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審決分類 |
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61F 審判 全部無効 2項進歩性 A61F |
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管理番号 | 1268960 |
審判番号 | 無効2011-800174 |
総通号数 | 159 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-03-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-09-14 |
確定日 | 2013-01-08 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3277180号発明「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 1.本件特許第3277180号についての特許出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴い平成13年5月29日になされ(優先日、平成12年10月3日)、平成14年2月8日に請求項1ないし11に係る発明についての特許が設定登録された。 2.これに対し、平成23年9月14日に、請求人株式会社ブルーアンドピンクより、本件特許第3277180号の請求項1ないし11に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求める無効審判の請求がなされた。 3.平成23年12月12日に、被請求人野尻 英行より審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)が提出された。 4.平成24年2月15日に、両当事者から口頭審理陳述要領書が提出された。 5.さらに、平成24年2月27日付け(同年2月29日受付)で請求人から口頭審理陳述要領書(第2回)が提出され、同年2月28日付け(同年2月29日受付)で被請求人から口頭審理陳述要領書(第2回)が提出され、同年2月29日に口頭審理が行われたものである。 第2.本件発明 本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に、粘着剤を塗着することにより構成した、 ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。 【請求項2】上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている、 ことを特徴とする請求項1に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項3】両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた、 ことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項4】上記テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した、 ことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項5】上記破断部は、上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成されている、 ことを特徴とする請求項4に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項6】上記シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである、 ことを特徴とする請求項4または5に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項7】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した任意長のシート状部材の両面または片面に粘着剤を塗着すると共に、その幅方向両端に粘着性のない把持部を形成し、 これを幅方向に細片状に切断する、 ことを特徴とする二重瞼形成用テープの製造方法。 【請求項8】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した任意長のシート状部材の両面または片面に粘着剤を塗着し、 該粘着剤が塗着されたシート状部材の両面または片面に、長手方向略中央に切欠溝を形成した剥離シートを貼付し、 これを幅方向に細片状に切断する、 ことを特徴とする二重瞼形成用テープの製造方法。 【請求項9】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した糸状部材に粘着剤を塗着することにより構成した、 ことを特徴とする二重瞼形成用糸。 【請求項10】両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた、 ことを特徴とする請求項9に記載の二重瞼形成用糸。 【請求項11】上記糸状部材を、引張りによって破断する破断部を略中央に有する剥離カバーで覆った、 ことを特徴とする請求項9に記載の二重瞼形成用糸。」 第3.請求人の主張 1.要点 請求人は、本件特許の請求項1ないし11に係る特許発明を無効とするとの審決を求めている。 その理由の要点は以下のとおりである(審判請求書第16ページ第6行?第17行)。 (1)本件特許に係る明細書における発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされており、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである(以下「理由1」という。)。 なお、審判請求書(以下単に「請求書」ということがある。)においては、「特許法第36条第4項第1号」と記載されているが、口頭審理において上記のように「特許法第36条第4項」と訂正された(口頭審理調書の「請求人 4」)。 (2)本件特許の請求項1?11に係る発明はいずれも、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである(以下「理由2」という。)。 2.証拠方法 請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第 1号証: 本件特許出願手続における平成13年12月18日付け意 見書 甲第 2号証: 実願昭61-24573号(実開昭62-136545号 )のマイクロフィルム 甲第 3号証: 実公昭59-25367号公報 甲第 4号証: 実用新案登録第2587491号公報 甲第 5号証: 特開平8-280734号公報 甲第 6号証: 特開2000-166965号公報 甲第 7号証: 実願昭51-102594号(実開昭53-20684号 )のマイクロフィルム 甲第 8号証: 松浦賢の陳述書(平成22年8月12日付け) 甲第 9号証: 「MEZAIK」販売促進用DVD 甲第10号証: 本件特許に関する平成22年(ワ)第36485号 損害 賠償請求事件(以下「別件訴訟」という。)において原告 (本件特許権の専用実施権者)が提出した甲第11号証の 写し 甲第11号証: 実験写真「メザイク(伸縮あり)」 甲第12号証: 実験写真「メザイク(伸縮なし)」 甲第13号証: 実験写真「AB(伸縮あり)」 甲第14号証: 実験写真「AB(伸縮なし)」 甲第15号証: 実験写真「伸縮不可糸」 甲第16号証: DVD(実験「メザイク(伸縮あり)」) 甲第17号証: DVD(実験「メザイク(伸縮なし)」) 甲第18号証: DVD(実験「AB(伸縮あり)」) 甲第19号証: DVD(実験「AB(伸縮なし)」) 甲第20号証: DVD(実験「伸縮不可糸」) 甲第21号証: 二重瞼形成のメカニズムを示す略図 甲第22号証: 二重瞼の形成状態を示す側面図 甲第24号証: 実験写真(伸縮不可糸を瞳に押し付ける手順を順次示す) 以上の証拠方法のうち、甲第1号証ないし甲第8号証は請求書に添付され、甲第9号証ないし甲第24号証はその後提出されたものである。また、甲第1号証ないし甲第24号証について、当事者間に成立の争いはない(口頭審理調書の「被請求人 3」)。 なお、請求人口頭審理陳述要領書に添付の甲第23号証は取下げられ(請求人口頭審理陳述要領書(第2回)の第3ページ第22?23行)、これに伴い検甲第1号証は返還された(口頭審理調書の「請求人 5」)。また、請求人口頭審理陳述要領書(第2回)に添付の「甲第23号証」は、口頭審理において上記のように「甲第24号証」に訂正されたものである(口頭審理調書の「請求人 2」)。 3.主張の概要 請求人の主張の概要は、以下のとおりである。なお、原文の「まる数字」は、「まる1」のように記載した。また、行数は空行を含まず、<>内のページ番号及び行数の表示は、理解の便宜のため当審で付したものである。 [主に理由1について] (1)請求書第19ページ第16行?第21ページ下から5行 「・・・(前略) <第19ページ下から4行?第20ページ第5行> 本件特許の請求項1、7、8、9においては、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」(以下、「本件合成樹脂」という)と記載されている。しかしながら、本件特許に係る特許出願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という)においては、本件合成樹脂がどのようなものであり、これをどのようにして作るかについては記載がない。すなわち、本件明細書においては、「上記テープ状部材1としては、・・・・延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂により形成するのが望ましい。」との記載がある(段落0010)のみであり、それ以上に実施例の説明はない。 ・・・(中略)・・・ <第20ページ下から6行?第21ページ第3行> また、本件特許の請求項1では、「延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」と記載されているが、「弾性的な伸縮性」という意義は、どの程度の伸縮性を意味するのか不明確であり、一義的に明らかになっていない。本件明細書においては、「テープ状部材は瞼に直接二重にするためのひだを形成するので、前記従来の方法のように、皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることはなく、自然な二重瞼を形成することができ」る(【0009】)と記載されているのであり、弾性的な伸縮性は、瞼につれを生じさせたり、皮膜の跡を残したりするようなものであってはならないことが予想される。しかるに、どの程度の伸縮性を有するのか明らかではない。 ・・・(中略)・・・ <第21ページ第18行?下から5行> したがって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂がどのようなものであるのか、延伸の具体的内容、弾性的な伸縮性とはどの程度の伸縮性を有するのかが明らかではなく、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものではないため、特許法第36条第4項第1号(当審注:第36条4項と訂正)に規定する実施可能要件を欠くものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきものである。」 (2)口頭審理陳述要領書第7ページ下から6行?第10ページ下から7行 「・・・(前略) <第8ページ第10行?第20行> しかし、他の代表的な辞典によれば、「延伸」は、「のばすこと。のびること。」(広辞苑第5版)、「梳き綿を片方に把持し、片方を引っ張ることによりロープを長く伸ばし紡績する工程」(マグローヒル科学技術用語大辞典第3版)と定義されている。前者によれば、「延伸」は単に「のばすこと。」であるから、ゴムもまた「延伸」するといわなければならない。また、後者は科学技術分野における最も権威のある辞典であるが、ここにおいて、被請求人のいう「その断面積を減少し及び又は配向によってその物理的性質を改良するために熱可塑性プラスチックシート、棒又はフィラメントを引き伸ばす工程」なる定義が掲載されていないことに注目するべきである。いずれにしても、「延伸」については、被請求人のいう定義が技術常識であるということはできない。・・・(後略)」 (3)口頭審理陳述要領書(第2回)第4ページ第18行?下から2行 「2 3M社の#1522について 審判長の通知書(平成23年12月22日付)の2.(2)において、「テープ状部材に形成に適したポリエチレン等の合成樹脂」とはどのような樹脂かと質されたのに対して、被請求人は3M社の#1522を挙げている。 しかしながら、そもそも、本件明細書においては3M社の#1522について記載がない。のみならず、通知書において質されていた材料名、密度、重合方法などについては依然として不明である。そうだとすれば、今回、通知書に応答して3M社の#1522を開示したからといって、本件明細書が実施可能要件を満すに到ったと認めることはできない。」 [主に理由2について] (4)請求書第21ページ下から4行?第39ページ下から3行 「・・・(前略) <第22ページ第2行?第23ページ第13行> かりに本件合成樹脂が既知のものであるとすれば、本件特許の請求項1に記載の発明は下記の甲第2号証の発明において公知材料の中から最適材料を選択したものに他ならず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また、その他の請求項に記載の発明は甲第2号証及びその他の文献の記載に照して同じく特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。以下、詳述する。 (4-4)先行技術発明が存在する事実及び証拠の説明 (4-4-1)甲第2号証(以下、甲2という) 甲2(実願昭61-24573号(実開昭62-13645号)のマイクロフィルム、昭和62年8月28日公開)の明細書第3頁第5行?第15行、第6頁第7行?第14行、第2図、第4図、第5図には、本件請求項1、2に係る各特許発明の構成中、B、C、D、Eに相当する構成及び後記するA’なる構成が記載されている。 すなわち、甲2は二重瞼にするために瞼に貼付する整形用粘着シート片に関するものであり(第6頁第7行?第14行)、第2図に示すように、その第3頁第5行?第15行には、「透明性プラスチックシート(1)を形成し、該プラスチックシートの裏面に粘着剤層(3)を設け、・・・・上記透明性プラスチックシート(1)・・・・は・・・・ポリエチレン・・・・その他の合成樹脂で形成されている。」と記載されており、第4図及び第5図には、裏面に粘着剤を塗着した、湾曲した細幅の整形用粘着シート片(9)が示されている。・・・(中略)・・・さらに、甲2には、上記のとおり、細いテープ状部材に粘着剤を塗着した構成(細幅の二重瞼整形用粘着シート片)、すなわち、本件発明1のB、C、Dに相当する構成が記載されている。 また、前記のとおり、甲2には、裏面に粘着剤層(3)を塗着した、湾曲した細幅の成形用粘着シート片(9)が示されているところから、本件請求項2に係る発明(以下、本件発明2という)のEに相当する構成、すなわち、「上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている」との構成も記載されている。 さらに、甲2の第5頁第17行?第19行には、「透明プラスチックシートの表面側にシリコーンの剥離層・・・・を有する・・・・台紙」と記載されている。したがって、甲2には、本件請求項6に係る発明(以下、本件発明6という)の構成Iに相当する構成、すなわち、「上記シート(剥離シート)はシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである」との構成が記載されている。 ・・・(中略)・・・ <第23ページ下から1行?第24ページ第4行> さらに、甲2には、前記とおり、本件請求項1のB、C、Dの構成、すなわち、細いテープ状部材に粘着剤を塗着してなる二重瞼形成用テープが示されているところ、本件請求項9における糸状部材(構成U)は、本件請求項1における細いテープ状部材(構成B)と実質的に同じである。なぜなら、「糸状部材」は細くて扁平な部材を含むものと考えられるからである。 ・・・(中略)・・・ <第24ページ第7行?下から7行> (4-4-2)甲第3号証(以下、甲3という) 甲3・・・(中略)・・・したがって、ここには、両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた、との構成が記載されており、この状態が第1図及び第3図に端的に示されている。・・・(中略)・・・したがって、甲3には、シート状部材を幅方向に細片状に切断することによりテープ状部材を得ることが示されている。 ・・・(中略)・・・ <第24ページ下から4行?第25ページ第16行> (4-4-3)甲第4号証(以下、甲4という) 甲4・・・(中略)・・・したがって、甲4には、両端に指でつまむための粘着剤がない部分を設けた構成が示されている。・・・(中略)・・・したがって、甲4には、テープ状基材を幅方向に切断してテープ片を得ることが示されている。 ・・・(中略)・・・ <第25ページ第18行?第27ページ第16行> (4-4-4)甲第5号証(以下、甲5という) 甲5(特開平8-280734号、平成8年10月29日公開)は医療用粘着シートに関するものである。その段落0017には、「上記セパレータの片端部(図2及び図3の右部)には把持部31として端部にセパレータを残した状態で各矩形片状粘着シートを分離するための切割線4、41が形成されている。・・・(中略)・・・ また、前記したとおり、この切割線4については、これがミシン目や破線のような不連続切断であってもよい旨の記載があるところから(段落0025)、切欠溝に相当するものであり、また、切割線4の形成位置が端部から全体幅の50%となるように形成する可能性が示唆されているところから(段落0023)、長手方向略中央に形成されているといえるから、甲5には、本件発明4、5の上記構成G、Hを組み合わせたもの、すなわち、本件発明8のQに相当する構成が記載されている。 ・・・(中略)・・・ <第27ページ下から1行?第28ページ下から2行> (4-4-5)甲第6号証(以下、甲6という) 甲6・・・(中略)・・・甲6においては、テープ状基材の一端部に、粘着剤を離型性被覆シートで覆ってなる把持部を設けた構成が示されている。・・・(中略)・・・このことからすれば、甲6においては、基材シートを幅方向に切断して多数のテープ状基材を得ることが示されている。 ・・・(中略)・・・ <第29ページ第16行?第18行> 甲7には、両面テープ1(正確には、台紙2を除く部分)を切れ目10により切離して複数の両面テープ片11_(1)、11_(2)・・・・・11_(n-1)、11_(n)を得ることが示されている。 ・・・(中略)・・・ <第30ページ下から4行?第31ページ第10行> 仮に、本件発明の「合成樹脂」が当業者において明確なものであって実施可能要件を充足しているとの前提に立てば、本件発明は、公知材料の中から最適材料を選択し、粘着剤を塗着したものに他ならず、「延伸可能でその延伸後も弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は既知のものであるということになる。 そうだとすれば、本件発明においては、甲2の「弾性的な伸縮性を有する湾曲したプラスチックシート片」に代えて、既知の「延伸可能でその延伸後も弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」により形成したものであり、本件発明1は甲2の発明において、公知材料の中から最適の材料の選択をしたものに他ならないということになる。すなわち、公知技術の一部を、公知材料の中から選択したにすぎないものである。 そして、本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成された」という点、すなわち本件発明1の構成Aの点は格別の作用効果を奏さないものである。 ・・・(中略)・・・ <第32ページ第1行?第12行> しかしながら、この主張は誤りである。すなわち、まず、後段の(2)については、二重瞼は、テープ状部材が瞼にくい込むことによって形成されるのではなく、瞼にテープ状部材を張り付けるだけで形成される。すなわち、目を閉じた状態で瞼にテープ状部材を貼り付けることにより、テープ状部材より上方の瞼の部分と下方の瞼の部分との間に異物が入った状態になり、目を開けた時に、テープ状部材を貼り付けた部分がひだになり二重瞼が形成される。このように、テープ状部材が瞼にくい込むことによりはじめて二重瞼が形成されるというのは誤りである。 次に、前段の(1)については、テープ状部材が弾性的に縮めば、テープ状部材がそれを貼り付けた瞼にくい込むというのも誤りである。 ・・・(中略)・・・ <第33ページ第16行?下から4行> したがって、ポリエチレン等の合成樹脂の中から「延伸可能で延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」部材(構成A)を用いたことにより格別の作用効果を奏するものではない。すなわち、本件発明において「延伸可能で延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」部材を用いることにより格別の作用効果を奏さないものである。 以上のとおり、本件発明1は甲2の発明において、公知材料の中から最適の材料の選択をしたものに他ならず、また、そうすることにより格別の作用効果を奏するものでもないから、結局、本件発明1の出願当時、当業者において本件発明1と引用発明の相違点に係る構成を容易に想到することができたというべく、本件発明は引用例に照らして進歩性を有さず、特許法第29条第2項の要件を欠く。 ・・・(中略)・・・ <第33ページ下から2行?第34ページ第1行> 本件発明2は、本件発明1において、「上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている」点(構成E)を限定したものであるが、前記のとおり、Eに相当する構成は甲2において記載されている。 ・・・(中略)・・・ <第34ページ第6行?第8行> 本件発明3は本件発明1または2において、「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」ものである(構成F)が、Fは前記のとおり、甲3、甲4、甲5、甲6に記載された周知事項である。 ・・・(中略)・・・ <第34ページ第16行?第35ページ第2行> 本件発明4は、本件発明1または2において「テープ状部材の両面又は片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した点」(構成G)を限定したものであるが、構成Gは甲5において示されている。・・・(中略)・・・本件発明4の作用効果は、剥離シートの両側を把持して左右に引っ張ることによりテープ状部材を延びた状態で露出させるところにある。これに対して、甲5もこのような作用効果を有しているものと思われる。すなわち、甲5においても、セパレータ3の把持部とその余の部分とを把持してセパレータ3を左右両側に引っ張ることにより支持体1は延びた状態で露出するものと思われる(段落0018によれば、支持体は弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等により形成されているので)からである。 ・・・(中略)・・・ <第35ページ第10行?第12行> 本件発明5は、本件発明4において、「上記破断部は、上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成された」点(構成H)を限定したものであるが、前記のとおり、構成Hは甲5において示されており、 ・・・(中略)・・・ <第35ページ第18行?第21行> 本件発明6は本件発明4または5において「剥離シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである点」(構成I)が限定されているが、上記の(4-4-1)において記載したとおり、甲2自体においてシリコーンの剥離層を有する点が記載されており、 ・・・(中略)・・・ <第36ページ第16行?第37ページ第2行> (c)本件発明7と甲2の発明との相違点の検討 相違点(i)に関しては、本件発明7の構成Jは前記の本件発明1の構成Aと同一である。・・・(中略)・・・ 次に、相違点(ii)については、粘着性を有するシートにおいてその幅方向両端に粘着性のない把持部を形成することは、甲3、甲4、甲5、甲6に示すように周知技術であり、設計事項であるといわなければならない。 また、相違点(iii)についても、粘着性のあるシート状部材を細片状に切断して細片状部材を得ることは、甲3、甲4、甲5、甲6、甲7に示すように周知技術である。 ・・・(中略)・・・ <第37ページ第14行?第38ページ第14行> (b)相違点 (i)本件発明8においては、任意長のシート状部材(構成P)が「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した」ものである(構成O)のに対して、甲2においては、「弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した」ものである(構成O’)点。 (ii)本件発明8においては、「該粘着剤が塗着されたシート状部材の両面または片面に、長手方向略中央に切欠溝を形成した剥離シートを貼付し」ている(構成Q)のに対して、甲2はそのような構成を有していない点。 (iii)本件発明8においては、「(任意長のシート状部材)を幅方向に細片状に切断する」(構成R)のに対して、甲2はそのような構成を有していない点。 (c)本件発明8と甲2の発明との相違点の検討 相違点(i)に関しては、本件発明8の構成Oは前記の本件発明1の構成Aと同一である。・・・(中略)・・・ 次に、相違点(ii)については、前記したとおり、構成Qは甲5に示されている。・・・(中略)・・・ また、相違点(iii)については、粘着性のあるシート状部材を細片状に切断して細片状部材を得ることは、本件発明7について上記したとおり、甲3、甲4、甲5、甲6、甲7に示すように周知技術である。 ・・・(中略)・・・ <第38ページ下から8行?下から6行> 本件発明1と本件発明9とは実質的に同一である。すなわち、本件発明1の構成Bと本件発明9の構成Uとは実質的に同一である。なぜなら、「細いテープ状部材」と「糸」とは重複する概念だからである。 ・・・(中略)・・・ <第39ページ第5行?第8行> 本件発明10は、本件発明9において、「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」ものであり(構成X)、構成Xは前記の構成F、Lと同一であり、構成F、Lにつき前記したところと同様に、甲3、甲4、甲5、甲6に示すとおり、構成Xも周知事項である。 ・・・(中略)・・・ <第39ページ第13行?第16行> 本件発明11は、本件発明9において、「上記糸状部材を引張りによって破断する破断部を略中央に有する剥離カバーで覆った」ものである(構成Y)が、構成Yは本件発明4、5の構成G、Hを組み合わせたものと実質的に同一であり、甲5に記載されている。・・・(後略)」 (5)口頭審理陳述要領書第10ページ下から6行?第18ページ第12行 「・・・(前略) <第15ページ第8行?第17ページ第4行> まる3 請求人は、さらに、甲第11号証?甲第20号証により、テープの伸縮性が二重瞼の形成に寄与していないことを明らかにする。 すなわち、甲第11号証は、本件特許の実施品と主張されている長さ28mmの前記「MEZAIK」を80mmに延伸させ、そのままの状態で瞼に着用したものである。・・・(中略)・・・甲第11号証の場合、問題なく二重瞼を形成することができた。そして、二重瞼は「MEZAIK」のテープ両端の把持部を解放する前にすでに形成されていた(上段の写真)。すなわち、「MEZAIK」は、素材自体の伸縮性により二重瞼を形成しているものではない。甲第11号証の二重瞼形成の過程を甲第16号証のDVD(動画)により詳細に示す。 甲第12号証は、「MEZAIK」をいったん延伸し、その後張力を解放した状態で瞼に着用したものである。この場合も、問題なく二重瞼を形成することができた。・・・(中略)・・・甲第12号証の二重瞼形成の過程を甲第17号証のDVD(動画)により詳細に示す。・・・(中略)・・・ 甲第15号証は、伸縮性のない80mmの両面テープを使用したものである。この場合、テープを瞼に押し付ける際にも伸縮性は存在していないが、問題なく二重瞼は形成され、目視においても、伸縮素材である「MEZAIK」、「AB」との違いは見受けられなかった。すなわち、素材の伸縮性は二重瞼の形成に寄与していない。甲第15号証の二重瞼形成の過程を甲第20号証のDVD(動画)により詳細に示す。 以上のところから、素材の伸縮性、特に、素材の「延伸後の伸縮性」によって二重瞼が形成されるものではないことが明らかである。 まる4 ここで二重瞼形成のメカニズムを整理すると、甲第21号証に示すとおりである。すなわち、目を閉じて瞼にテープなどの異物を押し当てた状態から目を開けることにより異物は瞼深くに埋もれる。これにより、瞼にひだが形成される。これが二重瞼である。この状態を甲第22号証に断面図で示す。 甲第22号証に示すように、異物の存在により瞼が深く折り畳まれて二重が形成されている。二重瞼形成用具としては本件特許に係るものの他、種々あるが、いずれも、異物の介在により瞼にひだが形成されるものである点では共通している。 まる5 以上のとおり、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という構成によって二重瞼が形成されるものではない。したがって、この構成は何らの作用効果を奏するものではないといわなければならない。・・・(後略)」 (6)口頭審理陳述要領書(第2回)第2ページ第13行?第4ページ第17行 「・・・(前略) <第4ページ第9行?第14行> 以上のように、乙第1号証の「MEZAIK」のテープの場合には、これを瞼に強く押しつけてくい込ませているのに対して、乙第2号証のサンプルテープAの場合には、これを単に瞼に当接させているにすぎない。したがって、前者ではくい込みが生じ、後者ではくい込みが生じないのは、当然の結果であり、決して、収縮力の有無の差によりくい込みの有無が左右されるわけではない。 ・・・(後略)」 (7)口頭審理調書の「請求人」欄6及び7 「6 粘着性さえあれば伸縮性がないテープでも必ず二重はできる。 7 同一人で、伸縮性がないテープでは二重ができずに、伸縮性がある テープでは二重ができることはあり得ない。」 第4.被請求人の主張 1.要点及び証拠方法 これに対し、被請求人は、以下の理由、証拠方法に基づき、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。 乙第1号証 :本件特許発明の実施品である「MEZAIK」を瞼に装着 した写真 乙第2号証 :弾性的な伸縮性を有しないサンプルテープAを瞼に装着し た写真 乙第2号証の2:伸縮性の無いサンプルテープAを乙第2号証に示すように 装着するまでの過程を示す写真 乙第3号証 :「MEZAIK」及びサンプルテープAの仕様 乙第4号証 :「MEZAIK」及びサンプルテープAの写真 乙第5号証 :別件訴訟において原告が裁判所に提出した準備書面6の写 し 乙第6号証 :別件訴訟において原告が裁判所に提出した証拠(甲第11 号証)及びその証拠説明書の写し 乙第7号証 :テープの弾性的伸縮性が、二重瞼の襞を形成するくい込み を形成する上で相当程度寄与していることを立証しようと するためのDVD 以上の証拠方法のうち、乙第1号証、乙3号証及び乙4号証は答弁書に添付され、乙第2号証の2、及び乙第5号証ないし乙第7号証はその後提出されたものである。また、乙第2号証は、当初答弁書に添付されていたものが口頭審理陳述要領書にて差し替えられたものである。 なお、乙第1号証ないし乙第7号証について、当事者間に成立の争いはない(口頭審理調書の「請求人 3」)。 2.主張の概要 被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。なお、原文の「まる数字」は、「まる1」のように記載した。また、行数は空行を含まず、<>内のページ番号及び行数の表示は、理解の便宜のため当審で付したものである。 [主に理由1に対して] (1)答弁書第3ページ第7行?第6ページ末行 「・・・(前略) <第3ページ下から9行?第4ページ第5行> まる3 「延伸」について 本件明細書の【0010】には、・・・(中略)・・・と記載されており、すなわち、伸長させた際に弾性的な収縮性を有する合成樹脂の中でも、特に、延伸可能で延伸後にも弾性的な伸縮性を示すポリエチレン等の合成樹脂が、テープ状部材1を形成する材料としてより望ましい旨が開示されている。 ここで、「延伸」とは、当業者において、「その断面積を減少し及び又は配向によってその物理的性質を改良するために熱可塑性プラスチックシート、棒又はフィラメントを引き伸ばす工程」(JIS工業用語大辞典第4版/日本規格協会)と理解されるところ、本件発明においても、一般需要者によって、本件発明に係る「二重瞼形成用テープ」が使用される場面を前提に、同様の意味を有する用語として用いられている。 ・・・(中略)・・・ <第6ページ第12行?下から4行> そして、これら明細書の記載に基づけば、「延伸後のテープ状部材1が、瞼7に貼り付けた際に、瞼7の弾性に抗して瞼7と共に収縮し、凸曲面を成している瞼7に、貼り付け方向に沿ったくい込みを形成することができる程度の弾性的な伸縮性を有している」ことが開示されているといえる。 しかも、テープ状部材1が、延伸させて引っ張った状態において、瞼7への押し付けに耐えうるものであることも明らかである。 まる6 さらに、明細書の【0010】には、テープ状部材1を形成する合成樹脂の一例として、延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレンが示されている。また、このような擬似的な二重瞼形成用具において、装着状態が目立たないことや、瞼に確実に貼着することができることも共通且つ自明の課題であるといえる。 まる7 このように、これらまる3?まる6に示す「発明の詳細な説明」における開示内容及び技術常識に基づけば、延伸の具体的内容、及び、弾性的な伸縮性の程度は明確であり、本件発明のテープ状部材の形成に適したポリエチレン等の合成樹脂を選定するにあたり、当業者に過度の試行錯誤を強いるものではない。・・・(後略)」 (2)口頭審理陳述要領書第2ページ第14行?第3ページ下から4行 「・・・(前略) <第3ページ第13行?下から4行> (2-2)テープ状部材の形成に適した合成樹脂の例について 本件発明におけるテープ状部材の形成に適した「合成樹脂」の例としては、本件明細書の段落【0008】,【0016】及び【0017】に記載したような「延伸可能性」及び「延伸後の弾性的な伸縮性」を有するポリエチレンが挙げられることは言うまでもない。このとき、ポリエチレンの密度は特に問わないが、例えば、製造時に特に高延伸されたものは当然適していない。そのようなポリエチレンは、もはや本願発明における「延伸可能性」を有しておらず、たとえ多少延伸させることができたとしても、その延伸後に、本願発明における「弾性的な伸縮性」を示さないからである。 そして、テープ状部材の形成に最も適した「合成樹脂」の1つとしては、本件特許発明の実施品「MEZAIK」に使用している3M社の#1522の基材である厚さ75μmの低密度ポリエチレンが挙げられる。」 [主に理由2に対して] (3)答弁書第7ページ第1行?第15ページ第4行 「・・・(前略) <第9ページ下から7行?第10ページ第6行> まる5 そして、テープ状部材の弾性的な伸縮性により、テープ状部材が瞼にくい込むことによって二重瞼が形成されることは、乙第1号証及び乙第2号証の実験写真からも明らかである。 ここで、乙第1号証は、本件発明の実施品である「MEZAIK」を、本件明細書に記載の手順に従って、常に一重瞼のモデルに装着した結果を示すものである。また、乙第2号証は、延伸性や弾性的な伸縮性を有さないサンプルテープAを、同じモデルの瞼に引っ張った状態で押し当てて装着した結果を示している。乙第1号証の上側の写真を見ると、テープがくい込んでいる様子が良く見て取れ、このくい込みによって下側の写真のように二重瞼が形成されている。また、テープの収縮は、くい込みの上下に形成された細かな縦皺により確認することができる。一方、乙第2号証の写真では、サンプルテープAに弾性的な伸縮性が無いため、くい込みは形成されず、サンプルテープAが単に瞼の表面に張り付いた状態となり、二重瞼は形成されていない。 ・・・(中略)・・・ <第12ページ第15行?第13ページ第3行> まる8 それに対し、甲2には、二重瞼にするために瞼に貼着する左右対称の弓状に湾曲した整形用粘着シート片(9)が開示されており・・・(中略)・・・また、このシート片(9)は、サンドブラスト法、エンボス法、化学的侵蝕法等によって梨地や艶消し面を形成する謂ゆるマット加工法のほか、印刷等によるコーティング法等で形成された光散乱性表面(2)を有している(甲2号証第4頁第2?7行目参照)。しかしながら、このシート片(9)は、台紙から剥がした状態でそのまま瞼に貼着し、その上縁を利用して瞼の皮膚を折り畳むことにより二重瞼を形成するもの、すなわち本件発明の従来技術に相当するものである。 よって、この甲2には、上記シート片(9)を構成するシート(1)が、上述した本件発明における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」ものであって、該シート片(9)が、該シート(1)を延伸させ、その延伸後の弾性的な伸縮性を利用して二重瞼を形成するものであることは、何ら開示されていないし示唆もされてない。 まる9 しかも、該シート片(9)が、立体的な凸曲面を成す瞼に適合させるため、長手方向に弓状に湾曲していて、引っ張るのに適した形状でないことからすれば、延伸させての使用を予定していないことは明らかである。 ・・・(中略)・・・ <第14ページ第18行?第15ページ第4行> しかしながら、これら甲3?7には、本件発明1のように、合成樹脂テープの延伸後の弾性的な伸縮性を利用して二重瞼を形成する点については、何ら開示されていないし、示唆さえもされてもいない。・・・(中略)・・・ これら請求項7?9に係る発明は何れも、請求項1に係る発明と同様に、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」なる構成を有している。 したがって、請求項1に係る発明と同様の理由により、これら請求項7?9に係る発明も、甲2?7に記載の発明に対し進歩性を有している。・・・(中略)・・・ これら請求項2?6,10及び11に係る発明は、上記請求項1または請求項9に係る発明に対し直接的又は間接的に従属し且つ減縮をするものであるから、請求項1及び請求項9に係る発明が甲2?7に記載の発明に対し進歩性を有している以上、当然に、甲2?7に記載の発明に対し進歩性を有している。」 (4)口頭審理陳述要領書第3ページ下から3行?第6ページ第1行 「・・・(前略) <第5ページ第19行?第22行> さらに、甲2発明については、答弁書第12?13頁の(4-3-1)まる8、まる9でも述べたように、シート(1)が、マット加工法やコーティング法等により光散乱性が付与された表面(2)を有していることも考慮されるべきである。・・・(後略)」 (5)口頭審理陳述要領書(第2回)第1ページ下から5行?第4ページ第8行 「・・・(前略) <第3ページ第14行?第4ページ第6行> まる4 本件明細書の段落[0008]及び段落[0017]に記載したように、本件発明に係る二重瞼形成用テープは、これを単に瞼に貼り付けるのではなく、瞼に「押し当てて貼り付け」るものであり、これが「押し当てて貼り付け」られた後、さらに「弾性的に縮んだテープ状部材が」「瞼にくい込む状態に」することにより二重瞼を形成するものである。 このように、本件発明に係る二重瞼形成用テープが二重瞼を形成する上で、弾性的伸縮性のみならず「押し付ける力」も一定の役割を果たす場合があり得ることは、被請求人としても否定するものではない。 しかしながら、ユーザーの中には、伸縮性の無い二重瞼形成用テープを瞼に押し付けただけでは、瞼の弾力性によりテープが跳ね返されてしまう(乙2)人物もおり、そうした人物も、本件発明に係る二重瞼形成用テープを明細書に記載の操作方法により使用すると二重瞼を形成することができる(乙1)。 このことは、本件発明に係る二重瞼形成用テープが二重瞼を形成する上で、テープの弾性的伸縮性が寄与することの証拠である。 また、このことからは、本件発明に係る二重瞼形成用テープは、伸縮性の無いテープを押し付けただけでは二重瞼を形成することができないユーザーにおいて、二重瞼を形成することができる、それだけの弾性的伸縮性を有しているということができる。すなわち、本件発明に係る二重瞼形成用テープは、それだけの弾性的伸縮性を有し、その寄与によって二重瞼を形成しているのである。・・・(後略)」 (6)口頭審理調書の「被請求人」欄4及び5 「4 伸縮性のあるテープでのみ二重ができる人がいる。乙第1号証、乙 第2号証、乙第2号証の2及び乙第7号証の二人目参照。 5 乙第1号証の写真においてテープと交差する細かなしわができてい ることは伸縮性が二重のひだの形成に寄与していることの一つの証で ある。」 第5.当審の判断 1.本件発明 本件発明1ないし本件発明11は、明細書及び図面の記載からみて、上記第2のとおりと認める。 2.理由1(特許法第36条第4項)について (1)請求人は、本件発明1等の「合成樹脂」がどのようなものであり、これをどのようにして作るのか不明であり、また、「延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」がどのようなものか明らかでない旨主張する(上記第3.3.(1))。 これに関し、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」のうち、両当事者間で、特に「延伸」の解釈に争いがあり、請求人は「延伸」の具体的内容が明らかでないから、その結果、発明を容易に実施することができない等主張する。 しかしながら、請求人の主張は、要すれば、当業者が過度の試行錯誤をすることなしに、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」を選定することができるか否かであって、その点が実施可能要件(特許法第36条第4項)として重要であるところ、かかる合成樹脂として3M社の♯1522の基材を用いて、被請求人は実際に実施している(上記第4.2.(2))。 そして、本件特許発明の実施品に使用している該3M社の♯1522は出願時においてカタログにも掲載されている汎用的なものである点については、両当事者間で争いがない(口頭審理調書の「当事者双方 3」)。そして、カタログに掲載されている以上、誰でも当該♯1522を入手し得ることは明らかであって、また、当該♯1522はよく知られたものということができる。 そうしてみると、当業者が「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」という条件を満たす合成樹脂を選定するにあたっては、3M社の♯1522というカタログにも掲載される汎用的なものが該当する合成樹脂として実在し、容易に入手可能であるから、当業者は過度の試行錯誤を行うことなしに、汎用的な合成樹脂から選択して実施し得るものと、解するのが相当である。 請求人は、本件特許発明が3M社の♯1522を用いて実施されている点に関し、材料名、密度、重合方法などについては依然として不明である旨主張する(上記第3.3.(3))。しかしながら、汎用的な合成樹脂を用いて本件特許発明を実施するにあたり、合成樹脂の材料名、密度、重合方法が明らかである必要は必ずしもないから、請求人の主張は採用し得ない。 (2)小括 よって、理由1によっては、本件発明1ないし本件発明11を無効にすることはできない。 3.理由2(第29条第2項)について (1)甲各号証の記載内容 請求人が提出した証拠のうち、甲第2号証ないし甲第7号証、甲第9号証、甲第11号証ないし甲第20号証及び甲第24号証には、以下の発明または事項が記載されている。 (1-1)甲第2号証 (1-1-1)甲第2号証に記載された事項 ア.実用新案登録請求の範囲の1 「1 表面を光散乱性にした透明性プラスチツクシートと透明なプラスチツクシートで構成され、前記プラスチツクシートの何れか一方の裏面に粘着剤層を設けると共に他方の表面に剥離層を設け、前記一方のプラスチツクシートの粘着剤層に他方のプラスチツクシートの剥離層を貼り合わせた粘着シートまたはテープ。」 イ.第2ページ第1行?第8行 「従来表面にマツト加工等して光散乱性にした薄いプラスチツクシートの裏面に粘着剤層を設け、これを剥離性台紙等に貼り合わせた粘着シート上に所望の形状例えば、上瞼の曲線に応当して三日月形状の切抜線を刻設し、刻設された所望の形状以外の不要のプラスチツクシートを剥ぎ取り若しくはそのままにして、瞼整形用貼着片として市販されているものがある」 ウ.第3ページ第3行?第15行 「以下実施例について説明すると、透明なプラスチツクを加工等して所要の光散乱性な表面(2)を有する透明性プラスチツクシート(1)を形成し、該プラスチツクシートの裏面に粘着剤層(3)を設け、この粘着剤層付プラスチツクシート(4)は表面に剥離層(7)を有する透明なプラスチツクシート(6)で形成された台紙(5)に貼着して台紙付粘着シート(8)を形成している。 上記透明性プラスチツクシート(1)若しくは透明なプラスチツクシート(6)は酢酸繊維素系プラスチツク、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、弗素樹脂、珪素樹脂、ポリアミド、ポリエステルその他の合成樹脂で形成されている。」 エ.第4ページ第2行?第7行 「上記の透明性プラスチツクシート表面の光散乱性はサンドブラスト法、エンボス法、化学的侵蝕法等によつて梨地や艶消し面を形成する謂ゆるマツト加工法のほか、印刷等によるコーテング法等で形成できる。」 オ.第5ページ第17行?末行 「これらを酢酸繊維素製透明プラスチツクシートの表面側にシリコーンの剥離層(塗布量約2g/m^(2))を有する厚さ100μの透明な台紙に貼り、粘着剤の異なる3種の台紙付粘着シートを形成し、」 カ.第6ページ第3行?第10行 「上記の粘着シートは二重瞼にするために瞼に貼着する左右対称の整形用粘着シート片(9)(第4?5図)、注射針等の傷口の止血その他皮膚に貼着する医療用粘着シート片(9)(第6図)、脱毛用粘着シート片、書籍補修用粘着シート片その他の貼着してあることが判明し難いようにしたい部分に用いる各種の粘着シート片の切抜き用として特に有効に使用でき、」 キ.第4図 整形用粘着シート片(9)が左右対称の湾曲した形状をしていることが看て取れる。 (1-1-2)甲第2号証記載の発明 摘記事項イ.及び第4図に示された形状から、「二重瞼形成用粘着シート片(9)」の形状を画定する「シート(1)」は、細いシート(1)ということができる。 また、摘記事項カ.の「整形用粘着シート片(9)」は、「二重瞼にするために瞳に貼着する」ものであるから、「二重瞼形成用粘着シート片(9)」ということができる。 そして、上記摘記事項ア.ないしキ.(特にア.、ウ.及びカ.)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本件発明1に照らして整理すると、甲第2号証には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。 「合成樹脂により形成した細いシート(1)に、 粘着剤層(3)を設けることにより構成した、 二重瞼形成用粘着シート片(9)。」 なお、上記甲2発明の上記認定については、両当事者間で争いはない(口頭審理調書の「当事者双方 1」)。 (1-2)甲第3号証 甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.第2欄末行?第3欄第11行 「上記の両側縁部の粘着剤層2aには適宜巾の剥離紙4が貼着されている。・・・(中略)・・・露出粘着剤層に剥離紙を貼着しているから、・・・(中略)・・・・指先に粘着剤が付着して取扱いが困難になつたり、汚れたりせず」 イ.第3欄第15行?第20行 「5はミシン目のような切離し容易な切目線で、該切目線5は・・・(中略)・・・支持体および剥離紙に貫通して設けられ、」 摘記事項ア.等から甲第3号証には、 粘着テープにおいて、両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けること、が記載されていると認められる(以下「甲3事項の1」という。)。 また、摘記事項イ.等から甲第3号証には、 粘着テープを所定方向に細片状に切断すること、が記載されていると認められる(以下「甲3事項の2」という。)。 (1-3)甲第4号証 甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.段落【0015】 「【0015】まず、図1(A)に示す医療用テープは、その両端にドライエッジ部3(粘着剤がない部分)があり、めくれやすく、又、指でつまみ易くなっている。・・・(後略)」 イ.段落【0019】 「段落【0019】図3は、この考案の医療用テープの使用前の保管状態を示す平面図であり、テープ基材が適当な分量のテープ片を並列して形成することのできる平面的な大きさを有し、このテープ基材に適当な分量のテープ片6に切り離すための複数のミシン目7を入れ、各テープ片6がその長辺をミシン目7により他のテープ片6とつながれて医療用テープを構成している。使用時にはミシン目7に沿って1枚1枚テープ片6を切り離して使用する。・・・(後略)」 摘記事項ア.等から甲第4号証には、 粘着テープにおいて、両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けること、が記載されていると認められる(以下「甲4事項の1」という。)。 また、摘記事項イ.等から甲第4号証には、 粘着テープを所定方向に細片状に切断すること、が記載されていると認められる(以下「甲4事項の2」という。)。 (1-4)甲第5号証 甲第5号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 支持体の片面に粘着剤層を形成してなる矩形片状粘着シートが、粘着剤層を被覆保護するセパレータ上に複数枚綴られてなる医療用粘着シートであって、上記セパレータの片端部には把持部として端部にセパレータを残した状態で各矩形片状粘着シートを分離するための切割線が形成されていることを特徴とする医療用粘着シート。」 イ.段落【0017】 「【0017】本発明の医療用粘着シートは・・(中略)・・・図2および図3から明らかなように、上記セパレータ3の片端部(図2および図3の右部)には把持部31として端部にセパレータを残した状態で各矩形片状粘着シートを分離するための切割線4、41が形成されている。なお、使用する際に把持部31にセパレータを残して各矩形片状粘着シートを1枚ずつ剥離したときの断面図は、図6に示した通りである。」 ウ.段落【0018】 「【0018】本発明において矩形片状粘着シートを構成する支持体は、・・・(中略)・・・支持体を構成する材料としては、具体的にポリエチレンやポリプロピレン、・・・(中略)・・・などの各種熱可塑性プラスチックの一種もしくは二種以上からなる単層フィルムや積層フィルム、・・・(中略)・・・もしくは上記熱可塑性プラスチックからなるフィルムとの積層フィルムなどを用いることができる。これらの支持体の厚みは、通常、10?200μm程度とする。」 エ.段落【0023】?段落【0025】 「【0023】このようにして得られた粘着シートを所定幅(即ち、矩形片状粘着シートの長さ)に裁断したのち、セパレータ3側から長尺方向(長手方法)に切割線4を形成する。この切割線4はセパレータ3のみを切断する所謂、ハーフカットである。この切割線4を形成することによって、把持部31の大きさ(長さ)が決定する。切割線4の形成位置を図3を用いて説明すると、端部(図3中右端)から全体幅の50%以下、好ましくは5?30%、さらに好ましくは10?25%程度となるように形成する(図3では約20%である)。実寸では矩形片状粘着シートの幅と同等もしくはそれよりやや長めとすることが好ましい。 【0024】次いで、切割線4を形成した長尺の医療用粘着シートをセパレータ3上で各矩形片状粘着シートに分割するためにシーリング工程に供する。シーリング工程では支持体1側からシーリング刃を用いてセパレータ3のみを切断しないようにハーフカットして矩形片状粘着シートを作製する。この時、先の工程にて切割線4によって形成した把持部31の部分は、ハーフカットではなくフルカットしてセパレータ3まで切断する(図3における切割線41参照)。この工程での切断後の構造は図4および図5から理解できるであろう。 【0025】以上のようにして本発明の医療用粘着シートを作製することができるが、上記記載において切割線4および41の形成、矩形片状粘着シートを作製するための切断(ハーフカット)は、ミシン目や破線のような不連続切断であっも(当審注:「あっても」の誤記)連続切れ目のような連続切断線であってもよい(なお、各図は連続切断線である)。」 オ.段落【0028】 「【0028】本発明の医療用粘着シートを使用するには、セパレータ3上に載置されている矩形片状粘着シートのうちの1枚の把持部31を手指で掴み、矩形片状粘着シートをセパレータ3から剥離する。この時の状態は図6に示すとおりである。」 摘記事項エ.に「切割線4および41の形成、切断(ハーフカット)は、ミシン目や破線のような不連続切断であっても・・・よい」とあることから、切割線41は、破線状の切割線41ということができる。 そして摘記事項ア.ないしオ.を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すれば、甲第5号証には、 合成樹脂により形成した矩形片状支持体に、その片面に粘着剤層を形成してなる医療用粘着テープであって、 上記支持体の片面に、端部に把持部31を残すための破線状の切割線41を形成したセパレータ3を貼付した医療用粘着テープ、 が記載されていると認められる(以下「甲5事項」という。)。 (1-5)甲第6号証 甲第6号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.段落【0031】?【0032】 「【0031】 【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態を説明する。本発明の第1の実施の形態での絆創膏1を図1に示した。この絆創膏1は、一面に粘着剤3が塗布されたテープ状基材2と、このテープ状基材2の一端部にその粘着剤3を覆って貼着された被覆シート4により形成される把持部5とからなることを特徴とするこの把持部5の被覆シート4は、粘着剤3の粘着力により安定的に固定されている。この把持部5を把持して操作することによって、粘着剤3に触れることなく使用操作することができる。 【0032】また、本発明の第2の実施の形態での絆創膏6を図2に示した。この絆創膏6は、一面に粘着剤3が塗布されたテープ状基材2と、このテープ状基材2にその粘着剤3を覆って貼着された離型性被覆シート7a、7bとからなり、この離型性被覆シートの長手方向の一端部が切断されて把持部9として形成されてなる・・・(後略)」 イ.段落【0040】 「【0040】次いで、この積層シート21は、レシプロ方式で駆動する切断刃31と受台部33との間に送り出される。この切断刃31の刃部32の一側端部には突出刃32aが形成されている。従って、図9に示す態様で、積層シート21は、この突出刃32aにより全体カットされ把持部15が形成される。また、刃部32の他の部分では、基材シート17をハーフカットする。このハーフカットにより、基材シート17はテープ状基材2としてカットされる。」 摘記事項ア.から甲第6号証には、 粘着テープにおいて、両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けること、が記載されていると認められる(以下「甲6事項の1」という。)。 また、摘記事項イ.から甲第6号証には、 粘着テープを所定方向に細片状に切断すること、が記載されていると認められる(以下「甲6事項の2」という。)。 (1-6)甲第7号証 甲第7号証には、粘着性のシート4にあらかじめ切れ目10を設けてテープ片として列設させることが記載されている。 したがって甲第7号証には、 粘着テープを所定方向に細片状に切断すること、が記載されていると認められる(以下「甲7事項」という。)。 (1-7)甲第9号証 甲第9号証は、被請求人が本件特許発明の実施品と主張する「MEZAIK」販売促進用のDVDであって、二人の被験者が「MEZAIK」を着用する様子が撮影されている。 (1-8)甲第11号証及び甲第16号証 甲第11号証は、「MEZAIK」を延伸させ、そのままの状態で瞼に着用した様子を撮影した写真であり、甲第16号証はその動画のDVDである。二重瞼が形成される様子が示されている。 (1-9)甲第12号証及び甲第17号証 甲第12号証は、「MEZAIK」をいったん延伸し、その後張力を解放した状態で瞼に着用した様子を撮影した写真であり、甲第17号証はその動画のDVDである。二重瞼が形成される様子が示されている。 (1-10)甲第13号証及び甲第18号証 甲第13号証は、請求人の製造に係る「ABメジカルファイバー」を延伸させ、そのままの状態で瞼に着用した様子を撮影した写真であり、甲第18号証はその動画のDVDである。二重瞼が形成される様子が示されている。 (1-11)甲第14号証及び甲第19号証 甲第14号証は、「ABメジカルファイバー」をいったん延伸し、その後張力を解放した状態で瞼に着用した様子を撮影した写真であり、甲第19号証はその動画のDVDである。二重瞼が形成される様子が示されている。 (1-12)甲第15号証及び甲第20号証 甲第15号証は、伸縮性のない80mmの両面テープを瞼に着用した様子を撮影した写真であり、甲第20号証はその動画のDVDである。二重瞼が形成される様子が示されている。 (1-13)甲第24号証 甲第24号証は、非伸縮性のユニチカ製ポリエステルフィルムS-38よりなる幅0.4mmのテープ(伸縮不可糸)を瞼に着用した様子を撮影した写真である。二重瞼が形成される様子が示されている。 (2)本件発明1 ア. 対比 上記(1-1-2)で指摘したように、甲2発明は、 「合成樹脂により形成した細いシート(1)に、 粘着剤層(3)を設けることにより構成した、 二重瞼形成用粘着シート片(9)。」というものであるところ、本件発明1と甲2発明とを対比すると以下のとおりである。 甲2発明の「シート(1)」が本件発明1の「テープ状部材」に相当することは、技術常識に照らして明らかであり、以下同様に、「粘着剤層(3)を設ける」は「粘着剤を塗着する」に、「二重瞼形成用粘着シート片(9)」は「二重瞼形成用テープ」にそれぞれ相当することも明らかである。 したがって、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致しているということができる。 <一致点> 「合成樹脂により形成した細いテープ状部材に、 粘着剤を塗着することにより構成した、 二重瞼形成用テープ」 そして、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で相違する。 <相違点1> 「合成樹脂」について、本件発明1においては、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」と特定しているのに対し、甲2発明はその点が不明である点。 なお、上記一致点及び相違点1についても、両当事者間で争いはない(口頭審理調書の「当事者双方 2」)。 イ.相違点についての判断 イ-1.「伸縮性」の技術的意義について 二重瞼を作るためのテープに関し、請求人は、「6 粘着性さえあれば伸縮性がないテープでも必ず二重はできる。」、「7 同一人で、伸縮性がないテープでは二重ができずに、伸縮性があるテープでは二重ができることはあり得ない。」とし(上記第3.3.(7))、「伸縮性」に技術的意義はないから設計事項であり、仮に技術的意義があるとしても公知の技術を選択したに過ぎないから容易であると主張する。一方、被請求人は「4 伸縮性のあるテープでのみ二重ができる人がいる。」、「5 乙第1号証の写真においてテープと交差する細かなしわができていることは伸縮性が二重のひだの形成に寄与していることの一つの証である」から技術的意義があると主張する(上記第4.2.(6))。 このようにテープにより二重瞼が形成されるメカニズムについて両当事者間に争いがあるが、「二重が形成されやすい人と形成されにくい人がいる」ことは、両当事者間で争いがない(口頭審理調書の「当事者双方 7」)ことから、着用する被験者ごとにテープによって二重瞼が形成される程度は異なるものと認められる。 当事者の提出した証拠方法等により、この点をさらに検討する。 (ア)甲第12号証及び甲第17号証は、本件特許発明の実施品である「MEZAIK」をいったん延伸し、その後張力を解放した状態でも、二重瞼が形成されることを示している、と認められる。 (イ)甲第15号証及び甲第20号証には、伸縮性のない両面テープでも、二重瞼が形成されることを示している、と認められる。 上記(ア)及び(イ)より、請求人の主張するように、粘着性のあるテープであれば、伸縮性がなくともそれを強く押し付けることより、どの被験者も二重瞼を形成できる蓋然性は高いといえる。 しかしながら、粘着テープの「押付力」のみにより二重瞼が形成できることをもって、テープの「伸縮性」が二重瞼の形成に寄与しないといえるわけではない。というのも、上記のように、着用する被験者ごとにテープによって二重瞼が形成される程度は異なるから、「伸縮性」のあるテープを使用することにより強くテープを押し付けることなく二重瞼ができる被験者も存在する可能性を排除できないからである。 上記(ア)及び(イ)の請求人提出の甲第12号証及び甲15号証等と、被請求人の提出した乙2号証等では、被験者は同一でなく、また押付力等の条件が同一であるかは不明であるから、これらの証拠方法から、「伸縮性」のあるテープを使用することにより強くテープを押し付けることなく二重瞼ができることを否定し得ない。 さらに、人間の目及び瞼が湾曲しているという構造を考えれば、円弧と弦の関係のように、テープに「伸縮性」があれば、粘着剤により伸びた状態で肌に貼り付き、これが収縮するときに肌にくい込んで二重瞼ができる(例えば乙第1号証の写真の状態)と考える方がむしろ物理常識的に自然である。 そうしてみると、二重瞼形成への寄与は両当事者に争いがあるところではあるが、粘着性テープの「押付力」、「伸縮性」のいずれによるかと択一的に割り切れるものではなく、「押付力」、「伸縮性」のいずれによっても形成される可能性があり、さらに重畳的にも作用する、程度問題であると解するのが相当である。そして、伸縮性のあるテープを使用することにより強くテープを押し付けることなく二重瞼ができる被験者も存在するものと考えられる(この考えは上記請求人の主張6及び7と両立する)。したがって、被請求人の主張する「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」テープが二重瞼形成に寄与する効果は肯定でき、「伸縮性」に二重瞼の形成に寄与するいう技術的意義があることは明らかであるから、これを否定する請求人の主張は理由がない。 さらに、本件発明1のかかる効果の有無が、本件発明1と甲2発明との相違点1の想到容易性を、直接左右するわけでもない。 イ-2.甲2発明からの想到容易性について 次に、上記(1-1-1)イ.及びキ.で指摘したように、甲第2号証には甲2発明の実施形態として、湾曲形状(三日月形状)とした二重瞼形成用テープが記載されている一方で、その他の二重瞼形成用テープとしての実施形態は記載されていない。そして、湾曲形状(三日月形状)の形態として記載されている以上、伸ばせば湾曲形状(三日月形状)は損なわれてしまうから、これを本件発明1のように「延伸」させて使用することは想定されていないはずであるし、そのような使用形態を把握できるものでもない。 さらに、上記上記(1-1-1)エ.で指摘したように、甲第2号証には甲2発明の実施形態として、テープ状部材たるシート(1)がマット法等によって光散乱性を付与された表面を有するものが記載されている。このようなマット法等によって凹凸が付与されるものは「延伸」されることには適さないと考えるのが妥当である。 したがってこのような実施形態を包含する甲2発明を「延伸」させて使用することは、予定されていないというべきであり、甲2発明の「合成樹脂」を「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」ものとすることが、当業者が容易に想到し得たもの、とすることはできない。 請求人は、本件発明1の「合成樹脂」が当業者において明確なものであって実施可能要件を充足しているとの前提に立てば、「延伸可能でその延伸後も弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は既知のものであるから、本件発明1は甲2発明において、公知材料の中から最適の材料の選択をしたものに他ならない旨主張する(上記第3.3.(4))。 しかしながら、「延伸可能でその延伸後も弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」が既知であるとしても、上記したように、そもそも、甲2発明の合成樹脂を「延伸可能でその延伸後も弾性的な伸縮性を有する」ものとすることが、想到困難なのであるから、請求人が主張するような実施可能要件を充足すれば進歩性を否定されることとはならない。 そうしてみると、上記相違点1に係る本件発明1の特定事項を、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。 ウ.小括 したがって、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明1を無効とすることはできない。 (3)本件発明2 ア.対比 本件発明2は、本件発明1の二重瞼形成用テープにおいて、さらに「粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている」という限定を付すものである。 そこで、本件発明2と甲2発明とを対比すると、上記(2)ア.の一致点、相違点1を有し、さらに、以下の点で相違する。 <相違点2>本件発明2の粘着剤は、「テープ状部材の両面または片面に塗着されて」ものであるのに対し、甲2発明は、そのような特定がされていない点。 イ.相違点についての判断 (ア)相違点1について 相違点1については、上記(2)における検討と同様に、甲2発明に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 以下、同様な相違点については、判断が同様である旨の記載を省略する。 (イ)相違点2について 甲2発明においても、テープ状部材(細いシート)に粘着剤層を塗着している以上、テープ状部材の少なくとも片面に粘着剤を塗着しているものと認められる。 したがって、相違点2は実質的な差異ではない。 ウ.小括 したがって、相違点1を想到容易とすることはできないから、結局、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明2を無効とすることはできない。 なお、本件発明2及び6に関し、「請求項2及び請求項6で限定した点のみによる格別な点はない。」点で、両当事者間に争いはない。(口頭審理調書「被請求人 4」)。 (4)本件発明3 ア.対比 本件発明3は、本件発明1の二重瞼形成用テープにおいて、さらに「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」という限定を付すものである。 そこで、本件発明3と甲2発明とを対比すると、上記(2)ア.の一致点、相違点1を有し、さらに、以下の点で相違する。 <相違点3>本件発明3の二重瞼形成用テープは、「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」ものであるのに対し、甲2発明は、そのようなものではない点。 イ.相違点についての判断 上記(1-2)、(1-3)及び(1-5)で指摘したように、刊行物3事項の1、刊行物4事項の1及び刊行物6事項の1はいずれも、粘着テープにおいて、両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けることであり、このような技術的事項は従来周知といえる(以下「周知技術1」という。)。なお、周知技術1については両当事者間に争いはない(口頭審理調書「被請求人 5」)。 そして、甲2発明にかかる周知技術1を適用して、相違点3に係る本件発明3の特定事項とすることも、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ.小括 したがって、相違点3は想到容易であるものの、相違点1を想到容易とすることはできないから、結局、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明3を無効とすることはできない。 (5)本件発明4 ア.対比 本件発明4は、本件発明1の二重瞼形成用テープにおいて、さらに「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」という限定を付すものである。 そこで、本件発明4と甲2発明とを対比すると、上記(2)ア.の一致点、相違点1を有し、さらに、以下の点で相違する。 <相違点4>本件発明4の二重瞼形成用テープは、「テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した」ものであるのに対し、甲2発明は、そのようなものではない点。 イ.相違点についての判断 上記(1-4)で指摘したように、甲5事項は、「合成樹脂により形成した矩形片状支持体に、その片面に粘着剤層を形成してなる医療用粘着テープであって、上記支持体の片面に、端部に把持部31を残すための破線状の切割線41を形成したセパレータ3を貼付した医療用粘着テープ」というものであるところ、セパレータ3に形成された切割線41は、請求人が主張するように、本件発明4の「引張りによって破断する破断部」に相当するということはできる。 しかしながら、甲5事項のセパレータ3は、本件発明4のような各テープ毎の「剥離シート」というよりは、複数本の粘着テープ全体のいわば担体として機能するものであるから、甲5事項のセパレータ3が本件発明4の「剥離シート」に相当するということはできないし、そもそも予め各テープが単体として分離されている甲2発明に、このような甲5事項を適用することは困難である。 よって、相違点4を想到容易とすることはできない。 ウ.小括 したがって、相違点1及び相違点4を想到容易とすることはできないから、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明4を無効とすることはできない。 (6)本件発明5 ア.判断 本件発明5は、本件発明4の二重瞼形成用糸において、さらに「破断部は、上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成されている」という限定を付すものである。 したがって、本件発明4が想到容易といえない以上、さらに限定を付された本件発明5も想到容易とはいえない。 イ.小括 したがって、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明5を無効とすることはできない。 (7)本件発明6 ア.対比 本件発明6は、本件発明4の二重瞼形成用テープにおいて、さらに「シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである」という限定を付すものである。 そこで、本件発明6と甲2発明とを対比すると、上記(5)ア.の一致点、相違点1及び相違点4を有し、さらに、以下の点で相違する。 <相違点6>本件発明6の二重瞼形成用テープは、「シートはシリコンペーパーまたはシリコン加工を施したフィルムである」ものであるのに対し、甲2発明は、そのような特定がされていない点。 イ.相違点についての判断 上記(1-1-1)オ.で指摘したように、甲第2号証には、本件発明6の「シート」に相当する「台紙」に「シリコーンの剥離層」を設けることが記載されている。したがって、甲2号証には剥離用のシートをシリコーンの剥離層とすることが記載されているから、相違点6は実質的な差異ではない。 ウ.小括 したがって、相違点6は実質的な差異ではないものの、相違点1及び相違点4を想到容易とすることはできないから、結局、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明6を無効とすることはできない。 (8)本件発明7 ア.甲第2号証記載の発明 甲第2号証に記載された発明を、本件発明7に照らして整理すると、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明の7」という。)が記載されていると認められる。 「合成樹脂により形成した任意長のシート(1)の片面に粘着剤層(3)を設ける、二重瞼形成用テープの製造方法。」 イ.対比 上記(2)ア.の対応関係を踏まえ、また、甲2発明の7の「シート(1)」は本件発明7の「シート状部材」に相当するといえるから、本件発明7と甲2発明の7とは、以下の点で一致しているということができる。 <一致点> 「合成樹脂により形成した任意長のシート状部材の片面に粘着剤を塗着する、二重瞼形成用テープの製造方法」 そして、本件発明7と甲2発明の7とは、以下の点で相違する。 <相違点7の1> 「合成樹脂」について、本件発明7においては、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」と特定しているのに対し、甲2発明の7はその点が不明である点。 <相違点7の2> 本件発明7が、シート状部材の幅方向両端に粘着性のない把持部を形成しているのに対し、甲2発明の7は、そのようなものではない点。 <相違点7の3> 本件発明7が、シート状部材を幅方向に細片状に切断するのに対し、甲2発明の7はそのようなものではない点。 ウ.相違点についての判断 (ア)相違点7の1 相違点7の1については、実質的に上記(2)ア.の相違点1と同様であるから、同様の理由により想到容易とすることはできない。 (イ)相違点7の2 相違点7の2については、実質的に上記(4)ア.の相違点3と同様であるから、同様の理由により想到容易といえる。 (ウ)相違点7の3 上記(1-2)、(1-3)、(1-5)及び(1-6)で指摘したように、刊行物3事項の2、刊行物4事項の2、刊行物6事項の2及び刊行物7事項はいずれも、シート状部材を所定方向に細片状に切断することであり、このような技術的事項は従来周知といえる(以下「周知技術2」という。)。 そして、甲2発明の7にかかる周知技術2を適用し、さらに所定方向として幅方向を選択して、相違点7の3に係る本件発明7の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 エ.小括 したがって、相違点7の2及び7の3は想到容易であるものの、相違点7の1を想到容易とすることはできないから、結局、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明7を無効とすることはできない。 (9)本件発明8 ア.甲第2号証記載の発明 上記(8)ア.で指摘したように甲第2号証には以下の甲2発明の7が記載されていると認められる。 「合成樹脂により形成した任意長のシート(1)の片面に粘着剤層(3)を設ける、二重瞼形成用テープの製造方法。」 イ.対比 上記(8)イ.と同様に、甲2発明の7の「シート(1)」は本件発明8の「シート状部材」に相当するといえるから、本件発明8と甲2発明の7とは、以下の点で一致しているということができる。 <一致点> 「合成樹脂により形成した任意長のシート状部材の片面に粘着剤を塗着する、二重瞼形成用テープの製造方法」 そして、本件発明8と甲2発明の7とは、以下の点で相違する。 <相違点8の1> 「合成樹脂」について、本件発明8おいては、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」と特定しているのに対し、甲2発明の7はその点が不明である点。 <相違点8の2> 本件発明8が、粘着剤が塗着されたシート状部材の両面または片面に、長手方向略中央に切欠溝を形成した剥離シートを貼付しているのに対し、甲2発明の7は、そのようなものではない点。 <相違点8の3> 本件発明8が、シート状部材を幅方向に細片状に切断するのに対し、甲2発明の7はそのようなものではない点。 ウ.相違点についての判断 (ア)相違点8の1 相違点8の1については、実質的に上記(2)ア.の相違点1と同様であるから、同様の理由により想到容易とすることはできない。 (イ)相違点8の2 相違点8の2については、実質的に上記(5)ア.の相違点4を包含するものであるから、同様の理由により想到容易とすることはできない。 (ウ)相違点8の3 相違点8の3については、実質的に上記(8)イ.の相違点7の3と同様であるから、同様の理由により想到容易といえる。 エ.小括 したがって、相違点8の3は想到容易であるものの、相違点8の1及び8の2を想到容易とすることはできないから、結局、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明8を無効とすることはできない。 (10)本件発明9 ア.甲2発明 上記(1-1-2)で指摘したように、甲2発明は、 「合成樹脂により形成した細いシート(1)に、 粘着剤層(3)を設けることにより構成した、 二重瞼形成用粘着シート片(9)。」というものである。 イ.対比 上記(2)ア.で指摘したように、甲2発明の「粘着剤層(3)を設ける」は本件発明9の「粘着剤を塗着する」に相当する。また、甲2発明の「細いシート(1)」と本件発明9の「糸状部材」とは、(粘着剤が塗着される)基材である限りにおいて共通する。さらに、甲2発明の「二重瞼形成用粘着シート片(9)」と本件発明9の「二重瞼形成用糸」とは、二重瞼形成用品である限りにおいて共通する。 したがって、本件発明9と甲2発明とは、以下の点で一致しているということができる。 <一致点> 「合成樹脂により形成した基材に粘着剤を塗着することにより構成した、 二重瞼形成用品。」 そして、本件発明9と甲2発明とは、以下の点で相違する。 <相違点9の1> 「合成樹脂」について、本件発明9においては、「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」と特定しているのに対し、甲2発明はその点が不明である点。 <相違点9の2> 基材として、本件発明9が「糸状部材」を用いているのに対し、甲2発明は、「細いシート」を用いている点。 <相違点9の3> 二重瞼形成用品として、本件発明9が二重瞼形成用糸であるのに対し、甲2発明は二重瞼形成用粘着シート片である点。 ウ.相違点についての判断 (ア)相違点9の1 相違点9の1については、実質的に上記(2)ア.の相違点1と同様であるから、同様の理由により想到容易とすることはできない。 (イ)相違点9の2 甲2発明の「細いシート」と本件発明9の「糸状部材」とは、請求人が主張するような重複する概念で実質的に同一である、ということはできない。しかしながら、甲2発明の「細いシート」は細長い部材であるから、これを糸状部材とすることは、格別困難ではない。 (ウ)相違点9の3 上記(イ)と同様の理由により、甲2発明の「二重瞼形成用粘着シート片」を二重瞼形成用糸とすることは、格別困難ではない。 エ.小括 したがって、相違点9の2及び9の3は想到容易であるものの、相違点9の1を想到容易とすることはできないから、結局、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明9を無効とすることはできない。 (11)本件発明10 ア.対比 本件発明10は、本件発明9の二重瞼形成用糸において、さらに「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」という限定を付すものである。 そこで、本件発明10と甲2発明とを対比すると、上記(10)イ.の一致点、相違点9の1ないし9の3を有し、さらに、以下の点で相違する。 <相違点10>本件発明10の二重瞼形成用テープは、「両端に指先で把持するための表面に粘着性のない把持部を設けた」ものであるのに対し、甲2発明は、そのようなものではない点。 イ.相違点についての判断 相違点10は実質的に相違点3と同様であるから、同様の理由により想到容易といえる。 ウ.小括 したがって、相違点10は想到容易であるものの、本件発明9と同様に相違点9の1を想到容易とすることはできないから、結局、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明10を無効とすることはできない。 (12)本件発明11 ア.対比 本件発明11は、本件発明9の二重瞼形成用糸において、さらに「糸状部材を、引張りによって破断する破断部を略中央に有する剥離カバーで覆った」という限定を付すものである。 そこで、本件発明11と甲2発明とを対比すると、上記(10)イ.の一致点、相違点9の1ないし9の3を有し、さらに、以下の点で相違する。 <相違点11>本件発明11の二重瞼形成用テープは、「糸状部材を、引張りによって破断する破断部を略中央に有する剥離カバーで覆った」ものであるのに対し、甲2発明は、そのようなものではない点。 イ.相違点についての判断 相違点11は実質的に相違点4を包含するものであるから、相違点4と同様の理由により想到容易とすることはできない。 ウ.小括 したがって、相違点9の1及び相違点11を想到容易とすることはできないから、請求人の主張する理由2及び証拠方法によっては、本件発明11を無効とすることはできない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、請求人主張の理由1及び理由2並びに証拠方法によっては、本件請求項1ないし11に係る特許を無効にすることはできない。 審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2012-03-14 |
出願番号 | 特願2001-160951(P2001-160951) |
審決分類 |
P
1
113・
536-
Y
(A61F)
P 1 113・ 121- Y (A61F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今村 玲英子 |
特許庁審判長 |
千葉 成就 |
特許庁審判官 |
長屋 陽二郎 藤井 眞吾 |
登録日 | 2002-02-08 |
登録番号 | 特許第3277180号(P3277180) |
発明の名称 | 二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法 |
代理人 | 富田 克幸 |
代理人 | 有近 康臣 |
代理人 | 夫 世進 |
代理人 | 鶴 由貴 |
代理人 | 蔦田 璋子 |
代理人 | 岩井 泉 |
代理人 | 林 直生樹 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 關 健一 |
代理人 | 中村 哲士 |