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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10197審決取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10312審決取消請求事件 判例 特許
平成16ワ14321特許権譲渡代金請求事件 判例 特許
平成14行ケ199特許取消決定取消請求事件 判例 特許
不服20058936 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1173316
審判番号 不服2006-13462  
総通号数 100 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-27 
確定日 2008-02-13 
事件の表示 平成 7年特許願第530104号「“水中油滴型エマルジョン”の新規なペスチサイド組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年11月30日国際公開、WO95/31898、平成10年 1月20日国内公表、特表平10-500676〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1995年5月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年5月24日、フランス国)を国際出願日とする出願であって、平成17年7月11日付け拒絶理由通知に対して、平成18年1月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年3月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年7月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年7月26日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
平成18年7月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明細書の全文を補正するものであるところ、特許請求の範囲の請求項1は、補正前に
「【請求項1】 次の成分:
-活性成分であるアクリナスリン、
-フタル酸エステルのような芳香族モノエステル及びジエステル、植物油の脂肪エステル誘導体、アジピン酸、グルタル酸及びこはく酸の脂肪族エステル誘導体の群から選択される溶媒であって、場合によりケトン、アミド及びアルキルピロリドンから選択される溶媒を混合したもの、
-珪酸誘導体を含有する水性相
を含有する“水中油滴型エマルジョン”型のペスチサイド組成物。」
とあったものを
「【請求項1】 次の成分:
-活性成分であるアクリナスリン、
-フタル酸エステル及びジエステル、芳香族モノエステル及びジエステル、フタル酸以外の芳香族モノエステル及びジエステル、植物油の脂肪エステル誘導体、アジピン酸、グルタル酸及びこはく酸の脂肪族エステル誘導体の群から選択される溶媒であって、場合によりケトン、アミド及びアルキルピロリドンから選択される溶媒を混合したもの、
-シリカを1?3%の量で含有する水性相
を含有する“水中油滴型エマルジョン”型のペスチサイド組成物。」
とする補正を含むものである。

(2)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
この補正は、
[手続補正1]補正前の「フタル酸エステルのような芳香族モノエステル及びジエステル」を、「フタル酸エステル及びジエステル、芳香族モノエステル及びジエステル、フタル酸以外の芳香族モノエステル及びジエステル」とし、
[手続補正2]補正前の「珪酸誘導体を」を、「シリカを1?3%の量で」とするものであるところ、以下、順に検討する。

手続補正1について
手続補正1は、補正前の「芳香族モノエステル及びジエステル」を、「フタル酸エステル及びジエステル」、「芳香族モノエステル及びジエステル」、「フタル酸以外の芳香族モノエステル及びジエステル」の3つに分割して記載したものである。そして、フタル酸エステル及びジエステルは、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載されているから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第17条の2第2項で準用する同法第17条第2項の規定を満たしている。
しかしながら、補正前の「フタル酸エステルのような芳香族モノエステル及びジエステル」と、補正後の「フタル酸エステル及びジエステル、芳香族モノエステル及びジエステル、フタル酸以外の芳香族モノエステル及びジエステル」とは、同一の範囲の化合物群について規定したものであって、その補正前発明の構成に欠くことができない事項を限定するものでないから、手続補正1は、特許法第17条の2第3項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当しない。また、手続補正1は、特許法第17条の2第3項第1号(請求項の削除)、第3号(誤記の訂正)、第4号(明りょうでない記載の釈明)のいずれにも該当しないことは明らかである。
よって、手続補正1は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである。

手続補正2について
当初明細書等には、珪酸誘導体としてシリカが記載されている(当初明細書等の請求項8、第3頁第19行?第25行)。
しかしながら、珪酸誘導体の量について、当初明細書等には、「1?30%」(当初明細書等の請求項9)、「1.5?2%」(当初明細書等の請求項11)との記載はあるものの、1?3%であることは記載されていない。また、当初明細書等に記載された具体例にも、珪酸誘導体を3%含有するものはない。
そして、珪酸誘導体を30%含有すると、本願発明の水中油滴型エマルジョンが得られないことが明らかであったとしても、本願発明の水中油滴型エマルジョンを得るために必要な珪酸誘導体の量が1?3%という特定の数値範囲であることが当初明細書等の記載から自明の事項であるとはいえない。
そうすると、手続補正2は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものとはいえず、特許法第17条の2第2項で準用する同法第17条第2項の規定に違反するものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、特許法第17条の2第2項において準用する特許法第17条第2項の規定に違反するものであるから、その余のことを検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成18年7月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1乃至10に係る発明は、平成18年1月18日付け手続補正書によって補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至10に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 次の成分:
-活性成分であるアクリナスリン、
-フタル酸エステルのような芳香族モノエステル及びジエステル、植物油の脂肪エステル誘導体、アジピン酸、グルタル酸及びこはく酸の脂肪族エステル誘導体の群から選択される溶媒であって、場合によりケトン、アミド及びアルキルピロリドンから選択される溶媒を混合したもの、
-珪酸誘導体を含有する水性相
を含有する“水中油滴型エマルジョン”型のペスチサイド組成物。」

(2)原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、本願請求項1乃至10に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である下記の引用例1-4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないというものである。
引用例1:特開平3-181401号公報(以下、「刊行物2」という。)
引用例2:特開平5-112402号公報(以下、「刊行物3」という。)
引用例3:特開平5-92901号公報
引用例4:特開平1-197402号公報(以下、「刊行物1」という。)

(3)刊行物に記載された事項
(3-1)刊行物1:特開平1-197402号公報
A.「1?60重量%の1種又は2種以上の本質的に水不溶性農薬成分及び/又は該農薬成分の沸点150℃以上の溶媒溶液、水易溶性物質並びに水よりなる水懸乳濁液において、組成物中の水不溶性成分系と水溶液系の互いの加重平均密度が90?110%の範囲内にあることを特徴とする低毒性水懸乳濁状農薬組成物。」(特許請求の範囲の請求項1)
B.「界面活性剤15%以下、成分安定剤10%以下、水溶性乃至分散性の高分子増粘剤10%以下並びに消泡剤5%以下の1種又は2種以上を配合した請求項1記載の低毒性水懸乳濁状農薬組成物。」(特許請求の範囲の請求項2)
C.「本質的に水不溶性農薬成分の沸点150℃以上の溶媒溶液の溶媒が、・・・フタル酸エステル・・・の1種又は2種以上を主溶媒とした請求項1記載の低毒性水懸乳濁状農薬組成物。」(特許請求の範囲の請求項3)
D.「成分安定剤が・・・無機珪酸微粉末等の紫外線散乱剤兼増粘剤・・・より選ばれたものである請求項1記載の低毒性水懸乳濁状農薬組成物。」(特許請求の範囲の請求項6)
E.「本発明は水不溶性農薬成分の保存安定性にすぐれ、使用時人体に対する二次毒性が少なく、かつ噴霧液の浮遊飛散を防止した低毒性水懸乳濁状農薬組成物に関する。」(第2頁右上欄第4行?第7行)
F.「本発明は、この安全性向上の目的のためなされた技術である。即ち、その農薬のもつ本来の毒性、急性、亜急性、慢性、催奇性毒性の低減化は勿論、従来の技術で達成できなかった人畜への皮膚刺激、粘膜刺激、局所アレルギー性又は散布液の吸入時の咳嗽性等二次毒性を減少させるものである。且つ、水を始めとした低毒性、低価格原材料を選択し、前記安全性を向上させると共に農薬成分の保存安定性、散布農薬成分の耐光性をはかった低毒性水懸乳濁状農薬組成物を提供するものである。」(第2頁右下欄第5行?第14行)
G.「本発明は・・・粘度を高分子増粘剤を加えて調整し、分散相の懸濁及び或いは乳化の安定化をはかったものである。さらに水希釈液に粘弾性又は曳糸性(spindlability)をもたせて、噴霧時の低毒化をはかったものである。」(第3頁左上欄第9行?第14行)
H.「本発明の本質的に水不溶性農薬は、現在使用されているものは何でもよく、具体的には次のようなものが挙げられる。ピレトリン、アレスリン、バイオアレスリン、バイオパーメスリン、テトラメスリン、シスメトリン、デカメスリン、トラロメスリン、クロルパーメスリン、ダイメスリン、カデスリン、フェノスリン、ピレスメスリン、レスメトリン、シクロプロトリン、フルバリネート、フルシトリネート、エトプロフェンプロックス等のピレスロイド・・・等の殺虫剤、・・・等があげられる。」(第3頁右上欄第7行?右下欄第16行)
I.「これらの農薬成分のうち低毒性農薬は、・・・沸点150℃以上の溶剤に溶かし界面活性剤等で水相に分散させて微細化する。」(第3頁右下欄第17行第4頁左上欄第2行)
J.「沸点150℃以上の溶剤としては、・・・フタル酸エステル・・・等が利用できる。これらは、噴霧微粒子中の農薬成分濃度の稀釈化剤と同時に皮膚保護剤として働き、皮膚刺激性、吸入毒性等の低減をはかる。」(第4頁左上欄第3行?右上欄第5行)
K.「また、パーライト、無水珪酸及びカオリン等は・・・水系分散媒の増粘剤、沈降分離粒子の再分散助剤としても働くが、紫外線遮光散乱作用として有効である。」(第5頁右上欄第2行?第5行)
L.「本発明の水懸乳濁状組成物は、・・・原料的に有機溶剤、界面活性剤等の使用量を少なく、水を始めとした毒性のなるべく少ないものを使用して、低毒性の経済的な組成物を合理的に得ることができる極めて有用な発明である。」(第8頁左上欄第2行?第8行)。

(3-2)刊行物2:特開平3-181401号公報
M.「低融点植物保護活性物質は一般に乳化性の濃縮溶液の形態で販売されている。かかる配合物は大量の溶媒を必要とし、それによって毒性学及び環境毒性学の問題を生じる。本発明の主題を形成する低融点の植物保護活性物質の濃縮水性エマルションはこれらの問題を大きく削減することができる。」(第2頁右上欄第19行?左下欄第5行)
N.「さらにそれらは溶媒を極めて少量しか含まないので、毒性学的見地から好ましい立場にある。」(第4頁右上欄第1行?第2行)

(3-3)刊行物3:特開平5-112402号公報
O.「・・・更に、これらは、それらに含まれる溶剤が比較的少ないために生体毒性学上の点で好ましい。」(段落0061)

また、周知例として、以下の刊行物を挙げる。
刊行物ア:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典7」共立出版株式会社、1989年、縮刷版第32刷、第588頁「ピレトリン」の項
刊行物イ:特開平6-9320号公報
刊行物ウ:国際公開第93/13053号パンフレット
刊行物エ:特開平6-100499号公報
刊行物オ:社団法人日本化学会「化学便覧 応用化学編 第5版」丸善株式会社、1995年、第II-842頁?第II-848頁
刊行物カ:社団法人日本化学会「化学便覧応用編 改訂第2版」丸善株式会社、1975年、第1613頁?第1615頁
刊行物アはピレトリンについて、刊行物イ?エはアクリナスリンについて、刊行物オ、カはフタル酸ジエステルの引火点について示すものであって、以下の事項が記載されている。
刊行物ア:
「ピレトリン・・除虫菊花の子房に含まれる殺虫成分をピレトリン類と総称する。・・(1)天然ピレトリン・・・性質 黄色粘ちょう性の油状液体で、揮発性少なく旋光性を有する。水に溶けず、・・・(2)合成ピレトリン・・・性質 天然のピレトリンに似るが・・・」(ピレトリンの項)
刊行物イ:
「【請求項10】使用するピレスリノイドが・・・、アクリナスリン、・・・より成る群から選択される請求項1?9のいずれかに記載の有害生物駆除剤組成物。」(請求項10)
刊行物ウ:(対応する特表平7-502995号公報の訳文で示す。)
「4.式I化合物が殺虫活性を有するピレスロイドである請求項3記載の方法。」(請求の範囲の請求項4)
「5.ピレスロイドが・・・、アクリナスリン、・・・から選択される請求項4記載の方法。」(請求の範囲の請求項5)
刊行物エ:
「例9:(1R,cis)2,2-ジメチル-3-[(Z)2-[(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオルプロポキシ)カルボニル]エテニル]シクロプロパン-1-カルボン酸(R,S)α-シアノ-3-フェノキシベンジル」(段落0050)
刊行物オ:
「 物質名 引火点[℃]
フタル酸ジイソデシル 232
フタル酸ジイソブチル 185
フタル酸ジエチル 161
フタル酸ジブチル 157
フタル酸ジメチル 146 」(表16.1(つづき))
刊行物カ:
「 物質名 引火点[℃]
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル 199 」(表22.4 つづき)

(4)刊行物に記載された発明、及び本願発明と刊行物に記載された発明との対比
摘記事項Aによれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「刊行物1発明」という。)。
「1?60重量%の水不溶性農薬成分の沸点150℃以上の溶媒溶液、水易溶性物質及び水よりなる水懸乳濁液において、組成物中の水不溶性成分系と水溶液系の互いの加重平均密度が90?110%の範囲内にあることを特徴とする低毒性水懸乳濁状農薬組成物。」
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明における「水不溶性農薬成分」にはピレスロイドが包含され(摘記事項H)、本願発明の「活性成分であるアクリナスリン」はピレスロイドであるから、両者は農薬活性成分としてピレスロイドを含有するものであり、刊行物1発明における「沸点150℃以上の溶媒」も、本願発明の「フタル酸エステルのような芳香族モノエステル及びジエステル、植物油の脂肪エステル誘導体、アジピン酸、グルタル酸及びこはく酸の脂肪族エステル誘導体の群から選択される溶媒であって、場合によりケトン、アミド及びアルキルピロリドンから選択される溶媒を混合したもの」も溶媒である。
また、上記摘記事項A及びIから、刊行物1発明における水不溶性農薬成分の沸点150℃以上の溶媒溶液を含む水懸乳濁状農薬組成物は、水不溶性農薬成分を含む溶媒溶液が水性相中に分散している水中油滴型エマルジョンであると認められ、摘記事項Hから、刊行物1発明においても農薬として殺虫剤、すなわちペスチサイドが包含されるから、刊行物1発明における「水懸乳濁状農薬組成物」は、本願発明における「“水中油滴型エマルジョン”型のペスチサイド組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「次の成分:
-ピレスロイド活性成分、
-溶媒
-水性相
を含有する“水中油滴型エマルジョン”型のペスチサイド組成物。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]ピレスロイド活性成分が、本願発明においては、アクリナスリンであるのに対し、刊行物1発明においては水不溶性農薬成分である点
[相違点2]溶媒が、本願発明においては、「フタル酸エステルのような芳香族モノエステル及びジエステル、植物油の脂肪エステル誘導体、アジピン酸、グルタル酸及びこはく酸の脂肪族エステル誘導体の群から選択される溶媒であって、場合によりケトン、アミド及びアルキルピロリドンから選択される溶媒を混合したもの」であるのに対し、刊行物1発明においては沸点150℃以上の溶媒である点
[相違点3]水性相が、本願発明においては、珪酸誘導体を含有しているのに対し、刊行物1発明においてはこれを含有することが明らかではない点
[相違点4]刊行物1発明においては、「組成物中の水不溶性成分系と水溶液系の互いの加重平均密度が90?110%の範囲内」である旨、特定されているのに対し、本願発明においては、このような特定はなされていない点

(5)判断
(5-1)相違点1について
従来より除虫菊花の子房に含まれる殺虫成分をピレトリン類と総称していること、これらは水に不溶であること、天然のピレトリン類に加え、合成のピレトリン類が種々製造されていること、その性質は天然のピレトリン類に似るが、固有の特性も有すること、また、ピレトリン類とピレスロイド系、ピレスリノイド系とは、同様のものを意味すること等は、当業者の周知するところである(必要なら、刊行物ア等、参照)。
ところで、アクリナスリンは、本願優先日において、周知のピレスロイドである(必要なら、刊行物イ:請求項10;刊行物ウ:請求項4,5;刊行物エ:例9、等、参照)。一方、それぞれのピレスロイド毎に固有の特性はあるものの、ある殺虫剤組成物にピレスロイドが用いられることが知られていれば、他のピレスロイドも一応用いることが可能であることは、技術常識であり、そして刊行物1には、Hに摘記したとおり、20種類近いピレスロイドが列挙されているのであるから、他の周知のピレスロイドも当然に使用可能であると考えられる。
そうしてみると、周知のピレスロイドであるアクリナスリンを刊行物1発明の水不溶性農薬成分として使用することは当業者であれば容易になし得ることである。

(5-2)相違点2について
刊行物1には、沸点150℃以上の溶媒として、フタル酸エステルが記載されている(摘記事項C、J)。
そうすると、刊行物1発明においてもフタル酸エステルを溶媒として使用する場合があるのだから、刊行物1発明における沸点150℃以上の溶媒として、フタル酸エステルを採用することに格別の創意は見出せない。

(5-3)相違点3について
刊行物1の農薬組成物は、保存安定性にすぐれると同時に、使用時人体に対する二次毒性が少なく、かつ噴霧液の浮遊飛散を防止したこと等による、噴霧時の低毒化をはかったものである(摘記事項E、F、G)。
ところで、刊行物1には、刊行物1発明にさらに成分安定剤を10%以下配合した農薬組成物が記載されており(摘記事項B)、該成分安定剤として、無機珪酸微粉末等の紫外線散乱剤兼増粘剤があること(摘記事項D)、無水珪酸が水系分散媒の増粘剤として働くこと(摘記事項K)が示されている。
そして、水性相を増粘すれば噴霧液の浮遊飛散を防止できることは明らかであるから、成分安定剤であると同時に増粘剤としても作用し、噴霧液の飛散防止に役立つ無水珪酸等の珪酸誘導体を、刊行物1発明に、さらに含有させることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(5-4)相違点4について
本願発明においては、特に水不溶性成分系と水溶液系の互いの加重平均密度を特定していないので、刊行物1発明における密度範囲を含んでいると解せられる。
したがって、この点は実質的な相違ではない。

(5-5)効果について
本願発明の目的及び作用効果は、「液状組成物を生成させること、活性成分と関連したひどい副作用をほとんど生じさせない、少ない量の溶媒を含有する、引火性の危険を制限する」(本願明細書第1頁下から第7行?第2頁第6行)ものと認められるところ、その予測性について検討する。
刊行物1には、農薬のもつ粘膜刺激等の二次毒性を減少させること(上記摘記事項F)、フタル酸エステル等の沸点150℃以上の溶剤は皮膚保護剤として働き、皮膚刺激性、吸入毒性等が低減されること(摘記事項J)が記載されている。
また、刊行物1には、有機溶剤の使用量を少なくすることで低毒性の組成物が得られること(摘記事項L)、増粘剤を加えることにより、噴霧時の低毒化をはかること(摘記事項G)も記載されている。
さらに、刊行物2及び刊行物3に記載されるように、一般に有機溶剤の使用量を少なくすることで、毒性学及び環境毒性学の問題が削減されることも公知の事項である(摘記事項M、N)。
そして、フタル酸エステルが引火点の高い物質であることは周知の事項であるし(刊行物オ、カ等、参照)、使用する有機溶剤の量を少なくすると引火性の危険が低減することも、当業者であれば容易に予測できることである。
そうすると、農薬固有の毒性や環境毒性、引火性の危険を低減するという本願発明の効果は、刊行物1-3に記載された発明から、当業者が予測できる範囲内のものといえる。

よって、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物1-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(6)請求人の主張
(6-1)
審判請求書の請求の理由を補正した平成18年7月26日付け手続補正書は、本審決において却下された手続補正によって補正された特許請求の範囲に係る発明について、該発明が先に示した引用例に記載された発明から容易に成し得たものでない旨、主張しているものであって、本願発明に関しての主張ではないため、平成18年1月18日付け意見書による主張を、本願発明に関しての請求人の主張とする。
すなわち、請求人は
「本願発明は、特に、ペスチサイドとして、アクリナスリンが前記したように、種々の試験を実施することにより、従来技術の乳化性濃厚物のような標準処方物について観察されるものよりも、活性成分と関連したひどい副作用、例えば気道の刺激をほとんど生じさせず、従来の標準処方物よりも少ない量の溶媒を含有するので、処方された物質の固有の毒性(特に眼及び皮膚の刺激)を低下させ並びに環境と結びついた危険を少なくすることができ、また使用する有機溶媒の性質及び溶媒濃度の削減のために、引火性の危険を制限することができることを見いだしたことに基づいており、しかして、本願発明は、ペスチサイドのうちで特にアクリナスリンが上記のように予想外の作用効果を奏するが故にこれを活性成分として選択したものである。」(平成18年1月18日付け意見書第3頁第24行?第4頁第4行)
と主張をしている。
これを検討すると、本願明細書における「モルモットにおける本願発明の組成物の呼吸耐性」、「本願発明の組成物の眼の耐性」の試験において、比較対象として用いられているものは、ソルベッソ100及びメチルグリコールアセテートをベースとするアクリナスリン150g/lのEC処方物である「RUFAST EC 150(1)」と、ソルベッソ100及び2-ヘプタノンをベースとするアクリナスリン150g/lのEC処方物である「RUFAST EC 150(2)」であり、比較対象の組成物もアクリナスリンを含有するものであるから、上記試験結果における本願発明と比較対象の組成物の差が、アクリナスリンの奏する効果によるものとはいえない。
一方、刊行物1には、刊行物1に記載のペスチサイド組成物は、農薬のもつ本来の毒性や、粘膜刺激等の二次毒性を低減化すること(上記摘記事項F)、フタル酸エステル等の溶媒には、吸入毒性や皮膚刺激を低減する効果があること(上記摘記事項J)が記載されている。
そうすると、本願発明の活性成分の有害な副作用の減少との効果は、刊行物1の記載から予測できる範囲内のものである。
また、環境と結びついた危険を少なくすること、引火性の危険を制限することについても、前記3.(5)(5-5)に記載したとおり、当業者の予測を超えるものではない。

(6-2)
ところで、上記請求人の主張について、請求人は、審判請求書の請求の理由を補正した平成18年7月26日付け手続補正書において、
「本出願人は、先の意見書において、確かに「本願発明のアクリナスリン」にあっては、「従来技術の乳化性濃厚物のような標準的な処方に付いて観察されるよりも、活性成分と関連したひどい副作用を殆ど生じさせず、環境と結び付いた危険を少なくでき、引火性の危険を制限することができるというような作用効果を奏する」と主張しましたが、これは「本願発明のペスチサイド組成物にあっては」とするべきでありました。アクリナスリンにより奏される効果ではありませんでした。上記のような本出願人の主張する作用効果は、上述したように、少なくとも一部は「1?3%のシリカ」によって奏されているものと思考します。」(平成18年7月26日付け手続補正書(3)(d)(iii))、
と主張しているから、上記意見書で主張する効果は、「アクリナスリン」ではなく、「本願発明のペスチサイド組成物」の効果であると読み替えて、これについても、以下に検討する。
本願明細書における「モルモットにおける本願発明の組成物の呼吸耐性」、「本願発明の組成物の眼の耐性」の試験において、比較対象として用いられているものは、ソルベッソ100及びメチルグリコールアセテートをベースとするアクリナスリン150g/lのEC処方物である「RUFAST EC 150(1)」と、ソルベッソ100及び2-ヘプタノンをベースとするアクリナスリン150g/lのEC処方物である「RUFAST EC 150(2)」であることは、上記したとおりである。
比較対象である「RUFAST EC 150(1)」と「RUFAST EC 150(2)」が他に如何なる成分を含有するものであるかは明らかではないが、本願発明と比較対象の組成物は、少なくとも、溶媒の種類と珪酸誘導体の有無という二点で異なるものと認められるところ、上記比較試験の結果からは、本願発明と対象組成物との差が、溶媒の種類と珪酸誘導体のいずれに起因するものかは明らかではない。
一方、刊行物1には、刊行物1に記載のペスチサイド組成物は、農薬のもつ本来の毒性や、粘膜刺激等の二次毒性を低減化すること(上記摘記事項F)、フタル酸エステル等の溶媒には、吸入毒性や皮膚刺激を低減する効果があること(上記摘記事項J)が記載されていることも上記したとおりであり、そうすると、本願発明の活性成分の有害な副作用の減少との効果は、刊行物1の記載から予測できる範囲内のものである。
また、環境と結びついた危険を少なくすること、引火性の危険を制限することが、当業者の予測を超えるものではないことも上記したとおりである。

よって、請求人の主張は、上記の判断を左右するものではない。

(7)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-09-12 
結審通知日 2007-09-13 
審決日 2007-10-02 
出願番号 特願平7-530104
審決分類 P 1 8・ 572- Z (A01N)
P 1 8・ 561- Z (A01N)
P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柿澤 恵子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 井上 彌一
安藤 達也
発明の名称 “水中油滴型エマルジョン”の新規なペスチサイド組成物  
代理人 倉内 基弘  

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