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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 H01L 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01L |
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管理番号 | 1269751 |
審判番号 | 無効2011-800196 |
総通号数 | 160 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-04-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-10-05 |
確定日 | 2013-01-04 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2778405号発明「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 事案の概要 本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第2778405号(以下「本件特許」という。平成5年3月12日に特許出願した特願平5-79046号に係るものであって、平成10年5月8日特許権の設定の登録。登録時の請求項の数は4である。)の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。 第2 本件審判の経緯 本件審判の経緯は、次のとおりである。 平成23年10月 5日 審判請求 平成23年12月26日 訂正請求及び審判事件答弁書提出 平成24年 3月 1日 審判事件弁駁書提出 平成24年 5月23日 口頭審理陳述要領書提出(請求人及び被請求人) 平成24年 6月 6日 口頭審理 平成24年 7月 4日 上申書提出(請求人及び被請求人) なお、被請求人が平成23年12月26日に請求した訂正(以下「本件訂正」という。)は、後記第3に詳述するとおり、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1についての訂正、及び同訂正に伴う請求項2の削除、請求項3、4の項番の繰り上げ、及び、発明の詳細な説明の訂正をその内容とするものである。 第3 訂正請求についての当審の判断 1 訂正請求の内容 本件訂正の内容は、次のとおりである(訂正部分に下線を付した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1について、訂正前の 「p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)N(但し、Xは0<X<0.5)クラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」 を、 「p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、膜厚が10オングストローム以上、0.2μm以下であるMgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)N(但し、Xは0<X<0.5)クラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」 のとおり訂正する。 (2)訂正事項2 訂正事項1に伴い、請求項2を削除するとともに、請求項3、4の項番を繰り上げ、請求項2、3とする。 (3)訂正事項3 本件特許明細書の【0007】について、訂正前の 「即ち、p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)N但し、Xは0<X<0.5)クラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とし、」 を、 「即ち、p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、膜厚が10オングストローム以上、0.2μm以下であるMgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)N(但し、Xは0<X<0.5)クラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とし、」 のとおり訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1について 「膜厚が10オングストローム以上、0.2μm以下である」との本訂正事項は、請求項1に係る発明において「Mgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)N(但し、Xは0<X<0.5)クラッド層」を請求項2に係る発明の「膜厚が10オングストローム以上、0.2μm以下である」との事項に限定するものであり、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書には、「またさらに、このMgドープp型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層6の膜厚は、10オングストローム以上、0.2μm以下の範囲にすることが好ましい。」(【0012】)との記載があることに照らせば、本件特許明細書には、「Mgドープp型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層」が「膜厚が10オングストローム以上、0.2μm以下である」ことが記載されていたものと認められる。 したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもないので、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項1に伴う、請求項2の削除及び請求項3、4の項番を繰り上げは、特許請求の範囲について、訂正事項1(請求項1の訂正)との整合を図り記載を明りようにするために行うものと認められ、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、上記(1)における訂正事項1についての検討と同様の理由により、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもないので、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項1に伴う、本件特許明細書の【0007】についての本訂正事項 は、特許請求の範囲についての訂正事項1(請求項1の訂正)との整合を図り、本件特許明細書の記載を明りようにするために行うものと認められ、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないので、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。 3 訂正請求についてのむすび 以上のとおりであるから、本件訂正を認める。 第4 本件訂正発明 上記のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件訂正発明1」などといい、これらを総称して「本件訂正発明」ということがある。)は、次の各請求項に記載したとおりのものである。 「【請求項1】 p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、膜厚が10オングストローム以上、0.2μm以下であるMgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)N(但し、Xは0<X<0.5)クラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。 【請求項2】 前記p型GaNコンタクト層の膜厚は10オングストローム以上、0.5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。 【請求項3】 n型窒化ガリウム系化合物半導体層の上に、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層(但し、Yは0<Y<1)と、n型In_(Z)Ga_(1-Z)N活性層(但し、Zは0<Z<1)とが順に積層されており、そのn型In_(Z)Ga_(1-Z)N活性層の上に、前記p型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」 第5 請求人の主張の概要 1 無効理由 請求人は訂正が認められることを前提として審判請求書で主張する無効理由1ないし4のうち、無効理由1と無効理由3を撤回した(口頭審理調書)。しかるところ、上記のとおり、本件訂正が認められたので、請求人が主張する無効理由は以下のとおり、無効理由2(特許法第29条第2項違反)及び無効理由4(同法第36条違反)であると認められる。 (1) 無効理由2(特許法第29条第2項違反) 本件訂正発明1ないし3は、甲第1号証(特開平4-242985号公報)に記載された発明及び周知技術等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 (2) 無効理由4(特許法第36条違反) 本件訂正発明1及び本件特許明細書【0007】において「電極」の材料が特定されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が特許請求の範囲の請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許請求の範囲の請求項に記載不備があり、平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第36条第4項ないし第6項に規定する要件を満たしておらず、同請求項に係る特許は、旧特許法第36条第4項ないし第6項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。 2 甲号証 請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。 甲第1号証:特開平4-242985号公報 甲第2号証:「P-GaN/N-InGaN/N-GaN Double-Heterostructure Blue-Light-Emitting Diodes」、Shuji NAKAMURA、Jpn.J.Appl.Phys.、Part2 Letters、Vol.32、p.L8-L11(1993) 甲第3号証:「GaNpn接合青色・紫外発光ダイオード」、天野浩、赤崎勇、応用物理、Vol.60、No.2、p.163-166(1991) 甲第4号証:特開平2-229475号公報 甲第5号証:「JUNCTION LASERS WHICH OPERATE CONTINUOUSLY AT ROOM TEMPERATURE」、I.Hayashi、M.B.Panish、P.W.Foy、S.Sumski、APPLYED PHYSICS LETTERS、VOLUME17、NUMBER3、p.109-111、1 AUGUST 1970 甲第6号証:「HETEROSTRUCTURE LASERS」、H.C.Casey,Jr.、M.B.Panish、ACADEMIC PRESS,INC.、p.32-35、PART A、Fundamental Principles、1978 甲第7号証:特開昭51-25086号公報 甲第8号証:特開昭52-28887号公報 甲第9号証:特開昭54-93380号公報 甲第10号証:特開平3-252177号公報 甲第11号証:特開平5-243614号公報 甲第12号証:「薄膜材料工学」、北田正弘、入戸野修、大坂敏明、海文堂出版株式会社、p.135、p.138、1989年11月1日発行 甲第13号証:東京高裁平成12年(行ケ)第53号判決(最高裁ホームページ) (以上、審判請求書に添付して提出。) 甲第14号証:特許第2540791号公報 甲第15号証:「GaN青色LED」、中村修二、平成4年電気学会電子・情報・システム部門第2回大会講演論文集、社団法人電気学会電子・情報・システム部門、p.39-42、平成4年8月 甲第16号証:「半導体レーザ[基礎と応用]」、伊藤良一、中村道治、株式会社培風館、2枚目ないし3枚目、1993年11月30日 甲第17号証:「Al_(x)Ga_(1-x)N/GaNヘテロ接合および多層構造の作成と評価」、伊藤健治、川本武史、天野浩、平松和政、赤崎勇、電子情報通信学会技術研究報告CPM91-1?13[電子部品・材料]、p.41-45、1991年5月23日 甲第18号証:「PREPARATION OF Al_(x)Ga_(1-x)N/GaN HETEROSTRUCTURE BY MOVPE」、Kenji ITO、Kazumasa HIRAMATSU、Hiroshi AMANO、Isamu AKASAKI、Journal of Crystal Growth 104(1990)533-538、North-Holland、1990 甲第19号証:特開平5-291621号公報 (以上、審判事件弁駁書に添付して提出。) 甲第20号証:特開昭64-21991号公報 甲第21号証:特開平5-63291号公報 (以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。) 甲第22号証:特開平5-63236号公報 (以上、上申書に添付して提出。) 第6 被請求人の主張の概要 1 無効理由2に対して 本件訂正発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 無効理由4に対して 本件訂正発明1は電極材料が特定されていないから記載不備であるとする請求人の主張には理由がない。また、本件明細書に電極としては「Au」のみが例示されているとしても、当業者が、「Au」とした場合に本件訂正発明1を実施できるのであるから、本件発明が不明瞭ということはできない。 3 乙号証 被請求人が提出した乙号証は、以下のとおりである。 乙第1号証:特開平5-190898号公報 乙第2号証:「ワイドギャップ半導体光・電子デバイス」、長谷川文夫、吉川明彦、森北出版株式会社、p.382-385、2006年3月31日 乙第3号証:「アドバンスト エレクトロニクス シリーズ 1-21 カテゴリー1:エレクトロニクス材料・物性・デバイス III族窒化物半導体」、赤崎勇、株式会社培風館、p.58-61、1999年12月8日 乙第4号証:「InGaNコンタクト層によるp型GaN電極の接触抵抗低減」、森朋彦、小澤隆弘、大脇健史、多賀康訓、梅崎潤一、永井誠二、山崎史郎、小池正好、1996年(平成8年)秋季第57回応用物理学会学術講演会講演予稿集、No.1、10a-ZF-9、平成8年 乙第5号証:「InGaNコンタクト層を用いたp-GaNに対する接触抵抗の温度特性」、熊倉一英、牧本俊樹、小林直樹、2002年(平成14年)春季第49回応用物理学会関係連合講演会講演予稿集、No.1、28p-ZM-2、平成14年 乙第6号証:「アドバンスト エレクトロニクス シリーズ 1-1 カテゴリー1:エレクトロニクス材料・物性・デバイス III-V族窒化物半導体」、赤崎勇、株式会社培風館、p.30-31、1994年5月20日 (以上、審判事件答弁書に添付して提出。) 第7 無効理由2についての当審の判断 請求人が主張する無効理由2(本件訂正発明が、特許法第29条第2項の規定に該当するか否か)につき検討する。 1 甲号証の記載 (1)本願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平4-242985号公報)には、以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 ・・・ 【請求項4】禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x’)Ga_(1-x’))_(y’)In_(1-y’)N:0≦x’≦1,0≦y’≦1,但しx’=y’=1 は含まない)から成る層を、相互に禁制帯幅及び混晶組成が同一又は異なり、前記層に対して禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N:0≦x≦1,0≦y≦1,x≠x’及び/又は y≠y’)から成るp型導電性を示す層とn型導電性を示す層との2つの層で、両側から挟んだ構造の接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード。」 イ 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、可視単波長、特に、青色領域から紫色領域まで、及び紫外光領域で発光可能な半導体レーザダイオードに関する。 【0002】本発明の半導体レーザダイオードは、本発明者らにより初めて明らかにされた電子線照射処理による((Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N:0≦x≦1,0≦y≦1)層のp型化技術を基盤として、新たに開発さた技術を加えて、初めて、((Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N:0≦x≦1,0≦y≦1)半導体レーザダイオードの製作が可能となったものである。」 ウ 「【0035】二つのヘテロ接合を形成する場合、禁制帯幅の比較的小さいn型の結晶の両側に各々禁制帯幅の大きいn型及びp型の結晶を接合し禁制帯幅の小さいn型の結晶を挟む構造とする。 【0036】多数のヘテロ接合を形成する場合、n型の比較的禁制帯幅の大きい薄膜結晶と比較的禁制帯幅の小さい薄膜結晶を複数接合し、その両側にそれぞれ更に禁制帯幅の大きいn型及びp型の結晶を接合し、多数のヘテロ接合を挟む。 【0037】(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N 系単結晶の禁制帯幅付近での光の屈折率は禁制帯幅が小さい程大きいため、他の(Al_(x)Ga_(1-x)y)In_(1-y)As系単結晶や(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)P 系単結晶による半導体レーザダイオードと同様、禁制帯幅の大きい結晶で挟むヘテロ構造は光の閉じ込めにも効果がある。」 エ 「【0038】ヘテロ接合を利用する場合も、同一組成の結晶によるpn接合の場合と同様に、オーム性電極組成を容易にするため電極と接触する部分付近のキャリア濃度は高濃度にしても良い。 【0039】n型結晶のキャリア濃度はドナー不純物のドーピング濃度により、またp型結晶のキャリア濃度はアクセプタ不純物のドーピング濃度及び電子線照射処理条件により制御する。又、特にオーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用に更に接合してもよい。」 オ 「【0041】(1)サファイア基板の場合図1は、サファイア基板を用いた半導体レーザダイオードの構造を示した断面図である。図1において、(0001)面を結晶成長面とするサファイア基板1を有機洗浄の後、結晶成長装置の結晶成長部に設置する。成長炉を真空排気の後、水素を供給し1200℃程度まで昇温する。これによりサファイア基板1の表面に付着していた炭化水素系ガスがある程度取り除かれる。 【0042】次に、サファイア基板1の温度を600℃程度まで降温し、トリメチルアルミニウム(TMA)及びアンモニア(NH_(3))を供給して、サファイア基板1上に50nm程度の膜厚を持つAlN層2を形成する。次に、TMAの供給のみを止め、基板温度を1040℃まで上げ、TMA,トリメチルガリウム(TMG)及びシラン(SiH_(4))を供給しSiドープn型GaAlN層3(n層)を成長する。 【0043】一旦、ウェハを成長炉から取り出し、GaAlN層3の表面の一部をSiO_(2)でマスクした後、再び成長炉に戻して真空排気して水素及びNH_(3)を供給し1040℃まで昇温する。次に、TMGを供給して、SiO_(2)でマスクされていない部分に厚さ0.5μmのGaN層4を成長させる。次に、TMA及びビスシクロペンタディエニルマクネシウム(Cp_(2)Mg)を更に供給してドープGaAlN層5(p層)を0.5μm成長する。 【0044】次に、マスクとして使用したSiO_(2)を弗酸系エッチャントにより除去する。次に、ドープGaAlN層5(p層)上にSiO_(2)層7を堆積した後、縦1mm、横50μmの短冊状に窓7Aを開け、真空チャンバに移して、ドープGaAlN層5(p層)に電子線照射処理を行う。典型的な電子線照射処理条件を表に示す。 ┌─────────┬──────────┐ │電子線加速電圧 │15KV │ ├─────────┼──────────┤ │エミッション電流 │120μA以上 │ ├─────────┼──────────┤ │電子線スポット径 │60μmφ │ ├─────────┼──────────┤ │試料温度 │297K │ └─────────┴──────────┘ 【0045】次に、ドープGaAlN層5(p層)の窓8の部分と、Siドープn型GaAlN層3(n層)に、それぞれ、金属電極を形成する。結晶成長は以上である。上記の構造は、特許請求の範囲請求項4に記載の発明に対応する。」 カ 「【0049】(3)6H-SiC基板の場合6H-SiC基板上に作成したレーザダイオードを図3に示す。低抵抗n型6H-SiCの(0001)面基板16を有機洗浄の後、王水系エッチャントによりエッチングの後、結晶成長部に設置する。成長炉を真空排気の後、水素を供給し、1200℃まで昇温する。次に、成長炉に水素を供給し基板温度を1040℃にして、TMG,SiH_(4)及びNH_(3)を供給してn型GaN緩衝層17を0.5?1μm程度成長する。次に、TMAを加え、n型GaN緩衝層17の上にn型GaAlN層18(n層)を成長する。 【0050】次に、n型GaAlN層18の上に、前記のSi基板を用いたレーザダイオードと同一構造に、同一ガスを用いて、同一成長条件で、それぞれ、GaN層19を 0.5μm、MgドープGaAlN層20(p層)を0.5μmの厚さに形成した。次に、MgドープGaAlN層20上にSiO2層22を堆積した後、縦1mm、横50μmの短冊状に窓22Aを開け、真空チャンバに移して、MgドープGaAlN層20(p層)に電子線を照射した。電子線の照射条件は前実施例と同様である。 【0051】その後、SiO_(2)層22側からMgドープGaAlN層20(p層)に対する電極21Aを形成し、他方、基板16の裏面にn型GaAlN層18(n層)に対する電極21Bを形成した。」 ここで、図1は次のものである。 (2)同じく、甲第2号証(「P-GaN/N-InGaN/N-GaN Double-Heterostructure Blue-Light-Emitting Diodes」、Shuji NAKAMURA、Jpn.J.Appl.Phys.、Part2 Letters、Vol.32(1993))には、以下の記載がある。 ア 「A wide-band-gap semiconductor, (In,Ga,Al)N, a III-V compound system, was proposed by Matsuoka et al. Utilizing this system, a band-gap energy from 2 to 6.2eV can be chosen. For high-performance optical devices, a double heterostructure (DH) is indispensable. This material enables DH construction.」(L8頁左欄第24行ないし第29行) (訳文) 「ワイドバンドギャップのIII-V化合物である(In,Ga,Al)N半導体が、松岡らにより提案された。この化合物では、2-6.2eVのバンドギャップエネルギを選ぶことができる。高機能発光素子のためには、ダブルヘテロ構造(DH)が不可欠である。この材料によればDH構造ができる。」 イ 「Then, the substrate temperaturewas lowered to 510℃ to grow the GaN buffer layer.・・・Next, the substrate temperatur was elevated to 1020℃ to grow the GaN films.・・・After GaN growth, the temperatur was decreased to 800℃,and the Si-doped InGaN film was grown for 7 minitues.・・・After the Si-doped InGaN growth, the temperatur was increased to 1020℃ to grow Mg-doped p-type GaN film.・・・After the growth, low-energy electron-beam irradiation(LEEBI) treatment was performed to obtain a highly p-type GaN layer ・・・. Next,an Au contact was evaporated onto the p-type GaN layer・・・. The structure of an InGaN/GaN/GaN DH LED is shown in Fig.1.」(L8頁右欄第29行ないしL9頁左欄第29行) (訳文) 「510℃に下げて、GaNバッファ層を成長する。・・・次に、1020℃に上げて、GaN薄膜を成長する。・・・800度に下げて、SiドープInGaN薄膜を7分間成長する。・・・基板温度を1020度に上げて、Mgドープp型GaN薄膜を成長する。・・・成長後、より高いp型GaN層を得るために、低エネルギ電子線照射処理(LEEBI)を行う。・・・次に、p型GaN層の上にAuコンタクトを蒸着する。・・・InGaN/GaN DH LEDの構造を示している。」 (3)同じく、甲第3号証(「GaNpn接合青色・紫外発光ダイオード」、天野浩、赤崎勇、応用物理、Vol.60、No.2(1991))には、以下の記載がある。 ア 「・・・発光強度の温度変化からMgアクセプターの活性化エネルギーを求めると155?165meVとなる。この値はZnのイオン化エネルギーである210meVと比較すると小さく,Znに比べMgがアクセプターとしてイオン化しやすいことを示している。・・・」(第164頁右欄下から第3行ないし第165頁左欄第2行) (4)同じく、甲第4号証(特開平2-229475号公報)には、以下の記載がある。 ア 「・・・また、P形電極のオーミック抵抗を下げるために、P形クラッド層と電極との間に低抵抗になり易いバンドギャップの狭いInGaAlN層のP形層をキャップ層として一層入れても良い。以上述べてきた素子構造の他に、他の素子構造であっても基仮とその上に成長した結晶の格子定数を一致させるという本発明の基本原理は、極めて有効であることは言うまでもないことである。・・・」(第6頁右上欄下から第6行ないし左下欄第4行) イ 「【図面の簡単な説明】 ・・・第13図はIII族元素(Al、Ga、In)窒化物の(001)面上の格子定数とバンドギャップエネルギとの関係を示す。」(第6頁右下欄下から第7行ないし下から第4行) ここで、図13は次のものである。 (5)同じく、甲第5号証(「JUNCTION LASERS WHICH OPERATE CONTINUOUSLY AT ROOM TEMPERATURE」、I.Hayashi、M.B.Panish、P.W.Foy、S.Sumski、APPLYED PHYSICS LETTERS、VOLUME17、NUMBER3、1 AUGUST 1970)には、以下の記載がある。 ア 「Double-heterostructure GaAs-Al_(x)Ga_(1-x)As injection lasers which operate continuously at heat-sink temperature as high as 311°K have been fabricared by liquid-phase epitaxy.」(第109頁要約欄) (訳文) 「311°Kという高いヒートシンク温度で連続動作するダブルヘテロ構造注入レ-ザGaAs-Al_(x)Ga_(1-x)Asうを液相エピタキシーで作製した。」 イ 「The diodes were four-layer structures similar to those illustrated in Ref.2 except that an additional layer (layer 4) of GaAs was used to provide a better contact to the p side of the diode than with Al_(x)Ga_(1-x)As. The layers were grown on polished and etched (111) and 100() faces of n-type GaAs in apparatus shown in Fig.1. After cooling rates of 1-3℃/min had been established, the solutions were successively brought into contact with seed. Layer 1 was grown from 840 to 830℃, and layers2,3 and 4 by allowing solutions 2,3, and 4 to remain on the seed for 15 sec each while cooling. The solution compositions and layer thicknesses for a typical run areshown in Table I.」(第109頁右欄第1行ないし第14行) (訳文) 「GaAs-Al_(x)Ga_(1-x)Asよりもダイオードのp側へのコンタクトを改善するために、GaAsをもう1層(層4)使用した点を除いて、このダイオードは参考文献2に図示されているものと類似した4層構造である。この層は、図1に示す装置でn型GaAsの研磨、エッチした(111)と(100)面上に成長した。1?3℃/分の冷却温度を確立した後、溶液を連続的にシードと接触させた。層1は840から830℃で成長させ、層2、3及び4は、溶液2、3及び4を冷却する間、各々15秒間シード上に留まらせて成長させた。典型的な実験例の溶液組成と層厚保を表1に示した。」 ウ 「contacts were vapor plated on the wafer, Cr then Au on the p side, and a Sn-Pt-Sn sandwich on the nside.」(第110頁左欄第24行ないし第26行) (訳文) 「コンタクトは、p側にCrの次にAu、n側にSn-Pt-Snサンドイッチを、ウエハ上に気相で製膜した。」 (6)同じく、甲第6号証(「HETEROSTRUCTURE LASERS」、H.C.Casey,Jr.、M.B.Panish、ACADEMIC PRESS,INC.、p.32-35、PART A、Fundamental Principles、1978)には、以下の記載がある。 ア 「The usual layer configuration of the DH laser is shown in Fig. 2.3-1. Because of the multiple layers of GaAs and Al_(x)Ga_(1-x)As, it is convinient to designate the n- or p-type Al_(x)Ga_(1-x)As layers by N or P and the n_(-) or p-type GaAs layers by n or p. The AlAs mole fraction is designated by x and y. The top p^(+)-GaAs layer facilitates ohmic contact, ・・・. Properly designated DH lasers have values of layer thicknesses d_(1) and d_(3) sufficiently large to prevent the interfaces with the p^(+)-GaAs contact layer or the n^(+) substrate from influencing the optical fields.」(第33頁第7行ないし第34頁第3行) (訳文) 「DHレーザーの通常の層構成を図2.3-1に示す。多層のGaAs及びAl_(x)Ga_(1-x)Asのため、N又はPによってn型又はp型Al_(x)Ga_(1-x)As層を示すこと、また、n又はpによってn型又はp型のGaAs層を示すことが都合がよい。AlAsのモル分率はxとyによって示される。最上のp^(+)-GaAs層はオーミックコンタクトを容易にする、・・・最適に設計されたDHレーザは、p^(+)-GaAsコンタクト層又はn^(+) 基板との界面がオプチカル領域に影響を与えないよう十分に大きい層厚d_(1)及びd_(3)の値を有する。」 (7)同じく、甲第7号証(特開昭51-25086号公報)には、以下の記載がある。 ア 「・・・直接電極を設けるため、従来ダブルヘテロ接合レーザで行われてきたようにオーム接触を良好とするために成長層表面に付加されていたGaAs層を必要としない点があげられる。このGaAs層は、第1図に示した従来例においては、説明の便宜上その記載を省略しているが、第2のGaAlAs層(4)と電極(6a)との接触抵抗を下げるために設けられているものであり、更にこのGaAs層を設けると、このGaAs層を通るリーク電流を阻止するために第2のGaAlAs層(4)はn型とp型の2層に形成されており、複雑な構成となつている。しかるに、この発明により上記のオーミツクコンタクトをとるためのGaAs層は不要となり、従つて、第2のGaAlAs層(4)も1層構造とすることができるため、製造工程が簡単となる。・・・」(第2頁左下欄下から第4行ないし右下欄第12行) (8)同じく、甲第8号証(特開昭52-28887号公報)には、以下の記載がある。 ア 「・・・続いてその上に光及びキヤリアの閉じ込め層となるP型のガリウム・アルミニウム・砒素(Ga_(1-x)Al_(x)As)層7を成長させる。ガリウム・アルミニウム・砒素の基礎層の上にさらにガリウム・アルミニウム・砒素層を成長させる場合、基礎層におけるアルミニウム(Al)を含有量が30[%]を越えていると、・・・。次にガリウム・アルミニウム・砒素層7の上に、P型のガリウム・砒素(GaAs)層8を形成する。この層8はその表面全面に設ける電極9の金属とオーミツクなコンタクトを形成するためのものである。電極9はP型ガリウム・砒素層8全面にコンタクトするので、そのコンタクト抵抗は十分低い。・・・」(第2頁右上欄第8行ないし左下欄第10行) (9)同じく、甲第9号証(特開昭54-93380号公報)には、以下の記載がある。 ア 「(3)多層液層エピタキシヤル成長法を適用してn型GaAlAs結晶からなるクラツド層4、GaAs結晶からなる活性層5、p型GaAlAs結晶からなるクラツド層6、p型GaAs結晶からなる電極コンタクト層7を成長させる。」(第2頁左上欄第1行ないし第5行) (10)同じく、甲第10号証(特開平3-252177号公報)には、以下の記載がある。 ア 「【課題を解決するための手段】 本発明は、N型の窒化ガリウム系化合物半導体(Al_(X)Ga_(1-X)N;X=0を含む)からなるN層と、P型不純物を添加したI型の窒化ガリウム系化合物半導体(Al_(X)Ga_(1-X)N;X=0を含む)からなるI層とを有する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、N層をI層と接合する側から順に、低キャリア濃度N層と高キャリア濃度N^(+)層との二重層構造とし、I層をN層と接合する側から順に、P型不純物が比較的低濃度の低不純物濃度I_(L)層とP型不純物が比較的高濃度の高不純物濃度I_(H)層との二重層構造としたことを特徴とする。」(第2頁左上欄第3行ないし第13行) イ 「又、上記低不純物濃度I_(L)層のP型不純物濃度は1×10^(16)?5×10^(19)/cm^(3)で膜厚は0.01?1μmが望ましい。P型不純物濃度が5×10^(19)/cm^(3)以上となると発光ダイオードの直列抵抗が増大したり立上がり電圧が上昇するので望ましくなく、1×10^(16)/cm^(3)以下となるとN導電型となるので望ましくない。又、膜厚が1μm以上となると発光ダイオードの直列抵抗が増大したり立上がり電圧が上昇するので望ましくなく、膜厚が0.01μm以下となると従来構造と等しくなるので望ましくない。更に、高不純物濃度I_(H)層の不純物濃度は1×10^(16)?5×10^(20)/cm^(3)で膜厚は0.02?0.3μmが望ましい。不純物濃度が5×10^(20)/cm^(3)以上となると結晶性が悪化するので望ましくなく、1×10^(16)/cm^(3)以下となると発光強度が低下するので望ましくない。又、膜厚が0.3μm以上となると高抵抗となるので望ましくなく、膜厚が0.02μm以下となるとI層が破壊されるので望ましくない。」(第2頁右上欄第12行ないし左下欄第9行) ウ 「・・・膜厚0.2μm、GaNから成るZn濃度2×10^(20)/cm^(3)の高不純物濃度I_(H)層6を形成した。・・・」(第3頁左下欄第9行ないし第10行) エ 「・・・高不純物濃度I_(H)層6の電極7を形成した。・・・」(第4頁左上欄第3行ないし第4行) 2 甲第1号証発明 上記1(1)によれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「GaAlN層3に厚さ0.5μmのGaN層4を成長させ、MgドープGaAlN層5(p層)を0.5μm成長し、MgドープGaAlN層5(p層)の窓8の部分と、Siドープn型GaAlN層3(n層)に、それぞれ、金属電極を形成した、禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x’)Ga_(1-x’))_(y’)In_(1-y’)N:0≦x’≦1,0≦y’≦1,但しx’=y’=1 は含まない)から成る層を、相互に禁制帯幅及び混晶組成が同一又は異なり、前記層に対して禁制帯幅の比較的大きい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N:0≦x≦1,0≦y≦1,x≠x’及び/又は y≠y’)から成るp型導電性を示す層とn型導電性を示す層との2つの層で、両側から挟んだ構造の接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード。」 3 本件訂正発明との対比・判断 (1)本件訂正発明1について ア 対比 本件訂正発明1と甲第1号証発明とを対比する。 (ア)甲第1号証発明の「禁制帯幅の比較的小さい窒化ガリウム系化合物半導体((Al_(x’)Ga_(1-x’))_(y’)In_(1-y’)N:0≦x’≦1,0≦y’≦1,但しx’=y’=1 は含まない)から成る層を、p型導電性を示す層とn型導電性を示す層との2つの層で、両側から挟んだ構造の接合を有する窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオード」は、本件訂正発明1における「p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」に相当する。 (イ)甲第1号証発明の「MgドープGaAlN層5」は、本件訂正発明1の「Mgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層」に相当する。 (ウ)甲第1号証発明の「(MgドープGaAlN層5(p層)の窓8の部分に形成された)金属電極」は、本件訂正発明1の「(Mgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層の上に形成された)電極」に相当する。 以上によれば、本件訂正発明1と甲第1号証発明とは、 「p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層の上に、電極が形成された窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」 である点で一致し、以下の(a)ないし(c)の点で相違するものと認められる。 (a) 本件訂正発明1は、p型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として「Mgがドープされたp型GaNコンタクト層」を具備するのに対し、甲第1号証発明は、そのような「Mgがドープされたp型GaNコンタクト層」を備えていない点(以下「相違点1」という。)。 (b) 本件訂正発明1は、p型GaAlNクラッド層のAl比率Xが0<X<0.5であるのに対し、甲第1号証発明は「(Al_(x)Ga_(1-x))_(y)In_(1-y)N:0≦x≦1、0≦y≦1、但し、x≠x’及び/又はy≠y’)」とされている点(以下「相違点2」という。)。 (c) 本件訂正発明1は、p型クラッド層の膜厚が、10オングストローム以上、0.2μm以下であるのに対し、甲第1号証発明は、MgドープGaAlN層が0.5μmの厚さであって、膜厚が異なる点(以下「相違点3」という。)。 イ 判断 (ア)相違点1について a 請求人は、以下のように主張する。 (a) 甲第1号証に係る発明では、コンタクト層について「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」と記載されていて、直接、Mgドープp型GaNコンタクト層とは記載されていない点で相違する可能性があるが、この相違する可能性がある点は、甲第1号証に周知・慣用技術(甲第2?9号証)を適用することにより容易に克服できた程度の僅かな相違にすぎない(審判請求書第33頁第25行ないし末行)。 (b) すなわち、甲第1号証には、Mgドープp型GaNコンタクト層は明らかに開示されており、甲第1号証に記載の「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」は、p型GaAlNクラッド層と電極との間に形成されるp型コンタクト層であって、MgドープGaNを実質的に意味している、あるいは少なくとも強力に示唆しており(審判請求書第34頁第1行ないし第7行)、電極とのオーミックコンタクトを得るために、Mgドープp型GaN層の上に電極を形成することは、例えば甲第2又は3号証のとおり、周知・慣用技術である(審判請求書第35頁第21行ないし第23行)。 (c) さらにヒ化ガリウム系化合物半導体発光素子においては、p型GaAlNクラッド層と電極との間に接合するp型コンタクト層としてGaAsを用いることは、例えば甲第5、6、7、8又は9号証のとおり、周知・慣用技術であり、現実に広く実施されている技術であるとし(審判請求書第35頁末行ないし第36頁第3行)、p型結晶の下層となるAlGaInNクラッド層は、仮に電子線照射処理を適切に実施することができないとしても、アニーリングによりp型化できることが当業者に周知であって(弁駁書第4頁第29行ないし第5頁第1行)、仮に、バンドギャップエネルギーの大小と結晶性の良否との間に明瞭な関連性が認められないとしても、甲第1号証の「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」の材料選択の良否という観点からは、バンドギャップエネルギーの小さい化合物半導体の方が良好であることが当業者に自明であり(弁駁書第5頁第16行ないし第20行)、AlGaNよりもバンドギャップエネルギーが小さい化合物半導体は、GaNとInGaNに限られるわけではなく、InN、InAlN、及びInAlGaNも存在するが、AlGaNよりもバンドギャップエネルギーが小さい化合物半導体が複数存在するからといって、GaNを選択することが何ら困難となるわけではなく(弁駁書第6頁第18行ないし第24行)、コンタクト層については、バンドギャップエネルギーのみならず、下層となるクラッド層との格子整合性が重要であり、かかる格子整合性を考慮すると、被請求人が候補に挙げる組成(GaN、InGaN、InN、InAlN、及びInAlGaN)の中からGaNを選択することは、技術的に当然であり(弁駁書第6頁第25行ないし第29行)、3元混晶・4元混晶は、GaNの結晶中のGa原子の一部をIn原子又はAl原子に置換したものであり、かかる置換により、Ga原子とN原子から形成されているGaN結晶の結晶格子の規則的周期性が乱れることになるから、いずれもGaNより結晶性が劣ることが当業者に自明であり(弁駁書第7頁第17行ないし第20行)、本件発明の出願当時、p型の窒化ガリウム系化合物半導体としては、p型GaNが最も一般的であったから(弁駁書第7頁第21行ないし第26行)、甲1号証の「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶」の材料としてGaNを選択することは、当業者にとって極めて容易であり、技術的にも当然の選択であるし(弁駁書第7頁第27行ないし第29行)、甲第4号証に記載された発明は、基板とその上に成長させる結晶の格子整合に関する発明であり、クラッド層とコンタクト層との格子整合に関する発明ではないから、甲第4号証の発明を甲第1号証に適用することに阻害要因はなく(弁駁書第9頁第13行ないし第16行)、高キャリア濃度を実現するための母材とドーパントの組合せが複数存在するとしても、GaNとMgの組合せを選択することが何ら困難となるわけではない(弁駁書第9頁第29行ないし第10頁第2行)。 b 請求人の上記主張について以下に検討する。 (a)甲第1号証の「オーム性電極形成を容易にするため高キャリア濃度実現が容易な結晶を金属との接触用にさらに接合してもよい」との記載のみによって、「Mgドープp型GaNコンタクト層」を備えると認めることはできない。 (b)また、上記1(2)ア及びイによれば、甲第2号証に記載されたP-GaN/N-InGaN/N-GaNダブルヘテロ構造の青色発光ダイオードは「N-InGaN」発光層を「P-GaN」層と「N-GaN」層で挟むものであり、同ダイオードにおける「Mg-doped p-type GaN film」は、「N-InGaN」発光層のクラッド層に当たるものであって、本件訂正発明1の「(Mgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)N)クラッド層」に相当するものであるから、「クラッド層」上に形成された「Mgドープp型GaNコンタクト層」であるとは認められない。 (c)さらに、上記1(3)アによれば、甲第3号証の「GaNpn接合青色・紫外発光ダイオード」の「Mgアクセプター」を有する「GaN」は、発光層そのものであるから、本件訂正発明1のような、「クラッド層」の上に形成された「Mgドープp型GaNコンタクト層」を設けることを示唆するものとは認められない。 (d)次に、請求人は、甲第4号証の第13図のIII族元素(Al、Ga、In)窒化物の(001)面上の格子定数とバンドギャップエネルギとの関係に基づいてコンタクト層の選択候補を検討すれば、GaNを選択肢として挙げることは当業者であれば容易に想到し得る、と主張するが、そもそも甲第4号証からは、本件訂正発明1のような、「クラッド層」上に「Mgドープp型GaNコンタクト層」を設けることは読み取れず、かかる技術が周知・慣用技術であるとは言えない。 (e)そして、上記1(5)ないし(9)によれば、請求人は、p型GaAlNクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として「p型GaNコンタクト層」を具備することが周知・慣用技術であるというが、甲第5ないし9号証は、ヒ化ガリウム系化合物半導体発光素子において、p型GaAlNクラッド層と電極との間に接合するp型コンタクト層としてGaAsを用いることが周知・慣用技術であることを示すにとどまり、p型GaAlNクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として「p型GaNコンタクト層」を具備することが周知・慣用技術であることを示すものとは認められない。 (f)以上の検討に照らすと、上記各甲号証に記載された内容から、p型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層の上に、電極が形成されるべき層として「Mgがドープされたp型GaNコンタクト層」を具備することが、本件特許の出願時において周知・慣用技術であると認めることはできない。 c したがって、甲第2?9号証をもって、甲第1号証発明において、相違点1に係る本件訂正発明1の構成を採用することにつき、当業者が容易になし得たということはできない。また、本件各証拠を通じてみても、甲第1号証発明において、相違点1に係る本件訂正発明1の構成を採用することにつき、当業者が容易になし得たと認めるに足りる根拠を見出すことはできない。 (イ)相違点2及び3について a 請求人は、以下のように主張する。 (a) 相違点2について、p型クラッド層6のAl含有率と、GaNからなるコンタクト層との格子整合性、及びInGaNからなる活性層5との格子整合性の観点から予測の範囲内であり(審判請求書第40頁末行ないし第41頁第2行)、Alの割合xを0.5未満とすることが格別の意義ないし困難性を有するものということはできず、この点は単なる設計的事項にすぎず(審判請求書第41頁第8行ないし第10行)、窒化ガリウム系化合物半導体は、その名称が示すように2元混晶のGaNが基本であり、GaNの結晶格子中のGa原子をAl原子で置換してAlGaNが得られるのであり、Al組成比xを0<x<0.5の範囲とすることは何ら特別の限定ではなく、余程特別の理由がない限り、Al組成比xを0.5以上とすることなどなく(弁駁書第15頁第8行ないし第12行)、甲第17号証及び甲第18号証は、Al_(x)Ga_(1-x)N/GaNのヘテロ接合に関し、Al_(x)Ga_(1-x)Nの組成及び膜厚を変えてクラックの発生頻度等を検討した刊行物であるが、記載された全ての実施例において、Al_(x)Ga_(1-x)NのAl組成比xは、0.5未満であるから、p型Al_(x)Ga_(1-x)Nクラッド層のAl組成比xを0<x<0.5とすることは、当業者にとって日常的な設計事項に過ぎず、本件発明1の進歩性を基礎づけるものではない(弁駁書第15頁第19行ないし第21行)。 (b) また、相違点3について、甲第1号証には、p型GaAlNクラッド層を膜厚0.5μmに成長した旨の記載があるが、この膜厚0.5μmは、「100Å?0.2μm」とは相違しているが、大きな範囲で特定された「10Å?0.2μm」は、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子におけるp型GaAlN層の膜厚として、周知の常識的な範囲にすぎず(審判請求書第42頁第3行ないし第8行)、甲第1号証に例示されたp型GaAlNクラッド層の膜厚0.5μmに代えて、周知の膜厚範囲ないし甲第10号証に開示されたp型GaAlN層の膜厚0.01?1μm及び0.02?0.3μmを適用し、本件発明1に係る発明に至るくらいのことは、単なる設計事項にすぎず、当業者であれば容易であり(審判請求書第42頁第25行ないし第29行)、本件発明1のp型AlGaNクラッド層の膜厚に係る構成のうち「10Å以上」は、甲第1号証にAlGaN層の膜厚を0.5μmとする旨記載があることから、甲第1号証に開示されていることが明らかであり、また、本件発明1のp型AlGaNクラッド層の膜厚に係る構成のうち「0.2μm以下」は、結晶にクラックが入ることを防止する作用効果を狙ったものであり、クラッド層としての機能とは無関係であって(弁駁書第16頁第7行ないし第12行)、AlGaNクラッド層とGaNコンタクト層を接合する場合、AlGaNクラッド層にクラックが入ることを防止するためにAlGaN層の膜厚を0.2μm以下とすることは、当業者にとって単なる設計事項であることが明らかであり、本件発明1の進歩性を基礎づけるものではない(弁駁書第18頁下から第4行ないし末行)。 b 請求人の上記主張について以下に検討する。 (a) 上記(ア)のとおり、そもそも、甲第1号証発明において、相違点1に係る本件訂正発明1の構成である「Mgドープp型GaNコンタクト層」を採用することにつき、当業者が容易になし得たことということはできない以上、甲第1号証発明において、相違点2及び3に係る本件訂正発明1の構成であるp型GaAlNクラッド層のAl比率及び膜厚を採用することが当業者にとって単なる設計事項であるかにかかわらず、本件訂正発明1が、甲第1号証発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲第1号証発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件訂正発明2及び3について 前記第4のとおり、本件訂正発明2及び3は、本件訂正発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件訂正発明1が、甲第1号証発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件訂正発明2及び3が、当業者が容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正発明1ないし3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効とすることはできない。 第8 無効理由4(特許法第36条違反)についての当審の判断 1 本件特許明細書(以下、本件訂正後のものをいう。)には、以下の記載がある。 (1) 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】p-n接合の半導体発光素子は、ホモ構造よりもダブルへテロ構造の方が発光出力が大きく、またレーザー素子は少なくともへテロ構造でなければ実現できないことは知られている。しかしながら、ダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を実現した場合、用いられる窒化ガリウム系化合物半導体の種類、組成比等の要因により、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性が著しく異なってくるので発光出力に大きな差が現れる。極端な場合には全く発光を示さない素子ができてしまうのが現実である。しかも、実際に電極を設けて素子構造とした場合、窒化ガリウム系化合物半導体のp型結晶と、そのp型結晶に形成する電極とがオーミック接触していないため、定められた順方向電流に対し、順方向電圧(Vf)が高くなり、発光効率が低下するという問題がある。このため、未だ窒化ガリウム系化合物半導体発光素子では、ヘテロ構造の発光ダイオードは製品化されておらず、レーザー素子に至っては発振さえしていないのが実状である。 【0006】従って、本発明の第1の目的は、p型結晶とオーミック接触が得られる窒化ガリウム系化合物半導体の構造を提供することによりVfを低下させ、発光効率を向上させることにある。また、第2の目的はその窒化ガリウム系化合物半導体を用いて、新規なダブルヘテロ構造の発光素子の構造を提供することにより、発光素子の発光出力を向上させることにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】我々は、特定のp型窒化ガリウム系化合物半導体の上に積層したp型窒化ガリウムに電極を形成することにより、電極とp型窒化ガリウム層とのオーミック接触が得られ、発光効率が向上することを新たに見いだした。さらにそのp型窒化ガリウム系化合物半導体層を用いた発光素子を特定のダブルヘテロ構造とし、ダブルヘテロ構造を構成する窒化ガリウム系化合物半導体の種類を限定することにより、最も結晶性に優れた窒化ガリウム系化合物半導体を積層した素子が得られ、発光出力が向上することを見いだした。即ち、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)N(但し、Xは0<X<0.5)クラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とし、さらに特定のダブルヘテロ構造の発光素子は、n型窒化ガリウム系化合物半導体層の上に、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層(但し、Yは0<Y<1)と、n型In_(Z)Ga_(1-Z)N活性層(但し、Zは0<Z<1)と、前記p型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層と、前記p型GaNコンタクト層とが積層されていることを特徴とする。 【0008】本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の構造を示す断面図を図1に示す。下から順に、基板1の上に、バッファ層2と、n型窒化ガリウム系化合物半導体層3と、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)N(0<Y<1)クラッド層4と、n型In_(Z)Ga_(1-Z)N(0<Z<1)活性層5と、Mgドープp型Ga_(1-x)Al_(x)N(0<X<0.5)クラッド層6と、Mgドープp型GaNコンタクト層7とが順に積層された構造を有する。なお、8はMgドープp型GaNコンタクト層7に設けられた電極、9はn型窒化ガリウム系化合物半導体層3に設けられた電極である。基板1にはサファイア、ZnO、SiC、Si等が使用される。バッファ層2にはAlN、GaN、GaAlN等が使用される。」 (2) 「【0015】 【作用】p-n接合を用いたダブルへテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgドープp型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層6の上に、Mgドープp型GaNコンタクト層7を形成し、そのGaNコンタクト層の上に電極8を形成することによりオーミック接触が得られ、発光効率が向上する。詳しい原理は不明であるが、我々がそれらの層のホールキャリア濃度を測定した結果、p型Ga_(1-x)Al_(x)N層はおよそ10^(16)/cm^(3)であり、p型GaN層はおよそ10^(17)/cm^(3)と一桁高かった。つまり、ホールキャリア濃度の大きい層の方に電極を形成する方がオーミック接触が得られやすいのではないかと推察する。また、p型GaAlNクラッド層6の上に組成の異なるp型GaNコンタクト層7を形成することにより、p型GaN層にミスフィットによる格子欠陥が生じやすくなり、結晶性が低下する。ミスフィットを少なくするには、p型GaAlNクラッド層6のAl混晶比は少ない方がよい。従って、p型GaNコンタクト層7の結晶性がよく、電極8とオーミックコンタクトが得られる限界値、即ち、X値0.5未満を限定値とした。 【0016】 【実施例】以下有機金属気相成長法により、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を製造する方法を述べる。 【0017】[実施例1]サファイア基板1を反応容器内に配置し、サファイア基板1のクリーニングを行った後、成長温度を510℃にセットし、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニアとTMG(トリメチルガリウム)とを用い、サファイア基板上にGaNバッファ層2を約200オングストロームの膜厚で成長させる。 【0018】バッファ層2成長後、TMGのみ止めて、温度を1030℃まで上昇させる。1030℃になったら、同じく原料ガスにTMGとアンモニアガス、ドーパントガスにシランガスを用い、Siをドープしたn型GaN層3を4μm成長させる。 【0019】n型GaN層3成長後、原料ガス、ドーパントガスを止め、温度を800℃にして、原料ガスとしてTMGとTMA(トリメチルアルミニウム)とアンモニア、ドーパントガスとしてシランガスを用い、n型クラッド層4としてSiドープGa_(0.86)Al_(0.14)N層を0.15μm成長させる。 【0020】次に、原料ガス、ドーパントガスを止め、温度を800℃にして、キャリアガスを窒素に切り替え、原料ガスとしてTMGとTMI(トリメチルインジウム)とアンモニア、ドーパントガスとしてシランガスを用い、n型活性層5としてSiドープIn_(0.01)Ga_(0.99)N層を100オングストローム成長させる。 【0021】次に、原料ガス、ドーパントガスを止め、再び温度を1020℃まで上昇させ、原料ガスとしてTMGと、TMAと、アンモニア、ドーパントガスとしてCp_(2)Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)とを用い、p型クラッド層6として、Mgをドープしたp型Ga_(0.86)Al_(0.1)4N層を0.15μm成長させる。 【0022】次に、TMAのみ止めて、p型コンタクト層7として、Mgドープp型GaN層を0.4μm成長させる。 【0023】成長後、基板を反応容器から取り出し、アニーリング装置にて窒素雰囲気中、700℃で20分間アニーリングを行い、p型Ga_(0.86)Al_(0.14)N層、p型GaNコンタクト層をさらに低抵抗化する。 【0024】以上のようにして得られたウエハーを図1に示すようにエッチングして、n型GaN層3を露出させ、p型GaNコンタクト層7にはAuよりなる電極8、n型GaN層3にはAlよりなる電極9を設け、500℃で再度アニーリングを行い電極と窒化ガリウム系化合物半導体とをなじませる。後は、常法に従い500μm角のチップにカットした後、発光ダイオードとしたところ、順方向電流20mAにおいて、Vfは5V、発光波長370nmで発光出力は700μW、発光効率0.7%と優れた特性を示した。」 (3) 「【0032】 【発明の効果】以上説明したように、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、p型GaAlNクラッド層の上に、コンタクト層としてp型GaN層を具備しているため、Vfが低く発光効率に優れた素子とすることができる。しかもp型GaAlN層のAl混晶比を限定することにより結晶性に優れた前記p型クラッド層、前記p型コンタクト層を得ることができ、Vf低下に大きく寄与している。」 2 判断 (1)上記1によれば、本件訂正発明は、p型結晶とオーミック接触が得られる窒化ガリウム系化合物半導体の構造を提供することによりVfを低下させ、発光効率を向上させることを第1の目的とするものであって、その窒化ガリウム系化合物半導体を用いて、新規なダブルヘテロ構造の発光素子の構造を提供することにより、発光素子の発光出力を向上させることを第2の目的とするものである。 (2)また、本件訂正発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、膜厚が10オングストローム以上、0.2μm以下であるMgがドープされたp型Ga_(1-X)Al_(X)N(但し、Xは0<X<0.5)クラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備する構成によって、上記目的を達成し、オーミック接触が得られ、Vfが低く発光効率に優れた素子を得るという作用効果を奏するものと認められる。 (3)そして、本件訂正明細書には、具体的にp型GaNコンタクト層にAuよりなる電極8を設けた実施例などが記載されており、本件訂正明細書は、当業者は本件訂正発明を実施できる程度に記載されたものと認められる。 (4)したがって、発明の詳細な説明には、当業者が容易に本件訂正発明を実施することができる程度に、発明の目的、構成及び効果が記載されている。 (5)なお、請求人は、「・・・コンタクト層と電極とのオーミック接触を得るためには、フェルミ準位の観点から、コンタクト層と電極の双方の材料が具体的に特定されなければならない。」と主張するが(審判請求書第49頁下から第4行ないし下から第2行)、上記1によれば、本件訂正発明は、 コンタクト層と電極の双方の材料を特定するとの技術的思想に係るものとは認められない。そして、どのような電極を採用するかは、コンタクト層と電極とのオーミック接触を得るとの観点から適宜選択される設計的事項に過ぎないものというべきであるから、特許請求の範囲において、電極の材料が特定されなければならないものとはいえない。 (6)よって、本件訂正発明ならびに本件特許明細書の記載は、旧特許法第36条第4項ないし第6項の規定に違反しているとはいえない。 3 まとめ したがって、本件訂正発明についての特許は、旧特許法第36条第4項ないし第6項の規定に違反してなされたものではなく、特許法第123条第1項第4号に該当しないから、無効とすることはできない。 第9 むすび 以上のとおり、請求人が主張する無効理由によっては、本件訂正発明1ないし3についての特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、膜厚が10オングストローム以上、0.2μm以下であるMgがドープされたp型Ga_(1-x)Al_(x)N(但し、Xは0<X<0.5)クラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。 【請求項2】前記p型GaNコンタクト層の膜厚は10オングストローム以上、0.5μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。 【請求項3】n型窒化ガリウム系化合物半導体層の上に、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)N(但し、Yは0<Y<1)と、n型In_(z)Ga_(1-z)N活性層(但し、Zは0<Z<1)とが順に積層されており、そのn型In_(z)Ga_(1-z)N活性層の上に、前記p型Ga_(1-x)Al_(x)Nクラッド層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は窒化ガリウム系化合物半導体を用いた発光素子に係り、特に順方向電圧(Vf)が低く、さらに発光出力が高い窒化ガリウム系化合物半導体発光素子に関する。 【0002】 【従来の技術】GaN、GaAlN、InGaN、InAlGaN等の窒化ガリウム系化合物半導体は直接遷移を有し、バンドギャップが1.95eV?6eVまで変化するため、発光ダイオード、レーザダイオード等、発光素子の材料として有望視されている。現在、この材料を用いた発光素子には、n型窒化ガリウム系化合物半導体の上に、p型ドーパントをドープした高抵抗なi型の窒化ガリウム系化合物半導体を積層したいわゆるMIS構造の青色発光ダイオードが知られている。 【0003】MIS構造の発光素子は、一般に発光出力が非常に低く、実用化するには未だ不十分であった。高抵抗なi型を低抵抗なp型とし、発光出力を向上させたp-n接合の発光素子を実現するための技術として、例えば特開平3-218325号公報において、i型窒化ガリウム系化合物半導体層に電子線照射する技術が開示されている。また、我々は、特願平3-357046号でi型窒化ガリウム系化合物半導体層を400℃以上でアニーリングすることにより低抵抗なp型とする技術を提案した。 【0004】p-n接合の窒化ガリウム系化合物半導体を利用した発光素子として、例えば特開平4-242985号公報において、ダブルヘテロ構造のレーザー素子が提案されており、また特開平4-209577号公報ではInGaAlNを発光層とするダブルヘテロ構造の発光ダイオードが提案されている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】p-n接合の半導体発光素子は、ホモ構造よりもダブルヘテロ構造の方が発光出力が大きく、またレーザー素子は少なくともヘテロ構造でなければ実現できないことは知られている。しかしながら、ダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を実現した場合、用いられる窒化ガリウム系化合物半導体の種類、組成比等の要因により、窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性が著しく異なってくるので発光出力に大きな差が現れる。極端な場合には全く発光を示さない素子ができてしまうのが現実である。しかも、実際に電極を設けて素子構造とした場合、窒化ガリウム系化合物半導体のp型結晶と、そのp型結晶に形成する電極とがオーミック接触していないため、定められた順方向電流に対し、順方向電圧(Vf)が高くなり、発光効率が低下するという問題がある。このため、未だ窒化ガリウム系化合物半導体発光素子では、ヘテロ構造の発光ダイオードは製品化されておらず、レーザー素子に至っては発振さえしていないのが実状である。 【0006】従って、本発明の第1の目的は、p型結晶とオーミック接触が得られる窒化ガリウム系化合物半導体の構造を提供することによりVfを低下させ、発光効率を向上させることにある。また、第2の目的はその窒化ガリウム系化合物半導体を用いて、新規なダブルヘテロ構造の発光素子の構造を提供することにより、発光素子の発光出力を向上させることにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】我々は、特定のp型窒化ガリウム系化合物半導体の上に積層したp型窒化ガリウムに電極を形成することにより、電極とp型窒化ガリウム層とのオーミック接触が得られ、発光効率が向上することを新たに見いだした。さらにそのp型窒化ガリウム系化合物半導体層を用いた発光素子を特定のダブルヘテロ構造とし、ダブルヘテロ構造を構成する窒化ガリウム系化合物半導体の種類を限定することにより、最も結晶性に優れた窒化ガリウム系化合物半導体を積層した素子が得られ、発光出力が向上することを見いだした。即ち、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、p-n接合を有するダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、膜厚が10オングストローム以上、0.2μm以下であるMgがドープされたp型Ga_(1-X)Al_(X)N(但し、Xは0<X<0.5)クラッド層の上に、電極が形成されるべき層として、Mgがドープされたp型GaNコンタクト層を具備することを特徴とし、さらに特定のダブルヘテロ構造の発光素子は、n型窒化ガリウム系化合物半導体層の上に、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層(但し、Yは0<Y<1)と、n型In_(Z)Ga_(1-Z)N活性層(但し、Zは0<Z<1)と、前記p型Ga_(1-X)Al_(X)Nクラッド層と、前記p型GaNコンタクト層とが積層されていることを特徴とする。 【0008】本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の構造を示す断面図を図1に示す。下から順に、基板1の上に、バッファ層2と、n型窒化ガリウム系化合物半導体層3と、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層4(0<Y<1)と、n型In_(Z)Ga_(1-Z)N(0<Z<1)活性層5と、Mgドープp型Ga_(1-X)Al_(X)N(0<X<0.5)クラッド層6と、Mgドープp型GaNコンタクト層7とが順に積層された構造を有する。なお、8はMgドープp型GaNコンタクト層7に設けられた電極、9はn型窒化ガリウム系化合物半導体層3に設けられた電極である。基板1にはサファイア、ZnO、SiC、Si等が使用される。バッファ層2にはAlN、GaN、GaAlN等が使用される。 【0009】前記、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、n型窒化ガリウム系化合物半導体層3の種類は特に限定するものなく、GaN、GaAlN、InGaN、InAlGaN等、ノンドープ(無添加)の窒化ガリウム系化合物半導体、またはノンドープの窒化ガリウム系化合物半導体に、例えばSi、Ge、Te、Se等のn型ドーパントをドープしてn型特性を示すように成長した層を用いることができる。 【0010】次に、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層4は、その組成をInを含まない三元混晶の窒化ガリウムアルミニウムとする必要がある。なぜなら、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層4に新たにインジウムを含有させると、クラッド層4の結晶性が悪くなり、発光出力が低下するからである。また、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層のY値を0<Y<1の範囲とすることにより、n型クラッド層として作用し好ましいダブルヘテロ構造とすることができる。さらに好ましくは、Y値を0.5以下とすることにより格子欠陥が少なく結晶性のよいn型クラッド層4が得られる。n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層4には、前記したように、ノンドープのGa_(1-Y)Al_(Y)N、またはn型ドーパントをドープしてn型特性を示すように成長したGa_(1-Y)Al_(Y)Nを用いることができる。 【0011】次に、n型In_(Z)Ga_(1-Z)N活性層5は、その組成をAlを含まない三元混晶の窒化インジウムガリウムとする必要がある。なぜなら、活性層は発光層であり、この発光層にAlを含有させると深い準位の発光が現れ、InGaNのバンド間発光を阻害する傾向にあるため、活性層として使用することは好ましくない。n型In_(Z)Ga_(1-Z)N活性層5は、そのZ値を0<Z<1の範囲にすることにより、発光波長を紫色から赤色にまで変換させることができるため、非常に有利である。n型In_(Z)Ga_(1-Z)N活性層は、前記したように、ノンドープのIn_(Z)Ga_(1-Z)N層、またはn型ドーパントをドープしてn型特性を示すように成長したIn_(Z)Ga_(1-Z)層が使用できる。また、発光中心としてMg、Zn、Cd、Be、Ca等のp型ドーパントをドープしてn型特性を示すように成長したIn_(Z)Ga_(1-Z)N層を使用することもできる。さらにn型ドーパント、およびp型ドーパントをドープしてn型特性を示すように成長したIn_(Z)Ga_(1-Z)層も使用できる。これらのドーパントをドープしてn型とすることにより、発光色の色純度をよくし、発光出力を向上させることができる。 【0012】次に、Mgドープp型Ga_(1-X)Al_(X)Nクラッド層6は、n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層4と同じく、その組成をInを含まない三元混晶の窒化ガリウムアルミニウムとする必要がある。なぜなら、前記したようにインジウムを含有させることにより、p型クラッド層6の結晶性が悪くなり、p型特性を示しにくくなるからである。また、p型Ga_(1-X)Al_(X)Nクラッド層6のX値は0<X<0.5の範囲にする必要がある。0より大きくすることにより、p型クラッド層として作用し好ましいダブルヘテロ構造とすることができ、0.5より小さくすることにより格子欠陥が少なく結晶性のよいp型クラッド層6が得られる。逆に0.5以上であると、p型クラッド層6の上に積層するp型GaNコンタクト層7の結晶性が悪くなり、コンタクト層7と電極8とのオーミック接触が得られないため、0.5未満を限定値とした。またさらに、このMgドープp型Ga_(1-X)Al_(X)Nクラッド層6の膜厚は、10オングストローム以上、0.2μm以下の範囲にすることが好ましい。10オングストロームより薄いと、その下に積層するn型In_(Z)Ga_(1-Z)N活性層5と電気的に短絡しやすくなり、クラッド層として作用しにくい。逆に0.2μmよりも厚いと結晶にクラックが入りやすくなり結晶性が悪くなる傾向にある。さらに、このp型Ga_(1-X)Al_(X)Nクラッド層において、重要なことはp型ドーパントをMgとして、このMgによりp型特性を得ていることである。このMgのかわりに他のp型ドーパント、例えばZn、Cd、Be、Ca等のp型ドーパントをドープするとp型特性が得られにくくなり、発光出力が低下する傾向にある。 【0013】次に、Mgドープp型GaNコンタクト層7は、その組成をIn、Alを含まない二元混晶の窒化ガリウムとする必要がある。なぜなら、インジウム、アルミニウムを含有させることにより、電極8とオーミック接触が得られにくくなり、発光効率が低下するからである。特に、そのp型GaNコンタクト層の膜厚は10オングストローム以上、0.5μm以下に調整することが好ましい。10オングストロームよりも薄いと、p型GaAlNクラッド層6と電気的に短絡しやすくなり、コンタクト層として作用しにくい。また、三元混晶のGaAlNクラッド層6の上に、組成の異なる二元混晶のGaNコンタクト層を積層するため、逆にその膜厚を0.5μmよりも厚くすると、結晶間のミスフィットによる格子欠陥がGaNコンタクト層7中に発生しやすく、結晶性が低下する傾向にある。なお、コンタクト層7の膜厚は薄いほどVfを低下させ発光効率を向上させることができる。また、このp型GaNコンタクト層7のp型ドーパントはMgである必要がある。Mgのかわりに他のp型ドーパントをドープするとp型特性が得られにくくなる傾向にあり、またオーミック接触が得られにくい傾向にある。 【0014】また、p型Ga_(1-X)Al_(X)Nクラッド層6、p型GaN層をさらに低抵抗化する手段として、上記した特願平3-357046号に開示する400℃以上のアニーリング処理を行ってもよい。アニーリングを行うとp型クラッド層、およびp型コンタクト層、両方が抵抗化し、発光出力をより向上させることができる。 【0015】 【作用】p-n接合を用いたダブルヘテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgドープp型Ga_(1-X)Al_(X)Nクラッド層6の上に、Mgドープp型GaNコンタクト層7を形成し、そのGaNコンタクト層の上に電極8を形成することによりオーミック接触が得られ、発光効率が向上する。詳しい原理は不明であるが、我々がそれらの層のホールキャリア濃度を測定した結果、p型Ga_(1-X)Al_(X)N層はおよそ10^(16)/cm^(3)であり、p型GaN層はおよそ10^(17)/cm^(3)と一桁高かった。つまり、ホールキャリア濃度の大きい層の方に電極を形成する方がオーミック接触が得られやすいのではないかと推察する。また、p型GaAlNクラッド層6の上に組成の異なるp型GaNコンタクト層7を形成することにより、p型GaN層にミスフィットによる格子欠陥が生じやすくなり、結晶性が低下する。ミスフィットを少なくするには、p型GaAlNクラッド層6のAl混晶比は少ない方がよい。従って、p型GaNコンタクト層7の結晶性がよく、電極8とオーミックコンタクトが得られる限界値、即ち、X値0.5未満を限定値とした。 【0016】 【実施例】以下有機金属気相成長法により、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子を製造する方法を述べる。 【0017】[実施例1]サファイア基板1を反応容器内に配置し、サファイア基板1のクリーニングを行った後、成長温度を510℃にセットし、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニアとTMG(トリメチルガリウム)とを用い、サファイア基板上にGaNバッファ層2を約200オングストロームの膜厚で成長させる。 【0018】バッファ層2成長後、TMGのみ止めて、温度を1030℃まで上昇させる。1030℃になったら、同じく原料ガスにTMGとアンモニアガス、ドーパントガスにシランガスを用い、Siをドープしたn型GaN層3を4μm成長させる。 【0019】n型GaN層3成長後、原料ガス、ドーパントガスを止め、温度を800℃にして、原料ガスとしてTMGとTMA(トリメチルアルミニウム)とアンモニア、ドーパントガスとしてシランガスを用い、n型クラッド層4としてSiドープGa_(0.86)Al_(0.14)N層を0.15μm成長させる。 【0020】次に、原料ガス、ドーパントガスを止め、温度を800℃にして、キャリアガスを窒素に切り替え、原料ガスとしてTMGとTMI(トリメチルインジウム)とアンモニア、ドーパントガスとしてシランガスを用い、n型活性層5としてSiドープIn_(0.01)Ga_(0.99)N層を100オングストローム成長させる。 【0021】次に、原料ガス、ドーパントガスを止め、再び温度を1020℃まで上昇させ、原料ガスとしてTMGと、TMAと、アンモニア、ドーパントガスとしてCp_(2)Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)とを用い、p型クラッド層6として、Mgをドープしたp型Ga_(0.86)Al_(0.14)N層を0.15μm成長させる。 【0022】次に、TMAのみ止めて、p型コンタクト層7として、Mgドープp型GaN層を0.4μm成長させる。 【0023】成長後、基板を反応容器から取り出し、アニーリング装置にて窒素雰囲気中、700℃で20分間アニーリングを行い、p型Ga_(0.86)Al_(0.14)N層、p型GaNコンタクト層をさらに低抵抗化する。 【0024】以上のようにして得られたウエハーを図1に示すようにエッチングして、n型GaN層3を露出させ、p型GaNコンタクト層7にはAuよりなる電極8、n型GaN層3にはAlよりなる電極9を設け、500℃で再度アニーリングを行い電極と窒化ガリウム系化合物半導体とをなじませる。後は、常法に従い500μm角のチップにカットした後、発光ダイオードとしたところ、順方向電流20mAにおいて、Vfは5V、発光波長370nmで発光出力は700μW、発光効率0.7%と優れた特性を示した。 【0025】[実施例2]実施例1において、Mgドープp型GaNコンタクト層の膜厚を0.1μmにする他は実施例1と同様にして発光ダイオードを得たところ、順方向電流20mAにおいて、発光波長、発光出力は同一であったが、Vfが4Vにまで下がり、発光効率が0.88%と向上した。 【0026】[実施例2]実施例1において、p型Mgドープp型GaNコンタクト層の膜厚を0.1μmにする他は実施例1と同様にして発光ダイオードを得たところ、順方向電流20mAにおいて、発光波長、発光出力は同一であったが、Vfが4Vにまで下がり、発光効率が0.88%と向上した。 【0027】[実施例3]実施例1において、TMAの流量を多くして、p型クラッド層6のAl混晶比をGa_(0.55)Al_(0.45)Nとする他は、同様にして発光ダイオードを得たところ、順方向電流20mAにおいて、Vfは6Vとオーミック接触が得られているほぼ限界値を示し、発光波長は同一で、発光出力は400μW、発光効率0.2%であった。 【0028】[実施例4]実施例1において、n型クラッド層4を成長しない他は実施例1と同様にして発光ダイオードを得たところ、順方向電流20mAにおいて、Vfは5Vであったが、発光出力は200μW、発光効率0.2%であった。 【0029】[比較例1]実施例1において、TMAの流量を多くして、p型クラッド層6のAl混晶比をGa_(0.5)Al_(0.5)Nとする他は、同様にして発光ダイオードを得たところ、順方向電流20mAにおいて、Vfは30Vにまで上昇しオーミック接触は得られていないことが確認された。なお、この素子はVfが大きいため、すぐに発光しなくなった。 【0030】[比較例2]実施例1において、p型コンタクト層7を形成せず、p型クラッド層6に直接電極を形成する他は、同様にして発光ダイオードを得たところ、順方向電流20mAにおいて、Vfは30Vにまで上昇し、オーミック接触が得られていないため、比較例1と同様にすぐに発光しなくなった。 【0031】[比較例3]実施例1において、p型クラッド層6を成長する際、原料ガスに新たにTMIを加え、キャリアガスを窒素に切り替え、成長温度を800℃にしてMgドープp型In_(0.01)Al_(0.14)Ga_(0.85)Nクラッド層を成長させる他は、同様にして発光ダイオードを得たところ、順方向電流20mA流すとすぐに発光しなくなった。 【0032】 【発明の効果】以上説明したように、本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、p型GaAlNクラッド層の上に、コンタクト層としてp型GaN層を具備しているため、Vfが低く発光効率に優れた素子とすることができる。しかもp型GaAlN層のAl混晶比を限定することにより結晶性に優れた前記p型クラッド層、前記p型コンタクト層を得ることができ、Vf低下に大きく寄与している。 【0033】さらに、n型窒化ガリウム系化合物半導体層、n型GaAlNクラッド層、n型InGaN層を積層し、前記p型GaAlNクラッド層、前記p型GaNコンタクト層を積層することにより発光出力、発光効率に優れた発光素子を実現でき、るため、未だ実現されていないレーザー素子の構造のヒントとして、その産業上の利用価値は大きい。 【0034】 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の一実施例に係る発光素子の構造を示す模式断面図。 【符号の説明】 1 ・・・・・サファイア基板 2 ・・・・・GaNバッファ層 3 ・・・・・n型窒化ガリウム系化合物半導体層 4 ・・・・・n型Ga_(1-Y)Al_(Y)Nクラッド層 5 ・・・・・n型In_(Z)Ga_(1-Z)N活性層 6 ・・・・・p型Ga_(1-X)Al_(X)Nクラッド層 7 ・・・・・p型GaNコンタクト層 8、9 ・・・電極 【図1】 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2012-08-02 |
結審通知日 | 2012-08-06 |
審決日 | 2012-08-20 |
出願番号 | 特願平5-79046 |
審決分類 |
P
1
113・
537-
YA
(H01L)
P 1 113・ 121- YA (H01L) P 1 113・ 536- YA (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉野 三寛 |
特許庁審判長 |
服部 秀男 |
特許庁審判官 |
吉野 公夫 岡▲崎▼ 輝雄 |
登録日 | 1998-05-08 |
登録番号 | 特許第2778405号(P2778405) |
発明の名称 | 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子 |
代理人 | 門松 慎治 |
代理人 | 田村 啓 |
代理人 | 池上 慶 |
代理人 | 吉村 誠 |
代理人 | 吉澤 敬夫 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 吉澤 敬夫 |
代理人 | 黒田 健二 |
代理人 | 言上 恵一 |
代理人 | 言上 惠一 |
代理人 | 田村 啓 |
代理人 | 鮫島 睦 |