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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1267257
審判番号 無効2011-800150  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-08-31 
確定日 2012-11-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3900144号発明「発光ダイオードの形成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第3900144号(以下「本件特許」という。平成10年2月17日に出願した特願平10-35273号及び平成11年1月29日に出願した特願平11-23234号を基礎とする優先権を主張して平成11年2月17日に出願した特願平11-39262号の一部を平成15年12月2日に新たな特許出願としたもの。平成19年1月12日特許権の設定の登録。請求項の数は4である。)の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 本件審判の経緯
本件審判の経緯は、次のとおりである。

平成23年 8月31日 審判請求
平成23年12月12日 訂正請求及び審判事件答弁書提出
平成24年 2月14日 審判事件弁駁書提出
平成24年 4月26日 口頭審理陳述要領書提出(請求人及び被請求人)
平成24年 5月10日 口頭審理
平成24年 6月11日 上申書提出(請求人)

なお、被請求人が平成23年12月12日に請求した訂正(以下「本件訂正」という。)は、後記第5に詳述するとおり、本件特許の願書に添付した明細書(以下、同明細書及び本件特許の願書に添付した図面をあわせて、単に「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1についての訂正、同訂正に伴う発明の詳細な説明の訂正等をその内容とするものである。

第3 請求人の主張の概要
1 無効理由1(特許法第29条第2項違反)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証(国際公開第98/05078号)に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
なお、本件各発明についての進歩性の判断の基準日は、早くとも、第二の優先日である平成11年1月29日と解するべきである。

2 無効理由2(特許法第36条第4項違反)
本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、同請求項に係る特許は、旧特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

3 甲号証
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。

甲第1号証:国際公開第98/05078号
甲第2号証:特開平9-208805号公報
甲第3号証:特開平8-204067号公報
甲第4号証:特開平7-288330号公報
甲第5号証:特開平5-152609号公報
甲第6号証:特開平7-99345号公報
甲第7号証:特開平7-176794号公報
甲第8号証:特開平8-7614号公報
甲第9号証:特開平9-205109号公報
甲第10号証:特開平9-153646号公報
甲第11号証:特開平9-139397号公報
甲第12号証:特開平8-311168号公報
甲第13号証:特開平7-224145号公報
(以上、審判請求書に添付して提出。)
甲第14号証:特開平5-63239号公報
甲第15号証:特開平10-12927号公報
甲第16号証:特開平5-316296号公報
甲第17号証:特開平7-165884号公報
甲第18号証:特開平5-136297号公報
甲第19号証:特開平5-63116号公報
甲第20号証:特開平8-245858号公報
甲第21号証:特開平6-56970号公報
甲第22号証:特開平7-70283号公報
甲第23号証:大辞林第二版机上版1736頁(株式会社三省堂、1995年11月3日第一刷発行)
(以上、審判事件弁駁書に添付して提出。)
甲第24号証:特開平10-261821号公報
甲第25号証:特表平11-500584号公報
甲第26号証:特開平11-111741号公報
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
甲第27号証:特表2001-512287号公報
甲第28号証:特表2000-509912号公報
甲第29号証:特開平11-5889号公報
甲第30号証:特開平8-213518号公報
(以上、上申書に添付して提出。)

第4 被請求人の主張の概要
1 無効理由1に対して
本件特許の請求項1ないし4(ただし、請求項1は本件訂正後のもの。)に係る発明は、甲第1号証に記載された発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 無効理由2に対して
粉体のエポキシ樹脂と粉体の無機蛍光体とを混合攬絆させてタブレットを作る際に両者を均一に混合するためには、例えば、混合方法を調整したり、エポキシ樹脂と無機蛍光体の比重や粒径を揃えるなど、当業者が適宜、成形の条件を選択すればよいのであるから、このような点を明細書で詳細に説明しなければならないとする理由がない。

3 乙号証
被請求人が提出した乙号証は、以下のとおりである。

乙第1号証:特開平10-107325号公報
乙第2号証:特開平10-163535号公報
乙第3号証:特開平10-188649号公報
乙第4号証:特開平10-247750号公報
乙第5号証:「躍進するLED市場とLEDパッケージ関連技術の進展」半導体新技術研究会代表 株式会社元天代表取締役村上元著、SEMIジャパン メールマガジン 2010年8月号(URL:http://www.semi.org/jp/News/MailMaga/ctr_039531)
乙第6号証:「発光ダイオード」奥野保男著、産業図書株式会社、平成5年1月20日発行
乙第7号証:「実用プラスチック成形加工事典」実用プラスチック成形加工事典編集委員会編、株式会社産業調査会、1997年3月24日発行
乙第8号証:日経産業新聞 1996年9月13日発行
乙第9号証:「入門エポキシ樹脂(新高分子文庫25)」室井宗一、石村秀一著、高分子刊行会、1988年6月20日発行
乙第10号証:「エポキシ樹脂」第二版、垣内 弘編、昭晃堂、1973年5月15日発行
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)

第5 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである(訂正部分に下線を付した。)。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1について、訂正前の
「青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する基板と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、
前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させ固体にする工程と、
前記固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成する工程と、
前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなることを特徴とする白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。」
を下記のとおり訂正する。
「青色系を発光する発光素子と、
一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する、該発光素子を載置する基板と、
該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、
前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、
前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させ固体にする工程と、
前記固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成する工程と、
前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を、前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程と、を有してなることを特徴とする白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。」

(2)訂正事項b
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0010】について、訂正前の
「また、注型が完了した発光ダイオードを加熱硬化させる時、樹脂が固体化するまでの間、温度上昇に伴い粘度が低下する。そのため、キャスティングケース内でも樹脂と蛍光物質の比重差による分離が発生し易い傾向にある。特に、発光素子からの可視発光と蛍光物質からの可視蛍光との混色光を発光させる発光ダイオードにおいては、蛍光物質の含有量変化及び封止樹脂内での分布不均一がすべて発光色の色温度変化として顕著に現れる。このような問題を以下の本発明によって解決することができる。即ち、本発明は、青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する基板と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させ固体にする工程と、前記固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成する工程と、前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記レットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなる白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法である。」
を下記のとおり訂正する。
「また、注型が完了した発光ダイオードを加熱硬化させる時、樹脂が固体化するまでの間、温度上昇に伴い粘度が低下する。そのため、キャスティングケース内でも樹脂と蛍光物質の比重差による分離が発生し易い傾向にある。特に、発光素子からの可視発光と蛍光物質からの可視蛍光との混色光を発光させる発光ダイオードにおいては、蛍光物質の含有量変化及び封止樹脂内での分布不均一がすべて発光色の色温度変化として顕著に現れる。このような問題を以下の本発明によって解決することができる。即ち、本発明は、青色系を発光する発光素子と、一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する、該発光素子を載置する基板と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させ固体にする工程と、前記固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成する工程と、前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を、前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程と、を有してなる白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法である。」

2 訂正の適否
(1)訂正事項aについて
ア 「一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する」について
本訂正事項は、請求項1に係る発明において「発光素子を載置する基板」を「一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する」基板に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「打ち抜き及び射出成形により一対のリード電極304、305となる金属片が絶縁性樹脂309によって固定された基板を形成する。LEDチップ303はエポキシ樹脂306を用いて銀メッキした鉄入り銅製のリード電極上にダイボンドした。」(【0044】)、「304、305・・・リード電極」、「309・・・リード電極間を絶縁する樹脂」(【0050】)との記載があるから、本件特許明細書には、「発光素子を載置する基板」が「一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する」基板であることが記載されているものと認められる。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

イ 「前記金型により前記基板上に突出した形状に」について
本訂正事項は、請求項1に係る発明において「透光性樹脂を成形する工程」を「前記金型により前記基板上に突出した形状に」成形する工程に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「次にポットを加熱後、上記で形成させたLEDチップと導通を取った基板が配置された金型に軟化させたタブレットを射出させ150℃5分で一時硬化させた。次に、金型から射出成形させた発光ダイオードを取り出した後、150℃4時間で二次硬化させた。蛍光物質が含有された透光性樹脂301は、LEDチップが配置された基板上に突出した形状で形成させることができた。」(【0047】)との記載があるから、本件特許明細書には、「透光性樹脂を成形する工程」が「前記金型により前記基板上に突出した形状に」成形する工程であることが記載されているものと認められる。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項aについてのまとめ
以上の検討によれば、訂正事項aは、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項bについて
ア 「一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する」及び「前記金型により前記基板上に突出した形状に」について
本訂正事項は、発明の詳細な説明の記載について、訂正事項a(請求項1の訂正)との整合を図り記載を明りょうにするために行うものと認められるから、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、前記(1)における訂正事項aについての検討と同様の理由により、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

イ 「タブレット」について
訂正前の「レット」が「タブレット」の誤記であることは明らかであるから、本訂正事項は、特許法第134条の2第1項第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものと認められる。
そして、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項bについてのまとめ
以上の検討によれば、訂正事項bは、特許法第134条の2第1項第2号に掲げる誤記の訂正及び同第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

3 訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。

第6 本件発明
上記のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などという。)は、次の各請求項に記載したとおりのものと認められる。

「【請求項1】
青色系を発光する発光素子と、
一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する、該発光素子を載置する基板と、
該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、
前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、
前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させ固体にする工程と、
前記固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成する工程と、
前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を、前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程と、を有してなることを特徴とする白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。
【請求項2】
青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する基板と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、
前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と、比重が異なり青色系の光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質と、を混合攪拌させ、固めてタブレットを形成する工程と、
前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなることを特徴とする白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。
【請求項3】
前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化したものに更に所定の温度を加えて二次硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有する請求項1又は請求項2に記載の白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。
【請求項4】
前記発光素子の発光層が少なくとも窒化物半導体からなると共に前記蛍光物質がセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体である請求項1乃至請求項3に記載の白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。」

第7 無効理由についての当審の判断
1 無効理由1(特許法第29条第2項違反)について
(1)本件特許の優先日について
本件発明1の「(エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に無機蛍光物質を含有させた)固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成」し、「前記タブレットを軟化させて前記金型に注入」するとの構成、及び本件発明2の「エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と・・・無機蛍光物質と、を混合攪拌させ、固めてタブレットを形成」し、「前記タブレットを軟化させて前記金型に注入」するとの構成に関し、本件特許において主張される優先権の基礎となる、平成10年2月17日に出願した特願平10-35273号の願書に最初に添付した明細書及び図面には、上記構成を説明する記載は認められない。そして、同じく本件特許において主張される優先権の基礎となる、平成11年1月29日に出願した特願平11-23234号の願書に最初に添付した明細書には、
「【0044】
形成された(Y_(0.6)Gd_(0.4))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光物質25重量部、含窒素エポキシ樹脂であるトリグリシジルイソシアヌレート100重量部と酸無水物及び硬化促進剤を65℃で撹拌させ24時間反応させ室温で冷却する。この反応によりある程度硬化させた固体となる。室温に冷却後、取り出した固体を粉砕しプレスしてタブレットを形成させる。なお、蛍光物質を透光性樹脂中に含有させたタブレットを形成させるためには、上述のように原材料透光性樹脂中に含有させても良いし、ある程度硬化させた透光性樹脂粉体と蛍光物質とを混合撹拌させ固めたタブレットを利用しても良い。」
との記載があり、本件発明1及び2の上記各構成が説明されていることが認められる。
よって、本件発明1及び2に関し、特許法第29条第2項の規定について判断する際の優先日は、平成11年1月29日(以下「本件特許の優先日」という。)である。また、請求項1または2を引用する請求項3ないし請求項4に係る本件発明3及び4についても、同様である。

(2)甲号証の記載
ア 甲第1号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(国際公開第98/05078号)には、以下の記載がある(下線は、審決で付した。以下同じ。)。

(ア)「図1の発光ダイオード100は、マウント・リード105とインナーリード106とを備えたリードタイプの発光ダイオードであって、マウント・リード105のカップ部105a上に発光素子102が設られ、カップ部105a内に、発光素子102を覆うように、所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング樹脂101が充填された後に、樹脂モールドされて構成される。ここで、発光素子102のn側電極及びp側電極はそれぞれ、マウント・リード105とインナーリード106とにワイヤー103を用いて接続される。
以上のように構成された発光ダイオードにおいては、発光素子(LEDチップ)102によって発光された光(以下、LED光という。)の一部が、コーティング樹脂101に含まれたフォトルミネッセンス蛍光体を励起してLED光と異なる波長の蛍光を発生させて、フォトルミネッセンス蛍光体が発生する蛍光と、フォトルミネッセンス蛍光体の励起に寄与することなく出力されるLED光とが混色されて出力される。その結果、発光ダイオード100は、発光素子102が発生するLED光とは波長の異なる光も出力する。」(13頁下から5行?14頁11行)
ここで、図1は次のものである。


(イ)「また、図2に示すものはチップタイプの発光ダイオードであって、筺体204の凹部に発光素子(LEDチップ)202が設けられ、該凹部に所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング材が充填されてコーティング部201が形成されて構成される。ここで、発光素子202は、例えばAgを含有させたエポキシ樹脂等を用いて固定され、該発光素子202のn側電極とp側電極とをそれぞれ、筺体204に設けられた端子金属205に、導電性ワイヤー203を用いて接続される。 以上のように構成されたチップタイプの発光ダイオードにおいて、図1のリードタイプの発光ダイオードと同様に、フォトルミネッセンス蛍光体が発生する蛍光と、フォトルミネッセンス蛍光体に吸収されることなく伝搬されたLED光とが混色されて出力され、その結果、発光ダイオード200は、発光素子102が発生するLED光とは波長の異なる光も出力する。」(14頁12行?同頁下から3行)
ここで、図2は次のものである。


(ウ)「本発明に係る実施の形態1の発光ダイオードは、発光層に高エネルギーバンドギャッブを有し、青色系の発光が可能な窒化ガリウム系化合物半導体素子と、黄色系の発光が可能なフォトルミネセンス蛍光体である、セリウムで付活されたガーネット系フォトルミネッセンス蛍光体とを組み合わせたものである。これによって、この実施形態1の発光ダイオードにおいて、発光素子102,202からの青色系の発光と、その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体からの黄色系の発光光との混色により白色系の発光が可能になる。」(16頁下から7行?17頁1行)

(エ)「以上のようにして作製した(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体80重量部とエポキシ樹脂100重量部とをよく混合してスラリーとし、このスラリーを発光素子が載置されたマウント・リードのカップ内に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させた。こうして発光素子上に厚さ120μmのフォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング部を形成した。」(42頁下から7行?同2行)

イ 甲第10号証
同じく甲第10号証(特開平9-153646号公報)には、以下の記載がある。

「【0062】図6に示す突出型のドーム状レンズ付き表面実装型光半導体装置は、たとえば、プリント基板11の凹部11b内に、ペースト12aを介して、上記発光素子13aが固着され、該発光素子13aの各電極と配線14a,14bとが、それぞれ金線16a,16bにより電気的に結線されている。」
ここで、図6は次のものである。


ウ 甲第14号証
同じく甲第14号証(特開平5-63239号公報)には、以下の記載がある。

「【0015】
【実施例】実施例
厚さが1mmのアルミニウム基板の片面に、厚さが50μmのエポキシ樹脂絶縁被膜を介して厚さ40μmの電極パターンを施し、リード電極及びLEDの背面電極を4段×4列のマトリクス状に形成した。そして前記各背面電極部に絞り加工により深さ0.4mm、光反射面角度45°、開口部直径1.4mm、底部直径0.6mmの凹部を設け、さらに各凹部の周囲に図2に示すような幅1mmの貫通孔を打ち抜き加工によりそれぞれ設けた。その後前記凹部の底面に銀ペーストを介してLEDチップを接着すると共にリード電極とのワイヤボンディングを施し、しかる後エポキシ樹脂にて射出成形法によりレンズ部及び背面層(基板裏面からの突出長2mm)を有する樹脂被覆層を形成し、図1に示すような断面構造を有する4段×4列のLED表示装置を製造した。
【0016】比較例
上記した実施例と比較のため、基板に貫通孔を形成せず背面層を有さない樹脂被覆層である以外は上記実施例と同様の、図3に示すような断面構造を有する4段×4列のLED表示装置を製造した。」
ここで、図1及び図3は次のものである。


エ 甲第15号証
同じく甲第15号証(特開平10-12927号公報)には、以下の記載がある。

「【0008】
【発明の実施の形態】図1は本発明にかかる電圧制御リード付LED発光体の一例を示す斜視図である。図において、2は金属ベース基板、10はLEDチップの一単位毎にレンズ効果を与える例えばエポキシ樹脂などの透光性樹脂からなるレンズモールドである。本実施例では、レンズモールド10(LEDチップ)を2×n列に配置した細長い発光体を例示しており、かかる発光体はハイマウントストップランプとして自動車のリアスポイラーなどに組み込む場合に適している。発光体の形態は特に制限はなく、前記の線状タイプ以外に方形状、円形状などであっても良い。
【0009】金属ベース基板2の表面に設けられ各LEDチップへ駆動電圧を供給する回路パターン23(詳細な図示は省略している)の基端部へはリード4が接続されている。リード4の他端側にはコネクタ5が取り付けられ、駆動電源に対して接続自在とできるよう構成されている。そして3は電圧制御モジュールを示しており、リード4の中間部分に介装され、電源電圧をLEDチップの駆動に好適な所望の電圧に調整して供給する役目を果たしている。
【0010】図2は図1に示したレンズモールド10の一単位部分の断面図を示している。図示するように金属ベース基板2は、アルミベース21と、その上を覆う絶縁層22と、さらにその上に形成された回路パターン23とからなる。11はLEDチップを示しており、該LEDチップの下部電極側が一方の回路パターン23aに、上部電極側がボンディングワイヤ12を介して他方の回路パターン23bに電気的に接続されている。
【0011】本実施例では、金属ベース基板2に絞り加工などで形成したすり鉢状の凹部24の底部へLEDチップを実装した例を示している。この場合、すり鉢状の傾斜部を反射器として利用でき、LEDチップ11が発する光を効果的に前方へ配光させ得るという利点がある。レンズモールド10は例えば金型を用いたインジェクションモールドなどの方法で形成することができる。」
ここで、図1及び図2は次のものである。


オ 甲第16号証
同じく甲第16号証(特開平5-316296号公報)には、以下の記載がある。

「【0013】実施例1
図1はこの発明の実施例1の光源の概略を示す斜視図、図2はそのY-Y’方向断面図、図3は基板上の配線パターンの一部分の詳細図(光出射方向側からの平面図)である。また、図4は本実施例における電気配線接続を、図5は同実施例の光出射方向と反対側の面(基板裏面)の構造の概略を示している。
【0014】図1?図3に示した如く、溝状の凹面部が設けられた長さ270mm(X-X’方向)、幅6mm(Y-Y’方向)、厚さ5mm(Z-Z’方向)の遮光性の樹脂基板1の表面上に、アルミニウム蒸着や金の無電解メッキ等の手法によって導電性の金属膜3が設けられ、フォトエッチング等の手法でその一部分を除去することによって電気絶縁帯9が形成され、電気配線パターンとしている。
【0015】この基板1は、液晶ポリマー等の耐熱性樹脂を用いて射出成型法によって製造される。基板1の溝の底部に36個のGaP発光ダイオードチップ2〔発光波長565nm〕が(X-X’方向に)一列に、7.2mmピッチの当間隔で実装されている。個々の発光ダイオードチップ2は、基板底部に配線パターンと一体的に形成されたカソード電極接続用ランド上に銀ペーストによって、そのカソード電極がダイボンディングされて電気的に基板上の配線パターン3に接続されると同時に、機械的に基板1に固定されている。
【0016】また、発光ダイオードチップ2のアノード電極は、同基板上に形成されたアノード電極接続用ランドへ金線6によってワイヤーボンディングされ、電気的に接続されている。基板上に形成された溝の凹面部分はY-Y’方向に関して放物面となっており、その表面上の大部分には配線用パターンの一部である金属膜3が形成されており、発光ダイオードチップから側面方向へ発せられた光を前方へ反射する機能を有する(反射率約0.8の)反射鏡となっている。
【0017】基板溝の底部に実装された全ての発光ダイオードチップ2、発光ダイオードチップ2と基板1を接続している金線6、反射凹面鏡金属膜3、及び発光ダイオードチップ2の負荷抵抗素子7は、透光性エポキシ樹脂5によって一体に封止されており、その表面部分はY-Y’方向に関して凹部4を有するシリンドリカルレンズになっている。」
ここで、図1ないし図3は次のものである。


カ 甲第24号証
本件特許の優先日である平成11年1月29日前の平成10年9月29日に頒布された刊行物である甲第24号証(特開平10-261821号公報)には、以下の記載がある。

(ア)「【0032】次に、本発明の第2の半導体発光装置について説明する。図9は、半導体発光装置の平面図及び断面図、図10は、この半導体発光装置を形成する方法を説明する半導体発光装置の断面図である。図9に示す半導体発光装置は、図1と類似した構成を有する。樹脂ステム10に半導体発光素子1が搭載され、光透過性樹脂の樹脂封止体5が充填されている。そして、樹脂ステム10の樹脂封止体5を含んだ上面には、レンズ形状の光透過性樹脂の突出部9が形成されている。・・・
【0033】突出部9を形成するには、図10に示したように、封止用ケース型11と樹脂ステム10の凹部7との両方に熱硬化性樹脂の流動樹脂を充填した状態で、樹脂ステム10を上面から封止用ケース型の流動樹脂12の中に入り込むようにする。このようにすると、流動樹脂が硬化する時に樹脂の収縮が発生しても、封止用ケース型11と樹脂ステム10との間に位置(図10の領域A、B)する樹脂が、補充または吸収することになる。したがって、樹脂の硬化後にも突出部9は、レンズ形状を保持し、樹脂ステム10との接合部も樹脂欠損を生じない。」
ここで、図9及び図10は次のものである。


(イ)「【0050】次に、図15及び図16を参照しつつ本発明のさらに別の実施例について説明する。本実施例は、半導体発光素子として、例えば、GaN系などの材料からなる青色発光素子もしくは紫外線発光素子などを用いたものである。図15は、本実施例の半導体発光装置の断面図、図16は、その平面図であり、この図のA-A’線に沿う部分の断面図が図15である。
【0051】同図に例示した半導体発光装置においては、半導体発光素子1’上面にn側電極とp側電極とが形成され、それぞれがボンディングワイヤ4により、リード21、22と接続されている。発光素子1’の裏面は、通常は絶縁性の基板(例えば、サファイア基板)が露出している。従って、リード21と22のいずれかの上に発光素子1がマウントされても電気的な短絡は生じない。・・・
【0054】本実施例においては、さらに、蛍光体を添加することにより、半導体発光素子1’から放出される発光を異なる波長に変換して外部に取り出す新規な構造の半導体発光装置を実現できる。例えば、樹脂部10Aの成形時に適当な蛍光体を混入させることにより、樹脂ステムの反射面8に入射した発光素子1’からの光は波長変換され、異なる波長の光として封止体5及びレンズ9を通して発光装置の外部に取り出される。
【0055】本実施例において使用される蛍光体の種類としては、青色波長により励起されるYAG:Ce系蛍光体(黄色発光)・・・などが挙げられる。
【0056】YAG:Ce蛍光体と青色発光素子とを組み合わせた場合は、蛍光体からの黄色発光と発光素子からの青色発光とを混色させて白色発光を取り出すことができる。また紫外励起の赤色、緑色、青色発光蛍光体を適当な比率で混合することにより白色発光を得ることもできる。
【0057】本発明に使用される発光素子としては、上記のようにGaN系材料の青色発光素子もしくは紫外線発光などが挙げられる。もちろんSiC系材料やZnSe系材料やBN系材料の発光素子を用いてもかまわない。
【0058】蛍光体は樹脂部10Aの表面(反射面8)に塗布することにより同様の効果を得ることができる。・・・
【0059】また、発光素子1のマウント用接着剤3(Agペーストなど)に蛍光体を混合させても、上記と同様の効果を得ることができる。・・・
【0060】また、封止体5に上記蛍光体を混合させても同様の効果を得ることができる。図17に、その工程フロー図を示す(図17(3”))。封止体材料(シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等)にあらかじめ所定の蛍光体を適当な配合比で混合させ、熱硬化成形することにより蛍光体を含有した封止体5を形成することができる。この場合、封止体5はレンズ9を形成する前にあらかじめ硬化させておくと、封止体5に混入された蛍光体がレンズ成形時にレンズの方へ拡散せずに封止体5内のみに含有させることができる。封止体5を硬化成形する時、蛍光体の粒径や封止体樹脂の硬化前の粘度を調整しておくと、樹脂の注入後に蛍光体が沈殿を起こし、封止体5の表面側または発光素子1’のマウント面側に局在させることも可能である。沈殿させることにより、蛍光体層を高密度の薄膜状に形成し、その薄膜層の厚みを最適化することにより、波長変換効率と光の取り出し効率を最適化することが可能となる。
【0061】発光素子1’からの放出光のほとんど全ては蛍光体含有の封止体5に入射するので、樹脂部10Aや接着剤3に含有させるよりもさらに効率的に波長変換することができる。また、同様に、レンズ9に上記の蛍光体を含有させても同様の効果を得ることができる。封止体の場合と同様に、レンズ材料(エポキシ樹脂等)にあらかじめ所定の蛍光体を適当な配合比で混合させ、熱硬化成形することにより蛍光体含有のレンズ9を形成することができる。
【0062】或いは、封止体5を注入、成形する前に、蛍光体を発光素子1’の表面に塗布(コーティング)したり、蛍光体を混合した別の溶剤もしくは分散媒を発光素子1を取り囲むようにプレディップしてもよい。この場合においては、発光素子1’のマウント前に発光素子1’に蛍光体を塗布しても良いし、発光素子1’のマウント後にその表面に蛍光体を塗布しても良い。」
ここで、図15は次のものである。


キ 甲第6号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開平7-99345号公報)には、以下の記載がある。

「【0009】
【実施例】図1は本願の一実施例のLEDの構造を示す模式断面図であり、図2と同様に、カップ3を有するリードフレーム2上に化合物半導体よりなる発光チップ1を載置した発光素子全体を、樹脂で封止した構造としている。しかし、図2と異なるところは、封止樹脂がカップ3内部を充填する第一の樹脂11と、その第一の樹脂を包囲する第二の樹脂12とからなり、第一の樹脂11には発光チップの発光波長を他の波長に変換、または一部吸収する変換する波長変換材料5が含有されている。
【0010】本発明のLEDにおいて、第一の樹脂11と第二の樹脂の材料は同一材料でもよく、例えば両方ともエポキシ樹脂で構成し、第一の樹脂にのみ蛍光物質5を含有させればよい。さらに、第二の樹脂12の材料は図2の樹脂4と同一でもよいことはいうまでもない。また、波長変換材料5は蛍光物質であれば蛍光染料、蛍光顔料、蛍光体等、発光チップの発光波長を他の波長に変換できる材料であればどのようなものを使用してもよく、またフィルター物質であれば発光チップの発光の不要な波長を吸収し、色純度をよくする材料が選択され、通常発光チップの発光色と同一色を有する無機、有機のフィルター顔料が使用される。」
ここで、図1は次のものである。


ク 甲第25号証
本件特許の優先日である平成11年1月29日前の平成11年1月12日に頒布された刊行物である甲第25号証(特表平11-500584号公報)には、以下の記載がある。

「【特許請求の範囲】
1.発光物質が添加されている透明なエポキシ注型樹脂を基材とし、紫外線、青色光或いは緑色光を放出する半導体素体(1)を備えたエレクトロルミネセンス素子のための波長変換する注型材料(5)であって、この透明なエポキシ注型樹脂に、一般式A_(2)B_(5)X_(12):Mを持つ蛍光物質の群からの発光物質顔料(6)を備えた無機の発光物質顔料粉末が分散され、かつこの発光物質顔料が≦20μmの粒子の大きさと平均粒子直径d_(50)≦5μmを持っていることを特徴とする波長変換する注型材料。」(2頁)、
「この発明による注型樹脂によれば唯一の色の光源、特に唯一の青色光を放出する半導体を備えた発光ダイオードで、混合色、特に白色光が容易に得られる。例えば、青色光を放出する半導体素体でもって白色光を作るために、半導体素体から放出された放射線の一部が無機の発光物質顔料によって青色のスペクトル範囲から青色に対して補色の黄色のスペクトル範囲に変換される。」(10頁20行?24行)、
「青色光を放出するエレクトロルミネセンス半導体素体を備え、白色光を放出するこの発明による半導体素子は、注型材料として使用されるエポキシ樹脂に無機の発光物質YAG:Ce(Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce^(3+))を混合することにより、特に優れて実現することができる。半導体素体から放出される青色光の一部は、この場合、無機の発光物質Y_(2)Al_(5)O_(12):Ce^(3+)によって黄色のスペクトル範囲に、それ故青色に対する補色の波長範囲にずらされる。」(11頁末行?12頁5行)、
「図1のルミネセンス半導体素子においては、半導体素体1は導電性の接続手段、例えば金属蝋材或いは接着剤によりその裏側の接触11で第一の電気端子2に固定されている。表側の接触12はボンディングワイヤー14により第二の電気端子3に接続されている。
半導体素体1の自由表面及び電気端子2及び3の部分領域は、硬化された、波長変換する注型材料5で直接包囲されている。この注型材料は特に次の組成を持っている。即ち、エポキシ注型樹脂80?90重量%、発光物質顔料(YAG:Ce)≦15重量%、ジエチレングリコールモノメチルエーテル≦2重量%、テゴプレン6875-45≦2重量%、エアロシル200≦5重量%。」(13頁18行?26行)
ここで、図1は次のものである。


ケ 甲第27号証
本件特許の優先日である平成11年1月29日後の平成13年8月21日に頒布された刊行物である甲第27号証(特表2001-512287号公報、なお、同公報に係る出願の国際公開日は、平成11年1月21日である。)には、以下の記載がある。

「【0010】
図2は、本発明の一実施例に基づいて作成された、発光染料を含有するレンズ(240)を有する発光ダイオード(200)を描いた図である。青色光を放射する窒化ガリウム(GaN)のダイ(110)がリフレクタカップリードフレーム(120)中に取り付けられ、ワイヤボンディングされている。電力はリード線(150、160)を介してダイ(110)へと供給される。LEDダイ(110)の上には蛍光染料を含むエポキシレンズ(240)が成形される。蛍光染料はダイ(110)から放射された青色光を吸収し、より長い波長の光を再放射する。実施態様によっては、幾分かの吸収されなかった元の青色光がレンズ(240)を通過するようになっていても良い。
【0011】
従って本発明の実施例においては、図1のように別個の無機質蛍光体層(130)を付加するのではなく、図2に示すように有機蛍光染料が、レンズ(240)成形で用いられるエポキシに添加されているのである。・・・」
ここで、図2は次のものである。


コ 甲第28号証
本件特許の優先日である平成11年1月29日後の平成12年8月2日に頒布された刊行物である甲第28号証(特表2000-509912号公報、なお、同公報に係る出願の国際公開日は、平成10年9月11日である。)には、以下の記載がある。

「図1は発光装置を示す。
本発明に係る発光装置は、UV発光のための励振源としてのUVダイオードと、UVダイオードのUV光を目に見える白色光に変換する3種の蛍光体の混合を含む蛍光体層と、を備えている。図面に示された例において、装置は、UVダイオードが透明基板(全面パネル)1上に設けられたポリマー材料からなる半球のボール中に埋め込まれて実現される。3種の蛍光体粉末2は、ポリマー3中に細かく分布される。ポリマーボールと蛍光体粉末とは、共に、蛍光体層を構成する。本発明に係る装置は、さらに、光の減結合性を向上させるためにUV光および可視光のためのミラー4を備えることもできる。例えば、ボール自体はリフレクタで実現することができる。
最も簡単な場合において、発光装置は、UVダイオードと、その上に設けられた蛍光体を含む透明なコーティングとを備えている。透明なコーティングは、例えば、ポリアクリレート、ポリスチレン、エポキシ樹脂、または、その他のポリマーの透明なマトリックス中の固溶体中に存在する蛍光体を有する。
大量生産のために、LEDは、通常、エポキシ樹脂ハウジングのカプセル中に包まれ、このエポキシ樹脂ハウジングはダイオードからの光の減結合性を向上させるために使用されるエポキシ樹脂のドーム型レンズをそれと一体にモールドしている。この実施例において、蛍光体は、実際のダイオードとエポキシ樹脂ドームとの間の接触層として設けられる。これらの蛍光体は、場合によっては、エポキシ樹脂ドームの外面上のコーティングとして設けられる。
大きな二次元の発光装置は、本発明によれば、ダイオードアレイを蛍光体層と組み合わせることで簡単に作製することができる。例えば、ダイオードアレイは、その上に蛍光体を印刷したガラスプレートでカバーすることができる。」(5頁14行?6頁7行)
ここで、図1は次のものである。


サ 甲第17号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第17号証(特開平7-165884号公報)には、以下の記載がある。

「【0014】しかして、エポキシ樹脂、酸無水物、硬化助剤、離型剤を混合した後に溶融混練し、これを冷却して固化した後に粉砕して打錠することによって、エポキシ樹脂組成物のタブレットを調製することができる。そしてこのようにして得られたエポキシ樹脂組成物のタブレットを、トランスファー成形して光半導体の封止に用いることによって、半導体装置を製造することができるものである。」

シ 甲第18号証
同じく甲第18号証(特開平5-136297号公報)には、以下の記載がある。

「【0082】本発明の電子部品封止用樹脂組成物は、前述した特定のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、およびシリカ粉末を必須成分とするが、必要に応じて、離型剤、難燃剤、着色剤、カップリング剤、低応力化付与剤等を均一に配合することにより得ることが出来る。本発明の樹脂組成物は一般的な調製、成形、硬化により硬化物とすることが出来る。成形材料として調製する一般的方法としては、必須成分及び必要に応じて他の成分を、所定割合で配合し、熱ロールまたはニーダー等により通常60?100℃で通常5?30分混練、混合処理を行い、次いで冷却、粉砕し、更に必要によりタブレットにすることにより得ることが出来る。この成形材料を用い半導体等の電子部品を封止する方法としては、低圧トランスファー成形が一般的であるが、射出成形、注型等の方法も可能である。低圧トランスファー成形法においては、成形圧30?90kg/cm2、成形時間10?120秒、成形温度150?190℃の条件が通常用いられる。封止用樹脂組成物は、通常成形の後に更に後硬化が行われる。後硬化の条件としては、後硬化温度150?190℃、後硬化時間3?8時間で通常行われる。」

ス 甲第30号証
同じく甲第30号証(特開平8-213518号公報)には、以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、半導体素子を樹脂硬化体で封止した半導体装置に関するものであり、詳しくは、反りがない信頼性に優れた半導体装置に関するものである。」、
「【0046】すなわち、上記樹脂組成物(a),(b)毎に、その主剤および硬化剤、必要に応じて無機質充填剤,低応力化剤,難燃剤,顔料,離型剤,カップリング剤をそれぞれ所定量で配合する。ついで、これらの各混合物を、ミキシングロール機等の混練機を用いて加熱状態でそれぞれ溶融混練した後室温まで冷却し、公知の手段でそれぞれ粉砕することにより、各樹脂組成物(a),(b)を作製する。このとき、これら樹脂組成物(a),(b)は、Bステージ(半硬化状態)であることが好ましい。その後、これら樹脂組成物(a),(b)の粉砕物を所定の比で配合して混合し、この混合物を必要に応じて打錠するという一連の工程により、目的とする樹脂組成物(a),(b)の混合物を得ることができる。」

(3)甲第1号証に記載された発明
ア 前記(2)ア(イ)及び(ウ)によれば、甲第1号証には、
「筺体204の凹部に発光素子(LEDチップ)202が設けられ、該発光素子202のn側電極とp側電極とがそれぞれ、筺体204に設けられた端子金属205に導電性ワイヤー203を用いて接続され、該凹部に所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング材が充填されてコーティング部201が形成されて構成され、発光素子202からの青色系の発光と、その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体からの黄色系の発光光との混色により白色系の発光が可能になる発光ダイオード」
が記載されているものと認められる。

イ また同(ア)及び(エ)によれば、マウント・リードとインナーリードとを備えたリードタイプの発光ダイオードにおいて、(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体80重量部とエポキシ樹脂100重量部とをよく混合してスラリーとし、このスラリーを発光素子が載置されたマウント・リードのカップ内に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させて発光素子上に厚さ120μmのフォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング部を形成することが記載されているものと認められる。

ウ 甲第1号証には、上記アの発光ダイオードにおいて、具体的にどのようにして凹部に所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング材が充填されてコーティング部201が形成されるのか特段の説明はないから、上記イと同様の手法、すなわち、(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体であるフォトルミネセンス蛍光体とエポキシ樹脂とをよく混合してスラリーとし、このスラリーを発光素子が載置された凹部に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させて形成する手法が採られるものと解される。

エ 以上によれば、甲第1号証には、
「筺体204の凹部に発光素子(LEDチップ)202が設けられ、該発光素子202のn側電極とp側電極とがそれぞれ、筺体204に設けられた端子金属205に導電性ワイヤー203を用いて接続され、該凹部に所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング材が充填されてコーティング部201が形成されて構成され、発光素子202からの青色系の発光と、その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体からの黄色系の発光光との混色により白色系の発光が可能になる発光ダイオードの形成方法であって、前記コーティング材は(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体であるフォトルミネセンス蛍光体とエポキシ樹脂とをよく混合してスラリーとし、このスラリーを発光素子が載置された凹部に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させて形成する発光ダイオードの形成方法。」(以下「甲1発明」という。)
が記載されているものと認められる。

(4)本件発明1と甲1発明との対比、判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における「発光素子202」は「青色系の発光」をするものであるから、本件発明1の「青色系を発光する発光素子」に相当する。

(イ)甲1発明の「(n側電極とp側電極とがそれぞれ接続された)端子金属205」は、本件発明1の「一対のリード電極」に相当する。そして、甲1発明において、n側電極とp側電極とがそれぞれ接続された端子金属205同士が絶縁されなければならないことは当業者にとって明らかであり、樹脂により絶縁することは慣用手段であるから、甲1発明は、一対のリード電極間を絶縁する樹脂を有するものと認められる。
よって、甲1発明は、「一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する」点において、本件発明1と一致する。

(ウ)甲1発明の「筺体204」及び本件発明1の「基板」は、いずれも「発光素子を載置する部材」といえる。

(エ)甲1発明は、「発光素子202からの青色系の発光と、その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体((Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体である。)からの黄色系の発光光との混色により白色系の発光が可能になる発光ダイオードの形成方法」であるから、甲1発明の「所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング材」は、本件発明1の「該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂」に相当し、甲1発明は、本件発明1の「前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法」との特定事項を備える。

(オ)甲1発明の「フォトルミネセンス蛍光体とエポキシ樹脂とをよく混合してスラリーとし」との構成は、「前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させる工程」といえ、甲1発明は、かかる工程を有する点において本件発明1と一致する。

(カ)甲1発明の「スラリーを発光素子が載置された凹部に注入した後、130℃の温度で1時間で硬化させて形成する」との構成は、「前記透光性樹脂を前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程」といえ、甲1発明は、かかる工程を有する点において本件発明1と一致する。

(キ)以上によれば、両者は、
「青色系を発光する発光素子と、一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する、該発光素子を載置する部材と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させる工程と、前記透光性樹脂を前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなる白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法」
である点で一致し、
a 本件発明1は、発光素子が基板に載置され、前記基板に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程を有するのに対して、甲1発明は、発光素子が筐体の凹部に載置され、前記透光性樹脂を凹部に注入した後硬化させるものである点(以下「相違点1」という。)、
b 本件発明1は、前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させ固体にする工程と、前記固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成する工程と、を有するものであるのに対して、甲1発明は、かかる工程を有さないものであり、また、透光性樹脂が、本件発明1では、前記タブレットを軟化させて発光素子の少なくとも一部を被覆して成形するものであるのに対して、甲1発明では、無機蛍光物質((Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体)とエポキシ樹脂とをよく混合したスラリーを130℃の温度で1時間で硬化させて形成するものである点(以下「相違点2」という。)
で相違するものと認められる。

イ 判断
(ア)相違点1について
a(a)請求人は、本件発明1の「基板」と甲1発明の「筐体」とは、実質的に相違しない旨主張する(口頭審理陳述要領書2頁?5頁)。

(b)しかるに、両者が実質的に相違しないのであれば、相違点1の想到容易性を検討するに当たっては、甲1発明において、筐体(本件発明1の基板に相当することになる。)の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程を採用することの想到容易性を検討すべきところである。

(c)また、本件発明1の「基板」と甲1発明の「筐体」との間に実質的な相違があるのであれば、相違点1について想到容易というには、甲1発明において、さらに「筐体」を「基板」に変更することが想到容易といわなければならないところ、上記(b)の想到容易性が否定される、すなわち想到容易でないと判断されることになれば、相違点1について想到容易といえないことは明らかである。

(d)以上によれば、本件発明1の「基板」と甲1発明の「筐体」との実質的相違の有無にかかわらず、相違点1の想到容易性を判断するには、まず上記(b)の検討を行うことが相当であるから、以下検討する。

b 相違点1に関し、請求人は次のように主張するものと認められる。

(a)発光素子を被覆する透光性樹脂を「基板上に突出した形状」とすることは、レンズ機能を持たせるためなどの目的でよく行われることであり、凹部形状の基板上に「突出した形状」とすること、及びその成形に金型を用いることも、何ら珍しいことではない(甲第10号証のほか、甲第14号証ないし甲第16号証)。さらにいえば、甲第1号証の図1においても、マウントリードの凹型部分に設けた発光素子を、樹脂で凸型に被覆する構成が開示されている(審判事件弁駁書6頁?12頁)

(b)甲第24号証、甲第6号証及び甲第25号証にもキャビティー構造で、かつ透光性樹脂を突出した形状に成形することが開示されている(口頭審理陳述要領書6頁?11頁)。

(c)本件特許の基準日(平成11年1月29日)前において、白色LEDを製造するに当たり、蛍光物質を含む封止樹脂を金型を用いて基板上に突出した形状にする構成は周知(甲第24号証、甲第25号証、甲第27号証及び甲第28号証)である(上申書6頁?13頁)。

c しかるところ、前記(1)イないしオによれば、甲第10号証には、プリント基板11の凹部11b内に発光素子13aが固着された、突出型ドーム状レンズを有する表面実装型の光半導体装置が、甲第14号証には、アルミニウム基板に形成したLEDの背面電極に凹部を設けてLEDチップを接着等した後エポキシ樹脂にて射出成形法によりレンズ部等を形成したLED表示装置が、甲第15号証には、金属ベース基板2に形成したすり鉢状の凹部24の底部へLEDチップを実装し、LEDチップの一単位毎にレンズ効果を与える例えばエポキシ樹脂などの透光性樹脂からなるレンズモールドを配置したLED発光体が、甲第16号証には、基板1の溝の底部に発光ダイオードチップ2が実装され、表面部分がシリンドリカルレンズになる透光性エポキシ樹脂5によって一体に封止された光源が、それぞれ記載されているものと認められる。
以上によれば、本件特許の優先日当時において、基板に形成した凹部に発光素子を配置し、例えば射出成形により基板上部にレンズを形成する透光性樹脂によって該発光素子を封止する技術は周知であったことが認められる。
また、前記(1)キによれば、甲第6号証には、カップ3を有するリードフレーム2上に化合物半導体よりなる発光チップ1を載置した発光素子全体を樹脂で封止したLEDが記載され、カップ3内部を充填する第一の樹脂11には発光チップの発光波長を他の波長に変換、または一部吸収する変換する波長変換材料である蛍光物質5を含有させることが記載されているものと認められる。また、図1から、第一の樹脂11の上面がカップ3を覆うようになだらかな凸形状を示すことがみてとれ、前記(1)ア(ア)の甲第1号証の図1からも、コーティング樹脂101の上面がなだらかな凸形状を示すことがみてとれる。
しかし、甲第1号証には、「フォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング樹脂101が充填された後に、樹脂モールドされて構成される」と記載され、図1によれば、該樹脂モールドがレンズ形状を示すところである(なお、甲第6号証の図1においても、同様に第二の樹脂12がレンズ形状を示している。)から、「発光素子が筐体の凹部に載置され、透光性樹脂を凹部に注入した後硬化させ」てコーティング部201が形成されるものである甲1発明において、コーティング部201を形成する工程として、「例えば射出成形により基板上部にレンズを形成する透光性樹脂によって該発光素子を封止」する上記周知技術を当業者が採用すべき動機を見いだすことはできない。
したがって、甲1発明において、「筐体の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程」を採用することにつき、上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことということはできない。

d 本件特許の優先日は平成11年1月29日であるところ、甲第24号証、甲第25号証、甲第27号証及び甲第28号証の頒布日は、最も早い甲第24号証でも、その4か月前の平成10年9月29日、甲第25号証は、直前の平成11年1月12日、甲第27号証及び甲第28号証は、優先日後である(なお、国際公開日をみても、甲第27号証は、直前の平成11年1月21日、甲第28号証は、4か月余り前の平成10年9月11日である。)。
かかる頒布日の状況に照らすと、上記各甲号証に記載された内容が、本件特許の優先日当時における周知技術を示すものとは、直ちには認めがたいところであり、上記各甲号証の記載(前記(2)カ及びクないしコを参照。)を見ても、上記b(c)の請求人の主張に係る、白色LEDを製造するに当たり、蛍光物質を含む封止樹脂を金型を用いて基板上に突出した形状にする構成が、本件特許の優先日当時において周知技術であることを示すような特段の記載も見いだせないから、上記各号証をもって、白色LEDを製造するに当たり、蛍光物質を含む封止樹脂を金型を用いて基板上に突出した形状にする構成が本件特許の優先日当時における周知技術であると認めることはできない。
したがって、甲1発明において、「筐体の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程」を採用することにつき、上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことということはできない。

e 以上のとおり、甲1発明において、「筐体の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程」を採用することにつき、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことということはできない。
そうすると、上記aに照らし、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成を採用することにつき、当業者が容易になし得たことということはできない。

(イ)相違点2について
a 前記(2)サないしスによれば、エポキシ樹脂などを混合した後に溶融混練し、これを冷却して固化した後に粉砕して打錠することによって、エポキシ樹脂組成物のタブレットを調製し、得られたエポキシ樹脂組成物のタブレットを用いてトランスファー成形などにより光半導体等の電子部品を封止することは、本件特許の優先日当時における周知技術であったことが認められる。また、甲第30号証には、Bステージ(半硬化状態)である樹脂組成物(a),(b)の粉砕物を所定の比で配合して混合し、この混合物を必要に応じて打錠することも記載されるところである。

b しかし、相違点1のとおり、甲1発明は、「発光素子が筐体の凹部に載置され、透光性樹脂を凹部に注入した後硬化させ」るものであって、「筐体の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置し、透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形する」ものでないこと、すなわち、トランスファー成形などにより発光素子を封止するものではないから、甲1発明において、エポキシ樹脂組成物のタブレットを用いてトランスファー成形などにより光半導体等の電子部品を封止する上記aの周知技術を採用する理由がない。
よって、エポキシ樹脂組成物のタブレットを用いてトランスファー成形などにより光半導体等の電子部品を封止することが、本件特許の優先日当時における周知技術であったことをもって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することにつき、当業者が容易になし得たことということはできない。
なお、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成を採用することにつき、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことということはできないことは、上記(ア)で検討したとおりである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明2と甲1発明との対比、判断
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比するに、甲1発明の「フォトルミネセンス蛍光体とエポキシ樹脂とをよく混合してスラリーとし」との構成は、「前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させる工程」といえ、甲1発明は、かかる工程を有する点において本件発明2と一致する。
そして、前記(4)アでの検討に照らすと、両者は、
「青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する部材と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させる工程と、前記透光性樹脂を前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなる白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法」
である点で一致し、
a 本件発明2は、発光素子が基板に載置され、前記基板に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形する工程を有するのに対して、甲1発明は、発光素子が筐体の凹部に載置され、前記透光性樹脂を凹部に注入した後硬化させるものである点(以下「相違点3」という。)、
b 本件発明2は、エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と、比重が異なり青色系の光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質と、を混合攪拌させ、固めてタブレットを形成する工程を有するのに対して、甲1発明は、かかる工程を有さず、透光性樹脂が、本件発明2では、前記タブレットを軟化させて発光素子の少なくとも一部を被覆して成形するものであるのに対して、甲1発明では、無機蛍光物質((Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体)とエポキシ樹脂とをよく混合したスラリーを130℃の温度で1時間で硬化させて形成するものである点(以下「相違点4」という。)
で相違するものと認められる。

イ 判断
(ア)相違点3について
a 前記(4)イ(ア)aでの検討を踏まえて、甲1発明において、筐体(本件発明1の基板に相当する。)の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形する工程を採用することの想到容易性を検討する。

b 前記(4)イ(ア)cで検討したとおり、「発光素子が筐体の凹部に載置され、透光性樹脂を凹部に注入した後硬化させ」てコーティング部201が形成されるものである甲1発明において、コーティング部201を形成する工程として、「例えば射出成形により基板上部にレンズを形成する透光性樹脂によって該発光素子を封止」する周知技術を当業者が採用すべき動機を見いだすことはできない。
したがって、甲1発明において、「筐体の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形する工程」を採用することにつき、上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことということはできない。

c 前記(4)イ(ア)dで検討したとおり、甲第24号証、甲第25号証、甲第27号証及び甲第28号証に記載された内容が、本件特許の優先日当時における周知技術を示すものとは、直ちには認めがたいところであり、上記各甲号証の記載を見ても、その内容が、本件特許の優先日当時における周知技術を示すものとみるべき特段の事情も見いだせないから、上記各号証をもって、白色LEDを製造するに当たり、蛍光物質を含む封止樹脂を金型を用いて基板上に突出した形状にする構成が本件特許の優先日当時における周知技術であると認めることはできない。
したがって、甲1発明において、「筐体の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形する工程」を採用することにつき、上記周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことということはできない。

d 以上のとおり、甲1発明において、「筐体の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置すると共に、前記透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形する工程」を採用することにつき、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことということはできない。
そうすると、前記(4)イ(ア)aに照らし、甲1発明において、相違点3に係る本件発明2の構成を採用することにつき、当業者が容易になし得たことということはできない。

(イ)相違点4について
a 甲1発明は、「発光素子が筐体の凹部に載置され、透光性樹脂を凹部に注入した後硬化させ」るものであって、「筐体の凹部に載置された前記発光素子を金型に配置し、透光性樹脂を前記金型に注入して軟化させ発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して成形する」ものでないこと、すなわち、トランスファー成形などにより発光素子を封止するものではないから、甲1発明において、エポキシ樹脂組成物のタブレットを用いてトランスファー成形などにより光半導体等の電子部品を封止する周知技術を採用する理由がないことは、前記(4)イ(イ)bで検討したとおりである。
よって、エポキシ樹脂組成物のタブレットを用いてトランスファー成形などにより光半導体等の電子部品を封止することが、本件特許の優先日当時における周知技術であったことをもって、甲1発明において、相違点4に係る本件発明2の構成を採用することにつき、当業者が容易になし得たことということはできない。
なお、甲1発明において、相違点3に係る本件発明2の構成を採用することにつき、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たことということはできないことは、上記(ア)で検討したとおりである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明2が、甲第1号証に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明3及び本件発明4について
前記第6のとおり、本件発明3ないし本件発明4は、本件発明1または本件発明2の特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1及び本件発明2が、甲第1号証に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3ないし本件発明4が、甲第1号証に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである。

(7)小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし本件発明4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効とすることはできない。

2 無効理由2(特許法第36条第4項違反)について
(1)本件特許明細書(以下、本件訂正後のものをいう。)には、
「【0046】
形成された(Y_(0.6)Gd_(0.4))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光物質25重量部、含窒素エポキシ樹脂であるトリグリシジルイソシアヌレート100重量部と酸無水物及び硬化促進剤を65℃で撹拌させ24時間反応させ室温で冷却する。この反応によりある程度硬化させた固体となる。室温に冷却後、取り出した固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成させる。なお、蛍光物質を透光性樹脂中に含有させたタブレットを形成させるためには、上述のように原材料透光性樹脂中に含有させても良いし、均一性を保てる限りにおいて、ある程度硬化させた透光性樹脂粉体と蛍光物質とを混合攪拌させ固めたタブレットを利用することもできる。」
との記載がある。

(2)請求人は、本件発明2は、蛍光物質の含有量及び分布を均一にできないという課題を解決するものであり、上記(1)の本件特許明細書の記載では、「均一性を保てない場合」にはタブレットを利用できないことは明らかであるにもかかわらず、どのようにすれば「均一性を保てる」のか、すなわち、「均一性を保てる」方法が本件特許明細書に記載されていないから、当業者は、本件発明2を実施することができない旨主張する(審判請求書46頁?50頁)。

(3)しかし、粉体のエポキシ樹脂と粉体の無機蛍光体とを混合攬絆させてタブレットを作る際、これらを均一に混合することは、例えば、混合方法を調整したり、エポキシ樹脂と無機蛍光体の比重や粒径を揃えるなど適宜の手法を採ることにより、当業者にとって格別困難を要することなく実施可能なものと認められる。
よって、本件発明2についての特許は、旧特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第4号に該当しないから、無効とすることはできない。

第8 むすび
以上のとおり、請求人が主張する無効理由によっては、本件発明1ないし4についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
発光ダイオードの形成方法
【技術分野】
【0001】
本発明は発光素子から放出される発光波長の少なくとも一部を蛍光物質により変換して放出する発光ダイオードに係わり、特に、発光むら、色むらや形成された発光ダイオード間における発光バラツキが少なく歩留りの高い発光ダイオードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子は、小型で効率よく鮮やかな色の発光をする。また、半導体素子であるため球切れがない。駆動特性が優れ、振動やON/OFF点灯の繰り返しに強いという特徴を有する。そのため、各種インジケータや種々の光源として利用されている。しかしながら、このような発光素子は単色性のピーク波長を有するが故に白色系(白、ピンクや電球色など)の発光のみを得る場合においても、2種類以上の発光素子を利用せざるを得なかった。また、種々の発光色を簡単に得ることはできなかった。
【0003】
単色性のピーク波長を発するLEDチップと蛍光物質を利用して種々の発光色を発光させる発光ダイオードとして、特開平7-99345号公報などに記載されたものが知られている。これらの発光ダイオードは、発光チップの発光を発光観測面側に反射するカップの底部に発光チップを積載させると共にカップ内部に充填された樹脂と、全体を覆った樹脂から構成することができる。内部に充填された樹脂中には発光チップからの光を吸収し、波長変換する蛍光物質を含有させてある。
【0004】
蛍光物質が含有された樹脂は、液状のエポキシ樹脂などを発光素子が搭載されたカップ上に滴下注入し、加熱硬化させ色変換部材とさせる。カップ内部以外の樹脂は液状のエポキシ樹脂などを注型したキャスティングケース内に、色変換部材及び発光チップが形成されたフレーム部材先端を浸漬配置し、これをオーブンに入れ加熱硬化させることにより形成する。これにより、発光チップからの発光波長を蛍光物質によって波長変換した発光ダイオードとすることができる。例えば、LEDチップからの青色系の光と、その青色系の光を吸収し補色関係にある黄色系を発光する蛍光体からの光との混色により白色が発光可能な発光ダイオードとすることができる。
【0005】
このような発光ダイオードを用いて、所望の白色系などを発光させるためには、それぞれの光を極めて精度良く発光させ混色調整させる必要がある。LEDチップからの光は、その半導体及び駆動電流などにより調節させることができる。一方、蛍光物質からの波長変換された光も蛍光物質の組成や粒径を制御することによってある程度調整することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、蛍光物質自体には密着力がない、或いは弱いため発光素子上に配置固定させるためには、種々の樹脂中など発光素子及び蛍光物質それぞれの光が放出可能な密着性を有するバインダー中に含有させる必要がある。このようなバインダー中に含有された蛍光物質は、その蛍光物質の含有量や分布などによってLEDチップから放出された光量及び蛍光物質から放出された光量が大きく左右される。これらが制御できず、また発光素子から放出される可視光と蛍光物質から放出される光が可視光の混色によって色表現させる場合には、それぞれの可視光量の違いが大きな問題となる。特に、白色系は人間の目が僅かな色温度差でも識別することができるため大きな問題となる。したがって、本発明は上記問題点を解決し、極めて精度良く蛍光物質の含有量及び分布を均一とさせ発光特性の優れた、歩留りの高い発光ダイオードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は種々実験の結果、蛍光物質を利用した発光ダイオードにおいて、発光ダイオード間のバラツキや発光ダイオードの色むらや発光むらは、蛍光物質の分布に大きく起因していること及び特定の形成方法により制御しうることを見出し本発明を成すに至った。
【0008】
即ち、蛍光物質が含有された液状の透光性樹脂を発光素子が配置された上に注入して形成させる場合、注型での充填性を考慮し、粘度が500?1000cps程度の低粘度のものが用いられる。蛍光物質と樹脂との比重が大きく異なるため、このような透光性樹脂中に蛍光物質を混合すると、両者は容易に分離する。したがって、軽い有機蛍光物質などを利用した場合は浮遊し、重い無機蛍光物質などを利用した場合は沈降する傾向にある。
このような分離は蛍光物質の分散不均一を生ずる。
【0009】
特に、バッチ式に樹脂と蛍光物質を混合した混合体を少量ずつ注型していく方法を繰り返して製造する場合、混合体の樹脂と蛍光物質の分離は時間と共に進行する。したがって、混合直後に注型して製造された発光ダイオードと、混合後しばらく後に注型して製造された発光ダイオードでは、蛍光物質の含有量が異なってしまう傾向にある。
【0010】
また、注型が完了した発光ダイオードを加熱硬化させる時、樹脂が固体化するまでの間、温度上昇に伴い粘度が低下する。そのため、キャスティングケース内でも樹脂と蛍光物質の比重差による分離が発生し易い傾向にある。特に、発光素子からの可視発光と蛍光物質からの可視蛍光との混色光を発光させる発光ダイオードにおいては、蛍光物質の含有量変化及び封止樹脂内での分布不均一がすべて発光色の色温度変化として顕著に現れる。このような問題を以下の本発明によって解決することができる。即ち、本発明は、青色系を発光する発光素子と、一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する、該発光素子を載置する基板と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させ固体にする工程と、前記固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成する工程と、前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を、前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程と、を有してなる白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法である。
【0011】
また、本発明の発光ダイオードの形成方法は、青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する基板と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と、比重が異なり青色系の光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質と、を混合攪拌させ、固めてタブレットを形成する工程と、前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなる白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法である。
【0012】
前記発光ダイオードの形成方法は、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化したものに更に所定の温度を加えて二次硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有する白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法である。
【0013】
また、本発明の請求項4に記載の発光ダイオードの形成方法は、発光素子の発光層が少なくとも窒化物半導体からなると共に蛍光物質がセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体(以下、YAG蛍光体と呼ぶこともある。)である。これにより、形成された発光ダイオード間のバラツキがより少なく発光むらや色むらの少ない白色光が発光可能な発光ダイオードを形成させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による製造方法を用いることによって、発光特性が安定した蛍光物質を有する白色系が発光可能な発光ダイオードを量産性良く製造させることができる。また、長時間量産時においても最初に形成された発光ダイオードと、後に形成された発光ダイオード間の発光ばらつきが極めて小さくさせることができる。さらに、比較的簡便に形成された発光ダイオード内における発光むらを低減させることができるため量産性と歩留りを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施態様例による発光ダイオードとして図1に、白色発光可能な発光ダイオード100の模式的断面図を示してある。銅あるいは鉄系合金材の表面に銀あるいは金等のメッキ処理が施されたマウント・リード104の先端にLEDチップを搭載するカップ上部を有する。搭載されたLEDチップは単体では青色系の可視光を発光する発光素子103であり、マウント部材106となるエポキシ樹脂によりマウント固着されている。発光素子103の各電極は、金等よりなるワイヤ107でマウント・リード104及びインナー・リード105とワイヤボンド結合している。耐熱性に優れた透光性樹脂101としてノルボネン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂(TPX)、非晶質ナイロン樹脂などの熱可塑性樹脂や脂環式エポキシ樹脂や含窒素エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂によって封止してある。透光性樹脂中には、青色光を照射すると黄色の蛍光を発するCeで付活されたYAG蛍光体102を約5質量%混合してある。
【0016】
発光ダイオードは、リードフレームにLEDチップをマウント、ワイヤボンドしたものを成形型にインサートし、1個が数十mm3程度のペレット状の樹脂とYAG蛍光体をホッパに撹拌しながら収容したもの、或いは予め樹脂ペレット内にYAG蛍光体を混ぜ込んだものをホッパ内に収容した射出成形機で、射出成形し封止する。射出成型は樹脂を成型機のスクリュー内で数秒程度の短時間で加熱溶融、撹拌圧送し、型内に樹脂を注入し、型内に注入された樹脂は速やかに冷却され、数十秒で固化する。
【0017】
本発明で透光性樹脂は、成型前状態において固体状とできる。成型機投入前に均一に樹脂ペレットと蛍光物質とを混合しておけば、液体のように樹脂中の蛍光物質が自由に沈降あるいは浮遊することはない。そのため、蛍光物質の混合状態は型内に投入前の状態まま保持される。また、成形時に樹脂が溶融し液体で存在する期間は数分から数十秒と、注型成形により熱硬化形成する方法の数時間と比較して極めて短い。また、射出される際にスクリューで加圧撹拌される場合、樹脂中での蛍光物質の分布はより均一にすることができる。さらに、固化までの時間も極めて短く樹脂と蛍光物質との分離もほとんど発生しない。
【0018】
すなわち、成形前及び成形後固化までの間に樹脂と蛍光物質との分離が極めて発生し難い。これにより本発明の発光ダイオードでは、樹脂と蛍光物質の比重差によらず樹脂中に均一分散させることができる。そのため、発光ダイオード内の蛍光物質の分布均一だけでなく、製造ロット毎の蛍光物質の含有量バラツキも極めて少ない。
【0019】
特にYAG:Ce蛍光体を蛍光物質として含有した白色発光が可能な発光ダイオードとした場合、樹脂に較べ比重の大きいYAG:Ce蛍光体でも常時極めて均一な分布のものができる。そのため色温度の均一な発光ダイオードが安定して形成し得る。以下、本発明に用いられる各構成について詳述する。
【0020】
(射出成形機400)
本発明に用いられる射出成形機400としては、図4の如き蛍光物質含有の透光性樹脂を加熱溶融させプランジャー402でノズルを通して金型405内に射出し成形させられるために好適に用いられる。したがって、射出成型機は予め蛍光物質が一定量含有された透光性樹脂のペレット401を軟化溶融させ射出するためのプランジャー、プランジャーで押し出される融解樹脂を金型内に導くノズル及び成型品の形を与える金型から主として構成することができる。特に、発光ダイオードが発光素子からの可視光と、この可視光によって励起されると共に発光する蛍光物質との混色発光させる場合、混合分布量がごく微少量でも異なるとその発光色の変動が大きくなる。そのため、蛍光物質が含有された透光性樹脂を予備可塑化装置などを利用して攪拌溶融させることが好ましい。このような攪拌は、透光性樹脂中に含有される蛍光物質の密度が変化しない限り連続的、間欠的になど種々行うことができる。また、攪拌回転数は攪拌部となるスクリュー403の大きさ、蛍光物質の粒径や形状、バインダーの粘度、材質などによって種々選択させることができる。
【0021】
(透光性樹脂101)
本発明に用いられる透光性樹脂は蛍光物質を内部に含有させ射出により一定の形状をとることができる樹脂である。具体的には、ノルボネン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、非晶質ナイロン樹脂、ポリアリレートやポリカーボネート樹脂など透光性がありかつ耐熱性に優れた熱可塑性樹脂、ポリアミドや酢酸ビニル等の100℃から260℃程度の比較的低温、1から25Kgf/cm^(2)程度の比較的低圧にていわゆるホットメルト成形と称される射出成形が可能でかつ透光性を有する熱可塑性樹脂及び脂環式エポキシ樹脂、含窒素エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が好適に挙げられる。これらの樹脂中に蛍光物質を溶融分散させ一定の大きさに形成させることで射出形成の軟化溶融材料となるペレットなどとすることができる。これらの透光性樹脂には所望の波長をカットする着色剤、所望の光を拡散させる拡散材、樹脂の耐光性を高める紫外線吸収剤、酸化防止剤や硬化促進剤など種々の添加剤を含有させることができる。
【0022】
(蛍光物質102)
本発明に用いられる蛍光物質としては、発光素子から発光された電磁波で励起されて蛍光を発する蛍光物質をいう。蛍光物質は一般に発光波長よりも励起波長が短波長の方が効率が良いため、発光素子からの発光波長よりも長波長の蛍光を発する蛍光体を用いることが好ましい。具体的蛍光物質として青色の発光素子との混色により白色を発光させるためには、セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、ペリレン系誘導体、銅で付活されたセレン化亜鉛など種々のものが挙げられる。特に、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体は、発光素子に窒化物半導体を用いた場合、耐光性や効率などの観点から特に好ましい。
【0023】
セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体は、ガーネット構造のため、熱、光及び水分に強く、励起スペクトルのピークが450nm付近にさせることができる。また、発光ピークも530nm付近にあり700nmまで裾を引くブロードな発光スペクトルを持たすことができる。なお、本発明においてセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体とは、最も広義に解釈するものとしてY_(3)Al_(5)O_(12):Ceのイットリウム(Y)の代わりにLu、Sc、La、Gd、Smから選択される少なくとも一種と置き換えることができるものである。また、アルミニウム(Al)の代わりにGa、In、B、Tlから選択される少なくとも一種と置き換えることができるものである。組成を変化させることで発光色を連続的に調節することが可能である。即ち、長波長側の強度がGdの組成比で連続的に変えられるなど窒化物半導体の青色系発光を白色系発光に変換するための理想条件を備えている。同様に、Lu、Lc、ScやSmなどを加えて所望の特性を得るようにしても良い。
【0024】
このような蛍光物質は、Y、Gd、Ce、Sm、La、Al及びGaの原料として酸化物、又は高温で容易に酸化物になる化合物を使用し、それらを化学量論比で十分に混合して原料を得る。又は、Y、Gd、Ce、Sm、Laの希土類元素を化学量論比で酸に溶解した溶解液を蓚酸で共沈したものを焼成して得られる共沈酸化物と、酸化アルミニウム、酸化ガリウムとを混合して混合原料を得る。これにフラックスとしてフッ化アンモニウム等のフッ化物を適量混合して坩堝に詰め、空気中1350?1450°Cの温度範囲で2?5時間焼成して焼成品を得、次に焼成品を水中でボールミルして、洗浄、分離、乾燥、最後に篩を通すことで得ることができる。
【0025】
本発明の発光ダイオードにおいて、このような蛍光物質を2種類以上混合させてもよい。具体的には、Al、Ga、Y及びGd、LaやSmの含有量が異なる2種類以上のセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体を混合させてRGBの波長成分を増やすことなどができる。このような場合、異なる蛍光物質間の比重が異なっていても量産性よく発光特性の均一な発光ダイオードを形成することができる。
【0026】
(発光素子103、203)
本発明に用いられる発光素子103とは、蛍光物質を励起可能な発光波長を発光できる発光層を有する半導体発光素子である。このような半導体発光素子としてZnSeやGaNなど種々の半導体を挙げることができるが、蛍光物質を効率良く励起できる短波長が発光可能な窒化物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)が好適に挙げられる。半導体の構造としては、MIS接合、PIN接合やpn接合などを有するホモ構造、ヘテロ構造あるいはダブルヘテロ構成のものが挙げられる。半導体層の材料やその混晶度によって発光波長を種々選択することができる。また、半導体活性層を量子効果が生ずる薄膜に形成させた単一量子井戸構造や多重量子井戸構造とすることもできる。
【0027】
窒化物半導体を使用した場合、半導体用基板にはサファイヤ、スピネル、SiC、Si、ZnO等の材料が好適に用いられる。結晶性の良い窒化物半導体を量産性よく形成させるためにはサファイヤ基板を用いることが好ましい。このサファイヤ基板上にMOCVD法などを用いて窒化物半導体を形成させることができる。サファイア基板上にGaN、AlN、GaAIN等のバッファー層を形成しその上にpn接合を有する窒化物半導体を形成させる。
【0028】
窒化物半導体を使用したpn接合を有する発光素子例として、バッファ層上に、n型窒化ガリウムで形成した第1のコンタクト層、n型窒化アルミニウム・ガリウムで形成させた第1のクラッド層、窒化インジウム・ガリウムで形成した活性層、p型窒化アルミニウム・ガリウムで形成した第2のクラッド層、p型窒化ガリウムで形成した第2のコンタクト層を順に積層させたダブルヘテロ構成などが挙げられる。
【0029】
窒化物半導体は、不純物をドープしない状態でn型導電性を示す。発光効率を向上させるなど所望のn型窒化物半導体を形成させる場合は、n型ドーパントとしてSi、Ge、Se、Te、C等を適宜導入することが好ましい。一方、p型窒化物半導体を形成させる場合は、p型ドーパントであるZn、Mg、Be、Ca、Sr、Ba等をドープさせる。
窒化物半導体は、p型ドーパントをドープしただけではp型化しにくいためp型ドーパント導入後に、炉による加熱やプラズマ照射等により加熱処理することで低抵抗化させることが好ましい。電極形成後、半導体ウエハーからチップ状にカットさせることで窒化物半導体からなる発光素子を形成させることができる。
【0030】
本発明の発光ダイオードにおいて白色系を発光させる場合は、蛍光物質からの発光波長との補色関係や透光性樹脂の劣化等を考慮して発光素子の発光波長は400nm以上530nm以下が好ましく、420nm以上490nm以下がより好ましい。発光素子と蛍光物質との励起、発光効率をそれぞれより向上させるためには、450nm以上475nm以下がさらに好ましい。なお、400nmより短い紫外域の波長を利用できることは言うまでもない。
【0031】
(マウント・リード104、204)
マウント・リード104としては、発光素子を配置させるものであり、ダイボンド機器などで積載するのに十分な大きさがあれば良い。また、発光素子を複数設置しマウント・リードを発光素子の共通電極として利用する場合においては、十分な電気伝導性とボンディングワイヤ等との接続性が求められる。また、マウント・リード上のカップ内に発光素子を配置すると共に蛍光体を内部に充填させる場合は、近接して配置させた別の発光ダイオードからの光により疑似点灯することを防止することができる。
【0032】
発光素子とマウント・リードのカップとの接着はマウント部材106として熱硬化性樹脂などによって行うことができる。具体的には、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂やイミド樹脂などが挙げられる。また、フリップチップ型の発光素子によりマウント・リードと接着させると共に電気的に接続させるためにはAgペースト、Cuペースト、カーボンペースト、金属バンプや金属酸化物が含有された樹脂等を用いることができる。
また、マウント・リードの具体的な電気抵抗としては300μΩ・cm以下が好ましく、より好ましくは、3μΩ・cm以下である。また、マウント・リード上に複数の発光素子を積載する場合は、発光素子からの発熱量が多くなるため熱伝導度がよいことが求められる。具体的には、0.01cal/cm^(2)/cm/℃以上が好ましくより好ましくは0.5cal/cm^(2)/cm/℃以上である。これらの条件を満たす材料としては、鉄、銅、鉄入り銅、錫入り銅、メタライズパターン付きセラミック等が挙げられる。
【0033】
(インナー・リード105、205)
インナー・リードとしては、マウント・リード上に配置された発光素子と導電性ワイヤなどを介して電気的に接続を図るものである。インナー・リードは、ボンディングワイヤ等との接続性及び電気伝導性が良いことが求められる。具体的な電気抵抗としては、300μΩ・cm以下が好ましく、より好ましくは3μΩ・cm以下である。これらの条件を満たす材料としては、鉄、銅、鉄入り銅、錫入り銅及び銅、金、銀をメッキしたアルミニウム、鉄、銅等が挙げられる。
【0034】
(ワイヤ107、207)
ワイヤ107としては、発光素子の電極とのオーミック性、密着性、電気伝導性及び熱伝導性がよいものが求められる。熱伝導度としては0.01cal/cm^(2)/cm/℃以上が好ましく、より好ましくは0.5cal/cm^(2)/cm/℃以上である。また、作業性などを考慮してワイヤの直径は、好ましくは、Φ10μm以上、Φ45μm以下である。このようなワイヤとして具体的には、金、銅、白金、アルミニウム等の金属及びそれらの合金を用いたワイヤが挙げられる。このようなワイヤは、各発光素子の電極と、インナー・リード及びマウント・リードなどとをワイヤボンディング機器によって容易に接続させることができる。
【0035】
(モールド部材208)
モールド部材208は、発光ダイオードの使用用途に応じて発光素子103、ワイヤ107、蛍光物質102などを外部から保護するために設けることができる。モールド部材は、一般には樹脂を用いて形成させることができる。また、蛍光体を含有させることによって視野角を増やすことができるが、樹脂モールドに拡散剤を含有させることによって発光素子からの指向性を緩和させ視野角をさらに増やすことができる。更にまた、モールド部材を所望の形状にすることによって発光素子からの発光を集束させたり拡散させたりするレンズ効果を持たせることができる。したがって、モールド部材は複数積層した構造でもよい。具体的には、凸レンズ形状、凹レンズ形状さらには、発光観測面から見て楕円形状やそれらを複数組み合わせた物である。モールド部材の具体的材料としては、主としてエポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂などの耐候性に優れた透明樹脂や硝子などが好適に用いられる。また、拡散剤としては、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素等が好適に用いられる。また、屈折率差を考慮してモールド部材と結着剤とを同じ材質のものを用いて形成させても良い。以下、本発明の具体的実施例について詳述するがこれのみに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0036】
(参考例1)
LEDチップは、発光層として発光ピークが450nmのIn_(0.2)Ga_(0.8)N半導体を用いた。LEDチップは、洗浄させたサファイヤ基板上にTMG(トリメチルガリウム)ガス、TMI(トリメチルインジウム)ガス、窒素ガス及びドーパントガスをキャリアガスと共に流し、MOCVD法で窒化物半導体を成膜させることにより形成させた。ドーパントガスとしてSiH_(4)とCp_(2)Mgとを切り替えることによってn型やp型導電性の窒化物半導体を形成させる。発光素子としてはn型導電性を有する窒化ガリウム半導体であるコンタクト層と、p型導電性を有する窒化アルミニウムガリウム半導体であるクラッド層、p型導電性を有する窒化ガリウムであるコンタクト層を形成させた。n型コンタクト層とp型クラッド層との間に厚さ約3nmであり、単一量子井戸構造となるInGaNの活性層を形成してある。(なお、サファイヤ基板上には低温で窒化ガリウムを形成させバッファ層とさせてある。また、p型半導体は、成膜後400℃以上で熱処理させてある。)
エッチングによりサファイア基板上の窒化物半導体に同一面側で、pn各コンタクト層表面を露出させる。各コンタクト層上に、スパッタリング法を用いて正負各台座電極をそれぞれ形成させた。なお、p型窒化物半導体上の全面には金属薄膜を透光性電極として形成させた後に、透光性電極の一部に台座電極を形成させてある。出来上がった半導体ウエハーをスクライブラインを引いた後、外力により分割させ半導体発光素子であるLEDチップを形成させた。
【0037】
一方、打ち抜き及びスタンピングによりタイバーで接続されマウント・リード先端にカップが形成された鉄入り銅製リードフレームを形成する。LEDチップはエポキシ樹脂を用いて銀メッキした鉄入り銅製リードフレームの先端カップ内にダイボンドした。LEDチップの各電極と、カップが設けられたマウント・リードやインナー・リードとをそれぞれ金線でワイヤボンディングし電気的導通を取った。
【0038】
蛍光物質は、Y、Gd、Ceの希土類元素を化学量論比で酸に溶解した溶解液を蓚酸で共沈させた。これを焼成して得られる共沈酸化物と、酸化アルミニウムと混合して混合原料を得る。これにフラックスとしてフッ化アンモニウムを混合して坩堝に詰め、空気中1400°Cの温度で3時間焼成して焼成品を得た。焼成品を水中でボールミルして、洗浄、分離、乾燥、最後に篩を通して形成させた。
【0039】
形成された(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光物質25重量部、ポリカーボネート樹脂100重量部をよく混合して1個が十mm^(3)程度のペレットとさせた。このペレットを図4に示す射出成型機のホッパ中に入れた。他方、リード端子と電気的に接続されたLEDチップを金型中に入れ固定させる。ペレットを加熱可塑化させ攪拌させながらプランジャーにより射出温度280℃射出圧力800kgf/cm^(2)で金型中に注入した。金型を冷却後、樹脂モールドされたリードを取り出しタイバーを切断することでLEDチップ、マウント・リード及びインナー・リードの一部を蛍光物質が含有された熱可塑性樹脂で被覆して砲弾型に形成された発光ダイオードを得ることができる。こうした発光ダイオードを500個形成させバラツキを測定した。得られた白色系が発光可能な発光ダイオードの色度点を測定しCIE座標上にプロットした。また、一個ずつの発光ダイオードにおいて外観上の発光むらがないことを確認した。なお、砲弾型発光ダイオードだけではなく、チップタイプLEDやセグメントディスプレイなどにおいても利用することができることは言うまでもない。
【0040】
(比較例)
(Y_(0.8)Gd_(0.2))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光物質をエポキシ樹脂中に混合したものを用いて注型によりカップ内に配置させた後に、硬化形成した以外は参考例1と同様の発光ダイオードを形成させた。形成された発光ダイオードの500個平均と参考例1の発光ダイオードとを比較して色温度の製造バラツキを調べた。比較例の発光ダイオードに較べ実施例の発光ダイオードは、色温度の製造バラツキが明らかに小さくなった。なお、比較例の発光ダイオードは、モールド部材の先端に蛍光物質が固まった状態であった。
【0041】
(参考例2)
図2に示すようにLEDチップ203周辺を上述と同様の蛍光物質202を含有した熱可塑性樹脂201で射出成形封止した後、注型成形にて透光性のエポキシ樹脂をモールド部材208として外側に形成した以外は参考例1と同様にして発光ダイオード200を形成させた。これにより、上述の硬化に加え、射出成形時に封止樹脂表面に型のミスマッチやバリが発生しても、これをさらに注型で覆うことができる。そのため、封止樹脂のレンズ作用のバラツキや発光ダイオード実装時のバリ脱落によるはんだ付け不良等が防止される。また、比較的高価な高透光性かつ高耐熱性の熱可塑性樹脂の使用量を減らすことも可能である。
【0042】
(実施例1)
図3に示すように表面実装型の発光ダイオード300を形成させた。LEDチップ303は、発光層として発光ピークが475nmのIn_(0.2)Ga_(0.8)N半導体を有する窒化物半導体素子を用いた。より具体的にはLEDチップ303は、洗浄させたサファイヤ基板上にTMG(トリメチルガリウム)ガス、TMI(トリメチルインジウム)ガス、窒素ガス及びドーパントガスをキャリアガスと共に流し、MOCVD法で窒化物半導体を成膜させることにより形成させることができる。ドーパントガスとしてSiH_(4)とCp_(2)Mgを切り替えることによってn型窒化物半導体やp型窒化物半導体となる層を形成させる。
【0043】
LEDチップの素子構造としてはサファイア基板上に、アンドープの窒化物半導体であるn型GaN層、Siドープのn型電極が形成されn型コンタクト層となるGaN層、アンドープの窒化物半導体であるn型GaN層、次に発光層を構成するバリア層となるGaN層、井戸層を構成するInGaN層、バリア層となるGaN層を1セットとしGaN層に挟まれたInGaN層を5層積層させた多重量子井戸構造としてある。発光層上にはMgがドープされたp型クラッド層としてAlGaN層、Mgがドープされたp型コンタクト層であるGaN層を順次積層させた構成としてある。(なお、サファイヤ基板上には低温でGaN層を形成させバッファ層とさせてある。また、p型半導体は、成膜後400℃以上でアニールさせてある。)
エッチングによりサファイア基板上の窒化物半導体に同一面側で、pn各コンタクト層表面を露出させる。各コンタクト層上に、スパッタリング法を用いて正負各台座電極をそれぞれ形成させた。なお、p型窒化物半導体上の全面には金属薄膜を透光性電極として形成させた後に、透光性電極の一部に台座電極を形成させてある。出来上がった半導体ウエハーをスクライブラインを引いた後、外力により分割させ半導体発光素子であるLEDチップを形成させた。
【0044】
一方、打ち抜き及び射出成形により一対のリード電極304、305となる金属片が絶縁性樹脂309によって固定された基板を形成する。LEDチップ303はエポキシ樹脂306を用いて銀メッキした鉄入り銅製のリード電極上にダイボンドした。LEDチップの各電極と、各リード電極とをそれぞれ金線307でワイヤボンディングし電気的導通を取った。
【0045】
蛍光物質302は、Y、Gd、Ceの希土類元素を化学量論比で酸に溶解した溶解液を蓚酸で共沈させた。これを焼成して得られる共沈酸化物と、酸化アルミニウムと混合して混合原料を得る。これにフラックスとしてフッ化アンモニウムを混合して坩堝に詰め、空気中1400°Cの温度で3時間焼成して焼成品を得た。焼成品を水中でボールミルして、洗浄、分離、乾燥、最後に篩を通して形成させた。
【0046】
形成された(Y_(0.6)Gd_(0.4))_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光物質25重量部、含窒素エポキシ樹脂であるトリグリシジルイソシアヌレート100重量部と酸無水物及び硬化促進剤を65℃で攪拌させ24時間反応させ室温で冷却する。この反応によりある程度硬化させた固体となる。室温に冷却後、取り出した固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成させる。なお、蛍光物質を透光性樹脂中に含有させたタブレットを形成させるためには、上述のように原材料透光性樹脂中に含有させても良いし、均一性を保てる限りにおいて、ある程度硬化させた透光性樹脂粉体と蛍光物質とを混合攪拌させ固めたタブレットを利用することもできる。
【0047】
次にポットを加熱後、上記で形成させたLEDチップと導通を取った基板が配置された金型に軟化させたタブレットを射出させ150℃5分で一時硬化させた。次に、金型から射出成形させた発光ダイオードを取り出した後、150℃4時間で二次硬化させた。蛍光物質が含有された透光性樹脂301は、LEDチップが配置された基板上に突出した形状で形成させることができた。
【0048】
形成させたチップタイプLEDは上述と同様に形成された発光ダイオードのばらつきが極めて少ないと共に各発光ダイオードの色むらが極めて少ない白色LEDとすることができる。また、蛍光物質を含有させた樹脂を維持させるためにキャビティー構造となる側壁を形成させる必要もなく極めて小型な白色発光ダイオードを形成させることができる。さらに、ある程度硬化させたとはいえ熱硬化性樹脂を用いるため、射出成型時に比較的粘度が高い熱可塑性樹脂を用いた場合と比較してLEDチップを電気的に接続させるワイヤなどの損傷を防ぎつつ形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は本発明の発光ダイオードを示す模式的断面図である。
【図2】図2は本発明の他の発光ダイオードを示す模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の別の発光ダイオードを示す模式的断面図である。
【図4】図4は本発明の製造に用いられる射出成型機の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0050】
100、200、300・・・発光ダイオード
101、201、301・・・蛍光物質を含有する透光性樹脂
102、202、302・・・蛍光物質
103、203、303・・・発光素子
104、204・・・マウント・リード
105、205・・・インナー・リード
106、206、306・・・LEDを接着させるマウント部材
107、207、307・・・ワイヤ
208・・・モールド部材
304、305・・・リード電極
309・・・リード電極間を絶縁する樹脂
400・・・射出成形機
401・・・ペレット
402・・・射出ピストン
403・・・スクリュー
404・・・電熱線
405・・・金型
406・・・発光素子がマウントされたマウントリード
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色系を発光する発光素子と、
一対のリード電極と該一対のリード電極間を絶縁する樹脂とを有する、該発光素子を載置する基板と、
該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、
前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、
前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂の原材料透光性樹脂中に該樹脂と比重が異なり青色光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質を含有させ固体にする工程と、
前記固体を粉砕しプレスして固体状のタブレットを形成する工程と、
前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を、前記金型により前記基板上に突出した形状に成形する工程と、を有してなることを特徴とする白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。
【請求項2】
青色系を発光する発光素子と、該発光素子を載置する基板と、該発光素子からの青色系の光を吸収し蛍光を発する無機蛍光物質を含有する透光性樹脂と、を有し、前記発光素子からの光と前記無機蛍光物質からの蛍光により白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法であって、
前記透光性樹脂の成形前に、エポキシ樹脂からなる透光性樹脂粉体と、比重が異なり青色系の光を吸収し蛍光を発する前記無機蛍光物質と、を混合攪拌させ、固めてタブレットを形成する工程と、
前記基板に載置された前記青色系を発光する発光素子を金型に配置すると共に、前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有してなることを特徴とする白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。
【請求項3】
前記タブレットを軟化させて前記金型に注入し前記青色系を発光する発光素子の少なくとも一部を被覆し硬化したものに更に所定の温度を加えて二次硬化して前記透光性樹脂を成形する工程と、を有する請求項1又は請求項2に記載の白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。
【請求項4】
前記発光素子の発光層が少なくとも窒化物半導体からなると共に前記蛍光物質がセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体である請求項1乃至請求項3に記載の白色系の混色光を発光する発光ダイオードの形成方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-06-20 
結審通知日 2012-06-22 
審決日 2012-07-04 
出願番号 特願2003-402427(P2003-402427)
審決分類 P 1 113・ 536- YA (H01L)
P 1 113・ 121- YA (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金高 敏康柏崎 康司居島 一仁  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 吉野 公夫
岡▲崎▼ 輝雄
登録日 2007-01-12 
登録番号 特許第3900144号(P3900144)
発明の名称 発光ダイオードの形成方法  
代理人 吉村 誠  
代理人 古城 春実  
代理人 牧野 知彦  
代理人 黒田 健二  
代理人 高橋 綾  
代理人 田村 啓  
代理人 田村 啓  
代理人 鮫島 睦  
代理人 鮫島 睦  
代理人 玄番 佐奈恵  
代理人 言上 恵一  
代理人 加治 梓子  
代理人 古城 春実  
代理人 高橋 綾  
代理人 言上 恵一  
代理人 玄番 佐奈恵  
代理人 門松 慎治  
代理人 加治 梓子  
代理人 牧野 知彦  

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