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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1254206
審判番号 不服2011-15422  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-15 
確定日 2012-03-22 
事件の表示 特願2001-258356「圧電トランスデューサ及び該圧電トランスデューサを用いた脈波検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月 4日出願公開、特開2003- 61957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成13年8月28日を出願日とするものであり,平成23年4月15日付けで拒絶査定がされ,これに対し同年7月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成23年7月15日付けの手続補正についての補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論
平成23年7月15日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)本願補正発明
本件補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1?11を,特許請求の範囲の請求項1?10に補正するものであり,それぞれの請求項に記載された内容からして,補正前の請求項1を引用する請求項11は,補正後の請求項1を引用する請求項10に対応するものであるといえる。
そうすると,本件補正は,補正前の請求項1およびこれを引用する請求項11を,補正後の請求項1およびこれを引用する請求項10として,

「【請求項1】 入力された駆動信号に応じて測定対象物内に超音波を送信する送信用圧電素子と,前記超音波が前記測定対象物によって反射した反射波を受信する受信用圧電素子とを少なくとも一対有し,前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の上に,前記測定対象物に焦点を有するレンズ層を備えた圧電トランスデューサにおいて,
前記送信用圧電素子と前記受信用圧電素子とは,各々が短冊状で,その長手方向に対して互いに対向して設けられ,
前記レンズ層の表面は,前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の短手方向に沿って湾曲し,前記湾曲が前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の長手方向に亘って形成され,
前記焦点は,前記送信用圧電素子と前記受信用圧電素子との間の上方にあり,前記レンズ層は,前記送信用圧電素子から前記焦点までの距離と,前記受信用圧電素子から前記焦点までの距離とが等しくなるように設けられたことを特徴とする圧電トランスデューサ。」

「【請求項10】 請求項1から請求項9のいずれかに記載の圧電トランスデューサと,
前記送信用圧電素子を駆動する駆動部と,
前記送信用圧電素子が発生した前記超音波と,前記受信用圧電素子が受信した前記反射波とから脈波を検出する検出部とを備え,
前記測定対象物である血管内を流れる血流に対して,前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の長手方向を垂直方向に配して測定を行うことを特徴とする脈波検出装置。」
とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。)。

(2)補正要件について
上記請求項1についての補正は,補正前の「焦点」について「前記送信用圧電素子と前記受信用圧電素子との間の上方にあり」と限定し,補正前の「レンズ層」について「前記送信用圧電素子から前記焦点までの距離と,前記受信用圧電素子から前記焦点までの距離とが等しくなるように設けられた」と限定するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,請求項10についての補正は引用対象請求項を「請求項1から請求項10のいずれか」から「請求項1から請求項9のいずれか」とするものであり,補正に伴い引用対象請求項を整合させるものであるから,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明に該当する。
そこで,上記請求項1を引用する請求項10に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)独立特許要件(進歩性)について

ア 刊行物1およびその記載事項
本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である,特開2001-8936号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている(以下,下線は当審において付記したものである。)。

(ア-1)「【請求項10】動脈に向けて超音波を発信する発信手段と,この発信手段から発信され前記動脈を流れる血液で反射された超音波を受信する受信手段と,前記発信手段及び前記受信手段の少なくとも一方を間欠的に駆動する駆動制御手段と,前記受信手段で受信された超音波から脈波に関する脈波情報を取得する脈波情報取得手段と,この脈波情報取得手段により取得された脈波情報を出力する出力手段と,を備え,前記発信手段の超音波発信面および前記受信手段の超音波受信面は,長軸と短軸とを有する細長形状に形成され,前記長軸が前記動脈に対して交差するように配置されていることを特徴とする脈波検出装置。」

(ア-2)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,脈波検出装置に係り,詳細には,動脈に対する超音波の送受信により脈波を検出する脈波検出装置に関する。」

(ア-3)「【0002】【従来の技術】動脈を流れる血流による脈波を検出することは,医療現場や健康管理を行う際に広く行われている。・・・【0003】・・・また,ドイツ特許3345739号公報には,複数(複数組)のセンサを使用した脈波検出装置が提案されており,図11は,そのような脈波検出装置のなかのセンサの配置を示した図である。このセンサ19aは,発信器11aおよび受信器21aで構成されている。センサ19a内の発信器11aおよび受信器21aは,長方形の形をしている。そして,長方形の各々の長辺が動脈2の血流と平行になるように,かつ発信器11aおよび受信器21aを結ぶ線が動脈2と交差するように配置されている。」

(ア-4)「【0004】【発明が解決しようとする課題】・・・また,脈波検出用に発信される超音波f0は,周波数数MHzの直進波である。このため,ドイツ特許3345739号公報に記載されている発明のように,発信器11a,受信器21aの長辺が動脈2の血流と平行に配置された脈波検出装置では,動脈2に向けて正確に超音波f0を発信する必要があり,センサ19aの位置を合わせることは困難である。また,正確に位置合わせをしたとしても,手首2a等の動きに伴う動脈2やセンサ19あの位置ずれによって脈波の測定ができなくなるという問題があった。」

(ア-5)「【0005】そこで,本発明は,このような従来の脈波検出装置における課題を解決するためになされたもので,低消費電力で脈波を検出することができ,使用時間を延ばすことが可能な脈波検出装置を提供することを第1の目的とする。また,本発明は,センサを動脈上に容易に合わせることができ,手首の動き等に対しても脈波の検出を継続して行うことが可能な脈波検出装置を提供することを第2の目的とする。」

(ア-6)「【0010】【発明の実施の形態】以下,本発明の脈波検出装置における好適な実施の形態について,図1から図9を参照して詳細に説明する。
(1)本実施形態の概要
本実施形態の脈波検出装置では,発信器11から周波数10MHzの超音波f0を体表面から動脈2に向けて発信し(発信手段),反射対象物(測定対象物)である血流のドップラー効果で周波数変調された反射波f1を受信器21で受信する(受信手段)。この受信波をFM検波することで脈波を抽出し,さらに脈拍を計数して(脈波情報取得手段),表示する(出力手段)。そして,発信器11による超音波f0の発信と,受信器21による反射波f1の受信を,周波数64Hzで間欠的に行う(駆動制御手段)。このように発信器11と受信器21の駆動を間欠的に行うことで消費電力を少なくすることができ,時計等の小型でバッテリ容量が小さい携帯装置であっても取り付けることが可能になり,かつ長時間使用が可能になる。また,本実施形態の脈波検出装置の発信器11および受信器21は,長方形状であり,長軸が動脈2と交差するように並べて配置されている。これにより,手首2aの動き等によって動脈2やセンサ位置が左右にずれたりしても,発信器11,受信器21の位置を修正する必要がなく脈波の測定を続けることが可能であり,脈波情報の検出をより正確に行うことができる。
【0011】
(2)本実施形態の詳細
図1は,第1の実施形態における脈波検出装置の構成を表したものである。この図1に示すように,脈波検出装置は,動脈2に向けて超音波を発信するための,発信器11と,駆動回路12と,高周波発振回路13を備えている。また脈波検出装置は,動脈2を流れる血液で反射される超音波を受信して脈拍を得るための,受信器21と,高周波増幅回路31と,F/V変換回路32と,検波回路33と,サンプルホールド回路34と,脈拍数演算回路35と,表示装置41を備えている。更に,脈波検出装置は,低周波発振回路51と,駆動制御回路52を備えている。」

(ア-7)「【0016】図2は,脈波検出装置の各構成部分における出力波形を表したものである。・・・。駆動回路12では,間欠的に供給される高周波信号f0の出力パワーを増幅して,圧電素子からなる発信器11に供給することで,発信器11からは,図2(c)で示す高周波f0と相似系の超音波f0が動脈2に向けて発信される。」

(ア-8)「【0020】図3は,時計に組み込んだ脈波検出装置により脈波を検出する状態を表したものである。この図3に示されるように脈波検出装置(時計)60は,時計本体61と,ベルト62を備えており,ベルト62の内側にはセンサ19が取り付けられている。時計60は,一般の時計と同様に,時計本体61を手の甲側にして左(又は右)手首2aに取り付けるようになっている。その際,センサ19の位置は,図3(b)に示されるように,とう骨動脈上に位置するようにセンサ19をベルト62の長さ方向に移動して位置調整できるようになっている。センサ19には,発信器11と受信器21とが,図3(c)に示されるように,とう骨動脈2に沿ってベルト62の長さ方向と直交する方向に並べられ,手先側に発信器11が肩側に受信器21が配置されている。なお,発信器11と受信器21の配置位置は,この逆であってもよい。」

(ア-9)「【0031】次に第4の実施形態について説明する。第4の実施形態は,第1の実施形態における図3(c)のセンサ19内の発信器11および受信器21の形状と配置に関する変形例である。本実施の形態は,図1,図4および図6における脈波情報を検出する脈波検出装置と構成は同様であるが,脈波情報である脈波を検出する際のセンサ19内の発信器11および受信器21の形状と配置が異なっている実施の形態である。図7は,本発明の第4実施形態におけるセンサを示した図である。図8は,第4の実施形態における脈波検出装置(時計)の外観を示した図である。図7および図8に示されているように,センサ19内の発信器11および受信器21は,手首の体表面と接する面(超音波の発信面,受信面)の形状が長方形状に形成されている。発信器11および受信器21は,この長方形状の長辺が手首2aの周方向と平行で動脈2に対して交差するように配置されている。そして図8に示すように,長方形状の発信器11および受信器21は,長辺を動脈2と交差させるために,ベルト62の長手方向に配置されている。
【0032】第4の実施形態では,図7,8からも理解されるように,発信器11および受信器21の形状を長方形状とすることによって,手首2aの周方向における超音波の送受信範囲が広くなるため,動脈2やセンサ19位置が手首2aの周方向にずれても,送受信範囲であればセンサ19の位置を修正する必要がなく,脈波の測定を続けることが可能となる。また,ユーザーは,動脈2上にセンサ19がくるように特に意識することなく,ベルト62を手首2aに装着することができる。なお,第4の実施形態では,発信器11および受信器21の形状は,一例として長方形状としているが,これに限られるものではなく,長軸と短軸とを有する形状のものであればよく,例えば,ひし形,帯状等でもよいし,楕円のように長径と短径を有する形状のものであってもよい。また,少なくとも発信器11および受信器21の手首2aの体表面に接する部分は,手首2aの周方向に長軸または長径を有するような形状であるものとする。
【0033】また,図1,図4および図6の間欠的に駆動する脈波検出装置におけるセンサとして第4の実施形態のセンサを使用する場合について説明したが,この第4の実施形態は,発信器11が連続して供給される高周波信号に応じて超音波f0を動脈2に発信し,動脈2の血流により周波数変調を受けながら反射された反射波f1を受信器21によって受信するというような間欠駆動でない(連続駆動の)脈波検出装置のセンサ形状として適用することができる。


(ア-10)「【0034】図9は,センサ19内の発信器11および受信器21の形状による検出精度の相違を示した図である。図9(a)は,発信器11,受信器21の形状が第4実施形態で説明した長方形の場合の検出精度を表し,図9(b)は,受信器21の形状が図3(c)で示した円形の場合の検出精度を表す。図9中の縦軸は脈波検出装置の出力を表しており,目盛りが上にいく程,脈波情報の検出精度が高いということになる。横軸は,センサ19またはセンサ19aの中心を0として,動脈2がセンサ19またはセンサ19aの中心からどの程度位置ずれしているかを表している。センサ19の中心からの動脈2の位置ずれが同じ範囲について,図9(a)と(b)を比較すると,第4の実施形態の方が,手首周方向での超音波の送受信範囲が広いので,精度よく脈波情報の検出ができることがわかる。このように,第4の実施形態のように発信器11および受信器21の形状を長方形状(細長形状)とし,発信器11および受信器21を動脈2の血流方向に対して交差するよう配置することで,センサや動脈の位置連れにつよく,かつ精度良く脈波情報を検出をすることができる。」

(ア-11)第7図は,第4実施形態におけるセンサを示した図であり,この図には,発信器11と受信器21が,その長手方向が平行となるよう対向配置された形態が記載されている。

イ 対比・判断
刊行物1の記載事項(ア-1)?(ア-11)を総合すると,刊行物1には第4の実施形態として次の発明が記載されているものと認められる。

「 動脈に向けて超音波を発信する発信手段と,
この発信手段から発信され前記動脈を流れる血液で反射された超音波を受信する受信手段と,
前記発信手段及び前記受信手段の少なくとも一方を間欠的に駆動する駆動制御手段と,
前記受信手段で受信された超音波から脈波に関する脈波情報を取得する脈波情報取得手段と,
この脈波情報取得手段により取得された脈波情報を出力する出力手段と,を備え,
前記発信手段の超音波発信面および前記受信手段の超音波受信面は,長軸と短軸とを有する細長形状に形成され,前記長軸が前記動脈に対して交差するように配置され,
発信手段である発信器11と,受信手段である受信器21が,その長手方向が平行となるよう対向配置されていることを特徴とする脈波検出装置。」
(以下,「刊行物1発明」という。)

そこで,以下に本願補正発明と刊行物1発明を対比する。

(ア)刊行物1発明の「発信手段」が,「駆動制御手段」により入力された駆動信号に応じて「超音波を発信する」ものであることは明らかである。
また,刊行物1の摘記事項「(ア-7)」に「圧電素子からなる発信器11」と記載されており,発信手段である発信器として圧電素子が想定されていることが理解され,これと同様に,刊行物1発明の「受信手段である受信器21」についても,圧電素子が想定されていると理解するのが自然であるから,刊行物1発明の「発信手段」と「受信手段」は,圧電トランスデューサを構成するものであるといえる。
そうすると,刊行物1発明が「動脈に向けて超音波を発信する発信手段」と「この発信手段から発信され前記動脈を流れる血液で反射された超音波を受信する受信手段」を備える構成と,本願補正発明の「圧電トランスデューサ」が「入力された駆動信号に応じて測定対象物内に超音波を送信する送信用圧電素子と,前記超音波が前記測定対象物によって反射した反射波を受信する受信用圧電素子とを少なくとも一対有」する構成とは,「圧電トランスデューサ」が「入力された駆動信号に応じて測定対象物内に超音波を送信する送信用圧電素子と,前記超音波が前記測定対象物によって反射した反射波を受信する受信用圧電素子とを一対有」する構成である点で共通する。

(イ)刊行物1発明の「発信手段の超音波発信面および前記受信手段の超音波受信面は,長軸と短軸とを有する細長形状に形成され」「発信手段である発信器11と,受信手段である受信器21が,その長手方向が平行となるよう対向配置されている」構成は,本願補正発明の「前記送信用圧電素子と前記受信用圧電素子とは,各々が短冊状で,その長手方向に対して互いに対向して設けられ」た構成に相当する。

(ウ)上記「(ア)」で検討したとおり,刊行物1発明の「発信手段」が「駆動制御手段」により駆動されるのは明らかである。また,刊行物1発明の「脈波検出装置」は本願補正発明と同様にドップラー効果を利用して脈波検出を行うものであるが,このような脈波検出に際して,受信された反射波と共に発信された超音波を用いることは技術常識である。
そうすると,刊行物1発明の「脈波検出装置」が,圧電トランスデューサを構成する「発信手段」および「受信手段」,「駆動制御手段」,「受信手段で受信された超音波から脈波に関する脈波情報を取得する脈波情報取得手段」を備える構成は,本願補正発明の「脈波検出装置」が「圧電トランスデューサと,前記送信用圧電素子を駆動する駆動部と,前記送信用圧電素子が発生した前記超音波と,前記受信用圧電素子が受信した前記反射波とから脈波を検出する検出部とを備え」る構成に相当する。

(エ)刊行物1発明の「前記発信手段の超音波発信面および前記受信手段の超音波受信面は,長軸と短軸とを有する細長形状に形成され,前記長軸が前記動脈に対して交差するように配置され」る構成は,本願補正発明の「前記測定対象物である血管内を流れる血流に対して,前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の長手方向を垂直方向に配して測定を行う」構成に相当する。

以上より,本願補正発明と刊行物1発明とは,
「入力された駆動信号に応じて測定対象物内に超音波を送信する送信用圧電素子と,前記超音波が前記測定対象物によって反射した反射波を受信する受信用圧電素子とを一対有し,前記送信用圧電素子と前記受信用圧電素子とは,各々が短冊状で,その長手方向に対して互いに対向して設けられた圧電トランスデューサと,
前記送信用圧電素子を駆動する駆動部と,
前記送信用圧電素子が発生した前記超音波と,前記受信用圧電素子が受信した前記反射波とから脈波を検出する検出部とを備え,
前記測定対象物である血管内を流れる血流に対して,前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の長手方向を垂直方向に配して測定を行うことを特徴とする脈波検出装置。」である点において一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)「圧電トランスデューサ」を構成する「送信用圧電素子」と「受信用圧電素子」の対について,本願補正発明においては「少なくとも一対」と特定されているのに対して,刊行物1発明においては,一対備えることしか特定されていない点。

(相違点2)「圧電トランスデューサ」が,本願補正発明においては「送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の上に,前記測定対象物に焦点を有するレンズ層を備え」るものであり,さらに,「レンズ層」と「焦点」について「前記レンズ層の表面は,前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の短手方向に沿って湾曲し,前記湾曲が前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の長手方向に亘って形成され,前記焦点は,前記送信用圧電素子と前記受信用圧電素子との間の上方にあり,前記レンズ層は,前記送信用圧電素子から前記焦点までの距離と,前記受信用圧電素子から前記焦点までの距離とが等しくなるように設けられた」と特定されるのに対して,刊行物1発明においては,このような特定がされていない点。

以下,上記相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1の摘記事項「(ア-3)」の「・・・【0003】・・・また,ドイツ特許3345739号公報には,複数(複数組)のセンサを使用した脈波検出装置が提案されており,図11は,そのような脈波検出装置のなかのセンサの配置を示した図である。このセンサ19aは,発信器11aおよび受信器21aで構成されている。センサ19a内の発信器11aおよび受信器21aは,長方形の形をしている。そして,長方形の各々の長辺が動脈2の血流と平行になるように,かつ発信器11aおよび受信器21aを結ぶ線が動脈2と交差するように配置されている。」には,長方形の発信器および受信器で構成されたセンサを用いる脈波検出において,複数組のセンサを使用することが記載されており,検出条件等に応じて発信器および受信器の対を複数配置することは,当業者が適宜行い得ることといえる。

(相違点2について)
刊行物1には,レンズの使用や焦点の形成について明記されていないが,刊行物1発明が,動脈を流れる血液で反射された超音波を検出するものであること,刊行物1の摘記事項「(ア-4)」の「【0004】【発明が解決しようとする課題】・・・発信器11a,受信器21aの長辺が動脈2の血流と平行に配置された脈波検出装置では,動脈2に向けて正確に超音波f0を発信する必要があり,センサ19aの位置を合わせることは困難である。また,正確に位置合わせをしたとしても,手首2a等の動きに伴う動脈2やセンサ19あの位置ずれによって脈波の測定ができなくなるという問題があった。」,同じく摘記事項「(ア-5)」の「【0005】・・・また,本発明は,センサを動脈上に容易に合わせることができ,手首の動き等に対しても脈波の検出を継続して行うことが可能な脈波検出装置を提供することを第2の目的とする。」の記載からみて,位置ずれをおこさずに動脈からの脈波検出を行うことを目的とすることは明らかである。
そうすると,刊行物1発明において,特定領域のみへ超音波を発信し,特定領域からの反射波のみを受信することは当然に要請されることといえる。
そして,反射超音波を用いた検出装置において,効率よく特定領域のみへ超音波を発信し特定領域からの反射波のみを受信するために,レンズを用いて焦点を形成することは常套手段であり,刊行物1発明のような細長い送受信器に対して用いるレンズ系として,その表面が送受信器の短手方向に沿って湾曲し,前記湾曲が送受信器の長手方向に亘って形成された形状のものも,拒絶査定において示した下記特開平9-84194号公報,および下記特開平4-244958号公報,下記特開平6-113398号公報に記載されるように本願出願前において周知である。
すなわち,特開平9-84194号公報の【0001】,【0018】,【0020】,図1,図3には,超音波診断装置に用いられる超音波プローブにおいて,短冊状圧電体を樹脂に埋め込んだ2-2型の複合圧電体1に対して,音響レンズ6を配置したものが記載されており,公報全体の記載からみて,音響レンズ6は,短冊状圧電体の短軸方向に沿って湾曲し,長軸方向に亘って湾曲が形成された形状を有するものと理解される。
また,特開平4-244958号公報の【0001】,【0015】?【0017】,図1,図2には,超音波顕微鏡に用いるラインフォーカス型超音波探蝕子であり,シリンドリカル状の凹面部2Aを有する音響レンズ2と,その凹面部2Aの反対側に結合され,長軸方向に短柵状をなす複数の振動素子1a?1iより成る振動子1を備えたラインフォーカス型超音波探蝕子において,振動素子1bからライン状にフォーカスされた音波を入射し,振動素子1hで受信するよう駆動制御することについて記載されている。上記記載から,音響レンズ2が,短柵状振動素子の短軸方向に沿って湾曲し,長軸方向に亘って湾曲が形成された形状を有するものであることは明らかである。
さらに,特開平6-113398号公報の【0001】,【0022】,図5には,超音波計測装置や超音波顕微鏡などにおいて用いられる音波変換素子において,円球面形状のレンズ面33を有する音響レンズ32と,レンズ面33の反対側に設けられた送信用の電気音響変換素子34と受信用の電気音響変換素子36とを備え,電気音響変換素子34から射出された超音波が試料28に直線状に集束された後,電気音響変換素子36で検出されることについて記載されている。上記記載において,電気音響変換素子34,36が短軸および長軸を備えるものであること,また,音響レンズ32が,電気音響変換素子34,36の短軸方向に沿って湾曲し,長軸方向に亘って湾曲が形成された形状を有するものであることは明らかである。

そして,上記のようなレンズ層を配置する際に,レンズ層の形成する焦点位置と送受信器との配置関係は,検出条件等に応じて適宜設定されるものであり,上記焦点が送信器と受信器との間の上方にあり,送信器から焦点までの距離と,受信器から焦点までの距離とが等しくなるような検出形態も,通常想定されるものである。

そうすると,刊行物1発明の発信器11および受信器21に対して,その上に測定対象物に焦点を有するレンズ層であり,レンズ層の表面が発信器11および受信器21の短手方向に沿って湾曲し,前記湾曲が発信器11および受信器21の長手方向に亘って形成されるレンズ層を配置するよう想到すること,その際,レンズ層の形成する焦点が,発信器11および受信器21との間の上方にあり,レンズ層が,発信器11から前記焦点までの距離と,受信器21から前記焦点までの距離とが等しくなるように設けることは,当業者が容易になし得ることである。

(本願補正発明の効果について)
本願補正発明の有する効果は,刊行物1の記載事項および周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願補正発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(回答書補正案について)
請求人は,平成23年9月8日付けで送付した審尋に対する平成23年11月4日付け回答書において,平成23年7月15日付けの手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に係る発明の「レンズ層」について,「少なくとも前記湾曲を覆い,前記測定対象物に接する面が平坦になるように前記測定対象物の音響インピーダンスに近い材質の樹脂層が設けられる」との限定事項を付加する補正案を提示している。
しかしながら,特開平8-10256号公報の【0001】,【0015】?【0023】,図1,図2や,特開平10-179582号公報の【0001】,【0002】,図8,図9に記載されるように,音響レンズを備えた超音波検出装置において,音響レンズの測定対象物に接するレンズ面に対してカプラーを配置し,上記カプラーの測定対象物への接触面を平坦となるように構成することは本願出願前に知られる技術である。また,上記カプラーを測定対象物の音響インピーダンスに近い測定条件に適した材で形成することも,当業者が適宜行い得ることである。よって,上記補正案を採用することができない。

(4)小括
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成23年7月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし11に係る発明は,平成23年2月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明,および請求項1を引用する請求項11に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】 入力された駆動信号に応じて測定対象物内に超音波を送信する送信用圧電素子と,前記超音波が前記測定対象物によって反射した反射波を受信する受信用圧電素子とを少なくとも一対有し,前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の上に,前記測定対象物に焦点を有するレンズ層を備えた圧電トランスデューサにおいて,
前記送信用圧電素子と前記受信用圧電素子とは,各々が短冊状で,その長手方向に対して互いに対向して設けられ,
前記レンズ層の表面は,前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の短手方向に沿って湾曲し,前記湾曲が前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の長手方向に亘って形成されたことを特徴とする圧電トランスデューサ。」

「【請求項11】 請求項1から請求項10のいずれかに記載の圧電トランスデューサと,
前記送信用圧電素子を駆動する駆動部と,
前記送信用圧電素子が発生した前記超音波と,前記受信用圧電素子が受信した前記反射波とから脈波を検出する検出部とを備え,
前記測定対象物である血管内を流れる血流に対して,前記送信用圧電素子及び前記受信用圧電素子の長手方向を垂直方向に配して測定を行うことを特徴とする脈波検出装置。」

1 刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1の記載事項は,前記「第2 2(3)」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は,前記「第2 2(3)」で検討した本願補正発明における,
「焦点」についての「前記送信用圧電素子と前記受信用圧電素子との間の上方にあり」との限定事項,および「レンズ層」についての「前記送信用圧電素子から前記焦点までの距離と,前記受信用圧電素子から前記焦点までの距離とが等しくなるように設けられた」との限定事項を省くものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加し限定したたものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(3)」にて述べたとおり,刊行物1発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-18 
結審通知日 2012-01-24 
審決日 2012-02-07 
出願番号 特願2001-258356(P2001-258356)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮川 哲伸後藤 順也  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 信田 昌男
横井 亜矢子
発明の名称 圧電トランスデューサ及び該圧電トランスデューサを用いた脈波検出装置  
代理人 久原 健太郎  
代理人 内野 則彰  
代理人 木村 信行  

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