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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800029 審決 特許
無効200580021 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効200580069 審決 特許
無効2009800243 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 特29条特許要件(新規)  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1247241
審判番号 無効2007-800195  
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-09-14 
確定日 2011-11-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第3664648号フルオロエーテル組成物及び、ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法の特許無効審判事件についてされた平成20年 3月13日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10276号平成22年 1月19日判決言渡)があったので、さらに審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3664648号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、無効2006-80264と無効2007-800195のいずれについても、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3664648号(以下、「本件特許」という。)に係る発明についての特許出願(特願2000-349024 以下、「本件出願」という。)の手続及び一次審決までの無効審判請求手続の経緯は以下のとおりである。
i)特願平10-532168(原出願)の出願
平成10年 1月23日(優先日 平成9年1月27日)
ii)本件出願(原出願の分割として出願) 平成12年11月16日
iii)本件特許の設定登録 平成17年 4月 8日
iv)特許公報の発行 平成17年 6月29日
v)審判請求(無効2006-80264) 平成18年12月15日
vi)審判請求(無効2006-80265) 平成18年12月15日
vii)併合審理通知(無効2006-80264 無効2006-80265) 平成19年 1月 9日
viii)審判請求(無効2007-800195)平成19年 9月14日
ix)併合審理通知(無効2006-80264、無効2006-80265、無効2007-800195) 平成20年 1月 8日
x)審決(一次審決) 平成20年 3月13日

そして、該審決(1次審決;無効2006-80264,無効2006-80265,無効2007-800195の3件の無効審判事件について併合審理された審決)は、請求人によってなされた本件請求項1?2に係る発明の特許を無効にすべき旨の審判の請求について、「本件審判の請求は、成り立たない。」というものであった。
これに不服の請求人が審決取消訴訟を提起し、知的財産高等裁判所において平成20年(行ケ)10276号事件として審理され、無効2006-80264と無効2007-800195について平成20年3月13日にした審決を取り消す、その余の原告の請求を棄却するとの判決が言い渡され、同判決は確定した。
それゆえ、無効2006-80265について平成20年3月13日にした審決は、確定している。

その後、特許法第134条の3第1項の規定に基づき被請求人より平成22年11月11日付けで訂正請求がなされた。以後の無効審判手続の経緯、提出された書類等は、以下のとおりである。
a)訂正請求 平成22年11月11日付け
b)上申書(被請求人による) 平成22年11月18日付け
c)訂正請求書、上申書の送付(答弁指令)平成22年11月26日付け
d)弁駁書 平成23年 1月19日付け
e)上申書(請求人による) 平成23年 2月10日付け
f)弁駁書、上申書の送付(弁駁指令) 平成23年 2月21日付け
g)訂正拒絶理由通知と職権審理結果通知 平成23年 2月21日付け
h)意見書 平成23年 4月14日付け

上記a)?h)の書類は、無効2006-80264と無効2007-800195について、甲号証と乙号証の一部の番号が異なるだけであり、実質同一のものである(無効2006-80264での甲第37?40号証および乙第26号証と、無効2007-800195での甲第11?14号証および乙第11号証とは、同じものである。)。d)の弁駁書は、無効2006-80264では弁駁書(1)、無効2007-800195では弁駁書(3)である。
また、平成23年2月21日付け通知の訂正拒絶理由は、平成23年1月19日付け弁駁書(弁駁書(1),弁駁書(3))の第6頁1行?第13頁15行(「7.3訂正請求について」?「7.3.4」)において、請求人が意見を述べた訂正の違法性について当審から同時に送付する答弁指令(弁駁書副本の送付通知)で答弁を求めるとともに、追加の訂正拒絶理由を通知し意見を求めたものである。

第2 原出願明細書等、分割出願明細書、本件明細書の記載について
本件については、原出願との関係が検討されることになるところ、以下において、原出願に添付された明細書及び図面を「原出願明細書等」といい、分割出願時の当初明細書を「分割出願明細書」といい、本件特許の特許明細書を「本件明細書」という。また、原出願は国際出願であるから、その翻訳文が原出願明細書とみなされるが、ここで,原出願明細書と分割出願明細書の記述をみると、前者の「発明の技術分野」から実施例7(1ないし26頁)までの記載は、後者の【発明の詳細な説明】以下の段落【0001】ないし【0058】の段落番号が付された部分の記述と全く同一であり、図面にも変更はない。また、分割出願明細書の上記段落の記述は本件明細書においても全く同一である。したがって、以下、本件においては、原出願明細書等の記載内容をこれに対応する本件明細書の段落番号等によって引用して検討することとする。一次審決についての上記判決でも、このような扱いがされている。

原出願明細書等、分割出願明細書、本件明細書には、以下の記載がある。 (i)「【0001】発明の技術分野
本発明は、一般に、ルイス酸の存在下においても分解しない、安定した麻酔用フルオロエーテル組成物に関する。また、本発明は、ルイス酸の存在下におけるフルオロエーテルの分解抑制法についても開示する。」
(ii)「【0002】発明の背景
フルオロエーテル化合物は麻酔薬として広く用いられている。麻酔薬として使用されているフルオロエーテル化合物の例は、セボフルラン(フルオロメチル-2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチルエーテル)、エンフルラン((±-)-2-クロロ-1,1,2-トリフルオロ
エチルジフルオロメチルエーテル)、イソフルラン(1-クロロ-2,2,2-トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)、メトキシフルラン(2,2-ジクロロ-1,1-ジフルオロエチルメチルエーテル)、及びデスフルラン((±-)-2-ジフルオロメチル1,2,2,2-テトラフルオロエチルエーテル)を含む。」
(iii)「【0003】フルオロエーテルは優れた麻酔薬であるが、幾つかのフルオロエーテルでは安定性に問題があることが判明した。より詳細には、特定のフルオロエーテルは、1種類もしくはそれ以上のルイス酸が存在すると、フッ化水素酸等の潜在的に毒性を有する化学物質を含む幾つかの産物に分解することが明らかになった。フッ化水素酸は経口摂取及び吸入すると毒性を呈し、皮膚や粘膜を強度に腐食する。従って、医療分野では、フルオロエーテルのフッ化水素酸等の化学物質への分解に対する関心が高まっている。
【0004】フルオロエーテルの分解はガラス製の容器中で起こることが分かった。ガラス製容器中でのフルオロエーテルの分解は容器中に存在する微量のルイス酸によって活性化されるものと考えられる。ルイス酸のソースはガラスの天然成分である酸化アルミニウムであり得る。ガラス壁が何らかの原因で変質または腐食すると酸化アルミニウムが露出し、容器の内容物と接触するようになる。すると、ルイス酸がフルオロエーテルを攻撃し、フルオロエーテルを分解する。
【0005】例えば、フルオロエーテルであるセボフルランが無水条件下でガラス容器中の1種類もしくはそれ以上のルイス酸と接触すると、ルイス酸はセボフルランをフッ化水素酸と幾つかの分解産物に分解し始める。セボフルランの分解産物は、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、メチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル、ジメチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル、及びメチレングリコールフルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテルである。セボフルランの分解により生じたフッ化水素酸が更にガラス表面への攻撃を進行させ、ガラス表面に更に多くのルイス酸を露出させる。この結果、セボフルランの分解が一層促進される。
【0006】ルイス酸の存在下におけるセボフルランの分解メカニズムは次のように図解することができる:
【0007】 【化1】

【0008】・・・・【表1】(略)・・・
【0009】従って、当分野においては、ルイス酸の存在下においても分解しないフルオロエーテル化合物を含有する安定した麻酔薬組成物が求められている。」
(iv)「【0010】発明の要約
本発明は、そこに有効な安定化量のルイス酸抑制剤が付加されたアルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物を含有する安定な麻酔薬組成物に関する。好適なフルオロエーテル化合物はセボフルランであり、また、好適なルイス酸抑制剤は水である。本組成物は、ルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に加えることにより、またはフルオロエーテル化合物をルイス酸抑制剤に加えることにより、あるいは容器をルイス酸抑制剤で洗浄した後、フルオロエーテル化合物を加えることにより調製することができる。
【0011】また、本発明は、アルファフルオロエーテル部分を有するフルオロエーテル化合物の安定化法も含む。本方法は、有効な安定化量のルイス酸抑制剤をフルオロエーテル化合物に加えることにより、ルイス酸による該フルオロエーテル化合物の分解を防止することを含む。好適なフルオロエーテル化合物はセボフルランであり、また、好適なルイス酸抑制剤は水である。」
(v)「【0018】本発明の麻酔薬組成物は少なくとも1つの無水フルオロエーテル化合物を含んでいる。本明細書で用いる「無水」という用語は、そのフルオロエーテル化合物に含まれている水の量が約50ppm未満であることを意味している。本組成物に使用されるフルオロエーテル化合物は次の化学構造式Iに相当するものである。
【0019】【化2】

(vi)「【0026】また、本発明の麻酔薬組成物は生理学的に許容可能なルイス酸抑制剤も含んでいる。本明細書で用いる「ルイス酸抑制剤」という用語は、ルイス酸の空軌道と相互作用し、それによりその酸の潜在的な反応部位を遮断するあらゆる化合物を表している。生理学的に許容可能なあらゆるルイス酸抑制剤を本発明の組成物に使用することができる。本発明で使用できるルイス酸抑制剤の例は、水、ブチル化ヒドロキシトルエン(1,6-ビス(1,1-ジメチル-エチル)-4-メチルフェノール)、メチルパラベン(4-ヒドロキシ安息香酸メチルエステル)、プロピルパラベン(4-ヒドロキシ安息香酸プロピルエステル)、プロポホール(2,6-ジイソプロピルフェノール)、及びチモール(5-メチル-2-(1-メチルエチル)フェノール)を含む。」
(vii)「【0027】本発明の組成物は有効な安定化量のルイス酸抑制剤を含んでいる。本組成物に使用できるルイス酸抑制剤の有効な安定化量は、約0.0150%w/w(水当量)からフルオロエーテル化合物中におけるルイス酸抑制剤の約飽和レベルまでであると考えられる。本明細書で用いる「飽和レベル」という用語は、フルオロエーテル化合物中におけるルイス酸抑制剤の最大溶解レベルを意味している。飽和レベルは温度依存性であり得ることが理解されよう。また、飽和レベルは、本組成物に使用する個々のフルオロエーテル化合物及び個々のルイス酸抑制剤にも依存するであろう。例えば、フルオロエーテル化合物がセボフルランで、且つルイス酸抑制剤が水の場合、本組成物を安定化するために使用される水の量は、約0.0150%w/wから0.14%w/w(飽和レベル)であると考えられる。しかし、一旦本組成物がルイス酸に晒されると、本組成物とルイス酸抑制剤の望ましくない分解反応を防止するため、ルイス酸抑制剤がルイス酸と反応するので、本組成物中のルイス酸抑制剤量は減少し得ることに留意すべきである。」
(viii)「【0028】本発明の組成物で使用するのに好適なルイス酸抑制剤は水である。精製水または蒸留水、あるいはそれらの組み合わせを使用することができる。先述の如く、本組成物に付加できる水の有効量は、約0.0150%w/wから約0.14%w/wであり、好適には約0.0400%w/wから約0.0800%w/wであると考えられる。他のルイス酸抑制剤の場合は、水のモル量に基づくモル当量を使用すべきである。
【0029】フルオロエーテル化合物がルイス酸に晒されると、本組成物中に存在する生理学的に許容可能なルイス酸抑制剤がルイス酸の空軌道に電子を供与し、該抑制剤と該酸との間に共有結合を形成する。これにより、ルイス酸はフルオロエーテルのアルファフルオロエーテル部分との反応が妨げられ、フルオロエーテルの分解が防止される。」
(ix)「【0030】本発明の組成物は様々な方法で調製することができる。ある局面では、先ずガラス製ボトル等の容器をルイス酸抑制剤で洗浄またはすすぎ洗いした後、その容器にフルオロエーテル化合物が充填される。任意に、洗浄またはすすぎ洗いした後、その容器を部分的に乾燥させてもよい。フルオロエーテルを容器に付加した後、その容器を密封する。本明細書で用いる「部分的に乾燥」という用語は、乾燥された容器または容器内に化合物の残留物が残るような不完全な乾燥プロセスを表している。また、本明細書で用いる「容器」という用語は、物品を保持するために使用することができるガラス、プラスチック、スチール、または他の材料でできた入れ物を意味している。容器の例は、ボトル、アンプル、試験管、ビーカー等を含む。」
(x)「【0031】別の局面では、フルオロエーテル化合物を容器に充填する前に、乾燥した容器にルイス酸抑制剤を加える。ルイス酸抑制剤を加えた後、その容器にフルオロエーテル化合物が付加される。代替的に、既にフルオロエーテル化合物を含有している容器にルイス酸抑制剤を直接加えてもよい。
【0032】更に別な局面では、フルオロエーテル化合物が充填されている容器にルイス酸抑制剤を湿潤条件下で加えてもよい。例えば、水分が容器内に蓄積するだけの充分な時間の間、容器を湿潤チャンバー内に置くことにより、フルオロエーテル化合物が充填された容器に水を加えることができる。」
(xi)「【0033】ルイス酸抑制剤は製造プロセスのあらゆる適切なポイントで本組成物に加えることができ、例えば、500リットル入り出荷容器等の出荷容器に充填する前の最終製造ステップで加えることもできる。適当な量の本組成物をその容器から分注し、当産業分野で使用するのにより好適なサイズの容器、例えば250mL入りガラス製ボトル等の容器に入れて包装することができる。更に、適量のルイス酸抑制剤を含有する少量の本組成物を用いて容器を洗浄またはすすぎ洗いし、容器に残っている可能性のあるルイス酸を中和することができる。ルイス酸を中和したら容器を空にし、その容器に付加量のフルオロエーテル化合物を加え、容器を密封してもよい。」
(xii)「【0035】実施例1:ルイス酸としての活性アルミナ
タイプIIIのガラスは主に二酸化珪素、酸化カルシウム、酸化ナトリウム、及び酸化アルミニウムからなっている。酸化アルミニウムは既知のルイス酸である。ガラスマトリックスは常態ではセボフルランに不活性である。しかし、特定の条件(無水、酸性)下では、ガラス表面が攻撃され、または変質し、セボフルランを酸化アルミニウム等の活性ルイス酸部位に晒すことがある。」
(xiii)「【0040】実施例3:水添加試験(109ppmから951ppm)によるアンプル内でのセボフルランの分解
タイプIの透明ガラス製アンプルを用いて、様々なレベルの水がセボフルランの分解を抑制する効果について試験した。約20mLのセボフルランと、約109ppmから約951ppmの範囲の異なるレベルの水を各アンプルに入れた。その後、それらのアンプルをシールした。合計10本のアンプルにセボフルランと様々な量の水を充填した。そのうち5本のアンプルをセットAとし、残りの5本をセットBとした。次いで、それらのアンプルを119℃で3時間オートクレーブした。セットAのサンプルは一晩振とう機に掛け、水分をガラス表面に被覆できるようにした。セットBのサンプルはガラス表面を水で平衡化することなく調製した。幾つかの対照サンプルも調製した。オートクレーブに掛けていない2本のアンプル(対照アンプル1及び対照アンプル2)と1本のボトル(対照ボトル)に、それぞれ、20mLのセボフルランを充填した。どの対照サンプルにも水を全く加えなかった。また、対照サンプルは一晩振とうもしなかった。ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)と総分解産物(メチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル、ジメチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル、メチレングリコールフルオロメチルヘキサフルオロイソプロピルエーテルを含む)のレベルをガスクロマトグラフィーで測定した。その結果が以下の表2に示されている。
【0041】・・・(略)・・・
【0042】上記表2の結果は、セットA及びセットBのアンプルの場合、少なくとも595ppmの水があれば充分にセボフルランの分解を抑制できることを示している。また、この結果は、一晩振とうしたアンプルと一晩振とうしなかったアンプルとの間に有意な差がないことを示している。」
(xiv)「【0045】表3の結果は、40℃で200時間貯蔵した場合、206ppmより以上のレベルの水があればセボフルランの分解を抑制できることを示している。また、サンプルを60℃で144時間またはそれ以上貯蔵した場合には、303ppmより以上のレベルの水があればセボフルランの分解を抑制できる。このデータは、温度が上昇すると、セボフルランの分解抑制に必要な水の量が増大することを示唆している。」
(xv)「【0050】実施例6:活性化されたタイプIII褐色ガラス製ボトル内でのセボフルランの分解に関する追加試験
実施例5の各ボトル内でのセボフルランの分解の程度をガスクロマトグラフィーで定量化した。10本のボトルを、対照Sevoグループ(ボトル2、3、5、7、8を含む)と試験Sevoグループ(ボトル1、4、6、9、10を含む)の2つのグループに分けた。
【0051】10本のボトルすべてを、約20ppmの水を含有する分解していないセボフルランで再度数回すすぎ洗いした。5本の対照Sevoグループのボトルに対しては、約20ppmの水を含有する100mLのセボフルランを各ボトルに入れた。一方、5本の試験グループボトルに対しては、約400ppmの水(添加)を含有する100mLのセボフルランを各ボトルに入れた。
【0052】開始時(時間ゼロ時)と50℃で18時間加熱した後にすべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した。ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)、ジメチレングリコールビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル(P2)、及び総分解産物を測定した。その結果が以下の表6に示されている。」
(xvi)「【0056】実施例7:活性化されたタイプIII褐色ガラス製ボトル内でのセボフルランの分解に関する追加試験
実施例6の試験Sevoグループの5本のボトルからセボフルランをデカントした。各ボトルを新鮮なセボフルランで充分にすすぎ洗いした。次いで、各ボトルに約125mLの水飽和セボフルランを入れた。その後、その5本のボトルを回転機に約2時間掛け、活性化されたガラス表面に水を被覆できるようにした。次いで、各ボトルから水飽和セボフルランを排液し、400(添加)ppmの水を含有する100mLのセボフルランで置換した。50℃で18時間、36時間、及び178時間加熱した後、すべてのサンプルをガスクロマトグラフィーで分析した。ビスヘキサフルオロイソプロピルエーテル(P2)と総分解産物について測定した。その結果が以下の表7に示されている。
【0057】・・・

【0058】表7の結果は、活性化されたガラス表面を加熱する前に水飽和セボフルランで処理することにより、セボフルランの分解が大いに抑制されたことを示している。」


第3 訂正の適否(無効2006-80264と無効2007-800195に共通)
(1)訂正の内容
平成22年11月11日付け訂正請求は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次のとおりである。本件特許発明、即ち特許請求の範囲の請求項1,2に係る発明(後記「第4 本件特許発明」参照)について、次の訂正事項1?3の訂正をするものである。

「訂正事項1」
請求項1において、「空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を
供与するルイス酸抑制剤」を「水」に訂正すると共に、これに伴い請
求項2を削除する。
「訂正事項2」
請求項1において、「被覆」を「洗浄またはすすぎ洗い」に訂正する 。
「訂正事項3」
請求項1において、「容器」を「ガラス製容器」に訂正する。

そして、被請求人は、上記訂正はいずれも、特許請求の範囲の減縮を目的として限定するものである旨、及び、新規事項を追加するものに当たらない旨、技術的範囲が拡張又は実質的に変更されることにはならない旨を主張している。

(2)訂正の可否に対する判断
本無効事件の一次審決の判決(平成20年(行ケ)第10276号判決)は、判示の拘束力を有するものであるところ、判決書の第71頁3行?第72頁18行(無効2006-80264での甲第37号証,無効2007-800195での甲第11号証を参照)において、
『「ルイス酸抑制剤」から形成される「被覆」には、上述のような広範な「被覆」が包含されることとなる。』,『「被覆」という用語が記載されている箇所は、実施例3に関する段落【0040】及び実施例7に関する段落【0056】だけである。』,『段落【0040】には、「それらのアンプルを119℃で3時間オートクレーブした。セットAのサンプルは一晩振とう機に掛け、水分をガラス表面に被覆できるようにした。」と記載されているが、実施例3については、結局水分をガラス表面に被覆した場合としない場合とで「有意な差がない」(段落【0042】)と結論付けられているから、本件発明に係る「被覆」には該当しない実施例というべきであり、本件発明とは関係がないというほかない。』,『段落【0056】には、・・・と記載されているところ、この実施例7は、要するに「活性化されたタイプIII褐色ガラス製ボトル」の内壁を水飽和セボフルランで回転機に約2時間掛けて「水」を被覆することが記載されているにすぎず、この段落【0056】の記載を前提としても、「被覆」の態様は回転機に2時間掛けるという特殊な態様に限定されている上、「ガラス容器」以外の容器の内壁に「水」以外のルイス酸抑制剤を被覆することは何ら開示されていない。』,『段落【0040】及び【0056】に記載されているのはルイス酸抑制剤の一例としての「水」であり、しかも、いずれの場合もセボフルランに溶解していることが前提とされているのであるから、当業者が、出願時の技術常識に照らして、セボフルランに溶解していない水以外のルイス酸抑制剤で容器の内壁を「被覆」することでセボフルランの分解を抑制できるという技術的事項がそこに記載されているのと同然であると理解できるとはいえない。』こと等を認定し、
『したがって、原出願明細書等に,「水飽和セボフルランを入れてボトルを回転機に約2時間掛けること」という態様の「被覆」以外に、ルイス酸抑制剤の量に応じて適宜変更可能な各種の態様を含む広い上位概念としての「被覆」が実質的に記載されているとはいえない。』と結論付け、
『以上のとおり、原出願明細書等には、構成要件(D)、すなわち、「該容器の内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程」は記載されておらず、その記載から自明であるともいえないから、分割要件を満足するとした審決の判断は誤りである。』と判示されている。

ここで、原出願明細書等の発明の詳細な説明は、本件明細書の発明の詳細な説明とは段落番号の有無を除き同一であることを勘案すると、上記判示及びそれを導くための認定事項は、本件明細書についても言えることである。
そうすると、単に、該ガラス製容器の該内壁を「水で洗浄またはすすぎ洗いする」工程は、そのような限定だけでは本件明細書に記載されているとはいえないし、自明であるともいえないことになる。
したがって、請求項1において、「容器」を「ガラス製容器」と訂正(訂正事項3)することを伴うとしても、「空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する」ことを、「水で洗浄またはすすぎ洗いする」ことと訂正(訂正事項1と訂正事項2)することは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは解することはできないし、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないと解することもできない。
そして、請求項2を削除する訂正(訂正事項1)は、請求項1についての「空軌道を有するルイス酸を有する当該軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤」を「水」に訂正すると共に、それに伴って請求項2を削除することを目的としていたのであるから、請求項1の訂正が上記の理由で認められないことになるような場合にまで請求項2を削除することは目的とされていないものと解するのが相当である。
よって、本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての本件訂正は、特許法第134条の2第5項で準用する第126条第3項、または同第126条第4項に規定する要件を充足するものではないから、そして、そのような請求項1に係る発明についての訂正が認められない場合に請求項2を削除することは目的とされていないのであるから、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することはできない。

ところで、被請求人は、平成23年4月14日付け意見書において、『そもそも、同判決では、あくまで「広い上位概念としての「被覆」」が、本件特許明細書に実質的に記載されているといえるか否かという点についての判断を示したものであって、個別の具体的態様、特に、「水で洗浄またはすすぎ洗いする」といった特定の態様について、「実質的に記載されている」か否かについてまでの判断を示したものでは全くない。』と主張する。
しかし、判決では、『「水飽和セボフルランを入れてボトルを回転機に約2時間掛けること」という態様の「被覆」以外に、ルイス酸抑制剤の量に応じて適宜変更可能な各種の態様を含む広い上位概念としての「被覆」が実質的に記載されているとはいえない。』との前提に立って判示されているのであるから、「水飽和セボフルランを入れてボトルを回転機に約2時間掛けること」という態様を含むとしても、その上位概念である単に「水で洗浄またはすすぎ洗いする」ことが開示されていると理解することはできず、被請求人の前記主張は採用できないものである。
さらに、被請求人は、「洗浄またはすすぎ洗い」工程自体は容器の内壁全体を正常化するのは周知慣用の手段であり、例えば、乙号証として「2003日本包装機械便覧 平成14年10月2日,社団法人日本包装機械工業会発行,106頁及び111頁」(無効2006-80264における乙第26号証,無効2007-800195における乙第5号証)を提示しつつ容器内壁全体を万遍なく充分に洗い流すのであり、少なくとも容器の容積の数%以上の水が用いられることを指摘するなどして、たとえ、具体的な実施例自体は記載されていなくとも、本件特許明細書に接した当業者であれば、「水で洗浄またはすすぎ洗いする工程」によって、必然的に水によって容器内壁に存在し得るルイス酸が中和され、容器内壁に存在し得るルイス酸によるセボフルランの分解を抑制することができるといった本件特許発明の作用効果を奏することについて容易に理解することができ、したがって、「水で洗浄またはすすぎ洗いする工程」が実質的に本件特許明細書に記載されているといえるのは明らかである旨等を主張する。
しかし、一般的な汚れを落とすことを目的とする洗浄またはすすぎ洗いと本件訂正発明のルイス酸の中和を目的とする洗浄又はすすぎ洗いとでは目的が異なるものであるから、勘案できるものではない。また、被請求人のその他の主張を検討しても、上記判断を左右できない。


第4 本件特許発明
上記検討のとおり、訂正請求は認められないので、本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。以下、それぞれを「本件発明1」、「本件発明2」、これらを総称して「本件発明」ということがある。

【請求項1】 一定量のセボフルランの貯蔵方法であって、該方法は、内部空間を規定する容器であって、かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程、一定量のセボフルランを供する工程、該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程、及び該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項2】 上記空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤が、水、ブチル化ヒドロキシトルエン、メチルパラベン、プロピルパラベン、プロポホール、及びチモールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

第5 無効2007-8000195について
1.請求人の求めた審判
請求人は、「本件特許の請求項1ないし2に係る特許を無効とする。審判費用を被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の無効理由を主張し、証拠として甲第1?10号証を提出し、その後、訂正請求に対する平成23年1月19日付け弁駁書(3)において甲第11?14号証を提出した。

本件特許は、原出願の出願当初明細書の開示の範囲を超えてなされた分割出願に係るものであり、平成18年改正前特許法第44条第1項に規定される分割要件を満たさないから、その出願日は平成12年11月16日となることを前提とし、原出願の国際公開(甲第1号証)に基づいて、以下の無効理由1,2が主張されている。
(1)無効理由1
請求項1?2に係る本件発明は新規性がないから、特許法第29条第1項に該当し、その特許は特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである。
(2)無効理由2
請求項1?2に係る本件発明は進歩性がなく特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その特許は特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである。

甲第1号証;国際公開第98/32430号パンフレット(1998年7月30日発行)
甲第2号証;本件特許の分割出願時の平成12年11月16日付け提出の願書及び願書に添付した明細書、図面及び要約書
甲第3号証;特許・実用新案審査基準第V部第1章第1節「出願の分割の要件」
甲第4号証;特許・実用新案審査基準第III部第1節「新規事項」
甲第5号証;原出願の国内段階移行時の国内書面(平成11年7月26日付け)および国内書面に添付した請求の範囲、明細書、図面の中の説明についての翻訳文
甲第6号証;東京地裁平成18年9月28日判決(平成17年(ワ)第10524号特許権侵害差止請求事件)
甲第7号証;丸石製薬 セボフルラン(販売名「セボフレン(登録商標)」)の医薬品インタビューフオーム(2005年)
甲第8号証の1;平成17年(ワ)第10524号特許権侵害差止請求事件における平成17年5月30日付け訴状
甲第8号証の2;平成18年(ネ)第10075号特許権侵害差止請求控訴事件における平成19年2月28日付け答弁書
甲第9号証;阪上ら SCAS NEWS 2000-I,7-11頁 医薬品の保存安定性試験(2000年)
甲第10号証;東京地裁平成18年9月8日判決(平成17年(ワ)第10907号特許権侵害差止請求控訴事件
甲第11号証;知財高裁平成22年1月19日判決(平成20年(行ケ)第10276号;本件審判事件の第1次審決に係る審決取消請求訴訟の判決;原判決)の判決文
甲第12号証;審判便覧54-10「訂正の可否決定上の判断及び事例」
甲第13号証;知財高裁平成21年4月23日判決(平成18年(行ケ)第10489号審決取消請求事件;本件の原出願に係る特許(特許第3183520号)における第1次訴訟の判決)の判決文
甲第14号証;知財高裁平成18年2月16日判決(平成17年(行ケ)第10205号)の判決文

2.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効の理由はいずれも成り立たない旨主張し、下記乙第1?4号証の書証を提出し、その後、訂正請求に対する弁駁書(3)及び訂正拒絶理由に応答する意見書で乙第5号証を提出している。

乙第1号証;平成18年(ネ)第10075号差止請求控訴事件 平成19年6月22日付控訴人第2準備書面
乙第2号証;平成17年(ワ)第10524号特許権侵害差止請求事件 平成17年11月18日付原告第2準備書面
乙第3号証;平成17年(ワ)第10524号特許権侵害差止請求事件 平成18年5月8日付原告第6準備書面
乙第4号証;平成3年11月15日付岩波書店発行の広辞苑(第四版)「貯蔵」の項
乙第5号証;2003日本包装機械便覧 平成14年10月2日,社団法人日本包装機械工業会発行,106頁及び111頁

3.当審の判断
3-1 分割要件について
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第44条第1項には「特許出願人は、願書に添付した明細書又は図面について補正することができる期間内に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな出願とすることができる。」(以下、これを「分割要件」という。)と規定されている。本件特許にかかる出願は、特願平10-532168を原出願とし、その出願に対する拒絶理由通知応答期間内(願書に添付した明細書又は図面について補正することができる期間内)に分割出願されたものである。
そして、前記「第2」で説明したように、本審決中では原出願明細書等の記載内容を対応する本件明細書の段落番号によって引用し、以下、分割要件について検討することとする。

3-2 分割不適
前記「第3 (2)訂正の可否に対する判断」において指摘したように、一次審決に対する判決では、『以上のとおり、原出願明細書等には、構成要件(D)、すなわち、「該容器の内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程」は記載されておらず、その記載から自明であるともいえないから、分割要件を満足するとした審決の判断は誤りである。』と判示されている。
該判決によって、本件特許は分割要件を満足しないとされ、既に確定ずみである。

3-3 無効理由1、2について
無効理由1、2は本件特許が分割要件を満たさない分割出願に係るものであることを前提として主張されたものであるところ、上記のとおり、本件特許は不適法な分割出願に係るものであって出願日の遡及が認められないから、本件特許の実際の出願日は、平成12年11月16日であり、請求人の提示する甲第1号証は1998年7月30日(平成10年7月30日)に頒布されたものであって、特許法29条1項3号にいう本件特許出願前に頒布された刊行物に相当する。

そして、甲第1号証に記載された技術事項は、その翻訳文が原出願明細書に記載されているものと同じであり、また前記のとおり本件明細書の記載と同じであって、その要部は、前記「第2 原出願明細書等、分割出願明細書、本件明細書の記載について」で摘示したとおりである。
そして、一次審決に対する判決では、判示の前提として、『したがって、原出願明細書等に,「水飽和セボフルランを入れてボトルを回転機に約2時間掛けること」という態様の「被覆」以外に、ルイス酸抑制剤の量に応じて適宜変更可能な各種の態様を含む広い上位概念としての「被覆」が実質的に記載されているとはいえない。』とされているのであるから、原出願の国際公開に相当する甲第1号証には、「水飽和セボフルランを入れてボトルを回転機に約2時間掛けること」が被覆として実質的に記載されていると解することができる。
そうすると、甲第1号証には、次の発明が開示されているものと認められる。
「一定量のセボフルランの貯蔵方法であって、該方法は、内部空間を規定するガラス容器であって、かつ該ガラス容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有するガラス容器を供する工程、一定量のセボフルランを供する工程、該ガラス容器の該内壁を、水飽和セボフルランを入れてボトルを回転機に約2時間掛けることにより、空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤である水で被覆する工程、及び該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程を含んでなることを特徴とする方法。」

そこで、本件発明1,2と甲第1号証に記載された発明を対比すると、両発明は、次の(a),(b)の点を除き一致していることは明らかである。
(a)容器について、本件発明1,2では、単に「容器」であるのに対し、甲第1号証に記載された発明では、「ガラス容器」である点。
(b)被覆について、本件発明1,2では、単に「空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する」とされ、本件発明2では、更に「上記空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤が、水、ブチル化ヒドロキシトルエン、メチルパラベン、プロピルパラベン、プロポホール、及びチモールからなる群から選択される」と特定されているのに対し、甲第1号証に記載された発明では、「水飽和セボフルランを入れてボトルを回転機に約2時間掛けることにより」、「空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤である水で被覆する」とされている点。

しかし、(a)の点に関しては、「ガラス容器」は「容器」の一態様であり、(b)の点に関しては、「水飽和セボフルランを入れてボトルを回転機に約2時間掛けること」は、「空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤である水で被覆する」ことの一態様であるから、本件発明1及びルイス酸抑制剤の選択肢として「水」を選択する場合の本件発明2は、甲第1号証に記載された発明を包含していることは明らかである。
よって、本件発明1,2は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないものである。

4.無効2007-8000195についてのまとめ
以上のとおりであるから、その余の無効理由について検討するまでもなく、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第2項に該当し、無効とすべきものである。


第6 無効2006-80264について
1.請求人の求めた審判
請求人は、以下に示す理由を挙げ、本件特許の請求項1ないし2に係る特許を無効とし、審判費用を被請求人の負担とすることを求め、証拠方法として甲第1?36号証を提出し、その後、訂正請求に対する平成23年1月19日付け弁駁書(1)において甲第37?40号証を提出した。

(1)無効理由1
請求項1?2は、特許法第36条第6項1号の要件を満たしていないから特許法第123条第1項第4号の規定により、無効とされるべきである。
(2)無効理由2
請求項1?2は、改正前特許法第36条第4項(平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項)の要件を満たしていないから特許法第123条第1項第4号の規定により、無効とされるべきである。
(3)無効理由3
請求項1?2は、特許法第36条第6項2号の要件を満たしていないから特許法第123条第1項第4号の規定により、無効とされるべきである。
(4)無効理由4
請求項1?2は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件に違反してなされた特許であるので、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とされるべきである。

甲第1号証;平成17年(ワ)第10524号特許権侵害差止請求事件判決(平成18年9月28日判決言渡し)
甲第2号証;平成17年(行ケ)第10042号、平成17年11月11日知財高裁大合議判決
甲第3号証;シュライバー無機化学(上)(H13.3.22)玉虫伶太他訳
甲第4号証;有機化学ハンドブック(S43.7.10)有機合成化学協会編
甲第5号証;マクマリー有機化学(上)(H17.3.7)伊東椒他訳
甲第6号証;「Fluoroalkyl Ether Chemistry on A1umma . A Transmission 1nfrared Study of the Adsorption and Thermal Decomposition of(CF_(2)H)_(2)0 on A1_(2)0_(3)」(Langmuir,Vol.5,No.2,l989,p502-510)
甲第7号証;欠番
甲第8号証;本件親特許に対応する英国特許を無効とする判決
甲第9号証;本件特許に対応する欧州特許公報
甲第10号証;本件特許に関する北海道大学西村教授の鑑定意見書
甲第11号証;本件特許に関する京都大学年光教授の鑑定意見書
甲第12号証;本件特許と欧州特許(甲第9号証)との明細書対照表
甲第13号証;本件特許権を基にした侵害事件の控訴審(平成18年(ネ)10075事件)における平成19年2月28日付答弁書(控訴審答弁書)
甲第14号証;製薬用水の製造管理と品質管理 川村邦夫 2007年
甲第15号証の1;米国訴訟判決 (米国侵害訴訟における米国バクスター社の提案にかかる事実認定及び法律による結論)
甲第15号証の2;バクスター医薬品輸入承認書
甲第15号証の3;合衆国地方裁判所イリノイ州北地区東部で行われた審理手続(米国侵害訴訟におけるマイケル・E・ユング博士の証言記録)
甲第15号証の4;平成13年6月18日付けで米国食品医薬品局等に提出した文書(アボット・ラボラトリーズ社発書状)
甲第16号証;熊谷氏陳述書
甲第17号証;アボットジャパンホームページ (http://www.abbott.co.jp/press/2006/060529.asp)平成18年5月29日
甲第18号証;1996年11月の熊谷氏の書簡
甲第19号証;特開平7-258138号公報
甲第20号証;英国訴訟におけるKilburn教授証人尋問調書(証人尋問6日目)
甲第21号証;本件対応米国特許において提出された情報開示陳述書(Information Disclosure Statement)
甲第22号証;英国訴訟におけるLessor博士第2専門家報告書
甲第23号証;英国訴訟におけるKilburn教授第1専門家報告書
甲第24号証;英国訴訟におけるKilburn教授証人尋問調書(証人尋問5日目)
甲第25号証;化学大事典3 縮刷版 67頁(クラーク数)化学大辞典編集委員会編 昭和38年
甲第26号証;西村教授第2鑑定意見書(平成20年1月29日付)
甲第27号証;アボット社による「Commercially Marketed Sevoflurane Vaporizers Contain Lewis Acid Metal Oxide That Can Potentially Degrade Sevoflurane Containing Insufficient Protective Water Content」と称する発表、2007年
甲第28号証;Liら、Angewandte Chemie, Internat1ona1 Edition, 2006,45,5652-5655
甲第29号証;Mukaiyama et al.,Chem.Lett.1981,431-432
甲第30号証;「超臨界流体」佐古猛編、(株)アグネ承風社(2001年8月10日発行)表紙、1?6、122?126頁及び奥付け
甲第31号証;化学大辞典1、1018頁 1960年 「塩化アルミニウム」の項
甲第32号証;WALLIN ら、Anesthesia and Ana1gesia,Vol.54,No.6,1975、758-766
甲第33号証;分析化学辞典、743頁「酸」の項 1971年
甲第34号証;化学便覧 基礎編 第5版 I-822?I-823 平成16年 丸善株式会社
甲第35号証;米国特許第6147174号
甲第36号証;本件特許に基づく侵害訴訟控訴審被控訴人第1準備書面(平成19年11月19日付)
甲第37号証;知財高裁平成22年1月19日判決(平成20年(行ケ)第10276号;本件審判事件の第1次審決に係る審決取消請求訴訟の判決;原判決)の判決文
甲第38号証;審判便覧54-10「訂正の可否決定上の判断及び事例」
甲第39号証;知財高裁平成21年4月23日判決(平成18年(行ケ)第10489号審決取消請求事件;本件の原出願に係る特許(特許第3183520号)における第1次訴訟の判決)の判決文
甲第40号証;知財高裁平成18年2月16日判決(平成17年(行ケ)第10205号)の判決文

2.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効の理由1?4は、いずれも理由がない旨主張し、下記乙第1?25号証の書証を提出し、その後、訂正請求に対する弁駁書(1)と訂正拒絶理由に応答する意見書で乙第26号証を提出している。

乙第1号証;米国訴訟における米国バクスター社の提案にかかる事実認定及び法律による結論(7、8頁)
乙第2号証;化学大辞典8、第226?227頁
乙第3号証;キレート安定度定数一覧表
乙第4号証;岩波理化学辞典第4版279頁
乙第5号証;化学大辞典、第277?278頁 (東京化学同人、平成1年10月20日発行)
乙第6号証;本件特許の出願経過における平成16年11月15 日付拒絶理由通知書
乙第7号証;本件特許の出願経過における平成17年2月23日付意見書
乙第8号証;本件特許の出願経過における平成17年2月23日付意見書に添付した実験成績証明書3
乙第9号証;「The Degradation,Absorption,and Solubility of Volatile Anesthet1cs in Soda Lime Depend on Water Content」
乙第10号証;1995年版米国薬局方1781?1782頁
乙第11号証;化学大辞典8、第596頁
乙第12号証;化学大辞典5、第524頁
乙第13号証;本件特許の出願経過における平成16年10月6日付意見書に添付した実験成績証明書1及び同2
乙第14号証;本件特許の出願経過における平成16年6月30日付拒絶理由通知書
乙第15号証;本件特許の出願経過における平成16年10月6日付意見書
乙第16号証;特許庁編特許・実用新案審査基準第I部第1章、明細書の記載要件19?20頁
乙第17号証;特許第3183520号(本件特許の親特許)に係る審決取消請求訴訟平成18年(行ケ)第10489号事件において提出された2007年11月14日付クロマック博士の陳述書(2)
乙第18号証;特許第3183520号(本件特許の親特許)に対する無効審判第2005-80139号事件において提出された 2006年4月11日付チェンバーズ教授の陳述書
乙第19号証;平成19年10月25日付熊谷洋一氏の実験成績証明書
乙第20号証の1;1996年12月18日付米国食品医薬品局執行報告書
乙第20号証の2;1997年10月22日付米国食品医薬品局執行報告書
乙第21号証;平成19年6月22 日付侵害事件控訴審控訴人第2準備書面
乙第22号証;平成17年11月18日付侵害事件第1審原告第2準備書面
乙第23号証;平成18年5月8日付侵害事件第1審原告第6準備書面
乙第24号証;平成17年7月1日付市川博士の鑑定意見書
乙第25号証;平成19年10月31日付山崎博士の鑑定意見書
乙第26号証;2003日本包装機械便覧 平成14年10月2日,社団法人日本包装機械工業会発行,106頁及び111頁

3.当審の判断
3-1 無効理由2(実施可能要件)について
改正前特許法第36条4項は「発明の詳細な説明は、通商産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない」(以下実施可能要件という。)としている。そして、特許法施行規則第24条の2は「特許法第36条第4項の通商産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定している。

ところで、一次審決に対する判決では、無効理由2(実施可能要件違反)について、次の様に判示している。
証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実(摘示省略)が認められると摘示した上で、『イ 「ルイス酸「ルイス酸抑制剤」の非限定について」として』、
『以上のとおり,本件発明における「ルイス酸」の概念は極めて不明確であるといわざるを得ず「ルイス酸」の概念が不明確である以上,その「ルイス酸」の空軌道に電子を供与する「ルイス酸抑制剤」なる概念もまた不明確であるといわざるを得ない。したがって,本件発明を実施しようとする当業者は,貯蔵中のセボフルランの貯蔵状況に応じたあらゆる事態を想定した実験をしない限り,本件発明を実施することは容易ではないと認められる。そうである以上,本件明細書には,当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に「ルイス酸」及び「ルイス酸抑制剤」が記載されていると認めることはできない。』と判断し、
また、『ウ 「被覆工程」の不存在について』
『(ア)前記認定のとおり,セボフルランは,そもそも分解しにくく安定した性質を有しており,本件特許の優先日当時,セボフルランが分解されたという事例はほとんど知られていなかった上に,セボフルランがルイス酸によって分解されるということを開示する文献も一切存在せず,むしろそのような分解のメカニズムは本件発明の発明者らの研究によってはじめて判明したものであったのであるから,当業者は,どのようなルイス酸となり得る物質がどのような条件でセボフルランを分解するのか,理解できなかったものと認められる。したがって,たとえ容器の内壁をルイス酸抑制剤で被覆したとしても,セボフルランが分解していないのが「ルイス酸抑制剤」の効果によるものなのか,それとも単にルイス酸に対してセボフルランがそもそも安定であるという性質からくるものなのか,当業者は判断できないといわざるを得ない。
(イ)この点に関し,どの程度の「ルイス酸抑制剤」をどのように容器内壁に被覆すべきかを判断する手がかりとなる本件明細書の記載は,実施例7しか見当たらないところ,実施例7は,ルイス酸抑制剤である水を含む水飽和セボフルラン約125mlを回転機に約2時間掛けて被覆した容器に,400ppmの水を含有する100mlのセボフルランを温度50℃の状態で178時間保存した場合に効果があったという記載であり,このような状況は,50℃という,実際のセボフルランの製造・貯蔵環境とは異なる環境の実験であることに加え,水飽和セボフルランを入れて回転機に掛けるという特殊な「被覆」を行った後に,ルイス酸抑制剤である水400ppmを再びセボフルランと一緒に添加している例にすぎないしたがって,50℃での加熱の場合に1400ppmの水で2時間回転機にかければよいことが分かったと仮定しても,かかる被覆を,実際のセボフルランの製造・貯蔵環境に置き換えて本件発明を実施しようとした場合に,対象としなければならないルイス酸の種類及び量が不明な状況において任意のセボフルランの分解を抑制するために,どの種類の量のルイス酸抑制剤をどのくらいの量,どのように被覆すればいいのかという点に関し手がかりとなる指標は本件明細書に全く開示されていないといわざるを得ない。したがって,この実施例7でさえ,当業者が実施可能な程度に「被覆の工程」が開示されていると認めることはできない。』と判断した上で、
『エ 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明は,前記イ及びウの点で,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものと認めることはできず,特許法36条4項に違反しているというべきであるから,この点に関する審決の判断は誤りである。』と判示されている。

該判決によって、本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものと認めることはできできず,改正前特許法36条4項に違反していると判示されているのであり、既に確定している。

4.無効2006-80264についてのまとめ
以上のとおりであるから、その余の無効理由について検討するまでもなく、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対しなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。


第7 むすび
以上のとおりであるから、その余の無効理由について検討するまでもなく、本件請求項1ないし2に係る発明についての特許は、分割が不適法であり、出願日の遡及が認められず、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号また同条同項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、無効2006-80264と無効2007-800195のいずれについても、被請求人が負担すべきものとする。
 
審理終結日 2011-06-22 
結審通知日 2008-02-18 
審決日 2008-03-13 
出願番号 特願2000-349024(P2000-349024)
審決分類 P 1 113・ 113- ZB (A61K)
P 1 113・ 1- ZB (A61K)
P 1 113・ 536- ZB (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 典之井上 明子森井 隆信  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 荒木 英則
星野 紹英
登録日 2005-04-08 
登録番号 特許第3664648号(P3664648)
発明の名称 フルオロエーテル組成物及び、ルイス酸の存在下におけるその組成物の分解抑制法  
代理人 安村 高明  
代理人 坪倉 道明  
代理人 小野 誠  
代理人 山本 秀策  
代理人 坪倉 道明  
代理人 川口 義雄  
代理人 川口 義雄  
代理人 駒谷 剛志  
代理人 森下 夏樹  
代理人 長谷部 真久  
代理人 大崎 勝真  
代理人 小野 誠  
代理人 大崎 勝真  

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