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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1298054
審判番号 不服2012-24727  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-13 
確定日 2015-03-04 
事件の表示 特願2010-507646「照明デバイスおよび照明方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月13日国際公開、WO2008/137975、平成22年 8月 5日国内公表、特表2010-527155〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年(平成20年)5月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年5月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成24年8月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月13日に拒絶査定不服審判請求がなされた後、当審において、平成25年7月24日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月22日に手続補正がなされ、さらに同年3月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年8月4日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成26年8月4日になされた手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「少なくとも1つの固体発光体を含む固体発光体の第1のグループと、
第1のルミネッセンス材料と、
約600nmから約630nmの範囲内に主波長を有する光を放射する少なくとも1つの固体発光体と を含む照明デバイスであって、
前記固体発光体の第1のグループのそれぞれは、光照射状態の場合、約380nmから約430nmまでの範囲内にピーク波長を有する光を放射し、
前記第1のルミネッセンス材料は、励起された場合、約555nmから約585nmの範囲内に主波長を有する光を放射し、
前記固体発光体の第1のグループのそれぞれが光照射状態で、前記第1のルミネッセンス材料の少なくとも一部が励起状態の場合、(1)前記固体発光体の第1のグループによって放射された前記照明デバイスから放射される光と、(2)前記第1のルミネッセンス材料によって放射された前記照明デバイスから放射される光との混合光は、追加の光が存在しない場合に、第1の線分が第1の点と第2の点を結び、第2の線分が前記第2の点と第3の点を結び、第3の線分が前記第3の点と第4の点を結び、第4の線分が前記第4の点と第5の点を結び、第5の線分が前記第5の点と前記第1の点を結び、前記第1の点は0.32、0.40のx、y座標を有し、前記第2の点は0.36、0.48のx、y座標を有し、前記第3の点は0.43、0.45のx、y座標を有し、前記第4の点は0.42、0.42のx、y座標を有し、前記第5の点は0.36、0.38のx、y座標を有する、前記第1の線分、前記第2の線分、前記第3の線分、前記第4の線分、および前記第5の線分によって囲まれた1931 CIE色度図上の領域内にある点を定義するx、y色座標を有する混合光照射をもたらすことを特徴とする照明デバイス。」

第3 当審において通知した拒絶の理由
当審において、平成26年3月25日付けで通知した拒絶の理由は、次に抜粋して示すとおりのものである。

「……
2 この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



発明の詳細な説明の記載において、以下に記載のように、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が理解できるよう説明されていないため、各請求項に係る発明の技術的意義が不明である。
発明の詳細な説明の記載において、固体発光体が約600nmから約630nmの範囲内に主波長を有し、固体発光体の第1のグループのそれぞれが約380nmから約430nmまでの範囲内にピーク波長を有し、第1のルミネッセンス材料が、励起された場合、約555nmから約585nmの範囲内に主波長を有すること、及び、固体発光体の第1のグループによって放射された照明デバイスから放射される光と、第1のルミネッセンス材料によって放射された照明デバイスから放射される光との混合光が、第1の線分が第1の点と第2の点を結び、第2の線分が前記第2の点と第3の点を結び、第3の線分が前記第3の点と第4の点を結び、第4の線分が前記第4の点と第5の点を結び、第5の線分が前記第5の点と前記第1の点を結び、前記第1の点は0.32、0.40のx、y座標を有し、前記第2の点は0.36、0.48のx、y座標を有し、前記第3の点は0.43、0.45のx、y座標を有し、前記第4の点は0.42、0.42のx、y座標を有し、前記第5の点は0.36、0.38のx、y座標を有する、前記第1の線分、前記第2の線分、前記第3の線分、前記第4の線分、および前記第5の線分によって囲まれた1931 CIE色度図上の領域内にある点を定義するx、y色座標を有する混合光照射をもたらすことの技術的意義が不明である。
……発明の詳細な説明には、例えば本願発明の実施例と比較例の対比など、……従来技術と比べて、発光効率、エネルーギー効率、CRI Raがどの程度向上するのかが理解できる説明が記載されておらず、上記構成の採用により、高い発光効率、高いエネルギー効率を実現しつつ、高いCRI Raを実現することができることの根拠が不明である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1?14に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。
……
3 この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1?14
・引用文献 1、2
・備考:
……
引用文献1に記載のLEDランプにおいて、青色発光LEDに換えて、引用文献2に記載の近紫外線LEDを用い、LED素子及び蛍光体の主波長又はピーク波長、及び近紫外線LEDと蛍光体の放射光の混合光の色度を本願発明の如く設定することは、当業者が容易になし得ることである。
……
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2002-57376号公報
2.特開2007-67420号公報(特許請求の範囲、段落【0015】?【0023】を参照。) 」

第4 記載不備(特許法第36条4項1号)について
1 本願明細書の記載
本願発明の「固体発光体」は「約600nmから約630nmの範囲内に主波長を有する光を放射」し、「固体発光体の第1のグループのそれぞれは、光照射状態の場合、約380nmから約430nmまでの範囲内にピーク波長を有する光を放射」し、「第1のルミネッセンス材料は、励起された場合、約555nmから約585nmの範囲内に主波長を有する光を放射」し、「前記固体発光体の第1のグループのそれぞれが光照射状態で、前記第1のルミネッセンス材料の少なくとも一部が励起状態の場合、(1)前記固体発光体の第1のグループによって放射された前記照明デバイスから放射される光と、(2)前記第1のルミネッセンス材料によって放射された前記照明デバイスから放射される光との混合光は、追加の光が存在しない場合に、第1の線分が第1の点と第2の点を結び、第2の線分が前記第2の点と第3の点を結び、第3の線分が前記第3の点と第4の点を結び、第4の線分が前記第4の点と第5の点を結び、第5の線分が前記第5の点と前記第1の点を結び、前記第1の点は0.32、0.40のx、y座標を有し、前記第2の点は0.36、0.48のx、y座標を有し、前記第3の点は0.43、0.45のx、y座標を有し、前記第4の点は0.42、0.42のx、y座標を有し、前記第5の点は0.36、0.38のx、y座標を有する、前記第1の線分、前記第2の線分、前記第3の線分、前記第4の線分、および前記第5の線分によって囲まれた1931 CIE色度図上の領域内にある点を定義するx、y色座標を有する混合光照射をもたらす」との特定事項(以下「特定事項a」という。)に関し、本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0025】
固体発光体、例えば、発光ダイオードを使用して様々な用途で白色光を利用できるようにし、しかもエネルギー効率を高め、平均演色評価数(CRI Ra)を改善し、発光効率(lm/W)を上げ、および/または耐用期間を延ばすような方法が継続して求められている。」

(2)「【0031】
本発明の主題に従って、高い発光効率を実現しつつ高いCRT Raを実現することを目的として、固体発光体の第1のグループに光照射を行わせ、固体発光体の第1のグループのそれぞれが近紫外線領域内のピーク波長を有する近紫外線を放射するようにすることと、ルミホール(lumiphors)の第1のグループを励起し、ルミホールの第1のグループのそれぞれが約555nmから約585nmの範囲内の主波長を有する光を放射するようにし、ここで、(1)固体発光体の第1のグループによって放射された照明デバイスから放射される光と(2)ルミホールの第1のグループによって放射された照明デバイスから放射される光との混合が、追加の光なしに、第1の線分が第1の点と第2の点を結び、第2の線分が第2の点と第3の点を結び、第3の線分が第3の点と第4の点を結び、第4の線分が第4の点と第5の点を結び、第5の線分が第5の点と第1の点を結び、第1の点は0.32、0.40のx、y座標を有し、第2の点は0.36、0.48のx、y座標を有し、第3の点は0.43、0.45のx、y座標を有し、第4の点は0.42
、0.42のx、y座標を有し、第5の点は0.36、0.38のx、y座標を有する、第1、第2、第3、第4、および第5の線分によって囲まれた1931 CIE色度図上の領域内にある点を定義するx、y色座標を有する混合光照射をもたらすことと、このような光の混合を、この光の混合と組み合わせたときに白色光と知覚される光をもたらすオレンジ色または赤色の光と組み合わせることとを含む方法が提供される。」(段落【0033】、【0035】、【0036】及び【0048】にも同様の記載がある。)

(3)「【0114】
図4は、本発明の主題による照明デバイスの第1の実施形態を示している。
……
【0116】
第1のパッケージ化されたLED 16aが図5に示されている。LED 16aは、光照射状態のときに、近紫外線領域内のピーク波長を有する光を放射するLED 31、および励起状態のときに、約555nmから約585nmの範囲内の主波長を有する光を放射するルミホール35aを含む。
【0117】
第2のパッケージ化されたLED 16bが図6に示されている。LED 16bは、光照射状態のときに、約600nmから約630nmまでの範囲内の主波長を有する光を放射するLED 21を含む(また、LED 16bはルミホールを含まない)。
……
【0119】
第1のパッケージ化されたLED 16aによって放射された照明デバイス10から出る光は、1931 CIE色度図上の第1の領域、例えば、第1の線分が第1の点と第2の点を結び、第2の線分が第2の点と第3の点を結び、第3の線分が第3の点と第4の点を結び、第4の線分が第4の点と第5の点を結び、第5の線分が第5の点と第1の点を結び、第1の点は0.32、0.40のx、y座標を有し、第2の点は0.36、0.48のx、y座標を有し、第3の点は0.43、0.45のx、y座標を有し、第4の点は0.42、0.42のx、y座標を有し、第5の点は0.36、0.38のx、y座標を有し、特定の例では2850Kの光については0.3706、0.4370の、3400Kの光については0.3550、0.4089のx、y座標を有する点を含む、第1、第2、第3、第4、および第5の線分によって囲まれた領域内にある点を定義するx、y色座標を有する、1931 CIE色度図上の点に対応する。
【0120】
第1のパッケージ化されたLED 16aによって放射された照明デバイス10から出る光と、第2のパッケージ化されたLED 16bによって放射された照明デバイス10から出る光との組合せは、1931 CIE色度図上の黒体軌跡上の少なくとも1つの点の10個のマクアダム楕円内にある1931 CIE色度図上の1つの点に対応する。」

(4)「【0122】
図9は、本発明の主題による照明デバイスの第3の実施形態を示している。第3の実施形態は、第2のパッケージ化されたLED 16bの代わりに、第3の実施形態では、光照射状態のときに、近紫外線領域にピーク波長を有する光を放射するLEDチップ31、および励起状態のときに約600nmから約630nmまでの範囲内の主波長を有する光を放射するルミホール45aを含むパッケージ化されたLED 16c(図10に示されている)を含むことを除き、第1の実施形態に類似している。」

(5)「【0124】
図12は、第1の線分が第1の点と第2の点を結び、第2の線分が第2の点と第3の点を結び、第3の線分が第3の点と第4の点を結び、第4の線分が第4の点と第5の点を結び、第5の線分が第5の点と第1の点を結び、第1の点は0.32、0.40のx、y座標を有し、第2の点は0.36、0.48のx、y座標を有し、第3の点は0.43、0.45のx、y座標を有し、第4の点は0.42、0.42のx、y座標を有し、第5の点は0.36、0.38のx、y座標を有する、第1、第2、第3、第4、および第5の線分によって囲まれている1931 CIE色度図上の領域50を示している。」

2 当審の判断
(1)発明の詳細な説明には、特定事項aに関し、上記1(1)ないし(5)の記載があるにすぎず、当業者は、本願明細書をみても、特定事項aを採用することにより、例えば本願発明の実施例と比較例の対比など、「赤色またはオレンジ色と緑色または黄緑の光線を発生するリン光体材料と組み合わせた青色または紫色の発光ダイオードチップ」(段落【0019】)等の従来技術と比べて、何故、またどの程度、高い発光効率、高いエネルギー効率を実現しつつ、高いCRI Raを実現することができるのかを理解することができない。

(2)なお、請求人は、上記の点に関し、平成26年8月4日付けの意見書において、「本願明細書は、発光体のそれぞれにより放射される光の波長範囲、1931 CID色度図に規定される色度範囲について、混合される光の個々の要素に対して明確に記載している(段落【0026】ないし【0028】、及び【0030】)。そして、本願明細書に記載の方法及び装置は高いCRI Raと共に高いエネルギー効率を得るよう明確に記載されている」と述べ、本願発明が高いエネルギー効率を実現しつつ高いCRI Raを達成することを開示していると主張している。
しかしながら、当該段落【0026】ないし【0028】、及び【0030】の記載は、従来技術の課題に関するものであって、本願発明が特定事項aの採用により、高い発光効率、高いエネルギー効率を実現しつつ、高いCRI Raを実現することができることの根拠となるものとは認められない。加えて、請求人は、平成26年3月25日付けで通知した拒絶の理由の理由2に接しても、特定事項aの技術上の意義を裏付けるための検証を行って、その実験結果等を示すこともしていない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

3 小括
したがって、本願の発明の詳細な説明は、特定事項aに関して、特許法第36条第4項第1号で規定する経済産業省令で定めるところ、すなわち、特許法施行規則第24条の2に規定する要件を充足するように記載したものであるとはいえないから、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 容易想到性(特許法第29条2項)について
1 刊行物に記載された発明
(1)当審において平成26年3月25日付けで通知した拒絶の理由の理由3にて引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2002-57376号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】 青色発光LED素子と、
赤色発光LED素子と、
前記青色発光LED素子によって励起される蛍光体であって、前記青色発光LED素子が発光する青色の波長帯域と前記赤色発光LED素子が発光する赤色の波長帯域との間の波長帯域の発光強度を補う発光スペクトルを発光する蛍光体とを備えたLEDランプ。
【請求項2】 前記赤色発光LED素子のピーク波長は、600nm以上である、請求項1に記載のLEDランプ。
【請求項3】 前記青色発光LED素子のピーク波長は、450nmから470nmの範囲にあり、前記赤色発光LED素子のピーク波長は、610nmから630nmの範囲にあり、かつ、前記蛍光体の発光ピーク波長は、520nmから560nmの範囲にある、請求項1に記載のLEDランプ。
【請求項4】 前記LEDランプの相関色温度が5000K以上であって、演色性評価の基準光源が合成昼光の場合において、前記青色発光LED素子のピーク波長は、450nmから460nmの範囲にあり、前記赤色発光LED素子のピーク波長は、600nm以上であり、かつ、前記蛍光体の発光ピーク波長は、520nmから560nmの範囲にある、請求項1に記載のLEDランプ。
【請求項5】 前記LEDランプの相関色温度が5000K未満であって、演色性評価の基準光源が黒体放射の場合において、前記赤色発光LED素子のピーク波長は、615nmから650nmの範囲にあり、かつ、前記蛍光体の発光ピーク波長は、545nmから560nmの範囲にある、請求項1に記載のLED
ランプ。
……」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、LEDランプに関し、特に、白色発光LEDランプに関する。」

ウ 「【0005】上記公報に開示されたLED素子は、確かに白色発光を行うことができるが、そのLED素子をランプとして用いる場合には、次のような問題があることを本願発明者は見出した。上記従来のLED素子は、青色LED素子の発光と黄色蛍光体の発光とによって白色系の発光色を作り出しているので、赤色成分となる600nm以上の発光スペクトルが不足している。600nm以上の発光スペクトル(赤色成分)が不足していると、照明やバックライトに適用する場合に赤色の再現が低くなるという問題が生じる。さらに、赤色成分が不足しているので、相関色温度が比較的低い白色発光LED素子を構成することも難しい。本願発明者が調べた結果によると、従来の白色LEDの平均演色評価数Raは、赤の発光スペクトル成分が少なくてもすむ相関色温度が高い光色の場合でも、赤色の再現性の悪さが影響して約85の値を超えることは難しい。赤の色の見えを示す特殊演色評価数R9の値で評価した場合、赤色の再現性の悪さが如実に現れ、従来の白色LEDのR9は、約50近傍の低い値しか示さない。
【0006】また、本願発明者は、上記公報に開示されたLED素子の構成にさらに赤色蛍光体を設けて600nm以上の発光スペクトルを補うようにした構成も検討した。しかし、この構成では、青色LEDの発光によって赤色蛍光体を励起して赤色を発光させることになるため、エネルギー変換効率が非常に悪くなる。すなわち、青色を用いて赤色にすることは変換波長が大きいことを意味しているため、ストークスの法則に従ってエネルギー変換効率が非常に低下する。それゆえ、LEDランプの発光効率が極めて低くなってしまうので、赤色蛍光体を用いる構成は実用的ではない。
【0007】本発明はかかる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、色再現性が良く発光効率も高いLEDランプを提供することにある。」

エ 「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によるLEDランプは、青色発光LED素子と、赤色発光LED素子と、前記青色発光LED素子によって励起される蛍光体であって、前記青色発光LED素子が発光する青色の波長帯域と前記赤色発光LED素子が発光する赤色の波長帯域との間の波長帯域の発光強度を補う発光スペクトルを発光する蛍光体とを備えている。
【0009】前記赤色発光LED素子のピーク波長は、600nm以上であることが好ましい。
【0010】前記青色発光LED素子のピーク波長は、450nmから470nmの範囲にあり、前記赤色発光LED素子のピーク波長は、610nmから630nmの範囲にあり、かつ、前記蛍光体の発光ピーク波長は、520nmから560nmの範囲にあることが好ましい。
【0011】前記LEDランプの相関色温度が5000K以上であって、演色性評価の基準光源が合成昼光の場合において、前記青色発光LED素子のピーク波長は、450nmから460nmの範囲にあり、前記赤色発光LED素子のピーク波長は、600nm以上であり、かつ、前記蛍光体の発光ピーク波長は、520nmから560nmの範囲にあることが好ましい。
【0012】前記LEDランプの相関色温度が5000K未満であって、演色性評価の基準光源が黒体放射の場合において、前記赤色発光LED素子のピーク波長は、615nmから650nmの範囲にあり、かつ、前記蛍光体の発光ピーク波長は、545nmから560nmの範囲にあることが好ましい。」

上記アないしエ(特にア)によると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。

「青色発光LED素子と、
赤色発光LED素子と、
前記青色発光LED素子によって励起される蛍光体であって、前記青色発光LED素子が発光する青色の波長帯域と前記赤色発光LED素子が発光する赤色の波長帯域との間の波長帯域の発光強度を補う発光スペクトルを発光する蛍光体とを備えたLEDランプ。」

(2)当審において平成26年3月25日付けで通知した拒絶の理由の理由3にて引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2007-67420号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

ア 「【請求項1】
発光ダイオード(LED)構造体であって、
青色波長又はより短い波長を有する光を放出するLEDダイと、
前記LEDダイの複数の表面を形状が適合するように被覆する、LED光を白色光の第1の色成分に変換するための第1の蛍光体と、
を備え、
前記第1の蛍光体のコーティングの外面は、前記LEDダイの前記複数の表面に実質的に適合しており、
前記コンフォーマルなコーティングを有する前記LEDダイを実質的にカプセル封入する、透過性バインダ内の第2の蛍光体が設けられ、
前記LEDダイ、並びに少なくとも前記第1及び第2の蛍光体から放出された光の組み合わせが白色光を生成することを特徴とする構造体。
【請求項2】
LEDダイから放出された光が、420nmから490nmまでの範囲内の青色であることを特徴とする請求項1に記載の構造体。
……
【請求項5】
前記第1の蛍光体は、前記LED光によって励起されたとき赤色光を生成し、前記第2の蛍光体は、該LED光によって励起されたとき黄緑色光又は緑色光を生成することを特徴とする請求項1に記載の構造体。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED)に関し、特定的には、LEDの光出力を白色光に変換するための技術に関する。」

上記ア及びイによると、刊行物2には、以下の事項が記載されていると認められる。

「420nmから490nmまでの範囲内の青色光を放出するLEDダイ、前記LED光によって励起されたとき赤色光を生成第1の蛍光体、及び前記LED光によって励起されたとき黄緑色光又は緑色光を生成する第2の蛍光体から放出された光の組み合わせが白色光を生成すること。」

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「青色発光LED素子」と、本願発明の「光照射状態の場合、約380nmから約430nmまでの範囲内にピーク波長を有する光を放射」する「少なくとも1つの固体発光体を含む固体発光体の第1のグループ」とは、「1つの固体発光体を含む固体発光体の第1のグループ」である点で共通する。

(2)引用発明の「前記青色発光LED素子によって励起され」、「前記青色発光LED素子が発光する青色の波長帯域と前記赤色発光LED素子が発光する赤色の波長帯域との間の波長帯域の発光強度を補う発光スペクトルを発光する」「蛍光体」と、本願発明の「励起された場合、約555nmから約585nmの範囲内に主波長を有する光を放射」する「第1のルミネッセンス材料」とは、「第1のルミネッセンス材料」である点で共通する。

(3)600nmから630nmの範囲内の波長を有する光は赤色光であるから、引用発明の「赤色発光LED素子」と、本願発明の「約600nmから約630nmの範囲内に主波長を有する光を放射する少なくとも1つの固体発光体」とは、「赤色光を放射する1つの固体発光体」である点で共通する。

(4)引用発明の「LEDランプ」は、本願発明の「照明デバイス」に相当する。

(5)以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「1つの固体発光体を含む固体発光体の第1のグループと、
第1のルミネッセンス材料と、
赤色光を放射する1つの固体発光体と
を含む照明デバイス。」

(6)他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
固体発光体の第1のグループに関し、本願発明では、光照射状態の場合、約380nmから約430nmまでの範囲内にピーク波長を有する光を放射するのに対し、引用発明では、青色発光であってピーク波長の範囲が特定されていない点。

<相違点2>
第1のルミネッセンス材料に関し、本願発明では、励起された場合、約555nmから約585nmの範囲内に主波長を有する光を放射するのに対し、引用発明では、青色発光LED素子が発光する青色の波長帯域と赤色発光LED素子が発光する赤色の波長帯域との間の波長帯域の発光強度を補う発光スペクトルを発光するものであって主波長の範囲が特定されていない点。

<相違点3>
赤色光を放射する1つの固体発光体に関し、本願発明では、約600nmから約630nmの範囲内に主波長を有する光を放射するのに対し、引用発明では、主波長の範囲が特定されていない点。

<相違点4>
本願発明では、固体発光体の第1のグループのそれぞれが光照射状態で、第1のルミネッセンス材料の少なくとも一部が励起状態の場合、(1)固体発光体の第1のグループによって放射された照明デバイスから放射される光と、(2)第1のルミネッセンス材料によって放射された照明デバイスから放射される光との混合光は、追加の光が存在しない場合に、第1の線分が第1の点と第2の点を結び、第2の線分が第2の点と第3の点を結び、第3の線分が第3の点と第4の点を結び、第4の線分が第4の点と第5の点を結び、第5の線分が第5の点と第1の点を結び、第1の点は0.32、0.40のx、y座標を有し、第2の点は0.36、0.48のx、y座標を有し、第3の点は0.43、0.45のx、y座標を有し、第4の点は0.42、0.42のx、y座標を有し、第5の点は0.36、0.38のx、y座標を有する、第1の線分、第2の線分、第3の線分、第4の線分、および第5の線分によって囲まれた1931 CIE色度図上の領域内にある点を定義するx、y色座標を有する混合光照射をもたらすのに対し、引用発明では、青色発光LED素子から放射される光と、青色発光LED素子によって励起される蛍光体から放射される光との混合光の1931 CIE色度図上のx、y色座標が特定されていない点。

3 判断
相違点1ないし4についてまとめて検討する。
(1)本願明細書には、固体発光体の第1のグループから放射される光のピーク波長の範囲、第1のルミネッセンス材料から放射される光の主波長の範囲、及び赤色光を放射する1つの固体発光体から放射される光の主波長の範囲を本願発明の範囲に特定し、かつ、固体発光体の第1のグループのそれぞれが光照射状態で、第1のルミネッセンス材料の少なくとも一部が励起状態の場合、(1)固体発光体の第1のグループによって放射された照明デバイスから放射される光と、(2)第1のルミネッセンス材料によって放射された照明デバイスから放射される光との混合光は、追加の光が存在しない場合に、第1の線分が第1の点と第2の点を結び、第2の線分が第2の点と第3の点を結び、第3の線分が第3の点と第4の点を結び、第4の線分が第4の点と第5の点を結び、第5の線分が第5の点と第1の点を結び、第1の点は0.32、0.40のx、y座標を有し、第2の点は0.36、0.48のx、y座標を有し、第3の点は0.43、0.45のx、y座標を有し、第4の点は0.42、0.42のx、y座標を有し、第5の点は0.36、0.38のx、y座標を有する、第1の線分、第2の線分、第3の線分、第4の線分、および第5の線分によって囲まれた1931 CIE色度図上の領域内にある点を定義するx、y色座標を有する混合光照射をもたらすことの技術上の意義について、上記第4において検討したとおり、当業者が理解できる説明が記載されておらず、本願発明において、上記ピーク波長及び主波長の範囲を特定し、かつ、上記色度図上のx、y色座標の範囲を特定したことに設計上の適宜の範囲を定めた以上の意義があるとは認められない。

(2)そして、引用発明において、青色発光LED素子から放射される光のピーク波長の範囲、蛍光体から放射される光の主波長の範囲、赤色発光LED素子から放射される光の主波長の範囲、及び青色発光LED素子から放射される光と、青色発光LED素子によって励起される蛍光体から放射される光との混合光の1931 CIE色度図上のx、y色座標の範囲を如何にするかは当業者が適宜設定し得る設計的事項というべきところ、刊行物1には、「赤色発光LED素子のピーク波長は、615nmから650nmの範囲にあり、かつ、前記蛍光体の発光ピーク波長は、545nmから560nmの範囲にある」(上記1(1)ア【請求項5】を参照。)と記載されていること、刊行物2には、「420nmから490nmまでの範囲内の青色光を放出するLEDダイ、前記LED光によって励起されたとき赤色光を生成第1の蛍光体、及び前記LED光によって励起されたとき黄緑色光又は緑色光を生成する第2の蛍光体から放出された光の組み合わせが白色光を生成すること。」(上記1(2)を参照。)が記載されていることを踏まえると、引用発明において、青色発光LED素子から放射される光のピーク波長の範囲、蛍光体から放射される光の主波長の範囲、及び赤色発光LED素子から放射される光の主波長の範囲を、相違点1ないし3に係る本願発明の如くするとともに、青色発光LED素子から放射される光と、青色発光LED素子によって励起される蛍光体から放射される光との混合光の1931 CIE色度図上のx、y色座標の範囲を相違点4に係る本願発明の如くすることは当業者が容易になし得ることである。

(3)本願発明の効果について
本願発明によってもたらされる効果を全体としてみても、引用発明及び刊行物2に記載の技術から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は、平成26年8月4日付けの意見書(4頁11?43行)において、刊行物1に用いられる蛍光体が、刊行物2に開示の近紫外線LEDから放射される光によって励起されることは、当業者にとって想定し得ないものであり、刊行物1に記載の蛍光体を、刊行物2に開示の近紫外線LEDと共に用いることが可能であるとの理由は存在せず、そのような組み合わせの動機付けも存在しない旨、及び刊行物1及び2の何れも、近紫外線LEDと刊行物1の蛍光体を用いて、本願の請求項1に記載の1931 CIE色度図内の点における出力光を生成する試みを当業者に対して提供することは開示していない旨主張するが、引用発明において、上記相違点1ないし4に係る本願発明の構成となすことが当業者において容易になし得ることであるのは上記(1)及び(2)のとおりであって、採用できない。

4 小括
したがって、本願発明は、当業者が刊行物1に記載された発明及び刊行物2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものである。
さらに、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-09 
結審通知日 2014-10-10 
審決日 2014-10-22 
出願番号 特願2010-507646(P2010-507646)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 角地 雅信  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 星野 浩一
吉野 公夫
発明の名称 照明デバイスおよび照明方法  
代理人 小野 新次郎  
代理人 大牧 綾子  
代理人 小林 泰  
代理人 星野 修  
代理人 富田 博行  

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