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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1213906
審判番号 不服2008-21272  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-20 
確定日 2010-03-23 
事件の表示 特願2002- 6050「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月22日出願公開、特開2003-205138〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第一.手続の経緯
本願は、平成14年1月15日の出願であって、拒絶理由通知に対応して平成20年6月26日に手続補正書が提出され、その後なされた拒絶査定に対し、平成20年8月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
また、当審において、平成21年7月8日付けで審査官による前置報告書の内容を添付して審尋を行い、請求人から平成21年8月26日に回答書が提出されている。

第二.平成20年8月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年8月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により補正された補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)は次のとおりである。
「 識別情報を変動表示可能な表示装置と、
前記識別情報の変動表示を開始させる契機となる入賞口と、該入賞口への遊技球の入球によって、前記識別情報の変動表示を開始させる始動権利を所定の上限値まで計数記憶するとともに、前記識別情報の変動表示を開始させる毎に計数値を減算する始動権利数記憶手段と、
前記識別情報の変動表示が開始してから前記識別情報の表示結果が確定表示されるまでの変動時間が異なる複数の変動パターンを記憶するとともに、前記表示装置に確定表示される表示結果が所定の確率に基づいて予め定められた特定表示結果になる通常確率モードから、前記特定表示結果になる確率が前記通常確率モードよりも向上する特別確率モードに変更制御可能であって、前記特定表示結果になった場合に、遊技者にとって有利な遊技状態に制御可能な制御手段とを有する遊技機であって、
前記特別確率モード期間中で、かつ前記複数の変動パターンのうち最も長い変動時間が設定された変動パターンが選択された場合には、前記選択された変動パターンに基づく前記識別情報の変動表示中に、前記識別情報の変動表示時間の残り時間を前記表示装置に表示し、変動表示時間が経過した時点で、前記表示装置に前記識別情報を確定表示させる表示制御手段を備え、
前記制御手段は、前記特別確率モード期間中、前記複数の変動パターンのうち最も長い変動時間が設定された前記変動パターンを選択した場合には、前記選択した変動パターンに基づく前記識別情報の変動表示期間中で、かつ前記表示装置に前記識別情報の変動表示時間の残り時間が表示されている期間中、前記始動権利数記憶手段における前記上限値を予め定めた第1上限値から前記第1上限値を超過した第2上限値まで増大させることを特徴とする遊技機。」
(下線部は補正によって変更又は追加された箇所。)

2.補正要件(目的)の検討
請求項1についての補正は、発明を特定するために必要な事項である、「変動表示時間」に「識別情報の」を付加する補正、及び「予め定めた第1上限値から前記第1上限値を超過した第2上限値まで増大させる」タイミングについて「かつ前記表示装置に前記識別情報の変動表示時間の残り時間が表示されている期間中」をさらに付加する補正である。
してみると、前記各補正は、補正前の各発明特定事項を限定する補正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に相当する。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に該当する。

3.補正要件(独立特許要件:特許法第29条第2項)の検討
(1)引用刊行物記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、特開2001-62074号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。
【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、パチンコ機、アレンジボール機、雀球遊技機等の弾球遊技機に関するものである。
【0012】特別図柄表示手段26は、1個又は複数個、例えば左右方向に3個の特別図柄を表示し、特別図柄始動手段14が遊技球を検出することを条件に、各特別図柄が乱数制御により所定時間だけ変動して停止するように構成されている。・・・
【0022】37は第2乱数発生手段で、特別図柄表示手段26の特別図柄の制御に関連する特別遊技状態決定用乱数、リーチパターン決定用乱数、停止図柄決定用乱数等の所定の乱数を繰り返し発生するようになっており、例えば特別図柄表示手段26の停止図柄が大当たり図柄となる大当たり発生確率が1/300の場合には、0?299の大当たり・外れ決定用乱数等を発生する。
【0023】38は特別図柄変動制御手段で、特別図柄始動手段14が遊技球を検出することを条件に特別図柄表示手段26の特別図柄を変動させると共に、第2乱数発生手段37の発生乱数値を抽選して、変動開始から所定時間経過したときに、停止図柄決定用乱数値により決定された停止図柄で特別図柄表示手段26の特別図柄を停止させるためのものである。
【0024】39は第2保留球数記憶手段で、特別図柄表示手段26の特別図柄の変動中に特別図柄始動手段14が遊技球を検出したときに、その遊技球の保留球数を予め設定された上限保留個数内で記憶するものである。40は第2保留球数消化手段で、特別図柄表示手段26が変動動作を終了する毎に、その後に特別図柄表示手段26に第2保留球数記憶手段39の保留球数分の図柄変動を行わせるものである。
【0025】なお、この第2保留球数消化手段40は、特別図柄表示手段26が変動動作を終了する毎に、第2保留球数記憶手段39の記憶データを読み出して特別図柄表示手段26に図柄変動を行わせると共に、その図柄変動毎に第2保留球数記憶手段39の記憶データを減算するようになっている。
【0026】41は特別遊技状態発生手段で、特別図柄始動手段14が遊技球を検出したときの抽選乱数値が特別遊技状態設定乱数値のときに、その乱数処理により遊技者に有利な特別遊技状態(第2所定遊技状態)を発生させて、可変入賞手段15を閉状態から開状態に開放させるようになっている。
【0027】42は確率変動手段で、特別図柄表示手段26の変動動作後の停止図柄が大当たり図柄を表示する特別遊技状態の発生確率、即ち大当たり発生確率を通常の低確率状態(例えば1/300程度)と高確率状態(例えば(1/30程度)とに変動させるものである。この確率変動手段42は、所定遊技状態を達成する毎に低確率状態から高確率状態、又は高確率状態から低確率状態へと夫々大当たり発生確率を変動させるようになっている。
【0029】43は上限保留個数変化手段で、所定遊技状態の達成に基づいて、その遊技状態に応じて各保留球数記憶手段35,39 の上限保留個数を変化させるためのものである。この上限保留個数変化手段43は、例えば大当たり発生確率が低確率状態の通常遊技状態(低確率遊技状態)のときの上限保留個数を4個とし、また大当たり発生確率が高確率状態となった高確率遊技状態のときの上限保留個数を10個とする等、確率変動手段42の確率変動と同様の条件で特別遊技状態の終了後に、各保留球数記憶手段35,39 に設定される上限保留個数を増減させるようになっている。
【0032】44は上限保留個数変化報知手段で、上限保留個数変化手段43の動作状態を遊技者に報知するためのものである。この上限保留個数変化報知手段44は、例えばスピーカ10等により構成され、上限保留個数変化手段43が上限保留個数を変化(増減)させるときに報知音を発生させて、その動作状態を遊技者に報知するようになっている。なお、上限保留個数変化報知手段44には表示ランプ等を利用しても良いし、液晶表示ユニット22の表示領域の一部を利用しても良い。
【0041】特別図柄始動手段14が遊技球の入賞を検出すると、特別図柄変動制御手段38が第2乱数発生手段37の乱数値を抽選して、その乱数処理により特別図柄表示手段26の特別図柄を所定時間変動させる。このときの乱数値が大当たり乱数値であれば、特別図柄表示手段26の変動後の停止図柄は、「1・1・1」、「2・2・2」、「7・7・7」等のように全て一致した大当たり図柄を表示することになる。このとき特別図柄表示手段26の大当たり発生確率は、通常の低確率(例えば1/300程度)である。
【0042】そして、特別図柄表示手段26の図柄変動後の停止図柄が大当たり図柄を表示すると、特別遊技状態発生手段41が特別遊技条件の充足を判定して、可変入賞手段15の開閉板30を閉状態から開状態に変換する特別遊技状態が発生し、遊技者に有利な状態になる。これによって遊技盤3 の上部側から落下する遊技球の多くが開閉板30を経て可変入賞手段15に入賞し易くなり、一旦、特別遊技状態発生手段41による特別遊技状態が発生すれば、遊技者は多大な利益の還元を受けることとなる。
【0046】しかし、普通図柄始動手段16又は特別図柄始動手段14が5個以上の遊技球を検出しても、各保留球数記憶手段35,39 はその5個目以降を記憶しない。但し、特別図柄始動手段14は、開閉式入賞手段により構成されているので、この特別図柄始動手段14への入賞は通常の入賞として処理される。
【0061】以上、本発明の各実施形態を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせて併用しても良い。・・・
【0067】また保留球数記憶手段35,39 は、普通図柄表示手段23及び/又は特別図柄表示手段26の変動時間の長短で上限保留個数を変化させる場合に、変動時間が通常の長時間のときに保留球数(上限保留個数4個程度)の記憶を可能にし、短時間のときに保留球数の記憶を不能にするように構成しても良い。

摘記した上記の記載や図面等によれば、引用文献には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「 特別図柄を表示する特別図柄表示手段26と、
遊技球の入賞を検出すると、前記特別図柄表示手段26の特別図柄を所定時間変動させる特別図柄始動手段14と、
前記特別図柄表示手段26の特別図柄の変動中に前記特別図柄始動手段14が遊技球を検出したときに、その遊技球の保留球数を予め設定された上限保留個数内で記憶する第2保留球数記憶手段39と、
前記特別図柄表示手段26が変動動作を終了する毎に、前記第2保留球数記憶手段39の記憶データを読み出して前記特別図柄表示手段26に図柄変動を行わせると共に、その図柄変動毎に前記第2保留球数記憶手段39の記憶データを減算する第2保留球数消化手段40と、
リーチパターン決定用乱数、停止図柄決定用乱数等を繰り返し発生する第2乱数発生手段37と、
前記特別図柄表示手段26の変動動作後の停止図柄が大当たり図柄を表示する特別遊技状態の発生確率を通常の低確率状態と高確率状態とに変動させる確率変動手段42と、
前記特別図柄表示手段26の図柄変動後の停止図柄が前記大当たり図柄を表示すると、遊技者に有利な状態とする特別遊技状態発生手段41とを有する弾球遊技機であって、
前記特別図柄始動手段14が遊技球を検出することを条件に前記特別図柄表示手段26の特別図柄を変動させると共に、前記第2乱数発生手段37の発生乱数値を抽選して、変動開始から所定時間経過したときに、停止図柄決定用乱数値により決定された停止図柄で前記特別図柄表示手段26の特別図柄を停止させる特別図柄変動制御手段38を備え、
上限保留個数変化手段43は、前記低確率状態のときの前記上限保留個数を4個とし、また前記高確率状態のときの前記上限保留個数を10個とする弾球遊技機。」

(2)引用発明と本願補正発明との対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「特別図柄を表示する」は、本願補正発明の「識別情報を変動表示可能な」に相当し、以下同様に、
「特別図柄表示手段26」は「表示装置」に、
「予め設定された上限保留個数内で記憶する」は「所定の上限値まで計数記憶する」に、
「前記特別図柄表示手段26の変動動作後の停止図柄」は「前記表示装置に確定表示される表示結果」に、
「大当たり図柄を表示する」は「予め定められた特定表示結果になる」に、
「前記特別図柄表示手段26の図柄変動後の停止図柄が前記大当たり図柄を表示すると」は「前記特定表示結果になった場合に」に、
「遊技者に有利な状態とする」は「遊技者にとって有利な遊技状態に制御可能」に、
「弾球遊技機」は「遊技機」に、各々相当する。
さらに、引用文献の記載等からみて、以下のことが言える。

a.引用発明の「特別図柄始動手段14」は、遊技球の入賞を検出するものであり、摘記した引用文献の段落【0046】に「特別図柄始動手段14への入賞は通常の入賞として処理される」場合もある旨記載されていることからみて、本願補正発明の「入賞口」に相当する。
また、引用発明において、特別図柄始動手段14による遊技球の入賞検出が、特別図柄の変動を開始させる契機となっていることは明らかであるから、引用発明の「特別図柄始動手段14」は、本願補正発明の「識別情報の変動表示を開始させる契機となる」に相当する機能を有するものといえる。

b.本願補正発明においても、始動権利を計数記憶するのが識別情報の変動表示中であることは明らかであるから、引用発明の「前記特別図柄表示手段26の特別図柄の変動中に前記特別図柄始動手段14が遊技球を検出したときに」は、本願補正発明の「該入賞口への遊技球の入球によって」に相当する。
また、引用発明の「保留球数」は、本願補正発明の「前記識別情報の変動表示を開始させる始動権利」の数に相当するものといえる。
さらに、本願補正発明においても、識別情報の変動表示を開始させる前には変動表示を終了していることは明らかであるから、引用発明の「前記特別図柄表示手段26が変動動作を終了する毎に、前記第2保留球数記憶手段39の記憶データを読み出して前記特別図柄表示手段26に図柄変動を行わせる」は、本願補正発明の「前記識別情報の変動表示を開始させる」に相当し、そうであるならば、引用発明の「図柄変動毎に前記第2保留球数記憶手段39の記憶データを減算する」は、本願補正発明の「識別情報の変動表示を開始させる毎に計数値を減算する」に相当するものということができる。
よって、引用発明の「第2保留球数記憶手段39」及び「第2保留球数消化手段40」は合わせて、本願補正発明の「始動権利数記憶手段」に相当している。

c.引用発明の「第2乱数発生手段37」が「リーチパターン決定用乱数」を発生していることからみて、「リーチパターン」は複数あり、その中から一つの「リーチパターン」を決定していることが分かるので、引用発明が複数の「リーチパターン」を記憶していることは明らかである。
そして、引用発明の「リーチパターン」と本願補正発明の「変動パターン」は“変動表示パターン”である点で共通しているから、引用発明は本願補正発明と「複数の変動表示パターンを記憶する」点では共通している。

d.引用発明の「特別遊技状態の発生確率」、「通常の低確率状態」及び「高確率状態」は、それぞれ本願補正発明の「特定表示結果になる確率」、「通常確率モード」及び「特別確率モード」に相当しているので、引用発明が「特別遊技状態の発生確率を通常の低確率状態と高確率状態とに変動させる確率変動手段42」を有することは、本願補正発明の「前記特定表示結果になる確率が前記通常確率モードよりも向上する特別確率モードに変更制御可能」であることに相当する。
さらに、上記した相当関係を考慮すれば、引用発明の「確率変動手段42」及び「特別遊技状態発生手段41」は合わせて、本願補正発明の「制御手段」に相当するものということができる。

e.引用発明の「変動開始から所定時間経過したとき」及び「変動表示時間が経過した時点」は、それぞれ本願補正発明の「前記特別図柄表示手段26の特別図柄を停止させる」及び「前記表示装置に前記識別情報を確定表示させる」に相当するから、引用発明の「特別図柄変動制御手段38」と、本願補正発明の「表示制御手段」は、“変動表示時間が経過した時点で、表示装置に識別情報を確定表示させる変動表示制御手段”である点では共通しているといえる。

f.引用発明における、低確率状態のときの上限保留個数である「4個」及び高確率状態のときの上限保留個数である「10個」は、それぞれ本願補正発明における「予め定めた第1上限値」及び「第2上限値」に相当するとともに、引用発明の「高確率状態のとき」及び「前記上限保留個数」は、本願補正発明の「特別確率モード期間中」及び「始動権利数記憶手段における前記上限値」に相当するから、引用発明の「上限保留個数変化手段43」と、本願補正発明の「制御手段」は、“特別確率モード期間中、前記始動権利数記憶手段における前記上限値を予め定めた第1上限値から前記第1上限値を超過した第2上限値まで増大させる上限値変更手段”である点で共通しているといえる。

以上を総合すると、両者は、
「 識別情報を変動表示可能な表示装置と、前記識別情報の変動表示を開始させる契機となる入賞口と、該入賞口への遊技球の入球によって、前記識別情報の変動表示を開始させる始動権利を所定の上限値まで計数記憶するとともに、前記識別情報の変動表示を開始させる毎に計数値を減算する始動権利数記憶手段と、複数の変動パターンを記憶するとともに、前記表示装置に確定表示される表示結果が所定の確率に基づいて予め定められた特定表示結果になる通常確率モードから、前記特定表示結果になる確率が前記通常確率モードよりも向上する特別確率モードに変更制御可能であって、前記特定表示結果になった場合に、遊技者にとって有利な遊技状態に制御可能な制御手段とを有する遊技機であって、
変動表示時間が経過した時点で、前記表示装置に前記識別情報を確定表示させる変動表示制御手段を備え、
上限値変更手段は、特別確率モード期間中、前記始動権利数記憶手段における前記上限値を予め定めた第1上限値から前記第1上限値を超過した第2上限値まで増大させる遊技機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]“複数の変動表示パターン”に関して、本願補正発明の「複数の変動パターン」は「前記識別情報の変動表示が開始してから前記識別情報の表示結果が確定表示されるまでの変動時間が異なる」ものであるのに対し、引用発明の複数あると認められる「リーチパターン」はその変動がどのように異なるものか明らかでない点。

[相違点2]“変動表示制御手段”に関して、本願補正発明の「表示制御手段」は、「変動表示時間が経過した時点で、表示装置に識別情報を確定表示させる」だけでなく、「前記特別確率モード期間中で、かつ前記複数の変動パターンのうち最も長い変動時間が設定された変動パターンが選択された場合には、前記選択された変動パターンに基づく前記識別情報の変動表示中に、前記識別情報の変動表示時間の残り時間を前記表示装置に表示」するのに対し、引用発明の「特別図柄変動制御手段38」はそのような表示を行っていない点。

[相違点3]“上限値変更手段”が“前記始動権利数記憶手段における前記上限値を予め定めた第1上限値から前記第1上限値を超過した第2上限値まで増大させる”期間に関して、本願補正発明は「特別確率モード期間中」であるだけでなく、「前記複数の変動パターンのうち最も長い変動時間が設定された前記変動パターンを選択した場合には、前記選択した変動パターンに基づく前記識別情報の変動表示期間中で、かつ前記表示装置に前記識別情報の変動表示時間の残り時間が表示されている期間中」であるのに対し、引用発明は「高確率状態のとき」(本願補正発明における「特別確率モード期間中」に相当)である点。

(3)相違点の検討及び判断
[相違点1について]
複数のリーチパターンを、変動表示が開始してから前記識別情報の表示結果が確定表示されるまでの変動時間が異なるものとすることは、例えば、特開平8-196701号公報(特に、段落【0113】)や、特開平10-265号公報(特に、段落【0024】)に見られるように、従来遊技機の分野において周知の技術(以下「周知技術1」という。)であるから、引用発明の複数あると認められる「リーチパターン」を、特別図柄の変動開始から停止までの時間を異なるものとして、上記相違点1に係る本願補正発明のような構成とすることは、遊技機の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に想到し得る。

[相違点2について]
複数のリーチパターンのうち、特定のリーチパターンとなったとき、図柄の変動表示中に、図柄の変動表示時間の残り時間を表示装置に表示することは、例えば、特開平10-265号公報(特に、段落【0027】)、特開平11-9761号公報(特に、段落【0076】)、特開2001-87452号公報(特に、段落【0073】)に見られるように、従来遊技機の分野において周知の技術(以下「周知技術2」という。)であって、特定のリーチパターンを最も長い変動時間が設定されたリーチパターンとすることも、当業者が適宜選択し得る事項であるから、上記[相違点1について]の項で述べた事項を考え合わせると、引用発明の複数あると認められる「リーチパターン」を特別図柄の変動開始から停止までの時間を異なるものとし、それらのうち変動時間が最も長いリーチパターンが決定されたときに、特別図柄の変動表示時間の残り時間を特別図柄表示手段26に表示するようにして、上記相違点2に係る本願補正発明のような構成とすることは、当業者が容易に想到し得る。

[相違点3について]
可変表示の変動時間が長い時に、始動権利数の上限値を増大させることは、例えば、特開平8-196701号公報(特に、段落【0023】及び【0113】)や、特開2001-259141号公報(特に、【請求項26】及び段落【0168】)に見られるように、従来遊技機の分野において周知の技術(以下「周知技術3」という。)であるとともに、摘記した引用文献の段落【0067】には「保留球数記憶手段35,39 は、普通図柄表示手段23及び/又は特別図柄表示手段26の変動時間の長短で上限保留個数を変化させる場合に、変動時間が通常の長時間のときに保留球数(上限保留個数4個程度)の記憶を可能にし、短時間のときに保留球数の記憶を不能にするように構成しても良い」、同じく段落【0061】には「第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせて併用しても良い」とあり、上限保留個数を変化させる条件は、低確率状態か高確率状態かに限らず、特別図柄表示手段26の変動時間の長短や複数の遊技状態の組み合わせとしてもよい旨(以下「引用文献示唆事項」という。)が開示されている。
そして、上記[相違点2について]の項で述べた事項を考え合わせると、引用発明において、上限保留個数を10個とする条件として、高確率状態と変動時間が最も長いリーチパターンが決定された場合の特別図柄変動状態との組み合わせを採用するとともに、特別図柄の変動表示時間の残り時間が特別図柄表示手段26に表示されるようにして、上記相違点3に係る本願補正発明のような構成とすることは、当業者が容易に想到し得る。

(4)まとめ
以上のように相違点1?3は、いずれも当業者が容易に想到し得るものであり、本願補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献示唆事項及び周知技術1?3に基いて当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本願補正発明は、引用発明、引用文献示唆事項及び周知技術1?3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
したがって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第三.本願発明について
1.本願発明
平成20年8月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年6月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「 識別情報を変動表示可能な表示装置と、前記識別情報の変動表示を開始させる契機となる入賞口と、該入賞口への遊技球の入球によって、前記識別情報の変動表示を開始させる始動権利を所定の上限値まで計数記憶するとともに、前記識別情報の変動表示を開始させる毎に計数値を減算する始動権利数記憶手段と、前記識別情報の変動表示が開始してから前記識別情報の表示結果が確定表示されるまでの変動時間が異なる複数の変動パターンを記憶するとともに、前記表示装置に確定表示される表示結果が所定の確率に基づいて予め定められた特定表示結果になる通常確率モードから、前記特定表示結果になる確率が前記通常確率モードよりも向上する特別確率モードに変更制御可能であって、前記特定表示結果になった場合に、遊技者にとって有利な遊技状態に制御可能な制御手段とを有する遊技機であって、
前記特別確率モード期間中で、かつ前記複数の変動パターンのうち最も長い変動時間が設定された変動パターンが選択された場合には、前記選択された変動パターンに基づく前記識別情報の変動表示中に、変動表示時間の残り時間を前記表示装置に表示しつつ、変動表示時間が経過した時点で、前記表示装置に前記識別情報を確定表示させる表示制御手段を備え、
前記制御手段は、前記特別確率モード期間中で、かつ前記複数の変動パターンのうち最も長い変動時間が設定された変動パターンを選択した場合には、前記選択した変動パターンに基づく前記識別情報の変動表示期間中、前記始動権利数記憶手段における前記上限値を予め定めた第1上限値から前記第1上限値を超過した第2上限値まで増大させることを特徴とする遊技機。」

2.特許法第29条第2項の検討
(1)引用文献記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記「第二.3.(1)」に記載したとおりである。

(2)引用発明と本願発明との対比及び判断
本願発明は、前記「第二」で検討した本願補正発明から、「変動表示時間」についての限定事項である「識別情報の」を省き、「予め定めた第1上限値から前記第1上限値を超過した第2上限値まで増大させる」タイミングについての限定事項である「かつ前記表示装置に前記識別情報の変動表示時間の残り時間が表示されている期間中」との構成を省いたものといえる。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第二.3.(4)」に記載したとおり、引用発明、引用文献示唆事項及び周知技術1?3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用文献示唆事項及び周知技術1?3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献示唆事項及び周知技術1?3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第四.むすび
本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項(請求項2及び3)について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-07 
結審通知日 2010-01-19 
審決日 2010-02-03 
出願番号 特願2002-6050(P2002-6050)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 真治  
特許庁審判長 小原 博生
特許庁審判官 川島 陵司
深田 高義
発明の名称 遊技機  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 中馬 典嗣  

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