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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E21D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E21D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E21D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E21D
管理番号 1289889
審判番号 無効2013-800074  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-04-26 
確定日 2014-06-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3101180号発明「ロックボルト用ナット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 7年 6月28日:出願(特願平7-161811号)
平成12年 8月18日:設定登録(特許第3101180号)
平成25年 4月26日:本件審判請求
平成25年 6月 5日:請求人より上申書(1)提出
平成25年 7月18日:被請求人より審判事件答弁書
及び訂正請求書提出
平成25年 8月27日:請求人より審判事件弁駁書提出
平成25年10月30日:審理事項通知書
平成25年11月12日:請求人より上申書(2)提出
平成25年12月11日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成25年12月12日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成25年12月25日:口頭審理
平成26年 2月11日:請求人より上申書(3)提出
平成26年 2月26日:請求人より上申書(4)提出


第2 訂正請求について
1.訂正の内容
平成25年7月18日付け訂正請求は、本件設定登録時の特許第3101180号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、次の事項を訂正内容とするものである。

(1)訂正事項
特許第3101180号の特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】 外周に雄ねじ部の形成されたロックボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有し、地山に打ち込まれたロックボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地盤に固定するロックボルト用ナットにおいて、
ロックボルト用ナットの大半の長さを占め、座板の穴に遊挿可能なシャフト部と、
シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大きい頭部から成り、
頭部からシャフト部まで連続するように所定長の雌ねじ部を形成したこと、
を特徴とするロックボルト用ナット。」を、
「【請求項1】
外周にロープねじ状の雄ねじ部の形成されたロックボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有し、工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地盤に固定するための鋼製のトンネル工事用のロックボルト用ナットにおいて、
前記地山のボアホールに入り込むようにロックボルト用ナットの大半の長さを占め、座板の穴に遊挿可能なシャフト部と、
シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大きく、締めつけ工具を嵌めて回転できるように六角頭状の頭部から成り、
頭部からシャフト部まで連続するように前記ロープねじ状のロックボルトの雄ねじ部に螺合する所定長の雌ねじ部を形成したこと、
を特徴とするトンネル工事用のロックボルト用ナット。」
に訂正する。

2.訂正の適否の判断
訂正後の請求項1は、訂正前の請求項1に対して、以下の(ア)?(カ)の事項を付加したものである。
(ア)ロックボルトの雄ねじ部が、「ロープねじ状」であること。
(イ)ロックボルトが、「工事トンネル内側壁に穿設された」地山の「ボアホール」に打ち込まれたものであること。
(ウ)ロックボルト用ナットが、「鋼製のトンネル工事用の」のものであること。
(エ)シャフト部が、「地山のボアホールに入り込むように」ロックボルト用ナットの大半の長さを占めていること。
(オ)頭部が、「締めつけ工具を嵌めて回転できるように六角頭状の」頭部であること。
(カ)雌ねじ部が、「ロープねじ状のロックボルトの雄ねじ部に螺合する」こと。

かかる訂正は、上記(ア)?(カ)の構成を付加することにより、ロックボルト用ナットの特徴を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正(特許法第134条の2第1項第1号)に該当する。

上記(ア)の事項については、
本件特許明細書段落【0010】には、「ロックボルト20は・・・外面には全長にわたってロープねじが螺旋状に形成されてなる雄ねじ部21が設けられている」との記載があり、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状に形成されていることが記載されている。

上記(イ)の事項については、
本件特許明細書段落【0013】には、「図3はロックボルトセット10の使用方法を示す説明図である。例えば、工事トンネルの内側壁に仮支保工を行う場合、まず、地山5にボアホール50を穿設し(図3(1)参照)、打ち込み機を用いてボアホール50の中にロックボルト20を打設する(図3(2)参照)」との記載があり、ロックボルトが、「工事トンネル内側壁に穿設された」地山の「ボアホール」に打ち込まれたことが記載されている。

上記(ウ)の事項については、
本件特許明細書段落【0011】には、「ワッシャー30とナット40はともに鋼製またはFRP製である」との記載があり、また、段落【0013】には、「ロックボルト20」が工事トンネルに用いられることが記載されているので、ロックボルト用ナットが「鋼製のトンネル工事用の」ものであることが記載されている。

上記(エ)の事項については、
本件特許明細書段落【0014】には、「ナット40の嵌め込みの進行に伴い、シャフト部41はボアホール50の中に徐々に入り込んでいく」との記載があり、シャフト部が、「地山のボアホールに入り込むように」ロックボルト用ナットの大半の長さを占めていることが記載されている。

上記(オ)の事項については、
本件特許明細書段落【0012】には、「頭部43は六角になっており、締めつけ工具を嵌めて回転できるようになっている」との記載があり、図1?3には、六角頭状の形状をした頭部が示されている。そのため、これらには、頭部43が、「締めつけ工具を嵌めて回転できるように六角頭状の」頭部であることが記載されている。

上記(カ)の事項については、
本件特許明細書段落【0011】には、「ナット40の内側には全長にわたってロックボルト20の雄ねじ部21に螺合する雌ねじ部41が形成されている」との記載があり、雌ねじ部が、「ロープねじ状のロックボルトの雄ねじ部に螺合する」ことが記載されている。

以上により、上記(ア)?(カ)の付加事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

3.まとめ
上記2.に記載したとおり、平成25年7月18日付け訂正請求による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされ、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、当該訂正は、特許法134条の2第1項ただし書き、同条第9項により読み替えて準用される同法126条第5項及び第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第3 本件訂正後発明
上記第2のとおり訂正を認めるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件訂正により訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
外周にロープねじ状の雄ねじ部の形成されたロックボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有し、工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地盤に固定するための鋼製のトンネル工事用のロックボルト用ナットにおいて、
前記地山のボアホールに入り込むようにロックボルト用ナットの大半の長さを占め、座板の穴に遊挿可能なシャフト部と、
シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大きく、締めつけ工具を嵌めて回転できるように六角頭状の頭部から成り、
頭部からシャフト部まで連続するように前記ロープねじ状のロックボルトの雄ねじ部に螺合する所定長の雌ねじ部を形成したこと、
を特徴とするトンネル工事用のロックボルト用ナット。」


第4 当事者の主張
1.請求人の主張、及び提出した証拠の概要
請求人は、特許3101180号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、平成25年6月5日付け上申書、平成25年8月27日付け審判事件弁駁書、平成25年11月12日付け上申書、平成25年12月12日差出の口頭審理陳述要領書、平成26年2月11日付け上申書及び平成26年2月26日付け上申書において、甲第1?42号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

(1)無効理由1
本件の請求項1に係る特許発明は、その出願前に頒布された甲第2号証に記載された発明と同一又はこれに基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書5頁1?5行)

(具体的理由)
ア 甲第2号証には、ロックボルト用ナットに関する発明が記載されていることは明らかである。そして、甲第23号証に記載されているように、ロックボルト用ナットがトンネル工事に用いられることは周知である。(審判事件弁駁書12頁25行?13頁1行)

甲第28号証?甲第35号証によれば、甲第2号証に記載されているものは、1986年(昭和61年)には、トンネル工事も用いられたことは明らかである。(口頭審理陳述要領書2頁8行?3頁25行)

甲第28号証、甲第29号証、甲第38号証、甲第40号証によれば、「中空構造物」が「トンネル」をも包含する文言である。(口頭審理陳述要領書3頁31行?4頁9行)

イ 甲第16?甲第19号証に記載されているように、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることは技術常識であることは明らかである。(審判事件弁駁書13頁19?20行)

ウ 甲第21?甲第22号証、甲第19号証、甲第24号証に記載されているように、ロックボルト用ナットが「鋼製」であることは技術常識である。(審判事件弁駁書14頁5?7行)

エ 甲第23号証の第111頁には、ナットを回転させることで、岩表面に圧着させてロックボルトを緊張することが記載されているのであるから、言い換えれば、ナットには、ロックボルトを地盤に固定する機能があることは技術常識である。(審判事件弁駁書14頁19?26行)

オ 甲第24号証のFig9、Fig10では、符号22で示された地山のボアホールにナットのシャフト部が入り込んでいることが示されているから、シャフト部が地山のボアホールに入り込むように形成されていることは技術常識である。(審判事件弁駁書15頁10?13行)

カ 甲第23号証の図-4-2-2、図-4-2-3、図-4-2-4、第111頁、第124頁の記載から、ナットを締めつけ工具を嵌めて回転できるように六角頭状にすることは本件特許出願時には周知であったことが明らかである。
甲第20号証の図-5、図-6、図-7、図-8、図-11では、いずれもロックボルト用ナットで六角頭状のものが、各図面の右端部に明確に記載されている。(審判事件弁駁書15頁26行?16頁18行)

キ 「六角頭状」という文言を、どのように解釈しても、この語に「頭部の座面と接する面が座板とほぼ水平に形成されていることをも含意する」とは言えない。そして、この被請求人の「水平」との勝手な解釈の基に主張された公知文献との差異は、特許請求の範囲に基づかない主張に他ならず、被請求人の主張は当を得ない。(審判事件弁駁書17頁8?12行)

ク ナットが水平な面を持つことは、甲第23号証の図-4-2-2、図-4-2-3、図-4-2-4でも明確に示されている。
また甲第20号証においても、第59?60頁には、種々のロックボルトが図面付きで記載されており、図-5、図-6、図-7、図-8、図-11にも示されている。(審判事件弁駁書17頁末行?18頁4行)

ケ 被請求人は、「甲第2号証の図面から寸法を抽出する請求人の主張は到底認められるものではない。」と反論している。
しかしながら、引用発明の認定において、図面から寸法、角度などを特定することが認められていることは、例えば、知財高裁 平成23年(行ケ)第10414号などでも判示されているとおりである。(審判事件弁駁書18頁11?15行)

(2)無効理由2
本件の請求項1に係る特許発明は、その出願前に頒布された甲第9号証に記載された発明と同一又はこれに基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書15頁2?6行)

(具体的理由)
ア 甲第9号証には、ロックボルト用ナットに関する発明が記載されていることは明らかである。そして、甲第23号証に記載されているように、ロックボルト用ナットがトンネル工事に用いられることは周知である。(審判事件弁駁書19頁6?8行)

甲第36号証?甲第38号証、甲第11号証?甲第13号証によれば、甲第9号証の止め具部材は、トンネル工事用途にも用いることは明らかである。
甲第2号証のボルト体は、トンネル工事用であることは明らかである。そして甲第39号証によれば、甲第9号証は、甲第2号証と関連性が非常に高く、技術分野が共通であること、すなわち、甲第9号証の止め具部材も、甲第2号証のトンネル工事用途と同一用途にも用いられていることを意味する。(口頭審理陳述要領書4頁26行?6頁5行。)

イ 甲第16?甲第19号証に記載されているように、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることは技術常識であることは明らかである。(審判事件弁駁書19頁26?27行)

ウ 甲第21?甲第22号証、甲第19号証、甲第24号証に記載されているように、ロックボルト用ナットが「鋼製」であることは技術常識である(審判事件弁駁書20頁12?14行)

エ 甲第23号証の第111頁には、ナットを回転させることで、岩表面に圧着させてロックボルトを緊張することが記載されているのであるから、言い換えれば、ナットには、ロックボルトを地盤に固定する機能があることは技術常識である。(審判事件弁駁書20頁26行?21頁6行)

オ 被請求人は、引用発明の認定において、図面から寸法、角度などを特定することは、全く認められていないと主張する。
しかしながら、引用発明の認定において、図面から寸法、角度などを特定することが認められていることは、例えば、知財高裁 平成23年(行ケ)第10414号などでも判示されているとおりである。(審判事件弁駁書21頁13?20行)

カ 甲第24号証のFig9、Fig10では、符号22で示された地山のボアホールにナットのシャフト部が入り込んでいることが示されているから、シャフト部が地山のボアホールに入り込むように形成されていることは技術常識である。(審判事件弁駁書22頁19?22行)

キ 甲第23号証の図-4-2-2、図-4-2-3、図-4-2-4、第111頁、第124頁の記載から、ナットを締めつけ工具を嵌めて回転できるように六角頭状にすることは本件特許出願時には周知であったことが明らかである。
甲第20号証の図-5、図-6、図-7、図-8、図-11では、いずれもロックボルト用ナットで六角頭状のものが、各図面の右端部に明確に記載されている。(審判事件弁駁書23頁7?26行)

ク 「六角頭状」という文言を、どのように解釈しても、この語に「頭部の座面と接する面が座板とほぼ水平に形成されていることをも含意する」とは言えない。そして、この被請求人の「水平」との勝手な解釈の基に主張された公知文献との差異は、特許請求の範囲に基づかない主張に他ならず、被請求人の主張は当を得ない。(審判事件弁駁書24頁17?21行)

ケ 図面から寸法、角度などを特定することが認められていることは、既述のとおりである。
既述のように、ナットの頭部を六角頭状とするのは、周知技術であって、このような構成は特有の構成となり得ないことは明らかである。
なお、ナットが水平な面を持つことは、甲第23号証の図-4-2-2、図-4-2-3、図-4-2-4でも明確に示されている。
また甲第20号証においても、第59?60頁には、種々のロックボルトが図面付きで記載されており、図-5、図-6、図-7、図-8、図-11にも示されている。(審判事件弁駁書25頁7?8行,11?12行,20?24行)

(3)無効理由3
請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された甲第2号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書23頁11?14行)

(4)無効理由4
請求項1に係る特許発明は、特許法第36条第6項第2号に違反して同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書30頁21?22行)

(具体的理由)
「ロックボルト用ナットの大半の長さを占め」は、著しく不明確な記載である。
「大半の長さを占め」という文言の意味が曖昧である結果、請求項1自体の範囲が著しく不明確となっている。「大半の長さを占め」という文言のように、上限値及び下限値のいずれも特定されていない抽象的に範囲を示すだけでは、請求項1の範囲を具体的に特定できない。(審判請求書25頁7?12行)

(5)無効理由5
請求項1に係る特許発明は、発明の詳細な説明欄に実質的に記載された範囲を超えており、特許法第36条第6項第1号に違反して同法第第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書31頁1?3行)

(具体的理由)
ア 発明の詳細な説明には、約70%の比率のロックボルト用ナットが1つ具体的に記載されているのみであり、請求項1に係る発明の「大半」のという広範な範囲まで、詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。(審判請求書26頁13?16行)

イ 発明の詳細な説明中には、一貫して仮支保工用ロックボルト用ナットのみについて記載されているに過ぎず、本支保工用ロックボルト用ナットについて一切記載されていない。
よって、本件の請求項1に係る特許発明である本支保工用及び仮支保工用の両者を含むロックボルト用ナットは、発明の詳細な説明欄に記載された仮支保工用ロックボルト用ナットの範囲を越えるものである。(審判請求書28頁10?16行)

(6)無効理由6
発明の詳細な説明は、本件の請求項1に係る特許発明の全範囲を実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に違反して同法第第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書31頁4?6行)

(具体的理由)
ア 発明の詳細な説明は、ロックボルト用ナット全体に占めるシャフト部の長さの比率が約70%という特定の実施形態が一例のみ記載されているに過ぎない。従って、明細書の発明の詳細な説明は、約70%でない比率のものを当業者が実施出来る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。(審判請求書26頁20行?27頁2行)

イ 発明の詳細な説明は、仮支保工用ロックボルトのみが記載されているに過ぎない。従って、明細書の発明の詳細な説明は、本支保工用ロックボルト用ナットを当業者が実施出来る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。(審判請求書28頁19?22行)

なお、平成25年8月27日付け審判事件弁駁書の10頁2?16行の記載は削除した。(第1回口頭審理調書参照。)

[証拠方法]
甲第1号証:特許第3101180号公報
甲第2号証:スイス国特許発明第654057号明細書
甲第3号証:甲第2号証の翻訳文
甲第4号証:広辞苑第二版、昭和50年9月25日第2版第9刷、
1346頁
甲第5号証:本件特許の審査手続における平成11年11月17日付け
の拒絶理由通知書
甲第6号証:特公昭61-24520号公報
甲第7号証:本件特許の審査手続における平成12年1月7日付けで
提出された手続補正書
甲第8号証:本件特許の審査手続における平成12年1月7日付けで
提出された意見書
甲第9号証:国際公開第88/08065号
甲第10号証:甲第9号証の翻訳文
甲第11号証:現場技術者のための吹付けコンクリート・ロックボルト
Q&A、社団法人日本トンネル技術協会、平成15年3月、 142?145頁
甲第12号証:ロックボルト工の現場設計法に関する研究(その2)
報告書、社団法人日本トンネル技術協会、昭和55年3月
、44?46,109?112頁
甲第13号証:トンネルと地下、株式会社土木工学社、昭和53年2月
1日第9巻第2号、54?60頁
甲第14号証:平成25年(ワ)第525号 答弁書 写し
甲第15号証:平成25年(ワ)第525号 第1準備書面 写し
甲第16号証:実願昭63-68273号(実開平1-174500号) のマイクロフィルム
甲第17号証:実願昭61-15109号(実開昭62-129500
号)のマイクロフィルム
甲第18号証:現場技術者のための吹付けコンクリート・ロックボルト
Q&A、社団法人日本トンネル技術協会、平成15年3月、 142?145頁
甲第19号証:自削孔NT自削孔ロックボルトシステム、日東鐵工株式
会社、1994年10月
甲第20号証:トンネルと地下、株式会社土木工学社、昭和53年2月
1日第9巻第2号、54?60頁
甲第21号証:トンネルと地下、株式会社土木工学社、平成3年8月1日 第22巻第8号、広告
甲第22号証:トンネルと地下、株式会社土木工学社、平成4年1月1日 第23巻第1号、広告
甲第23号証:ロックボルト工の現場設計法に関する研究(その2)
報告書」、社団法人日本トンネル技術協会、昭和55年
3月、まえがき,1?6,44?51,104?112,
124頁
甲第24号証:特開昭56-108500号公報
甲第25号証:トンネル年報2013(トンネル工事記録と会員名簿)、 一般社団法人日本トンネル技術協会、平成25年5月、
47?67頁
甲第26号証:平成25年(ワ)第525号 第2準備書面 写し
甲第27号証:平成25年(ワ)第525号 第3準備書面 写し
甲第28号証:「EXAKT 2/86」 1986年2月
甲第29号証:甲第28号証翻訳文
甲第30号証:「EXAKT 4/86」 1986年4月
甲第31号証:甲第30号証翻訳文
甲第32号証:「EXAKT 4/90」 1990年4月
甲第33号証:甲第32号証翻訳文
甲第34号証:ヴァイトマンの実施確認書
甲第35号証:甲第34号証翻訳文
甲第36号証:甲10の使用方法の説明図
甲第37号証:甲10の使用方法の説明図
甲第38号証:トンネルと地下、株式会社土木工学社、平成3年10月
1日第22巻第10号、写真-1?写真-6,7?14頁
甲第39号証:国際出願PCT DE88/00227号の国際調査
報告書
甲第40号証:特開昭56-20300号公報
甲第41号証:機械工学ポケットブック、オーム社、昭和61年2月
20日第2版第23刷、4-29?4-30頁
甲第42号証:日本工業規格 JIS M2506-1992 ロックボルト 及びその構成部品、1992年

なお、平成26年 2月26日付け上申書(4)には、平成25年(ワ)第525号の第4準備書面の写しと証拠説明書の写しが添付されていた。

2.被請求人の主張、及び提出した証拠の概要
これに対して、被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、平成25年7月18日付け審判事件答弁書、平成25年12月11日付け口頭審理陳述要領書において、乙第1?2号証を提示し、以下の主張を行った。

(1)無効理由1に対して
ア 甲2発明との対比による新規性欠如の主張について
甲2発明は「トンネル工事用のロックボルト」に関する発明ではない。
甲2発明ではロックボルトの雄ねじ部の形態が特定されていない。
甲2発明ではナットの素材が特定されていない。
甲2発明のナットは引張アンカーを地盤に固定するものではない。
甲2発明のシャフト部はロックボルト用ナットの大半の長さを占めていない。
甲2発明のナットのシャフト部はボアホールに入り込むものではない。
甲2発明の頭部は締め付け工具を嵌められる六角頭状になっていない。
甲2発明の頭部の座板と接する面が水平になっていない。(審判事件答弁書6?12頁の各標題)

本件訂正発明の発明特定事項と、甲2発明に係る発明特定事項とは、相違点があることが明らかである。(審判事件答弁書14頁14?15行)

イ 甲2発明との対比による進歩性欠如の主張について
本件訂正発明は、トンネル工事において使用されるロックボルトの地山から突出する長さを短くすることを課題としているのに対し、甲2発明の課題は、「繊維強化プラスチックからなるパイプ状のアンカーにおいて、このようなアンカーをプレストレスト・アンカーとして使用できるようにする、引く力に耐え得るネジ取付部を提供することである」(乙4号証(注:「甲3号証」の誤記と認める。)の第4ページ第9?11行目)。すなわち、本件訂正発明と甲2発明とは、発明が抱える課題が全く異なっている。(審判事件答弁書14頁23?29行)

本件訂正発明は、シャフト部がロックボルト用ナットの大半の長さを占めるという特有の構成を採用することで、ロックボルトとナットとの嵌め合わせ長さを十分に確保しつつ『ロックボルトの突出長さを短く』できるようになっている。
これに対して、甲2発明では、明細書中に、シャフト部の長さがナットの大半を占めている旨の明確な記載はなく、また、図面においてさえもそのような記載はない。
よって、この点において、甲2号証から、シャフト部の長さがナットの大半を占めるという技術思想が想起されることない。(審判事件答弁書15頁1,2,12?19行)
本件訂正発明は課題を解決するために、頭部が締め付け工具を嵌めて回転できるように六角頭状であることを特徴としている。これは、課題に即して、頭部をできるだけ小さくするための構成である。
これに対して、甲2発明の頭部は、放射状に突出したリブが形成されたものであり、径方向から工具を嵌めることが困難な形状をなしている。
したがって、甲2発明の頭部は、突出長さを短くするという課題を全く考慮したものではなく、これとは異なる課題や用途に基づいて形成されたものである。よって、課題も構成も本件訂正発明とは全く異なる甲2号証を見た当業者が、ここから本件訂正発明に想到するとは到底考えられない。(審判事件答弁書15頁21?24行、16頁1?6行)

(2)無効理由2に対して
ア 甲9発明との対比による新規性欠如の主張について
甲9発明は「トンネル工事用のロックボルト」に関する発明ではない。
甲9発明ではロックボルトの雄ねじ部の形態が特定されていない。
甲9発明のナットの素材が異なる。
甲9発明のナットは止め具部材を地盤に固定するものではない。
甲9発明にはシャフト部はロックボルト用ナットの大半の長さを占めた構成が開示されているとはいえない。
甲9発明のナットのシャフト部はボアホールに入り込むものではない。
甲9発明の頭部は締め付け工具を嵌められる六角頭状になっていない。
甲9発明の頭部の座板と接する面が水平になっていない。(審判事件答弁書17?22頁の各標題)

本件訂正発明の発明特定事項と、甲9発明に係る発明特定事項とは、相違点があることが明らかである。(審判事件答弁書24頁10?11行)

イ 甲9発明との対比による進歩性欠如の主張について
本件訂正発明は、トンネル工事において使用されるロックボルトの地山から突出する長さを短くすることを課題としているのに対し、甲9発明の課題は、「止め具部材のプラスチックマトリックスの横方向圧縮力が小さく、かつ応力が均一に低い繊維強化プラスチックからなる既成要素を用い、複数のジャッキストロークによるプレストレスを可能にする締結装置を提供することである」(乙11号証(注:「甲10号証」の誤記と認める。)の第2ページ下から2行目以降)。すなわち、本件訂正発明と甲9発明とは、発明が抱える課題が全く異なっている。(審判事件答弁書24頁17?22行)

本件訂正発明は、シャフト部がロックボルト用ナットの大半の長さを占めるという特有の構成を有している。これは、ロックボルトとナットとの嵌め合わせ長さを十分に確保しつつ『ロックボルトの突出長さを短く』(段落【0009】)するためである。
これに対して、甲9号証の図面においては、一見、シャフト部がロックボルト用ナットの大半の長さを占めるように記載されているが、甲9号証にはそのように構成する理由は全く記載されておらず、甲9発明がプレストレスアンカーであることからしても、シャフト部の長さが問題とならないことは明らかである。
よって、甲9号証から、シャフト部の長さがナットの大半を占めるという技術思想が想起されることない。(審判事件答弁書24頁28?31行、25頁10?14行,18?19行)

本件訂正発明は課題を解決するために、頭部が締め付け工具を嵌めて回転できるように六角頭状であることを特徴としている。これは、課題に即して、頭部をできるだけ小さくするための構成である。
これに対して、甲9発明の頭部は、円錐台状に形成されており、径方向から工具を嵌めることが困難な形状をなしている。また、甲9発明のプレストレストアンカーでは、ナットから突出するボルト部分(止め具部材4)をジャッキにより引っ張った上で、ナットを固定し直し、プレストレスを付与することが再三記載されている。そのため、ジャッキによりボルト部分を固定するため、ナットからはボルト部分が相当程度突出する必要がある。したがって、甲9発明は、地山からの突出長さを短くするという課題を考慮したものではないことが明らかであり、これとは全く異なる課題や用途に基づいて形成されたものである。よって、課題も構成も本件訂正発明とは全く異なる甲9号証を見た当業者が、ここから本件訂正発明に想到するとは到底考えられない。(審判事件答弁書25頁21?23行、25頁29行?26頁4行)

(3)無効理由4に対して
「大半の長さを占め」という文言は、甲4号証にも記載の通り、「半分以上の長さを占め」との意味であり、この文言自体不明確な要素は全くない。
また、本件訂正発明においては、シャフト部がナットの半分以上の長さを占めればよいため、下限は明示されているといえるし、本件訂正発明のナットは、シャフト部と頭部とで構成されるため、頭部を除いた部分が上限となる。
よって、「大半」の長さについては、「半分以上」の長さと解釈すればよく、何ら不明確なところはない。(審判事件答弁書26頁30行?27頁5行)

(4)無効理由5に対して
ア 本件訂正発明の課題は、地山から突出する部分、つまり頭部を「短くする」ことにあるため、ナットの長さのうち、シャフト部の長さに基づいて発明を特定するには、少なくともシャフト部の長さの最低値のみを示せばよいのである。そして、この点について、本件訂正発明では、「大半」という最低値を示しているので、発明の詳細な説明に開示された内容を十分に一般化しているのである。(審判事件答弁書27頁31?34行)

イ 支保工には「仮支保工」と「本支保工」の構造上の差異はないが、本件訂正発明は、支保工としての構造を特定しているものであり、本支保工、仮支保工のいずれにも適用可能な共通の構造を特定しているのである。
したがって、本件訂正発明は、仮支保工のみならず、支保工に関しても当然に含みうる発明であるので、発明の詳細な説明に記載された事項を超えるものではない。(審判事件答弁書29頁23?29行)

(5)無効理由6に対して
ア 本件訂正発明では、ナット部の長さのうち、シャフト部の長さの占める割合を半分以上にすれば、本件発明の課題を解決できる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。(審判事件答弁書28頁18?21行)

イ 本件訂正発明は、支保工としての構造を特定しているものであり、本支保工、仮支保工のいずれにも適用可能な共通の構造を特定しているのであるから、本件特許明細書の記載は、本件訂正発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。(審判事件答弁書30頁2?5行)

[証拠方法]
乙第1号証:JISハンドブック ねじ、財団法人日本規格協会 199
3年4月20日第1版第1刷、20,37,38,70頁
乙第2号証:ボルトの頭部打撃強さ、佐々木務、日本機械学会論文集
(C編)51巻464号(昭60-4)、845?851頁

第4 無効理由についての当審の判断
1.甲各号証の記載事項について
(1)甲第2号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、ウムラウト記号は省略する。また下線は当審で付与した。以下同様。)
ア 「PATENTANSPRUCHE
1. Verfahren zur Herstellung eines Zugankers zur Abstut-
zung auf einer Ankerplatte (30), welcher Zuganker aus einem
faserverstarkten Kunststoffrohr (1) besteht und zur Einbet-
tung im Bohrloch mit Kunststoff sowohl zwischen Bohrloch
und Rohr als auch im Rohrinnern zu fullen bestimmt ist,
dadurch gekennzeichnet, dass das in seiner Endpartie mit
radialen Schlitzen (2) langsgeschlitzte Rohr (1) durch einen
wiederverwendbaren Dorn (10) mit grosserem Durchmesser
als die lichte Weite des Rohrs (1) ausgeweitet wird, derart,
dass sich zwischen dem Dorn (10) und der Innenwand des
Rohrs (1) ein axial abgeschlossener Innenhohlraum bildet,
dass das Rohr(l) auf einer wenigstens der Lange des abge-
schlossenen Innenhohlraumes mit einer einen Aussenhohl-
raum bildenden Giessform umschlossen wird, dass der Aus-
senhohlraum und durch die Schlitze (2) hindurch auch der
abgeschlossene Innenhohlraum mit Kunststoff gefullt wird
und dass die Aussenflache mit einem Gewinde (9) versehen
wird.」(特許請求の範囲の請求項1)

和訳(請求人が作成した甲第3号証参照。以下同様。)は以下のとおり。
「特許請求の範囲
【請求項1】
アンカープレート(30)上に支持される引張アンカーを製造する方法であって、繊維強化プラスチックパイプ(1)からなり、かつ穿孔に埋設するために、穿孔とパイプとの間およびパイプ内部にプラスチックが充填されるように定められており、その特徴は、引張アンカーにおいて、該引張アンカーの端部分において、放射状のスロット(2)を長手方向に設けたパイプ(1)が、該パイプ(1)の内寸法よりも大きい直径を有する再使用可能な心棒(10)によって拡開され、それにより前記心棒(10)と前記パイプ(1)の内壁との間に軸方向に閉じた内側中空空間が形成されるようにしたこと、前記パイプ(1)は、前記閉じた内側中空空間の少なくとも長さにわたって、外側中空空間を形成する鋳型によって包囲されること、前記外側中空空間に、および、前記スロット(2)を通り抜けて、前記閉じた内側中空空間にもプラスチックが充填されること、外面がねじ山(9)を備えることである。」(特許請求の範囲・請求項1)

イ 「7. Zuganker, hergestellt nach dem Verfahren nach Patent-
anspruch 1, dadurch gekennzeichnet, dass er am Ende eine
Umhullung (5) aus Kunststoff mit einem Gewinde (9) tragt,
die durch das Fullen der Schlitze (2) erstellten Speichen (4)
mit einem Hohlkern (6) verbunden ist, und dass auf dem
Gewinde eine Mutter (20) mit einem radialen Flansch (21) zur
Auflage auf der Ankerplatte (30) vorhanden ist.
8. Zuganker nach Patentanspruch 7, dadurch gekenn-
zeichnet, dass die Mutter (20) einen spindelformigen Korper
(23), bei dem der Flansch (21) wenigstens angenahert mittig
angeordnet ist, aufweist, und dass zwischen dem Flansch (21)
und dem Korper (23) Rippen (22) vorhanden sind.
9. Zuganker nach Patentanspruch 8, dadurch gekenn-
zeichnet, dass die Rippen (22) wenigstens angenahert dem
vermuteten Weg der Kraftlinien nachgeformt sind.
10. Verwendung des Zugankers nach Patentanspruch 7
zum Setzen einer vorgespannten Zugverankerung, dadurch
gekennzeichnet, dass der mit durch eine Drehbewegung in
Eingriff mit dem Erdreich bringbaren Halterungen versehene
Zuganker in das Bohrloch eingesetzt und verankert wird, dass
darauf die Ankerplatte (30) auf die Ausbruchflache gelegt
und mit der Mutter (20) befestigt wird, dass dann die Mutter
(20) mit einem fur die Vorspannung benotigten Drehmoment
eingeschraubt wird.」(特許請求の範囲・請求項7?10)

和訳は以下のとおり。
「【請求項7】
請求項1に記載の方法で製造された引張アンカーであって、ねじ山(9)を有するプラスチックからなる被覆(5)を端部で支持し、該被覆部は、前記スロット(2)を充填することにより製作されたスポーク(4)によって中空コア(6)と接続されることと、前記アンカープレート(30)上に載置される放射状のフランジ(21)を有するナット(20)が前記ねじ山上に設けられていることとを特徴とする、引張アンカー。
【請求項8】
前記ナット(20)は、前記フランジ(21)が少なくとも略中心に配置されているスピンドル状のボディ(23)を有することと、前記フランジ(21)と前記ボディ(23)との間にリブ(22)が設けられていることとを特徴とする、請求項7に記載の引張アンカー。
【請求項9】
前記リブ(22)は、力線の少なくとも略推測される経路に合わせて成形されていることを特徴とする、請求項8に記載の引張アンカー。
【請求項10】
プレストレスト引張アンカー装置を打設するための、請求項7に記載の引張アンカーの使用であって、回転運動によって土と係合させることができる保持具を備えた引張アンカーが穿孔内に挿入および固定されることと、その後に、前記アンカープレート(30)が突破面上に設置され、かつ前記ナット(20)により取付けられることと、次に、前記ナット(20)が前記プレストレスのために必要なトルクで螺嵌されることとを特徴とする。」(特許請求の範囲の請求項7?10)

ウ 「Die vorliegende Erfindung betrifft ein Verfahren zur Her-
stellung eines Zugankers gemass dem Oberbegriff des unab-
hangigen Patentanspruchs 1, ferner einen nach diesem Ver-
fahren hergestellten Zugankers gemass dem Oberbegriff des
Nebenanspruchs 7 und eine Verwendung dieses Zugankers
gemass dem Oberbegriff des Nebenanspruchs 10.
Zur Befestigung von Ausbruchsflachen in Hohlraumbau-
ten ist es bekannt, Zuganker in Bohrlochern zu verankern.
Solche Zuganker bestehen meist aus einzelnen Ankerstaben,
die am Ende des Bohrlochs fixiert und auf einer Ankerplatte
an der Aussenseite des Bohrlochs mit Schraubenmuttern fest-
geschraubt werden. Man spricht von einem Schlaffanker,
wenn keine oder nur eine geringe Spannung im Anker vor-
handen ist und von einem vorgespannten Anker, wenn der
Ankerstab mit einer erheblichen Spannung vorgespannt ist.」
(2頁左欄66行?右欄12行)

和訳は以下のとおり。
「本発明は、独立請求項1の前提部に記載の引張アンカーを製造する方法、さらに、該方法で製造された、副請求項7の前提部に記載の引張アンカー、および副請求項10の前提部に記載の引張アンカーの使用に関する。
中空建造物の突破面に取り付けるために、引張アンカーを穿孔内に固定することが公知である。このような引張アンカーは、大抵の場合、個々のアンカーロットからなり、これらのアンカーロッドが穿孔の端部に取り付けられ、穿孔の外側のアンカープレートにねじ付ナットで締付けられる。アンカーに張力が作用しないか、またはごくわずかしか作用しない場合、これはスラック・アンカーと呼ばれ、アンカーロッドを高張力で締付ける場合、これはプレストレスト・アンカーと呼ばれる。」(3頁23?末行)

エ 「Wie aus Fig. 1 und 3 ersichtlich ist, ist das Rohr 1 aus
einem faserverstarkten Kunststoff auf einer Partie nahe beim
Ende mit mehreren radialen, langsverlaufenden Schlitzen 2
versehen. Mit einem Dorn 10, dessen Form in Fig. I aus der
Form des inneren Hohlraumes entnehmbar ist, wird das Rohr
1 auf seiner geschlitzten Partie ausgeweitet Der Dorn ist
dementsprechend kreiszylindrisch mit einer ebenfalls zylin-
drischen Verdickung und mit einer konischen Ubergangs-
stelle und dichtet einen Hohlraum zwischen seinem Mantel
und der Innenwand des Rohres 1 sowohl am Ende des Roh-
res als auch an einer weiter in dessen Innern gelegenen Stelle
in axialer Richtung ab.
Mit einer nicht dargestellten Giessform, die aber jedem
Fachmann der thermoplastischen Kunststoffverarbeitung
bekannt ist, wird um das Rohr 1 herum ein ausserer Hohl-
raum gebildet, der das Rohr wenigstens auf der Lange der
Schlitze 2 von deren Anfang beim Ende des Rohrs 1 aus
umfasst. Auf einem Teil der axialen Ausdehnung des Hohl-
raums ist die Wand der Giessform mit einem Gewinde 9 ver-
sehen und an dem vom Ende des Rohrs entfernten Abschluss
des Hohlraumes ist eine Wulst 8 und eine Ausgussoffnung
vorhanden. Ein derart vorbereitetes Rohr 1 wird nun durch
die Giessform mit einem Kunststoff umhullt. Durch die
Schlitze 2 hindurch dringt der Kunststoff auch in den Hohl-
raum zwischen dem Dorn und der Innenwand des Rohres
hinein, derart, dass im Querschnitt gemass Fig. 3 ein Rohr
entsteht, das eine Aussenschicht 5 und eine durch Speichen 4
einstuckig verbundener Hohlkern 6 aufweist. Die Zwischenla-
gen 3 zwischen den Speichen 4 sind die voneinander gespreiz-
ten Partien des Rohres 1. Als Kunststoff ist ein faserverstark-
ter thermoplastischer Kunststoff vorgesehen.
Wehn ein Zuganker mit einer derartigen Befestigung in
ein Bohrloch eingesetzt wird und an seinem Ende im Bohr-
loch durch ubliche, beispielsweise durch Verdrehen des
Ankerstabes in Eingriff mit dem Erdreich gebrachte Halte-
rungen, befestigt ist, kann eine Mutter 20 mit einem radialen
Flansch 21 und Verstarkungsrippen 22 zur Aufnahme von am
Flansch 21 angreifenden Kraften auf das Gewinde 9
geschraubt werden, bis sie auf der Ankerplatte 30 aufliegt.
Nun kann der Ankerstab durch Anziehen der Mutter 20
gespannt werden.
Durch Einpressen von Kunststoff durch den Hohlraum
bis dieser auf der Aussenseite des Rohres das Bohrloch bis
zur Ankerplatte ausfullt, wird ein vorgespannter Zuganker
erstellt, der die Halteeigenschaften des eingangs erwahnten
Schlaffankers im Bohrloch und dessen Korrosionsbestandig-
keit aufweist.
Je nach Anzahl der Schlitze 2 und dem Mass der Auswei-
tung kann fur ein Rohr mit einem Aussendurchmesser von
18 mm und einer Wandstarke von 6 mm eine Zugkraft bis
uber 10 Tonnen ausgeubt werden. Dabei spielt verstandli-
cherweise die Ausweitung insofern eine wichtige Rolle, als
dadurch die Verbindung von Aussenschicht 5 und Hohlkern 6
mittels der Speichen 4 bewirkt wird und die gesammte Quer-
schnittsflache aller Speichen 4 zusammen fur die Festigkeit
der kraftschlussigen Verkeilung von Rohr und Befestigung
massgebend ist.」(2頁右欄49行?3頁右欄13行)


和訳は以下のとおり。
「図1および図3からわかるように、繊維強化プラスチックからなるパイプ1は、端部に近い部分に複数の放射状で長手方向縦に延びるスロット2を備えている。内側中空空間の形状から、図1における形状を察知することができる心棒10により、パイプ1のスロットが設けられた部分が拡開される。それに応じて、心棒は、同様に円柱状の肥厚部と円錐伏の遷移箇所とを有する円柱状であり、かつその外周部とパイプの内壁との間の中空空間を、パイプの端部と、そのさらに内部に位置する箇所とで軸方向にシールする。
図示されないが、熱可塑性プラスチック加工の分野のどの当業者にも公知である鋳型を用いて、パイプ1の周囲に外側中空空間が形成され、この外側中空空間は、パイプの端部におけるスロット2の始端から少なくともスロットの長さにわたってパイプ1を包囲する。中空空間の軸方向の広がりの一部分の上では、鋳型の壁がねじ山9を備えており、パイプの端部から遠い中空空間の終端に隆起8と注ぎ口とが設けられている。次に、このように準備されたパイプ1が鋳型によってプラスチックで被覆される。プラスチックは、スロット2を通り抜けて心棒とパイプの内壁との間の中空空間にも入り込み、それにより、外側層5と、スポーク4によって一体的に接続された中空コア6とを有する図3の横断面のパイプができる。スポーク4間の中間層3は、パイプ1の互いに拡開した部分である。プラスチックとしては、繊維強化された熱可塑性プラスチックが考えられる。
このような取付構造を有する引張アンカーが穿孔に挿入され、かつその端部が穿孔内に、例えばアンカーロッドをねじることによって土と係合される一般的な保持具によって取付けられた場合、放射状フランジ21とフランジ21に作用する力を受ける補強リブ22とを有するナット20は、これがアンカープレート30上に着設されるまでねじ山9に締め込むことができる。そこで、ナット20を締めることによってアンカーロッドが締付けられ得る。
プラスチックを、パイプの外面上で穿孔をアンカープレートが満たされるまで、中空空間を通じて押し込むことによって、冒頭で述べたスラック・アンカーの穿孔内での保持特性とその耐食性とを有するプレストレスト・引張アンカーが出来上がる。
スロット2の数と拡開の程度とに応じて、外径18mmと壁厚6mmのパイプに10トンを越えるまでの引張力をかけることができる。その場合、当然のことながら、拡開によって外側層5と中空コア6との接続がスポーク4によりもたらされ、かつすべてのスポーク4の全横断面全部がパイプと取付構造との力結合的な楔着の強度にとって決定的に重要であるという意味で、拡開は重要な役割をする。」(4頁22行?5頁19行)

オ Fig.1を参照すると、
アンカープレート30には穴が設けられていること、
ナット20は、その内周側に全長にわたってネジが切られていること、 ナット20には、スピンドル状ボディ23に連続した筒状部が、フランジ21を中心にしてボディ23の反対側に設けられていること、
筒状部は、中空構造物の穿孔に入り込んでいること、
筒状部の外径は、アンカープレート30の穴の内径よりも小さく、長さは、ナット20の全長の半分程度であること、
ナット20のフランジ21とボディ23とリブ22の部分は、アンカープレート30の穴の径よりも大きいこと、
が見てとれる。

カ 上記アないしオからみて、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認める。
「中空構造物の突破面に取り付けられ、アンカープレート30上に支持される引張アンカーであって、
引張アンカーは、繊維強化プラスチックパイプ1からなり、
該パイプ1は、端部に近い部分に複数の放射状の長手方向縦に延びるスロット2を備え、
パイプ1のスロット2が設けられた部分が、該パイプ1の内寸法よりも大きい直径を有する心棒10により拡開されて、心棒10とパイプ1の内壁との間に軸方向に閉じた内側中空空間が形成され、ねじ山9を備えた鋳型を用いて、パイプ1の周囲に外側中空空間が形成され、外側中空空間およびスロット2を通り抜けて、前記閉じた内側中空空間にも繊維強化された熱可塑性プラスチックが充填されることによりできたパイプ(注:パイプ1とは別のもの)は、ねじ山9を有するプラスチックからなる外側層5と、スポーク4によって一体的に接続された中空コア6を有するものであって、
外側層5のねじ山9上には、ナット20が設けられ、
ナット20は、アンカープレート30上に載置される放射状のフランジ21と、前記フランジ21の略中心に配置されているスピンドル状ボディ23と、前記フランジ21と前記ボディ23との間に設けられたリブ22とを有し、
ナット20は、その内周側に全長にわたってネジが切られ、
ナット20には、スピンドル状ボディ23に連続した筒状部が、フランジ21を中心にしてボディ23の反対側に設けられ、
筒状部は、中空構造物の穿孔に入り込み、
筒状部の外径は、アンカープレート30に設けられた穴の内径よりも小さく、長さは、ナット20の全長の半分程度であって、
ナット20のフランジ21とボディ23とリブ22の部分は、アンカープレート30に設けられた穴の径よりも大きく、
引張アンカーは穿孔に挿入され、かつアンカーロッドをねじることによって、その端部が穿孔内に、土と係合される一般的な保持具によって取付けられ、放射状フランジ21とフランジ21に作用する力を受ける補強リブ22とを有するナット20は、これが突破面上に設置されたアンカープレート30上に着設されるまでねじ山9に締め込むことができ、そこで、ナット20を締めることによってアンカーロッドが締付けられ得る、
プレストレスト・引張アンカー。」

(2)甲第4号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「たいはん【大半】半分以上。過半。十中の八、九。おおかた。」
(1346頁上から2段目右から4行)

(3)甲第6号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア Fig9及びFig10を参照すると、シャフト部が約35%であることが読み取れる。

(4)甲第9号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。(エスツェットは「ss」と標記する。以下同様。)
ア 「Die in Fig. 1 dargestellte Ausfuhrungsform fur eine feste
Verankerung von Kunststoff-Spanngliedern in Spannbeton zeigt ein
Spannglied 4 mit kreisformigem Querschnitt und einer durchlau-
fenden Profilierung 3, die aus schraubenformig angeordneten
Rippen oder anderen Profilformen besteht. Zwei als Halbschale
ausgebildete, bandartige Ankerstabe 1 umfassen das Spannglied
4 und ubernehmen uber die Profilierung 3 dessen Kraft.
Am ausseren Ende der beiden Ankerstabe 1 sind Ankerblocke 2
angeordnet, die im Langsschnitt eine annahernd dreieckige
Form besitzen und im Querschnitt zusammen kreisformig ausge-
bildet sind, um sich dem ebenfalls kreisformigen Querschnitt
des Spanngliedes 4 anzupassen.
Die kreisringformige Auflagerflache 9 der beiden Ankerblocke
ubertragt die Vorspannkraft auf die Ankerplatte 10, die bevor-
zugt aus faserverstarktem Kunststoff besteht und im ubrigen
abhangig von der Anzahl der zu verankernden Spannglieder in
bekannter Weise gestaltet ist.
Zur Lagesicherung der Ankerstabe 1 am Spannglied 4 dient die
rohrformige Distanzhulse 5 aus faserverstarktem Kunststoff.
Sie ubarnimmt gleichzeitig die in der Profilierung 3 auftre-
tenden Querdruckkrafte und besitzt sine entsprechende Ring-
bewehrung. Um einen festen Sitz der Ankerstabe 1 auf dem
Spannglied 4 zu sichern, erhalten die Aussenflachen der Anker-
stabe 1 und die Distanzhulse 5 eine konische Form. Durch Ver-
schieben der Distanzhulse 5 in Langsrichtung werdem die un-
vermeidbaren Masstoleranzen der Verankerungsstabe 1, der Di-
stanzhulse 5 und des Spanngliedes 4 ausgeglichen.
Der in Fig. 2 dargestellte durchgehende Schlitz zwischen den
beiden Ankerstaben 1 mit den Ankerblocken 2 ist so gross, dass
er auch bei minimalem Durehmesser des Spanngliedes 4 noch
offen bleibt.
Die in der Ankerplatte 10 enthaltene Offnung 11 und die Ab-
messungen des Hullrohres 7 sind so festgelegt, dass die Veran-
kerung sich ungehindert verformen kann. 」(3頁28行?4頁26行)

和訳(請求人が作成した甲第10号証参照。以下同様。)は以下のとおり。
「図1に示された、プレストレストコンクリートにプラスチック止め具部材を強固に締結するための実施形態は、円形横断面と、ねじ形状に配置されたリブまたは他の輪郭部形状からなる連続的な輪郭部3とを有する止め具部材4を示す。ハーフシェルとして形成されたバンド状の2つのアンカーロッド1が止め具部材4を包囲し、かつ輪郭部3を介してその力を受ける。2つのアンカーロッド1の外側端部には、縦断面において略三角の形状を具備し、横断面において共同で円形を形成して止め具部材4の同様に円形の横断面に適合されるアンカーブロック2が配置されている。
2つのアンカーブロックの円形受け面9は、好ましくは繊維強化プラスチックからなり、それ以外は締結すべき止め具部材の数に応じて公知の態様で形成されているアンカープレート10にプレストレスカを伝達する。
止め具部材4におけるアンカーロッド1の位置を固定するために、繊維強化プラスチックからなる管状のスペーサスリーブ5が用いられる。このスペーサスリーブは、同時に、輪郭部3で発生する横方向の圧縮力を受け、かつ相応の環状補強を具備する。止め具部材4へのアンカーロッド1の強固な装着を保証するために、アンカーロッド1の外周面とスペーサスリーブ5に円錐形状が与えられる。スペーススリーブ5を長手方向に移動させることによって、締結ロッド1とスペーススリーブ5と止め具部材4との避けられない寸法公差が補償される。
図2に示された、アンカーブロック2を有する2つのアンカーロッド1間の連続したスリットは、止め具部材4の直径が極小であってもなお開いた状態であるような大きさである。
アンカープレート10に設けられた開口部11とシース管7の寸法とは、締結具(Verankerung)が支障なく変形し得るように設定されている。 」(3頁26行?4頁15行)

イ 「Eine weitere Ausfuhrungsform des in Fig. 1 beschriebenen
Festankers ist in Fig. 5 dargestellt.
Beim Spannen eines Festankers gemass Fig. 1 verringert sich der
Durohmesser des Spanngliedes 4. Der Durchmesser der Distanz-
hulse 5 hingegen wird durch die Sprengkrafte in der Profilierung3
vergrossert. Beide Verformungen lockern den ursprunglich festen
Formschluss in der Profilierung 3.
Dieser Nachteil wird bei der Ausfuhrungsform gemass Fig. 5 da-
durch varmieden, dass der Ankerstab 1 das Spannglied 4 in Form
einer langgestreckten Mutter 13 umschliesst und die gestaffelte
Faserbewehrung zwei gegensinnig laufende Wendeln 14 bildet.
Die in dieser Form angeordnete Faserbewehrung wirkt wie eine
strumpfartige Hulle um das Spannglied 4, die bekanntlich unter
Langszug ihren Durchmesser verkleinert bzw. hier einen vorteil-
haften Querdruck auf die Profilierung 3 erzeugt. Uber dis Wen-
delsteigung lasst sich die Grosse des Querdrucks steuern. Da
sich das Verhaltnis von Querdruck und Langszug des Ankersta-
bes 1 laufend andert, ist eine Kombination aus Faserbewehrung
mit Wendeln 14 und Strangen 15 in Langsrichtung zweckmassig.
Die Profilierung 3 der in Fig. 5 gezeigten Mutter 13 und des
Spanngliedes 4 ist als Schraub gewinde ausgebildet. Da die
Mutter immer vor dem Spannen aufgeschraubt wird, ist die Ge-
windesteigung fur Mutter und Spannglied gleich.」(6頁33行?7頁18行)

和訳は以下のとおり。
「図1に図示された固定アンカーの別の実施形態を図5に示す。
図1による固定アンカーの緊張時に止め具部材4の直径が小さくなる。これに対して、スペーサスリーブ5の直径は輪郭部3の破裂力(Sprengkraft)によって拡大される。両方の変形は、輪郭部3における当初の強固な形状結合を弛緩させる。
この不利な点は、図5による実施形態において、アンカーロッド1が長尺ナット13の形態の止め具部材4を囲繞し、かつ交互配置の繊維補強が互いに逆方向に延びる2つの螺旋14を形成することにより避けられる。この形態で配置された繊維補強は、止め具部材4の周囲でストッキング状シースのような働きをし、このシースは、公知のように、縦方向に引張られるとその直径が小さくなり、もしくは、ここでは輪郭部3に対して有利な横方向の押圧を生ぜしめる。螺旋のピッチを介して横方向圧縮の大きさを制御することができる。アンカーロッド1の横方向圧縮と縦方向引張との比率は絶えず変化するので、螺旋14の繊維補強部と長手方向の繊維束15との組合せが合目的的である。図5に示されたナット13および止め具部材4の輪郭部3はねじ山として形成されている。ナットは、常に緊張の前に螺合されるので、ナットと止め具部材のねじ山ピッチは同じである。」(6頁6?19行)

ウ 「Patentanspruchs
1. Vorrichtung zur Verankerung von faserverstarkten
Kunststoff-Spanngliedern mit mindestens einem, dam Kunststoff-
spanngliad in Langsrichtung anliegenden Ankerstab, dadurch ga-
kannzeichnet, dass
der aus faserverstarktem Kunststoff bestehende Ankerstab
(1) gerada und bandformig ausgebildet ist,
in Langsrichtung unterschiedliche Zugsteifigkeit durch
eine gastaffelte Faserbewehrung aufweist,
an einem Ende mit einem Ankerblock (2) abschliesst,
mit einer Profilierung (3) auf seiner dem Kunststoff-
spannglied (4) zugewandten Seite versehen ist, die einen
Formschluss entweder mit dem ungedehnten oder dem gedehnten
Kunststoff-Spannglied (4) herstellt, und dass
das Kunststoff-Spannglied (4) eine durchlaufende, auf den
Ankerstab (1) abgestimmte Profilierung (3) aufweist.

2. Vorrichtung nach Anspruch 1 dadurch gekennzeichnet,
dass der Ankerblook (2) eine im Langsschnitt annahernd drei-
eckige Form besitzt.

3. Vorrichtung nach Anspruch 1 und 2, dadurch gakenn-
zeichnet, dass der Ankerblock (2) am ausseren, zum Bauteilrand
gerichteten Ende des Ankerstabes (1) angeordnet ist.

4. Vorrichtung nach Anspruch 1 und 2, dadurch gekennzeich-
net, dass der Ankerblock (2) am inneren, in das Bauteil gerich-
teten Ende des Ankerstabes (1) angeordnet ist.

5. Vorrichtung zur Verankerung von faserverstarkten Kunst-
stoff-Spanngliedern fur die Herstellung eines Spanngliedstosses,
dadurch gekennzeichnet, dass ein gerader, bandformiger und in
Langsrichtung unterschiedliche Zugsteifigkeit aufweisender
Ankerstab (1) an den zu stossenden Kunststoff-Spanngliedern (4)
in Langsrichtung anliegt, mit einer Profilierung (3) auf sei-
ner dem Kunststoff-Spannglied (4) zugewandten Seite versehen
ist und dass die Kunststoff-Spannglieder (4) eine durchlaufende,
auf den Ankerstab abgestimmte Profilierung (3) aufweisen.

6. Vorrichtung nach Anspruch 3, 4 und 5 dadurch gekenn-
zeichnet, dass ein Kunststoff-Spannglied (4) von zwei als Halb-
schale ausgebildeten Ankerstaben (1) und Ankerblocken (2) um-
fasst wird.

7. Vorrichtung nach Anspruch 6, dadurch gekennzeichnet,
dass die als Halbschalen ausgebildeten Ankerstabe (1) durch
rohrformige Distanzhulsen (5) zusammengehalten werden.

8. Vorrichtung nach Anspruch 3 oder 5 dadurch gekennzeich-
net, dass ein Ankerstab (1) in Form einer langgestreckten Mut-
ter (13) das Kunststoff-Spannglied (4) umschliesst.

9. Vorrichtung nach Anspruch 8 dadurch gekennzeichnet, dass
die gestaffelte Faserbewehrung der Mutter (13) zwei gegensinnig
laufende, das Kunststoff-Spannglied (4) umschliessende Wendeln
(14) bildet.

10. Vorrichtung nach Anspruch 8 und 9 dadurch gekennzeich-
net, dass die Profilierung (3) in der Mutter (13) und am Kunst-
stoff-Spannglied (4) als Schraubgewinde ausgebildet ist.」(特許請求の範囲)

和訳は以下のとおり。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック止め具部材に長手方向に当接する少なくとも1つのアンカーロッドを備えた、繊維強化プラスチック止め具部材を締結する装置であって、
前記繊維強化プラスチックからなるアンカーロッド(1)は、直線およびバンド状に形成されており、
交互配置の繊維補強により長手方向に異なる引張強度を有し、
一端がアンカーブロック(2)で終端し、
前記アンカーブロックの、前記プラスチック止め具部材(4)に向いた側に輪郭部(3)を備えており、該輪郭部は、前記伸びていないか、または伸びたプラスチック止め具部材(4)のどちらかと形状結合を形成することと、
前記プラスチック止め具部材(4)は、前記アンカーロッド(1)に合わせて調整した連続する輪郭部(3)を有することとを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記アンカーブロック(2)は、縦断面において略三角形を具備することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記アンカーブロック(2)は、部材の縁に向けられた前記アンカーロッド(1)の外側端部に配置されていることを特徴とする、請求項1および2に記載の装置。
【請求項4】
前記アンカーブロック(2)は、前記アンカーロッド(1)の、前記建物の一部の中に向けられた内側端部に配置されていることを特徴とする、請求項1および2に記載の装置。
【請求項5】
止め具部材継ぎ手を形成するための、繊維強化プラスチック止め具部材を締結する装置であって、直線およびバンド状、かつ長手方向に異なる引張強度を有するアンカーロッド(1)が、突合せられるべきプラスチック止め具部材(4)に長手方向に当接し、前記プラスチック止め具部材(4)に向いた側に輪郭部(3)を備えていることと、前記プラスチック止め具部材(4)は、前記アンカーロッドに合わせて調整された連続する輪郭部(3)を有することとを特徴とする、装置。
【請求項6】
プラスチック止め具部材(4)は、ハーフシェルとして形成された2つのアンカーロッド(1)とアンカーブロック(2)とにより包囲されることを特徴とする、請求項3、4および5に記載の装置。
【請求項7】
前記ハーフシェルとして形成されたアンカーロッド(1)は、管状のスペーサスリーブ(5)により保持されることを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
アンカーロッド(1)は、長尺のナット(13)の形態でプラスチック止め具部材(4)を囲繞することを特徴とする、請求項3または5に記載の装置。
【請求項9】
前記ナット(13)の交互配置の繊維補強が、2つの逆向きに延び前記プラスチック止め具部材(4)を囲繞する螺旋(14)をなすことを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記輪郭部(3)は、前記ナット(13)において、かつ前記プラスチック止め具部材(4)にねじ山として形成されていることを特徴とする、請求項8および9に記載の装置。」(特許請求の範囲)

エ Fig.1を参照すると、止め具部材4と、アンカーロッド1のアンカーブロック2以外の部分とが、プレストレストコンクリートの孔に入り込み、プレストレスコンクリートの表面には、アンカープレート10が配置して、アンカープレート10の開口部11は、アンカーロッド1が挿入可能な直径を有していること、
アンカーロッド1の止め具部材4に向いた側に、ねじ山である輪郭部3が、アンカーロッド1の全長に渡って連続して設けられていること、
アンカーブロック2の長さは、アンカーロッド1全体の長さの3分の1程度であること、がみて取れる。

オ 上記アないしエからみて、甲第9号証には、次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されているものと認める。
「プラスチック止め具部材に長手方向に当接するアンカーロッドを備えた、プレストレストコンクリートに繊維強化プラスチック止め具部材を締結する装置であって、
前記繊維強化プラスチックからなるアンカーロッド1は、一端がアンカーブロック2で終端しており、長尺のナット13の形態でプラスチック止め具部材4を囲繞し、かつ止め具部材4の周囲でストッキング状シースのような働きをする、交互配置の繊維補強が互いに逆方向に延びる2つの螺旋14を形成し、前記プラスチック止め具部材4に向いた側に輪郭部3がアンカーロッド1の全長に渡って連続して設けられるもので、
アンカーロッド1の輪郭部3は、プラスチック止め具部材4と形状結合を形成するものであり、
前記プラスチック止め具部材4は、前記アンカーロッド1に合わせて調整した連続する輪郭部3を有し、
ナット13および止め具部材4の輪郭部3はねじ山として形成され、
前記アンカーブロック2は、部材の縁に向けられた前記アンカーロッド1の外側端部であって、建物の一部の中に向けられた内側端部に配置され、その長さは、アンカーロッド1全体の長さの3分の1程度であり、縦断面において略三角形の形状を具備し、横断面において円形を形成し、
アンカーブロック2の円形受け面9は、アンカープレート10にプレストレス力を伝達し、
止め具部材4と、アンカーロッド1のアンカーブロック2以外の部分が、プレストレストコンクリートの孔に入り込み、プレストレスコンクリートの表面には、アンカープレート10が配置して、アンカープレート10の開口部11は、アンカーロッド1が挿入可能な直径を有している、装置。」

(5)甲第11号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第11号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「1.ロックボルトの歴史とプレストレス
ロックボルトにプレストレスが導入された実績は、過去に数多くあります.」(142頁左欄1?3行)

イ 「いずれの場合も,先端定着後に5?10ton程度のプレストレスが導入されました.ロックボルトの先端が確実に地山に定着され,さらに,プレストレスに対する反力が先端で支持されることが必要でした.」(142頁左欄24?27行)

ウ 「図-3は,昭和30年代?50年代のロックボルトの施工実績であり、定着方式が先端定着から全面接着に変化した様子が窺われます。これに伴い、プレストレス導入実績もなくなってきました。」(14頁左欄45?49行)

エ 「ロックボルトを緊張して地山にプレストレスを与え,地山の安定性を向上させることがあるが,このような場合には,ロックボルトの先端を確実に地山に定着させることが重要である.」(142頁右欄5?8行)

オ 「参考文献
1)日本トンネル技術協会:ロックボルト工の現場設計法に関する研究(その2)報告書(日本道路公団東京第二建設局委託),P.255,1980.3.
2)今田徹,白井慶治,永島鉄郎;ロックボルト工入門(1),トンネルと地下 第9巻2号,土木工学社,pp.54-60,1978.2.」

(6)甲第12号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第12号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「(a)ウェッジ型ロックボルト
ウェッジ型(図-4-2-2)は、ボルト先端部のスリットに楔をボアホール孔底で打ち込み、これにより先端部が開いて地山にボルトが圧着される型式のものである。・・・(略)・・・
(b)エクスパンション型ロックボルト
エクスパンション型(図-4-2-3)はボルトを引っ張るかあるいは回転させることによりテーパーのついたコーンをシェル内に引き込み、これによりシェルが押し拡げられた地山に圧着された型式のものである。・・・(略)・・・
(c)先端接着型ロックボルト
セメントモルタル、セメントミクルあるいは樹脂等の接着剤を用いてボルト先端部を岩盤に定着させる型式のものである。・・・(略)・・・
(d)全面接着式樹脂型ロックボルト
樹脂型は接着剤の入ったカプセルをボアホール内に入れ、ボルトを挿入撹拌することにより接着剤に化学反応を起こさせボルトを地山に接着する型式のものである。・・・(略)・・・」(44頁21行?45頁下から2行)

イ 「ヨーロッパのNATMにおける全面接着式のロックボルトでは打設後早い時期に5tonから10ton程度のプレストレスをかけている施工例があり、日本においてもプレストレスをかけている施工例が見受けられる。」(111頁6?8行)

(7)甲第13号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第13号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「ロックボルトの作用はロックボルトを締め付けることによって地山にプレストレスを与え、節理面や層理面に作用する摩擦力を増加させることにより安定が保たれるようになるとするものである.」(56頁左欄4?7行)

(8)甲第16号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第16号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「3.考案の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
本考案は、例えばトンネルや法面等の地山を補強するのに用いるロックアンカー、特に自穿孔グラウト式(注入式)のロックアンカーに関する。
〔従来の技術〕
従来、先端に穿孔用ビットを備え、複数本の中空のアンカー棒を筒状のカップラで順次継ぎ足して地山を所定深さに穿孔し、その穿孔内に上記アンカー棒を位置させたままで、各アンカー棒の中空穴を利用して穿孔内にセメントミルクやモルタル等のグラウト材を充填し固化させて固定するいわゆる自穿孔グラウト式のロックアンカーは知られている(例えば特開昭63-7500号公報参照)。
〔考案が解決しようとする問題点〕
ところが、上記従来のものは、アンカー棒として中空の異形鉄筋が用いられているため穿孔時のくり粉のはけ(排出)やグラウト材の流れが悪く、特にアンカー棒を連結するカップラ部分の周囲の流れが悪い等の問題があった。
本考案は上記の問題点を解決することを目的とする。」(明細書2頁1行?3頁3行)

イ「〔問題点を解決するための手段〕
本考案は、先端に穿孔用ビットを備え、複数本の中空のアンカー棒を筒状のカップラで順次継ぎ足して地山を穿孔し、その穿孔内に上記アンカー棒を位置させたままで、各アンカー棒の中空穴を利用してグラウト材を充填し固化させて固定する自穿孔グラウト式ロックアンカーにおいて、上記各アンカー棒の外周面に略全長にわたってねじ条を形成し、そのねじ条に螺合するねじ条を前記の筒状カップラの内周面に形成すると共に、そのカップラ内周面のねじ条に対応してカップラ外周面に、上記アンカー捧のねじ条に略連続するねじ条が形成されていることを特徴とする。
〔作 用〕
上記各アンカー棒の外周面に略全長にわたって形成したねじ条の端部に、カップラの内周面に形成したねじ条を螺合することによりアンカー棒を順次継ぎ足して穿孔するもので、その穿孔時にビットによる切削で生じたくり粉は、各アンカー棒外周面のねじ条と、それに略連続するカップラ外周面のねじ条とに沿って穿孔外に順次案内されて排出される。またグラウト材充填時は、グラウト材が同様に上記のねじ条に沿って案内されて穿孔内に充填される。」(明細書3頁4行?4頁7行)

ウ 「〔実施例〕
以下、本考案を図に示す実施例に基づいて具体的に説明する。
第1図は本考案の一実施例を示す自穿孔グラウト式ロックアンカーの分解側面図、第2図はその一部の拡大断而図である。
図において1a?1cは鋼管等よりなる複数本の中空アンカー棒であり、その各アンカー棒1a?1cの外周面には例えば転造ダイス(不図示)を圧接させることによって、縦断面波形のねじ条11が全長にわたって連続的に形成されている。
2は上記の各アンカー捧1a?1cを接続するための筒状のカップラであり、本例においては鋼管が用いられ、その外周面側から転造ダイス(不図示)を圧接させることにより、外周面側にアンカー棒の前記ねじ条11に略連続するねじ条22を形成すると同時に、内周面側に前記アンカー棒1a?1cのねじ条11に螺合するねじ条21が形成されている。」(明細書4頁8行?5頁6行)

エ 「また上記の穿孔方向が第5図のように上向きの場合には穿孔Hの開口部に、連通管7を備えたコ-キング8等を嵌めてアンカープレート4および緊締ナット5で固定し、上記連通管7から穿孔内にグラウト材を圧送すると共に、アンカ?棒先端部の小穴13から各アンカー棒1a?1cの中空穴10を介して穿孔内の空気を逃がしながらグラウト材を充填するもので、そのときグラウト材は各アンカー棒1a?1cおよびカップラ2の外周面に連続的に形成したねじ条11・22に沿って円滑に充填される。
以上のようにして穿孔H内に充填したグラウト材が固化することによってアンカー棒1が定着され、前記の緊締ナット5およびロックナット6を締付けることにより地山が補強されるものである。
なお、特に上記第5図のようにトンネル等の地山に上向きにロックアンカーを施工する場合、地山はある程度安定するまでにごく僅かづつ下降移動する。そのため、緊締ナット5を介してアンカー棒に大きな荷重が掛かって破断するおそれがある。そこで、本実施例においては緊締ナット5の雌ねじの形状を、アンカー棒1a?1cのねじ条11と同様に第1図に示すように縦断面波形に形成することにより、アンカー棒1a?1cに破断荷重が掛かる寸前で緊締ナット5の雌ねじがアンカー棒のねじ条11を乗り越えて軸方向に移動し得るように構成したもので、地山がある程度安定するまではロックナット6を締付けることなく緊締ナット5との間に第5図に示すように間隔Sを設けることにより緊締ナット5の移動を許容してアンカー棒1a?1cに破断荷重が掛かるのを防止し、地山がある程度安定したところでロックナット6を締付けて緊締ナット5を固定するようにして、地山が安定するまでの間にアンカー棒が破断するのを防止できるようになっている。」(明細書7頁19行?9頁13行)

(9)甲第17号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第17号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「2.実用新案登録請求の範囲
(1)トンネル等の地山中に埋設され、補強繊維束を熱硬化性樹脂で結着し、その外周を熱可塑性樹脂で被覆したストランドからなるロックボルト本体と、該ロックボルト本体の一端部に接着剤を充填して固着される筒状の定着金具とを備え、該ロックボルト本体は複数のストランドの被覆同士を相互に融着接合したスパイラルロープ状構造を有し、且つ該定着金具は該ロックボルトの見掛けの直径に相応した内径を有し内面に突設された環状突起と外周面に刻設されたネジ部とを備え、且つ該ロックボルト本体のストランドを分離して収納する筒体と、該筒体内にあって該複数本のストランド中の芯ストランド以外のストランドを該筒体との間に拡開するリング楔とからなることを特徴とする繊維強化合成樹脂製ロックボルト。」(明細書1頁4?末行)

イ 「《作 用》
上記構成のロックボルトによれば、ロックボルト本体はストランドをバラして筒体とリング楔との間に拡開された状態で、接着剤の充填により固着されているので、ロックボルト本体と定着金具とは強固に結合される。
また、筒体にはネジ部が刻設されているので、座金プレートを装着して掘削地山に簡単に設置できる。」(明細書6頁2?10行)

ウ 「ロックボルト本体10は具体的には以下のようにして製造される。」(明細書7頁5?6行))

エ 「上述の未硬化状の複合ストランドの1本を芯ストランド10aとして、この外周に複数本の未硬化状の複合ストランド10b,10b・・・を所定のピッチでスパイラル状に捲回し、これを加熱槽中に通して内部の熱硬化性樹脂を硬化し、スパイラルロープ状のロックボルト本体10を得る。」(明細書7頁末行?8頁5行)

オ 「このようにして硬化させたスパイラルロープ状のロックボルト本体10を所用の長さに切断し、その打込側頭部に定着金具12を固着する。
定着金具12は、両端が開口した円筒状の筒体14と、筒体14内に設置されるリング楔16とから構成されている。」(明細書7頁12?17行)

カ 「これにより、分離された芯ストランド10a以外のストランド10b,10c・・・は、第1図に示すように拡開され、リング楔16の外周と筒体14の内周との間に挟着される。
この状態で筒体14の後端を例えばテープ18などで塞ぎ、先端側から接着剤20を注入し、接着剤20を硬化させることでロックボルト本体10と定着金具12とを固着する。
・・・(中略)・・・
以上のようにして構成されたロックボルト本体は、地山22に削孔されてグラウトなどの定着材が充填された孔部にロックボルト本体10側から挿入され、座金プレート24を取付けて、筒体14のネジ部14bにナット26を螺着して設置される。」(明細書9頁16行?10頁12行)

キ 「《効 果》
以上詳細に説明したように本考案のロックボルトは、母材のロックボルト本体の引張強力に相応した定着力が発現できる定着金具が固着されており、かつロックボルト本体は、その特殊なロープ状構造によって削孔部に充填したモルタルなどの硬化性材料に抗して挿入可能であることから、比較的長いロックボルトの使用が可能となって、トンネル掘削工事における1サイクル当たりの掘進長を延ばすことが可能となるとともに、吹付けコンクリート層などを支保する固定施工においては、打設頭部と地山(吹付けコンクリート層)との間に座金プレートを地山側へ締付けてロックボルトの引張強力に対応した定着力を発揮せしめることができる。」(明細書15頁11行?16頁6行)

(10)甲第18号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第18号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「ロックボルトは,今世紀の初頭からヨーロッパとアメリカの鉱山で使われ始め,1950年代にはインドや南アフリカを含めて盛んに用いられるようになりました.国内においても,この時期に鉱山に導入されました.いずれも,鉱や非鉄金属鉱山など,水平や水平に近い堆積岩中の坑道や切羽の支保として使用されています.土木のトンネル工事には1950年代の後半から試験的に使われ始めましたが,本格的な利用には至らず,当時普及段階にあった鋼製支保工が広く用いられました.しかし,硬岩トンネルでの経済的な支保工としての関心は高く,1960年代の後半には,山陽新幹線や日本道路公団のトンネルなどで利用されました.その後1970年代には,地下発電所で広く利用されました.」(142頁左欄7?18行)

イ 142頁右欄の各図には、ロックボルトが図示されている。

ウ 144頁左欄の図-4には、ナット側に雄ねじ部が形成されたロックボルトが図示されている。

(11)甲第19号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第19号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 標題「NTロックボルト本体仕様」の表には、3段目に「ロープネジ」とある。

イ 標題「30/11タイプ カップリング・ナット・プレート」の「ナット」には、「材質:球状黒鉛鋳鉄」とある。

(12)甲第20号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第20号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「従来わが国では、トンネル工事においてコンクリートでライニングするまでの間、地山の緩みを支えるのにH型鋼支保工が用いられてきたが、これに代わるものとして十数年前からロックボルト(Rock Bolt)が着目され、山陽新幹線工事や上越新幹線工事などで本格的に使用され実用化の段階に入ってきた。」(54頁左欄2?7行)

イ 55頁の図-2を参照すると、ロックボルトがトンネル内側壁に打ち込まれた状態がみて取れる。

ウ 57頁の表-1をみると、左から2列目の上から2段目及び3段目には、「ボアホール」と記載されている。

エ 58頁の表-3をみると、左から2列目の上から2段目及び3段目には、「ボアホール」と記載されている。

オ 59?60頁の図-5,図-6,図-7,図-8,図-11を参照すると、ロックボルト用ナットであって、六角状または八角状のものがみて取れるところ、技術常識からみて、当該ナットは六角状であるといえる。

(13)甲第21号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第22号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 株式会社アールディメタル、北越メタル株式会社の広告を参照すると、ロックボルトとナットがみて取れる。

イ 東海ゴム工業株式会社の広告には、「施工順序」の図中に、「1)穿孔」の記載、次に「2)ボルト定着」の記載が上下に順に並んでいる。

(14)甲第22号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第22号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 株式会社アールディメタル、北越メタル株式会社の広告を参照すると、ロックボルトとナットがみて取れる。

(15)甲第23号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第23号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「日本道路公団は,トンネル工事におけるロックボルト工の利用価値に着目し,高速道路調査会に委託して調査研究を行い,昭和48年には『ロックボルト工設計指針』として成果を出版した。」(1頁2?3行)

イ 「一方、ロックボルトが建設工事に用いられるようになったのは,1950年頃からであり,WyomingのKeyholeトンネル,UtahのDuchesneトンネルで試験的に用いられた。また,East Delaware トンネルでは大規模(124,000本)に使用されたとの記録がある。1950年代後半になると多くの建設工事で使用されるようになったが,特にダム関連トンネル工事での使用が目立ち,中でもオーストラリヤのSnowy Mountain Scheme では,地下発電所の支保工として用いられ,これに関連してT. A. Langは広範な研究を行っている。」(3頁25?30行)

ウ 「わが国にロックボルトが導入された時期は,はっきりしないが1950年代の中頃であったものと考えられ,始めは鉱山において試行された。トンネル工事では,1960年代の初めから中頃にかけて,神岡線第4中山トンネル,新清水トンネルで試行されたとの記録があるが,本格的に利用されるようにはならず,当時普及の段階であった鋼アーチ支保工が広く使用された。」(4頁13?16行)

エ 第44?45頁の図-4-2-2,図-4-2-3,図-4-2-4を参照すると、ロックボルト用ナットであって、六角状または八角状のものがみて取れるところ、技術常識からみて、当該ナットは六角状であるといえる。

オ 「締付け式ボルトのいずれの型式についても,締付けの操作においては同様である。すなわち,アンカーを固定したのち、孔口から突出しているボルトネジ部にベアリングプレートおよびナットを装着し、ナットを回転させてベアリングプレートを岩表面に圧着させてボルトを緊張する。締付けの方法としては
(a)人力による方法
パイプレンチ,スパナ,ハンドレンチまたはトルクレンチを用いて人力により締付ける現場施工においては、足場不良そのほかの事由により,ナットに与えられるトルク値は30?40kg-mと考えてさしつかえない。
(b)インパクトレンチによる方法
インパクトレンチおよびトルクツールを用いる。」(111頁12?21行)

カ 「ロックボルトの施工は通常せん孔,ボルトの挿入,定着(締付け)および肌落ち防止工を1サイクルとする作業の繰返しであるが,最小の作業員で最大の効率を発揮し,安全かつ確実に施工しなければならない。」(112頁13?15行)

(16)甲第24号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第24号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「58は該フランジ56から更に延設された略円筒形の本体部分」(517頁右下欄6?7行)

イ 「ボルトヘッド及びストッパプラグの材料としては、鋼、鋳鉄、ファイバーグラスの使用が可能である。」(519頁右上欄4?6行)

ウ Fig9,Fig10,Fig11を参照すると、ナットのシャフト部が孔に入り込んでいることが、みて取れる。

(17)甲第25号証の記載事項
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第25号証には、社団法人日本トンネル技術協会の会員名が記載されている。

2.無効理由1について
(1)対比
ア 甲2発明の「外側層5のねじ山9」,「アンカープレート30」,「筒状部」,「フランジ21」と「ボディ23」と「リブ22」を合わせたものは、それぞれ本件発明の「雄ねじ部」,「座板」,「シャフト部」,「頭部」に相当する。

イ 甲2発明の「パイプ1」と「パイプ」をあわせたものと、本件発明の「ロックボルト」とは、「ボルト」である点で共通し、甲2発明の「ナット20」と、本件発明の「ロックボルト用ナット」とは、「ボルト用ナット」である点で共通している。
甲2発明の「外側層5のねじ山9」は、「外側層5」の外面にあることは明らかであるので、甲2発明の「ねじ山9を有する」「プラスチックからなる外側層5」「を有するパイプ」と、本件発明の「外周にロープねじ状の雄ねじ部の形成されたロックボルト」とは、「外周に雄ねじ部の形成されたボルト」である点で共通している。
甲2発明の「ナット20は、その内周側に全長にわたってネジが切られ」、パイプの「外側層5のねじ山9上に」「設けられ」ていることと、本件発明の「ロックボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有」することとは、「ボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有」することで共通している。

ウ 甲2発明の「穿孔に挿入され、かつアンカーロッドをねじることによって、その端部が穿孔内に、土と係合される一般的な保持具によって、」「中空構造物の突破面に取り付けられ」る「引張アンカー」と、本件発明の「工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルト」とは、「中空構造物の壁に穿設された孔に打ち込まれたボルト」である点で共通している。
甲2発明の「放射状フランジ21とフランジ21に作用する力を受ける補強リブ22とを有するナット20は、これが突破面上に設置されたアンカープレート30上に着設されるまでねじ山9に締め込むことができ、そこで、ナット20を締めることによってアンカーロッドが締付けられ得る」構成と、本件発明の「ロックボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地盤に固定するための鋼製のトンネル工事用ロックボルト用ナット」とは、「ボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ボルトを中空構造物に固定するための中空構造物用のボルト用ナット」である点で共通している。

エ 甲2発明の「その外径は、アンカープレート30に設けられた穴の内径よりも小さく、」「穿孔内に入り込ん」でいる「ナット20の筒状部」と、本件発明の「地山のボアホールに入り込むようにロックボルト用ナットの大半の長さを占め、座板の穴に遊挿可能なシャフト部」とは、「中空構造物の孔に入り込むように座板の穴に遊挿可能なシャフト部」である点で共通している。

オ 甲2発明は、「放射状フランジ21とフランジ21に作用する力を受ける補強リブ22とを有するナット20は、これが突破面上に設置されたアンカープレート30上に着設されるまでねじ山9に締め込む」ものであるので、ナット20を締め込むには、ナット20の「フランジ21とボディ23とリブ22の部分」に何らかの工具を嵌めて回転することは、自明な事項である。
さらに、「ボディ23に連続した筒状部が、フランジ21を中心にしてボディ23の反対側に設けられ」ていることからすると、甲2発明の「アンカープレート30に設けられた穴の径よりも大き」い「フランジ21とボディ23とリブ22の部分」と、本件発明の「シャフト側の手元側に固着され、座板の穴より大きく、締めつけ工具を嵌めて回転できるように六角頭状の頭部」とは、「シャフト側の手元側に固着され、座板の穴より大きく、工具を嵌めて回転できる頭部」である点で共通している。

カ 甲2発明の「ナット20は、」「その内周側に全長にわたってネジが切られ」、パイプの「外側層5のねじ山9上に」「設けられ」ている構成と、本件発明の「頭部からシャフト部まで連続するように前記ロープねじ状のロックボルトの雄ねじ部に螺合する所定長の雌ねじ部」とは、「頭部からシャフト部まで連続する、ボルトの雄ねじ部に螺合する所定長の雌ねじ部」である点で共通している。

キ 上記アないしカからみて、本件発明と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有している。
一致点:
「外周に雄ねじ部の形成されたボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有し、中空構造物の壁に穿設された孔に打ち込まれたボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ボルトを中空構造物に固定するための中空構造物用のボルト用ナットにおいて、
中空構造物の孔に入り込むように座板の穴に遊挿可能なシャフト部と、
シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大きく、工具を嵌めて回転できる頭部から成り、
頭部からシャフト部まで連続するようにボルトの雄ねじ部に螺合する所定長の雌ねじ部を形成した、
中空構造物用のボルト用ナット。」

相違点1:本件発明のナットの雌ねじ部は、ロープねじ状のロックボルトの雄ねじ部に螺合するのに対し、甲2発明のナットの雌ねじ部は、ロープねじ状ではないボルトの雄ねじ部に螺合するもの、つまり甲2発明の雄ねじ部及び雌ねじ部は共にロープねじ状ではない点。
相違点2:本件発明のボルト用ナットは、工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルト用ナットであるのに対し、甲2発明は、中空構造物の穿孔に打ち込まれたボルト用ナットである点。
相違点3:本件発明のシャフト部は、ナットの大半の長さを占めているのに対し、甲2発明のシャフト部は、ナットの半分程度である点。
相違点4:本件発明のナットが鋼製であるのに対し、甲2発明のナットは、その材料が不明な点。
相違点5:本件発明の頭部は、六角頭状であるのに対し、甲2発明の頭部は、そうでは無い点。

(2)判断
上記相違点1?5について検討する。
ア 相違点1
(ア)請求人は、「甲第16?19号証に記載されているように、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることは技術常識である」と主張しているので、当該甲第16?19号証に記載された内容を確認する。
まず甲第16号証には、各アンカー棒1a?1cの外周面には、縦断面波形のねじ条11が全長にわたって連続的に形成されていることが記載されているので、甲第16号証には、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることが記載されているといえる。
次に、甲第17号証には、芯ストランド10aの外周に複数本の複合ストランド10bを所定のピッチで捲回したスパイラルロープ状のロックボルト本体10が記載されているので、甲第17号証には、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることが記載されているといえる。
また甲第19号証には、「NTロックボルト本体仕様」において「ネジ形状」が「ロープネジ」と記載されているので、甲第19号証には、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることが記載されているといえる。
なお、甲第18号証には、ロックボルトには雄ねじ部が記載されているものの、請求人が主張するように雄ねじ部をロープねじ状とする記載は見当たらない。(特に図-4)
とすれば、甲第16,17,19号証の記載からみて、ロックボルトの雄ねじ部をロープねじ状とすることは、本件出願前に技術常識であったものである。
しかしながら、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることが技術常識であるとしても、一般的にロープねじ状とするのは、ボアホール内に挿入されてモルタルや樹脂と付着する部分であるので、ロックボルトの雄ねじ部のうちナットと螺合する部分をロープねじ状とすること、言い換えると、ナットの雌ねじ部が、ロープねじ状のボルトの雄ねじ部に螺合することまでが技術常識といえるかどうか不明である。
したがって、上記相違点1に係る本件発明の構成が、甲第2号証に実質的に記載されているとは認められない。

(イ)また上記(ア)に記載したように、甲第16,17,19号証の記載からみて、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることが技術常識であるとしても、ナットの雌ねじ部が、ロープねじ状のボルトの雄ねじ部に螺合することまで技術常識といえるかどうか不明であるので、甲2発明のナットの構成を、甲第16,17,19号証に記載された技術常識に基いて、上記相違点1に係る本件発明の構成とすることが、当業者が容易になし得たとはいえない。

(ウ)なお、甲第16号証には、緊張ナット5の雌ねじの形状を,アンカー棒1a?1cのねじ状と同様に縦断面波形に形成すること、つまりナットに螺合する部分をロープねじ状とすることも記載されているので、当該ロープねじ状を甲2発明に適用することができるかどうかについても、補足的に検討する。
甲第16号証に、「アンカー棒1a?1cに破断荷重が掛かる寸前で緊締ナット5がアンカー棒のねじ上11を乗り越えて軸方向に移動し得るように構成したもの」と記載されていることからすると(上記1.(8)エ)、ナットと螺合する部分をロープねじ状とする目的は、ナットが移動し得るようにする(緩み得るようにする)ためであるので、一般的にナットが緩まないことが前提である甲2発明のプレストレスト・引張アンカーにおいて、外側層のねじ山9をロープねじ状とすることは、当業者が容易に思い付くものではない。
したがって、甲第16号証に記載されたロープねじ状のねじを甲2発明のボルトの雄ねじ部のナットと螺合する部分に適用する動機付けが存在しないことから、甲2発明及び甲第16号証に記載された発明に基いて、上記相違点1に係る本件発明の構成となすことは、当業者が容易に成し得たとはいえない。

イ 相違点2
甲2発明は、中空構造物の穿孔にボルトを打ち込むものであるが、中空構造物といえば、当業者であれば一般的にトンネルが想起されるものであり、ボルトが打ち込まれるのは、甲第12号証、甲第20号証に記載されているようなボアホールであることからすると、甲2発明のボルト用ナットは、実質的にみて、工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルト用ナットということができる。
またそうでないとしても、甲2発明のボルト用ナットを、工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルト用ナットとすることは、当業者であれば、容易になし得たことである。
なお、プレストレスを掛けるロックボルトは、甲第11号証、甲第12号証、甲第18号証に記載されているように、本件出願前からよく知られた構造であるが、仮に現在、国内で当該構造がほとんど用いられていないとしても、それは実地でのことであって、当該構造が採用できないとまでは言えるものではなく、甲2発明がプレストレスを掛けるものであったとしても、工事トンネルに用いることを阻害するものではない。

ウ 相違点3
甲2発明は、シャフト部がナットの長さの半分程度となっているだけであって、その長さを意味する記載は甲第2号証には見当たらず、また半分程度以外の長さとすること、ナットの大半の長さを占めるような長さとすることの示唆もない。
そして当該相違点3に係る構成を採用することにより、本件明細書(段落【0019】)に記載された「ロックボルトの突出長さを短くでき、他の作業の邪魔とならず、また、次工程で防水シート、アイソレーションシート等のシート類を敷設する場合に凸凹が小さくなるので所期ののシート性能を発揮させることができる。又、ロックボルトとナットの嵌め合い長さを十分に長くできるから、ねじのピッチが粗くてもねじ山に掛かる引っ張り荷重は小さく、ねじ山の引張強度が比較的低いロックボルトでも十分に耐えることができる。」との効果を奏するものである。
したがって、シャフト部をナット大半の長さを占めることが、甲第2号証に実質的に記載されているとは言えず、さらに甲2発明に基づいて当業者が容易に成し得たこととも認められない。

エ 相違点4
鋼製のロックボルト用ナットは、甲第19号証、甲第24号証に記載されているように、本件出願前から慣用的に用いられているものであるので、甲第2号証には鋼製のナットが実質的に記載されているものと認められる。
もしくは甲2発明のナットを鋼製とすることにより、上記相違点4に係る本件発明の構成と成すことは、単なる慣用的な材料の選択に過ぎず、当業者であれば容易に成し得た程度のことである。

オ 相違点5
六角状のロックボルト用ナットは、甲第20号証、甲第23号証に記載されているように、本件出願前から慣用的に用いられているものであるが、シャフト部と組み合わせた頭部が六角状、つまり六角頭状とするものは、慣用的に用いられていたとまでは認められない。
したがって、甲第2号証に六角頭状のロックボルト用ナットが実質的に記載されているとはいえない。
また、六角状のロックボルト用ナットが慣用的に用いられていたとしても、甲2発明の頭部は、放射状のフランジ部21,スピンドル状のボディ23及びフランジ部21とボディ23との間に設けられたリブ22とからなるプレストレスト引張アンカー装置としての特殊な形状をあえて採用していることからすると、甲2発明の頭部を積極的に六角状に替える動機はなく、したがって、甲2発明の頭部を、慣用的に用いられた六角状とすることは、当業者が容易になし得たこととすることはできない。

カ 上記アないしオからみて、本件発明が甲第2号証に記載された発明ではなく、かつ甲第2号証に記載された発明、または甲第2号証及び技術常識や慣用手段等に基いて当業者が容易に成し得たこととすることはできない。

3.無効理由2
(1)対比
ア 甲9発明の「止め具部材4」の「ねじ山として形成」された「輪郭部3」,「ナット13」の「ねじ山として形成」された「輪郭部3」,「アンカープレート10」,「アンカープレート10」の「開口部11」,「アンカーブロック2」,「アンカーロッド1」の「アンカーブロック2」以外の部分,「長尺のナット13の形態」の「アンカーロッド1」が、
それぞれ本件発明の「雄ねじ部」,「雌ねじ部」,「座板」,「座板の穴」,「頭部」,「シャフト部」,「ナット」に相当する。

イ 甲9発明の「止め具部材4」は、「プレストレストコンクリートに」「締結」されるので、本件発明の「ロックボルト」とは、「ボルト」である点で共通している。
甲9発明の「ナット13および止め具部材4の輪郭部3はねじ山として形成されている」ことと、本件発明の「外周にロープねじ状の雄ねじ部の形成されたロックボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有」することとは、「外周に雄ねじ部の形成されたボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有」することで共通している。

ウ 甲9発明の「プレストレストコンクリート壁の孔に入り込」む「止め具部材4」と、本件発明の「工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルト」とは、「構造物の孔に入り込むボルト」である点で共通している。
甲9発明の「アンカーロッド1」は、「長尺のナット13の形態でプラスチック止め具部材4を囲繞するものであって」、その「アンカーブロック2」が「縦断面において略三角形の形状を具備し、横断面において円形を形成して、円形受け面9は、アンカープレート10にプレストレス力を伝達」するものなので、甲9発明の「アンカーロッド1」は、「止め具部材4にアンカープレート10と組み合わせて嵌め込む」ものであって、「止め具部材4をプレストレストコンクリートに固定する」ものである。
以上のことから、甲9発明の「プレストレストコンクリートに繊維強化プラスチック止め具部材を締結する装置であって、止め具部材4と、アンカーロッド1のアンカーブロック2以外の部分が、プレストレストコンクリートの孔に入り込み、プレストレスコンクリートの表面には、アンカープレート10が配置して、」「アンカーブロック2は、」「縦断面において略三角形の形状を具備し、横断面において円形を形成して、円形受け面9は、アンカープレート10にプレストレス力を伝達」するものであることと、本件発明の「工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことでロックボルトを地盤に固定するための鋼製のトンネル工事用のロックボルト用ナット」とは、「構造物の壁の孔に入り込むボルトに座板と合わせて嵌め込むことで、ボルトを構造物に固定するためのボルト用ナット」である点で共通している。

エ 甲9発明において、「アンカーブロック2の長さは、アンカーロッド1全体の長さの3分の1程度である」ことは、言い換えると、アンカーロッド1のアンカーブロック2以外の部分の長さが、アンカーロッド1全体の長さの3分の2程度であるとも言えるので、甲9発明のアンカーロッド1全体の長さの3分の2程度である「アンカーロッド1のアンカーブロック2以外の部分」と、本件発明の「ロックボルト用ナットの大半の長さを占め」る「シャフト部」とは、「ボルト用ナットの3分の2程度の長さを占め」る「シャフト部」である点で共通している。
甲9発明の「アンカーロッド1のアンカーブロック2以外の部分が、プレストレストコンクリートの孔に入り込」むことと、本件発明の「地山のボアホールに入り込むように」とは、「構造物の孔に入り込むように」構成されている点で共通している。
甲9発明の「アンカープレート19の開口部11は、アンカーロッド1が挿入可能な直径を有して」いることより、「アンカーロッド1のアンカーブロック2以外の部分」は、開口部11に遊挿可能であるといえるから、「アンカーロッド1のアンカーブロック2以外の部分」は、本件発明の「座板の穴に遊挿可能なシャフト部」に相当する。

オ 甲9発明の「前記アンカーブロック2は、部材の縁に向けられた前記アンカーロッド1の外側端部であって、前記建物の一部の中に向けられた内側端部に配置されて、略三角形を具備し、横断面において円形を形成して、円形受け面9は、アンカープレート10にプレストレス力を伝達」することは、本件発明の「シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大き」いことに相当する。

カ 甲9発明の「アンカーロッド1の止め具部材4に向いた側に、ねじ山である輪郭部3が、アンカーロッド1の全長に渡って連続して設けられていること」と、本件発明の「頭部からシャフト部まで連続するように前記ロープねじ状のロックボルトの雄ねじ部に螺合する所定長の雌ねじ部を形成したこと」とは、「頭部からシャフト部まで連続するようにボルトの雄ねじ部に螺合する所定長の雌ねじ部を形成したこと」で共通している。

キ 上記アないしカからみて、本件発明と甲9発明とは、
「外周に雄ねじ部の形成されたボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有し、構造物の壁の孔に入り込むボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ボルトを構造物に固定するためのボルト用ナットにおいて、
前記構造物の孔に入り込むようにボルト用ナットの3分の2程度の長さを占め、座板の穴に遊挿可能なシャフト部と、
シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大きい頭部から成り、
頭部からシャフト部まで連続するようにボルトの雄ねじ部に螺合する所定長の雌ねじ部を形成した、構造物用のボルト用ナット。」の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点6:本件発明のナットの雌ねじ部は、ロープねじ状のロックボルトの雄ねじ部に螺合するのに対し、甲9発明のナットの雌ねじ部は、ロープねじ状ではないボルトの雄ねじ部に螺合するもの、つまり甲9発明の雄ねじ部及び雌ねじ部は共にロープねじ状ではない点。
相違点7:本件発明は、工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルト用ナットであるのに対し、甲9発明は、プレストレスコンクリートの壁の孔に入り込む止め具部材のアンカーロッドである点。
相違点8:本件発明のナットが鋼製であるのに対し、甲9発明のアンカーロッドは、繊維強化プラスチックからなる点。
相違点9:本件発明の頭部は、締めつけ工具を嵌めて回転できるように六角頭状であるのに対し、甲9発明の頭部は、そのような形状を有しない点。

(2)判断
上記相違点6?9について検討する。
ア 相違点6
(ア)請求人は、「甲第16?19号証に記載されているように、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることは技術常識である」と主張しているが、既に上記2.(2)ア(ア)で述べたように、甲第16,17,19号証の記載からみて、ロックボルトの雄ねじ部をロープねじ状とすることは、本件出願前に技術常識であったものであるとしても、ナットの雌ねじ部が、ロープねじ状のボルトの雄ねじ部に螺合することまでが技術常識といえるかどうかは不明である。
したがって、上記相違点6に係る本件発明の構成が、甲第9号証に実質的に記載されているとは認められない。

(イ)また上記(ア)に記載したように、甲第16,17,19号証の記載からみて、ロックボルトの雄ねじ部がロープねじ状であることが技術常識であるとしても、ナットの雌ねじ部が、ロープねじ状のボルトの雄ねじ部に螺合することまで技術常識といえるかどうか不明であるので、甲9発明のナットの構成を、甲第16,17,19号証に記載された技術常識に基いて、上記相違点6に係る本件発明の構成とすることが、当業者が容易になし得たとはいえない。

(ウ)なお、甲第16号証には、緊張ナット5の雌ねじの形状を,アンカー棒1a?1cのねじ状と同様に縦断面波形に形成すること、つまりナットに螺合する部分をロープねじ状とすることも記載されているが、既に上記2.(2)ア(ウ)で述べたように、その目的は、ナットが移動し得るようにする(緩み得るようにする)ためであるので、一般的にナットが緩まないことが前提である甲9発明のプレストレスト・引張アンカーにおいて、外側層のねじ山9をロープねじ状とすることは、当業者が容易に思い付くものではない。
したがって、甲第16号証に記載されたロープねじ状のねじを甲9発明のボルトの雄ねじ部のナットと螺合する部分に適用する動機付けが存在しないことから、甲9発明及び甲第16号証に記載された発明に基いて、上記相違点6に係る本件発明の構成となすことは、当業者が容易に成し得たとはいえない。

イ 相違点7
甲9発明の止め具部材4は、プレストレストコンクリートの壁の孔に入り込むものであるが、通常、その一端と他端とでコンクリート構造物を挟み込んで、当該コンクリート構造物にプレストレスを掛けるものと解されるので、当該止め具部材4が、工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込むように用いられるものかどうかは不明である。
請求人が主張するように、ロックボルトを工事トンネル内側壁に穿設された地山の孔に打ち込むことは、甲第11号証、甲第12号証、甲第18号証に記載されているように、本件出願前から周知な構造であって、さらに甲第12号証、甲第20号証に記載されているように、当該孔が通常ボアホールと呼ばれており、さらにロックボルトにプレストレスを掛けるものは、甲第11号証、甲第12号証、甲第18号証に記載されているように、本件出願前から周知な構造であったと認められる。
しかしながら、これらの周知な構造は、あくまでロックボルトにおける周知な構造でしかなく、ロックボルトとして用いられるかどうか不明な甲9発明の止め具部材4に、当該周知な構造を適用することが容易とまでは言えない。

ウ 相違点8
甲9発明のナットは、繊維強化プラスチック製であって、かつその周囲でストッキング状シースのような働きをする、交互配置の補強繊維が互いに逆方向に延びる2つの螺旋14を形成することにより、当該ナットの改良を行っているものであることからすると、鋼製のロックボルト用ナットが、甲第19号証や甲第24号証に記載されているように、本件出願前より慣用的に用いられていたとしても、甲9発明のナットをあえて鋼製とする動機がなく、したがって、甲9発明のナットを鋼製とすることは、当業者にとって容易に成し得たこととすることはできない。

エ 相違点9
六角状のロックボルト用ナットは、甲第20号証、甲第23号証に記載されているように、本件出願前から慣用的に用いられているものであるが、シャフト部と組み合わせた頭部が六角状、つまり六角頭状とするものは、慣用的に用いられていたとまでは認められない。
したがって、甲第9号証に六角頭状のロックボルト用ナットが実質的に記載されているとはいえない。
また、甲9発明の頭部であるアンカーブロック2は、縦断面において略三角の形状を具備し、横断面において円形を形成し、アンカープレート10にプレストレス力を伝達する円形受け面9を有していることからすると、当該アンカーブロック2の特殊な形状は、そもそも締めつけ工具を嵌めて回転できるようなものかどうか不明であり、当該特殊な形状のものを、慣用的に用いられた六角状に替えることにより、上記相違点9に係る本件発明の構成と成すことが、当業者が容易に成し得たとは言えない。

オ 上記アないしエからみて、本件発明が甲第9号証に記載された発明ではなく、かつ甲第9号証に記載された発明、または甲第9号証及び技術常識や慣用手段等に基いて当業者が容易に成し得たこととすることはできない。

4.無効理由3
(1)対比
本件発明と甲2発明とを対比すると、上記2.(1)キに記載した一致点で一致し、相違点1?5で相違している。

(2)判断
相違点1?5について検討する。
ア 相違点1
上記1.(4)オに記載したとおりの甲9発明は、そのねじ山(本件発明の「雄ねじ部」および「雌ねじ部」に相当。)がロープねじ状かどうか不明であるので、甲2発明及び甲9発明に基いて、上記相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に成し得たとはいえない。

イ 相違点2
上記2.(2)イで述べたとおり、甲2発明のボルト用ナットは、実質的にみて、工事用トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルト用ナットということができる、または甲2発明のボルト用ナットを、工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルト用ナットとすることは、当業者であれば、容易になし得たことである。

ウ 相違点3
上記1.(4)エで述べたとおり、甲第9号証の図面をみれば、アンカーブロック2(本件発明の「頭部」に相当。)の長さは、アンカーロッド1(本件発明の「ナット」に相当。)全体の長さの3分の1程度となっている、つまりシャフト部の長さは3分の2程度となっている。
しかしながら、甲第9号証において、図面以外には、シャフト部の長さを3分の2程度とすること、及び当該長さとする意味は記載されていないことから、甲9号証の図面に記載されたシャフト部の長さを、甲2発明のシャフト部の長さに適用する動機はない。
したがって、甲第2号証び甲9発明に基いて、上記相違点3に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に成し得たとはいえない

エ 相違点4
上記2.(2)エに記載したとおり、甲第2号証には鋼製のナットが実質的に記載されているか、もしくは甲2発明のナットを鋼製とすることは、当業者であれば容易に成し得た程度のことである。

オ 相違点5
上記3.(2)エに記載したとおり、甲第9号証に六角頭状のロックボルト用ナットが実質的に記載されているとはいえず、また、甲第9号証に六角頭状のロックボルト用ナットが記載されていない以上、甲2発明のロックボルト用ナットを、甲9発明に基いて六角頭状とすることは、当業者が容易に成し得たことということはできない。

カ 上記アないしオからみて、本件発明が甲第2号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に成し得たこととすることはできない。
5.無効理由4
請求人の主張する無効理由4について検討する。
「大半」とは、通常、請求人が提出する甲第4号証に記載されているとおり、例えば「半分以上」や「80?90%程度」であって、一般的意味が十分明確であるから、具体的に上限値や下限値を特定しなくとも、長さを特定できる。
したがって、「大半の長さを占め」との文言は明確であるので、本件発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており、無効理由4には理由がない。

6.無効理由5
請求人の主張する無効理由5について検討する。
(1)本件発明の図面には、シャフト部の長さがナット全体の長さの「約70%程度」のものが一例記載されているが、本件明細書には「約70%程度」に特定する旨の記載は無く、当業者ならば、そのような特定の長さに限るものとは理解しないものと認められる。
そして上記5.で述べたように、「大半の長さを占め」るという用語は明確であって、本件特許明細書及び図面には、当業者が通常理解できる意味における「大半の長さを占め」るものが一例開示されているから、本件発明が特定する「大半の長さを占め」ることまで、拡張、または一般化することができないとはいえない。

(2)発明の詳細な説明の【従来の技術】には、ロックボルトには、「支保工用」と「仮支保工用」があること、そして「仮支保工用」のロックボルトの課題が記載されている。しかし【実施例】には、「仮支保工用」に限定すべき記載はなく、「支保工用」であろうと「仮支保工用」であろうと、構造上の差異は無いことからすると、発明の詳細な説明に記載されたロックボルトは「仮支保工用」及び「支保工用」の何れにも使用可能な共通の構造であるものと認められる。
したがって、本件発明は、「仮支保工用」のみならず、「支保工用」のものも含み得るので、発明の詳細な説明に記載された事項を越えるものとは認められない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしており、無効理由5には理由がない。

7.無効理由6
請求人の主張する無効理由6について検討する。
(1)上記5.及び6.で述べた様に、シャフト部の長さを、発明の詳細な説明及び図面に記載された具体例以外の長さでも良いことは、当業者であれば当然気づくことであって、「大半の長さを占め」るという用語に、特段不明確な要素もない。
また、当業者が当該具体例以外の長さのものを作成することができないというほど、本件発明の「ロックボルト用ナット」の構造は難しいものではない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまでは言えない。

(2)上記6.で述べた様に、【実施例】には、「仮支保工用」に限定すべき記載はなく、「支保工用」であろうと「仮支保工用」であろうと、構造上の差異は無いことからすると、「仮支保工用」及び「支保工用」の何れにも使用可能な共通の構造であるものと認められる。
したがって、発明の詳細な説明に、支保工用ロックボルト用ナットを当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまでは言えない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしており、無効理由6には理由がない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ロックボルト用ナット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にロープねじ状の雄ねじ部の形成されたロックボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有し、工事トンネル内側壁に穿設された地山のボアホールに打ち込まれたロックボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地盤に固定するための鋼製のトンネル工事用のロックボルト用ナットにおいて、
前記地山のボアホールに入り込むようにロックボルト用ナットの大半の長さを占め、座板の穴に遊挿可能なシャフト部と、
シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大きく、締めつけ工具を嵌めて回転できるように六角頭状の頭部から成り、
頭部からシャフト部まで連続するように前記ロープねじ状のロックボルトの雄ねじ部に螺合する所定長の雌ねじ部を形成したこと、
を特徴とするトンネル工事用のロックボルト用ナット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はトンネル工事等で地山の定着に用いるロックボルトにプレート、ワッシャー等の座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地山に固定するロックボルト用ナットに係り、とくに仮支保工なため後で切断が可能なように、FRPや樹脂などからなり、外周にねじを形成した、単位長さ当たりのねじ強度(ねじ山の引張強度)が低いロックボルトに好適なロックボルト用ナットに関する。
【0002】
【従来の技術】
山岳等のトンネル工事で一般的なナトム工法(NATM工法)では、地山を掘削したあと(必要な場合は壁をセメントで固めた後)、壁から岩盤内部へ垂直に多数のロックボルトを打ち込み、セメント系或いは樹脂系等の所定の定着材で定着させるなどして、トンネルの壁近くの地盤を強固にするとともに岩盤内部の地盤で支持することで内壁周辺の崩落を防ぐようにしている(支保工)。ロックボルトには工事トンネルの側壁等に垂直に打ち込み定着させたあとそのまま地盤中に残して長期間、地盤の補強を行う支保工用と、工事トンネル先端の切羽鏡やサイロット等に打ち込み、定着させるが、一時的な補強を行うだけで後にトンネル掘進とともに切断される仮支保工用とが有る。
【0003】
前者の支保工用の場合、構造部材としてなるべく高強度のものが望ましく鋼製のものが利用される。そして、打設後はプレート、ワッシャー等の座板とナットを用いて地盤への締めつけが行われ、長期間、強固に定着するようにしている。一方、後者の仮支保工の場合、後に切断可能なように、FRPや樹脂などからなり、外周にねじを形成した、単位長さ当たりのねじ強度(ねじ山の引張強度)が低い構造部材が用いられる。但し、仮設の場合、短期間の内に除去されることが多いので通常はナットによる締めつけはされず、単に地盤中に打設されるだけである。
【0004】
ここで、工事トンネルの側壁に対し垂直かつ放射状に打設するパターンボルトの場合、後で拡幅しない場合は図4の右側に示す如く、鋼製のロックボルト1をプレート、ワッシャー等の座板とナットを用いて地盤に締めつけ支保工を行うが、後で拡幅のため掘削する予定が有る場合、FRPや樹脂などのように比較的強度の低いロックボルトで仮支保工を行う。但し、仮設期間が長くなるので、定着強度を上げるため図4の左側に示す如く、低強度のロックボルト2にプレート、ワッシャー等の座板と組み合わせたナットを嵌め込みたい場合が有る。ところが、FRPや樹脂などからなる構造部材では、鋼製ロックボルトの如く自在なピッチで外面に雄ねじ部を切削することが難しい。このことから、従来は、図5に示す如く、ロックボルト2の素材成型時にその外形を所謂ロープねじ状(鋼製ロックボルトに形成される雄ねじ部よりピッチが粗い)に加工するようにしていた。
【0005】
ロープねじ加工されたロックボルト2に用いるナット3は、同じくロープねじの雌ねじ部を形成したものとなる。このようなロープねじ加工されたロックボルト2とナット3において、打設後のロックボルト2にプレート、ワッシャー等の座板4と組み合わせたナット3を嵌め込んでロックボルト2を地山5に締めつけ、定着させる場合に、ロックボルト2とナット3の嵌め合わせ部分のねじ山に掛かる引っ張り荷重を小さくし、ねじ山の引張強度の低い素材でも十分に耐えられるようにする必要がある。このため、図5に示す如く、ロックボルト2とナット3との嵌め合わせ長さLをかなり長くしなければならず、ナット3を長尺にして雌ねじ部に十分な長さを確保しなければならない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
けれども、従来のナット3では地山の内壁に当たるプレート、ワッシャー等の座板4をナット3の一端面で押さえるようになっているので、ナット3が長尺になるとそれだけナット3を含めたロックボルト2の端部がトンネル空間内に大きく突出してしまう。この結果、トンネル施工の途中において他の作業の邪魔になったり、次工程で防水シート、アイソレーションシート等のシート類6を敷設する場合、突出したロックボルト頭部に阻害されてシート類6に凸凹が生じ、所期のシート性能を発揮できなくなってしまうなどの問題があった。
【0007】
以上から本発明の目的は、ロックボルトの突出長さを短くできるロックボルト用ナットを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題は本発明においては、外周に雄ねじ部の形成されたロックボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有し、地山に打ち込まれたロックボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地盤に固定するロックボルト用ナットにおいて、ロックボルト用ナットの大半の長さを占め、座板の穴に遊挿可能なシャフト部と、シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大きい頭部から成り、頭部からシャフト部まで連続するように所定長の雌ねじ部を形成したことにより達成される。
【0009】
【作用】
本発明によれば、ロックボルトを用いて仮設期間の長い仮支保工を行う場合、地山にボアホールを穿設しておく。そして、ロックボルトを打設したあと、座板の穴にナットのシャフト部を遊挿した状態で、ロックボルト頭部外面の雄ねじ部にナットの雌ねじ部を嵌め込んでいく。嵌め込みの進行とともにナットのシャフト部はボアホール内に入り込み、座板はナットの頭部によって地盤に押し当てられ、ロックボルトが地盤に強固に定着される。これにより、ロックボルトに座板と組み合わせたナットを嵌め込んだとき、ナットの大部分はボアホール内に入り込み、ほぼナットの頭部と座板を合わせた厚み分が外に出るだけなので、ロックボルトの突出長さを短くでき、他の作業の邪魔とならず、また、次工程で防水シート、アイソレーションシート等のシート類を敷設する場合に凸凹が小さくなるので所期のシート性能を発揮させることができる。
【0010】
【実施例】
図1は本発明の一実施例に係わるロックボルトセットの外観斜視図、図2はワッシャーとナットの組み合わせ状態での斜視断面図である。ロックボルトセット10はロックボルト20と、該ロックボルト20を地山に締めつけるための角型のワッシャー30及びナット40の組み合わせからなる。ロックボルト20は後に切断ができるように、FRPや樹脂などからなる比較的低強度のものであり、外面には全長にわたってロープねじが螺旋状に形成されてなる雄ねじ部21が設けられている(雄ねじ部21のピッチは鋼製ロックボルトより粗い)。ロックボルト20の先端は斜めに切断加工されて地山への打設を円滑に行えるようになっている。
【0011】
ワッシャー30とナット40はともに鋼製またはFRP製である。ワッシャー30には丸穴31が形成されており、丸穴31の中にナット40を遊挿可能になっている。一方、ナット40の内側には全長にわたってロックボルト20の雄ねじ部21に螺合する雌ねじ部41が形成されている(図2参照)。このナット40はロックボルト20との嵌め合わせた場合に、ねじ山に掛かる引っ張り荷重が小さくなるように十分な長さに形成されている。
【0012】
ナット40は円筒状のシャフト部42と、シャフト部42の一端に設けられた頭部43とから成り、シャフト部42はナット40の大半の長さを占めている。シャフト部42はワッシャー30の丸穴31より僅かに小さな外径に形成されており、丸穴31の中にシャフト部42を遊挿可能になっている。これに対し、頭部43は丸穴31より遙かに大きく形成されており、シャフト部42に嵌め込まれたワッシャー30が抜けないようになっている。頭部43は六角になっており、締めつけ工具を嵌めて回転できるようになっている。
【0013】
図3はロックボルトセット10の使用方法を示す説明図である。例えば、工事トンネルの内側壁に仮支保工を行う場合、まず、地山5にボアホール50を穿設し(図3(1)参照)、打ち込み機を用いてボアホール50の中にロックボルト20を打設する(図3(2)参照)。切羽鏡、サイロットなど短期間の仮設であればそのままで良いが、後で拡幅するなどのため仮設期間が比較的長い場合、ワッシャー30を組み合わせたナット40を嵌め合わせることで、強固な定着を図る。
【0014】
すなわち、ロックボルト20の手元側端部がワッシャー30とナット40の頭部43を合わせた厚みより少し多い長さだけ突き出た位置まで打設したあと、ナット40のシャフト部42をワッシャー30の丸穴31に挿入した状態で、シャフト部42の先端側からロックボルト20の雄ねじ部21にナット40の雌ねじ部41を螺合させて嵌め込んでいく。この際、ナット40の頭部43に締めつけ工具を嵌めて回転させる。ナット40の嵌め込みの進行に伴い、シャフト部41はボアホール50の中に徐々に入り込んでいく。ワッシャー30はナット40の頭部43に押されて前進し、地盤51に当たったところで更にナット40を締め付けると、ロックボルト20が地盤51に固く定着する(図3(3)参照)。
【0015】
ワッシャー30と組み合わせたナット40の締めつけが完了したとき、ロックボルト20とナット40の嵌め合い長さ(図3(3)の符号L参照)が十分に長いので、ねじのピッチが粗くてもねじ山に掛かる引っ張り荷重は小さく、ねじ山の引張強度が比較的低いロックボルト20でも十分に耐えることができる。また、ロックボルト20の内、地盤から突出する長さはワッシャー30とナット40の頭部43を合わせた厚みより少し長いだけの短いものとなる。従って、工事トンネルで他の作業をする場合の邪魔になることはなく、また、図3(4)に示す如くロックボルト20の定着後に防水シート、アイソレーションシート等のシート類52を張る場合にも、シート類52に生じる凸凹を小さくでき、所期のシート性能を良好に発揮させることができる。
【0016】
仮設期間が終わり、トンネル拡幅などのためロックボルト20の打設箇所を掘削する場合には、該ロックボルト20がFRPや樹脂などからなるので容易に切断することができ、機械掘削の妨げとならない。
【0017】
この実施例によれば、ワッシャー30と組み合わせたナット40をロックボルト20に螺合し、嵌め合わせると、ワッシャー30はナット40のシャフト部42に嵌まった状態で頭部43に押さえられて地盤に当接し、ナット40を締めつけると反作用でロックボルト20が地盤に固く定着する。ナット40の嵌め込みが進行するとき、シャフト部42は先端からボアホール50の中に入り込んでいくので、ロックボルト20の内、外部に突出するのはワッシャー30と頭部43を合わせた厚み程度となるので、突出長さが非常に短くなり、工事トンネルで他の作業をする場合の邪魔になることはなく、また、ロックボルト20の定着後に防水シート、アイソレーションシート等のシート類52を張る場合にも、シート類52に生じる凸凹を小さくでき、所期のシート性能を良好に発揮させることができる。
【0018】
なお、上記した実施例ではロックボルトはFRPや樹脂などからなり、外周にねじを形成したものとしたが、他の材質を用いたロックボルトであっても良く、また、座板としてワッシャーを用いたが、プレート(ベアリングプレートなど)を用いても良い。
【0019】
【発明の効果】
以上本発明のロックボルト用ナットによれば、座板の穴にナットの大半の長さを占めるシャフト部を遊挿した状態で、ロックボルト頭部外面の雄ねじ部にナットの雌ねじ部を嵌め込んでいくと、嵌め込みの進行とともにナットのシャフト部はボアホール内に入り込み、座板はナットの頭部によって地山に押し当てられ、ロックボルトが地盤に締めつけられるように構成したので、ロックボルトに座板と組み合わせたナットを嵌め込んだとき、ナットの大半はボアホール内に入り込み、頭部が外に出るだけなので、ロックボルトの突出長さを短くでき、他の作業の邪魔とならず、また、次工程で防水シート、アイソレーションシート等のシート類を敷設する場合に凸凹が小さくなるので所期のシート性能を発揮させることができる。又、ロックボルトとナットの嵌め合い長さを十分に長くできるから、ねじのピッチが粗くてもねじ山に掛かる引っ張り荷重は小さく、ねじ山の引張強度が比較的低いロックボルトでも十分に耐えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係るロックボルトセットの外観斜視図である。
【図2】ワッシャーとナットの組み合わせ状態での斜視断面図である。
【図3】ロックボルトセットの使用方法の説明図である。
【図4】パターンボルトの施工状態の説明図である。
【図5】従来の仮支保工用ロックボルトセットの問題点の説明図である。
【符号の説明】
10 ロックボルトセット
20 ロックボルト
21 雄ねじ部
30 ワッシャー
31 丸穴
40 ナット
41 雌ねじ部
42 シャフト部
43 頭部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-04-10 
結審通知日 2014-04-16 
審決日 2014-05-12 
出願番号 特願平7-161811
審決分類 P 1 113・ 536- YAA (E21D)
P 1 113・ 537- YAA (E21D)
P 1 113・ 113- YAA (E21D)
P 1 113・ 121- YAA (E21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 陽小林 俊久柳澤 智也  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 住田 秀弘
杉浦 淳
登録日 2000-08-18 
登録番号 特許第3101180号(P3101180)
発明の名称 ロックボルト用ナット  
代理人 立花 顕治  
代理人 立花 顕治  
代理人 山田 威一郎  
代理人 萩野 義昇  
代理人 平岩 康幸  
代理人 山田 威一郎  
代理人 桝田 剛  
代理人 小島 清路  
代理人 桝田 剛  

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