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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1297051
審判番号 不服2013-901  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-18 
確定日 2015-02-03 
事件の表示 特願2008-131379「ψεRACKペプチド組成物および虚血に起因する組織損傷に対する保護方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月 6日出願公開、特開2008-266343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成13年11月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年11月10日,米国)を国際出願日とする特願2002-576869号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成20年5月19日に新たな特許出願として分割したものである。
以降の手続は次のとおりである。

平成20年5月19日付け 上申書
平成23年1月4日付け 拒絶理由通知書
平成23年7月5日付け 意見書
同 日付け 手続補正書
平成23年9月26日付け 拒絶理由通知書
平成24年3月29日付け 意見書
平成24年9月13日付け 拒絶査定
平成25年1月18日 審判請求書

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成23年7月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認められる(以下、「本願発明」という。)。

「 【請求項1】
本明細書に記載される組成物。 」

3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の理由1の概要は、本願請求項1の「本明細書中に記載される組成物」が本明細書中の具体的にどのような組成物を指すのか特定することができず、特許を受けようとする発明を明確に把握することができないから、その発明の範囲が著しく不明確であり、本願は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。

4 特許法第36条第6項第2号に関連する裁判例について
(1)平成13年(行ケ)第346号判決
東京高等裁判所は、旧特許法36条5項2号の規定について、平成13年(行ケ)第346号判決において次のとおり判示した。
「上記規定は、発明の詳細な説明に多面的に記載されている発明のうち、どの発明について特許を受けようとしているのかを、出願人の意思により、特許請求の範囲に明示すべきことを要求しているものであり、これにより、一つの請求項に基づいて、特許を受けようとする発明が、まとまりのある一つの技術的思想として明確に把握できることになるのである。そのためには、明細書の特許請求の範囲には、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」を明確に記載する必要があるのであり、特許発明の構成に欠くことができない事項を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず、殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して特許請求の範囲を記載し、特許発明に欠くことができない構成を不明確なものとするようなことが許されないのは、当然のことというべきである。
このことは、特許法70条1項が、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定し、特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲を定めることを規定していることからも当然のことである。すなわち、特許請求の範囲を明確に記載することが容易にできるにもかかわらず、殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して記載することが許されるとすれば、特許発明の技術的範囲を明確に確定することができなくなるおそれが生じ、特許権が行使される対象となる範囲が不明確となって、社会一般に対しあるいは競業者に対し、特許権が行使される範囲の外延を明示するとの、特許請求の範囲が果たすべき、本来の機能を果たすことができなくなる結果を招来するのである。」

この判決は、旧特許法第36条第5項第2号の規定についてのものであるが、特許請求の範囲の記載を明確に記載する必要があるということに関する判示事項については、「特許を受けようとする発明が明確であること。」と規定している特許法第36条第6項第2号の判断において参照し得ることは明らかであって、しかも、特許法第36条第6項第2号について判断した下記の平成20年(行ケ)第10107号判決および平成21年(行ケ)第10434号判決の判示事項と反するところもない。

(2)平成20年(行ケ)第10107号判決
知的財産高等裁判所は、特許法第36条第6項第2号の規定について、平成20年(行ケ)第10107号判決において、次のとおり判示した。
「特許法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載において、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許発明の技術的範囲、すなわち、特許によって付与された独占の範囲が不明となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。」

(3)平成21年(行ケ)第10434号判決
知的財産高等裁判所は、特許法第36条第6項第2号の規定について、平成21年(行ケ)第10434号判決において、次のとおり判示した。
「法36条6項2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。」

5 本願明細書の記載事項
本願明細書には、次のような記載がある。

『 【0011】
(発明の要旨)
・・・虚血現象に起因する損傷から組織を保護する方法を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
虚血のプレコンディショニングの誘導のためにεPKCペプチドアゴニストを投与する方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0013】
虚血現象により引き起こされる組織に対する損傷を緩和する方法を提供することが、本発明のさらに別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、1つの局面において、本発明は、・・・
・・・・・・
【0036】
・・・・・・
・本出願はさらに、以下を提供し得る:
・(項目1) 虚血状態または低酸素状態に曝露された細胞もしくは器官に対する損傷を減少させるための組成物であって、
ψεRACKペプチド
を含む、組成物。
・(項目2) 項目1に記載の組成物であって、上記細胞もしくは器官が上記虚血状態または上記低酸素状態に曝露される前に、上記ψεRACKペプチドが投与されることを特徴とする、組成物。
・(項目3) 項目1に記載の組成物であって、上記細胞もしくは器官が上記虚血状態または上記低酸素状態に曝露された後に、上記ψεRACKペプチドが投与されることを特徴とする、組成物。
・(項目4) 項目2または項目3に記載の組成物であって、約1分間?180分間の期間に、上記ψεRACKペプチドが投与されることを特徴とする、組成物。
・(項目5) 項目1に記載の組成物であって、上記虚血状態または上記低酸素状態への上記細胞もしくは器官の曝露の間に、上記ψεRACKペプチドが投与されることを特徴とする、組成物。
・(項目6) 項目1?項目5のうちのいずれか1項に記載の組成物であって、上記ペプチドが、配列番号2または配列番号6?配列番号18として同定された配列を有する、組成物。
・(項目7) 項目6に記載の組成物であって、上記ψεRACKペプチドが、細胞膜を通過する輸送を容易にするために有効な部分に連結されている、組成物。
・(項目8) 項目7に記載の組成物であって、上記部分が、Tat由来ペプチド(配列番号:5)、Antennapediaキャリアペプチド(配列番号:3)、またはポリアルギニンペプチドである、組成物。
・(項目9) 項目1?項目8のうちのいずれか1項に記載の組成物であって、上記ペプチドが、静脈内経路、非経口経路、皮下経路、吸入経路、鼻腔内経路、舌下経路、粘膜経路、および経皮経路からなる群より選択される経路によって投与されることを特徴とする、組成物。
・(項目10) 項目1?8のうちのいずれか1項に記載の組成物であって、上記ペプチドが、器官全体である組織に対してエキソビボもしくはインビボにて投与されることを特徴とする、組成物。
・(項目11) 項目10に記載の組成物であって、上記器官が、心臓、肺、肝臓、脳、および腎臓より選択される、組成物。
・(項目12) 項目10に記載の組成物であって、上記ペプチドが、冠状動脈を通じてのインタクトな心臓への注入によって投与されることを特徴とする、組成物。 』

以上のことから、本願明細書には、少なくとも上の(項目1)?(項目12)として例示される発明を含む、様々な多数種の組成物の発明が記載されているといえる。
そして、これらの発明は、各々十分特定できる程度に明確に本願明細書に記載されていると認められる。

6 当審の判断
上記「5」に述べたように、本願明細書中には様々な多数種の組成物の発明が記載され、それらの発明は、本願明細書においてそれぞれ明確に記載されており、いずれの発明も特許請求の範囲に明確に記載することが可能なものであって、それを本願の特許請求の範囲に記載できないような事情は見いだせない。

そして、上記4(1)の平成13年(行ケ)第346号判決の「上記規定は、発明の詳細な説明に多面的に記載されている発明のうち、どの発明について特許を受けようとしているのかを、出願人の意思により、特許請求の範囲に明示すべきことを要求しているもの」であるとの判示事項に照らせば、本願特許請求の範囲の記載は、本願明細書中に記載された発明のうち、どの発明について特許を受けようとしているのか不明であって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことは明白である。

また、上記4(2)の平成20年(行ケ)第10107号判決及び4(3)の平成21年(行ケ)第10434号判決の観点からも検討を加えると、前記したように本願明細書中の発明のうち何が本願の特許請求の範囲に含まれるのか明確でないから、特許発明の技術的範囲を明確に確定することができなくなるおそれが生じ、特許権が行使される対象となる範囲が不明確となることは明らかである。
よって、本願の特許請求の範囲の記載に、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎としても、本願の特許請求の範囲の記載は、「第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である」といえ、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

7 結語
以上のことから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-08 
結審通知日 2014-09-09 
審決日 2014-09-24 
出願番号 特願2008-131379(P2008-131379)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 春田 由香  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 大久保 元浩
岩下 直人
発明の名称 ψεRACKペプチド組成物および虚血に起因する組織損傷に対する保護方法  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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