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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C08J
管理番号 1244977
審判番号 訂正2011-390095  
総通号数 144 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-12-22 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2011-08-09 
確定日 2011-09-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3241797号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3241797号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許の手続の経緯
特許第3241797号(以下、「本件特許」という。)の手続の経緯は次のとおりである。
・特許出願 :平成4年4月6日
・拒絶理由通知:平成13年4月2日(起案日)
・手続補正 :平成13年6月7日(受付日)
・拒絶理由通知:平成13年6月26日(起案日)
・手続補正 :平成13年8月29日(受付日)
・特許査定 :平成13年9月13日(起案日)
・特許権の設定登録:平成13年10月19日(請求項数9)

2.本件審判の手続の経緯
本件審判事件の手続の経緯は次のとおりである。
・審判請求 :平成23年8月9日

第2 請求の要旨
本件審判請求の要旨は、特許第3241797号の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を、本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、本件審判の請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の訂正事項は、次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、乾燥後の塗布量0.02?0.15g/m^(2)で塗布し、防曇性及びブロッキング性を付与するための表面処理剤であって、
ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含む表面処理剤。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許明細書の特許請求の範囲の請求項5を、
「【請求項5】ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含み、かつ乾燥後の塗布量が0.02?0.15g/m^(2)である被覆層が形成されている被覆ポリマーフィルム。」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許明細書の特許請求の範囲の請求項9を、
「【請求項9】ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含む表面処理剤を、乾燥後の塗布量0.02?0.15g/m^(2)で塗布する被覆ポリマーフィルムの製造方法。」と訂正する。

第3 当審の判断
平成7年6月30日までに出願された特許出願であって、同年7月1日以降に訂正審判が請求されたものについては、平成6年法律第116号改正附則第6条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第126条の規定が適用されるところ、以下においては、同条第1項ないし第3項の規定に基づいて、訂正の適否の判断を行う。

1.本件訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、特許明細書の段落【0001】の「高い防曇性・ブロッキング防止性を付与できる表面処理剤」、段落【0018】の「ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含む表面処理剤を塗布する」、及び、段落【0069】の「本発明の被覆ポリマーフィルムは…乾燥後の塗布量が0.02?0.15g/m^(2)…程度であっても、防曇持続性が高い」との記載を根拠として、表面処理剤の用途を限定するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許明細書の段落【0051】の「本発明の被覆ポリマーフィルムは、ポリマーフィルムの片面又は両面に、前記表面処理剤による被覆層が形成されている」、及び、段落【0069】の「本発明の被覆ポリマーフィルムは…乾燥後の塗布量が0.02?0.15g/m^(2)…程度であっても、防曇持続性が高い」との記載を根拠として、被覆層の単位面積あたりの質量(乾燥後の塗布量)を限定するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、特許明細書の段落【0069】の「本発明の被覆ポリマーフィルムは…乾燥後の塗布量が0.02?0.15g/m^(2)…程度であっても、防曇持続性が高い」との記載を根拠として、表面処理剤の乾燥後の塗布量を限定するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するものである。

2.独立特許要件
上記のとおり、訂正事項1?3に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであるので、次いで、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?9に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件訂正発明1?9」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて検討する。

(1)訂正後の請求項に係る発明
本件訂正発明1?9は、平成23年8月9日に提出された審判請求書に添付された、全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)独立特許要件について
訂正事項1?3は、上記のとおり、特許請求の範囲の請求項1、請求項5及び請求項9の減縮を目的とするものであって、本件訂正発明1、5及び9は、特許された本件訂正前の請求項1、請求項5及び請求項9に係る発明よりも減縮されたものである。
また、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?4、及び、本件訂正発明5を引用する本件訂正発明6?8は、それぞれ、特許された本件訂正前の請求項2?4及び6?8に係る発明よりも減縮されたものである。
したがって、本件訂正発明1?9は、特許された本件訂正前の請求項1?9に係る発明と同じく特許されるべきもの、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
また、その他に、本件訂正発明1?9が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
よって、訂正事項1?3に係る訂正は、特許法第126条第3項の規定に適合するものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
表面処理剤、被覆ポリマーフィルムとその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、乾燥後の塗布量0.02?0.15g/m^(2)で塗布し、防曇性及び耐ブロッキング性を付与するための表面処理剤であって、
ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含む表面処理剤。
【請求項2】ショ糖脂肪酸エステル100重量部に対して、固形分としてシリコーンエマルジョンを20?1000重量部、多糖類を10?1000重量部含む請求項1記載の表面処理剤。
【請求項3】ショ糖脂肪酸エステル100重量部に対して、固形分としてシリコーンエマルジョンを20?1000重量部、親水性高分子を10?100重量部含む請求項1記載の表面処理剤。
【請求項4】ショ糖脂肪酸エステルにおける脂肪酸の主成分がラウリン酸である請求項1?3のいずれかの項に記載の表面処理剤。
【請求項5】ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含み、かつ乾燥後の塗布量が0.02?0.15g/m^(2)である被覆層が形成されている被覆ポリマーフィルム。
【請求項6】ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルを10?50mg/m^(2)、固形分としてシリコーンエマルジョンを10?100mg/m^(2)、多糖類を5?100mg/m^(2)の割合で含む被覆層が形成されている請求項5記載の被覆ポリマーフィルム。
【請求項7】ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルを10?50mg/m^(2)、固形分としてシリコーンエマルジョンを10?100mg/m^(2)、親水性高分子を1?50mg/m^(2)の割合で含む被覆層が形成されている請求項5記載の被覆ポリマーフィルム。
【請求項8】ポリマーフィルムが、スチレン系ポリマーフィルムである請求項5?7のいずれかの項に記載の被覆ポリマーフィルム。
【請求項9】ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含む表面処理剤を、乾燥後の塗布量0.02?0.15g/m^(2)で塗布する被覆ポリマーフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、高い防曇性・ブロッキング防止性を付与できる表面処理剤、この表面処理剤で処理された被覆ポリマーフィルムおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、疎水性合成樹脂のフィルム・シート・プレートなどには、気温、湿度の変化により空気中の水蒸気がその表面に凝縮して微小水滴となって付着する。そのため、透明度が低下し、いわゆる曇り現象が発生することが多い。
【0003】
例えば、一般用(GP)ポリスチレンシートは透明性、耐水性及び成形性に優れているので各種食品包材として使われている。
【0004】
しかし、このシートから成形した容器に、青果物などを収納し包装して貯蔵した場合、青果物の90%が水分であるため、その表面から水蒸気が蒸発して容器の内部を飽和し、飽和水蒸気が容器内面に凝縮して微小な水滴となって付着する。その結果、この曇りによって収納物を識別することが困難となる。そして、透明性を特徴とするポリスチレンシートの商品価値を著しく低下させる。さらに、凝縮・付着した水分は、容器に収納した青果物にも影響を与える。すなわち、水滴と青果物が接触すると、接触部位から青果物の腐敗が始まり、青果物の品質を早期に低下させる場合がある。
【0005】
また、スチレン系ポリマーシートなどから容器を成形する場合、多数の容器を成形した後、成形容器を積み重ね、一括して打ち抜く方法が行われている。
【0006】
しかし、ポリマーシートを用いた成形品においては、成形品同士が密着する。そのため、打抜き工程の後、一個ずつ容器を剥がす必要があるだけでなく、剥離性が悪いため内容物を収納するための作業効率が低下する。さらに、無理に剥離させると、成形品が破損する場合がある。
【0007】
特開昭53-115781号公報には、熱可塑性樹脂フィルムの表面をコロナ放電処理により、表面張力40?55dyn/cmとした後、界面活性剤やポリビニルアルコールなどの防曇剤とシリコーンオイルとを付着させることが提案されている。この方法では、性質が相反する二種の成分を凝集させることなく均一にシートへ付着させることができ、表面の外観が良好で、防曇性と耐ブロッキング性とを併せ持つフィルムを製造できる。
【0008】
しかし、フィルム表面に水分が継続的に接触する場合、防曇剤が水に溶解して流出する。そのため、防曇機能及び耐ブロッキング機能を持続できない。また、深絞り成形に前記フィルムやシートを供すると、塗膜の分断破壊などが生じる。そのため、食品包装用として使用されることが多いスチレン系ポリマーシートに要求される特性を充足できなくなる。
【0009】
特公昭63-62538号公報には、ショ糖脂肪酸エステル、重合度800以下の無変性ポリビニルアルコール、および平均粒子径1μm未満のシリコーンエマルジョンを特定の割合で含む水溶液を、スチレン系樹脂フィルムに塗布する方法が開示されている。この方法では、前記フィルムよりも防曇性の高いスチレン系樹脂フィルムが得られる。
【0010】
しかし、このフィルムは、容器成形前後における白化の程度が大きく商品価値が低下する。しかも、防曇性を持続させるためには、乾燥後の塗布量を0.1g/m^(2)以上とする必要がある。すなわち、塗布量が0.1g/m^(2)未満では、防曇持続性が小さいだけでなく、成形後の容器の防曇性が大きく低下する。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、塗布量が少なくても、初期のみならず長期に亘り高い防曇性と耐ブロッキング性を付与できると共に、成形による塗膜の分断を抑制できる表面処理剤を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、高い防曇性および耐ブロッキング性を長期に亘り維持できる被覆ポリマーフィルムを提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、成形加工に供しても高い防曇性および耐ブロッキング性を長期に亘り維持できる被覆ポリマーフィルムを提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、簡単な操作で前記の如き優れた特性を有する被覆ポリマーフィルムを製造できる方法を提供することにある。
【0015】
【発明の構成】
本発明者は、前記の目的を達成するため鋭意研究の結果、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含む表面処理剤でポリマーフィルムやシートを処理すると、表面処理剤による塗膜が均一かつ強固に密着すると共に、水分による溶出が著しく抑制され、塗膜の厚みが小さくても、深絞り成形に供しても高い防曇性及び耐ブロッキングを長期に亘り維持できることを見いだし、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含む表面処理剤を提供する。
【0017】
また、本発明は、ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含む被覆層が形成されている被覆ポリマーフィルムを提供する。
【0018】
さらに、本発明は、ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子(但し、ポリビニルアルコールを除く)とを含む表面処理剤を塗布する被覆ポリマーフィルムの製造方法を提供する。
【0019】
なお、本明細書において「フィルム」とは、フィルムに限らず、二次元的な構造物、例えばシートやプレートなどを含む意味に用いる。
【0020】
本発明の表面処理剤は、少なくとも3成分、すなわち、ショ糖脂肪酸エステル、シリコーンエマルジョン、および多糖類及び/又は親水性高分子を含む。ショ糖脂肪酸エステルとシリコーンエマルジョンの二成分を含む処理剤では、均一な塗膜を得るのは困難であり、塗膜の白化やムラ、ベタツキが生じる。また、フィルム表面の水濡れによりショ糖脂肪酸エステルの流出や深絞り成形による塗膜の分断が生じ、商品価値を低下させる。
【0021】
一方、前記二成分に加えて、多糖類及び/又は親水性高分子を含む表面処理剤では、シリコーンエマルジョンがより安定化され、かつエマルジョン粒子は均一に分散し均一に付着する。そのため、塗膜の白化がない。多糖類及び/又は親水性高分子はバインダーとしても機能し、塗膜の密着強度を高めるとともに、深絞り成形によりフィルムが伸張しても塗膜の分断を防止する。さらに、多糖類及び/又は親水性高分子が親水性であるにも拘らず、フィルム表面の水濡れによる防曇剤の流出が著しく抑制され、防曇持続性および深絞り容器成形後の防曇性のみならず、ブロッキング防止性に優れ、食品包装などに適したフィルムを得ることができる。特に、塗膜の厚みが小さくても、前記の如き優れた特性を付与する。
【0022】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸などの炭素数6?30程度の飽和脂肪酸、リンデル酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、イソオレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数10?24程度の不飽和脂肪酸などのショ糖エステルが挙げられる。これらのショ糖脂肪酸エステルは、一種又は二種以上混合して使用できる。これらのショ糖脂肪酸エステルは防曇性が高い。
【0023】
これらのショ糖脂肪酸エステルのうち、炭素数8?20の飽和又は不飽和脂肪酸エステル、特に飽和脂肪酸エステルが好ましい。特に好ましいショ糖脂肪酸エステルには、炭素数10?18の脂肪酸エステル、なかでもラウリン酸を主成分とする脂肪酸エステルが含まれる。ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸残基は、主にラウリン酸、特に少なくとも50%以上のラウリン酸で構成されているのが好ましい。
【0024】
シリコーンエマルジョンとしては、シリコーンオイルを乳化分散させた種々のエマルジョンが使用できる。シリコーンオイルの種類は特に制限されず、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、トリフルオロプロピルポリシロキサンなどのアルキルポリシロキサン;ジフェニルポリシロキサンなどのアリールポリシロキサン;メチルフェニルポリシロキサンなどのアルキルアリールポリシロキサンなどが挙げられる。シリコーンオイルは、鎖状ポリシロキサンであってもよく、環状ポリシロキサンであってもよい。これらのシリコーンオイルも一種又は二種以上混合して使用できる。これらのシリコーンオイルのなかで、安全衛生上問題のないジメチルポリシロキサンが好ましい。
【0025】
シリコーンエマルジョンは、ブロッキング防止剤としての機能が高い。
【0026】
シリコーンオイルの粘度は特に制限されないが、通常、室温でのオストワルド粘度50?15000センチストークス、好ましくは100?10000センチストークス程度である。
【0027】
多糖類には、例えば、単一多糖類、複合多糖類やそれらの誘導体などが含まれる。多糖類には、例えば、動植物中の多糖類、澱粉誘導体、セルロース誘導体などが含まれる。
【0028】
動植物中の多糖類としては、例えば、澱粉、フィトグリコーゲン、フルクタン、ガラクトマンナン、グルコマンナン、マンナン、大麦及び燕麦グルカン、セルロース、ヘミセルロース、β-1,3-グルカン、ガラクタン、アラバン、キシラン、アラボガラクタン、アラボキシラン、アラボグルカン、ペクチン、アラビアゴム、トラガカントゴム、ローカストビーンゴム、グアールゴム、メスキットゴム、カラゲニン、グルクロノキシラン、ラミナラン、イヌリン、リケニン、フルクトサン、キチン、キトサン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、カロニン硫酸、ゼラチン、寒天、フコイジン、トロロアオイ、カードラン、ザンタンガム、プルラン、デキストラン、シクロデキストリン、ニゲラン、レバンなどが例示される。
【0029】
澱粉誘導体としては、例えば、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリティッシュガム、酸化澱粉、酸処理澱粉、α-澱粉、高含アミロース澱粉、ジアルデヒド澱粉、酢酸澱粉、澱粉グリコール酸ナトリウム、ヒドロキシエチル澱粉、燐酸澱粉、カチオン澱粉、架橋澱粉、澱粉有機酸エステル、澱粉無機酸エステル、アルキル及び置換アルキル澱粉エーテル、グラフト重合澱粉、及びそれらの誘導体などが例示される。
【0030】
セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、可溶性セルロースアセテート、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどが例示される。
【0031】
これらの多糖類は、食品及び食品添加物として使用されているので、食品包装用に使われることが多いポリマーフィルム、例えばスチレン系ポリマーフィルムに使用しても、安全衛生上問題がない。これらの多糖類は、バインダーとしての機能が高い。
【0032】
親水性高分子には、ポリビニルアルコールを除く水溶性高分子、水分散性高分子および水膨潤性高分子が含まれる。親水性高分子としては、例えば、ヒドロキシル基を有する単量体、カルボキシル基を有する単量体、アミド基を有する単量体、塩基性窒素原子を有する単量体などを構成成分とする単独または共重合体、ポリビニルエーテルなどが含まれる。
【0033】
ヒドロキシル基を有する単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレートなどのヒドロキシアルキルアクリレート、これらに対応するヒドロキシアルキルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0034】
カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
【0035】
アミド基を有する単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミドなどが挙げられる。塩基性窒素原子を有する単量体としては、例えば、N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N-ジエチルアミノエチルアクリレートやこれらに対応するメタクリレート、ビニルピロリドンなどが含まれる。
【0036】
前記単量体を構成成分として含む親水性ポリマーは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどの単量体との共重合体であってもよい。
【0037】
ポリビニルエーテルを構成する単量体には、例えば、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソプロピルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルなどのビニルエーテル類が含まれる。
【0038】
これらの親水性高分子は一種又は二種以上混合して使用できる。
【0039】
好ましい親水性高分子には、水溶性高分子又は水分散性高分子、特に水溶性高分子が含まれる。特に好ましい親水性高分子は、主鎖がエーテル基などの親水基を有さず、アルキレン基などの疎水性であり、側鎖にエステル基、エーテル基や塩基性窒素原子などの親水性基を有する高分子である。
【0040】
このような親水性高分子には、アクリル系ポリマー及びビニル系ポリマーが含まれる。なかでも側鎖に、カルボキシル基又はその塩を有するポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸系高分子とその塩)、エーテル基や塩基性窒素原子を有するビニル系ポリマー(例えば、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドンなど)が好ましい。(メタ)アクリル酸系高分子の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩などが挙げられる。
【0041】
(メタ)アクリル酸系高分子の塩のうち、アクリル酸系高分子の塩、特にポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。ポリアクリル酸ナトリウムは、食品添加物として認可されているので、食品包装用に使われることが多いポリマーフィルム、例えばスチレン系ポリマーフィルムに使用しても、安全衛生上問題がない。
【0042】
前記多糖類と親水性高分子は単独で用いてもよく併用してもよい。
【0043】
表面処理剤における前記成分の割合は、防曇性およびブロッキング防止性が損われない範囲で適当に選択できる。例えば、シリコーンエマルジョンの割合は、ショ糖脂肪酸エステル100重量部に対して、固形分として20?1000重量部、好ましくは50?500重量部、さらに好ましくは100?300重量部程度である。
【0044】
また、多糖類の割合は、ショ糖脂肪酸エステル100重量部に対して、10?1000重量部、好ましくは15?500重量部、さらに好ましくは30?250重量部程度である。
【0045】
さらに、親水性高分子の割合は、ショ糖脂肪酸エステル100重量部に対して、10?100重量部、好ましくは15?75重量部、さらに好ましくは20?50重量部程度である。
【0046】
なお、多糖類と親水性高分子とを併用する場合、両者の使用量は、多糖類と親水性高分子との割合に応じて、前記ショ糖脂肪酸エステル100重量部に対して、10?1000重量部の範囲内で選択できる。
【0047】
表面処理剤は、必要に応じて、種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤;消泡剤;充填剤;帯電防止剤;可塑剤;ワックス;染顔料などを含んでいてもよい。
【0048】
表面処理剤は、通常、水を含む水性である。水性表面処理剤は、水に加えて、親水性溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどを含んでいてもよい。
【0049】
前記表面処理剤は、慣用の混合撹拌機や混合分散機を用いて調製することができ、調製に際して前記シリコーンオイルを分散させてもよい。
【0050】
表面処理剤の粘度は、塗布性を損わない範囲で適当に選択できる。表面処理剤の一回の塗布により、防曇性及びブロッキング防止性を高める場合、表面処理剤の粘度は、例えば、5000cps以下、好ましくは10?2500cps程度である。
【0051】
本発明の被覆ポリマーフィルムは、ポリマーフィルムの片面又は両面に、前記表面処理剤による被覆層が形成されている。
【0052】
ポリマーフィルムのポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ-4-メチルペンテン-1などのオレフィン系ポリマー;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系ポリマー;ポリ塩化ビニル;塩化ビニリデン系ポリマー;スチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ナイロン又はポリアミド;ポリアクリロニトリル;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリフェニレンオキシド;ポリスルホン;ポリパラキシレン;ポリアミドイミド;ポリエステルイミド;セルロース誘導体などが挙げられる。
【0053】
好ましいポリマーフィルムには、成形加工性を有するフィルムが含まれる。ポリマーフィルムは、疎水性合成樹脂フィルム、例えば、オレフィン系ポリマー(特にポリプロピレン系ポリマー)、ポリエステル(特にポリエチレンテレフタレート)、スチレン系ポリマーで構成されているのが好ましい。
【0054】
スチレン系ポリマーには、スチレンを構成成分として含むスチレン単独重合体、スチレン系共重合体およびこれらを含む混合物が含まれる。より具体的には、スチレン系ポリマーとしては、例えば、一般用ポリスチレン(GPPS)、ゴム強化ポリスチレン(ハイインパクトポリスチレンHIPS)、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ABS樹脂、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、アクリルゴムにアクリロニトリルとスチレンがグラフト重合したAAS樹脂、塩素化ポリエチレンにアクリロニトリルとスチレンがグラフト重合したACS樹脂、エチレン-プロピレンゴム(EPDM)にアクリロニトリルとスチレンがグラフト重合したアクリロニトリル-EPDM-スチレンターポリマー、アクリロニトリル-(エチレン-酢酸ビニル共重合体)-スチレンターポリマーなどのAXS樹脂、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、アクリロニトリル-スチレン-メタクリル酸メチル共重合体などが例示される。これらのスチレン系ポリマーは単独で又は二種以上混合して使用できる。
【0055】
このようなスチレン系ポリマーフィルムは、耐水性及び成形加工性に優れている。そのため、容器などの成形用フィルムとして適している。また、ポリスチレンフィルムは透明性が高い。
【0056】
ポリマーフィルムは、種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などの安定剤、帯電防止剤、結晶核成長剤、炭化水素系重合体、可塑剤、充填剤、染顔料などを含んでいてもよい。
【0057】
ポリマーフィルムは単層フィルムであってもよく、二種以上のポリマー層が積層された積層フィルムであってもよい。ポリマーフィルムの厚みは、用途に応じて適当に選択でき、例えば、10μm?5mm、好ましくは25μm?1mm程度である。
【0058】
ポリマーフィルムは、T-ダイ法またはインフレーション法などの慣用の成膜方法で得ることができる。
【0059】
ポリマーフィルムは、未延伸であってもよいが、延伸されているのが好ましい。延伸フィルムは、一軸延伸フィルムであってもよいが、二軸延伸フィルム、特に二軸延伸スチレン系ポリマーフィルムであるのが好ましい。また、必要に応じて、延伸フィルムは熱処理されていてもよい。
【0060】
延伸法としては、慣用の延伸法、例えばロール延伸、圧延延伸、ベルト延伸、テンター延伸、チューブ延伸や、これらを組合せた延伸法などが挙げられる。延伸倍率は、所望するフィルムの特性に応じて適宜設定でき、例えば1.5?20倍、好ましくは2?15倍程度である。
【0061】
ポリマーフィルムの表面には、慣用の表面処理、例えば、コロナ放電処理、高周波処理などが施されていてもよい。ポリマーフィルムの表面処理はコロナ放電によるのが好ましい。ポリマーフィルムの表面張力は、フィルムの種類により異なるので一概に決定できないが、JIS K-6768「ポリエチレン及びポリプロピレンフィルムのぬれ試験方法」に準拠して測定したとき、35?65dyn/cm程度である。スチレン系ポリマーフィルムの場合、表面張力は40?60dyn/cm、好ましくは45?58dyn/cm程度である。
【0062】
このような表面張力を有するポリマーフィルム面を前記表面処理剤で処理すると、塗膜が強固に密着し、フィルム表面の水濡れに対する塗膜の耐久性が向上する。なお、フィルム表面の表面張力が65dyn/cmを越えると、フィルム表面が活性化され過ぎるためか、ブロッキングし易くなる。そのため、ロール状に巻いたフィルムを巻き戻すのが困難となったり、成形した複数の容器を積み重ねて打ち抜くと、容器同士が密着し、容器を剥離して内容物を収納する作業効率が低下し易い。
【0063】
ポリマーフィルムの表面処理は慣用の方法で行なうことができる。コロナ放電処理による処理の程度は、コロナ放電処理機の周波数、電圧、フィルムの通過速度、フィルムと電極との間の距離、雰囲気温度や湿度などにより調整することができる。
【0064】
前記被覆層が形成された本発明の被覆ポリマーフィルムは、白化やべたつきがなく表面外観に優れ、フィルム表面の水濡れに対して被覆層の成分が流出せず、深絞り成形により被覆層が分断されないという特色がある。また、被覆層の厚みが小さくても、また成形加工に供しても、高い防曇性を持続するという特色がある。
【0065】
前記被覆層中のショ糖脂肪酸エステル、シリコーン、及び多糖類及び/又は親水性高分子の含有量は、前記表面処理剤の組成割合に応じて、防曇性、耐ブロッキング性および塗膜の強度などを考慮して適当に選択できる。前記ショ糖脂肪酸エステル、シリコーンエマルジョンおよび多糖類を含む被覆層は、例えば、ショ糖脂肪酸エステルを10?50mg/m^(2)(好ましくは10?40mg/m^(2)、さらに好ましくは15?30mg/m^(2))、シリコーンエマルジョンを固形分として10?100mg/m^(2)(好ましくは15?75mg/m^(2)、さらに好ましくは20?50mg/m^(2))、多糖類を5?100mg/m^(2)(好ましくは5?50mg/m^(2)、さらに好ましくは5?30mg/m^(2))の割合で含むのが好ましい。
【0066】
ショ糖脂肪酸エステルが10mg/m^(2)未満であると、フィルム表面の防曇性が改善されず、50mg/m^(2)を越えると、防曇性は向上するが、ベタツキ、白化、ムラが発生し易く、表面状態が低下し易い。また、シリコーンエマルジョンが10mg/m^(2)未満であると、フィルムのブロッキングが生じ易く、100mg/m^(2)を越えると、耐ブロッキング性は向上するものの、ベタツキ、白化が生じ外観を損なう。多糖類が5mg/m^(2)未満であると、バインダーとしての効果及び防曇持続性が低下し、深絞り成形により塗膜が分断され易く、深絞り容器での防曇性が低下し易い。また、多糖類が100mg/m^(2)を越えると塗膜が白化し易くなる。
【0067】
ショ糖脂肪酸エステル、シリコーンエマルジョンおよび親水性高分子を含む被覆層は、ショ糖脂肪酸エステルを10?50mg/m^(2)(好ましくは10?40mg/m^(2)、さらに好ましくは15?30mg/m^(2))、シリコーンエマルジョンを固形分として10?100mg/m^(2)(好ましくは15?75mg/m^(2)、さらに好ましくは20?50mg/m^(2))、親水性高分子を1?50mg/m^(2)(好ましくは1.5?25mg/m^(2)、さらに好ましくは2?20mg/m^(2))の割合で含むのが好ましい。前記成分が上記範囲を外れると、多糖類を含む被覆層が形成されたポリマーフィルムと同様の傾向を示す。
【0068】
表面処理剤の塗布量は、前記より明らかなように、例えば、20?250mg/m^(2)、好ましくは25?150mg/m^(2)程度である。
【0069】
本発明の被覆ポリマーフィルムは、塗布量が少なくても、高い防曇持続性を有するという特色がある。例えば、乾燥後の塗布量が0.02?0.15g/m^(2)、好ましくは0.05?0.1g/m^(2)程度であっても、防曇持続性が高い。
【0070】
本発明の被覆ポリマーフィルムでは、ポリマーフィルムの少なくとも一方の面を表面処理剤で処理すればよく、片面を表面処理剤で処理し、他方の面を、種々の処理剤、例えばブロッキング防止性をより向上させるためのシリコーンエマルジョン、帯電防止性や滑り性を高めるための帯電防止剤や滑剤を含むコーティング剤で処理してもよい。
【0071】
本発明の被覆ポリマーフィルムの製造方法では、ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に、ショ糖脂肪酸エステルと、シリコーンエマルジョンと、多糖類及び/又は親水性高分子とを含む表面処理剤を塗布する。
【0072】
前記表面処理剤の塗布は、慣用の塗布手段、例えば、スプレー、ハケ、ロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター、ディップコーターなどを用いて行なうことができる。
【0073】
表面処理剤は複数回に亘りポリマーフィルムに塗布してもよいが、好ましくは1回の塗布操作により、前記被覆層を形成するのが好ましい。
【0074】
前記表面処理剤を塗布した後、通常、コーティング層を乾燥することにより、前記被覆ポリマーフィルムが得られる。
【0075】
本発明の方法では、塗布という簡単な操作で防曇性及び耐ブロッキング性に優れたポリマーフィルムが得られる。そのため、防曇剤、ブロッキング防止剤などをポリマーに練り込んでフィルム化する必要がなく、ブレンド工程が不要となり、被覆ポリマーフィルムを連続的に効率よく製造できる。また、被覆ポリマーフィルムを容器などの成形工程に連続的に供することにより、成形品の生産性を高めることができる。
【0076】
本明細書は、フィルムに限らず、前記表面処理剤で塗布されている容器などの成形品をも開示する。この成形品も高い防曇性及びブロッキング防止性を示す。前記成形品は、物品を収容する少なくとも容器本体を有している。容器本体の開口部はラッピングフィルムで覆ってもよい。また、成形品は、容器本体と、ヒンジ部を介して、前記容器本体の開口部を覆う蓋体とで構成されていてもよい。
【0077】
このような成形品は、本発明の表面処理剤を、少なくとも容器本体の内面に、噴霧などにより塗布することにより製造できる。また、蓋体を有する成形品では蓋体の内面も前記表面処理剤で処理してもよい。
【0078】
本発明の好ましい態様は次の通りである。
【0079】
(a)シリコーンエマルジョンが、安全衛生性の高いジメチルポリシロキサンを含むエマルジョンである。
【0080】
(b)親水性高分子が、主鎖が疎水性であり、側鎖が親水性基を有するポリマーである表面処理剤。
【0081】
(c)親水性高分子が、アクリル系ポリマー(例えば、ポリ(メタ)アクリル酸系高分子とその塩)又はビニル系ポリマー(例えば、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドンなど)である表面処理剤。
【0082】
(d)親水性高分子が、アクリル酸系高分子の塩である表面処理剤。
【0083】
(e)ポリマーフィルムが、成形加工性を有するフィルムである被覆ポリマーフィルム。
【0084】
(f)ポリマーフィルムが、表面張力40?60dyn/cmのスチレン系ポリマーフィルムである被覆ポリマーフィルム。
【0085】
(g)表面処理剤の乾燥後の塗布量が0.02?0.15g/m^(2)である被覆ポリマーフィルム。
【0086】
【発明の効果】
本発明の表面処理剤を用いると、次のような効果が生じる。
【0087】
(1)初期のみならず長期に亘り高い防曇性および耐ブロッキング性を付与できる。
【0088】
(2)容器成形時の熱及び絞り成形にも破壊されることがなく、水分により防曇剤が流出することのない塗膜を形成できる。
【0089】
(3)ベタツキや白化を抑制でき、ポリマーフィルムの特性、例えば、透明性、光沢などを損うことがない。
【0090】
(4)多糖類及び/又は親水性高分子によりシリコーンエマルジョンの分散安定性を高めることができる。
【0091】
(5)食品または食品添加物として認可されている、ショ糖脂肪酸エステル、シリコーンエマルジョンおよび多糖類及び/又は親水性高分子を使用できるので、安全衛生上問題がなく、食品包装用の処理剤として適している。
【0092】
本発明の被覆ポリマーフィルムでは、次のような効果が生じる。
【0093】
(6)容器成形時の熱及び絞り成形によっても被覆層が破壊されず、しかも被覆層中の防曇剤が水分により流出することなく、高い防曇性および耐ブロッキング性を長期に亘り維持できる。
【0094】
(7)ベタツキや白化がなく、透明性、光沢などにも優れている。
【0095】
(8)前記(5)のように、安全衛生上問題がない表面処理剤を使用できるので、食品包装用材料として適している。
【0096】
さらに、本発明の方法によれば、塗布という簡単な操作、特に一回の塗布操作により前記の如き優れた特性を有する被覆ポリマーフィルムを効率よく製造できる。
【0097】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において、フィルムの特性は以下の方法により評価した。
【0098】
(1)表面状態
表面処理剤を塗布し乾燥した後、20℃、65%RHの雰囲気下で一夜放置したシート表面のベタツキ及び表面の白化状態を以下の基準で評価する。
【0099】
○:白化もなく、べたつかない
×:べたつくか、あるいは白化する
(2)初期防曇性および防曇持続性
カップの中に20℃の水を入れ、処理面を内側にして、カップの上部を覆って密封し、5℃に温度を保った冷蔵庫内に入れ、曇の程度を経時的に目視で評価した。初期防曇性は5分経過後の曇の程度、防曇持続性は48時間後の曇の程度を示す。
【0100】
○:全く曇が見られない
△:処理面の一部に微小水滴が認められ、一部不透明となる。
【0101】
×:処理面の殆どが微小水滴により覆われ不透明となる
(3)成形品の外観品位
シートを、直径100mm、深さ10mm(深絞り比0.1)、20mm(深絞り比0.2)、30mm(深絞り比0.3)の3種の円柱形容器にそれぞれ成形し、容器の底面及びコーナー部の白化の有無を評価した。
【0102】
○:全く白化しない
×:少なくとも一部に白化が認められる
(4)容器成形後の防曇性
シートを、直径100mm、深さ10mm(深絞り比0.1)、20mm(深絞り比0.2)、30mm(深絞り比0.3)の3種の円柱形容器にそれぞれ成形し、80℃の湯から発生する水蒸気を当てて、容器の底面及びコーナー部における防曇性を判定した。
【0103】
○:容器の底面およびコーナー部が曇らない
△:容器の底面は曇らないが、コーナー部の一部が曇る
×:容器の底面およびコーナー部が曇る
(5)耐水性シートを20℃の水に30秒間浸漬し、乾燥した後、80℃の湯から発生する水蒸気を当てて防曇性を判定した。
【0104】
○:全く曇らない
×:少なくとも一部が曇る
(6)ブロッキング防止性
表面処理されたフィルム面が内側になるように、直径100mm、深さ10mm、20mm、及び30mmの三種の大きさの円柱形容器に成形し、得られた20個の成形品を重ね合わせ、上下から手で押し付けて成形品を相互に密着させた。積み重ねられた成形品を、手で一個ずつ取出す際の剥離性を調べた。
【0105】
○:円滑に剥離できる
△:剥離性が若干劣る
×:剥離しにくい
また、実施例及び比較例で用いたシートのコロナ放電処理は、次のようにして行った。すなわち、JIS K-6768に準拠して測定した表面張力が33dyn/cmの二軸延伸ポリスチレンシート(肉厚250μm)を、コロナ放電処理機(PILLAR製AB708-18、容量1.5KW)の電極間に通過させ、表面張力が58dyn/cmの二軸延伸ポリスチレンシートを得た。
【0106】
実施例1?4
脂肪酸の主体がラウリン酸であるショ糖脂肪酸エステル(理研ビタミン(株)製,商品名「リケマールA」)と、ジメチルポリシロキサンのシリコーンエマルジョン(信越化学(株)製,商品名「信越シリコーンKM893」)と、多糖類とを組合せて表1に示す割合(重量部)の水性表面処理剤を調製した。
【0107】
なお、多糖類として、白色デキストリン(シグマ社製,商品名「TypeII white powder」)(実施例1)、アラビアガム(和光純薬工業(株)製)(実施例2及び4)、溶性澱粉(和光純薬工業(株)製)(実施例3)を用いた。また、表面処理剤の溶媒としては水のみを用いた。
【0108】
これらの表面処理剤を、コロナ放電処理により表面張力が58dyn/cmの二軸延伸ポリスチレンシートに塗布し、表1に示す塗布量(乾燥後)の塗膜を形成した。
【0109】
比較例1?5
実施例で用いたショ糖脂肪酸エステルと、ジメチルポリシロキサンのシリコーンエマルジョンと、溶性澱粉とを組合せて表2に示す割合(重量部)の水性表面処理剤を調製した。
【0110】
得られた表面処理剤を、実施例1と同様にして、コロナ放電処理した二軸延伸ポリスチレンシートに塗布し、表2に示す塗布量(乾燥後)の塗膜を形成した。
【0111】
比較例6
ソルビタンモノオレートのエチレンオキサイド付加物と、メチルポリシロキサンエラストマーとを表2に示す割合(重量部)で含む水性表面処理剤(特開昭53-115781号参照)を調製した。
【0112】
得られた表面処理剤を、実施例1と同様にして、コロナ放電処理した二軸延伸ポリスチレンシートに塗布し、表1に示す塗布量(乾燥後)の塗膜を形成した。
【0113】
そして、前記実施例1?4及び比較例1?6で得られた被覆フィルムの特性を前記評価方法に従って評価した。結果を表2に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

表1及び表2から、ショ糖脂肪酸エステル、シリコーンエマルジョン及び多糖類を含む表面処理剤で処理したスチレン系ポリマーフィルムは、深絞り成形に供しても、外観、防曇性、ブロッキング防止性が高い。
【0116】
これに対して、ショ糖脂肪酸エステル、シリコーンエマルジョン及び多糖類のいずれかの成分を含まない比較例1?5の表面処理剤で処理したポリマーフィルムは、外観、防曇性、ブロッキング防止性が悪いだけでなく、成形加工により塗膜が分断され、防曇性が低下する。また、ショ糖脂肪酸エステルに代えて界面活性剤を用い、多糖類を含まない比較例6の表面処理剤では、界面活性剤が水により流出し防曇性が持続せず、しかも成形により塗膜が分断され、防曇性がさらに低下する。
【0117】
実施例5?9
脂肪酸の主体がラウリン酸であるショ糖脂肪酸エステル(理研ビタミン(株)製,商品名「リケマールA」)と、ジメチルポリシロキサンのシリコーンエマルジョン(信越化学(株)製,商品名「信越シリコーンKM893」)と、親水性高分子とを組合せて表3に示す割合(重量部)の水性表面処理剤を調製した。
【0118】
なお、親水性高分子として、重合度の異なるポリアクリル酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製)(実施例5?8)とポリビニルピロリドン(アルドリッチ社製)(実施例9)を用いた。また、表面処理剤の溶媒としては水のみを用いた。
【0119】
これらの表面処理剤を、実施例1と同様の二軸延伸ポリスチレンシートに塗布し、表3に示す塗布量(乾燥後)の塗膜を形成した。
【0120】
比較例7
実施例1で用いたショ糖脂肪酸エステルと、実施例5で用いたポリアクリル酸ナトリウムとを組合わせて表3に示す割合(重量部)の水性表面処理剤を調製し、実施例1と同様にして、コロナ放電処理した二軸延伸ポリスチレンシートに塗布し、表3に示す塗布量(乾燥後)の塗膜を形成した。
【0121】
比較例8
実施例1で用いたショ糖脂肪酸エステル及びシリコーンエマルジョンと、ポリビニルアルコールとを用い、表3に示す割合(重量部)の水性表面処理剤を調製し、実施例1と同様にして、コロナ放電処理した二軸延伸ポリスチレンシートに塗布し、表3に示す塗布量(乾燥後)の塗膜を形成した。
【0122】
そして、前記実施例5?9及び比較例7,8で得られた被覆フィルムの特性を前記評価方法に従って評価した。結果を表3に示す。
【0123】
【表3】

表3から、比較例7及び比較例8の被覆フィルムに比べて、ショ糖脂肪酸エステル、シリコーンエマルジョンおよび親水性高分子を含む表面処理剤で処理したスチレン系ポリマーフィルムは、深絞り成形に供しても、外観、防曇性、ブロッキング防止性が高い。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2011-09-21 
出願番号 特願平4-114012
審決分類 P 1 41・ 851- Y (C08J)
最終処分 成立  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 近藤 政克
小林 均
登録日 2001-10-19 
登録番号 特許第3241797号(P3241797)
発明の名称 表面処理剤、被覆ポリマーフィルムとその製造方法  
代理人 鍬田 充生  
代理人 阪中 浩  
代理人 阪中 浩  
代理人 鍬田 充生  
代理人 阪中 浩  
代理人 鍬田 充生  

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