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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1275829
審判番号 不服2009-25811  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-25 
確定日 2013-06-17 
事件の表示 特願2004-557740「磁性ベースの核酸増幅」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月24日国際公開、WO2004/053154、平成18年 3月16日国内公表、特表2006-508667〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、2002年12月31日(優先権主張 2002年12月10日、中国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?21に係る発明は、平成24年10月23日付け手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
標的細胞の核酸を増幅するためのプロセスであって、該プロセスは、以下:
a)標的細胞を含むか、または含むと疑われるサンプルを、磁性マイクロビーズに接触させる工程;
b)該サンプル中に存在する場合、該標的細胞を、該磁性マイクロビーズに非特異的に、または低い特異性で結合させて、該標的細胞と該磁性マイクロビーズとの間で結合体を形成させる工程;ならびに
c)該結合体を、磁力を介して他の望ましくない構成成分から分離して、該サンプルから、該標的細胞を単離する工程;ならびに
d)該分離した結合体を、核酸増幅系に適用し、該標的細胞由来の核酸を増幅する工程、
を包含する、プロセス。」

2.各引用文献の記載事項
本願優先日前に頒布された以下の刊行物には、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付加した。以下、同様とする。)

(1)Nucl. Acids Res., 1995, Vol.23, No.9, p.1640(平成24年7月20日付け拒絶理由における引用文献1。以下、「引用文献1」という。)

(1a)(第1640ページ左欄第13行?22行)
「本稿で我々は、固形組織から直接DNAをPCRで増幅するための一段階方法であって、プレ処理の後に、高温安定性のポリメラーゼを添加するために反応を止める必要がない方法を説明する。ホルムアミドを細胞溶解剤として添加する代わりに、我々はPCRバッファー中のTriton(当審注:登録商標) X-100の濃度を増加した。Triton X-100は通常、最終濃度0.1%で使用すると酵素安定剤として働く。最終濃度を0.4%に増やすことにより、我々は当該バッファーに新たな機能を付与し、生産効率を損なうことなく固形組織からDNAの直接増幅を可能にした。」

(1b)(第1640ページ左欄下から第2行?右欄第2行)
「我々は結腸、胃、腎臓、乳房、脾臓及び皮膚を含む種々の組織に由来する、様々な通常及び腫瘍サンプルから、K-rasの増幅に成功していることから、本稿で説明された方法は一般的に適用可能である。」

(1c)(図1の説明)
「固形組織は10mM Trizma-HCl(略)pH8.5、50mM KCl、0.8mM MgCl2、0.4%Triton X-100(略)、0.01%ゼラチン、200μMのdATP、dTTP、dCTP及びdGTP(略)、0.5μMのフォワード(略)及びリバース(略)プライマー(略)、並びに1U Taq DNAポリメラーゼ(略)を含む50μlのPCR反応に直接用いられた。この混合液は細胞を溶解するために95℃で20分間、Perkin Elmer PCRシステム9600で加熱され、プレインキュベーションの後、直ちに増幅が行われた。」

(2)BioTechniques, 1991, Vol.10, No.1, p.42, 44-45(平成24年7月20日付け拒絶理由における引用文献2。以下、「引用文献2」という。)

(2a)(要約)
「我々は、完全なバクテリア細胞を出発材料として、染色体DNAの効率的なポリメラーゼ連鎖反応増幅が可能であることを示した。液体又は固体の培地からの細胞は直接、プレ処理を行うことなく使用でき、DNAを単離する必要性を取り除くものである。」

(2b)(第42ページ右欄下から第5行?第44ページ右欄第6行)
「したがって、精製されたDNAではなく、むしろ完全な細胞をDNA源として用いる可能性を探索した。完全な細胞は液体もしくは固体培地のいずれかから得られた。・・・(中略)・・・増副産物を1%アガロース上での電気泳動により分析したところ、精製染色体DNA、あるいは液体培地又はプレートから得られたインタクトな細胞を用いても、等しく効率的な増幅が行われたことが明らかとなった(図1、レーン1-6)。・・・(中略)・・・我々はまた、使用前に細胞を煮沸する必要がないことも示した(図2、レーン3と4、及び7と8を比較せよ。)。これらの調整物には十分な量の開始用DNAを提供するだけの溶解された細胞が含まれているか、初期の94℃での変性工程が、増幅開始に十分な染色体DNAを放出させるかの、いずれかであると推測される。」

(3)BioTechniques, 2001, Vol.31, No.3, p.598, 600, 602-604, 606-607(平成24年7月20日付け拒絶理由における引用文献3。以下、「引用文献3」という。)

(3a)(要約)
「培養細胞や環境サンプルはDNAの単離を行わずに、直接PCRに用いられた。天然サンプルに含まれる物質の阻害効果を除去するために、連続希釈が用いられた。微粒子上メタンモノオキシゲナーゼのサブユニットをコードするpmoAに特異的なプライマーが用いられ、直接的最確数PCRによってメタン資化性菌の検出と定量化が行われた。環境中の光栄養細菌がpufMに特異的なプライマーを用いて検出され、16S rDNAのためのプライマーにより細菌類が検出された。ダイレクトPCRは環境サンプル中の細菌の検出及び定量のための迅速、簡単かつ高感度な方法を提供する。・・・(後略)」

(3b)(第598ページ中欄下から第1行?右欄第8行)
「DNA抽出に関連する問題の幾つかを回避する別のアプローチは、DNAの事前単離やサンプルのプレ処理を行わずに、環境サンプルを直接PCRに用いることである。このアプローチはインタクトな培養バクテリア細胞(22、26、39)、臨床試料(28、31、38、40)及び動物(16)について行われてきた。」

(3c)(第600ページ右欄第20行?31行)
「PCR条件はホットスタート(47)、タッチダウン(18)、及びアニーリング時間の延長を含んだ。・・・(中略)・・・10分間、95℃でのホットスタートに続いて、タッチダウンの最初の6サイクルにおいては2分間のアニーリング時間が用いられ、その後は1分間のアニーリング時間が用いられた。」

(3d)(第602ページ中欄第9行?22行)
「5つのメタン資化性菌株を用い、pmoAプライマーで決定された検出限界は、感度が一定程度、細胞に固有のものであることを示す。この感度の違いはPCRのホットスタート条件での細胞の溶解しやすさ、あるいは、配列、ゲノムサイズ、標的遺伝子のコピー数の相違を含む、プライマーと特定のテンプレートの結合及び/又はPCR効率に影響する要因を反映したものである可能性がある(13、42、50)。」

(4)国際公開第2002/075309号(国際公開日2002年9月26日。平成24年7月20日付け拒絶理由における引用文献4。以下、「引用文献4」という。)

(4a)(請求の範囲)
「1.?40.(省略)
41.ある部分を単離するための方法であって、該方法は、以下:
a) 単離されるある部分に結合し得る結合パートナーを含む、請求項34に記載のコーティングされた磁化可能な微粒子を提供する工程;
b) 該部分を含むかまたは含むと推測されるサンプルを、工程a)において提供された該コーティングされた磁化可能な微粒子と、該部分と該結合パートナーとの間の結合を可能にする条件下で接触させる工程;および
c) 磁力を用いて、該サンプルから該コーティングされた磁化可能な微粒子を回収する工程、
を包含する、方法。
42.?50.(省略)」

(4b)(第7ページ第22?28行)
「本明細書中で使用される場合、「官能基化剤」は、複数の末端を有する化合物をいい、ここで化合物の少なくとも1つの末端は、重合に関与し得る二重結合を有し、そして化合物の別の末端は、重合後に、使用可能のままである活性官能基を有する。活性官能基の例としては、限定されないが、以下が挙げられる:カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、スルフヒドリル基、ハイドロスルフリル(hydrosulfuryl)、エポキシ基、エステル基、アルケン基、アルキン基、芳香族基、アルデヒド基、ケトン基、サルフェート基、アミド基、ウレタン基(単数または複数)もしくはそれらの誘導体。」

(4c)第11ページ第31行?第12ページ第14行)
「本明細書中で使用される場合、「サンプル」とは、当該コーティングされた磁化可能な微粒子および/または方法を使用して、分離または操作される部分を含み得るいずれかのことをいう。このサンプルは、生物学的な流体または生物学的組織のような生物学的サンプルであり得る。・・・(中略)・・・生物学的組織の例としてはまた、器官、腫瘍、リンパ節、動脈および個々の細胞が挙げられる。・・・(中略)・・・例えば、血液のような体液サンプル由来の標的細胞を分離または富化するために、種々の細胞分離法(例えば、磁気活性化セルソーティング)が、適用され得る。本発明のために使用されるサンプルは、このような標的細胞が富化された細胞調製物を含む。」

(4d)(第20ページ第6?16行)
「本方法は、任意の種類の部分がチップ形態または非チップ形態で、特定のプロセス(例えば、物理的プロセス、化学的プロセス、生物学的プロセス、生物物理学的プロセスまたは生化学的プロセスなど)に関与する場合に、当該部分を分析、単離、操作または検出するために使用され得る。部分は、細胞、細胞小器官、ウイルス、分子あるいは凝集体またはそれらの複合体であり得る。・・・(中略)・・・例えば、白血病患者由来の血液中の癌細胞、固形腫瘍を有する患者由来の固形組織中の癌細胞および妊娠女性由来の母親の血液中の胎児細胞は、単離されるか、操作されるかまたは検出される部分であり得る。同様に、血液中の赤血球および白血球のような種々の血液細胞は、単離されるか、操作されるかまたは検出される部分であり得る。」

3.対比
上記(1)?(3)の記載において、PCRバッファー中の界面活性剤濃度を増やすこと、及びPCR法の開始温度を94?95℃付近とすることは、いずれもPCR反応の初期段階において、細胞を溶解させ、当該細胞中の核酸を放出させる操作であると認められる。
してみると、引用文献1?3の記載から、「臨床組織、培養細胞や環境サンプルから得られた細胞の核酸を増幅するプロセスであって、当該細胞を直接PCR法に適用し、PCR反応の初期段階で当該細胞を少なくとも一部溶解させ、該核酸を放出させることを含むプロセス。」の発明(以下、「引用発明」という。)が、本願優先日前に公然知られたものであると認められる。

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明を対比すると、本願発明と引用発明との一致点と相違点は以下のとおりである。

[一致点]両者が「標的細胞の核酸を増幅するためのプロセスであって、該プロセスは、標的細胞を核酸増幅系に適用し、該標的細胞由来の核酸を増幅する工程を包含する、プロセス。」である点。

[相違点]本願発明が、「a)標的細胞を含むか、または含むと疑われるサンプルを、磁性マイクロビーズに接触させる工程;
b)該サンプル中に存在する場合、該標的細胞を、該磁性マイクロビーズに非特異的に、または低い特異性で結合させて、該標的細胞と該磁性マイクロビーズとの間で結合体を形成させる工程;ならびに
c)該結合体を、磁力を介して他の望ましくない構成成分から分離して、該サンプルから、該標的細胞を単離する工程」
を含み、標的細胞と磁性マイクロビーズとの結合体を核酸増幅工程に適用するものであるのに対し、引用発明には当該構成が含まれていない点。

4.当審の判断
引用発明を実施する場合に、対象となる細胞を入手する必要があることは自明であるところ、引用文献4には、目的の細胞等を含むか、または含むと推測されるサンプルと、ヒドロキシル基、カルボキシル基又はエポキシ基等の官能基を有するコーティングされた磁化可能な微粒子を接触させ、上記細胞と上記官能基との間に結合を生じさせ、磁力を用いて該サンプルから該コーティングされた磁化可能な微粒子を回収する工程を包含する方法が記載されている(摘記事項(4a)?(4c))。
引用文献4にはまた、細胞と磁化可能な微粒子の結合体を、当該細胞を物理的プロセス、化学的プロセス、生物学的プロセス、生物物理学的プロセスまたは生化学的プロセスなど関与させる場合に、用いうることも記載されている(摘記事項(4d))。
さらに、本願明細書の段落【0038】には「磁性マイクロビーズはあらゆる適切な方法で調製することができる。例えば、CN 01/109870.8またはWO 02/075309で開示されている方法を用いることができる。」と引用文献4が引用されているように、引用文献4の「磁化可能な微粒子」は本願発明の「磁性マイクロビーズ」に相当するものである。
したがって、引用発明のプロセスに用いることができる細胞を、引用文献4に記載された磁性マイクロビーズの結合体として分離することは、当業者が容易になし得たことである。そして、本願発明の奏する効果も、当業者の予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

5.請求人の主張
平成24年10月23日付け意見書において、請求人は以下の主張を行っている。

「文献4は、単に、磁性粒子の生産のためのプロセスに関するものであって、増幅に関する分野の文献ではなく、磁性微粒子を標的細胞の単離に使用することはどの部分にも記載も示唆もされていないからです。また、文献4は、引用文献1-3とはそもそも異なる分野の発明であり、課題も異なるのですから、これらを組み合わせることについて動機付け等示唆はないというべきです。
ここで、当業者は、核酸ベースの増幅反応を行う場合において、それとは異なる分野の考慮事項や課題を考慮したというためにはそれなりの示唆等が必要であるというべきであり、文献4には、核酸増幅に関する記載も示唆もないのですから、核酸増幅の分野の当業者がこれを考慮しえたということは一概には言えません。そして、これを引用文献1-3とが組み合わせられたとすることはできないといえます。」

しかしながら、引用文献4には、同文献に記載の方法(摘記事項(4a))で分離される対象として、「個々の細胞」が含まれ、また「例えば、血液のような体液サンプル由来の標的細胞を分離または富化するために、種々の細胞分離法(例えば、磁気活性化セルソーティング)が、適用され得る。」(摘記事項(4c))と記載されている。引用文献4にはさらに、「本方法は、・・・(中略)・・・当該部分を分析、単離、操作または検出するために使用され得る。部分は、細胞、細胞小器官、ウイルス、分子あるいは凝集体またはそれらの複合体であり得る。」、また「例えば、白血病患者由来の血液中の癌細胞、固形腫瘍を有する患者由来の固形組織中の癌細胞および妊娠女性由来の母親の血液中の胎児細胞は、単離されるか、操作されるかまたは検出される部分であり得る。同様に、血液中の赤血球および白血球のような種々の血液細胞は、単離されるか、操作されるかまたは検出される部分であり得る。」(摘記事項(4d))として、引用文献4に記載の磁性微粒子を細胞の分離に用いることが明記されている。
さらに、引用文献4には、細胞と磁性マイクロビーズの結合体を、当該細胞を種々のプロセスに関与させる場合に用いうることも記載されているから(摘記事項(4d))、引用発明のプロセスに用いる細胞を、引用文献4に記載された方法を用いて回収するための示唆は、十分なされているものいうべきである。
したがって、請求人の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-16 
結審通知日 2013-01-17 
審決日 2013-02-04 
出願番号 特願2004-557740(P2004-557740)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 敏充  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 冨永 みどり
新留 豊
発明の名称 磁性ベースの核酸増幅  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 秀策  

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