間を隔てて配されたゴム栓とを備え、前記インクタンクを装着したとき、前記供給針が前記ゴム栓を貫通すると共に、前記空間内へ突出することを特徴とするインクジェット記録装置。」

2頁左下欄18行?右下欄2行「インクタンク17はややテーパ状の内部に吸収材18を装填しており、吸収材18内にインクを保持、貯留している。吸収材18に押し付けられてその下部にナイロン繊維またはステンレス繊維より成る第2のフィルター19がある。」

5-7 甲第15号証:広辞苑第4版、第2073頁、
パッキング【packing】の項
「(3)管の接目などに気密・水密などの目的で挟む材料。ゴム・麻糸屑・石綿・銅販・鉛・プラスチックなどを用いる。パッキン。」

5-8 甲第16号証:原出願における平成12年10月17日付け拒絶理由通知書(特願平4-32226号)

5-9 甲第17号証:原出願における平成12年12月21日付け手続補正書(特願平4-32226号)

5-10 甲第18号証:原出願における平成12年12月21日付け意見書(特願平4-32226号)

5-11 甲第19号証:純正品及び、エコリカ。リサイクルインクカートリッジに於けるリングの抜け落ち確認試験結果報告書
2頁目に、純正品PMIC1C?ICM32とそれのリサイクル品であるECI-E01C?ECI-E32Mを対比したNo.1?No.19についての「リングの抜け落ち確認試験結果」が示されている。
2頁目「1.純正品インクカートリッジ及び、エコリカ・リサイクルインクカートリッジ双方各1個ずつを使用して実験を行いました。
2.インク供給口(吐出口)のフィルムを剥がし、未破損領域が無いことを確認した上で、プリンタへの脱着を10回繰り返し、リングが抜け落ちているか否か、確認を行いました。1回脱着する毎に、リングが抜けていないか、抜けかかっていないか確認しましたが、抜けたものは無く抜けかかった様子も一切見られませんでした。」
また、「純正IC5L06カートリッジ」についての「インク供給口(吐出口))のフィルム除去前」の写真と「インク供給口(吐出口))のフィルム除去後」の写真とが例示されている。

6.乙号証の記載内容
6-1 訂正2002-39114号の特許審決公報
原出願に係る特許第3246516号の特許請求の範囲は、前記のように訂正されているので、当該乙号証の記載は省略する。

なお、訂正2006-39179における訂正認容審決で訂正確定した特許第3246516号の特許請求の範囲を、以下に記載する。

「発明の名称:インクジェット記録装置」
【特許請求の範囲】
「【請求項1】キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するインク供給針に、装着前にはインク取り出し口をフィルムで封止したインクタンクが着脱可能に設けられたインクジェット記録装置において、前記インク供給針は、樹脂成形で、前記フィルムを貫通できるように先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、かつ前記円錐面のみに前記筒胴部の内径よりも小さく、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が複数穿設されているインクジェット記録装置。」
(特許請求の範囲に記載される請求項は、この請求項1のみである。)

7.当審の判断
請求人が主張する無効理由1は、ア.本件の原出願に係る平成11年2月8日付け手続き補正には、要旨変更があるから、原出願の出願日は同手続き補正された日となり、本件出願日はこの日とされなければならない、イ.本件出願に係る手続きにおいて、本件出願の請求項に記載される発明が原出願の当初明細書に記載の無い技術的事項を含むから、結論として本件出願において出願日の遡及は認められないから、現実の出願日である平成12年12月21日又は前記原出願に係る手続補正が行われた平成11年2月8日になされたものであり、結局、本件出願の請求項に記載される発明は、原出願の公開公報に記載されたものと同一か、少なくともこれから容易に発明をすることのできたものである、とするものである。

しかしながら、原出願に係る特許第3246516号についての訂正2006-39179における訂正認容審決が確定したことで、原出願に係る手続における要旨変更は解消しており、前記アに係る理由は採用できない。

他方、本件に係る分割手続きに関して、被請求人は違法がないと主張しており、両者間には本件出願の出願日の認定には争いがある。

ここで、分割出願は、原出願の現実の出願日に遡及するものとして扱われることからして、分割出願の明細書又は図面が、原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含まないことも要件とされる。
そこで、原出願の出願当初の明細書又は図面における記載と、本件特許の出願に係る訂正された特許明細書又は図面における記載とを対比して検討する。

7-1 分割要件(本件出願日)に関する当審の判断
(原出願の出願当初の明細書又は図面の記載について)
前記「5-2 甲第2号証:当初明細書(原出願:特願平4-32226号)」に摘記したように、原出願の当初明細書には、従来技術では、(1)インク供給針のインク供給孔が1mm程度と大きかったことから、メニスカスの体積が大きく、インクタンクの交換時に記録ヘッドに侵入する気泡の量が多く、これが印字不良を発生させる要因となっていた、(2)インク取り出し口を封止する部材はゴム栓であったため、インク供給針の先端は、ゴム栓を貫通できるよう鋭く加工されており危険であった、という二つの課題があったところ、本件原出願の当初明細書記載の発明は、(1)の課題については、インク供給孔を微小径とすることにより解決し、(2)の課題については、インク取り出し口を封止する部材を、先端が鋭くないインク供給針でも貫通できるフィルムとすることにより解決したことが記載されている。そして、原出願の当初明細書からは、上記(2)の課題解決のための対応、すなわち、インク取り出し口を封止する部材を厚さの薄いフィルムとしたことにより、新たに、インク供給針をフィルムに挿通した後のインクの漏れ出しの問題のほか、使用者の過誤により当該フィルムが破れる危険性があるという問題が生じることが示されており(原出願の当初明細書には、フィルムが伸びてインク供給針とパッキンとの間に入り込むことにより、インクタンクとインク供給針との間のシール不良が生じることが考えられ、これを防止するため、フィルムをより薄く、伸びにくいものにして、フィルムが伸びてインク供給針とパッキンとの間に入り込む前に確実に破れるようにするのが好ましいこと、このようにフィルムを薄くした場合、フィルムの保護の必要性がより強まるが、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させる構成とすることにより、上記目的を達成できること、インクタンクが40℃を超えるような場所に放置され、インクタンクが熱くなっているときでも、フィルムが伸びてインク供給針とパッキンとの間に入り込み隙間が形成されるというシール不良が生じないように、より薄く伸びにくいフィルムを用いる方法が記載されているところ、このようにフィルムをより薄くした場合は、フィルムが破れる危険性という上記問題点はより大きなものとなる。)、フィルムが破れる危険性という後者の問題は、原出願の当初明細書では、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させる構成を採用することにより解決されたことが示されている。
さらに、原出願の当初明細書には、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させた構成の意義、効用及び実施例について、上記の点のほかに上記構成にすることにより、他部品を用いることのない単純な構造でフィルムを保護することができ、低コスト化が図れること、インク取り出し口外縁の突出量は、インク取り出し口外縁の最大内径の10分の1以上、4分の1以下とすることが好ましいことが記載されている。
原出願の当初明細書の以上の記載からすると、原出願の当初明細書は、インク取り出し口を封止する部材をフィルムとすると、そのままでは使用者の過誤によりフィルムが破損される危険性があることを前提としているものと認められる。また、原出願の当初明細書には、使用者の過誤によるフィルムの破損の危険性は、原出願の当初明細書記載の発明の実施にとって支障とはならないという趣旨の説明は一切なく、上記の危険性を除去することは本件原出願の当初明細書記載の発明にとって極めて重要であるということができる。原出願の当初明細書では、この危険性を除去するために、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させるという構成を採用したことが記載されているが、同構成以外の構成については一切記載がなく、前記の原出願の当初明細書の記載にあるとおり、原出願の当初明細書記載の発明の実施例である図面にも、インク取り出し口の外縁がフィルムの接着面よりも突出した構成のインクタンクのみが図示されており、インク取り出し口がフィルムの接着面よりも突出していない構成のインクカートリッジはどこにも開示されていない(なお、図6では、インク取り出し口の外縁にフィルムが接着されているが、前記摘記によれば、図6の実施例は、インク取り出し口の外縁がフィルムの接着面よりも突出した構成のインクタンクにおいて、より確実にフィルムを保護するためにインク取り出し口の外縁に更にフィルムを接着させたものであることが認められ、インク取り出し口の内側のフィルムの存在を当然の前提として、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させた構成を示すものであるといえる。そうすると、原出願の当初明細書記載の発明にとって、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させる構成は、不可欠のものであるとともに、インク取り出し口の封止部材をフィルムにする構成と一体としてとらえるべきものであると解するのが相当である。
そして、上記のとおり、原出願の当初明細書及び図面には、原出願の当初明細書記載の発明において、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させていない構成を採用することは一切記載されておらず、上記記載内容からすれば、その示唆もないというべきであり、また、原出願の当初明細書及び図面において上記構成を採用しないことが自明の事項であると認めることもできない。

これに対して、被請求人は、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させるという構成は、フィルムを保護するという目的のために採用されたものであり、原出願の当初明細書記載の発明の本来の目的を達成させるための構成ではないから、付加的な構成にすぎず、同構成を削除したことにより分割出願が不適法となることはない旨主張する。
確かに、前記のとおり、原出願の当初明細書に記載された発明の目的は、(1)インクタンクの交換時に記録ヘッドに侵入する気泡の量が多かったこと、(2)インク供給針の先端が鋭く加工されており危険であったこと、という課題を解決するものであるが、原出願の当初明細書記載の発明は、(2)の目的を達成するために、インク取り出し口を封止する部材を、先端が鋭くないインク供給針でも貫通できるフィルムとしたのであり、このことから、必然的に当該フィルムの保護の問題が生じた以上、フィルムを保護するための構成が原出願の当初明細書記載の発明の目的達成のための構成ではないということはできない。そして、原出願の当初明細書において、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させた構成が原出願の当初明細書記載の発明にとって不可欠のものであると見なしていたことは、前記で検討したとおりである。

また、被請求人は、平成19年3月30日付け意見書を提出して、原出願の当初明細書からフィルムを保護するための構成である、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出させた構成を有しないものを把握し得るとし、原出願の出願時点において、ナイロンの薄膜は、一般に15μmの厚さのものと25μmの厚さのもの2種類が多く市販されていて、一種のデファクトスタンダードであり、フィルムが容易に破損しないものとの理解が可能であるとも主張する。
しかしながら、本件においては、本件分割出願に係る発明が原出願の明細書又は図面に記載されているか否かが検討されるべきであり、前記における検討もそのように行っている。
そして、このデファクトスタンダードとなっているフィルムが容易に破損するものであるか否かは、原出願当初明細書の記載とは無関係である。

したがって、被請求人の上記各主張は理由がない。

そうすると、本件分割出願は、平成6年法律第116号改正前特許法44条1項の分割要件を満たしているとは認められない不適法なものであるから、出願日の遡及は認められず、本件特許の出願日は現実の出願日となる。そして、本件特許は、平成4年2月19日にされた本件原出願につき、平成12年12月21日に分割出願されたものであるから、本件特許の出願日は、現実の出願日である平成12年12月21日である。

(作用効果の記載について)
なお、当事者間には、分割時点での原出願の記載範囲との関係における分割適否について、【「パッキン6」と「インク供給針9」の接触が「弾接」の状態であるか否か】、及び、【訂正前に記載されていた「インク供給針が挿通された時点で、取出し口近傍の未破損領域でシール材の抜け出しを防止することができる。」という効果があるか否か】、について原出願の出願当初明細書及び図面の記載事項の範囲内で自明に理解できるか否かについて争いがあったので、これらについて検討しておく。

【「パッキン6」と「インク供給針9」の接触が「弾接」の状態であるか否か】
原出願の当初明細書には、パッキン6がインク供給針9に弾接しているかについての明記はない。
しかしながら、本件原出願の当初明細書に記載された発明の解決しようとした課題の一つは、従来、インクタンク下部のインク流出口を封止していた部材はゴム栓であったため、インク供給針は、ゴム栓を貫通することができるように、ステンレス製のパイプで、先端を鋭い針となるように絞り加工を施したものとしていたが、このようなインク供給針は危険であり、安全性を確保するために、シャッタ等の安全装置の設置が必要であったというものである。
そして、本件原出願の当初明細書に記載された発明は、この課題を解決するために、インク取り出し口を封止する部材を先端が鋭くないインク供給針でも貫通できるフィルムとして、インク供給針の先端を円錐形状にするなどして安全なものとしたものと認められる。
ところで、インク取り出し口を封止する部材をフィルムとした場合、インク供給針をフィルムに挿通すると、フィルムが破れ、インクタンク内のインクが漏れ出してしまうという問題が生じるが、前記5-2に摘示した記載のように、本件原出願の当初明細書に記載された発明は、インク取り出し口内にパッキンを設け、インク供給針がフィルムに挿通されると、上記パッキンに嵌り、インク供給針の外周とパッキンの内周が密着して、インク供給針とパッキンの接触部のシールが確保されるようにしたことにより、上記の問題を解決したものと認められる。
このように、本件原出願の当初明細書に記載された発明においては、パッキンがインク供給針の外周に密着してインクの漏れ出しを防止するものであるが、仮に、上記密着状態を弾接の状態ではないとした場合、パッキンの内径をインク供給針の外径とを完全に一致させたとしても、挿通に当たって多少の軸ズレが生じるから、インクの漏れ出しを完全に防止することが困難となることは当業者にとって容易に理解されることである。
また、前記摘示のとおり、インク供給針6は、樹脂成形されたものであり、一般的に弾性があるものと理解されるから、パッキンがこれに密着すると、その密着状態が弾接の状態となるということも容易に理解できる。
したがって、パッキンとインク供給針との密着状態を弾接の状態とすることは、原出願の当初明細書に実質的に記載されているものと解するのが相当である。

【訂正前に記載されていた「インク供給針が挿通された時点で、取出し口近傍の未破損領域でシール材の抜け出しを防止することができる。」という効果があるか否か】
争いのあった当該効果の記載は、前記本件訂正請求を認めたことにより、現在は、「またインク供給針が挿通された時点では、インク供給針はその本体の外周にインク取り出し口とフィルムの未破損領域の間で保持されたシール材の内周が密着してインクタンクとのシールが確保される。」との記載に訂正されている。
そして、当該記載は、インクタンクが装着された時点では、シール材はインク取り出し口とフィルムの未破損領域の間に保持されており、シールが確保されるという記載となったので、前記訂正前の効果に係る記載の検討は不要となった。

(まとめ)
前記(原出願の出願当初の明細書又は図面の記載について)で検討したように、本件出願における分割は、適法に行われたものとはいえないことから、本件出願日は、現実の出願日である平成12年12月21日である。

7-2 訂正発明1?4についての特開平5-229133号公報(甲第4号証の1)を主たる引用文献とした当審の判断
前記「7-1 分割要件(本件出願日)に関する当審の判断」で検討したように、本件出願の出願日は、現実の出願日である平成12年12月21日であり、原出願の公開公報(甲4の1)は、平成5年9月7日に公開頒布されたから、当該公開公報は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である。
以下、これを引用文献として、訂正発明1?4の無効理由について検討する。

7-2-1 甲4の1に係る記載内容の検討
当該甲4の1には、前記で摘示した記載がなされている。
この甲4の1における特許請求の範囲の請求項1からは、
「記録ヘッドにインクを供給するインクジェット記録装置用インクタンクであって、前記インクタンクのインク取り出し口に配されたフィルムと、該フィルムと前記インク取り出し口間で保持した供給針シール部材を具備し、前記インク取り出し口の外縁がフィルムより外側に突出していることを特徴とするインクタンク」の構成が把握できる。

また、【図1】を参照する前記に摘示した段落【0011】の記載からは、
・インク取り出し口3とフィルム4間で保持したパッキン6があること、
・インク取り出し口外縁3aはフィルム4に対し外側に突出して外輪形状をなしていること、
・インクタンク1に装填された多孔質吸収体2がインクを保持、貯蔵していること、及び
・インクタンク取り出し口3に設けられたフィルタ5が多孔質吸収材2に押し付けられていること、
が、それぞれ把握できる。

そして、同じく前記に摘示した段落【0012】の記載からは、
・記録ヘッドがキャリッジに設けられていること、また、
・インク供給針9がフィルム4を破り、インク取り出し口の空間8内に挿通されること、
・パッキン6は、インク取り出し口3とフィルム4の間に存在し、パッキン6の内周とインク供給針9の外周が密着、すなわち弾接して、インクタンク1とインク供給針9の接続部のシールが確保、すなわちインクの漏れ出しを防止すること、
が、それぞれ把握できる。

更に、【図1】を参照するに、インクタンク1はインクを収容する容器として構成されていること、また、インク取り出し口3は、容器であるインクタンク1の底面から下方に筒状に形成されていることが明らかである。
また、【図3】を参照する前記に摘示した段落【0013】の記載からは、甲4の1に記載されるインクジェット記録装置用インクタンクが、
「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンク」であることを把握できる。

したがって、これらの記載からみて、当該甲4の1には、以下の発明が記載されている。

「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクであって、
インクタンク1を収容する容器と、インク供給針9が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成された前記インクが流入するインク取り出し口3と、前記インク取り出し口3に設けられ、前記インク供給針9の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止するパッキン6と、前記パッキン6の前記インク供給針9の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口3に接着されたフィルム4と、からなり、
前記インクタンク取り出し口3の外縁3aが、フィルム4より外側に突出しており、
前記インクが多孔質体2に保持された状態で前記容器に収容されており、
前記インク取り出し口の上流側であるフィルタ5が前記インク吸収用多孔質体2に押し付けられているインクジェット記録装置用インクタンク。」
(以下、「甲4の1記載発明」という。)

7-2-2 訂正発明1と甲4の1記載発明との対比・判断
訂正発明1と、甲4の1記載発明とを対比した場合、甲4の1記載発明の「パッキン6」が訂正発明1の「環状のシール材」に相当することは、その機能からみて明らかである。
してみれば、訂正発明1と甲4の1記載発明とを対比した場合、当該甲4の1記載発明は、
「インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成された前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。」
であって、訂正発明1を特定する事項を全て有すると認められる。
したがって、訂正発明1は甲4の1記載発明と同一である。

7-2-3 訂正発明2と甲4の1記載発明との対比・判断
前記訂正発明1と甲4の1記載発明との対比で指摘したように、甲4の1記載発明の「パッキン6」が訂正発明2の「環状のシール材」に相当することは、その機能からみて明らかである。
してみれば、訂正発明2と甲4の1記載発明とを対比した場合、当該甲4の1記載発明は、
「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクであって、
インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成された前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなり、
前記インクタンク取り出し口の外縁が、フィルムより外側に突出させたインクジェット記録装置用インクタンク。」
であって、訂正発明2を特定する事項を全て有すると認められる。
したがって、訂正発明2は甲4の1記載発明と同一である。

7-2-4 訂正発明3と甲4の1記載発明との対比・判断
訂正発明3は、訂正発明1或いは訂正発明2を引用するものであって、これらに「前記インクが多孔質体に保持された状態で前記容器に収容されている」なる特定事項を加えたものである。
そこで、訂正発明2を引用するところの訂正発明3について検討する。
前記甲4の1記載発明は、既に「前記インクが多孔質体に保持された状態で前記容器に収容されている」なる特定事項を有するものであり、前記特定事項を加えたとしても、訂正発明3と、甲4の1記載発明とは、同一である。

7-2-5 訂正発明4と甲4の1記載発明の対比・判断
訂正発明4は、訂正発明3を引用するものであって、これに「前記インク取り出し口の上流側が前記インク吸収用多孔質体に弾接している」なる特定事項を加えたものである。
しかし、前記甲4の1記載発明は、既に「前記インク取り出し口の上流側が前記インク吸収用多孔質体に弾接している」なる特定事項を有するものであり、前記特定事項を加えたとしても、訂正発明4と、甲4の1記載発明とは、同一である。

7-2-6 まとめ
以上のとおりであり、訂正発明1?4は、甲4の1記載発明と、いずれも同一であるから、訂正発明1?4は、特許法29条1項3号の規定に該当するものであり、訂正発明1?4に係る特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。

7-3 訂正発明1、3、4についての特開平4-257452号公報(甲第5号証)を主たる引用文献とした当審の判断
前記「7-1 分割要件(本件出願日)に関する当審の判断」で検討したように、本件出願の出願日は、現実の出願日である平成12年12月21日であり、甲5は、平成4年9月11日に公開頒布されたから、当該公報は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である。
以下、これを引用文献として、訂正発明1?4の無効理由について検討する。

7-3-1 甲5に係る記載内容の検討
当該甲5においては、インク供給針6が筒胴部を備えていること、パッキン11が環状のものであること、及びインク取り出し口が筒状のものであることの明示的記載はない。
しかし、前記で摘示した段落【0010】にあるように、インク供給針6の先端は、円錐形状であることが明記されていることからして、インク供給針先端部から、図1及び図2におけるインク供給針6がキャリッジへ装着される際に機能すると目されるインク供給針下部のフランジ部材直前までは、少なくとも円柱形状をなしていると推察される。
また、段落【0011】によれば、パッキン11の内周は、インク供給針6の先端部分から前記下部のフランジ部材直前までの部分の外周に密着するものとされることからして、インク供給針形状が円錐形状と推察されるので、このパッキン11の外周に密着したパッキン11の形状も環状であることが推察される。

次に、当該甲5においては、パッキン11がインク供給針6に弾接しているかの明記はないので、この点を検討する。
前記摘示の各記載からみて、甲5に記載された発明が解決しようとした課題、及びこの課題を解決するの手段は、本件原出願の当初明細書に記載された発明と共通している。
したがって、パッキンとインク供給針との密着状態を弾接の状態とすることは、甲5に実質的に記載されているものと解するのが相当である。

してみると、甲5記載の発明は、以下の構成のものと認められる。
(1) キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、
(2) インクを収容する容器であるインクタンクと、
(3) インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成された前記インクが流入するインク取り出し口と、
(4) 前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状の供給針シール部材と、
(5) 前記供給針シール部材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなる
(6) インクジェット記録装置用インクタンク
(以下、「甲5記載発明」という。)

7-3-3 訂正発明1と甲5記載発明との対比・判断
訂正発明1と、甲5記載発明とを対比した場合、当該甲5記載発明は、
「キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、
インクを収容する容器であるインクタンクと、
インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成された前記インクが流入するインク取り出し口と、
前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状の供給針シール部材と、
前記供給針シール部材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなる
インクジェット記録装置用インクタンク。」
であって、訂正発明1を特定する事項を全て有すると認められる。
したがって、訂正発明1は甲5記載発明の同一である。

7-3-4 訂正発明3と甲5記載発明との対比・判断
訂正発明3は、訂正発明1或いは訂正発明2を引用するものであって、これらに「前記インクが多孔質体に保持された状態で前記容器に収容されている」なる特定を加えたものである。
そこで、訂正発明1を引用するところの訂正発明3について検討する。
前記甲5記載発明を認定した甲5には、前記段落【0010】の摘示に明らかなように、インクタンク1にはインク含浸体のフォーム2を挿入されたものが実施例として記載されていると共に、インクタンクにおいて、インク含浸を図る上で多孔質体を用いることは慣用されるものであるから、当該特定は設計事項の属するものであって、前記特定を加えたとしても、訂正発明1を引用する訂正発明3と、甲5記載発明とは、同一である。

7-3-5 訂正発明4と甲5記載発明との対比・判断
訂正発明4は、訂正発明3を引用するものであって、これに「前記インク取り出し口の上流側が前記インク吸収用多孔質体に弾接している」なる特定を加えたものである。
しかしながら、前記甲5記載発明を認定した甲5には、前記段落【0010】の摘示にあるように、インク取り出し口3にフィルタ5が貼られており、図1を参照するに、インク含浸体のフォーム2と、フィルター5を貼られたインク取り出し口3とは、少なくとも端部において接していることが推察される。
そして、インクタンク内容積は、予め定めた所定インク量を保持できるように設計されており、インクを含浸させる前記フォーム2は、確実なインク保持を行わせるべく、タンク内容積を満たすような体積とされていることに鑑み、インク含浸体のフォーム2と、フィルター5を貼られたインク取り出し口3とは接した状態、すなわち、フォーム2の特性からして弾接状態にあると解され、当該特定は設計事項に属するものであって、前記特定を加えたとしても、訂正発明1を引用する訂正発明4と、甲5記載発明とは、同一である。

7-3-5 まとめ
以上のとおりであり、訂正発明1、3、4は、甲5記載発明と、同一であるから、訂正発明1、3、4は、特許法29条1項3号の規定に該当するものであり、訂正発明1、3、4に係る特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。

7-4 まとめ
上記で検討したとおり、請求人の主張する無効理由1における、訂正発明1?4が、特開平5-229133号公報(甲第4号証の1)を主たる引用文献として特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとの主張は妥当であるし、また、訂正発明1、3、4が、特開平4-257452号公報(甲第5号証)を主たる引用文献として特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとの主張は妥当である。
してみるに、結局、訂正発明1?訂正発明4についての特許は、違法であって無効とすべきことが明らかであるから、残る他の無効理由について判断する必要を認めない。

8 むすび
以上のとおりであるから、訂正発明1?4についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法169条2項の規定により準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インクジェット記録装置用インクタンク
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなるインクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項2】キャリッジに設けられた記録ヘッドに連通するように、先端が円錐面として形成された筒胴部を備え、メニスカスによりインクを保持することができる直径のインク供給孔が穿設されたインク供給針を備えたインクジェット式記録装置に着脱されるインクタンクにおいて、インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、からなり、前記インク取り出し口の外縁を前記フィルムより外側に突出させたインクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項3】前記インクが多孔質体に保持された状態で前記容器に収容されている請求項1、または請求項2に記載のインクジェット記録装置用インクタンク。
【請求項4】前記インク取り出し口の上流側が前記インク吸収用多孔質体に弾接している請求項3に記載のインクジェット記録装置用インクタンク。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、記録媒体上に直接インクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に適したインクタンクに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、インクジェット記録装置は、交換式のインクタンクが多く用いられており、特開平3-92356号公報に見られるようにインクタンクのインク取り出し口をゴム栓で封止し、このゴム栓に記録ヘッドに接続する金属製のインク供給針の先端を貫通させて両者を連通させてインクを記録ヘッドに供給するように構成されていた。このようなインク供給針は、比較的厚いゴム栓に突き刺さってこれをスムーズに貫通する必要上、ステンレス製の直径1mm程度のパイプの先端を斜めにカットした注射針状に構成されている。しかしながら先端が注射針状に鋭く加工されているため、安全性の面からも問題となる。このような問題を解消するため、特開昭63-9545号公報に見られるようにインクカートリッジのインク取り出し口の内周面に多孔質弾性体からなる環状のシール材を配置し、かつインク収容領域側をフィルムで封止したインクカートリッジが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これによれば、パイプの先端を斜めにカットした注射針状のインク供給針が不要となり、カートリッジを記録ヘッドに安全に装着できるものの、シール材が多孔質弾性体で構成されているため、シール材の細孔を通して表面にインクがにじみ出るという問題や、フィルムがインク収容領域側に位置するため、インク供給針の挿通により破損したフィルムがインク供給針に接触してインクの流れを阻害するという問題がある。本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、安全なインク供給針に対応でき、かつ記録ヘッドに確実にインクを供給することができるインクジェット記録装置インクタンクを提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
このような問題を解消するため本発明においては、インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ前記容器の底面に筒状に形成されて前記インクが流入するインク取り出し口と、前記インク取り出し口に設けられ、前記インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、前記シール材の前記インク供給針の挿通側を封止し、かつ前記インク取り出し口に接着されたフィルムと、から構成されている。
【0005】
【作用】
インク取り出し口がゴム栓に比較して簡単に挿通することができるフィルムにより封止されているので、先鋭度の低いインク供給針でも簡単に挿通でき、またインク供給針に挿通後は環状シール材により気密性を確保する。またインク供給針が挿通された後の破損したフィルムは、インク供給針の先端には到達しないため、インクの流れを阻害することにはならない。
【0006】
【発明の好ましい実施の態様】
そこで以下に本発明の詳細を図示した実施例の基づいて説明する。図2は、本発明のインクジェット式記録装置の一実施例を、記録ヘッドとインクタンクとの接続機構で示すものであって、キャリッジ12の下面に設けられた記録ヘッド10は、キャリッジ12に垂設されたインク供給針9の一端に連通されている。キャリッジ12には、インク取り出し口3が形成されたインクタンク1が着脱可能に搭載されていて、インク供給針9を経由して記録ヘッド10にインクを供給し、記録ヘッド10のノズル開口11からインク滴を吐出させて記録用紙14に印刷できるように構成されている。ところで、インク供給針9は、図3に見られるように後述するインクタンクのフィルム4を貫通できるように先端に円錐面が形成され、この円錐面にインク供給針の本体、筒導体部の内径よりも小さな直径φ0.3mmのインク供給孔9aが複数個穿設されている。
【0007】
一方、インクタンク1は、図1に示したように通気孔7により外気と連通する内部には、多孔質吸収材2が装填されていて、多孔質吸収材2内にインクを保持、貯蔵している。インク取り出し口3は、タンク内に突出するように延長され、その上面にナイロン繊維またはステンレス繊維からなるフィルタ5が熱溶着または接着剤により固定され、フィルタ5を多孔質吸収材2に押し付けている。
【0008】
インク取り出し口3は、その下部、つまり外気側にはフィルム4が溶着あるいは接着され、フィルム4とフィルタ5との間にインクで満たされる空間8が形成されている。このフィルム4とフィルタ5との間に形成された空間8のフィルム4側には、インク供給針9の本体、つまり筒導体部の全周が密着するパッキン6、つまりリング状に形成されたパッキン6が、複数のインク供給孔9aを空間8に露出させる位置に固定されている。
【0009】
さらに、フィルム4はアルミ、ポリスチレン、ナイロンの3層構造として構成され、インクタンク1内に空気が侵入するのを防ぐためのガスバリア性に優れた膜層、本実施例ではアルミの層が形成されている。なお、アルミの代わりにステンレス、ポリプロピレン等を用いることも可能である。
【0010】
インクタンク1は、ポリスチレンで成形されており、フィルム4のポリスチレン面とインクタンク1のポリスチレンで熱溶着されフィルム4は固着している。フィルム4の総厚みは50μm程度で十分に薄いため、樹脂成形で安全性の高いインク供給針9であっても容易に貫通できる。
【0011】
しかし一方では、使用者の不用意な取り扱いによりフィルム4が破損する虞がある。このため、図4に示したようにインク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させ外輪形状にすることで、使用者の指16等が直接フィルム4に強く触れることがなく、インクタンク1を交換する時にフィルム4を破るのを防止している。またこのような構造にすることにより、他部品を用いることのない単純な構造、即ち低コストでフィルム4を保護することができる。
【0012】
インク取り出し口外縁3aの突出量は、インク取り出し口外縁3aの最大内径(d)に対し、インク取り出し口外縁3aの突出量(h)を、h≧d/10とするのが好ましいことが判明した。
【0013】
この時、使用者が通常の取り扱いをする限り、例えば故意に指の爪先をフィルム4に立てるようなことをしなければ、フィルム4が破れることはない。ここで突出量を大きくすればするほどフィルム4をより安全に保護することはできるが、それに伴いインクを抽出する位置、即ち空間8がノズルに対し高くなりインクの供給圧に影響したり、また高さ方向のレイアウトに影響する等の問題が発生するため、より好ましくは、d/4≧h≧d/10である。なおインク取り出し口3の断面形状が多角形の場合は、最長対角線長さをdとする。
【0014】
この実施例において、キャリッジ12に作られたガイド13に沿って上方からインクタンク1を挿入すると、インク供給針9の円錐面がフィルム4を破り、円錐面に穿設されているインク供給孔9aは、インクで濡れているパッキン6の内周面を通過して空間8内へ突出する。これにより、インク供給針9は、その本体の外周にインク取り出し口3とフィルム4の間で保持されたパッキン6の内周が密着して、インクタンク1とのシールが確保される。そして、インク供給針9の円錐面には、直径φ0.3mm程度のインク供給孔9aが穿設されているため、メニスカス15(図3)の体積は、パイプを注射針状に形成して従来のものに比較して十分に小さから、インクタンク1の交換時に侵入する空気を微小量に抑えることができる。
【0015】
ここでインクタンク1が40℃を越えるような場所に放置された場合を考える。インクタンク1がまだ熱い状態のうちにインクタンク1をインク供給針9に接続すると、インク供給針9がフィルム4を破る時にフィルム4は通常より伸びる。そして図5に示されるように、伸びたフィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込み、隙間17が形成されてシールが十分に確保されない場合がある。そこでインク取り出し口3に配するフィルム4には、例えばポリスチレン層さらにナイロン層を廃したような、より薄く伸びにくい膜を用い、フィルム4がインク供給針9とパッキン6との間に入り込む前に確実に破れるようにする。これによりインクタンク1とインク供給針9間で発生するシール不良を防止することができる。
【0016】
インク取り出し口3に配したフィルム4に薄膜を用いた場合、フィルム4をより確実に保護する必要がある。まず前述のとおり、インク取り出し口外縁3aをフィルム4より外側に突出させることにより、単純な構造で目的を達成できる。
【0017】
さらに図6に示したように、インク取り出し口外縁3aの端に強度の強い第2のフィルム20を貼ることで、より確実にフィルム4を保護してもよい。なお、第2のフィルム20とパッキン6の距離を十分確保することで、図5に示したようなシール不良が発生することはない。また第2のフィルム20をインクタンク交換時に剥すようにして使用することでも、シール不良を防止し、かつフィルム4を保護することができることは言うまでもない。
【0018】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明においては、インクを収容する容器と、インク供給針が挿通可能で、かつ容器の底面に筒状に形成されてインクが流入するインク取り出し口と、インク取り出し口に設けられ、インク供給針の外周に弾接してインクの漏れ出しを防止する環状のシール材と、シール材のインク供給針の挿通側を封止し、かつインク取り出し口に接着されたフィルムとから構成されているので、ゴム栓に比較して簡単に挿通することができるフィルムにより封止されているので、先鋭度の低いインク供給針が使用でき、またインク供給針の挿通により破損したフィルムによるインク供給針の封鎖がなく、確実に記録ヘッドにインクを供給でき、さらには未使用状態ではフィルムによりインクの流出を防止でき、またインク供給針が挿通された時点では、インク供給針はその本体の外周にインク取り出し口とフィルムの未破損領域の間で保持されたシール材の内周が密着して、インクタンクとのシールが確保される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のインクジェット記録装置に適したインクタンクの一実施例を示す図である。
【図2】
本発明のインクジェット記録装置の一実施例を、インクタンクとインク供給針との接続関係により示す断面図である。
【図3】
同上インク供給針とインクタンクのインク取り出し口との近傍を拡大して示す断面図である。
【図4】
同上インクタンクのインク取り出し口を拡大して示す図である。
【図5】
図(A)、(B)は、それぞれシール不良の状態を説明する図である。
【図6】
本発明のインクタンクの他の実施例示す断面図である。
【符号の説明】
1 インクタンク
2 多孔質吸収材
3 インク取り出し口
3a インク取り出し口外縁
4 フィルム
5 フィルタ
6 パッキン
9 インク供給針
9a インク供給孔
10 記録ヘッド
11 ノズル
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-03-26 
結審通知日 2007-03-29 
審決日 2007-04-25 
出願番号 特願2000-388604(P2000-388604)
審決分類 P 1 113・ 113- ZA (B41J)
P 1 113・ 16- ZA (B41J)
P 1 113・ 121- ZA (B41J)
最終処分 成立  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 尾崎 俊彦
津田 俊明
登録日 2001-12-07 
登録番号 特許第3257597号(P3257597)
発明の名称 インクジェット記録装置用インクタンク  
代理人 溝上 哲也  
代理人 隈部 泰正  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 栗宇 一樹  
代理人 石井 康夫  
代理人 栗宇 一樹  
代理人 石井 康夫  
代理人 七宇 賢彦  
代理人 七字 賢彦  
代理人 岩原 義則  
代理人 大友 良浩  
代理人 鈴木 英之  
代理人 和気 満美子  
代理人 早稲本 和徳  
代理人 戸部 由布子  
代理人 和氣 満美子  
代理人 戸谷 由布子  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 溝上 満好  
代理人 早稲本 和徳  
代理人 隈部 泰正  
代理人 大友 良浩  
代理人 鈴木 英之  
代理人 山本 進  

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