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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23K
審判 全部無効 発明同一  B23K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B23K
管理番号 1213911
審判番号 無効2007-800071  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-04-06 
確定日 2010-03-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第3152945号「無鉛はんだ合金」の特許無効審判事件についてされた平成20年11月12日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10484号平成21年 9月29日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
[出願・優先権主張・登録]
本件特許は、以下の先の出願を優先権主張の基礎として、平成11年3月15日(国際出願PCT/JP99/01229)を国際出願日として出願(特願平11-548053号)され、平成13年1月26日に設定登録されたものである。

特願平10-100141号(平成10年3月26日)
特願平10-324482号(平成10年10月28日)
特願平10-324483号(平成10年10月28日)

[異議・訂正審判]
特許異議申立 平成13年 8月17日
特許異議申立 平成13年 9月21日
異議決定(一部取消) 平成15年 2月18日
出訴(平成15年(行ケ)112号) 平成15年 3月27日
訂正審判請求(訂正2004-39071号) 平成16年 4月 9日
訂正審決(訂正認容) 平成16年 6月10日
審決確定 平成16年 6月22日
東京高裁判決(特許取消決定取消) 平成16年 7月26日
異議決定(異議2001-72269号、特許維持)
平成16年 9月17日

[第1次無効審判]
無効審判請求(無効2004-80275号) 平成16年12月24日
審決(請求不成立) 平成17年11月22日
出訴(平成17年(行ケ)第10860号) 平成17年12月28日
知財高裁判決(請求棄却) 平成19年 1月30日
最高裁決定(平成19(行ヒ)123号、不受理)
平成19年 6月22日
審決確定(請求不成立) 平成19年 6月22日

[第2次無効審判]
無効審判請求(無効2006-80224号) 平成18年10月30日
審決(請求不成立) 平成19年 7月31日
出訴(平成19年(行ケ)第10307号) 平成19年 8月29日
知財高裁判決(特許維持審決一部取消) 平成20年 9月 8日
訴え取下 平成20年11月14日
審決確定(請求不成立) 平成19年 9月10日

[本件無効審判]
無効審判請求(無効2007-800071号、請求人広瀬章一)
平成19年 4月 6日
上申書(請求人) 平成19年 4月26日
答弁書 平成19年 5月18日
答弁書(2) 平成19年 8月22日
参加申請(入交孝雄) 平成20年 8月 5日
参加許否の決定(許可) 平成20年10月 8日
審決(請求成立) 平成20年11月12日
出訴(平成20年(行ケ)第10484号) 平成20年12月22日
知財高裁判決(審決取消) 平成21年 9月29日
判決確定 平成21年10月14日

第2 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、「本件発明1?4」という。)は、平成16年4月9日付けの訂正審判請求書に添付された明細書及び図面(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】Cu0.3?0.7重量%、Ni0.04?0.1重量%、残部Snからなる、金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上したことを特徴とする無鉛はんだ合金。
【請求項2】Sn-Cuの溶解母合金に対してNiを添加した請求項1記載の無鉛はんだ合金。
【請求項3】Sn-Niの溶解母合金に対してCuを添加した請求項1記載の無鉛はんだ合金。
【請求項4】請求項1に対して、さらにGe0.001?1重量%を加えた無鉛はんだ合金。」

第3 請求の趣旨、請求人の主張する無効理由
審判請求書によれば、請求人は、本件請求項1?4に係る特許を無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。
そして、その無効理由は以下の1?4のとおりのものであって(以下、それぞれ、「無効理由1」?「無効理由4」という。)、証拠方法として、審判請求書に添付して以下の甲第1?10号証を、上申書に添付して以下の甲第11号証を提出している(以下、「甲1」?「甲11」という。)。

<無効理由>
1.本件発明1?4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が平成14年改正前特許法第36条(以下、「旧36条」という。)第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当する。

2.本件発明4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が旧36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1号第4号に該当する。

3.本件発明1は、その出願の日前の他の特許出願であって当該特許出願後に出願公開された甲第7号証又は甲第8号証に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願の出願人とが同一の者ではないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する。

4.本件発明1は、その出願前に日本国又は外国で頒布された刊行物である甲第9号証に記載された発明であるか、又は、同号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条第1項の規定に違反するか、又は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する。

<証拠方法>
甲第1号証;特願平10-100141号出願明細書写し
甲第2号証;特願平10-324482号出願明細書写し
甲第3号証;特願平10-324483号出願明細書写し
甲第4号証;訂正2004-39071号の審決写し
甲第5号証;特許庁発行審査基準第1?11頁写し
甲第6号証の1;「実用合金状態図説」渡辺久藤ほか1名著、日刊工業
新聞社、昭和41年4月30日発行、第1?2頁
及び第40頁の写し
甲第6号証の2;Sn-Cu二元系状態図
甲第7号証;特開平11-277290号公報写し
甲第8号証;特開2000-225490号公報写し
甲第9号証;特開平5-251452号公報写し
甲第10号証;特開平10-242631号公報写し
甲第11号証;訂正2004-39071号の審判請求書写し

第4 答弁の趣旨、被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。
そして、被請求人は、以下の乙第1?3号証を提出し、請求人の主張する無効理由は存在しないと主張している。

証拠方法;
乙第1号証;無効2004-80275号審決
乙第2号証;平成17年(行ケ)第10860号判決
乙第3号証;平成19年(行ヒ)第123号についての平成19年6月
22日付け調書(決定)

第5 当審の判断
1 無効理由1(本件発明1?4の旧36条第6項第1号、第2号適合性)についての検討
本件の平成20年11月12日付けの審決に対する取消判決(平成20年(行ケ)第10484号)において、本件発明1?4の旧36条第6項第1号適合性を認める判示がされ、当該判決は確定している。
したがって、上記の判決の拘束力により、本件発明1?4に係る特許は、旧36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
そこで、以下、本件発明1?4の旧36条第6項第2号適合性について、検討する。

(1) 請求人の具体的な主張
審判請求書第11頁第1行?第12頁下から第4行の記載によれば、請求人は、本件発明1の「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上した」との特定事項が、以下の理由により明確でない旨を主張していると認められる。

ア 「流動性」の計測・評価方法が不明である。
イ 「流動性が向上した」の向上の程度が不明である。
ウ 「金属間化合物の発生を抑制し」と「流動性が向上した」との相関が不明である。

(2) 本件明細書の記載
そこで検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「本発明において重要な構成は、Snを主としてこれに少量のCuを加えるだけでなく、Niを0.04?0.1重量%添加したことである。NiはSnとCuが反応してできるCu6Sn5あるいはCu3Snのような金属間化合物の発生を抑制する作用を行う。このような金属間化合物は融点が高く、合金溶融時に溶湯の中に存在して流動性を阻害し、はんだとしての性能を低下させる。そのためにはんだ付け作業時にはんだパターン間に残留すると、導体同士をショートさせるいわゆるブリッジとなることや、溶融はんだと離れるときに、突起状のツノを残すことになる。そこで、これを回避するためにNiを添加したが、Ni自身もSnと反応して化合物を発生させるが、CuとNiは互いにあらゆる割合で溶け合う全固溶の関係にあるため、NiはSn-Cu金属間化合物の発生に相互作用をする。本発明では、SnにCuを加えることによってはんだ接合材としての特性を期待するものであるから、合金中にSn-Cu金属間化合物が大量に形成されることは好ましくないものということができる。そこで、Cuと全固溶の関係にあるNiを採用し、CuのSnに対する反応を抑制する作用を行わしめるものである。
ただし、Snに融点の高いNiを添加すると液相温度が上昇する。従って、通常のはんだ付けの許容温度を考慮して添加量の上限を0.1重量%に規定した。また、Niの添加量を減らしていった場合、0.04重量%以上であればはんだ流動性の向上が確認でき、またはんだ接合性、およびはんだ継手としての強度などが確保されることが判明した。
従って、本発明ではNiの添加量として下限を0.04重量%に規定した。
ところで、上記説明ではSn-Cu合金に対してNiを添加するという手順を基本として説明したが、逆にSn-Ni合金に対してCuを添加するという手順も成立する。SnにNiを単独で徐々に添加した場合には融点の上昇と共に、Sn-Ni化合物の発生によって溶解時に流動性が低下するが、Cuを投入することによって粘性はあるものの流動性が改善され、さらさらの状態になる。これら何れの手順から見ても、CuとNiが相互作用を発揮した結果、はんだ合金として好ましい状態に達することがわかる。即ち、Sn-Cu母合金に対してNiを添加する場合であっても、Sn-Ni母合金に対してCuを添加する場合であっても、何れも同様のはんだ合金とすることが可能である。」(2頁下1行?3頁下1行)

(3) 当審の判断
(1)のア、イについて
上記(2)に記載のとおり、本件発明1の「流動性」は、従来のSn-Cu又はSn-Ni二元はんだ合金の溶解時において、金属間化合物の発生による流動性の低下が改善され、さらさらの状態になるという意味の「流動性」であるから、さらさらの状態を確認することが流動性の評価方法であることが明らかであるし、本件発明1の「流動性が向上した」とは、従来のSn-Cu二元はんだ合金又はSn-Ni二元はんだ合金の溶解時における流動性の状態と比べて、さらさらの状態になったことであることが明らかである。

(1)のウについて
上記(2)の記載によると、合金溶融時に溶湯の中に存在するCu_(6)Sn_(5)等の金属間化合物が流動性を阻害し、はんだとしての性能を低下させるのであり、一方、CuとNiとは互いにあらゆる割合で溶け合う全固溶の関係にあり、NiはCuのSnに対する反応を抑制する作用を行わしめると認められる。
そうすると、従来のSn-Cu二元はんだ合金では、「金属間化合物の発生」により、溶解時における「流動性が阻害」されるが、Sn-Cu-Ni三元はんだ合金であれば、Cuと全固溶の関係にあるNiがCuのSnに対する反応を抑制することにより、「金属間化合物の発生を抑制し」、その結果、「流動性が向上した」溶湯が得られ、同様の現象がSn-Ni二元合金にCuを添加することによっても生じることは、本件明細書の記載及び技術常識から当業者が理解し得る事項である。
したがって、特許請求の範囲に記載された「金属間化合物の発生を抑制し」と「流動性が向上した」とは、原因と結果の関係であることは明らかである。

(4) まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、及び請求項1の記載を引用する本件2?4に係る発明に係る特許は、旧36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

2 無効理由2(本件発明4に係る特許の旧36条第6項1号適合性)について

(1) 請求人の具体的な主張
審判請求書第13頁第15?20行の記載によれば、請求人は、本件発明4の「Ge:0.001?1重量%を加えた」との特定事項が、発明の詳細な説明に記載されていないと主張していると認められる。

(2) 本件明細書の記載
これに対して、本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「Geは、融点が936℃であり、Sn-Cu合金中には微量しか溶解せず、凝固するときに結晶を微細化する機能を有する。また、結晶粒界に出現して結晶の粗大化を防止する。さらに、合金溶解時の酸化物生成を抑える機能も有する。ただし、1重量%を越えて添加するとコストが高くつくばかりでなく、過飽和状態になって均一に拡散しないので、実益はない。これを理由として上限を定めた。」(第4頁第13?17行)

(3) 当審の判断
上記(2)の記載によれば、Sn-Cu合金中におけるGeの機能は、結晶の微細化、及び溶解時の酸化物生成の抑制であって、当該機能に有効な上限は1重量%であり、下限は上限を越えない任意の値でよいことが明らかである。
そうすると、本件発明4における「Ge:0.001?1重量%を加えた」は、発明の詳細な説明に記載された事項であるといえる。

(4) まとめ
したがって、本件発明4に係る特許は、旧36条第6項1号に規定する要件を満たしている。

3 無効理由3(本件発明1に係る特許の特許法第29条の2違反)について

3-1 証拠方法が甲第7号証の場合

(1) 甲第7号証の記載
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項3】 Ni0.01ないし0.5重量%と、Cu0.5ないし2.0重量%ならびにSb0.5ないし5.0重量%のうち少なくとも1種と、残部Snと、を含有してなることを特徴とするPbフリー半田。」

イ 「【0005】本発明の目的は、半田付け時または半田付け後にエージングを行った時に電極喰われが生じにくく、半田引張り強度、耐熱衝撃性に優れるPbフリー半田および半田付き物品を提供することにある。」

ウ 「【0011】
【発明の実施の形態】本発明のPbフリー半田において、Niの添加量は全体100重量%のうち0.01ないし0.5重量%が好ましい。Niの添加量が0.01重量%未満であると耐電極喰われ性が劣化し半田付け時の電極残存面積が低下する。他方、Niの添加量が0.05重量%を超えると、Pbフリー半田の液相線温度が上昇し、…」(「0.05重量%」は「0.5重量%」の誤記と認める。)

エ 「【0012】また、本発明の主にSn-Ni-Cuの3元素…からなるPbフリー半田において、Cuの添加量は全体100重量%のうち0.5ないし2.0重量%であることが好ましい。Cuの添加量が0.5重量%未満であると、接合強度の改善効果が小さい。他方、Cuの添加量が2.0重量%を超えると、過剰にCu_(6)Sn_(5),Cu_(3)Sn等の硬くて脆い金属化合物が析出することで接合強度が低下する。また、Pbフリー半田の液相線温度が上昇し、…」

オ 「【0019】本発明の半田付け物品は、例えば本発明のPbフリー半田を溶融させボール状に加工し、半田ボールを部品に載せてフラックスを塗布した後、大気中で所定の温度に加熱して部品の導体を結合することにより得られる。また、半田槽中に本発明のPbフリー半田を液相温度より高い温度で溶融させ、フラックスを塗布した部品を静止溶融半田中に浸漬する浸漬半田付けにより部品の導体を結合することでも得られる。また、噴流半田槽中に本発明のPbフリー半田を液相温度より高い温度で溶融させ、フラックスを塗布した部品を溶融半田に接触させるフロー半田付けにより部品の導体を結合することによっても得られる。また、部品をPbフリー半田中に浸漬した時、溶融した半田中で揺動を行ってもよい。なお、部品と溶融した半田との接触回数は特に限定しない。」

カ 「【0034】
【発明の効果】以上のように、本発明のPbフリー半田によれば、電極喰われしやすい遷移金属導体を含有する部品の接合に用いても、所望する半田付き性、接合強度、半田引張り強度、半田絞りを維持しつつ電極喰われを防ぎ、耐熱衝撃性に優れる。」

キ 実施例1の半田の組成は、Sn99.35重量%、Ni0.15重量%、Cu0.50重量%であり、実施例2の半田の組成は、Sn99.15重量%、Ni0.15重量%、Cu0.70重量%であり、実施例3の半田の組成は、Sn97.85重量%、Ni0.15重量%、Cu2.00重量%である(段落【0029】の表1参照)。

(2) 甲第7号証に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書(以下、「甲7当初明細書」という。)に記載された発明
上記アには、「Ni0.01ないし0.5重量%と、Cu0.5ないし2.0重量%ならびにSb0.5ないし5.0重量%のうち少なくとも1種と、残部Snと、を含有してなることを特徴とするPbフリー半田」が記載されており、また、上記キには、その実施例として、選択成分のCu、SbのうちCuを選択することも具体的に記載されているから、甲7当初明細書には、「Ni0.01ないし0.5重量%と、Cu0.5ないし2.0重量%と、残部Snと、を含有してなるPbフリー半田」についての発明(以下、「甲7発明」という)が記載されていると云える。

(3) 本件発明1と甲7発明との対比
本件発明1と甲7発明を対比すると、甲7発明の「Pbフリー半田」は、「無鉛はんだ合金」と言い換えることができるから、両者は、「Cu0.3?0.7重量%、Ni0.04?0.1重量%、残部Snからなる無鉛はんだ合金」である点で一致するが、次の点で相違している。
相違点:本件発明1は、「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上した」無鉛はんだ合金であるのに対し、甲7発明では、そのような無鉛はんだ合金であるか不明である点。

(4) 相違点についての判断
ア 前記相違点である、本件発明1の「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上した」という特定事項の技術的意義は、上記の「第5 1(3)」に示すとおり、従来のSn-Cu二元はんだ合金では、はんだ付けのための溶解時に、「金属間化合物の発生」により「流動性が阻害」されるという課題に対して、当該二元合金にCuと互いにあらゆる割合で溶け合う全固溶の関係にあるNiを添加してSn-Cu-Ni三元はんだ合金とすることにより、NiがCuのSnに対する反応を抑制し、すなわち「金属間化合物の発生を抑制し」、その結果、さらさらの状態となって「流動性が向上した」溶湯が得られ、また、Sn-Ni二元はんだ合金にCuを添加しても同様の溶湯が得られるという課題解決手段である点にある。

イ これに対して、甲7発明は、上記(1)イのとおり、半田付け時の課題として、電極喰われの生じにくい無鉛はんだ合金を提供することを目的とするものであり、その目的のために、上記(1)ウのとおり、Ni添加量を0.01?0.5重量%とし、また、接合強度改善のために、上記(1)エのとおり、選択成分のCu0.5?2重量%を添加し、上記(1)カのとおり、「電極喰われを防ぎ」という効果を奏するものと認められる。
そして、上記(1)オには、「噴流半田槽中に本発明のPbフリー半田を液相温度より高い温度で溶融させ、フラックスを塗布した部品を溶融半田に接触させるフロー半田付けにより部品の導体を結合すること」がはんだ付けの1手法として記載されているから、甲7発明のはんだ合金をはんだ付けのために溶解し、溶湯とすることは示されているといえるが、その際に、溶湯の流動性に関する課題を示唆する記載は存在しない。
そうすると、甲7発明が、Ag、Cu、Sbの選択成分のうちCuを選択して、その含有量を0.3?0.7重量%とするとともに、Niの含有量を、実施例に記載されていない0.04?0.1重量%とすることにより(上記(1)キには、本件発明1の範囲外であるNi含有量が0.15重量%のはんだ合金しか記載されていない。)、金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上したはんだ合金の発明であるということはできない。

ウ したがって、本件発明1は、甲7当初明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

3-2 証拠方法が甲第8号証の場合

(1) 甲第8号証の記載

ア 「【請求項1】Cuが0.05?2.0重量%、Niが0.001?2.0重量%、残部がSnから成ることを特徴とする無鉛半田合金。」

イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来、Pbを多く含む半田合金で接合された電子機器が、廃棄された場合には、酸性雨によってPbが溶出し、硫酸となって地下水を汚染するという環境上の問題が生じている。 また、Pbが体内に入ると中枢神経を冒し、かつ、血液中のヘモグロビン障害を起こすとされている。そこで、本発明は、Pbが全く含まれず、接合された製品が廃棄された場合にも、Pbによる環境汚染を防止し、合金化の結果として、半田接合部の機械的強度を高めることが出来る無鉛半田合金を提供することを目的とする。」

ウ 「【0005】本発明によれば、Pbを含まないSn-Cu半田合金に、Niを0.001?2.0重量%添加することにより、機械的強度が約15?30%向上する。CuとNiとは、全率固溶体を形成する合金であるので、Sn-Cuという2元系合金における析出Cu中には、当然、添加されたNiも固溶する。 その結果として、機械的強度が高められる。さらに、Pbを含まないため、接合された製品が廃棄された場合にも、Pbによる環境汚染が防止される。」

エ 【0009】表2には、実施例の番号4?7として、それぞれ重量%で[Ni、Cu]の重量%が[0.70、0.02]、[1.00、0.05]、[0.50、0.10]、[0.90、0.80]、残部Snの化学組成のPbフリー半田合金の機械的強度として引張り強度が記載されている。

(2) 当審の判断
上記アによると、甲第8号証の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下「甲8当初明細書等」という。)には、本件発明1と重複する組成範囲を有するPbフリーはんだ合金について記載されているが、上記イによると、当該はんだ合金は、はんだ接合部の機械的強度を高めることを目的とするものであって、上記ウによると、NiはSn-Cu二元合金に機械的強度の向上のために添加されており、上記エに具体的に示されたSn-Cu-Niはんだ合金のNi量は0.50重量%以上である。
そうすると、甲8当初明細書等には、本件発明1の「Ni0.04?0.1重量%」であり、はんだ付け時の溶湯において、「金属間化合物の発生を抑制することにより、流動性が向上した」発明が記載されているとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲8当初明細書等に記載された発明と同一ではない。

3-3 まとめ
したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反してされたものでない。

4 無効理由4(本件発明1に係る特許の特許法第29条第1項、第2項違反)について

(1)甲第9号証の記載

ア 「【請求項1】 Pb,Sn,Inの何か一つの主要元素に対し、0.001 wt%?1wt%のCu、及び、0.001 wt%?1wt%のNiを添加せしめたことを特徴とする半導体素子用のはんだバンプ形成材料。」

イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】一方、近年LSIパッケージの多ピン化に伴いチップ上に形成するバンプ電極の相互間距離をより小さくすること(狭ピッチ化)が要求されており、これを実現するに際して重要なことは、バンプ同士がショートしないこと、即ちバンプ形成用のワイヤ線径をより小さくすることにある。しかし乍ら、上記従来の形成材料により作製したワイヤの線径は30μmが限度であり、このワイヤを用いてバンプを形成した場合、バンプ相互のピッチは150μmが限界であった。
【0004】また、上記従来の形成材料は急冷凝固法により細い合金ワイヤ状に作製することで、ワイヤ先端に形成したボールをチップ表面の電極上に熱圧着した後そのワイヤを引上げればボールがワイヤから自動的に切り離される、ワイヤボンダを用いたバンプ形成に顕著な効果を奏するものである。しかし乍ら、従来の形成材料によれば、ボール切り離し時におけるワイヤ切断位置にばらつきが生じて、バンプ高さが一定しない不具合があり、これらの不具合は細線になる(線径が小さくなる)につれ顕著に現れるものであった。
【0005】本発明はこのような従来事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところの第1は、ワイヤのさらなる細線化を図って、バンプ電極の相互間距離をより小さくする(狭ピッチ化)ことにある。
【0006】また本発明第2の目的は、前述のワイヤ細線化に加えて、ボール切り離し時におけるワイヤ切断位置のばらつきを抑えてバンプ高さを一定させ、耐久性及び信頼性の高い半導体装置を製作し得るはんだバンプの形成材料を提供することにある。」

ウ 「【0007】
【課題を解決するための手段】本願発明者は上述の目的を達成するために、Pb,Sn,Inの何か一つを主要元素とするバンプ形成材料に悪影響を及ぼす虞れのない各種添加元素の中から、チップ電極上面に予め形成する下地金属として用いられるCu,Niに着目して鋭意研究を行った結果、これら両元素の同時添加により、その添加量が少量であってもワイヤの細線化に所望の効果を得られると共に、これにより得られた形成材料を急冷凝固法により細いワイヤ状に作製することでボール切断位置のばらつき改善に所望の効果を得られることを見出だし、本発明のはんだバンプ形成材料を提供するに至った。」

エ 「【0013】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。表1または表2は主要元素Snに対して各種添加元素を表中の記載量配合せしめてなるバンプ形成材料で、各試料 No.1?10は、夫々の組成(不可避不純物を含む)にしたものを急冷凝固法により、詳しくは従来知られた液中紡糸法により直接にワイヤーを形成するか、或いは単ロール法により得られた合金材料を冷間プレスし、さらに押出し成形してワイヤーを成形するなどの方法により、線径25μmのワイヤに作製した。」

オ 【0019】【表1】には、試料No.1?10として、重量%でAg:1、Zn:1、Sb:5、P:0.025を含有し、Cu、Niを含み又は含まず、残部Snよりなるバンプ形成材料について、引張強度、伸び、ボール切断位置高さばらつきが示されている。

(2) 当審の判断

(2-1)新規性(特許法第29条第1項適合性)について
上記アには、「本件発明1と組成範囲の重複する組成のSn基はんだ合金であるバンプ形成材料」についての発明(以下「甲9発明」という。)が記載されているが、上記イ?エによると、当該材料において、Pb,Sn,Inの何か一つにCu,Niの両元素を同時添加する目的は、バンプ形成用のワイヤの細線化と、ワイヤの先端に形成したボールの切断位置のばらつき改善であって、具体的に示されたSn基はんだ合金は、全てCu、Ni以外にAgや、Sbを含むものであるから、甲第9号証には、「Cu0.3?0.7重量%、Ni0.04?0.1重量%、残部Snからなる」無鉛はんだ合金であって、「金属間化合物の発生を抑制し、流動性が向上した」無鉛はんだ合金は記載されていない。
したがって、本件発明1は甲第9号証に記載された発明ではない。

(2-2) 進歩性(特許法第29条第2項適合性)について
上記(2)に認定のとおり、甲9発明の課題は、バンプ形成用のワイヤの細線化と、ワイヤの先端に形成したボールの切断位置のばらつき改善であって、当該課題を解決するためにバンプを形成するはんだ合金の組成を特定するものである。
これに対して、甲第10号証には、バンプがディップ法で形成され得ることが示されており、ディップ法において、溶湯の流動性の向上は周知の課題であると認められる。
しかし、甲9発明は、細線化したワイヤの先端を切断したボールによりバンプを形成することを前提とするものであるから、溶湯の流動性の向上を課題とするものではないし、ましてや、当該課題を考慮して、実施例に示されているAgやSbを除き、Cu、Ni及び残部Snよりなるはんだ合金組成を導くことが、当業者にとって容易に想到し得る事項とは認められない。
したがって、本件発明1は、甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提示した証拠方法によっては、本件発明1?4に係る特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-26 
結審通知日 2010-01-28 
審決日 2008-11-12 
出願番号 特願平11-548053
審決分類 P 1 113・ 537- Y (B23K)
P 1 113・ 113- Y (B23K)
P 1 113・ 121- Y (B23K)
P 1 113・ 161- Y (B23K)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 植前 充司
大橋 賢一
登録日 2001-01-26 
登録番号 特許第3152945号(P3152945)
発明の名称 無鉛はんだ合金  
代理人 濱田 俊明  

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