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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1297133 |
審判番号 | 不服2014-2495 |
総通号数 | 183 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-02-10 |
確定日 | 2015-02-05 |
事件の表示 | 特願2006- 48987「発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月 6日出願公開,特開2007-227791〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成18年2月24日の出願であって,平成23年12月22日付けで拒絶理由が通知され,平成24年3月12日に手続補正がされ,同年12月18日付けで最後の拒絶理由が通知され,平成25年3月7日に手続補正がされ,同年11月8日付けで,同年3月7日にされた手続補正が却下されるとともに同時に拒絶査定がされ,これに対して,平成26年2月10日に審判請求がされるとともに同時に手続補正がされたものである。 2 平成26年2月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)について (1)本件補正の内容 本件補正は,特許請求の範囲及び明細書を補正するものであり,特許請求の範囲の請求項1については補正の前後で以下のとおりである。(下線は当審で付加。以下同様。) 〈補正前〉 「【請求項1】 支持体上に実装されて外部端子に電気的に接続された発光素子が透光性樹脂により封止された発光装置であって, 前記支持体は上端部に有するカップ部の内底部に前記発光素子が実装されるマウントリードであり, 前記透光性樹脂は,発光素子からの光を吸収して異なる波長を有する光を発する蛍光物質および拡散剤を含み,前記カップ部内において前記発光素子を封止しており, 前記発光素子の実装部および前記マウントリードの上端部を含むように樹脂モールドにより凸レンズが配設されており, 前記カップ部内において,前記蛍光物質は発光素子に近い部分に偏在しており,前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分に分散していることを特徴とする発光装置。」 〈補正後〉 「【請求項1】 支持体上に実装されて外部端子に電気的に接続された発光素子が透光性樹脂により封止された発光装置であって, 前記支持体は上端部に有するカップ部の内底部に前記発光素子が実装されるマウントリードであり, 前記透光性樹脂は,発光素子からの光を吸収して異なる波長を有する光を発する蛍光物質および拡散剤を含み,前記カップ部内において前記発光素子を封止しており, 前記発光素子の実装部および前記マウントリードの上端部を含むように樹脂モールドにより凸レンズが配設されており, 前記カップ部内において,前記蛍光物質は発光素子に近い部分に偏在しており,前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分の全体に分散していることを特徴とする発光装置。」 (2)補正事項の整理 本件補正について整理すると,次のとおりとなる。 〈補正事項〉 補正前の請求項1の「前記カップ部内において,前記蛍光物質は発光素子に近い部分に偏在しており,前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分に分散している」を,補正後の請求項1の「前記カップ部内において,前記蛍光物質は発光素子に近い部分に偏在しており,前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分の全体に分散している」と補正すること。 (3)補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討 上記補正事項は,補正前の「拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分に分散している」ことについて,補正後に「前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分の全体に分散している」として,「分散している」箇所を明りょうにしたものといえるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして,上記補正事項は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面のうち,明細書の段落【0016】の「当該蛍光物質の沈降部分よりも発光素子から離れた部分に拡散剤を分散させた状態」との記載とともに図1及び図3に示されているから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 上記のとおり,請求項1に係る本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定された要件を満たすものであり,また,特許法第17条の2第4項第1号に掲げる事項を目的とするものである。 3 本願発明について (1)本願発明 本願の請求項1に係る発明は,平成26年2月10日にされた手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(再掲。以下「本願発明」という。) 「【請求項1】 支持体上に実装されて外部端子に電気的に接続された発光素子が透光性樹脂により封止された発光装置であって, 前記支持体は上端部に有するカップ部の内底部に前記発光素子が実装されるマウントリードであり, 前記透光性樹脂は,発光素子からの光を吸収して異なる波長を有する光を発する蛍光物質および拡散剤を含み,前記カップ部内において前記発光素子を封止しており, 前記発光素子の実装部および前記マウントリードの上端部を含むように樹脂モールドにより凸レンズが配設されており, 前記カップ部内において,前記蛍光物質は発光素子に近い部分に偏在しており,前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分の全体に分散していることを特徴とする発光装置。」 (2)刊行物に記載された発明 引用例: 特開2001-77433号公報 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2001-77433号公報(以下「引用例」という。)には,図1及び図2とともに以下の記載がある。 ア「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は発光素子と発光素子からの波長を変換する蛍光体を用いた発光装置にかかわり,特に,コントラスト比と光取り出し効率が高く,量産性に優れた発光装置を提供することにある。 【0002】 【従来技術】本出願人は,高輝度に発光する青色LEDを開発した。また,その応用製品として青色が発光可能なLEDチップと,そのLEDチップからの光を吸収して黄色に発光する蛍光体とを組合せ,LEDチップからの青色光と,蛍光体から黄色光の混色によって,白色が発光可能な発光ダイオードを実用化させた。 【0003】かかる白色系が発光可能な発光ダイオードとして具体的には,樹脂基板の凹部内にLEDチップを配置させると共にそのLEDチップをLEDチップからの青色の可視光を吸収し,黄色の蛍光を発する蛍光体含有の透光性樹脂で被覆してある。このLEDチップに電流を流すことによって,一チップ二端子構造の比較的簡単な構成で白色系が発光可能となる。このため,白色発光ダイオードとして急速に市場で利用され始めている。 【0004】このような蛍光体は,可視光を吸収し可視光を発光するが故に有彩色に着色しており,上述のごとき,黄色に発光する蛍光体では,外来光が照射されると蛍光体自体が黄色に見える。そのため,発光ダイオードの発光観測面側から見ると蛍光体の色に発光ダイオードの表面が見え,外部からの光によって蛍光体が含有された樹脂全体が黄色に自ら発光して見える。そのため,発光素子の点灯時と非点灯時のコントラスト比が悪くなる。また,黄色の蛍光体や赤色の蛍光体では,発光観測面側が黄色や赤色に見え注意色や危険色となるため,視認性上もこのような発光ダイオードをディスプレイに用いることは好ましくない。このようなコントラスト比などを改善する方法の一つとして蛍光体が含有された樹脂を,光拡散剤が含有された樹脂で被覆することが考えられる。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,蛍光体が含有された樹脂とは別に光拡散剤を含有させた樹脂で封止する場合は,形成工程が複雑化し量産性などが低い。また,より小型化の発光装置が求められる現在においては,異なる樹脂を精度良く形成させることが極めて難しく,歩留まりが低下する傾向にあるという問題があった。そこで本発明は,かかる問題を解決して量産性よくコントラスト比に優れた発光装置及びその形成方法を提供するものである。」 イ「【0012】 【発明の実施の形態】本発明者は種々の実験の結果,蛍光体,光拡散剤及びそれらを含有させる樹脂の比重を特定の関係とすることによって,比較的簡単な方法で信頼性の高い発光ダイオードを形成できることを見出し本発明を成したものである。 【0013】すなわち,赤色や黄色など有彩色に着色した蛍光体を,光拡散剤や蛍光体を含有させる樹脂よりも比重が大きいものに選択する。この様に選択された樹脂中に蛍光体,光拡散剤を含有させ,これらで発光素子を被覆し硬化させる。樹脂の硬化時などに生ずる樹脂粘性低下と比重の違いによって,比重の大きい蛍光体は発光素子側に沈降する。他方,光拡散剤は,分散あるいは発光素子と対向する表面側に分布する。したがって,発光観測面側からは,有彩色の蛍光体の色が光拡散剤で緩和される,あるいは無彩色に見えることになる。以下,本発明の具体的実施態様について,詳述するがこれのみに限定されないことはいうまでもない。 (実施態様例1)発光装置100であるチップタイプLEDを例として示す。金属平板を打ち抜きによって形成させたリード電極を金型内に配置させて樹脂をインサート成形する。これによって,発光素子を配置させるパッケージを形成させることができる。 【0014】パッケージには,発光素子からの光を効率よく集光するためにキャビティを形成させキャビティ内に発光素子を配置させても良い。また,反射鏡となるキャビティを形成することなく,一対の対向する電極を持った平板状基板を利用することもできる。平板状基板を利用する場合は,孔版印刷法などを利用することによって本発明の発光装置を形成させることができる。このようなパッケージは,液晶ポリマーなど各種樹脂やガラスエポキシ樹脂基板,セラミック基板など所望に応じて種々のものを利用することができる。 【0015】本実施態様例1では図1の断面図に示すように表面に凹部となるキャビティ104を持ち,キャビティ104内部には一対の対向するリード電極105が露出したパッケージを利用した。一対の対向するリード電極105は上述の鉄入り銅などの金属平板を利用して形成させてある。リード電極105はキャビティ104底面側からパッケージの側面まで延在しており外部からの電流を発光素子となるLEDチップ106に供給する働きをする。 【0016】LEDチップ106からの発光によって蛍光体101を励起させるためには,LEDチップ106からの光の方が蛍光体101から放出される光よりも短波長の方が効率よい。そのため,LEDチップ106としては種々の材料や構造を利用することができるが,高効率に発光輝度の高い可視光を発光可能な半導体素子として,窒化物半導体(In_(x)Ga_(y)Al_(1-x-y)N,0≦x≦1,0≦y≦1)を発光層に利用したものが好適に挙げられる。窒化物半導体を利用した発光素子はサファイア基板,スピネル基板やSiC,GaN単結晶などの上に形成させることができるが,量産性と結晶性を満たすものとしてサファイア基板上に低温バッファ層を介してn型及びp型の窒化物半導体を有するものが好ましい。n型及びp型の窒化物半導体を絶縁基板であるサファイア基板上に形成した場合,エッチングによりn型及びp型の窒化物半導体を露出させ同一面側に各電極を形成させる。 【0017】こうして形成されたLEDチップ106をパッケージ内部にエポキシ樹脂を用いてダイボンド固定すると共にパッケージに設けられたリード電極105と,LEDチップの各電極とをそれぞれ金線を用いてワイヤボンディングさせる(図1(A))。なお,リード電極と発光素子との電気的接続はワイヤーのほか,フリップチップ型の発光素子の場合,半田やAgペーストなどを利用して電気的に接続させることもできる。 【0018】他方,本発明に用いられる蛍光体101は可視光が発光可能な発光素子106からの発光を吸収し,可視光が発光可能な種々のものを利用することができる。特に,LEDチップ106からの青色可視光と,蛍光体101からの黄色の可視光との混色を利用した白色系が発光可能な発光ダイオードを構成する場合,ZnS:Ag,ClやZnS:Cu,AlなどのZnS系蛍光体(比重4?5)やYAG:CeなどのYAG(Y_(2)O_(3)・5/3Al_(2)O_(3))系蛍光体(比重4から7)などを利用することができる。 ・・・(中略)・・・ 【0025】蛍光体101を光拡散剤102と共に透光性モールド部材103となる材料中に含有し攪拌させる。ここで本発明に用いられる光拡散剤102は蛍光体101と比較して比重の軽いものであり,蛍光体101の着色を外部から視認しにくくさせるものである。したがって,透光性モールド部材103中に含有させることで白色に見えるものや補色関係にある色の光拡散剤102によって灰色や黒の無彩色とすることができる。 【0026】光拡散剤102としては,蛍光体101と比重差が大きいものほど量産性に優れる。その中でも透光性モールド部材103の比重よりも小さい光拡散剤102を選択することで,光拡散剤102が透光性モールド部材103の表面に浮いてくる。これは蛍光体101が含有された層,実質的に蛍光体101や光拡散剤102が含有されていない透光性となる層,光拡散剤103(審決注:「光拡散剤102」の誤記と認める。)が含有された層に分離して見える。このような見かけ上,3層以上の層構成とすることで蛍光体自体の色を隠蔽する効果が均一に光拡散剤及び蛍光体が含有されたものに比べて良好となる。 ・・・(中略)・・・ 【0032】あらかじめ発光素子とリード電極とを電気的に接続し固定させたパッケージのキャビティ内に光拡散剤及び蛍光体が混合攪拌されたエポキシ樹脂を滴下させる。この直後の発光装置の模式的断面図を図1(B)に示す。これを85℃180分の一次硬化,140℃240分の二次硬化によって発光装置を形成させた。形成された発光装置を発光観測面側から観測すると発光観測面側が灰色の無彩色となっており外光が照射されてもコントラスト比が低下することなく見栄えも優れたものであった。 【0033】なお,形成された発光装置を分析させた結果,図1(C)の断面のごとくキャビティ内部で発光素子に近づくにつれて蛍光体の濃度が高くなると共に光拡散剤は発光素子と対向する表面側で徐々に多くなっている。」 ウ「【0034】本発明の発光装置は,光拡散剤を含有させない場合と比較して蛍光体の使用量を少なくさせることができると共に混色性も優れている。 (実施態様例2) 蛍光体201としてY_(3)Al_(5)O_(12):Ce,光拡散剤202としてポリカーボネート(比重1.2),透光性モールド部材103としてアクリル樹脂(比重1.2)を用いて図2の模式的断面図に示す発光装置を形成させることができる。この発光装置200は上述の蛍光体201及び光拡散剤202を透光性モールド部材となる材料中に混ぜた後,スクリーン印刷した。この状態で透光性モールド部材203となる材料を硬化させ孔版(不示図)を外すことによって発光装置を形成させることができる。実施態様例2の発光装置は,実施態様例1と同様コントラスト比の高い発光装置とすることができる。なお,図2中の発光素子206はSiC基板上に形成させた発光層がInGaNからなる青色が発光可能なLEDチップであり,LEDチップ206の各電極とリード電極205とをそれぞれ導電性ワイヤとして金線207及びAgペースト208を用いて電気的に接続させてある。なお,本発明においては,チップタイプLEDについて詳述したが,ランプタイプLEDにも適用できることはいうまでもない。 ・・・(後略)・・・」 ここで,図1及び図2は以下のものである。 【図1】 【図2】 エ ここで,上記段落【0025】?【0026】及び段落【0032】の記載とともに図1(c)を参照すると,LEDチップ106とリード電極105とを電気的に接続し固定させたパッケージのキャビティ104内の底部においては,蛍光体101及び光拡散剤102を含有する透光性モールド部材103によりLEDチップ106が封止されていることが見て取れる。 また,上記段落【0018】の「特に,LEDチップ106からの青色可視光と,蛍光体101からの黄色の可視光との混色を利用した白色系が発光可能な発光ダイオードを構成する」との記載における「蛍光体101」が,「LEDチップ106からの青色可視光」を吸収し,「黄色の可視光」を発光することは明らかである。 また,上記段落【0013】及び段落【0034】の記載とともに図2を参照すると,光拡散剤202としてのポリカーボネート(比重1.2)と,透光性モールド部材103としてアクリル樹脂(比重1.2)とが同じ比重であることから,光拡散剤202は,透光性モールド部材103中に一様に「分散」していることがわかる。 以上を総合し,「実施態様例1」に注目すると,引用例には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「チップタイプLEDである発光装置100であって, 表面に凹部となるキャビティ104を持ち,キャビティ104内部には一対の対向するリード電極105が露出したパッケージを有し, リード電極105は,キャビティ104底面側からパッケージの側面まで延在しており外部からの電流をLEDチップ106に供給する働きをするものであり, キャビティ104内の底部には,LEDチップ106がダイボンド固定されており, リード電極105と,LEDチップ106の各電極とがそれぞれ金線を用いてワイヤボンディングされ, LEDチップ106とリード電極105とを電気的に接続し固定させたパッケージのキャビティ104内においては,蛍光体101及び光拡散剤102を含有する透光性モールド部材103によりLEDチップ106が封止されており, キャビティ104内の透光性モールド部材103は,蛍光体101が含有された層,実質的に蛍光体101や光拡散剤102が含有されていない透光性となる層,光拡散剤102が含有された層に分離した層構成であって,LEDチップ106に近づくにつれて蛍光体101の濃度が高くなると共に光拡散剤102はLEDチップ106と対向する表面側で徐々に多くなっており, 蛍光体101は,LEDチップ106からの青色可視光を吸収し,黄色の可視光を発光するものである, 発光装置100。」 (3)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明においては,「表面に凹部となるキャビティ104を持ち,キャビティ104内部には一対の対向するリード電極105が露出したパッケージを有し」,「キャビティ104内部には,LEDチップ106がダイボンド固定されて」おり,また,「リード電極105は,」「外部からの電流をLEDチップ106に供給する働きをするものであ」る。それゆえ,引用発明の「LEDチップ106」,「パッケージ」及び「リード電極105」は,それぞれ本願発明の「発光素子」,「支持体」及び「外部端子」に相当する。そして,引用発明において,「パッケージ」が「持つ」「キャビティ104内部に」「ダイボンド固定されて」,「リード電極105と,LEDチップ106の各電極とがそれぞれ金線を用いてワイヤボンディングされ」いる「LEDチップ106」は,本願発明の「支持体上に実装されて外部端子に電気的に接続された発光素子」に相当する。 イ 引用発明の「透光性モールド部材103によりLEDチップ106が封止されて」いることは,本願発明の「発光素子が透光性樹脂により封止され」ていることに相当する。 ウ 引用発明の「発光装置100」は,本願発明の「発光装置」に相当する。 エ 引用発明の「キャビティ104」は,「表面に凹部となる」ものであり,カップ形状を有するものといえるから,引用発明の「(パッケージが)表面に凹部となるキャビティ104を持ち,キャビティ104内部には一対の対向するリード電極105が露出し」,「キャビティ104内の底部には,LEDチップ106がダイボンド固定され」ることと,本願発明の「前記支持体は上端部に有するカップ部の内底部に前記発光素子が実装されるマウントリードであ」ることとは,「前記支持体はカップ部の内底部に前記発光素子が実装されるものである」点で一致する。 オ 引用発明においては,「LEDチップ106とリード電極105とを電気的に接続し固定させたパッケージのキャビティ104内においては,蛍光体101及び光拡散剤102を含有する透光性モールド部材103によりLEDチップ106が封止されて」いるところ,「蛍光体101は,LEDチップ106からの青色可視光を吸収し,黄色の可視光を発光するものである」。それゆえ,引用発明の「蛍光体101」であって,「LEDチップ106からの青色可視光を吸収し,黄色の可視光を発光するもの」は,本願発明の「発光素子からの光を吸収して異なる波長を有する光を発する蛍光物質」に相当する。そうすると,引用発明の「LEDチップ106とリード電極105とを電気的に接続し固定させたパッケージのキャビティ104内においては,蛍光体101及び光拡散剤102を含有する透光性モールド部材103によりLEDチップ106が封止されて」いることは,本願発明の「前記透光性樹脂は,発光素子からの光を吸収して異なる波長を有する光を発する蛍光物質および拡散剤を含み,前記カップ部内において前記発光素子を封止して」いることに相当する。 カ 引用発明の「キャビティ104内の透光性モールド部材103は,蛍光体101が含有された層,実質的に蛍光体101や光拡散剤102が含有されていない透光性となる層,光拡散剤102が含有された層に分離した層構成であって,LEDチップ106に近づくにつれて蛍光体101の濃度が高くなると共に光拡散剤102はLEDチップ106と対向する表面側で徐々に多くなって」いることと,本願発明の「前記カップ部内において,前記蛍光物質は発光素子に近い部分に偏在しており,前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分の全体に分散していること」とは,「前記カップ部内において,前記蛍光物質は発光素子に近い部分に偏在しており,前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分に存在していること」である点で一致する。 従って,引用発明と本願発明とは,以下の点で一致する。 「支持体上に実装されて外部端子に電気的に接続された発光素子が透光性樹脂により封止された発光装置であって, 前記支持体はカップ部の内底部に前記発光素子が実装されるものであり, 前記透光性樹脂は,発光素子からの光を吸収して異なる波長を有する光を発する蛍光物質および拡散剤を含み,前記カップ部内において前記発光素子を封止しており, 前記カップ部内において,前記蛍光物質は発光素子に近い部分に偏在しており,前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分に存在しているものである発光装置。」 一方,両者は以下の各点で相違する。 《相違点1》 本願発明は「前記支持体は上端部に有するカップ部の内底部に前記発光素子が実装されるマウントリードであ」る構成,及び「前記発光素子の実装部および前記マウントリードの上端部を含むように樹脂モールドにより凸レンズが配設されて」いる構成を備えるが,引用発明は「前記支持体はカップ部の内底部に前記発光素子が実装されるものであ」ることに対応する構成は備えるものの,「カップ部」を「上端部に有する」「マウントリード」は備えず,また,「前記発光素子の実装部および前記マウントリードの上端部を含むように樹脂モールドにより凸レンズが配設されて」いる構成も備えない点。 《相違点2》 本願発明は「前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分の全体に分散している」構成を備えるが,引用発明は「前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分に存在している」ことに対応する構成は備えるものの,「発光素子から離れた部分の全体に分散している」ことまでは特定されない点。 (4)判断 ア 相違点1について 上記3(2)ウにおいて摘示したとおり,引用例には,「なお,本発明においては,チップタイプLEDについて詳述したが,ランプタイプLEDにも適用できることはいうまでもない。」(段落【0034】)との記載があるところ,「ランプタイプLED」として,リードの先端に凹部を有して,当該凹部内にLEDチップをダイボンドするとともに,LEDチップがダイボンドされた部分を含むリード端部を樹脂モールドして,凸レンズが配されたランプ形状としたものは,以下の周知例1及び2にも示されているように,従来より周知のものである。 それゆえ,引用発明について,「チップタイプLED」に代えて上記周知の「ランプタイプLED」のものとして,相違点1に係る,「前記支持体は上端部に有するカップ部の内底部に前記発光素子が実装されるマウントリードであ」る構成,及び「前記発光素子の実装部および前記マウントリードの上端部を含むように樹脂モールドにより凸レンズが配設されて」いる構成を備えることは,当業者が適宜になし得たことである。 周知例1: 特開2003-86846号公報 本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-86846号公報(以下「周知例1」という。)には,図1,3?5とともに以下の記載がある。 「【0047】また,図1,3,5においてはリード電極を基板に表面実装が可能なチップタイプLEDについて説明したが,もちろん,図4に示すように,リード電極を基板に貫通させて実装するランプタイプLEDを用いることもできる。ランプタイプLEDは,リード電極13の凹部底面にLEDチップ14がダイボンディングされ,必要に応じてワイヤー15が張られた後に,LEDチップ14を覆うように第1の層16となる封止樹脂が例えば砲弾型に形成される。そしてこの場合も同様に,第1の層16表面に光拡散部材を有する第2の層17が形成される。なお,第2の層17の表面は,図2に示すように,光拡散部材に沿った凸部を複数備えた構成となる。」 図4は次のものである。 ここで,図4を参照すると,「封止樹脂が」「砲弾型に形成され」て,その上部が凸レンズを構成していることが明らかである。 周知例2: 特開平10-228249号公報 原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-228249号公報(以下「周知例2」という。)には,図1とともに以下の記載がある 「【0038】(基板104)本願発明に用いられる基板104とは,LEDチップ103を配置させると共に光を有効利用するため高反射率を有するものが好ましい。したがって,マウント部材によって接着させるために十分な大きさがあればよく,所望に応じて種々の形状や材料を用いることができる。具体的には,発光ダイオードに用いられるリードフレームやチップタイプLEDのパッケージなどが好適に用いられる。 【0039】基板104上には,LEDチップ103を1つ配置してもよいし,2以上配置することもできる。また,発光波長を調節させるなどために複数の発光波長を有するLEDチップを配置させることもできる。SiC上に形成された窒化物系化合物半導体を利用したLEDチップなどを配置させる場合,接着性と共に十分な電気伝導性がもとめられる。また,LEDチップ103の電極を導電性ワイヤーを利用して基板104となるリードフレームなどと接続させる場合は,導電性ワイヤーなどとの接続性が良いことが好ましい。 【0040】このような基板として具体的には,リードフレームやパッケージなどとして,鉄,銅,鉄入り銅,錫入り銅,銅金銀などをメッキしたアルミニウムや鉄,さらにはセラミックや種々の樹脂などを用いて種々の形状に形成させることができる。また,基板の一部を利用して反射部材を構成させてもよい。」 「【図面の簡単な説明】 【図1】図1は,本願発明の発光ダイオードの模式的断面図である。 ・・・(中略)・・・ 【符号の説明】 101,201・・・マウント部材 102,202・・・色変換部材 103,203,303・・・LEDチップ 104・・・基板であるマウント・リード 105・・・インナー・リード 106,206・・・モールド部材 107,207・・・導電性ワイヤー ・・・(後略)・・・」 図1は次のものである。 ここで,図1を参照すると,モールド部材の上部が凸曲面となって,凸レンズを構成していることが明らかである。 イ 相違点2について 上記3(2)エで検討したとおり,引用例には,光拡散剤が透光性モールド部材103中に一様に「分散」しているものが記載されており,このように「分散」させてもよいことは,引用例の段落【0013】における「光拡散剤は,分散あるいは発光素子と対向する表面側に分布する。したがって,発光観測面側からは,有彩色の蛍光体の色が光拡散剤で緩和される,あるいは無彩色に見えることになる。」との記載からも明らかである。 よって,引用発明において,「キャビティ104内の透光性モールド部材103は,蛍光体101が含有された層,実質的に蛍光体101や光拡散剤102が含有されていない透光性となる層,光拡散剤102が含有された層に分離した層構成であって,LEDチップ106に近づくにつれて蛍光体101の濃度が高くなると共に光拡散剤102はLEDチップ106と対向する表面側で徐々に多くなって」いる構成に代えて,「キャビティ104内の透光性モールド部材103は,蛍光体101が含有された層を有し,キャビティ104内の透光性モールド部材103は,LEDチップ106に近づくにつれて蛍光体101の濃度が高くなると共に光拡散剤102は透光性モールド部材103中に一様に分散している」構成とすることは当業者が適宜になし得たことであり,これにより,「キャビティ104内の透光性モールド部材103」のうち,「蛍光体101が含有された層」以外の部分の全体についても光拡散剤102が分散されることとなるのは当然であるから,相違点2に係る「前記拡散剤は前記蛍光物質が偏在する部分よりも発光素子から離れた部分の全体に分散している」構成を備えることは明らかである。 (5)まとめ 以上検討したとおり,本願発明は,周知技術及び引用例の記載事項を勘案して,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4 むすび 以上のとおりであるから,他の請求項を検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-11-27 |
結審通知日 | 2014-12-02 |
審決日 | 2014-12-15 |
出願番号 | 特願2006-48987(P2006-48987) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北島 拓馬 |
特許庁審判長 |
吉野 公夫 |
特許庁審判官 |
鈴木 肇 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 発光装置 |
代理人 | 特許業務法人スズエ国際特許事務所 |