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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G |
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管理番号 | 1240492 |
審判番号 | 不服2008-21962 |
総通号数 | 141 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-09-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-08-28 |
確定日 | 2011-07-21 |
事件の表示 | 特願2003- 46958「固体電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月24日出願公開,特開2004-265951〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成15年2月25日の出願であって,平成19年8月31日付けで拒絶理由が通知され,同年11月22日に手続補正書が提出されたが,平成20年7月25日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年8月28日に審判請求がされるとともに,同年9月29日に手続補正書が提出され,その後,平成23年1月17日付けで当審により審尋がされ,同年3月15日に回答書が提出されたものである。 第2 本件補正 1 平成20年9月29日に提出された手続補正書は,特許請求の範囲と明細書の記載を補正するものであり,そのうち,特許請求の範囲の請求項1の補正後の記載は,次のとおりである。 【請求項1】 「アルミニウムからなる陽極箔(4)と陰極箔(5)をセパレータ(6)を介して巻き取って構成され,内部に固体電解質層又は導電性高分子層が形成されたコンデンサ素子(2)を具え,陽極箔(4)の表面及び端面には誘電体酸化被膜が形成された固体電解コンデンサに於いて, 前記陽極箔(4)の表面には,単金属又は複合金属化合物の窒化物の酸化物から成る被膜が形成され,前記陽極箔(4)の端面には,アルミニウムの酸化物からなる被膜が形成されていることを特徴とする固体電解コンデンサ。」 2 この補正内容は,補正前において「単金属又は複合金属化合物の窒化物から成る被膜が形成され,前記陽極箔(4)の表面の誘電体酸化被膜は,該単金属又は複合金属化合物の窒化物の酸化物から形成され」とされていた記載を「単金属又は複合金属化合物の窒化物の酸化物から成る被膜が形成され」と補正するものである。 補正前の「単金属又は複合金属化合物の窒化物から成る被膜が形成され,前記陽極箔(4)の表面の誘電体酸化被膜は,該単金属又は複合金属化合物の窒化物の酸化物から形成され」との記載は,それ自体を読むと,窒化物から成る皮膜と窒化物の酸化物とが別物のようにも理解できるが,明細書の記載によれば当該窒化物は酸化されて酸化物となって被膜を構成するから,補正後の記載が正しいものであることが分かる。 3 そうすると,この補正内容は,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに当たるから,本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項の規定(補正要件)に適合する。 第3 本願発明の容易想到性 1 本願発明 本願発明は,平成20年9月29日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記第2,1において摘記したとおり。)。 2 引用例の記載と引用発明 (1)引用例の記載内容 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平5-9790号公報(以下「引用例」という。)には,電解コンデンサ用電極などの基材の製造方法に関して,次の記載がある(下線は当審で付加したものである。以下同じ。)。 ・「【請求項1】アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなる基材表面に,膜状の導電性を有する金属窒化物を形成し,この金属窒化物を陽極として電解液中で陽極酸化により前記金属窒化物から金属酸化物を生成することを特徴とする表面に金属酸化物を有する基材の製造方法。 【請求項2】金属窒化物は,窒化チタン,窒化ジルコン,窒化ハフニウム,窒化タンタル,窒化バナジウム,窒化ニオブ,窒化クロムから選択される請求項1記載の表面に金属酸化物を有する基材の製造方法。」 ・「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は,表面に金属酸化物層が形成された,電解コンデンサ用電極,金属基板などの基材の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】従来より,一般的に弁金属を陽極とし適当な電解液中でカーボン,白金などの対抗電極を陰極として所定の電流を流すと,その表面に絶縁性の薄膜が形成され電流の通過が困難になることが知られている。すなわち,絶縁性の金属酸化物を形成する手段として,陽極酸化法が知られている。 【0003】この陽極酸化法を用いたものに電解コンデンサの電極や,表面に絶縁性の薄膜層を設けた基板材などがある。これらは,基板にアルミニウムあるいはアルミニウム合金を用い,陽極酸化によって絶縁性の酸化アルミニウム薄膜層を形成している。そして,この酸化アルミニウムの絶縁耐圧や,絶縁薄膜の静電容量値を利用して,電解コンデンサや絶縁基板として利用される。 【0004】そこで,例えばチタンを陽極酸化することにより酸化チタンを生成する場合,得られる酸化チタンは,低級酸化物(TiO_(2-X ))であり,TiO_(2 )単層を生成させることは困難である。しかも,このようにして生成した,酸化チタン層は,誘電率が高く,高い静電容量が得られる反面,酸化アルミニウム層と比較して不完全であり,耐電圧が低くしかも漏れ電流が大きいという電気的特性に問題がある。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】そこで,この発明の目的は,基材となるアルミニウムもしくはアルミニウム合金の表面に気相法などの物理的手段や,CVD法などの化学的手段により金属窒化物の薄膜層を形成し,次いでこれを陽極酸化することによって,前記金属窒化物を金属酸化物に反応形成させる金属酸化物の合成方法を用い,絶縁性,静電容量,耐電圧,漏れ電流などの電気的特性に優れた表面に金属酸化物層を有する基材とする製造方法を得ることにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は,アルミニウムもしくはアルミニウム合金からなる基材表面に,膜状の導電性を有する金属窒化物を形成し,この金属窒化物を陽極として電解液中で陽極酸化により前記金属窒化物から金属酸化物を生成することを特徴としている。 【0007】本発明において,基材の表面に形成される金属窒化物は,後段の陽極酸化処理を行うために,導電性のある金属窒化物から選択されるべきである。このようなものとして,窒化チタン,窒化ジルコン,窒化ハフニウム,窒化タンタル,窒化バナジウム,窒化ニオブ,窒化クロムなどが挙げられる。 【0008】また,基材表面に金属窒化物の薄膜を形成する手段としては,各種の物理的あるいは化学的プロセスが利用できる。物理的手段として,具体的な手段を例示すれば,イオンプレーティング法,スパッタリング法,陰極アーク蒸着法などがある。また,化学的手段としては,CVD法などがある。 【0009】次に,基材表面に形成された金属窒化物を,金属酸化物に変成させる手段には,陽極酸化処理法を用いる。陽極酸化は,被処理物である基材を陽極電位とし,これに対抗する陰極側電極を設置し,電解液中で直流電流を流すことで陽極側の基材表面を酸化させるもので,この発明の場合,表面は金属窒化物が金属酸化物に変成することになる。なお,この直流電流の印加には,通常の定電圧の印加の他に,パルス波形,直流に交流などの脈流が重畳した波形などを用いてもよい。 【0010】陽極酸化に用いる電解液には,各種のものを選択できるが,アルミニウムもしくはアルミニウム合金基材表面に絶縁性酸化皮膜を形成するのに好適なものとしては,りん酸,りん酸二水素アンモニウム,アジピン酸アンモニウム,硝酸,硫酸,しゅう酸,ほう酸,ほう酸アンモニウム,クロム酸,水酸化ナトリウム,りん酸ナトリウムなどの酸,塩あるいは苛性アルカリなどの水溶液を挙げることができる。」 ・「【0019】 【発明の効果】本発明は,蒸着などの薄膜形成技術によって金属基材上に導電性を有する金属窒化物を形成し,この導電性を利用して基材金属を陽極として陽極酸化を行って,薄膜の絶縁性の金属酸化物層を形成するので,高い静電容量や緻密な絶縁薄膜を得ることができ,コンデンサの電極材料や,基板の絶縁被覆を目的とした用途に有用である。」 (2)引用例の上記の記載から,次のことが分かる。 ア アルミニウムからなる基材表面に,膜状の金属窒化物を形成し,この金属窒化物を酸化して,金属窒化物から金属酸化物を生成することにより,絶縁性,静電容量,耐電圧,漏れ電流などの電気的特性に優れた金属酸化物の薄膜(絶縁被覆)を基材表面に形成することができること。 イ このようにして得られた,金属酸化物の薄膜が形成されたアルミニウムの基材は,絶縁性,静電容量等の観点から,電解コンデンサの電極材料に有用であること。 (3)ここで,アルミニウムからなる金属基材を電極に用いた電解コンデンサの典型的なものの一つが,アルミニウムからなる陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻き取って構成され,陽極箔の表面には誘電体酸化被膜が形成されているものであることは,当業者の技術常識であるから,表面に絶縁性の金属酸化物の薄膜(絶縁被覆)が形成されたアルミニウム基材を電解コンデンサの電極材料に用いるといった場合,当業者は,この電極材料を電解コンデンサの陽極箔に用いることを直ちに想起する。 そうすると,引用例には,次の発明が実質的に開示されているといえる(以下,この発明を「引用発明」という。)。 「アルミニウムからなる陽極箔(4)と陰極箔(5)をセパレータ(6)を介して巻き取って構成され,陽極箔(4)の表面には誘電体酸化被膜が形成された固体電解コンデンサに於いて, 前記陽極箔(4)の表面には,金属の窒化物(窒化チタン)を酸化して形成されたの金属酸化物から成る絶縁被覆が形成されている,電解コンデンサ。」 3 対比及び一致点と相違点 本願発明と引用発明の対比すると,引用発明の「金属の窒化物(窒化チタン)を酸化して形成された金属酸化物から成る絶縁被膜」は,本願発明の「単金属」「の窒化物の酸化物から成る被膜」に相当する。 そうすると,本願発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりである。 〔一致点〕 「アルミニウムからなる陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻き取って構成され,陽極箔の表面には誘電体酸化被膜が形成された電解コンデンサに於いて, 前記陽極箔の表面には,単金属の窒化物の酸化物から成る被膜が形成されている,電解コンデンサ。」 〔相違点〕 〔相違点1〕 本願発明は,「電解コンデンサ」が「内部に固体電解質層又は導電性高分子層が形成された」「固体電解コンデンサ」であるのに対し,引用発明は,電解コンデンサであるからには,「電解質」を備えていることは自明であるものの,これがどのようなものであるかについては引用例には記載も示唆もされていない点。 〔相違点2〕 本願発明は,「陽極箔の表面及び端面には誘電体酸化被膜が形成され」,このうち「陽極箔の端面」は,「アルミニウムの酸化物からなる被膜」で形成されているのに対し,引用発明は,アルミニウムからなる「陽極箔の端面」がどのようになっているのか不明である点。 4 相違点についての検討 (1)相違点1について アルミニウムからなる金属基材を電極に用いた電解コンデンサには,「電解質」が電解液のものと,導電性高分子のような固体電解質のものとがあることは周知であり,技術常識ともいうべきものである(例えば,拒絶査定で引用された特開2002-252147号公報では,電解質が固体の電解コンデンサと液体の電解コンデンサの両方が対象とされており(段落【0001】),同じく拒絶査定で引用された特開平5-217809号公報でも,電解質が固体の電解コンデンサと液体の電解コンデンサの両方が存在することが前提とされている(段落【0003】?【0005】)。 一方,上述のように,引用例には,金属酸化物の薄膜が形成されたアルミニウム基材が,絶縁性,静電容量等の観点から電解コンデンサの電極材料に有用であることが教示されている。そして,電解質が電解液の場合でも固体の場合でも,電解コンデンサの静電容量が陽極箔(アルミニウム基材)を被覆する誘電体酸化被膜の材質に大きく依存することは,当業者に明らかである。 そうすると,引用発明において,電解質として周知の固体電解質を用い,相違点1の構成とすることは,当業者にとって容易であったといえる。 (2)相違点2(陽極箔の端面の酸化被膜)について ア 拒絶査定で引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,本願の特開2002-252147号公報には,次の記載がある。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,誘電体皮膜を形成した陽極箔と対向陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子に,固体又は液体の電解質を含浸した電解コンデンサに関する。 【0011】 【発明の実施の形態】本発明の一実施形態に従って製造される電解コンデンサは,図2に示すように,巻回型のコンデンサ素子7内に陰極電解質としての導電性ポリマー層を形成し,該コンデンサ素子をアルミニウム製の外装ケース8内に収納し,封口ゴム9を装着して密封したものである。 【0012】巻回型のコンデンサ素子は,図1に示すように,エッチング処理及び化成処理(誘電体皮膜を形成するための陽極酸化処理)を施したアルミニウム箔1を陽極とし,対向陰極箔2との間にセパレータ3を挟んで円筒状に巻き取ったものであり,前記陽極箔及び陰極箔からは,リード線51,52が引き出されている。符号4は,巻き止めテープを示している。 【0013】本発明実施例においては,前記セパレータとして,ケブラー(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)等のアラミド(芳香族ポリアミド)繊維を主成分とする耐熱紙を用い,該セパレータを陽極箔及び陰極箔と共に巻き取った後,陽極箔の切り口化成処理及び約280℃での熱処理を行う。」 ほかにも,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,本願の特開2000-68159号公報に,次の記載がある。 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,アルミニウム化成箔からなり,その切り口部の耐電圧性及び耐熱性が改善された固体電解コンデンサ用電極箔,その製造方法及びこの電極箔を用いた固体電解コンデンサに関する。 【0002】 【従来の技術】固体電解コンデンサには,アルミニウム箔の表面に陽極酸化皮膜からなる誘電体層が形成された電極箔が用いられている。一般にこの電極箔は,アルミニウム箔を酸性電解液に浸漬し,このアルミニウム箔を陽極とする陽極酸化法により表面を化成処理し,次いで所定のサイズに切断して製造される。(中略) 【0003】ここに得られた化成箔は,次にそれぞれの低圧用小型固体電解コンデンサに求められる所定のサイズに切断され,電極箔とされる。この際,前記電極箔の切り口部5は,アルミニウム地金が露出しているのでこのまま固体電解コンデンサに組込むことはできず,絶縁する必要がある。この切り口部5の絶縁化は普通,切断後の化成箔を再度化成処理し(以下,「切り口化成」という),この切り口部5にバリアー皮膜を形成することにより行われる。」 さらに,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,本願の特開昭59-61026号公報に,次の記載がある。 ・「本発明は固体電解コンデンサに関する。」(1頁左下欄下から9行) ・「以下本発明実施例を説明する。 アルミニウム化成箔を陽極箔とし,アルミニウムエッチング箔を陰極箔としてこれらをマニラ紙からなるセパレーターと共に巻き取ったコンデンサ素子を準備する。この素子は次いで切り口化成処理の後,250℃の恒温槽中に約4時間放置されて,上記セパレータの炭化処理がなされる。・・・」(3頁右下欄10?16) イ 以上から,表面に酸化被膜が形成されたアルミニウム箔を陽極に用いる電解コンデンサにおいては,切り口化成処理を施して端面に酸化被膜を形成することにより,アルミニウムと電解質とが直接接触しないようにするための処理が普通に行われていることが分かる。 そして,引用発明においても,この点は同じであるから,引用発明に切り口化成処理の周知技術を適用し,端面に酸化被膜を形成するようにすること(相違点2の構成とすること)は,技術上の設計事項ということができる。 5 まとめ 以上のとおり,相違点1及び2の構成とすることは,周知技術に照らして当業者にとって容易であったいえるから,本願発明は,周知技術を勘案することにより,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 結言 以上の次第で,本願は,他の請求について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-05-19 |
結審通知日 | 2011-05-24 |
審決日 | 2011-06-06 |
出願番号 | 特願2003-46958(P2003-46958) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01G)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 近藤 聡 |
特許庁審判長 |
相田 義明 |
特許庁審判官 |
松田 成正 小野田 誠 |
発明の名称 | 固体電解コンデンサ |
代理人 | 丸山 敏之 |
代理人 | 北住 公一 |
代理人 | 宮野 孝雄 |
代理人 | 北住 公一 |
代理人 | 丸山 敏之 |
代理人 | 北住 公一 |
代理人 | 丸山 敏之 |
代理人 | 宮野 孝雄 |
代理人 | 宮野 孝雄 |