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審決分類 審判 査定不服 (訂正、訂正請求) 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1293091
審判番号 不服2013-10794  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-10 
確定日 2014-11-10 
事件の表示 特許権存続期間延長登録願2012-700002「キナゾリン誘導体、その製造法および該キナゾリン誘導体を含有する抗癌作用を得るための医薬調剤」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成24年2月15日を出願日とする、特許権の存続期間の延長登録の出願であって、平成25年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年6月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


2.本件出願の内容
本件出願は、特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったために、特許第2994165号(以下、「本件特許」という。)の特許発明の実施をすることができなかったとして、5年の特許権の存続期間の延長登録を求めるものである。
そして、平成24年12月11日付け手続補正書により補正された本件出願の願書によれば、その政令で定める処分(以下、「本件処分」という。)の内容は、以下のものとされている。
(1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号 21400AMY00188000
(3)処分の対象となった物
イレッサ錠250(販売名)、ゲフィニチブ(有効成分)
(4)処分の対象となった物について特定された用途
EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌


3.本件特許及び本件特許発明
本件特許は、平成5年2月16日(特願平5-26577号、優先権主張 1992年6月26日 (GB)イギリス、1992年11月12日 (GB)イギリス)に出願され、平成11年10月22日に特許権の設定登録がされたものであって、その特許発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?21に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1、11、19、21に係る発明は次のとおりのものである。

「【請求項1】 式I:

〔式中、mは、1、2または3を表し、R^(1)は、それぞれ独立に・・・中略・・・C_(1)?C_(4)アルコキシ基、・・・中略・・・モルホリノ-C_(2)?C_(4)アルコキシ基、・・・中略・・・を表し、・・・中略・・・;nは、1または2を表し、R^(2)は、それぞれ独立に・・・中略・・・ハロゲン原子、・・・中略・・・を表し;・・・中略・・・〕で示される、キナゾリン誘導体またはこれらの製薬学的に認容性の塩。」

「【請求項11】 請求項1から10までのいずれか1項に記載の式Iのキナゾリン誘導体またはその製薬学的に認容性の塩を製造する方法において、式III:

〔式中、Zは、置換可能な基を表す〕で示されるキナゾリンを、式IV:

で示されるアニリンと反応させ、式Iのキナゾリン誘導体の製薬学的に認容性の塩が必要な場合には、常法を用いて記載された化合物と適当な酸との反応によって該塩を得ることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の式Iのキナゾリン誘導体またはその製薬学的に認容性の塩の製造法。」

「【請求項19】 抗癌作用を得るための医薬調剤において、請求項1から10までのいずれか1項に記載のキナゾリン誘導体または・・・中略・・・から選択されたキナゾリン誘導体またはこれらの製薬学的に認容性の塩を含有することを特徴とする、抗癌作用を得るための医薬調剤。」

「【請求項21】 製薬学的に認容性の希釈剤または担持剤とともに、請求項1から10までのいずれか1項に記載のキナゾリン誘導体または・・・中略・・・から選択されたキナゾリン誘導体を含有する、抗癌作用を得るための医薬調剤。」

また、本件特許の請求項2?10に係る発明は、請求項1に係る発明の化合物の範囲を限定した化合物の発明であり、請求項12?18に係る発明は、請求項1に係る発明の化合物の範囲を限定した化合物の製造法の発明であり、請求項20に係る発明は、請求項1に係る発明の化合物の範囲を限定した化合物を含有する医薬調剤の発明である。


4.原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、本件特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当するというものであり、その具体的な理由の要点は、次のとおりである。
・「本件処分は、用途を「手術不能又は再発非小細胞肺癌」から「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」に変更するものであるが、先行処分の対象となった医薬品について定められた用途「手術不能又は再発非小細胞肺癌」は、本件処分の対象となった医薬品について定められた用途「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」を包含するものであり、EGFR遺伝子変異陽性である手術不能又は再発非小細胞肺癌の患者に対しても、既に先行処分によって特許発明の実施ができるようになっていたから、本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったということはできない。」


5.判断
承認の対象となる医薬品は、承認書に記載された多数の事項で特定されたものであるのに対し、特許発明は技術的思想の創作を「発明特定事項」によって表現したものである。
したがって、特許法第67条の3第1項第1号の判断において、「特許発明の実施」は、処分の対象となった医薬品その物の製造販売等の行為ととらえるのではなく、処分の対象となった医薬品の承認書に記載された事項のうち特許発明の発明特定事項に該当するすべての事項(以下、「発明特定事項に該当する事項」という。)によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるのが適切である。
ただし、特許法第68条の2は、存続期間が延長された場合の特許権の効力について、「処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についての特許発明の実施」以外の行為に特許権の効力が及ばないことを規定しているところ、医薬品の承認においては用途に該当する事項が定められていることから、用途を特定する事項を発明特定事項として含まない特許発明の場合には、「特許発明の実施」は、処分の対象となった医薬品の承認書に記載された事項のうち、特許発明の発明特定事項に該当するすべての事項及び用途に該当する事項(以下、「発明特定事項及び用途に該当する事項」という。)によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるのが適切である。また、医薬品の承認における用途とは、延長された権利の実効性や第三者による結果の予測性を担保すべきことを考慮すると、承認書に記載された効能・効果であると解するのが相当である。

そして、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項(及び用途)に該当する事項」を備えた先行医薬品についての処分(先行処分)が存在する場合には、特許発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項(及び用途)に該当する事項」によって特定される範囲は、先行処分によって実施できるようになっていたといえ、特許法第67条の3第1項第1号の拒絶理由が生じる。
以下、これを本件についてみていくこととする。

5-1.本件特許の請求項1に係る発明について
本件特許の請求項1に係る発明は、請求項1に記載された化合物についての、いわゆる化学物質発明といわれるものであり、その発明特定事項はもっぱら化合物であって、用途を特定する事項を発明特定事項として含まないことは明らかである。
そこで、本件特許の請求項1に係る発明について、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」を備えた先行医薬品についての処分が存在するか否かについて検討する。
本件処分は、平成23年11月25日に受けたとされるものであり、該医薬品の有効成分がゲフィニチブで、その効能・効果は、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺癌であると認められるものであって、ゲフィニチブは、本件特許の請求項1に係る発明の発明特定事項である上記キナゾリン誘導体に該当する事項であり、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺癌は、用途に該当する事項である。
一方、承認番号21400AMY00188000の医薬品輸入承認書による処分すなわち本件処分の一部変更前の処分(以下、「先行処分」という。)は、平成14年7月5日に受けたとされるものであり、該医薬品の有効成分が本件処分と同じくゲフィニチブで、その効能・効果は手術不能・再発非小細胞肺癌であるとされているものである。
ここで、先行処分における「手術不能・再発非小細胞肺癌」は、本件処分における「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺癌」を包含するものであると認められるから、該先行処分は、本件処分に先行する処分であって、かつ、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」である「ゲフィニチブ、及び、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺癌」を備えた先行医薬品についてのものであるということができる。
したがって、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」を備えた先行医薬品についての先行処分が存在することとなり、本件特許の請求項1に係る発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」によって特定される範囲は、該先行処分によって実施できるようになっていたといえる。

この点について、審判請求人は、審判請求書において、
「(2)本特許について存続期間延長登録出願が認められるべき理由について
医薬発明の実施は薬事法上の製造承認を持ってはじめて可能になるものです。原査定では、「先行処分の対象となった医薬品について定められた用途「手術不能又は再発非小細胞肺癌」は、本件処分の対象となった医薬品について定められた用途「EGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌」を包含するものであり、EGFR遺伝子変異陽性である手術不能又は再発非小細胞肺癌の患者に対しても、既に先行処分によって特許発明の実施ができるようになっていたから、本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったということはできない」との認定がされています。しかし、本件処分はEGFR遺伝子変異検査と非小細胞肺癌に対する効果の相関に効果に関する臨床試験結果に基づいて初めて認められたものです。肺癌という疾患は生命に危機を及ぼす重篤な疾患であり、本件処分前の効果について化学的根拠が確認されていない状態を「既に先行処分によって特許発明の実施ができるようになっていた」と解することはできません。
原査定でも触れられているとおり、出願人は平成24年12月11日付け意見書に添えて、参考資料として「イレッサ錠250」の添付文書のうち、第20版(2010年9月改訂、参考資料1)および第22版(2011年11月改訂、参考資料2)を提出しております。第20版(参考資料1)は先行処分にしたがうものであり、第22版(参考資料2)は本件処分にしたがうものです。参考資料1の[効能・効果]の項には以下の記載がされております。

一方で、参考資料の[効能・効果]の項には以下の記載がされております。

両記載においては、原査定でも認定されているとおり、「手術不能又は再発非小細胞肺癌」との記載が含まれており、参考資料2においては「EGFR遺伝子変異陽性の」との限定がされております。さらに実際の[効果・効能]の記載には、<効能・効果に関連する使用上の注意>として、参考資料1では「1.本剤の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」との表示があります。ここで、先行処分によれば「化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない」と記載されており、有効性及び安全性が確認されていたのは既に化学療法で治療を受けた患者にのみであり、化学療法で治療を受けた患者においての使用のみが認められておりました。すなわち、先行処分においては本剤の化学療法未治療例における使用は認められておりませんでした。先行処分下では、いわゆる一次療法剤を用いて化学療法を既に受けた患者においてのみ、本剤を二次療法剤として使用することが認められておりました。前述のとおり肺癌という疾患は生命に危機を及ぼす重篤な疾患であり、具体的な使用方法における区分は厳格に実施されるものです。
一方、参考資料2における[効果・効能]の記載には、先行処分におけるそのような特定は含まれておりません。本件処分は出願時に提出致しました「延長の理由を記載した資料」の3頁2.(2)の「アジアにおける進行(IIIB期又はIV期)非小細胞肺癌患者を対象に一次療法としてゲフィチニブ(イレッサ)(250mg錠)とカルボプラチン+パクリタキセル併用化学療法の有効性、安全性及び忍容性を比較する多施設共同非盲検無作為化並行群間比較第III相試験 IPASS(IressaTM Pan-Asia Study)」の結果に基づくものであり、本件処分は本剤の一次療法剤としての使用を初めて認めるものです。
以上述べましたとおり、本件処分により可能になった本件特許発明の実施態様は先行処分においては実施することができなかった態様でありますので、本願は特許法第67条の3第1項第1号には該当しないものと思量致します。」
と主張する。

そこで検討するに、まず第一に、先行処分に係る医薬品輸入承認書の記載によれば、先行処分の効能・効果は「手術不能・再発非小細胞肺癌」とされており、当該効能・効果は、EGFR遺伝子変異の有無による限定は何ら含まないものであるから、該変異が陽性のものであれ、陰性のものであれ、包含することは明らかである。本件処分は、手術不能・再発非小細胞肺癌の中でもEGFR遺伝子変異が陽性のものにゲフィチニブが有効であることが判明したことにより、先行処分の効能・効果の範囲を、該変異が陽性のものに限定した処分というべきものであり、先行処分に包含されない新たな範囲の効能・効果を承認したものとはいえない。

次に、先行処分に係る医薬品輸入承認書に記載された「手術不能・再発非小細胞肺癌」なる効能・効果は、化学療法未治療であるか否かによる限定は何ら含まないものであるから、化学療法未治療例における使用を包含することは明らかである。また、審判請求人が指摘する添付文書は、特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容を特定するための文書ではないので、もとより、その記載内容によって本件特許の特許権の存続期間の延長登録の可否の判断をすることはできない。しかも、添付文書は、その内容が改訂されていくものであるから、なおのこと、その記載内容によって該判断をすることはできない。さらには、先行処分にしたがう添付文書の「効能・効果に関連する使用上の注意」の欄における「本剤の化学療法未治療例における有効性及び安全性は確立していない。」なる記載は、文字どおり、「有効性及び安全性は確立していない」と「注意」しているものであって、「化学療法未治療例」における「本剤」の使用が禁止されていたとまでは解されず、むしろ、「化学療法未治療例」においても「本剤」の使用が禁止されていなかったからこそ、このような「注意」が添付文書に記載されていた、と解するのが相当である。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

5-2.本件特許の請求項11、16に係る発明について
本件特許の請求項11、16に係る発明は、化合物の製造方法の発明であり、その発明特定事項は、製造する目的化合物である、請求項1から10までのいずれか1項に記載の式Iのキナゾリン誘導体など、原料化合物、及び、試薬などの製造条件を構成する事項であって、用途を特定する事項を発明特定事項として含まないことは明らかである。
ここで、本件出願の願書に添付された延長の理由を記載した資料からは、本件処分におけるゲフィチニブの製造方法が不明であるので、本件特許の請求項11、16に係る発明の実施に本件処分が必要であったとはいえないが、仮に、本件処分におけるゲフィチニブの製造方法が明らかにされ、その製造方法における原料化合物及び試薬などの製造条件が、本件特許の請求項11、16に係る発明の製造方法における原料化合物及び試薬などの製造条件に該当することが認められても、今度は、本件特許の請求項1に係る発明と同様、本件特許の請求項11、16に係る発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」によって特定される範囲は、該先行処分によって実施できるようになっていたといえる。
すなわち、先行処分と本件処分の間の変更点は、本件処分の承認書によれば、もっぱら、効能・効果のみであるから、ゲフィチニブの製造方法は変更されていないものと認められる。そうすると、先行処分と本件処分は、有効成分ゲフィニチブ及びその製造方法の点で一致するものであり、両者の効能・効果の間の関係は、本件特許の請求項1に係る発明について説示したとおりである。
してみれば、先行処分は、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」である「ゲフィニチブ、その原料化合物、及び、試薬などの製造条件、からなるゲフィニチブの製造方法、並びに、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺癌」を備えた先行医薬品についてのものであるということができる。
したがって、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」を備えた先行医薬品についての先行処分が存在することとなり、本件特許の請求項11、16に係る発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項及び用途に該当する事項」によって特定される範囲は、該先行処分によって実施できるようになっていたといえる。

5-3.本件特許の請求項19、21に係る発明について
本件特許の請求項19に係る発明は、請求項1から10までのいずれか1項に記載のキナゾリン誘導体などについて、これを「抗癌作用を得るための医薬調剤」とするという、用途を特定する事項を、さらに発明特定事項として含む発明である。そして、本件処分の効能・効果であるEGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌は、本件特許の請求項19に係る発明の発明特定事項である上記「抗癌作用を得るための医薬調剤」に該当する事項である。
してみれば、本件特許の請求項1に係る発明についてと同様の理由により、先行処分は、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」である「ゲフィニチブ、及び、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺癌」を備えた先行医薬品についてのものであるということができる。
したがって、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」を備えた先行医薬品についての先行処分が存在することとなり、本件特許の請求項19に係る発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は、該先行処分によって実施できるようになっていたといえる。

本件特許の請求項21に係る発明は、請求項1から10までのいずれか1項に記載のキナゾリン誘導体などについて、これを「抗癌作用を得るための医薬調剤」とするという、用途を特定する事項を、さらに発明特定事項として含み、また、「製薬学的に認容性の希釈剤または担持剤」をも含有するという事項を、さらに発明特定事項として含む発明である。
ここで、本件出願の願書に添付された延長の理由を記載した資料からは、本件処分におけるゲフィチニブに配合する成分が不明であるので、本件特許の請求項21に係る発明の実施に本件処分が必要であったとはいえないが、仮に、本件処分におけるゲフィチニブに配合する成分が明らかにされ、その成分が、本件特許の請求項21に係る発明の医薬調剤における製薬学的に認容性の希釈剤または担持剤に該当することが認められても、今度は、本件特許の請求項19に係る発明と同様、本件特許の請求項21に係る発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は、該先行処分によって実施できるようになっていたといえる。
すなわち、本件処分と先行処分の間の変更点は、本件処分の承認書によれば、もっぱら、効能・効果のみであるから、ゲフィチニブに配合する成分は変更されていないものと認められる。そうすると、先行処分と本件処分は、有効成分ゲフィニチブ及びそれに配合する成分の点で一致するものであり、両者の効能・効果の間の関係は、本件特許の請求項1に係る発明について説示したとおりである。
してみれば、先行処分は、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」である「ゲフィニチブ、製薬学的に認容性の希釈剤または担持剤、及び、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺癌」を備えた先行医薬品についてのものであるということができる。
したがって、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」を備えた先行医薬品についての先行処分が存在することとなり、本件特許の請求項21に係る発明のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は、該先行処分によって実施できるようになっていたといえる。

なお、本件特許の請求項2?10に係る発明は、請求項1に係る発明の化合物の範囲を限定した化合物の発明であり、請求項12?18に係る発明のうち、先に検討した請求項16に係る発明以外の発明、すなわち、請求項12?15、17、18に係る発明は、請求項1に係る発明の化合物の範囲を限定した化合物の製造方法の発明であり、請求項20に係る発明は、請求項1に係る発明の化合物の範囲を限定した化合物を含有する医薬調剤の発明であるが、これら限定した化合物の各々に、ゲフィニチブは含まれていないから,上記各発明の実施に本件処分を受けることが必要であったといえないことは明らかである。


6.むすび
以上のとおり、本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当し、特許権の存続期間の延長登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-16 
結審通知日 2013-07-17 
審決日 2013-07-30 
出願番号 特願2012-700002(P2012-700002)
審決分類 P 1 8・ 71- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植原 克典  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 内田 淳子
今村 玲英子
発明の名称 キナゾリン誘導体、その製造法および該キナゾリン誘導体を含有する抗癌作用を得るための医薬調剤  
代理人 小野 新次郎  
代理人 寺地 拓己  

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