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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1185721
審判番号 不服2007-25914  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-20 
確定日 2008-10-09 
事件の表示 特願2001-273965「レンズ鏡胴」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月19日出願公開、特開2003- 84186〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は、平成13年9月10日の出願であって、平成19年4月11日付けで拒絶の理由が通知され、平成19年6月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成19年8月13日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成19年9月20日付けで本件審判請求がされたものである。
そして、当審においてこれを審理した結果、平成20年5月14日付けで拒絶の理由を通知したところ、平成20年7月22日付けで意見書が提出されたものである。

したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年6月15日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「レンズ光学系を収容し内外多重に配される第一筒体及び第二筒体を少なくとも有し、前記第一筒体の周面に形成されたカム溝に前記第二筒体の周面に形成されるカムフォロワを係合させ、前記第二筒体の回転により前記カム溝の形状に応じて前記第二筒体を前記第一筒体に対し繰り出し及び繰り込み可能としたレンズ鏡胴において、
前記カム溝は、前記第一筒体の周面を貫通して形成され、その一部に前記レンズ光学系の光軸方向に対して垂直に形成される垂直領域を有し、
前記カムフォロワは、前記光軸方向に対し垂直となる側部に前記カム溝の前記垂直領域の側壁に当接する平面状の当接面を有していること、
を特徴とするレンズ鏡胴。」


第2 当審の判断
1 引用刊行物の記載事項
平成20年5月14日付けの拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-292845号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(ア)?(コ)の記載が図示とともにある。

(ア)「【請求項1】 光学機器本体に対し光軸方向への繰出し、沈胴が自在なレンズ鏡胴を備えた光学機器において、
前記レンズ鏡胴が、
前記光学機器本体に対し光軸方向前方に繰り出した繰出状態と光軸方向後方に沈胴した沈胴状態との間で移動自在な、内部にレンズが装備された移動筒組立体と、
前記光学機器本体に対し光軸方向に回転する回転部材を備え該回転部材の回転により前記移動筒組立体を繰出状態と沈胴状態との間で往復動させる駆動筒組立体とを具備し、
前記移動筒組立体と前記駆動筒組立体とのうちの一方の組立体である第1の組立体に、前記駆動筒組立体に対する前記移動筒組立体の繰出し、沈胴を案内するカム溝が設けられてなるとともに、
前記移動筒組立体と前記駆動筒組立体とのうちの他方の組立体である第2の組立体に、前記第1の組立体に設けられたカム溝に係合するカムピンが設けられてなり、
前記第1の組立体がさらに、前記カムピンが前記カム溝により繰出状態に対応する部分に案内されたときの、該カムピンの光軸方向背後に対応する位置に、該カムピンに接するように設けられた壁体を有することを特徴とする光学機器。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光学機器本体に対し光軸方向への繰出し、沈胴が自在なレンズ鏡胴を備えた光学機器、例えばカメラ、電子カメラ、ビデオカメラ、映写機、オーバヘッドプロジェクタ(OHP)等に関する。」

(ウ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ここで、レンズ鏡胴が繰出状態にあるとき、そのレンズ鏡胴はカメラ本体から突出しているためそのレンズ鏡胴の先端が何かにぶつかったりしてカメラ本体側に押圧される危険性がある。
【0006】ここで、レンズ鏡胴が繰出状態にあるときは、カムピンは、カム溝の、光軸に対して垂直か又は垂直に近い方向に延びる部分に係合しているために、繰出状態にあるレンズ鏡胴に外部から不用意な外力が加えられると、その外力により、カムピンとカム溝との係合箇所に集中応力が作用し、カムピン、カム溝のいずれか一方あるいは双方が破損するおそれがある。 本発明は、上記事情に鑑み、レンズ鏡胴が繰出状態にあるときにレンズ鏡胴先端が押圧されても、カムピンやカム溝の破損が防止されるレンズ鏡胴を備えた光学機器を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明の光学機器は、光学機器本体に対し光軸方向への繰出し、沈胴が自在なレンズ鏡胴を備えた光学機器において、上記レンズ鏡胴が、光学機器本体に対し光軸方向前方に繰り出した繰出状態と光軸方向後方に沈胴した沈胴状態との間で移動自在な、内部にレンズが装備された移動筒組立体と、光学機器本体に対し光軸方向に回転する回転部材を備えその回転部材の回転により移動筒組立体を繰出状態と沈胴状態との間で往復動させる駆動筒組立体とを具備し、移動筒組立体と駆動筒組立体とのうちの一方の組立体である第1の組立体に、駆動筒組立体に対する移動筒組立体の繰出し、沈胴を案内するカム溝が設けられてなるとともに、移動筒組立体と駆動筒組立体とのうちの他方の組立体である第2の組立体に、上記第1の組立体に設けられたカム溝に係合するカムピンが設けられてなり、上記第1の組立体がさらに、上記カムピンが上記カム溝により繰出状態に対応する部分に案内されたときの、そのカムピンの光軸方向背後に対応する位置に、そのカムピンに接するように設けられた壁体を有することを特徴とする。
【0008】本発明の光学機器は、カム溝により繰出状態に対応する部分に案内されたカムピンの光軸方向背後に対応する位置にそのカムピンに接するように設けられた壁体を有するため、レンズ鏡胴先端が押された場合にカムピンはカム溝との係合部分のみでなくその壁体に接する部分でもその衝撃を受け止めることになり、その衝撃が一箇所に集中せず分散し、カムピンやカム溝の破損が防止される。」

(エ)「【0020】また、このカメラ10のレンズ鏡胴30は、2段繰出し、沈胴式のレンズ鏡胴であり、鏡胴カバー31に覆われた固定筒と、その固定筒に対し回転しながら繰出し、沈胴を行なう回転移動筒32と撮影レンズユニット34が組み込まれた直進移動筒33とから構成されている。このレンズ鏡胴30が図1に示す沈胴状態から図2に示す繰出状態に移行するにあたっては、固定筒を残したまま回転移動筒32が回転しながら繰り出され、さらにそれと同時に、その回転移動筒32の中を、直進移動筒33が回転を伴なわずにその回転移動筒32に対しさらに繰り出される。また、これと同様に図2に示す繰出状態から図1に示す沈胴状態に移行するにあたっては、回転移動筒32は回転しながら固定筒に対し沈胴し、直進移動筒33は、回転を伴なわずに回転移動筒32に対し沈胴する。」

(オ)「【0023】図3、図4、および図5は、図1、図2に示すカメラのレンズ鏡胴を、光軸を含む平面で断面して示す図であり、図3は沈胴状態、図4は沈胴状態と繰出状態との中間的な状態、図5は繰出状態をあらわしている。
【0024】カメラ本体100の内部に搭載された図示しない電動モータからの回転駆動力が駆動シャフト101を経由して駆動ギア102に伝えられる。
【0025】駆動ギア102には、駆動リング311に設けられた駆動リングギア311aが噛合してあり、駆動ギア102が回転するとその回転駆動力は駆動リングギア311aに伝えられ、駆動リング311が光軸を中心に回転する。この駆動リング311は、カメラ本体100に固定された固定カム筒312の外周を取り巻くリング状の部材である。この駆動リング311には、連結リング313が、その駆動リング311の回転に伴ってその駆動リング311と一体的に回転するように嵌合している。この連結リング313は駆動リング311の前端部で駆動リング311に連結しており、固定カム筒312の内側に回り込み、その固定カム筒312の内側に延びる、間にスリットが形成された2本のアームからなるフォーク部313aが形成されている。このフォーク部313aの2本のアーム間のスリットには、回転移動筒32の外壁に立設した第1のカムピン32aが、光軸方向にスライド自在に挿通されている。この第1のカムピン32aは、連結リング313のフォーク部313aを突き抜けて、固定カム筒312のリング状の内壁面に設けられた第1のカム溝312aと係合している。
【0026】図6は、固定カム筒312の内壁面に設けられた第1のカム溝のパターンを示す図である。
【0027】図6の横軸は、光軸を中心とした回転方向の角度であり、図の上側が光軸方向後方(カメラ本体側)、下側が光軸方向前方である。この図6に示す、固定カム筒312の内壁には、図3?図5に示す第1のカム溝312aのほか、この第1のカム溝312aとはカムピンとの係合形状(本実施形態では具体的にはカム溝の幅)が異なるもう一種類の第1のカム溝312bが形成されている。これら二種類の第1のカム溝312a,312bは、カムピンとの係合形状は相互に異なるものの、カムピンを案内する経路パターンは、位相が90°ずれた位置に形成されていることを除き同一である。すなわち、これら2種類の第1のカム溝312a,312bは、それらのうちの一方を90°ずらすともう一方の第1のカム溝に重なる同一のパターンを有する。」

(カ)「【0036】回転移動筒32の後端部にはその外周にリング状の係合溝32eが設けられており、その係合溝32eには、直進ガイドリング331の係合爪331aが係合している。また固定カム筒312の内壁には直進ガイドキー溝312cが形成されており、直進ガイドリング331に設けられた直進ガイドキー331bが嵌入している。
【0037】したがって、駆動ギア102が回転してその回転駆動力が駆動リングギア311aを介して駆動リング311に伝えられると、その駆動リング311が光軸を中心に回転し、その駆動リング311と嵌合している連結リング313が駆動リング311と一体的に光軸を中心に回転し、その連結リング313に備えられたフォーク部312a,312b(フォーク部312bについては図3?図5には図示せず、図8参照)で、そのフォーク部312a,312bに挟まれた第1のカムピン32a,32b(第1のカムピン32bも図3?図5には図示せず、図8参照)を光軸中心に回転させ、これにより、第1のカムピン32a,32bが固設している回転移動筒32が光軸中心にも回転する。ここで、第1のカムピン32a,32bは、図6に示す形状の第1のカム溝312a,312bに係合しているため、回転移動筒32はその第1のカム溝312a,312bの経路パターンに従って回転しながら光軸方向に移動する。ここで、図6に示す第1のカム溝312a,312bの経路パターンからわかるように、回転移動筒32は、同一方向の回転だけで光軸方向に繰り出され、さらに回転することにより沈胴する。また、この回転移動筒32の内壁面には、第2のカム溝32cが形成されている。この第2のカム溝32cについては後で説明する。
【0038】上述したように、この回転移動筒32の後端部のリング状の係合溝32eには直進ガイドリング331の係合爪331aが係合しており、この直進ガイドリング331の直進ガイドキー331bが固定カム溝312の内壁面に形成された直進ガイドキー溝312cに嵌入しているため、回転移動筒32が回転しても直進ガイドリング311は回転せず、ただしこの直進ガイドリング311は回転移動筒32の光軸方向の移動にはその回転移動筒32と一緒に移動する。
【0039】この直進ガイドリング311は、回転移動筒32の内壁面に沿って筒状に延びており、その部分には内壁面と外壁面とを貫いて光軸方向に直線的に延びるスリット状の直進ガイド溝穴331cが形成されている。また、その直進ガイドリング331のさらに内側には、レンズシャッタ組34を搭載した直進移動筒33が配置されている。この直進移動筒33の外壁面後端部には第2のカムピン33aが立設し、その第2のカムピン33aは、直進ガイドリング33に設けられた直進ガイド溝穴331cを突き抜けて、回転移動筒32の内壁面に形成された第2のカム溝32cに係合している。」

(キ)「【0046】また、図9に示す2本の第2のカム溝32c,32dの、繰出状態においてカムピン33a,33bが配置される部分は光軸方向(審決注:段落【0052】及び図9に照らすと、「光軸に対し垂直な方向」の誤記である。)(図9の左右方向)に延びており、繰出状態に配置された第2のカムピン33c,33d(審決注:段落【0052】及び図9に照らすと、「第2のカムピン33a,33b」の誤記である。)の光軸方向背後(図9の上側)に対応する位置に補助壁32i,32jが設けられている。
【0047】この補助壁32i,32jは、このレンズ鏡胴が繰出状態にある(カムピン33a,33bがカム溝32c,32dの、その繰出状態に対応した位置にある)ときにそのカムピン33a,33bに接し、レンズ鏡胴先端が不用意に押されたときにカムピン33a,33bを保護するためのものである。」

(ク)「【0052】ここで、図9にも示す補助壁32i,32jは、回転移動筒32の内壁面から直進移動筒33側に突出しており、図10、図11に示すように、カムピン33a,33bが、第2のカム溝32c,32dの、繰出状態に対応した位置にあるときに、それらのカムピン33a,33bのガイド部33a2,33b2に光軸方向背後から接触する。こうすることにより、繰出状態にあるレンズ鏡胴の先端が不用意に押されたとき、その衝撃は第2のカムピン33a,33bの、第2のカム溝32c,32dに係合した係合部33a3,33b3のみには集中せず、その係合部33a3,33bと案内部33a2,33b2との双方で受け止められるため、カムピン33a,33bやカム溝32c,32dの破損が防止される。またカム溝32c,32dの繰出状態に対応した部分は光軸に対し垂直な方向に延びているため、レンズ鏡胴先端が押されても、カムピン33a,33bの、カム溝32c,32dとの係合位置がずれてしまうことが防止され、それが原因となって不用意なピンボケ写真が撮影されてしまうことも防止されている。」

(ケ)「【0053】図3?図5に再度戻って説明を続行する。
【0054】前述したようにして、転移動筒32(審決注:「回転移動筒32」の誤記である。)は、第1のカムピン32a,32bと第1のカム溝312a,312bとの作用により回転しながら光軸方向に移動し、それに伴って直進ガイドリング331が回転が阻止された状態で光軸方向に関してのみ回転移動筒32とともに移動する。
【0055】ここで回転移動筒32の内壁面には第2のカム溝32c,32dが形成されており、直進移動筒33に立設した第2のカムピン32aが直進ガイドリング331の直進ガイド溝穴331cを突き抜けて第2のカム溝32c,32dに係合しているため、回転移動筒33が回転しながら光軸方向に移動すると、それに伴って、直進移動筒33は、直進ガイド溝穴331cにより回転が阻止された状態で光軸方向に移動する。ここで、前述したように、第1のカムピン32a,32bが第1のカム溝312a,312bの光軸方向前方に進んだ部分に案内されたときに第2のカムピン33cも第2のカム溝312a,312bの、光軸方向前方に進んだ部分に案内されるように各カム溝の経路パターンや各カムピンの配置位置が定められている、このため、回転移動筒32が光軸方向前方に繰り出されるときに直進移動筒部33はその回転移動筒32に対しさらに前方に繰り出されて、図5に示すように、回転移動筒32が鏡胴カバー37よりも前方に突出し直進移動筒33はさらに前方に突出した状態となり、回転移動筒32が光軸方向後方に沈胴するときに直進移動筒33もその回転移動筒32に対し沈胴して、図3に示すように、回転移動筒32および直進移動筒33の双方が鏡胴カバー31の内部に入り込んだ状態となる。ここで、これまでの説明から明らかなように、この繰出し、沈胴の際、回転移動筒32は回転しながら光軸方向に移動し、直進移動筒33は回転は伴なわずに直進的に光軸方向に移動する。また、この繰出し、沈胴は駆動リング311が一方向に90°回転するごとに繰出しと沈胴が交互に繰り返される。」

(コ)「【0061】尚、補助壁は、図6に示す第1のカム溝312a,312bの繰出状態に相当する部分に隣接した位置に設け、その位置に案内された第1のカムピン32a,32bの光軸方向背後に接するようにしてもよい。このように構成した場合は、駆動リング311、固定カム筒312、および連結リング313を合わせたものが本発明にいう駆動筒組立体に相当し、それ以外の、回転移動端33(審決注:「回転移動筒33」の誤記である。)、飾り銘板36、および直進ガイドリング331等を合わせたものが本発明にいう移動筒組立体に相当することになる。
【0062】上述の実施形態では、第2のカム溝と第2のカムピンとからなる第2のカム機構に関連して本発明に特徴的な壁体を設けたが、本発明の特徴的な壁体を第1のカム溝と第1のカムピンとからなる第1のカム機構に関連して設けてもよく、あるいはそれら第1および第2のカム機構それぞれに関連して設けてもよい。」

2 引用例1記載の発明の認定
引用例1の上記記載事項(ア)(キ)(ク)において引用例1の上記記載事項(コ)に記載されているように「補助壁は、図6に示す第1のカム溝312a,312bの繰出状態に相当する部分に隣接した位置に設け、その位置に案内された第1のカムピン32a,32bの光軸方向背後に接するように」したり「本発明の特徴的な壁体を第1のカム溝と第1のカムピンとからなる第1のカム機構に関連して設け」たりすると、固定カム筒312がさらに、第1のカムピン32a,32bが第1のカム溝312a,312bにより繰出状態に対応する部分に案内されたときの前記第1のカムピン32a,32bの光軸方向背後に対応する位置に前記第1のカムピン32a,32bに接するように設けられた壁体を有することになることは明らかである。
したがって、引用例1の上記記載事項(ア)乃至(コ)から、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。

「リング状の内壁面に第1のカム溝312a,312bが設けられた固定カム筒312と、前記固定カム筒312の内側に位置し外壁に第1のカムピン32a,32bが立設された回転移動筒32と、前記回転移動筒32の後端部のリング状の係合溝32eに係合爪331aが係合する直進ガイドリング331と、前記直進ガイドリング331の内側に配置され外壁面後端部に第2のカムピン33a,33bが立設された直進移動筒33とを有し、前記第1のカムピン32a,32bは前記第1のカム溝312a,312bと係合し、前記第2のカムピン33a,33bは前記直進ガイドリング331に設けられた直進ガイド溝穴331cを突き抜けて前記回転移動筒32の内壁面に形成された第2のカム溝32c,32dに係合し、前記回転移動筒32が回転すると、前記回転移動筒32は前記固定カム筒312を残したまま前記第1のカム溝312a,312bの経路パターンに従って回転しながら光軸方向前方に繰り出されたり光軸方向後方に沈胴したりし、それと同時に、前記回転移動筒32の中を前記直進移動筒33が回転を伴なわずに前記回転移動筒32に対しさらに繰り出されたり沈胴したりするレンズ鏡胴において、
前記直進移動筒33には撮影レンズユニットが組み込まれ、
前記固定カム筒312がさらに、前記第1のカムピン32a,32bが前記第1のカム溝312a,312bにより繰出状態に対応する部分に案内されたときの前記第1のカムピン32a,32bの光軸方向背後に対応する位置に前記第1のカムピン32a,32bに接するように設けられた壁体を有するレンズ鏡胴。」(以下、「引用発明1」という。)

また、引用例1の上記記載事項(ア)乃至(ケ)から、引用例1には次のような発明も記載されていると認めることができる。

「リング状の内壁面に第1のカム溝312a,312bが設けられた固定カム筒312と、前記固定カム筒312の内側に位置し外壁に第1のカムピン32a,32bが立設された回転移動筒32と、前記回転移動筒32の後端部のリング状の係合溝32eに係合爪331aが係合する直進ガイドリング331と、前記直進ガイドリング331の内側に配置され外壁面後端部に第2のカムピン33a,33bが立設された直進移動筒33とを有し、前記第1のカムピン32a,32bは前記第1のカム溝312a,312bと係合し、前記第2のカムピン33a,33bは前記直進ガイドリング331に設けられた直進ガイド溝穴331cを突き抜けて前記回転移動筒32の内壁面に形成された第2のカム溝32c,32dに係合し、前記回転移動筒32が回転すると、前記回転移動筒32は前記固定カム筒312を残したまま前記第1のカム溝312a,312bの経路パターンに従って回転しながら光軸方向前方に繰り出されたり光軸方向後方に沈胴したりし、それと同時に、前記回転移動筒32の中を前記直進移動筒33が回転を伴なわずに前記回転移動筒32に対しさらに繰り出されたり沈胴したりするレンズ鏡胴において、
前記直進移動筒33には撮影レンズユニットが組み込まれ、
前記回転移動筒32がさらに、前記第2のカムピン33a,33bが前記第2のカム溝32c,32dにより繰出状態に対応する部分に案内されたときの前記第2のカムピン33a,33bの光軸方向背後に対応する位置に前記第2のカムピン33a,33bに接するように設けられた壁体を有するとともに、前記第2のカム溝32c,32dの繰出状態に対応した部分は光軸に対し垂直な方向に延びているレンズ鏡胴。」(以下、「引用発明2」という。)

3 本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
(1)引用発明1の「固定カム筒312」、「回転移動筒32」、「レンズ鏡胴」は、それぞれ、本願発明の「第一筒体」、「第二筒体」、「レンズ鏡胴」に相当する。
また、引用発明1の「回転移動筒32」が「前記固定カム筒312の内側に位置」していることは、本願発明の「第一筒体及び第二筒体」が「内外多重に配される」ことに相当する。
さらに、引用発明1の「レンズ鏡胴」では、「回転移動筒32」が「前記固定カム筒312の内側に位置」し、「前記回転移動筒32の後端部のリング状の係合溝32eに」「直進ガイドリング331」の「係合爪331aが係合」し、「前記直進ガイドリング331の内側に」「撮影レンズユニットが組み込まれ」た「直進移動筒33」が「配置され」ているから、引用発明1の「レンズ鏡胴」では、「固定カム筒312」及び「回転移動筒32」の内側に「撮影レンズユニット」が収容されていると認めることができる。したがって、引用発明1の「撮影レンズユニット」を収容する「固定カム筒312」及び「回転移動筒32」が、本願発明の「レンズ光学系を収容」する「第一筒体及び第二筒体」に相当する。

(2)引用発明1の「固定カム筒312」の「リング状の内壁面に」「設けられた」「第1のカム溝312a,312b」は、本願発明の「第一筒体の周面に形成されたカム溝」に相当し、引用発明1の「回転移動筒32」の「外壁に」「立設された」「第1のカムピン32a,32b」は、本願発明の「第二筒体の周面に形成されるカムフォロワ」に相当する。
したがって、引用発明1の「前記第1のカムピン32a,32bは前記第1のカム溝312a,312bと係合」することは、本願発明の「前記第一筒体の周面に形成されたカム溝に前記第二筒体の周面に形成されるカムフォロワを係合させ」ることに相当する。

(3)引用例1の上記記載事項(ウ)(ク)(コ)から、引用発明1の「前記固定カム筒312」が「前記第1のカムピン32a,32bが前記第1のカム溝312a,312bにより繰出状態に対応する部分に案内されたときの前記第1のカムピン32a,32bの光軸方向背後に対応する位置に前記第1のカムピン32a,32bに接するように設けられた壁体を有する」のは、繰出状態にあるレンズ鏡胴の先端が不用意に押されたときの衝撃を、引用発明1の「第1のカムピン32a,32b」と「第1のカム溝312a,312b」とが接する部分及び引用発明1の「第1のカムピン32a,32b」と「壁体」とが接する部分の双方で受け止めて、「第1のカムピン32a,32b」及び「第1のカム溝312a,312b」の破損を防止するためであると認められる。つまり、引用発明1では、「壁体」を設けることよって、繰出状態にあるレンズ鏡胴の先端が不用意に押されたときに「第1のカムピン32a,32b」が接する部分の大きさを大きくして、繰出状態にあるレンズ鏡胴の先端が不用意に押されたときの衝撃を分散して受け止めるようにすることで、「第1のカムピン32a,32b」及び「第1のカム溝312a,312b」の破損を防止していると認められる。
他方、本願発明の「前記カムフォロワは」「前記カム溝の」「側壁に当接する平面状の当接面を有していること」の技術的意義について、本願明細書の段落【0033】には、「カムフォロワ23の当接面23aがカム溝9の側壁9dと広く接触しているため、中間筒7に外力が作用しても、カムフォロワ23からカム溝9へ力が分散して伝達される。このため、カムフォロワ23とカム溝9との接触部分が破損しにくい。」と記載されている。
すると、引用発明1の「前記固定カム筒312がさらに、前記第1のカムピン32a,32bが前記第1のカム溝312a,312bにより繰出状態に対応する部分に案内されたときの前記第1のカムピン32a,32bの光軸方向背後に対応する位置に前記第1のカムピン32a,32bに接するように設けられた壁体を有する」ことの技術的意義と、本願発明の「前記カムフォロワは」「前記カム溝の」「側壁に当接する平面状の当接面を有していること」の技術的意義は、ともに、レンズ鏡胴の筒体に外力が作用した場合に前記カムフォロワが接する部分の大きさを大きくすることにより、レンズ鏡胴の筒体に外力が作用した場合に前記カムフォロワから前記外力を分散して伝達されるようにして、前記カムフォロワと前記カム溝との接触部分が破損しにくいようにすることである。
したがって、引用発明1の「前記固定カム筒312がさらに、前記第1のカムピン32a,32bが前記第1のカム溝312a,312bにより繰出状態に対応する部分に案内されたときの前記第1のカムピン32a,32bの光軸方向背後に対応する位置に前記第1のカムピン32a,32bに接するように設けられた壁体を有する」ことと本願発明の「前記カムフォロワは」「前記カム溝の」「側壁に当接する平面状の当接面を有していること」とは、レンズ鏡胴の筒体に外力が作用した場合に前記カムフォロワが接する部分の大きさを大きくすることにより、前記カムフォロワから前記外力を分散して伝達されるようにして、前記カムフォロワとカム溝との接触部分が破損しにくいようにした点で一致する。

(4)したがって、本願発明と引用発明1とは、
「レンズ光学系を収容し内外多重に配される第一筒体及び第二筒体を少なくとも有し、前記第一筒体の周面に形成されたカム溝に前記第二筒体の周面に形成されるカムフォロワを係合させ、前記第二筒体の回転により前記カム溝の形状に応じて前記第二筒体を前記第一筒体に対し繰り出し及び繰り込み可能としたレンズ鏡胴において、
前記レンズ鏡胴の筒体に外力が作用した場合に前記カムフォロワが接する部分の大きさを大きくすることにより、前記カムフォロワから前記外力を分散して伝達されるようにして、前記カムフォロワと前記カム溝との接触部分が破損しにくいようにしたこと、
を特徴とするレンズ鏡胴。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点1〉
本願発明の「カム溝」は「第一筒体の周面を貫通して形成され」ているのに対し、引用発明の「第1のカム溝312a,312b」は「固定カム筒312」の周面を貫通して形成されていない点。

〈相違点2〉
本願発明の「カム溝」は「その一部に前記レンズ光学系の光軸方向に対して垂直に形成される垂直領域を有し」ており、本願発明の「カムフォロワ」は「光軸方向に対し垂直となる側部に前記カム溝の前記垂直領域の側壁に当接する平面状の当接面を有している」のに対し、引用発明の「第1のカム溝312a,312b」は前記垂直領域が形成されておらず、引用発明の「第1のカムピン32a,32b」は前記平面状の当接面を有していない点。

4 相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
カム機構を有するレンズ鏡胴の分野では、カムフォロワが係合されるカム溝を前記カム溝が形成された筒体の周面を貫通して形成することは、本願出願時において当業者に周知の技術的事項である(例えば、特開2001-235673号公報(移動筒用カム孔24、図2,図8、図10)、特開2001-100083号公報(移動筒用カム24、図2、図4)を参照。)。
すると、引用発明の「第1のカム溝312a,312b」を「固定カム筒312」の周面を貫通するように形成することは、当業者であれば容易に想到し得る。
したがって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(2)相違点2について
ア 引用例1の上記記載事項(ク)によれば、引用発明2において「前記第2のカム溝32c,32dの繰出状態に対応した部分は光軸に対し垂直な方向に延びている」こととしたのは、「レンズ鏡胴先端が押されても、カムピン33a,33bの、カム溝32c,32dとの係合位置がずれてしまうこと」を「防止」し、「それが原因となって不用意なピンボケ写真が撮影されてしまうこと」も「防止」するためである。
そして、引用発明1の「レンズ鏡胴」は「前記回転移動筒32が回転すると、前記回転移動筒32は前記固定カム筒312を残したまま前記第1のカム溝312a,312bの経路パターンに従って回転しながら光軸方向前方に繰り出されたり光軸方向後方に沈胴したりし、それと同時に、前記回転移動筒32の中を前記直進移動筒33が回転を伴なわずに前記回転移動筒32に対しさらに繰り出されたり沈胴したりする」から、引用発明1の「レンズ鏡胴」が繰出状態にある場合には、引用発明1の「撮影レンズユニット」よりもカメラ本体側に「回転移動筒32」及び「固定カム筒312」が位置することになる。すると、引用発明1の「レンズ鏡胴」が繰出状態にある場合において「レンズ鏡胴」先端が押されて第1のカムピン32a,32bの、第1のカム溝312a,312bとの係合位置がずれてしまうと、「撮影レンズユニット」とカメラのフィルムや撮像素子との距離が変わってしまうため、不用意なピンボケ写真が撮影されてしまうことは明らかである。
したがって、引用発明1に引用発明2の「回転移動筒32がさらに、第2のカムピン33a,33bが第2のカム溝32c,32dにより繰出状態に対応する部分に案内されたときの前記第2のカムピン33a,33bの光軸方向背後に対応する位置に前記第2のカムピン33a,33bに接するように設けられた壁体を有するとともに、前記第2のカム溝32c,32dの繰出状態に対応した部分は光軸に対し垂直な方向に延びている」ことを採用して、引用発明1の「第1のカム溝312a,312b」の繰出状態に対応した部分を光軸に垂直な方向に延在させることは、当業者であれば容易に想到し得る。
イ その際、上記「3 本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定」の欄の「(3)」の欄で検討したとおり、引用発明1の「前記固定カム筒312がさらに、前記第1のカムピン32a,32bが前記第1のカム溝312a,312bにより繰出状態に対応する部分に案内されたときの前記第1のカムピン32a,32bの光軸方向背後に対応する位置に前記第1のカムピン32a,32bに接するように設けられた壁体を有する」ことの技術的意義は、「壁体」を設けることよって、繰出状態にあるレンズ鏡胴の先端が不用意に押されたときに「第1のカムピン32a,32b」が接する部分の大きさを大きくして、繰出状態にあるレンズ鏡胴の先端が不用意に押されたときの衝撃を分散して受け止めるようにすることで、「第1のカムピン32a,32b」及び「第1のカム溝312a,312b」の破損を防止することであるところ、カム溝とカムフォロワ等カム機構を構成する部材どうしを前記部材の側面で平面的に接触させることは本願出願時において当業者に周知の技術的事項であり(例えば、特開2001-235673号公報(台形の板状に形成された移動筒用カムピン25のガイド溝係合部25Bと固定筒16の外周面に形成されたガイド溝49等)、特開2001-124972号公報(図14のカム突起31と直線カム溝16)、特開昭48-35142号公報(菱形カムフォロアー1とカム溝2)、特開平4-104112号公報(第2頁右上欄第3?11行、第3頁左上欄第19行?同頁右上欄第13行、第3頁左下欄第16行?同頁右下欄第2行)を参照。)、このようにカム溝とカムフォロワ等カム機構を構成する部材どうしを前記部材の側面で平面的に接触させればカム溝とカムフォロワ等カム機構を構成する部材どうしが側面で接する部分の大きさが大きくなることは自明であるから、引用発明1において「壁体」を設けることによって「前記レンズ鏡胴の筒体に外力が作用した場合に」「第1のカムピン32a,32b」が接する部分の大きさを大きくすることに代えて、上記周知技術のように「第1のカムピン32a,32b」の側面に平面状の当接面を設けて、「第1のカムピン32a,32b」と「第1のカム溝312a,312b」とを平面的に接触させるようにして、「前記レンズ鏡胴の筒体に外力が作用した場合に」「第1のカムピン32a,32b」が接する部分の大きさを大きくするようにすることは、当業者が適宜なし得る設計変更である。
したがって、相違点2に係る本願の請求項1に係る発明の構成を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(3)本願発明の進歩性の判断
以上のとおりであるから、上記相違点1,2に係る本願発明の発明特定事項を採用することは当業者にとって想到容易である。
また、(i)引用発明2の「回転移動筒32がさらに、第2のカムピン33a,33bが第2のカム溝32c,32dにより繰出状態に対応する部分に案内されたときの前記第2のカムピン33a,33bの光軸方向背後に対応する位置に前記第2のカムピン33a,33bに接するように設けられた壁体を有するとともに、前記第2のカム溝32c,32dの繰出状態に対応した部分は光軸に対し垂直な方向に延びている」ことの技術的意義について、引用例1の上記記載事項(ク)には、「繰出状態にあるレンズ鏡胴の先端が不用意に押されたとき、その衝撃は第2のカムピン33a,33bの、第2のカム溝32c,32dに係合した係合部33a3,33b3のみには集中せず、その係合部33a3,33bと案内部33a2,33b2との双方で受け止められるため、カムピン33a,33bやカム溝32c,32dの破損が防止される」と記載されていることや、(ii)カム溝とカムフォロワ等カム機構を構成する部材どうしをその側面で平面的に接触させることの周知例の一つとして挙げた特開2001-235673号公報には、移動筒を固定筒に対して被写体側に繰り出させた突出位置においてガイド溝49が光軸に対し垂直な方向に延在し且つ前記ガイド溝49の光軸方向に対し垂直な方向に延在する部分において、前記ガイド溝49と台形の板状に形成された移動筒用カムピン25のガイド溝係合部25Bとがその側面で面接触していることが記載されていること等に照らすと、本願発明の効果は、引用例1に記載された発明及び周知技術から予測し得る程度のものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明は引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第3 むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。そして、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-08 
結審通知日 2008-08-12 
審決日 2008-08-26 
出願番号 特願2001-273965(P2001-273965)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊岡 智代  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 日夏 貴史
佐藤 昭喜
発明の名称 レンズ鏡胴  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 鈴木 光  

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