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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G02F
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G02F
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G02F
審判 全部無効 産業上利用性  G02F
審判 全部無効 2項進歩性  G02F
管理番号 1287722
審判番号 無効2012-800003  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-01-18 
確定日 2012-11-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3011720号発明「液晶表示装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第3011720号(以下「本件特許」という。登録時の請求項の数は5である。)の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。


第2 手続の経緯
1 出願の手続の経緯
出願の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成 6年 5月18日 特願平6-104044号(以下「原出願」と
いう。)出願
平成 9年12月 3日 手続補正書
平成11年 9月10日 特願平11-257823号(以下「本件出願
」という。)出願
平成11年10月29日 特許査定
平成11年12月10日 特許第3011720号として設定登録
平成12年 2月21日 特許公報発行

2 本件無効審判の経緯
本件無効審判の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成24年 1月18日 特許無効審判請求
平成24年 4月 3日 訂正請求、審判事件答弁書提出
平成24年 5月10日 審判事件弁駁書提出
平成24年 7月17日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 7月17日 審判事件答弁書(第2回)提出(被請求人)
平成24年 7月17日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 7月30日 上申書(被請求人)
平成24年 7月30日 口頭審理
平成24年 8月31日 上申書(請求人)


第3 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の内容
被請求人が平成24年4月3日にした訂正請求(以下、同訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)について、訂正請求書に添付した訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを請求するものであって、以下の事項をその訂正内容とするものである(本件訂正による変更部分に下線を付した。)。

訂正事項
(1)特許第3011720号の特許請求の範囲を下記のように訂正する(以下「訂正事項1」という。)。
(記)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、
前記第1の基板には、前記液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、前記配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があり、
前記第2の基板には、前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向する領域に、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって液晶の配向方向を制御することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの少なくとも一方は、1つの表示画素内に複数配置され、それらの間に、他方が配置されることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記1画素内に複数配置される前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの一方のほぼ中央に、他方が配置されることを特徴とする請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素内に線状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素の領域内に直線形状で形成されている直線部分を有することを特徴とする請求項4に記載の液晶表示装置。
(2)明細書段落【0014】を訂正後の特許請求の範囲の記載に合致するように訂正する(以下「訂正事項2」という。)。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲として、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、
前記第1の基板には、前記液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、
前記第2の基板には、前記電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって液晶の配向方向を制御することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの少なくとも一方は、1つの表示画素内に複数配置され、それらの間に、他方が配置されることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記1画素内に複数配置される前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの一方のほぼ中央に、他方が配置されることを特徴とする請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素内に線状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素の領域内に直線形状で形成されている直線部分を有することを特徴とする請求項4に記載の液晶表示装置。」
とあったものを、上記訂正事項1のとおりに訂正するものであって、訂正前の請求項1の「第1の基板」に、「配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があ」るとの特定事項を追加するとともに、「(第2の基板の)電極が開口されてなる配向制御窓」が、「前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向する領域に」設けられているとの特定事項を追加するものである。
そして、本件特許明細書(甲第1号証)には、「基板表面を隆起または陥没させて形成した(配向制御)傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にある」ため、「電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定され」(【0018】)、「このように、配向ベクトルが配向制御傾斜部により決定されると、液晶の連続体性により、同じ配向ベクトルを有した領域が、電極や他の配向制御傾斜部など、他の何らかの作用を受けた部分に制限されるまで広が」り(【0019】)、「配向制御傾斜部によりそれぞれ異なる配向状態に制御された液晶層の各ゾーンの境界は配向制御窓により一定に固定され、配向が安定し、更に表示特性が向上する」(【0022】)との記載があり、上記記載に照らして本件特許の図13および14をみると、本件特許の「液晶表示装置」において、「第1の基板」に、「配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があ」ること、及び、「(第2の基板の)電極が開口されてなる配向制御窓」が、「前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向する領域に」設けられていることを理解することができるから、上記訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
また、上記訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、明細書段落【0014】を訂正後の特許請求の範囲の記載に合致するように訂正するものであり、明細書の記載を明りようにしたものであるから、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
また、上記訂正事項2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであることは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 まとめ
したがって、上記訂正事項は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、あるいは、同法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明りようでない記載の釈明を目的とするものと認められ、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

3 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。


第4 本件訂正発明
上記のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件訂正発明1」などといい、これらを総称して「本件訂正発明」ということがある。)は、次の各請求項に記載したとおりのものと認められる。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、
前記第1の基板には、前記液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、前記配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があり、
前記第2の基板には、前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向する領域に、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって液晶の配向方向を制御することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの少なくとも一方は、1つの表示画素内に複数配置され、それらの間に、他方が配置されることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記1画素内に複数配置される前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの一方のほぼ中央に、他方が配置されることを特徴とする請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素内に線状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素の領域内に直線形状で形成されている直線部分を有することを特徴とする請求項4に記載の液晶表示装置。」


第5 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由1(未完成発明又は実施可能要件違反)
(1)審判請求書
ア 無効理由1の要約
本件特許の明細書には、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成するという態様(以下「導電リブ態様」という)のみが記載されているところ、このような導電リブ態様では「不均一なディスクリネーションの出現の防止」等の効果を挙げることが極めて疑わしい。
また、仮に、このような導電リブ態様を用いて「不均一なディスクリネーションの出現の防止」等の効果を挙げ得るのであれば、そのような条件を開示しなければならないところ、その点に関する具体的な条件も全く開示されていない。
そうすると、明細書の記載によっては上記効果が得られるように本件発明1ないし5を実施することができないから、本件特許の「発明の詳細な説明」には、その発明の目的、構成及び効果が、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていない。
したがって、本件特許は、平成6年改正前特許法36条4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法123条1項4号の規定により無効とすべきものである。
また、このような導電リブ態様は「不均一なディスクリネーションの出現の防止」等の作用効果を奏することが極めて疑わしく発明として未完成のものであるから、本件発明1ないし5は、特許法29条1項柱書の「発明」に該当しない。
したがって、本件特許は、同項柱書の規定に違反し、特許法123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである(11?12頁)。
イ 垂直配向液晶セルに関する第6?第10実施例の配向制御傾斜部の構成では、明細書記載の作用効果を奏し得ないことの説明
上記のような導電リブ態様では、十分な液晶の応答特性が得られない。また、ディスクリネーションの位置も短時間では安定せず満足な結果が得られない。
導電リブ態様におけるこれらの不都合を明らかにするために、実験(甲第5号証)を実施した(16頁)。
(ア)配向制御傾斜部による配向制御
本件特許発明の配向制御傾斜部の構造では、配向制御傾斜部において、液晶分子の初期配向の方向(傾斜部に垂直)と、電界の方向(傾斜部に垂直)とはほぼ一致することになる。つまり、本件特許発明の配向制御傾斜部の構造では、初期配向の方向は、電界方向とは所定の角度を持っておらず、電圧が印加されると、配向制御傾斜部の液晶分子も、その他の領域の液晶分子と同様に、電圧印加時の電界の方向を中心とした周囲360度のどの方向でも均等に配向してしまう。このため、本件特許発明の配向制御傾斜部の構造においては、配向制御傾斜部を有していても、ディスクリネーションのばらつきが生じる。この結果、本件特許発明は、配向制御傾斜部によって液晶が所定の方向に傾くように制御することができない。
本件特許の明細書の段落【0018】には、「基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にある。…」と記載されているが、導電リブ態様においては、液晶の初期配向方向と電界方向とは平行となるので、かかる記載は当てはまらない。
傾斜部近傍の液晶分子は電圧印加によりランダムな方位角に傾倒し始めることとなり、隣接する液晶分子同士が衝突するなどが生じることにより、安定した液晶配向を実現することはできない。
例えば実施例6で見た場合、液晶分子は本件特許の図11が指摘する方向とは異なった傾き角に配向することとなる。
本件特許の「導電リブ態様」では、リブ斜面の配向傾斜部による配向制御が困難であり、また、分割の境界位置が安定せず、さらに、構造物による配向の制御が実質上不可能となっている(16?18頁)。
(イ)第7実施例及び第10実施例について
甲第5号証の実験結果をみると、配向制御窓を用いている第7実施例(図13、14参照)及び第10実施例(図19、20)においては、他の実施例と比較すると、相対的に配向の安定がもたらされているように見えるが、配向の相対的安定は、主として「配向制御窓」(スリット)によってもたらされるものであり、「配向制御傾斜部」が寄与するものではない(18頁)。
(2)審判事件弁駁書
ア <本件特許明細書における、本件訂正発明1の実施可能な記載について>
(ア)本件訂正発明1は、本来「導電リブ態様」に係る発明である。
即ち、本件原出願当初明細書の「特許請求の範囲」の請求項1の記載は、その意味するところを明確化するために言葉等を補えば、「前記電極の少なくとも一方の(電極の)前記表示画素の周縁または/および領域内には、前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられ」となることからみても、対向する2枚の電極の少なくとも一方の電極に配向制御傾斜部が設けられ、配向制御傾斜部の設けられる位置が、前記表示画素の周縁または/および領域内であることが明瞭に読み取れるものである。
また、原出願当初明細書の発明の詳細な説明には、配向制御傾斜部に関して、透明電極の下に配向制御断層が配置されて透明電極に傾斜部が形成される態様(導電リブ態様)のみが開示されている。
更に、原出願の【要約】欄にも、透明電極の下層に配向制御傾斜部を設け電極に傾斜部を形成するという構成(「導電リブ態様」)が明示されている。
したがって、原出願は、本来、導電リブ態様に係るものであり、本件訂正発明1もそのような導電リブ態様を継承しているのであるから、「導電リブ態様」に係る発明として理解すべきものである(4?5頁)。
(イ)原出願当初明細書の段落【0015】における「前記第1の構成」とは、当初明細書の請求項1に記載された構成(導電リブ態様)を意味するものであり、上記段落【0015】の記載は、導電リブ態様を前提として、その作用を説明するものである。
一方、本件明細書の段落【0018】においては、上記原出願当初明細書の段落【0015】の「前記第1の構成で、」との記載が削除され、恰も、「導電リブ態様」以外の態様をも含むかの如く記載が曖昧化されたが、上記のように、原出願が導電リブ態様に係るものであり、本件出願が適法に分割されたものと主張される以上、本件訂正発明1の構成も、「導電リブ態様」に係る発明として理解すべきものである(5?6頁)。
イ <実施例において、電界の方向と液晶の初期配向方向が所定の角度をなすこと>
「導電リブ態様」において、電界の方向と初期配向方向とが完全には一致しなかったとしても、ほぼ一致するのであるから、電界による配向制御力は殆どなく、初期の配向状態は液晶の揺らぎの影響を大きく受け、ランダムに液晶が配向する。さらに、本件特許のような「導電リブ態様」では、厳密にいえば、傾斜部だけではなく平坦部においても電界の方向と初期配向方向とが完全には一致せず、しかも傾斜部における傾きと平坦部における傾きとが反対方向であることから、リバースチルトが発現し、表示画素内の液晶の配向方向は傾斜部における初期配向方向に基づいて決定されない(6頁)。
ウ <一般技術常識に基づく、液晶の初期配向方向と電界の発生に関する当業者の理解>
(ア)平坦な電極の近傍の等電位面が右上がりに曲がることにより、理論的には、垂直に配向した液晶分子は、等電位面に沿う方向、即ち右上がりの方向に時計回りで傾くことになる。
他方、傾斜部を有する電極面の近傍の等電位面についてみると、平坦部においては他方の基板と同様に右上がりに曲がるが、傾斜部においては、傾斜面に対して左上がりに曲がる。液晶分子の挙動についてみると、平坦部においては、他方の基板と同様に、理論的には、垂直に配向した液晶分子は、等電位面に沿う方向、即ち右上がりの方向に時計回りで傾くことになる。しかし、傾斜部においては、傾斜面に垂直に配向した液晶分子は、左上がりの等電位面に沿う方向、即ち傾斜面に対して左上がりの方向に反時計回りで傾くことになる。そうすると、液晶分子の配向方向が、反時計回りの左上がりの領域と時計回りの右回りの領域の2つの領域が同一画素内に存在することになるから、リバースチルトが発現することになる。
表示画素全体の液晶の配向方向についてみれば、被請求人が主張するような液晶の配向制御は行われない(7?8頁)。
(イ)請求人は、「導電リブ態様」における電圧印加時の液晶の配向方向を確認するため、コンピュータシミュレーションを行った(甲第6号証の1?3)。
a シミュレーション結果等
(a)シミュレーション結果の概要
電圧印加時、液晶層中の各厚さ方向の位置の液晶分子は等電位面と平行となるよう安定的な回転作用を受け、傾斜面近傍の液晶分子は、その近傍以外の領域における液晶分子とは逆向きに傾倒し、画素内の液晶全体としての配向とも逆の方向に配向する(リバースチルトの発現)(9?11頁)。
(b)シミュレーション解析結果の考察
表示画素内のうち「傾斜部」によって規定された領域と被請求人が主張する特定する部分におけるセル厚方向を考えた液晶層全体の配向方向はその傾斜面に基づいた被請求人が主張する向きとは反対方向に形成される結果となった。
今回のシミュレーション解析結果により、「傾斜部」付近において、印加電圧の高低に拘わらず液晶層にリバースチルトが発生していることから、傾斜面付近の液晶分子の向きのみを以って配向方向が特定されると考えることは、根拠がない主張である(11頁)。
エ <電界の方向と液晶の初期配向方向の間の「所定の角度」は小さくてよいこと>
仮に、「導電リブ態様」において、電界の方向と初期配向方向が、ある程度の「所定の角度」を有するとしても、本件特許のような「導電リブ態様」ではリバースチルトが発現し、液晶の配向制御の作用が適切に実現できない(12頁)。
オ <導電リブ態様が実施可能であることを示す請求人の特許出願>
被請求人が引用した特開2000-321578号公報(乙第1号証)は、本件特許の出願後に公開された公開公報であり、本件の改良発明を開示するものではなく、本件と直接的な関連を有するものではないから、本件特許明細書の実施可能性を示す傍証とはなり得ないものである(12頁)。
カ <小括>
「導電リブ態様」において、電界の方向と初期配向方向が、完全に一致しておらず、若干の傾きを有するとしても、本件特許のような「導電リブ態様」ではリバースチルトが発現し、液晶の配向制御が適切にできない。そして、本件明細書には、このようなリバースチルトの発現を防止するための具体的条件に関する記載が一切ないのであるから、本件特許明細書の記載では実施不能と言うほかはなく、本件特許の明細書は、平成6年法改正前の特許法36条4項実施可能要件を満たさないものである(13頁)。
キ <請求人の主張する無効理由1の根拠の誤り>
(ア)<導電リブ態様では十分な液晶の応答特性が得られないとの主張について>
導電リブ態様では、液晶表示装置に必要とされる応答特性が得られないことを指摘したものである(13頁)。
(イ)<導電リブ態様では電界方向と液晶配向方向が一致するという請求人の主張の誤り>
a 「等電位面は反対側の電極に向かうにしたがって、基板に平行になる」との被請求人の主張は誤りである(14頁)。
b 答弁書21頁の図は誤りである。電極面上の垂直配向膜に接触している液晶分子は、垂直配向膜と液晶分子との相互作用が極めて強いため、電界の影響を受けてもその配向方向(電極面に垂直)の変化は殆ど起きない(14頁)。
c 本件の図11は、そもそも、液晶分子の傾きの方向が逆なのであるから、中間調を表示する電圧が印加された状態を表しているとしても、液晶分子の傾きの方向は逆向きであるべきである(15頁)。
(ウ)<請求人の行った実験について>
甲第5号証の実験報告書のサンプルの諸元に関しては、本件明細書に記載された実験条件と本件出願当時の当業者が想起し得る条件に従ってサンプル液晶セルを作成したものであって、被請求人が主張するように、失敗するように選択して行った実験ではない。本件特許の実施例には、液晶セルの膜厚、画素サイズ、液晶材料の特性等の条件について具体的な記載が一切ないため、これらの条件については、当分野における標準的な値の範囲で表1のように設定したものである(16頁)。
導電リブ態様は、液晶の配向に殆ど影響せず、導電リブ態様によって実現される液晶の配向は、導電リブ態様によって分割されるゾーンとは無関係に画素全体にわたって不均一なディスクリネーションが出現するものである(22頁)。
(3)口頭審理陳述要領書
ア 原出願当初明細書等の記載内容について
原出願当初明細書等には、「導電リブ態様」のみが記載され、その余の構成は一切記載されていなかった(4頁)。
イ 導電リブ態様による液晶の配向について
請求人が提出した甲第6号証の3(シミュレーション結果(3))において、全体として各等電位線は右肩上がりとなっているが、傾斜面の近傍においては、等電位線(等電位面)が傾斜面に対して左肩上がりとなっている。このため、負の誘電異方性を有する液晶分子は、全体としては、右肩上がりの等電位線に長軸が平行となるように時計回りに傾くことになるが、傾斜面の近傍においては、傾斜面に対して左肩上がりの等電位線に長軸が平行となるように反時計回りに傾くことになる。
液晶層内の各ポイントにおける液晶の配向の特徴は、以下のとおりである。
ポイントA)傾斜面にごく近い部分では、等電位面は傾斜面を基準に考えると左肩上がりに傾斜する。このため電圧印加時に液晶は左回りに動こうとする。
ポイントB)傾斜部から少し離れた領域では等電位線は大きく右肩上がりに傾き、初期配向が上側の基板に対しほぼ垂直に向いていたこの付近の液晶分子は右方向に回転し、等電位面と平行になるように傾く。
ポイントC)上側の基板近くの傾斜部に対応する領域及び下側の基板の傾斜部以外の平坦領域では、等電位面が右肩上がりに傾斜する。従ってこの付近の液晶分子は電圧印加時に右肩上がりの等電位面に平行になるよう傾き、即ち右回りに動こうとする。
電圧印加時、液晶層中の各厚さ方向の位置の液晶分子は等電位面と平行となるよう安定的な回転作用を受けるが、液晶の相互作用があるため、液晶の配向自体はセル内全体で決定される。そして、傾斜面近傍の液晶分子は、その近傍以外の領域における液晶分子(時計回り)とは逆向きに傾倒し、画素内の液晶全体としての配向(時計回り)とも逆の方向(反時計回り)に配向していること(リバースチルトの発現)がわかる。
この導電リブ態様による液晶の配向制御は、シミュレーション結果(甲第6号証の1、2)からも明らかとなる。そのシミュレーション結果によれば、本件特許の明細書で具体化された配向制御傾斜部(導電リブ態様)による配向制御は、傾斜面によって、傾斜面に垂直に配向された傾斜面近傍の液晶分子は、電界によって反時計回りに配向するように作用するが、それ以外の領域(平坦部を含む)は電界によって時計回りに配向するように作用するため、結局全体としては、傾斜面近傍とは反対の時計回りに配向するように配向ベクトルが決定されることになる。
但し、実際の液晶分子の配向は現実の液晶表示装置を用いた実験結果(甲第5号証)に示すとおり、導電リブ態様による液晶の配向制御が弱く、その他の不確定要素の影響が強いため、導電リブ態様によって分割されるゾーンとは無関係に画素全体にわたって不均一なディスクリネーションが出現する。
以上のとおり、導電リブ態様においては、各ゾーン内の液晶の配向が安定せず、配向の境界位置が不安定であるから、複数のゾーンヘの分割が適切に行えず「不均一なディスクリネーションの出現の防止」という効果を上げることはできない(8?11頁)。
ウ 甲第5号証の「実験報告書」の寸法関係の妥当性について
甲第10号証(特開平4-188110号公報)には、絵素電極(画素電極)の縁部に発生するリバースチルトの拡大を防止するために窒化シリコンや酸化シリコンで作成された突条を設け、その上に絵素電極を形成することにより絵素電極の緑部に突出段差領域を形成すること、当該突出段差領域の高さを1000Å(0.1μm)以上とするとリバースチルトの拡大防止(ディスクリネーションラインの突出段差領域による固定)に効果があること等が記載され、画素電極の下部に設けた突条の高さを0.1μm以上とすればリバースチルトの拡大防止に効果があることが示されているのであるから、このような甲第10号証の記載をも勘案すれば、液晶分子配向制御断層の高さを0.35μmと設定することに被請求人の主張するような問題はなく、0.35μmは常識的な値であるということができる。
また、甲第11号証(「フラットパネルディスプレイ大事典」288頁)には、「配向膜は厚さ数十nmのポリイミド樹脂であり」との記載があり、この記載からみて、配向膜の厚さを、数μm/100程度とすることが常識的な設定と考えられるから、配向膜厚を0.02-0.03μmとすることは常識的な範囲のものということができる。
したがって、甲第5号証の「実験報告書」の寸法関係等に関する被請求人の批難は失当である(11?12頁)。
エ (審理事項通知書の)争点について
(ア)本件特許の原出願当初明細書等には、「導電リブ態様」に係る構成のみ記載され、その余の構成は一切記載されていないから、本件特許が「導電リブ態様」に関するものであることは明らかである。
そうすると、被請求人の「『導電リブ態様』とは、実施例において採用された構造であるが、電極に傾斜した部分を形成することは、本件発明1や構成要件要素ではない。」(答弁書6頁)との主張は、原出願当初明細書等に記載のない構成を特許請求の範囲に包含させることを意図するものであるから失当である。
また、被請求人の本件明細書の段落【0018】に係る主張も、段落【0018】の記載が、導電リブ態様の作用の説明としては妥当ではなく、段落【0018】の作用の理解に基づいて本件発明を適時実施することができず、また、本件特許の明細書に接した当業者が、段落【0018】の記載等から、本件訂正発明1の液晶の配向制御の作用が実現するような寸法関係等の具体的条件を適宜選択することも不可能であるから、失当である(12頁)。
(イ)導電リブ態様しか開示していない本件特許の明細書の記載によっては、「不均一なディスクリネーションの出現の防止」等の効果を得られるように本件発明1ないし5を実施することができないから、本件特許の「発明の詳細な脱明」には、その発明の目的、構成及び効果が、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されておらず、また、発明として未完成のものである。仮に、導電リブ態様で「不均一なディスクリネーションの出現の防止」等の作用効果を奏するための特殊な条件が存在するのであれば、それを開示しなければ発明が実施できないことは当然のことであるが、導電リブ態様で明細書記載の作用効果を奏するための具体的条件等は明細書にー切記載がないのであるから、本件特許が実施可能要件を充足しないものであるとともに、未完成発明であることは明らかである(12?13頁)。
(4)上申書
ア <本件特許明細書における、本件訂正発明1の実施可能な記載について>
(ア)原出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1は、『前記電極の少なくとも一方の(電極の)前記表示画素の周縁または/および領域内には、前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられ』が自然な読解であり、対向する2枚の電極の少なくとも一方の電極に配向制御傾斜部が設けられ、配向制御傾斜部の設けられる位置が、前記表示画素の周縁または/および領域内であることが明瞭に読み取れるものである。
また、特許請求の範囲は当初明細書の記載事項の範囲内で変更することのみが許容されているものであり、原出願当初明細書には、『導電リブ態様』のみ記載され、その余の構成は一切記載されていないのであるから、本件特許もそのような導電リブ態様を継承するものであって、「導電リブ態様」に係る発明として理解すべきものなのである(4?5頁)。
(イ)原出願当初明細書の段落【0015】における「前記第1の構成」とは、原出願当初明細書の請求項1に記載された構成(導電リブ態様)を意味するものである(5頁)。
イ <実施例において、電界の方向と液晶の初期配向方向が所定の角度をなすこと>
「導電リブ態様」においては、電界の方向と初期配向方向とがほぼ一致するのであるから、電界による配向制御力は殆どなく、初期の配向状態は液晶の揺らぎの影響を大きく受け、ランダムに液晶が配向する。さらに、電界の方向と初期配向方向が、ある程度の「所定の角度」を有するとしても、傾斜部だけではなく平坦部においても電界の方向と初期配向方向とが完全には一致しないので、リバースチルトが発現し、液晶の配向制御の作用が適切に実現できない(6頁)。
ウ <一般技術常識に基づく、液晶の初期配向方向と電界の発生に関する当業者の理解>
◎被請求人の行ったシミュレーションについて
被請求人の行ったような3次元シミュレーションは、2次元シミュレーションに比して膨大な計算を必要とする。LCDMasterの三次元計算にてリブ形状を計算する場合、特に空間メッシュを細かくとらなければならない。空間メッシュ0.4μm、縦方向倍率4倍、時間刻み0.5μsで2.2msまでの計算に230時間を要した。20msまで計算するには約2090時間(87日)の計算が必要である。2次元計算で正確な結果を得るために必要とされた時間刻み0.2μsを採用した場合は、20msまで計算するには約5230時間(217日)かかり、膨大な計算時間がかかる。被請求人は、計算時間を優先的に考慮して計算精度を犠牲にしたシミュレーション条件を設定したものと推論され、被請求人の行ったシミュレーションは極めて不適切なものといわざるを得ない。時間刻みが十分小さな値に取られていないと推察される被請求人の行った3次元シミュレーション結果は信頼性に欠けるものである(12?13頁)。
略同等のシミュレーション条件で請求人の行った上記シミュレーション検証結果(甲第12号証)によれば、時間刻みが1μsでシミュレーション解は一応収束はするものの、その解は信頼性の欠けた偽の解であり、正確な結果(シミュレーション解)を得るには時間刻みを0.2μs程度としなけれぱならない。10μs程度の極めて大きな時間刻みを使用していると推察される被請求人の3次元シミュレーションでは、信頼性のある結果が得られない(15頁)。
エ <導電リブ態様では十分な液晶の応答特性が得られないとの主張について>
導電リブ態様では、液晶の配向は100ms後でも安定しないことから、コンピュータや携帯機器のディスプレイに利用される場合であっても、液晶表示装置に必要とされる応答特性を得ることなどできない(16頁)。
オ <請求人の行った実験について>
(ア)「サンプルの諸元」
実験によりリブの影響のみを適切に検証するためには、傾斜部以外の部分の影響を極力排除する必要があるところ、実験に使用されたサンプルは、このような点をも考慮し、本件明細書に記載された実験条件と本件出願当時の当業者が想起しうる条件に従って作成されたものである(17頁)。
a 窒化シリコン膜厚
窒化シリコン膜厚に関しては、窒化シリコンをエッチングして配向制御断層を形成することから、当時の当業者が製造し得る常識的な値として0.35μmを採用したものである(17頁)。
b 垂直配向膜の膜厚
配向膜の素材は、ポリイミド系樹脂を採用し、その厚さは、その材料で垂直配向する能力を有する膜厚(0.02-0.03μm)を採用したものである(18?19頁)。
配向膜印刷版の製造メーカー(株式会社コムラテック)のホームページ等によれば、ポリイミド樹脂の配向膜は、一般に印刷法で作成されるが、その厚さの範囲は、30?150nm(0.03?0.15μm)程度であり(株式会社コムラテックのHP(甲第13号証)、このような点からみても、0、02-0.03μmという配向膜の厚さは「常識的な数値」といえる(19頁)。
c リプのテーパ角
乙第4号証には、本件特許のような「導電リブ態様」は記載されておらず、また、乙第4号証に記載された「リブ」の材料は、好適には「感光性樹脂」であって、本件特許の窒化シリコンとは異なるものである(19?20頁)。
d 配向膜の形成
ポリイミド樹脂の配向膜は、一般に、スピンコートとは異なる手法である印刷法で作成される(20頁)。
(イ)「初期配向における光抜け」
甲第5号証のサンプルは、導電リプ態様では『不均一なディスクリネーションの出現の防止』等の作用効果を奏することができないことを検証するためのものであり、その検証に支障を生ずるような光漏れ等がないよう適切に作成されたものである(20?21頁)。
(ウ)「リブのプロポーション」
サンプル液晶セルは、本件明細書に記載された実験条件と本件出願当時の当業者が想起し得る条件に従って作成されたものであって、本件特許の記載から素直に理解し、想定する形状といえるものである(21頁)。
(エ)<発明未完成の主張について>
導電リブ態様が「不均一なディスクリネーションの出現の防止」等の作用効果を奏することはできない(21頁)。

2 無効理由2(進歩性の欠如)
(1)審判請求書
ア 刊行物1及び2の記載
(ア)刊行物1(SID 92 DIGEST、1992、pp405-408;甲第3号証)には、刊行物発明1として、次の構成が開示されている。
(刊行物発明1)
α.2枚の基板間に液晶が封入され、表示画素を有する液晶表示装置において、
β.前記2枚の基板の一方は凸状表面や凹状表面を有し、
γ.前記2枚の基板の他方も、凸状表面や凹状表面を有し、
δ.電圧不印加状態の液晶の配向方向は、凸状表面や凹状表面に施されたホメオトロピツク配向処理によって決定され、電圧印加により、液晶の配向方向が電圧不印加状態の液晶の配向方向と電界とに基づいて決定される、
a1.ことを特徴とする液晶表示装置(21?22頁)。
(イ)刊行物2(特開平6-43461号公報;甲第4号証)には、刊行物発明2として、次の構成が開示されている。
(刊行物発明2)
a.底面電極が形成された第1の基板と、主面電極(共通電極)が形成された第2の基板と、該第1の基板と該第2の基板との間に配置された液晶材料とからなる液晶表示装置において、
b.前記第1の基板に形成された底面電極は、表示素子を1個以上の液晶ドメインに分割するために、その中に長方形の切り取り部を有し、
c.前記第2の基板に形成された上面電極は、表示素子を1個以上の液晶ドメインに分割するために、その中に空き部分のパターンを有し、
d.それぞれのドメインにおいて液晶分子のディレクタを、電場の無いときは基板に対して垂直になっているのに対し、電場が印加されたときは、常に画素の中心へ向かって傾くように配向し、各ドメインにおいて、一定の境界条件と明確な傾斜方向が、個々の液晶分子に対して確立される
a1.ことを特徴とする液晶表示装置(24?25頁)。
イ 刊行物1(甲3)を主引用文献とする進歩性欠如(無効理由2-1)
(ア)本件発明1
a 本件発明1と刊行物発明1(甲3)との対比
本件発明1と刊行物発明1とは、以下の点において一致する。
A 対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、
B 前記第1の基板には、前記液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、
C’前記第2の基板には、配向制御要素が設けられており、
D’前記配向制御傾斜部及び前記配向制御要素によって液晶の配向方向を制御する
A1 ことを特徴とする液晶表示装置(26頁)。
そして、本件発明1と刊行物発明1とは、以下の点において相違する。
相違点1
前者が、第2の基板に電極が開口されてなる配向制御窓を設け、配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって液晶の配向方向を制御するのに対し、後者は、基板の他方に凸状表面や凹状表面を設け、両方の基板に設けた凸状表面や凹状表面によって液晶の配向方向を制御する点(26頁)。
b 上記相違点1についての検討
刊行物2(甲第4号証)には、「従来の技術」として、視野角によるコントラストの変化を防止するため、一方の基板(その上に能動素子を有していない)の断面を三角状あるいは鋸状に形成することによって、異なる領域間のコントラスト比の平均化を図ることが示され、このような従来技術に示される基板の断面形状に替えて、基板に配置された電極に開口(配向制御窓に相当)を設けることにより同様の作用効果を得るという技術思想が開示されている。
そして、特殊な表面形状や電極に設けた開口を、基板の一方又は双方に形成してドメイン内での液晶の配向方向を制御することも、刊行物1(甲3)や刊行物2(甲4)に示されており公知の事項である。また、刊行物1(甲3)には、電極に設けた開口を用いる代わりに、基板に設けた特殊な表面形状を用いてドメインの分割を行うという技術思想も示されている。
そうすると、上記刊行物1及び2の記載等を勘案すれば、ドメインの分割に際して、電極に設けた開口を用いることと、基板に設けた特殊な表面形状を用いることとは、ドメインの分割に対して同等の作用効果を奏する置換可能な技術と認められるから、刊行物発明1において、基板の他方に凸状表面や凹状表面を設けることに替えて、当該基板に配置された電極に開口を設けるように構成することは当業者が容易に想到し得たものと認められる(26?27頁)。
(イ)本件発明2
本件発明2を刊行物発明1と対比すると、上記相違点1に加え、構成E「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの少なくとも一方は、1つの表示画素内に複数配置され、それらの間に、他方が配置される」点が、刊行物発明1には明示されていない点において相違する(相違点2)が、上記相違点2に係る構成は、例えば、刊行物2(甲第4号証;段落【0029】?【0032】、図5?7参照。)に示されるような公知の構成に基づき、当業者が容易に想到し得たものである(27頁)。
(ウ)本件発明3
本件発明2を刊行物発明1と対比すると、上記相違点1に加え、構成F「前記1画素内に複数配置される前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの一方のほぼ中央に、他方が配置される」点が、刊行物発明1には明示されていない点において相違する(相違点3)が、上記相違点3に係る構成は、例えば、刊行物2(甲第4号証;段落【0029】?【0032】、図5?7参照。)に示されるような公知の構成に基づき、当業者が容易に想到し得たものである(27?28頁)。
(エ)本件発明4
本件発明4を刊行物発明1と対比すると、上記相違点1?3に加え、構成G「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素内に線状に形成されている」点が、刊行物発明1には明示されていない点において相違する(相違点4)が、上記相違点4に係る構成は、例えば、刊行物2(甲第4号証;段落【0029】?【0032】、図5?7参照。)に示されるような公知の構成に基づき、当業者が容易に想到し得たものである(28頁)。
(オ)本件発明5
本件発明4(審決注:「本件発明5」の誤りと認める。)を刊行物発明1と対比すると、上記相違点1?4に加え、構成H「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素の領域内に直線形状で形成されている直線部分を有する」点が、刊行物発明1には明示されていない点において相違する(相違点5)が、上記相違点5に係る構成は、例えば、刊行物2(甲第4号証;段落【0031】、【0032】、図6、7参照。)に示されるような公知の構成に基づき、当業者が容易に想到し得たものである(28頁)。
ウ 刊行物2(甲4)を主引用文献とする進歩性欠如(無効理由2-2)
(ア)本件発明1
a 本件発明1と刊行物発明2(甲6(審決注:「甲4」の誤りと認める。))との対比
本件発明1と刊行物発明2とは、以下の点において一致する。
A 対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、
B’前記第1の基板には、配向制御要素が設けられ、
C 前記第2の基板には、前記電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、
D’前記配向制御要素及び前記配向制御窓によって液晶の配向方向を制御する
A1 ことを特徴とする液晶表示装置(29頁)。
そして、本件発明1と刊行物発明2とは、以下の点において相違する。
相違点6
前者が、第1の基板に液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部を設け、前記配向制御傾斜部及び配向制御窓によって液晶の配向方向を制御するのに対し、後者は、第1の基板に、長方形の切り取り部を有する電極を形成し、第1の基板に設けた電極の切り取り部及び第2の基板に設けた電極の空き部分のパターンによって液晶の配向方向を制御する点(29頁)。
b 上記相違点6についての検討
刊行物1(甲第3号証)には、対称な視野角性能を得るために、スリットを有する電極構造によって生成されたフリンジ・フィールドに基づいてドメインを分割する代わりに、基板の幾何学形状に基づいてドメインを分割するという技術思想が開示されている。
そして、特殊な表面形状や電極に設けた開口を、基板の一方又は双方に形成してドメイン内での液晶の配向方向を制御することも、刊行物1(甲3)や刊行物2(甲4)に示されており公知の事項である。また、刊行物2(甲4)には、基板の断面形状に替えて、基板に配置された電極に開口(配向制御窓に相当)を設けることにより領域間のコントラスト比の平均化を図るという技術思想が開示されている。
そうすると、上記刊行物1及び2の記載等を勘案すれば、ドメインの分割に際して、電極に設けた開口を用いることと、基板に設けた特殊な表面形状を用いることとは、ドメインの分割に対して同等の作用効果を奏する置換可能な技術と認められるから、刊行物発明2において、第1の基板に配置された電極に開口部を設けることに替えて、当該基板に配向制御傾斜部を設けるように構成することは当業者が容易に想到し得たものと認められる(29?30頁)。
(イ)本件発明2
本件発明2を刊行物発明2と対比すると、本件発明2の構成E「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの少なくとも一方は、1つの表示画素内に複数配置され、それらの間に、他方が配置される」点について、刊行物2には、長方形の切り取り部及び空き部分のパターンを表示画素内に複数配置し、一方の間に他方が配置される構成が開示されている(甲第4号証;段落【0029】?【0032】、図5?7参照)。刊行物2のかかる開示内容は、「配向制御傾斜部」ではないことを除けば、本件発明2の構成に対応しており、「配向制御傾斜部」については、上記相違点6において述べたとおり、刊行物1(甲第3号証)に示されるような公知事項を刊行物発明2に適用することにより、当業者が容易に想到し得たものであるから、本件発明2は、当業者が容易に想到し得たものである(30頁)。
(ウ)本件発明3
本件発明3の構成F「前記1画素内に複数配置される前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの一方のほぼ中央に、他方が配置される」点については、本件発明2と同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものである。(30?31頁)。
(エ)本件発明4
本件発明4の構成G「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素内に線状に形成されている」点について、刊行物発明2の切り取り部及び空き部分のパターンは、いずれも表示画素内に線状に形成されており(甲第4号証;段落【0029】?【0032】、図5?7参照)、「配向制御傾斜部」ではないことを除けば、本件発明4の構成に対応している。「配向制御傾斜部」については、上記相違点6において述べたとおり、刊行物1(甲第3号証)に示されるような公知事項を刊行物発明2に適用することにより、当業者が容易に想到し得たものであるから、本件発明4は、当業者が容易に想到し得たものである(31頁)。
(オ)本件発明5
本件発明5を刊行物発明1と対比すると、本件発明5の構成H「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素の領域内に直線形状で形成されている直線部分を有する」点については、本件発明4と同様の理由により、当業者が容易に想到し得たものである(31頁)。
(2)審判事件弁駁書
ア <甲第3号証について>
(ア)甲第3号証には、周期的表面の形状として、周期的な三角歯波形表面以外に、例えば、周期的な凹状表面や凸状表面も使用できることが明記されており、このような凸状や凹状の表面形状を採用した場合においては、周期的に配置された凹状表面又は凸状表面の端部では急峻な傾斜が、中央部では徐々に緩やかになるものであり、液晶分子の初期配向方向は、中央部に比べて急峻な傾斜を有する端部の影響を強く受けるものである。
甲第3号証においても、周期的な凹状表面や凸状表面の端部と中央部との間で液晶分子に対する初期配向作用に差異があるのであるから、甲第3号証記載の凹状表面や凸状表面も、本件特許の配向制御傾斜部と同様の初期配向作用を有するものといえるものである(23?24頁)。
(イ)甲第3号証には、電極構造によって生成されたフリンジフィールドに基づいてドメインを分割する代わりに、基板の幾何形状に基づいてドメインを分割するという技術思想が開示されており、また、甲第4号証には、基板の幾何形状に代えて電極構造を用いることによりドメインを分割することが示唆されている。
そして、甲第3号証や甲第4号証の上記開示内容等から、ドメイン分割の際の液晶ダイレクターの傾斜方向の制御の点に関し、電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらすことは明らかである(24頁)。
(ウ)被請求人は、「The periodic surface can be used for both substrates.」の解釈として、両方の基板に周期的表面を設ける場合は排除されていると主張するが、上記英文を素直に解釈すれば、両方の基板に周期的表面を設けることができることを意味していることは明らかである(24頁)。
イ <甲第4号証について>
甲第4号証には、基板の幾何形状に代えて電極構造を用いることによりドメインを分割することが示唆されており、一方、甲第3号証には、電極構造によって生成されたフリンジフィールドに基づいてドメインを分割する代わりに、基板の幾何形状に基づいてドメインを分割するという技術思想が開示されている。
甲第4号証には、本件訂正発明1の第1の基板に相当する下側の基板上の底面電極に長方形の切り取り部を設け、本件訂正発明1の第2の基板に相当する上側の基板上の上面電極に切り取り部(本件訂正発明1の「配向制御窓」に相当)を設けた構成が記載されており、本件訂正発明1との甲第4号証記載の発明(刊行物発明2)とは、本件訂正発明1が第1の基板に「配向制御傾斜部」を設けているのに対し、刊行物発明2では、第1の基板に相当する下側の基板上の底面電極に長方形の切り取り部を設けている点で相違するものである。
そうすると、甲第3号証や甲第4号証の開示内容等から、電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらすことが明らかである以上、電極構造(底面電極に設けた長方形の切り取り部)に代えて基板に幾何形状を設け、上記相違点に係る構成とすることは、当業者であれば当然試みる程度のことである(26頁)。
ウ <無効理由2-1における容易性の議論について>
液晶の連続体性は、液晶が弾性体として作用し配向が隣接する領域に伝搬するという液晶に通有する性質であつて、甲第3号証においても、中央部に比べて急峻な傾斜を有する凸状や凹状の端部の影響により、端部から中央部に配向の伝搬が生じることにより、実質的に液晶の連続体性によって液晶分子の配向か行われるものと認められる。
因みに、液晶と接する表面に凸部を設け、この凸部の作用により液晶分子の連続体性に基づいて液晶の配向を制御することも、例えば、特開平6-18885号公報(甲第7号証)に示されるように従来から知られていることである。
また、画素の周囲及び電極の切り取り部分の電界により液晶ダイレクターの傾斜方向を制御することは、甲第4号証以外にも、例えば、甲第8号証に示されるように周知のものである。そして、画素の周囲及び電極の切り取り部分の電界により液晶ダイレクターの傾斜方向を制御する液晶表示装置の液晶分子の挙動については、例えば、甲第9号証(特開平8-220511号公報)に、上記甲第8号証のような垂直配向ECBモードの液晶表示装置を含む、従来の配向制御窓及び配向制御電極を用いた液晶表示装置が段落【0004】に列挙され、そのような液晶表示装置における液晶の連続体性による液晶の配向の伝搬について、【0005】、【0006】に纏められている。
即ち、甲第9号証の上記記載等も勘案すれば、当業者であれば、甲第4号証においても、液晶の連続体性によって画素領域全域に亘り液晶の配向方向が制御できると容易に理解できる。
そうすると、ドメイン分割の際の液晶の配向に液晶の連続体性が介在している点において、甲第3号証及び甲第4号証で特に異なるものではなく、電極構造と基板の幾何形状がドメイン分割において液晶分子に同等の配向作用をもたらすものであることは、上記の点からも容易に理解できる。
なお、被請求人は、「仮に、一方の基板に甲第3号証の周期的表面を形成し、他方の基板に甲第4号証の開口を形成するという構成について考えると、開口には周期的表面すなわち傾斜面が対向することになる。…」とも主張するが、甲第3号証には、周期的表面の形状として、例えば、周期的な凹状表面や凸状表面も使用できることが開示されており、このような凸状や凹状の表面形状においては、端部に比べ中央部で緩やかな傾斜を有するものであって、液晶分子の初期配向方向は、中央部に比べて急峻な傾斜を有する端部の影響を強く受けるものであり、中央部に相当する部分に対向して配向制御窓を設けた場合に、甲第4号証と同様、ディスクリネーションの位置が当該配向制御窓で固定されることから、被請求人の主張するような不都合は生じない(29?31頁)。
エ <無効理由2-2における容易性の議論について>
甲第3号証や甲第4号証の開示内容等から、ドメイン分割の際の液晶ダイレクターの傾斜方向の制御の点に関し、電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらすものである以上、液晶分子に同等の配向作用をもたらす電極構造と基板の幾何形状とを併用することは、当業者であれば当然試みる程度のことである(32頁)。
(3)口頭審理陳述要領書
ア 刊行物発明1(甲3)を主引例とする容易想到性について
甲第3号証には、表面形状として、三角歯形状以外に、凸状や凹状の表面形状も含まれることが記載されており、このような凸状や凹状の表面形状においては、端部に比べ中央部で緩やかな傾斜を有するものであって、液晶分子の初期配向方向は、中央部に比べて急峻な傾斜を有する端部の影響を強く受ける。
一方、甲第4号証は、垂直配向液晶表示装置において、電圧印加時に、ドメインを画定する画素の周囲及び電極の切り取り部分の縁における電場により、液晶分子を傾け、画素の周囲及び電極の切り取り部分の内側の平坦な領域における液晶層に、その傾きを伝搬させて、各ドメインにおいて所定の配向方向を得るものであり、そのような傾きの伝搬において、液晶が弾性体として作用し配向が隣接する領域に伝搬するという性質である「液晶の連統体性」が介在しているものである。
そして、甲第3号証には、電極構造によって生成されたフリンジフィールドに基づいてドメインを分割する代わりに、基板の幾何形状に基づいてドメインを分割するという技術思想が開示され、また、甲第4号証には、基板の幾何形状に代えて電極構造を用いることによりドメインを分割することが示唆されており、前述した「液晶の連続体性」も勘案すれば、ドメイン分割の際の液晶ダイレククーの傾斜方向の制御の点に関し、電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらすことは明らかである。
そうすると、電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらす以上、液晶分子に同等の配向作用をもたらす電極構造と基板の幾何形状とを併用することは、当業者であれば当然試みる程度のことにすぎない(16頁)。
イ 刊行物発明2(甲4)を主引例とする容易想到性について
甲第4号証には、基板の幾何形状に代えて電極構造を用いることによりドメインを分割することが示唆されており、一方、甲第3号証には、電極構造によって生成されたフリンジフィールドに基づいてドメインを分割する代わりに、基板の幾何形状に基づいてドメインを分割するという技術思想が開示されている。
そして、甲第3号証や甲第4号証の開示内容や、前述の「液晶の連続体性」に係る考察等から、ドメイン分割の際の液晶ダイレクターの傾斜方向の制御の点に関し、電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらすものである以上、液晶分子に同等の配向作用をもたらす電極構造と基板の幾何形状とを併用することは、当業者であれば当然試みる程度のことである(16?17頁)。
(4)上申書
甲第3号証には、液晶の連続体性に関する明示はないものの、液晶の連続体性は、液晶が弾性体として作用し配向が隣接する領域に伝搬するという液晶に通有する性質であって、端部での液晶の局所的な配向が、液晶の持つ連統体性のため中央部付近に広がり、液晶分子の配向制御が行われるものである(22頁)。
甲第4号証は、配向制御傾斜部によって液晶の配向制御を行うことを開示するものではないが、電圧印加時にエッジ電界により局所的に制御された配向が、液晶の持つ連続体性のため画素容量領域内に広がることを実質的に開示するものであり、液晶の連続体性によって画素領域全域に亘り液晶の配向方向が制御されるものである(23頁)。
被請求人は、出願後に頒布された刊行物(甲第9号証)は技術水準の認定等に当たり参酌できないとの独自の見解を披歴しているようであるが、出願後の刊行物による技術水準の認定は、従来より許容されている(23頁)。
甲第3号証及び甲第4号証の組合せに関しては、甲第3号証には、端部での液晶の局所的な配向が、液晶の持つ連続体性6ため中央部付近に広がり、液晶の配向制御が行われることが実質的に開示され、甲第4号証には、電圧印加時にエッジ電界により局所的に制御された配向が、液晶の持つ連続体性のため平坦な画素容量領域内に広がることが実質的に開示されており、また、液晶の局所的配向をもたらす作用が、甲第3号証では幾何学的形状によるものであり、甲第4号証ではエッジ電界によるものではあるものの、両者は、液晶に対し同等の作用をもたらすものであることを勘案すれば、甲第3号証と甲第4号証とを組み合わせる点に積極的な動機付けが存在するものである(24頁)。

3 無効理由3(サポート要件違反)
(1)審判請求書
ア 無効理由3の要約
本件発明1ないし5は、請求項2の記載によれば、配向制御窓の間に配向制御傾斜部が配置される態様をも包含するものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明にはこのような態様は一切記載されておらず、本件特許は、発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載している。
したがって、本件特許は、平成6年改正前特許法36条5項1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法123条1項4号の規定により無効とすべきものである(31?32頁)。
イ サポート要件違反
本件特許の請求項2の構成E「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの少なくとも一方は、1つの表示画素内に複数配置され、それらの間に、他方が配置される」という記載によれば、本件発明1?5は、配向制御窓の間に配向制御傾斜部が配置される態様をも包含するものと認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を見ても、本件発明2の実施例に相当するものと認められる第2の実施例(図3参照)及び第7の実施例(図13参照)に記載された態様は、配向制御傾斜部の間に配向制御窓が配置される態様であって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には配向制御窓の間に配向制御傾斜部が配置される態様は一切記載されていない(32頁)。
(2)審判事件弁駁書
被請求人の主張は、配向制御傾斜部を1画素内に複数設ければ、この中間に配向制御傾斜部が含まれることが自明との主張と理解されるが、被請求人の主張するような態様は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には示唆すらされていない。
また、被請求人は段落【0027】の記載を根拠に「配向制御傾斜部と、配向制御窓が交互に配置されることになるのは自明である」等主張するが、上記段落【0027】からは、被請求人の主張するような事項を読み取ることはできない(33頁)。
(3)口頭審理陳述要領書
本件特許明細書の発明の詳細な説明には配向制御窓の間に配向制御傾斜部が配置される態様は一切記載されておらず、本件訂正発明1?5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載しているものである(18頁)。
(4)上申書
被鏡求人の主張するような態様は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には示唆すらされていない(25頁)。

4 無効理由4(分割要件違反による出願日不遡及、新規性進歩性欠如)
(1)審判請求書
ア 無効理由4の要約
本件出願は、適法な分割出願ではないので、その出願日は、現実の出願日である平成11年9月10日となる。
即ち、原出願の当初明細書(甲第2号証参照)には、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成するという態様(「導電リブ態様」)のみが記載されているところ、本件発明1ないし5は、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成する点を曖昧化しており、原出願当初明細書の記載を逸脱した不適法なもの(特許法44条1項違反)である。
よって、本件発明1ないし5は、原出願の公開公報である特開平7-311383号公報(甲第2号証)に記載された発明と同一の発明であるか、微差を有するとしても、現実の出願日の技術水準を考慮すれば容易になし得る程度のものでしかなく、上記公開公報(甲第2号証)記載の発明から容易になし得たものであり、特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができないものである(32?33頁)。
イ 原出願当初明細書に記載された発明について
原出願当初明細書の請求項1の「電極の少なくとも一方の前記表示画素の周縁または/および領域内には前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられ」との記載から、対向する2枚の電極の少なくとも一方の電極に、表示画素の周縁または/および領域内に配向制御傾斜部が設けられ、それにより液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させている構成が示されている。また、このような構成は、明細書の記載からも裏付けられる。
なお、原出願当初明細書の段落【0015】には、【作用】として、「前記第1の構成で、基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を待った状態にある。このため、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定される。」との記載もあるが、第1の構成とは、前記原出願当初明細書の請求項1記載の構成を意味するものであるから、この記載は、出願人の認識する前記請求項1記載の構成に基づく作用を単に述べたものにすぎない(33?34頁)。
ウ 分割の不適法性
原出願当初明細書に記載された発明は、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成するという態様(導電リブ態様)に係るものであるところ、本件発明1ないし5は、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成する点を曖昧化しており、原出願当初明細書の記載を逸脱した不適法なもの(特許法44条1項違反)であるから、出願日遡及の利益(同条2項)を受けることはできない(34頁)。
エ 原出願の公開公報に基づく新規性進歩性欠如
本件特許は出願日遡及の利益を受けることができないから、現実の出願日(平成11年9月10日)に出願されたものである。よって、本件発明1ないし5は、現実の出願日より前に頒布された原出願の公開公報である特開平7-311383号公報(甲第2号証)に記載された発明と同一の発明であるか、微差を有するとしても、現実の出願日の技術水準を考慮すれば容易になし得る程度のものでしかなく、上記公開公報(甲第2号証)記載の発明から容易になし得たものである(34頁)。
(2)審判事件弁駁書
ア 原出願当初明細書の請求項1の記載は、その意味するところを明確化するために言葉等を補えば、「前記電極の少なくとも一方の(電極の)前記表示画素の周縁または/および領域内には、前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられ」となる。
そして、上記記載から、対向する2枚の電極の少なくとも一方の電極に配向制御傾斜部が設けられ、配向制御傾斜部の設けられる位置が、前記表示画素の周縁または/および領域内であることが明瞭に読み取れるものである。
被請求人は、「前記電極の少なくとも一方の」は「前記表示画素」に係ると主張するが、表示画素は、文字通り、液晶表示装置の表示の単位である画素を意味し、電極とは異なる概念であるから、電極の少なくとも一方が表示画素に相当することなどあり得ない(34?35頁)。
イ 平成24年4月3日付け訂正請求書により訂正された特許請求の範囲に記載された発明は、訂正前の特許請求の範囲に記載された発明を前提に訂正を行ったものであり、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成する点を曖昧化して原出願当初明細書の記載を逸脱した不適法な補正(訂正)を継承したものであるから、同様に、原出順当初明細書の記載の範囲を逸脱した不適法なものであり、同様に、出願日遡及の利益を受けることはできないものである。
よって、本件訂正発明1ないし5は、現実の出願日より前に頒布された原出願の公開公報である特開平7-311383号公報(甲第2号証)に記載された発明と同一の発明であるか、微差を有するとしても、現実の出願日の技術水準を考慮すれば容易になし得る程度のものでしかなく、上記公開公報(甲第2号証)記載の発明から容易になし得たものである(35?36頁)。
(3)口頭審理陳述要領書
原出願当初明細書の請求項1には、表示画素の周縁または/および領域内において、対向する2枚の電極の少なくともー方の電極に配向制御傾斜部が設けられ、それにより液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させている構成が明瞭に示されている。 原出順当初明細書に記載された発明は、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成するという態様(導電リブ態様)に係るものであるところ、本件訂正前の特許請求の範囲に記載された発明は、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成する点を曖昧化しており、原出願当初明細書の記載を逸脱した不適法なもの(特許法44条1項違反)であるから、出願日遡及の利益(同条2項)を受けることはできない(19?20頁)。
(4)上申書
訂正後の本件特許は、出願日遡及の利益を受けることができないから、現実の出願日(平成11年9月10日)に出願されたものであり、本件訂正発明1ないし5は、現実の出願日より前に頒布された原出願の公開公報である特開平7-311383号公報(甲第2号証)に記載された発明と同一の発明であるか、微差を有するとしても、現実の出願日の技術水準を考慮すれば容易になし得る程度のものでしかなく、上記公開公報(甲第2号証)記載の発明から容易になし得たものであり、特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができないものである(25?26頁)。

6 甲号証
請求人が平成24年1月18日にした審判請求に際して提出した甲号証は、以下のとおりである。

甲第1号証:特許第3011720号公報(本件特許公報)
甲第2号証:特開平7-311383号公報(原出願の公開公報)
甲第3号証:SID 92 DIGEST,1992,pp.405-4
08
甲第4号証:特開平6-43461号公報
甲第5号証:平成23年10月17日付け実験報告書

なお、請求人は、平成24年5月10日提出の審判事件弁駁書に添付して、以下の甲号証を提出した。

甲第6号証の1?3:シミュレーション実験結果(1)?(3)
甲第7号証:特開平6-18885号公報
甲第8号証:液晶討論会講演予稿集(1993-09-10)308頁
小間他「囲い電極電界制御法を用いたTFT-LCDの表示特
性」
甲第9号証:特開平8-220511号公報

また、請求人は、平成24年7月17日提出の口頭審理陳述要領書に添付して、以下の甲号証を提出した。

甲第10号証:特開平4-188110号公報
甲第11号証:「フラットパネルディスプレイ大事典」288頁(株)工
業調査会 2001年12月25日発行

また、請求人は、平成24年8月31日提出の上申書に添付して、以下の甲号証を提出した。

甲第12号証の1、2:シミュレーション検証結果(1)、(2)
甲第13号証:株式会社コムラテックHomePage抜粋
(http://www.komura-tech.co.jp/topshare.html)


第6 被請求人の反論の概要及び証拠方法
請求人が主張する上記第5の無効理由に対して、被請求人は、以下のように反論している。
1 無効理由1について
(1)審判事件答弁書
ア <本件特許明細書における、本件発明1の実施可能な記載について>
(ア)『導電リブ態様』とは、実施例において採用された構造であるが、電極に傾斜した部分を形成することは、本件特許発明1の構成要件要素ではない。この点に関係する本件発明1の構成要件は「前記配向制御傾斜部・・・によって液晶の配向方向を制御する」という構成である。そして、本件特許発明1において「配向制御傾斜部」を規定する構成要件は、「前記第1の基板には、前記液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ」ることのみであり、電極に傾斜した部分を形成することは構成要件上の限定事項ではない。実施例では、配向制御断層上に電極を設けた『導電リブ態様』が記載されているが、そのような態様は「液晶層との接触表面が隆起または陥没されてなる配向制御傾斜部」を形成する際の一例に過ぎない(6頁)。
(イ)本件特許発明1の(審決注:○で囲まれた数字を、以下便宜上「○1」等と表記する。)前記○3の構成(すなわち、「配向制御傾斜部・・・によって液晶の配向方向を制御する」)は、本件特許発明1の液晶配向制御の内容について規定するものであるが、この構成要件に関して、本件特許の原出願の当初明細書の段落【0015】であって、本件分割出願における段落【0018】には、「基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にある。このため、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定される。」との記載があり、これを垂直配向セルに限定した記載とすれば、「基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、初期配向方向が傾斜面に対して垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にある。このため、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定される。」となる。
すなわち、本件特許の段落【0018】は、配向制御傾斜部における液晶の配向制御について、電圧の印加されない状態での初期配向方向は、垂直配向膜の作用によって、傾斜面に垂直な方向に制御され、この初期配向方向は、電圧印加時の電界方向とは所定の角度を持った状態であることを述べており、そして、電圧が印加された時の液晶の配向については、傾斜部における液晶の初期配向方向と電界方向との間に所定の角度が存在するために、電圧印加により、最短でエネルギー的に安定な状態に傾斜するように、液晶の傾斜方向が束縛されることが記載されている。つまり、負の誘電率異方性を有する液晶は、電圧の印加によって電界(電気力線)に対して、垂直な方向に傾こうとするが、傾斜部が存在せず、電界の方向と液晶の初期配向方向が一致していると、電界の方向に垂直な平面内のどの方向に液晶が傾くかが決まらない。そこで、本件特許発明1では、配向制御傾斜部を設けて、液晶の初期配向方向が、電圧印加時における電界方向と所定の角度を持つようにすることで、電圧印加時に液晶分子が傾く方向を規制(束縛)するのである。
従って、本件明細書の実施例は、本件特許発明1の前記○1、○3の構成要件に対応する構造に関して、段落【0018】の作用を実現するように構成されるものであり、本件特許では、段落【0018】に記載された上記作用が物理学的に極めて明確であるから、実施例に関する明細書の具体的な記載事項のみから当該実施例の内容を把握するのではなく、上記作用が実現されるように実施例の内容を理解すべきものである。本件特許の明細書の記載を見た当業者は、段落【0018】の作用の理解に基づいて本件特許発明を適時実施することができるから、明細書の実施例の具体的記載事項として、当業者が適宜選択できる詳細事項まで記載する必要はない。
請求人は、垂直配向液晶セルにおける「導電リブ態様」では電界の方向と初期配向方向が「ほぼ一致する」と主張するが、本件特許においては、電界の方向と初期配向方向が「所定の角度」を有するように構成されることが、段落【0018】に液晶の配向制御の原理として記載されている。実施例に図示された構造の具体的な寸法関係等が記載されていなくても、本件特許の明細書を見る当業者は、段落【0018】の記載から、本件特許発明の液晶の配向制御の作用が実現するような寸法関係等の具体的条件を適宜選択することが可能である(6?8頁)。
イ <実施例において、電界の方向と液晶の初期配向方向が所定の角度をなすこと>
請求人は、本件特許の実施例の構造では、電極に傾斜部を設ける「導電リブ態様」であるため、電界の方向と初期配向方向が「ほぼ一致する」と主張するが、請求人が「ほぼ一致する」と言うのは、完全には一致しないことを認めている(9頁)。
ウ <一般技術常識に基づく、液晶の初期配向方向と電界の発生に関する当業者の理解>
(ア)液晶の配向と電界の形成はそれぞれ別の物理法則に従っている。したがって、請求人の問題とする、電極に傾斜部を形成した「導電リブ態様」の液晶表示装置であっても、液晶の初期配向方向と電圧印加時の電界の方向が当然に一致するものではない。まず、傾斜した電極を覆う垂直配向膜と接している液晶分子について考えてみると、液晶の初期配向方向は、配向制御傾斜部、すなわち垂直配向膜の液晶層との接触表面に対して垂直の方向である。一方、電界の方向を表す電気力線は、電極の表面において電極表面に対して垂直に形成され、直ちに対向する電極に向かって湾曲し始める。そうすると、傾斜した電極の表面と同電極を覆う垂直配向膜の表面とは、垂直配向膜の膜厚分だけ位置が異なるので、電気力線は、電極表面においてこれに垂直であっても、垂直配向膜の厚み分だけ離れた液晶層との接触表面においては、もはや、電極表面に対してすら垂直ではない。垂直配向膜の表面と接し、配向膜に対して垂直に配向している液晶分子の位置における電気力線の方向は、上記の通り電極表面に対し垂直な方向ではなく、液晶の初期配向方向とも一致しない(12頁)。
(イ)傾斜部における液晶に作用する電界の様子は、コンピュータシミュレーションによって、より具体的に知ることができる。上下2枚の基板のうち、下方の基板に傾斜した電極を設け、上方の基板の電極は平坦である場合の等電位面(線)を、コンピュータシミュレーションで求めた。配向膜の厚さは800Å(0.08μm)、2枚の基板の間隔は3.5μmで、台形の傾斜した部分の高さは1.0μm、傾斜角度は35°である。
このシミュレーションの結果の示す、傾斜部における液晶の初期配向方向と電界の方向の間の「所定の角度」は、傾斜部における位置によって同じではないが、約6°の角度が認められる。
このシミュレーションが示すように、電圧印加により電極間に形成される電界は、傾斜部の寸法関係や配向膜の膜厚によって異なる。「所定の角度」を適切な角度とするために、傾斜部の寸法関係や配向膜の膜厚を適宜選択することは、段落【0018】の作用の記載に基づいて当業者が行えることであり、それらの具体的な条件が本件特許明細書に記載されていなくても、本件特許明細書の実施可能性は何ら失われない(13?15頁)。
エ <電界の方向と液晶の初期配向方向の間の「所定の角度」は小さくてよいこと>
段落【0018】に記載された本件発明の原理によれば、初期配向方向と電界方向の間に「所定の角度」が存在することは、電圧印加時に、液晶が傾く方向を予め決めるために必要であるが、「所定の角度」の大きさ自体は、配向制御の成否を決するものではない。「所定の角度」の大きさではなく、電界の方向と異なる方向に、液晶が初期配向していることが重要である(15?16頁)。
オ <導電リブ態様が実施可能であることを示す請求人の特許出願>
本件特許の原出願は平成6年に出願され、いわゆるMVA型液晶表示装置の基本特許であり、その後、多くの企業がさまざまな、MVA型液晶表示装置の改良発明を行い、特許出願もしている。その中には、請求人が言う「導電リブ態様」の技術の改良発明の特許出願もある。そのような特許出願の例として、請求人が、本件特許の出願公開(平成7年11月)の3年半後の平成11年5月に出願した特願平11-126670の公開公報(特開2000-321578、乙第1号証)を提出する。
乙第1号証は、導電リブ態様であっても、本件発明の配向制御傾斜部により液晶の配向制御が可能であることを示している(16?17頁)。
カ <小括>
本件特許明細書に記載された実施例は、当業者が本件特許明細書段落【0018】(原出願の当初明細書段落【0015】)に記載された本件発明の原理にしたがって、具体的な寸法関係等を適宜選択することによって動作し、本件発明の作用効果を得ることが可能である。本件特許の明細書は、本件特許発明1を当業者が容易に実施できる程度に記載しており、平成6年法改正前の特許法36条4項実施可能要件を満足するものである(17?18頁)。
キ <請求人の主張する無効理由1の根拠の誤り>
(ア)<導電リブ態様では十分な液晶の応答特性が得られないとの主張について>
請求人は、導電リブ態様では明細書記載の効果を奏し得ない理由として、「(通常のディスプレイは50/60Hzで駆動され、16.6ms?20ms毎に表示を書き込んでいるので、最低でもこの期間に相当する時間で応答することが必要である。)が、・・・導電リブ態様では、十分な液晶の応答特性が得られない。また、ディスクリネーションの位置も短時間では安定せず満足な結果が得られない」と主張するが、本件特許発明の垂直配向液晶セルにおける作用効果は、負の誘電率異方性を有する液晶を用いた液晶表示装置において、ラビング処理を施す必要がなく、ディスクリネーションのばらつきを抑え、広い視野角を実現することであり、現在のテレビにそのまま用いることができるほどの速い応答特性の実現を目的にした発明ではない。仮に、特許請求の範囲に記載されていない構造の実施態様では応答特性が十分速くないという事実があったとしても、本件特許発明の目的、作用効果とされていない効果が実用レベルに比べて劣ることを理由にして、本件明細書の記載に関する、本件特許発明の実施可能性が否定されるはずがない(18頁)。
(イ)<導電リブ態様では電界方向と液晶配向方向が一致するという請求人の主張の誤り>
請求人が「等電位面は電極の傾斜面に平行となるように形成される」と述べているのは誤りである。傾斜面の近傍で等電位面が湾曲しているが、等電位面は反対側の電極に向かうにしたがって、基板に平行になるので、傾斜部の近傍でも、等電位面は電極の傾斜面に平行にはならない。したがって、等電位面に垂直な電気力線の方向と、垂直配向膜に垂直な液晶の初期配向方向は、一致しない。
請求人が示す図(審決注:「図B」)では、液晶分子が、あたかも液晶分子の配向膜から遠い端部を中心として、時計回り方向に回転しながら、傾斜面から離れる方向にずれるように示されている。液晶分子が回転しようとする方向は時計回り方向で正しいが、液晶分子が配向膜と接している側の端部が傾斜面からずれている点は誤っている。配向膜表面に接触する液晶分子の電圧印加後の方向を示す場合は、配向膜表面と接する点を中心に液晶分子の傾く方向を示すべきである(19?20頁)。
(ウ)<請求人の行った実験について>
請求人は、実験報告書を甲第5号証として提出しているが、甲第5号証の実験は、本件特許の明細書に記載されていない、当業者が適宜選択できる具体的な構造の寸法関係等を、段落【0018】(原出願の当初明細書段落【0015】)の原理を実現できるように選択するのではなく、失敗するように選択して行った実験に過ぎない。
甲第5号証の「実験報告書」3頁の表1に、請求人が選択した、構造物の諸元が記載されているが、これによると、配向制御断層の高さが0.35μmと低く、傾斜角度が35°であるから、必然的に、傾斜部分が非常に狭く、台形の上底部分が4μmと広い構造である。その結果、配向制御断層の幅が5.0μmあっても、傾斜部分の幅は片側0.5μmに過ぎない。画素サイズは100μm×100μmであるから、幅100μmの画素に対し、傾斜部分の幅0.5μmは画素サイズのわずか0.5%である。また、垂直配向膜の膜厚が0.02-0.03μmと非常に薄く設定されていることも常識的でない。垂直配向膜の膜厚が非常に薄ければ液晶を配向させることができなくなる(乙第2号証)。
甲第5号証の実験のように、垂直配向膜の膜厚が異常に薄く、傾斜部分の領域が画素全体のサイズに比べて異常に小さいと、まず、傾斜部分において本件発明の意図する初期配向か十分に得られているか疑わしく、さらに、画素全体の配向制御が困難となることが当然予想される。
甲第5号証のサンプルの液晶が、傾斜面で十分初期配向していれば、写真においても、傾斜部分からの光抜けが視認できるはずである。ところが、請求人が提出した実験結果では、電圧印加前の写真はないが、「1ms後」と示された写真でさえ、傾斜部分に全く光抜けが生じていない。この事実は、甲第10号証の実験において、いずれのサンプルも、そもそも、傾斜部分における、電圧印加前の液晶の初期配向が十分なされていなかったことを示している。
請求人が、失敗することが分かっている条件を設定して行った、失敗の実験結果を、「当分野における標準的な値の範囲」であると主張して甲第5号証として特許庁に提出したことは、たとえ諸元のそれぞれの値が個別にはかろうじて「標準的な値の範囲」であったとしても、それらの諸元を組み合わせて作製したサンプルは「標準的な値の範囲」のものとは到底言えず、虚偽の陳述書の提出と実質的に同じで、許されることではない(21?25頁)。
ク <発明未完成の主張について>
請求人は、無効理由1の一部として、特許法29条1項柱書の「発明」に当たらないと主張しているが、その根拠とするのは、旧36条4項の実施可能性に関する主張と同じであるから、発明未完成の主張も成り立たない(25頁)。
(2)審判事件答弁書(第2回)
ア <本件特許明細書における、本件訂正発明1の実施可能な記載について>
(ア)請求人は、本件出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載について、「その意味するところを明確化するために言葉等を補えば、『前記電極の少なくとも一方の(電極の)前記表示画素の周縁または/および領域内には、前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられ』であると主張するが、素直な解釈ではない(3?4頁)。
(イ)原出願の当初明細書の段落【0015】には、導電リブ態様を前提とするような、電極の配置に関する記載は一切ない。段落【0015】には、電極の配置によって限定されない液晶の配向制御の原理、作用が記載されており、請求人の言う「前記第1の構成」の意味の如何によらず、本件明細書には、段落【0015】によって、電極の配置によって限定されない、配向制御傾斜部による液晶の配向制御が開示されている(4頁)。
イ <実施例において、電界の方向と液晶の初期配向方向が所定の角度をなすこと>
請求人は、弁駁書において、「厳密にいえば、傾斜部だけでなく平坦部においても電界の方向と初期配向方向とが完全にはー致せず」と、傾斜部だけでなく、平坦部でも液晶の初期配向方向が電界と一致しないことを認めている(4?5頁)。
ウ <一般技術常識に基づく、液晶の初期配向方向と電界の発生に関する当業者の理解>
請求人は、他方の基板(上基板)の平坦な電極の近傍と、一方の基板(下基板)の傾斜部近傍の平坦部の等電位面は傾斜部の電極の影響を受けて右上がりに曲がり、液晶分子は時計回りに傾き、傾斜部近傍の等電位面は傾斜面に対し左上がりに曲がるので、液晶分子は反時計回りに傾き、それらの2つの領域が存在することから、リバースチルトが不可避的に発生すると主張するが、傾斜部から離れた液晶の初期配向も、傾斜部近傍の液晶の初期配向の影響を受け、液晶の連続体性によって、傾いて初期配向することになり、導電リブ態様で、請求人の言うリバースチルトが不可避的に発生するということはできない(5?6頁)。
請求人が、導電リブ態様においてはリバースチルトが不可避的に発生することを示すとして提出している、甲第6号証の1、2のシミュレーションは、請求人が設定した特別の条件において発生する事象を示すだけである(7頁)。
被請求人の行ったシミュレーションについて:
被請求人は今回、導電リブ態様の第6実施例に相当する液晶表示装置について、「シミュレーション報告害」(乙第5号証)に記載された方法でシミュレーションを行った。被請求人のシミュレーションでは、リバースチルトは発生せず、本件特許における第6実施例の図11に記載されているのと同じ液晶の配向が得られた(10頁)。
エ <請求人の行った実験について>
(ア)請求人は、甲第5号証の実験サンプルについて、なぜそのような諸元にしたかについて何ら説明することなく、「本件出願当時の当業者が想起しうる条件」や、「当分野における標準的な値の範囲」であると言うのみで、その根拠について全く示していない。
第一に、請求人は、配向制御傾斜部を作成するにあたり、窒化シリコン(0.35μm)を採用しているが、その厚さは、絶縁を目的とする膜の厚さとしては標準的な値の範囲であったとしても、配向制御傾斜部としては、現在の知見においては配向規制力が不十分であることがわかっている数値である。
第二に、甲第5号証のサンプルにおいて採用された垂直配向膜の膜厚が0.02?0.03μmであるのに対し、被請求人は、乙第2号証を示し、垂直配向膜の膜厚は0.1μm程度であることを指摘した。乙第2号証には、「配向膜は…LCDにおいて必要不可欠の材料である。わずか0.1μm程度の薄膜ではあるが、…精密な分子設計が要求される高機能性材料である」と記載しており、「0.1μm程度」に対し、「0.02-0.03μm」がかなり薄いものであることは明らかである。
第三に、甲第5号証のサンプルにおいて、傾斜部の角度が基板平面に対して55°である。これは、リブのテーパ角は18°以下が好ましいとする乙第4号証の指摘から大きく逸脱するものである。傾斜面において、液晶が傾斜面に対して垂直方向に初期配向していたか、極めて疑わしい。
第四に、厚み0.02-0.03μmとなる配向膜材料液をスピンコートで塗布した場合、はたして配向膜が55°の傾斜面に塗布できていたかは極めて疑わしい(13?15頁)。
(イ)具体的な数値が明細書に記載されていなくても、当業者は、段落【0018】の作用の記載に基づいて、適宜設計条件を選択できる。甲第5号証の実験について言えば、請求人の目的は、導電リブ態様の実施可能性の検証であるから、電極の配置が配向制御断層の上にあることを除けば、できるだけ液晶表示装置として動作することが期待できる設計条件を採用してサンプルを作成すべきである(16頁)。
(3)口頭審理陳述要領書
ア 本件特許の当初明細書の段落【0018】、【0019】には、本件特許の技術思想、すなわち、液晶との接触表面を隆起または陥没させてなる配向制御傾斜部を作ること、この傾斜部において液晶の初期配向を傾斜面に垂直な方向に制御すること、それによって電圧印加時の電界方向とを所定の角度をもった状態とすること、が明確に記載されている。続く段落【0019】には、これによって、配向制御傾斜部ではない部分にも傾斜方向を液晶の連続体性によって広げることが明確に示されている。段落【0023】以降に述べられる実施例は導電リブ態様であるが、導電リブ態様であることは本件発明を限定する構成要件ではない。当業者は段落【0018】、【0019】に明確に記載された本件発明の原理、作用の開示に基づいて、導電リブ態様以外の実施態様によって本件発明を適宜実施することも可能である(2?3頁)。
イ 本件明細書の段落【0018】、【0019】に記載された本件発明の液晶配向制御の原理、作用は、本件発明について当業者に明確な技術的指針を与えている。特許明細書は当業者が発明を実施できるように開示することが求められるが、当業者が明細害の開示に基づいて適宜選択できる設計事項を記載する必要はない(3頁)。
ウ 「導電リブ態様では効果を奏することが極めて疑わしい」なる請求人の主張は全く立証されていない(3?4頁)。
(ア)甲第5号証の実験は、実験サンプルの垂直配向膜が非常に薄く、リブの傾斜部(斜面)が非常に小さいものであり、傾斜部の存在によって液晶の配向制御が行われないような設定での実験である。甲第5号証の写真によれば、電圧印加前において傾斜部の斜面に対応した位置で光抜けが生じていない。傾斜面に対応した光抜けがないということは、傾斜面に垂直に初期配向した液晶が全く無いか、あったとしても視認できない程度に非常に小さいことを意味している。このような条件による実験では、傾斜面が存在しないのと変わりがなく、傾斜面を利用した配向制御が行われないのは当然の結果である(4?5頁)。
(イ)請求人は導電リブ態様では不可避的にリバースチルトが起こると主張し、甲第6号証のシミュレーションを提出した。しかし、シミュレーションの寸法について、リブ頂上の平坦部が約27μmと異常に長く、また、シミュレーションのモデルが2次元であるため、紙面奥行き方向の挙動が考慮されておらず、さらには弾性定数などの液晶物性に一般的でない値が設定されていることも考えられる。甲第6号証のシミュレーションの結果は、これらの要因により、液晶の初期配向が傾斜の近傍でしか傾かない、特別の条件の下での結果と考えられる。
これに対し、被請求人は、今回乙第5号証として提出した「シミュレーション報告書」に記載されている3次元シミュレーションを行った、被請求人のシミュレーションは、第6実施例の構造を想定し、リブ幅を5.8μmとし、リブにおける傾斜部分と平坦部分の割合を実施例の記載と整合するものとした、その結果、リバースチルトは発生せず、本件特許の図11に記載されているのと同じ液晶の配向が得られた(6頁)。
(ウ)請求人は、導電リブ態様の発明に関し、導電リブ態様の実施形態を開示している特許出願(乙第1号証)を行っている。請求人が、導電リブ態様の液晶表示装置の一つの態様を発明として特許出願した事実は、導電リブ態様が特許法36条実施可能要件を満たすことを、請求人自身が認識していることを示している(6?7頁)。
(4)上申書
ア 甲第10号証について
甲第10号証に示されているのは、主としてラビングによってプレチルト角を付与して配向方向を一方向に制御し、「突出段差領域」は物理的な障壁として、電界によっで生じてしまった液晶の逆立ち上がりの拡大を防止しているだけである。一方、本件特許における配向制御傾斜部は、傾斜面に垂直に液晶を初期配向させることで、液晶の配向方向と電気力線の方向とをずらし、これによって液晶の配向方向を制御するものであり、単に液晶の逆立ち上がりの拡大を阻止するものとは作用が全く異なっている。従って、このような目的作用が全く異なる甲第10号証の突出段差領域の高さとして1000Å以上と記載されていることをもって、導電リブ態様の実施可能性を検証するための実験結果である甲第5号証における配向制御傾斜部の高さが0.35μmが「常識的な数値」であったと主張する根拠とすることはできない(3?4頁)。
イ 甲第11号証について
請求人は、甲第11号証として、288頁のみを提出したが、その前の286頁の8-9頁目(乙第6号証)には「形成されたポリイミド樹脂の膜厚は数十?100nm」と記載されており、甲第11号証に記栽されている膜厚「数十?100nm」は、5、60?100nm程度と解釈するのが通常である。
また、甲第11号証の記載は、配向制御傾斜部を有しない通常の液晶パネルに用いられる配向膜に関する記載であって、傾斜角55°という急峻な傾斜面を設けたものを想定した記載ではないから、仮に甲第11号証の「数十nm」なる記載に0.02-0.03μmが示唆されていたとしても、配向制御傾斜部を設けたサンプルにおける配向膜の膜厚として、0.02-0.03μmが「常識的な値の範囲」であることを示すものではない(4?5頁)。
ウ 甲第10号証、甲第11号証に基づいても、、請求人の行った実験の諸元のうちの2つを個別に正当化する根拠にすらならない(6頁)。

2 無効理由2について
(1)審判事件答弁書
ア <甲第3号証について>
甲第3号証に示されているのは、一方の基板の表面を、三角歯等の傾斜を有する構造の周期的表面とし、他方を平坦表面とする構成である。すなわち、一方の基板表面の全体にわたって傾斜面が繰り返す構造とするものである。そして、甲第3号証には、基板表面における、傾斜面が存在しない領域、すなわち配向制御傾斜部が存在しない領域は開示も示唆もされていない。さらに、甲第3号証は、基板全面に傾斜を繰り返す構成にし、基板全面にプレチルトを付与することで「ディスクリネーションパターンを生じさせない」と述べていることから明らかなように、配向制御傾斜部が存在しない領域を設けるという思想が開示も示唆もされていない。
また、この甲第3号証は、INTRODUCTIONの段落において、スタンレー電気の開発した「特殊な電極構造によって生成されたフリンジ・フィールド」を用いた液晶表示装置についての論文を紹介している。そして次の段落において、基板の表面を、三角歯波形状等の傾斜を有する構造の周期的表面とすることを「The new LCD」として提案しており、特殊な電極構造と傾斜の両方を設けようとする考え方は全く開示も示唆もしていない。
さらに、請求人は、「周期的な表面は両方の基板に使用可能である」との記載から、両方の基板を同時に周期的表面とすることが開示されていると主張しているが、甲第3号証に述べられている構造は、一方の基板表面の全体を三角歯波形表面とし、他方の基板表面を平坦表面とするものである。両方の基板に甲第3号証のような傾斜を設けた場合、両基板を貼り合せる際に貼り合わせずれが生じると、配向が大幅に乱れる可能性があり、わざわざ配向が大幅に乱れてしまう可能性がある態様が記載されているとする解釈は不自然である。さらに、「The periodic surface can be used for both substrates.」と述べているのであるから、この部分は「どちらの基板にも三角歯波形表面を用いることができる」と翻訳すべきである(26?27頁)。
イ <甲第4号証について>
甲第4号証には、画素部分において、電極にX字状などの空き部分(開口)を形成し、液晶の配向方向を制御することが示されており、甲第4号証では、かかる構造によって配向制御が完遂している。
また、甲第4号証の従来技術の欄である、段落【0004】には、基板の断面を傾斜させる事に関する唯一の記載として、「この問題を解決するべく、多くの試みがなされてきた。例えば、一方の基板(その上に能動素子を有していない)の断面を三角状あるいは鋸状に形成することによって、異なる領域間のコントラスト比が平均化されるようにしている。この方法は、製造コストが高くなるため、実用的解決法とは考えられていない。」という記載があるが、この記載は、断面を三角状あるいは鋸状にすることは実用的な解決法ではないことを示しており、このような構成を採用せずに、これに代えて開口を提案するものである。甲第4号証に断面を三角状あるいは鋸状にする構成の実用的な解決方法が示されていない以上、甲第4号証に開示された開口を上記構成に置換することはできない(28?29頁)。
ウ <無効理由2-1における容易性の議論について>
(ア)マルチドメインを既に達成していると述べている甲第3号証に対し、一体どのような理由で、わざわざ甲第4号証に記載の開口を組み合わせるのか、全く明らかでない。
また、甲第4号証にも両方の基板に異なる配向制御手段を設けることについては全く記載がない。また、斜面によって基板の全面にプレチルトを付与して液晶の配向制御することと、プレチルトを付与せずに電極が存在しない開口の周辺による横電界により配向制御することとは、原理的に全く異なるものである。
また、甲第3号証と甲第4号証における配向制御は全く原理の異なるものであり、両者を組み合わせる合理的理由は全くない。
請求人は甲第3号証と甲第4号証とが「上記刊行物1及び2の記載を勘案すれば、ドメインの分割に際して、電極に設けた開口を用いることと、基板に設けた特殊な表面形状を用いることとは、ドメインの分割に対して同等の作用効果を奏する置換可能な技術と認められる」と述べるが、甲第3号証にも甲第4号証にも、「同等の作用効果」なるものは一切開示されていない。
請求人は開口と周期的表面形状とを「置換可能な技術」であると主張するが、全くの誤りである。甲第3号証は全体が傾斜した周期的表面形状によるプレチルトを開示しているのみであり、このような甲第3号証の一体どの記載に基づいて、周期的表面形状のどの部分をどのような開口に置換するのか、全く明らかでない。まして、甲第3号証の構造は、一方の基板のみが周期的表面形状となっており、他方の基板には周期的表面形状のような配向制御要素が設けておらず、その他方の基板にどのように開口を設けるのか、全く明らかでない(30?31頁)。
(イ)従属項の全てについて、甲第4号証に示されている「切り取り部」は、底面電極の一部を切り取ったものであるが、基板全体に周期的表面を形成してプレチルトを付与する甲第3号証の、どこをどのように「切り取り部」と置換すればよいのか、甲第3号証に開示された技術思想から全く明らかでない。甲第3号証は、基板全体に周期的表面を形成するので、そもそも本件のように、配向制御傾斜部と配向制御傾斜部の間の配向制御傾斜部が存在しない領域が存在しない。従って、その間に他の配向制御要素を配置することや、配向制御傾斜部を線状にすることが、容易であるはずがない(33頁)。
エ <無効理由2-2における容易性の議論について>
開口によってマルチドメインを実現できると述べている甲第4号証に、一体どのような理由で甲第3号証を組み合わせるのか、全く明らかでない(34頁)。
(2)審判事件答弁書(第2回)
ア <甲第3号証について>
(ア)被請求人は、甲第3号証には「配向制御傾斜部が存在しない領域を設けるという思想が開示も示唆もされていない」(答弁書26頁15?16行)と主張したのであって、請求人の言うような「配向制御傾斜部と配向制御傾斜部が存在しない領域との間で液晶分子に対する初期配向作用に差異があること」などとは全く主張していない(17頁)。
(イ)本件特許の原出願当時に、「電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらすことは明らか」であったはずがない。甲第3号証や甲第4号証のいずれにも、「電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらす」などとは記截されていない(17頁)。
(ウ)請求人が明らかであると主張する根拠は、現在の知見からどちらも連続体性を用いているに違いないから、であるが、本件の原出願の出願当時、そのような物理現象は認識されていない(17頁)。
(エ)甲第3号証は、基板全体に周期的表面を用いるものであって、本件特許のように「配向制御傾斜部が存在しない領域」が存在しない。このような第3号証の周期的表面と、甲第4号証の電極の不存在部とはそのまま組み合わせることはできないので、両者を併用することが当業者に容易なことでないことは明らかである(17?18頁)。
イ <甲第4号証について>
(ア)甲第4号証には配向制御傾斜部によって液晶の配向制御を行うことについての記載は全くない(18頁)。
(イ)請求人の主張するような連続体性の知見は甲第4号証には開示も示唆もされていない。本件特許の原出願当時に、「電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらすことは明らか」であったはずがないし、甲第3号証、甲第4号証ともに、他方の構成に代えて採用することを提案しているものであり、併用することを勧めるものではない(19頁)。
ウ <無効理由2-1における容易性の議論について>
(ア)甲第3号証には、「配向制御傾斜部が存在しない領域」と「電極が開口されてなる配向制御窓」が存在しない。そして、液晶の連続体性を利用して、配向制御傾斜部における液晶の配向を配向制御傾斜部が存在しない領域に伝播させて、「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって」液晶の平均的配向方向を制御する技術思想は全く記載されていない(19頁)。
(イ)請求人は、甲第7号証を示し、液晶の連続体性に基づいて液晶の配向を制御することは従来周知であるとしているが、この甲第7号証に示されているのは液晶の全面の初期配向の制御、単に液晶の初期配向のことであり、本件発明のように液晶の連続体性を利用して、配向制御傾斜部における液晶の配向を配向制御部が存在しない領域に伝播させて、液晶の平均的配向方向を制御する技術思想を教示するものではない(20頁)。
(ウ)甲第4号証には、本件特許における配向制御窓に対応する電極の不存在部を電極に設け、ここに発生する斜め電界を利用して、液晶の配向を制御することが記載されているだけである。この甲第4号証には、本件特許発明における配向制御傾斜部が存在しないため、液晶の連続体性を利用して、配向制御傾斜部における配向を配向制御傾斜部が存在しない領域に伝搬させて、「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって」液晶の平均的配向方向を制御する技術思想が全く開示されていない(21頁)。
(エ)甲第3号証と甲第4号証は、それぞれ別個の構成、作用による液晶の配向制御を記載するだけであり、これらを組み合わせることはできない。請求人が甲第3号証、甲第4号証を組み合わせることができるとする根拠は、甲第3号証、甲第4号証のいずれにおいても、「「液晶の連続体性」に係る考察」なるものを根拠としているが、かかる記述は甲第3号証、甲第4号証には開示されていないものである。従って、「電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらすことは明らか(弁駁書28頁)」等とするのは単なる後知恵にすぎない(21?22頁)。
エ <無効理由2-2における容易性の議論について>
甲第3号証には、基板表面に配向制御傾斜部が存在しない部分がなく、このような甲第3号証の構成に、甲第4号証の配向制御窓を組み合わせることが容易でないことは明らかである(22頁)。
(3)口頭審理陳述要領書
ア 甲第3号証(刊行物発明1)には、「配向制御傾斜部が存在しない領域」と「電極が開口されてなる配向制御窓」が存在しない。従って、液晶の連続体性を利用して、配向制御傾斜部における液晶の配向を配向制御傾斜部が存在しない領域に伝播させて、「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって」液晶の平均的配向方向を制御する技術思想は全く記載されていない(7頁)。
イ 甲第4号証(刊行物発明2)には、本件特許発明における配向制御傾斜部が存在しないため、液晶の連続体性を利用して、配向制御傾斜部における配向を配向制御傾斜部が存在しない領域に伝搬させて、「前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって」液晶の平均的配向方向を制御する技術思想が全く開示されていない(8頁)。
ウ 甲第3号証と甲第4号証は、それぞれ別個の構成、作用による液晶の配向制御を記載するだけであり、これらを組み合わせることはできない。甲第3号証では、周期的表面を用い、配向制御傾斜部が存在しない領域がない。このような甲第3号証に対しては、甲第4号証の配向制御窓を採用しうる場所がないし、甲第3号証に甲第4号証を組み合わせて本件発明に至ることはない(8頁)。

3 無効理由3について
(1)審判事件答弁書
特許法36条のサポート要件は、各請求項で特定される特許を受けようとする発明が明細書の発明の詳細な説明に記載されていることであり、発明の実施の態様のすべてが発明の詳細な説明に網羅されて記載されていることを求めるものではない。本件特許には配向制御傾斜部を1画素内に複数設けることが記載されており、配向制御窓についてのみ単数に限定されなければならない合理的理由もなく、これを複数設け、この中間に配向制御傾斜部が含まれることは、本件特許の発明の詳細な説明から自明のことである。
また、本件特許明細書の段落【0027】では、「表示画素を複数に分割して」と言い替えており、第1の実施例において分割数を多くすれば、2つの基板に設けられる配向制御傾斜部が交互に配置されることになり、第2の実施形態では両基板に設けられる配向制御傾斜部と、配向制御窓が交互に配置されることになるのは自明である。(35?36頁)
(2)審判事件答弁書(第2回)
ア 本件特許明細書の段落【0023】-【0026】では、第1の実施例の説明を行っており、この第1の実施例では、画素の両側および中央に配向制御傾斜部を配置している。そして、段落【0027】には、「表示画素を複数に分割して視角依存性を低減した本発明の第2から第5の実施例を説明する。」との記載がある。
このような記載において、表示画素を分割する数は、2に限られないことは明らかであり、第1の実施例において分割数を多くすれば、2つの基板に設けられる配向制御傾斜部が交互に配置されることになり、第2の実施形態では両基板に設けられる配向制御傾斜部と、配向制御窓が交互に配置される。さらに、分割数を増加することについて、特別の阻害事項は全くない。従って、明細書には、配向制御窓間に配向制御傾斜部を設ける構成が記載されているに等しい(23頁)。
イ 本件特許明細書の段落【0021】、【0022】の記載を合わせれば、画素を配向制御傾斜部によって2つ以上に分割し、その間に配向制御窓を設ける構成が実質的に記載されている。この構成は、複数の配向制御窓間に配向制御傾斜部が設けられていることと同義であり、本件特許明細書に記載されているに等しい(23?24頁)。
(3)口頭審理陳述要領書
ア 本件特許明細書の段落【0023】-【0026】の記載において、表示画素を分割する数は、2に限られないことは明らかであり、第1の実施例において分割数を多くすれば、2つの基板に設けられる配向制御傾斜部が交互に配置されることになり、第2の実施形態では両基板に設けられる配向制御傾斜部と、配向制御窓が交互に配置される。さらに、分割数を増加することついて、特別の阻害事項は全くない。従って、これらの明細書に記載は、配向制御窓間に配向制御傾斜部を設ける構成を実質的に開示している(9頁)。
イ 段落【0021】、【0022】の記載を合わせれば、画素を配向制御傾斜部によって2以上に分割し、その間に配向制御窓を設ける構成が実質的に記載されている。この構成は、複数の配向制御窓問に配向制御傾斜部が設けられていることと同義であり、本件特許の請求項2に構成について本件特許明細書に記載があることは明らかである(10頁)。

4 無効理由4について
(1)審判事件答弁書
請求人は、当初の請求項1は導電リブ態様の発明を記載したものであり、実施例も導電リブ態様であるから、当初明細書には導電リブ態様の発明の記載しかないという。しかし、原出願の当初明細書に記載されている発明は、導電リブ態様に限定されていない。
請求人は、原出願の当初の請求項1の「前記電極の少なくとも一方の前記表示画素の周縁または/および領域内には前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられ」との記載部分によって、「対向する2枚の電極の少なくとも一方の電極に、表示画素の周縁または/および領域内に配向制御傾斜部が設けられ、それにより液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させている構成が示されている」と主張するが、当初の請求項1のこのような読み方は素直な解釈ではない。
上記記載部分には、配向制御傾斜部が設けられる位置(「前記電極の少なくとも一方の前記表示画素の周縁または/および領域内」)と、配向制御傾斜部の構造(「前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没されることにより形成された」)が規定されている。そして、配向制御傾斜部が設けられる位置は「前記表示画素の周縁または/および領域内」であり、「前記電極の少なくとも一方の」は、「前記表示画素」にかかっている。
これに対し、請求人の解釈では、配向制御傾斜部が電極に設けられ、電極に配向制御傾斜部を設けることにより液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることが記載されているとするが、上記記載部分のどこにも、「電極に配向制御傾斜部を設ける」とか、電極に配向制御傾斜部を設けることにより、液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させるということを意味する記載はない。
また、原出願当初の請求項1の従属項である請求項2には
「前記配向制御傾斜部は、前記電極の下部に設けられた配向制御断層により、前記電極が部分的に隆起されることにより形成されている」
と記載されている。これは、請求項1の配向制御傾斜部を実現するための一つの実施態様として、電極の下部に配向制御断層が設けられる構成(すなわち、導電リブ態様)を記載したものである。原出願当初の請求項1と請求項2のこのような関係からも、請求項1の配向制御傾斜部は、導電リブ態様に限定されない構成であることが明らかである。
次に、明細書の記載(導電リブ態様を記載した部分以外の部分)における本件特許発明の開示について説明すると、段落【0015】と【0016】には第1の構成、すなわち、当初の請求項1の発明の作用が記載されており、特に、段落【0015】には、「前記第1の構成で、基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にある。このため、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態に傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定される。」と記載され、当初明細書に記載されている、傾斜部を用いた、液晶の配向制御の原理が明確に述べられている。この作用の記載から、液晶の配向制御に用いられる「傾斜部」は、「基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部」であればよいことが十分に理解される。第1の構成の作用について記載した段落【0015】、【0016】には、電極に傾斜部を設けるなどという記載は全くない。段落【0015】に記載された、傾斜部による液晶配向制御の原理を理解すれば、傾斜部が電極に形成されなければならない理由が全くないことは明らかである。段落【0015】に記載された作用において「傾斜部」の果たす機能は、液晶の初期配向方向が電界方向と所定の角度を持った状態とすることであり、そのためには、「基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部」で、液晶層との接触表面に配向膜が形成されていればよいことを十分理解できる(36?39頁)。
(2)口頭審理陳述要領書
本件特許の原出願の当初明細書の請求項1には、「前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させる」ということが明記されているが、電極を隆起又は陥没させるとは明記されていない。
また、原出願の段落【0015】では、「第1の構成では、基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部」と記載され、原出願の請求項1の意味するところが、基板表面を隆起または陥没することであるとしている。さらに、原出願の段落【0015】、【0016】では、液晶の配向方向を傾斜部における液晶の初期配向方向と電界の方向の差を利用して電圧印加時の液晶の配向を制御することが明記されている。
電極自体は、直接液晶と接触するものではなく、原出願の当初明細書における請求項1の記載や、段落【0015】、【0016】の記載などを参照すれば、原出願の明細書に記載された発明が電極自体を隆起または陥没することに限定されるものでないことは明らかである(10?11頁)。

6 乙号証
被請求人は、平成24年4月3日提出の審判事件答弁書に添付して、以下の乙号証を提出した。

乙第1号証:特開2000-321578号公報
乙第2号証:JSR TECHNICAL REVIEW No.114
/2007 34?36頁
乙第3号証:「シャープ技報」 第100号 2010年2月発行 10
?15頁
乙第4号証:再公表特許WO2008/053615号公報

また、被請求人は、平成24年7月17日提出の口頭審理陳述要領書に添付して、以下の乙号証を提出した。

乙第5号証:「シミュレーション報告書」


第7 無効理由についての当審の判断
請求人が主張する無効理由につき、以下検討する。
1 無効理由1について
請求人は、無効理由1として、審判請求書(以下「請求書」という。)において、「本件特許の明細書には、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成するという態様(以下、「導電リブ態様」という)のみが記載されているところ、このような導電リブ態様では『不均一なディスクリネーションの出現の防止』等の効果を挙げることが極めて疑わしい。」(11?12頁、上記第5の1(1)ア)と主張する。そこで、以下、無効理由1につき検討する。
(1)本件訂正明細書の記載事項
無効理由1に関し、本件訂正明細書には以下の記載がある。
ア 「【0010】
図27は、従来の垂直配向型ECB方式の液晶表示装置の駆動時の光の透過状態を示した平面図である。…各開口部(300)では透過率が制御されて、所望の表示が得られることになるが、この開口部(300)においても、ディスクリネーション(302)と呼ばれる黒領域が生じる。…
【0011】
…画素毎に異なる形状のディスクリネーションが多発すると、画面にざらつきが生じたり、期待のカラー表示が得られないなどの問題が招かれる。」
イ 「【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は以上の課題に鑑みて成され、対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、第1の基板には、液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、前記配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があり、第2の基板には、前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向す領域に、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、配向制御傾斜部及び配向制御窓によって液晶の配向方向を制御する液晶表示装置である。
【0015】
そして、配向制御傾斜部及び配向制御窓のうちの少なくとも一方は、表示画素内に複数配置され、それらの間、さらにはその中央に、他方が配置される。」
ウ 「【0018】
基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にある。このため、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定される。
【0019】
このように、配向ベクトルが配向制御傾斜部により決定されると、液晶の連続体性により、同じ配向ベクトルを有した領域が、電極や他の配向制御傾斜部など、他の何らかの作用を受けた部分に制限されるまで広がる。このため、配向制御傾斜部を表示画素領域の周辺及び領域中に所定の形状で配置することにより、これらの作用により規定されたゾーン内では配向ベクトルが均一に揃えられ、表示特性が向上する。」

上記ア?ウによれば、本件訂正明細書には、
i 対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、第1の基板には、液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、前記配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があり、第2の基板には、前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向す領域に、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、配向制御傾斜部及び配向制御窓によって液晶の配向方向を制御すること、
ii 基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にあり、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定されること、
iii このように、配向ベクトルが配向制御傾斜部により決定されると、液晶の連続体性により、同じ配向ベクトルを有した領域が、電極や他の配向制御傾斜部など、他の何らかの作用を受けた部分に制限されるまで広がり、これらの作用により規定されたゾーン内では配向ベクトルが均一に揃えられ、画素毎に異なる形状のディスクリネーションの多発を防止すること、
が記載されている。
(2)「導電リブ態様」の効果について
以下、上記(1)を踏まえて、請求人がいうところの「導電リブ態様」の液晶表示装置が、「不均一なディスクリネーションの出現の防止」との効果を得ることができるか否かにつき検討する。
ア 「導電リブ態様」の液晶表示装置において、2枚の基板の両電極に電界が印加されていない状態では、傾斜した電極を覆う垂直配向膜と接する負の誘電率異方性を有する液晶分子は、配向制御傾斜部、すなわち垂直配向膜の液晶層との接触表面に対して垂直の方向に初期配向する。
一方、前記両電極に電界が印加された状態においては、電界の方向を表す電気力線は、電極の表面では該電極表面に対して垂直に形成されるものの、傾斜した電極表面付近の電気力線は直ちに対向する電極に向かって湾曲し始める。そして、「導電リブ態様」の液晶表示装置においても、傾斜した電極の表面と該電極を覆う垂直配向膜の表面とは、当該垂直配向膜の膜厚分だけ位置が異なり、電気力線は、電極表面においてはこれに垂直であっても、垂直配向膜の厚み分だけ離れた液晶層との接触表面においては、もはや、電極表面に対して垂直とはなっていない。すなわち、負の誘電率異方性を有する前記液晶分子のダイレクターは、電界方向とは所定の角度を持った状態にあり、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定されるといえる(上記(1)ii)。
イ しかるところ、上記(1)iiiによれば、前記アのように傾斜した電極表面付近の液晶分子の配向ベクトルが決定されると、液晶の連続体性により、同じ配向ベクトルを有した領域が、電極や他の配向制御傾斜部など他の何らかの作用を受けた部分に制限されるまで広がり、これらの作用により規定されたゾーン内では配向ベクトルが均一に揃えられ、「導電リブ態様」の液晶表示装置においても、画素毎に異なる形状のディスクリネーションの多発を防止するとの効果を得られることが理解できる。
ウ すなわち、請求人が主張するように、「導電リブ態様では『不均一なディスクリネーションの出現の防止」等の効果を挙げることが極めて疑わしい』」とまでいうことはできない。
(3)請求人の主張について
ア 本件訂正発明の効果について
(ア)a 請求人は、請求書において、「本件特許発明の配向制御傾斜部の構造では、配向制御傾斜部において、液晶分子の初期配向の方向(傾斜部に垂直)と、電界の方向(傾斜部に垂直)とはほぼ一致することにな」り、「電圧が印加されると、配向制御傾斜部の液晶分子も、その他の領域の液晶分子と同様に、電圧印加時の電界の方向を中心とした周囲360度のどの方向でも均等に配向してしまう」から、「配向制御傾斜部を有していても、ディスクリネーションのばらつきが生じ」、「本件特許発明は、配向制御傾斜部によって液晶が所定の方向に傾くように制御することができない。」(16?17頁、上記第5の1(1)イ(ア))、また、審判事件弁駁書において、「『導電リブ態様』において、電界の方向と初期配向方向とが完全には一致しなかったとしても、ほぼ一致するのであるから、電界による配向制御力は殆どなく、初期の配向状態は液晶の揺らぎの影響を大きく受け、ランダムに液晶が配向する。」(6頁、上記第5の1(2)イ)と主張する。
b しかしながら、両電極に電界が印加された状態においては、電気力線は、垂直配向膜の厚み分だけ離れた液晶層との接触表面においては、もはや、電極表面に対して垂直とはなってはおらず、負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、電界方向とは所定の角度を持った状態にあり、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定されるのは、上記(2)で述べたとおりであって、電極に傾斜部を形成した「導電リブ態様」において、液晶分子の初期配向方向と電圧印加時の電界の方向とが当然に一致するとはいえない。
よって、請求人がいうように、「(液晶分子は)電圧印加時の電界の方向を中心とした周囲360度のどの方向でも均等に配向してしまう」ということはできない。
(イ)a また、請求人は、審判事件弁駁書及び上申書において、「本件特許のような『導電リブ態様』では、…傾斜部だけではなく平坦部においても電界の方向と初期配向方向とが完全には一致せず、しかも傾斜部における傾きと平坦部における傾きとが反対方向であることから、リバースチルトが発現し、表示画素内の液晶の配向方向は傾斜部における初期配向方向に基づいて決定されない。」(審判事件弁駁書6頁、上記第5の1(2)イ)、「平坦部においては、…理論的には、垂直に配向した液晶分子は、…時計回りで傾くことにな」り、「傾斜部においては、傾斜面に垂直に配向した液晶分子は、…反時計回りで傾くことにな」り、「液晶分子の配向方向が、反時計回りの左上がりの領域と時計回りの右回りの領域の2つの領域が同一画素内に存在することになるから、リバースチルトが発現する」(審判事件弁駁書8頁、上記第5の1(2)ウ(ア))等と主張する。
b しかしながら、実際の「液晶表示装置」において、電圧印加時に液晶分子がどちら回りに傾いて配向するかは、液晶層内各領域の個々の液晶分子が具体的に如何なる電界を受けたかのみならず、その他の諸条件(例えば、具体的な液晶の材料、配向制御傾斜部の角度やサイズ、液晶層の層厚等)にも依存するものと考えるのが相当であるから、電圧印加時の実際の液晶分子の傾きを、単に液晶層内各領域の個々の液晶分子が受ける電界のみで判断するのは妥当ではなく、請求人の上記主張は相当ではない。
イ 「不均一なディスクリネーションの出現の防止」のための条件の開示について
次に、請求人は、「『不均一なディスクリネーションの出現の防止』等の効果を挙げ得るのであれば、そのような条件を開示しなければならない…」とも主張する(請求書12頁、上記第5の1(1)ア)ので、この点につき検討する。
(ア)本件訂正発明の作用に関し、本件訂正明細書の段落【0018】には、以下のような記載がある。
「基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、初期配向方向が傾斜面に対して垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にある。このため、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定される。」
(イ)前記(ア)によれば、本件訂正明細書の段落【0018】には、
a 「(正または負の誘電率異方性を有する)液晶ダイレクター」は、(基板表面を隆起または陥没させて形成した)傾斜部において、初期配向方向が傾斜面に対して垂直に制御(配向)され、かつ、当該液晶ダイレクターの向きが、電圧印加により発生する電界の方向と所定の角度を持った状態となっていること、また、
b 実際に電圧が印加された際には、その電界の方向に応じて液晶ダイレクターがエネルギー的に安定な状態に傾斜すること、
が記載されているから、本件訂正明細書には、本件訂正発明につき、その物理的作用を、当業者が理解できる程度に記載されているものと認めることができる。
(ウ)すなわち、本件訂正明細書には、本件訂正発明の具体的実施の態様を示す実施例のみならず、本件訂正発明の物理的作用につき、当業者が理解できる程度に記載されていると認めることができるから、本件特許の明細書の記載を見た当業者は、本件訂正発明を適宜実施することができるといえる。
したがって、本件訂正発明を実施する際に、「不均一なディスクリネーションの出現の防止」等の効果を得るべく、諸条件を具体的にどのように設定するかは、設計上当業者が適宜に選択し得る事項である。
ウ 十分な液晶の応答特性が得られない点について
請求人は、「(通常のディスプレイは50/60Hzで駆動され、16.6?20ms毎に表示を書き込んでいるので、最低でもこの期間に相当する時間で液晶が応答することが必要である。)が、上記のような導電リブ態様では、十分な液晶の応答特性が得られない。また、ディスクリネーションの位置も短時間では安定せず満足な結果が得られない」(請求書16頁、上記第5の1(1)イ)、「導電リブ態様では、液晶の配向は100ms後でも安定しないことから、…液晶表示装置に必要とされる応答特性を得ることなどできない」(上申書16頁、上記第5の1(4)エ)とも主張する。
しかしながら、本件訂正発明は、負の誘電異方性を有する液晶を用いた液晶表示装置において、「広視野角」を実現するとともに、「画素毎に異なる不均一なディスクリネーションの出現」を防止し、「配向膜のラビング工程」を削減することを目的とするものであって(本件訂正明細書(甲第1号証)【0059】、【0060】)、請求人がいう応答特性を有する液晶表示装置を実現することを目的としたものではないから、請求人の上記の主張により本件訂正発明の実施可能性が否定されるものではない。
(4)小括
上記(2)及び(3)のとおり、本件訂正発明は、本件訂正明細書の記載によってはその効果を得られるように実施することができないということはできず、本件特許の「発明の詳細な説明」には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていないということはできない。
よって、本件訂正明細書は、平成6年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである、とはいえない。
また、同様の理由により、本件訂正発明の「導電リブ態様」は、「不均一なディスクリネーションの出現の防止」等の作用効果を奏することが極めて疑わしく、発明として未完成のものであるということもできない。
したがって、本件訂正発明1?5は、特許法第29条第1項柱書の「発明」に該当せず、本件訂正特許は、同項柱書の規定に違反し、特許法123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである、ということもできない。

2 無効理由2について
(1)甲第3号証、甲第4号証の記載
ア 原出願の出願前に頒布された刊行物と認められる甲第3号証(SID 92 DIGEST,1992,pp405-408)には、以下の記載がある(かっこ書きで、和訳を付した。)。
(ア)「Recently, Stanley Electronics showed a simple matrix multi-domain homeotropic nematic LCD with wide viewing angle and symmetric viewing angle performance.^(1,2) The Stanley Electronics LCDs are based on the fringe field produced by their special electrode structure. …
We recently realized a new geometry to obtain a new symmetric multicolor homeotropic nematic LCD.」(405頁左欄「INTRODUCTION」5?14行)
(最近、スタンレー電気が、広い視野角と対称な視野角性能を有する単純マトリクス型のマルチドメインホメオトロピックネマチックLCDを示した。^(1,2) スタンレー電気のLCDは、その特殊な電極構造により生成されるフリンジフィールドに基づくものである。…我々は、最近、新規な対称なマルチカラーホメオロトピックネマチックLCDを得る新たな幾何学形状を実現した。)
(イ)「We discuss a multi-domain LCD using a one-dimensional periodic triangular tooth waveform surface and a flat surface, as shown in Fig.2. Other forms of periodic surface can be also used such as a periodic concavity and convexity surfaces. …The conventional rubbing-free homeotropic surface alignment without a pretilt angle is used for the LC surface alignment. Many conventional homeotropic alignment methods can be used such as polymers,…. The surface alignment is homeotropic, but the LC orientation has an asymmetrical structure in the field-off state due to the triangular tooth surface. The LC has a small effective tilted orientation near the triangular surface. Therefore, it will not produce the LC disclination pattern in the field-on state.」(405頁左欄「MALTI-DOMAIN LCD WITH PERIODIC GRATING SURFACE」1行?同頁右欄上から8行)
(我々は、図2に示されるような1次元の周期的な三角歯波形表面と平坦表面とを用いるマルチドメインLCDを議論する。周期的表面の他の形状として、例えば、周期的な凹状表面や凸状表面も使用することができる。…プレチルト角がなくラビンク処理が行われない従来のホメオトロピック表面配向が液晶表面配向に使用される。ポリマー…等による従来の多くのホメオトロピック配向方法を使用することができる。表面配向はホメオトロピックであるが、液晶の配向は、三角歯表面により、電界不印加状態では非対称な構造を有している。液晶は、三角表面近傍で、小さな効果的チルト方位を有する。したがって、電圧印加状態において液晶ディスクリネーションパターンを生じない。)
(ウ)図2から、電界無印加時には、液晶は、三角歯波形表面に施されたホメオトロピック表面配向により配向され、電界印加時には、液晶は、電界により、三角歯波形表面の傾斜角度が異なる領域毎に異なる向きに傾くように配向されること、がみてとれる。

イ 同じく甲第4号証(特開平6-43461号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】複数の電極が形成された第1の基板と、
共通電極が形成された第2の基板と、
該第1の基板と該第2の基板との間に配置された液晶材料とからなり、
上記共通電極は、その表示素子を1個以上の液晶ドメインに分割するために、その中に空き部分のパターンを有し、かつ該共通電極は、該パターンが置かれている部分以外は連続的である、
液晶表示装置。

【請求項4】ホメオトロピック液晶表示装置として構成された、
請求項1の液晶表示装置。
【請求項5】前記液晶分子が、電場が印可されていないときに前記基板に対して垂直になっている、
請求項4の液晶表示装置。」
(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主要な目的は、広い視角に渡って高いコントラストが得られる液晶表示装置を提供することである。

【0007】本発明のさらに別の目的は、ドメインの境界が確実に固定されており、かつ局所的なセル条件の変動によって変化しないようなマルチドメイン・セルを有す液晶表示装置を提供することである。」
(ウ)「【0018】図2から図9には、マルチドメイン・ホメオトロピック・セルによる液晶表示装置の様々な電極の実施例が記載されている。…本発明においては、ホメオトロピック・セルは、電極間に電場が印加されていないときに、基板に対して垂直な方向に液晶材料の分子が配向することに依っている。汎用的な液晶表示装置とは対照的に、僅かなプレティルトが不必要であり、従ってラビング処理も行われない。この液晶表示装置は、誘電異方性が負でなければならない。

【0020】ホメオトロピック液晶表示装置のセルの電極間に電場を印加すると、それによって分子は実質的に電場に垂直な方向に配列する。本発明は、画素電極の端部におけるのと同様に、電極の中の空き部分において横向きの電場を発生するような電極形状を形成することによって、この効果を利用してマルチドメイン液晶表示装置セルを得ている。このドメインの特性は、電極のパターンの形状によって決まる。
【0021】図2から図8では、底面電極(下側の基板上の電極であり、薄膜トランジスタも搭載している)は破線で示されている。一方、画素の上面電極用のパターンは、実線で示されている。しかしながら、全ての画素のための上面電極を形成しているITO蒸着膜は、従来の技術においては連続的であるが、本発明の場合はそれぞれの画素のために少なくとも一つの空き部分をその中に有し、それ以外の電極部分は、表示領域全体に渡って連続していると理解される。
【0022】図2を参照すると、画素の底面電極60は連続的な正方形(ゲート・ライン及びデータ・ライン(図示せず)によって4辺が隣接する画素電極と分離されているが)であるのに対し、画素の上面電極62を形成する共通電極の部分は、X型の切り取り部64をその中に形成しており、Xの末端は画素の4つの角に向いている。即ち、Xを形成している線は画素の辺に対して45度の角度に配置されている。切り取った部分の幅Wは、最適な画素を得るために、好ましくは5ミクロンがよい。画素の大きさは、例えば150ミクロン×150ミクロンである。最適な画素のための幅Wは、即ち、画素中のドメイン間の安定で明確な境界であり、その結果、広い範囲の視角にわたって良好なコントラストと均一な表示特性が得られるものであるが、画素の大きさとはそれほど関係ない。画素の大きさは、例えばその辺が100から200ミクロンの範囲であればよい。
【0023】底面電極60の外周の大きさを、上面電極62よりも小さくすることによって、画素の周囲及び切り取り部分の縁における電場の方向を、それぞれの画素が4個のドメインに分割されるような方向にすることができる。それぞれのドメインにおいて液晶表示装置の分子のディレクタは、(電場の無いときは基板に対して垂直なっているのに対し)電場が印加されたときは、常に画素の中心へ向かって傾くように配向している。しかしながら、X型の切り取り部64が、4個の明瞭な液晶ドメインI、II、III、IVを定めている。これらのドメインは、それぞれの液晶表示装置セル内の局所的な条件に関わらず、X形の切り取り部64によって正確に決定される。なぜなら一定の境界条件と明確な傾斜方向が、個々の液晶分子に対して確立されるからである。」
(エ)「【0054】
【発明の効果】本発明によって、広い視角に渡って良好なコントラスト比と優れた階調度を有すマルチドメイン・ホメオトロピック液晶表示装置及びマルチドメイン・ツイスト・ネマティック液晶表示装置が提供される。多くの場合、全ての視方向において中心から50度の範囲まで可能である。しかも、製造コストを上げることも、液晶表示装置を複雑にすることもなく、高い光透過効率をもって実現される。」
(オ)上記(ウ)(【0018】)から、「液晶材料」は「誘電率異方性が負」であるといえる。

(2)ア 甲第3号証発明
上記(1)アによれば、甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「1次元の周期的な三角歯波形表面と平坦表面とを用いるマルチドメインLCDであって、
プレチルト角がなくラビンク処理が行われない従来のホメオトロピック表面配向が液晶表面配向に使用され、
電界無印加時には、液晶は、三角歯波形表面に施されたホメオトロピック表面配向により配向され、電界印加時には、液晶は、電界により、三角歯波形表面の傾斜角度が異なる領域毎に異なる向きに傾くように配向され、
周期的表面の他の形状として、例えば、周期的な凹状表面や凸状表面も使用することができる、マルチカラーホメオロトピックネマチックLCD。」(以下「甲第3号証発明」という。)
イ 甲第4号証発明
上記(1)イによれば、甲第4号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「複数の電極が形成された第1の基板と、共通電極が形成された第2の基板と、該第1の基板と該第2の基板との間に配置された誘電率異方性が負の液晶材料とからなり、上記共通電極は、その表示素子を1個以上の液晶ドメインに分割するために、その中に空き部分のパターンを有し、かつ該共通電極は、該パターンが置かれている部分以外は連続的であり、前記液晶分子は、電場が印可されていないときに前記基板に対して垂直になっているホメオトロピック液晶表示装置であって、
画素の底面電極60は連続的な正方形であるのに対し、画素の上面電極62を形成する共通電極の部分は、X型の切り取り部64をその中に形成しており、Xの末端は画素の4つの角に向いており、底面電極60の外周の大きさを、上面電極62よりも小さくすることによって、画素の周囲及び切り取り部分の縁における電場の方向を、それぞれの画素が4個のドメインに分割されるような方向にすることができ、それぞれのドメインにおいて、液晶表示装置の分子のディレクタは、電場の無いときは基板に対して垂直なっているのに対し、電場が印加されたときは、常に画素の中心へ向かって傾くように配向し、X型の切り取り部64が、4個の明瞭な液晶ドメインI、II、III、IVを定めている、ホメオトロピック液晶表示装置。」(以下「甲第4号証発明」という。)

(3)甲第3号証を主引用文献とする進歩性欠如の無効理由(無効理由2-1)について
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲第3号証発明とを対比する。
甲第3号証発明の「マルチドメインLCD(マルチカラーホメオロトピックネマチックLCD)」は、「1次元の周期的な三角歯波形表面と平坦表面とを用い」、「プレチルト角がなくラビンク処理が行われない従来のホメオトロピック表面配向が液晶表面配向に使用され、電界無印加時には、液晶は、三角歯波形表面に施されたホメオトロピック表面配向により配向され、電界印加時には、液晶は、電界により、三角歯波形表面の傾斜角度が異なる領域毎に異なる向きに傾くように配向され」るものであり、該「マルチドメインLCD」は、表示画素が複数配置されてなるものであることは明らかであるから、
a 甲第3号証発明の「1次元の周期的な三角歯波形表面」、「平坦表面」、「液晶」、「三角歯波形表面」及び「マルチドメインLCD(マルチカラーホメオロトピックネマチックLCD)」は、それぞれ、本件訂正発明1の「(対向表面側に電極を有した)第1の基板」、「(対向表面側に電極を有した)第2の基板」、「液晶」、「(液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる)配向制御傾斜部」及び「(対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている)液晶表示装置」に相当し、
b 甲第3号証発明は、本件訂正発明1の「前記第1の基板には、前記液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ」との事項を備える。また、
c 甲第3号証発明は、「周期的表面の他の形状として、例えば、周期的な凹状表面や凸状表面も使用することができる」ものではあるが、本件訂正発明1のような「当該基板の前記各ゾーン内における配向制御傾斜部が存在しない領域」を備えるものではない。

以上によれば、本件訂正発明1と甲第3号証発明とは、
「対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、
前記第1の基板には、前記液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられる液晶表示装置。」
である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

本件訂正発明1は、第1の基板に、配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があり、第2の基板には、前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向する領域に、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって液晶の配向方向を制御するのに対し、甲第3号証発明は、第1の基板に、配向制御傾斜部が存在しない領域がなく、第2の基板に、そのような電極が開口されてなる配向制御窓が設けられていない点(以下「相違点a」という。)。
(イ)判断
上記相違点aにつき検討する。
a 請求人は、「ドメインの分割に際して、電極に設けた開口を用いることと、基板に設けた特殊な表面形状を用いることとは、ドメインの分割に対して同等の作用効果を奏する置換可能な技術と認められる」(請求書27頁。上記第5の2(1)イ(ア)b)、「電極構造や基板の幾何形状が液晶分子に同等の配向作用をもたらす以上、液晶分子に同等の配向作用をもたらす電極構造と基板の幾何形状とを併用することは、当業者であれば当然試みる程度のことにすぎない」(口頭審理陳述要領書16頁。上記第5の2(3)ア)等と主張する。
b しかるところ、上記(2)イによれば、甲第4号証には、甲第4号証発明が記載され、「(画素の上面電極を形成する)共通電極」の中に「空き部分のパターン(X型の切り取り部)」を形成し、表示素子を1個以上の液晶ドメインに分割するようになした「ホメオトロピック液晶表示装置」が示されているところ、この甲第4号証発明の「ホメオトロピック液晶表示装置」も、甲第3号証発明と同様、電界無印加時には、ホメオトロピック表面配向により配向された液晶を、電界印加時に、(それぞれの)領域毎に異なる向きに傾けるようにしたものといえる。
しかしながら、上記甲第4号証発明は、電界無印加時にホメオトロピック表面配向された液晶を、電界印加時に、それぞれの領域毎に異なる向きに傾けるために、「『共通電極』に『空き部分のパターン(X型の切り取り部)』を形成する」との構成を採用したものであって、甲第3号証発明のように、「三角歯波形表面」を用いるものとは、その具体的な構成を異にするものである。そして、このように、電界印加時に液晶をそれぞれの領域毎に異なる向きに傾けるための構成として、「三角歯波形表面」との構成を備えた甲第3号証発明において、その「三角歯波形表面」に加えて、甲第4号証発明の「(共通電極に形成された)空き部分のパターン(X型の切り取り部)」を用いる具体的な動機は見当たらない。また、たとえ甲第3号証発明に、甲第4号証発明の上記構成を採用することを想定したとしても、甲第3号証発明の「平坦表面」に設けられた電極に「空き部分のパターン」を形成した「マルチカラーホメオロトピックネマチックLCD」が得られるにとどまり、本件訂正発明1の「(前記第1基板には)配向制御傾斜部が…存在しない領域があり」との構成が得られるものではない。
したがって、請求人の上記aの主張は採用できない。
c よって、本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件訂正発明2?5について
上記アのとおり、本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、それを引用する本件訂正発明2?5についても、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)甲第4号証を主引用文献とする進歩性欠如の無効理由(無効理由2-2)について
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲第4号証発明とを対比する。
a 甲第4号証発明の「ホメオトロピック液晶表示装置」は、「複数の電極が形成された第1の基板と、共通電極が形成された第2の基板と、該第1の基板と該第2の基板との間に配置された誘電率異方性が負の液晶材料とからな」るものであるから、甲第4号証発明の「(複数の電極が形成された)第1の基板」、「第2の基板」、「共通電極」、「誘電率異方性が負の液晶材料」及び「ホメオトロピック液晶表示装置」は、それぞれ、本件訂正発明1の「(対向表面側に電極を有した)第1の基板」、「(対向表面側に電極を有した)第2の基板」、「第2の基板の電極」、「液晶」及び「(対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている)液晶表示装置」に相当する。
b 甲第4号証発明の「共通電極」は、「その表示素子を1個以上の液晶ドメインに分割するために、その中に空き部分のパターンを有し、かつ該共通電極は、該パターンが置かれている部分以外は連続的であ」るから、甲第4号証発明の「『共通電極』が、表示素子を1個以上の液晶ドメインに分割するために、その中に空き部分のパターンを有する」との事項と、本件訂正発明1の「前記第2の基板には、前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向する領域に、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており」との事項とは、「前記第2の基板には、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており」の点で一致する。

以上によれば、本件訂正発明1と甲第4号証発明とは、
「対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、
前記第2の基板には、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられている液晶表示装置。」
である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

本件訂正発明1は、第1の基板に、液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、前記配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があり、第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が、前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向する領域に設けられており、前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって液晶の配向方向を制御するのに対し、甲第4号証発明は、第1の基板に、そのような配向制御傾斜部が存在しない点(以下「相違点b」という。)。

(イ)判断
上記相違点bにつき検討する。
a 請求人は、「ドメインの分割に際して、電極に設けた開口を用いることと、基板に設けた特殊な表面形状を用いることとは、ドメインの分割に対して同等の作用効果を奏する置換可能な技術と認められる」(請求書30頁。上記第5の2(1)ウ(ア)b)、「液晶分子に同等の配向作用をもたらす電極構造と基板の幾何形状とを併用することは、当業者であれば当然試みる程度のことである」(口頭審理陳述要領書17頁。上記第5の2(3)イ)等と主張する。
b しかるところ、上記(2)アによれば、甲第3号証には、甲第3号証発明が記載され、「1次元の周期的な三角歯波形表面と平坦表面とを用い」、「電界無印加時には、液晶は三角歯波形表面に施されたホメオトロピック表面配向により配向され、電界印加時には、液晶は、電界により、三角歯波形表面の傾斜角度が異なる領域毎に異なる向きに傾くように配向され、周期的表面の他の形状として、…周期的な凹状表面や凸状表面も使用することができる」「マルチドメインLCD」が示されている。そして、この甲第3号証発明の「マルチドメインLCD」も、甲第4号証発明と同様、「液晶表示装置の分子のディレクタ」は、電場が存在しないときは基板に対して垂直なっているのに対し、電場が印加されたときは、所定の向きに傾くように配向したものということができる。
しかしながら、甲第3号証発明は、電界印加時に液晶をそれぞれの領域毎に異なる向きに傾けるために、「三角歯波形表面」を用いるものであって、甲第4号証発明のように、「共通電極」に「空き部分のパターン(X型の切り取り部)」を形成するものとは、その具体的な構成を異にするものである。そして、このように、電場が印加されたときに液晶分子のディレクタを所定の向きに傾けるための構成として、「『共通電極』に『空き部分のパターン(X型の切り取り部)』を形成する」との構成を備えた甲第4号証発明において、その「(共通電極に形成された)空き部分のパターン(X型の切り取り部)」に加えて、甲第3号証発明の「三角歯波形表面」を用いる具体的な動機は見当たらず、またさらに、その「(共通電極に形成された)空き部分のパターン」を、当該「三角歯波形表面」が存在しない領域に対向する領域に設ける動機も見当たらない。
c よって、本件訂正発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件訂正発明2?5について
上記アのとおり、本件訂正発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、それを引用する本件訂正発明2?5についても、甲第4号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)小括
以上のとおり、本件訂正発明1?5は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲第4号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということはできない。
よって、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものではない。

3 無効理由3について
(1)請求人は、「本件特許の請求項2の構成E『前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの少なくとも一方は、1つの表示画素内に複数配置され、それらの間に、他方が配置される』という記載によれば、本件発明1?5は、配向制御窓の間に配向制御傾斜部が配置される態様をも包含するものと認められるところ、…本件特許明細書の発明の詳細な説明には配向制御窓の間に配向制御傾斜部が配置される態様は一切記載されていない。」(請求書32頁。上記第5の3(1)イ)等と主張する。
(2)そして、確かに、本件特許明細書及び図面には、「配向制御傾斜部」の間に「配向制御窓」が配置される態様のものについては記載がされているものの(図3や図13に示された実施例のもの)、「配向制御窓」の間に「配向制御傾斜部」が配置される態様のものについて、具体的な態様のものは示されてはいない。
(3)しかしながら、平成6年改正前特許法第36条第5項第1号は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を規定するものであって、発明の実施の態様のすべてが発明の詳細な説明に網羅的に記載されていることを求めるものではなく、本件特許明細書には、「第1の基板には、液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、第2の基板には、電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、配向制御傾斜部及び配向制御窓によって液晶の配向方向を制御」(【0014】)することにより、「配向制御傾斜部によりそれぞれ異なる配向状態に制御された液晶層の各ゾーンの境界」を「配向制御窓により一定に固定」し、「配向」を「安定」させ、「表示特性」を「向上」させる(【0022】)との技術思想が開示されているのであるから、本件特許明細書に、請求人が主張するような上記態様の具体的記載がされていないからといって、それによって、本件特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるということはできない。
よって、本件特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものではない。

4 無効理由4について
請求人は、「原出願当初明細書に記載された発明は、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成するという態様(導電リブ態様)に係るものであるところ、本件発明1ないし5は、透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成する点を曖昧化しており、原出願当初明細書の記載を逸脱した不適法なもの(特許法44条1項違反)であるから、出願日遡及の利益(同条2項)を受けることはでき」ず、「本件特許は…現実の出願日(平成11年9月10日)に出願されたものである。よって、本件発明1ないし5は、現実の出願日より前に頒布された原出願の公開公報である特開平7-311383号公報(甲第2号証)に記載された発明と同一の発明であるか、微差を有するとしても、現実の出願日の技術水準を考慮すれば容易になし得る程度のものでしかなく、上記公開公報(甲第2号証)記載の発明から容易になし得たものである」(請求書33?34頁。上記第5の4(1)イ?エ)と主張するので、以下この点につき検討する。
(1)原出願(特願平6-104044号)当初明細書等の記載事項
請求人がいうところの「導電リブ態様」に関して、原出願当初の明細書または図面(以下「原出願当初明細書等」という。)には、以下の記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 対向表面側に透明な電極を有した2枚の基板が液晶層を挟んで上下に貼り合わされ、これら両電極の対向部で形成された表示画素がマトリクス状に配置されてなる液晶表示装置において、
前記電極の少なくとも一方の前記表示画素の周縁または/および領域内には前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられ、該配向制御傾斜部により液晶の配向を制御したことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】 前記配向制御傾斜部は、前記電極の下部に設けられた配向制御断層により、前記電極が部分的に隆起されることにより形成されていることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】 前記配向制御傾斜部は、前記表示画素の領域内に設けられて、前記表示画素を複数部分に分割し、分割された前記表示画素の各部分の液晶の配向を異ならせたことを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
…」
イ 「【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は以上の課題に鑑みて成され、第1に、対向表面側に透明な電極を有した2枚の基板が液晶層を挟んで上下に貼り合わされ、両電極の対向部で形成された表示画素がマトリクス状に配置されてなる液晶表示装置において、
前記電極の少なくとも一方の前記表示画素の周縁または/および領域内には前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられ、該配向制御傾斜部により液晶の配向を制御した構成である。
【0013】
第2に、前記第1の構成において、前記配向制御傾斜部は、前記電極の下部に設けられた配向制御断層により、前記電極が部分的に隆起されることにより形成された構成である。
第3に、前記第1の構成において、前記配向制御傾斜部は、前記表示画素の領域内に設けられて、前記表示画素を複数部分に分割し、分割された前記表示画素の各部分の液晶の配向を異ならせた構成である。」
ウ 「【0015】
【作用】
前記第1の構成で、基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にある。このため、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定される。
【0016】
このように、配向ベクトルが配向制御傾斜部により決定されると、液晶の連続体性により、同じ配向ベクトルを有した領域が、電極や他の配向制御傾斜部など、他の何らかの作用を受けた部分に制限されるまで広がる。このため、配向制御傾斜部を表示画素領域の周辺及び領域中に所定の形状で配置することにより、これらの作用により規定されたゾーン内では配向ベクトルが均一に揃えられ、表示特性が向上する。
【0017】
前記第2の構成で、電極の下部に配向制御断層を層間配置することにより、電極が部分的に隆起され、液晶層との接触表面が隆起または陥没された配向制御傾斜部が形成される。
前記第3の構成で、表示画素の領域内に設けられた配向制御傾斜部により複数に分割された表示画素領域内の各ゾーンは、互いに異なる優先視角方向を持つため、一つの表示画素について優先視角方向が広がり、視角依存性を低減することができる。」
エ 「【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。まず、第1の実施例を図1及び図2を参照しながら説明する。図1は本実施例に係るTN液晶セルの断面図である。液晶層(30)を挟んで上下に貼り合わされた2枚の透明な基板(10,20)上にはITOからなる透明電極(11,21)が設けられている。下側の透明電極(11)の下部には絶縁物が介在されて配向制御断層(12S)として、表示画素部の両端で透明電極(11)を隆起させている。一方、上側の透明電極(21)の下部にも絶縁物が介在されて配向制御断層(22S)として、表示画素部の領域内部で透明電極(21)を隆起させている。配向制御断層(12,22)はいずれもSiN_(x)やSiO_(2)などをエッチングすることにより形成される。透明電極(11,21)上にはそれぞれSiOの斜方蒸着膜やLB膜(ラングミュア・ブロジェット膜)が全面に被覆されて配向膜(40,50)となっている。この配向膜(40,50)によりプレチルト角0°の平行配向構造が実現される。…液晶層(30)は正の誘電率異方性を有するネマチック液晶であり、カイラル材を混入することにより液晶ダイレクター(31)のねじれ易さを付与し、接触面で配向膜(40,50)の制御を受けて両基板間で90°にねじれ配列されている。配向膜(40,50)は、配向制御断層(12S,22S)により隆起された部分の斜面が、液晶層(30)との接触表面が傾斜された配向制御傾斜部(13L,13R,23L,23R)となっている。
【0020】
この構造のセルを駆動すると、液晶ダイレクター(31)は、下側電極(11)の両端部の配向制御傾斜部(13L,13R)に従って、それぞれ左右両側の領域で互いに反対側から立ち上げられる。また、上側電極(21)の中央部でも配向制御傾斜部(23L,23R)によってそれぞれ反対側が立ち上がる。即ち、液晶の連続体性のために、図の左側のゾーンでは、液晶層(30)を挟んだ上下の配向制御傾斜部(13L,23L)の作用により、液晶ダイレクター(31)は全て左側から立ち上げられるとともに、右側のゾーンでは配向制御傾斜部(13R,23R)の作用により、液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられる。このように配向制御傾斜部(13L,13R,23L,23R)を配置することにより、表示画素が配向ベクトルの異なる2つのゾーンに分割されるとともに、それぞれのゾーンで均一な配向状態となる。
【0021】
図2は表示画素部の平面図であり、上下両電極(10,20)の対向部分を上から見た構造を示している。左右両端の辺に沿って下側の配向制御傾斜部(13L,13R)の帯状領域があり、これと平行した中央部は上側の配向制御傾斜部(23L,23R)の帯状領域となっている。点線は下側基板(10)の配向方向であり、実線は上側基板(20)の配向方向である。液晶ダイレクターはこれに従って、下側から上側へ時計回りに90°回転している。太矢印は中間調及び液晶の中間層での配向ベクトルの平面への射影である。図から明らかな如く、左右に分割された2つのゾーン(L,R)では、配向ベクトルは互いに逆方向へ向けられている。即ち、液晶ダイレクターは同じ平行配向方向に沿った初期状態から、左右のゾーン(L,R)で反対側が立ち上げられる。また、上下基板に関しても、反対側が立ち上げられて液晶ダイレクターの連続性が滑らかになるようにされている。太矢印で示される配向ベクトルは、液晶ダイレクターが全階調、及び、そのゾーンにおける全液晶層についても平均的にこの状態にあると見なせるものである。
【0022】
このようなセル構造により、例えば紙面の左方向からの視認については、ゾーン(L)の階調が正面からの視認より黒に近づくとともに、ゾーン(R)の階調が白に近づくため、両ゾーン(L,R)の平均調が正面からの視認に近づく。右方向からの視認についても同様の平均化作用があるので左右方向の視角依存性が低減される。」
オ 「【0024】
(第2の実施例)
本実施例は第1の実施例に類似するので詳細な説明は省略する。図3はセル構造の断面図である。図1に示された第1の実施例と異なるのは、上側基板(20)に配向制御傾斜部の代わりに、透明電極(21)の中央部に電極不在部分である配向制御窓(24)が形成されている点である。配向制御窓(24)はITOの成膜後にエッチングなどにより透明電極(21)中に開口される。配向制御窓(24)に対応する領域では、液晶層(30)に電界が生じないか、または、微弱で液晶の駆動閾値以下であるため、液晶ダイレクター(31)は初期の配向状態に固定されている。そのため、下側基板(10)の配向制御傾斜部(13L,13R)により表示画素部の両側から制御された配向状態は、液晶の連続体性により、配向ベクトルの異なる2つのゾーンの境界が配向制御窓(24)により固定されて分割される。
【0025】
尚、配向制御窓(24)は電極が不在であるが、これに対向する下側の透明電極(11)の領域には電極が存在している。このため、配向制御窓(24)に対応する液晶層(30)中には、図3の点線で示すような形状で斜め方向に電界が生じる。正の誘電率異方性を有する液晶ダイレクター(31)は電界方向へ配向するが、初期配向状態から最短で電界方向へ向くように傾斜を起こす。即ち、配向制御窓(24)の左側のエッジに対応する領域では液晶ダイレクター(31)は左側から立ち上げられ、配向制御窓(24)の右側のエッジに対応する領域では液晶ダイレクター(31)は右側から立ち上げられる。従ってこのように、上側基板(20)に配向制御窓(24)を設けることにより、配向制御窓(24)より左側のゾーンでは配向制御傾斜部(13L)の作用と合わせて液晶ダイレクター(31)は全て左側から立ち上げられるとともに、配向制御窓(24)より右側のゾーンでは配向制御傾斜部(13R)の作用と合わせて液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられる。」
カ 「【0027】
(第3の実施例)
図5にセルの断面構造を示す。液晶層(30)を挟んで上下に貼り合わされた2枚の透明基板(10,20)上にはITOからなる透明電極(11,21)が設けられている。下側の透明電極(11)の下部には、表示画素部の大部分に形成された配向制御断層(12L)、及び、配向制御断層(12L)上の表示画素部の内部に形成された第2の配向制御断層(15)が設けられている。両透明電極(11,21)上には、それぞれSiOの斜方蒸着膜やLB膜からなる配向膜(40,50)が全面に被覆されている。配向制御断層(12L)は、全体的に透明電極(11)をせり上げるとともに、配向制御断層(12L)が不在の表示画素部の両端は、相対的に透明電極(11)が陥没されて配向膜(40)に斜面が生じ、配向制御傾斜部(14L,14R)となっている。また、第2の配向制御断層(15)は透明電極(11)を一部隆起させ、この部分でも配向膜(40)の斜面が配向制御傾斜部(16L,16R)となっている。
【0028】
表示画素領域は、配向制御傾斜部(14L,16L)により規定された左側のゾーンと、配向制御傾斜部(14R,16R)により規定された右側のゾーンに分割される。即ち、左側のゾーンでは配向制御傾斜部(14L,16L)に従って液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられ、右側のゾーンでは液晶ダイレクター(31)は全て左側から立ち上げられる。」
キ 「【0031】
(第4の実施例)
本実施例が第3の実施例と異なるのは、図7に示すように、表示画素の分割手段として、上側基板(20)に配向制御傾斜部(25L,25R)が設けられている点である。下側の透明電極(11)の下部には、表示画素部の大部分に形成された配向制御断層(12L)が介在し、左右両端部では配向膜(40)の斜面が配向制御傾斜部(14L,14R)となっている。上側の透明電極(21)の下部には表示画素部の大部分に配向制御断層(22L)が設けられ、エッチングなどで表示画素の中央部を縦断して不在部分が形成されている。この不在部分では透明電極(21)が陥没され、これにより配向膜(50)に斜面ができて配向制御傾斜部(25L,25R)となっている。配向制御傾斜部(14L,25L)により規定された左側のゾーンでは液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられ、配向制御傾斜部(14R,25R)により規定された右側のゾーンでは液晶ダイレクター(31)は全て左側から立ち上げられる。」
ク 「【0033】
(第5の実施例)
本実施例では表示画素領域の分割手段として、図9に示すように、下側基板(10)に、第2の実施例で説明した配向制御窓(17)を形成している。即ち、下側基板(10)で配向制御傾斜部(14L,14R)を形成するとともに、下側の透明電極(11)中にエッチングで電極不在部分を形成して配向制御窓(17)が開口されている。これにより、表示画素の両側で配向制御傾斜部(14L,14R)により別々に制御された配向状態は、その境界が配向制御窓(17)によって固定される。
【0034】
配向制御窓(17)に対応する領域では液晶層(30)中に図の点線で示されるような斜めの電界が生じるので、配向制御傾斜部(14L,14R)の作用と合わせて、左のゾーンでは液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられ、右のゾーンでは全て左側から立ち上げられる。」
ケ 「【0035】
次に、本発明の第6の実施例を図11及び図12を参照しながら説明する。図11は本実施例に係る垂直配向ECB方式の液晶セルの断面図である。液晶層(120)を挟んで上下に貼り合わされた2枚の透明な基板(100,110)上にはITOの透明電極(101,111)が設けられている。下側の透明電極(100)の下部には絶縁物が介在されて配向制御断層(102S)として、表示画素を囲う周縁部で透明電極(101)を隆起させている。一方、上側の透明電極(111)の下部にも絶縁物が介在されて配向制御断層(112S)として、表示画素の対角線に沿った部分で透明電極(111)を隆起させている。配向制御断層(102S,112S)はいずれもSiN_(X)やSiO_(2)などをエッチングすることにより形成される。透明電極(101,111)上にはSiOの垂直蒸着膜やポリイミド膜が全面に被覆されて配向膜(130,140)となっている。液晶層(120)は負の誘電率異方性を有したネマチック液晶であり、配向膜(130,140)の排除体積効果により、液晶ダイレクター(121)の初期配向を接触表面に対して垂直方向に制御している。配向膜(130,140)は、配向制御断層(102S,112S)により隆起された部分の斜面が、液晶層(120)との接触表面が傾斜された配向制御傾斜部(103,113L,113R,113U,113D)となっている(図12参照)。
【0036】
この構造のセルを駆動すると、液晶ダイレクター(121)は、下側電極(101)の周縁部で配向制御傾斜部(103)に従って、左右両側の領域で互いに反対側へ傾けられる。また、上側電極(111)の中央部でも配向制御傾斜部(113L,113R)によってそれぞれ反対側へ傾けられる。即ち、液晶の連続体性のために、図11の左側のゾーンでは、液晶層(120)を挟んだ上下の配向制御傾斜部(113L,103)の作用により、液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられるとともに、右側のゾーンでは配向制御傾斜部(113R,103)の作用により、液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられる。このように配向制御傾斜部(103,113L,113R)を配置することにより、表示画素が配向ベクトルの異なる複数のゾーンに分割されるとともに、それぞれのゾーンで均一な配向状態となる。
【0037】
図12は表示画素部の平面図であり、上下両電極(101,111)の対向部分を上から見た構造を示している。表示画素の周縁を囲って下側の配向制御傾斜部(103)の帯状領域があり、内部には表示画素の対角線に沿って上側に形成された配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)のX字型の領域がある。太矢印は中間調での配向ベクトルの平面射影であり、液晶ダイレクーは全階調について平均的にこの状態にあると見なされる。尚、矢印方向は、液晶ダイレクターが、その上側を傾ける方向を表している。図から明らかな如く、配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)により上下左右に分割された4つのゾーン(U,D,L,R)では、配向ベクトルはそれぞれの4つの方向へ向けられる。即ち、液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態から、上下左右のゾーン(U,D,L,R)で、4つのそれぞれの方向へ傾けられる。…
【0038】
このようなセル構造により、例えば紙面の左方向からの視認については、ゾーン(L)の階調が正面からの視認より白に近づくとともに、ゾーン(R)の階調が黒に近づくため、両ゾーン(L,R)の平均調と上下ゾーン(U,D)の合成光が正面からの視認に近づく。他の方角からの視認についても同様の平均化作用があるので全ての方角について視角依存性が低減される。」
コ 「【0040】
(第7の実施例)
本実施例は第6の実施例に類似するので詳細な説明は省略する。図13はセル構造の断面図である。図11に示された第6の実施例と異なるのは、上側基板(110)に配向制御傾斜部の代わりに、表示画素の対角線に沿って透明電極(111)中に電極不在部分である配向制御窓(114)が形成されている点である。配向制御窓(114)はITOの成膜後にエッチングなどにより開口される。配向制御窓(114)に対応する領域では、液晶層(120)に電界が生じないか、または、微弱で液晶の駆動閾値以下であるため、液晶ダイレクター(121)は初期の配向状態に固定されている。そのため、配向制御傾斜部(103)により表示画素部の周縁から制御された配向状態は、液晶の連続体性により、配向ベクトルの異なる両ゾーンの境界が配向制御窓(114)により固定されて分割される。
【0041】
尚、配向制御窓(114)は電極が不在であるが、これに対向する下側の透明電極(101)の領域には電極が存在している。このため、配向制御窓(114)に対応する液晶層(120)中には、図13の点線で示すような形状で斜め方向に電界が生じる。負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクター(121)は電界方向に直角な方向へ配向するが、初期配向状態から最短で電界に直角な方向へ向くように傾斜を起こす。即ち、配向制御窓(114)の左側のエッジに対応する領域では液晶ダイレクター(121)は右側へ傾けられ、配向制御窓(114)の右側のエッジに対応する領域では液晶ダイレクター(121)は左側へ傾けられる。従ってこのように、上側基板(110)に配向制御窓(114)を設けることにより、配向制御窓(114)より左側のゾーンでは配向制御傾斜部(103)の作用と合わせて液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられるとともに、配向制御窓(114)より右側のゾーンでは配向制御傾斜部(103)の作用と合わせて液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられる。
【0042】
図14に平面図を示す。X字型に形成された配向制御窓(114)により4つに分割された各ゾーン(U,D,L,R)では、図12で示した第6の実施例と同様、液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態から、4つのそれぞれ方向へ傾けられる。…」
サ 「【0043】
(第8の実施例)
図15にセルの断面構造を示す。液晶層(120)を挟んで上下に貼り合わされた2枚の透明な基板(100,110)上にはITOの透明電極(101,111)が設けられている。下側の透明電極(101)の下部には、表示画素部の大部分に形成された配向制御断層(102L)、及び、配向制御断層(102L)上の表示画素部の対角線に沿って形成された第2の配向制御断層(105)が設けられている。両透明電極(101,111)上には、SiOの垂直蒸着膜やポリミド膜からなる垂直配向膜(130,140)が全面に被覆されている。配向制御断層(102L)は、全体的に透明電極(101)をせり上げるとともに、表示画素を囲む周縁部で配向制御断層(102L)が不在の部分は、相対的に透明電極(111)が陥没され、配向膜(130)に斜面が生じ、配向制御傾斜部(104)となっている。第2の配向制御断層(105)は透明電極(111)を一部隆起させ、配向制御傾斜部(106L,106R,106U,106D)が形成されている(図16参照)。
【0044】
表示画素領域は、配向制御傾斜部(104,106L)により規定された左側のゾーンと、配向制御傾斜部(104,106R)により規定された右側のゾーンに分割される。即ち、左側のゾーンでは配向制御傾斜部(104,106L)に従って液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられ、右側のゾーンでは液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられる。
【0045】
図16に表示画素部の平面図を示す。表示画素の周縁部に配向制御傾斜部(104)の帯状領域があり、内部には表示画素の対角線に沿って形成された配向制御傾斜部(106L,106R,106U,106D)のX字型の領域がある。このように4つに分割された各ゾーン(U,D,L,R)では、液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態から、4つのそれぞれの方向へ傾けられ、太矢印で表される平均的配向ベクトルの平面射影は4方向を向いている。
【0046】
このようなセル構造により、例えば紙面の左方向からの視認については、ゾーン(L)の階調が正面からの視認より黒に近づくとともに、ゾーン(R)の階調が白に近づくために、ゾーン(L,R)の平均調と上下ゾーン(U,D)の合成光が正面からの視認に近づく。他の方角からの視認についても同様の平均化作用があるので全ての方角について視角依存性が低減される。」
シ 「【0047】…
(第9の実施例)
本実施例が第8の実施例と異なるのは、図17に示すように、表示画素の分割手段として、上側基板(110)に配向制御傾斜部(115L,115R)が設けられている点である。下側の透明電極(101)の下部には、表示画素部の大部分に形成された配向制御断層(102L)が介在し、周縁部は配向制御傾斜部(104)となっている。上側の透明電極(111)の下部には、全面に配向制御断層(112L)が設けられ、エッチングなどで表示画素の対角線に沿って不在部分が形成されている。この不在部分では、透明電極(111)が陥没されて配向膜(130)に斜面が生じ、配向制御傾斜部(115L,115R,115U,115D)となっている。配向制御傾斜部(104,115L)によって規定された左側のゾーンでは、液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられ、配向制御傾斜部(104,115R)によって規定された右側のゾーンでは、液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられる。
【0048】
図18に表示画素部の平面図を示す。表示画素の周縁を囲って配向制御傾斜部(104)の帯状領域があり、内部には表示画素の対角線に沿って形成された配向制御傾斜部(115L,115R,115U,115D)のX字型の領域がある。このように4つに分割された各ゾーン(U,D,L,R)では、第8の実施例と同様に、配向ベクトルの平面射影は4つのそれぞれの方向を向いた状態にあり、各ゾーン(U,D,L,R)の平均調により全方角について視角依存性が低減されるとともに、ディスクリネーションのばらつきが抑えられる。」
ス 「【0049】
(第10の実施例)
本実施例では表示画素領域の分割手段として、図19に示すように、下側基板(100)に、第7の実施例で説明した配向制御窓(107)を形成している。即ち、下側基板(100)に配向制御傾斜部(104)を形成するとともに、下側の透明電極(101)中にエッチングで電極不在部分を形成している。これにより、表示画素の両側で配向制御溝(103)により別々に制御された配向状態は、その境界が配向制御窓(107)によって固定されることになる。
【0050】
配向制御窓(107)に対応する領域では液晶層(120)中に図の点線で示されるような斜めの電界が生じるので、配向制御傾斜部(104)の作用と合わせて、左のゾーンでは液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられ、右のゾーンでは全て右側へ傾けられる。
図20に表示画素部の平面図を示す。表示画素の周縁を囲って配向制御傾斜部(104)の帯状領域があり、内部には表示画素の対角線に沿って形成された配向制御窓(107)のX字型の領域がある。配向制御窓(107)によって4つに分割された各ゾーン(U,D,L,R)では、第8、第9の実施例と同様に、配向ベクトルの平面射影は4つのそれぞれの方向を向いた状態にあり、各ゾーン(U,D,L,R)の平均調により全方角について視角依存性が低減され、また、ディスクリネーションのばらつきが抑えられる。」
セ 「【0051】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、配向制御傾斜部をセルの所定の部分に配置したことにより、表示画素を、それぞれ異なる優先視角方向を有する複数のゾーンに分割することができた。そのため、TNセルでは表示画素を左右に分割することにより、左右方向に高かった視角依存性を低くして、広視野角の表示が実現できた。また、垂直配向ECBセルでは、上下左右に分割することにより、広視野角が実現されるとともに、画素ごとに異なる不均一なディスクリネーションの出現が防止され、画面のざらつきがなくなり、表示品位が向上した。」
(2)原出願当初明細書等の記載から把握できる技術的事項
上記(1)によれば、原出願当初明細書等の記載から、以下の技術的事項が把握できる。
ア 2枚の基板の対向表面側に設けられた透明な電極の少なくとも一方の表示画素の周縁部または/および領域内に、液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられること(上記(1)ア、イ)。
イ 前記配向制御傾斜部は、前記電極の下部に設けられた配向制御断層により、前記電極が部分的に隆起されること(上記(1)ア、イ)。
ウ 前記配向制御傾斜部は、前記表示画素の領域内に設けられて、前記表示画素を複数部分に分割し、分割された前記表示画素の各部分の液晶の配向を異ならせること(上記(1)ア、イ)。
エ 第1の構成(すなわち、対向表面側に透明な電極を有した2枚の基板が液晶層を挟んで上下に貼り合わされ、両電極の対向部で形成された表示画素がマトリクス状に配置されてなる液晶表示装置において、前記電極の少なくとも一方の前記表示画素の周縁または/および領域内には前記液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成された配向制御傾斜部が設けられ、該配向制御傾斜部により液晶の配向を制御した構成)で、基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にあり、このため、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定され、このように、配向ベクトルが配向制御傾斜部により決定されると、液晶の連続体性により、同じ配向ベクトルを有した領域が、電極や他の配向制御傾斜部など、他の何らかの作用を受けた部分に制限されるまで広がり、このため、配向制御傾斜部を表示画素領域の周辺及び領域中に所定の形状で配置することにより、これらの作用により規定されたゾーン内では配向ベクトルが均一に揃えられ、表示特性が向上すること(上記(1)イ、ウ)。
オ 原出願当初明細書等に示された第1の実施例?第10の実施例のいずれの「液晶表示装置」も、「基板」の上に「電極」を設け、該「電極」の下部(の基板の上)に「(傾斜した端面を有する)配向制御断層」を配置し、該「電極」の上部に「配向膜」を配置して、表示画素部の端部に「透明電極」及び「配向膜」が隆起した「配向制御傾斜部」を設けること(上記(1)エ?ス)。
そして、上記ア?オによれば、原出願当初明細書等には、「配向制御傾斜部」を、2枚の基板の対向表面側に設けられた透明な電極の少なくとも一方の(透明な電極の)表示画素の周縁部または/および領域内に、液晶層との接触表面を部分的に隆起または陥没させることにより形成すること、より具体的には、「基板」の上に「電極」を設け、該「電極」の下部に「(傾斜した端面を有する)配向制御断層」を配置し、該「電極」の上部に「配向膜」を配置して、表示画素部の端部で前記「電極」及び「配向膜」を隆起または陥没させて「配向制御傾斜部」を形成することが記載されていると認められる。
(3)判断
原出願当初明細書の請求項1には、「前記電極の少なくとも一方の前記表示画素の周縁または/および領域内には…配向制御傾斜部が設けられ」との記載があり、「配向制御傾斜部」は「電極」に設けられるとの記載がされている。また、原出願当初明細書の【0015】には、「前記第1の構成で…」との記載があり、当該「第1の構成」とは、同【0012】によれば、(「配向制御傾斜部」が「電極」に設けられるとする)原出願当初明細書の請求項1に係る構成であると認められる。
しかるところ、原出願当初明細書の請求項1に係る発明において、「配向制御傾斜部」が設けられている技術上の意義について検討するに、原出願当初明細書の【0015】及び【0016】の記載(上記(1)ウ参照。)によれば、原出願当初明細書の請求項1に係る発明において、前記「配向制御傾斜部」が設けられている技術上の意義は、「基板表面を隆起または陥没させて形成した(配向制御)傾斜部では、正または負の誘電異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にあ」るため、「(該液晶ダイレクターが)電圧印加により最短でエネルギー的に安定な方向へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、…配向ベクトルが決定され」、「このように、配向ベクトルが配向制御傾斜部により決定されると、液晶の連続体性により、同じ配向ベクトルを有した領域が、電極や他の配向制御傾斜部など、他の何らかの作用を受けた部分に制限されるまで広が」り、「(所定の)ゾーン内」で「配向ベクトルが均一に揃えられ」るようにする点にあるものと理解することができる。
すなわち、原出願当初明細書の請求項1に係る発明の「配向制御傾斜部」は、「正または負の誘電異方性を有する液晶ダイレクター」の「初期配向方向」を、「電界方向とは所定の角度を持った状態」とする点に技術上の意義を有するものであって、該「液晶ダイレクター」の「初期配向方向」を「電界方向」とが所定の角度を持った状態にできれば良いものであり、必ずしも「電極」に設けられなければならないものには限られず、また、「電極が隆起されることにより形成されている」ものに限られないものであることを理解するのは、その技術上の意義を踏まえれば、当業者にとって何ら困難なことではない。
してみれば、原出願当初明細書に記載された発明は、「透明電極の下部に配向制御断層を設け電極に傾斜部を形成するという態様(導電リブ態様)に係るもの」に限られるというのは相当とはいえない。
そして、本件訂正発明1?5は、「前記第1の基板には、前記液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ」との特定事項を有するものであるところ、当該特定事項は、原出願当初明細書等の記載の範囲内のものということができる。
(4)原出願の公開公報に基づく新規性進歩性欠如について
上記(3)のとおり、本件訂正発明1?5は、原出願当初明細書等の記載の範囲内のものであって、本件訂正発明1?5についての特許出願は、原出願の特許出願の時にしたものとみなされるものである。
そうすると、原出願の公開公報である特開平7-311383号公報(甲第2号証)は、特許法第29条第1項第3号で規定される刊行物には該当しないから、本件訂正発明1?5は、同法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということはできない。


第8 むすび
以上のとおりであって、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第1項柱書、同条第1項第3号及び同条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当するものではない。
また、本件訂正発明についての特許は、平成6年改正前特許法第36条第4項及び同条第5項第1号の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第4号に該当するものではない。

したがって、請求人が主張する無効理由によっては、本件訂正発明1ないし5についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶表示装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、前記第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、
前記第1の基板には、前記液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、前記配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があり、
前記第2の基板には、前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向する領域に、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、
前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓によって液晶の配向方向を制御することを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの少なくとも一方は、1つの表示画素内に複数配置され、それらの間に、他方が配置されることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】前記1画素内に複数配置される前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓のうちの一方のほぼ中央に、他方が配置されることを特徴とする請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素内に線状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】前記配向制御傾斜部及び前記配向制御窓は、表示画素の領域内に直線形状で形成されている直線部分を有することを特徴とする請求項4に記載の液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は液晶表示装置に関し、特に、液晶ダイレクターの配向を制御することにより、広視野角特性と高表示品位を達成した液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示装置は小型、薄型、低消費電力などの利点があり、OA機器、AV機器などの分野でディスプレイ装置として実用化が進んでいる。
【0003】
液晶表示装置は、ガラスなどの透明基板上に所定パターンの透明電極が設けられた2枚の基板が、厚さ数μmの液晶層を挟んで貼り合わされ、更にこれを、偏光軸が互いに直交する2枚の偏光板で挟み込むことによって構成される。特に、走査電極群とデータ電極群を交差配置した交点を任意に選択して表示画素容量に電圧を印加することにより、液晶を駆動するマトリクス型は、数万から数10万の画素の駆動が可能であり、大画面、高精細の表示ディスプレイ装置に適している。
【0004】
図21にその一般的な平面構造を示す。走査電極(X)とデータ電極(Y)はいずれもITOなどの透明導電膜からなる。これらはそれぞれ、液晶を挟んで上下に配置されたガラスなとの透明基板上に形成されており、両電極(X,Y)の交差点が表示画素容量となっている。両電極(X,Y)は時分割駆動により信号電圧が印加される。選択点となる表示画素には閾値以上の実効電圧が印加されて液晶を駆動することにより、透過率の変化した表示点の集合が、文字や像などの表示画像として視認される。
【0005】
図22は選択用スイッチング素子としてTFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスター)を用いたアクティブマトリクス型の平面構造である。アクティブマチリクス型では、走査信号用ゲートライン(G)とデータ信号用ドレインライン(D)が同一基板上に形成されている。両ライン(G,D)の交点には、活性層としてa-Siやp-Siなどの非単結晶半導体層を用いたTFTが形成され、表示電極(P)に接続している。対向電極は液晶層を挟んで対向配置されたもう一方の基板上に全面形成されており、表示電極(P)との各対向部分が表示画素容量となっている。表示電極(P)及び対向電極はITOなどの透明導電膜からなる。ゲートライン(G)は線順次に走査選択されて、同一走査線上のTFTを全てONとし、これと同期したデータ信号をドレインライン(D)を介して各表示電極(P)に供給する。対向電極もまた、ゲートライン(G)の走査に同期して電圧が設定され、対向する各表示電極(P)との電圧差で液晶を駆動し、非選択中はTFTのOFF抵抗により、表示画素容量に印加された電圧が保持され、液晶の駆動状態が継続される。
【0006】
図23はこのような液晶表示装置のセル構造を示した断面図である。透明基板(200,210)上には、それぞれ、走査電極や表示電極、及び、データ電極または対向電極となる透明電極(201,211)が形成されており、液晶層(220)を挟んだ上下に位置している。また、透明電極(201,211)上にはポリイミドなどの高分子膜からなる配向膜(230,240)が被覆され、ラビング処理を施すことにより表面配向が制御されている。更に、図示は省略したが、両基板(200,210)の外側には、互いに偏光軸方向が直交するように偏光板が設けられている。
【0007】
液晶層(220)は、カイラル材を混入して、ねじれ方向の指向性を与えたネマチック液晶である。正の誘電率異方性を有した液晶は、このように基板表面に平行に配向するが、ラビング方向に沿って、わずかの初期傾斜(プレチルト)角を有した初期配向状態となる。ラビングは両基板(200,210)について互いに直交する方向に行われ、液晶は上下両基板間で90°にねじれ配置されている。図24は、この様子を模式的に示した斜視図である。上下両基板はそれぞれ矢印で示す方向にラビング処理されている。接触面で、液晶ダイレクター(221)はラビング方向へプレチルト分立ち上げられ、これに従って、下から上へ時計回りにねじれ配列されている。このようなタイプの液晶表示装置はTN(Twisted Nematic:ねじれネマチック)方式と呼ばれている。TN方式では、液晶層(220)へ電圧を印加してねじれ状態を解消することにより透過光を制御して明暗(白黒)を得ている。
【0008】
図25は液晶層(250)として負の誘電率異方性を有した液晶を用いたセルである。電極配置は図23で示したTN方式と変わり無いが、垂直配向用に成膜された配向膜(260,270)の排除体積効果により、液晶を基板の垂直方向に初期配向させたセルである。これは、液晶ダイレクター(251)が、基板に対して垂直方向に成長された配向膜(260,270)の高分子成分に対して平行に配列することにより、高分子の占有体積と液晶分子の占有体積の接触によって生じる相互的な排除体積が最小になるようにされたものである。このようなタイプとして、例えば、電場印加により液晶の配向を初期状態から変化させ、入射光に複屈折変化を与えることにより明暗やカラーを得るECB(Electrically Controlled Birefringence)方式がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
続いて、従来の液晶表示装置の問題点について説明する。図26は、TNセルを上から見た場合、液晶ダイレクターの方向を平面的に射影した図である。点線矢印は下側のラビング方向であり、実線矢印は上側のラビング方向である。図24を参照しても分かるように、液晶ダイレクター(221)は、下側では点線矢印で示す方向を上へ向けて立ち上がり、上側では実線矢印で示す方向を下へ向けて立ち上がる。配向ベクトルの向きを液晶の長軸方向の上向きへ取ると、セル内の液晶ダイレクターは全て2重矢印で示した角度範囲内の配向ベクトルを有する。中間調における液晶の中間層では、液晶ダイレクターは太矢印で示した配向ベクトルで表され、全階調及び全液晶層中でも平均的にこの配向ベクトルの状態にあると見なされる。視角の変化によって光路に対する液晶の配向状態も相対的に変化するので、真正面からの視認に比較して、紙面の右側からの視認では階調が白に近づき、左側からの視認では黒に近づき、左右方向の視角依存性が高かった。
【0010】
図27は,従来の垂直配向型ECB方式の液晶表示装置の駆動時の光の透過状態を示した平面図である。上の説明では省略したが、通常、対向基板側にはメタルなどの遮光膜が設けられており、マトリクス配置された画素に対応する開口部(300)を除いて、光の透過を遮断している。この遮光領域(301)では、画素間の光漏れが防止されて黒色となり、表示のコントラスト比を向上するものである。各開口部(300)では光の透過率が制御されて、所望の表示が得られることになるが、この開口部(300)においても、ディスクリネーション(302)と呼ばれる黒領域が生じる。ディスクリネーションとは、液晶の配向ベクトルが互いに異なる領域が複数存在するとき、その境界線上で、液晶ダイレクターの配向がが乱れ、他の領域とは異なる透過率を示す領域である。
【0011】
ネマチック相の液晶ダイレクターは、電圧印加時の配向ベクトルが電界方向に対する角度のみで束縛され、電界方向を軸とした方位角は解放されている。そのため、基板表面には電極による凹凸が有り表面配向処理が不均一になっていることや、セル内の電極間の電位差による横方向の電界が存在していることなどの原因により配向ベクトルが互いに異なった領域が生じる。部分的にも配向ベクトルの異常が存在すると、液晶の連続体性のために、これに従うような方位角を有する配向ベクトルがある領域に渡って広がる。このようなことがセルの複数個所で起きれば、電界方向とのなす角が同じでありながら、方位角が異った配向ベクトルを有する領域が複数生じる。これらの領域の境界線は透過率が他と異なっており、ディスクリネーションとなる。画素ごとに異なる形状のディスクリネーションが多発すると、画面にざらつきが生じたり、期待のカラー表示が得られないなどの問題が招かれる。
【0012】
また、各領域の配向ベクトルが、表示領域中で不規則になると視角依存性が高まる問題がある。
【0013】
更に、ラビング時に生ずる静電気が、TFTの閾値や、相互コンダクタンスの変化を招く、いわゆる静電破壊の問題もある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は以上の課題に鑑みて成され、対向表面側に電極を有した第1及び第2の基板間に液晶を封入してなり、第1及び第2の基板の電極が対向してなる表示画素が複数配置されている液晶表示装置において、第1の基板には、液晶との接触表面が隆起又は陥没されてなる配向制御傾斜部が設けられ、前記配向制御傾斜部が存在する領域と存在しない領域があり、第2の基板には、前記第1の基板の前記配向制御傾斜部が存在しない領域に対向する領域に、前記第2の基板の電極が開口されてなる配向制御窓が設けられており、配向制御傾斜部及び配向制御窓によって液晶の配向方向を制御する液晶表示装置である。
【0015】
そして、配向制御傾斜部及び配向制御窓のうちの少なくとも一方は、表示画素内に複数配置され、それらの間、さらにはその中央に、他方が配置される。
【0016】
また、配向制御傾斜部及び配向制御窓は、表示画素内に線状に形成されている。
【0017】
更に、配向制御傾斜部及び配向制御窓は、表示画素の領域内に直線形状で形成されている直線部分を有する。
【0018】
基板表面を隆起または陥没させて形成した傾斜部では、正または負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクターは、それぞれ初期配向方向が傾斜面に対して平行または垂直に制御され、電界方向とは所定の角度を持った状態にある。このため、電圧印加により最短でエネルギー的に安定な状態へ傾斜するように傾斜方向が束縛され、誘電率異方性に基づく電界効果と合わせて、配向ベクトルが決定される。
【0019】
このように、配向ベクトルが配向制御傾斜部により決定されると、液晶の連続体性により、同じ配向ベクトルを有した領域が、電極や他の配向制御傾斜部など、他の何らかの作用を受けた部分に制限されるまで広がる。このため、配向制御傾斜部を表示画素領域の周辺及び領域中に所定の形状で配置することにより、これらの作用により規定されたゾーン内では配向ベクトルが均一に揃えられ、表示特性が向上する。
【0020】
電極の下部に配向制御断層を層間配置することにより、電極が部分的に隆起され、液晶層との接触表面が隆起または陥没された配向制御傾斜部が形成される。
【0021】
表示画素の領域内に設けられた配向制御傾斜部により複数に分割された表示画素領域内の各ゾーンは、互いに異なる優先視角方向を持つため、一つの表示画素について優先視角方向が広がり、視角依存性を低減することができる。
【0022】
表示画素の領域内に電極の不在部分である配向制御窓を設けたことにより、これに対応する液晶層中では電界が弱く液晶駆動の閾値以下であるため、液晶ダイレクターは初期配向状態に保持される。配向制御傾斜部によりそれぞれ異なる配向状態に制御された液晶層の各ゾーンの境界は配向制御窓により一定に固定され、配向が安定し、更に表示特性が向上する。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。まず、第1の実施例を図1及び図2を参照しながら説明する。図1は本実施例に係るTN液晶セルの断面図である。液晶層(30)を挟んで上下に貼り合わされた2枚の透明な基板(10,20)上にはITOからなる透明電極(11,21)が設けられている。下側の透明電極(11)の下部には絶縁物が介在されて配向制御断層(12S)として、表示画素部の両端で透明電極(11)を隆起させている。一方、上側の透明電極(21)の下部にも絶縁物が介在されて配向制御断層(22S)として、表示画素部の領域内部で透明電極(21)を隆起させている。配向制御断層(12,22)はいずれもSiNXやSiO2などをエッチングすることにより形成される。透明電極(11,21)上にはそれぞれSiOの斜方蒸着膜やLB膜(ラングミュア・ブロジェット膜)が全面に被覆されて配向膜(40,50)となっている。この配向膜(40,50)によりプレチルト角0°の平行配向構造が実現される。SiOの斜方蒸着では、基板の法線から60°の角度で蒸着することにより、蒸着方向に直角な方向でプレチルト角0°の平行配向が得られる。また、LB膜は、水面上に吸着した単分子膜を基板表面に累積させた膜であり、配向膜としては、基板を水面を横切って鉛直方向に上下させることにより、上下に動かした方向にプレチルト角0°の平行配向膜が得られる。液晶層(30)は正の誘電率異方性を有するネマチック液晶であり、カイラル材を混入することにより液晶ダイレクター(31)のねじれ易さを付与し、接触面で配向膜(40,50)の制御を受けて両基板間で90°にねじれ配列されている。配向膜(40,50)は、配向制御断層(12S,22S)により隆起された部分の斜面が、液晶層(30)との接触表面が傾斜された配向制御傾斜部(13L,13R,23L,23R)となっている。
【0024】
この構造のセルを駆動すると、液晶ダイレクター(31)は、下側電極(11)の両端部の配向制御傾斜部(13L,13R)に従って、それぞれ左右両側の領域で互いに反対側から立ち上げられる。また、上側電極(21)の中央部でも配向制御傾斜部(23L,23R)によってそれぞれ反対側が立ち上がる。即ち、液晶の連続体性のために、図の左側のゾーンでは、液晶層(30)を挟んだ上下の配向制御傾斜部(13L,23L)の作用により、液晶ダイレクター(31)は全て左側から立ち上げられるとともに、右側のゾーンでは配向制御傾斜部(13R,23R)の作用により、液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられる。このように配向制御傾斜部(13L,13R,23L,23R)を配置することにより、表示画素が配向ベクトルの異なる2つのゾーンに分割されるとともに、それぞれのゾーンで均一な配向状態となる。
【0025】
図2は表示画素部の平面図であり、上下両電極(10,20)の対向部分を上から見た構造を示している。左右両端の辺に沿って下側の配向制御傾斜部(13L,13R)の帯状領域があり、これと平行した中央部は上側の配向制御傾斜部(23L,23R)の帯状領域となっている。点線は下側基板(10)の配向方向であり、実線は上側基板(20)の配向方向である。液晶ダイレクターはこれに従って、下側から上側へ時計回りに90°回転している。太矢印は中間調及び液晶の中間層での配向ベクトルの平面への射影である。図から明らかな如く、左右に分割された2つのゾーン(L,R)では、配向ベクトルは互いに逆方向へ向けられている。即ち、液晶ダイレクターは同じ平行配向方向に沿った初期状態から、左右のゾーン(L,R)で反対側が立ち上げられる。また、上下基板に関しても、反対側が立ち上げられて液晶ダイレクターの連続性が滑らかになるようにされている。太矢印で示される配向ベクトルは、液晶ダイレクターが全階調、及び、そのゾーンにおける全液晶層についても平均的にこの状態にあると見なせるものである。
【0026】
このようなセル構造により、例えば紙面の左方向からの視認については、ゾーン(L)の階調が正面からの視認より黒に近づくとともに、ゾーン(R)の階調が白に近づくため、両ゾーン(L,R)の平均調が正面からの視認に近づく。右方向からの視認についても同様の平均化作用があるので左右方向の視角依存性が低減される。
【0027】
以下、第1の実施例と同様、液晶層として正の誘電率異方性を有したネマチック液晶にカイラル材を混入したものを用い、プレチルト角を持たない平行配向構造のTN液晶セルについて、配向制御傾斜部によって液晶ダイレクターの配向を制御し、表示画素を複数に分割して視角依存性を低減した本発明の第2から第5の実施例を説明する。
【0028】
(第2の実施例)
本実施例は第1の実施例に類似するので詳細な説明は省略する。図3はセル構造の断面図である。図1に示された第1の実施例と異なるのは、上側基板(20)に配向制御傾斜部の代わりに、透明電極(21)の中央部に電極不在部分である配向制御窓(24)が形成されている点である。配向制御窓(24)はITOの成膜後にエッチングなどにより透明電極(21)中に開口される。配向制御窓(24)に対応する領域では、液晶層(30)に電界が生じないか、または、微弱で液晶の駆動閾値以下であるため、液晶ダイレクター(31)は初期の配向状態に固定されている。そのため、下側基板(10)の配向制御傾斜部(13L,13R)により表示画素部の両側から制御された配向状態は、液晶の連続体性により、配向ベクトルの異なる2つのゾーンの境界が配向制御窓(24)により固定されて分割される。
【0029】
尚、配向制御窓(24)は電極が不在であるが、これに対向する下側の透明電極(11)の領域には電極が存在している。このため、配向制御窓(24)に対応する液晶層(30)中には、図3の点線で示すような形状で斜め方向に電界が生じる。正の誘電率異方性を有する液晶ダイレクター(31)は電界方向へ配向するが、初期配向状態から最短で電界方向へ向くように傾斜を起こす。即ち、配向制御窓(24)の左側のエッジに対応する領域では液晶ダイレクター(31)は左側から立ち上げられ、配向制御窓(24)の右側のエッジに対応する領域では液晶ダイレクター(31)は右側から立ち上げられる。従ってこのように、上側基板(20)に配向制御窓(24)を設けることにより、配向制御窓(24)より左側のゾーンでは配向制御傾斜部(13L)の作用と合わせて液晶ダイレクター(31)は全て左側から立ち上げられるとともに、配向制御窓(24)より右側のゾーンでは配向制御傾斜部(13R)の作用と合わせて液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられる。
【0030】
図4に平面図を示す。配向制御窓(24)により仕切られた2つのゾーン(L,R)では、図2で示した第1の実施例と同様、液晶ダイレクターは同じ平行配向方向に沿った初期状態から、それぞれ反対側が立ち上げられる。そのため、左右方向からの視認は、両ゾーン(L,R)の平均調により認識されるので、視角依存性が低減される。
【0031】
(第3の実施例)
図5にセルの断面構造を示す。液晶層(30)を挟んで上下に貼り合わされた2枚の透明基板(10,20)上にはITOからなる透明電極(11,21)が設けられている。下側の透明電極(11)の下部には、表示画素部の大部分に形成された配向制御断層(12L)、及び、配向制御断層(12L)上の表示画素部の内部に形成された第2の配向制御断層(15)が設けられている。両透明電極(11,21)上には、それぞれSiOの斜方蒸着膜やLB膜からなる配向膜(40,50)が全面に被覆されている。配向制御断層(12L)は、全体的に透明電極(11)をせり上げるとともに、配向制御断層(12L)が不在の表示画素部の両端は、相対的に透明電極(11)が陥没されて配向膜(40)に斜面が生じ、配向制御傾斜部(14L,14R)となっている。また、第2の配向制御断層(15)は透明電極(11)を一部隆起させ、この部分でも配向膜(40)の斜面が配向制御傾斜部(16L,16R)となっている。
【0032】
表示画素領域は、配向制御傾斜部(14L,16L)により規定された左側のゾーンと、配向制御傾斜部(14R,16R)により規定された右側のゾーンに分割される。即ち、左側のゾーンでは配向制御傾斜部(14L,16L)に従って液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられ、右側のゾーンでは液晶ダイレクター(31)は全て左側から立ち上げられる。
【0033】
図6に表示画素部の平面図を示す。表示画素の左右両端の辺に沿って配向制御傾斜部(14L,14R)の帯状領域があり、これと平行に表示画素の中央には配向制御傾斜部(16L,16R)の帯状領域がある。このように左右に分割された2つのゾーン(L,R)では、同じ平行配向状態から、それぞれ、液晶ダイレクターが反対側を立ち上げられ、太矢印で表される平均的配向ベクトルの平面射影は逆方向を向いている。
【0034】
このようなセル構造により、例えば紙面の左方向からの視認については、ゾーン(L)の階調が正面からの視認より白に近づくとともに、ゾーン(R)の階調が黒に近づくために、ゾーン(L,R)の平均調が正面からの視認に近づく。右方向からの視認についても同様の作用があるので左右方向の視角依存性が低減される。
【0035】
(第4の実施例)
本実施例が第3の実施例と異なるのは、図7に示すように、表示画素の分割手段として、上側基板(20)に配向制御傾斜部(25L,25R)が設けられている点である。下側の透明電極(11)の下部には、表示画素部の大部分に形成された配向制御断層(12L)が介在し、左右両端部では配向膜(40)の斜面が配向制御傾斜部(14L,14R)となっている。上側の透明電極(21)の下部には表示画素部の大部分に配向制御断層(22L)が設けられ、エッチングなどで表示画素の中央部を縦断して不在部分が形成されている。この不在部分では透明電極(21)が陥没され、これにより配向膜(50)に斜面ができて配向制御傾斜部(25L,25R)となっている。配向制御傾斜部(14L,25L)により規定された左側のゾーンでは液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられ、配向制御傾斜部(14R,25R)により規定された右側のゾーンでは液晶ダイレクター(31)は全て左側から立ち上げられる。
【0036】
図8に表示画素部の平面図を示す。表示画素の左右両端の辺に沿って配向制御傾斜部(14L,14R)の帯状領域があり、これと平行に表示画素の中央には配向制御傾斜部(25L,25R)の帯状領域がある。このように、左右に分割された2つのゾーン(L,R)では、第3の実施例と同様に、配向ベクトルの平面射影は逆方向を向いた状態にあり、両ゾーン(L,R)の平均調により左右方向の視角依存性が低減されている。
【0037】
(第5の実施例)
本実施例では表示画素領域の分割手段として、図9に示すように、下側基板(10)に、第2の実施例で説明した配向制御窓(17)を形成している。即ち、下側基板(10)で配向制御傾斜部(14L,14R)を形成するとともに、下側の透明電極(11)中にエッチングで電極不在部分を形成して配向制御窓(17)が開口されている。これにより、表示画素の両側で配向制御傾斜部(14L,14R)により別々に制御された配向状態は、その境界が配向制御窓(17)によって固定される。
【0038】
配向制御窓(17)に対応する領域では液晶層(30)中に図の点線で示されるような斜めの電界が生じるので、配向制御傾斜部(14L,14R)の作用と合わせて、左のゾーンでは液晶ダイレクター(31)は全て右側から立ち上げられ、右のゾーンでは全て左側から立ち上げられる。
【0039】
図10に表示画素部の平面図を示す。表示画素の左右両端の辺に沿って配向制御傾斜部(14L,14R)の帯状領域があり、これと平行に表示画素の中央には配向制御窓(17)の帯状領域がある。配向制御窓(17)により左右に分割された2つのゾーン(L,R)では、第3、第4の実施例と同様に、配向ベクトルの平面射影は逆方向を向いた状態にあり、両ゾーン(L,R)の平均調により左右方向の視角依存性が低減される。
【0040】
次に、本発明の第6の実施例を図11及び図12を参照しながら説明する。図11は本実施例に係る垂直配向ECB方式の液晶セルの断面図である。液晶層(120)を挟んで上下に貼り合わされた2枚の透明な基板(100,110)上にはITOの透明電極(101,111)が設けられている。下側の透明電極(100)の下部には絶縁物が介在されて配向制御断層(102S)として、表示画素を囲う周縁部で透明電極(101)を隆起させている。一方、上側の透明電極(111)の下部にも絶縁物が介在されて配向制御断層(112S)として、表示画素の対角線に沿った部分で透明電極(111)を隆起させている。配向制御断層(102S,112S)はいずれもSiNXやSiO2などをエッチングすることにより形成される。透明電極(101,111)上にはSiOの垂直蒸着膜やポリイミド膜が全面に被覆されて配向膜(130,140)となっている。液晶層(120)は負の誘電率異方性を有したネマチック液晶であり、配向膜(130,140)の排除体積効果により、液晶ダイレクター(121)の初期配向を接触表面に対して垂直方向に制御している。配向膜(130,140)は、配向制御断層(102S,112S)により隆起された部分の斜面が、液晶層(120)との接触表面が傾斜された配向制御傾斜部(103,113L,113R,113U,113D)となっている(図12参照)。
【0041】
この構造のセルを駆動すると、液晶ダイレクター(121)は、下側電極(101)の周縁部で配向制御傾斜部(103)に従って、左右両側の領域で互いに反対側へ傾けられる。また、上側電極(111)の中央部でも配向制御傾斜部(113L,113R)によってそれぞれ反対側へ傾けられる。即ち、液晶の連続体性のために、図11の左側のゾーンでは、液晶層(120)を挟んだ上下の配向制御傾斜部(113L,103)の作用により、液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられるとともに、右側のゾーンでは配向制御傾斜部(113R,103)の作用により、液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられる。このように配向制御傾斜部(103,113L,113R)を配置することにより、表示画素が配向ベクトルの異なる複数のゾーンに分割されるとともに、それぞれのゾーンで均一な配向状態となる。
【0042】
図12は表示画素部の平面図であり、上下両電極(101,111)の対向部分を上から見た構造を示している。表示画素の周縁を囲って下側の配向制御傾斜部(103)の帯状領域があり、内部には表示画素の対角線に沿って上側に形成された配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)のX字型の領域がある。太矢印は中間調での配向ベクトルの平面射影であり、液晶ダイレクーは全階調について平均的にこの状態にあると見なされる。尚、矢印方向は、液晶ダイレクターが、その上側を傾ける方向を表している。図から明らかな如く、配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)により上下左右に分割された4つのゾーン(U,D,L,R)では、配向ベクトルはそれぞれの4つの方向へ向けられる。即ち、液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態から、上下左右のゾーン(U,D,L,R)で、4つのそれぞれの方向へ傾けられる。尚、上で図11を用いて説明した作用は、図12においてL-R領域の断面に関するものであったが、U-D領域の断面についても全く同じ作用があることは言うまでもない。
【0043】
このようなセル構造により、例えば紙面の左方向からの視認については、ゾーン(L)の階調が正面からの視認より白に近づくとともに、ゾーン(R)の階調が黒に近づくため、両ゾーン(L,R)の平均調と上下ゾーン(U,D)の合成光が正面からの視認に近づく。他の方角からの視認についても同様の平均化作用があるので全ての方角について視角依存性が低減される。
【0044】
また、このように液晶ダイレクターの配向状態を制御することにより、互いに異なる配向ベクトルを有する領域の境界線、即ちディスクリネーションは、全ての画素について配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)のX字型の領域に固定され、画素ごとのばらつきが抑えられる。
【0045】
以下、第6の実施例と同様、液晶層として負の誘電率異方性を有したネマチック液晶を用いた垂直配向構造のECB液晶セルについて、配向制御傾斜部によって液晶ダイレクターの配向を制御し、表示画素を複数に分割して視角依存性を低減した本発明の第7から第10の実施例を説明する。
【0046】
(第7の実施例)
本実施例は第6の実施例に類似するので詳細な説明は省略する。図13はセル構造の断面図である。図11に示された第6の実施例と異なるのは、上側基板(110)に配向制御傾斜部の代わりに、表示画素の対角線に沿って透明電極(111)中に電極不在部分である配向制御窓(114)が形成されている点である。配向制御窓(114)はITOの成膜後にエッチングなどにより開口される。配向制御窓(114)に対応する領域では、液晶層(120)に電界が生じないか、または、微弱で液晶の駆動閾値以下であるため、液晶ダイレクター(121)は初期の配向状態に固定されている。そのため、配向制御傾斜部(103)により表示画素部の周縁から制御された配向状態は、液晶の連続体性により、配向ベクトルの異なる両ゾーンの境界が配向制御窓(114)により固定されて分割される。
【0047】
尚、配向制御窓(114)は電極が不在であるが、これに対向する下側の透明電極(101)の領域には電極が存在している。このため、配向制御窓(114)に対応する液晶層(120)中には、図13の点線で示すような形状で斜め方向に電界が生じる。負の誘電率異方性を有する液晶ダイレクター(121)は電界方向に直角な方向へ配向するが、初期配向状態から最短で電界に直角な方向へ向くように傾斜を起こす。即ち、配向制御窓(114)の左側のエッジに対応する領域では液晶ダイレクター(121)は右側へ傾けられ、配向制御窓(114)の右側のエッジに対応する領域では液晶ダイレクター(121)は左側へ傾けられる。従ってこのように、上側基板(110)に配向制御窓(114)を設けることにより、配向制御窓(114)より左側のゾーンでは配向制御傾斜部(103)の作用と合わせて液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられるとともに、配向制御窓(114)より右側のゾーンでは配向制御傾斜部(103)の作用と合わせて液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられる。
【0048】
図14に平面図を示す。X字型に形成された配向制御窓(114)により4つに分割された各ゾーン(U,D,L,R)では、図12で示した第6の実施例と同様、液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態から、4つのそれぞれ方向へ傾けられる。そのため、全ての方角からの視認に対して、各ゾーン(U,D,L,R)の平均調により認識されるので、視角依存性が低減され、また、ディスクリネーションのばらつきが抑えられて表示品位が向上する。
【0049】
(第8の実施例)
図15にセルの断面構造を示す。液晶層(120)を挟んで上下に貼り合わされた2枚の透明な基板(100,110)上にはITOの透明電極(101,111)が設けられている。下側の透明電極(101)の下部には、表示画素部の大部分に形成された配向制御断層(102L)、及び、配向制御断層(102L)上の表示画素部の対角線に沿って形成された第2の配向制御断層(105)が設けられている。両透明電極(101,111)上には、SiOの垂直蒸着膜やポリミド膜からなる垂直配向膜(130,140)が全面に被覆されている。配向制御断層(102L)は、全体的に透明電極(101)をせり上げるとともに、表示画素を囲む周縁部で配向制御断層(102L)が不在の部分は、相対的に透明電極(111)が陥没され、配向膜(130)に斜面が生じ、配向制御傾斜部(104)となっている。第2の配向制御断層(105)は透明電極(111)を一部隆起させ、配向制御傾斜部(106L,106R,106U,106D)が形成されている(図16参照)。
【0050】
表示画素領域は、配向制御傾斜部(104,106L)により規定された左側のゾーンと、配向制御傾斜部(104,106R)により規定された右側のゾーンに分割される。即ち、左側のゾーンでは配向制御傾斜部(104,106L)に従って液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられ、右側のゾーンでは液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられる。
【0051】
図16に表示画素部の平面図を示す。表示画素の周縁部に配向制御傾斜部(104)の帯状領域があり、内部には表示画素の対角線に沿って形成された配向制御傾斜部(106L,106R,106U,106D)のX字型の領域がある。このように4つに分割された各ゾーン(U,D,L,R)では、液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態から、4つのそれぞれの方向へ傾けられ、太矢印で表される平均的配向ベクトルの平面射影は4方向を向いている。
【0052】
このようなセル構造により、例えば紙面の左方向からの視認については、ゾーン(L)の階調が正面からの視認より黒に近づくとともに、ゾーン(R)の階調が白に近づくために、ゾーン(L,R)の平均調と上下ゾーン(U,D)の合成光が正面からの視認に近づく。他の方角からの視認についても同様の平均化作用があるので全ての方角について視角依存性が低減される。
【0053】
また、このように液晶ダイレクターの配向状態を制御することにより、互いに異なる配向ベクトルを有する領域の境界線、即ちディスクリネーションは、全ての画素について配向制御傾斜部(106L,106R,106U,106D)のX字型の領域に固定され、画素ごとのばらつきが抑えられる。
【0054】
(第9の実施例)
本実施例が第8の実施例と異なるのは、図17に示すように、表示画素の分割手段として、上側基板(110)に配向制御傾斜部(115L,115R)が設けられている点である。下側の透明電極(101)の下部には、表示画素部の大部分に形成された配向制御断層(102L)が介在し、周縁部は配向制御傾斜部(104)となっている。上側の透明電極(111)の下部には、全面に配向制御断層(112L)が設けられ、エッチングなどで表示画素の対角線に沿って不在部分が形成されている。この不在部分では、透明電極(111)が陥没されて配向膜(130)に斜面が生じ、配向制御傾斜部(115L,115R,115U,115D)となっている。配向制御傾斜部(104,115L)によって規定された左側のゾーンでは、液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられ、配向制御傾斜部(104,115R)によって規定された右側のゾーンでは、液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられる。
【0055】
図18に表示画素部の平面図を示す。表示画素の周縁を囲って配向制御傾斜部(104)の帯状領域があり、内部には表示画素の対角線に沿って形成された配向制御傾斜部(115L,115R,115U,115D)のX字型の領域がある。このように4つに分割された各ゾーン(U,D,L,R)では、第8の実施例と同様に、配向ベクトルの平面射影は4つのそれぞれの方向を向いた状態にあり、各ゾーン(U,D,L,R)の平均調により全方角について視角依存性が低減されるとともに、ディスクリネーションのばらつきが抑えられる。
【0056】
(第10の実施例)
本実施例では表示画素領域の分割手段として、図19に示すように、下側基板(100)に、第7の実施例で説明した配向制御窓(107)を形成している。即ち、下側基板(100)に配向制御傾斜部(104)を形成するとともに、下側の透明電極(101)中にエッチングで電極不在部分を形成している。これにより、表示画素の両側で配向制御溝(103)により別々に制御された配向状態は、その境界が配向制御窓(107)によって固定されることになる。
【0057】
配向制御窓(107)に対応する領域では液晶層(120)中に図の点線で示されるような斜めの電界が生じるので、配向制御傾斜部(104)の作用と合わせて、左のゾーンでは液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられ、右のゾーンでは全て右側へ傾けられる。
【0058】
図20に表示画素部の平面図を示す。表示画素の周縁を囲って配向制御傾斜部(104)の帯状領域があり、内部には表示画素の対角線に沿って形成された配向制御窓(107)のX字型の領域がある。配向制御窓(107)によって4つに分割された各ゾーン(U,D,L,R)では、第8、第9の実施例と同様に、配向ベクトルの平面射影は4つのそれぞれの方向を向いた状態にあり、各ゾーン(U,D,L,R)の平均調により全方角について視角依存性が低減され、また、ディスクリネーションのばらつきが抑えられる。
【0059】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、配向制御傾斜部をセルの所定の部分に配置したことにより、表示画素を、それぞれ異なる優先視角方向を有する複数のゾーンに分割することができた。そのため、TNセルでは表示画素を左右に分割することにより、左右方向に高かった視角依存性を低くして、広視野角の表示が実現できた。また、垂直配向ECBセルでは、上下左右に分割することにより、広視野角が実現されるとともに、画素ごとに異なる不均一なディスクリネーションの出現が防止され、画面のざらつきがなくなり、表示品位が向上した。
【0060】
更に、プレチルト角が不要となるため、配向膜のラビング工程が削減され、製造コストが低減されるとともに、ラビング時に生ずる静電気がなくなり、TFTの静電破壊が防止される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図3】本発明の第2の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図5】本発明の第3の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図6】本発明の第3の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図7】本発明の第4の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図8】本発明の第4の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図9】本発明の第5の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図10】本発明の第5の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図11】本発明の第6の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図12】本発明の第6の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図13】本発明の第7の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図14】本発明の第7の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図15】本発明の第8の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図16】本発明の第8の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図17】本発明の第9の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図18】本発明の第9の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図19】本発明の第10の実施例に係る液晶表示装置の断面図である。
【図20】本発明の第10の実施例に係る液晶表示装置の平面図である。
【図21】マトリクス型液晶表示装置の平面図である。
【図22】TFTを用いたアクティブマトリクス型液晶表示装置の平面図である。
【図23】従来のTN方式の液晶表示装置の断面図である。
【図24】従来のTN方式の液晶表示装置の斜視図である。
【図25】従来のECB方式の液晶表示装置の断面図である。
【図26】従来のTN方式の液晶表示装置の問題点を説明する図である。
【図27】従来のECB方式の液晶表示装置の問題点を説明する図である。
【符号の説明】
10,20,100,110 透明基板
11,21,101,111 透明電極
12,15,22,102,105,112 配向制御断層
13,14,16,23,25,103,104,106,113,115配向制御傾斜部
17,24,107,114 配向制御窓
30,120 液晶層
31,121 液晶ダイレクター
40,50,130,140 配向膜
U,D,L,R 表示ゾーン
X 走査電極
Y データ電極
G ゲートライン
D ドレインライン
P 表示電極
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-09-06 
結審通知日 2012-09-11 
審決日 2012-09-27 
出願番号 特願平11-257823
審決分類 P 1 113・ 121- YA (G02F)
P 1 113・ 534- YA (G02F)
P 1 113・ 531- YA (G02F)
P 1 113・ 113- YA (G02F)
P 1 113・ 14- YA (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 昌士  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 服部 秀男
星野 浩一
登録日 1999-12-10 
登録番号 特許第3011720号(P3011720)
発明の名称 液晶表示装置  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 日野 英一郎  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  
代理人 磯田 志郎  
代理人 尾崎 英男  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 上田 忠  
代理人 安國 忠彦  
代理人 尾崎 英男  
代理人 永島 孝明  
代理人 日野 英一郎  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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