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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  D04H
管理番号 1258478
審判番号 無効2010-800229  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-12-13 
確定日 2012-06-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3735734号発明「生分解性衛生用繊維集合体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成5年3月11日に、名称を「生分解性衛生用繊維集合体」とする発明について特許出願(特願平5-50884号。以下、「本件出願」という。)がされ、平成13年2月14日付けで拒絶査定がされ、同年3月19日に拒絶査定に対する審判請求がされ、その後、平成17年11月4日に設定登録を受けた(請求項の数1。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件特許明細書」という。)。
そして、本件特許を無効とすることについて、ユニチカ株式会社(以下、「請求人」という。)から本件審判の請求がされた。
本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成22年12月13日付け 審判請求書・甲第1?第6号証提出
平成23年 3月14日付け 審判事件答弁書及び訂正請求書提出
同 年 4月 6日付け 通知書
同 年 4月26日付け 上申書(請求人)・甲第7?第25号証・
証人尋問申出書・尋問事項書提出
同 年 4月26日付け 上申書(被請求人)・乙第1号証提出
同 年 4月28日付け 上申書2(被請求人)・
竹内秀夫の陳述書提出
同 年 5月10日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)提出
同 年 5月10日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
同 年 5月24日 口頭審理
上記において、2回目以降の上申書を、「上申書2」などとした。また、証拠方法等の一覧は、後記第4及び第5の項で示すが、竹内秀夫の陳述書は、書証であるので乙第2号証と表示替えする。以下、書証の証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などという。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
平成23年3月14日付けでなされた訂正請求は、その請求書に添付した明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。

(1)特許請求の範囲についての訂正事項
訂正事項(i)
請求項1の「一般式-O-CHR-CO-(但し、RはHまたは炭素数1?3のアルキル基を示す)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステル」を「式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸」に訂正する。

(2)発明の詳細な説明についての訂正事項
訂正事項(ii)
段落【0004】、【0005】の「一般式-O-CHR-CO-(但し、RはHまたは炭素数1?3のアルキル基を示す)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステル」を「式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸」に訂正する。
訂正事項(iii)
段落【0005】、【0011】の「失禁者パッドシーツ」を「失禁者パッド、シーツ」に訂正する。
訂正事項(iv)
段落【0006】の「繊維集合体を構成する脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などをあげることができるが特に限定されるものではない。またこれらは」を「繊維集合体を構成するポリ乳酸は」に訂正する。
訂正事項(v)
段落【0006】の「上記脂肪族ポリエステルを製造するには、公知の方法たとえば乳酸、グリコール酸等のオキシ酸の脱水重縮合、あるいはそれらの環状エステルの開環重合により得ることができる。その際、上記オキシ酸は単独でもあるいは混合物で使用しても差し支えなく、不斉炭素を有するものはD体、L体、ラセミ体のいずれであってもかまわない。」を「上記ポリ乳酸を製造するには、公知の方法たとえば乳酸(これらは、D体、L体、ラセミ体のいずれであってもかまわない)の脱水重縮合あるいは環状エステルの開環重合により得ることができる。」に訂正する。
訂正事項(vi)
段落【0007】、【0010】の「脂肪族ポリエステル」を「ポリ乳酸」に訂正する。
訂正事項(vii)
段落【0012】の「脂肪族ポリエステルに」を「ポリ乳酸に」に訂正する。
訂正事項(viii)
段落【0014】の「書記」を「初期」に訂正する。

2 訂正の適否についての検討

(1)訂正事項(i)について
訂正事項(i)に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1の脂肪族ポリエステルについての「一般式-O-CHR-CO-(但し、RはHまたは炭素数1?3のアルキル基を示す)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステル」を「式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸」とする訂正であり、脂肪族ポリエステルについての発明の構成要件を限定するものである。
この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、この訂正事項(i)に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められ、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定を満たす。
さらに、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないことは明らかであるから、この訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定を満たす。
よって、この訂正は許容されるものである。

(2)訂正事項(ii)?(viii)について
訂正事項(ii)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1についての訂正事項(i)と整合するように、発明の詳細な説明を訂正しようとするものであるから、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
訂正事項(iii)及び(viii)に係る訂正は、「誤記の訂正」を目的とするものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
よって、これらの訂正は許容されるものである。

3 訂正請求に対する請求人の主張について

(1)請求人の主張
請求人は、概略以下の主張をしている。
本件特許権については、被請求人は請求人に対して実施許諾の交渉を求めており、この実施許諾交渉の中で、被請求人は本件特許権について他社に実施権を付与している旨を述べている(甲23)。特許原簿に登録されていないが、少なくとも通常実施権者が存在する。しかるに、本件訂正請求には、この通常実施権者の承諾書が添付されていないから、本件訂正請求は、特許法第134条の2第5項で準用する同法第127条の規定に違反してなされたものであり、却下されるべきものである。(上申書、9?11頁第2)
甲23のメモ記録、甲24の録音、甲25の文字起こしによれば、被請求人の従業員が他社にライセンスしていると発言し、ライセンスした他者に特許権を譲渡する予定であると発言しているから、本件特許権について、他者に通常実施権を許諾していることは明らかであり、これに反する被請求人の主張は信用できない。(上申書、9?11頁第2)

(2)検討
請求人は、本件特許には通常実施権者が存在すると主張し、被請求人は、第三者に対して通常実施権を許諾した事実はないと主張しているので、以下検討する。

ア 甲23は、請求人が平成23年4月26日付けの上申書とともに提出したもので、「東洋紡 ポリ乳酸繊維・不織布関連特許の実施許諾交渉 メモ記録」と題する書面であり、以下の記載がある。
「東洋紡 ポリ乳酸繊維・不織布関連特許の実施許諾交渉 メモ記録
日時:平成21年12月28日 10:00?11:30
訪問者:東洋紡知財部 竹内秀夫(知財部長)、近藤英二(第3グループマネージャー)、小松和憲
ユニチカ:松本部長、吉川G長、藤丸社員、中道(作成)(審決注:中道の押印)
内容
東洋紡:2件(特許第3711409号、特許第3735734号)について、クレームの構成要素毎に、侵害性の有無を確認したい。
ユニチカ:ユニチカとしては無効特許であることが前提にあり、これに対し、ユニチカ品の製品構成を開示することはできない。
東洋紡:対価として、通常の実施料(売上げ等に根ざした)を想定はしていない。これまでの研究開発で費やした投資額の回収を想定した範囲内。
ユニチカ:ユニチカから能動的に無効審判請求は行わない、というのがユニチカからの対価。
東洋紡:第三者に対し、実施許諾を行っている。この度、譲渡も考えており、それに先立ってユニチカとの良好な関係に鑑みて実施許諾の申し出を行った。無効性を主張するなら、何故これまでに、そのようなアクションを行わなかったのか?
ユニチカ:無効性は当初から把握していたが、良好な関係に根ざさしたユニチカ側の判断として、能動的には無効審判を行わなかった。
東洋紡:特許が第三者に譲渡された場合、東洋紡との関係とは異なって、ユニチカは困難な状況になるのでは。
ユニチカ:第三者に譲渡されても困ることはない。
東洋紡:一方で今回の実施許諾に応じなかった場合、他の特許についても権利侵害があるか否か、商品を分析してでも検討する用意がある。
ユニチカ:東洋紡の意向は了解した。
東洋紡:2件について、実施許諾を受ければ、他の特許について付加的に権利侵害等の話はしない。
ユニチカ:東洋紡の意向は了解した。
東洋紡、ユニチカ:再度交渉を希望する。(候補日2月10日、12日)」

イ 甲24及び甲25は、請求人が平成23年4月26日付けの上申書とともに提出したもので、甲24は、請求人の従業員である中道喜久美が平成21年12月28日に採録した請求人と被請求人の間の「東洋紡 ポリ乳酸繊維・不織布関連特許の実施許諾交渉」の録音を格納したとされるUSBメモリーであり、甲25は、請求人の従業員である藤丸祥子が平成23年4月7日に作成した上記録音の文字起こしとされるものである。甲24及び甲25には、実施許諾している旨の発言があったことが示されている。

ウ 甲23?甲25に関連して、請求人は、被請求人の知的財産部長の竹内秀夫の証人尋問の申出をしている(上申書、9?11頁第2)。これに対し、被請求人は、請求人が主張するような実施権の設定・許諾といった事実は一切存在しないとして、被請求人の知的財産部長の竹内秀夫の陳述書(乙2)を提出した。

エ 乙2は、平成23年4月28日付けの「東洋紡績株式会社 知的財産部長 竹内秀夫」の陳述書であり、請求人はその成立の真正を争わないとしている。乙2には、以下の記載がある。
特許第3735734号の無効審判事件(無効2010-800229)おきましては、弊社が実施権を許諾しているか否かについての話題が出ていることを、弊社代理人よりの報告で知りました。
弊社は特許第3735734号について、有償・無償を問わず、在外者・在内者を問わず、また専用実施権通常実施権を問わず、これらの設定若しくは許諾をしている事実は一切、ございません。
上記の通り相違ないことをご報告申し上げます。」

オ 以上によると、乙2には、本件特許である特許第3735734号について、特許権者である被請求人が通常実施権を設定又は許諾していないことが、被請求人の知的財産部長の竹内秀夫の陳述として記載されている。
これに対し、甲23には、請求人の従業員の中道喜久美と同姓の「中道」との記載及び続けて「(作成)」との記載と押印があるが、甲23の記載を検討すると、作成日の記載はなく、標題に「・・・メモ記録」とある1枚紙であって、「内容」の項の記載ぶりも、話し言葉ではなく、発言内容をそのまま記載したものというよりも、作成者が覚えのために作成した「メモ」というべきものである。その記載内容は、作成者が把握したと考える内容を記載したものというのが相当である。また、作成者以外の者がその内容を確認したことを示す決裁印その他もない。まして、その内容が事実であることを、交渉の相手方である東洋紡績株式会社の出席者が確認又は承認したものであるとは認められない。
また、甲24及び甲25には、実施許諾している旨の発言があったことが示されているものの、ライセンス交渉の駆け引きの中での発言であったとも考えられ、そのような発言があったとしても、通常実施権の存在が客観的に立証できるものではない。
一方、被請求人は、上記のとおり、乙2の陳述書で、被請求人の知的財産部長の竹内秀夫が、実施権を許諾している事実がないことを陳述しているのである。
そうすると、仮に竹内秀夫の証人尋問を行っても、これまでに提出された証拠及び尋問事項書の内容からみて、通常実施権が存在することを、客観的に立証できる可能性は、極めて低いといわざるを得ない。訂正請求時に、継続して通常実施権が許諾されていたかどうかについては、なおさらである。
したがって、証人尋問を行うことはしない。
これらを総合的に勘案すると、本件特許に実施権者が存在しているとは認められないから、請求人の主張は、採用できない。

4 訂正の適否についてのまとめ
よって、平成23年3月14日付けで請求された訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2の項で示したように、平成23年3月14日付けの訂正請求は適法なものであるから、本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正明細書(本件訂正明細書を、以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである(以下、「本件発明」という。)。
「下記a群の用途の中のいずれかである生分解性衛生用繊維集合体であって、式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とするモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなることを特徴とする生分解性衛生用繊維集合体。
a群
使い捨て衣料、サニタリーナプキン、パンティーシールド、成人用オムツ、ベビーオムツ、失禁者パッド、シーツ、ベッドカバー、マクラカバー、エプロン、キッチン用手袋」

第4 請求人の主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法

1 審判請求書における無効理由の概要
請求人は、請求の趣旨の欄を「第3735734号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、概略以下の無効理由1を主張した。
【無効理由1】
本件発明は、周知技術である甲1?甲3に記載された発明(甲2を除いて本件出願前に頒布されている。)及び同じく周知技術である甲4?甲6(本件出願前に頒布されている。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

2 上申書において新たに主張された無効理由の概要
請求人は、新たに、概略以下の無効理由2を主張した。
【無効理由2】
本件発明は、周知技術である甲1?甲3、甲7?甲11、甲12?甲16に記載された発明(甲2を除いて本件出願前に頒布されている。)及び同じく周知技術である甲4?甲6、甲17?甲22(本件出願前に頒布されている。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

3 請求人が提出した証拠方法
既に前記第2の3の項で言及したものもあるが、以下の証拠方法が提出されている。
[審判請求書に添付]
甲1:特開昭61-37158号公報
甲2:特開平5-321075号公報
甲3:特開昭64-72744号公報
甲4:特開平4-57953号公報
甲5:特開平5-59612号公報
甲6:特開平3-262430号公報
[上申書に添付]
甲7:繊維学会編「繊維便覧-加工編-」,丸善,昭和44年5月30日,p.373-375,440-445
甲8:Radko Krcma著,石田輝男訳「クラッチマの不織布」,日本繊維新聞社,昭和49年1月20日,p.26-28
甲9:日本繊維機械学会編「繊維工学〔I〕繊維の科学と暮らし」,日本繊維機械学会,平成3年11月25日,p.262-265
甲10:三浦義人「不織布要論」,初版,高分子刊行会,昭和48年5月15日,p.10-19,128-136
甲11:田中千代「服飾辞典」,新増補第4刷,同文書院,1984年2月18日,p.272-273
甲12:特開昭63-256769号公報
甲13:特開平1-99835号公報
甲14:特開平1-148834号公報
甲15:特開平1-260068号公報
甲16:特開平3-227408号公報
甲17:特開平4-168149号公報
甲18:特開平4-210526号公報
甲19:特開平4-334448号公報
甲20:特開平5-38784号公報
甲21:特開平5-39381号公報
甲22:特開平5-43665号公報
甲23:「東洋紡 ポリ乳酸繊維・不織布関連特許の実施許諾交渉 メモ記録」と題する書面
甲24:ユニチカ株式会社の中道喜久美が平成21年12月28日に採録した「東洋紡 ポリ乳酸繊維・不織布関連特許の実施許諾交渉」の録音を格納したとされるUSBメモリー
甲25:ユニチカ株式会社の藤丸祥子が平成23年4月7日に作成した甲24の文字起こし
証人尋問申出書及び尋問事項書:東洋紡績株式会社の竹内秀夫を証人とするもの

4 補正の許否
請求人提出の上申書において新たに主張された無効理由2については、口頭審理において、この無効理由を追加する補正は、許可しないとの決定がされている。(第1回口頭審理調書、審判長の項の3を参照)

5 まとめ
以上のとおりであるから、本件審判請求における請求人が主張する無効理由は、上記1に記載した無効理由1である。

第5 被請求人の主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法

1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判の請求は、成り立たない。本件審判の請求費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人が主張する無効理由のいずれにも理由がない旨の反論をしている。

2 被請求人が提出した証拠方法
既に前記第2の3の項で言及したものもあるが、以下の証拠方法が提出されている。
[上申書に添付]
乙1:無効2010-100163号に係る平成23年2月14日付け意見書の11?17頁及び添付した参考資料1(辻秀人「ポリ乳酸-植物由来プラスチックの基礎と応用-」,初版,産業図書,2008年4月11日,p.73-114)
[上申書2に添付]
乙2:平成23年4月28日付けの東洋紡績株式会社の竹内秀夫の陳述書

第6 当審の判断
当審は、上記無効理由1は理由がない、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 無効理由1について
無効理由1の概要は、本件発明は、周知技術である甲1?甲3に記載された発明(甲2を除いて本件出願前に頒布されている。)及び同じく周知技術である甲4?甲6(本件出願前に頒布されている。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)甲1?甲6の記載
甲1?甲6は、甲2を除き、いずれも本件出願前に頒布された刊行物である。

ア 甲1(特開昭61-37158号公報、発明の名称「エアベツド用フイルタシーツ地の製造方法」)には、以下の記載がある。
(1a)「(1)ポリエステルフィラメント糸を経糸及び緯糸に用いて、経方向及び緯方向のカバーファクタが800?1500の織物を製織し、該織物に加熱及びプレス加工処理を施して通気度を30?100cc/cm^(2)/secとすることを特徴とするエアベッド用フィルタシーツ地の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
(1b)「(イ)産業上の利用分野
本発明は、熱傷治療等に用いられるエアベッド用フィルタシーツ地の製造方法に関するものである。」(1頁左下欄16?19行)
(1c)「(ロ)従来の技術
従来から、熱傷治療用ベッドとして・・・エアベッド等が用いられ、身体の特定の部位にのみ圧力が加わることを防くため、頻繁に体位を変えることなどが行われてきた。・・・エアベッドは・・・ベッドの敷蒲団の代わりに60?160μ程度のガラスビーズの厚さ約30cmの堆積層を織物で包被し、下面から空気を吹込んでガラスビーズを流動化させ、そしてその上に人体を横臥させるのであって、体重分散効果があり、かつベッド面のシーツ地に多数の小孔(織目間隙)を有し、浸出液,汗等がその小孔を通って下側へ落ちていき、床ずれなどの発生が少なく、重症の熱傷の患部にソフトに接触して治療期間が短縮され、またエアベッド内へ供給する空気の流速、温度、湿度を自由に変えることができ、患者の体温調整などに有効で、広範囲熱傷治療等に最適である。しかしながら、上記のごとき、エアベッドのガラスビーズを包被する、いわゆるエアベッド用フィルタシーツに適した、高密度でガラスビーズが漏れることが無く、しかも均斉な小孔を有する織物を製造することが困難であり、今後の課題とされていた。
エアベッド用フィルタシーツに適する織物の条件について整理すると、次のような事項があげられる。
i)患部から出る分泌液の透過性が良く、しかも人が乗っても伸びが少ないこと。
ii)織物の小孔の大きさが均斉で、しかも60μ以下で、30?100cc/cm^(2)/sec程度の適度の通気度を有し、人が乗った程度で目ずれが生じないこと。
これらの諸条件を満足させるためには、疎水性でヤング率の高いポリエステルモノフィラメント又は撚糸されたポリエステルマルチフィラメントの40D前後の太さの糸を、経糸及び緯糸に用い、カバーファクタ(K)が800?1500の範囲の高密度で織込む必要がある。」(1頁左下欄末行?2頁右上欄3行)
(1d)「本発明においては、まず上記のごとく、エアベッド用フィルタシーツに適する織物としての要件を満足させるため、経糸及び緯糸に、疎水性でヤング率の高いポリエステル繊維のモノフィラメント糸またはマルチフィラメント撚糸を用い、カバーファクタが経方向及び緯方向ともに800?1500の織物を製織する。カバーファクタが800未満の場合、次工程の加熱-プレス処理を施しても織目間隙からのガラスビーズの漏れを防ぐことができず、又1500を超えると織目間隙が小さ過ぎ、エアベッド用フィルタシーツとして使用中患部からの分泌液,汗等が通りにくく、むれ易いため不適当である。
次に前記の織物に加熱及びプレス加工処理を施して、通気度を30?100cc/cm^(2)/secに調整する。通気度が30cc/cm^(2)/secより低いことは、織目間隙が小さ過ぎることを物語り、分泌液等の通りが悪く、且つむれ易く、又100cc/cm^(2)/secを超える場合は織目間隙が大き過ぎるわけで、エアベッド内に吹込まれる空気の吹出しが多くなり、又ガラスビーズの漏れも生じ易く、いずれの場合もエアベッド用フィルタシーツ地としては不適格である。」(2頁右下欄1行?3頁左上欄3行)
(1e)「エアベッド用フィルタシーツにおいては、使用中の患部からの分泌液は、シーツ地の小孔(織目間隙)を通って下方に流れるものの、長時間使用すると分泌物等の汚れが付着して洗濯が必要となり、従って耐洗濯性が要求される。しがし現在用いられているフィルタシーツでは、防汚加工を施しても、洗濯により目寄れが発生する等の理由から、通常3?5回の洗濯使用が限度とされている。これに対して、本発明においては、加熱-プレス加工処理に先立ち、通常のポリエステル繊維製品に対する防汚剤として用いられるポリエステル樹脂系防汚剤又は弗素系防汚剤により耐久性のある防汚加工を施すことにより、汚れ除去性が著しく改良され、100洗以上の洗濯によっても、目寄れが起こらず、汚れも全く残らないものが得られる。」(3頁右下欄7行?4頁左上欄1行)
(1f)「実施例1.
経糸及び緯糸にポリエステルモノフィラメント糸40Dを用い・・・製織し・・・」(4頁左上欄3?6行)
(1g)「実施例2.
経糸及び緯糸にポリエステルマルチフィラメント糸50D/24Fの500T/mの追撚糸を用い・・・製織し・・・」(4頁左上欄18行?右上欄2行)
(1h)「(へ)発明の効果
本発明は・・・加熱-プレス加工処理による織密度均斉化効果により・・・極めて容易にかつ高生産性で製織することが可能となり、さらに得られた加工織物は極めて均斉な織目を有し、エアベッド用フィルタシーツ地として用いた際、患部からの分泌液等の透過性が良く、むれが無く、しかも内部のガラスビーズ等が漏れ出すことも無く、又洗濯を繰返しても目寄れが発生しない等の格別の効果を奏し、さらに加熱-プレス加工処理の前に必要に応じて耐久性のある防汚加工処理を施して、より使用価値を高めることもできる。」(4頁右上欄12行?左下欄11行)

イ 甲2(特開平5-321075号公報、発明の名称「防塵性織物」)には、以下の記載がある。
(2a)「【請求項1】 経糸又は緯糸の一方が沸水収縮率4%以下のポリエステルマルチフィラメント糸、他方がポリエステル異収縮混繊糸であって、経糸及び緯糸のカバーファクターの合計が2500?3500であることを特徴とする防塵性織物。」
(2b)「【0012】本発明の防塵性織物はクリーンルーム用に最適であり、クリーンルーム用衣料としてスーツ、ジャケット等のアウターや、キャップ、フード、マスク、シューズカバー、エプロン、アームカバー等として用いることが出来る。」

ウ 甲3(特開昭64-72744号公報、発明の名称「吸収性物品」)には、以下の記載がある。
(3a)「1.互いに平行に配されたフィラメントの群と、互いに平行に配されたリボン状のフィルムの群とが、一体化されることから成る疎水性の多孔質シートを表面材として用いたことを特徴とする吸収性物品。
2.フィラメントの群とフィルムの群が互いに垂直に交差している特許請求の範囲第1項記載の吸収性物品。
3.多孔質シートの開孔の大きさが0.1?3mm^(2) であり、かつ開孔密度が15?300個/cm^(2) である特許請求の範囲第1項記載の吸収性物品。」(特許請求の範囲第1項?第3項)
(3b)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、使用域に優れた使い捨ての吸収性物品、特に生理用ナプキン、使い捨てオムツ等の使い捨ての吸収性物品に関するものである。」(1頁左下欄18?20行)
(3c)「〔従来の技術及びその問題点〕
従来から・・・液体吸収後の吸収性物品の表面を出来る限り乾燥した状態に保つことにより、着用者がいわゆるカブレなどの皮膚疾患を起さず、快適な使用感を覚えることを目的とした研究については、数多くの成果が報告されている。
例えば、表面材として疎水性の繊維から成る不繊布を用い、表面材中での液体の拡散保留を低減することにより、表面の乾燥特性を向上させる技術が挙げられる。
しかし・・・必然的に微視的空隙が形成され・・・この微視的空隙には液体が非常に保留しやすいため、液体が排出された場合にはかなりの液体が表面材中に拡散保留する。従って、如何に疎水性の繊維を用いても不織布の表面の乾燥特性は十分には向上しない。
一方、疎水性の樹脂からなるフィルムにエンボス加工等で開孔を付与したものや、疎水性の樹脂からなるリボン状のフィルムを組み合わせることによって網状シートとしたもの(これらを合わせて以下有孔フィルムと記す)を表面材として用いることで、表面の乾燥特性を向上させる技術も提案されている。
・・・ところが、体表面に直接接する表面材としてこのような有孔フィルムを使用すると、液体が排出された場合、有孔フィルムの開孔以外の部分では液体が全く吸収されないため、表面材と体表面の間に液体が保留し、使用者に不快感を与えるばかりでなく、しばしば皮膚の疾患を引き起こす。」(1頁右下欄1行?2頁右上欄3行)
(3d)「本発明者らは、かかる問題点を克服すべく鋭意研究を重ねた結果、フィルムとフィラメントとの複合から成る全く新しい表面材を用いた吸収性物品を創造することに成功し、本発明を完成するに到った。」(2頁右下欄8?12行)
(3e)「本発明の複合シートを形成するフィラメントの素材は疎水性であればどんな物を用いても良い。例えば、ポリオレフィン、オレフィンとアクリル酸エステルや酢酸ビニルなどの他モノマーとの共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル、酢酸セルロースといった合成樹脂単体またはそれらのブレンド物などが挙げられるが、肌触りや加工性を考慮するとポリオレフィン、オレフィンと他モノマーとの共重合体、それらのブレンド物又はポリアミドが好ましい。
フィラメントの形態は、前述のようにモノフィラメントまたは紡績繊維のどちらでもよいが、前者の方がコスト的に有利でありより好ましいと言える。また、フィラメントの直径は、複合シートが十分な強度と良好な風合いを併せ持つ範囲で自由に定めることが出来るが、一般に0.02?0.5mmであることが好ましく、0.05?0.2mmであればより好ましい。」(3頁右上欄14行?左下欄12行)
(3f)「一方、フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、オレフィンとアクリル酸エステルや酢酸ビニルなどの他モノマーとの共重合体、ポリアクリル酸エステル、合成ゴムなどが挙げられるが、用いるフィラメントと必要な接着力を有しかつ疎水性である物なら何を用いても良い。フィルムの厚さも、複合シートが十分な強度と良好な風合いを併せ持つ範囲で自由に定めることが出来るが、一般に0.01?0.2mmであることが好ましく、0.05?0.1mmであればより好ましい。」(3頁左下欄13行?右下欄3行)
(3g)「フィラメントとフィルムの交差角は・・・45゜以上であることが好ましく、80?90°であればより好ましい。」(3頁右下欄12?18行)
(3h)「フィラメントとフィルムの一体化には、熱接着または接着剤による接着のいずれかを用いることが出来るが、生産の容易さを考慮すると熱接着が好ましい。」(4頁左上欄1?4行)
(3i)「〔発明の効果〕
・・・本発明に係わる表面材は強度が大きく肌触りも良好であり、しかも液残りが小さく表面の乾燥特性に優れており、使用感が非常に良好な吸収性物品が得られる。」(7頁左上欄1?6行)

エ 甲4(特開平4-57953号公報、発明の名称「微生物分解性不織布」)には、以下の記載がある。
(4a)「1.ポリカプロラクトンを3?30重量%含むポリエチレンから成る単糸繊度5デニール以下の繊維で構成されている微生物分解性不織布。」(特許請求の範囲)
(4b)「産業上の利用分野
本発明は微生物分解性を具備した不織布に関するものである。さらに詳しくは、使い捨ておむつや生理用品のカバーストックあるいは、ワイパーや包装材料などの一般生活資材として好適で、しかも微生物分解性を兼ね備えた不繊布に関するものである。」(1頁左下欄9?15行)
(4c)「従来の技術
不織布は衛生材、一般生活資材や産業資材として広く使用されており、不織布を構成する繊維素材はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミドなどが主なものである。・・・使用済みの不織布は・・・焼却処理が広く行なわれているが、多大の諸経費が必要とされる。・・・近年、廃棄プラスチックスによる公害が発生しつつあり・・・使い捨て製品の分野で、年々その使用量が増大している不織布に関して、短期間の内に、自然に分解される新しい不織布が要望されている。・・・
・・・・・・・・・・
・・・微生物分解性で熱可塑性のある共重合ポリエステルが生産されるようになっている。・・・
この他の合成高分子素材として、脂肪族ポリエステルであるポリグリコリドやポリラクチドおよびこれらの共重合体が広く知られている。これらの重合体は、熱可塑性であることから、溶融紡糸が可能であるが、重合体のコストが高いため、その適用は、生体吸収性縫合糸のような分野に限られている。
・・・・・・・・・・
以上のように、微生物分解性で、しかも熱可塑性のある細繊度の繊維を安価に得ることは極めて困難であることから、プラスチック成形品やフィルムなどの分野に比べ、繊維分野での微生物分解性の実用化が著しく遅れているといえる。」(1頁左下欄16行?2頁右上欄18行)
(4d)「発明が解決しようとする課題
本発明は、以上のような背景を踏まえて、汎用素材であるポリエチレンをベースとして、微生物分解性と熱可塑性とを兼ね備えた安価な不織布を提供することを目的とするものである。」(2頁右上欄19行?左下欄3行)
(4e)「実施例1?4、比較例1?2
平均分子量が約4万のポリカプロラクトンと、オクテン-1を5重量%含有し、密度が0.937g/cm^(3)、メルトインデックス値がASTMのD-1238(E)の方法で測定して25g/10分、融点が125℃の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)とを二軸の混練用エクストルーダーを用いて、種々の割合に混合してマスターチップを作成した。・・・次に、得られたマスターチップを用い、孔径0.35mm、孔数64ホールのノズルを複数個使用し、1.2g/分/ホールの吐出量で、230?250℃の紡糸温度範囲にて溶融押し出しし、ノズル下120cmの位置に設けたエァーサッカーを使用して連続マルチフィラメントを3500m/分の速度で引き取り、移動するエンドレスの金網上にフィラメントを捕集してウェッブとした後、金属エンボスロールと金属フラットロールを用いて、線圧30kg/cm、圧接面積率20%、熱処理温度105℃にて加熱処理して単糸繊度3dのフィラメントで構成される目付20g/m^(2) のスパンボンド不織布を得た。得られた各不織布の性能を第1表に示す。なお、第1表の中で微生物分解性については、不織布を10?25℃の土壌中に6ケ月埋設した後、不織布がその形態を保っているか否か、あるいは形態を保っていても引張強力が初期の50%以下に低下しているか否かで判定した。不織布の形態を保っていても引張強力が初期の50%以下に低下したものを微生物分解性良好とし、そうでないものを微生物分解性不良とした。微生物分解性良好の場合でも不織布の初期引張強力が800g/3cm未満である場合には総合評価として不良とした。
第1表
ポリカプロラクトン 不織布性能 微生物 総合
含有量(重量%) 引張強力(g/3cm) 分解性 評価
実施例1 3 1100 良好 良好
〃 2 10 1020 〃 〃
〃 3 20 910 〃 〃
〃 4 30 880 〃 〃
比較例1 1 1120 不良 不良
〃 2 35 670 良好 不良

第1表の結果からも、実施例1?4のポリカプロラクトンを3?30重量%含む不織布は不織布性能(引張強力)、微生物分解性共に良好であることが判る。」(3頁右上欄18行?4頁左上欄下から7行)
(4f)「発明の効果
以上のように本発明によれば、大幅なコストアップを伴うことなく、引張強力が大で微生物分解性と熱可塑性とを兼ね備えた不織布を得ることができる。」(4頁左上欄下から6?下から2行)

オ 甲5(特開平5-59612号公報、発明の名称「微生物分解性マルチフイラメント」)には、以下の記載がある。
(5a)「【請求項1】ポリカプロラクトンからなるマルチフィラメントであって、その引張強度が4.0g/d以上、引張破断伸度が30%以上であることを特徴とする微生物分解性マルチフィラメント。」
(5b)「【0002】【従来の技術】従来、漁業や農業、土木用として用いられる産業資材用繊維としては、強度及び耐候性の優れたものが要求されており、主としてポリアミド、ポリエステル、ビニロン、ポリオレフィン等からなるものが使用されている。しかし、これらの繊維は自己分解性がなく、使用後、海や山野に放置すると種々の公害を引き起こすという問題がある。この問題は、使用後、焼却、埋め立てあるいは回収再生により処理すれば解決されるが、これらの処理には多大の費用を要するため、現実には海や山野に放置され、景観を損なうばかりでなく、鳥や海洋生物、ダイバー等に絡みついて殺傷したり、船のスクリューに絡みついて船舶事故を起こしたりする事態がしばしば発生している。
【0003】このような問題を解決する方法として、自然分解性(微生物分解性又は生分解性)の素材を用いることが考えられる。
【0004】従来、自然分解性ポリマーとして、セルローズやキチン等の多糖類、カット・グット(腸線)や再生コラーゲン等の蛋白質やポリペプチド(ポリアミノ酸)、微生物が自然界で作るポリ-3-ヒドロキシブチレート又はその共重合体のような微生物ポリエステル、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリカプロラクトン等の合成脂肪族ポリエステル等がよく知られている。
【0005】しかし、これらのポリマーから繊維を製造する場合、湿式紡糸法で製造しなければならなかったり、素材のコストが極めて高いため、製造原価が高価になったり、高強度の繊維を得ることができなかったりするという問題があった。」
(5c)「【0009】【発明が解決しようとする問題点】本発明は、比較的安価で、かつ、実用に供することができる強度を有し、微生物により完全に分解されるポリカプロラクトンからなるマルチフィラメントを提供しようとするものである。」
(5d)「【0017】実施例1?4及び比較例1
メルトフローレートが30及び4のポリカプロラクトンをそのままあるいは適当にブレンドして、表1に示したメルトフローレートとなるようにあらかじめ2軸のエクストルーダーで溶融混練後、チップ化したポリマーを用いて、0.5mmφ×24ホールの紡糸口金からそれぞれ表1に示す温度で溶融紡糸した。未延伸糸を一旦巻き取った後、約3倍に冷延伸し、75d/24fのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの引張り強伸度特性及び微生物分解性評価結果を表1に示す。
【0018】
【表1】
メルトフローレート 紡糸温度 引張り強伸度特性 微生物
(g/10min) (℃) 強度(g/d) 伸度(%) 分解性
実施例1 4 270 5.51 33.3 良好
実施例2 10 260 5.34 34.1 良好
実施例3 15 250 5.12 35.2 良好
実施例4 25 210 4.28 37.6 良好
比較例1 30 200 3.80 37.4 良好 」
(5e)「【0019】【発明の効果】本発明によれば、実用に耐え得る強伸度特性を有し、かつ微生物分解性のマルチフィラメントが提供される。本発明のマルチフィラメントは、漁業用資材、農業用資材、土木用資材、衛生材、廃棄物処理材等として好適であり、使用後微生物が存在する環境(土中又は水中)に放置しておけば一定期間後には完全に生分解されるため、特別な廃棄物処理を必要とせず、公害を防止に有用である。」

カ 甲6(特開平3-262430号公報、発明の名称「漁網」)には、以下の記載がある。
(6a)「1.分解性高分子をその構成素材としたことを特徴とする漁網。
2.分解性高分子がポリグリコール酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網。
3.分解性高分子がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網。」(特許請求の範囲第1項?第3項)
(6b)「(作用)
本発明は、前記のように分解性、特に、水分により分解する高分子にて漁網を構成したので、水中に放置しておよそ数ヵ月?1年以上経過後にはモノマー化し、最終的には微生物の餌となって消失してしまうので従来のような放置に伴う環境汚染の問題を生じない。」(2頁右上欄2?8行)
(6c)「尚、本発明を構成するポリグリコール酸は、以下の構造式で示され、
O O
? ?
-(C-CH_(2)-O-C-CH_(2)-O)_(n)-
グリコリドは以下の構造式で示される。
・・・・・・・・・・・・・・・・
また、ポリ乳酸は、L体、D,L体、D体等の異性体、L体とD体の混合ラクチドを原料として化学的に重合、合成されたものがあるが、以下の構造式で示される。
O O
? ?
-(C-*CH-O-C-*CH-O)_(n)-
| |
CH_(3) CH_(3) 」(2頁右上欄17行?左下欄7行)
(6d)「これらの分解性ポリマーは夫々異なった分解性、弾性、強度を示し、その分子量、重合比率、混合比率によっても様々な特性を示す。
従ってその目的、用途によって適宜これらを選択して用いることができ、例えば、2ヵ月単位で分解性の異なる構成とすることができる。」(2頁右下欄4?9行)
(6e)「前記したポリマーの性状について一例を挙げると、ポリグリコール酸、グリコリドは他のポリマーと比較して分解速度が速く、約20℃に維持された水中において数ヵ月でモノマー化し、分解してしまうが、漁網として必要とされる4g/d以上の強度、25?40%の伸度を備え、透明感、乱反射のない性質も有する。」(2頁右下欄10?16行)
(6f)「(実施例1)
固有粘度0.8のポリグリコール酸を原料とし、これをノズル温度250℃で溶融紡糸した後30℃に急冷し、90℃の環境下で6倍に延伸し、次いで0.9倍の弛緩熱処理を行って直径0.221ミリのモノフィラメント糸を得た。
かかる糸条について、JISの測定法に準じてその物性を測定したところ強度5.8g/d、伸度27.9%の性能を有した。
・・・・・・・・・・
以上のようにして得た糸条を用い、漁網を編成し、20℃の水中に継続して浸漬してその強度低下、分解の変化を観察したところ、約1週間後には強度が約50%に半減し、3週間後においては強度がほぼゼロとなり、6週間以上経過後においてはモノマー化して繊維状のものが消滅してしまった。
・・・・・・・・・・
また、かかる処理後の糸に対し、更に、結晶化温度以上、融点以下の熱処理を2時間以上具体的には、80?200℃で2?36時間の熱処理を行なうことは、強度劣化の程度を遅延させ、或は調整する上において有効な手段である。」(2頁右下欄18行?3頁右上欄17行)
(6g)「(発明の効果)
本発明は以上のように経時的に強度劣化し、最終的には自然の中で消失してしまう特性を有するので、老朽化した網の処分も不要となり、海中に投棄して、或は陸上に放置して、何れも水分の影響を受けて分解、消失するため従来のような環境汚染の問題を生じない。
また、本発明においては、分子量を変えたり異種のポリマーとの共重合化、混合により分解性のコントロールが可能であり、その目的に応じて、性能に変化を持たせることができる利点がある。」(3頁右上欄18行?左下欄8行)
(6h)「尚、網を構成する糸の形態としては、モノフィラメト、マルチフィラメント、合撚、組紐状等その態様は任意であり、また、かかる素材を適用して糸、紐、ロープ、網、シート、フィルム、成型物等を構成し、当該分野において使い捨て、放置に伴う環境汚染を回避するに必要があればこれを用いれば本発明と同一の効果を得ることができるものである。」(3頁右下欄8?15行)

(2)甲1に記載された発明との対比・判断

ア 甲1に記載された発明
甲1には、特許請求の範囲第1項に、「ポリエステルフィラメント糸を経糸及び緯糸に用いて、経方向及び緯方向のカバーファクタが800?1500の織物を製織し、該織物に加熱及びプレス加工処理を施して通気度を30?100cc/cm^(2)/secとすることを特徴とするエアベッド用フィルタシーツ地の製造方法」の発明が記載されている(摘示(1a))。
したがって、甲1には、その製造方法により製造されたエアベッド用フィルタシーツ地の発明も記載されているということができる。
そして、上記ポリエステルフィラメント糸は、「モノフィラメント糸」又は「マルチフィラメント糸」である(摘示(1d)(1f)(1g))。
そうすると、甲1には、
「ポリエステルのモノフィラメント糸又はマルチフィラメント糸を、経糸及び緯糸に用いて、経方向及び緯方向のカバーファクタが800?1500の織物を製織し、該織物に加熱及びプレス加工処理を施して通気度を30?100cc/cm^(2)/secとしたエアベッド用フィルタシーツ地」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

イ 対比
本件発明と甲1発明を対比する。
甲1発明のエアベッド用フィルタシーツ地は、ポリエステルのモノフィラメント糸又はマルチフィラメント糸を、経糸及び緯糸に用いた織物であるから、本件発明の「モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる」ものである「繊維集合体」に相当する。これは、熱傷治療等に用いられるエアベッドのためのシーツ地であり(摘示(1c))、用途が、本件発明の「衛生用」の「シーツ」であるものに相当する。
そして、甲1発明におけるエアベッド用フィルタシーツ地は、ポリエステルからなるが、合成繊維の技術分野において、単に「ポリエステル」というときは、通常は「ポリエチレンテレフタレート」であり、式-CO-φ-CO-OCH_(2)CH_(2)O-(審決注:φは1,4-フェニレン基)を主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステルである。
一方、本件発明の「式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰返し単位とするポリ乳酸」は、ポリエステルの一種である。
そうすると、本件発明と甲1発明は、
「用途がシーツである衛生用の繊維集合体であって、ポリエステルを主成分とするモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる繊維集合体」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点:上記の、用途がシーツである衛生用の繊維集合体であって、ポリエステルを主成分とするモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる繊維集合体が、本件発明では、式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰返し単位とするポリ乳酸を主成分とする生分解性の繊維集合体であるのに対し、甲1発明では、ポリエステルを主成分とする生分解性でない繊維集合体である点

ウ 相違点の検討

(ア)甲1発明において、エアベッド用フィルタシーツ地の織物の素材にポリエステルのモノフィラメント糸又はマルチフィラメント糸が用いられているのは、ポリエステルが、疎水性で、ヤング率が高いからである(摘示(1c)(1d))。また、甲1発明のエアベッド用フィルタシーツ地は、耐洗濯性が要求されるところ(摘示(1e))、洗濯を繰り返しても目寄れが発生しないという効果を奏するものであり(摘示(1h))、素材のポリエステルは、そもそも繰り返しの洗濯に耐える耐水性を有するものといえる。
そして、甲1には、分解や劣化しやすい素材を、エアベッド用フィルタシーツ地に用いること、あるいはポリ乳酸を用いることは、記載されておらず、意図されていないといえる。

(イ)一方、甲4には、特許請求の範囲第1項に、「ポリカプロラクトンを3?30重量%含むポリエチレンから成る単糸繊度5デニール以下の繊維で構成されている微生物分解性不織布」の発明が記載されている(摘示(4a))。
甲4には、「従来の技術」の欄に、
「不織布は衛生材、一般生活資材や産業資材として広く使用されており、不織布を構成する繊維素材はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミドなどが主なものである。・・・使用済みの不織布は・・・焼却処理が広く行なわれているが、多大の諸経費が必要とされる。・・・近年、廃棄プラスチックスによる公害が発生しつつあり・・・」
と問題提起され、続けて、
「使い捨て製品の分野で、年々その使用量が増大している不織布に関して、短期間の内に、自然に分解される新しい不織布が要望されている。・・・
・・・・・・・・・・
この他の合成高分子素材として、脂肪族ポリエステルであるポリグリコリドやポリラクチドおよびこれらの共重合体が広く知られている。これらの重合体は、熱可塑性であることから、溶融紡糸が可能であるが、重合体のコストが高いため、その適用は、生体吸収性縫合糸のような分野に限られている。」
として、使い捨て製品の不織布に、自然に分解されることが広く知られている材料を用いることの可能性が示唆され、ポリラクチド(審決注:ポリ乳酸に同じ。)も示されているものの、現実には問題解決ができなかったことが記載されており(摘示(3c))、その上で、上記特許請求の範囲第1項に係る発明の構成により、上記問題が解決することが記載されている(摘示(4d)?(4f))。
このように、甲4には、「ポリラクチド」との記載はあるが、参考的に示されているに過ぎず、現実に問題解決できる実体があるものとして記載されているのではない。

(ウ)また、甲5には、特許請求の範囲の請求項1に、「ポリカプロラクトンからなるマルチフィラメントであって、その引張強度が4.0g/d以上、引張破断伸度が30%以上であることを特徴とする微生物分解性マルチフィラメント」の発明が記載されている(摘示(5a))。
甲5には、「従来の技術」の欄に、
「従来、漁業や農業、土木用として用いられる産業資材用繊維としては、強度及び耐候性の優れたものが要求されており、主としてポリアミド、ポリエステル、ビニロン、ポリオレフィン等からなるものが使用されている。しかし、これらの繊維は自己分解性がなく、使用後、海や山野に放置すると種々の公害を引き起こすという問題がある。・・・海や山野に放置され、景観を損なうばかりでなく、鳥や海洋生物、ダイバー等に絡みついて殺傷したり、船のスクリューに絡みついて船舶事故を起こしたりする事態がしばしば発生している。」
と問題提起され、続けて、
「このような問題を解決する方法として、自然分解性(微生物分解性又は生分解性)の素材を用いることが考えられる。
従来、自然分解性ポリマーとして、セルローズやキチン等の多糖類、カット・グット(腸線)や再生コラーゲン等の蛋白質やポリペプチド(ポリアミノ酸)、微生物が自然界で作るポリ-3-ヒドロキシブチレート又はその共重合体のような微生物ポリエステル、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリカプロラクトン等の合成脂肪族ポリエステル等がよく知られている。
しかし、これらのポリマーから繊維を製造する場合、湿式紡糸法で製造しなければならなかったり、素材のコストが極めて高いため、製造原価が高価になったり、高強度の繊維を得ることができなかったりするという問題があった。」
として、産業資材用繊維に、よく知られている各種の自然分解性ポリマーを用いることの可能性が示唆され、ポリラクチド(審決注:ポリ乳酸に同じ。)も示されているものの、現実には問題解決ができなかったことが記載されており(摘示(5b))、その上で、上記特許請求の範囲の請求項1に係る発明の構成により、上記問題が解決することが記載されている(摘示(5c)?(5e))。
このように、甲5には、「ポリラクチド」との記載はあるが、参考的に示されているに過ぎず、現実に問題解決できる実体があるものとして記載されているのではない。また、その用途も、漁業や農業、土木用の用途であって、衛生用の用途ではない。

(エ)また、甲6には、特許請求の範囲第1項?第3項に、それぞれ、「分解性高分子をその構成素材としたことを特徴とする漁網」、「分解性高分子がポリグリコール酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網」及び「分解性高分子がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網」の発明が記載されている(摘示(6a))。
甲6には、上記特許請求の範囲第1項?第3項に係る発明の作用として、
「本発明は、前記のように分解性、特に、水分により分解する高分子にて漁網を構成したので、水中に放置しておよそ数ヵ月?1年以上経過後にはモノマー化し、最終的には微生物の餌となって消失してしまうので従来のような放置に伴う環境汚染の問題を生じない。」
と記載されている(摘示(6b))。
しかし、具体的に製造して、水により分解することが示されているのは、ポリグリコール酸についてのみであり、固有粘度0.8のポリグリコール酸を溶融紡糸して直径0.221ミリのモノフィラメント糸を得て、これを用いて漁網を編成し、20℃の水中に浸漬して観察すると、約1週間後には強度が約50%に半減し、3週間後においては強度がほぼゼロとなり、6週間以上経過後においてはモノマー化して繊維状のものが消滅してしまった、というもののみである(摘示(6f))。
このように、甲6には、「ポリ乳酸」との記載はあるが、具体的に示されているのはポリグリコール酸を素材としたもののみであって、その用途も、漁網であって衛生用の用途ではない。

(オ)そうすると、甲1発明の、エアベッド用フィルタシーツ地は、ポリエステルを素材としていて、それは、疎水性で、ヤング率が高く、繰り返しの洗濯に耐える耐水性のあるものとして素材が選択されたものといえるのであるから、甲1発明において、その素材を、耐水性があり生分解性でないポリエステルから、加水分解しやすい生分解性のポリ乳酸にかえ、ポリ乳酸を主成分とする生分解性の織物にしようとする動機付けとなるものは、何もないというべきである。
そして、甲4?甲6に、衛生材、一般生活資材又は産業資材として用いられる不織布や、漁業、農業又は土木用の産業資材用繊維について、環境中に放置されると公害の問題があることが記載され、その問題の解決のために分解性のポリマーの使用が試みられていたことが記載され、ポリ乳酸にも言及がされていたとしても、ポリ乳酸は、甲4及び甲5には現実に問題解決できる実体があるものとして記載されているのではないし、甲6には具体的にはポリグリコール酸の漁網が記載されるだけでポリ乳酸は実体があるものとして記載されているのではない。
しかも、甲1発明の、エアベッド用フィルターシーツ地は、熱傷の患部からの分泌液等の汚れが付着するものであるから、洗濯されることがあるとはいえ、使用後に廃棄するにあたり、環境中に放置することによる廃棄が想定されるものでもない。
そうすると、甲1発明を知った当業者が、甲4?甲6に記載される事項について知ったとしても、甲1発明のエアベッド用フィルタシーツ地について、ポリエステルを主成分とする生分解性でない織物であったものを、その素材をポリ乳酸に変更して、「式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰返し単位とするポリ乳酸を主成分とする生分解性の繊維集合体」という相違点に係る本件発明の構成を備えたものとすることを、容易に想到できたということはできない。

エ 効果について
そして、本件発明は、その実施例1に記載された「得られた不織布の不織布片(縦10mm×横10mm)を土壌中に埋設し、重量変化を調査したところ、半年後で初期重量の53%となり、一年後には22%となり、1年半後には形状を確認できないほど分解していた」で代表される、優れた生分解性と良好な物性を有し、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の心配がない、という効果を奏するものである。この効果は、甲1及び甲4?甲6に記載された事項から予測できない。

オ まとめ
したがって、本件発明は、甲1発明及び甲4?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲2に記載された発明との対比・判断
甲2は、本件出願前に頒布された刊行物ではないので、本件発明が甲2に記載された発明及び甲4?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かは、判断する必要がなく、判断しない。

(4)甲3に記載された発明との対比・判断

ア 甲3に記載された発明
甲3には、特許請求の範囲第1項に、「互いに平行に配されたフィラメントの群と、互いに平行に配されたリボン状のフィルムの群とが、一体化されることから成る疎水性の多孔質シートを表面材として用いたことを特徴とする吸収性物品」の発明が記載されている(摘示(3a))。該多孔質シートを構成するフィラメントの素材には疎水性の合成樹脂が用いられるとされ(摘示(3e))、同じくフィルムの素材には疎水性の樹脂が用いられるとされるから(摘示(3f))、甲3には、
「互いに平行に配されたフィラメントの群と、互いに平行に配されたリボン状のフィルムの群とが、一体化されることから成る疎水性の多孔質シートからなる、吸収性物品の表面材であって、上記フィラメントは疎水性の合成樹脂からなり、上記フィルムは疎水性の樹脂からなる、吸収性物品の表面材」
の発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されているということができる。
また、摘示(3c)には、従来の技術として、吸収性物品の表面材として「疎水性の繊維から成る不織布」を用いることが記載されているから、
「疎水性の繊維からなる不織布からなる、吸収性物品の表面材」
の発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されているということができる。

イ 甲3発明1との対比・検討

(ア)対比
本件発明と甲3発明1を対比する。
まず、甲3発明1の表面材は、それが用いられる吸収性物品とは生理用ナプキン、使い捨てオムツ等であるから(摘示(3b))、用途が、本件発明の「衛生用」の「サニタリーナプキン」、「成人用オムツ」又は「ベビーオムツ」であるものに相当する。
次に、甲3発明1の多孔質シートが、本件発明の「繊維集合体」に相当するか否かを検討する。甲3発明1の多孔質シートは、互いに平行に配されたフィラメントの群と、互いに平行に配されたリボン状のフィルムの群とが、一体化されることから成るものであって、具体的には、フィラメントとフィルムが熱接着又は接着剤による接着により一体化されたものである(摘示(3h))。フィラメントは繊維であるが、フィルムは繊維ではないので、このような多孔質シートを繊維集合体というか否かには、疑義がある。
そこで、本件明細書をみると、
「【0009】本発明の繊維集合体とは、規則的あるいは不規則的にモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントあるいはステープル繊維が集合した構成体を言い、例えば、繊維束や編物、織物、組布、不織布、多軸積層体等の布帛として得ることができるが特にこれらに限定されるものではない。これら上述の如く繊維集合体はその集合体形態により製造法は異なり、それぞれ従来公知の方法によって製造することができる。
【0010】たとえば、本発明で言うところのポリ乳酸を溶融紡糸あるいは溶液紡糸することにより、又はその後延伸することによりモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを製造する。この際、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、防汚剤等を適当にブレンドしても問題ない。得られたモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを公知の加工法および打ち方あるいは製網法に基づいてロープあるいは網を製造できる。
また、乾式、気流式、湿式法又はスパンボンド法等の公知ウェブ形成法によりウェブを形成し、例えば、接着剤、添加剤による処理、あるいはニードルパンチ、流体パンチ等の機械的接結法といった公知の方法により、あるいはその後乾燥、熱処理することにより不織布をえることができる。
更には得られたそれらの衛生用繊維集合体に目的に応じてコーティング等の加工、あるいは他ポリマーとの併用を行っても差し支えない。」
と記載されている。この記載を参酌すると、甲3発明1の多孔質シートは、繊維製品ということはできても、本件発明の「繊維集合体」には、相当しないというべきである。
そうすると、本件発明と甲3発明1は、
「用途がサニタリーナプキン、成人用オムツ又はベビーオムツである衛生用の繊維製品」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点’:上記の、用途がサニタリーナプキン、成人用オムツ又はベビーオムツである衛生用の繊維製品が、本件発明では、式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とするモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる生分解性の繊維集合体であるのに対し、甲3発明1では、互いに平行に配されたフィラメントの群と、互いに平行に配されたリボン状のフィルムの群とが、一体化されることから成る疎水性の多孔質シートからなり、上記フィラメントは疎水性の合成樹脂からなり、上記フィルムは疎水性の樹脂からなるものである点

(イ)相違点の検討
甲3発明1は、甲3の特許請求の範囲第1項に係る発明が「互いに平行に配されたフィラメントの群と、互いに平行に配されたリボン状のフィルムの群とが、一体化されることから成る疎水性の多孔質シート」であることを発明の構成に欠くことのできない事項とした発明であることから、同様に、このことを発明の構成に欠くことのできない事項とする発明である。そして、吸収性物品の表面材が不織布である場合の、乾燥特性が十分でないという問題点と、同じくフィルムである場合の、表面材と体表面の間に液体が保留して使用者に不快感を与えたり皮膚の疾患を引き起こしたりする問題点を、解決するものである(摘示(3c)(3d)(3i))。甲3には、甲3発明1のこの構成をわざわざ捨てて、不織布その他のモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる繊維集合体にしようとする動機付けになるものは、なにもないというべきである。
素材についても、甲3には、フィラメントの素材の疎水性の合成樹脂は、「疎水性であればどんな物を用いても良い。例えば、ポリオレフィン、オレフィンとアクリル酸エステルや酢酸ビニルなどの他モノマーとの共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル、酢酸セルロースといった合成樹脂単体またはそれらのブレンド物など」と記載され(摘示(3e))、同じくフィルムの素材の疎水性の樹脂は、「例えば、ポリオレフィン、オレフィンとアクリル酸エステルや酢酸ビニルなどの他モノマーとの共重合体、ポリアクリル酸エステル、合成ゴムなどが挙げられるが、用いるフィラメントと必要な接着力を有しかつ疎水性である物なら何を用いても良い」と記載されているが(摘示(3f))、素材にポリ乳酸又は生分解性の樹脂を用いることは、記載も示唆もない。
また、甲4?甲6については、上記(2)ウで検討したとおりであって、ポリ乳酸は、甲4及び甲5には現実に問題解決できる実体があるものとして記載されているのではないし、甲6には具体的にはポリグリコール酸の漁網が記載されるだけでポリ乳酸は実体があるものとして記載されているのではない。
しかも、甲3発明1の、吸収性物品の表面材は、生理用ナプキンや使い捨てオムツ等の吸収性物品に用いられるものであり、その使用後に廃棄するにあたり、環境中に放置することによる廃棄が想定されるものでもない。
そうすると、甲3発明1を知った当業者が、甲4?甲6に記載される事項について知ったとしても、甲3発明1の吸収性物品の表面材について、互いに平行に配されたフィラメントの群と、互いに平行に配されたリボン状のフィルムの群とが、一体化されることから成る疎水性の多孔質シートからなり、上記フィラメントは疎水性の合成樹脂からなり、上記フィルムは疎水性の樹脂からなるものであったものを、その形態を不織布その他のモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる繊維集合体に変更するとともに、その素材をポリ乳酸に変更して、「式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とするモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる生分解性の繊維集合体」という相違点’に係る本件発明の構成を備えたものとすることを、容易に想到できたということはできない。

(ウ)効果について
上記(2)エで検討したのと同じである。その効果は、甲3及び甲4?甲6に記載された事項から予測できない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明は、甲3発明1及び甲4?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲3発明2との対比・検討

(ア)対比
本件発明と甲3発明2を対比する。
甲3発明2の表面材は、甲3発明1の表面材に対してその従来技術に相当するものである。それが用いられる吸収性物品とは、同様に、生理用ナプキン、使い捨てオムツ等であるから(摘示(3b))、用途が、本件発明の「衛生用」の「サニタリーナプキン」、「成人用オムツ」又は「ベビーオムツ」であるものに相当する。
また、不織布は、本件発明の「モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる」ものである「繊維集合体」に相当する。
そうすると、本件発明と甲3発明2は、
「用途がサニタリーナプキン、成人用オムツ又はベビーオムツである衛生用のモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる繊維集合体」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点'':上記の、用途がサニタリーナプキン、成人用オムツ又はベビーオムツである衛生用のモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなる繊維集合体が、本件発明では、式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする生分解性の繊維集合体であるのに対し、甲3発明2では、疎水性の合成樹脂からなるものである点

(イ)相違点の検討
甲3発明2の不織布の素材は、疎水性の繊維であり、甲3に、その特許請求の範囲第1項に係る発明について記載された「疎水性であればどんな物を用いても良い。例えば、ポリオレフィン、オレフィンとアクリル酸エステルや酢酸ビニルなどの他モノマーとの共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル、酢酸セルロースといった合成樹脂単体またはそれらのブレンド物など」(摘示(3e))が該当すると解される。甲3には、素材にポリ乳酸又は生分解性の樹脂を用いることは、記載も示唆もない。
また、甲4?甲6については、上記(2)ウで検討したとおりであって、ポリ乳酸は、甲4及び甲5には現実に問題解決できる実体があるものとして記載されているのではないし、甲6には具体的にはポリグリコール酸の漁網が記載されるだけでポリ乳酸は実体があるものとして記載されているのではない。
しかも、甲3発明2の、吸収性物品の表面材は、生理用ナプキンや使い捨てオムツ等の吸収性物品に用いられるものであり、その使用後に廃棄するにあたり、環境中に放置することによる廃棄が想定されるものでもない。
そうすると、甲3発明2を知った当業者が、甲4?甲6に記載される事項について知ったとしても、甲3発明2の吸収性物品の表面材について、その素材をポリ乳酸に変更して、「式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする生分解性の繊維集合体」という相違点''に係る本件発明の構成を備えたものとすることを、容易に想到できたということはできない。

(ウ)効果について
上記イ(ウ)で検討したのと同じである。

(エ)まとめ
したがって、本件発明は、甲3発明2及び甲4?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明は、甲3発明1又は甲3発明2及び甲4?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)請求人の主張について

ア 請求人の主張
請求人は、概略以下の主張をしている。

(i)甲1?甲3の記載から、以下のような周知技術1を認定することができ、甲4?甲6の記載から、以下のような周知技術を認定することができる。
(周知技術1)
a ポリエステルよりなるモノフィラメント又はマルチフィラメントで形成された織物又はその他のシートであること。
b これらの織物又はその他のシートの適用される用途が、シーツ、エプロン、生理用ナプキンの表面材又は使い捨てオムツの表面材であること。
(周知技術2)
衛生材やその他の用途に用いられる繊維素材としてポリエステル等は生分解性がないので環境破壊が起き、これを解決するため、生分解性であるポリラクチド(ポリ乳酸)等の合成脂肪族ポリエステルを用いることは周知であること。
本件発明と周知技術1は、前者のポリエステルがポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルであり生分解性のものであるのに対して、後者のポリエステルはポリ乳酸ではなく生分解性でない点で相違する(相違点)。
環境破壊を防止する観点から周知技術2に基づき、周知技術1のポリエステルを生分解性のポリ乳酸に置換することは、当業者が容易になし得る。(請求書、4?11頁第3の2、3及び3)

(ii)周知技術1及び2が周知技術でなく公知技術であるとしても、本件発明は進歩性を欠如している。
甲1を主引例とした場合、甲1には、
a1 ポリエステルよりなるモノフィラメント又はマルチフィラメントで形成された織物であること。
b1 この織物の適用される用途が、シーツであること。
が記載されている。甲1に記載されたa1におけるポリエステルに代えて、甲4、甲5又は甲6に記載された微生物分解性のポリ乳酸を採用し、使用後の廃棄時に環境破壊が生じないようにすることは、当業者が容易に想到しうることである。
甲3を主引例とした場合、甲3には、
a2 ポリエステルよりなるモノフィラメントで形成されたシートであること。
b2 このシートが生理用ナプキンや使い捨てオムツに適用されること。
が記載されている。甲3に記載されたa2におけるポリエステルに代えて、甲4、甲5または甲6に記載された微生物分解性のポリ乳酸を採用し、使用後の廃棄時に環境破壊が生じないようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。(陳述要領書、2?8頁第2)

イ 検討

(ア)(i)の主張について
請求人は、甲1?甲3の記載から、以下のような周知技術1を、特許法第29条第2項を適用する場合における同条第1項第3号における「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明」(以下、「引用発明」という。)として認定できるとしている。
a ポリエステルよりなるモノフィラメント又はマルチフィラメントで形成された織物又はその他のシートであること。
b これらの織物又はその他のシートの適用される用途が、シーツ、エプロン、生理用ナプキンの表面材又は使い捨てオムツの表面材であること。
しかし、まず、引用発明を認定するにあたり、本件出願前に頒布された刊行物ではない甲2を根拠にすることは、誤りである。
また、甲1に記載された発明と甲3に記載された発明から、上記a及びbからなる周知技術1が、引用発明として認定できるとするためには、上記の技術が、甲1と甲3にそれぞれ開示されていることが必要である。しかし、上記(1)、(2)及び(4)で検討したとおり、甲1に記載されているのは、エアベッド用フィルタシーツ地であって、上記aについては「織物」、上記bについては「シーツ」の用途のみである。甲3に記載されているのは、吸収性物品の表面材であって、上記aについては、互いに平行に配されたフィラメントの群と、互いに平行に配されたリボン状のフィルムの群とが、一体化されることから成る疎水性の多孔質シートであるところの「その他のシート」、又は不織布であるところの「その他のシート」で、上記bについては、吸収性物品の表面材である「生理用ナプキンの表面材」及び「使い捨てオムツの表面材」のみである。甲1に記載された発明と、甲3に記載された発明は、形態が異なり、用途も異なり、共通するところはない。このように、甲1にも、甲3にも、上記「周知技術1」が、まとまりのある技術思想として記載されているのではない。
したがって、甲1と甲3から、引用発明として、上記のような「周知技術1」を認定するのは適切でない。
しかも、このような「周知技術1」を引用発明として認定して、本件発明とその引用発明とを対比して、一致点および相違点を認定し、その相違点が容易想到か否かについて検討しようとした場合、実際に検討すべきなのは、上記aとbの組合せからなる、いわば概念的な「周知技術1」の引用発明において、その相違点に係る本件発明の構成を採用することが容易か否かなのではない。上記「周知技術1」には、甲1にも甲3にも記載されていない発明も含まれているからである。実際に検討すべきなのは、甲1に記載されたエアベッド用フィルタシーツ地の発明や、甲3に記載された吸収性物品の表面材の発明において、相違点に係る本件発明の構成を採用することが容易か否かである。
この観点からも、甲1と甲3から、引用発明として、上記のような「周知技術1」を認定するのは適切でない。
このように、甲1に記載された発明と、甲3に記載された発明が、全く異なるので、引用発明は、甲1及び甲3から、個々に認定すべきである。そして、本件発明と引用発明をそれぞれ対比して、一致点・相違点を明らかにし、その相違点について、その引用発明において、その相違点に係る本件発明の構成を採用することが容易想到であるかを検討すべきである。
当審は、請求人の(i)の主張は、上記の(ii)の主張を内包するものとして、上記(2)及び(4)のとおり、甲1に記載された発明との対比・判断及び甲3に記載された発明との対比・判断を行った。

(イ)(ii)の主張について
上記(2)及び(4)で検討したとおりである。
本件発明は、甲1に記載された発明及び甲4?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲3に記載された発明及び甲4?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(ウ)請求人が提出した甲2、甲7?甲22について
甲2は、本件出願前に頒布された刊行物でないので、上記(3)においては、本件発明が甲2に記載された発明及び甲4?甲6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かは、判断しなかったものである。また、甲7?甲22は、上申書において新たに主張された無効理由2に伴い提出されたものである。
ここでは、念のため、甲1、甲3、甲4?甲6に記載された発明の認定のための参考となり得る記載があるか否かの観点で、その内容を検討する。

a 甲2(特開平5-321075号公報、発明の名称「防塵性織物」)には、上記(1)イにおいて示したとおりの記載がある。
しかし、防塵性織物は、甲1のエアベッド用フィルタシーツ地とも、甲3の吸収性物品とも、関係がない。

b 甲7(「繊維便覧-加工編-」,昭和44年5月30日,p.373-375,440-445)には、以下の記載がある。
「表1・1は参考までに各種布に対して消費の立場から要求されるおもな性質の度合を示したもの^(1))である.」(373頁27?28行)
「表1・1」には、各種「用途」ごとに各種「品質項目」の要求度が◎、○、△、×で示されており、その「用途」は、「外衣スーツ」、「作業衣」、「裏地」、「肌着」、「くつ下」、「軍手」、「毛布」、「カーペット」、「タイヤコード」、「漁網」であり、その「品質項目」は、「外観」、「着心地」、「取扱いやすさ」、「形態的安定」、「衛生的機能」、「対生物性」、「理化学的抵抗」、「機能的性質」である。(374頁)
「3・2・6 ポリエステルフィラメント織物と製造法」の項に、「a.ポリエステルフィラメント織物」、「b.ポリエステルフィラメント糸の製織工程」、「c.ポリエステルウーリ糸の製織工程」の各項目の記載がある。(440?445頁)
しかし、これらの記載は、甲1のエアベッド用フィルタシーツ地とも、甲3の吸収性物品とも、関係がない。

c 甲8(「クラッチマの不織布」,昭和49年1月20日,p.26-28)には、以下の記載がある。
「ふりかえってみると不織布の製造やその使用は,いくつかの時代に分けて考えることができる。
第一期としては・・・。
第二期は材料の改良期であった。この時期に合成ラテックスや熱可塑性繊維が使われだし,不織布には屑繊維(主に綿屑)を利用するだけでなく,高級繊維も使われるようになった。不織布の数や応用範囲は拡大され,ベットシーツや寝具,・・・おしめ,・・・等に用いられるようになった。」(27頁9?21行)
しかし、この記載は、上記(2)及び(4)で検討した甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

d 甲9(「繊維工学〔I〕繊維の科学と暮らし」,平成3年11月25日,p.262-265)には、以下の記載がある。
「表5・7 不織布の主たる用途」には、「衣料用」、「寝装寝具用」、「家具楽器インテリア」、「靴鞄材」、「産業用資材」、「土木・資材用」、「建設・資材用」、「農業・園芸用資材」、「生活関連資材」、「医療資材」、「衛生材料」の分類がされ、「寝装寝具用」として「シーツ」、「衛生材料」として「生理用品」と「おむつ」が記載されている。(264頁)
しかし、この記載は、上記(2)及び(4)で検討した甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

e 甲10(「不織布要論」,昭和48年5月15日,p.10-19,128-136)には、以下の記載がある。
「表1・3 繊維の不織布用途への適応性」には、「応用製品」ごとに各種繊維素材の適否が優、秀、良、可、不可、非で示されており、その「応用製品」は、「産業用および自動車用」、「服装」、「寝具」、「家庭用品」、「使い捨て外科衣料」、「雑品」である。(14?19頁)
しかし、シーツや吸収性物品の表面材については記載されておらず、甲1のエアベッド用フィルタシーツ地とも、甲3の吸収性物品とも、関係がない。

f 甲11(「服飾辞典」,1984年2月18日,p.272-273)には、以下の記載がある。
「ごうせいせんい【合成繊維】 ・・・現在工業化されているものは20種をこえ,そのうちナイロンが世界の生産量の約3分の2をしめ,ポリアクリル系,ポリエステル系の合成繊維がこれに続いている。現在三大合成繊維という場合,これら三者をさす。」(273頁左欄10?33行)
しかし、この記載は、甲1のエアベッド用フィルタシーツ地とも、甲3の吸収性物品とも、関係がない。

g 甲12(特開昭63-256769号公報、発明の名称「洗濯耐久性のある消臭性布帛とその製造方法」)には、以下の記載がある。
「(1)布帛の少なくとも片面に多孔質樹脂被膜を有し、かつ該多孔質を構成する少なくとも一部の孔に、木精油、木酢油及び一般式
(審決注:化学式、省略)
で示される化合物から選ばれた少なくとも一種を含有することを特徴とする洗濯耐久性のある消臭性布帛。」(特許請求の範囲第1項)
「消臭性機能を有する繊維は、従来から種々検討されており・・・ある特定の消臭剤希釈液を用いて浸漬、塗布、散布、噴霧などの処理を行い、シーツ、・・・ふとん側地、・・・などの用途に用いられている。」(1頁右下欄12?19行)
しかし、これらの記載は、上記(2)及び(4)で検討した甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

h 甲13(特開平1-99835号公報、発明の名称「衛生シート」)には、以下の記載がある。
「1.保水シートAの少なくとも片面に、複数の繊維糸条からなる布帛であつて、表面と裏面とが接結糸条で接結されており、裏面を構成する糸条に比し表面を構成する糸条の単糸繊度が大である布帛Bを、裏面を保水シート側にして積層し、その上に疎水性ネツトCを積層し、且つ保水シートAを介し疎水性ネツトCとは反対側に透湿性防水布Dを積層してなる衛生シート。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明の衛生シートは吸水速度が速く、保水量が多くしかも水保持力が高いと共に耐洗濯性にも優れ幅広い用途展開が可能である。
かかる特徴を活用した用途としては、たとえば、・・・おむつ、・・・生理用ナプキン、・・・シーツ、・・・などがあげられる。」(7頁左下欄1?9行)
しかし、これらの記載は、上記(2)及び(4)で検討した甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

i 甲14(特開平1-148834号公報、発明の名称「特殊布帛」)には、以下の記載がある。
「(1)芯部または島部が通常融点のポリエステル成分からなり鞘部または海部が軟化点温度90?110℃である変成ポリエステル成分からなる芯鞘型または海島型の複合合成繊維Aと、200℃において実質的に熱劣化しない繊維Bとを、前記複合合成繊維Aが5?20重量%、前記繊維Bが95?80重量%の割合で混合せしめてなる糸条を用いてなることを特徴とする特殊布帛。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明は、・・・シーツ、・・・などの、従来、糊付けによる硬仕上げが採用されてきた各種の衣料品、寝装品などの分野において、硬仕上げ効果をもたらす上で好適に用いられ、かつその際でも従来は当然のものとして用いられてきた糊の使用を不要になし得て無糊化が可能な特殊布帛に関するものである。」(1頁左下欄15行?右下欄1行)
しかし、これらの記載は、上記(2)及び(4)で検討した甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

j 甲15(特開平1-260068号公報、発明の名称「抗菌性材料の製造法」)には、以下の記載がある。
「(1)抗菌性無機粉体、樹脂、沸点が100℃以上である高沸点溶剤及び沸点が100℃以下である低沸点溶剤を含有する樹脂組成物を基布に適用し、次いで基布に適用した樹脂組成物を硬化させること及び上記高沸点溶剤の沸点と上記低沸点溶剤の沸点の差が5℃以上であることを特徴とする抗菌性材料の製造法。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明によって得られる抗菌性材料は種々の繊維製品として利用できる。例えば・・・シーツ・・・などの装寝衣料類、・・・等に使用できる。」(8頁左上欄4?11行)
しかし、これらの記載は、上記(2)及び(4)で検討した甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

k 甲16(特開平3-227408号公報、発明の名称「芯鞘型複合繊維」)には、以下の記載がある。
「(1)鞘成分に金属銅又はその化合物微粒子(A)および銅とイオン化傾向の異なる金属又はその化合物微粒子(B)1種以上からなる混合物微粒子とを含有し、芯成分に遠赤外線放射セラミツクス微粒子(C)を含有し、(A)および(B)は鞘成分中に合計で0.1?10重量%、(C)は芯成分中に5?35重量%の割合で存在していることを特徴とする芯鞘型複合繊維。」(特許請求の範囲第1項)
「このようにして得られる本発明の芯鞘型複合繊維はフイラメント糸としたり、またはステーブル繊維から紡績糸にして織物、編物とすることができる。また、繊維ウェブまたは繊維絡合不織布としたり、短繊維を水に分散させて抄造した紙あるいは紙状物として使用することもできる。そして、得られた布帛等においては、(A)成分、(B)成分および(C)成分の有する効果が相乗的に発現され優れた抗菌性と保温性を兼ね備えており、・・・シーツ、ふとん側地、・・・等種々のものに適要が可能である。」(4頁右上欄6?17行)
しかし、これらの記載は、上記(2)及び(4)で検討した甲1に記載された発明及び甲3に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

L 甲17(特開平4-168149号公報、発明の名称「生分解性プラスチック」)には、以下の記載がある。
「オキシ酸の重合体または共重合体に加水分解酵素を配合したことを特徴とする生分解性プラスチック。」(特許請求の範囲)
「本発明は生分解性プラスチックに関する。特に、ゴミ焼却用の袋、食器、ポリ容器など大衆消費材として用いられる生分解性プラスチックに関する。」(1頁左下欄10?12行)
「近年、環境保全に対する必要性と意識の高まりから生分解性プラスチックが脚光をあびている。
生分解性プラスチックは使用済みのプラスチックが土中や水中の微生物の作用で二酸化炭素と水に分解され自然環境に戻るものと一般に定義されている。」(1頁左下欄14?19行)
「本発明で用いられる加水分解性ポリマーとしては、乳酸、リンゴ酸、グリコール酸などのオキシ酸の重合体またはこれらの共重合体が挙げられる。これらポリマーの分子量は1×l0^(4) ?300×10^(4) が好ましい。
これらのうちポリ乳酸、特にポリ-L-乳酸が好ましい。ポリL-乳酸は加水分解してL-乳酸となるため生体安全性が高く、近年医用材料としても研究が活発であり一部実用化されている。・・・ポリL-乳酸は分子量1000の場合、生理食塩水中で約2週間以内に分解し材料強度は低く実用的でない。これに対し、分子量が10万以上になると分解しにくく、100万以上では約1年以上変化なく存在し、材料強度も高くポリスチレンと同等以上になる。
また、これらのポリマーに配合される酵素としては、加水分解酵素、例えばリパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、乳酸脱水素酵素などの酵素が使用される。用いる酵素は分解すべきポリマーの種類により異なるが、通常ベースポリマーに対しては1ppm?1%である。
酵素の配合量は多いと分解が速くなりすぎ、少量であると分解が遅くなるため、用途、目的に応じて調整し分解時間を制御する。酵素の配合量がこれより少ないと、充分な生分解性か得られず、一方この範囲より多くても効果は向上しない。具体的には分子量10×10^(4) 程度になると乳酸脱水素酵素により水中で約1ケ月以内に分解が可能となる。」(2頁左上欄4行?右上欄16行)
「前記の成分より生分解性プラスチックを調製するには、高分子量のポリL-乳酸などの加水分解性樹脂をクロロホルム、THTなど適宜の溶媒に溶解し、この溶液に酵素を添加し、ガラスなとの板上にキャスティング後溶媒を蒸発させて製膜する。
また、別法としては加水分解性樹脂と酵素とを粉末状態で混合して圧縮成形して均質な成形体を得てもよい。」(2頁右上欄17行?左下欄5行)
「[実施例]
・・・
ポリL-乳酸(分子量約10万)10gをクロロホルム400mlに溶解した。この中にL-乳酸脱水素酵素を0.5g添加した。その後、ガラス板上にキャスティングし、50℃にて数時間おいてポリ乳酸薄膜を形成した。これを生理食塩水中に浸漬して加水分解速度を測したところ、酵素を添加しない場合より約1/3程度速度が速くなった。」(2頁左下欄19行?右下欄9行)
しかし、これらの記載は、ゴミ焼却用の袋、食器、ポリ容器など大衆消費材として用いられる、ポリ乳酸に加水分解酵素を配合した生分解性プラスチックに関するものであって、繊維製品に関するものではないから、上記(2)及び(4)で検討した甲4、甲5又は甲6に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

m 甲18(特開平4-210526号公報、発明の名称「園芸用器材」)には、以下の記載がある。
「【請求項1】分子量1,000ないし2,000,000のポリ乳酸を主剤とし、必要に応じてこれに5?25%(重量%)の肥料成分を混入した可塑性重合体を加工成形してなる園芸用器材。」
「【0001】【産業上の利用分野]この発明は農園、果樹園、花木園芸、家庭園芸などで使用される園芸用器材に関するもので、例えば園芸用接木テープ、根巻きロープ、苗木用小鉢(苗木ポット)、肥料カプセル球根パックなどを提供するものである。」
「【0013】・・・第1図に示すように親木1の切り口に穂木2を挿入しこのテープ3を外側から何重にも巻いて両者をしっかりと固定する。一般に穂木が親木に完全に活着するには1ケ月ないし6ケ月かかるが、本実施例のテープはその乳酸分子量が10,000?1,000,000であるので丁度1ケ月ないし6ケ月程度で空気中で加水分解が進行し自然に放散、消滅する。従って活着後これを取外してやる必要は全くない。・・・」
「【0014】つぎに第2図に示すロープ4は、これを植木などの植え替えに使う場合の根巻きロープを例示したもので前記と同様の分子量のポリ乳酸が主剤となっている。この場合も植え付け後1ケ月?6ケ月程度で根が活着するので、その後は自然に土壌中で加水分解し放散消滅するようになる。またこのポリ乳酸重合体はそれ自体で肥料効能を有しているので、植物の活着、成長を促進する効果もある。・・・」
「【0017】この実施例は、前記ポリ乳酸を主剤とするプラスチック容器例えば第3図に示すように先端が紡錘形の筒状カプセル5に肥料6を充填し、庭木などの根本の土壌に打ち込むものである。前記分子量範囲の成形物は1ケ月ないし1年程度で徐々に加水分解し土中に消滅するので、この間に中の肥料が徐々に土壌中に浸出し樹木に順次肥料効果を与えることができる。即ち比較的多量の肥料を長持ちさせながら効率良く施肥ができる。」
「【0020】第4図に示すようにこのような素材で加工成形したポット7は、苗木8を土9とともにそのままの姿で花壇や畠に埋め込むだけで、例えば、約1週間で(分子量1,000のもの)ポット自体は自然に土中で加水分解して消滅する。従って、苗木の根を全く痛めることなく自然な形で庭に活着させることができる。」
「【0023】この実施例では第5図に示すごとく球根10を低分子量のポリ乳酸重合体フィルム11でパックするので、園芸店等で販売する場合傷めることもなく、又花壇などへ植付ける場合もこのパックしたままで植え込めばよい。このパックフィルムは約1週間?3ケ月で土壌中で分解するとともに肥料成分も周りに拡散するので球根の発芽成長に有効に作用する。・・・」
しかし、これらの記載は、ポリ乳酸を加工成形してなる園芸用器材に関するものであって、繊維製品に関するものではないから、上記(2)及び(4)で検討した甲4、甲5又は甲6に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

n 甲19(特開平4-334448号公報、発明の名称「生分解性複合材料およびその製造法」)には、以下の記載がある。
「【請求項1】植物性繊維を含有する基材の表面にポリ乳酸またはその誘導体を被覆した生分解性複合材料。」
「【0009】本発明に用いられる基材としては、各種の植物性繊維を主成分として含有する材料が用いられる。例えば、木材パルプからなる上質紙、障子紙、クラフト紙などの紙;綿、マニラ麻などからなる各種の糸、ロープ;またこれらから製造される容器、網などが挙げられる。」
「【0019】【発明の効果】本発明の複合材料は耐水性、耐油性等の物性が高く、かつ生分解性に優れている。このため、使用後破棄されると土中、水中の微生物の働きにより自然界で生分解され環境を汚染しない。本発明の複合材料は特に食品包装紙、食品包装容器、医療用包装材料などとして好ましい。」
しかし、これらの記載は、紙や糸、ロープ又はこれらから製造される容器、網などの基材の表面にポリ乳酸を被覆した生分解性複合材料に関するものであって、ポリ乳酸からなる繊維製品に関するものではないから、上記(2)及び(4)で検討した甲4、甲5又は甲6に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

o 甲20(特開平5-38784号公報、発明の名称「分解性ラミネート組成物」)には、以下の記載がある。
「【請求項1】ポリ乳酸または乳酸とオキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性分解性ポリマーと、再生セルロースフィルムからなる分解性ラミネート組成物。」
「【0006】近年、熱可塑性で生分解性のあるポリマーとして、乳酸とそのコポリマーが知られるようになった。この乳酸ポリマーは、動物の体内で数カ月から1年のうちに100%生分解する。また、土壌や海水中におかれた場合、湿った環境下では数週間で分解を初め、約1年で消滅する。分解生成物は、乳酸と二酸化炭素と水ですべて無害である。」
しかし、これらの記載は、ポリ乳酸と再生セルロースフィルムからなる分解性ラミネートに関するものであるか、従来技術についての「乳酸ポリマーは・・・土壌や海水中におかれた場合、湿った環境下では数週間で分解を初め、約1年で消滅する」との一般的な記載であって、いずれもポリ乳酸からなる繊維製品に関するものではないから、上記(2)及び(4)で検討した甲4、甲5又は甲6に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

p 甲21(特開平5-39381号公報、発明の名称「生分解性ポリマー組成物」)には、以下の記載がある。
「【請求項1】ポリ乳酸または乳酸とヒドロキシカルボン酸のコポリマーを主成分とする熱可塑性ポリマー組成物と澱粉および/または加工澱粉の混合物からなる生分解性ポリマー組成物。」
「【0006】熱可塑性で分解性のあるポリマーとして、乳酸とそのコポリマーが知られている。この乳酸ポリマーは、動物の体内で数カ月から1年のうちに100%生分解する。また、土壌や海水中におかれた場合、湿った環境下では数週間で分解を初め、約1年で消滅する。分解生成物は、乳酸と二酸化炭素と水ですべて無害である。」
しかし、これらの記載は、ポリ乳酸と澱粉及び/又は加工澱粉の混合物から成る生分解性ポリマー組成物に関するものであるか、従来技術についての「乳酸ポリマーは・・・土壌や海水中におかれた場合、湿った環境下では数週間で分解を初め、約1年で消滅する。」との一般的な記載であって、いずれもポリ乳酸からなる繊維製品に関するものではないから、上記(2)及び(4)で検討した甲4、甲5又は甲6に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

q 甲22(特開平5-43665号公報、発明の名称「脂肪族ポリエステルの製造方法」)には、以下の記載がある。
「【請求項1】オキシ酸を脱水重縮合することにより、脂肪族ポリエステルを製造する際に、ゲルマニウム化合物存在下で、不活性ガス気流下または減圧下で加熱脱水することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。」
「【0002】【従来の技術】従来よりポリ乳酸、ポリグリコール酸に代表される脂肪族ポリエステルは、徐放性重合体として、手術用縫合糸、注射薬用マイクロカプセル等の生体分解性医用材料や、除草剤等の農薬組成物として利用されている。また近年プラスチック公害が問題となり、酵素や微生物による分解が期待される生分解性プラスチックとしても注目され、研究開発が進められている。」
「【0015】実施例4
実施例1と同様の反応容器にDL-乳酸(90%水溶液)50gを投入し、撹拌および窒素気流下で、180℃に昇温し濃縮した。この時点で酸化ゲルマニウム0.026gを投入し、200℃で2時間反応を続けた後、30分間で20mmHgまで減圧して1時間、更に5mmHg、1mmHgで各々2時間反応を行った。溶融状態のポリマーを取り出すことにより、無色透明のポリ乳酸を得た。このポリマーは融点が認められず、非晶性であり、ガラス転移温度54℃、還元粘度0.74であった。また反応中に水と共に、少量の副反応物の生成が認められ、この物質は乳酸の環状二量体であるラクチドであった。」
「【0018】【発明の効果】以上かかる構成よりなる本発明方法を採用することにより、オキシ酸を脱水重縮合して、副反応を伴うことなく、高分子量の脂肪族ポリエステルを得ることが可能である。これらの脂肪族ポリエステルは、フィルム、繊維等に成形加工されるに充分高分子量であり、広範囲な用途が期待できるので、産業界、また環境保護にも寄与すること大である。」
しかし、これらの記載は、従来技術についての、「ポリ乳酸・・・は、徐放性重合体として、手術用縫合糸、注射薬用マイクロカプセル等の生体分解性医用材料や、除草剤等の農薬組成物として利用されている」及び「近年プラスチック公害が問題となり、酵素や微生物による分解が期待される生分解性プラスチックとしても注目され、研究開発が進められている」との一般的な記載であるか、特許請求の範囲に係る脂肪族ポリエステルの製造方法の発明についての、「フィルム、繊維等に成形加工されるに充分高分子量であり、広範囲な用途が期待できるので、産業界、また環境保護にも寄与すること大である」との一般的な記載のみあって、いずれも、ポリ乳酸からなる繊維製品の生分解性について具体的に記載したものではないから、上記(2)及び(4)で検討した甲4、甲5又は甲6に記載された発明の認定に、影響を与えるものではない。

r 以上のとおりであるから、甲2、甲7?甲22の記載を参酌しても、上記(1)、(2)及び(4)で検討した甲1、甲3、甲4?甲6に記載された発明の認定は、妥当である。

(6)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明は、周知技術である甲1?甲3に記載された発明(甲2を除いて本件出願前に頒布されている。)及び同じく周知技術である甲4?甲6(本件出願前に頒布されている。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたということはできず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1によっては、無効とすべきものではない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
生分解性衛生用繊維集合体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】下記a群の用途の中のいずれかである生分解性衛生用繊維集合体であって、式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とするモノフィラメント及び/又はマルチフィラメント(複合糸を除く)からなることを特徴とする生分解性衛生用繊維集合体。
a群
使い捨て衣料、サニタリーナプキン、パンティーシールド、成人用オムツ、ベビーオムツ、失禁者パッド、シーツ、ベッドカバー、マクラカバー、エプロン、キッチン用手袋
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、衛生用繊維集合体に関し、更に詳しくは自然環境下で徐々に分解し、最終的には消失するため、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊のない生分解性衛生用繊維集合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、使い捨ておむつ、生理用品、使い捨てシーツ等の衛生用繊維集合体はポリエチレン、ポリ塩化ビニル等のプラスチック材料が使用されている。これら繊維集合体は、使用後回収され、焼却、埋め立てにより処理されているが、焼却処理による大気汚染、埋め立て地の確保が困難等の問題がある。また、回収には多大な労力を必要とするために回収しきれず、土中等の自然界に放置され、環境破壊等様々な問題を引き起こしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らの目的は、自然環境下で徐々に分解し、最終的には消失するため、使用後の焼却処理による大気汚染や放置による環境破壊の心配のない生分解性衛生用繊維集合体を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記事情を鑑み、焼却処理による大気汚染や放置による環境破壊のない衛生用繊維集合体を得るべく鋭意検討を重ねた結果、式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を用いることにより、目的を達成できることを見出し、ついに本発明を完成するに到った。
【0005】
すなわち、本発明は式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする均質糸からなる下記a群の用途のいずれかである生分解性衛生用モノフィラメント及び/又はマルチフィラメントあるいはステープル繊維集合体に関するものであり、該集合体は自然環境下に放置しておくと徐々に分解され、最終的には消失するため、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の懸念がないものである。a群使い捨て衣料、サニタリーナプキン、パンティーシールド、成人用オムツ、ベビーオムツ、失禁者パッド、シーツ、ベッドカバー、マクラカバー、エプロン、キッチン用手袋
【0006】
本発明の繊維集合体を構成するポリ乳酸は単独重合体でも共重合体でもよく、あるいはブレンド体でも差し支えない。上記ポリ乳酸を製造するには、公知の方法たとえば乳酸(これらは、D体、L体、ラセミ体のいずれであってもかまわない)の脱水重縮合あるいは環状エステルの開環重合により得ることができる。
【0007】
本発明においてポリ乳酸の粘度平均分子量は5000以上であり、好ましくは10^(4)から10^(6)のものである。5000未満では繊維集合体として十分な強度が得難くなり、10^(6)を超えると紡糸時に高粘度となりすぎて扱いにくくなる。
【0008】
本発明の繊維集合体は切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの複数本からなる衛生用繊維集合体である。繊維集合体を構成するフィラメントの特性がこの範囲を外れると衛生用繊維集合体として実用的な機械特性を有することが困難となり好ましくない。
【0009】
本発明の繊維集合体とは、規則的あるいは不規則的にモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントあるいはステープル繊維が集合した構成体を言い、例えば、繊維束や編物、織物、組布、不織布、多軸積層体等の布帛として得ることができるが特にこれらに限定されるものではない。これら上述の如く繊維集合体はその集合体形態により製造法は異なり、それぞれ従来公知の方法によって製造することができる。
【0010】
たとえば、本発明で言うところのポリ乳酸を溶融紡糸あるいは溶液紡糸することにより、又はその後延伸することによりモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを製造する。この際、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、防汚剤等を適当にブレンドしても問題ない。得られたモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを公知の加工法および打ち方あるいは製網法に基づいてロープあるいは網を製造できる。また、乾式、気流式、湿式法又はスパンボンド法等の公知ウェブ形成法によりウェブを形成し、例えば、接着剤、添加剤による処理、あるいはニードルパンチ、流体パンチ等の機械的接結法といった公知の方法により、あるいはその後乾燥、熱処理することにより不織布をえることができる。更には得られたそれらの衛生用繊維集合体に目的に応じてコーティング等の加工、あるいは他ポリマーとの併用を行っても差し支えない。
【0011】
本発明の繊維集合体は、衛生用あるいは生活関連用に使用されるものを言い、下記のa群の用途に限定されるものである。
a群
使い捨て衣料、サニタリーナプキン、パンティーシールド、成人用オムツ、ベビーオムツ、失禁者パッド、シーツ、ベッドカバー、マクラカバー、エプロン、キッチン用手袋
【0012】
更に本発明におけるポリ乳酸にポリカプロラクトン等の他の脂肪族ポリエステルやポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリジオキサン、ポリアミノ酸等のポリマー、あるいはタルク、炭酸カルシウム、塩化カルシウム等の無機物、あるいはデンプン、アミノ酸、蛋白質や食品添加物等を適量混合することにより、機械特性、分解特性を種々変化させることが可能である。
【0013】
【実施例】
次に本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
実施例1
粘度平均分子量9万のポリ乳酸繊維、2デニール、繊維長51mmのステープルを公知の製造法により形成し、通常のカード機で開綿し、目付け70g/m^(2)のウエブを作成した。該ウエブを突起圧着部有するヒートロールで熱圧着し、不織布を得た。得られた不織布の不織布片(縦10mm×横10mm)を土壌中に埋設し、重量変化を調査したところ、半年後で初期重量の53%となり、一年後には22%となり、1年半後には形状が確認できないほど分解していた。
【0015】
【発明の効果】
本発明による衛生用繊維集合体は、優れた生分解性と良好な物性を有している故、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の心配がないことから産業界、または環境保護に寄与すること大である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2011-06-29 
出願番号 特願平5-50884
審決分類 P 1 113・ 121- YA (D04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 新居田 知生
小出 直也
登録日 2005-11-04 
登録番号 特許第3735734号(P3735734)
発明の名称 生分解性衛生用繊維集合体  
代理人 植木 久一  
代理人 柴田 有佳理  
代理人 奥村 茂樹  
代理人 植木 久一  
代理人 柴田 有佳里  

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