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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1189858 |
審判番号 | 不服2006-14144 |
総通号数 | 110 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-07-04 |
確定日 | 2008-12-22 |
事件の表示 | 特願2001-117544「半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月21日出願公開、特開2001-351863〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成6年3月28日に出願した特願平6-57727号の一部を平成13年4月16日に新たな出願としたものであって、平成18年5月25日付けで、平成18年3月31日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。 2.平成18年7月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について [補正の却下の決定の結論] 平成18年7月4日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)本件補正の内容 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし10を、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10と補正するとともに、発明の詳細な説明を補正するものであり、補正前後の請求項1は以下のとおりである。 (補正前) 「【請求項1】 絶縁性表面を有する基板上に非晶質半導体膜を堆積後、被照射領域が帯状になるように加熱光線を該非晶質半導体膜に照射することにより該非晶質半導体膜を加熱して熔融し、さらに該基板に対して該光線の照射による該帯状の被照射領域を移動させることによって、熔融された該非晶質半導体膜を多結晶化する半導体装置の製造方法であって、 該光線は連続波レーザであり、 該基板に対する該被照射領域を移動させる速度は、該被照射領域に該光線が照射されてから該非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下にし、 前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲とすることを特徴とする半導体装置の製造方法。」 (補正後) 「【請求項1】 絶縁性表面を有する基板上に非晶質半導体膜を堆積後、被照射領域が帯状になるように加熱光線を該非晶質半導体膜に照射することにより該非晶質半導体膜を加熱して熔融し、さらに前記基板に対して前記加熱光線の照射による該帯状の被照射領域を移動させることによって、熔融した前記非晶質半導体膜を冷却して多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域を形成して多結晶半導体膜を形成する半導体装置の製造方法であって、 前記加熱光線は連続波レーザであり、 前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲とし、 前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度を、前記種結晶領域の多結晶半導体が溶融しない速度であって、該被照射領域に前記加熱光線が照射されてから前記非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下にすることを特徴とする半導体装置の製造方法。」 (2)本件補正の内容の整理 本件補正の内、請求項1についての補正内容を、以下に整理する。 (補正事項1) 補正前の請求項1の「該基板に対して該光線の照射による該帯状の被照射領域を移動させることによって、熔融された該非晶質半導体膜を多結晶化する」を、補正後の請求項1の「前記基板に対して前記加熱光線の照射による該帯状の被照射領域を移動させることによって、熔融した前記非晶質半導体膜を冷却して多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域を形成して多結晶半導体膜を形成する」と補正すること。 (補正事項2) 補正前の請求項1の「該光線は連続波レーザであり」を、補正後の請求項1の「前記加熱光線は連続波レーザであり」と補正すること。 (補正事項3) 補正前の請求項1の「該基板に対する該被照射領域を移動させる速度は、該被照射領域に該光線が照射されてから該非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下にし、 前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲とする」を、補正後の請求項1の「前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲とし、 前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度を、前記種結晶領域の多結晶半導体が溶融しない速度であって、該被照射領域に前記加熱光線が照射されてから前記非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下にする」と補正すること。 (3)願書に最初に添付した明細書又は図面の記載 願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)又は図面(以下「当初図面」という。)には、以下の事項が記載されている。 「 【0002】 【従来の技術】 従来、多結晶化の方法として、非晶質半導体膜を堆積させた基板全面を熱処理炉内に保持し、600℃程度の温度で長時間の加熱処理を行っていた。これを従来例1とする。また、この基板全面にわたって、エキシマレーザーを用いて非晶質半導体膜の多結晶化を行う従来例2などの手法が取られていた。」、 「 【0007】 従来例1に示したように、基板全面に熱処理炉内に保持して加熱処理を行う場合、基板全面にわたって非晶質半導体膜にランダムに種結晶が発生し、この種結晶を核として多結晶化が進行して行く。この多結晶化は、核結晶粒が種結晶を中心として、放射状に成長し、他の結晶粒と界面が接触するまで進行し、接触後は加熱処理を継続しても結晶成長は進行しない。このように、熱処理炉内での加熱処理により多結晶化を行った非晶質半導体膜を用いて、薄膜トランジスターを作製した場合、トランジスター特性の、同一基板面内での均一性が良好である特徴を持つ。しかしながら、多結晶半導体膜の結晶粒の形状には方向性が無いこと、トランジスターのチャネル領域内の結晶粒界を制御しにくいこと、また、各界面で、キャリア電子の移動を妨げる、ポテンシャル障壁の高さを、低く押さえることが難しいことなどから、100cm^(2)/Vs以上の高移動度を有する薄膜トランジスターの作製は困難である。」、 「 【0030】 【作用】 上記構成により、加熱領域を移動させながら非晶質半導体基板を部分的に加熱するので、加熱領域に隣接する、加熱によって多結晶化された半導体部分の結晶粒が種結晶となって、加熱領域の移動方向に結晶粒を成長させることが可能となり、良質の多結晶半導体膜が形成される。また、加熱部の熱源として帯状の加熱光源を用いたので、非晶質半導体基板の多結晶化が容易になされる。 【0031】 また、特に、加熱光源として、ランプまたは、連続波レーザーを用いることにより、非晶質半導体膜の熔融多結晶化が可能となり、結晶粒界でキャリア電子の移動を妨げるポテンシャル障壁の高さを、低く抑えることが可能になる。また、被加熱領域の冷却速度が、加熱領域の移動速度によって制御可能となり、熔融半導体膜の冷却がゆるやかに行われるので、各結晶粒が、数ミクロン以上の大きさに成長し、結晶粒界密度の小さな多結晶半導体膜が供給されることになる。さらに、連続光を照射するため、照射領域に伴い、半導体面に照射吸収される熱量にむらが生じにくく、作製した薄膜トランジスター特性の同一基板面内でのばらつきを小さく抑えることが可能となる。 【0032】 次に、非晶質半導体膜の熔融を行わない場合における多結晶化時の結晶成長促進方法について述べる。 【0033】 Ni、Cu、Pd、Pt、Co、Fe、Ag、Au、InおよびSnの中から選ばれた少なくとも一つの元素を、非晶質半導体膜に注入して多結晶化を行うと、この注入金属が触媒的な働きをして、結晶成長が促進され、注入金属の濃度が濃い部分を結晶成長端として被注入領域外へ容易に結晶粒が成長して行く。これにより、基板全面にわたって結晶成長方向のそろった多結晶半導体膜が形成され、しかも、注入金属濃度の濃い部分は、結晶成長端とともに基板上を移動するため、半導体装置を作製する領域の不純物金属濃度は、実用上問題のない程度にまで抑えられる。 【0034】 また、V族元素のうち少なくともいずれか一つを、非晶質半導体膜に注入して、この被注入領域側より多結晶化を行うと、非晶質膜の多結晶化が促進される。(発明が解決しようとする課題)では、結晶促進効果がp型不純物を注入した場合には見られないことから、CMOSなどの形成時に問題が残る点を指摘したが、本発明の方法では種結晶の発生促進にのみV族元素の注入を利用するものであり、半導体装置を作製する領域までは、注入不純物は拡散しない。したがって、(発明が解決しようとする課題)で述べた問題点は解決される。 【0035】 さらに、基板の一辺に沿って平行に段差部を形成した場合、加熱処理により多結晶化を行うと、この段差部分で多結晶化が促進される。本発明は、この段差部分で発生する多結晶を種結晶として利用するものであり、基板全面にわたって段差を形成する必要がないため、(発明が解決しようとする課題)で述べた問題点は解決される。 【0036】 さらに、非晶質半導体基板外部に種結晶を設ける際に、圧着して熱処理することによって発生した結晶粒を、種結晶として利用する点であり、基板の一辺に沿って帯状に圧着領域を設けるだけで、基板全面にわたって単結晶半導体または多結晶半導体を圧着する必要が無く、(発明が解決しようとする課題)で述べた問題点が解決される。 【0037】 さらに、非晶質半導体膜にエキシマレーザーを照射することによって、基板の一辺に沿って、多結晶半導体を形成するものである。本発明においては、形成した多結晶半導体は、種結晶として使用するのみであるため、結晶粒が小さいことや、トランジスターを作製した場合の特性のばらつきといった(発明が解決しようとする課題)で述べた問題点は解決される。 【0038】 さらに、照射エネルギー密度を、非晶質半導体膜が熔融し、多結晶半導体膜が熔融しない範囲としているので、多結晶化が効率よく品質よくなされる。 【0039】 さらに、基板の移動速度、または、加熱源の移動速度を、加熱開始から非晶質半導体が熔融するまでの時間で、加熱領域幅を割った値とするか、または、加熱開始から非晶質半導体が熔融するまでの時間で、加熱幅を割った値よりも小さくすれば、多結晶化が確実になされて効率よく品質よくなされる。 【0040】 さらに、プラズマCVD装置、減圧CVD装置、スパッタ装置のうちいずれか一つの装置を用いれば、非晶質半導体膜が容易に成膜される。 【0041】 さらに、非晶質シリコン膜の膜厚が30?150nmであれば、多結晶化が良好になされる。 【0042】 さらに、照射領域が帯状である加熱光源を少なくとも1つ有し、熱処理を行う基板の基板面の片側または両側から加熱光源により加熱光を照射しながら、基板面に沿って照射領域を横断する方向に被加熱基板を移動させるかまたは、基板面に沿って照射領域が横断する方向に照射領域を移動させるので、非晶質半導体膜を堆積させた基板を良好に熱処理できて非晶質膜の多結晶化が品質よく実施される。 【0043】 以上のように、本発明の多結晶化方法は、(発明が解決しようとする課題)で問題とした点を一括して解決することを可能とするものである。 【0044】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態について説明する。 (実施の形態1) 図1は本発明の実施の形態1における半導体基板の部分加熱の様子を、半導体基板上方より見た場合の概略平面図である。図1において、ガラスなどの絶縁性表面を持つ絶縁性基板1上に、直接または、間にSiO_(2)などの絶縁膜を挟む形で、プラズマCVD装置、減圧CVD装置、スパッタ装置のうちいずれか一つの装置を用い、即ち、PE-CVDまたはLP-CVDなどの成膜装置を用いて、非晶質シリコン(a-Si)膜を堆積させたものである。この非晶質シリコン膜の膜厚は、30?150nm、好ましくは、50?100nmの間に設定する。この基板1上の非晶質シリコン膜に対する熱線照射による部分加熱の照射領域2は、加熱光線を用いた熱処理の場合、加熱光線の照射領域に相当する。また、この非晶質シリコン膜領域3は、基板1上のシリコンが非晶質シリコン(a-Si)の状態である領域であって、領域4は、基板1上の非晶質シリコン膜が加熱されている加熱領域であり、さらに、領域5は、加熱後の多結晶シリコン(p-Si)化された状態の領域を示している。 【0045】 つまり、基板は、右方向に向かって照射領域2を横断するように進み、この照射領域2を通過するのに伴って表面の非晶質シリコン(a-Si)膜が加熱処理されて多結晶シリコン(p-Si)化されるか、または、照射領域2が、例えば右側により左側に向かって移動して行くことにより、基板1上の非晶質シリコン(a-Si)膜が加熱処理されて多結晶シリコン(p-Si)化される。 【0046】 ここで、加熱領域を移動させながら再結晶化を行う考え方について詳しく説明する。シリコンを加熱してゆくと、やがて融点(m.p.)に達して、シリコンは溶融する。このとき、被加熱体であるシリコンが、元々アモルファスシリコンであれば、融点m.p.(a-Si)は約1200℃前後であり、元々ポリシリコンであれば、融点m.p.(p-Si)は約1600?1700℃程度であり、これら両者の間には400?500℃程度の開きがある。 【0047】 したがって、アモルファスシリコンとポリシリコンが隣接した状態で両者を加熱して行くと、アモルファス部分がまず溶融し、この溶融シリコンとポリシリコンが隣接した状態を作り出すことが可能となる。このように、溶融シリコンとポリシリコンが隣接状態では、結晶端部でシリコンの結晶が成長する。このように、例えば、シリコンウエハの材料である単結晶シリコン柱は、溶融シリコン表面に種結晶となる単結晶シリコンの小片を接触させて結晶を成長させて作ることができる。 【0048】 本発明は、結晶の成長をシリコン膜の膜面方向に応用させたものであり、種結晶としてのポリシリコン領域と、アモルファスシリコン領域とが隣接した状態で、両者を同時に加熱してやることにより、種結晶部分より結晶粒を成長させて、結晶粒の大きなポリシリコン膜を得るものである。 【0049】 図2は図1の半導体基板および熱処理装置の断面図である。図2において、照射領域が帯状である加熱光源部6を少なくとも一つ有し、熱処理を行う基板面の片側から加熱光線7を照射しながら、基板面に沿って照射領域2を横断する方向に被加熱基板を移動させるか、または、基板面に沿って照射領域2を横断する方向に照射領域2を移動させる機構を有して熱処理する。 【0050】 この加熱光源部6として、ランプまたは、連続波レーザーを用いることにより、非晶質半導体膜の熔融多結晶化が可能となり、結晶粒界でキャリア電子の移動を妨げるポテンシャル障壁の高さを、低く抑えることが可能になる。また、被加熱領域の冷却速度が、加熱領域の移動速度によって制御可能であり、熔融半導体膜の冷却がゆるやかに行われるため、各結晶粒が、数ミクロン以上の大きさに成長し、結晶粒界密度の小さな多結晶半導体膜が供給されることになる。さらに、連続光を照射するため、照射領域に伴い、半導体面に照射吸収される熱量にむらが生じにくく、作製した薄膜トランジスター特性の同一基板面内でのばらつきを小さく抑えることが可能になる。 【0051】 また、照射エネルギー密度を、非晶質半導体膜が熔融しない範囲とするか、または、非晶質半導体膜が熔融し、多結晶半導体膜が熔融しない範囲とする。また、基板の移動速度、または、加熱光源部6の移動速度を、加熱開始から非晶質半導体が熔融するまでの時間で、加熱領域4の幅を割った値とするか、または、加熱開始から非晶質半導体が熔融するまでの時間で、加熱領域4の幅を割った値よりも小さくすれば、多結晶化が確実になされて効率よく品質よくなされる。 (実施の形態2) 図3(a)は本発明の実施の形態2における多結晶化を行う基板を、a-Si堆積面より見た場合の平面図、また、図3(b)は、図3(a)のA-B断面図である。図3(a)および図3(b)において、基板1上に非晶質半導体膜を堆積させた基板として方形のものを用い、この基板の一つの辺に沿って、Ni、Cu、Pd、Pt、Co、Fe、Ag、Au、In、Snの中から少なくとも一つの元素を選択して注入した帯状の斜線領域8を形成する。即ち、斜線領域8は、Ni、Cu、Pd、Pt、Co、Fe、Ag、Au、In、Snの不純物のうち、少なくとも1つの元素をドーピングした領域を示している。 【0052】 熱処理の方法は、実施の形態1に記載した通りであるが、基板の加熱は、B側から始まってA側の向きに進行させる。このとき、斜線領域8よりもA側の非晶質シリコン領域3において、実施の形態1の熱処理により、被注入領域である斜線領域8側より非晶質半導体膜の多結晶化を行った後、この多結晶半導体膜を用いて半導体装置を作製する。 【0053】 このように、Ni、Cu、Pd、Pt、Co、Fe、Ag、Au、In、Snなどの金属元素のうち少なくともいずれか一つを、非晶質シリコンに注入して本発明の実施の形態1の熱処理で多結晶化を行うと、注入金属が触媒的な働きをして、結晶成長が促進され、この注入金属の濃度が濃い部分を結晶成長端として被注入領域外へ容易に結晶粒が成長して行く。これにより、基板全面にわたって結晶成長方向のそろった多結晶半導体膜を形成できる。しかも、この注入金属濃度の濃い部分は、結晶成長端とともに基板上を移動するため、半導体装置を作製する領域の不純物金属濃度は、実用上問題のない程度にまで抑えられる。 (実施の形態3) 図4(a)は本発明の実施の形態3における多結晶化を行う基板を、a-Si堆積面より見た場合の平面図、また、図4(b)は、図4(a)のC-D断面図である。図4(a)および図4(b)において、基板1上に非晶質半導体膜を堆積させた基板として方形のものを用い、この基板の一つの辺に沿って、リンに代表されるV族元素の中から少なくとも一つの元素を選択して注入した帯状の斜線領域9を形成する。この斜線領域9は、V族元素の不純物のうち、少なくとも1つの元素をドーピングした領域を示している。 【0054】 熱処理の方法は、実施の形態1に記載した通りであるが、基板の加熱は、D側より始まってC側の向きに進行させる。つまり、斜線領域9よりもC側の非晶質シリコン領域3において、実施の形態1の熱処理により、被注入領域である斜線領域9側より非晶質半導体膜の多結晶化を行った後、この多結晶半導体膜を用いて半導体装置を作製する。 【0055】 このように、V族元素のうちいずれか少なくとも一つを、非晶質シリコンに注入して多結晶化を行うと、非晶質膜の多結晶化が促進する。発明が解決しようとする課題では、結晶促進効果がp型不純物を注入した場合には見られないことから、CMOSなどの形成時に問題が残る点を指摘したが、本発明の実施の形態3の製造方法では、種結晶の発生促進にのみV族元素の注入を利用するものであり、半導体装置を作製する領域までは、注入不純物は拡散しない。したがって、発明が解決しようとする課題で述べた問題点を解決することができる。 (実施の形態4) 図5(a)は本発明の実施の形態4における多結晶化を行う基板を、a-Si堆積面より見た場合の平面図、図5(b)は図5(a)のE-F断面図である。図5(a)および図5(b)において、絶縁性基板1として方形のものを用い、この基板1の一つの辺に沿って平行に、深さ100nm以上の段差のある凹部領域10を形成後、この凹部領域10を含めた基板1上に非晶質半導体膜を堆積させる。 【0056】 熱処理の方法は実施の形態1に記載した通りであるが、基板の加熱は、凹部領域10側より始まってEの向きに進行させる。つまり、この凹部領域10よりもE側の非晶質シリコン領域3において、実施の形態1の熱処理による多結晶化を行った後、凹部領域10側より非晶質膜の多結晶化を行う。この多結晶半導体膜を用いて半導体装置を作製する。 【0057】 このように、基板1の一辺に沿って平行に段差部分を形成した場合、加熱処理により多結晶化を行うと、この段差部分で多結晶化が促進される。本実施の形態4は、この段差部分で発生する多結晶を種結晶として利用するものであり、基板全面にわたって段差を形成する必要がないため、(発明が解決しようとする課題)で述べた問題点を解決することができる。 【0058】 なお、本実施の形態4では、断面構造が凹状の段差部として凹部領域10を示したが、段差がついているものであれば特に断面の形状が凹状である必要はなく、断面構造が凸状であっても階段状であっても差し支えない。即ち、基板1の一つの辺に沿って、高さ100nm以上の段差を形成すればよく、その後に非晶質半導体膜を堆積させる。 (実施の形態5) 図6(a)は本発明の実施の形態5における多結晶化を行う基板を、a-Si堆積面より見た場合の平面図、また、図6(b)は図6(a)のG-H断面図である。図6(a)および図6(b)において、基板1上に非晶質半導体膜を堆積させた基板として方形のものを用い、この基板1に非晶質半導体膜を堆積後、基板1の一つの辺に沿って、非晶質半導体膜を堆積させた面に非晶質半導体膜と同一元素で構成された単結晶半導体よりなる斜線領域11を帯状に圧着する。 【0059】 熱処理の方法は実施の形態1に記載した通りであるが、基板の加熱は、圧着した斜線領域11側より始まってGの向きに進行させる。即ち、斜線領域11よりもG側の非晶質シリコン膜領域3において、本実施の形態5の熱処理による多結晶化を行った後、多結晶半導体膜を用いて半導体装置を作製する。 【0060】 このように、非晶質半導体基板の外部に種結晶を設けるものである。本発明の実施の形態5の特徴は、圧着して熱処理することによって発生した結晶粒を、種結晶として利用する点であり、基板の一辺に沿って帯状に圧着領域を設けるだけで、基板全面にわたって単結晶半導体を圧着する必要が無く、(発明が解決しようとする課題)で述べた問題点を解決することができる。 (実施の形態6) 図7(a)は本発明の実施の形態6における多結晶化を行う基板を、a-Si堆積面より見た場合の平面図、また、図7(b)は、図7(a)のI-J断面図である。図7(a)および図7(b)において、基板1上に非晶質半導体膜を堆積させた基板として方形のものを用い、この基板の一つの辺に沿って、非晶質半導体膜を堆積させた面に、この非晶質半導体膜と同一元素で構成された多結晶半導体基板12を、非晶質半導体膜と多結晶半導体膜が帯状に重なるように斜線領域13の端部側を圧着し、この圧着側より非晶質膜の多結晶化を行う。 【0061】 熱処理の方法は実施の形態1に記載した通りであるが、基板の加熱は、斜線領域13の圧着側より始まってIの向きに進行させる。この圧着側よりもI側の非晶質シリコン膜領域3において、本実施の形態6による多結晶化を行った後、多結晶半導体膜を用いて半導体装置を作製する。 【0062】 このように、非晶質半導体基板の外部に種結晶を設けるものである。本実施の形態6の特徴は、圧着して熱処理することによって発生した結晶粒を、種結晶として利用する点であり、基板の一辺に沿って帯状に圧着領域を設けるだけで、基板全面にわたって多結晶半導体を圧着する必要が無く、(発明が解決しようとする課題)で述べた問題点を解決することができる。 (実施の形態7) 図8(a)は、本発明の実施の形態7における多結晶化を行う基板を、a-Si堆積面より見た場合の平面図、また、図8(b)は、図8(a)のK-L断面図である。図8(a)および図8(b)において、基板1上に非晶質半導体膜を堆積させた基板として方形のものを用い、この基板の一つの辺に沿って、エキシマレーザーを照射して、帯状の多結晶領域14を形成する。この斜線で示される多結晶領域14は、エキシマレーザーの照射によって多結晶化した領域を示している。 【0063】 熱処理の方法は実施の形態1に記載した通りであるが、基板の加熱は、多結晶領域14側より始まってKの向きに進行させる。この多結晶領域14よりもK側の非晶質シリコン膜領域3において、本実施の形態7による多結晶化を行った後、この多結晶半導体膜を用いて半導体装置を作製する。 【0064】 このように、非晶質半導体膜にエキシマレーザーを照射することによって、基板の一辺に沿って、多結晶半導体を形成するものである。本実施の形態7においては、形成した多結晶半導体は、種結晶として使用するのみであるため、結晶粒が小さいことや、トランジスターを作製した場合の特性のばらつきといった(発明が解決しようとする課題)で述べた問題点は解決される。 【0065】 以上の各実施の形態による非晶質半導体膜の多結晶化を行うことで、結晶粒の成長方向を均一に制御することが可能となる。この多結晶化後の半導体基板を用いて薄膜トランジスターを作製する場合に、トランジスターの導電方向と、結晶粒の成長方向を一致させることにより、トランジスターのチャネル領域内に存在する結晶粒界によるトランジスター特性の劣化を少なくすることが可能となる。 【0066】 【発明の効果】 以上により本発明によれば、加熱領域を移動させながら非晶質半導体基板を部分的に加熱するため、加熱領域に隣接する、加熱によって多結晶化された半導体部分の結晶粒が種結晶となって、加熱領域の移動方向に結晶粒を成長させることができ、良質の多結晶半導体膜を得ることができる。また、加熱部の熱源として帯状の加熱光源を用いれば、非晶質半導体基板の多結晶化を容易に実施することができる。 【0067】 また、加熱光源として、ランプまたは、連続波レーザーを用いることにより、非晶質半導体膜の熔融多結晶化が可能となり、結晶粒界でキャリア電子の移動を妨げるポテンシャル障壁の高さを、低く抑えることができる。また、被加熱領域の冷却速度が、加熱領域の移動速度によって制御可能となり、熔融半導体膜の冷却がゆるやかに行われるため、各結晶粒が、数ミクロン以上の大きさに成長し、結晶粒界密度の小さな多結晶半導体膜を得ることができる。さらに、連続光を照射するため、照射領域に伴い、半導体面に照射吸収される熱量にむらが生じにくく、作製した薄膜トランジスター特性の同一基板面内でのばらつきを小さく抑えることができる。 【0068】 さらに、Ni、Cu、Pd、Pt、Co、Fe、Ag、Au、InおよびSnの中から選ばれた少なくとも一つの元素を、非晶質半導体膜に注入して多結晶化を行えば、この注入金属が触媒的な働きをして、結晶成長が促進され、注入金属の濃度が濃い部分を結晶成長端として被注入領域外へ容易に結晶粒が成長して行くため、基板全面にわたって結晶成長方向のそろった多結晶半導体膜を得ることができる。しかも、注入金属濃度の濃い部分は、結晶成長端とともに基板上を移動するため、半導体装置を作製する領域の不純物金属濃度は、実用上問題のない程度にまで抑えることができる。 【0069】 また、所定のV族元素のうち少なくともいずれか一つを、非晶質半導体膜に注入して、この被注入領域側より多結晶化を行うと、非晶質膜の多結晶化を促進することができる。本発明の方法では種結晶の発生促進にのみV族元素の注入を利用するものであるため、半導体装置を作製する領域までは、注入不純物は拡散しない。 【0070】 さらに、基板の一辺に沿って平行に段差部を形成した場合、加熱処理により多結晶化を行うと、この段差部分で多結晶化を促進することができる。本発明は、この段差部分で発生する多結晶を種結晶として利用するため、基板全面にわたって段差を形成する必要がない。 【0071】 さらに、非晶質半導体基板外部に種結晶を設けるものであり、基板の一辺に沿って帯状に圧着領域を設けるだけで、基板全面にわたって単結晶半導体または多結晶半導体を圧着する必要はない。 【0072】 さらに、非晶質半導体膜にエキシマレーザーを照射することによって、基板の一辺に沿って形成した多結晶半導体は、種結晶として使用するのみであるため、従来のように結晶粒が小さいことや、トランジスターを作製した場合の特性のばらつきはない。」 (4)新規事項の追加の有無についての検討 本件補正の新規事項の追加の有無について検討する。 (a)まず、補正事項1についての補正を検討すると、本件補正後の請求項1の「前記基板に対して前記加熱光線の照射による該帯状の被照射領域を移動させることによって、熔融した前記非晶質半導体膜を冷却して多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域を形成して多結晶半導体膜を形成する」との記載は、当初明細書には記載されていない。 (b)ここで、本件補正後の請求項1の「前記基板に対して前記加熱光線の照射による該帯状の被照射領域を移動させることによって、熔融した前記非晶質半導体膜を冷却して多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域を形成して多結晶半導体膜を形成する」を、関連する出願当初明細書又は図面の記載をもとに検討する。 (b-1)種結晶に関して説明されている当初明細書の0047段落ないし0048段落の「【0047】 したがって、アモルファスシリコンとポリシリコンが隣接した状態で両者を加熱して行くと、アモルファス部分がまず溶融し、この溶融シリコンとポリシリコンが隣接した状態を作り出すことが可能となる。このように、溶融シリコンとポリシリコンが隣接状態では、結晶端部でシリコンの結晶が成長する。このように、例えば、シリコンウエハの材料である単結晶シリコン柱は、溶融シリコン表面に種結晶となる単結晶シリコンの小片を接触させて結晶を成長させて作ることができる。 【0048】 本発明は、結晶の成長をシリコン膜の膜面方向に応用させたものであり、種結晶としてのポリシリコン領域と、アモルファスシリコン領域とが隣接した状態で、両者を同時に加熱してやることにより、種結晶部分より結晶粒を成長させて、結晶粒の大きなポリシリコン膜を得るものである。」との記載についてみると、0047段落は、予め存在している種結晶としてのポリシリコンに隣接したアモルファスシリコンの加熱熔融後に、熔融していないポリシリコンを種結晶として熔融したアモルファスシリコンがポリシリコンとして結晶成長するとの結晶粒の成長に関するものであり、0048段落は、種結晶としてのポリシリコン領域と、アモルファスシリコン領域とが隣接した状態で、両者を同時に加熱することに関するものである。 一方、本件補正後の請求項1の「前記基板に対して前記加熱光線の照射による該帯状の被照射領域を移動させることによって、熔融した前記非晶質半導体膜を冷却して多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域を形成」することは、非晶質半導体の多結晶化により多結晶半導体の種結晶領域を形成することに関する事項であり、当該事項は、当初明細書の0047段落ないし0048段落に記載されておらず、かつ、当該段落の記載から自明な事項でもない。 (b-2)また、種結晶の形成について、当初明細書の0007段落には「【0007】 従来例1に示したように、基板全面に熱処理炉内に保持して加熱処理を行う場合、基板全面にわたって非晶質半導体膜にランダムに種結晶が発生し、この種結晶を核として多結晶化が進行して行く。この多結晶化は、核結晶粒が種結晶を中心として、放射状に成長し、他の結晶粒と界面が接触するまで進行し、接触後は加熱処理を継続しても結晶成長は進行しない。」と記載され、また、当初明細書には、0035段落及び0056段落ないし0058段落に記載される、非晶質シリコンが表面上に形成された基板の一辺に沿って平行に段差部分を形成し、非晶質シリコンの加熱処理により、段差部分で発生する多結晶を種結晶とするもの、0036段落及び0058段落ないし0060段落に記載される、非晶質半導体基板の1つの辺に沿って形成した非晶質半導体膜を、圧着して熱処理することにより発生した結晶粒を種結晶とするもの、0037段落及び0062段落ないし0064段落に記載される、非晶質半導体膜にエキシマレーザーを照射することにより、基板の一辺に沿って、多結晶半導体を形成して種結晶として用いるものが記載されているが、単に非晶質半導体膜へのレーザーの照射のみにより種結晶となるポリシリコンを形成することは当初明細書に記載されていない。 したがって、本件補正後の請求項1の記載は、当初明細書又は当初図面の記載から自明の事項ではない。 (c)よって、補正事項1についての補正は、当初明細書又は当初図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから、補正事項1についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしていない。 (5)本件補正の目的の適否について 上で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしていないが、仮に、本件補正が、当該当該要件を満たすものとした場合において、本件補正の目的の適否について検討する。まず、以下に、請求項1についての補正を検討する。 (a)補正事項1について 補正事項1についての補正を検討すると、当該補正により、補正後の請求項1に係る発明は、請求人が、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の3-1.(1)において、当該補正の根拠箇所と主張している明細書の段落0048に記載されているとおりの「結晶粒の大きなポリシリコン膜を得る」という新たな技術課題を解決するものであるから、当該補正は、特許法第17条の2第3項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。 また、当該補正が、同法第17条の2第3項のその余のいずれの号に掲げる事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。 (b)補正事項2について 補正事項2ついての補正は、誤りであった「該光線」を、本来の「前記加熱光線」と補正するものであるから、特許法第17条の2第3項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。 (c)補正事項3について 補正事項3についての補正について検討すると、補正事項1についての補正と同様に、当該補正により、補正後の請求項3に係る発明は、「結晶粒の大きなポリシリコン膜を得る」という、新たな技術課題を解決するものであるから、当該補正は、特許法第17条の2第3項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。 また、当該補正が、同法第17条の2第3項のその余のいずれの号に掲げる事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。 (d)よって、請求項1についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (6)独立特許要件について (a)検討の前提 上で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしておらず、かつ、仮に当該要件を満たすものとした場合においても、同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないが、更に、仮に本件補正が、特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たし、かつ、同法第17条の2第3項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとした場合において、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき一応検討を進める。 (b)補正後の発明 補正後の請求項1ないし10に係る発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その内の補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正後の発明」という。)は、2.(1)の「(補正後)」の箇所に記載したとおりのものである。 (c)刊行物に記載された発明 (c-1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された特開平5-21340号公報(以下、「刊行物」という。)には、「薄膜半導体装置、その製法および製造装置」(発明の名称)に関して、図1ないし3とともに、以下の事項が記載されている。 「【0001】 【技術分野】本発明は、単結晶の薄膜半導体装置、その製法およびその製造装置に関する。 【0002】 【従来技術】絶縁性基板上に単結晶半導体薄膜を形成する手法、いわゆるSOI形成法については、従来より数多く提案されている。これらの多くは絶縁性基板上に非晶質あるいは多結晶半導体薄膜を形成し、この非晶質あるいは多結晶半導体薄膜を種々の熱源により帯域溶融再結晶化させて単結晶化させるものである。この場合の熱源としては、レーザ光、電子ビーム、種々のランプ光、ワイヤー状の形状を持ったカーボンヒータ等がある。これらの従来技術では、溶融再結晶化させる際には半導体材料に不純物を含まないノンドープの状態で再結晶化させ、この後SOI上にデバイスを形成する際に不純物を導入していた。これは再結晶化する際に不純物を導入すると再結晶化のための条件が変わるため、基板上の任意の領域にP型半導体領域、N型半導体領域を形成することが困難だったためである。このため再結晶化膜の基板を用いてデバイスを形成する際には不純物を導入する工程が必要となり、工程が煩雑なために歩留まりを下げる原因になっていた。 【0003】 【目的】本発明の目的は、前記のようなSOI基板の欠点を改善し、任意の位置にP型半導体領域、N型半導体領域が形成してあるようなSOI基板を提供することであり、さらには、SOI形成法における帯域溶融再結晶化法の熱源としてレーザ光を用いることにより前記のようなSOI基板の製法と装置を提供するものである。」(0001段落ないし0003段落)、 「【0006】本発明に開示される薄膜半導体装置の製法は絶縁性基板上に帯域溶融再結晶化法で単結晶シリコン薄膜を形成する場合にシリコンに吸収されるレーザ光と絶縁性基板に吸収されるレーザ光を前述のように照射してシリコンを溶融して再結晶させるが、二つのレーザ光を照射してシリコン層を溶融再結晶化させるときに二つのレーザ光の出力、ビーム形状、照射位置等の照射条件を変えてシリコン層の溶融再結晶化領域の温度プロファイルを制御して単結晶シリコン薄膜が島状または帯状のP型半導体領域またはN型半導体領域をもつように処理するものである。 【0007】絶縁性基板上に形成された非晶質あるいは多結晶シリコンの溶融再結晶化法による単結晶シリコンの形成の様子については以下のように説明できる。種々の熱源により絶縁性基板上に形成された非晶質あるいは多結晶シリコンを加熱溶融し(シリコンの融点1412℃)、その加熱個所をシリコン層上で相対的に走査した場合、溶融したシリコンはその熱源の移動に伴い冷却固化し、再結晶化する。この時加熱により溶融している部分の温度分布が図1に示すごとく中央部が高くて周辺部が低くなっている状況では溶融シリコンの再結晶化は溶融部の周辺から多数同時に開始し、その結果再結晶化シリコンは多結晶体となってしまう。そのような多結晶化を防いで再結晶化を行なうためには、溶融領域における温度プロファイル(本発明の中で述べられる温度プロファイルとはシリコンの溶融再結晶化過程、即ち加熱、溶融、冷却、固化の一連の現象における温度の変化を表わし、具体的には前記の一つあるいは複数の状態における温度、あるいは温度を表わす物理量を計測することで表わされる。)を中央部が周辺より低い状態にすれば良いことが知られている。こうすることにより図2に示すごとく再結晶化は常に中央部より始まることになり、再結晶化シリコンは単結晶として得られることになる。これらの加熱源としてはレーザ光が主に用いられ、熱源の走査速度は概ね数10cm/sec程度である。さらに絶縁性基板上で溶融再結晶化法により単結晶シリコン薄膜を形成するもう一つの方法としては帯域溶融再結晶化法(Zone Melting Recrystallization)がある。この方法に単結晶シリコンの形成の様子は以下のように述べられている。図3にその概略を示したが溶融再結晶化を行なうシリコン層を帯状に加熱溶融するときに、帯状に溶融している領域8以外のシリコン層はシリコンの融点近傍の温度まで加熱しておいて、その溶融領域を移動させることによりシリコンを固化再結晶させて単結晶シリコンを得るものである。」(0006段落及び0007段落) 「【0011】本発明の2波長レーザ帯域溶融再結晶化法における第1のレーザ光としてはシリコンに吸収帯域(おおよそ1.2μmより短波長側)にある波長の光を出すレーザ光を広く使用できる。具体的には短波長領域の各種のエキシマレーザ、He-Cdレーザ、Arレーザ、He-Neレーザ、ルビーレーザ、アレキサンドライトレーザ、YAGレーザ、あるいは半導体レーザ等が使用可能である。帯域溶融再結晶化に必要な温度プロファイルを形成する熱源とするという観点からは取りだし可能な出力が比較的大きいこと、また連続発振が可能なレーザであることが望ましく、Arレーザ、YAGレーザ、あるいは高出力の半導体レーザから選ぶことが望ましい。・・・シリコン層に照射する場合のビーム形状としては帯域溶融再結晶化法の実現に好適なように均一な線状ビームが好ましい。種々の光学機械を用いてビーム形状を線状で均一にすることが可能である。また前述のごとく複数本のビームにより均一で線状のビームを形成することが可能である。さらにはビームの高速走査により擬似的に線状のビームを形成することも可能である。」(0011段落) (c-2)0001段落の「本発明は、単結晶の薄膜半導体装置、その製法およびその製造装置に関する。」との記載から、刊行物1には、「単結晶の薄膜半導体装置」の「製法」が記載されていることは明らかである。 (c-3)0007段落の記載から、刊行物には、「絶縁性基板上に形成された」「非晶質」「シリコンを加熱溶融し」、「その加熱個所をシリコン層上で相対的に走査した場合、溶融したシリコンはその熱源の移動に伴い冷却固化し、再結晶化する」、「再結晶化シリコンは単結晶として得られることになる。これらの加熱源としてはレーザ光が主に用いられ、熱源の走査速度は概ね数10cm/sec程度である」ことが記載されていることは、明らかである。ここにおいて、「溶融化したシリコンは・・・再結晶化する」、「再結晶化シリコンは単結晶として得られる」とは、「溶融化したシリコン」を再結晶化させて単結晶を形成していることに他ならず、非晶質シリコンを加熱熔融した場合、「再結晶化」でなく、結晶化することは明らかである。 したがって、刊行物には、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。 「絶縁性基板上に非晶質シリコンを形成し、レーザ光を用いて、非晶質シリコンを加熱溶融し、さらに、その加熱個所を非晶質シリコン上で相対的に走査させることによって、溶融した非晶質シリコンを結晶化させて単結晶を形成して単結晶半導体膜を形成する薄膜半導体装置の製法。」 (d)対比 補正後の発明と刊行物発明とを対比する。 (d-1)刊行物発明の「絶縁性基板上」、「薄膜半導体装置の製法」は、それぞれ、補正後の発明の「絶縁性表面を有する基板上」、「半導体装置の製造方法」に相当する。 (d-2)刊行物発明の「非晶質シリコンを形成」することは、補正後の発明の「非晶質半導体膜を堆積」することに相当する。 (d-3)刊行物発明の「レーザ光を用いて、非晶質シリコンを加熱溶融し」についてみると、「レーザ光」は、「非晶質シリコンを」「加熱」していることから、補正後の発明の「加熱光線」に相当し、また、「レーザ光を用いて」とは、「加熱光線」である「レーザ光」を「非晶質シリコン」に照射することを意味することは自明であるから、刊行物発明の「レーザ光を用いて、非晶質シリコンを加熱溶融し」は、補正後の発明の「加熱光線を該非晶質半導体膜に照射することにより該非晶質半導体膜を加熱して熔融し」に相当することが明らかである。 (d-4)刊行物発明の「その加熱個所を非晶質シリコン上で相対的に走査させることによって」における「その加熱箇所」は、補正後の発明の「加熱光線の照射による」「被照射領域」に相当し、さらに、刊行物発明の「相対的に走査させること」は、補正後の発明の「移動させること」に相当することから、刊行物発明の「その加熱個所を非晶質シリコン上で相対的に走査させることによって」は、補正後の発明の「前記基板に対して前記加熱光線の照射による」「被照射領域を移動させることによって」に相当する。 さらに、刊行物1発明において、「加熱個所を非晶質シリコン上で相対的に走査させることによって、溶融した非晶質シリコン」が「結晶化」する理由は、「加熱個所」が移動することにより、「溶融した非晶質シリコン」が冷却されるためであることは、明らかである。 (d-5)したがって、補正後の発明と刊行物発明とは、 「絶縁性表面を有する基板上に非晶質半導体膜を堆積後、加熱光線を該非晶質半導体膜に照射することにより該非晶質半導体膜を加熱して熔融し、さらに前記基板に対して前記加熱光線の照射による被照射領域を移動させることによって、熔融した前記非晶質半導体膜を冷却して結晶半導体膜を形成する半導体装置の製造方法であって、 前記加熱光線はレーザであることを特徴とする半導体装置の製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 補正後の発明は、「加熱光線」が照射される「被照射領域」が「帯状」であるのに対し、刊行物発明は、「レーザ光」が照射される領域の形状が特定されていない点。 (相違点2) 熔融した前記非晶質半導体膜を冷却して結晶半導体膜を形成することに関し、補正後の発明は、「多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域を形成して多結晶半導体膜を形成する」ものであるのに対して、刊行物発明は、「結晶化させて単結晶を形成して単結晶半導体膜を形成する」ものである点。 (相違点3) 補正後の発明は、「連続波レーザ」を用いるのに対して、刊行物発明は、「レーザ光」が連続波であるか否かが明らかでない点。 (相違点4) 補正後の発明は、「前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲と」するのに対して、刊行物発明は、そのような特定がなされていない点。 (相違点5) 補正後の発明は、「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度を、前記種結晶領域の多結晶半導体が溶融しない速度であって、該被照射領域に前記加熱光線が照射されてから前記非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下に」しているのに対して、刊行物発明は、そのような特定がなされていない点。 (e)判断 (e-1)相違点1及び相違点3について 非晶質半導体膜の結晶化のために、加熱光線の被照射領域を帯状とし、加熱光線であるレーザを連続波レーザとすることは、例えば、刊行物の0011段落、及び本願の出願日前に頒布された以下の周知文献1に記載されているように、本願の出願日前において当業者の周知技術である。 (周知文献1:特開平4-338631号公報) 周知文献1には、「【0011】本発明の2波長レーザ帯域溶融再結晶化法における第1のレーザ光としてはシリコンに吸収帯域(おおよそ1.2μmより短波長側)にある波長の光を出すレーザ光を広く使用できる。具体的には短波長領域の各種のエキシマレーザ、He-Cdレーザ、Arレーザ、He-Neレーザ、ルビーレーザ、アレキサンドライトレーザ、YAGレーザ、あるいは半導体レーザ等が使用可能である。帯域溶融再結晶化に必要な温度プロファイルを形成する熱源とするという観点からは取りだし可能な出力が比較的大きいこと、また連続発振が可能なレーザであることが望ましく、Arレーザ、YAGレーザ、あるいは高出力の半導体レーザから選ぶことが望ましい。・・・シリコン層に照射する場合のビーム形状としては帯域溶融再結晶化法の実現に好適なように均一な線状ビームが好ましい。種々の光学機械を用いてビーム形状を線状で均一にすることが可能である。また前述のごとく複数本のビームにより均一で線状のビームを形成することが可能である。さらにはビームの高速走査により擬似的に線状のビームを形成することも可能である。」(0011段落)と記載されている。 したがって、刊行物発明において、刊行物及び周知文献1に記載された周知技術を適用し、「レーザ光」の「被照射領域」を「帯状」とするとともに、「レーザ光」として「連続波レーザ」を用いることは、当業者が容易になし得たものである。 (e-2)相違点2について (e-2-1)半導体膜の結晶化において、非晶質半導体膜を多結晶化することは、例えば、本願の出願日前に頒布された以下の周知文献2および3に記載されているように、本願の出願日前において当業者の周知技術である。 (周知文献2:特開平4-286318号公報) 周知文献2には、図1とともに、「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は多結晶半導体薄膜の製造方法におけるレ-ザアニ-ルによる結晶性の制御方法及びそれを用いて製造された薄膜半導体装置並びにその製造装置に関する。」(0001段落)、及び「【0009】まずサンプルをチャンバ-13内のサンプルホルダ-12にセットし、基板加熱機構により基板を300℃に加熱した。サンプルとしては、ガラス基板10上にLP-CVD法により非晶質シリコン膜11を厚さ100nm形成したものを用いた。次に、真空排気系16によりチャンバ-13内を圧力が1mPaになるまで排気し、その後、雰囲気ガス供給系15によりアルゴン,ネオンに比べて熱伝導性の優れたヘリウム(He)をチャンバ-13内が1気圧(ほぼ101325Pa)になるまで注入した。その後、サンプル表面にXeClエキシマレ-ザを照射してレ-ザアニ-ルした。レ-ザは発振波長308nm、パルス幅28nsのものを使用し、照射エネルギーは250mJ/cm^(2)の条件でアニールした。このアニールの際、雰囲気中のHeガスの存在と基板の加熱により、非晶質シリコン膜には、基板側が高く表面側が低くなる温度勾配が形成された。上記アニ-ルプロセスにより得られた多結晶シリコン膜の断面TEM写真を見ると、シリコン膜全体が均一な100nm程度の結晶粒径となっていた。結晶性に関しては、air中で基板加熱なしでレ-ザアニ-ルしたものと、本実施例の方法によりレーザアニールしたもののX線回折強度を比較すると、前者は回折強度が約0.8kcpsなのに対し、後者は約1.5kcpsと2倍程度の差が生じ、これは後者の結晶成分が緻密であることを示している。以上のように、本実施例によれば、結晶粒径が均一で、かつ結晶粒子の分布が緻密な結晶性に優れた多結晶シリコン膜が形成できた。」(0009段落)と記載されている。 (周知文献3.特開平5-175235号公報) 周知文献3には、「【0004】ガラス歪み点温度以下の低温プロセスでTFTの活性層として良好な結晶性を有する多結晶シリコン(以下、poly-Si)層を得るために、レーザビームを利用したアニール処理が従来から行われている。特に、連続発振(CW)レーザを使用する方法としてガラス基板上に、a-Si層を形成し、この膜に出力数ワットのレーザビームを直径数10?数100μmに集光して照射し、レーザビーム、若しくは基板を移動させ、幅数10μmの間隔で重ね合わせて走査していくことによって、基板全体にアニール処理を行い、a-Si層を多結晶化する方法が知られている。」(0004段落)と記載されている。 (e-2-1)また、刊行物の0007段落に「この時加熱により溶融している部分の温度分布が図1に示すごとく中央部が高くて周辺部が低くなっている状況では溶融シリコンの再結晶化は溶融部の周辺から多数同時に開始し、その結果再結晶化シリコンは多結晶体となってしまう。」と記載されているように、刊行物にも非晶質半導体膜にレーザ光を照射することにより多結晶シリコンを形成する技術が記載されていることは明らかである。 したがって、刊行物発明において、「非晶質シリコンを結晶化させ」る際に、周知技術である多結晶化する技術を適用し、「結晶化させて単結晶を形成して単結晶半導体膜を形成する」ことに替え、多結晶化させて多結晶を形成して多結晶半導体膜を形成することは、必要とされる半導体装置の特性に応じて当業者が容易になし得た事項である。 (e-2-2)そして、一般に、熔融したシリコン等の半導体が冷却されて結晶化する際には、先に冷えて結晶化した領域から結晶が成長していく、すなわち、冷えてできた結晶の領域が種結晶領域として機能することは当業者における常識であるから、熔融した非晶質半導体膜を冷却して、多結晶化させて多結晶を形成して多結晶半導体膜を形成する際には、必然的に多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域が形成されているものと認められる。 したがって、刊行物発明において、「結晶化させて単結晶を形成して単結晶半導体膜を形成する」ことに替え、補正後の発明の如く「多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域を形成して多結晶半導体膜を形成する」ことは、上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものである。 (e-3)相違点4について (e-3-1)補正後の発明においては、「多結晶半導体膜」は、「被照射領域を移動させることによって、熔融した前記非晶質半導体膜を冷却して多結晶化」することによりできたものであることは、請求項1の記載から明らかである。すなわち、「多結晶半導体膜」は、「加熱光線」(レーザ)の照射により「非晶質半導体膜」が「熔融」してできた液状の半導体が、当該「加熱光線」の「被照射領域」が「移動」することに伴って「冷却」されることにより「多結晶化」することによってできたものである。 したがって、もし「前記加熱光線の照射エネルギー密度」が「前記非晶質半導体膜が熔融」しないような低いものであった場合には、所期の目的を達成することができないことは自明であるから、「前記加熱光線の照射エネルギー密度」を「前記非晶質半導体膜が熔融」するために十分な程度に高いものとすることは、当業者にとって必然的な選択である。 また、「加熱光線」であるレーザが走査された(照射された)後に形成された「多結晶半導体膜」は、既にレーザ光が走査した領域に存在しているから、その後、レーザ光が走査されることはなく、また、本願の当初明細書にも、レーザ光が照射された後に形成された「多結晶半導体膜」に再度レーザ光が照射されることは記載されていない。 したがって、レーザ光を「非晶質半導体膜上」を走査した後に形成された「多結晶半導体膜」と、「非晶質半導体膜」との双方を同時にレーザ光により照射する(走査する)方法が、補正後の発明に含まれるものとは認められない。 してみると、補正後の発明において、「前記加熱光線の照射エネルギー密度」を、「該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない」ものとすることに、技術的な意義は認められない。 以上のように、「前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲と」することは、「前記加熱光線の照射エネルギー密度」を、当業者が必然的に選択する下限と、技術的な意義が認められない上限との間に限定するものにすぎないから、当業者が適宜なし得た事項である。 (e-3-2)仮に、補正後の発明の「前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲と」するという構成が何らかの技術的意義を有するものであるとみて、さらに検討すると、一般に、レーザを用いて各種作業を行う場合において、レーザのエネルギー密度をいたずらに高くすることは、意味がないばかりか、機器のコストや保守等も含めて種々の面で不利となるため、レーザのエネルギー密度を、作業にとって必要最低限のものとすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。 また、同一組成の非晶質半導体と多結晶半導体、例えば非晶質シリコンと多結晶シリコンの融点を比較すると、多結晶半導体(多結晶シリコン)の方が非晶質半導体(非晶質シリコン)と比較して、相当程度高い融点を有することは当業者の常識である。 そして、刊行物発明において、溶融する必要があるのは「非晶質シリコン」であり、「非晶質シリコン」と比較して相当程度高い融点を有する多結晶シリコンを溶融する必要はないのであるから、「レーザ光」のエネルギー密度を「非晶質シリコン」を溶融するために必要最低限のものとすること、換言すれば、「レーザ光」のエネルギー密度を、「非晶質シリコン」を溶融するためには十分であるが、それよりもかなり融点の高い多結晶シリコンを溶融するまでには到らない程度のものとすることは、当業者であれば容易になし得たものである。 以上、どのような観点から検討しても、相違点4は当業者が容易になし得たものである。 (e-4)相違点5について (e-4-1)まず、補正後の発明における「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度を、前記種結晶領域の多結晶半導体が溶融しない速度」とする点について検討する。 「前記種結晶領域の多結晶半導体」は、「加熱光線」(レーザ)の照射により「非晶質半導体膜」が「熔融」してできた液状の半導体が、当該「加熱光線」の「被照射領域」が「移動」することに伴って「冷却」されることにより「多結晶化」することによってできたものである。 してみると、「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度」をどのように選択したとしても、「加熱光線」の照射により一旦「熔融」された液状の半導体が、当該「加熱光線」の「被照射領域」の「移動」に伴って「冷却」されることにより「多結晶化」されてできた「前記種結晶領域の多結晶」が、再度溶融することはあり得ないことが明らかである。 したがって、補正後の発明における「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度を、前記種結晶領域の多結晶半導体が溶融しない速度」とすることは、実質的に何ら技術的意味を有するものではなく、刊行物発明において、上記(e-1)に記載した周知技術を適用して、「レーザ光」の「被照射領域」を「帯状」とするとともに、「レーザ光」として「連続波レーザ」を用い、さらに、上記(e-2)に記載した周知技術を適用して、補正後の発明の如く「多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域を形成して多結晶半導体膜を形成する」構成とした場合には、当然に、「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度を、前記種結晶領域の多結晶半導体が溶融しない速度」となっていることは自明である。 したがって、「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度を、前記種結晶領域の多結晶半導体が溶融しない速度」とすることは当業者が何ら困難性なくなし得た事項である。 (e-4-2)次に、補正後の発明における「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度」を「該被照射領域に前記加熱光線が照射されてから前記非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下にする」点について検討する。 補正後の発明において、「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度」を「該被照射領域に前記加熱光線が照射されてから前記非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下にする」ということは、技術的にみて、「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度」を、「加熱光線」の照射により「非晶質半導体膜」が熔融するために十分な程度に遅くすることを意味するものであることは明らかである。 そして、刊行物発明においても「レーザ光」により「非晶質シリコンを加熱溶融」することを前提とするのであるから、「レーザ光」の走査速度を、「非晶質シリコンを加熱溶融」するために十分な程度に遅くしなければならないことは、当業者に自明な事項である。 したがって、刊行物発明において、上記(e-1)に記載した周知技術を適用して、「レーザ光」の「被照射領域」を「帯状」とするとともに、「レーザ光」として「連続波レーザ」を用い、さらに、上記(e-2)に記載した周知技術を適用して、補正後の発明の如く「多結晶化された多結晶半導体の種結晶領域を形成して多結晶半導体膜を形成する」構成とした場合に、「レーザ光」の走査速度を、「非晶質シリコンを加熱溶融」するために十分な程度に遅くすること、すなわち、補正後の発明の如く、「前記基板に対する前記被照射領域を移動させる速度」を「該被照射領域に前記加熱光線が照射されてから前記非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下にする」ことは、当業者が何ら困難性なくなし得た事項である。 (e-4-3)さらにいえば、一般に、レーザを用いて各種作業を行う場合において、必要以上のエネルギーを照射することは、意味がないばかりか、機器のコストや保守等も含めて種々の面で不利となるため、照射するエネルギーを、作業にとって必要最低限のものとすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。 また、上記(e-3-2)に記載したとおり、多結晶半導体(多結晶シリコン)の方が非晶質半導体(非晶質シリコン)と比較して、相当程度高い融点を有することは当業者の常識である。 そして、刊行物発明において、溶融する必要があるのは「非晶質シリコン」であり、「非晶質シリコン」と比較して相当程度高い融点を有する多結晶シリコンを溶融する必要はないのであるから、「レーザ光」を「走査」させる速度を、照射エネルギーが「非晶質シリコン」を溶融するために必要最低限のものとすること、換言すれば、「レーザ光」を「走査」させる速度を、「非晶質シリコン」を溶融するためには十分な程度に低速であるが、それよりもかなり融点の高い多結晶シリコンを溶融するまでには到らない程度に高速とすることは、当業者であれば容易になし得たものである。 以上、どのような観点から検討しても、相違点5は当業者が容易になし得たものである。 (e-5)判断についてのまとめ 以上のとおりであるから、相違点1ないし5は、刊行物の11段落、及び周知文献1ないし3に記載された周知技術を勘案することにより、当業者が容易になし得た程度のものにすぎない。 したがって、補正後の発明は、刊行物発明、並びに刊行物の11段落、及び周知文献1ないし3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (f)独立特許要件についてのまとめ 以上、検討したとおり、本件補正は、補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。 (6)補正の却下の決定についてのむすび 本件補正は、平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第2項において準用する同法17条第2項に規定する要件を満たしていない。また、仮に、本件補正が当該要件を満たすものであったとしても、本件補正は、平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。また、仮に、本件補正が、これらの要件を満たすものであり、かつ、特許法第17条の2第3項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであったとしても、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明 平成18年7月4日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成18年3月31日付けの手続補正は平成18年5月25日付けで補正却下されているので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成17年9月22日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される、上記2.(1)の「(補正前)」の箇所に記載したとおりのものである。 4.刊行物に記載された発明 刊行物には、2.(6)(c)(c-3)に記載したとおり、以下の刊行物発明が記載されているものと認められる。 「絶縁性基板上に非晶質シリコンを形成し、レーザ光を用いて、非晶質シリコンを加熱溶融し、さらに、その加熱個所を非晶質シリコン上で相対的に走査させることによって、溶融した非晶質シリコンを結晶化させて単結晶を形成して単結晶半導体膜を形成する薄膜半導体装置の製法。」 5.対比 本願発明と刊行物発明とを対比する。 (1)刊行物発明の「絶縁性基板上」、「薄膜半導体装置の製法」は、それぞれ、本願発明の「絶縁性表面を有する基板上」、「半導体装置の製造方法」に相当する。 (2)刊行物発明の「非晶質シリコンを形成」することは、本願発明の「非晶質半導体膜を堆積」することに相当する。 (3)刊行物発明の「レーザ光を用いて、非晶質シリコンを加熱溶融し」についてみると、「レーザ光」は、「非晶質シリコンを」「加熱」していることから、本願発明の「加熱光線」に相当し、また、「レーザ光を用いて」とは、「加熱光線」である「レーザ光」を「非晶質シリコン」に照射することを意味することは自明であるから、刊行物発明の「レーザ光を用いて、非晶質シリコンを加熱溶融し」は、本願発明の「加熱光線を該非晶質半導体膜に照射することにより該非晶質半導体膜を加熱して熔融し」に相当することが明らかである。 (4)刊行物発明の「その加熱個所を非晶質シリコン上で相対的に走査させることによって」における「その加熱箇所」は、本願発明の「該光線の照射による」「被照射領域」に相当し、さらに、刊行物発明の「相対的に走査させること」は、本願発明の「移動させること」に相当することから、刊行物発明の「その加熱個所を非晶質シリコン上で相対的に走査させることによって」は、本願発明の「該基板に対して該光線の照射による」「被照射領域を移動させることによって」に相当する。 (5)したがって、本願発明と刊行物発明とは、 「絶縁性表面を有する基板上に非晶質半導体膜を堆積後、加熱光線を該非晶質半導体膜に照射することにより該非晶質半導体膜を加熱して熔融し、さらに該基板に対して該光線の照射による被照射領域を移動させることによって、熔融された該非晶質半導体膜を結晶化する半導体装置の製造方法であって、 該光線はレーザであることを特徴とする半導体装置の製造方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明は、「加熱光線」が照射される「被照射領域」が「帯状」であるのに対し、刊行物発明は、「レーザ光」が照射される領域の形状が特定されていない点。 (相違点2) 熔融された該非晶質半導体膜を結晶化することに関し、本願発明は「多結晶化する」ものであるのに対して、刊行物発明は「結晶化させて単結晶を形成して単結晶半導体膜を形成する」ものである点。 (相違点3) 本願発明は、「連続波レーザ」を用いるのに対して、刊行物発明は、「レーザ光」が連続波であるか否かが明らかでない点。 (相違点4) 本願発明は、「該基板に対する該被照射領域を移動させる速度は、該被照射領域に該光線が照射されてから該非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下にし」ているのに対して、刊行物発明は、そのような特定がなされていない点。 (相違点5) 本願発明は、「前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲とする」のに対して、刊行物発明は、そのような特定がなされていない点。 6.判断 (1)相違点1及び相違点3について 非晶質半導体膜の結晶化のために、加熱光線の被照射領域を帯状とし、加熱光線であるレーザを連続波レーザとすることは、例えば、刊行物の0011段落、及び本願の出願日前に頒布された以下の周知文献1に記載されているように、本願の出願日前において当業者の周知技術である。 (周知文献1:特開平4-338631号公報) 周知文献1には、「【0011】本発明の2波長レーザ帯域溶融再結晶化法における第1のレーザ光としてはシリコンに吸収帯域(おおよそ1.2μmより短波長側)にある波長の光を出すレーザ光を広く使用できる。具体的には短波長領域の各種のエキシマレーザ、He-Cdレーザ、Arレーザ、He-Neレーザ、ルビーレーザ、アレキサンドライトレーザ、YAGレーザ、あるいは半導体レーザ等が使用可能である。帯域溶融再結晶化に必要な温度プロファイルを形成する熱源とするという観点からは取りだし可能な出力が比較的大きいこと、また連続発振が可能なレーザであることが望ましく、Arレーザ、YAGレーザ、あるいは高出力の半導体レーザから選ぶことが望ましい。・・・シリコン層に照射する場合のビーム形状としては帯域溶融再結晶化法の実現に好適なように均一な線状ビームが好ましい。種々の光学機械を用いてビーム形状を線状で均一にすることが可能である。また前述のごとく複数本のビームにより均一で線状のビームを形成することが可能である。さらにはビームの高速走査により擬似的に線状のビームを形成することも可能である。」(0011段落)と記載されている。 したがって、刊行物発明において、刊行物及び周知文献1に記載された周知技術を適用し、「レーザ光」の「被照射領域」を「帯状」とするとともに、「レーザ光」として「連続波レーザ」を用いることは、当業者が容易になし得たものである。 (2)相違点2について (a)半導体膜の結晶化において、非晶質半導体膜を多結晶化することは、例えば、本願の出願日前に頒布された以下の周知文献2および3に記載されているように、本願の出願日前において当業者の周知技術である。 (周知文献2:特開平4-286318号公報) 周知文献2には、図1とともに、「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は多結晶半導体薄膜の製造方法におけるレ-ザアニ-ルによる結晶性の制御方法及びそれを用いて製造された薄膜半導体装置並びにその製造装置に関する。」(0001段落)、及び「【0009】まずサンプルをチャンバ-13内のサンプルホルダ-12にセットし、基板加熱機構により基板を300℃に加熱した。サンプルとしては、ガラス基板10上にLP-CVD法により非晶質シリコン膜11を厚さ100nm形成したものを用いた。次に、真空排気系16によりチャンバ-13内を圧力が1mPaになるまで排気し、その後、雰囲気ガス供給系15によりアルゴン,ネオンに比べて熱伝導性の優れたヘリウム(He)をチャンバ-13内が1気圧(ほぼ101325Pa)になるまで注入した。その後、サンプル表面にXeClエキシマレ-ザを照射してレ-ザアニ-ルした。レ-ザは発振波長308nm、パルス幅28nsのものを使用し、照射エネルギーは250mJ/cm^(2)の条件でアニールした。このアニールの際、雰囲気中のHeガスの存在と基板の加熱により、非晶質シリコン膜には、基板側が高く表面側が低くなる温度勾配が形成された。上記アニ-ルプロセスにより得られた多結晶シリコン膜の断面TEM写真を見ると、シリコン膜全体が均一な100nm程度の結晶粒径となっていた。結晶性に関しては、air中で基板加熱なしでレ-ザアニ-ルしたものと、本実施例の方法によりレーザアニールしたもののX線回折強度を比較すると、前者は回折強度が約0.8kcpsなのに対し、後者は約1.5kcpsと2倍程度の差が生じ、これは後者の結晶成分が緻密であることを示している。以上のように、本実施例によれば、結晶粒径が均一で、かつ結晶粒子の分布が緻密な結晶性に優れた多結晶シリコン膜が形成できた。」(0009段落)と記載されている。 (周知文献3.特開平5-175235号公報) 周知文献3には、「【0004】ガラス歪み点温度以下の低温プロセスでTFTの活性層として良好な結晶性を有する多結晶シリコン(以下、poly-Si)層を得るために、レーザビームを利用したアニール処理が従来から行われている。特に、連続発振(CW)レーザを使用する方法としてガラス基板上に、a-Si層を形成し、この膜に出力数ワットのレーザビームを直径数10?数100μmに集光して照射し、レーザビーム、若しくは基板を移動させ、幅数10μmの間隔で重ね合わせて走査していくことによって、基板全体にアニール処理を行い、a-Si層を多結晶化する方法が知られている。」(0004段落)と記載されている。 (b)また、刊行物の0007段落に「この時加熱により溶融している部分の温度分布が図1に示すごとく中央部が高くて周辺部が低くなっている状況では溶融シリコンの再結晶化は溶融部の周辺から多数同時に開始し、その結果再結晶化シリコンは多結晶体となってしまう。」と記載されているように、刊行物にも非晶質半導体膜にレーザ光を照射することにより多結晶シリコンを形成する技術が記載されていることは明らかである。 したがって、刊行物発明において、「非晶質シリコンを結晶化させ」る際に、周知技術である多結晶化する技術を適用し、「結晶化させて単結晶を形成して単結晶半導体膜を形成する」ことに替え、「多結晶化する」構成とすることは、必要とされる半導体装置の特性に応じて当業者が容易になし得た事項である。 (3)相違点4について 本願発明において、「該基板に対する該被照射領域を移動させる速度は、該被照射領域に該光線が照射されてから該非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下に」するということは、技術的にみて、「該基板に対する該被照射領域を移動させる速度」を、「該光線」の照射により「非晶質半導体膜」が熔融するために充分な程度に遅くすることを意味するものであることは明らかである。 そして、刊行物発明においても「レーザ光」により「非晶質シリコンを加熱溶融」することを前提とするのであるから、「レーザ光」の走査速度を、「非晶質シリコンを加熱溶融」するために十分な程度に遅くしなければならないことは、当業者に自明な事項である。 したがって、刊行物発明において、上記(1)に記載した周知技術を適用して、「レーザ光」の「被照射領域」を「帯状」とするとともに、「レーザ光」として「連続波レーザ」を用い、さらに、上記(2)に記載した周知技術を適用して、本願発明の如く「多結晶化する」構成とした場合に、「レーザ光」の走査速度を、「非晶質シリコンを加熱溶融」するために十分な程度に遅くすること、すなわち、本願発明の如く、「該基板に対する該被照射領域を移動させる速度は、該被照射領域に該光線が照射されてから該非晶質半導体膜が熔融するまでの時間で該帯状の被照射領域の幅を割ることにより得られる速度以下に」することは、当業者が何ら困難性なくなし得た事項である。 (4)相違点5について (a)本願発明においては、「多結晶半導体膜」は、「被照射領域を移動させることによって、熔融された該非晶質半導体膜を多結晶化」することによりできたものであることは、請求項1の記載から明らかである。 すなわち、「多結晶半導体膜」は、「加熱光線」(レーザ)の照射により「非晶質半導体膜」が「熔融」してできた液状の半導体が、当該「加熱光線」の「被照射領域」が「移動」することに伴って「冷却」されることにより「多結晶化」することによってできたものである。 したがって、もし「前記加熱光線の照射エネルギー密度」が「前記非晶質半導体膜が熔融」しないような低いものであった場合には、所期の目的を達成することができないことは自明であるから、「前記加熱光線の照射エネルギー密度」を「前記非晶質半導体膜が熔融」するために十分な程度に高いものとすることは、当業者にとって必然的な選択である。 また、「加熱光線」であるレーザが走査された(照射された)後に形成された「多結晶半導体膜」は、既にレーザ光が走査した領域に存在しているから、その後、レーザ光が走査されることはなく、また、本願の当初明細書にも、レーザ光が照射された後に形成された「多結晶半導体膜」に再度レーザ光が照射されることは記載されていない。 したがって、レーザ光を「非晶質半導体膜上」を走査した後に形成された「多結晶半導体膜」と、「非晶質半導体膜」との双方を同時にレーザ光により照射する(走査する)方法が、本願発明に含まれるものとは認められない。 してみると、本願発明において、「前記加熱光線の照射エネルギー密度」を、「該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない」ものとすることに、技術的な意義は認められない。 以上のように、「前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲とする」ことは、「前記加熱光線の照射エネルギー密度」を、当業者が必然的に選択する下限と、技術的な意義が認められない上限との間に限定するものにすぎないから、当業者が適宜なし得た事項である。 (b)仮に、本願発明の「前記加熱光線の照射エネルギー密度を、前記非晶質半導体膜が熔融し、該非晶質半導体膜と同一組成の多結晶半導体膜が熔融しない範囲と」するという構成が何らかの技術的意義を有するものであるみて、さらに検討すると、一般に、レーザを用いて各種作業を行う場合において、レーザのエネルギー密度をいたずらに高くすることは、意味がないばかりか、機器のコストや保守等も含めて種々の面で不利となるため、レーザのエネルギー密度を、作業にとって必要最低限のものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。 また、同一組成の非晶質半導体と多結晶半導体、例えば非晶質シリコンと多結晶シリコンの融点を比較すると、多結晶半導体(多結晶シリコン)の方が非晶質半導体(非晶質シリコン)と比較して、相当程度高い融点を有することは当業者の常識である。 そして、刊行物発明において、溶融する必要があるのは「非晶質シリコン」であり、「非晶質シリコン」と比較して相当程度高い融点を有する多結晶シリコンを溶融する必要はないのであるから、「レーザ光」のエネルギー密度を「非晶質シリコン」を溶融するために必要最低限のものとすること、換言すれば、「レーザ光」のエネルギー密度を、「非晶質シリコン」を溶融するためには十分であるが、それよりもかなり融点の高い多結晶シリコンを溶融するまでには到らない程度のものとすることは、当業者であれば容易になし得たものである。 以上、どのような観点から検討しても、相違点5は当業者が容易になし得たものである。 (5)判断についてのまとめ 以上のとおりであるから、相違点1ないし5は、刊行物の11段落、並びに周知文献1ないし3に記載された周知技術を勘案することにより、当業者が容易になし得た程度のものにすぎない。 したがって、本願発明は、刊行物発明、及び刊行物の11段落、及び周知文献1ないし3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7.むすび 以上のとおりであるから、本願は、請求項2ないし10について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるべきものである。よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-10-29 |
結審通知日 | 2008-10-30 |
審決日 | 2008-11-11 |
出願番号 | 特願2001-117544(P2001-117544) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L) P 1 8・ 57- Z (H01L) P 1 8・ 55- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 萩原 周治 |
特許庁審判長 |
北島 健次 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 河合 章 |
発明の名称 | 半導体装置の製造方法 |
代理人 | 大塩 竹志 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 安村 高明 |
代理人 | 安村 高明 |
代理人 | 大塩 竹志 |
代理人 | 山本 秀策 |