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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C08J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08J
管理番号 1286012
審判番号 不服2013-10370  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-05 
確定日 2014-04-08 
事件の表示 特願2008-516879「強化シリコーン樹脂フィルム及びそれらを調製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月16日国際公開、WO2007/092032、平成20年12月 4日国内公表、特表2008-544038、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1.手続の経緯
本願は、平成18年5月11日(パリ条約による優先権主張 2005年6月14日 (US)米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成23年10月24日付けで拒絶理由が通知され、平成24年2月6日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月30日付けでいわゆる最後の拒絶理由が通知され、同年9月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年1月29日付けで、平成24年9月5日付けの手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年6月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年9月20日付けで前置報告がなされ、当審において、同年10月24日付けで審尋がなされ、平成26年2月3日に回答書が提出されたものである。

第2.平成25年6月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1.補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲である、
「【請求項1】
強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法であって、
シリコーン樹脂及び光活性化ヒドロシリル化触媒を含むヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物中に繊維強化材を含浸させる工程、及び
該含浸させた繊維強化材を、前記シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な線量で150?800nmの波長を有する輻射線へ曝露させる工程を含み、該強化シリコーン樹脂フィルムは、10?99%(w/w)の該硬化シリコーン樹脂を含み、該フィルムは、15?500μmの厚さを有する、強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項2】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A)式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)を有するシリコーン樹脂(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)であって、但し、該シリコーン樹脂は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する、シリコーン樹脂、(B)前記シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項3】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A’)式(R^(1)R^(5)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(5)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(5)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(III)を有するシリコーン樹脂(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)であって、但し、該シリコーン樹脂は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する、シリコーン樹脂、(B’)前記シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項4】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A)式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)、(B)前記シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒、及び(D)(i)R^(1)R^(2)_(2)SiO(R^(2)_(2)SiO)_(a)SiR^(2)_(2)R^(1)(IV)及び(ii)R^(5)R^(1)_(2)SiO(R^(1)R^(5)SiO)_(b)SiR^(1)_(2)R^(5)(V)から選択される式を有するシリコーンゴム(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、下付きのa及びbはそれぞれ、1?4の値を有し、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)を含むが、但し、該シリコーン樹脂及び該シリコーンゴム(D)(i)はそれぞれ、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、該シリコーンゴム(D)(ii)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有し、前記シリコーン樹脂(A)中のケイ素結合されたアルケニル基に対する該シリコーンゴム(D)中のケイ素結合されたアルケニル基又はケイ素結合された水素原子のモル比は0.01?0.5である、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項5】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A’)式(R^(1)R^(5)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(5)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(5)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(III)、(B’)前記シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒、及び(D)(i)R^(1)R^(2)_(2)SiO(R^(2)_(2)SiO)_(a)SiR^(2)_(2)R^(1)(IV)及び(ii)R^(5)R^(1)_(2)SiO(R^(1)R^(5)SiO)_(b)SiR^(1)_(2)R^(5)(V)から選択される式を有するシリコーンゴム(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、下付きのa及びbはそれぞれ、1?4の値を有し、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)を含むが、但し、該シリコーン樹脂及び該シリコーンゴム(D)(ii)はそれぞれ、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有し、該シリコーンゴム(D)(i)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、前記シリコーン樹脂(A’)中のケイ素結合された水素原子に対する該シリコーンゴム(D)中のケイ素結合されたアルケニル基又はケイ素結合された水素原子のモル比は0.01?0.5である、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項6】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A’’)ヒドロシリル化触媒及び任意に可溶性反応生成物を形成するための有機溶媒の存在下で、式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)を有するシリコーン樹脂、並びに式R^(5)R^(1)_(2)SiO(R^(1)R^(5)SiO)_(c)SiR^(1)_(2)R^(5)(VI)を有するシリコーンゴムを反応させることにより調製されるゴム改質シリコーン樹脂(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、下付きのcは、4?1000の値を有し、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)であって、但し、該シリコーン樹脂(I)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、該シリコーンゴム(VI)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有し、シリコーン樹脂(I)中のケイ素結合されたアルケニル基に対する該シリコーンゴム(VI)中のケイ素結合された水素原子のモル比は0.01?0.5である、ゴム改質シリコーン樹脂、(B)該ゴム改質シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項7】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A’’’)ヒドロシリル化触媒及び任意に可溶性反応生成物を形成するための有機溶媒の存在下で、式(R^(1)R^(5)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(5)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(5)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(III)を有するシリコーン樹脂、並びに式R^(1)R^(2)_(2)SiO(R^(2)_(2)SiO)_(d)SiR^(2)_(2)R^(1)(VII)を有するシリコーンゴムを反応させることにより調製されるゴム改質シリコーン樹脂(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、下付きのdは、4?1000の値を有し、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)であって、但し、該シリコーン樹脂(III)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有し、該シリコーンゴム(VII)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、シリコーン樹脂(III)中のケイ素結合された水素原子に対する該シリコーンゴム(VII)中のケイ素結合されたアルケニル基のモル比は0.01?0.5である)、ゴム改質シリコーン樹脂、(B’)該ゴム改質シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載の方法に従って調製される強化シリコーン樹脂フィルム。」

「【請求項1】
強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法であって、
ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物中に繊維強化材を含浸させる工程、
ここで、該ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)を有するシリコーン樹脂(A)、もしくは式(R^(1)R^(5)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(5)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(5)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(III)を有するシリコーン樹脂(A’)(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)であって、但し、該シリコーン樹脂(A)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、該シリコーン樹脂(A’)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する、及び光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、並びに、
該含浸させた繊維強化材を、該シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な線量で150?800nmの波長を有する輻射線へ曝露させる工程を含み、該強化シリコーン樹脂フィルムは、10?99%(w/w)の該硬化シリコーン樹脂を含み、該フィルムは、15?500μmの厚さを有する、強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項2】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、前記シリコーン樹脂(A)、(B)前記シリコーン樹脂(A)を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項3】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、前記シリコーン樹脂(A’)、(B’)前記シリコーン樹脂(A’)を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項4】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、前記シリコーン樹脂(A)、(B)前記シリコーン樹脂(A)を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒、及び(D)(i)R^(1)R^(2)_(2)SiO(R^(2)_(2)SiO)_(a)SiR^(2)_(2)R^(1)(IV)及び(ii)R^(5)R^(1)_(2)SiO(R^(1)R^(5)SiO)_(b)SiR^(1)_(2)R^(5)(V)から選択される式を有するシリコーンゴム(式中、下付きのa及びbはそれぞれ、1?4の値を有する。)を含むが、但し、該シリコーン樹脂(A)及び該シリコーンゴム(D)(i)はそれぞれ、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、該シリコーンゴム(D)(ii)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有し、前記シリコーン樹脂(A)中のケイ素結合されたアルケニル基に対する該シリコーンゴム(D)中のケイ素結合されたアルケニル基又はケイ素結合された水素原子のモル比は0.01?0.5である、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項5】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、前記シリコーン樹脂(A’)、(B’)前記シリコーン樹脂(A’)を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒、及び(D)(i)R^(1)R^(2)_(2)SiO(R^(2)_(2)SiO)_(a)SiR^(2)_(2)R^(1)(IV)及び(ii)R^(5)R^(1)_(2)SiO(R^(1)R^(5)SiO)_(b)SiR^(1)_(2)R^(5)(V)から選択される式を有するシリコーンゴム(式中、下付きのa及びbはそれぞれ、1?4の値を有する。)を含むが、但し、該シリコーン樹脂(A’)及び該シリコーンゴム(D)(ii)はそれぞれ、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有し、該シリコーンゴム(D)(i)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、前記シリコーン樹脂(A’)中のケイ素結合された水素原子に対する該シリコーンゴム(D)中のケイ素結合されたアルケニル基又はケイ素結合された水素原子のモル比は0.01?0.5である、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項6】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A’’)ヒドロシリル化触媒及び任意に可溶性反応生成物を形成するための有機溶媒の存在下で、前記シリコーン樹脂(A)、並びに式R^(5)R^(1)_(2)SiO(R^(1)R^(5)SiO)_(c)SiR^(1)_(2)R^(5)(VI)を有するシリコーンゴムと反応させることにより調製されるゴム改質シリコーン樹脂(式中、下付きのcは、4?1000の値を有する。)であって、ただし、該シリコーンゴム(VI)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有し、シリコーン樹脂(A)中のケイ素結合されたアルケニル基に対する該シリコーンゴム(VI)中のケイ素結合された水素原子のモル比は0.01?0.5である、ゴム改質シリコーン樹脂、(B)該ゴム改質シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項7】
前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A’’’)ヒドロシリル化触媒及び任意に可溶性反応生成物を形成するための有機溶媒の存在下で、前記シリコーン樹脂(A’)、並びに式R^(1)R^(2)_(2)SiO(R^(2)_(2)SiO)_(d)SiR^(2)_(2)R^(1)(VII)を有するシリコーンゴムを反応させることにより調製されるゴム改質シリコーン樹脂(式中、下付きのdは、4?1000の値を有する。)であって、但し、該シリコーンゴム(VII)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、シリコーン樹脂(A’)中のケイ素結合された水素原子に対する該シリコーンゴム(VII)中のケイ素結合されたアルケニル基のモル比は0.01?0.5である、ゴム改質シリコーン樹脂、(B’)該ゴム改質シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載の方法に従って調製される強化シリコーン樹脂フィルム。」
と補正するものである。

2.補正の適否
(1)本件補正は、審判請求と同時にされた補正であるから、その補正は、特許法第17条の2第3項の規定により、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしなければならないだけでなく、第17条の2第4項第1号から第4号に掲げるいずれかの事項を目的とするものに限られる。
そこで、本件手続補正について検討する。

(1-1)請求項1について
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1について、上記1.のとおり補正するものであり、以下の補正事項1を含むものである。

補正事項1
ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物に含有される成分について、
「シリコーン樹脂」
から、
「式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)を有するシリコーン樹脂(A)、もしくは式(R^(1)R^(5)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(5)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(5)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(III)を有するシリコーン樹脂(A’)(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)であって、但し、該シリコーン樹脂(A)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、該シリコーン樹脂(A’)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する」
に変更する補正

補正事項1について検討するに、補正事項1は、特許法第184条の6第2項の規定により、同法第17条の2第3項における願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲とみなす国際出願日における国際特許出願の明細書の翻訳文及び国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(以下、「当初明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載からみて、当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものではないことから、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。
また、補正事項1は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「シリコーン樹脂」について、請求項2に記載した発明特定事項である「(A)式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)を有するシリコーン樹脂(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)であって、但し、該シリコーン樹脂は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する」、及び、請求項3に記載した発明特定事項である「(A’)式(R^(1)R^(5)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(5)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(5)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(III)を有するシリコーン樹脂(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)であって、但し、該シリコーン樹脂は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する」、との限定をそれぞれ付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(1-2)請求項2?7について
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項2?7について、上記1.のとおり補正するものであり、いずれも上記補正事項1の補正に伴う、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。

(1-3)小括
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「平成18年改正前特許法」ともいう。)第17条の2第3項、第4項の規定に適合する。

(2)独立特許要件について
上記(1-1)での検討のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正を含むものである。
そこで、この補正後の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、順に「補正発明1」?「補正発明8」、また、これらをまとめて単に「補正発明」ということがある。)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定する要件(いわゆる、独立特許要件)を満足するか否かについて、以下に検討する。

(2-1)特許法第29条第2項について
(2-1-1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特表平9-507677号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載が認められる。

(摘示1)
「技術分野
本発明が関わる分野は、一定の硬度と一定の機械的強度を持つ架橋材料を与えるように鎖間架橋を形成できる反応性基を含有する重合体、例えば珪素重合体の鎖間の架橋反応のための触媒である。
さらに詳しくは、本発明の開示は、1分子当たり少なくとも1個のSi-H反応性基を有するが、2個よりも多い水素原子に結合した珪素原子を含まないタイプAのポリオルガノシロキサンである被架橋基材に関する。これらの基材Aは、少なくとも1種の白金錯体を含む触媒の存在下に、1分子当たり少なくとも1個の不飽和脂肪族反応性基及び(又は)少なくとも1個の反応性官能基、例えばエポキシ基を有するタイプBの基材と反応させるためのものであり、この反応はその波長が好ましくは紫外線(UV)領域で選択される光線によって開始又は活性化されるものである。
さらに詳しくは、本発明は、第一に、Si-H型のポリオルガノシロキサンAと脂肪族不飽和及び(又は)反応性官能基を有する化合物Bのヒドロシリル化による架橋にあたって光活性である有機白金錯体により形成される新規な触媒系に関する。
第二に、本発明は、前記した触媒系が使用されるヒドロシリル化方法並びに光活性化によって架橋でき且つ特に基材A及びBと前記の触媒とを含有する組成物に関する。」(第13頁第4?22行)

(摘示2)
「しかして、本発明の必須の目的の一つは、白金の酸化状態が好ましくはOである新規な白金錯体並びにこれらの白金錯体を基材とする触媒系を提供することである。この触媒系は、Si-H型のポリオルガノシロキサンと脂肪族不飽和(好ましくはエチレン性不飽和、例えば、Si-Vi)及び(又は)反応性官能基を有する化合物とのヒドロシリル化に特に有用であり、しかも
-光活性化性であり且つ場合によっては熱活性化性であり、
-周囲雰囲気及び室温において長期間にわたって安定であり、
-工業的な実施可能性の要求を不十分にさせることなく良好な性能特性を有するものである。
本発明の他の目的は、前記の触媒系が使用される反応性物質、特にシリコーンの光活性化によるヒドロシリル化方法であって、実施するのが容易で、迅速で且つ安価であることが必要であるような方法を提供することである。
さらに、本発明の他の目的は、
-前記の触媒系を含み、
-室温よりも高い温度まで、好ましくは30?40℃以
上までの温度で長期間にわたって安定であり、
-光照射に対して非常に反応性である
光活性化によって架橋できるシリコーンオイル組成物を提供することである。
このような貯蔵安定性を有する組成物は、例えば、紙への付着防止剤、歯科用印象材、シール又は目地材、接着剤又はシリコーンエラストマーを現場で架橋するのが有益である任意の他の用途に使用することができる。」(第15頁第5?25行)

(摘示3)
「一般的には、本発明に従う組成物及び(又は)方法には、意図する最終用途に応じて選択される種々の添加剤を含めることができる。可能な添加剤の例は、鉱物性又は非鉱物性の充填剤及び(又は)顔料、例えば、ミルド(重合体)合成又は天然繊維、炭酸カルシウム、タルク、クレー、二酸化チタン又はスモークドシリカである。これは、例えば、最終製品の機械的特性を向上させることができる。
可溶性の着色剤、酸化防止剤及び(又は)その他の材料であって白金錯体の触媒活性を妨害せず且つ光活性化のために選択された波長範囲において吸収しないものを本発明に従う方法の範囲内で組成物に添加し又は使用することができる。
前記した化合物の全部を混合により製造した後、組成物は、任意の固体基材の表面に種々の目的のために適用することができる。これらの固体基材は、紙、カードボード、木材、プラスチック(例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリカーボネート)や、綿、ポリエステル、ナイロンなどの織物又は不織布繊維質基材、金属、ガラス又はセラミックスである。
工業的用途
本発明に従う触媒、方法及び組成物が特に意図する用途は、任意の種類の繊維質基材、特に紙の上に非粘着性被覆を適用するのに有用である“現場”架橋性のシリコーンオイルの用途である。この用途では、上記の組成物は、それらの非常に早い架橋速度のために、非常に高い被覆速度を達成させることができる。
意図できるその他の用途の例は、歯科用印象材、接着剤、シール材及び目地又は接合材、接着サイズ剤である。」(第32頁第4?24行)

(摘示4)
「例2:Si-H/Si-Vi単位を含有するシリコーンオイルのヒドロシリル化速度
添付の図1は、Si-H単位及びSi-Vi単位を含有するシリコーンオイルのヒドロシリル化速度を示す。使用したシリコーンオイルは、下記の構造を有する。
-Si-H単位を含有するオイル:
Me_(3)SiO-(-SiMe_(2)O)_(15.6)(-SiMeHO)_(81)-SiMe_(3)
-Si-Vi単位を含有するオイル:
ViSiMe_(2)O-(-SiMe_(2)O)_(97)-SiMe_(2)Vi
2.1. 操作手順
試験すべき触媒系及び過剰の配位子をSi-Vi単位を含有するオイルに導入する。次いでこの混合物をSi-H単位を含有するオイルに添加する。白金の割合は、総重量を基にして200ppmである。モル比Si-H/Si-Viは1.7である。20モル当量の配位子を使用する。照射は、120mJ/cm^(2)・minの出力を有するHPK125ランプを使用して行う。被検フィルムは、24μmの厚みを有する。FTIRを使用してνSi-H振動吸収帯の減少を測定することによってSi-H単位の消失速度を決定する。実験は25℃で行う。使用した主な系を後記の表IIに集約する。」(第34頁第2?19行)

(摘示5)



」(第43頁)

(2-1-2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、摘示4、5の記載からみて、「Si-H/Si-Vi単位を含有するシリコーンオイルのヒドロシリル化によりフィルムを調製する方法であって、式ViSiMe_(2)O-(-SiMe_(2)O)_(97)-SiMe_(2)ViからなるSi-Vi単位を含有するシリコーンオイルに白金触媒系と配位子からなる錯体を導入し、次いでこの混合物を式Me_(3)SiO-(-SiMe_(2)O)_(15.6)(-SiMeHO)_(81)-SiMe_(3)からなるSi-H単位を含有するシリコーンオイルに添加し、24μmの厚みを有するフィルムを調製する工程を含み、HPK125ランプによる照射によって、ヒドロシリル化を行う、フィルムを調製する方法」
なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2-1-3)対比
補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明におけるSi-Vi単位を含有するシリコーンオイルは、1分子当たり2つのケイ素結合されたビニル基を有することから、補正発明1における「(A)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し」に相当する。
また、引用発明における「HPK125ランプによる照射」について、HKP125ランプは150nmから800nmの範囲の波長を有するものであり、摘示1から、ヒドロシリル化反応が、好ましくは紫外線領域で選択される光線によって開始又は活性化されることが記載されていることから、補正発明1における「硬化させるのに十分な線量で150?800nmの波長を有する輻射線へ曝露させる工程」に相当するといえる。
そして、引用発明における「白金触媒系と配位子からなる錯体」は、「HPK125ランプによる照射」により活性化するヒドロシリル化反応のための触媒であることから、補正発明1における「光活性化ヒドロシリル化触媒」に相当する。
また、引用発明におけるフィルムの厚み24μmは、補正発明1におけるフィルムの厚み「15?500μm」と重複一致している。
したがって、両発明は、
「シリコーンフィルムを調製する方法であって、
ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する(A)、及び光活性化ヒドロシリル化触媒を含み、
硬化させるのに十分な線量で150?800nmの波長を有する輻射線へ曝露させる工程を含み、
該フィルムは、15?500μmの厚さを有する、シリコーンフィルムを調製する方法。」
の点で一致し、以下の相違点で相違するものと認められる。

相違点(1)
ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物中に含有されるシリコーン成分について、補正発明1においては、「式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)を有するシリコーン樹脂(A)」であるのに対し、引用発明においては、「式ViSiMe_(2)O-(-SiMe_(2)O)_(97)-SiMe_(2)ViからなるSi-Vi単位を含有するシリコーンオイル」である点

相違点(2)
補正発明1においては、「ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物中に繊維強化材を含浸させる工程」を含むのに対し、引用発明においては、この点について格別特定していない点

相違点(3)
シリコーンフィルムについて、補正発明1においては、「10?99%(w/w)の該硬化シリコーン樹脂を含む強化シリコーン樹脂フィルム」であるのに対し、引用発明においては、この点について格別特定していない点

(2-1-4)相違点についての検討
相違点(1)について
補正発明1における「式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)を有するシリコーン樹脂(A)」は、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99である、すなわち、T単位及び/又はQ単位を含むシリコーン樹脂であり、当該シリコーン樹脂を含有させたヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物を用いることにより、「機械特性及び熱特性が改善されたフリースタンディングシリコーン樹脂」(段落【0004】)のフィルムを提供するという補正発明の課題を解決するものである。
これに対し、引用発明における「式ViSiMe_(2)O-(-SiMe_(2)O)_(97)-SiMe_(2)ViからなるSi-Vi単位を含有するシリコーンオイル」は、M単位及びD単位からなる直鎖状のシリコーンオイルであり、引用文献1には、摘示2、3からみて、主に現場架橋性のシリコーンオイルの用途に適したシリコーンオイル組成物を提供することを課題とすることが記載されている。しかしながら、引用文献1には、補正発明の課題である機械特性及び熱特性が改善されたフリースタンディングシリコーン樹脂のフィルムを提供することについて記載されておらず、引用文献1記載のシリコーンオイルにおいてT単位及び/又はQ単位を導入する動機付けについて記載も示唆もない。
してみれば、引用発明における「式ViSiMe_(2)O-(-SiMe_(2)O)_(97)-SiMe_(2)ViからなるSi-Vi単位を含有するシリコーンオイル」に代えて、「式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)を有するシリコーン樹脂(A)」を採用することは想到容易であるということはできない。

相違点(2)、(3)について
引用文献1には、摘示3からみて、シリコーンオイル組成物は、最終用途に応じて、「天然繊維」を添加材として含めうること、あるいは、「織物又は不織布繊維質基材」を含む任意の固体基材の表面に適用しうることが記載されているが、「繊維強化材を含浸させる工程」について記載も示唆もない。そして、シリコーンオイル組成物において、繊維強化材を含浸させる工程を設ける点について、本願優先日前における当業者の技術常識であると認めるに足りる証拠は見当たらない。
してみれば、引用発明において、「ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物中に繊維強化材を含浸させる工程」を採用することは想到容易であるということはできない。
そして、このことは、引用発明において、繊維強化材を含浸させた強化シリコーン樹脂フィルムとすることが想到容易ではないということを示すものであり、さらに、強化シリコーン樹脂フィルム中の硬化シリコーン樹脂の含有割合を10?99%(w/w)とすることは想到容易でないことは明らかである。
してみれば、引用発明において、「10?99%(w/w)の該硬化シリコーン樹脂を含む強化シリコーン樹脂フィルム」とすることは想到容易であるということはできない。
以上のとおりであるから、補正発明1は、引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(2-1-5)請求項2?8に係る発明について
請求項2?8は、請求項1を直接的又は間接的に引用して記載するものである。そして、補正発明1が引用文献1に記載された発明から想到容易であるといえないのは上述のとおりであるから、補正発明2?7についても同様に、いわゆる進歩性を否定することはできない。

(2-2)特許法第36条第6項第1号について
(2-2-1)本件補正により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載
本願明細書には、以下の記載がある。

(摘示ア)
「シリコーン樹脂コーティングは、様々な基板を保護、絶縁又は接着するのに使用することができるが、フリースタンディングシリコーン樹脂フィルムは、低い引裂き強度、高い脆性、低いガラス転移温度及び高い熱膨張率に起因して実用性が限られている。したがって、機械特性及び熱特性が改善されたフリースタンディングシリコーン樹脂が必要とされる。」(段落【0004】)

(摘示イ)
「本発明による強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法は、以下の:
シリコーン樹脂及び光活性化ヒドロシリル化触媒を含むヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物中に繊維強化材を含浸させる工程、及び
上記含浸させた繊維強化材を、上記シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な線量で150?800nmの波長を有する輻射線へ曝露させる工程
を含み、ここで上記強化シリコーン樹脂フィルムは、10?99%(w/w)の上記硬化シリコーン樹脂を含み、上記フィルムは、15?500μmの厚さを有する。
強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法の第1の工程では、繊維強化材は、シリコーン樹脂及び光活性化ヒドロシリル化触媒を含むヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物中に含浸される。
ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、シリコーン樹脂及び光活性化ヒドロシリル化触媒を含む任意のヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物であり得る。かかる組成物は通常、ケイ素結合されたアルケニル基又はケイ素結合された水素原子を有するシリコーン樹脂、樹脂中のケイ素結合されたアルケニル基又はケイ素結合された水素原子と反応することが可能なケイ素結合された水素原子又はケイ素結合されたアルケニル基を有する架橋剤、及び光活性化ヒドロシリル化触媒を含有する。シリコーン樹脂は通常、M及び/又はDシロキサン単位と組み合わせてT及び/又はQシロキサン単位を含有する共重合体である。さらに、シリコーン樹脂は、シリコーン組成物の第5の実施形態及び第6の実施形態に関して以下で記載されるゴム改質シリコーン樹脂であり得る。」(段落【0010】?【0012】)

(摘示ウ)
「第1の実施形態によれば、ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A)式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)を有するシリコーン樹脂(但し、シリコーン樹脂は1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する)、(B)シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含む。」(段落【0013】)

(摘示エ)
「ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物の構成成分(C)は、少なくとも1つの光活性化ヒドロシリル化触媒である。光活性化ヒドロシリル化触媒は、150?800nmの波長を有する輻射線への曝露時に構成成分(A)と構成成分(B)とのヒドロシリル化を触媒することが可能な任意のヒドロシリル化触媒であり得る。光活性化ヒドロシリル化触媒は、白金族金属、又は白金族金属を含有する化合物を含む既知のヒドロシリル化触媒のいずれかであり得る。白金族金属としては、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウムが挙げられる。通常、白金族金属は、ヒドロシリル化反応におけるその高い活性に基づいて白金である。本発明のシリコーン組成物における使用に関する特定の光活性化ヒドロシリル化触媒の適切性は、以下の実施例のセクションにおける方法を使用して日常的な実験により容易に確定することができる。」(段落【0072】)

(摘示オ)
「第2の実施形態によれば、ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、(A’)式(R^(1)R^(5)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(5)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(5)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(III)(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)を有するシリコーン樹脂、(B’)シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な量の、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有する有機ケイ素化合物、及び(C)触媒量の光活性化ヒドロシリル化触媒を含むが、但し、上記シリコーン樹脂は1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する。」(段落【0077】)

(摘示カ)
「強化材は、各種方法を使用してヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物中に含浸させることができる。例えば、第1の方法によれば、繊維強化材は、(i)ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物を剥離性ライナーへ塗布して、それによりシリコーンフィルムを形成すること、(ii)フィルム中に繊維強化材を埋封すること、(iii)埋封繊維強化材をガス抜きすること、及び(iv)シリコーン組成物を、ガス抜きした埋封繊維強化材へ塗布して、それにより含浸された繊維強化材を形成することにより含浸させることができる。」(段落【0157】)

(摘示キ)
「強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法の第2の工程では、含浸された繊維強化材は、シリコーン樹脂を硬化(架橋)させるのに十分な線量で、通常150?800nm、或いは250?400nmを有する輻射線へ曝露される。光源は通常、中圧水銀アークランプである。輻射線の線量は通常、10?20000mJ/cm^(2)、或いは100?2000mJ/cm^(2)である。
本発明の強化シリコーン樹脂フィルムは通常、10?99%(w/w)、或いは30?95%(w/w)、或いは60?95%(w/w)、或いは80?95%(w/w)の硬化シリコーン樹脂を含む。また、強化シリコーン樹脂フィルムは通常、15?500μm、或いは15?300μm、或いは20?150μm、或いは30?125μmの厚さを有する。
強化シリコーン樹脂フィルムは通常、フィルムが、亀裂を伴わずに3.2mm未満又はそれに等しい直径を有する円筒形スチールマンドレルにわたって曲げることができるような可撓性を有し、ここで可撓性は、ASTM規格D522-93a(方法B)に記載されるように確定される。
強化シリコーン樹脂フィルムは、低い線熱膨張率(CTE)、高い引張強度及び高い弾性率を有する。例えば、フィルムは通常、室温(およそ23±2℃)?200℃の温度で0?80μm/m℃、或いは0?20μm/m℃、或いは2?10μm/m℃のCTEを有する。また、フィルムは通常、50?200MPa、或いは80?200MPa、或いは100?200MPaの25℃での引張強度を有する。さらに、強化シリコーン樹脂フィルムは通常、2?10GPa、或いは2?6GPa、或いは3?5GPaの25℃でのヤング率を有する。」(段落【0167】?【0170】)

(摘示ク)
「本発明の強化シリコーン樹脂フィルムは、同じシリコーン組成物から調製される非強化シリコーン樹脂フィルムと比較して、低い熱膨張率、高い引張強度及び高い弾性率を有する。また、強化シリコーン樹脂フィルム及び非強化シリコーン樹脂フィルムは、匹敵するガラス転移温度を有するが、強化フィルムは、ガラス転移に相当する温度範囲においてはるかに小さい弾性率の変化を示す。」(段落【0173】)

(摘示ケ)
「(実施例1)
この実施例は、実施例3?5で使用するシリコーン樹脂の調製を示す。トリメトキシフェニルシラン(200g)、テトラメチルジビニルジシロキサン(38.7g)、脱イオン水(65.5g)、トルエン(256g)及びトリフルオロメタンスルホン酸(1.7g)を、Dean-Starkトラップ及び温度計を装備した三つ口丸底フラスコ中で組み合わせた。混合物を60?65℃で2時間加熱した。続いて、混合物を加熱還流させて、Dean-Starkトラップを使用して、水及びメタノールを除去した。混合物の温度が80℃に達して、水及びメタノールの除去が完了したら、混合物を50℃未満へ冷却させた。炭酸カルシウム(3.3g)及び水(約1g)を混合物へ添加した。混合物を室温で2時間攪拌させた後、水酸化カリウム(0.17g)を混合物へ添加した。続いて、混合物を加熱還流させて、Dean-Starkトラップを使用して、水を除去した。反応温度が120℃に達して、水の除去が完了したら、混合物を40℃未満へ冷却させた。クロロジメチルビニルシラン(0.37g)を混合物に添加して、室温で1時間混合を続けた。混合物を濾過して、式(PhSiO_(3/2))_(0.75)(ViMe_(2)SiO_(1/2))_(0.25)を有するシリコーン樹脂のトルエン中の溶液を得た。樹脂は、重量平均分子量約1700を有し、数平均分子量約1440を有し、約1モル%のケイ素結合されたヒドロキシ基を含有する。
溶液の容積は、トルエン中にシリコーン樹脂79.5重量パーセントを含有する溶液を生じるように調節した。溶液の樹脂濃度は、溶液のサンプル(2.0g)を炉中で150℃にて1.5時間乾燥させた後に、重量損失を測定することにより確定された。
(実施例2)
この実施例は、1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンの調製について記載する。マグネシウム(84g)及びテトラヒドロフラン(406g)を窒素下で、機械的攪拌器、冷却器、2つの添加漏斗及び温度計を装備した5Lの三つ口フラスコ中で組み合わせた。1,2-ジブロモエタン(10g)を混合物へ添加して、フラスコの内容物を50?60℃へ加熱した。テトラヒドロフラン(THF、200mL)及びTHF(526g)中の1,2-ジブロモベンゼン(270g)の溶液を順次混合物へ添加した(後者は滴下様式で)。約20分後に、加熱を中止して、穏やかな還流を維持するような速度で1,2-ジブロモベンゼンの残部を約1.5時間にわたって添加した。添加中、THFを定期的に添加して、約65℃未満の反応温度を維持した。1,2-ジブロモベンゼンの添加が完了した後、THF(500mL)をフラスコに添加して、混合物を65℃で5時間加熱した。加熱を中止して、反応混合物を室温で一晩、窒素下で攪拌した。
THF(500mL)を混合物へ添加して、フラスコを氷水浴中に入れた。ドライアイス冷却器を水冷却器の最上部へ挿入して、還流を維持するような速度で、クロロジメチルシラン(440g)を混合物へ滴下した。添加が完了した後、フラスコを氷水浴から取り出して、混合物を60℃で一晩加熱した。混合物を室温にまで冷却して、順次トルエン(1000mL)及び飽和NH4Cl水(1500mL)で処理した。フラスコの内容物を分液漏斗へ移して、実質的に透明な有機層が得られるまで数回分の水で洗浄した。有機層を取り出して、硫酸マグネシウムで乾燥させて、残渣の温度が150℃に達するまで蒸留により濃縮した。濃縮した粗製生成物を真空蒸留で精製した。分画を12mmHg(1600Pa)の圧力下で125?159℃にて収集して、無色液体としてp-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン(140g)を得た。生成物の同定は、GC-MS、FT-IR、^(1)H-NMR及び^(13)C NMRにより確認した。
(実施例3)
^(29)Si NMR及び^(13)C NMRにより確定される場合に1.1:1のケイ素結合された水素原子対ケイ素結合されたビニル基(SiH/SiVi)のモル比を達成するのに十分な2つの成分の相対量で、実施例1の樹脂溶液を、1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンと混合した。混合物を、5mmHg(667Pa)の圧力下で80℃にて加熱し、トルエンを除去した。次に、少量の1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンを混合物に添加して、1.1:1のモル比SiH/SiViを回復させた。混合物に、樹脂及び1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンの組合せ重量に基づいて4%(w/w)の、アセチルアセトナト白金(II)1.6g及び乳酸エチル158.4gを含有する光活性化ヒドロシリル化触媒を添加した。
(実施例4)
ガラス平板(25.4cm×38.1cm)をナイロンフィルム(WN1500 減圧バギングフィルム)で覆って、剥離性ライナーを形成した。実施例3のシリコーン組成物を、No.16 Mylar(登録商標)測定棒を使用してナイロンフィルムへ一様に塗布して、シリコーンフィルムを形成した。ナイロンフィルムと同じ寸法を有するガラス布を、前記シリコーンフィルム上に慎重に置いて、組成物が完全に布を湿らせるのに十分な時間をとった。続いて、埋封させた布を真空(5.3kPa)で室温にて0.5時間ガス抜きした。次に、実施例3のシリコーン組成物を、ガス抜きした埋封布へ一様に塗布して、ガス抜き手順を繰り返した。含浸させたガラス布を、およそ12000mJ/m^(2)の線量で365nmの波長を有する輻射線へ曝露させた。ガラス繊維で強化したシリコーン樹脂フィルムをナイロンフィルムと分離させた。強化フィルムは、一様な厚さ(0.100?0.115mm)を有し、実質的に透明であり、空隙を含まなかった。強化フィルムの一方の表面は、剥離性ライナー(ナイロンフィルム)の表面組織で浮き出されていた。ガラス繊維で強化したシリコーン樹脂フィルムの機械特性を表1に示す。
(実施例5)
シリコーン組成物に、樹脂及び1.4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼンの組合せ重量に基づいて2%(w/w)の光活性化ヒドロシリル化触媒を含有させた以外は、ガラス繊維で強化したシリコーン樹脂フィルムを実施例4の方法に従って調製した。ガラス繊維で強化したシリコーン樹脂フィルムの機械特性を表1に示す。」(段落【0183】?【0189】)

(摘示コ)
「【表1】


」(段落【0190】)

(2-2-2)補正発明の課題
上記摘示した本願明細書の記載によれば、補正発明は、「低い引裂き強度、高い脆性、低いガラス転移温度及び高い熱膨張率に起因して実用性が限られている」(摘示ア)従来のフリースタンディングシリコーン樹脂フィルムの問題に対して、「低い熱膨張率、高い引張強度及び高い弾性率を有する」(摘示ク)、「機械特性及び熱特性が改善されたフリースタンディングシリコーン樹脂」(摘示ア)のフィルムを提供することを課題とするものであると認められる。

(2-2-3)発明の詳細な説明に記載された事項と特許請求の範囲に記載された発明との対比
特許請求の範囲の記載が明細書のいわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、発明の詳細な説明の記載が、補正発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載との関係で、上記明細書のサポート要件に適合するか否かについてみる。
本願明細書の発明の詳細な説明には、摘示イ?クからみて、
「強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法であって、
ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物中に繊維強化材を含浸させる工程、
ここで、該ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物は、式(R^(1)R^(2)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(2)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(1)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(I)を有するシリコーン樹脂(A)、もしくは式(R^(1)R^(5)_(2)SiO_(1/2))_(w)(R^(5)_(2)SiO_(2/2))_(x)(R^(5)SiO_(3/2))_(y)(SiO_(4/2))_(z)(III)を有するシリコーン樹脂(A’)(式中、R^(1)は、C_(1)?C_(10)ヒドロカルビル又はC_(1)?C_(10)ハロゲン置換されたヒドロカルビル(ともに脂肪族不飽和を含まない)であり、R^(2)は、R^(1)又はアルケニルであり、R^(5)は、R^(1)又は-Hであり、wは0?0.8であり、xは0?0.6であり、yは0?0.99であり、zは0?0.35であり、w+x+y+z=1であり、y+z/(w+x+y+z)は0.2?0.99であり、w+x/(w+x+y+z)は0.01?0.8である)であって、但し、該シリコーン樹脂(A)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合されたアルケニル基を有し、該シリコーン樹脂(A’)は、1分子当たり平均少なくとも2つのケイ素結合された水素原子を有する、及び光活性化ヒドロシリル化触媒を含む、並びに、
該含浸させた繊維強化材を、該シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な線量で150?800nmの波長を有する輻射線へ曝露させる工程を含み、該強化シリコーン樹脂フィルムは、10?99%(w/w)の該硬化シリコーン樹脂を含み、該フィルムは、15?500μmの厚さを有する、強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法。」を用いること、具体的には、上記強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法によって得られた強化シリコーン樹脂フィルムが、低い熱膨張率、高い引張強度及び高い弾性率を有する、機械特性及び熱特性が改善されたフリースタンディングシリコーン樹脂フィルムを提供するといった課題解決を図るものであることを、当業者であれば容易に理解することができるといえる。
例えば、摘示ケ、コからみて、実施例4で得られた上記強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法の要件をすべて満たした調製方法によって得られた強化シリコーン樹脂フィルムと、実施例5で得られた上記強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法の要件のうち光活性ヒドロシリル化触媒存在下でのヒドロシリル化反応によるシリコーン樹脂の硬化を十分に進行させる要件を満たしていない強化シリコーン樹脂フィルムとの対比から上記強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法の要件のうち特にヒドロシリル化反応を十分に進行させることにより、シリコーン樹脂の硬化を十分に進行させる要件を満たすことにより、良好な引張強度、ヤング率、破断歪点を有するものが得られることが理解できる。
したがって、上記強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法の要件をすべて満たした調製方法を採用することで、低い熱膨張率、高い引張強度及び高い弾性率を有する、機械特性及び熱特性が改善されたフリースタンディングシリコーン樹脂フィルムを提供するといった課題の解決を図ることができることを当業者は認識できるといえる。
そして、補正発明1の発明特定事項は、上記強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法のすべての要件と合致しているものと認められる。
したがって、補正発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は、当業者が補正発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから、サポート要件を満たすものである。

(2-2-4)請求項2?8について
請求項2?8は、請求項1を直接的又は間接的に引用して記載するものである。そして、請求項1の記載がサポート要件を満たしていないということはできないとした上記の検討と同様の理由により、請求項2?8の記載についてもサポート要件を満たしていないということはできない。

(2-3)小括
以上のとおり、補正発明は、引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。また、補正発明に係る特許請求の範囲の記載についてもサポート要件を満たしていないということはできない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合するから、本願の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-03-25 
出願番号 特願2008-516879(P2008-516879)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C08J)
P 1 8・ 537- WY (C08J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 英司  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 塩見 篤史
蔵野 雅昭
発明の名称 強化シリコーン樹脂フィルム及びそれらを調製する方法  
代理人 大宅 一宏  
代理人 飯野 智史  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  

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