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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680254 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65D
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B65D
管理番号 1184849
審判番号 無効2007-800284  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-12-27 
確定日 2008-09-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第3997309号発明「納豆包装体とそれを用いた納豆の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3997309号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第3997309号の請求項1ないし請求項7に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)についての出願は、平成13年2月20日に出願され、平成19年8月17日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
2.これに対して、請求人は、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたと主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。
3.被請求人は、平成20年3月24日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。
当該訂正の内容は、本件特許発明の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を下記のとおり訂正することを求めるものである(以下、「本件訂正」という)。
「【請求項1】底面と、この底面の周縁から所定の角度を持って起立する側壁と、この側壁の上端から前記底面と略平行に突出するフランジ部とを有する容器本体と、前記フランジ部の一端に折り曲げ部を介して一体化され、前記フランジ部と略同じ大きさの蓋体とを備えた納豆包装体において、
前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで、蓋体を閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さの窪みを形成し、
該容器本体のフランジ部と接触する蓋体のフランジ部と側壁との間の所定の隙間を前記窪みによって形成し、該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との隙間と、側壁との間の所定の該隙間とを介して容器本体内に発酵装置内の温風が流入すると共に容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出することを特徴とする納豆包装体。
【請求項2】底面と、この底面の周縁から所定の角度を持って起立する側壁と、この側壁の上端から前記底面と略平行に突出するフランジ部とを有する容器本体と、前記フランジ部の一端に折り曲げ部を介して一体化され、前記フランジ部と略同じ大きさの蓋体とを備えた納豆包装体において、
前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで、蓋体を閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さの窪みを形成し、
該容器本体のフランジ部と接触する蓋体のフランジ部と側壁との間の所定の隙間を前記窪みによって形成し、該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との隙間と、側壁との間の所定の該隙間とを介して容器本体内に発酵装置内の温風が流入すると共に容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出することを特徴とする納豆包装体。」(下線は訂正箇所を示す。)
4.当審では、平成20年4月24日付けで訂正拒絶理由を通知した。その概略は次のとおりである。
『本件訂正部分のうち「該容器本体のフランジ部と接触する蓋体のフランジ部と側壁との間の隙間を前記窪みによって形成し」において、「隙間」が、訂正前の明細書、訂正後の明細書及び図面をみても、「側壁と窪みの間の隙間」を指すのか、あるいは「フランジ部間の隙間」を指すのか明確ではない。
したがって、このような訂正を含む本件訂正請求は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものといえず、また、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものに該当しないことは明白である。 』
5.被請求人は、平成20年6月2日付けで、本件訂正は、側壁と窪みの間の隙間及びフランジ部間の隙間が形成されていることを明瞭にすべく行ったものであり、前記訂正拒絶理由中で行われた認定により、原訂正請求の所期の目的は達成された旨の意見書を提出した。

第2 訂正の可否に対する判断
1.請求項1に対する訂正事項について検討すると、訂正前に
「該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間に隙間を有し、該隙間を介して」とあったものを
「該容器本体のフランジ部と接触する蓋体のフランジ部と側壁との間の所定の隙間を前記窪みによって形成し、該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との隙間と、側壁との間の所定の該隙間とを介して」と訂正するものであるが、
訂正前の本件請求の範囲の請求項1には
「前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで、蓋体を閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さの窪みを形成し、」と記載され、更に、訂正前の本件明細書には
「【0018】7は納豆包装体1の蓋体で、前記フランジ部5の一端に折り曲げ部8を介して容器本体2と一体に形成され、前記フランジ部5と接触するフランジ部9と中央部に前記側壁4との間に所定の間隔gが形成する大きさの窪み10で構成し、この窪み10の底面には複数の溝11が形成されている。
なお、納豆包装体1は、図示はしてないが前記折り曲げ部8を設けずに容器本体1と蓋体7とを別体に構成してもよい。」と記載されている。
また、訂正前の本件請求の範囲の請求項1には
「該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間に隙間を有し、」と記載され、更に、訂正前の本件明細書には
「【0027】このとき、容器本体2側のフランジ部5と蓋体7側のフランジ部9の間に形成される隙間gから納豆包装体1内に発酵装置17内を流れる温風が流入し、発酵に必要な酸素を供給するとともに、発酵により発生した炭酸ガスを排出する。このガス交換は、容器本体2に形成された溝6と蓋体7に形成された溝11により円滑に行われる。」と記載されている。
そうすると、訂正前の請求項1には、「容器本体の底面から所定の角度を持って起立する側壁(以下「容器本体の側壁」という。)と、蓋体の中央部に形成された窪み(以下「蓋体中央部の窪み」という。)との間に、所定の隙間(以下「側壁と窪みの間の隙間」という。)が形成されていること」及び「容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間に隙間(以下「フランジ部間の隙間」という。)が形成されていること」が特定されていると解することができる。
これに対し、本件訂正部分のうち「該容器本体のフランジ部と接触する蓋体のフランジ部と側壁との間の隙間を前記窪みによって形成し」において、「隙間」が、訂正前の明細書、訂正後の明細書及び図面をみても、「側壁と窪みの間の隙間」を指すのか、あるいは「フランジ部間の隙間」を指すのか明確ではない。
すなわち、訂正前の明細書、訂正後の明細書及び図面によれば、容器本体のフランジ部に接触しているのは、蓋体のフランジ部であり、また、「容器の側壁」は、容器本体の底面から上方に向けて拡開する角度で起立し、その上端でフランジ部が略水平方向に延びており、「側壁と窪みの間の隙間」と「フランジ部間の隙間」が形成されているにもかかわらず、上記記載は、文言上次のような解釈を含み得るものとなっている。
(1)蓋体のフランジ部のうち容器本体のフランジ部に接触している部分と、「容器の側壁」との間の隙間が、「蓋体中央部の窪み」により形成されているもの。
(2)蓋体のフランジ部と「容器側壁」の双方が容器本体のフランジ部に接触しており、これら蓋体のフランジ部と「容器側壁」の間の隙間が、「蓋体中央部の窪み」により形成されているもの。
しかしながら、訂正前の明細書、訂正後の明細書及び図面を参酌しても、容器本体のフランジ部と接触する蓋体のフランジ部が「容器の側壁」と対向し、「蓋体中央部の窪み」により上記(1)や(2)の隙間が形成されることは、何らの記載も示唆もなされていない。
したがって、このような訂正を含む本件訂正請求は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものといえず、また、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものに該当しないことは明白である。
2.請求項2に対する訂正事項について検討すると、請求項2に記載された発明は、実質、請求項1に記載の発明と同じものを含み、訂正前に「該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間に隙間を有し、該隙間を介して」とあったものを「該容器本体のフランジ部と接触する蓋体のフランジ部と側壁との間の所定の隙間を前記窪みによって形成し、該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との隙間と、側壁との間の所定の該隙間とを介して」と訂正することに変わりはなく、同様な訂正拒絶理由を有する。
そして、被請求人は前記意見書中で実質的な理由を挙げて反論しているものとは認めない。
3.したがって、平成20年3月24日付けの訂正は、特許法第134条第5項の規定によって準用する特許法126条第3項の規定に適合しないので、本件訂正を認めない。

第3 本件特許発明
上述のとおり、平成20年3月24日付けの訂正を認めることはできないから、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、登録時の明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項7に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】底面と、この底面の周縁から所定の角度を持って起立する側壁と、この側壁の上端から前記底面と略平行に突出するフランジ部とを有する容器本体と、前記フランジ部の一端に折り曲げ部を介して一体化され、前記フランジ部と略同じ大きさの蓋体とを備えた納豆包装体において、
前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで、蓋体を閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さの窪みを形成し、該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間に隙間を有し、
該隙間を介して容器本体内に発酵装置内の温風が流入すると共に容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出することを特徴とする納豆包装体。
【請求項2】底面と、この底面の周縁から所定の角度を持って起立する側壁と、この側壁の上端から前記底面と略平行に突出するフランジ部とを有する容器本体と、前記フランジ部と略同じ大きさのフランジ部を周囲に設け、前記フランジで囲まれた中央部に蓋として閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さの窪みを形成した蓋体とを備えた納豆包装体において、
前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで、蓋体を閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さの窪みを形成し、
該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間に隙間を有し、該隙間を介して容器本体内に発酵装置内の温風が流入すると共に容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出することを特徴とする納豆包装体。
【請求項3】前記蓋体の前記容器本体の底面との対向面に複数の溝を形成し、該溝と前記隙間とによって発酵装置内の温風が流入すると共に容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の納豆包装体。
【請求項4】 前記容器本体の底面と側壁に複数の溝を形成し、該溝と前記隙間とによって発酵装置内の温風が流入すると共に容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の納豆包装体。
【請求項5】原料となる大豆を選別する選別工程と、選別された大豆を洗浄する洗浄工程と、洗浄された大豆を水に浸漬する浸漬工程と、浸漬された大豆を蒸し煮する蒸し煮工程と、蒸し煮された大豆に納豆菌を接種する接種工程と、納豆菌が接種された大豆を容器に充填する充填工程と、容器に充填された大豆を発酵させて納豆を形成する発酵工程と、形成された納豆を熟成させる熟成工程と、熟成された納豆を包装出荷する包装、出荷工程とからなる納豆の製造方法において、前記容器として前記請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の納豆包装体を使用することを特徴とする納豆の製造方法。
【請求項6】前記大豆を容器に充填する充填工程と、大豆を発酵させる発酵工程の間に、蓋体に形成された窪みに添付品を載置し、蓋体の上面をカバーフィルムで覆う添付工程を設けたことを特徴とする請求項5に記載の納豆の製造方法。
【請求項7】前記発酵工程の後もしくは包装、出荷工程の前に、納豆包装体に添付品を添付する添付工程を設けたことを特徴とする請求項5に記載の納豆の製造方法。」

第4 請求人の主張
これに対して、請求人は、本件特許発明1ないし本件特許発明7の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。
証拠方法
甲第1号証:実願昭61-109234号(実開昭63-17086号)のマイクロフィルム
甲第2号証:実願昭50-118087号(実開昭52-30789号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開平10-304843号公報
甲第4号証:特開平10-305886号公報
甲第5号証:特開平10-95484号公報

第5 被請求人の主張
一方、被請求人は、
(a)甲1号証には本件特許発明の「前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで、蓋体を閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さの窪みを形成し、」に当たる構成は一切明示されていないばかりでなく何ら示唆もなく、本件発明とはこの点において全く相違する。
(b)甲2号証は本件特許発明の「蒸し煮大豆の表面に接触する深さの窪み」に関する明示即ち該構成をとる目的や作用効果を有するものではなく、又その具体的構成が明確に示されているものでもない。
(c)甲3号証に示された構成は、蓋の一部をシールせずに又は凹凸を設けて通気を図り、その後全てシールするものであり、単なる製造工程中における通気を図る工程即ちシール前の一状態を示すものであることから単なる中間過程の一態様でしかなく、本件特許発明の構成自体とは全く異なるものである。特に、甲第3号証は乾燥防止のために密封するものであり、構成のみならずそもそも目的も作用効果も異なるものでる。
(d)甲第4号証に示す構成はその前提として蓋体に通気孔を有するものであることから、この通気孔から通気する構成のみが明示されているものであり、この蓋体の通気孔からの通気に際して、仮に蓋体を閉めた状態でこの蓋体が納豆に接した状態であれば、該孔の周囲のみの換気ができるものであり、何ら蓋体の溝に通気がなされるものではない。
(e)甲5号証には何ら請求項1ないし4に係る各発明の納豆包装体が明示されているものではなくまた示唆のないものである。
以上のとおりそもそも請求人の本件特許発明と甲各号証の一致性に関する主張はいずれも失当といわざるを得ず、本件特許発明の請求項1ないし請求項7に係る各発明はいずれも進歩性を具備する発明であって、特許法29条第2項の規定には該当しないものであり、特許法第123条第1項第2号には該当しないものである。
したがって、請求人の主張及び証拠によっては本件特許発明1ないし本件特許発明7の特許を無効とすることはできない旨主張している。

第6 当審の判断
1.甲第1号証ないし甲第5号証
(1)甲1号証
甲第1号証には、以下の記載がある。
(a)「納豆を収納してスーパーマーケット等の店頭で売るための包装容器には、納豆が容器内部で発酵して発する納豆独特の臭気が籠らないよう、臭気を常時排出するための通気孔が設けられている。」(第1頁第17行?第2頁第2行)
(b)「本考案では納豆用包装容器(20)は発泡したポリスチレン樹脂シート(略称PSP)を材料として容器本体(4)を成型し、蓋体(2)は本実施例ではポリプロピレン樹脂シートを材料として別体にて成型してある。尚必要に応じて蓋体(3)の材料を変えたり、容器本体(4)と蓋体(2)とをポリスチレン樹脂シートにて一体成型してもよい。」(第5頁第7?13行)
(c)「従って店頭などでこれら納豆用包装容器(20)を縦に積み重ねた場合や、第1図に示したごとくラベル(6)を蓋体(2)上面に貼った場合にも、上記通気孔(1)は容器(20)の側面部側にあるため、容器内部に発生する納豆独特の臭気は第4図や第5図に示した矢印のごとくを常時排出させるこができる。」(第7頁第3?9行)
(d)「又、第8図の実施例に示すように、容器本体(4)に設けられた溝部(11)の位置に対応して、蓋体(2)に空隙部(14)を設けた場合には第8図のD-D端面図である第9図に明らかなごとく、通気孔(1)が拡がり、臭気は矢印のごとく排出されて容器内外の通気がより一層効果的である。
更には納豆用包装容器(20)を縦に安定して積み上げるため、容器本体(4)の底面の形状に合わせた凹部(12b)を設けてもよい。」(第8頁第9?17行)
ここで、臭気は納豆が容器内部で発酵して発するガスによって生じるものと認められ、通気孔はそれを排出するものである。
以上より、甲第1号証には、特に記載(b)及び第3図等を参酌すれば、容器本体と蓋体が一体化されている形態としての次の発明(以下「甲1発明1」という。)
「底面と、この底面の周縁から所定の角度を持って起立する側壁と、この側壁の上端から前記底面と略平行に突出するフランジ部10とを有する容器本体4と、前記フランジ部の一端に折り曲げ部を介して一体化され、前記フランジ部と略同じ大きさの蓋体2とを備えた納豆包装体において、
前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで凹部12bを形成し、該容器本体のフランジ部に設けた溝部11によって、蓋体の前記フランジ部との接触部間に隙間を形成し、該隙間を介して容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出する納豆包装体。」
及び、特に記載(b)及び第1図等を参酌すれば、容器本体と蓋体が別体に成型されていることを含め、次の発明(以下「甲1発明2」という。)が開示されていると認めることができる。
「底面と、この底面の周縁から所定の角度を持って起立する側壁と、この側壁の上端から前記底面と略平行に突出するフランジ部とを有する容器本体と、中央部に凹部を形成した蓋体とを備えた納豆包装体において、
前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで凹部を形成し、該容器本体のフランジ部に設けた溝によって、蓋体の前記フランジ部との接触部間に隙間を形成し、該隙間を介して容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出する納豆包装体。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。
(a)「次に容器1の蓋3は図面に示す如く、容器1の上部周縁4を受ける鍔5により周突部6を連続し、該周突部6より下方に側壁7を連続し、該側壁7に底板8を設けたものである。」(第2頁第16?19行)
以上の記載及び第2図によれば、甲第2号証には,次の発明(以下「甲2発明」という。)が開示されていると認めることができる。
「蓋体の、容器本体に設けたフランジ部との接触部を除く中央部に、蓋体を閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入する深さの窪みを形成した納豆容器。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。
(a)「【0003】これら従来の製造方法において、煮豆大豆を盛り込む納豆容器は、ポリスチレン製のトレーや、紙製のカップに納豆菌を接種した煮豆を収容し、それを発酵させて製造していた。納豆菌は周知の通り好氣性細菌であるから、容器は蓋をしても空気の流通ができる。その空気孔は納豆菌の生育には必須であるが、発酵後にも空気の流通があるため、虫などの異物混入の危険や、水分が蒸発することにより製品が乾燥したり、チロシンなどのアミノ酸の結晶の析出に起因する品質劣化の指標とされる「しゃり」の発生しやすいなどの問題点があった。」
(b)「【0008】【課題を解決するための手段】
本発明は、納豆容器に納豆菌を接種した煮豆を収容し、被蓋後、蓋と容器口部との一部をシールして通気性を保有させ、発酵熟成後、再シールして完全に密封することにより、前記従来の問題点を解決したのである。【0009】即ち方法の発明は、納豆容器に、納豆菌を接種した煮豆を収容して被蓋し、通気性を保有するように、蓋と容器の口部とを一部シールした後、発酵させ、発酵後冷却熟成の冷却前又は後に、容器口部と蓋とを再シールして密封することを特徴とした密封納豆の製造方法であり、シールは熱シールであり、一部シールは蓋と、容器の方形口部の四隅付近とすることを特徴としたものである。
【0010】また容器の発明は、請求項1で使用する納豆容器の、少なくとも再シール面に凸部を設けたことを特徴とする納豆容器であり、凸部は、一部シール部に近接して設けたことを特徴とするものである。
【0011】この発明における凸部は蓋と容器の口部とを一部シールした際における必要な通気量を確保する為であるから、凸部に代え、例えば凸部と凸部の間に凹部を設けることもできる。」
(c)「【0016】また、ただ単に一部を仮シールするだけでは、納豆発酵時の空気の流通が不十分で、発酵状態にバラツキが生じる。そこで、納豆の発酵時にシールされていない側面からの通気量を一定にし、発酵状態のバラツキをなくすためには、納豆容器のシール面あるいはその内側にシール面よりも僅かに(0.2?1.0mm程度)高い凸部を設け、仮止めしたトップフィルムとシール面の間に隙間を設ければよいことがわかった(図4)。尚、この凸部の形状及び数は特に限定されるものではないが、トップフィルムを傷つけるような鋭い形状のものは好ましくなく、また、その凸部の数も特に限定されるものではないが、方形の容器の場合、各側辺の仮シール部分に近い場所にそれぞれ二カ所あるのが好ましい。」
(d)「【0017】【実施例1】
原料大豆を篩にかけて夾雑物を除去した後、水に13時間浸漬する。吸水した大豆を蒸煮釜で蒸気により130℃、30分加圧蒸煮する。前記により得た煮豆の温度が80℃以下になった時、適当に希釈した種菌溶液を散布する。この煮豆を蓋のない95×95×30mmのオパレイ(タルク入りポリプロピレン)のトレー1に50gづつ盛り込み、ポリプロピレン/ポリエチレンのフィルム(厚さ70μm)2で覆い、その四隅の仮止部3をシールして仮止めする。これを発酵室に入れ、40℃、18時間発酵させた後、冷却し、ついでシール機で全面シールして密封し、さらに5℃で2日間熟成した。この納豆を10℃で20日間冷蔵保存後、品質を調べたところ、「しゃり」の発生は認められず、良好な品質を保っていた。」
(e)「【0019】【発明の効果】
本発明によれば、納豆容器の口部に被蓋し、その一部をシールして、他部に通気性を保有させたので、納豆の熟成に必要な空気は十分補給し得ると共に、虫その他の異物の侵入を未然に防止し得るなどの諸効果がある。本発明の製造方法によれば製品の水分蒸散による「しゃり」の発生がなく、また発酵・熟成のバラツキが少なく、高品質の密封納豆を多量生産し得る効果がある。」
以上の記載及び第1?2図によれば、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が開示されていると認めることができる。
「容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間の隙間から醗酵室内の温風が流入する納豆容器。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載がある。
(a)「【0022】さらに、この発明にあっては、調味料等を共蓋凹部に収納する場合は、抜き取りにくくするために僅かに凹ませることが必要であるが、特に、調味料類等を共蓋に収納しない場合において、上記納豆容器の共蓋に凹部を形成し、この凹部を利用して複数個の納豆容器を積層し、この積層状態を保持させる帯掛けで包装すると共に、該帯掛けにミシン目および/または引き代を形成することで、荷姿の高さを低く抑え、陳列スペースを少なくすることができると共に、抜き取りにくくして改竄を防止することができる。」
(b)「【0043】さらに、上記共蓋3には、図2乃至図4に示すように、その中央部に浅い凹部6が形成されており、この凹部6は、この形態例では、凸堰6a,6aにより3室6b,6c,6dが形成されて構成されている。
【0044】そして、この凹部6の表面、即ち、上記各室6b,6c,6d内は、耐水性のガスバリアー性フィルム(酸素不透過膜)7でコーティングされており、これら各室6b,6c,6d内には、たれ等の調味料等とからし及び乾燥ねぎ等の薬味が収納され、さらに、上記各室6b,6c,6d内の上部が耐水性のガスバリアー性フィルム9で密封されている。」
(c)「【0048】尚、図中符号13は、上記収納本体部1に凹凸に形成されたリブを示しており、該リブ13は、必要に応じて形成され、収納本体部1の強度を補強する作用を有しており、発酵用酸素を供給する通気路として機能し、かつ、納豆のベタ付を防止する。また、特に図示はしないが、上記共蓋3の凹部6には針穴程度の大きさの通気孔を必要に応じて開設するが、これら通気孔は、加熱成形時の発泡ポリスチレン樹脂シートが孔開け機により形成される。」
以上の記載及び第1?4,9?10図によれば、甲第4号証には,次の発明(以下「甲4発明1」という。)
「蓋体の、容器本体に設けたフランジ部との接触部を除く中央部に、蓋体を閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入する深さの凹部6を形成し、調味料等を収納した後ガスバリアー性のフィルム9で覆う納豆容器。」
及び次の発明(以下「甲4発明2」という。)が開示されていると認めることができる。
「容器と納豆の間に、発酵用酸素が流入する通気路ができる凹凸状のリブ13を、必要に応じて形成した納豆容器。」

(5)甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載がある。
(a)「【0043】まず、図4に示すように納豆12の原料となる大豆を入荷し、大豆の品質をチェックする。次に大豆から異物を除去するとともに、色彩選別機(図示せず)を用いて着色大豆を除去する。その後フルイ(図示せず)を用いて大豆の粒径を均一化する。
【0044】その後丸大豆の場合、丸大豆を洗浄して、大豆表面に付着する小さなゴミやホコリを水で洗浄する。一方、ひきわりの場合、丸大豆を6?8つに割り皮を取り除き、フルイで大きさを揃える。
【0045】次にこれらの大豆を浸漬させる。この場合、大豆を蒸し易い状態まで十分吸水させる。丸大豆の場合は12?20時間浸漬し、ひきわりの場合は3?5時間浸漬する。
【0046】次に大豆を軟らかくなるまで圧力釜で蒸煮する。粒径によって異なるが、丸大豆は約30分間、ひきわりは約15分間蒸煮する。この蒸煮によって大豆の温度は約90℃まで達する。
【0047】次に煮豆に対して希釈された納豆菌液をスプレーして納豆菌を接種する。
【0048】次に図1に示すように、容器本体11内に納豆12となる煮豆を充填し、煮豆12上に多孔性の熱可塑性フィルム15を載置する。その後熱可塑性フィルム15上にタレ16およびカラシ18を載置し、フランジ部11bに多孔性のカバーフィルム17をシールして容器本体11内を封緘する。この時容器本体11内の煮豆12は80?90℃となっている。
【0049】なお、煮豆12に対して納豆菌液をスプレーし、煮豆12を容器本体11内に充填する代わりに、納豆菌の付着していない煮豆12をまず容器本体11内に充填し、その後容器本体11内の煮豆12に対して納豆菌液をスプレーしてもよい。
【0050】次に室温が約40℃に保たれた発酵室35内の台36上に、煮豆12が収納された容器本体11を載置する(図5参照)。容器本体11を発酵室35内に約20時間放置しておくと、容器本体11内の煮豆12は、発酵室35内において発酵し、納豆12となる。納豆12の温度は醗酵により上昇し約50℃となっている。このようにして、図1に示す容器本体11と納豆12とからなる納豆包装体10が得られる。
【0051】上述のように容器本体11の胴部11aは発泡層25を含むので、容器本体11は高い保温性を有する。このため発酵室35内における煮豆12の発酵中に、煮豆12が外部の温度の影響を受けて発酵工程に不均一が生じることはない。
【0052】すなわち発酵室35内は上述のように、室温が約40℃に保たれているが、発酵室35上部では室温がやや高く、発酵室35下部では室温がやや低くなっている。このため容器本体が保温性を有しない場合、発酵中の煮豆が外気により影響を受け、上部の容器本体11と下部の容器本体11との間で煮豆12の発酵工程について不均一が生じる。これに対して本発明によれば、容器本体11は高い保温性を有するので、発酵工程の不均一化を防止して、納豆12の品質を均一に維持することができる。
【0053】次に図1に示す納豆包装体10が冷蔵庫(図示せず)中で熟成され、納豆12の温度は約5℃になる。このような熟成工程によって、納豆12独特の旨味ができる。次に納豆包装体10は帯がけされ、シュリンク包装されて出荷される。その後納豆包装体10はチルド流通される。」
以上の記載及び第1,4図によれば、甲第5号証には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が開示されていると認めることができる。
「原料となる大豆を選別する選別工程と、選別された大豆を洗浄する洗浄工程と、洗浄された大豆を水に浸漬する浸漬工程と、浸漬された大豆を蒸し煮する蒸し煮工程と、蒸し煮された大豆に納豆菌を接種する接種工程と、納豆菌が接種された大豆を容器に充填する充填工程と、容器に充填された大豆を発酵させて納豆を形成する発酵工程と、形成された納豆を熟成させる熟成工程と、熟成された納豆を包装出荷する包装、出荷工程とからなる納豆の製造方法において、前記大豆を容器に充填する充填工程と、大豆を発酵させる発酵工程の間に、添付品を載置し、蓋体の上面をカバーフィルムで覆う添付工程を設けた納豆の製造方法。」

2.本件特許発明1について
(1)対比
そこで、本件特許発明1と甲1発明1とを比較すると、甲1発明1の「凹部12b」は本件特許発明1の「窪み」に相当し、甲1発明1の蓋体の、容器本体のフランジ部との接触部は蓋体のフランジ部としての働きをするので、甲1発明1の容器本体のフランジ部に設けた溝11によって、蓋体の前記フランジ部との接触部間に形成された隙間は、本件特許発明1の容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間の隙間に相当し、両者は、
「底面と、この底面の周縁から所定の角度を持って起立する側壁と、この側壁の上端から前記底面と略平行に突出するフランジ部とを有する容器本体と、前記フランジ部の一端に折り曲げ部を介して一体化され、前記フランジ部と略同じ大きさの蓋体とを備えた納豆包装体において、
前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで窪みを形成し、該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間に隙間を有し、該隙間を介して容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出する納豆包装体。」で一致し、次の点で相違する。
[相違点1] 本件特許発明1では、窪みが、蓋体を閉じたとき容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さである点。
[相違点2]本件特許発明1では容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間の隙間を介して容器本体内に発酵装置内の温風が流入する点。

(2)相違点についての検討及び判断
まず、本件特許発明1及び甲1発明1の技術的意義について検討する。
本願明細書の段落【0005】?【0007】,【0010】には、本願発明の技術的課題として次のように記載されている。
「【0005】発泡ポリスチレン樹脂製のトレイまたはカップを納豆包装体として使用する場合、充填した大豆の上にポリエチレンなどの有孔被膜を被せて保湿性を確保し、蓋体に孔を開けることにより通気性を確保することが行われている。
【0006】【発明が解決しようとする課題】
しかし、納豆包装体の蓋体と収納した大豆(納豆)とが直接接触すると、大豆の煮汁や納豆の粘質物が蓋体の孔から染み出してくることがあり、見た目の品質を低下させる。また、蓋体に孔を形成することで、この孔から異物が侵入する恐れがあり、衛生的に問題がある。
【0007】また、納豆を摂食時、納豆の上に被せられた被膜を取り外す際に、納豆の粘質物が手指やテーブルに付着し、その始末に煩わしい手間が必要になり、摂食性が悪かった。(中略)提案されている。」
「【0010】【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本出願の請求項1に記載の発明は、底面と、この底面の周縁から所定の角度を持って起立する側壁と、この側壁の上端から前記底面と略平行に突出するフランジ部とを有する容器本体と、前記フランジ部の一端に折り曲げ部を介して一体化され、前記フランジ部と略同じ大きさの蓋体とを備えた納豆包装体において、前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで、蓋体を閉じたとき前記容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さの窪みを形成したので、蒸し煮大豆を充填し発酵させる際に、蓋体に孔を開けることなく納豆包装体内に発酵に必要な酸素を供給することができ、しかも、有孔被膜を用いることなく大豆の乾燥を防ぐことができる。」
これらの記載からみて、本件特許発明1の技術的意義は、
(a)大豆の煮汁や納豆の粘質物が蓋体の孔から染み出さず、又異物が混入することがない点。
(b)蒸し煮大豆を充填し発酵させる際に、蓋体に孔を開けることなく納豆包装体内に発酵に必要な酸素を供給できる点。
(c)有孔被膜を用いなくとも大豆の乾燥を防ぐことができる点。
にあると解することができる。
これに対して、甲1発明1においては、前記1.(1)に記載されたように、納豆用包装容器を縦に積み重ねた場合やラベルを蓋体上面に貼った場合に通気孔を塞がないように、容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間及び蓋体の窪みと容器本体の側壁との間の隙間を介して通気が行われるようにしたものであるが、これは即ち本件特許発明1と同様に、蓋体に孔を開けることで生じる課題をフランジ部に通気路を形成することで解決したものであって、本件特許発明1と甲1発明1は、その技術的意義からみると差異は格別顕著なものではない。
一方、納豆包装体において、容器本体と閉じた蓋体とで画定される空間が、充填すべき納豆の量を決定することは明白であるから、甲1発明1においても、容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部と間の隙間を介しての通気が妨げられない範囲において、充填すべき納豆の量に応じて、容器本体と閉止した蓋体とで画定される空間を設計することは当業者が適宜なし得る程度の事項にすぎないものである。
以上を踏まえ、相違点1に係る本件特許発明1の構成について検討するに、納豆容器において、蓋体に窪みを設ける場合に全体が嵩高とならないように、窪みを、蓋体を閉じたとき容器本体内に向けて侵入する深さとすることは、前記甲2発明または甲4発明1にも示されるように当業者が適宜行う事項に過ぎず、甲1発明1の窪みを、容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間の隙間を介しての通気が妨げられないように、容器容器本体の側壁と窪みの間に所定の間隔を保ったまま、蓋体を閉じたとき容器本体内に向けて侵入する深さとすることは、当業者が適宜なす、通常の創作能力の発揮に過ぎないと認める。
その際、前述のとおり、甲1発明1においては、溝11により隙間を形成して蓋体には孔を開けておらず、当該孔による染み出しや混入、大豆の乾燥は防止されることは明らかであるから、蓋体が蒸し煮大豆の表面に接触することを妨げる特段の事情は見当たらず、蓋体の窪みを蒸し煮大豆の表面に接触する深さとすることは、容器本体と閉止した蓋体とで画定される空間と充填すべき納豆の量に応じて、当業者が具体化に当たり適宜選択し得る程度の事項にすぎないものである。
次に、相違点2に係る本件特許発明1の構成について検討するに、甲3発明に示されるように、容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間の隙間から醗酵室内の温風を流入させることが周知であるので、甲1発明1の容器本体及び蓋体のフランジ部間と前記側壁と窪み間に形成された隙間を用いて、発酵時に温風を流入させることは当業者が容易になし得ることである。
よって、相違点1及び相違点2に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

3.本件特許発明2について
(1)対比
次に、本件特許発明2と甲1発明2とを比較すると、甲1発明2の「凹部12b」は本件特許発明2の「窪み」に相当し、甲1発明2の蓋体の、容器本体のフランジ部との接触部は、容器本体のフランジ部と略同じ大きさで、蓋体のフランジ部としての働きをし、窪みを取り囲むように形成されているので本件特許発明2の蓋体のフランジ部に相当する、そして、甲1発明2の容器本体のフランジ部に設けた溝11によって、蓋体の前記フランジ部との接触部間に形成された隙間は本件特許発明2の容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間の隙間に相当するので、両者は、
「底面と、この底面の周縁から所定の角度を持って起立する側壁と、この側壁の上端から前記底面と略平行に突出するフランジ部とを有する容器本体と、前記フランジ部と略同じ大きさのフランジ部を周囲に設け、前記フランジで囲まれた中央部に窪みを形成した蓋体とを備えた納豆包装体において、
前記蓋体の前記フランジ部との接触部を除く中央部に、前記側壁との間に所定の隙間を形成する大きさで窪みを形成し、
該容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間に隙間を有し、該隙間を介して容器本体内に発酵装置内の温風が流入すると共に容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出することを特徴とする納豆包装体。」で一致し、次の点で相違する。
[相違点1] 本件特許発明2では、窪みが、蓋体を閉じたとき容器本体内に向けて侵入し蒸し煮大豆の表面に接触する深さである点。
[相違点2]本件特許発明2では容器本体のフランジ部と蓋体のフランジ部との間の隙間を介して容器本体内に発酵装置内の温風が流入する点。

(2)相違点についての検討及び判断
本件特許発明2は、実質、本件特許発明1の容器本体と蓋体をフランジ部の一端の折り曲げ部を介して一体化していた構成を省いたものであり、甲1発明2との前記相違点1、相違点2は本件特許発明1と甲1発明1との相違点と同じであるので、前記2.(2)で述べたとおり、相違点1及び相違点2に係る本件特許発明2の構成は、甲1発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

4.本件特許発明3について
本件特許発明3は本件特許発明1又は本件特許発明2の納豆包装体の蓋体を、
「前記蓋体の前記容器本体の底面との対向面に複数の溝を形成し、該溝と前記隙間とによって発酵装置内の温風が流入すると共に容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出する」構成としたものであるが、
納豆容器において、容器内の大豆と接触する部分に、発酵用酸素が流入する通気路を凹凸によって形成することは甲4発明2に示されるように周知であって、蓋体と蒸し煮大豆表面が接触するように蒸し煮大豆を充填する場合に、蓋体と蒸し煮大豆の間に通気路ができるように凹凸を形成することは当業者が容易になし得ることである。
また、凹部設けて、当該凹部を溝として働かせるか、凸部を設けて、当該凸部間を溝として働かせるかは当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。

5.本件特許発明4について
本件特許発明4は本件特許発明1又は本件特許発明2の納豆包装体の容器本体を、
「前記容器本体の底面と側壁に複数の溝を形成し、該溝と前記隙間とによって発酵装置内の温風が流入すると共に容器本体内の発酵による炭酸ガスを外部に排出する」構成としたものであるが、
納豆容器において、容器本体の底面と側壁に発酵用酸素が流入する通気路を凹凸によって形成することは、甲4発明2に示されるように周知であって、当業者が容易になし得ることである。
なお、甲4発明2においては凹凸状のリブ13は容器の側壁の中央部までしか形成されていないが、凹部6を設けた分だけ大豆を充填できる高さが制限され、外部から容器内に流入した発酵用酸素はリブ13によりできる大豆と容器の隙間を通って供給されることは明白である。

6.本件特許発明5について
(1)対比
次に、本件特許発明5と甲5発明とを比較すると、両者は、
「原料となる大豆を選別する選別工程と、選別された大豆を洗浄する洗浄工程と、洗浄された大豆を水に浸漬する浸漬工程と、浸漬された大豆を蒸し煮する蒸し煮工程と、蒸し煮された大豆に納豆菌を接種する接種工程と、納豆菌が接種された大豆を容器に充填する充填工程と、容器に充填された大豆を発酵させて納豆を形成する発酵工程と、形成された納豆を熟成させる熟成工程と、熟成された納豆を包装出荷する包装、出荷工程とからなる納豆の製造方法」である点で一致し,
本件特許発明5においては、本件特許発明1ないし本件特許発明4の納豆包装体を使用する点で相違する。

(2) 相違点についての検討及び判断
上記相違点について検討すると、既に述べたように本件特許発明1ないし本件特許発明4の納豆包装体は甲1発明1及び周知技術又は甲1発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものにすぎず、このような納豆包装体を使用して甲5発明のような通常行われる製造方法によって納豆を製造することも当業者が容易になし得ることである。

7.本件特許発明6について
本件特許発明6は、本件特許発明5の納豆の製造方法において、
「前記大豆を容器に充填する充填工程と、大豆を発酵させる発酵工程の間に、蓋体に形成された窪みに添付品を載置し、蓋体の上面をカバーフィルムで覆う添付工程を設けた」ものであるが、
納豆の製造方法において、甲5発明に示されるように、充填工程と発酵工程の間に添付工程を設けることは周知であって、また、蓋体の窪みに添付品を載置することは甲4発明1に示されるように当業者が適宜なす事項にすぎないので、蓋体に窪みを設けた容器を用いて、充填工程と発酵工程の間に、蓋体に形成された窪みに添付品を載置して上面をフィルムで覆う添付工程を設けることは当業者が容易になし得ることである。

8.本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明5の納豆の製造方法において、
「前記発酵工程の後もしくは包装、出荷工程の前に、納豆包装体に添付品を添付する添付工程を設けたことを特徴とする」ものであるが、
甲4発明1や甲5発明における添付品の添付が包装、出荷工程の前に行われるのは自明のことであり、また、前記1.(4)(c)に記載されたように、甲4発明1において、凹部6に発酵時に通気する通気孔を設ける場合は、当該凹部に添付品を添付して上面をガスバリヤー性フィルムで覆うので、添付工程を発酵後に行うことになるが、納豆製造方法において、このように添付工程を、発酵工程後に行うことも適宜選択できるのであって、添付工程を発酵工程の前に行うか後に行うかは、当業者が適宜選択し得る程度の事項にすぎず、添付工程を発酵工程の後にする効果も当業者が容易に想到し得るものにすぎないと認める。よって、発酵工程の後もしくは包装、出荷工程の前に、納豆包装体に添付品を添付する添付工程を設けることは当業者が容易になし得ることである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし本件特許発明7は、いずれも甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-10 
結審通知日 2008-07-15 
審決日 2008-08-05 
出願番号 特願2001-43059(P2001-43059)
審決分類 P 1 113・ 841- ZB (B65D)
P 1 113・ 121- ZB (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 村山 達也山口 直  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 熊倉 強
村山 禎恒
登録日 2007-08-17 
登録番号 特許第3997309号(P3997309)
発明の名称 納豆包装体とそれを用いた納豆の製造方法  
代理人 山本 光太郎  
代理人 北村 克己  
代理人 川島 順  
代理人 中島 幹雄  
代理人 旦 武尚  
代理人 有馬 潤  

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