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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03D
管理番号 1201102
審判番号 不服2007-31133  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-19 
確定日 2009-07-22 
事件の表示 特願2001-231777「熱現像装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月13日出願公開、特開2003- 43655〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成13年7月31日の出願であって、平成18年11月6日付けで手続補正書が提出され、平成19年7月10日付けで拒絶理由が通知され、同年9月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月17日付けで拒絶査定がされたため、これを不服として同年11月19日付けで本件審判請求がされるとともに、同年12月17日付けで手続補正書が提出されたものである。
そして、当審においてこれを審理した結果、平成21年2月20日付けの補正の却下の決定により平成19年12月17日付けの手続補正を却下するとともに、平成21年2月20日付けで拒絶理由を通知したところ、平成21年4月23日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで明細書について手続補正がされたものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年4月23日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「熱現像感光材料を加熱し熱現像する熱現像部を備える熱現像装置であって、
熱現像後の熱現像感光材料を排出する排出口と、
前記熱現像部で加熱された熱現像感光材料を前記排出口へ向け搬送しつつ冷却する後工程部と、
前記後工程部の上方に該後工程部を覆うように傾斜して設けられ、傾斜下方に位置する前記排出口から排出された熱現像感光材料を傾斜載置すると共に、該後工程で発生するガスを案内する傾斜面を有する排出トレイと
前記傾斜面により案内されたガスを前記傾斜面の最上部近傍で吸引する吸引手段と、を備え
前記傾斜面は、該排出トレイと対応して該排出トレイに対して装置内部に設けられており、前記後工程部で搬送されている熱現像感光材料から発生するガスを該傾斜面に沿って下方から上方へ案内する傾斜面であることを特徴とする熱現像装置。」


第2 当審の判断
1 引用刊行物の記載事項
当審で通知した拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-255869号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の(ア)ないし(ス)の記載が図面とともにある。

(ア)「【0014】本実施の形態の画像記録装置においては、レーザ光を照射することによって潜像が形成された画像記録媒体に対して、処理液を使用しない乾式現像方式を用いて前記潜像の顕像化(現像)を行うドライシステムが採用されている。
【0015】乾式現像方式としては、以下の(1)?(4)の方式を採用することが可能である。」

(イ)「【0018】(3) 光触媒として作用するハロゲン化銀、画像形成物質として作用する銀塩、銀イオン用還元剤等をバインダー内に分散させた感光層を有する感光材料に潜像を形成した後、この感光材料を所定の温度に加熱することにより、潜像を顕像化する方式{例えば、「熱によって処理される銀システム(Thermally Processed Silver Systems)」[B.シェリー(Shely )著、イメージング・プロセッシーズ・アンド・マテリアルズ(Imaging Processes and Materials ) Neblette 第8版、スタージ(Sturge)、V.ウオールワース(Walworth)、A.シェップ(Shepp )編集、第2頁、1996年]、Research Disclosure 17029(1978年)、EP803764A1号、EP803765A1号、特開平8-211521号公報参照}。」

(ウ)「【0021】本実施の形態においては、前記(1)?(4)の方式に用いられる感光材料および感光感熱記録材料を総称して、以下、熱現像感光材料と記す。
【0022】図1は、本発明の実施の形態が適用された画像記録装置10を示す斜視図である。
【0023】画像記録装置10の装置本体12における正面(操作面)の左上部分には、該画像記録装置10を操作するための操作部およびモニタの機能を有するタッチパネル14が設けられている。また、装置本体12の正面におけるタッチパネル14の下側には、扉16が設けられている。この扉16を開けることによって、装置本体12の内部に配された後述するシート供給部22、前搬送部24、画像記録部26、転送部28、熱現像部30および排出部34に対するメンテナンスを行うことができる。
【0024】図2は、画像記録装置10の概略的な構成を示す説明図である。
【0025】画像記録装置10は、熱現像感光材料からなる画像記録媒体としての記録シート20の搬送経路順に設けられたシート供給部22と、前搬送部24と、画像記録部26と、転送部28と、熱現像部30と、排出部34とによって構成されている。また、画像記録装置10は、これらシート供給部22、前搬送部24、画像記録部26、転送部28、熱現像部30および排出部34の動作を制御するための制御部36を有している。」

(エ)「【0052】図2に示すように、転送部28の下流側、すなわち、装置本体12の内部における左上部分には、潜像が形成された記録シートに対して前記潜像の顕像化(熱現像)を行うための熱現像部30が設けられている。この熱現像部30は、同一円周上に配された4つのプレートヒータ230a?230dを備えている。これらプレートヒータ230a?230dの内面232a?232dは断面略円弧状に形成されており、これら内面232a?232dに沿って、記録シート20の搬送路が円周状に構成される。
【0053】各プレートヒータ230a?230dの内面232a?232dには、それぞれ、3つの押さえローラ234が接している。また、プレートヒータ230aの上流側近傍にはローラ対236が配され、プレートヒータ230dの下流側近傍にはローラ対238が配されている。さらに、ローラ対238の下流側には、ローラ対240が配されている。」

(オ)「【0055】熱現像部30には、排気用のファン243が配されている。なお、前記シート供給部22、前搬送部24、画像記録部26および転送部28が配置されている領域には、ファンは設けられていない。このため、塵埃等の発生が回避される。
【0056】また、装置本体12の内壁面には、熱現像部30を囲うように、断熱材244が設けられている。このように断熱材244を設けることによって、プレートヒータ230a?230dからの熱が、後述する第2の排出トレイ292上に排出された記録シート20に伝わることが回避される。
【0057】熱現像部30の下流側、すなわち、装置本体12の内部における右上部分には、排出部34が設けられている。
【0058】図9に示すように、この排出部34は、ローラ対250と、該ローラ対250の下流側に配された搬送路切り換え用の可動ガイド板(切換手段)252とを有している。(以下略)」

(カ)「【0059】可動ガイド板252の下流側には、記録シート20の一方の搬送路(下側の搬送路)を構成する第1のガイド板254と、記録シート20の他方の搬送路(上側の搬送路)を構成する第2のガイド板256とが配されている。
【0060】第1のガイド板254の下流側であり、装置本体12の右側壁に形成された第1の排出口258に近接する位置には、ローラ対260が配されている。以下、ローラ対260から第1の排出口258を経て後述する第1の排出トレイ290へと向かう方向を第1の排出方向aと記す。」

(キ)「【0062】第2のガイド板256の下流側であり、突出部262の左側壁に形成された第2の排出口266に近接する位置には、ローラ対268が配されている。」

(ク)「【0063】(中略)以下、ローラ対268から第2の排出口266を経て第2の排出トレイ292へと向かう方向を第2の排出方向bと記す。
【0064】図1および図2に示すように、装置本体12の右側壁における第1の排出口258の下側の位置には、該第1の排出口258から排出された記録シート20が収容される第1の排出トレイ290が取り付けられている。また、図2および図3に示すように、第2の排出口266の下流側における装置本体12の上面には、該装置本体12と一体的に、第2の排出トレイ292が形成されている。」

(ケ)「【0078】画像記録部26において潜像が形成された記録シート20は、第2のローラ対202によって搬送され、転送部28を構成するガイド板220a、220bを経てローラ対221に送られる。さらに、記録シート20は、ローラ対221によって搬送され、ガイド板222a、222bを経て2組のローラ対223、224に順次供給される。
【0079】ローラ対223、224の図示しない回転軸にはワンウェイクラッチが連結されており、このワンウェイクラッチによって、ローラ対223、224の回転が規制されている。
【0080】ローラ対223、224を経た記録シート20は、クリーニングローラ225によって塵埃等が除去された後、熱現像部30に送られる。
【0081】記録シート20は、ローラ対236によって、プレートヒータ230a?230dに順次供給される。このとき、記録シート20は、押さえローラ234によってプレートヒータ230a?230dに押さえ付けられ、該プレートヒータ230a?230dからの熱によって熱現像される。そして、熱現像後の記録シート20は、ローラ対238、240を経て下流側に搬送される。」

(コ)「【0084】排出部34のローラ対250に供給された記録シート20は、該ローラ対250によって搬送されながら、その下流側に設けられた可動ガイド板252によって搬送路が切り換えられる。可動ガイド板252が下側にシフトしているときには、記録シート20は第1のガイド板254に沿った下側の搬送路に送られ、一方、可動ガイド板252が上側にシフトしているときには、記録シート20は第2のガイド板256に沿った上側の搬送路に送られる。
【0085】下側の搬送路に送られた記録シート20は、第1のガイド板254を経てローラ対260に供給され、このローラ対260によって第1の排出口258に送られる。そして、この第1の排出口258から第1の排出方向aに沿って排出され、該第1の排出口258の下側に設けられた第1の排出トレイ290に収容される。」

(サ)「【0087】一方、上側の搬送路に送られた記録シート20は、ガイドローラ264a?264cのガイド作用下に、第2のガイド板256に沿ってローラ対268に供給される(図9参照)。そして、ローラ対268によって第2の排出口266に送られ、この第2の排出口266から第2の排出方向bに沿って、第2の排出トレイ292上に排出される。(以下略)」

(シ)図2から、(a)第2の排出トレイ292は、ローラ対240,250の上方に、かつ、前記ローラ対240,250を覆うように傾斜して設けられていること、(b)第2の排出トレイ292は、第2の排出口266から排出された記録シート20を傾斜載置するものであること、(c)第2の排出トレイ292の装置本体内部側の面は傾斜面であること、及び、(d)第2の排出口266は、第2の排出トレイ292の傾斜下方に位置することを読み取ることができる。

(ス)図2から、排気用のファン243は、ローラ対240,250のうちプレートヒータ230a?230dの近くに位置する前記ローラ対240の近傍の前記ローラ対240,250間の上方、かつ、第2の排出トレイ292の下方の位置に取り付けられていることを読み取ることができる。

2 引用例1に記載の発明の認定
引用例1の上記記載事項(ア)ないし(ス)から、引用例1には次の発明が記載されていると認めることができる。

「光触媒として作用するハロゲン化銀、画像形成物質として作用する銀塩、銀イオン用還元剤等をバインダー内に分散させた感光層を有する熱現像感光材料からなる画像記録媒体としての記録シート20に潜像を形成する画像記録部26と、
前記画像記録部26によって潜像が形成された前記記録シート20を加熱して熱現像するプレートヒータ230a?230dと、
熱現像された前記記録シート20を第1の排出口258または第2の排出口266に搬送するローラ対240,250と、
前記ローラ対250によって搬送された前記記録シート20の搬送路を切り換える可動ガイド板252と、
前記可動ガイド板252によって下側の搬送路に送られて前記第1の排出口258から排出された前記記録シート20を載置する第1の排出トレイ290と、
前記ローラ対240,250の上方に、かつ、前記ローラ対240,250を覆うように傾斜して設けられ、前記可動ガイド板252によって上側の搬送路に送られて前記第2の排出口266から排出された前記記録シート20を傾斜載置する第2の排出トレイ292と、
前記ローラ対240,250のうち前記プレートヒータ230a?230dの近くに位置する前記ローラ対240の近傍の前記ローラ対240,250間の上方、かつ、前記第2の排出トレイ292の下方の位置に取り付けられた排気用のファン243と、
を備え、
前記第2の排出口266は前記第2の排出トレイ292の傾斜下方に位置し、
前記第2の排出トレイ292の装置本体内部側の面は傾斜面である、
画像記録装置。」(以下、「引用発明1」という。)

3 本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
(1)引用発明1の「光触媒として作用するハロゲン化銀、画像形成物質として作用する銀塩、銀イオン用還元剤等をバインダー内に分散させた感光層を有する熱現像感光材料からなる画像記録媒体としての記録シート20」は、本願発明の「熱現像感光材料」に相当する。
したがって、引用発明1の「潜像が形成された前記記録シート20を加熱して熱現像するプレートヒータ230a?230d」は、本願発明の「熱現像感光材料を加熱し熱現像する熱現像部」に相当し、引用発明1の「前記記録シート20を加熱して熱現像するプレートヒータ230a?230d」を備えた「画像記録装置」は、本願発明の「熱現像感光材料を加熱し熱現像する熱現像部を備える熱現像装置」に相当する。

(2)引用発明1の「熱現像された前記記録シート20」を「排出」する「第2の排出口266」は、本願発明の「熱現像後の熱現像感光材料を排出する排出口」に相当する。

(3)引用発明1の「プレートヒータ230a?230d」によって「加熱」されて「熱現像された前記記録シート20」を「ローラ対240,250」により「第2の排出口266に搬送する」間に「熱現像された前記記録シート20」が冷却されることは、本願出願時における技術常識である。
したがって、引用発明1の「プレートヒータ230a?230d」によって「加熱」されて「熱現像された前記記録シート20」を「ローラ対240,250」により「第2の排出口266に搬送する」ことは、本願発明の「前記熱現像部で加熱された熱現像感光材料を前記排出口へ向け搬送しつつ冷却する後工程部」に相当する。

(4)引用発明1の「前記ローラ対240,250間の上方に、かつ、前記ローラ対240,250を覆うように傾斜して設けられ」、「傾斜下方に位置」する「前記第2の排出口266から排出された前記記録シート20を傾斜載置する」と共に、「装置本体内部側の面は傾斜面である」「第2の排出トレイ292」と、本願発明の「前記後工程部の上方に該後工程部を覆うように傾斜して設けられ、傾斜下方に位置する前記排出口から排出された熱現像感光材料を傾斜載置すると共に、該後工程で発生するガスを案内する傾斜面を有する排出トレイ」とは、「前記後工程部の上方に該後工程部を覆うように傾斜して設けられ、傾斜下方に位置する前記排出口から排出された熱現像感光材料を傾斜載置すると共に、傾斜面を有する排出トレイ」である点で一致する。
また、引用発明1の「第2の排出トレイ292の装置本体内部側の面は傾斜面である」ことと本願発明の「前記傾斜面は、該排出トレイと対応して該排出トレイに対して装置内部に設けられており、前記後工程部で搬送されている熱現像感光材料から発生するガスを該傾斜面に沿って下方から上方へ案内する傾斜面である」こととは、「前記傾斜面は、該排出トレイと対応して該排出トレイに対して装置内部に設けられて」いる「傾斜面である」点で一致する。

(5)潜像の形成されたハロゲン化銀熱現像感光フィルムを熱現像する熱現像装置の分野では、前記熱現像感光フィルムの熱現像後の搬送工程においても前記熱現像感光フィルムは熱いため、前記熱現像感光フィルムからガスが発生することは、本願出願時における当業者の技術常識である(例えば、特表平10-500496号公報(公報第4頁第8行?第5頁第7行、第7頁第4?20行、第7頁第28行?第8頁第4行等)、特表平10-507403号公報(公報第4頁第8行?第5頁第7行、第7頁第4?16行、第7頁第24?28行等)、特表2000-501845号公報(公報第4頁第8行?第5頁第5行、第6頁第18?28行、第7頁第6?9行等)を参照。)。また、上記技術常識において、熱現像感光フィルムの熱現像後の搬送工程で前記熱現像感光フィルムからガスが発生するのは、前記熱現像感光フィルムの熱現像後の搬送工程においても前記熱現像感光フィルムが熱いためであるから、前記ガスが前記熱現像感光フィルムの上方に移動することは、当業者にとって自明な事項である。
かかる技術常識、及び、引用発明1の「排気用のファン243」は「前記ローラ対240,250の上方」「の位置に取り付けられ」ていること、すなわち、引用発明1の「排気用のファン243」は「プレートヒータ230a?230d」によって「加熱」されて「熱現像された前記記録シート20」の「ローラ対240,250」による搬送路の上方に取り付けられていることに照らすと、引用発明1の「排気用のファン243」は、「プレートヒータ230a?230d」によって「加熱」されて「熱現像された前記記録シート20」を「ローラ対240,250」により「第2の排出口266に搬送する」際に、「熱現像された前記記録シート20」から発生するガスを排気していることは明らかである。
また、本願発明の記載から、本願発明の「前記傾斜面により案内されたガス」は「後工程で発生するガス」であることは明らかである。
したがって、引用発明1の「プレートヒータ230a?230d」によって「加熱」されて「熱現像された前記記録シート20」を「ローラ対240,250」により「第2の排出口266に搬送する」際に「熱現像された前記記録シート20」から発生するガスを排気する「排気用のファン243」と本願発明の「前記傾斜面により案内されたガスを前記傾斜面の最上部近傍で吸引する吸引手段」とは、「該後工程で発生するガスを該後工程部の上方で吸引する吸引手段」である点で一致する。

(6)すると、本願発明と引用発明1とは、

「熱現像感光材料を加熱し熱現像する熱現像部を備える熱現像装置であって、
熱現像後の熱現像感光材料を排出する排出口と、
前記熱現像部で加熱された熱現像感光材料を前記排出口へ向け搬送しつつ冷却する後工程部と、
前記後工程部の上方に該後工程部を覆うように傾斜して設けられ、傾斜下方に位置する前記排出口から排出された熱現像感光材料を傾斜載置すると共に、傾斜面を有する排出トレイと
該後工程で発生するガスを該後工程部の上方で吸引する吸引手段と、を備え
前記傾斜面は、該排出トレイと対応して該排出トレイに対して装置内部に設けられている傾斜面である
ことを特徴とする熱現像装置。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点1〉
本願発明の「該排出トレイと対応して該排出トレイに対して装置内部に設けられ」た「傾斜面」は「前記後工程部で搬送されている熱現像感光材料から発生するガスを該傾斜面に沿って下方から上方へ案内する」ものであるのに対し、引用発明1の「第2の排出トレイ292」の装置本体内部側の「傾斜面」にはそのような限定がない点。

〈相違点2〉
後工程部で搬送されている熱現像感光材料から発生するガスを吸引手段によって吸引する場所が、本願発明では「前記傾斜面の最上部近傍」であるのに対し、引用発明1では「前記ローラ対240,250のうち前記プレートヒータ230a?230dの近くに位置する前記ローラ対240の近傍の前記ローラ対240,250間の上方、かつ、前記第2の排出トレイ292の下方の位置」である点。

4 相違点1,2についての判断
(1)潜像の形成されたハロゲン化銀熱現像感光フィルムを熱現像する熱現像装置の分野では、前記熱現像感光フィルムから発生するガスを吸引するファンを装置内部の最上部近傍に配置して、前記ガスを装置内部の最上部近傍で吸引することは、本願出願時において周知の技術的事項である(例えば、特開平11-133572号公報(段落【0065】?【0066】、【0069】?【0098】、図25?26等)、特開2000-241953号公報(段落【0003】、【0016】、【0024】、【0038】、【0040】、図1)を参照。)。
すると、上記周知事項に基づいて、引用発明1の「排気用のファン243」を「第2の排出トレイ292」の装置本体内部側の「傾斜面」の最上部近傍に配置して、「プレートヒータ230a?230d」によって「加熱」されて「熱現像された前記記録シート20」を「ローラ対240,250」により「第2の排出口266に搬送する」際に「熱現像された前記記録シート20」から発生するガスを「第2の排出トレイ292」の装置本体内部側の「傾斜面」の最上部近傍で吸引し排気することは、当業者にとって容易に想到し得る。
そして、引用発明1の「第2の排出トレイ292」は「前記ローラ対240,250の上方に、かつ、前記ローラ対240,250を覆うように傾斜して設けられ」ており、また、上記第2の3(5)で述べたとおり、熱現像感光フィルムの熱現像後の搬送工程で前記熱現像感光フィルムから発生するガスは前記熱現像感光フィルムの上方に移動するから、引用発明1の「排気用のファン243」を「第2の排出トレイ292」の装置本体内部側の「傾斜面」の最上部近傍に配置すると、引用発明1の「第2の排出トレイ292」の装置本体内部側の「傾斜面」が熱現像された「記録シート20」の搬送工程において前記「記録シート20」から発生するガスを該「傾斜面」に沿って下方から上方へ案内する作用を有することは、当業者にとって自明の事項である。
したがって、上記相違点1,2に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(2)ア なお、請求人は、平成21年4月23日付けの意見書において、「ここで、引用文献1おけるファンの設置位置に対する技術的思想について検証します。前述したように引用文献1においては、熱現像部から発生するガスを吸引する際に、熱現像部とファンとの間に他の部材を介することないようにファンを配置すること、また、後工程部の上方かつ傾斜面の下方にファンが配置されていることから、引用文献1においては、熱現像部及び後工程部で発生したガスを機内の部材に触れることなく直接的に吸引するという明確な設計思想があることは当業者であれば考えられる技術思想であります。逆に、引用文献1に記載されたような構成で、仮に傾斜面の上方近傍にファンを配置し、傾斜面をガスの案内に用いた場合には、熱現像部が発する多量のガスが傾斜面に接触することになり、そのことで傾斜面にはガスの凝集物が付着し、クリーニングが必要になるばかりでなく、その凝集物が後工程部に落下するおそれがあり、その場合には後工程部を搬送されてきたフィルムに落下、付着することで、読影に影響する恐れがでてきてしまいます。つまり、引用文献1においては、後工程部と傾斜面の間にファンを設けることで、熱現像部及び後工程部で発生するガスを機内の他の部材に接触しない、即ちガスを凝集させないようにして、そのガスを吸引排気するという技術思想を読み取ることができるものであります。」と主張している。

イ そこで、請求人の上記主張を検討する。
(ア)請求人の上記主張は、引用発明1と異なり、本願発明では、熱現像部が発する多量のガスが傾斜面に接触しないようにされているという技術的事項、すなわち、本願の図9の実施例のように、熱現像部130をケーシング130aで覆って、熱現像部130で発生するガスが後工程部400に漏れないようにされているという技術的事項が採用されていることを前提とする主張である。しかし、かかる技術的事項は本願発明には記載されていないから、本願発明においても、請求人の上記主張で指摘した問題が存在することは明らかである。
したがって、請求人の上記主張は本願発明に基づく主張とは認められず、これを採用することはできない。

(イ)また、請求人は上記主張において、「引用文献1においては、熱現像部及び後工程部で発生したガスを機内の部材に触れることなく直接的に吸引するという明確な設計思想がある」と主張している。
しかし、引用例1には、かかる設計思想を採用したとの明示的な記載がない。
さらに、引用発明1の「排気用のファン243」は「前記ローラ対240,250のうち前記プレートヒータ230a?230dの近くに位置する前記ローラ対240の近傍の前記ローラ対240,250間の上方、かつ、前記第2の排出トレイ292の下方の位置に取り付けられ」ていることに照らすと、引用発明1では、「前記画像記録部26によって潜像が形成された前記記録シート20を加熱して熱現像するプレートヒータ230a?230d」部で発生するガスが「第2の排出トレイ292」の装置本体内部側の「傾斜面」に触れないように「排気用のファン243」により直接的に吸引しつつ、「プレートヒータ230a?230d」によって「加熱」されて「熱現像された前記記録シート20」を「ローラ対240,250」により「第2の排出口266に搬送する」際に「熱現像された前記記録シート20」から発生するガスが「第2の排出トレイ292」の装置本体内部側の「傾斜面」に案内された後に「排気用のファン243」により吸引することが可能であることは当業者にとって自明である。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

5 本願発明の進歩性の判断
以上検討したとおり、引用発明1に上記相違点1ないし2に係る本願発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。
また、本願発明の効果も、引用例1に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。
したがって、本願発明は引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-12 
結審通知日 2009-05-19 
審決日 2009-06-01 
出願番号 特願2001-231777(P2001-231777)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉浦 淳  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 村田 尚英
日夏 貴史
発明の名称 熱現像装置  

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