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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない F04B
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない F04B
管理番号 1210722
審判番号 訂正2009-390088  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2009-07-21 
確定日 2010-01-18 
事件の表示 特許第3400515号に関する訂正審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
特許第3400515号(以下「本件特許」という。)に係る発明についての出願は,平成6年1月17日に特許出願され,平成15年2月21日にその発明について特許権の設定登録がなされ,その後,平成21年7月21日に本件審判の請求がなされ,当審において,同年9月10日付けで,期間を指定して訂正拒絶の理由を通知したところ,これに対し,同年10月14日に意見書及び審判請求書についての手続補正書(以下「本件手続補正書」という。)が提出されたものである。
なお,本件特許に対して,無効2008-800016号(以下「関連無効審判事件」という。)が請求され,この審判事件に関し,平成20年6月6日付けで「特許第3400515号の請求項1及び2に係る発明の特許を無効とする。」との第1次無効審決がなされたところ,同年7月16日に該審決に対する訴えが提起され,同年10月6日に訂正2008-390109号(以下「第1次訂正審判」という。)が請求され,知的財産高等裁判所において,特許法第181条第2項の規定に基づく審決取消しの決定がなされ,これを受けて前記無効審判において審理が再開され,請求人は第1次訂正審判における訂正請求を援用して無効審判における訂正請求をしたところ,平成21年3月17日付けで「訂正を認める。特許第3400515号の請求項1及び2に係る発明の特許を無効とする。」との第2次審決がなされ,同年4月22日に該審決に対する訴えが提起され,同年7月21日に本件審判の請求がなされたものである。

2.本件手続補正書による手続補正の適否
本件手続補正書による手続補正は,審判請求書に記載した訂正事項7及び9を削除するとともに,全文訂正明細書を本件手続補正書に添付したものに差し替えるものであるから,訂正の要旨を変更するものとは認められず,特許法第131条の2第1項の規定に適合する。

3.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は,特許第3400515号の明細書(以下「特許明細書」という。)を本件手続補正書に添付した全文訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおり,すなわち,下記(1)ないし(8)のとおり訂正することを求めるものである。
(1)訂正事項1
請求項1に「立ち上げられて,ダイヤフラムの」とあるのを,「立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの」と訂正する。
(2)訂正事項2
請求項1に「対接するダイヤフラム接合部と,」とあるのを,「対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部と,」と訂正する。
(3)訂正事項3
請求項1に「この両者間に略L字形に連続する」とあるのを,「この両者間に,内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する」と訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0005】における「立ち上げられて,ダイヤフラムの」とあるのを,「立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの」と訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0005】における「対接するダイヤフラム接合部と,」とあるのを,「対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部と,」と訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0005】における「この両者間に略L字形に連続する」とあるのを,「この両者間に,内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する」と訂正する。
(7)訂正事項8
明細書の段落【0017】における「当該音は消されかまたは」とあるのを,「当該音は消されるかまたは」と訂正する。
(8)訂正事項10
明細書の段落【0017】における「落ち着かせるという効果もある。」の後に,「さらに,空気滞留室が,内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する構造であるから,この内側角部においては,一種の面取り効果(直角のコーナーを内側へ切り落とす効果)が得られ,直角形状のL字形に比べて,空気滞留室の容積を拡大させる効果が得られる。」の文章を追加する。

4.訂正拒絶理由の概要
一方,平成21年9月10日付けで通知した訂正拒絶理由の概要は,次のとおりである。
(1)審判請求書に記載された訂正事項7及び9は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,平成6年改正前特許法第126条1項ただし書の規定に適合しないものと認められる。
(2)仮に,訂正事項7及び9が削除された場合において,本件訂正明細書の請求項1に係る発明は,引用刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。よって,請求項1に係る訂正事項(本件訂正事項1ないし3)は,平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に適合せず,当該訂正事項を含む本件訂正は認められない。

5.訂正拒絶の理由に対する意見書での主張の概要
(1)訂正事項7及び9を削除したから,当該訂正事項についての拒絶理由は解消した。
(2)本件訂正明細書の請求項1に係る発明は,引用刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.訂正の適否についての判断
(6-1)訂正の目的,新規事項の有無
上記訂正事項について,訂正の目的及び新規事項の有無について検討する。
訂正事項1ないし3は,請求項1において,特許明細書の段落【0009】ないし【0012】,及び図1,図3,図4の記載に基づき,ダイヤフラム接合部及び空気滞留室をそれぞれ限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的としており,新規事項の追加に該当しない。
また,上記訂正事項4ないし6は,上記訂正事項1ないし3との整合を図るためのものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的としており,新規事項の追加に該当しない。
加えて,上記訂正事項8は,誤記の訂正を目的としており,新規事項の追加に該当しない。
さらに,上記訂正事項10は,訂正事項3による特許請求の範囲の訂正に伴い,それにより得られる自明な効果を追加したものであり,訂正事項3との整合を図るためのものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的としており,新規事項の追加に該当しない。
そして,上記いずれの訂正事項も,「ダイヤフラムによる空気の吸入,吐出動作に際して発生した音が水槽にまで伝わるのを防止したエアー・ポンプを提供する」という課題に変更を及ぼすものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
したがって,本件訂正は,平成6年改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合し,かつ,同条第5項の規定によって準用する同法第126条第2項の規定に適合する。

(6-2)訂正発明1の独立特許要件
上記訂正事項1ないし3は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので,本件訂正明細書の請求項1に係る発明(以下「訂正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に適合するか)について検討する。

1)訂正発明1
訂正発明1は,本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。
「筐体であるハウジングと,電磁駆動機構と,この電磁駆動機構の電磁作用によって往復運動するマグネットを有するアームと,このアームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラムと,ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え,吐出するタンク部材とを備え,タンク部材は,土台となるボックス構造のベース部と,ベース部から立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部と,ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部と,この柱状部に形成され,アームの根元部分が固定される係止部とを有し,全体が一体のブロック体構造で,かつベース部及び柱状部の内部にこの両者間に,内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する空気滞留室が形成され,ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び,空気滞留室に連通する空気通路を形成されて,空気滞留室の空気流入口がベース部側に設けられるとともに,空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられ,ダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能とダイヤフラムによる空気の吸入,吐出動作に際して発生する音を軽減する機能とを合わせ持って,ベース部をハウジングの底面に当接して固定取り付けされ,タンク部材の空気出口に空気供給用のホースが接続されることを特徴とするエアー・ポンプ。」

2)引用刊行物記載の発明
(1)本件出願前に外国で頒布された刊行物である台湾実用新案登録願第77204725号の出願書類の写し(以下「引用例1」という。前記関連無効審判事件における甲第1号証の1参照。)には,図面とともに次の事項が記載されているものと認められる(訳文は,同無効審判事件における甲第1号証の3に基づく。)。

a)「本考案は,消音作用を有する空気ポンプ構造に関し,特に,空気排出室と排気管との間に空間が空気排出室より大きい緩衝室が設けられ,その排気速度と排気圧力を緩和することにより,空気と当該壁面との摩擦力を降下することができ,それにより,ノイズを減少することができることを特徴とする魚の飼育用水槽に用いられる空気ポンプに関する。」(明細書2頁3行?7行;前記甲第1号証の3,2頁3行?7行参照)

b)「従来の魚の飼育用水槽に用いられる空気ポンプとしては,添付書類1公告第59102,添付書類2公告第53223,添付書類3公告第74050,添付書類4公告第83200,添付書類5公告第087333に開示されたものが挙げられる。開示されたあらゆるポンプ構造については,いずれも空気輸送機能を持っているが,ノイズが大き過ぎるという一つの共通の欠点もあることが現状である。その原因を調べたところ,いずれの製品においても,空気排出室中の空気が,振動ダイヤフラムを介して外部から空気取込室の後に設置された回気室に吸入され,ワンウエーバルブにより気流の回流を防ぎ,回気室のすぐ後に接続された細長排気管を通って排出されるということが分かる。このような設計においては,空気がワンウエーで高速に流れ,管壁面との摩擦が大きくなってノイズが生じている(従来製品のノイズを測定した結果,いずれも約20?30dbである)。静かな居室において,うるさい感じがすると言える。夜になると,最も顕著であろう。これは,従来製品の大きな欠点と言える。」(同書2頁14行?3頁4行;同号証2頁13行?25行参照)

c)「第一図は,本考案のポンプ体の立体分解図である。
第二図は,本考案のポンプ体の実施例の断面図である。
第一図のように,ポンプ体10の一側に緩衝室13が設置され,当該緩衝室13の一側にさらに排気管14が設置されている。上記ポンプ体10の中に空気排出室と空気取込室を備える。上記空気排出室と空気取込室のそれぞれ中央部に,通気孔101が設けられている。各通気孔101にバルブ15が設置されている。ポンプ体10に,ポンプ体10の上周縁の凸縁により形成された凹部である空気迂回区111がある。当該迂回区111の上端にダイヤフラム20が設置されている。当該ダイヤフラム20の一側に設けれられたマグネットは,電磁コイルの電磁駆動により振動され,それにより,ダイヤフラム20を上下方向に振動させることができる。ダイヤフラム20の振動作用により空気を空気取込室からバルブ15を介して上記迂回区111に吸入させる。続いて,吸入された空気を,上記迂回区111から空気排出室におけるバルブ15を介して排出させる。このように,単方向に排気動作ができる。」(同書3頁19行?4頁6行;同号証3頁11行?24行参照)

d)「第二図のように,ポンプ体10における空気取込室の空間と空気排出室の空間は同じであり,上端は,上周縁の凸縁とダイヤフラム20とからなる迂回区111である。
2つのバルブ15の1つは,迂回区111の通気孔101に嵌め込まれ,それにより,空気を空気取込室11から迂回区111に吸入させることができる。もう1つのバルブ15は,空気排出室12における通気孔101に嵌め込まれ,それにより,迂回区111における空気を空気排出室12に排出させることができる。このようにして,空気は逆の方向に流れられなくなる。」(同書4頁7行?14行;同号証3頁25行?4頁3行参照)

e)「空気排出室12の底部と緩衝室13の間に設置された空気チャンネル131により,空気排出室12中の空気を緩衝室13に進入させる。
緩衝室13の容積は,空気取込室11と空気排出室12の容積より大きい。緩衝室13の一側に空気を排出するための排気管14が設置される。また,他のホースを介して水槽に送る。緩衝室13と排気管14との間に綿製空気透過パッド17が設けられる。この綿製空気透過パッド17により,緩衝室13に進入且つ排気管14から排出しようとする空気が排気口周辺の緩衝室壁に直接にぶつかることを避け,音を消すことができる。
また,緩衝室13,チャンネル131および空気排出室12の底部に柔軟且つ弾性のゴムパッド16が設置される。それにより,空気排出室12中の空気がチャンネル131から緩衝室13に流れる時,空気の衝突を緩和し,当該衝突によるノイズを軽減することができる。」(同書4頁15行?5頁3行;同号証4頁4行?15行参照)

f)「したがって,本考案は以下の効果を有する。
1.緩衝室,チャンネルおよび空気排出室の底部に設けられたゴムパッド,及び排気口周辺に設けられた綿製空気透過パッドなどにより,空気がそれらに衝突する際の緩和効果により,空気がポンプ体壁面に衝突する際のノイズよりも低いノイズの静音効果が得られる。
2.緩衝室の容積を空気取込室および空気排出室の容積より大きくすることにより,空気取込室中の空気の圧力と同じな空気排出室中の空気が緩衝室に流れるとき,圧力が小さくなり,流動速度が緩和される。また,排気口周辺に設けられた綿製空気透過パッドの緩衝作用により,従来のように空気が排気管を流れる時に生じる「口笛作用」によるノイズを除去できるので,静音効果が得られる。」(同書5頁4行?13行;同号証4頁16行?26行参照)

g)「空気取込室と空気排出室とを備える消音空気ポンプ構造であって,上記空気排出室と排気管との間にさらに緩衝室が設けられ,当該緩衝室と空気排出室との底部に連通するためのチャンネルが設けられ,緩衝室の容積は,空気取込室と空気排出室のいずれの容積より大きく,且つ,緩衝室における排気管口周辺に綿製空気透過パッドが設置され,
上記緩衝室,チャンネルおよび空気排出室の底部にゴムパッドが設けられることを特徴とする消音空気ポンプ構造。」(同書6頁2行?7行;同号証6頁2行?8行参照)

h)第一図及び第二図には,断面が枠状のハウジングと,電磁コイルと,マグネットを有するアームと,このアームが一側に設けられたダイヤフラム20とポンプ体10の上周縁の凸縁とバルブ15等からなる空気迂回区111と,空気迂回区111に接続され空気を緩衝させてから排気する,空気排出室12と空気チャンネル131と緩衝室13と土台部分とで構成される一連の構造体を備えた空気ポンプの構成が示され,さらに,一連の構造体が,ボックス構造の土台部分と,土台部分から立ち上げられた一側面が空気迂回区111に接続される空気排出室12と,土台部分から空気排出室12に隣り合わせて立ち上げられた箱状部と,この箱状部に形成され,アームの根元部分が固定される係止部とを有し,全体が一体のブロック体構造で,かつ土台部分と箱状部の内部に土台部分と箱状部間に略四角形状に連続する緩衝室13が形成され,空気排出室12にダイヤフラム20から送り出された空気を空気排出室12の出口から土台部分に沿って延び,緩衝室13に連通する空気チャンネル131が接続形成されて,緩衝室13の空気流入口が土台部分側に設けられるとともに,緩衝室13の空気出口が空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行であり,ダイヤフラム20およびアームを支持して,土台部分をハウジングの底面に当接して固定取り付けされた構成が示されていると共に,円形の外周面を有するポンプ体10を,空気取込室11と空気排出室12とに二分する縦方向の仕切壁により,空気排出室12の一側面及び外周面が半円形とされた構成が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「断面が枠状のハウジングと,電磁コイルと,この電磁コイルの電磁駆動により振動するマグネットを有するアームと,このアームが一側に設けられたダイヤフラム20とポンプ体10の上周縁の凸縁とバルブ15等からなる空気迂回区111と,空気迂回区111に接続され空気を緩衝させてから排気する一連の構造体とを備え,一連の構造体は,ボックス構造の土台部分と,土台部分から立ち上げられた半円形をした一側面が空気迂回区111に接続される半円形の外周面を有する空気排出室12と,土台部分から空気排出室12に隣り合わせて立ち上げられた箱状部と,この箱状部に形成され,アームの根元部分が固定される係止部とを有し,全体が一体のブロック体構造で,かつ土台部分と箱状部の内部に土台部分と箱状部間に略四角形状に連続する緩衝室13が形成され,空気排出室12に空気迂回区111から送り出された空気を空気排出室12の出口から土台部分に沿って延び,緩衝室13に連通する空気チャンネル131が接続形成されて,緩衝室13の空気流入口が土台部分側に設けられるとともに,緩衝室13の空気出口が空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行であり,空気迂回区111およびアームを支持すると共に,ダイヤフラム20の振動作用により空気がポンプの壁面等に衝突する際のノイズの静音効果が得られ,土台部分をハウジングの底面に当接して固定取り付けされ,緩衝室13に排気管14が設置されホースを介して空気を水槽に送るようにした空気ポンプ。」

(2)本件出願前に頒布された特開昭56-77582号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

a)「吸入室(6)の開口を塞ぐ部分のダイアフラム(1)がその中央部にセンタープレート(21)を介して連結された駆動桿(12)によつて振動して,吸入口(13)から吸引する空気を吸入室(6)より吸入弁(4)を通して空気圧縮室(3)に吸い込んでは,これを圧縮して吐出弁(5)より吐出室(7)に吐き出し,吐出口(14)(注:「(16)」は誤記)を通して外部へ圧縮空気を送り出すものである。」(3頁左上欄15行?同頁右上欄1行)

b)「本発明の空気圧縮機(A)は,第10図に示すようなハウジング(70)内に収容され,例えば,汚水浄化処理槽に組み込まれる曝気用のエアーポンプとして使用されるものであつて,図に示すように,・・・空気を吸入口(13)より空気圧縮機(A)に引込んでは,これを圧縮して吐出口(14)より吐出し,吐出ノズル(73)に接続されるホース(図示せず)に圧縮空気を送り込むものである。」(4頁左下欄7行?16行)

c)第2図には,駆動桿(12)により振動するダイアフラム(1)と吸入弁(4)と吐出弁(5)と圧縮ケース(2)等で囲まれた空気圧縮室(3)を有すると共に,吐出室(7)に空気圧縮室(3)から送り出された空気を受け入れる空気取込口を有する筒状の吐出口(14)が形成された空気圧縮機の構成が示されており,また,第10図には,空気圧縮機の筒状の吐出口(14)がハウジング(70)のベース部に向けて延び,ベース部から略L字形に連続する空間に連通する空気通路として形成されており,該空間の空気流入口がベース部側に設けられ,空気出口となる吐出ノズル(73)が該空間の上部に設けられると共に,該空間に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けられ,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている構成とした空気圧縮機のエアーポンプとしての使用例が示されている。

3)対比・判断
(1)対比
訂正発明1と引用発明とを対比すると,後者における「断面が枠状のハウジング」は前者における「筐体であるハウジング」に相当し,以下同様に,「電磁コイル」は「電磁駆動機構」に,「電磁駆動により振動する」は「電磁作用によって往復運動する」に,それぞれ相当している。
そして,後者の「空気迂回区111」は,ダイヤフラム20の往復運動により収縮・膨張して,空気を吸入・排出することは明らかであり,一方,前者の「ダイヤフラム」は,「ダイヤフラムによる空気の吸入,吐出動作」がなされるものであると共に,本件訂正明細書の段落【0008】の「ダイヤフラム18は外力によって収縮,膨張する内部が中空のゴム,革,強化処理された紙,或いはプラスチックなどの弾性材料から構成されるとともに弁機構を有しており」と記載されているところから,弁機構を有し,外力によって収縮,膨張する構成のものであると解されるから,後者の「アームが一側に設けられたダイヤフラム20とポンプ体10の上周縁の凸縁とバルブ15等からなる空気迂回区111」は前者の「アームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラム」に相当し,後者の「空気迂回区111に接続され空気を緩衝させてから排気する一連の構造体」は前者の「ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え,吐出するタンク部材」に相当する。
さらに,後者の「ボックス構造の土台部分」は前者の「土台となるボックス構造のベース部」に相当し,これを踏まえれば,後者の「土台部分から立ち上げられた半円形をした一側面が空気迂回区111に接続される半円形の外周面を有する空気排出室12」と前者の「ベース部から立ち上げられた円形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する円形の外周面を有するダイヤフラム接合部」とは,「ベース部から立ち上げられた所定の形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する所定の形の外周面を有するダイヤフラム接合部」との概念で共通し,後者の「土台部分から空気排出室12に隣り合わせて立ち上げられた箱状部」は前者の「ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部」に相当しているといえる。
また,後者の「土台部分と箱状部の内部に土台部分と箱状部間に略四角形状に連続する緩衝室13が形成され」た態様と前者の「ベース部及び柱状部の内部にこの両者間に,内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する空気滞留室が形成され」た態様とは,「ベース部及び柱状部の内部にこの両者間に,所定形状に連続する空気滞留室が形成され」たとの概念で共通し,後者の「空気排出室12に空気迂回区111から送り出された空気を空気排出室12の出口から土台部分に沿って延び,緩衝室13に連通する空気チャンネル131が接続形成され」た態様と前者の「ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口からベース部に向けて延び,空気滞留室に連通する空気通路を形成され」た態様とは,「ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口から延び,空気滞留室に連通する空気通路を形成され」たとの概念で共通し,後者の「緩衝室13の空気出口が空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ」た態様と前者の「空気滞留室の空気出口が柱状部の上部に設けられ」た態様とは,「空気滞留室の空気出口が柱状部の所定部に設けられ」たとの概念で共通している。
加えて,後者の「空気迂回区111およびアームを支持すると共に,ダイヤフラム20の振動作用により空気がポンプの壁面等に衝突する際のノイズの静音効果が得られ」ることは前者の「ダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能とダイヤフラムによる空気の吸入,吐出動作に際して発生する音を軽減する機能とを合わせ持って」いる態様に相当し,後者の「緩衝室13に排気管14が設置されホースを介して空気を水槽に送る」態様は前者の「タンク部材の空気出口に空気供給用のホースが接続される」態様に相当し,後者の「空気ポンプ」は前者の「エアー・ポンプ」に相当している。

したがって,両者は,
「筐体であるハウジングと,電磁駆動機構と,この電磁駆動機構の電磁作用によって往復運動するマグネットを有するアームと,このアームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラムと,ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え,吐出するタンク部材とを備え,タンク部材は,土台となるボックス構造のベース部と,ベース部から立ち上げられた所定の形をした一側面がダイヤフラムの空気排出部に対接する所定の形の外周面を有するダイヤフラム接合部と,ベース部からダイヤフラム接合部に隣り合わせて立ち上げられたボックス構造の柱状部と,この柱状部に形成され,アームの根元部分が固定される係止部とを有し,全体が一体のブロック体構造で,かつベース部及び柱状部の内部にこの両者間に,所定形状に連続する空気滞留室が形成され,ダイヤフラム接合部にダイヤフラムから送り出された空気を受け入れる空気取込口から延び,空気滞留室に連通する空気通路を形成されて,空気滞留室の空気流入口がベース部側に設けられるとともに,空気滞留室の空気出口が柱状部の所定部に設けられ,ダイヤフラムおよびアームの支持台としての機能とダイヤフラムによる空気の吸入,吐出動作に際して発生する音を軽減する機能とを合わせ持って,ベース部をハウジングの底面に当接して固定取り付けされ,タンク部材の空気出口に空気供給用のホースが接続されるエアー・ポンプ。」
である点で一致し,次の点で相違している。

[相違点1]
ダイヤフラム接合部の一側面及び外周面の「所定の形」に関し,訂正発明1が,「円形」であるのに対し,引用発明は,「半円形」である点。
[相違点2]
ベース部及び柱状部の両者間に連続する空気滞留室の「所定形状」に関し,訂正発明1が,「内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形」としているのに対し,引用発明は,「略四角形状」である点。
[相違点3]
空気滞留室に連通する空気通路の延在方向に関し,訂正発明1が,「ベース部に向けて」延びるとしているのに対し,引用発明は,「ベース部(土台部分)に沿って」延びている点。
[相違点4]
空気滞留室の空気出口が設けられた柱状部の所定部に関し,訂正発明1が,「上部」としているのに対し,引用発明は,「中程」である点。

(2)判断
上記の各相違点について以下検討する。

・相違点1ないし4について
相違点1ないし4に係る訂正発明1の構成の技術的意義について検討する。
本件訂正明細書の段落【0006】には「タンク部材の中には,或る一定の容量の空気滞留室が形成されているので,このタンク部材に送られた空気は一時的に空気滞留室内に蓄えられ,その後出口からホースへと入る。このため,ダイヤフラムにおける空気の吸入,吐出動作に際して発生した音は,タンク部材によって消されるかまたは大幅に低下せしめられる。」と記載され,同段落【0015】には「ダイヤフラム18から排出された空気はタンク部材19の空気取込口27からタンク部材19へ取り込まれ,空気通路28を通って垂直方向下方へ流れ,先ず空気滞留室23のベース部20側部分へと流れ込む。そして,空気は一時的に前記空気滞留室23内に蓄えられる。この空気滞留室23へダイヤフラム18から次々と空気が送り込まれて来ることにより,空気滞留室23からは柱状部22の上端部に設けられたノズル部24の空気出口25を通して空気が水平方向へ吐き出される。」と記載され,同段落【0016】には「このとき,空気通路28の径に対して空気滞留室23の容積が極めて大きいためにダイヤフラム18の作動によって発生した音は大幅に軽減せしめられる。しかも,タンク部材19に取り込まれた空気はベース部20において空気滞留室23へ流れ込み,この流入位置から離れた柱状部22の上端部から吐き出されることと,空気が空気滞留室23へ流入する時とここから流出する時との空気の流れ方向が直角の向きに異なっていることとが相俟って,前記音の軽減効果はより一層促進される。」と記載され,同段落【0017】には「エアーポンプの動作時に,ダイヤフラムによる空気の吸入,吐出動作に際して発生した音は,空気滞留室の容積により大幅に軽減され,さらに空気滞留室による空気の流入位置と流出位置,さらに空気の流れる方向によって音の軽減効果はより一層促進されて,当該音は消されかまたは大幅に低下せしめられて,水槽へ静かな空気供給を行なうことができる。さらに,空気滞留室が,内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した略L字形に連続する構造であるから,この内側角部においては,一種の面取り効果(直角のコーナーを内側へ切り落とす効果)が得られ,直角形状のL字形に比べて,空気滞留室の容積を拡大させる効果が得られる。」と記載されている。
これらの記載によれば,相違点1ないし4に係る訂正発明1の構成の技術的意義は,空気通路の径に対してその容積が極めて大きい空気滞留室に空気が一時的に蓄えられることにより,ダイヤフラムによる空気の吸入,吐出動作に際して発生した音が大幅に軽減されることが前提であると共に,空気滞留室中での空気の流入位置と流出位置が異なること,及び,空気の流れる方向を異ならせることで音の軽減効果をより一層促進することにあるものと解される。
なお,相違点1及び2に係る訂正発明1の構成のうち,ダイヤフラム接合部の一側面及び外周面を「円形」とし,空気滞留室について,「内側角部がダイヤフラム接合部の円形の外周面に沿って画成され緩やかに湾曲した」形状とすることの技術的意義は,本件訂正明細書には「一種の面取り効果(直角のコーナーを内側へ切り落とす効果)が得られ,直角形状のL字形に比べて,空気滞留室の容積を拡大させる効果がある」旨記載されている。
しかし,空気滞留室の容積が大きいほど音の軽減効果が高まることは,引用例1(上記「2)(1)f)」の「緩衝室の容積を空気取込室および空気排出室の容積より大きくすることにより,空気取込室中の空気の圧力と同じな空気排出室中の空気が緩衝室に流れるとき,圧力が小さくなり,流動速度が緩和される。」等を参照。)にも記載されるように普通に知られた事項であり,音の軽減を目的とした引用発明において,緩衝室(空気滞留室)の容積を大きくすることについての要請は内在するものといえるとともに,直角のコーナーを内側へ切り落とした形状のものが,直角形状のL字形に比べて,空気滞留室の容積を拡大させる効果があることは,その構成自体から自明な効果に過ぎず,しかも一般に,空きスペースの有効活用は,当業者が適宜考慮すべき事項であるといえるから,上記の形状は,適宜設計変更可能な範囲のものというべきである。

一方,上記「2)(1)」の「a)」,「e)」及び「f)」の各記載事項によれば,引用発明において,音の軽減は,空気の排気速度と排気圧力を緩和することのできる(即ち,空気が一時的に蓄えられる)容積の大きい空気滞留室(緩衝室)により実現されるものと解される。
また,引用発明において,空気滞留室の空気出口が土台部分側に設けられた空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行の関係にあることから,空気滞留室中での空気の流入位置と流出位置が異なり,空気滞留室中で空気流入口からの空気の流れ方向が空気出口側の壁により一旦変えられた後,さらに,空気出口からの空気の流出方向が空気流入口からの空気の流入方向に対して平行であるように変えられることになるものであると解されるから,引用発明においても,訂正発明1と同様に,空気滞留室中での空気の流入位置と流出位置が異なること,及び,空気の流れる方向を異ならせることで音の軽減効果をより一層促進することができるといえる。

そうすると,空気滞留室,空気通路及び空気出口に関する上記相違点1ないし4は,同様の効果を生じさせるための,単なる形状及び配置構成の相違にすぎず,空気滞留室の形状については適宜設計変更可能なものであり,また,空気通路及び空気出口の配置構成についても特別のものとはいえない(引用例2に開示された,ベース部から略L字形に連続する空間に連通する空気通路をベース部に向けて延びるように形成し,空気出口を空気滞留室の上部に設ける構成としたエアーポンプ参照。)から,引用発明において,上記相違点2ないし4に係る訂正発明1の構成とすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべきである。

そして,訂正発明1の全体構成により奏される効果も,引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,訂正発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというべきである。

4)請求人の意見書における主張について
請求人は平成21年10月14日付けの意見書において,次のような主張をしているので,これらについて検討する。
(1)請求人は,引用発明の「一連の構造体」は「全体が一体のブロック体構造」ではないから,引用発明の認定は誤りである旨主張する。すなわち,上記「一連の構造体」は,土台部分としてボックス構造をしておらず,かつこの土台部分はハウジングの側壁により形成されているから,独立体(全体が一体)を構成することはできず「半独立体」ともいうべき構造体である旨主張する(意見書4頁6行?5頁6行)。
しかし,引用発明の土台部分は,第1,2図からみて,内部に空気チャンネル131を有するボックス構造といえる。また,空気排出室12及び箱状部は共に土台部分から立ち上げられて設けられ,箱状部にはアームの係止部が一体的に設けられているから,「ボックス構造体の土台部分」,「空気排出室12」,「箱状部」及び「係止部」からなる「一連の構造体」は,「全体が一体のブロック体構造」であるといえる。
なお,請求人は,本件特許に係る侵害訴訟において,引用発明の土台部分がボックス構造であることを認めている(平成19年(ワ)第26898号,平成20年12月3日判決言渡,判決文の36頁7行「c 原告らの主張 (b)」等を参照。)。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。
(2)請求人は,また,上記(1)と同様,引用発明の「一連の構造体」は「全体が一体のブロック体構造」ではないから,引用発明の「空気迂回区111に接続された空気を緩衝させてから排気する一連の構造体」は訂正発明1の「ダイヤフラムに接続され空気を一時的に蓄え,吐出するタンク部材」に相当するとの対比は誤りである旨主張する(意見書5頁9?13行)。
しかし,引用発明の「一連の構造体」が「全体が一体のブロック体構造」といえることは上記(1)のとおりであるから,請求人の上記主張は採用できない。
(3)請求人は,さらに,引用発明の緩衝室13と訂正発明1の空気滞留室23とは,空気の流れが全く別の作用をするから,両者が「空気滞留室」という概念で共通するとの認定は誤りである旨主張する。
すなわち,(ア)引用発明において,緩衝室13の第1区画室[13a](注;[]内の符号は,請求人が意見書に添付した参考資料の図面に請求人が独自に記載した符号を示す。以下同じ。)はその底部を除いて開放部分のない閉空間であり,しかも空気流入口(チャンネル131)と空気流出口(間隙[133])は底部壁面[134]に沿って形成されているから,「コアンダ効果」(参考資料「『機械工学便覧』,1987年新版,A5-64?67を参照)により,チャンネル131から排出された空気の全部は第1区画室[13a]に流入せず,第1区画室に蓄えられることもなく,強い直進性を維持したまま第2区画室[13b]に流入する。したがって,緩衝室13には,空気を蓄え,その蓄えられた空気を順次吐き出させる領域が存在せず,訂正発明1の「空気滞留室」とは全く別の作用をなすものである。(イ)また,訂正発明1は,ダイヤフラムの作動により発生する音の伝達防止を目的としているのに対し,引用発明は,ダイヤフラムより下流側の空気流路における空気と管壁との快速摩擦により生じたノイズ低減を目的としている点で相違する。そして,引用発明は,上記目的のもと,緩衝室13を設けて空気の流動速度の緩和を図るとともに,ポンプ体壁面を柔軟な材料で被覆したり,緩衝室に綿製空気透過パッドを設ける等して空気の摩擦音や衝突音を消音するものであるから,訂正発明1と引用発明とは別の技術思想である旨主張する(意見書第5頁第14行?第12頁第14行)。
そこで,請求人の上記主張を検討すると,(ア)引用発明において,チャンネル131が底部壁面に沿って形成されていても,チャンネルから緩衝室13に流入した空気は,狭い流路からより広い断面積をもつ空間内に流入するのであるから,空気が全て直進するわけではなく,少なくともその一部は引用例1の第2図の矢印で示されるように第1区画室[13a]内にも流入し,空気流が減速するものと解される。(空気の流動速度が緩和されることは,請求人も認めている(意見書の第9頁第2?3行)。)そうであれば,緩衝室13は空気を蓄え,その蓄えられた空気を吐出する作用を奏しているということができる。したがって,この点で引用発明の緩衝室と訂正発明1の空気滞留室とは共通の作用・機能を奏するものである。(イ)また,引用発明がポンプ体壁面を柔軟な材料で被覆したり,緩衝室に綿製空気透過パッドを設けていても,上記のとおり緩衝室が訂正発明の空気滞留室と共通の作用・機能を奏することと矛盾するものではなく,音の低減効果をより高める手段を採用したということができるのであり,引用発明と訂正発明1とは類似ないし同一の技術思想と解すべきである。したがって,請求人の上記主張は採用できない。
(4)請求人は,加えて,「その他の検討事項」として,引用発明と訂正発明1との対比・判断に関して,対比認定が正確でない点がいくつかある旨主張する。
例えば,引用発明の「アームが一側に設けられたダイヤフラム20とポンプ体10の上周縁の凸縁とバルブ15等からなる空気迂回区111」は訂正発明1の「アームによって作動せしめられ空気を吸入するダイヤフラム」に相当するとの認定は正確でない旨主張する。
しかし,この点について,請求人は前記「関連無効審判事件」の第1回口頭審理において,両者が相当関係にあることを実質的に認めている(同無効審判事件の第1回口頭審理調書の「4 本件発明1と甲1発明との対比について ア.」を参照)。したがって,この点は訂正発明1の進歩性の判断を左右する程度の主張とは認められない。
また,その他の点についても,対比認定が正確でないことをいうものであって,引用発明と訂正発明1との各構成の相当関係自体を否定するものではないから,訂正発明の進歩性の判断に影響するものではない。

したがって,請求人の主張は,いずれも採用することができない。

5)むすび
以上のとおりであるから,訂正発明1は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6-3)訂正発明2について
上記のとおり,訂正発明1は,独立特許要件を欠くものであるから,本件訂正を認めることはできないというべきであるが,念のために,本件訂正明細書の請求項2に係る発明(以下「訂正発明2」という。)の独立特許要件についても検討しておく。
ア 対比
訂正発明2は,訂正発明1にさらに,「空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けられ,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている」との配置構成を限定付加したものである。
そこで,訂正発明2と引用発明とを対比すると,引用発明の「緩衝室13の空気出口が空気流入口とは互いに離れた位置で箱状部の中程に設けられ,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行であり」とした配置構成と訂正発明2の上記限定付加した配置構成とは,「空気滞留室に空気流入口と空気出口とは互いに離れた位置に設けられ,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が所定方向に向けられている」との概念で共通している。
そうすると,訂正発明2と引用発明とを対比した際の相違点は,上記「3)(1)」で述べた相違点1ないし4に,さらに次の相違点5が加えられることとなる。
[相違点5]
空気滞留室の空気の流入方向に対する空気の流出方向の関係が,訂正発明2では「直角」であるのに対し,引用発明では,「平行」である点。

イ 判断
相違点1ないし4については,上記「3)(2)」で既に検討したとおりである。
そこで,相違点5について以下検討する。
訂正発明2において,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている配置構成としたことの技術的意義は,特許明細書の段落【0016】及び【0017】の記載によれば,空気滞留室中での空気の流れる方向を異ならせることで音の軽減効果をより一層促進することにあるものと解される。
一方,引用発明は,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が平行に向けられている配置構成ではあるものの,空気滞留室中での空気の流れる方向を異ならせることで音の軽減効果をより一層促進することができるのは,上記「3)(2)」で既に述べたとおりである。
そうすると,上記相違点5は,同様の効果を生じさせるための,単なる配置構成の相違にすぎず,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている配置構成も特別のものとはいえない(引用例2に開示された,空気流入口からの空気の流入方向に対して空気出口からの空気の流出方向が直角に向けられている構成としたエアーポンプ参照。)から,引用発明において,上記相違点5に係る訂正発明2の構成とすることは,当業者が適宜改変し得る設計的事項にすぎないというべきである。

そして,訂正発明2の全体構成により奏される効果も,引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,訂正発明2は,上記「(6-2)」での検討を踏まえれば,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというべきである。

7.むすび
以上のとおりであるから,本件訂正事項1ないし3は,平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に適合しないので,当該訂正事項を含む本件訂正は認められない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-25 
結審通知日 2009-11-27 
審決日 2009-12-08 
出願番号 特願平6-3185
審決分類 P 1 41・ 121- Z (F04B)
P 1 41・ 856- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 貴雄  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 仁木 浩
片岡 弘之
小川 恭司
田良島 潔
登録日 2003-02-21 
登録番号 特許第3400515号(P3400515)
発明の名称 エアー・ポンプ  
代理人 牛久保 美香  
代理人 酒井 一  
代理人 酒井 一  
代理人 蔵合 正博  
代理人 牛久保 美香  
代理人 谷 眞人  
代理人 谷 眞人  
代理人 蔵合 正博  

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