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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A47J
管理番号 1211281
審判番号 不服2008-18435  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-18 
確定日 2010-02-05 
事件の表示 特願2003-553875「自己制御式誘導子を備えた食品調理装置または食品暖め装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月26日国際公開、WO03/53104、平成17年 5月12日国内公表、特表2005-512652〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2002年12月13日(パリ条約による優先権主張2001年12月14日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年1月16日付けで手続補正がなされ、平成20年4月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成20年1月16日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1の記載は以下のとおりである。
「食品暖め装置であって、水を入れる容器と誘導子を有していて、前記誘導子は前記水を入れる容器の底の一部を形成しているかまたは水を入れる容器の底に接触しているかまたは水を入れる容器の底に間隔をおいて近接していて、前記誘導子は選択されたキュリー温度を有するNi-Fe合金からなり、それにより、前記誘導子が誘導加熱装置の作用を受けたときに、水の沸点に近いがしかしその沸点を超えない温度まで誘導子が水を加熱することを特徴とする装置。」(以下、請求項1に記載の発明を「本願発明」という。)

第3.引用例

○引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭53-116482号(実開昭55-33456号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、「誘導加熱装置用容器」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア、実用新案登録請求の範囲
「透磁率がキューリ点付近で変化する材質で構成され、この透磁率の変化を利用して容器自体の温度制御を行なうようにした誘導加熱装置用容器。」

イ.公報第2頁第9行?第3頁第3行
「本考案は誘導加熱に使用する容器に係り、この容器自体を一定温度に保つよう温度制御する場合に、その温度にキューリ点を有する材料を使用することにより)、キューリ点で透磁率μが急激に低下することにより、容器の消費電力が低下し、容器の温度が一定に保たれると共に、温度の過昇防止になり、安全性を高めることを目的とするものである。
第1図は本考案の誘導加熱装置用容器の適用例を示し、1は容器、2は容器を載せる支持板、3は誘導加熱用コイルである。容器1の材質として、キューリ点を有するものを用いることにより、第2図に示すごとく、ある温度以上になると透磁率μは急激に低下し、それ以降は誘導加熱されても温度上昇せず、ある一定の温度に保たれる。」

ウ.公報第4頁第1行?第5頁第2行
「本考案の一実施例として誘導加熱用天ぷら鍋の場合を説明すると、誘導加熱用の天ぷら鍋は、油の温度を180℃に制御しなければならない。そこで、180℃にキュ-リ点を有する32Ni-68Fe合金を鍋の材質として使用すると、鍋材の透磁率の変化により自動的に180℃に温度が保たれる。」

エ.公報第5頁第3行?第5頁第11行
「次に、本考案による効果について説明する。
従来の誘導加熱装置に使用する容器の温度制御は、誘導加熱装置の容器に加わる磁束密度や周波数等を変化させて、容器の消費電力を制御していたが、本考案によれば磁束密度や周波数等により温度制御する必要がなく、誘導加熱装置容器の材質を制御温度にキュ一リ点を有する材質を用いることにより、容易に温度制御を行なうことができる。」

オ.公報第4頁の表
120℃のキューリ点を有するFe-Ni-Cr系材質の5Cr,42Ni,2.5Ti,0.8Al,残Feからなる合金を始めとして、120℃から980℃まで、種々のキューリ点を有する合金が示されている。

以上によれば、引用例1には、
「誘導加熱装置用の容器であって、容器が、透磁率がキューリ点付近で変化するNi-Fe合金で構成され、この透磁率の変化を利用して容器自体の温度制御を行なう誘導加熱装置用の容器。」
との発明(以下、「引用例1発明」という。)が開示されていると認められる。

○引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-283154号公報(以下、「引用例2」という。)には、「電磁用調理鍋、板」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.【特許請求の範囲】【請求項1】
「電磁誘導加熱に使用する金属製鍋の底面にパーマロイを配設してなり、かつ該パーマロイがそのキュリー点を調理温度に適応させて温度調節されてなる電磁用調理鍋。」

イ.段落【0003】?【0005】
「電磁調理器で磁性体の金属鍋が加熱されることは、一般的によく知られており、専用鍋も数種類市販されている。鍋の材料もそれぞれのキュリー点を持っているが700?800℃と高く調理に適した温度ではない。パーマロイはニッケルの含有量を加減することによりキュリー点を変化させることができ、調理温度に適したパーマロイが製作できる。又一般にトランス用コアー材として販売されているパーマロイ(JIS C2531PD)も鍋底との接合度合いを考慮すれば調理用として使用でき、一定の調理温度を保持することができる。
【発明が解決しようとする課題】
本発明は温度調節器を使用せず調理温度の正確な管理を行い、かつ鍋自体の温度を制御することにより火災を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため本発明は 電磁誘導加熱に使用する金属製鍋の底面にパーマロイを配設してなり、かつ該パーマロイがそのキュリー点を調理温度に適応させて温度調節されてなる電磁用調理鍋」

ウ.段落【0008】
「【実施例】
市販の鉄板又は鉄鍋1にパーマロイ2を鍋底面に配設する(図1)。配設例としてスポット溶接3を用い、調理温度になるようスポット位置とスポット溶接3の数を設定する。」

エ.図2
図2の記載によれば、鍋1の底面にスポット溶接3を介してパーマロイ2の板が、間隔tを空けて取り付けられている点が示されている。

以上によれば、引用例2には、
「電磁調理用鍋の底に、間隔をおいて誘導加熱の誘導子を取り付けること。」
との発明(以下、「引用例2発明」という。)が開示されていると認められる。

第4.対比・判断
本願発明と引用例1発明とを比較すると、引用例記載の「キューリ点」が、本願発明の「キュリー温度」に相当するのは明らかである。
そして、引用例1発明の容器が鍋であることは明らかであって、鍋である以上、水や食品を入れて加熱すれば、鍋内の水や食品が加熱されるのは自明な事項であり、また、引用例1発明の容器が、誘導加熱装置の誘導子を兼ねていることも自明である。
さらに、引用例1発明の容器は鍋であり、本願発明が対象とするような水を加熱してその熱により食品を暖める「食品暖め装置(暖め皿、chafing dish)」ではないものの、食品を暖めるための装置である限りにおいては一致している。

してみれば、両者の一致点は以下のとおりである。

<一致点>
「食品を暖めるための装置であって、容器と誘導子を有していて、前記誘導子は選択されたキュリー温度を有するNi-Fe合金からなり、それにより、前記誘導子が誘導加熱装置の作用を受けたときに、誘導子が水を加熱することを特徴とする装置。」

そして、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願発明は、「食品暖め装置であって、水を入れる容器」を有しているのに対して、引用例1発明は、天ぷら鍋のような食品を加熱する容器である点


<相違点2>
本願発明は、誘導子は「容器の底の一部を形成しているかまたは」、「容器の底に接触しているかまたは」、「容器の底に間隔をおいて近接して」いるのに対して、引用例1発明は、容器全体が誘導子である点。

<相違点3>
本願発明は、「水の沸点に近いがしかしその沸点を超えない温度まで誘導子が水を加熱する」のに対して、引用例1発明はそうではない点。

<相違点1>及び<相違点3>について検討する。
引用例1発明も、その容器内に水だけではなく食品を入れて加熱・調理し、それを保温することに利用できるのは自明のことである、そして、調理済み食品を冷めないように保温するために、容器に湯を入れ、その湯の熱で食品を保温する食品暖め装置は、当業者にとって例示するまでもなく周知のものである。なお、必要ならば、実願昭58-131570号(実開昭60-40229号)のマイクロフィルム記載の「保温器」、実願昭59-67222号(実開昭60-179238号)のマイクロフィルム記載の「保温器具」参照。
してみれば、上記相違点1に係る構成の違いは、引用例発明を上記周知の食品暖め装置に適用したにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、これらの食品暖め装置の使用に当たって、保温用の湯を沸騰させないのは、このような食品暖め装置を製造する者にとって周知の事項であるとともに、このような食品暖め装置を使用する者にとっても常識的な事項である。
そして、沸騰しない温度にまで水を加熱するに当たって、水の沸点以下に対応するキュリー温度を示す材料を用いた点についてみても、そのような材料は公然知られたものであるから、この点は、単なる材料の選択にすぎないものである。
してみれば、上記相違点3に係る構成の違いも、引用例発明に上記周知事項を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点2>について検討する。
引用例2発明の鍋は、調理用容器にほかならない。
してみれば、引用例2発明は、「誘導子は容器の底に間隔をおいて近接して」いるものであり、相違点2に係る本願発明の構成は引用例2発明に示されているということができ、誘導加熱用の容器である点でも、引用例1発明と引用例2発明は共通しているから、これらを組み合わせるにあたっての阻害要因があるとすることもできない。
してみれば、相違点2に係る構成の違いは、引用例1発明に引用例2発明を組み合わせたにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

作用ないし効果について
本願発明の作用ないし効果も各引用例発明、及び周知事項から当業者が予想できる範囲のものである。

第5.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例1発明、引用例2発明、及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は、その余の請求項に係る発明について見るまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2009-09-10 
結審通知日 2009-09-11 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2003-553875(P2003-553875)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A47J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 氏原 康宏  
特許庁審判長 小椋 正幸
特許庁審判官 佐々木 一浩
菅澤 洋二
発明の名称 自己制御式誘導子を備えた食品調理装置または食品暖め装置  
代理人 小林 泰  
代理人 社本 一夫  
代理人 富田 博行  
代理人 小野 新次郎  
代理人 千葉 昭男  
代理人 田上 靖子  

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