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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41B
管理番号 1291819
審判番号 無効2012-800112  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-06-29 
確定日 2014-08-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4590247号「靴下及びその編成方法」の特許無効審判事件についてされた平成25年7月1日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成25年(行ケ)第10229号平成26年5月12日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.請求及び答弁の趣旨
請求人は、「特許第4590247号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、被請求人は、本審決の結論と同旨の審決を求めている。

第2.手続の経緯
本件特許第4590247号は、平成16年11月5日に出願され、平成22年9月17日に設定登録がなされたものである。
本件無効審判請求に係る主な手続の経緯は、以下のとおりである。

平成24年 6月29日 無効審判請求
平成24年 9月18日 答弁書提出
平成24年 9月18日 訂正請求
平成24年10月 2日 弁駁指令(訂正請求書副本送付)
平成24年11月 2日 弁駁書提出
平成24年11月 8日 上申書提出(被請求人)
平成24年11月13日 物件提出(被請求人)
平成24年12月 7日 手続補正(物件提出書の補正)
平成25年 1月23日 審理事項通知
平成25年 2月26日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成25年 2月27日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成25年 3月12日 手続補正(訂正請求書の補正)
平成25年 3月12日 上申書提出(2件、被請求人)
平成25年 3月12日 口頭審理
平成25年 3月25日 審決の予告
平成25年 7月 1日 審決(第1次審決)
平成25年 8月 9日 審決取消請求の訴の提起
平成26年 5月12日 審決取消の判決言渡し
(平成25年(行ケ)第10229号)
平成26年 5月29日 上申書提出(請求人)

第3.訂正請求
1.訂正の内容
平成24年9月18日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第4590247号に係る願書に添付した特許請求の範囲における請求項1を、次のように訂正するものである。(下線は、訂正箇所を示す。)
「口ゴム部から身部ついで足部へと編成していく靴下において、踵部の外側すなわち着用者の第五趾側は減らし目ついで増やし目を行いながら編成し、踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減らし目、増やし目、減らし目ついで増やし目の順に編成して、踵部の内側に形成されるゴアライン2aの全幅L1が、踵部の外側に形成されるゴアライン2bの全幅L2よりも小さくなるようにすると共に外側方向にウェール数を多めに編成することを特微とする靴下の編成方法。」

2.訂正の適否
本件訂正は、訂正前の請求項1において「踵部の内側に形成されるゴアライン2aの全幅L1が、踵部の外側に形成されるゴアライン2bの全幅L2よりも小さくなるようにする」ことの限定を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件訂正は、本件特許明細書の段落【0018】並びに図1及び図2の記載に基づくものである。
そして、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、特許法第134条の2第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合することから、当該訂正を認める。

第4.本件特許発明
本件特許第4590247号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、訂正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。(上記第3.1.を参照)
また、本件特許発明を解決すべき課題及び技術的意義の観点から述べれば、本件特許発明は、従来の靴下は人の踵の親指側と小指側の形状差にこだわることなく、内側と外側を対称形状に編成してあるという問題点に鑑み、踵の内側は外側よりも小さいという人の足の形状に合致した形状を有する靴下を提供することを課題とし、この課題を解決するために、靴下の踵部を編成する際、踵部の内側は、減らし目工程、増やし目工程を一度だけ行うのでなく、更にもう一工程ずつ減らし目及び増やし目を行うとともに、外側方向にウェール数を多めに編成する、という二つの手法を採用することで、靴下の踵部の内側と外側を、人の踵の内側と外側の形状差(大小差)に対応させて、非対称形状に編成するものであるといえる。

第5.請求人の主張及び証拠方法
請求人は、以下の無効理由を主張している。

本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに本件特許の出願時における周知の技術に基づいて出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(第1回口頭審理調書「陳述の要領」の請求人の「3」項を参照)

また、請求人は、証拠方法として、以下の甲第1号証ないし甲第13号証を提出している。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2003-82501号公報
甲第2号証:特開2003-119601号公報
甲第3号証:実願平5-44717号(実開平7-12410号)の
CD-ROM
甲第4号証:特開2003-239103号公報
甲第5号証:本件特許の公開公報(特開2006-132028号公報)
甲第6号証:本件特許出願に対する平成22年6月9日起案の拒絶理由
通知書
甲第7号証:特開平10-168605号公報
甲第8号証:被請求人による平成22年7月30日提出の意見書
甲第9号証:被請求人による平成22年7月30日提出の補正書
甲第10号証:本件特許出願に対する平成22年8月12日起案の特許査定
甲第11号証:特開2004-218131号公報
甲第12号証:本件特許公報(特許第4590247号公報)
甲第13号証:登録実用新案第3070670号公報

甲第1ないし10号証は、審判請求書と共に提出されたものであり、甲第11ないし13号証は、その後提出されたものである。
なお、当事者間に甲第1ないし13号証の成立に争いはない。

第6.被請求人の主張
被請求人は、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに出願時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明できるものとはいえない旨の主張をしている。
また、被請求人は、参考文献(日本靴下工業組合連合会編「靴下工学」)並びに靴下のサンプルとして見本1及び見本2を提出している。

第7.甲各号証の記載事項
請求人が提出した甲各号証のうち、本件特許の特許出願日前に頒布された刊行物は、甲第1号証ないし甲第4号証、甲第7号証、甲第11号証並びに甲第13号証のみである。これら甲号証には、以下の各事項が記載されている。
[甲第1号証]
(1a)「【請求項1】くつ下編機で製編して得られたくつ下が、その踵部の側方の一方側にまち部が偏って編み込まれ、前記踵部が非対称形に形成されたくつ下であって、
前記くつ下を履いたとき、前記踵部の側方の一方側に前記まち部の端縁が位置するように、前記まち部が踵部に偏って編み込まれていることを特徴とするくつ下。
【請求項2】踵部の側方の一方側に位置するまち部の端縁が、実質的にV字状である請求項1記載のくつ下。
・・・
【請求項5】くつ下編機によってくつ下を製編する際に、
該くつ下の踵部を製編するとき、まち部を踵部の側方の一方側に偏って編み込むように、前記くつ下編機の編み立て方向を前記踵部の側方の一方側にシフトさせつつ製編することを特徴とするくつ下の製造方法。」
(1b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】図9に示すくつ下100では、丸編機の針釜60を正逆方向に回動させつつ編み立てに関与する針数を順次増減させて踵部102を編み立てる際に、針数の増減は実質的に同数であるため、丸編機の編み立て方向はくつ下の中心線方向で一定している。従って、得られたくつ下100の踵部102は、図11(a)(c)に示す様に、左右対称形に形成される。・・・」
(1c)「【0011】先ず、針釜60を一定方向に回転させて所定長さの筒編部16a(図1,図2)を編み立てた後、針釜60を正逆方向に交互に回動し、編み立てに関与する編針50の針数を増減させてくつ下10の踵部12を編み立てる。かかる針数の増減は、正逆方向に回動する針釜60が回動方向を変更する際に行う。この様に、針釜60の正逆方向への回動及び編針50の針数を増減させて踵部20を製編する際に、所定長さの筒編部16aを編み立てた針釜60がab位置に到達した後、編み立てに関与する編針50の針数(以下、単に針数と称することがある)を順次減少させてcd位置まで編み立てる。この場合、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数と、逆方向に回動した際の針数の減少数とが実質的に同数である。更に、cd位置まで編み立てた後、c位置側に針釜60が回動する際に、針数を順次増加させてe位置まで編み立てると同時に、d位置側に針釜60が回動する際に、針数を順次減少させてf位置側まで編み立てることによって、編み立て方向を踵部12の外踝側方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、踵部12の後方部を形成する後方踵部12aに、まち部20の後方部を形成する後方まち部20aを、後方踵部12aの外踝側に偏って編み込むことができる。
【0012】次いで、f位置側に針釜60が回動する際に、針数を増加させてd位置まで編み立てると同時に、e位置側に針釜60が回動する際に、針数を減少させてh位置[図3(b)]まで編み立てることによって、編み立て方向を踵部12の外踝側方向にシフトさせつつ編み立てることができる。その結果、踵部12の前方側を形成する前方踵部12bに、まち部20の前方側を形成する前方まち部20bを、前方踵部12bの外踝側に偏って編み込むことができる。この様にして形成した後方まち部20aと前方まち部20bとは一体化されてまち部20を形成し、このまち部20の全体は踵部12の外踵側に偏って形成される。この様に、hd位置まで編み立てた後、針数を順次増加させてab位置まで編み立てることによって踵部12を形成できる。このhd位置からab位置までの編み立てでは、針釜60が正方向に回動した際の針数の増加数と、逆方向に回動した際の針数の増加数とが実質的に同数である。更に、ab位置まで編み立てた後、従来と同様にして筒編部16b及び爪先部14を編み立てることによって、くつ下10を完成できる。」
(1d)「【0013】これまでの説明では、図1?図3に示すくつ下10は、左足用くつ下として説明してきたが、踵部12を除いて左右対称であるため、図1?3に示すくつ下10を左足に履くことも可能である。この様に、図1?図3に示すくつ下10を右足に履くと、踵部12のまち部20は内踝側に位置するようになる。このため、くつ下10を左足に履いて履いて歩いた際に、くつ下10の履き心地や踵部12の生地の損傷程度が改善されない場合には、歩く際に、くつ下の内踝側に力が加えらていることがあり、くつ下10を右足に履くことによって、履き心地や踵部12の生地の損傷程度が改善されることがある。」
(1e)「【0019】・・・これまでの図3及び図4の説明において、「針釜60が正方向に回動した際の針数の増加数と、逆方向に回動した際の針数の増加数とが実質的」とは、針釜60が正方向に回動した際の針数の減少数又は増加数と、逆方向に回動した際の針数の減少数と増加数との間に、編み立てに関与する編針50の針数の約10%程度が相違してもよいことを意味する。・・・」
(1f)図3には、くつ下の踵部の側面図及び底面図が示されている。以下、図3のa位置側(図の左側)を一方の位置側、b位置側(図の右側)を他方の位置側と呼ぶことがある。

上記記載事項(1d)には、くつ下を踵部12のまち部20を内踝側に位置するように履くことも記載されていることから、甲第1号証には、下記の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)が記載されている。
「くつ下編機によって踵部が非対称形に形成されたくつ下を製編する際に、
針釜60を一定方向に回転させて所定長さの筒編部16aを編み立てた後、針釜60を正逆方向に交互に回動し、編み立てに関与する編針50の針数を増減させたくつ下10の踵部12の編み立てにおいて、
針釜60の正逆方向への回動及び編針50の針数を増減させて踵部20を製編する際に、編み立てに関与する編針50の針数を順次減少させて編み立て、この場合、針釜が正方向に回動した際の針数の減少数と、逆方向に回動した際の針数の減少数とが実質的に同数であり、その後、一方の位置側に針釜60が回動する際に、針数を順次増加させて編み立てると同時に、他方の位置側に針釜60が回動する際に、針数を順次減少させて編み立てることによって、編み立て方向を踵部12の内踝側方向にシフトさせつつ編み立て、その結果、踵部12の後方部を形成する後方踵部12aに、まち部20の後方部を形成する後方まち部20aを、後方踵部12aの内踝側に偏って編み込み、
次いで、他方の位置側に針釜60が回動する際に、針数を増加させて編み立てると同時に、一方の位置側に針釜60が回動する際に、針数を減少させて編み立てることによって、編み立て方向を踵部12の内踝側方向にシフトさせつつ編み立て、その結果、踵部12の前方側を形成する前方踵部12bに、まち部20の前方側を形成する前方まち部20bを、前方踵部12bの内踝側に偏って編み込み、この様にして形成した後方まち部20aと前方まち部20bとは一体化されてまち部20を形成し、このまち部20の全体は踵部12の内踵側に偏って形成され、その後、針数を順次増加させて編み立てることによって踵部12を形成でき、この編み立てでは、針釜60が正方向に回動した際の針数の増加数と、逆方向に回動した際の針数の増加数とが実質的に同数である、くつ下の製造方法。」

[甲第2号証]
(2a)「【0009】踵部14の編成は一部の針を休止させ残余の針を用い図1のBに示すシリンダCを往復回転することにより行われる。踵部14の最初のコース編成においては、シリンダCの180°以上の範囲のa点からb,c点を経てd点までの針でC字形に編地を編成する。即ち、環状の身編部13のウエール数の3/4程度のウエール数で踵部14の編成を開始する。・・・」
(2b)「【0011】即ち、シリンダCの回転角度で見ると、従来の編機でのシリンダCの最大往復回転角度は、回転a’からb’(審決注:図1の記載から見て「d’」の誤記と認める。)までの180°の範囲であって180°の往復回転による編成が終了すると次には連続した360°回転による足部17の編成となるのに対し、本発明方法では、aa’間及びbb’ (審決注:図1の記載から見て「dd’」の誤記と認める。)間の回転角度が増大している。そのために踵部を編成する針数も当然多くなり踵部を構成する編地のコース数,ウエル数も多くなり、その結果踵部14の面積も多くなる。」
(2c)「【0014】・・・本発明ソックスは・・・踵部14を構成するヒールポケットの編み始めと編み終りのコースの最大幅を大きくとり、かつ、コース数も多くすることが出来るため、踵部14を構成する編地の面積を大きくし、該部編地が余裕を持って踵を包むことになり、編地にゆとりが生ずるため、使用中に編地を緊張するような力が加わってもそれを吸収し踵部の編地が靴内で足部17の方にずれ込むような履き心地を悪くするような事態は生じない。」
(2d)図1のBには、ヒールポケットを編成する際、踵部の両側(内側と外側の両方)とも、シリンダCの180°以上の範囲で編成することが図示されている。

[甲第3号証]
(3a)「【0010】
本考案靴下の編成を行なうための編機は、シリンダの回転角度を左右いずれにも、操作する針数に応じて変更することが可能であり、かつ、全ての針をそれぞれ別途にニット,タック,ウエルトの適宜位置に選択することの出来るコンピュータ制御のものを用いる。」
(3b)「【0013】
即ち、脚部3の最終コース3_(n)は脚部3を一周するコースとなるが、次の踵部4の最初のコース4_(1)は、脚部3を一周することなく脚部3の垂直方向中心線VLよりも爪先側を編成開始点SPとして踵部後端縁9を周回するC字形の編成となるため、当初編機シリンダは180°以上の往復回転となる。そして編成のコース数が進むにつれてコース両端の針は逐時休止位置をとることにより、ウエール数(コース長)は短くなり、踵部4の上半部4Uは台形の編地となる。上記上半部4Uの編成を終了した後に、踵部4の下半部4Dの編成を行なう。」

[甲第4号証]
(4a)「【0010】所定コース数の第1のリング部11の編成が終了した後に第1のリング部11に続き所定ウエールAを中心とし次第にその振り幅を減少する往復編成により、・・・爪先部第1の台形編地13のトラバース端部とに綴じ合わせることでゴアラインG3を形成しつつ爪先部第2の台形編地15を往復編成する。上記爪先部第1の台形編地13,爪先部編地14,爪先部第2の台形編地15によって爪先部ポケット4が作られる。
・・・
【0012】続いて、環状編地部12に続いて踵部第1の台形編地18,踵部編地19,踵部第2の台形編地20により踵部ポケット5を編成する。爪先部ポケット4の中心となるウエールAの対称位置にあるウエールCを中心とし次第にその振り幅を減少する往復編成により踵部第1の台形編地18の編成にかかり、・・・既編の踵部編地19のトラバース端部及び踵部第1の台形編地18のトラバース端部とに綴じ合わせゴアラインG6,G7を形成しつつ踵部第2の台形編地20を往復編成することで踵部ポケット5を作る。」
(4b)図3のAには、くつ下の編成過程を示す展開図が示されており、爪先部ポケット4を作る往復編成部分と、踵部ポケット5を作る往復編成部分とは、展開図上で左右にずれた位置であること、及びこれら往復編成部分のそれぞれは、左右(内側方向及び外側方向)のウエール数が実質的に同数であることが図示されている。

[甲第7号証]
(7a)「【請求項1】丸編靴下の踵部側面に、踵側面の膨らみを収容する袋状部を形成してなる丸編靴下。
【請求項2】丸編靴下の踵部側面に、Y字形のゴア線を足首から踵に向かって複線部分が拡開するよう配置し、前記複線間の編地で踵側面の膨らみを収容する袋状部を形成してなる丸編靴下。」
(7b)「【0010】また、丸編靴下の踵部側面に、Y字形のゴア線を足首から踵に向かって複線部分が拡開するよう配置し、前記複線間の編地で踵側面の膨らみを収容する袋状部を形成したのである。
【0011】この発明の丸編靴下は、踵部側面に袋状部を有する立体的な編成がなされたものであるから、踵部側面の編地はあまり伸びることなく、前記袋状部がその形状によって踵側面の膨らみを収容する。そのため、靴下の着用者は、踵が締めつけられるような装着感を受けずに履き心地が向上し、しかも踵部の編地が弾性的に伸びる割合(特に上下方向に伸びる割合)が小さいのだから、靴を履いた状態で靴下が下方にたぐり寄せられることが少ない。」

[甲第11号証]
(11a)「【0010】
【発明の実施の形態】
本発明ソックスはトウポケットよりなる爪先部の形状に特徴を有するもので、シリンダの往復回転により編成されるトウポケットよりなる爪先部の編成時、編成の中心を、足部編地の平面視における編成の中心位置より90°変位させることによってトウポケットに作られるゴアラインをソックスの胛側編地と足底側編地内面に発現させ前記両編地の周縁には発現しないようにしたものである。」
(11b)「【0011】
本発明ソックス1は丸編靴下編機により穿口部2,脚部3,踵部4,足部5,爪先部6と連続して筒状に編成される。此の間踵部4には必要に応じて常法によりヒールポケット7が作られる。・・・ヒールポケット7を設ける場合は環状に編成していた脚部3の編成が終了したときに、図1Bに示すシリンダSに挿入された半数のc,d,aの範囲の針(図示せず)を休止させa,b,cの範囲の針(図示せず)によってシリンダの往復回転による編成を続行し、・・・。このときシリンダSの往復回転により編成されたコースの中心は図1Bに示すb点である。
【0012】
・・・袋状にヒールポケット7を作る。・・・足部5は環状に編成されるから胛側編地51と足底側編地52とを重ね偏平にした状態での踵部から爪先部に延びる足部中心線x-xは図1Cのb-b線とd-d線の重なった線となる。足部5を所定コース数編成した後爪先部6のトウポケット9の編成に移る。」
(11c)図1のAには、ソックスの全体斜視図、Bにはソックスを編成するシリンダの概略説明図、Cには、ソックスの編地の展開図が示されている。図1のCには、ヒールポケット7を編成する往復回転による編成位置と、トウポケット9を編成する往復回転による編成位置とは、展開図上で左右にずれた位置であること、及びこれら往復回転による編成部分のそれぞれは、左右(内側方向及び外側方向)のウエール数が実質的に同数であることが図示されている。図1のAには、ヒールポケット7のゴアライン8は足の内側方向と外側方向にあり、トウポケット9のゴアライン10a、10bは足の甲の上下方向にあることが図示されている。換言すれば、ヒールポケット7のゴアライン8と、トウポケット9のゴアライン10a、10bとは、空間的に捻れた位置関係になっていることが図示されている。

[甲第13号証]
(13a)「【請求項1】足部に続く爪先部の足底側の編地のウエール数を、爪先先端に近づくにつれて、その編幅を1以上数コースごとに所定の1側を他側より縮少数を多く縮少して、爪先部の前記足底側の編地の平面形状を左右非対称の側縁を有する先すぼまりのものとし、爪先部の足底側の編地に続く爪先部の胛側の編地のウエール数を、爪先部の足部側端縁に近づくにつれて、その編幅を1以上数コースごとに所定の1側を他側より増加数を多く増加して、爪先部の前記胛側の編地の平面形状を左右非対称の側縁を有する先すぼまりのものとし、上記足底側編地と胛側編地とをそれぞれの前記側縁を重ねた状態で編みとじし、爪先先端部分を除き、その左右にそれぞれ長さを異にするゴアラインを設けてなる靴下。」

第8.当審の判断
1.本件特許発明と甲1発明との対比
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「くつ下の製造方法」は、本件特許発明の「靴下の編成方法」に相当し、甲1発明のくつ下は、本件特許発明と同様に「口ゴム部から身部ついで足部へと編成」されていることは明らかである。
また、甲1発明の「一方の位置側」及び「他方の位置側」は、それぞれ本件特許発明の「踵部の内側すなわち着用者の第一趾側」及び「踵部の外側すなわち着用者の第五趾側」相当し、甲1発明において、編針50の針数の増減は、
一方の位置側では、減→増→減→増、
他方の位置側では、減→減→増→増、
となっており、ここで編針50の針数の増減は、本件特許発明の「増やし目」または「減らし目」に相当することから、甲1発明の踵部の一方の位置側及び他方の位置側における編針50の針数の増減の順は、本件特許発明の踵部の内側及び外側の「増やし目」または「減らし目」の順と一致しているといえる。
よって、両者は、
「口ゴム部から身部ついで足部へと編成していく靴下において、踵部の外側すなわち着用者の第五趾側は減らし目ついで増やし目を行いながら編成し、踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減らし目、増やし目、減らし目ついで増やし目の順に編成する靴下の編成方法。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点1:本件特許発明では、踵部の内側に形成されるゴアライン2aの全幅L1が、踵部の外側に形成されるゴアライン2bの全幅L2よりも小さくなるようにしているのに対し、甲1発明では、それらのゴアラインの大小関係は規定されていない点。
相違点2:本件特許発明では、踵部の外側方向にウェール数を多めに編成しているのに対し、甲1発明では、そのような特定がない点。

なお、一致点及び相違点の認定について、両当事者間に争いはない。

2.相違点の検討
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
甲第2号証には、くつ下の踵部のヒールポケットを形成するに際し、踵部の外側方向及び内側方向の両方とも、従来のくつ下の踵部に形成するヒールポケットに比べてウェール数を多めに編成することが記載されている(前記第7.[甲第2号証]の(2a)?(2d))。仮に、甲第2号証に記載された「従来のくつ下の踵部に形成するヒールポケットに比べてウェール数を多めに編成する」技術を、甲1発明の「踵部の外側方向」のみに適用することが当業者にとって容易であるとすれば、相違点2は、当業者が容易になし得たことであるといえる。
しかし、本件無効審判に係る第1次審決(平成25年7月1日付け審決)を取り消した平成25年(行ケ)第10229号判決(以下、単に「判決」という。)は、『仮に,「まち部20」が形成される側と反対側,例えば,踵部の内側に「まち部20」を形成しつつ,踵部の外側の「ウェール数を多めに編成」した場合には,相違点2そのものは解消されることになる。しかしながら,かかる構成を採用した場合,踵部の内側に「まち部20」による余裕ができる一方で,踵部の外側に「ウェール数を多めに編成」することによる余裕ができてしまい,踵部の両側に余裕ができることになるため,踵部の内側と外側とが対称形に近づいてしまい,踵部が左右非対称形に形成された靴下を提供するという甲1発明の目的や課題に反することとなってしまう。したがって,「ウェール数を多めに編成すること」を甲1発明の「まち部20」が形成される側とは反対側(審決注:「踵部の外側方向」)に適用することには,阻害事由があるということになる。』(判決27頁)と判示している。
行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、第1次審決を取り消した判決は、当審を拘束するところ、前記「阻害事由がある」旨の裁判所の判断は、判決の結論に至る、裁判所の主要な判断事項である。当審は、裁判所の下した結論のみならず、結論に至る主要な判断事項についても従うべきである。よって、当審は、甲第2号証に記載された「従来のくつ下の踵部に形成するヒールポケットに比べてウェール数を多めに編成する」技術を、甲1発明の「踵部の外側方向」のみに適用することには、阻害事由があると判断する。
甲第3号証にも、踵部を編成する際に、踵部の外側方向及び内側方向の両方とも、従来技術よりウエール数の多い、180°以上の往復回転で編成することが記載されている。しかし、甲第3号証に記載の技術も、甲第2号証の技術と同様に、踵部の外側方向及び内側方向の両方のウエール数が等しい技術である。したがって、甲1発明への甲第2号証の技術の適用に阻害事由があるのと同様な理由により、甲第3号証に記載の技術を、甲1発明の「踵部の外側方向」のみに適用することには、阻害事由がある。また、同様な理由により、甲第3号証に記載の技術を、甲1発明の「踵部の外側方向」のみに適用することに、動機付けがあるということはできない。
本件特許の特許出願日前に頒布された刊行物であるその他の甲号証、すなわち、甲第4号証、甲第7号証、甲第11号証及び甲第13号証には、「従来のくつ下の踵部に形成するヒールポケットに比べてウェール数を多めに編成する」技術は、記載されていない。
したがって、請求人が提出した、本件特許の特許出願日前に頒布された刊行物である全ての甲号証について考慮しても、相違点2は、当業者が容易に推考し得たことであるとはいえない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、請求人が主張する無効理由には、理由がない。

3.請求人の上申書の主張について
(1)請求人は、平成26年5月29日付け上申書(以下、単に「上申書」という。)において、次の(ア)?(ウ)の主張をしている。
(ア)判決は『本件特許そのものが、「阻害事由を含んだ発明」を対象とするものであることを裁判所が認定したことに外なりません。』(上申書3頁下から3?1行)、『判決では一方に「まち」、他方に「ウェール数増加」を備えた構成は「阻害事由がある」としているのに対し、本件特許では、腫の面積を左右両側ともに広くするという阻害事由を解消するための技術を何ら開示していないことから、判決は、本件特許そのものが阻害事由を内在した状態のままの発明であると断じていることになります。』(同5頁下から14?10行)、『本件特許発明が「阻害事由を含んだ発明」、すなわち技術的意義のない発明であるとするならば、まずもってその発明は「産業上利用することができる発明」ではあり得ないことになります』(同5頁下から6?3行)、『請求人が無効理由として挙げた第29条第2項にいう「進歩性」とは、従来技術に対して進歩した技術、優れた技術に対して特許という独占権を認めようとするのが法趣旨であるところ、「阻害事由を含む」、すなわち技術的意義がないと断定された発明を従来技術に対して「進歩性あり」と認めること自身が不合理であり、かかる判断は法趣旨に反するものとなりましょう。』(同6頁1?6行)

(イ)『「まち」と「ウェール数増加」との組み合わせにかかる技術評価について、判決では、このような組み合わせは「阻害事由」があるとしてその技術的意義を否定しています。・・・本件特許の一方の「まち」と他方の「ウェール数増加」との組み合わせにつき・・・。この「組み合わせ」に「阻害事由がある」となれば、一方に「まち」、他方に「ウェール数増加」を配することは、単なる「意味のない寄せ集め」に過ぎないものであって、かかる「寄せ集め」に対しては何らの技術的評価を下す必要がないことを判決が示したことになります。・・・「単なる寄せ集め」は進歩性が認められないことが前提であると審査基準は示唆しています。すなわち、「まち」と「ウェール数増加」における技術評価においては、その寄せ集めには一切考慮する必要はなく、「まち」と「ウェール数増加」のそれぞれの技術を個別に技術評価をすればそれで足りることを意味していることになります。そうであるならば、「まち」の構成、効果は甲1に、「ウェール数増加」の構成、効果は甲2にそれぞれ別々に開示された技術であり、これら要素を個別に判断すれば、本件特許の進歩性は全く認められるものではないと見ることができます。』(同5頁1?18行)

(ウ)『外側方向へのウェール数増加は単に「外側に多めに編成すること」のみを述べているに過ぎず、その角度範囲等の限定は付されておらず、その増加量は無制限です。外側方向へのウェール数増加は、丸編機の針釜の往復回動の中心位置を外側にずらすだけで容易に達成できることであり・・・ずらす角度の大きさの限定が何もされていないということは、本件発明では甲11に示す90°の中心ずれをも包含したものとなっていることは明らかです。すなわち、本件特許請求項1に記載された構成要件に基づけば、甲11は「外側方向にウェール数を多めに編成する」との技術を含め、「寄せ集め」技術であるために無視してもよい構成Cを除けば全ての内容を開示していることに間違いありません。このことは、甲11が本件特許の進歩性を否定する根拠になり得ることを示すものであり、本件特許を無効とする理由に十分なるものではないかと考えます。』(同7頁10?21行)

(2)請求人の前記主張(ア)?(ウ)について検討する。
(ア)請求人は、『本件特許発明そのものが「阻害事由を含んだ発明」であることを裁判所が認定した』旨主張し、その主張を前提として、『本件特許発明は技術的意義のない発明である』、『技術的意義のない発明であれば「産業上利用することができる発明」ではない』、『技術的意義のない発明に「進歩性あり」と認めることは不合理であり法趣旨に反する』と主張する。しかし、判決は、『「ウェール数を多めに編成すること」を甲1発明の「まち部20」が形成される側とは反対側(審決注:「踵部の外側方向」)に適用することには、阻害事由がある』(判決27頁)と判示しているのであって、『本件特許発明そのものが「阻害事由を含んだ発明」である』と認定しているのではない。『本件特許発明そのものが「阻害事由を含んだ発明」であることを裁判所が認定した』旨の請求人の主張は、請求人独自の見解であり失当である。
『本件特許発明は技術的意義のない発明である』、『技術的意義のない発明であれば「産業上利用することができる発明」ではない』及び『技術的意義のない発明に「進歩性あり」と認めることは不合理であり法趣旨に反する』との請求人の前記主張は、前記請求人独自の見解が正しいことを前提とする主張であるから、その前提において誤っており失当である。
また、本件特許発明には、本件明細書の段落0018?0019に「本発明に係る靴下は、踵部の内側の編成方法に通常の靴下編成方法と異なる特色がある。すなわち通常の編成方法のように減らし目工程、増やし目工程を一度だけ行うのでなく、更にもう一工程ずつ減らし目及び増やし目を行っている。これにより内側は外側に比し縮まることになるのである。つまり図中のL2よりもL1が短くなるのである。・・・また、踵の外側方向にウェール数を多めに編成していることから、外側が内側に比し大きめに編成されることになるのである。」と記載されているとおりの技術的意義があると認められる(上記第4.及び判決16?17頁のイを参照)。これは、被請求人が提出した、甲1発明に対応する編製品である見本1及び本件特許発明に対応する編製品である見本2からも明らかである。

(イ)請求人は、『判決は、「まち」と「ウェール数増加」との組み合わせに「阻害事由」があるとしている。この「組み合わせ」に「阻害事由がある」となれば、一方に「まち」、他方に「ウェール数増加」を配することは、単なる「意味のない寄せ集め」に過ぎない。「単なる寄せ集め」は進歩性が認められない。』旨主張している。
しかし、判決は、請求人自身が上申書5頁3?6行で述べているとおり、請求人が提示した公知技術及び周知技術に基づいて『一方の「まち」と他方の「ウェール数増加」との組み合わせ』にすることに「阻害事由がある」と判断している(前記第8.3.(1)(イ)参照)のである。すると、単なる「意味のない寄せ集め」として、一方に「まち」、他方に「ウェール数増加」を組み合わせようとすることにも「阻害事由」があることになる。換言すれば、一方に「まち」、他方に「ウェール数増加」を備えた構成にすることに「阻害事由」がある以上、一方に「まち」、他方に「ウェール数増加」を備えた構成が「単なる寄せ集め」になることは、技術常識上あり得ない。請求人の前記主張は、技術常識に反する請求人独自の見解であり失当である。

(ウ)請求人は、『・・・甲11が本件特許の進歩性を否定する根拠になり得ることを示すものであり、本件特許を無効とする理由に十分なる・・・』(上申書7頁19?21行)と主張しているが、甲第11号証を考慮しても相違点2が容易に推考し得たことであるとはいえないことは、前記第8.2.で述べたとおりである(判決27?28頁の(4)も参照)。
また、請求人は、『外側方向へのウェール数増加は単に「外側に多めに編成すること」のみを述べているに過ぎず、その角度範囲等の限定は付されておらず・・・。外側方向へのウェール数増加は、丸編機の針釜の往復回動の中心位置を外側にずらすだけで容易に達成できることであり』と主張し、さらに『ずらす角度の大きさの限定が何もされていないということは、本件発明では甲11に示す90°の中心ずれをも包含したものとなっていることは明らかです。すなわち、本件特許請求項1に記載された構成要件に基づけば、甲11は「外側方向にウェール数を多めに編成する」との技術を含め、「寄せ集め」技術であるために無視してもよい構成Cを除けば全ての内容を開示していることに間違いありません。』と主張している。
しかし、「外側方向へのウェール数増加」と、「往復回動の中心位置を外側にずらす」ことは、別個独立の技術的事項であることは、自明である。現に、甲第11号証の図1のCには、往復回動の中心位置はずれているが、往復回動のウェール数は、内側方向も外側方向も実質的に同数であることが図示されている。請求人のこれら主張は、技術常識に反するとともに、客観的事実にも反する主張であり、請求人独自の見解であるから、失当である。

第9.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由によって、本件特許発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
靴下及びその編成方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口ゴム部から身部ついで足部へと編成していく靴下において、踵部の外側すなわち着用者の第五趾側は減らし目ついで増やし目を行いながら編成し、踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減らし目、増やし目、減らし目ついで増やし目の順に編成して、踵部の内側に形成されるゴアライン2aの全幅L1が、踵部の外側に形成されるゴアライン2bの全幅L2よりも小さくなるようにすると共に外側方向にウェール数を多めに編成することを特徴とする靴下の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴下に関し、より詳しくは人の踵によりよくフィットする靴下及びその編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
靴下の一般的な編成方法は以下のようなものである。
【0003】
図5は各部の名称を付した靴下の正面図である。靴下は一般に口ゴム部A、身部B及び足部Cの3部に大別される。
【0004】
口ゴム部Aはゴム編みやゴム糸を挿入した平編みで編成することで伸縮性を大きくし、靴下のずれ落ちを防止する役目を果たす。
【0005】
身部Bは平編み等の任意の組織で編成する。
【0006】
足部Cは更に踵部C1、足甲部C2、足底部C3及び爪先部C4の各部に分かれる。踵部C1及び爪先部C4はゴアラインを中心として何回も減らし目・増やし目を行って編成する。足甲部C2及び足底部C3は平編み等の任意の組織で編成する。
【0007】
また、踵部の編み地に余裕を持たせ、着用時の窮屈感を軽減した靴下が特開2001-164405号公報において提案されている。
【特許文献1】特開2001-164405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の靴下は一般的に人間の足の形状にあまりこだわることなく、左足用右足用といった区別なしに編成されている。また、一組の靴下の一方側靴下においても、足の内側外側等の形状の違いに考慮することなく編成されている。
【0009】
ところが人間の足は左右対称形をなしているわけではなく、例えば踵は内側(第一趾・親指側)は小さく、外側(第五趾・小指側)は内側に比し大きいのが通常である。
【0010】
しかるに、前述のように従来の靴下は人の踵のかような形状差にこだわることなく、内側と外側を対称形状に編成してある。
【0011】
そこで本発明は人の足の形状に合致した形状を有する靴下及び当該靴下の編成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る靴下は、踵部の外側すなわち第五趾側を、内側すなわち第一趾側より大きく編成した。
【0013】
また、係る形状を有する靴下の編成方法として以下のような編成方法を採用した。
【0014】
口ゴム部から身部ついで足部へと編成していく靴下において、踵部の外側すなわち着用者の第五趾側は減らし目ついで増やし目を行いながら編成する。踵部の内側すなわち着用者の第一趾側は減らし目、増やし目、減らし目ついで増やし目の順に編成する。
【0015】
また、踵の外側方向にウェール数を多めに編成した。
【発明の効果】
【0016】
以下、かような解決手段がいかに作用して課題を解決するかを述べる。
【0017】
図1は本発明に係る靴下の正面図であり、図2は同じく背面図である。ここに正面図は内側すなわち第一趾側より見ており、背面図は外側すなわち第五趾側より見たものである。尚、図1、図2に示される靴下は右足用のものを示したものである。
【0018】
本発明に係る靴下は、踵部の内側の編成方法に通常の靴下編成方法と異なる特色がある。すなわち通常の編成方法のように減らし目工程、増やし目工程を一度だけ行うのでなく、更にもう一工程ずつ減らし目及び増やし目を行っている。これにより内側は外側に比し縮まることになるのである。つまり図中のL2よりもL1が短くなるのである。
【0019】
また、踵の外側方向にウェール数を多めに編成していることから、外側が内側に比し大きめに編成されることになるのである。
【0020】
かようにして本発明は人間の足の形状すなわち踵の内側は外側よりも小さいという形状に合致した靴下、つまり踵によりよくフィットする靴下の提供が可能となるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、好ましい発明に実施形態につき図面を参照しながら述べる。
【0022】
本発明に係る靴下の編成方法は、踵部の編成方法を除き背景技術において述べた靴下の一般的編成方法によって構わない。よって、以下本発明の特徴をなす踵部の編成方法について述べる。
【0023】
本発明に係る靴下も通常の靴下と同様に減らし目、増やし目を行いながら踵部を編成するという点では、通常の靴下の編成方法と変わるところはない。つまりシリンダの略半周(シリンダのキー溝とは反対側)にある長バットニードルを非編成レベル(センター・カムの上面)に上げスイッチ・カムによって上げ、残る略半周の短バッドニードルにてシリンダの正逆往復回転により針上げピッカー及び針下げによる減らし目や増やし目を行いながら編成するものである。
【0024】
但し、踵部の外側に余裕を持たせるために、編成範囲を図4に示すように外側編成方向に広めにとってある。ここに図4はシリンダを模式的に示したものである。シリンダ4の半周よりも踵部外側編成方向に大きめに編成範囲をとっている。つまり踵部外側にウェール数が増えることになるのである。
【0025】
尚、図中A、X、Eの各点は図1乃至図3におけるA、X、E各点の編成時位置を示すものである。
【0026】
但し、本発明に係る靴下においては踵部の内側において減らし目及び増やし目工程を二工程ずつ行っている点が、通常の靴下における踵部編成と異なるものである。つまり図1に示すように、身部3の編成から踵部1の編成に入った点たるゴアライン2a上の端点Aからゴアライン2a上の端点Cまでが減らし目工程であり、Cからゴアライン2a上の中間点Bまでが増やし目工程であり、Bからゴアライン2a上の端点Dまでが減らし目工程であり、Dから踵部1の編成が終了する点たるAまでが増やし目工程となる。
【0027】
以上の内側の編成と異なり、外側の編成は通常の靴下と同様に減らし目、増やし目ともに一工程ずつ行われるものである。つまり図2に示すように身部3の編成から踵部1の編成に入った点たるゴアライン2b上の端点Eから、ゴアライン2b上の端点Fまでが減らし目工程であり、Fから踵部1の編成が終了する点たるEまでが増やし目工程となる。
【0028】
図3は右側面側から見た踵部1の展開図である。図中のX、YおよびA乃至Fが図1、図2におけるX、Y及びA乃至Fに対応するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る靴下の正面図。
【図2】同じく背面図。
【図3】右側面側から見た踵部の展開図。
【図4】シリンダを示す模式図。
【図5】各部の名称を付した靴下の正面図。
【符号の説明】
【0030】
1・・踵部
2a、2b・・ゴアライン
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-06-17 
結審通知日 2014-06-19 
審決日 2014-07-01 
出願番号 特願2004-321584(P2004-321584)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 直  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 渡邊 豊英
栗林 敏彦
登録日 2010-09-17 
登録番号 特許第4590247号(P4590247)
発明の名称 靴下及びその編成方法  
代理人 鎌田 直也  
代理人 鎌田 文二  
代理人 鎌田 文二  
代理人 鎌田 直也  
代理人 鎌田 直也  
代理人 鎌田 文二  
代理人 田代 攻治  

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