• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部無効 2項進歩性  A23L
管理番号 1297437
審判番号 無効2011-800234  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-11-15 
確定日 2014-12-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3439559号「食品の風味向上法」の特許無効審判事件についてされた平成25年 7月22日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成25年(行ケ)第10243号平成25年11月13日言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3439559号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3439559号の請求項1,2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。 審判費用は,その3分の2を請求人の負担とし,3分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3439559号の出願についての主な手続の概要は,以下のとおりである。
なお,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法を,以下,「平成23年改正前特許法」という。
平成 7年 2月 1日 特許出願
平成15年 6月13日 特許権の設定登録(請求項の数3)
平成23年11月15日 無効審判請求(請求人)(甲第1?4号証)
平成24年 2月 3日 答弁書提出(被請求人)(乙第1及び2号
証)
平成24年 2月 3日 訂正請求書(被請求人)
平成24年 3月13日 弁駁書(請求人)(甲第5?7号証)
平成24年 3月13日 手続補正書(請求人)
平成24年 4月23日付け 審理事項通知書(当審)
平成24年 5月28日 口頭審理陳述要領書(請求人)(甲第8及び
9号証)
平成24年 5月28日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成24年 6月11日 上申書(被請求人)(乙第3及び4号証)
平成24年 6月11日 口頭審理
平成24年 6月11日 口頭審理において,平成24年3月13日付
けの手続補正に対する補正許否の決定を通知
(当該決定の結論:許可する)
平成24年 6月11日 口頭審理において,口頭で無効理由を通知
平成24年 7月 2日 訂正請求書(被請求人)
平成24年 7月 2日 答弁書(被請求人)(乙第5?7号証)
平成24年 8月 8日 弁駁書(請求人)
平成24年 8月 8日 手続補正書(甲第10?12号証)
平成24年 8月30日付け 平成24年8月8日付け手続補正に対する補
正許否の決定(当該決定の結論:許可する)
平成24年 9月28日付け 一次審決(訂正を認める。請求項1?3に係 る特許無効とする。)
平成24年11月 5日 知的財産高等裁判所出訴(平成24年(行ケ
)第10384号)(被請求人)
平成25年 2月 1日 訂正審判請求(訂正2013-390020
号)(被請求人)(参考資料1?20)
平成25年 2月22日付け 知的財産高等裁判所審決取消決定(平成23
年改正前特許法181条2項による)
平成25年 3月 4日付け 通知書(訂正請求のための期間指定通知(指
定期間10日))の発送
平成25年 5月23日 弁駁書(請求人)(甲第13号証)
平成25年 6月12日付け 補正許否の決定(平成25年5月23日付け
で提出した弁駁書による請求の理由の補正を
許可する。)
平成25年 6月12日付け 書面審理通知書
平成25年 7月22日付け 二次審決(請求項1及び請求項2の訂正を認
めない。請求項3の訂正を認める。請求項1
?3を無効とする。)
平成25年 8月28日 知的財産高等裁判所出訴(平成25年(行ケ
)第10243)(被請求人)
平成25年10月17日 訂正審判請求(訂正2013-390159
号)(被請求人)(刊行物1?12)
平成25年11月13日付け 知的財産高等裁判所審決取消決定(平成23
年改正前の特許法181条2項による)
平成25年11月22日付け 通知書(訂正請求のための期間指定通知(指
定期間10日))の発送
平成26年 1月14日 弁駁書(請求人)
平成26年 2月12日 上申書(請求人)
平成26年 2月25日付け 補正許否の決定(請求人提出の平成26年
1月14日付け弁駁書及び上申書における
請求の理由の補正について許可する。)
平成26年 3月17日 上申書(被請求人)(乙第8?11号証)

第2 訂正請求について
被請求人は,平成25年11月22日付け通知書において,訂正請求のための期間指定したが,被請求人が訂正請求をしなかったので,被請求人が行った平成25年10月17日付けの訂正審判請求(訂正2013-390159号)は,平成23年改正前特許法第134条の3第5項の規定により,その訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書を援用した,指定期間の末日になされた訂正請求とみなす。
なお,訂正2013-390159号は,平成23年改正前特許法第134条の3第4項の規定により,取り下げられたものとみなされる。
以上のことから,被請求人が平成25年10月17日にし,本件特許無効審判の訂正請求とみなされる訂正審判請求(以下,「本件訂正請求」という。)は,前記訂正審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを請求するものであって,以下の事項をその訂正内容とするものである(訂正による変更部分に下線を付した。)。

1 訂正の内容
本件訂正請求は,本件特許の明細書(以下,「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した明細書(以下,「訂正明細書」という。)及び特許請求の範囲(以下,「本件訂正特許請求の範囲」という。)のとおりに訂正しようとするものであって,訂正の内容は以下の訂正事項1?訂正事項10のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について,訂正前に
「【請求項1】 食塩含有食品に,シュクラロースを添加することを特徴とする食塩含有食品の風味向上法。」
とあったのを,
「【請求項1】 食塩を2?8重量%含有する食品に,シュクラロースを,その甘味の閾値以下の量添加することを特徴とする,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2について,訂正前に
「【請求項2】 食塩100重量部に対して,シュクラロースを0.0001?2.5重量部添加する請求項1記載の食塩含有食品の風味向上法。」
とあったのを,
「【請求項2】 食塩を2?8重量%含有する食品に,シュクラロースを,食塩100重量部に対して0.0001?2.5重量部の範囲内であって,シュクラロースの甘味の閾値以下になるように0.00005?0.00038重量%添加することを特徴とする,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3について,訂正前に
「【請求項3】 食塩100重量部に対して,シュクラロースを0.001?2.5重量部添加する請求項1記載の食塩含有食品の風味向上法。」
とあったのを,
「【請求項3】 食塩100重量部に対して,シュクラロースを0.001?1重量部添加することを特徴とする,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の明細書の段落【0004】に
「本発明の上記課題に鑑みなされたものであり,食塩含有食品の塩かどを取り,風味を向上させながら,後続する塩味を十分丸くし,こくを付けることができる食品の風味向上法を提供することを目的としている。」
とあったのを,
「【0004】本発明は上記課題に鑑みなされたものであり,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法を提供することを目的としている。」
と訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の明細書の段落【0005】に
「かくして,本発明によれば,食塩含有食品に,シュクラロースを添加する食塩含有食品の風味向上法が提供される。」
とあったのを,
「かくして,本発明によれば,食塩含有食品に,シュクラロースを添加する,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法が提供される。」
と訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の明細書の段落【0009】に
「アリテーム,,ステビア」
とあったのを,
「アリテーム,ステビア」
と訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の明細書の段落【0015】に
「シュクロース」及び「ショクラロース」
とあったのを,いずれも
「シュクラロース」
と訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の明細書の段落【0022】に
「5’-イノシン酸2ナトリウム0.01部に対してに対して」
とあったのを,
「5’-イノシン酸2ナトリウム0.01部に対して」
と訂正する。

(8)訂正事項9
訂正前の明細書の段落【0023】に
「またこの4倍濃縮の・・・(略)・・・,うどんの面を加え,素うどんを調理した。」
とあったのを,
「またこの4倍濃縮の・・・(略)・・・,うどんの麺を加え,素うどんを調理した。」
と訂正する。

(9)訂正事項10
訂正前の明細書の段落【0023】に
「さらに,この素うどんを冷凍保存した後,加熱冷凍しても同様の結果が得られた。」
とあったのを,
「さらに,この素うどんを冷凍保存した後,加熱解凍しても同様の結果が得られた。」
と訂正する。

(10)訂正事項11
訂正前の明細書の段落【0003】及び【0009】に
「ネオヘスペリジンデヒドロカルコン」
とあったのを,
「ネオヘスペリジンジヒドロカルコン」
に訂正する。

2 訂正の可否についての当審の判断
(1)訂正事項6?11について
明らかな誤字,句読点の重複,及び,用語の重複を訂正しようとするものであって,誤記の訂正を目的とするものに該当し,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
よって,訂正事項6?11は,平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合し,かつ,同条第5項において読み替えて準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから,訂正を認める。

(2)訂正事項2について
ア 新規事項の有無について
(ア)本件特許明細書記載の「塩なれ」について
本件特許明細書には,次の記載がある。
「【0010】
【実施例】以下に本発明の食品の風味向上法を説明する。
実験例1
イオン交換水100重量部に食塩8重量部を添加し,各種高甘味度甘味料を甘味度に応じた濃度で併用して,塩なれ効果をパネル10名で官能により評価した。その結果を表1に示す。・・・(略)・・・
【0011】
【表1】 (略)
備考 塩なれ - 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。
± やや塩味がやわらげられていると感じる。
+ 塩味がやわらげられず,塩味を直接感じる。
++ 塩味をつよく感じる。
・・・(略)・・・
【0013】実験例2
実験例1で塩なれ効果のある甘味料を用い,イオン交換水100重量部に食塩2,5,8,12,20重量部を添加し,各高甘味度甘味料を甘味度に応じた濃度で併用して,塩なれ効果をパネル10名で官能により評価した。その結果を表2に示す。・・・(略)・・・
【0014】
【表2】(略)
備考 塩なれ - 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。
± やや塩味がやわらげられていると感じる。
+ 塩味がやわらげられず,塩味を直接感じる。」

以上の記載事項からすると,「塩なれ」とは,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」ことを意味することは明白である。

そして,ここに,「以下に本発明の食品の風味向上法を説明する。」と記した上で,塩なれを評価しているのであるから,塩なれ,すなわち,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法が本件特許明細書に記載されていることは明らかである。

(イ)甘味の閾値以下における塩なれについて
本件特許明細書の段落【0015】には,
「表2から明らかなように,シュクロースは,食塩2?20g/100gの範囲にわたり,0.001?2.5gの添加量の範囲にわたり良好な結果が得られた。なかでも,食塩2,5,8g/100gの範囲においては,ショクラロースの甘味の閾値以下の量においても塩なれ効果があることが分かった。」(当審注:上記「第2 1(7)訂正事項7」に記したように,本件訂正請求により,「シュクロース」,「ショクラロース」は,「シュクラロース」の誤記である旨の訂正請求がなされている。)

段落【0008】に「このシュクラロースの添加量は,シュクラロースの甘味の閾値以下でも,すなわち甘味のない範囲でも塩なれ効果があることを意味する。」との記載があるとともに,その記載の裏付けとして,本件特許明細書の【表2】に,平均0.000038%とされるシュクラロースの甘味閾値(本件特許明細書の段落【0007】参照)を大幅に下回る濃度で塩なれが起きていることが次のように観察されている。
なお,段落【0013】に「実験例1で塩なれ効果のある甘味料を用い,イオン交換水100重量部に食塩2,5,8,12,20重量部を添加し,各高甘味度甘味料を甘味度に応じた濃度で併用して,塩なれ効果をパネル10名で官能により評価した。その結果を表2に示す。」と記載されているから,例えば,イオン交換水100重量部に食塩2重量部添加したものは,1.96%に相当する重量%の食塩水である。各濃度の後に重量%の換算値を付記する。
・塩濃度2重量部(1.96%):シュクラロース0.00001?0.05重量部(0.0000098?0.049%)で塩なれが観察され,その内,甘味閾値である0.00038%以下の0.0001重量部(0.000098%),0.00002重量部(0.0000196%)及び0.00001重量部(0.0000098%)で塩なれが観察されている。

・塩濃度5重量部(4.76%):シュクラロース0.000001?0.1重量部(0.00000095?0.0095%)で塩なれが観察され,その内,甘味閾値である0.00038%以下の0.000001重量部(0.00000095%)及び0.0001重量部(0.000095%)で塩なれが観察されている。

・塩濃度8重量部(7.41%):シュクラロース0.00005?0.1重量部(0.000046?0.093%)で塩なれが観察され,その内,甘味閾値である0.00038%以下の0.00005重量部(0.000046%)及び0.0001重量部(0.000093%)で塩なれが観察されている。

(ウ)小括
上記「(イ)甘味の閾値以下における塩なれについて」で述べたように本件特許明細書の【表2】からは,シュクラロースの甘味閾値以下から甘味閾値以上の広い範囲にわたって,塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じることがわかる。
【表2】で示された各食塩濃度における「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じること」ができるシュクラロース添加量の下限は,
食塩濃度(重量%) シュクラロース重量部(重量%)
1.96% 0.00001重量部(0.0000098%)
4.76% 0.000001重量部(0.00000095%)
7.41% 0.00005重量部(0.000046%)
であり,シュクラロースの甘味閾値である0.00038重量%を大幅に下回る濃度で「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じること」が観察されている。
食塩濃度1.96重量%?食塩濃度7.41重量%で上記現象が観察され,特に食塩濃度8重量%に近い7.41重量%で,シュクラロースの甘味閾値を大幅に下回る0.000046重量%で「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」ことが観察されたのであるから,「食塩濃度2?8重量%」の食品において訂正事項2の訂正事項2の「シュクラロースの甘味の閾値以下になるように0.00005?0.00038重量%」の濃度で「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」得ることは明らかなことであって,新たな技術的事項を導入するものではない。

そして,本件特許明細書の上記【表2】のデータは,イオン交換水に食塩を溶かした実験系(段落【0013】参照)であるが,イオン交換水に食塩を溶かした実験系で観察された上記現象が,食塩含有食品で起き得ないという理由はないから,訂正事項2は,本件特許明細書の記載の範囲内の事項であるといえる。

イ 訂正の目的について
(ア)塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせることについて
本件特許明細書の段落【0004】には,
「本発明の上記課題に鑑みなされたものであり,食塩含有食品の塩かどを取り,風味を向上させながら,後続する塩味を十分丸くし,こくを付けることができる食品の風味向上法を提供することを目的としている。」
と記載されていることから,訂正前の請求項2に係る発明の「風味向上法」には,「食塩含有食品の塩かどを取り,風味を向上させながら,後続する塩味を十分丸くし,こくを付けることができる食品の風味向上法」が含まれることは明らかである。
他方,上記「第2 2(2)ア(ア)本件特許明細書記載の「塩なれ」について」で述べたように,本件特許明細書の段落【0010】?【0014】の記載からみて,「以下に本発明の食品の風味向上法を説明する。」と記した上で,塩なれのみを評価しているのであるから,塩なれのみを目的とした風味向上方法,すなわち,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法も,訂正前の請求項2に係る発明の「風味向上法」に含まれることは明らかである。

そうすると,訂正前の請求項2に係る発明の「風味向上法」とは,本件特許明細書の記載に照らし,(i)「食塩含有食品の塩かどを取り,風味を向上させながら,後続する塩味を十分丸くし,こくを付けることができる食品の風味向上法」又は(ii)「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法のいずれかの風味向上法をいうものと理解され,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法と訂正することは,前記訂正前の風味の内容を一つのものに限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ)シュクラロースの添加量ついて
シュクラロースの添加量について,「シュクラロースの甘味の閾値以下になるように0.00005?0.00038重量%」と訂正することは,添加するシュクラロースの量を限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(ウ)「の範囲内であって」「ことを特徴とする」について
訂正事項2により「の範囲内であって」「ことを特徴とする」が訂正前の請求項2に加えられたが,上記訂正に伴い不明りょうとなった記載を整えるためにされた訂正であるといえ,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

ウ 変更又は拡張の有無について
上記「イ 訂正の目的について」で述べたように,訂正前の請求項2の「風味向上法」は,本件特許明細書の記載に照らし,(i)「食塩含有食品の塩かどを取り,風味を向上させながら,後続する塩味を十分丸くし,こくを付けることができる食品の風味向上法」又は(ii)「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法のいずれかの風味向上法をいうものと解され,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法と訂正することは,訂正前のものから1つを選択したにすぎないから,実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されるものではない。
また,シュクラロースの添加量について,「シュクラロースの甘味の閾値以下になるように0.00005?0.00038重量%」と訂正することで,実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されることはない。
訂正事項2により「の範囲内であって」「ことを特徴とする」が訂正前の請求項2に加えられたが,表現が整えられただけであって,実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されるものではない。

エ 小括
訂正事項2は,平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合し,かつ,同条第5項において読み替えて準用する準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから,請求項2に係る訂正を認める。

(3)訂正事項1について
ア 新規事項について
上記「第2 2(2)ア(イ)甘味の閾値以下における塩なれについて」で述べたように,食塩濃度1.96重量%?食塩濃度7.41重量%でシュクラロースの甘味閾値以下の濃度で塩なれが観察されている。食塩濃度8重量%に近い7.41重量%で,シュクラロースの甘味閾値(0.00038重量%)より大幅に低い0.00005重量部(0.000046重量%)のシュクラロース濃度で塩なれが観察されているから,食塩濃度8%になったとしても,塩なれが観察され得ることは明らかである。食塩を「2?8重量%含有する食品」と訂正し,「その甘味の閾値以下の量添加する」ことは,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件特許明細書の記載の範囲内の事項であるといえる。

そして,上記「第2 2(2)ア(ア)本件特許明細書記載の「塩なれ」について」で述べたように,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法が本件特許明細書に記載されていることは明らかである。

イ 訂正の目的について
(ア)食品の食塩濃度について
訂正前に「食塩含有食品」とあったところ,食塩を「2?8重量%含有する食品」と訂正することは,食塩含有食品の食塩濃度を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(イ)シュクラロースの濃度について
訂正前に「シュクラロースを添加する」とあったところ,シュクラロースを「その甘味の閾値以下の量」添加すると訂正することは,シュクラロースの添加量を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,訂正前の「添加することを特徴とする」とあったのを「添加することを特徴とする,」と濁点を加えたことは,表現を整えるものであって,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(ウ)塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせることについて
上記「第2 2(2)イ(ア)塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせることについて」と同様の理由で,訂正前の請求項2に係る発明の「風味向上法」とは,本件特許明細書の記載に照らし,(i)「食塩含有食品の塩かどを取り,風味を向上させながら,後続する塩味を十分丸くし,こくを付けることができる食品の風味向上法」又は(ii)「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法のいずれかの風味向上法をいうものと理解され,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法と訂正することは,前記訂正前の風味の内容を一つのものに限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

ウ 変更又は拡張の有無について
訂正前の請求項2の「風味向上法」は,本件特許明細書の記載に照らし,「食塩含有食品の塩かどを取り,風味を向上させながら,後続する塩味を十分丸くし,こくを付けることができる食品の風味向上法」又は「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法のいずれかの風味向上法をいうものと解され,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」風味向上法と訂正することにより,実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されるものではない。
シュクラロースの添加量について,「その甘味の閾値以下の量添加することを特徴とする,」と訂正することで,実質上特許請求の範囲が拡張又は変更されることはない。

エ 小括
訂正事項1は,平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合し,かつ,同条第5項において読み替えて準用する準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから,請求項1に係る訂正を認める。

(4)訂正事項3について
訂正前に「0.001?2.5重量部」とあったのを「0.001?1重量部」と訂正することは,範囲を狭めるものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することは明らかであるし,本件特許明細書に記載の範囲内の事項であることも自明なことである。
また,訂正前に「添加する」とあったのを,「添加することを特徴とする,」と訂正することは,表現を整えるものであって,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
さらに,訂正前の「風味向上法」を「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法」と訂正することは,上記「第2 2(2)ア(イ)甘味の閾値以下における塩なれについて」で述べたように,本件特許明細書の記載の範囲内の事項であるといえ,上記「第2 2(2)イ(ア)塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせることについて」と同様の理由で,前記訂正前の風味の内容を一つのものに限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
以上の訂正事項は,いずれも,実質上特許請求の範囲が拡張又は変更するものではない。

したがって,訂正事項3は,平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合し,かつ,同条第5項において読み替えて準用する準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから,請求項3に係る訂正を認める。

(5)訂正事項4及び5について
訂正事項4及び5は,訂正事項1?3の訂正に伴い,不明りょうとなった本件特許明細書の発明の詳細な説明の表現を訂正するものであって,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し,新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって,訂正事項4及び5は,平成23年改正前特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合し,かつ,同条第5項において読み替えて準用する準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するから,訂正を認める。

3 訂正請求に対する結論
以上のとおりであるから,本件訂正を認める。
以下,訂正された本件請求項1?3を「訂正発明1?3」といい,それぞれの発明を「訂正発明1」のようにいう。

第3 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張
「特許第3439559号の請求項1ないし請求項3にかかる発明についての特許をいずれも無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,下記「第3 3」に示した証拠を提出した。

2 無効理由
訂正発明に関する無効理由について,平成26年1月14日付け弁駁書及び平成26年2月12日付け上申書の内容を整理すると次のとおりである。
(1)無効理由1(訂正発明1?3に対する特許法第36条違反)
本件訂正発明1ないし同3のおける「食品含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法」の「刺激を丸く感じさせる」は,当業者において,いわゆる「塩なれ」とどのように異なるのか,客観的に特定されておらず,不明瞭であることは既に主張した(請求人平成24年8月8日付「手続補正書」5頁25行?7頁6行)。
この点,被請求人は,「『刺激を丸く感じさせる』効果は,『塩味をやわらげる』効果と質的に異なる効果である。」(本件訂正請求書 25頁末行?26頁1行)と主張するが,この根拠は,本件明細書における実施例でパネラーが主観的に判断した記号「-」だけであり,客観的根拠はない。
仮に,被請求人が主張するとおり,「刺激を丸く感じさせる」が,いわゆる塩なれと質的に異なるものであるとすれば,その客観的不特定性はさらに増すと言わざるをえない。
したがって,平成6年法律第116号改正附則第6条第2項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第5項第2号違反するものであって,その特許は平成6年法律第116号改正附則第6条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成6年改正前」という。)の特許法第123条第1項第4号の規定に該当し,特許は無効とするべきである。(平成26年1月14日付け弁駁書19頁1?15行,平成26年2月12日付け上申書16頁4?5行)

(2)訂正発明1に対する無効理由2(特許法第29条違反)
ア 訂正発明1に対する無効理由2-1
ショ糖で少なくとも1%から10%食塩溶液において塩から味がほぼ相殺され(甲第5号証),ジヒドロカルコン類(甲第6号証)で少なくとも2%?8%の食塩溶液において,グリチルリチン(甲第10号証),ステビア甘味料(甲第7号証),ステビオサイド(甲第11号証),イソマルトオリゴ糖(参考資料11),及び,ブドウ糖と砂糖の併用で塩なれが観察され,これら様々な甘味料で塩かどが取れる作用があることが知られており,これらを併せて公知発明となっていた。(平成26年1月14日付け弁駁書12頁「(3)公知発明」の項)
訂正発明1は,前記公知発明において,塩なれ効果のある甘味料を探索し,本件特許の出願時に周知のシュクラロース(甲第3号証及び甲第4号証)を選択したものであって,食塩の含有量が2?4%の場合に,微量の甘味料を添加することで塩なれ効果が生じることは,本件出願前に周知(甲第13号証83頁表5)であり,また,食塩の含有量により,『塩なれ』が起きる甘味料の添加量が異なることは技術常識であり,シュクラロースを選択する際に,食塩量に対してどのような範囲で塩なれが起きるか,当業者であれば当然調べる事項といえるから,シュクラロースの添加量を「その甘味の閾値以下の量」添加することとすることは,単なる設計的事項といえる。
しかも,例えば,甲13には,砂糖(シヨ糖)の甘味の閾値に近い「0.5%」で,2%の食塩水において「塩なれ効果」があることが開示されており(甲第13号証83頁表5),当該記載に接した当業者が,甘味の閾値以下の添加量について,塩なれ効果があるかどうかを調べることは,当然の事項である。
以上のことから,訂正発明1は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであり,その特許は平成6年改正前の特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とするべきである。(平成26年1月14日付け弁駁書11頁13行?16頁9行,平成26年2月12日付け上申書12頁8?11行)

イ 訂正発明1に対する無効理由2-2
訂正発明1は,甲第5号証に記載の発明において,塩なれ効果のある甘味料を探索し,本件特許の出願時に周知のシュクラロース(甲第3号証及び甲第4号証)を選択したものであって,食塩の含有量が2?4%の場合に,微量の甘味料を添加することで塩なれ効果が生じることは,本件出願前に周知(甲第13号証83頁表5)であり,また,食塩の含有量により,『塩なれ』が起きる甘味料の添加量が異なることは技術常識であり,シュクラロースを選択する際に,食塩量に対してどのような範囲で塩なれが起きるか,当業者であれば当然調べる事項といえるから,シュクラロースの添加量を「その甘味の閾値以下の量」添加することとすることは,単なる設計的事項といえる。
しかも,例えば,甲13には,砂糖(シヨ糖)の甘味の閾値に近い「0.5%」で,2%の食塩水において「塩なれ効果」があることが開示されており(甲第13号証83頁表5),当該記載に接した当業者が,甘味の閾値以下の添加量について,塩なれ効果があるかどうかを調べることは,当然の事項である。
以上のことから,訂正発明1は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであり,その特許は平成6年改正前の特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とするべきである。(平成26年2月12日付け上申書12頁11行?13頁下から2行)

(3)訂正発明2に対する無効理由2(特許法第29条違反)
ア 訂正発明2に対する無効理由2-1
上記「(2)ア 訂正発明1に対する無効理由2-1」の理由に加えて,例えば,甲13には,砂糖(ショ糖)の甘味の閾値に近い「0.5%」で,2%の食塩水において「塩なれ効果」があることが開示されているところ(甲第13号証83頁表5),シュクラロースの甘味度がショ糖の600倍であることを考慮すれば,前記の添加量はシュクラロースに換算すれば「0.0008%」(0.5%÷600)となる。
よって,当該記載に接した当業者が,シュクラロースに関して,「0.0008%」程度の添加量を試み,甘味の閾値以下で同様の効果があるかどうかを調べることは,当然である。
したがって,公知発明において,これまで知られていない塩なれ効果を有する化合物を探索すべくシュクラロースを選び,その際,シュクラロースの添加量を相違点4-2に記載の本件訂正発明2の特定事項のごとくすることは,当業者が適宜なし得る単なる設計的事項にすぎない。
以上のことから,訂正発明2は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであり,その特許は平成6年改正前の特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とするべきである。(平成26年1月14日付け弁駁書16頁11行?17頁19行,平成26年2月12日付け上申書14頁3?5行)

イ 訂正発明2に対する無効理由2-2
上記「(2)イ 訂正発明1に対する無効理由2-2」の理由に加えて,例えば,甲13には,砂糖(ショ糖)の甘味の閾値に近い「0.5%」で,2%の食塩水において「塩なれ効果」があることが開示されているところ(甲第13号証83頁表5),シュクラロースの甘味度がショ糖の600倍であることを考慮すれば,前記の添加量はシュクラロースに換算すれば「0.0008%」(0.5%÷600)となる。
よって,当該記載に接した当業者が,シュクラロースに関して,「0.0008%」程度の添加量を試み,甘味の閾値以下で同様の効果があるかどうかを調べることは,当然である。
したがって,甲第5号証に記載の発明において,塩なれ効果のある甘味料を探索し,本件特許の出願時に周知のシュクラロース(甲第3号証及び甲第4号証)を選択したものであって,その際,シュクラロースの添加量を本件訂正発明2の特定事項のごとくすることは,当業者が適宜なし得る単なる設計的事項にすぎない。
以上のことから,訂正発明2は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであり,その特許は平成6年改正前の特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とするべきである。(平成26年2月12日付け上申書14頁6行?15頁1行)

(3) 訂正発明3に対する無効理由2(特許法第29条違反)
ア 訂正発明3に対する無効理由2-1
ショ糖で少なくとも1%から10%食塩溶液において塩から味がほぼ相殺され(甲第5号証),ジヒドロカルコン類(甲第6号証)で少なくとも2%?8%の食塩溶液において,グリチルリチン(甲第10号証),ステビア甘味料(甲第7号証),ステビオサイド(甲第11号証),イソマルトオリゴ糖(参考資料11),及び,ブドウ糖と砂糖の併用で塩なれが観察され,これら様々な甘味料で塩かどが取れる作用があることが知られており,これらを併せて公知発明となっていた。(平成26年1月14日付け弁駁書12頁「(3)公知発明」の項)
訂正発明1は,前記公知発明において,塩なれ効果のある甘味料を探索し,本件特許の出願時に周知のシュクラロース(甲第3号証及び甲第4号証)を選択したものであって,食塩の含有量により,『塩なれ』が起きる甘味料の添加量が異なることは技術常識であり,シュクラロースを選択する際に,食塩量に対してどのような範囲で塩なれが起きるか,当業者であれば当然調べる事項といえる。
そして,例えば,甲第5号証には,1%食塩水溶液に対し,ショ糖を「2%」添加することで「塩なれ効果」があることが開示されているところ,シュクラロースの甘味度がショ糖の600倍であることを考慮すれば,前記の添加量は,「食塩100重量部に対して,シュクラロースを0.3重量部」の添加量に相当する。
よって,当該記載に接した当業者が,シュクラロースに関して,「0.3重量部」程度の添加量を試み,塩なれの効果があるかどうかを調べることは,当然である。
以上のことから,訂正発明3は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであり,その特許は平成6年改正前の特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とするべきである。
(平成26年1月14日付け弁駁書17頁21行?18頁末行,平成26年2月12日付け上申書15頁5?7行)

イ 訂正発明3に対する無効理由2-2
甲第5号証に記載の発明において,塩なれ効果のある甘味料を探索し,本件特許の出願時に周知のシュクラロース(甲第3号証及び甲第4号証)を選択したものであって,その際,シュクラロースの添加量を本件訂正発明3の特定事項のごとくすることは,当業者が容易に発明できたものである。(平成26年2月12日付け上申書15頁8?21行)

3 証拠方法
甲第1号証 特開平6-189666号公報
甲第2号証 「朝鮮料理全集3 キムチと保存食」,株式会社柴田書店,
初版,1985年9月1日,42?43頁,84?85頁
甲第3号証 特開昭52-87275号公報
甲第4号証 特開平2-177870号公報
甲第5号証 浜島教子,基本的四味の相互関係について,調理科学,vol.
8,no.3,1975年,132?136頁
甲第6号証 特開昭50-13568号公報
甲第7号証 特開平6-133724号公報
甲第8号証 「広辞林 第六版<机上版>」,株式会社三省堂,第3刷,
1984年5月31日,669頁
甲第9号証 米山直人による実験報告書,平成24年5月22日作成
甲第10号証 馬越洋一,食品と科学,第25巻第7号,昭和58年7月,
90?94頁
甲第11号証 小川敏夫,「最新漬物製造技術」,食品研究社,改訂第5
版,昭和54年10月1日,188?199頁
甲第12号証 河野友美,「食品大事典」,株式会社真珠書院,昭和45年
10月15日,299頁
甲第13号証 土屋茂樹,漬物への甘味料の利用,「食品と科学 増刊 そ
うざい・漬物読本」,株式会社食品と科学社,1988増刊号,
昭和63年6月30日,80?83頁

4 主な甲号証の記載内容
無効理由に係る主な証拠方法の記載事項は次のとおりである。また,下線は当審にて付記したものである。

(1)甲第3号証記載の事項
(甲3-1)「(3)一般式(I)で表される化合物が,(イ)1’-クロロ-1’デオキシシュクロース,(ロ)4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル-β-D-フラクトフラノシド,(ハ)4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル-1-クロロ-1-デオキシ-β-D-フラクトフラノシド,(ニ)1’,6’-ジクロロ-1’,6’-ジデオキシシュクロース,(ホ)4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル-1,6-ジクロロ-1,6-ジデオキシ-β-D-フラクトフラノシド,(へ)4,6-ジクロロ-4,6-デオキシ-α-D-ガラウトピラノシル-6-クロロ-6-デオキシ-β-Dフラクトフラノシド,(ト)6,1’,6’-トリクロロ-6,1’,6’-トリデオキシシュクロース,(チ)4,6-ジクロロ-4,6-ジデオキシ-α-Dガラクトピラノシル-1,6-ジクロロ-1,6-ジデオキシ-β-D-フラクトフラノシド,あるいは(リ)4,6,1’,6’-テトラクロロ-4,6,1’,6’-テトラデオキシシュクロースである特許請求の範囲第1項または第2項記載の方法。」(1頁右下欄7行?2頁左上欄7行)

(甲3-2)「一般式(I)で示される化合物は「飲食物」および「口中物」に甘味を付与するのに有用であるのみならず,一般に知られている甘味剤の用途すべてに適する甘味剤である。これらの化合物は公知の液体または固体希釈剤および担体と混合した「甘味組成物」として利用することも出来る。」(4頁右上欄2?7行)

(甲3-3)「この表に示した化合物の名称は次のとおりである。(規則的命名法による名称を最初にし,4-位置に塩素置換がある場合には「ガラクトシュクロース」に基づいた俗称を括弧内に示した。)
・・・(略)・・・
(3)4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシル-1-クロロ-1-デオキシ-β-D-フラクトフラノシド(4,1’-ジクロロ-4,1’-ジデオキシガラクトシュクロース)
・・・(略)・・・
(5)4-クロロ-4-デオキシ-α-D-ガラクトピラノシルー1,6-ジクロロ-1,6-ジデオキシ-β-D-フラクトフラノシド(4,1’,6’-トリクロロ-4,1’,6’-トリデオキシガラクトシュクロース)」(4頁右下欄3行?5頁左上欄17行)

(2)甲第5号証記載の事項
(甲5-1)「試料は実際の食物と関連深い濃度の水溶液を用いることにした。塩から味試料としては汁物,煮物,漬物,しょうゆ等に相当する1,2,10,20%食塩溶液を調製し,それら原液に対し各々5段階の外割%のショ糖を添加し,塩から味と甘味の関係を検討した。・・・(略)・・・
被験者としては福岡女学院短期大学に在籍する女子学生のうち,基本的五味の閾値テスト及び濃度差識別テストの結果優れた20名(18?20才)を選び,順位法並びに2点識別試験法による味覚テストを行なった。更に各々の検体について塩から味,甘味のいずれを強く感ずるかについてのテストを行なった。試料順序及び配置はランダム化し,順位法の場合には5試料を1回に,2点識別試験法の場合には2?3組を1回として行なった。各検体についてのテストは1回に5試料を提出し,1コずつよく味わって判定するようにさせた。試料提出温度は室温(約20℃に調整)と同じくし,時刻は日曜日以外の午前10?11時とした。試飲は初めに蒸溜水で口をすすぎ,次に40cc容コップに約30ccずつ注がれた試料を適量口に入れ,口の中全体でよく味わい,吐き出すという方法で,試料と試料の間には蒸溜水で口をすすぐようにさせた。」(132頁左欄18行?同頁右欄9行)

(甲5-2)「1.塩から味はショ糖の添加により減少し,1?2%の食塩濃度では7?10倍のショ糖添加により塩から味がほぼ消殺されることがわかった。(第1?4表参照)」(132頁右欄13行?133頁左欄1行)

(甲5-3)第1表?第4表




(3)甲第6号証記載の事項
(甲6-1)「2.特許請求の範囲
(当審注:化学構造式省略)
(但しR_(1)はネオヘメペリドース残基もしくはグルコース,残基を示し,R_(2),R_(3)は水素,ヒドロキシ基,メトキシ基,エトキシ基もしくはプロポシキ基を示す)にて示されるジヒドロカルコン類を,0.1%以上の鹹味を有する塩類を含む食品に,該塩類1部に対し0.0001部ないし0.1部用いることにより該食品の呈味を改善することを特徴とする食品の呈味改善法。」(1頁左下欄3?11行)

(甲6-2)「一般に甘味と鹹味(塩から味)は複合されにくい味とされており,通常の甘味剤,例えば,蔗糖,ぶどう糖,サツカリン,ナトリウムでは,甘味と鹹味は比較的明瞭に分離して知覚される。グリチルリチンはその甘味の立ち上がりが弱く,甘味が後味として持続するが鹹味を緩和する効果を持つので,醤油,味噌に現在よく用いられている。しかし,グリチルリチンは苦味と独特のフレーバー作用があり,必ずしも一般的に好まれる甘味剤ではない。
発明者らは,甘味を呈する下記の構造式のジヒドロカルコン類を鹹味を有する食品に所定量加えることにより,ジヒドロカルコン類が鹹味を大巾に緩和する効果,すなわち塩なれ効果を有し,嗜好性の高い食品を作り出すことを見出した。」(1頁左下欄下から3行?同頁右下欄13行)

(甲6-3)「実験例1
試料1,2,3につき,味覚の識別能力の優秀な者として選ばれた6人を検査員として鹹味の強さをシエフエの一対比較法により比較した結果,第1表に示すとおり主効果は1%の危険率で有意差が認められた。組合せ,順序効果には有意差が認められなかった。
試料
1. 100mlの水に食塩1gを溶したもの。
2. 100mlの水に食塩lg,砂糖2gを溶したもの。
3. 100mlの水に食塩1g,ネオヘスペリジン・ジヒドロカルコン2mg溶したもの。」(2頁右下欄1行?末行)

(甲6-4)3頁左上欄 第1表


(甲6-5)3頁左上欄 第2表



(甲6-6)「第2表に示したとおり,食塩水の鹹味度は,砂糖あるいはネオヘスペリジン・ジヒドロカルコンの添加で明らかに低下している。ネオヘスペリジン・ジヒドロカルコンの甘味度は,砂糖の1,000倍であるので,試料2と3には食塩に対し,甘味度が等しくなるように砂糖およびネオヘスペリジン・ジヒドロカルコンが添加されているはずである。ところが,ネオヘスペリジン・ジヒドロカルコンを添加した試料3の方が砂糖を添加した試料2にくらべ,明らかに鹹味の減少をもたらす。すなわち,ネオヘスペリジン・ジヒドロカルコンの塩なれ効果が著しく高いことを示している。」(3頁左上欄本文1行?同頁右上欄7行)

(甲6-7)3頁左下欄 第3表



(甲6-8)「第3表からわかるとおり,ネオヘスペリジン・ジヒドロカルコンの添加によつて,食塩水の鹹味度は著しく低下し,いわゆる塩なれ効果が明瞭に認められた。」(3頁左下欄下から2行?同頁右下欄2行)

(甲6-9)「本発明方法において,ジヒドロカルコン類が好ましい塩なれ効果をもたらすのは,食品中あるいは食品に加える塩類の鹹味が食塩水で0.1%(重量)以上,望ましくは1%以上の場合であり,これ以下の濃度の鹹味では明瞭な塩なれ効果は認めにくい。また,ジヒドロカルコン類の添加量は塩類に対して0.0001部以上,0.1部以下であることが必要である。」(2頁右上欄12?19行)

(4)甲第7号証記載の事項
(甲7-1)「【0002】
【従来の技術】漬物,醤油,水産練製品,タレ,ツユ等の,食塩を多く含有する所謂塩性食品には各食品メーカーの独自の味を出すために,色々な調味料を使用するのが一般的である。ステビア甘味料,甘草甘味料は従来から塩性食品の塩辛さを無くする所謂塩なれ効果を期待して単独で或いは甘草とステビアの混合製剤として,粉末状または顆粒状で使用されている。」

(5)甲第8号証記載の事項
(甲8-1)「こく【濃】深みのある味わい。「-のある酒」」(669頁「こく」の項目)

(6)甲第10号証記載の事項
(甲10-1)「塩なれ効果
食塩を多く含む食品では,後味に強い塩から味を感じる。後味に甘味が現れるグリチルリチンは,この塩から味を抑え,いわゆる,塩なれ効果を有する。塩なれ効果が,グリチルリチンに優るものはない。そのため,含塩食品に賜与すればマイルドな味を得ることができる。
・・・(略)・・・
コクづけ
グリチルリチンは,味に持続性があるため,各種調味料との相乗効果が期待でき,味に幅ができ,調和のとれたコクづけができる。」(91頁2段2?30行)

(7)甲第11号証記載の事項
(甲11-1)「3 ブドウ糖
澱粉を酸または酵素により分解して作られ,一般には粉状のものが使用される。
さわやかな甘味は,砂糖と併用すれば甘味の良化に役立ち,塩なれを良くする。」(189頁下段10?14行)(当審注:「3 ブドウ糖」の「3」は,○の中に3が入る文字を示す。以下,甲第11号証の引用箇所における数字は,○の中に数字が入る文字を示す。)

(甲11-2)「7 グリチルリチン(甘草エキス)
甘草(多年生荳科植物)の根に含まれる甘味成分で,原料は・・・(略)・・・輸入される。
・・・(略)・・・
他の甘味料に比して,持続する甘味をもっているのが特長で,食塩分の高い,しょうゆ,みそ,漬物等には,この持続する甘味が塩味と調味するため使用されている。
漬物の中でも特に塩味の強いものには塩なれのために使用される。塩味は後続する味があるため後続する塩味を甘草の甘味がカバーするわけである。」(191頁中段最後から3行?同頁下段16行)

(甲11-3)「8 ステビオサイド
・・・(略)・・・
後に引く甘味はグリチルリチン程ではないが,砂糖よりはるかに強いので,塩なれ効果も期待できる。」(192頁上段12行?193頁上段12行)

(甲11-4)「経時的には,砂糖は早期に出現する甘味をもち,ブドウ糖,ソルビットは持続し,甘草エキスはさらに後続する甘味をもつ,甘草は,このような意味から,塩味の強い食品に配合される。」(194頁中段3?7行)

(8)甲第12号証記載の事項
(甲12-1)「こく(-)味についての言葉の一つ。味の深みとか,濃厚といった意味に使われている微妙な言葉。具体的にどのような味とは表現することはできないものをもっているあいまいなもので,各人の解釈に相当の隔りがある。」(299頁「こく」の項)

(9)甲第13号証記載の事項
(甲13-1)表4 82頁



(甲13-2)表5 83頁



(甲13-3)「特に,漬物は,塩分が,味の主体である。薄味,あるいは濃味にせよ,それぞれ,味のバランスを取ることが,大切である。
具体的にいうならば,砂糖,グリチルリチン,ステビオサイド,そして食塩の,各々の呈味性を,比較すると,食塩の呈味は,どちらかというと,後味性で,砂糖の,前味性と一致せず,甘鹹が分かれて感じられる。つまり,バランスが,悪いわけである。
一方,グリチルリチンは,その食塩の後味性に,類似しているため,適正に配合すれば,鹹味によくあってくる。一例を示せば,図2のように,食塩二%と,それに対し,グリチルリチンを,二,000分の一添加すると,全体のバランスが良くなり,鹹さを,押さえることができる。これが,グリチルリチンの,特性の一つであり,いわゆる「塩馴れ効果」として,表現されているものである。
それでは,この塩馴れ効果について,当社の製剤を例として,表5に,今一度まとめてみた。例えば,二%食塩水に,グリチミンを0.00七%添加すれば,グリチミンの塩馴れ効果により,一.五%程度の塩度に,感じられる,というものである。実際に,きき味として感じられる塩分濃度を,舌感塩度という。
このように,食塩に,甘味料を加えると,舌感塩度で,食塩の鹹味を,押さえることができる。・・・(略)・・・つまり,塩馴れは,グリチミン>ステビア製剤>砂糖の順になった。」(82頁4段2行?83頁3段2行)

第4 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張
平成24年2月3日付け答弁書,同年5月28日付け口頭審理陳述要領書,同年6月11日付け上申書,同年6月11日の口頭審理,同年7月2日付け答弁書,及び,本件訂正請求における主張を整理すると,被請求人は,「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,下記「第4 2」に示した証拠方法を提出するものである。

2 証拠方法
乙第1号証 「キムチQA | チェさんのキムチ通販サイト」(株式会
社オフィス東京のホームページ
<URL:http://www.kimchi3.com/faq.html>
乙第2号証 「計量変換cc⇔g by liberty980[クックパッド]簡単おい
しいみんなのレシピが112万品」(COOKPADのホームページ
<URL:http://cookpad.com/recipe/996448>
乙第3号証 JIS Z8144 官能評価分析-用語,財団法人日本規格協会,
第1刷,平成16年3月20日,7頁,21?22頁
乙第4号証 芳仲幸治作成の実験報告書,2012年6月8日作成
乙第5号証 「広辞苑第三版」,株式会社岩波書店,第3版第1刷,昭和
58年12月6日,552頁,「かんみ【鹹味】」の項
乙第6号証 芳仲幸治作成の実験報告書(2),2012年6月26日作成
乙第7号証 藤井正美監修,「高甘味度甘味料 スクラロースのすべて」
,株式会社光琳,平成15年5月30日,21頁
乙第8号証 「広辞苑第三版」,株式会社岩波書店,第3版第1刷,昭和
58年12月6日,552頁,「甘味料」の項
乙第9号証 桜井芳人編,総合 食品事典 第六版,同文書院,第六版第
1刷,昭和61年5月5日,219頁
乙第10号証 日本味と匂学会編,味のなんでも小辞典 甘いものはなぜ別
腹?,株式会社講談社,第1刷,2004年4月20日,
38?39頁
乙第11号証 「広辞苑第三版」,株式会社岩波書店,第3版第1刷,昭和
58年12月6日,419頁,「かくし【隠し】」の項の
「--あじ【隠味】」の項
参考資料1 甲第1号証と同じ
参考資料2 甲第3号証と同じ
参考資料3 甲第4号証と同じ
参考資料4 甲第5号証と同じ
参考資料5 甲第6号証と同じ
参考資料6 甲第7号証と同じ
参考資料7 甲第10号証と同じ
参考資料8 甲第11号証と同じ
参考資料9 竹内征夫,「特集 調味料産業の新展開 天然系調味料とコ
ク味」,食品と科学,第29巻第7号,1987年,93?99頁
参考資料10 特開昭60-9462号公報
参考資料11 特開平2-72842号公報
参考資料12 特開平4-112766号公報
参考資料13 特開昭57-122774号公報
参考資料14 土屋茂樹,漬物への甘味料の利用,「食品と科学 増刊 そ
うざい・漬物読本」,株式会社食品と科学社,1988増刊
号,昭和63年6月30日,81頁(甲第13号証と同じ)
参考資料15 「食品と科学1982年12月号」,株式会社食品と科学社
,VOL.24,NO.12,1982年,101頁
参考資料16 特開昭62-210965号公報
参考資料17 JIS官能評価分析-用語 JIS Z8144
参考資料18 芳仲幸治作成の実験報告書1,2013年1月28日作成
参考資料19 「新版官能検査ハンドブック」,日科技連官能検査委員会編
著,株式会社日科技連出版社,1995年3月7日,304
?307頁及び844?845頁
参考資料20 乙第6号証と同じ
刊行物1 甲第1号証と同じ
刊行物2 甲第2号証と同じ
刊行物3 甲第3号証と同じ
刊行物4 甲第4号証と同じ
刊行物5 甲第5号証と同じ
刊行物6 甲第6号証と同じ
刊行物7 甲第7号証と同じ
刊行物8 甲第10号証と同じ
刊行物9 甲第11号証と同じ
刊行物10 甲第13号証と同じ
刊行物11 乙第6号証と同じ
刊行物12 特開平2-72824号公報

3 被請求人の提出した主な証拠方法の記載事項
(1)乙第4号証記載の事項
実験方法として,
水に食塩と甘味料(砂糖,スクラロース,NHDC)を加え,試験サンプルを調製した。また,水に食塩を加えるだけで,甘味料を添加しないブランクも調製し,評価時に甘味が同等になるように,甘味度を砂糖6%濃度に合わせた。
食塩 5%
甘味料 砂糖6%,スクラロース0.01%,NHDC0.0018%
判断時期 試験サンプルを口に含んでいる時,試験サンプルを吐き出した直後(後味:1秒後),吐き出してから5秒後(後味:5秒後),吐き出してから10秒後(後味:10秒後)
評価基準 4点 塩味に伴う刺激を強く感じる。
3点 塩味に伴う刺激を感じる。
2点 塩味に伴う刺激を丸く感じる。
1点 塩味に伴う刺激を十分丸く感じる。
による試験結果が記載されている。

(2)乙第5号証
(乙5-1)「かんみ【鹹味】 しおからい味。」(552頁「かんみ」の項)

(3)乙第6号証
試験方法として,
水と食塩と甘味料(スクラロース,砂糖,甘草抽出物,ステビア,NHDC,サッカリンナトリウム)を加え,試験サンプルを調製し,評価時に甘味が同等になるように,甘味度を砂糖6%濃度に合わせた。また,水に食塩を加えるだけで,甘味料を添加しないブランクも調製した。
食塩 5%
甘味料 スクラロース0.01%,砂糖6%,甘草抽出物0.015%,ステビア抽出物0.028%,NHDC0.0018%,サッカリンナトリウム0.02%
判断時期 試験サンプルを10ml口に含み,5秒後吐き出し,口内を空に下時点。
評価基準 ○ 刺激を丸く感じる
× 刺激を丸く感じない
による試験結果が記載されている。

(4)乙第7号証
(乙7-1)「スクラロースの特長
・・・(略)・・・
・砂糖の約600倍の甘味がある。」(21頁16?19行)

(5)参考資料9
(参9-1)「三-三 天然調味料とコク味 ・・・(略)・・・植物性食品では,グルタミン酸とアデニル酸(キノコ類ではグアニル酸)に,アスパラギン酸,アラニン,プロリン等のアミノ酸,有機酸類が味を形成している。又,スープとしての呈味成分から考えてみると,これら遊離アミノ酸,核酸関連成分,有機酸,塩類の他に,糖,無機物,油脂,ゼラチン,グリコーゲン等の高分子物質も,呈味,特に味の濃厚さ,深み,広がり,持続性,バランスといった味の要素として,コク味に大きく関与していると考えられる。」(98頁2段6行?同頁3段12行)

(参9-2)「また,異なった呈味成分を同時に味わった場合には,対比現象や相殺現象が起こることが多い。対比現象は,甘味と鹹味,鹹味と酸味,甘味と苦味などの間に起こり,相殺現象は,塩慣れのように,食塩含量の多い食品が,甘味やうま味(蛋白質の分解生成物)などによって,鹹味を減少する現象が起こる。」(96頁4段2?9行)

(6)参考資料10
(参10-1)「然るに,砂糖及び食塩を減じた該食品は,呈味が単調となり,いわゆるコク味を欠いた極めて嗜好性の低い食品となることを免れなかつた。」(2頁左上欄2?4行)

(7)参考資料11
(参11-1)「このイソマルトオリゴ糖は,・・・,単に甘味を呈する糖としてのみならず,塩馴れ効果,旨味,コク等をもたらす成分として古くから知られていた。」(1頁右下欄17行?2頁左上欄2行)

(8)参考資料12
(参12-1)「この発明は,魚介類,畜肉類などが有する特有の生臭い匂いの如きを消去して美味なものに矯正することのできると共に塩なれ効果(塩分の刺激性が温和になることをいう。以下おなじ)を有する調味料に関するものである。」(1頁左下欄下から3行?同頁右下欄2行)

(9)参考資料15
(参15-1)「(ロ)高甘味料の短所
浸透性が劣る。
合成品については表示・使用基準で制限される。甘味としてボディー感がない。」(101頁2段7?11行)

(10)参考資料16
(参16-1)「これに対して甘味料の代表である砂糖に代替する低カロリー甘味料としてマルチトール,ソルビトールなどの糖質系甘味料やステビオサイド,アスパルテーム(L-アスパルチル-L-フェニルアラニンメチルエステル)などの高甘味素材の使用が広まりつつある。しかしながら,これらの低カロリー甘味料,特に高甘味素材はたとえば飲料に利用した場合には,ボディー感の欠如,また食品に利用した場合には,量感の欠如という問題があり,この問題を解決するためには,一般的に消化性または難消化性の糖質がボディー材として併用されている。」(2頁左上欄1?12行)

(11)参考資料17
(参17-1)「3018 ボディ 日本語の”こく”に近い感覚で,単純な構成要素では説明できない多数の成分の総和によって引き起こされる口中での風味の広がり及び口あたりの調和のとれた濃厚感をいう。」(21頁18?19行)

(12)参考資料18
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社所属の芳仲幸治作成の実験報告書である。
(参18-1)「試験内容: 良く訓練されたパネル6名が,液体うどんスープのブランク及びサンプル1?6(当審注:数字は,○の中に数字の文字を入れた文字を表す。)のコクについて順位法による官能評価を行い,クレーマー検定^(1))によりコクの付与効果の有意差を検定した。」(2頁1?3行)

(参18-2) 2頁表3


(参18-3)「(結論)
表3に示すように,砂糖とスクラロースは,今回比較した甘味料の中で,液体うどんスープにコクを付与する効果が有意に高かった。
2から6の高甘味度甘味料の中で,液体うどんスープ(食塩含有食品)に,1の砂糖と同程度のコクを付与する効果があったのは,2のスクラロースだけであった。」(2頁「(結論)」の項。当審注:数字は,○の中に数字の文字を入れた文字を表す。)

(13)参考資料19
クレーマー検定の説明が記載されている。(305頁12行?306頁1行)

第5 無効理由1について
本件訂正後の発明の詳細な説明には,後続する塩味が「十分丸く」することの判断基準について直接的な記載はない。しかしながら,本件訂正後の発明の詳細な説明の【表1】,及び,特に【表2】には,シュクラロース及び甘草抽出混合製剤を濃度を変えて塩なれを測定した結果が記載されている。そこには,「- 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」,すなわち,後続する塩味が十分丸くなったと判断される濃度が記載されており,また,「± やや塩味がやわらげられていると感じる」,すなわち,塩かどは取れるが後続する塩味が十分丸くなったとはいえない濃度が記載されている。
これらの濃度をパネラーが追試すれば,その判断基準は明らかであって,訂正発明1?3の「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる」との事項は,客観的に特定されているものといえる。
したがって,平成6年改正前の特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第6 訂正発明について
上記「第2」に記したように本件訂正は認められ,上記「第5 無効理由1について」に記したように平成6年改正前の特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしているから,訂正発明1?3は,訂正明細書の請求項1?3に記載のとおり次の事項により特定される発明と認めることができる。

「【請求項1】 食塩を2?8重量%含有する食品に,シュクラロースを,その甘味の閾値以下の量添加することを特徴とする,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法。
【請求項2】 食塩を2?8重量%含有する食品に,シュクラロースを,食塩100重量部に対して0.0001?2.5重量部の範囲内であって,シュクラロースの甘味の閾値以下になるように0.00005?0.00038重量%添加することを特徴とする,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法。
【請求項3】 食塩100重量部に対して,シュクラロースを0.001?1重量部添加することを特徴とする,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法。」

第7 訂正発明1に対する特許法第29条に関する無効理由について
1 訂正発明1に対する無効理由2-1について
(1) 公知の技術事項について
本件特許の出願日前に公然と知られた技術的事項について証拠方法を精査する。
ア 甲第5号証記載の技術的事項
「1.塩から味はショ糖の添加により減少し,1?2%の食塩濃度では7?10倍のショ糖添加により塩から味がほぼ消殺されることがわかった。(第1?4表参照)」(甲5-2)と記載されている。
表1及び表3は,多数の試料を順位に付けしたしたものであるが,表2及び表4(甲5-3)は,直接「塩から味を強く感じた人数」を示すものであり,「1?2%の食塩濃度では7?10倍のショ糖添加により塩から味がほぼ消殺される」ということがデータの裏付けをもって記載されていることが分かる。
そうすると,塩から味を相殺するという作用に注目すれば,甲第5号証には,「1?2%の食塩濃度の食塩水に,7?10倍のショ糖を添加することで,塩から味をほぼ消殺する方法」という技術的事項が記載されているといえる。

イ 甲第6号証記載の技術的事項
「発明者らは,甘味を呈する下記の構造のジヒドロカルコン類を鹹味を有する食品に所定量加えることにより,ジヒドロカルコン類が鹹味を大巾に緩和する効果,すなわち塩なれ効果を有し,嗜好性の高い食品を作り出すことを見出した。」(甲6-2)と記載され,また,(甲6-6)には「食塩水の鹹味度は,砂糖あるいはネオヘスペリジン・ジヒドロカルコンの添加で明らかに低下している。」「ネオヘスペリジン・ジヒドロカルコンの塩なれ効果が著しく高いことを示している」と記載されている。
したがって,甲第6号証には,「ネオヘスペリジンジヒドロカルコンなどのジヒドロカルコン類が,鹹味を大巾に緩和する,すなわち塩なれ効果を有する」という技術的事項が記載されている。

また,「グリチルリチンはその甘味の立ち上がりが弱く,甘味が後味として持続するが鹹味を緩和する効果を持つので,醤油,味噌に現在よく用いられている。」(甲6-2)ことが分かる。

ウ 甲第7号証記載の技術的事項
「ステビア甘味料,甘草甘味料は従来から塩性食品の塩辛さを無くする所謂塩なれ効果を期待して単独で或いは甘草とステビアの混合製剤として,粉末状または顆粒状で使用されている。」(甲7-1)と記載されているから,甲第7号証には「ステビア甘味料には,塩性食品の塩辛さを無くする所謂塩なれ効果がある」という技術的事項が記載されており,従来から広く使用されてきたことが理解される。

エ 甲第10号証記載の技術的事項
「塩なれ効果
食塩を多く含む食品では,後味に強い塩から味を感じる。後味に甘味が現れるグリチルリチンは,この塩から味を抑え,いわゆる,塩なれ効果を有する。塩なれ効果が,グリチルリチンに優るものはない。そのため,含塩食品に賜与すればマイルドな味を得ることができる。」(甲10-1)と記載されているから,甲第10号証には「グリチルリチンには,後味に強い塩から味を抑える,塩なれ効果がある」という技術的事項が記載されている。

オ 甲第11号証記載の技術的事項
「3 ブドウ糖 ・・・(略)・・・ さわやかな甘味は,砂糖と併用すれば甘味の良化に役立ち,塩なれを良くする。」(甲11-1)と記載されているから,甲第11号証には「ブドウ糖は砂糖と併用することで,塩なれを良くする」という技術的事項が記載されている。

また,「7 グリチルリチン(甘草エキス)・・・(略)・・・漬物の中でも特に塩味の強いものには塩なれのために使用される。塩味は後続する味があるため後続する塩味を甘草の甘味がカバーするわけである。」(甲11-2)と記載されているから,甲第11号証には,「グリチルリチン及び甘草エキスには,塩なれのために使用され,後続する塩味を甘味がカバーする」という技術的事項が記載されている。

さらに,「8 ステビオサイド・・・(略)・・・後に引く甘味はグリチルリチン程ではないが,砂糖よりはるかに強いので,塩なれ効果も期待できる。」(甲11-3)と記載されているから,甲第11号証には,「ステビオサイドには,塩なれ効果がある」という技術的事項が記載されている。

カ 参考資料9に記載の技術的事項
「異なった呈味成分を同時に味わった場合には,対比現象や相殺現象が起こることが多い。・・・(略)・・・相殺現象は,塩慣れのように,食塩含量の多い食品が,甘味やうま味(蛋白質の分解生成物)などによって,鹹味を減少する現象が起こる。」(参9-2)と記載されているように,塩味が甘味によって塩慣れ現象を引き起こすことが技術常識となっていたことが理解される。

キ 参考資料11に記載の技術的事項
「このイソマルトオリゴ糖は,・・・,単に甘味を呈する糖としてのみならず,塩馴れ効果,旨味,コク等をもたらす成分として古くから知られていた。」(参11-1)と記載されているから,イソマルトオリゴ糖に塩馴れ効果があることが,古くから知られていたことが理解される。

(8)「塩かど」「塩なれ」について
本件特許の出願前から,「塩かど」「塩なれ」は,下記に示すように技術用語として使用されていた用語である。
・「塩かど」
刊行物A:特開平5-49439号公報
(刊A-1)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来提供されている一般の食塩は,味覚的に単調であり,いわゆる塩カドと呼ばれる刺激的な塩辛みを有する。」
と記載されているように,刺激的な塩辛みを意味する用語であって,「塩カド」あるいは「塩かど」が取れるということは,この刺激が取れていることを意味するものと理解される。

・「塩なれ」
参考資料12の摘記(参12-1)
「この発明は,魚介類,畜肉類などが有する特有の生臭い匂いの如きを消去して美味なものに矯正することのできると共に塩なれ効果(塩分の刺激性が温和になることをいう。以下おなじ)を有する調味料に関するものである。」

刊行物B:特開昭54-122774号公報に
(刊B-1)「漬物類や塩蔵品においてはいずれも熟成が促進され,塩辛味が直接の刺激として感じられず(塩なれ効果)従来品とくらべて一味違う丸味のある製品が得られる。」(2頁左下欄15?18行)

このうち,「塩かど」「塩角」「塩カド」は,表記が異なるものの同意の表現と解され,刊行物Aに記載のように「塩カド」は,共に,食塩の有する塩味の刺激を「カド」として表現したものと解される。
また,「塩なれ」「塩慣れ」「塩馴れ」は,表記が異なるものの同意の表現と解され,塩分の刺激(参12-1)や塩辛味の刺激(刊B-1),すなわち,塩かどを,穏和(参12-1)にしたり,直接感じられなくなり丸味(刊B-1)のあるものにするものであり,温和や丸味といった表現が用いられているように,刺激が丸くなった状態をいうものと解される。
これは,訂正明細書の【表2】の「塩なれ - 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。」こと,また,「塩味は,後に続く味があるために,後続する塩味を十分丸くし,塩かどをとる」(訂正明細書の段落【0003】)や「食品の後味に残る強い塩味,すなわち,「塩かど」をなくし」(訂正明細書の段落【0028】)との記載とも合致する。

すなわち,塩なれとは塩かどを取ることであり,丸くなるとは「塩かど」の角が取れることになぞらえたものといえ,塩なれすれば,塩かどの角である,刺激がある程度丸くなる状態となっていると解される。

しかし,一般的に「塩かどを取る」あるいは「塩なれする」といった場合,その程度は幅があり,刺激が丸くなるとしてもその程度までははっきりしない。

以上のことから,甲第6号証,甲第10号証,甲第7号証,甲第11号証,参考資料11記載のように「塩なれ」すれば,塩味の刺激,すなわち,刺激的な塩辛味である塩かどが取れ,刺激を所定の程度丸く感じる状態になると理解される。

ク 公知の技術事項の小括
以上のことを総合すると,
「ショ糖で塩から味がほぼ相殺され(甲第5号証)ることが観察され並びにジヒドロカルコン類(甲第6号証),グリチルリチン(甲第10号証及び甲第11号証),ステビア甘味料(甲第7号証),ステビオサイド(甲第11号証),イソマルトオリゴ糖(参考資料11),及び,ブドウ糖と砂糖の併用(甲第11号証)で塩なれ,すなわち,刺激的な塩辛味である塩かどが取れ,刺激が所定の程度丸く感じる状態となることが観察される。」
という技術事項が本件特許の出願前に公然と知られていたと認められる。以下,当該技術事項を「公知の技術事項」という。

(2) 対比
公知の技術事項と訂正発明1を対比する。
ア 食品について
公知の技術事項の「塩かど」を取る対象が食塩含有食品であることは自明な事項である。しかし,その食品の食塩含有量については不明であるから,公知の技術事項の「塩かど」を取る対象と,訂正発明1の「食塩を2?8重量%含有する食品」とは,「食塩を所定の重量%含有する食品」という点で共通する。

イ シュクラロースについて
公知の技術事項の「ショ糖」「ジヒドロカルコン類」「グリチルリチン」「ステビア甘味料」「ステビオサイド」「イソマルトオリゴ糖」「ブドウ糖と砂糖の併用」と,訂正発明1の「シュクラロース」とは,「甘味料」である点で共通する。
また,公知の技術事項の「ショ糖」「ジヒドロカルコン類」「グリチルリチン」「ステビア甘味料」「ステビオサイド」「イソマルトオリゴ糖」「ブドウ糖と砂糖の併用」における各々の甘味料の添加量は,甘味の閾値以下の量で塩かどが取れるか不明であって,訂正発明1の「シュクラロースを,その甘味の閾値以下の量添加する」こととは,「甘味料を所定の量添加する」という点で共通する。

ウ 塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせることについて
訂正発明1でいう「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせること」とは,訂正明細書の【表1】(段落【0011】)記載の
「備考 塩なれ - 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。
± やや塩味がやわらげられていると感じる。
+ 塩味がやわらげられず,塩味を直接感じる。
++ 塩味をつよく感じる。」
とする記載に基づくものであって,塩味がやわらげられる程度が「刺激を丸く感じる。」までやわらげられた状態をいうものと解される。
もっとも,この「塩なれ - 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。」状態とは,訂正明細書の【表2】に記載のように,甘草抽出混合製剤でも「-」,すなわち,塩なれが観察されているように,シュクラロースのみに見いだされる特有の状態ではない。
そして,「± やや塩味がやわらげられていると感じる。」状態でも,塩なれの作用が一部表れているものの,その程度が,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。」とまではいえないものと解され,「塩なれ - 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。」状態とは,塩なれの程度を示すものと理解される。

これを裏付けるように,【表2】に記載の甘草抽出混合製剤でも,その添加量によっては「±」から「-」へと変化する。

他方,上記刊行物Aには,「従来提供されている一般の食塩は,味覚的に単調であり,いわゆる塩カドと呼ばれる刺激的な塩辛みを有する。」(刊A-1)と記載されているように,食塩は塩カドと呼ばれる刺激的な塩辛みを有する。
そして,公知の技術事項の「ショ糖で塩から味がほぼ相殺され(甲第5号証)」ることは,相殺という強い表現が用いられており,ショ糖,すなわち,砂糖に塩なれ効果があることは,例示するまでもなく周知であるから,食塩の刺激的な塩から味がとれ,程度は不明であるものの所定の程度刺激が丸くなっているものと解される。

また,甲第5号証は「試料は実際の食物と関連深い濃度の水溶液を用いることにした。」(甲5-1)と記載された上で,実験がなされているから,塩から味を相殺することで食物の風味を向上することを前提とする実験であることは自明なことである。

そうすると,公知の技術事項の「ショ糖で塩から味がほぼ相殺(甲第5号証)」することによって,食物の風味を向上することと,訂正発明1の「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法」とは,「塩味をやわらげ刺激を所定の程度丸く感じさせる風味向上法」という点で共通する。

さらに,公知の技術事項の「ジヒドロカルコン類(甲第6号証),グリチルリチン(甲第10号証及び甲第11号証),ステビア甘味料(甲第7号証),ステビオサイド(甲第11号証),イソマルトオリゴ糖(参考資料11),及び,ブドウ糖と砂糖の併用(甲第11号証)」で観察される「刺激的な塩辛味である塩かどが取れ,刺激が所定の程度丸く感じる状態となる」ことは,「ア 食品について」で言及したように,これらは食物に適用されるものであって,それにより風味が改善されるものであるが,刺激がどの程度丸くなっているかわからないから,訂正発明1の「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法」とは,「塩味をやわらげ刺激を所定の程度丸く感じさせる風味向上法」という点で共通する。

エ 小括
以上のことから訂正発明1と公知の技術事項の間には,次の(一致点)及び(相違点1)がある。
(一致点)
「食塩を所定の重量%含有する食品に,甘味料を所定の量添加する,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を所定の程度丸く感じさせる風味向上法。」

(相違点1)
甘味料,その添加量,刺激を丸く感じさせる程度が,訂正発明1では「シュクラロース」であり,「甘味の閾値以下の量添加する」ことで,「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせること」ができるのに対して,公知の技術事項では,「ショ糖」「ジヒドロカルコン類」「グリチルリチン」「ステビア甘味料」「ステビオサイド」「イソマルトオリゴ糖」「ブドウ糖と砂糖の併用」といった様々な甘味料であるがシュクラロースではなく,また,「甘味の閾値以下の量添加する」ことで塩味をやわらげられるものの,刺激の丸くなる程度までは不明な点。

(3) 検討
ア 塩なれする甘味料の探索について
公知の技術事項のごとく,高甘味度甘味料を含め様々な甘味料で,「塩なれ,すなわち,刺激的な塩辛味である塩かどが取」れたり,「塩から味がほぼ相殺される」ことが観察されていることから,刺激的な塩味である塩かどを取ることは,当業者が注目する特性であって,塩なれ効果の優れた甘味料を探索することは,本件特許の出願前から当たり前の技術的課題であったといえる。

イ 甘味閾値以下で塩なれが観察された事例について
しかしながら,甘味の閾値以下の量添加で塩辛味である塩かどを取ったり,塩から味がほぼ相殺されると明確にいうことができるようなものは,公知の技術事項の「ジヒドロカルコン類(甲第6号証),グリチルリチン(甲第10号証及び甲第11号証),ステビア甘味料(甲第7号証),ステビオサイド(甲第11号証),イソマルトオリゴ糖(参考資料11),及び,ブドウ糖と砂糖の併用(甲第11号証)」に含まれていない。

また,甲第13号証には,甘味閾値と塩味との関連を示唆する記載は全く無い。甲第13号証の表5(甲13-2)には,食塩2%,砂糖0.5%で舌感塩度が1.8%となったことが記載されている。
しかし,ここに記載の「舌感塩度」とは,文字通り舌がどの程度の塩分濃度を感じたかを意味するものと解され,刺激を丸く感じることに注目した「塩なれ」とは,必ずしも対応していない。
仮に「舌感塩度」が「塩なれ」と対応するとしても,ここで添加された砂糖の量は,甲第13号証では「特に,漬物は,塩分が,味の主体である。薄味,あるいは濃味にせよ,それぞれ,味のバランスを取ることが,大切である。
具体的にいうならば,砂糖,グリチルリチン,ステビオサイド,そして食塩の,各々の呈味性を,比較すると,食塩の呈味は,どちらかというと,後味性で,砂糖の,前味性と一致せず,甘鹹が分かれて感じられる。つまり,バランスが,悪いわけである。
一方,グリチルリチンは,その食塩の後味性に,類似しているため,適正に配合すれば,鹹味によくあってくる。」(甲13-3)
と味のバランスについて述べた上で,表5の実験結果が呈示されていることからすると,味を感じる量として添加していると解するのが自然である。
これを裏付けるように,訂正明細書の「しょ糖の甘味の閾値は0.31%」(段落【0007】)との記載に照らせば,甲第13号証の表5で示された0.5%の砂糖は,甘味閾値以上の量であることは明白である。

以上のことに鑑みれば,甲第13号証の表5(甲13-2)において示された,食塩2%,砂糖0.5%で舌感塩度が1.8%となったことに接した当業者は,砂糖の甘味閾値付近の実験結果であると認識することはあるとしても,甘味閾値以下の実験結果であると認識することはない。

さらに,他の甲号証にも甘味の閾値以下の量添加で塩なれが起きることは記載されていないし,訂正発明1の出願時の技術常識を参酌しても甘味の閾値以下の量添加で塩なれが起きるような技術常識はない。

ウ 「甘味の閾値以下の量添加する」ことで,「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる」甘味料を探索する動機について
公知の技術事項のように多くの甘味料で塩なれ効果が観察されていることであるし,参考資料9の摘記(参9-2)に「異なった呈味成分を同時に味わった場合には,対比現象や相殺現象が起こることが多い。・・・(略)・・・相殺現象は,塩慣れのように,食塩含量の多い食品が,甘味やうま味(蛋白質の分解生成物)などによって,鹹味を減少する現象が起こる。」と記載されているように,塩味が甘味によって塩なれ現象を引き起こすことは技術常識となっていた。
しかしながら,甘味閾値以上の濃度で当業者が探索を試みることはあるとしても,上記「イ 甘味閾値以下で塩なれが観察された事例について」に記したように,甘味閾値以下で塩なれが観察された甘味料の報告は全く無いのであるから,甘味閾値以下の濃度に注目して「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる」甘味料を探索する動機がない。

そうすると,公知の技術事項のように多くの甘味料で塩なれ効果が観察されているとしても,多数ある甘味料のなかから,訂正発明1のごとく「甘味の閾値以下の量添加する」ことで,「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる」甘味料として,「シュクラロース」を選ぶことは,当業者が容易になし得たこととはいえない。

エ 効果について
念のため,訂正発明1の効果について検討すると,訂正明細書記載の【表2】(段落【0014】)によると,上記「第2 2(2)ア(ウ)小括」で言及したように,訂正明細書の【表2】で示された各食塩濃度における「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じること」ができるシュクラロース添加量の下限は,
食塩濃度(重量%) シュクラロース重量部(重量%)
1.96% 0.00001重量部(0.0000098%)
4.76% 0.000001重量部(0.00000095%)
7.41% 0.00005重量部(0.000046%)
であり,シュクラロースの甘味閾値である0.00038重量%を大幅に下回る濃度で「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じること」が観察されている。
甲第13号証の表5(甲13-2)において,食塩2%,砂糖0.5%で舌感塩度が1.8%となったことが観察されたとしても,前記表5では,食塩3%,砂糖1%,舌感塩度2.5%となり,食塩4%,砂糖4%,舌感塩度3.8%となる。塩濃度が高濃度になるにつれて,明らかに砂糖の添加量は砂糖の甘味閾値以上となっていることが分かる。

前記訂正明細書の【表2】で観察された甘味閾値以下におけるシュクラロースの効果は,甲第13号証から予測できないし,加えて,訂正発明1の特許の出願時の技術常識及び他の甲号証からも予測できないものである。

オ 訂正発明1に対する無効理由2-1に対する判断
よって,訂正発明1に対する無効理由2-1によって,訂正発明1の特許を無効とすることはできない。

2 訂正発明1に対する無効理由2-2について
上記「第7 1(1)ク 公知の技術事項の小括」に記した公知の技術事項は「ショ糖で塩から味がほぼ相殺され(甲第5号証)ることが観察され」たとの技術事項を含むものである。上記「第7 1 訂正発明1に対する無効理由2-1について」において,甲第5号証記載の発明を主引例とした場合も含めて対比検討を行っているから,上記「第7 1 訂正発明1に対する無効理由2-1について」おいて検討したのと同様の理由で,訂正発明1に対する無効理由2-2によって,訂正発明1の特許を無効とすることはできない。

3 訂正発明1についてのまとめ
以上のことから,訂正発明1の特許を,訂正発明1に対する無効理由2-1及び訂正発明1に対する無効理由2-2のいずれの理由によっても無効とすることはできない。

第8 訂正発明2に対する特許法第29条に関する無効理由について
訂正発明2は,訂正発明1のシュクラロースの添加量を「シュクラロースを,食塩100重量部に対して0.0001?2.5重量部の範囲内であって,シュクラロースの甘味の閾値以下になるように0.00005?0.00038重量%添加する」と更に限定する発明である。
そうすると,訂正発明2の上位概念の発明である訂正発明1の特許が,上記「第7 訂正発明1に対する特許法第29条に関する無効理由について」に記したように無効とすることができないのであるから,訂正発明2の特許も同様の理由で,訂正発明2に対する無効理由2-1及び訂正発明2に対する無効理由2-2のいずれの理由によっても無効とすることはできない。

第9 訂正発明3に対する特許法第29条に関する無効理由について
1 訂正発明3に対する無効理由2-1について
(1)対比
上記公知の技術事項と訂正発明3を対比する。

ア 食塩含有食品について
公知の技術事項の「塩かど」を取る対象は,食塩含有食品であることは自明な事項であるから,訂正発明3の「食塩含有食品」と一致する。

イ シュクラロースについて
公知の技術事項の「ショ糖」「ジヒドロカルコン類」「グリチルリチン」「ステビア甘味料」「ステビオサイド」「イソマルトオリゴ糖」「ブドウ糖と砂糖の併用」と,訂正発明3の「シュクラロース」とは,「甘味料」である点で共通する。

また,刺激的な塩辛味である塩かどが食塩の濃度上昇に伴って高くなることは誰もが経験することであって,食塩濃度と対応して,公知の技術事項の「ショ糖」「ジヒドロカルコン類」「グリチルリチン」「ステビア甘味料」「ステビオサイド」「イソマルトオリゴ糖」「ブドウ糖と砂糖の併用」における各々の甘味料の量を増やさなければ塩かどが取れないことは当たり前のことである。
例えば,甲第5号証の表1(甲5-3)の「1%食塩溶液のショ糖添加の影響」のデータと表3(甲5-3)の「2%食塩溶液のショ糖添加の影響」のデータとを比較すれば,より高い濃度のショ糖を添加しないと塩からさの順位が低くならない,すなわち,塩からさが取れないことがわかる。

そうすると,公知の技術事項において,甘味料は,「塩から味がほぼ相殺」するためや,「塩かどを取る」ために添加されるものであり,食塩濃度に応じ変化する塩かどを取るために,甘味料の添加量を決める必要があることは自明なことである。しかし,公知の技術事項では,食塩に対してどの程度添加されているか不明であって,訂正発明3の「食塩100重量部に対して,シュクラロースを0.001?1重量部添加する」こととは,「食塩100重量部に対して,甘味料を所定の重量部添加する」という点で共通する。

ウ 塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせることについて
訂正発明3でいう「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせること」とは,訂正明細書の【表1】(段落【0011】)記載の
「備考 塩なれ - 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。
± やや塩味がやわらげられていると感じる。
+ 塩味がやわらげられず,塩味を直接感じる。
++ 塩味をつよく感じる。」
とする記載に基づくものであって,塩味がやわらげられる程度が「刺激を丸く感じる。」までやわらげられた状態をいうものと解される。
もっとも,この「塩なれ - 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。」状態とは,訂正明細書の【表2】に記載のように,甘草抽出混合製剤でも「-」,すなわち,塩なれが観察されているように,シュクラロースのみに見いだされる特有の状態ではない。
そして,「± やや塩味がやわらげられていると感じる。」状態でも,塩なれの作用が一部表れているものの,その程度が,「塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。」とまではいえないものと解され,「塩なれ - 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。」状態とは,塩なれの程度を示すものと理解される。

これを裏付けるように,【表2】に記載の甘草抽出混合製剤でも,その添加量によっては「±」から「-」へと変化する。

他方,上記刊行物Aには,「従来提供されている一般の食塩は,味覚的に単調であり,いわゆる塩カドと呼ばれる刺激的な塩辛みを有する。」(刊A-1)と記載されているように,食塩は塩カドと呼ばれる刺激的な塩辛みを有する。 そして,公知の技術事項の「ショ糖で塩から味がほぼ相殺され(甲第5号証)」ることは,相殺という強い表現が用いられていおり,ショ糖,すなわち,砂糖に塩なれ効果があることは,例示するまでもなく周知であるから,食塩の刺激的な塩から味がとれ,程度は不明であるものの所定の程度刺激が丸くなっているものと解される。

また,甲第5号証は「試料は実際の食物と関連深い濃度の水溶液を用いることにした。」(甲5-1)と記載された上で,実験がなされているから,塩から味を相殺することで食物の風味を向上することを前提とする実験であることは自明なことである。

そうすると,公知の技術事項の「ショ糖で塩から味がほぼ相殺(甲第5号証)」することによって,食物の風味を向上することと,訂正発明3の「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法」とは,「塩味をやわらげ刺激を所定の程度丸く感じさせる風味向上法」という点で共通する。

さらに,公知の技術事項の「ジヒドロカルコン類(甲第6号証),グリチルリチン(甲第10号証及び甲第11号証),ステビア甘味料(甲第7号証),ステビオサイド(甲第11号証),イソマルトオリゴ糖(参考資料11),及び,ブドウ糖と砂糖の併用(甲第11号証)」で観察される「刺激的な塩辛味である塩かどが取れ,刺激が所定の程度丸く感じる状態となる」ことは,「ア 食品について」で言及したように,これらは食物に適用されるものであって,それにより風味が改善されるものであるが,刺激がどの程度丸くなっているかわからないから,訂正発明3の「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法」とは,「塩味をやわらげ刺激を所定の程度丸く感じさせる風味向上法」という点で共通する。

エ 小括
以上のことから訂正発明3と公知の技術事項の間には,次の(一致点)及び(相違点2)がある。
(一致点)
「食塩100重量部に対して,シュクラロースを所定重量部添加することを特徴とする,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を所定の程度丸く感じさせる風味向上法。」

(相違点2)
甘味料,その食塩100重量部に対する添加量,刺激を丸く感じさせる程度が,訂正発明3では「シュクラロース」であり,「シュクラロースを0.001?1重量部添加する」ことで,「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせること」ができるのに対して,公知の技術事項では,「ショ糖」「ジヒドロカルコン類」「グリチルリチン」「ステビア甘味料」「ステビオサイド」「イソマルトオリゴ糖」「ブドウ糖と砂糖の併用」といった様々な甘味料であるがシュクラロースではなく,食塩100重量部に対する添加量が不明であり,さらに,塩味をやわらげられるものの,刺激の丸くなる程度までは不明な点。

(2)検討
ア 相違点2について
(ア)訂正発明3におけるシュクラロースの添加量について
訂正発明3においては,シュクラロースの添加量について「食塩100重量部に対して,シュクラロースを0.001?1重量部添加する」と規定されているのみであり,訂正明細書記載の事項を参酌しても,甘味閾値以上の濃度でシュクラロースを添加することを妨げる事情はない。

なお,食塩の閾値は訂正発明3の特許の出願日よりも前から周知の事項となっていた。
例えば,刊行物Cには「食塩の水溶液を塩辛いと感じるためには,ある濃度,普通は0.2%以上にならなければならない。」(刊C-3)と,食塩の閾値は0.2%として記載されている。
閾値は「テストの条件によっでも相違がある」(刊C-3)と記載されている。
例えば,「表3にみられるように,蒸留水と対比して味わう場合には,0.05%の食塩水溶液で,多くの人が溶質の存在を感知した。」(刊C-5)と記載され,蒸留水と対比て味わうテストの条件では,閾値は0.05%となるが,「種々の味をもつ水溶旅を単独で味わい,そのなかから塩辛味のある食塩水溶液を選び出す試験の結果は,表4の如くである。この結果では,食塩水の閾値は0.1%と0.15%にあるらしく,補間法を用いれば,閾値は0.113%ということになる。」(62頁左欄33行?同頁右欄6行)と記載され,種々の味の水溶液を単独で味わうようなテスト条件では,閾値は0.1113%となる。
訂正発明3は,「食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法」に係る発明であり,水と区別が付かなくなるような閾値付近の食塩濃度で訂正発明3が適用されることはあり得ず,刺激を感じさせるような食塩濃度の食塩含有食品に用いられることは当然のことである。
刊行物Cの表1(刊C-2)によると,0.2%の食塩濃度では「甘味がかった塩味」,0.3%の食塩濃度では「弱い塩味」,0.4%の食塩濃度では「やや弱い塩味」及び0.5%の食塩濃度では「塩味」となっており,訂正発明3を実施しようとするなら,塩味を感じる0.5%か,せいぜい弱い塩味を感じる0.3%以上の食塩含有食品であると解される。
食塩濃度が0.3%の食塩含有食品において訂正発明3の「食塩100重量部に対して,シュクラロースを0.001?1重量部添加」すると,シュクラロースの食塩含有食品に対する濃度は,0.0003?0.03重量%となり,シュクラロースの甘味閾値である0.00038重量%をほとんどの領域で超えていることとなる。

刊行物C:New Food Industry, Vol.34, No.9,1992,61-70頁
(刊C-1)「1.食塩の味
食品の基礎的な味には表1に示したように,5つの味があり,その一つが鹹味である。鹹味は塩から味とよぶこともあり,カンミとよぶこともある。
鹹味は食塩の味である。」(61頁左欄7?12行)

(刊C-2)61頁 表1


(刊C-3)「1)食塩の閾値
閾値threshold valueの閾とは,”しきい”のことで,刺激の切れ目とか,境界を意味する。閾値は心理学や生理学ではよく使われる用語や,感覚的に違いを感ずるためにこえなければならない最小の刺激の数値である。たとえば,食塩を水に溶かしたとき,この液をわれわれがなめると塩辛いと感ずるけれども,これを薄めてゆくと,水と区別がつかなくなる。つまり,食塩の水溶液を塩辛いと感じるためには,ある濃度,普通は0.2%以上にならなければならない。
このような濃度は個人によっても,テストの条件によっでも相違があるが,一定の条件で多数の人が味わったときに半数の人が塩辛いと感じる濃度を,食塩の閾値という。一般的にいえば,刺激反応の出現率が50%となる値が閾値である。刺激閾ともいう。味物質の場合には最低呈味濃度とも呼ばれる。5味の閾値を表2に示した。」(62頁左欄4?21行)

(刊C-4)62頁 表2


(刊C-5)「表3にみられるように,蒸留水と対比して味わう場合には,0.05%の食塩水溶液で,多くの人が溶質の存在を感知した。しかし,その味をはっきり”塩辛い”と感じた人はきわめてわずかで,多くの人は蒸留水に比べて,何か異なった味を感ずるという程度であった。
一方,種々の味をもつ水溶旅を単独で味わい,そのなかから塩辛味のある食塩水溶液を選び出す試験の結果は,表4の如くである。この結果では,食塩水の閾値は0.1%と0.15%にあるらしく,補間法を用いれば,閾値は0.113%ということになる。」(62頁左欄33行?同頁右欄6行)

(刊C-6) 62頁 表3


(刊C-7) 62頁 表4


(イ) 食塩濃度と塩なれとの関係
公知の技術事項の「刺激的な塩辛味である塩かどを取る」効果は,食塩と甘味料の相互作用によって生じるものであるから,食塩の濃度が多くなれば,甘味料を多く添加する必要があるだろうし,食塩の濃度が低くなれば甘味料の量も減るであろうことは自明なことである。
例えば,甲第5号証の第1表?第4表(甲5-3)に記載のように,ショ糖の添加量が増加するに従い,塩からさの順位や塩から味を強く感じた人数が少なくなっている。さらに,甲第6号証の(甲6-3)記載の「実験例1」で「3. 100mlの水に食塩1g,ネオヘスペリジン・ジヒドロカルコン2mg溶したもの。」の結果が第2表(甲6-5)に示されており,鹹味度が-0.778であったのに対して,第3表(甲6-7)では,100mlの水に食塩1gに,ネオヘスペリジン・ジヒドロカルコン無添加の時に3.40の鹹味度であったものが,ネオヘスペリジン・ジヒドロカルコンの添加量を前記第2表で2mgであったものを8mgと増やすと,添加により2.42と,鹹味度の差が第2表のものより0.98と大きくなることが分かる。

(ウ) 塩なれする甘味料の探索について
公知の技術事項のごとく,高甘味度甘味料を含め様々な甘味料で,「塩なれ,すなわち,刺激的な塩辛味である塩かどが取」れたり,「塩から味がほぼ相殺される」ことが観察されていることから,刺激的な塩味である塩かどを取ることは,当業者が注目する特性であって,これまで知られていない甘味閾値以上の濃度で塩なれ効果の優れた特性を示す甘味料を探索することは,本件特許の出願前から当たり前の技術的課題であったといえる。

(エ) シュクラロースについて
他方,シュクラロースは,例えば,甲第1号証,甲第3号証及び甲第4号証に記載のように,本件特許の出願前から周知の甘味料であった。

(オ) 小括
上記「(ウ) 塩なれする甘味料の探索について」に記したように,公知の技術事項のごとく,高甘味度甘味料を含め様々な甘味料で,「塩なれ,すなわち,刺激的な塩辛味である塩かどが取」れたり,「塩から味がほぼ相殺される」ことが観察されていたことである。
上記「(ウ) 塩なれする甘味料の探索について」に記した技術的課題,すなわち,これまで知られていない甘味閾値以上の濃度で塩なれ効果の優れた特性を示す甘味料を探索する場合,よく知られた甘味料から探索を始めることは,当業者であれば普通に行うことといえ,シュクラロースは,本件特許の出願前に周知の甘味料であったから,塩なれ効果を確かめる甘味料としてシュクラロースを選ぶことは,特段の困難性を要することではない。
よって,公知の技術的事項に基づき,より良い塩なれ効果を有する甘味料を探索し,訂正発明3のごとく,シュクラロースを選ぶことは当業者が容易になし得たことといえる。

そして,上記「(イ) 食塩濃度と塩なれとの関係」に記したように,塩なれに要する食塩濃度と添加する甘味料の関係は,食塩と甘味料の相互作用によって生じるものであるから,食塩の濃度が多くなれば,甘味料を多く添加する必要があるだろうし,食塩の濃度が低くなれば甘味料の量も減るであろうことは自明なことである。
また,食塩濃度が同じであれば,甘味料の濃度が高くなるについて,塩なれ効果が強くなることは当たり前のことであるから,「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせること」ができる程度まで,甘味料を添加することは当業者が適宜なし得る単なる設計的事項といえる。

以上のことを総合すると,公知の技術的事項に基づき,より良い塩なれ効果を有する甘味料を探索し,シュクラロースを選び,その際,前記食塩濃度及び甘味料の濃度と塩なれとの関係に注目し,「塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせること」ができる程度までシュクラロースを添加すると共に,「食塩100重量部に対して,シュクラロースを0.001?1重量部添加す」べく構成することは,当業者が容易になし得たことといえる。

イ 訂正発明3の効果について
訂正明細書の段落【0028】の記載からみて
(効果1)「食品の後味に残る強い塩味,すなわち「塩かど」をなく」すこと。
(効果2)「さらに味に幅を持たせる,いわゆる「こく付け」あるいは「丸味を付ける」効果を付与」すること。
が理解できる。

(ア) (効果1)について
前記「第9 1(2)ア(オ)小括」したように,公知の技術的事項に基づき,より良い塩なれ効果を有する甘味料を探索することで,訂正発明3のごとく,シュクラロースを選ぶことは当業者が容易になし得たことといえ,(効果1)は,その探索結果から必然的にもたらされる効果ということができる。

(イ) (効果2)について
訂正明細書には,特段「こくを付ける」ことについての定義はなされていないが,訂正明細書の段落【0016】?【0027】記載の実施例1?6では,いずれの実施例においても,シュクラロースを添加したものと無添加のものを対比して,「こくが付く」ことを確かめている。
このことからすると,(効果2)でいう「こくを付ける」とは,シュクラロース添加のものと無添加のものと対比した際に,シュクラロース添加のもので「こくが付く」ことが感じられたというものであると解される。

他方,砂糖や味醂の甘味により,味が複雑になりこくが増すことは誰しも経験するところである。そして,
(i)参考資料9に「三-三 天然調味料とコク味・・・(略)・・・植物性食品では,グルタミン酸とアデニル酸(キノコ類ではグアニル酸)に,アスパラギン酸,アラニン,プロリン等のアミノ酸,有機酸類が味を形成している。又,スープとしての呈味成分から考えてみると,これらの遊離アミノ酸,核酸関連成分,有機酸,塩類の他に,糖,無機物,油脂,ゼラチン,グリコーゲン等の高分子物質も,呈味,特に味の濃厚さ,深み,広がり,持続性,バランスといった味の要素として,コク味に大きく関与していると考えられる。」(参9-1)と記載されている。
(ii)参考資料10に「然るに,砂糖及び食塩を減じた該食品は,呈味が単調となり,いわゆるコク味を欠いた極めて嗜好性の低い食品となることを免れなかった。」(参10-1)
(iii)参考資料11に「このイソマルトオリゴ糖は,・・・,単に甘味を呈する糖としてのみならず,塩馴れ効果,旨味,コク等をもたらす成分として古くから知られていた。」(参11-1)と記載されているように,甘味料であるイソマルトオリゴ糖にもこくを付与する作用があることが技術常識として本件特許の出願前から知られていたことがわかる。
(iv)甲第10号証に,「グリチルリチンは,味に持続性があるため,各種調味料との相乗効果が期待でき,味に幅ができ,調和のとれたコクづけができる。」(甲10-1)と記載されており,グリチルリチンは高甘味度甘味料であるから,高甘味度甘味料だからといってコク付けできないというような技術常識はない。

以上のことからすると,高甘味度甘味料だからといってコク付けできないというような技術常識はなく,高甘味度甘味料を含めてこくを付与できる甘味料が存在することが,訂正発明3に係る特許の出願前から,技術常識として知られていたことといえる。

どのような甘味料であれ,訂正後の発明の詳細な説明記載の実施例1?6のごとく,甘味料を入れたものと入れないものを単に対比すれば,甘味料を入れたものの方が,コクが付いたと感じるといえる。また,料理にとって「こく」は重要で誰もが注目する感覚であるから,試してみれば誰もが直ちに気付く程度ものである。
よって,(効果2)は,公知の技術事項及び上記技術常識から当業者が予測し得たものといえ,格別顕著な効果ともいえない。

(参考資料18で示された実験結果について)
被請求人は,参考資料18(請求人の従業者芳仲幸治が作成した実験報告書1)を提出している。
しかしながら,参考資料18で採用されているクレーマー検定は,参考資料19及び技術常識として示す刊行物Dに示すように,順位付けの有意差(ゆうい‐さ【有意差】〔数〕統計で,いくつかの変量の相関関係において,偶然とはいえない差。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])を求めているものであって,例えば順位付けが低いとされるステビア抽出物の2倍優れているとか3倍優れているようなコク付け効果の差を示すものではない。要すれば,効果の差の程度と無関係であって,順位が高いことが分かるとしても,コク付け効果が顕著に高いかはわからない。
しかも,甘味料の種類によりコク付け効果が異なることは予測されることであるから,シュクラロースのコク付け効果が,これまで知られていた甘味料のコク付け効果の範囲内であれば,当業者が予想し得たものといえる。
参考資料18の表3(参18-2)の実験結果は,普段食べている食品に含まれる砂糖と同程度のコク付け効果があることが判明しただけのものにすぎず,これまで知られた甘味料で奏されるコク付け効果の範囲内の効果であるから,当業者の予想を超えた効果を裏付けるものではない。

刊行物D:特開平10-260995号公報
(刊D-1)「【0006】クレーマー検定法は,全順位付けを「正規分布」するものと仮定して順位付けの有意差を求め,順位の中で,「明らかに優れているもの」及び「明らかに劣っているもの」を検定する方法である。このクレーマー検定によれば,たとえば,5個のサンプルの優劣を決める場合に,「明らかに最も優れているサンプル」と「明らかに最も悪いサンプル」の両極端の検定はできる。
【0007】しかし,クレーマー検定では,たとえ1番から5番までのサンプルの順位付けの序列が明確であっても,2,3,4番目のサンプルの順序を客観的に決定することはできない。これは,クレーマー検定が,上述のように,正規分布を基準と考えた手法を用いていることに起因するからである。すなわち,クレーマー検定法においても,各順位間の関係の有意差を客観的に明確にすることはできないのである。」

2 小括
よって,訂正発明3は,公知の技術的事項,周知の技術事項及び技術常識から当業者が容易に発明することができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,その特許は平成6年改正前の同法第123条第1項第2号の規定に該当し,訂正発明3に対する無効理由2-2を検討するまでもなく,訂正発明3に係る特許は無効とすべきである。

第10 結語
以上のとおりであるから,訂正発明1及び訂正発明2は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく,請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては,訂正発明1及び訂正発明2についての特許を無効とすることはできない。
また,訂正発明3は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものであるから,訂正発明3についての特許は,平成6年改正前の特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により,その3分の2を請求人の負担とし,3分の1を被請求人の負担とする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
食品の風味向上法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】食塩を2?8重量%含有する食品に、シュクラロースを、その甘味の閾値以下の量添加することを特徴とする、食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法。
【請求項2】食塩を2?8重量%含有する食品に、シュクラロースを、食塩100重量部に対して0.0001?2.5重量部の範囲内であって、シュクラロースの甘味の閾値以下になるように0.00005?0.00038重量%添加することを特徴とする、食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法。
【請求項3】食塩100重量部に対して、シュクラロースを0.001?1重量部添加することを特徴とする、食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、食品の風味向上法に関し、より詳細には、食塩を含有する食品にシュクラロースを添加することにより食品の風味を向上させる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】多くの食品は、一般に食塩を含有している。例えば、その含有量は、農産加工品では0.8%(重量、以下同じ)以上、畜産加工品では0.2%以上、水産加工品では0.5%以上、調理済み食品では0.2%以上、調味食品では0.1%以上、調味料では0.4%以上、ステープルでは0.2%以上、スナック食品では0.1%以上である。以下に各食品の食塩相当量(g/100g)を示すと、昆布茶53.3(g/100g以下、同じ)、すきみたら21.6、梅干し20.6、かつお塩から15.0、濃口しょうゆ15.0、ザーサイ漬物13.7、昆布佃煮12.4、いか塩から11.4、ウスターソース8.6、即席めん7.6、生たらこ6.6、甘露煮4.3、ドライソーセージ4.1である。
【0003】従来から、上記のような食塩を含有する食品においては、塩かどを取り、こくを付け、風味を向上させるため、グリチルリチン塩、サッカリン、アスパルテーム、甘草抽出物、ステビア、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、サイクラメート等の砂糖の20倍以上の甘味を有する高甘味度甘味料、グリシン、アラニン、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸又は5’-リボヌクレオチドナトリウム、5’-イノシン酸等の核酸の旨味成分、コハク酸ナトリウムなどの有機酸を使用している。しかし、塩味は、後に続く味があるために、後続する塩味を十分丸くし、塩かどをとることが困難であった。例えば、目的とする効果が得られるまで高甘味度甘味料を添加すると、それぞれの甘味料が持つ独特の苦みを感じるようになる。また、アミノ酸では、アミノ酸特有のアミノ酸臭を生じる。さらに、核酸は後味に残り、充分な効果が得られるまで添加することができないという課題があった。
【0004】本発明の上記課題に鑑みなされたものであり、食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意研究をかさねた結果、シュクラロースを添加することにより、食塩を含有する食品の塩かどを取り、こくを付け、風味を向上させることに成功し、本発明を完成した。かくして、本発明によれば、食塩含有食品に、シュクラロースを添加する、食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法が提供される。
【0006】本発明における食塩含有食品とは、食塩を含有する食品であれば特に限定されるものではなく、漬け物、山菜加工品、味付けめんま等の農産加工品、ハム、ソーセージ、ベーコン、コンビーフ、食肉加工缶詰、チキン加工品等の畜産加工品、魚肉ハム・ソーセージ、かまぼこ、海苔佃煮、水産フライ等の水産加工品、ハンバーグ、ミートボール、シューマイ、グラタン、茶碗蒸し等の調理済食品、ソース、マヨネーズ、ドレッシング、たれ、浅漬けの素、醤油、みそ、つゆの素、風味調味料等の調味料、カレー、レトルトカレー、パスタソース、スープ、どんぶりの素、シチュー、お茶漬け、ピザソース等の調味食品、ポテトチップ、ポップコーン等のスナック菓子、スナック麺、ピラフ、ピザパイ等のステープル等の食塩を含有するものが挙げられる。これら食品に含有される食塩の量は、食品の種類、味付け等により種々異なる。
【0007】本発明のシュクラロースは、4,1’,6’-トリクロロ-4,1’,6’-トリデオキシ-ガラクトスクロースまたは1’,6’-ジクロロ-1’,6’-ジデオキシ-(β)-D-フラクトフラノシル4-クロロ-4-デオキシ-(α)-D-ガラクトピラノシドとして知られており、しょ糖の約650倍の甘味を有する高甘味度甘味料である。一般に、シュクラロースの甘味の閾値は、平均0.00038%である。しょ糖の甘味の閾値0.31%での甘味倍率は、約800倍となり、閾値付近では甘味倍率が高くなることが知られている(Progressin sweeteners,page131-132,ELSEVIER APPLIED SCIENCE)。
【0008】本発明において、食塩含有食品に、シュクラロースを添加する方法は、食品の種類等により特に限定されるものではない。例えば、食塩含有食品となる食品素材にシュクラロースを添加してもよいし、食品素材の加工中に食塩、その他の添加物等とともにシュクラロースを添加してもよいし、食塩の加工が終了した後に添加してもよい。シュクラロースの食塩含有食品への添加量は、食品の風味を改善する量であれば特に限定されるものではなく、例えば、食品に含有されている食塩の量によっても異なるが、一般に食塩100重量部に対して、0.0001?2.5重量部が好ましい。このシュクラロースの添加量は、シュクラロースの甘味の閾値以下でも、すなわち甘味のない範囲でも塩なれ効果があることを意味する。なかでも、シュクラロースの添加量は、0.001?2.5重量部がより好ましく、さらに0.001?1重量部が好ましい。
【0009】上記のように食塩含有食品にシュクラロースを添加することにより、食塩を含有する食品の風味を改善することができるが、ソーマチン、アセスルファームカリウム、アリテーム、ステビア、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、甘草などの高倍率甘味料を併用してもよい。また、グリシン、アラニン、グルタミン酸等のアミノ酸、コハク酸塩、クエン酸三ナトリウム等の有機酸、ホエイソルト、リン酸三カリウム等の無機酸、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸等の食品添加物の調味料を併用してもよい。
【0010】
【実施例】以下に本発明の食品の風味向上法を説明する。
実験例1
イオン交換水100重量部に食塩8重量部を添加し、各種高甘味度甘味料を甘味度に応じた濃度で併用して、塩なれ効果をパネル10名で官能により評価した。その結果を表1に示す。なお、ここで用いられている甘草抽出混合製剤とは、グルチルリチン酸を60%以上含有する甘草抽出物50%とクエン酸三ナトリウム50%とを混合した製剤である。
【0011】
【表1】

【0012】表1から明らかなように、シュクラロースと甘草抽出混合製剤において、良好な結果が得られた。
【0013】実験例2
実験例1で塩なれ効果のある甘味料を用い、イオン交換水100重量部に食塩2、5、8、12、20重量部を添加し、各高甘味度甘味料を甘味度に応じた濃度で併用して、塩なれ効果をパネル10名で官能により評価した。その結果を表2に示す。なお、ここで用いている甘草抽出混合製剤は、実験例1において使用したものと同様のものである。
【0014】
【表2】

【0015】表2から明らかなように、シュクラロースは、食塩2?20g/100gの範囲にわたり、0.001?2.5gの添加量の範囲にわたり良好な結果が得られた。なかでも、食塩2、5、8g/100gの範囲においては、シュクラロースの甘味の閾値以下の量においても塩なれ効果があることが分かった。一方、甘草抽出物製剤は、適度の範囲での塩なれ効果はあるが、添加量を多くすると苦みを伴った不快な味になり、評価されなかった。
【0016】実施例1
醤油35部(重量部、以下同じ)(食塩5.25部)、グルタミン酸ナトリウム19部、5′-リボヌクレオチド2ナトリウム0.1部、コンブ抽出物粉末0.7部、酵母粉末1部、砂糖20、澱粉2.5部、シュクラロース0.006部(食塩100部に対して約0.11部)を混合し、水にて全量を100部とし、加熱溶解してうるちせんべい用調味液を調製した。得られた調味液は、シュクラロース無添加区と比べて、塩かどがとれ、こく味のある調味液であった。
【0017】この調味液を、米菓生地100部に対して40部添加、乾燥してうるちせんべいを製造した。得られたうるちせんべいはシュクラロース無添加区と比べて、塩かどがとれ、こく味のある味のものであった。
【0018】実施例2
食塩10部、亜硫酸ナトリウム0.01部、ポリリン酸ナトリウム0.12部、メタリン酸ナトリウム0.03部、香辛料1部に対して、シュクラロース0.006部(食塩100部に対して0.06部)を添加し、冷水に溶解し、全量100部とし、ハム用ピックル液を調製した。
【0019】このピックル液20部を豚肉100部にインジェクションし、常法通りハムを製造した。ここで得られたハムは、シュクラロース無添加区に比べ、塩かどがなく、味にこく味があり、嗜好性の高いハムがあった。
【0020】実施例3
冷凍すり身100部をカッティングし、食塩3部、小麦グルテン1.4部、グルタミン酸ナトリウム0.2部、澱粉5部、みりん2部、卵白2部、グリシン0.8部に対して、シュクラロース0.0005部(食塩100部に対して0.0167部)を添加し、さらに氷水40部を加えて成形した後、90℃で30分間加熱後、冷却し、かまぼこを得た。
【0021】このかまぼこは、シュクラロース無添加区に比べ塩かどがとれ、味にこく味が増し嗜好性の高いかまぼこであった。
【0022】実施例4
醤油18部(食塩2.7部)、みりん3部、鰹節抽出粉末15部、酵母粉末1部、砂糖2部、食塩4部、グルタミン酸ナトリウム0.4部、コハク酸2ナトリウム0.04部、5’-イノシン酸2ナトリウム0.01部に対して、シュクラロース0.003部(食塩100部に対して0.045部)を添加し、水に溶解し、全量100部として4倍濃縮の液体うどんスープを得た。
【0023】この4倍濃縮の液体うどんスープはシュクラロース無添加区に比べ、塩かどがとれ、鰹風味が増し嗜好性の高いうどんスープであった。またこの4倍濃縮の液体うどんスープを4倍に希釈し、うどんの麺を加え、素うどんを調理した。この素うどんは、シュクラロース無添加区比べ、塩かどがとれ、鰹風味が増し嗜好性の高い素うどんであった。さらに、この素うどんを冷凍保存した後、加熱解凍しても同様の結果が得られた。
【0024】実施例5
合挽肉67部、牛脂3部、パン粉5部、卵5部、ソテーした玉ねぎ17部、食塩0.7部、ホワイトペッパー末0.15部、ナツメグ末0.05部、酵母粉末0.03部に対してシュクラロース0.001部(食塩100部に対して、0.143部)を混合し、成形した後、調理してハンバーグステーキを得た。このハンバーグステーキはシュクラロース無添加区に比べ塩かどがとれ、味にこく味が増し嗜好性の高いハンバーグステーキであった。
【0025】またこのハンバーグステーキを容器に充填し、120℃で20分加熱し、2ケ月保存後、再加熱しても同様の結果が得られた。
【0026】実施例6
果糖ぶどう糖液糖85部、50%乳酸8.7部、食塩28部、動物蛋白加水分解物14部、グリシン2部、ウコン色素1部に対して、シュクラロース0.01部(食塩100部に対して0.036部)を添加し、水に溶解して全量300部とし、たくあん漬け用調味液を得た。
【0027】このたくあん漬け用調味液は、シュクラロース無添加区に比べ塩かどがとれ、味にこく味が増し、嗜好性の高いたくあん漬け用調味液であった。このたくあん漬け用調味液30部に塩ぬきしたたくあん70部をつけ込み、たくあん漬けを得た。このたくあん漬けは、シュクラロース無添加区に比べ塩かどがとれ、味にこく味が増し嗜好性の高いたくあん漬けであった。
【0028】
【発明の効果】食塩を含有する食品にシュクラロースを添加することにより、食品の後味に残る強い塩味、すなわち「塩かど」をなくし、さらに味に幅を持たせる、いわゆる「こく付け」あるいは「丸味を付ける」効果を付与して食品の風味を向上させることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-03-13 
結審通知日 2014-03-17 
審決日 2014-04-10 
出願番号 特願平7-15301
審決分類 P 1 113・ 534- ZD (A23L)
P 1 113・ 121- ZD (A23L)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 小川 慶子
齊藤 真由美
登録日 2003-06-13 
登録番号 特許第3439559号(P3439559)
発明の名称 食品の風味向上法  
代理人 井上 裕史  
代理人 村林 ▲隆▼一  
代理人 佐合 俊彦  
代理人 田中 千博  
代理人 小林 幸夫  
代理人 溝内 伸治郎  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 小林 幸夫  
代理人 田中 千博  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 溝内 伸治郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ