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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1271401
審判番号 不服2012-5656  
総通号数 161 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-05-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-27 
確定日 2013-03-14 
事件の表示 特願2010- 23605「エンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月25日出願公開、特開2011-163135〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成22年2月4日の出願であって、平成23年9月27日付けの拒絶理由通知に対し、平成23年11月30日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年12月16日付けで拒絶査定がなされ、平成24年3月27日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、当審において平成24年8月28日付けで書面による審尋がなされ、平成24年11月2日付けの回答書が提出されたものである。

第2.平成24年3月27日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年3月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成24年3月27日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年11月30日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(ア)を、下記(イ)と補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
吸気弁の閉弁時期を変える可変バルブタイミング機構と、排気エネルギーを利用してシリンダ内に空気を強制的に送り込む過給機とを具備するエンジンであって、前記可変バルブタイミング機構は、高負荷運転時には、前記吸気弁の閉弁時期を吸気下死点よりも早い時期に設定し、低負荷運転時には、前記吸気弁の閉弁時期を高負荷運転時に比べて遅い時期に設定しかつ吸気下死点近傍に設定し、前記可変バルブタイミング機構は、クランク軸に連動して回転するカム軸と、前記カム軸に設けられて、互いにカムプロフィールの異なる第一カム及び第二カムと、前記第一カムに当接されて、前記第一カムの回転に従って揺動する第一スイングアームと、前記第二カムに当接されて、前記第二カムの回転に従って揺動する第二スイングアームと、前記第一スイングアームに連結されて、前記第一スイングアームと前記吸気弁とを連係させるプッシュロッドと、前記第一スイングアームを前記第一カムの回転に従って揺動させる第一の状態と、第二スイングアームとともに前記第二カムの回転に従って揺動させる第二の状態とに切換可能な切換手段とを具備し、前記第一カムのカムプロフィール及び前記第二カムのカムプロフィールに基づいて、前記吸気弁の閉弁時期を設定し、前記第一の状態がエンジンの高負荷運転時であり、該高負荷運転時では、前記第一スイングアームと第二スイングアームとは個別に動作して第二スイングアームの動作にかかわらず第一スイングアームの動作が吸気弁の閉弁時期を決定し、前記第二の状態がエンジンの低負荷運転時であり、該低負荷運転時では、前記第一スイングアームが第二スイングアームと一体的に動作して第二スイングアームの動作が吸気弁の閉弁時期を決定することを特徴とするエンジン。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
吸気弁の閉弁時期を変える可変バルブタイミング機構と、排気エネルギーを利用してシリンダ内に空気を強制的に送り込む過給機とを具備するエンジンであって、前記可変バルブタイミング機構は、高負荷運転時には、前記吸気弁の閉弁時期を吸気下死点よりも早い時期に設定し、低負荷運転時には、前記吸気弁の閉弁時期を高負荷運転時に比べて遅い時期に設定し、かつ、吸気下死点近傍に設定し、前記可変バルブタイミング機構は、クランク軸に連動して回転するカム軸と、前記カム軸に設けられて、互いにカムプロフィールの異なる第一カム及び第二カムと、前記第一カムに当接されて、前記第一カムの回転に従って揺動する第一スイングアームと、前記第二カムに当接されて、前記第二カムの回転に従って揺動する第二スイングアームと、前記第一スイングアームに連結されて、前記第一スイングアームと前記吸気弁とを連係させるプッシュロッドと、前記第一スイングアームを前記第一カムの回転に従って揺動させる第一の状態と、第二スイングアームとともに前記第二カムの回転に従って揺動させる第二の状態とに切換可能な切換手段とを具備し、第一カムのカムプロフィールは、エンジンのピストンの吸気上死点(T)よりも早い時期(S1)に吸気弁の開弁を開始し、該ピストンの吸気上死点(T)において吸気弁のバルブリフトを最大とし、また、該ピストンの吸気下死点(B)よりも早い時期に吸気弁の閉弁を開始し、ピストンの吸気下死点(B)よりも早い時期(S2)に吸気弁が完全に閉弁するように設定し、第二カムのカムプロフィールは、該ピストンの吸気上死点(T)よりも早い時期(S1)に吸気弁の開弁を開始し、該ピストンの吸気上死点(T)において吸気弁のバルブリフトを最大とし、また、該ピストンの吸気下死点(B)近傍で吸気弁の閉弁を開始し、その後(S3)に吸気弁が完全に閉弁するように設定し、前記第一カムのカムプロフィール及び前記第二カムのカムプロフィールに基づいて、前記吸気弁の閉弁時期を設定し、前記第一の状態がエンジンの高負荷運転時であり、該高負荷運転時では、前記第一スイングアームと第二スイングアームとは個別に動作して第二スイングアームの動作にかかわらず第一スイングアームの動作が吸気弁の閉弁時期を決定し、前記第二の状態がエンジンの低負荷運転時であり、該低負荷運転時では、前記第一スイングアームが第二スイングアームと一体的に動作して第二スイングアームの動作が吸気弁の閉弁時期を決定することを特徴とするエンジン。」(なお、下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「第一カムのカムプロフィール」及び「第二カムのカムプロフィール」について、それぞれ「エンジンのピストンの吸気上死点(T)よりも早い時期(S1)に吸気弁の開弁を開始し、該ピストンの吸気上死点(T)において吸気弁のバルブリフトを最大とし、また、該ピストンの吸気下死点(B)よりも早い時期に吸気弁の閉弁を開始し、ピストンの吸気下死点(B)よりも早い時期(S2)に吸気弁が完全に閉弁するように設定」する旨、及び「該ピストンの吸気上死点(T)よりも早い時期(S1)に吸気弁の開弁を開始し、該ピストンの吸気上死点(T)において吸気弁のバルブリフトを最大とし、また、該ピストンの吸気下死点(B)近傍で吸気弁の閉弁を開始し、その後(S3)に吸気弁が完全に閉弁するように設定」する旨を限定するものを含むものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2008-25551号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【請求項1】
インジェクタの軸線と、
該インジェクタに穿設される噴孔の軸線との交点が、
複数存在するインジェクタを有する燃料噴射装置を具備するコモンレール式のディーゼルエンジンにおいて、
吸気弁の閉弁時期を、
エンジンの運転状態に基づいて制御する制御手段を具備し、
該制御手段により、
エンジン回転数や負荷に応じて、
前記吸気弁を、
BDC(ピストンが下死点となる時期)以前の時期に、
閉弁するように制御すること、
を特徴とするディーゼルエンジンのバルブタイミング制御方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(イ)「【0001】
本発明は、コモンレール式の燃料噴射装置を備えるディーゼルエンジンのバルブタイミング制御の技術に関し、より詳しくは、インジェクタの軸線と、該インジェクタのノズルボディに穿設される噴孔の軸線との交点が複数存在する、いわゆる、群噴孔を有するインジェクタを有する燃料噴射装置を備えるコモンレール式ディーゼルエンジンに適したバルブタイミング制御の技術に関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0020】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0021】
請求項1においては、吸気断熱膨張の効果により、シリンダ内の吸気温度を低下させて、燃焼温度を低下させることができる。
また、NOx、スモークおよびTHC等の発生を低減することができる。」(段落【0020】及び【0021】)

(エ)「【0036】
次に、バルブタイミング調整機構の全体構成について、図3を用いて説明をする。
図3に示す如く、バルブタイミング調整機構45は、図示しないエンジンの駆動軸と接続され、該駆動軸の回転によって駆動されるスプロケット30と、該スプロケット30の回転によって駆動されるカムシャフト31と、スプロケット30とカムシャフト31との間に介装され、スプロケット30とカムシャフト31の相対位相を油圧により変更可能とするVTC(Valve Timing Controller)32等により構成している。
【0037】
VTC32は、油圧アクチュエータの一種であり、主にVTCカバー32aと駆動プレート32bにより構成している。
VTCカバー32aの軸心上を前記カムシャフト31が貫通しており、VTCカバー32aをカムシャフト31上に回動自在に支持している。そして、VTCカバー32aには前記スプロケット30を外嵌し、VTCカバー32aとスプロケット30を一体的に構成している。
また、VTCカバー32aには駆動プレート32bを内包しており、VTCカバー32aの軸心を貫通するカムシャフト31に駆動プレート32bを相対回転不能に支持する構成としている。
そして、VTCカバー32aの内周面と駆動プレート32bの外周面が形成する空間を、第一油室33および第二油室34とし、第一油室33および第二油室34に供給する作動油の油圧バランスを調整してVTCカバー32aを往復回動するように構成している。
【0038】
そして、ECU50からの制御信号に応じてOCV(Oil Control Valve)35の弁開度を変化させ、第一油室33および第二油室34に供給する作動油の油圧バランスを調整することにより、スプロケット30とカムシャフト31の相対位相を変更するようにしている。
これにより、カムシャフト31上に固設したカム31aと、吸気弁25の弁頭25cが当接するタイミングを変化させて、吸気弁25の閉弁タイミングを調整するようにしている。尚、本実施例では、排気弁26の開弁および閉弁のタイミングは一定としているが、排気弁26側にもバルブタイミング調整機構45を適用することも可能である。
つまり、バルブタイミング調整機構45は、前記吸気弁の開閉時期(バルブタイミング)を油圧アクチュエータ等により変更可能に構成し、該油圧アクチュエータをECU50と接続して、バルブタイミング調整機構45を構成している。
【0039】
尚、本実施例では、VTCを用いたバルブタイミング調整機構を例として示したが、例えば、吸気弁を開閉するためのロッカーアームと、吸気弁ごとに設けられた負荷に応じた複数のカムと、ロッカーアームを駆動するカムを負荷に応じて切り換える油圧アクチュエータ等により構成するものであってもよく、また、前記カムのカムプロフィールを立体的に構成するものであったり、アクチュエータが電気的に切り換えられる構成であってもよく、本発明を適用するバルブタイミング調整機構の構成を限定するものではない。
以上が、バルブタイミング調整機構の全体構成についての説明である。」(段落【0036】ないし【0039】)

(オ)「【0040】
次に、本発明の一実施例に係る吸気弁の閉弁タイミングについて、図4乃至図5を用いて説明をする。
図4(a)に示す如く、一般的なエンジンにおけるバルブタイミングは、クランクシャフトの位相を基準としてタイミング制御をしており、TDC以前に吸気弁25が「開」となり、BDC以後に吸気弁25が「閉」となるように制御をするのが一般的である。このとき、吸気弁25「開」時と吸気弁25「閉」時の位相差は図4(a)(b)中に示す一定の位相角αを保持している。
一方、図4(b)に示す如く、本発明の一実施例に係るバルブタイミングは、エンジン回転数や負荷に応じて、吸気弁25「開」時と吸気弁25「閉」時の位相角αを保持した状態で、開弁および閉弁のタイミングを早めて、BDC以前に吸気弁25が「閉」となるようにしている。
【0041】
このように、吸気弁25の閉弁タイミングをBDC以前とすることにより、閉弁後においても、ピストンが下死点に至るまでは吸気行程が継続されるため、シリンダ内に吸気された空気が気密状態のまま膨張(断熱膨張)されることにより、シリンダ内の吸気温度が低下するように構成している。
そして、吸気温度を低下させることにより、燃焼時におけるシリンダ内の燃焼温度を低下させて、NOxやスモークを低減するようにしている。」(段落【0040】及び【0041】)

(カ)「【0049】
エアフローメータ51は、シリンダ内に導入される吸気量を検知するセンサである。前記ECU50には、吸気量に対応した吸気弁の閉弁タイミングがマップ情報として予め記憶されており、吸気量を検知した信号をECU50にフィードバックすることにより、ECU50からバルブタイミング調整機構45にマップ情報に基づく制御信号を出力して、吸気弁の閉弁タイミングを制御するようにしている。
あるいは、エアフローメータ51に代わって、過給機回転数センサ52を用い、エンジンの排気量を検知して、排気量に対応した吸気弁の閉弁タイミングをマップ情報として記憶させておくことにより、バルブタイミング調整機構45を制御することも可能である。
【0050】
過給圧センサ53は、過給機による過給圧を検知するセンサである。
一般的に、過給圧が上昇すると吸気温度が上昇するため、過給圧と吸気弁の閉弁タイミングには相関関係があることが判明している。
そこで本発明では、過給圧センサ53により検知した過給圧の信号をECU50にフィードバックし、過給圧の変化に対応させてバルブタイミング調整機構45を制御し、断熱膨張量を調整することにより、吸気温度を可変するように構成している。
【0051】
一方、過給圧が低く、バルブタイミング制御を行うと燃焼温度が過冷却状態となり、燃焼状態の悪化を招くような場合には、ECU50による演算結果から判断し、過給圧の変化に対応させてバルブタイミング制御を中止し、通常の吸気タイミングに戻す、または、閉弁タイミングをBDC側に遅角させる運転に切り換えるように構成している。
また、過給圧だけでなく、吸気温度、燃料温度および過給圧の組合せから総合的にECU50により算出された演算結果からも判断して、燃焼状態の悪化を招くような場合には、バルブタイミング制御を中止し、通常の吸気タイミングに戻す、または、閉弁タイミングをBDC側に遅角させる運転に切り換えるように構成している。」(段落【0049】ないし【0051)】

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(カ)及び図1ないし図7から、引用文献1には次の事項が記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(ア)、(イ)、(エ)及び(カ)並びに図3から、引用文献1には、吸気弁25の閉弁タイミングを変えるバルブタイミング調整機構45と、過給機とを具備するエンジンが記載されていることが分かる。

(ク)上記(1)(ア)、(エ)及び(オ)並びに図3及び図4の記載から、引用文献1に記載されたエンジンにおいて、前記バルブタイミング調整機構45は、VTC(Valve Timing Controller)32等を具備し、過給圧が高い場合には、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、BDC以前に吸気弁25を閉弁するようにし、過給圧が低い場合には、開弁及び閉弁のタイミングをBDC側に遅角させ、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、BDC付近でBDC以降に吸気弁25を閉弁する運転に切り換えるものであることが分かる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)(ア)ないし(カ)及び(2)(キ)ないし(ク)並びに図1ないし図7から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているといえる。

「吸気弁25の閉弁タイミングを変えるバルブタイミング調整機構45と、過給機とを具備するエンジンであって、前記バルブタイミング調整機構45は、VTC(Valve Timing Controller)32等を具備し、過給圧が高い場合には、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、BDC以前に吸気弁25を閉弁するようにし、過給圧が低い場合には、開弁及び閉弁のタイミングをBDC側に遅角させ、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、BDC付近でBDC以降に吸気弁25を閉弁する運転に切り換えるエンジン。」

2.-2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2004-251167号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、弁駆動用のカムをシリンダ側方に配設したOHV型内燃機関において、運転状況に応じて排気弁や吸気弁の開閉時期及び弁リフト量を変更できる内燃機関の可変動弁装置に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0020】
【発明の実施の形態】
[吸排気弁及び弁駆動用カム機構]
図1?図7は、OHV型ツインバルブ式内燃機関に本発明の可変動弁装置を適用した例である。図1は内燃機関を吸気弁部分で切断して示す縦断面略図であり、シリンダ1内に嵌合するピストン2はコンロッド3を介してクランク軸4のクランクピン5に連結している。一対の吸気弁8はシリンダヘッド(仮想線)7に装着され、シリンダヘッド7の上側には吸気弁腕10が配置され、吸気弁腕10の先端部は両吸気弁8の上端部にT字形の弁押え11を介して当接している。弁駆動用のカム機構はシリンダ側方のカム室13内に配置されており、同一のカム軸心O0上に吸気カム21と排気カム22とカム駆動軸20を並列に配置してある。吸気カム21にはスイングアーム式の吸気用カムフォロワー23の先端ローラ24が当接し、吸気用カムフォロワー23の先端部の上面は、吸気用プッシュロッド27を介して吸気弁腕10の他端に連結している。吸気用カムフォロワー23の基端部は水平な支軸15に回動可能に支持されている。
【0021】
カム駆動軸20にはカムギヤ29が結合されており、該カムギヤ29は中間伝達ギヤ30を介してクランク軸4のカム駆動ギヤ31に連動連結している。クランク軸4の回転は中間伝達ギヤ30等により1/2の回転角速度に減速されてカム駆動軸20に伝達される。
【0022】
図2は図1と同じ内燃機関を、排気弁部分で切断して示す縦断面略図であり、一対の排気弁9は前記吸気弁同様にシリンダヘッド7に装着されており、シリンダヘッド7の上側には排気弁腕14が配置され、排気弁腕14の先端部は両排気弁9の上端部にT字形の弁押え12を介して当接している。排気弁腕14の他端部は排気用プッシュロッド28の上端部に連結し、排気用プッシュロッド28は下方に延び、後述する排気用第1カムフォロワー37の先端部上面に連結している。第1カムフォロワー37の先端に設けられた排気用第1ローラ25は、後述する排気カム22の第1カム部32のカム面に当接している。」(段落【0020】ないし【0022】)

(ウ)「【0023】
[2つのカム部を利用した排気弁用可変動弁装置]
図4は可変動弁装置を備えたカム機構の平面略図であり、カム駆動軸20は、一端部がクランクケースカバー等のカバー部材34に軸受を介して回転可能に支持され、他端部はカム室13に突出し、軸受ハウジング16により回転可能に支持されている。カム駆動軸20側から順に吸気カム21と排気カム22が軸方向に並んで配置され、両カム21,22は、それぞれ軸受ハウジング17,17によりカム駆動軸20と同一軸心O0上に回転可能に支持されている。
【0024】
排気カム22はカム形状の異なる排気用第1、第2カム部32,33を一体に備えており、両排気用カム部32,33は軸心方向に並んで配設されている。各カム部32,33には排気用第1、第2カムフォロワー37,38の先端部がそれぞれ排気用第1、第2ローラ25,26を介して当接している。各排気用カムフォロワー37,38はスイングアーム式となっており、基端部が前記吸気用カムフォロワー23と同様に支軸15に揺動可能に支持されている。排気用第1カムフォロワー37の先端部の上面には前述のように排気用プッシュロッド28の下端部が連結し、排気用第2カムフォロワー38の先端部の上面には、付勢ばね85が当接し、該付勢ばね85により、排気用第2カムフォロワー38の先端ローラ26を第2カム部33のカム面に押し付けている。
【0025】
排気用第1カムフォロワー37と第2カムフォロワー38は軸心方向に隣接配置されており、摺動可能な連結ピン78を利用した連結機構により、両排気用カムフォロワー37,38が一体に揺動する連結状態と、両カムフォロワー37,38が個々独立に揺動する切断状態とに、切換自在となっている。
【0026】
排気用第1カムフォロワー37内にはカム軸心O0と平行なピン支持孔(作動油室)77が形成されており、該ピン支持孔77は第2カムフォロワー38側の端面が開口すると共に前記連結ピン78が軸心方向摺動可能に嵌合し、該連結ピン78はピン支持孔77から第2カムフォロワー38側へ突出可能となっている。ピン支持孔(作動油室)77は第1カムフォロワー37内の油路82及び支軸15内の油路83を介して油圧切換弁等を有する油圧装置86に連通しており、油圧制御操作により、ピン支持孔77内へ作動油を圧入する作用と、ピン支持孔77内から作動油を排出する作用とを、切換自在に行なえるようになっている。」(段落【0023】ないし【0026】)

(エ)「【0059】
【発明の別の実施の形態】
(1)第1カム部と第2カム部とのカム形状の組み合せは、前述の実施の形態では、図3及び図8に示すように、排気用第1カム部には通常の排気行程に対応するカム山を形成し、排気用第2カム部には吸気行程初期に排気弁を再啓開させるためのカム山を形成しているが、このような組み合せの他に、たとえば図9の排気弁リフト特性に示すように、排気用第2カム部の形状(二点鎖線の曲線X2)を、排気行程において第1カム部(実線の曲線X1)より大きなリフト量及び排気弁開放期間となるように形成し、両カムフォロワーが一体揺動する連結状態の場合に、第2カム部の弁駆動力のみが作用する構成とすることも可能である。」(段落【0059】)

(オ)「【0060】
(2)2つのカム部よりなる排気弁の可変動弁装置を吸気弁に適用することも可能である。たとえば、図4の排気用可変動弁装置と同様に、吸気カムとして、カム形状(カムプロフィル)の異なる二つの吸気用第1、第2カム部を配置し、各吸気用カム部には互いに隣接配置されたスイングアーム式の吸気用第1,第2カムフォロワーをそれぞれ当接し、連結ピンを利用した連結切離し可能な連結切換機構により、両吸気用第1、第2カムフォロワーを一体揺動する状態と、独立に揺動する状態とに切換自在とする。
【0061】
図10は吸気弁のリフト特性を変更する場合の一例を示しており、たとえば吸気用第1カム部による吸気弁リフト特性(破線の曲線Y1)に対して、吸気用第2カム部による吸気弁リフト特性(一点鎖線の曲線Y2)をカム回転角方向に一定量ずらしてある。
【0062】
かかる構成によると、両吸気用カムフォロワーを切り離して吸気用第1カム部のみが作用している時には、破線の曲線Y1のように吸気弁が作動し、一方、両吸気用カムフォロワーを一体化している時には、吸気用第1カム部と吸気用第2カム部との組み合せとなり、吸気行程前半においては、第2カム部による弁駆動力が作用し、吸気行程後半においては吸気用第1カム部による弁駆動力が作用し、総合的には、吸気弁開時期を早めると共に吸気弁開放期間を長くしている。」(段落【0060】ないし【0062】)

(2)引用文献2記載の事項
上記(1)(ア)ないし(オ)並びに図1ないし図4、図6、図7及び図10から、引用文献2には次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)から、引用文献2には、内燃機関の可変動弁装置が記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(イ)ないし(エ)並びに図1及び図2から、引用文献2に記載された内燃機関の可変動弁装置は、クランク軸4に連動して回転するカム駆動軸20と、前記カム駆動軸20に設けられて、カム形状の異なる排気用第1、第2カム部32、33と、前記排気用第1カム部32に当接されて、前記排気用第1カム部32の回転に従って揺動する排気用第1カムフォロアー37と、前記排気用第2カム部33に当接されて、前記排気用第2カム部33の回転に従って揺動する排気用第2カムフォロアー38と、前記排気用第1カムフォロアー37に連結されて、前記排気用第1カムフォロアー37と排気弁9とを連係させる排気用プッシュロッド28と、前記排気用第1カムフォロアー37を前記排気用第1カム部32の回転に従って揺動させる切断状態と、排気用第2カムフォロアー38とともに前記排気用第2カム部33の回転に従って揺動させる連結状態とに切換可能な油圧切換弁とを具備するものであることが分かる。

(ク)上記(1)(オ)から、引用文献2に記載された内燃機関の可変動弁装置において、上記(2)(キ)の2つのカム部32、33よりなる排気弁を吸気弁に適用することも可能であり、その場合に、可変動弁装置は、クランク軸4に連動して回転するカム駆動軸20と、前記カム駆動軸20に設けられて、カム形状の異なる吸気用第1、第2カム部と、前記吸気用第1カム部に当接されて、前記吸気用第1カム部の回転に従って揺動する吸気用第1カムフォロアーと、前記吸気用第2カム部に当接されて、前記吸気用第2カム部の回転に従って揺動する吸気用第2カムフォロアーと、前記吸気用第1カムフォロアーに連結されて、前記吸気用第1カムフォロアーと吸気弁8とを連係させる排気用プッシュロッド27と、前記吸気用第1カムフォロアーを前記吸気用第1カム部の回転に従って揺動させる切断状態と、吸気用第2カムフォロアーとともに前記吸気用第2カム部の回転に従って揺動させる連結状態とに切換可能な油圧切換弁とを具備するものであることが分かる。

(3)引用文献2記載の技術
上記(1)(ア)ないし(オ)及び(2)(カ)ないし(ク)並びに図1ないし図4、図6、図7及び図10から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「内燃機関の可変動弁装置が、クランク軸4に連動して回転するカム駆動軸20と、前記カム駆動軸20に設けられて、カム形状の異なる吸気用第1、第2カム部と、前記吸気用第1カム部に当接されて、前記吸気用第1カム部の回転に従って揺動する吸気用第1カムフォロアーと、前記吸気用第2カム部に当接されて、前記吸気用第2カム部の回転に従って揺動する吸気用第2カムフォロアーと、前記吸気用第1カムフォロアーに連結されて、前記吸気用第1カムフォロアーと吸気弁8とを連係させる吸気用プッシュロッド27と、前記吸気用第1カムフォロアーを前記吸気用第1カム部の回転に従って揺動させる切断状態と、吸気用第2カムフォロアーとともに前記吸気用第2カム部の回転に従って揺動させる連結状態とに切換可能な油圧切換弁とを具備するという技術。」

2.-3 対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献1記載の発明における「吸気弁25」は、その構成、機能及び技術意義からみて、本願補正発明における「吸気弁」に相当し、以下同様に「閉弁タイミング」は「閉弁時期」に、「バルブタイミング調整機構45」は「可変バルブタイミング機構」に、「過給圧が高い場合」は「高負荷運転時」に、「BDC以前に吸気弁25を閉弁する」は「前記吸気弁の閉弁時期を吸気下死点よりも早い時期に設定」することに、「過給圧が低い場合」は「低負荷運転時」に、「BDC付近でBDC以降に吸気弁25を閉弁する」ことは「前記吸気弁の閉弁時期を高負荷運転時に比べて遅い時期に設定し、かつ、吸気下死点近傍に設定」することに、それぞれ相当する。
また、「過給機」は、「シリンダ内に空気を強制的に送り込む」装置であるところ、「シリンダ内に空気を強制的に送り込む過給機」という限りにおいて、引用文献1記載の発明における「過給機」は、本願補正発明における「排気エネルギーを利用してシリンダ内に空気を強制的に送り込む過給機」に相当する。
さらに、「可変バルブタイミング機構は、動弁機構を具備し、エンジンの高負荷運転時に、エンジンのピストンの吸気上死点よりも早い時期に吸気弁の開弁を開始し、また、該ピストンの吸気下死点よりも早い時期に吸気弁の閉弁を開始し、ピストンの吸気下死点よりも早い時期に吸気弁が完全に閉弁するように設定し、エンジンの低負荷運転時に、ピストンの吸気上死点よりも早い時期に吸気弁の開弁を開始し、また、該ピストンの吸気下死点近傍で吸気弁の閉弁を開始し、その後に吸気弁が完全に閉弁する」という限りにおいて、引用文献1記載の発明において「バルブタイミング調整機構45はVTC(Valve Timing Controller)32等を具備し、過給圧が高い場合には、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、BDC以前に吸気弁25を閉弁するようにし、過給圧が低い場合には、開弁及び閉弁の閉弁タイミングをBDC側に遅角させ、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、BDC付近でBDC以降に吸気弁25を閉弁する」ことは、本願補正発明において「可変バルブタイミング機構は、クランク軸に連動して回転するカム軸と、前記カム軸に設けられて、互いにカムプロフィールの異なる第一カム及び第二カムと、前記第一カムに当接されて、前記第一カムの回転に従って揺動する第一スイングアームと、前記第二カムに当接されて、前記第二カムの回転に従って揺動する第二スイングアームと、前記第一スイングアームに連結されて、前記第一スイングアームと前記吸気弁とを連係させるプッシュロッドと、前記第一スイングアームを前記第一カムの回転に従って揺動させる第一の状態と、第二スイングアームとともに前記第二カムの回転に従って揺動させる第二の状態とに切換可能な切換手段とを具備し、第一カムのカムプロフィールは、エンジンのピストンの吸気上死点(T)よりも早い時期(S1)に吸気弁の開弁を開始し、該ピストンの吸気上死点(T)において吸気弁のバルブリフトを最大とし、また、該ピストンの吸気下死点(B)よりも早い時期に吸気弁の閉弁を開始し、ピストンの吸気下死点(B)よりも早い時期(S2)に吸気弁が完全に閉弁するように設定し、第二カムのカムプロフィールは、該ピストンの吸気上死点(T)よりも早い時期(S1)に吸気弁の開弁を開始し、該ピストンの吸気上死点(T)において吸気弁のバルブリフトを最大とし、また、該ピストンの吸気下死点(B)近傍で吸気弁の閉弁を開始し、その後(S3)に吸気弁が完全に閉弁するように設定し、前記第一カムのカムプロフィール及び前記第二カムのカムプロフィールに基づいて、前記吸気弁の閉弁時期を設定し、前記第一の状態がエンジンの高負荷運転時であり、該高負荷運転時では、前記第一スイングアームと第二スイングアームとは個別に動作して第二スイングアームの動作にかかわらず第一スイングアームの動作が吸気弁の閉弁時期を決定し、前記第二の状態がエンジンの低負荷運転時であり、該低負荷運転時では、前記第一スイングアームが第二スイングアームと一体的に動作して第二スイングアームの動作が吸気弁の閉弁時期を決定する」ことに相当する。

したがって、本願補正発明と引用文献1記載の発明は、
「吸気弁の閉弁時期を変える可変バルブタイミング機構と、シリンダ内に空気を強制的に送り込む過給機とを具備するエンジンであって、前記可変バルブタイミング機構は、高負荷運転時には、前記吸気弁の閉弁時期を吸気下死点よりも早い時期に設定し、低負荷運転時には、前記吸気弁の閉弁時期を高負荷運転時に比べて遅い時期に設定し、かつ、吸気下死点近傍に設定し、前記可変バルブタイミング機構は、動弁機構を具備し、エンジンの高負荷運転時に、エンジンのピストンの吸気上死点よりも早い時期に吸気弁の開弁を開始し、また、該ピストンの吸気下死点よりも早い時期に吸気弁の閉弁を開始し、ピストンの吸気下死点よりも早い時期に吸気弁が完全に閉弁するように設定し、エンジンの低負荷運転時に、ピストンの吸気上死点よりも早い時期に吸気弁の開弁を開始し、また、該ピストンの吸気下死点近傍で吸気弁の閉弁を開始し、その後に吸気弁が完全に閉弁するエンジン。」
である点で一致し、次の2点において相違する。

(1)「シリンダ内に空気を強制的に送り込む過給機」に関し、本願補正発明における「過給機」は排気エネルギーを利用するものであるのに対し、引用文献1記載の発明における「過給機」は排気エネルギーを利用するものであるか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)「可変バルブタイミング機構は、動弁機構を具備し、エンジンの高負荷運転時に、エンジンのピストンの吸気上死点よりも早い時期に吸気弁の開弁を開始し、また、該ピストンの吸気下死点よりも早い時期に吸気弁の閉弁を開始し、ピストンの吸気下死点よりも早い時期に吸気弁が完全に閉弁するように設定し、エンジンの低負荷運転時に、ピストンの吸気上死点よりも早い時期に吸気弁の開弁を開始し、また、該ピストンの吸気下死点近傍で吸気弁の閉弁を開始し、その後に吸気弁が完全に閉弁する」ことに関し、本願補正発明における可変バルブタイミング機構は、「可変バルブタイミング機構は、クランク軸に連動して回転するカム軸と、前記カム軸に設けられて、互いにカムプロフィールの異なる第一カム及び第二カムと、前記第一カムに当接されて、前記第一カムの回転に従って揺動する第一スイングアームと、前記第二カムに当接されて、前記第二カムの回転に従って揺動する第二スイングアームと、前記第一スイングアームに連結されて、前記第一スイングアームと前記吸気弁とを連係させるプッシュロッドと、前記第一スイングアームを前記第一カムの回転に従って揺動させる第一の状態と、第二スイングアームとともに前記第二カムの回転に従って揺動させる第二の状態とに切換可能な切換手段とを具備し、第一カムのカムプロフィールは、エンジンのピストンの吸気上死点(T)よりも早い時期(S1)に吸気弁の開弁を開始し、該ピストンの吸気上死点(T)において吸気弁のバルブリフトを最大とし、また、該ピストンの吸気下死点(B)よりも早い時期に吸気弁の閉弁を開始し、ピストンの吸気下死点(B)よりも早い時期(S2)に吸気弁が完全に閉弁するように設定し、第二カムのカムプロフィールは、該ピストンの吸気上死点(T)よりも早い時期(S1)に吸気弁の開弁を開始し、該ピストンの吸気上死点(T)において吸気弁のバルブリフトを最大とし、また、該ピストンの吸気下死点(B)近傍で吸気弁の閉弁を開始し、その後(S3)に吸気弁が完全に閉弁するように設定し、前記第一カムのカムプロフィール及び前記第二カムのカムプロフィールに基づいて、前記吸気弁の閉弁時期を設定し、前記第一の状態がエンジンの高負荷運転時であり、該高負荷運転時では、前記第一スイングアームと第二スイングアームとは個別に動作して第二スイングアームの動作にかかわらず第一スイングアームの動作が吸気弁の閉弁時期を決定し、前記第二の状態がエンジンの低負荷運転時であり、該低負荷運転時では、前記第一スイングアームが第二スイングアームと一体的に動作して第二スイングアームの動作が吸気弁の閉弁時期を決定する」のに対し、引用文献1記載の発明におけるバルブタイミング調整機構45は、「バルブタイミング調整機構45はVTC(Valve Timing Controller)32等を具備し、過給圧が高い場合には、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、BDC以前に吸気弁25を閉弁するようにし、過給圧が低い場合には、開弁及び閉弁の閉弁タイミングをBDC側に遅角させ、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、BDC付近でBDC以降に吸気弁25を閉弁する」点(以下、「相違点2」という。)。

2.-4 判断
まず、相違点1について検討する。
過給機において、その動力に排気エネルギーを利用するものは、例を挙げるまでもなく周知(以下、「周知技術1」という。)である。
したがって、引用文献1記載の発明において、過給機に排気エネルギーを利用することによって、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到することができたことである。

次に、相違点2について検討する。
本願補正発明と引用文献2記載の技術とを対比すると、引用文献2記載の技術における「内燃機関」は、その構成、機能及び技術意義からみて、本願補正発明における「エンジン」に相当し、以下同様に「可変動弁装置」は「可変バルブタイミング機構」に、「クランク軸4」は「クランク軸」に、「カム駆動軸20」は「カム軸」に、「カム形状」は「カムプロフィール」に、「吸気用第1カム部」は「第一カム」に、「吸気用第2カム部」は「第二カム」に、「吸気用第1カムフォロアー」は「第一スイングアーム」に、「吸気用第2カムフォロアー」は「第二スイングアーム」に、「吸気弁8」は「吸気弁」に、「吸気用プッシュロッド27」は「プッシュロッド」に、「切断状態」は「第一の状態」に、「連結状態」は「第二の状態」に、「油圧切換弁」は「切換手段」にそれぞれ相当する。
したがって、引用文献2記載の技術を本願補正発明の用語を用いて表現すると、
「エンジンの可変バルブタイミング機構が、クランク軸に連動して回転するカム軸と、前記カム軸に設けられて、互いにカムプロフィールの異なる第一カム及び第二カムと、前記第一カムに当接されて、前記第一カムの回転に従って揺動する第一スイングアームと、前記第二カムに当接されて、前記第二カムの回転に従って揺動する第二スイングアームと、前記第一スイングアームに連結されて、前記第一スイングアームと前記吸気弁とを連係させるプッシュロッドと、前記第一スイングアームを前記第一カムの回転に従って揺動させる第一の状態と、第二スイングアームとともに前記第二カムの回転に従って揺動させる第二の状態とに切換可能な切換手段とを具備するという技術。」
であるといえる。
そして、引用文献1記載の発明において、動弁機構に引用文献2記載の技術を適用した場合には、吸気用第1カム部のカム形状を、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、また、BDC以前に吸気弁25が閉弁するように設定し、吸気用第2カム部のカム形状を、開弁及び閉弁のタイミングをBDC側に遅角させ、TDC以前の時期に吸気弁25の開弁を開始し、BDC付近でBDC以降に吸気弁25が閉弁するように設定し、前記吸気用第1カム部のカム形状及び前記吸気用第2カム部のカム形状に基づいて、前記吸気弁25の閉弁時期を設定し、切断状態が過給圧が高い場合であり、該過給圧が高い場合では、吸気用第1カムフォロアーと吸気用第2カムフォロアーとは個別に動作して吸気用第2カムフォロアーの動作にかかわらず、吸気用第1カムフォロアーの動作が吸気弁25の閉弁時期を決定し、連結状態が過給圧が低い場合であり、該過給圧が低い場合では、前記吸気用第1カムフォロアーが吸気用第2カムフォロアーと一体的に動作して吸気用第2カムフォロアーの動作が吸気弁25の閉弁時期を決定することとなる。
一方、圧縮比に対して膨張比を大きく設定したミラーサイクルエンジンにおいて、吸気早閉じの設定と、同設定よりも閉弁時期を遅角させた設定との間で、吸気弁の開弁時期を一致させることは周知技術(例えば、特開2004-183512号公報の段落【0041】及び【0044】等を参照。以下、「周知技術2」という。)である。
また、吸気弁のバルブリフトが最大となる時点や、吸気弁の閉弁開始時点は、当業者が適宜定め得る設計的な事項である。
したがって、引用文献1記載の発明において、動弁機構に引用文献2記載の技術を適用する際に、周知技術2を勘案することによって、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に想到することができたことである。

そして、本願補正発明を全体として検討しても、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。

以上により、本願補正発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3. むすび
以上のとおり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成24年3月27日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1発明は、平成23年11月30日付けの手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記(第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】)のとおりのものである。

2.引用文献
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術は、それぞれ前記第2.の[理由]2.-1及び2.-2に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]1.(1)及び(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-1ないし2.-4に記載したとおり、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、平成24年11月2日付けで提出した回答書において、上記本願補正発明において、さらに「該第一カム(91)のカムプロフィールを構成する凸部(91a)は、前斜面(91b)と後斜面(91c)とを有し、該第二カム(92)のカムプロフィールを構成する凸部(92a)は、前斜面(92b)と後斜面(92c)とを有し、該第一カム(91)の前斜面(91b)と、第二カム(92)の前斜面(92b)とは、前記カム軸(90)の軸心方向視で略一致するように形成し、第二カム(92)の前斜面(92b)と後斜面(92c)との間隔は、該第一カム(91)の前斜面(91b)と後斜面(91c)との間隔よりも大きく形成」する旨を限定する補正案を示している。
しかし、可変動弁機構において、二つのカムのカムプロフィールを上記補正案の限定事項のように形成することは、周知技術(例えば、特開2008-267249号公報の図4、特開平8-260988号公報の段落【0046】ないし【0058】及び図6ないし図8等参照。以下、「周知技術3」という。)である。
したがって、上記回答書に示された補正案に係る発明も、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術並びに周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の技術並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-10 
結審通知日 2013-01-15 
審決日 2013-01-29 
出願番号 特願2010-23605(P2010-23605)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 一雄  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 久島 弘太郎
柳田 利夫
発明の名称 エンジン  
代理人 矢野 寿一郎  

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