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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する G06K
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する G06K
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する G06K
管理番号 1303209
審判番号 訂正2012-390156  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2012-12-07 
確定日 2015-07-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3823487号に関する訂正審判事件についてした平成25年3月19日付けの審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成25年(行ケ)第10115号,平成27年2月26日判決言渡)があったので,更に審理の結果,次のとおり審決する。 
結論 特許第3823487号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯・請求人の主張等

1.手続の経緯の概要

(1)出願の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」と記す。)は
平成9年10月27日付けの出願であって,
平成15年10月27日付けで審査請求がなされ,
平成18年4月5日付けで拒絶理由通知(平成18年4月11日発送)がなされ,
同年5月11日付けで意見書が提出されると共に,同日付けで手続補正書が提出され,
平成18年6月2日付けで特許査定(平成18年6月6日謄本送達)がなされ,
平成18年7月7日に特許第3823487号(以下「本件特許」と記す。)として設定の登録がなされたものである。

(2)当審での経緯
本件審判請求は
平成24年12月7日付けで「特許3823487号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり一群の請求項毎に訂正することを認める,との審決を求める。」との趣旨でなされたものであるところ,
平成25年1月17日付けで訂正拒絶理由通知(平成25年1月21日発送)がなされ,
平成25年2月19日付けで意見書が提出されるとともに,上記訂正明細書及び特許請求の範囲を補正する補正書が提出され,
平成25年3月19日付けで「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(同年4月4日謄本送達)がなされたものである。

(3)審決取消訴訟後の経緯
本件審決取消請求は
平成25年4月25日付けで,
「1 特許庁が訂正2012-390156号事件について平成25年3月19日にした審決を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。」との趣旨でなされたものであるところ,
平成27年1月15日に口頭弁論を終結して,
平成27年2月26日付けで本件審決取消請求を認める判決がなされたものである。
そして,本件審判請求は
平成27年4月15日付けで訂正拒絶理由通知(平成27年4月17日発送)がなされ,
平成27年5月15日付けで意見書が提出されたものである。


2.訂正及び補正の内容・訂正拒絶理由・請求人の主張

(1)訂正前の特許請求の範囲
本件訂正前の特許請求の範囲は下記のとおりのものである。

<訂正前の特許請求の範囲>
「【請求項1】
複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定したことを特徴とする光学情報読取装置。
【請求項2】
前記光学的センサは,CCDエリアセンサであることを特徴とする請求項1記載の光学情報読取装置。」

また,本件訂正前の明細書の段落【0006】の記載は以下のとおりのものである。

<訂正前の段落【0006】>
「【課題を解決するための手段及び発明の効果】
上記課題を解決するためになされた本発明の光学情報読取装置は,複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りとを備える光学情報読取装置において,前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定したことを特徴とする。」


(2)当初訂正明細書等
本件訂正審判の請求書に最初に添付された訂正する特許請求の範囲は下記のとおりのものである。

<補正前の訂正特許請求の範囲>
「【請求項1】
複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整を容易とし,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。
【請求項2】
前記光学的センサは,CCDエリアセンサであることを特徴とする請求項1記載の光学情報読取装置。」

また,本件訂正審判の請求書に最初に添付された訂正明細書の段落【0006】の記載は以下のとおりのものである。

<補正前の訂正明細書の段落【0006】>
「【課題を解決するための手段及び発明の効果】
上記課題を解決するためになされた本発明の光学情報読取装置は,複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整を容易とし,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となるようにしたことを特徴とする。」


(3)平成25年2月19日付け手続補正
上記平成25年2月19日付けの手続補正書によって訂正特許請求の範囲は下記のとおりのものに補正された。

<補正後の訂正特許請求の範囲>
「【請求項1】
複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。
【請求項2】
前記光学的センサは,CCDエリアセンサであることを特徴とする請求項1記載の光学情報読取装置。」

また,同手続補正書によって訂正明細書の段落【0006】の記載は以下のとおりのものに補正された。

<補正後の訂正明細書の段落【0006】>
「上記課題を解決するためになされた本発明の光学情報読取装置は,複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする。」


(4)訂正拒絶理由通知
上記平成27年4月15日付けの訂正拒絶理由通知で通知された理由は概略以下のとおりである。

『理 由
1.訂正の趣旨・訂正事項
本件訂正審判請求の趣旨は
「特許3823487号の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書の通り訂正することを認めるとの審決を求める。」
と言うものであり,審判請求書及び平成25年2月19日付けの手続補正書によって訂正された訂正明細書等の記載からみて,本件訂正は請求項1,2からなる一群の請求項についてする次の訂正事項よりなるものと認められる。
・・・〈中略〉・・・

2.特許法第126条第1項で規定する要件(目的要件)
・・・〈中略〉・・・
したがって,本件訂正は特許法第126条第1項で規定する要件を満たしている。

3.特許法第126条第3?6項で規定する要件
・・・〈中略〉・・・
したがって,本件訂正は特許法第126条第3項,第4項で規定する要件を満たしている。
・・・〈中略〉・・・
したがって,本件訂正は特許法第126条第5項で規定する要件を満たしている。
・・・〈中略〉・・・
したがって,本件訂正は特許法第126条第6項で規定する要件を満たしている。

4.特許法第126条第7項で規定する要件(独立特許要件)
上記2.のとおり,本件訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで,本件訂正後の各請求項に記載されている事項により特定される発明が本件に係る特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて,以下に検討する。

4-1.請求項1,2の記載要件

(1)サポート要件
ア.本件訂正後の請求項1の「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」との記載と本件訂正後の発明の詳細な説明の記載とが整合せず(本件訂正後の請求項1の当該記載によれば,「カメラ部制御装置」は本件訂正後の発明の詳細な説明および図面(以下「本件訂正明細書等」と記載する。)における「AGCアンプ52」「補助アンプ56」「2値化回路57」「周波数分析器58」に対応するものと解されるが,本件訂正明細書等においては「カメラ部制御装置50」は「32bitのRISCCPU」である。),両者の対応関係が不明なものとなっている。

イ.本件訂正後の請求項1に「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」とあるが,「所定値」はゼロをも含むものであるから,本件訂正発明は本件訂正明細書等に従来例として開示されるものに比し何ら改善がなされていないものや更に悪化させたものをも包含することになるところ,このようなものが本件訂正明細書等記載の課題(以下「所期の課題」と記載する。)を解決し得ないことは明らかである。してみると,本件訂正後の請求項1の記載は,所期の課題を達成するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求したものとなっていると言える。
(・・・〈中略〉・・・)

ウ.本件訂正後の請求項1には「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との記載があり,これは「露光時間などの調整」が要因となって「中心部においても周辺部においても読取が可能となる」との因果関係があることを明示するものと解されるが,これは本件訂正後の発明の詳細な説明には記載されていない事項である。
(・・・〈中略〉・・・)

エ.本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1を引用する同請求項2にも同様のことが言える。

オ.したがって,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。

カ.なお,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との記載に関しては,本件訂正に対する平成25年3月19日付けの審決(以下「前審決」と記載する。)の審決取消訴訟である平成25年(行ケ)第10115号の判決(以下「前判決」と記載する。)においては,特許法第36条第6項第2号についての判示があったが,特許法第36条第6項第1号についての判示はなかった。したがって,上記ウ.で指摘した不備を特許法第36条第6項第1号違反とすることは前判決の拘束力に反するものではない。


(2)明確性要件
ア.本件訂正後の請求項1に「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」を備え,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置する」旨の記載があるが,本件訂正明細書等の記載を参酌してもその意味が明確でない。
[・・・〈中略〉・・・]

イ.本件訂正後の請求項1の「カメラ部制御装置」の意味が明確でない。
[・・・〈中略〉・・・]

ウ.本件訂正後の請求項1の「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との記載があるが,該「相対的」の基準が明確でないため,この記載が射出瞳位置までの距離がどのように設定されていることを意味するのかが,明確でない。
[・・・〈中略〉・・・]

エ.本件訂正後の請求項1に「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」と,すなわち,文言通りに解釈すれば「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置すること」が要因となって「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」する旨の記載があるところ,その技術的な意味が明確でない。
[・・・〈中略〉・・・]

オ.本件訂正後の請求項1に「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」とあるが,ここでの「光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力」は如何なる条件下での出力を意味するのかが明確でない。
[・・・〈中略〉・・・]

カ.本件訂正後の請求項1記載の「光学情報読取装置」とは如何なるものを意味するのか(所謂,民生用テレビカメラや工業用テレビカメラなどをも含むのか? 電子スチルカメラや指紋読取装置やイメージスキャナなど静止画撮像用のものに限定されるのか? 所謂,バーコードリーダ,2次元コードリーダに限定されるのか? バーコード読み取り機能付きの携帯電話(例えば国際公開第97/26744号(特表2001-514806号公報に対応)(特に明細書第6頁第4行(空行含む)?第7行)等記載のもの)も含まれるのか?)が明確でない。
[・・・〈中略〉・・・]

キ.本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1を引用する同請求項2にも同様のことが言える。

ク.したがって,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。

(3)実施可能要件
ア.本件訂正後の請求項1に「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」とあり,本件訂正明細書には「【0040】・・・〈中略〉・・・」「【0041】・・・〈中略〉・・・」とあるが,上記(2)エ.でも述べたように,光学的センサから射出瞳位置までの距離は絞りの配置のみによって定まるものではなく,絞りを光学的センサから遠くにしたからといって光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなるわけではない(・・・〈中略〉・・・)ので,上記段落【0040】【0041】の記載は技術的に正しくない記載であり,この記載からはこのようなレンズ系を具体的にどの様な構成とすれば実現できるのかを理解することができない。さらに,本件訂正後の発明の詳細な説明の他の箇所にも,このようなレンズ系を具体的にどの様な構成とすれば実現できるのかを開示する記載は見当たらない。
(・・・〈中略〉・・・)
したがって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明からは,当業者といえども,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を如何に実施すればよいのかを正しく理解し,これを再現することはできない。

イ.本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1を引用する同請求項2に関しても同様のことが言える。

ウ.したがって,本件訂正後の発明の詳細な説明は,本件訂正後の請求項1,2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものである。


(4)委任省令要件
ア.本件訂正後の請求項1の「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」との記載があるが,結像レンズを「複数」とすることの技術上の意義(解決しようとする課題や作用効果。特に,結像レンズを「複数」とすることが,所期の課題の解決や本件訂正後の発明の詳細な説明記載の効果(以下「所望の効果」と記載する。)等に,何故,如何に寄与するのか?)が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない。
[・・・〈中略〉・・・]

イ.本件訂正後の請求項1には「光学的センサ」が「複数の受光素子が2次元的に配列される」ものである旨の限定がなされているが,受光素子が「2次元的に」配列されるものとすることの技術上の意義(・・・〈中略〉・・・)が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない。光学情報読取装置等で採用する光学的センサとしては受光素子が2次元的に配列されるものと1次元的に配列されるものとがある(・・・〈中略〉・・・)。してみると,本件訂正明細書記載の課題は受光素子が2次元的に配列されるもの特有の課題ではなく,受光素子が1次元的に配列されるものにおいても生じる課題であるから,受光素子が2次元的に配列されるものに限定することの技術上の意義が不明である。
[・・・〈中略〉・・・]

ウ.本件訂正後の請求項1には「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」を備える旨の限定がなされているが,「2値化」することの技術上の意義(・・・〈中略〉・・・)が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない。
[・・・〈中略〉・・・]

エ.本件訂正後の請求項1には「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」旨の限定がなされているが,「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」ことの技術上の意義(・・・〈中略〉・・・)が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない。
[・・・〈中略〉・・・]

オ.本件訂正後の請求項1において「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との事項を採用することの技術上の意義(これによって解決しようとする課題や作用効果)が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に説明されていない。
[・・・〈中略〉・・・]

カ.本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1を引用する同請求項2に関しても上記ア.?オ.と同様のことが言える。

キ.本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2においては,前記光学的センサが「CCDエリアセンサ」であることを限定するものであるが,その技術上の意義(・・・〈中略〉・・・)が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない。
[・・・〈中略〉・・・]

ク.以上のとおりであるから,本件訂正後の発明の詳細な説明は,本件訂正後の請求項1,2に係る発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず,特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものである。

(5)以上のとおり,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2の記載は特許法第36条第6項第1号,第2号に規定する要件を満たしておらず,また,本件訂正後の発明の詳細な説明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであり,さらに,発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が十分に記載されておらず,特許法第36条第4項及び特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところによる記載がされていないものであるから,本件訂正後の請求項1,2に係る発明は独立して特許を受けることができないものである。


4-2.請求項1に係る発明の進歩性

4-2-1.本件訂正発明
本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」と記載する。)は,本件訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された通りの次の事項によって特定されるものと認める。

「・・・〈中略〉・・・」

4-2-2.先行技術

(1)引用文献1
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-270501号公報(平成9年10月14日出願公開,以下「引用文献1」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(2)引用文献2
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平5-227468号公報(平成5年9月3日出願公開,以下「引用文献2」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(3)引用文献3
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平8-334691号公報(平成8年12月17日出願公開,以下「引用文献3」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(4)引用文献4
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平5-203873号公報(平成5年8月13日出願公開,以下「引用文献4」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(5)引用文献5
本願の出願前に頒布され,本件審判請求書において第1公知資料として請求人が引用した刊行物である,特開平7-168093号公報(平成7年7月4日出願公開,以下「引用文献5」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(6)引用文献6
本願の出願前に頒布され,本件審判請求書において第2公知資料として請求人が引用した刊行物である,特開平5-188284号公報(平成5年7月30日出願公開,以下「引用文献6」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(7)引用文献7
本願の出願前に頒布された,本件審判請求書において第3公知資料として請求人が引用した刊行物である,特開平8-278443号公報(平成8年10月22日出願公開,以下「引用文献7」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(8)引用文献8
本願の出願前に頒布された刊行物である,国際公開第96/13798号(1996年5月9日国際公開,以下「引用文献8」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(9)引用文献9
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平8-30715号公報(平成8年2月2日出願公開,以下「引用文献9」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(10)引用文献10
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平7-230519号公報(平成7年8月29日出願公開,以下「引用文献10」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(11)引用文献11
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平8-180125号公報(平成8年7月12日出願公開,以下「引用文献11」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(12)引用文献12
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開昭62-180483号公報(昭和62年8月7日出願公開,以下「引用文献12」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(13)引用文献13
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-147048号公報(平成9年6月6日出願公開,以下「引用文献13」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(14)引用文献14
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平3-117281号公報(平成3年5月20日出願公開,以下「引用文献14」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(15)引用文献15
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-231306号公報(平成9年9月5日出願公開,以下「引用文献15」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(16)引用文献16
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平8-16699号公報(平成8年1月19日出願公開,以下「引用文献16」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(17)引用文献17
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平7-254037号公報(平成7年10月3日出願公開,以下「引用文献17」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(18)引用文献18
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平7-282178号公報(平成7年10月27日出願公開,以下「引用文献18」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(19)引用文献19
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-8266号公報(平成9年1月10日出願公開,以下「引用文献19」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

(20)引用文献20
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-55488号公報(平成9年2月25日出願公開,以下「引用文献20」と記載する。)には,次の事項が記載されている。
・・・〈中略〉・・・

4-2-3.引用発明の認定
(1)上記(1-2)の「CCD固体撮像素子をOCR(Optical Chracter Recognition)等の光学式読みとりに用いる」等の記載から,引用文献1には
「CCD固体撮像素子を用いた光学式読みとり装置」
が記載されていると言える。

(2)上記(1-2)の「カメラレンズの絞りや,射出瞳特性等により一部集光されない光がある。」等の記載から,当該「光学式読みとり装置」に「カメラレンズ」と「絞り」が設けられていることを読み取ることができる。
そして,当該「カメラレンズ」が前記CCD固体撮像素子に被写体の像を結像させるものであること,及び,当該「絞り」が前記CCD固体撮像素子への被写体からの光を制限するものであることは,当業者であれば当然に了知する技術常識であり,「カメラレンズ」「絞り」という用語自体の技術的意味内容の一部にほかならない。(昭和56(行ヶ)93判決参照)
したがって,上記「光学式読みとり装置」は
「前記CCD固体撮像素子に被写体の像を結像させるカメラレンズと
前記CCD固体撮像素子への被写体からの光を制限する絞りと」
を有したものであると言える。

(3)上記(1-1)の「CCD固体撮像素子40は,複数の受光部61が行列状に配列され」「各受光部61の上部には,光を集光するOCL(オンチップレンズ)41が形成され」等の記載から,
「前記CCD固体撮像素子は複数の受光部が行列状に配列され,該各受光部の上部に光を集光するオンチップレンズが形成されたものである」
ことが読み取れる。

(4)よって,引用文献1には下記の事項によって特定される発明(以下「引用発明」と記載する。)が記載されていると認められる。

「CCD固体撮像素子を用いた光学式読みとり装置であって,
前記CCD固体撮像素子に被写体の像を結像させるカメラレンズと
前記CCD固体撮像素子への被写体からの光を制限する絞りと
を有し,
前記CCD固体撮像素子は複数の受光部が行列状に配列され,該各受光部の上部に光を集光するオンチップレンズが形成されたものである
光学式読みとり装置。」

4-2-4.対比
以下,本件訂正発明と引用発明とを比較する。

(1)引用発明は「光学式読みとり装置」であるところ,その読みとり対象が「情報」であることは明らかであるから,引用発明も本件訂正発明と同様に「光学情報読取装置」と言えるものである。

(2)引用発明における「カメラレンズ」は本件訂正発明における「結像レンズ」に対応付けられるものであるところ,前者は「CCD固体撮像素子に被写体の像を結像させる」ものであるから,両者は「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」である点で共通する。
したがって,引用発明と本件訂正発明とは
「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」
を備える点で共通すると言える。

(3)引用発明における「CCD固体撮像素子」は本件訂正発明における「光学的センサ」に対応付けられるものであるところ,前者は「カメラレンズ」によって「像」が「結像させ」られるものであり,しかも,「複数の受光部が行列状に配列され,該各受光部の上部に光を集光するオンチップレンズが形成されたもの」なのであるから,後者と同様に「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」と言えるものである。
したがって,引用発明も本件訂正発明と同様に
「読み取り対象の画像を受光するために読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」
を備えるものであると言える。

(4)引用発明における「絞り」は本件訂正発明における「絞り」に対応付けられるものであるところ,前者は「CCD固体撮像素子への被写体からの光を制限する」ものなのであるから,後者と同様に「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」と言えるものである。
したがって,引用発明も本件訂正発明と同様に
「該光学的センサへの反射光の通過を制限する絞り」
を備えるものであると言える。

(5)よって,本件訂正発明と引用発明とは,次の一致点で引用発明と一致していると言える。

[一致点]
「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
を備える光学情報読取装置。」

(6)しかして,本件訂正発明と引用発明とは,次の相違点で相違する。

[相違点1]
本件訂正発明における結像レンズは「複数のレンズで構成され」ており,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,」「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」いる(以下,これを「相違点1に係る事項」と記載する。)のに対して,引用発明における「カメラレンズ」の枚数や当該「カメラレンズ」と「絞り」との位置関係は不明で,「射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」され,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となる」と言えるものであるか否か不明である。

[相違点2]
本件訂正発明は,「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」を有する(以下,これを「相違点2に係る事項」と記載する。)のに対し,引用文献1には「CCD固体撮像素子」から出力された信号を如何に処理するかを説明する記載はないため,引用発明が「カメラ部制御装置」に相当するものを有するか否かは不明である。

[相違点3]
本件訂正発明は「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものである(以下,これを「相違点3に係る事項」と記載する。)のに対し,引用発明がそのようなものであるか否かは不明である。

4-2-5.判断
以下,上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
ア.上記相違点1に係る事項の技術的な意味・意義は,上記4-1.(2)ア.,ウ.,エ.,カ.,(4)ア.で示したように,必ずしも明確なものではなく多義的な解釈が可能なものではあるものの,要は,2枚以上の結像レンズを有した光学情報読取装置において光学的センサから射出瞳位置までの距離をなるべく長く設定することで,光学的センサの周辺部に位置する受光素子の感度低下を抑止することを表現したものでものであると解することができる。
イ.一般に,マイクロレンズを設けた撮像装置においては,受光素子への入射角による感度低下を防止するため,射出瞳を結像面からなるべく離した構造とする対策が採られることは,このような撮像光学系設計における技術常識に過ぎず,また,結像レンズを2枚以上で構成することも必要に応じて適宜に採用されている周知慣用技術に過ぎない(必要があれば,引用文献2(特に上記(2-1)),引用文献3(特に上記(3-1)?(3-6)),引用文献4(特に上記(4-2),(4-3)),引用文献5(特に上記(5-1),(5-2)),引用文献6(特に上記(6-1),(6-2)),引用文献7(特に上記(7-1),(7-2))等を参照。)。
ウ.また,光学情報読取装置においては,部分的な感度低下や輝度ムラなどがないように構成する必要があることは,当業者が当然に心得る技術常識に過ぎない(必要があれば,引用文献8(特に上記(8-2)),引用文献9(特に上記(9-2)),引用文献10(特に上記(10-2)),引用文献11(特に上記(11-4)),引用文献12(特に上記(12-2)),引用文献13(特に上記(13-1))等を参照。)。
エ.そして,引用文献1には上記(1-2)に「カメラレンズの絞りや,射出瞳特性等により一部集光されない光がある。」「H方向とV方向とで入射する斜め光L′の量および入射光の入射方向の限界が異なっていた。」とあり,カメラレンズの絞りや,射出瞳特性等による入射光の入射方向の限界という,本件訂正発明が解決しようとする課題と同等の問題点も示唆されている。
オ.してみると,引用発明において,上記相違点1に係る事項を採用することは,当業者であれば当然に想到する技術常識的な設計事項に過ぎず,その作用効果も当業者が当然に予測する程度のものである。
カ.なお,射出瞳を結像面からなるべく離した構造としては,全てのレンズの前面に絞りを配置した構成も従来から周知の構成である(必要があれば,引用文献4(特に上記(4-3)),引用文献5(特に上記(5-1)),引用文献6(特に上記(6-1)),引用文献7(特に上記(7-1))等を参照。)から,仮に上記相違点1に係る事項が,このような全てのレンズの前面に絞りを配置した構成を意味するとしてもこの点に進歩性を認め得るものではない。
キ.なお,引用発明における光学系が所定の射出瞳位置を有することは明らかであり,当該所定の射出瞳位置に比してCCD固体撮像素子側に射出瞳位置を有する他の光学系が存在し得ることも明らかであるから,上記引用文献1に記載されるものにおいても光学的センサに対応付けられるCCD固体撮像素子から当該所定の射出瞳位置までの距離は「相対的に長く設定」されていると言える。そして,本件訂正後の請求項1には上記4-1.(2)ア.,ウ.,エ.,オ.等で指摘した不備があるため,「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,」「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」いることは一致点と解することもできる。

(2)相違点2について
ア.CCDなどの固体撮像素子においては微弱な検出電荷を電圧に変換するための電荷電圧変換用の増幅器が必須であることは当業者の技術常識にほかならず,また,プリアンプや,AGCアンプ等の増幅器を設ける事も一般的に採用されている周知慣用技術にほかならない(必要があれば,引用文献8(特に上記(8-4) ),引用文献9(特に上記(9-4)),引用文献14(特に上記(14-1),(14-3)),引用文献15(特に上記(15-3)),引用文献16(特に上記(16-1))等を参照。)。
イ.また,情報読み取り装置において,読み取り対象物が2値の情報である場合に画像の2値化をすることも一般的に採用されている周知慣用技術にほかならない(必要があれば,引用文献9(特に上記(9-1)),引用文献11(特に上記(11-2)),引用文献12(特に上記(12-2)),引用文献15(特に上記(15-3)),引用文献17(特に上記(17-3))等を参照。)。
ウ.そして,位置決めマークを周波数成分比を検出することによって容易に検出できる2値の2次元コードが,本件出願時には既に周知慣用のものとなっており(必要があれば,引用文献11(特に上記(11-1)),引用文献17(特に上記(17-1),(17-2))等を参照。),引用発明の用途をこのような2次元コードの読み取りとすることも当業者であれば普通に想到し得る事項である。そして,その際には必然的に「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」ように構成することになることは明らかである。
エ.さらに,信号処理回路を制御するためにCPU等を設けることも一般的に採用されている周知慣用の事項に過ぎない(必要があれば,引用文献8(特に上記(8-6)),引用文献9(特に上記(9-3)),引用文献10(特に上記(10-3)),引用文献11(特に上記(11-3)),引用文献16(特に上記(16-2)),引用文献17(特に上記(17-4))等を参照。)。
オ.してみると,上記相違点2に係る構成は,その技術的な意味・意義が,上記4-1.(2)イ.,(4)ウ.,エ.等で示した如く必ずしも明確なものではなく,多義的な解釈が可能なものであるものの,いずれの解釈をしたとしても,当業者が適宜に採用し得る周知慣用技術を付加する程度のものに過ぎないものであって,これによって格別な作用効果が奏されるものでもない。
カ.したがって,引用発明に上記相違点2に係る事項を採用することは,当業者であれば適宜に採用し得る周知慣用技術の付加に過ぎないものであり,これによって格別な作用効果が奏されるものでもない。

(3)相違点3について
ア.上記相違点3に係る事項は,本件訂正前の明細書の段落【0011】【0042】の「照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読み取りが可能となる。」との記載を表現しようとしたものと解することができるところ,これは当該分野における一般的な課題,あるいは,上記相違点1の採用に伴って当然に奏される作用効果に過ぎない。
イ.また,露光時間の調整を行う事も,当該分野における周知慣用技術にほかならず(必要があれば,引用文献8(特に上記(8-5)),引用文献18(特に上記(18-1))等を参照。),上記相違点3に係る事項を文言通りに「露光時間などの調整」を要因として「中心部においても周辺部においても読取が可能となる」ことを意味するものと解釈したとしても,この点に進歩性を認め得るものではない。

(4)してみると,本件訂正発明の構成は引用発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
そして,上記各相違点に係る事項の採用によって格別顕著な相乗効果が奏されるものとも認められず,各相違点に係る事項の採用によって奏される作用効果を総合的に勘案しても,本件訂正発明の効果は,当業者であれば容易に予測し得る程度のものであって,格別顕著なものではない。
よって,本件訂正発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-2-6.その他の引用文献記載の発明に基づく進歩性の判断
(1)引用文献3に記載の発明に基づく進歩性の判断
ア.上記引用文献3の記載(特に上記(3-1)?(3-6)等を参照。)から,上記引用文献3には,「絞りと,
上記絞りの前方側に位置され,該絞り上に後側焦点位置を位置させ,物空間においてテレセントリック光学系を構成している第1のレンズ群と,
上記絞りの後方側に位置され,該絞り上に前側焦点位置を位置させ,像空間においてテレセントリック光学系を構成している第2のレンズ群とを備えている結像レンズ装置であって,
CCDの固体撮像素子を,受像面を上記像が形成される像面上に位置させて配設し,該固体撮像素子は受像面上の全面に亘って複数のマイクロレンズ配設されているものである装置。」(以下「引用文献3記載の発明」と記載する。)が記載されていると認められる
イ.当該引用文献3記載の発明と,本件訂正発明とを比較すると,両者は
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
を備える装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした装置。」である点で一致し,本件訂正発明は「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」を備える「光学情報読取装置」である点で上記引用文献3記載の発明と相違する。(「テレセントリック光学系」は射出瞳位置が無限遠点にあるものであるから,その光学的センサから射出瞳位置までの距離は射出瞳位置が有限の距離にある光学系に比し「相対的に長く設定」されていると言える。また,上記4-1.(2)ア.,ウ.,エ.等で指摘した不備があるため,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」する点は一致点としたが,仮にこの点が全ての結像レンズの前面に絞りを配置した構成を意味するとしても上記4-2-5.(1)カ.で述べたとおりであるから,この点に進歩性を認め得るものではない。)
ウ.しかしながら,上記4-2-5.(2)で述べたように,位置決めマークを周波数成分比を検出することによって容易に検出できる2値の2次元コードが,本件出願時には既に周知慣用のものとなっており,また,被写体と撮像素子が傾斜した状態での読み取り時の問題は2次元コードの読み取りにおいても発生する問題である(必要があれば,引用文献10(特に上記(10-2),(10-3)等を参照。))から,引用文献3記載の発明の用途をこのような2次元コードの読み取りとすることも当業者であれば普通に想到し得るものである。
エ.したがって,本件訂正発明は上記引用文献3に記載の発明からも容易に発明し得たものである。

(2)引用文献8に記載の発明に基づく進歩性の判断
ア.上記引用文献8の記載(特に上記(8-1)?(8-6)等を参照。)から,上記引用文献8には,
「被写体から反射した光度の範囲をカバーする好適なディジタルイメージを生成する電子カメラであって,前記カメラは,可変シャッタスピードコントロールとアナログイメージ信号生成手段とを含むイメージセンサアセンブリと,前記アナログイメージ信号を受領しかつ増幅された前記アナログイメージ信号を出力するよう構成されたビデオゲイン回路と,A/Dリファレンス入力に応答し,かつ,前記増幅アナログイメージ信号をディジタルイメージ信号に変換するように構成された,A/Dゲインコントローラを含むアナログディジタル(A/D)コンバータと,を包含しており,
ディジタルイメージ信号の受領と,前記ディジタルイメージ信号の少なくとも一部分の明るさにつれて変化する矯正信号の出力と,をするよう構成されている輝度評価回路と,
前記シャッタスピードコントロール,前記ビデオゲイン回路,及びA/Dリファレンス入力は,前記矯正信号に応答可能であり,
前記イメージセンサはCCDであり,
前記カメラのカメラレンズアセンブリは前方レンズグループと後方レンズグループと前記前方及び後方グループの間に位置している絞り面を有するものであり,
前記シャッタスピードコントロールはカメラの電子シャッタスピードを調整することである
ラベルイメージキャプチャ用電子カメラ。」(以下「引用文献8記載の発明」と記載する。)が記載されていると認められる。
イ.当該引用文献8記載の発明と,本件訂正発明とを比較すると,両者は
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列される光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした光学情報読取装置。」
である点で一致し,本件訂正発明においては「当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものである点,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」ている点及び「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものである点,カメラ部制御装置が「閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」点で,引用文献8記載の発明と相違する。
ウ.しかしながら,光学的センサを「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとすることは,本件出願時には当業者にとっては一般的な技術的趨勢にほかならないものであり(必要があれば,引用文献1(特に上記(1-1),(1-2)),引用文献2(特に上記(2-1)),引用文献3(特に上記(3-3)),引用文献4(特に上記(4-1)),引用文献5(特に上記(5-2)),引用文献6(特に上記(6-2)),引用文献7(特に上記(7-2)),引用文献14(特に上記(14-2)),引用文献19(特に上記(19-1)),引用文献20(特に上記(20-1))等を参照。),上記引用文献8に記載されるものにおける「CCDカメラ」のCCDを「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとすることは当業者であれば普通に着想し得たものである。
エ.そして,光学的センサを「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとした場合に,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」することも,上記4-2-5.(1)で述べたように,当業者であれば当然に想到する技術常識的な設計事項に過ぎず,その作用効果も当業者が当然に予測し得る程度のものである。
オ.なお,引用文献8記載の発明における光学系が所定の射出瞳位置を有することは明らかであり,当該所定の射出瞳位置に比してCCD側に射出瞳位置を有する他の光学系が存在し得ることも明らかであるから,上記引用文献8に記載されるものにおいてもCCDから当該所定の射出瞳位置までの距離は「相対的に長く設定」されていると言える。そして,本件訂正後の請求項1には上記4-1.(2)ア.,ウ.,エ.等で指摘した不備があるため,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」することも一致点と解することもできる。
カ.また,上記4-2-5.(2)で述べたように,位置決めマークを周波数成分比を検出することによって容易に検出できる2値の2次元コードが,本件出願時には既に周知慣用のものとなっており,上記引用文献8に記載されるものにおけるラベルのコードとして該周知慣用の2次元コードを採用し,「閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」ように構成することも当業者が容易に想到し得たことである。
キ.したがって,本件訂正発明は引用文献8記載の発明からも容易に発明し得たものである。

(3)引用文献17に記載の発明に基づく進歩性の判断
ア.上記引用文献17の記載(特に上記(17-1)?(17-4)等を参照。)から,上記引用文献17には
「二進コードで表されるデータをセル化して,二次元のマトリックス上にパターンとして配置した二次元コードにおいて,
マトリックス内の,少なくとも2個所の所定位置に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得られるパターンの位置決め用シンボルを配置した二次元コードを読み取る読み取り装置であって,
CCDカメラとデコーダとで構成され,
CCDカメラから読み込まれた画像信号が2値化され,この2値画像から,位置決め用シンボルの位置座標が検出され,該位置決め用シンボルの位置座標の検出は前期周波数成分比を検出することでなされるものである
読み取り装置。」(以下「引用文献17記載の発明」と記載する。)が記載されていると認められる。
イ.当該引用文献17記載の発明と,本件訂正発明とを比較すると,両者は
「光学的センサと,
前記光学的センサからの出力信号を閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置。」である点で一致し,
本件訂正発明においては,光学的センサが「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものであり,さらに「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」,「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備え,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」いる点,光学的センサからの出力信号を「増幅して」から閾値に基づいて2値化している点,及び,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものである点で引用文献17記載の発明と相違する。
ウ.しかしながら,上記4-2-5.(1)ウ.で述べたように,光学情報読取装置においては,部分的な感度低下や輝度ムラなどがないように構成する必要があることは,当業者が当然に心得る技術常識であり,引用文献17記載の発明におけるCCDカメラとして,部分的な感度低下や輝度ムラなどがないカメラを選択して採用することは,当業者が当然に考慮する設計事項に過ぎない。そして,部分的な感度低下や輝度ムラなどがないカメラとしては,光学的センサが「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものであり,さらに「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」,「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備え,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」いるカメラは周知のものである(必要があれば,引用文献4(特に上記(4-3)),引用文献5(特に上記(5-1)),引用文献6(特に上記(6-1)),引用文献7(特に上記(7-1))等を参照。)から,引用文献17記載の発明におけるCCDカメラとして,かかる周知のカメラを採用することは,公知の部品の中から最適な部品を選択するという,当業者の通常の創作力の発揮にほかならないものである。
エ.また,光学的センサからの出力信号を「増幅」することは上記4-2-5.(2)ア.等でも述べたように,技術常識あるいは一般的に採用されている周知慣用技術にほかならない。
オ.また,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるように」することも,上記4-2-5.(3)で述べたように格別なものではない。
カ.したがって,本件訂正発明は上記引用文献17に記載される発明からも容易に発明し得たものである。

4-2-7.小結
以上のとおり,本件訂正後の請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお,上記で主引例とした引用文献1,3,8,17は前審決で主引例としたものとは別の文献であり,これらに記載される発明も前審決における引用発明とは異なる。
また,上記判断には,前審決の相違点1,2,3,4についての判断と類似する点があるものの,前判決においては前審決で認定した相違点1,2,3,4についての判断についての判示はなかった。
したがって,上記進歩性についての検討は前判決の拘束力に反するものではない。


4-3.請求項2に係る発明の進歩性
引用発明は「CCD固体撮像素子」を用いたものである。また,引用文献3,8,17記載の発明もCCDを用いるものである。
したがって,本件訂正後の請求項2に係る発明も,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


4-4.中結
以上のとおり,本件訂正後の請求項1,2に係る発明は独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正は特許法第126条第7項の規定に違反する。


5.むすび
よって,本件訂正を認めることはできない。』


(5)意見書
平成27年5月15日付けの意見書(以下単に「意見書」と記載する。)の内容は概略以下のとおりである。

『第1 はじめに
訂正拒絶理由は、特許法126条7項の所謂独立特許要件を満たさないとして、記載要件と進歩性要件を挙げている。そして、訂正拒絶理由の記載要件と進歩性要件は、いずれも本件訂正発明が2次元コードリーダーに関するものであることを看過した点で共通しているやに思われる。
本件訂正発明は2次元コードリーダーの技術分野に特定されており、記載要件、進歩性要件共に満たすものであると信じるので、まず、記載要件を第2項として説明し、次いで、進歩性要件に関して第3項で意見を述べる。

第2 記載要件
(1)記載要件1 (サポート要件)
ア.カメラ部制御装置
(拒絶理由)
「カメラ部制御装置」は「AGCアンプ52」「補助アンプ56」「2値化回路57」「周波数分析器58」に対応するものと解されるが、本件訂正明細書等においては「カメラ部制御装置50」は「32bitのRISCCPU」であるとあり、両者の対応関係が不明である。

(意見)
特許法第36条第6項1号のサポート要件は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるところ、まず、本件訂正明細書では、2次元コード読取装置4は、大別して、カメラ部制御装置50とシステム制御装置70の2つの制御装置との二つの制御装置を備えていることを説明している。

【0027】
次に、2次元コード読取装置4の制御系統のブロック図である図4を参照してさらに説明を進める。
本実施例の2次元コード読取装置4は、カメラ部制御装置50とシステム制御装置70の2つの制御装置を備えており、それぞれで分担して各種制御を行っている。

そして、カメラ部制御装置50側に関連する構成をまず【0028】欄で列記し、その上で各関連構成の詳細説明を【0029】欄乃至【0032】欄で行っている。

【0028】
まず、カメラ部制御装置50側に関連する構成としては、CCDエリアセンサ41と、AGCアンプ52と、ローパスフィルタ(LPF)53と、基準電圧生成部54と、負帰還アンプ55と、補助アンプ56と、2値化回路57と、周波数分析器58と、A/D変換器59と、画像メモリ60と、画像メモリコントローラ61と、メモリ62と、照明発光ダイオード(照明LED)45などが挙げられる。

その上で、32bitのRISCCPUを用いて構成されたカメラ部制御装置50が、基準電圧生成部54、A/D変換器59及び照明発光ダイオード45を制御する旨を説明している。

【0033】
カメラ部制御装置50は、ここでは32bitのRISCCPUを用いて構成されており、基準電圧生成部54、A/D変換器59及び照明発光ダイオード45を制御することができるようにされている。基準電圧生成部54に対する制御とは、基準電圧を変更設定するなどの制御である。
・・・〈図4 省略〉・・・

この様に、本件訂正発明のカメラ部制御装置が、光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力する上で必要な制御を行うものであることは、これら本件訂正明細書の記載及び図4によって裏付けられている。

イ.所定値
(拒絶理由)
「所定値」はゼロをも含むものであるから、従来例に比して改善されていないものや悪化させたものを包含する。「所定値」とは如何なる値であるのかを明確にされたし。

(意見)
まず、「所定値」は出願当初より特許請求の範囲で用いられていた限定事項である。

【請求項2】 前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定したことを特徴とする請求項1記載の光学情報読取装置。(出願当初の請求項2)

そして、本件訂正発明における「所定値」が、ある特定の数値を指しているのではないことは、本件訂正明細書の記載に裏付けられている。本件訂正明細書の記載に照らせば、CCDエリアセンサ41の周辺部でも適切な読み取りが出来ること、即ち、CCDエリアセンサ41の周辺部の受光素子41aに対する集光レンズ41bによる集光率の低下を極力防止することを表現するための語句として、「所定値」が用いられている。

【0041】
図5(c)のグラフ中に破線で示すように、CCDエリアセンサ41の周辺部の受光素子41aに対する集光レンズ41bによる集光率の低下を極力防止することができ、適切な読み取りの実現に寄与する。

【0042】
なお、適切な読み取りを実現するためには、センサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要がある。
そのため、例えば、センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよう射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり、このような射出瞳位置となるように絞り34aの位置を設定するのである。このようにしておけば、中央部と周辺部の出力差を考慮しながら、例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。
・・・〈図5(c) 省略〉・・・

この様に、センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が「所定値」以上とするとの表現は、センサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルを「所定レベル」以上にすることの意味で用いられているのであって、明細書及び図面にも裏付けられている。

ウ.露光時間などの調整
(拒絶理由)
「露光時間などの調整」が要因となって「中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる」との因果関係が、発明の詳細な説明には記載されていない。
特許法第36条第6項第1号違反とすることは前判決の拘束力に反するものではない。

(意見)
拒絶に係る「露光時間などの調整」は、特許請求の範囲の「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」は、上記明細書【0042】欄に記載されている。
尚、明細書【0042】欄では、「中央部と周辺部の出力差を考慮しながら、例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる」と記載しているところ、例示として挙げた「照射光の光量」を特許請求の範囲で記載していないのは、本件訂正発明1では照射手段の限定がないからである。
拒絶理由では、「露光時間などの調整」が要因となって「中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる」との因果関係があるとしているが、上記記載を素直に読めば、「例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易とな」るのは、「中央部と周辺部の出力差を考慮しながら」調整することが容易となるのであって、「中央部と周辺部の出力差を考慮しながら調整することが容易とな」る結果、「中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる」のである。
そして、「露光時間などを調整」は、「中央部と周辺部の出力差を考慮しながら」調整を行う上で、調整の内容を具体的に示したものである。

エ. 小括
上述の次第であり、拒絶理由で挙げられた、「カメラ部制御装置」、「所定値」、「露光時間などの調整」はいずれも明細書の発明の詳細な説明に記載のある事項であり、特許法第36条第6項1号のサポート要件は満たしていると思料する。

(2)記載要件2(明確性要件)
ア.結像レンズ
(拒絶理由)
「複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」を備え、「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置する」記載は、明細書等を参酌してもその意味が明確でない。

(意見)
拒絶理由に係る訂正発明の特許請求の範囲は、「複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」及び「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」することを規定している。
即ち、「結像レンズ」は、複数のレンズで構成されていること、及び、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させるものであることが明確に規定されている。その上で、「結像レンズ」は、読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で入射するものであって、そのように絞りを配置することによって、光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定できるものであることも特許請求の範囲で明確に規定している。

従って、本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は明確であって、不明瞭な表現ではない。しかも、この点は、本件訂正明細書及び図面を参酌しても明白である。即ち、結像レンズ34b,34cは鏡筒43内に配置されており、絞り34aは結像レンズ34b,34cよりも読取口25側に配置されている。そして、比較例として結像レンズの複数のレンズ間に介装されている比較例(図6(a))を挙げ、本件訂正発明に係る配置(図6(b))は、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的に長くなるとしている。

【0040】
この周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が極力斜めにならないようにするため本実施例の2次元コード読取装置4では、図3に示すように、鏡筒43内において絞り34aを結像レンズ34b,34cよりも読取口25(図1,2参照)側に配置している。つまり、2次元コードにより反射された赤色光がまず絞り34aを通過し、その後、結像レンズ34b,34cに入射するよう、絞り34aが配置されている。これにより、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズ(図3の34b,34cが相当する)よりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的に長くなる。
・・・〈図6(a)及び(b) 省略〉・・・

この様に、本件訂正発明の「複数のレンズ」は比較例(図6(a))の様に間に絞りを介在させたものは含んでおらず、2次元コードの反射光がまず絞りを通過し、その後入射するように配置された「結像レンズ」を示していることは、明らかである。
尚、拒絶理由では、結像レンズは結像に関与する全てのレンズを意味するのか?絞りと光学的センサ間に配置される結像レンズのみを意味するのか?絞りと読取対象の画像との間に更に別の結像レンズが配置されるものを含むのか?複数のレンズの全てを含むのか?複数のレンズの内の一枚でもよいのか?ズームレンズは結像レンズに含むのか?等を挙げているが、これらの点に関しても、上記説明で明確であると思料する。
本件訂正発明の「結像レンズ」は、結像に関与するものである。そして、本件訂正発明の「結像レンズ」は、絞りが読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で入射するように配置されるものである。また、本件訂正発明の「結像レンズ」は、複数のレンズで構成されるので、一枚のものは含まれない。尚、ズームレンズが含まれるか否かは本来的に特許法第36条第6項第2号の拒絶理由に該当しないと思われる。当業者の一般的な理解としては2次元コードの読取装置には通常ズームレンズは用いられていない為、ズームレンズに対する言及がなされていないのである。

イ.カメラ部制御装置
(拒絶理由)
カメラ部制御装置の意味が明確でない。

(意見)
拒絶理由は、請求の範囲には記載のない「AGCアンプ52」等の用語を用いて請求の範囲の記載が不明確であるとしているので、その内容が分かりづらい。明確性要件は明細書及び図面を参照するものの特許請求の範囲に規定された発明が明確であるか否かで判断すべきである。
そこで、まず特許請求の範囲に規定された発明を確認する。特許請求の範囲で「カメラ部制御装置」は、「前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置」と規定されている。
即ち、「カメラ部制御装置」は、まず「光学的センサからの出力信号を増幅」する制御を行うものである。この点は、上記サポート要件でも説明した通り、関連する構成にアンプ(増幅器)を備えていることからも、明細書及び図面を参酌しても「カメラ部制御装置」の制御内容として不明瞭とされるものではない。
また、「カメラ部制御装置」は、「閾値に基づいて2値化」する制御も行うものである。この点も、上記サポート要件でも説明した通り、関連する構成に2値化回路を備えている。
従って、明細書及び図面を参酌しても「カメラ部制御装置」の制御内容として不明瞭とされるものではない。
更に、「カメラ部制御装置」は、「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出」する制御を行うものでもある。この点も、上記サポート要件でも説明した通り、関連する構成に周波数分析器を備えている。同様に、明細書及び図面を参酌しても「カメラ部制御装置」の制御内容として不明瞭とされるものではない。
且つ、「カメラ部制御装置」は、「検出結果を出力」する制御も行うものである。この点も、上記サポート要件でも説明した通り、関連する構成に画像メモリコントローラを備えている。
この様に、「カメラ部制御装置」の機能は特許請求の範囲に明確に規定されている。そして、これらの構成は、本件訂正明細書及び図面を参酌してもより一層明らかになる事は、上記(1)拒絶理由1(サポート要件)ア.項で説明した通りである。

ウ.射出瞳位置までの距離(1)
(拒絶理由)
「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との記載があるが、「相対的」の基準が明確でない為、射出瞳位置までの距離がどのように設定されていることを意味するのか明確でない。

(意見)
特許法第36条第6項2号明確性要件であるので、まずは、特許請求の範囲に規定された発明に基づいて明確性を判断する。特許請求の範囲では、「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」と規定されている。
この記載より、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」するのは、「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって」、そのように配置されていないものに比べて、光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定されるものであることは、一義的に明瞭である。
且つ、特許請求の範囲で「前記結像レンズ」は、「複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」であるので、明細書及び図面を参酌しても、特許を受けようとする発明が比較例に比べて相対的に長くなることは、上記サポート要件で説明した明細書【0009】欄や【0040】欄の説明及び図6からも明らかである。本件訂正発明は、比較例に比べて射出瞳位置までの距離を相対的に長くする結果、受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにならないようにしているのである。

尚、拒絶理由で結像レンズが1枚しかないものを想定して不明確としている点は、特許請求の範囲で結像レンズは複数のレンズで構成されると規定しているのであるから、本来的に特許法第36条第6項2号明確性要件違反の理由とはならないと考える。

エ. 射出瞳位置までの距離(2)
(拒絶理由)
テレセントリック光学系において、絞りの位置を前玉レンズ群の前方に配置しても光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなるわけでないので、光学的センサから射出瞳位置までの距離は絞りとレンズの前後関係のみによって定まるものではない。

(意見)
後述の「カ.光学情報読取装置」でも説明するが、本件訂正発明は2次元コードの読取を行う光学情報読取装置である。従って、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、2次元コードを読み取る読取装置の観点で判断すべきである。より具体的には、2次元コードの読取が周辺部においても適切に行えるよう、結像レンズの複数のレンズ間に絞りが介装される比較例(図6(a))に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に絞りを配置した本件訂正発明(図6(b))が、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなることが、2次元コードリーダーにおいて明確か否かで判断すべきである。

【0009】
そこで、本光学情報読取装置においては、読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう、絞りを配置している。つまり、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなる。絞りよりも像側(つまり光学的センサ側)にある光学系によって物体空間に生じる絞りの虚像を射出瞳(exit pupil)というが、光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳距離)は、光学的センサから絞りまでの光学的距離が長くなれば、それに伴って長くなるため、このような絞りの配置とすることで、結果的に光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。

絞りをレンズの間に位置させたテレセントリック光学系が示された事例があるからと言って、本件訂正発明の明確性を失うものではない。確かに、テレセントリック光学系は、射出瞳の位置が無限遠になるものであるので、レンズに対して真直ぐ入射する光を想定すれば、テレセントリック光学系が射出瞳位置までの位置が長いことは事実である。
しかしながら、本件訂正発明の2次元コード読取装置で光学的センサから絞りまでの光学的な距離を相対的に長くするのは、受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにならないようにするためであるので、絞りの位置を複数のレンズで構成される結像レンズの前に配置することが、理に適っており、やはり発明は明確である。
そして、付言するならば、このテレセントリック光学系を達成する場合であっても、引例3の様に第1レンズ群と第2レンズ群の間に絞りを配置するよりは、第1レンズ群と第2レンズ群より前に絞りを配置した方が、受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにならないようにすることが出来、相対的にレンズ群配置の小型化は達成できる。

オ. 光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力
(拒絶理由)
受光素子からの出力は被写体自体の明暗によって異なるものであり、常に出力値が所定値以上となるように設定することは不可能であるから、出力の比が所定値以上となる為の条件が不明である。

(意見)
拒絶理由指摘の様に、受光素子からの出力は被写体自体の明暗によって異なることは、ビデオカメラ等では首是出来るが、本件訂正発明は2次元コードの読取を行う光学情報読取装置であるので、被写体自体の明暗に対する対応が、一般的なビデオカメラ等とは大きく異なっている。
即ち、ビデオカメラでの被写体は人物や自然風景等多種多様であり、その為、被写体自体の明暗も千差万別である。一方、二次元コードは閾値以上の明度(白い)か閾値以下の明度(黒い)かの2値化で判断されるものであるので、被写体である読み取り対象の明暗は、原則として白いか黒いかである。
従って、被写体自体の明暗によって異なるとの不明確理由は、2次元コードの読取を行う光学情報読取装置である本件訂正発明には必ずしも適切な理由とはなり得ないと考える。
また、拒絶理由における「出力の比が所定値以上となる為の条件」は、「所定値」がある特定の値である事を前提とするものと思料されるが、本件訂正発明において受光素子からの出力の比が「所定値」以上とするとの表現は、センサ周辺部にある受光素子からの出力レベルを「所定レベル」以上にすることの意味で用いられていることは、上記のサポート要件で説明した通りである。
そして、出力レベルを所定レベル以上にするために、本件訂正発明が採用した手段は、上記の通り、「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」することであり、この点は、明細書及び図面を参酌しても、特許請求の範囲の記載より明白である。

カ.光学情報読取装置
(拒絶理由)
本件訂正発明の「光学情報読取装置」とは如何なるものを含むのかが明確でない。

(意見)
本件訂正発明が2次元コードの読取が出来る光学情報読取装置に関するものであることは、明細書の【発明の属する技術分野】の説明からも明確である。

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2次元コードなどの読み取り対象に光を照射し、その反射光から読み取り対象の画像を読み取る光学的読取装置に関する。

且つ、特許請求の範囲の記載においても、2次元コードの読取が出来る光学情報読取装置に関するものであることを以下の様に規定している。
まず、結像レンズが「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」ある事を特定して、「読み取り対象」がある事を前提としている。
次いで、光学的センサに関しても、「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」と規定して、同じく「読み取り対象」からの画像を受光すること及びその為に「2次元的に配列される」ことも明確にしている。
次いで、カメラ部制御装置が「前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置」であると規定し、「読み取り対象」を閾値に基づいて2値化して周波数成分比よりコードの解読を行うものであることも明らかにしている。
この様に、本件訂正発明の「光学情報読取装置」が2次元コードの光学情報を読み取る装置であることは、特許請求の範囲の記載からも明確である。

拒絶理由は、明確性要件に関する理由というよりは、権利範囲の属否に関する問いである様にも理解されるが、「民生用テレビカメラ」「工業用テレビカメラ」「電子スチルカメラ」「指紋読取装置」「イメージスキャナ」「カメラ付き携帯電話(バーコード読取機能付き携帯電話)」のいずれであっても、2次元コード読取機能を備えないものは、本件訂正発明の「光学情報読取装置」に該当しないことは明白である。
ただ、2次元コード読取機能があれば、付加的にバーコードの読取が可能であっても、やはり2次元コードを読み取る「光学情報読取装置」の範疇には含まれると考える。実際、2次元コードリーダーにおいて2次元コードと共にバーコードを読み取ることは商品として通常なされている。
しかし、本件訂正発明の2次元コード読取装置がバーコードを読み取ることが可能であることと、本件訂正発明がバーコードリーダーと同一視されることとは本質的に相違する。本件訂正発明は2次元コードを読み取る上での工夫を凝らしたものであり、その点はバーコードリーダーには備わっていないからである。この点は、進歩性判断において後述する。

キ.小括
本件の特許請求の範囲に記載された訂正発明は、請求項1及び請求項2共に、特許請求の範囲の記載自体から、及び、明細書及び図面を参酌した上でも明白であり、特許法第36条第6項2号の要件を満たすものである。

(3)記載要件3 (実施可能要件)
ア. 射出瞳位置までの距離
(拒絶理由)
絞りの位置を光学的センサから遠くしたからと言って光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなるわけでないので、明細書【0040】欄、【0041】欄の記載は技術的に正しくない記載である。

(意見)
上記(2)記載要件2(明確性要件)エ.で説明した通り、本件訂正発明のように複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に絞りを配置した(図6(b))方が、結像レンズの複数のレンズ問に絞りが介装される比較例(図6(a))に比べて、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなることは、発明として明確である。
このことが2次元コードの読取装置の当業者にとって、技術的に妥当性を以って理解可能であるか否かであるが、明細書【0040】欄、【0041】欄の記載にあるように、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的に長くするのは、周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が極力斜めにならないようにするためである。その為に、2次元コードより反射された反射光がまず絞り34aを通過し、その後、結像レンズ34b,34cに入射するよう、絞り34aを配置しており、この様な配置とすれば、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合(図6(b)参照)が、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的に長くなることは明確である。

【0040】
この周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が極力斜めにならないようにするため本実施例の2次元コード読取装置4では、図3に示すように、鏡筒43内において絞り34aを結像レンズ34b,34cよりも読取口25(図1,2参照)側に配置している。つまり、2次元コードにより反射された赤色光がまず絞り34aを通過し、その後、結像レンズ34b,34cに入射するよう、絞り34aが配置されている。これにより、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズ(図3の34b,34cが相当する)よりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的に長くなる。

(4)記載要件4 (委任省令要件)
ア.複数のレンズ
(拒絶理由)
結像レンズを複数のレンズとすることの技術的意義が、発明の詳細な説明に記載されていない。

(意見)
本件訂正明細書では、課題や解決手段は特許法施行規則第24条の2の要件を満たしている。
まず、従来の技術として、従来の2次元コードリーダーでは、結像レンズは通常複数枚のレンズが組にされた組レンズとして構成されており、その中心付近に絞りが配置されていることを取り上げている。

【0002】
【従来の技術】
従来、例えば2次元コードラベルなどの読み取り対象に光を照射し、2次元コードラベルからの反射光を受光して2次元コードラベルの画像データである2次元コードデータを読み取る装置(2次元コードリーダ)が知られている。この2次元コードリーダーでは、2次元コードからの反射光を結像レンズによって所定の読取位置に結像させ、その読取位置に配置された例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサによって2次元コードデータを読み取るようにしていた。なお、結像レンズは通常複数枚のレンズが組にされた組レンズとして構成されており、その中心付近に絞りが配置されている。

そして、本件訂正発明の独自の取り組みとして、2次元コードリーダーに受光素子41a毎に集光用のマイクロレンズが設けられたCCDエリアセンサを利用することを検討したことを説明する。

【0003】
ところで、例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサでは、受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されている。そして、感度向上のため、例えば図5に示すように、受光素子41a毎に集光用のマイクロレンズ(集光レンズと称す)41bが設けられたCCDエリアセンサ41もある。これは、図5(a)に示すように、受光素子41aに対して垂直に入射する光が集光レンズ41bによって集光されることで見かけ上の開口面積を拡大し、感度を向上させるというものである。

本件訂正発明は、マイクロレンズ付きCCDエリアセンサを2次元コードリーダーに用いる上での課題を更に検討したものであり、2次元コードリーダーに単純にマイクロレンズ付きCCDエリアセンサを組み合わせたのみでは、センサ周辺部において読取に必要な光量が確保できず、適切な読み取りができないことを取り上げ、これを2次元コードリーダーにおける課題として取り上げたのである。

【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図5(b)に示すように、受光素子41aに対して光が斜めに入射した場合には、集光レンズ41bによって集光されることで逆に受光素子41aへの集光率が低下し、その結果、感度が低下する。センサ単位で見てみると、図5(a)に示すように受光素子41aに対して光が垂直に入射するのはセンサの中央部にある受光素子41aであり、センサ周辺部にある受光素子41aに対しては光が斜めに入射する。その結果、図5(c)のグラフ中に実線で示すように、CCDエリアセンサ41からの出力は、センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込んだ状態となり、その周辺部において読取に必要な光量が確保できず、適切な読み取りができないという問題も生じる。

そして、この課題に対して、本件訂正発明1は請求項1の構成を採用している。この構成を採用することにより、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた比較例(図6(a))に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した本件訂正発明(図6(b))の方が、光学的センサから絞りまでの光学的な距離を相対的に長くしたのである。つまり、射出瞳距離を相対的に長くしたのである。

【0009】
そこで、本光学情報読取装置においては、読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう、絞りを配置している。つまり、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなる。絞りよりも像側(つまり光学的センサ側)にある光学系によって物体空間に生じる絞りの虚像を射出瞳(exit pupil)というが、光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳距離)は、光学的センサから絞りまでの光学的距離が長くなれば、それに伴って長くなるため、このような絞りの配置とすることで、結果的に光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。

この様に、射出瞳距離を相対的に長くすることによって、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに採用しても、光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を防止することが出来るのである。即ち、本件訂正発明によってはじめてマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに採用して、読み取りを適切に行うことが出来るのである。

【0010】
そして、光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなれば、センサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合も、それに伴って小さくなる。したがって、光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止することができ、適切な読み取りの実現に寄与する。

上述の次第であり、本件訂正発明の明細書には、課題解決手段を含め技術上の意義を理解するに必要な事項は明確に記載されている。結像レンズを複数のレンズとしたのは、上記の通り、複数のレンズを備えその中心付近に絞りを配置する例と比較して、絞りを通過した後で複数の結像レンズに入射する本件訂正発明の方が、射出瞳距離が相対的に長くなることを明確にしたのである。

イ.受光素子が2次元的に配置
(拒絶理由)
受光素子が2次元的に配置されることの技術上の意義が明確に記載されていない。2次元コードであっても受光素子が1次元的に配列されることも有り得る(引用文献15)。1次元的に配列される光学的センサにおいて集光レンズを設けることもある(引用文献2、引用文献19、引用文献20)。

(意見)
本件訂正発明の課題、解決手段は上述した通りであって、本件訂正発明は、まず2次元コードの読取を行う光学情報読取装置である。そして、2次元コードリーダーにマイクロレンズ付きのエリアセンサ(複数の受光素子が2次元的に配列される光学的センサ)を採用することは、本件訂正発明では発明の前提としており、その上での工夫を行っているのである。即ち、本件訂正発明では2次元配置の光学的センサを用いるのは、2次元コードが2次元方向の広がりを用いる為、情報を読み取る上で1次元配置の光学的センサより望ましいからである。
尤も、本件訂正発明では2次元配置の光学的センサを用いることを前提としているが、この2次元配置の光学的センサは光学的読取装置に当然の前提となるものではない。
寧ろ、長年光学的読取装置はバーコードの検出に用いられており、バーコード検出の光学的読取装置では、受光素子は1次元的に配列されるのが通常であったのである。
更に付言するならば、2次元コードリーダーにマイクロレンズ付きのエリアセンサを用いることを、本件訂正発明において前提として記載しているが、これは本件訂正発明が初めて独自に採用した技術である。2次元コードを読もうとすると、狭小な面積から多くの情報を読み出さなければならないので、二次元コードを読み取る2次元配置の光学センサでは一般に光量が不足しがちである。そこで、本件訂正発明では、この光量不足を補う為、受光素子毎にマイクロレンズを設けたCCDエリアセンサを2次元コードリーダーに初めて採用したのである。

ウ. 2値化
(拒絶理由)
2値化することの技術上の意義が明確に記載されていない。

(意見)
上記イ.及び次項のエ.でも同様であるが、拒絶理由において技術上の意義が明確でないとするのは、本件訂正発明が2次元コードリーダーに関するものであることを看過した拒絶であるやに思われる。
2値化とは、閾値に基づいて、閾値より明度の高い(白い)値を例えば「0」とし、閾値より明度の低い(黒い)値を例えば「1」とするのであり、この制御は次項の周波数分析と共に2次元コードを読み取る上での必須の構成である。従って、2値化することの技術上の意義は、2次元コードリーダーにとって明確である。尚、これは、2次元コードが所謂QRコード(「QRコード」はデンソーウェーブの登録商標)であるか否かによって変わるものではなく、他の2次元コードの読取においても同様である。

【0031】
補助アンプ56は、AGCアンプ52によって増幅された走査線信号を増幅して2値化回路57に出力する。この2値化回路57は、上記走査線信号を、閾値に基づいて2値化して周波数分析器58に出力する。周波数分析器58は、2値化された走査線信号の内から所定の周波数成分比を検出し、その検出結果は画像メモリコントローラ61に出力される。

エ. 周波数分析
(拒絶理由)
所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力することの技術上の意義が明確に記載されていない。

(意見)
上述した通り、2次元コードリーダーにおいては、「0」、「1」の2値化して、それより周波数成分の分析を行って、2次元コードを読み取るのである。これは、決して所謂QRコードに特有の特徴ではない。引用文献11や引用文献17でも2次元コードの読み取りが開示されているが、この読み取りと本件訂正発明の2次元コードの読み取りとは別となるものではない。いずれも、「0」、「1」の2値化成分からコードの内容を読み取るものであり、そこでは周波数成分比の分析を行っているのである。

オ. 絞りの配置
(拒絶理由)
「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との事項の技術上の意義が明確に記載されていない。

(意見)
絞りの配置に関する拒絶理由に対する訂正審判請求人の意見は、(2)記載要件2(明確性要件)のエ.項、及び(3)記載要件3(実施可能要件)のア.項で説明した通りである。
簡潔に繰り返せば、本件訂正発明のように複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に絞りを配置した(図6(b))方が、結像レンズの複数のレンズ間に絞りが介装される比較例(図6(a))に比べて、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなり、これによって周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにならないようにすることは、発明として明確であり、明細書及び図面にもその意義は明確に開示されている。
従って、上述した実施可能要件に関する意見で、本項の委任省令要件に関する説明も出来ていると思料する。

カ. CCDエリアセンサ
(拒絶理由)
請求項2において、CCD以外の固体撮像素子を排除して「CCDエリアセンサ」を採用することの技術上の意義が明確に記載されていない。

(意見)
請求項1においてエリアセンサ(複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ)を用いた技術上の意義は、上記イ.項で説明した通りである。
請求項2は、光学的センサを特にCCDエリアセンサに限定したものであって、請求項1に従属する請求項として範囲を限定することは、特許請求の範囲の記載として不適切ではなく、勿論、明細書の発明の詳細な説明にも裏付けられている。

【0012】
なお、光学的センサとしては、例えばCCDエリアセンサなどを用いることが考えられる。

キ.小括
上述した通り、本件訂正発明明細書では、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載しており、特許法施行規則24条の2の要件は満たしている。

(5)記載要件の纏め
本件訂正発明の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明は、いずれも特許法第36条第6項1号、2号、同条第4項、及び特許法施行規則24条の2の要件を満たしており、拒絶理由記載の記載要件不備はないものと思料する。

第3 進歩性
(1)本件訂正発明の内容
本件訂正発明は、前判決で認定の通りである。即ち、前判決は49頁乃至51頁で本件訂正発明を以下の様に認定している。

従来から、光学情報読取装置として、例えば2次元コードラべルなどの読み取り対象に光を照射し、2次元コードラベルからの反射光を受光して2次元コードラベルの画像データである2次元コードデータを読み取る2次元コードリーダーが知られていた。この従来からの2次元コードリーダーでは、2次元コードからの反射光を結像レンズによって所定の読取位置に結像させ、その読取位置に配置された例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサによって2次元コードデータを読み取るようにしており、結像レンズは、通常複数枚のレンズが組にされた組レンズとして構成され、その中心付近に絞りが配置されている。
そして、ここで用いられるCCDエリアセンサなどの光学的センサには、受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されており、受光素子の感度向上のため、受光素子毎に集光用のマイクロレンズ(集光レンズ)が設けられたものもあった。
これは、受光素子に対して垂直に入射する光が集光レンズによって集光されることで見かけ上の開口面積を拡大し、感度を向上させるというものであるが、受光素子に対して光が斜めに入射した場合、集光レンズによって集光されることで、逆に受光素子への集光率が低下し、その結果、感度が低下するという問題、即ち、受光素子に対して光が垂直に入射するのはセンサの中央部にある受光素子であり、センサ周辺部にある受光素子に対しては光が斜めに入射する結果、CCDエリアセンサからの出力は、センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込んだ状態となり、その周辺部において読取に必要な光量が確保できず、適切な読み取りができないという問題があった。
本件訂正発明は、受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを備える場合において、光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止し、適切な読み取りを実現する光学情報読取装置を提供することを課題とするものである。
そして、本件訂正発明は、上記課題を解決手段として、複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、を備える光学情報読取装置において、前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定するという構成を採用し、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたものである。
本件訂正発明によれば、複数の受光素子が2次元的に配列されていると共に、受光素子毎に集光レンズが設けられている光学的センサにおいて、読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう、絞りを配置して、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなるようにし、それに伴って、光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、その結果、センサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合を小さくして、光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を防止することができる。
ここで、射出瞳位置を、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように設定し、中央部と周辺部の出力差を考慮しながら照射光の光量や露光時間などを調整することで、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。

(2)引用文献の内容
訂正拒絶理由では、引用文献1から引用文献20までの20の文献を公知技術として引用しているが、上記本件訂正発明との対比では概ね以下の3つのグループに分類される。
第1グループ:本件訂正発明の2次元コードリーダーとは別の用途に用いられる2次元配置のCCDにおいてオンチップレンズ(マイクロレンズ)が記載された例。引例1、引例2、引例3、引例4、引例5、引例6、引例7、引例14、引例19、及び引例20が該当する。このうち、引例4、引例5、引例6、引例19及び引例20は夫々甲第8号証、甲第9号証、甲第10号証、甲第6号証及び甲第7号証として前判決で考慮されている。第2グループ:二次元コードのリーグにおいて二次元配置のCCDが開示されているが、CCDにはマイクロレンズは用いられていない例。引用文献では、引例8、引例9、引例10、引例11、引例15、引例16、及び引例17が該当する。このうち、引例11は前判決で甲第1号証として考慮されており、引例16は甲第5号証として考慮されている。また、引例9は前判決で乙第5号証として参照されており、引例10は乙第6号証として参照されている。
第3グループ:バーコード若しくはドットコードのリーダで、レンズや絞りが記載されている例で、ここに用いられるCCDは、マイクロレンズ付き2次元配置CCDではない。引例12、引例13、及び引例18が該当する。このうち、引例12及び引例13は前判決で夫々甲第2号証及び甲第3号証として考慮されている。また引例18も前判決で、乙第7号証として参照されたものである。
以下に、夫々のグループ毎に各引用例の記載内容を吟味する。

2-1 第1グループ
第1グループはマイクロレンズ付きCCDの開示はあるものの、そのCCDが用いられる用途が本件訂正発明の2次元コードリーダーとは異なる公知資料である。

○1 引例1(○1は○で囲まれた数字を表す。以下,同様。)
引用例1は、CCD単体に関する発明である。

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば画像読み込み等に用いて好適な電荷転送型(いわゆるCCD)の固体撮像素子に係わる。

そして、CCDの走査方向による解像度の違いに起因する歪みをなくして画像の精度を向上させることを目的とし、CCDの形状を各画素の受光部開口が正方形の形状、あるいは、垂直方向及び水平方向に対称であり、かつ垂直方向の幅と水平方向の幅が等しい形状としたものである。

【0011】上述した問題の解決のために、本発明においては、方向による解像度の違いに起因する歪みをなくし、画像の精度のよい固体撮像素子を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、各画素の受光部開口が正方形の形状、あるいは、垂直方向及び水平方向に対称であり、かつ垂直方向の幅と水平方向の幅が等しい形状とされた固体撮像素子である。
【0013】上述の本発明の構成によれば、各画素の受光部開口が垂直方向及び水平方向に対称であり、かつ垂直方向の幅と水平方向の幅を等しい形状とすることにより、垂直方向と水平方向の入射光量を一致させることができる。

この様に、引例1はマイクロレンズ付きCCD単体の性能向上を図るものであり、これは出願当時の技術常識からはビデオカメラ装置に適用するものであることは推測され得るが、少なくとも引例1のマイクロレンズ付きCCDを本件訂正発明の様な2次元コードリーダーの分野に適用することに関しては何ら示唆はない。その為、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いる上での課題に関しては一切示していない。

○2 引例2
引例2もマイクロレンズ付きCCD単体に関する発明である。

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は固体撮像装置に関し、特に所定の周期で配列した複数の受光素子(受光部)の光入射側に各々の受光素子に対応させて集光性の複素子を用いた固体撮像装置に関するものである。

そして、引例2は、従来のマイクロレンズ付きCCDがテレセントリック系対物レンズを用いることを前提としていたのに対し、撮影レンズのテレセントリック性が多少崩れても画面全体にわたり均一な受光光量が得られ、輝度シェーディングのない画像が得られるようにすることを課題とし、基板面上に複数の受光素子を所定の周期Pで配列すると共に該複数の受光素子に各々対応させて集光性の複数のマイクロレンズを該基板面の中心部と周辺部とで異なる周期で配列したものである。

【0013】本発明は複数の受光素子の配列周期とそれに対応した複数のマイクロレンズの配列周期とを適切に設定することにより、撮影レンズのテレセントリック性が多少崩れても画面全体にわたり均一な受光光量が得られ、輝度シェーディングのない良好なる画像が得られる固体撮像装置の提供を目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の固体撮像装置は、基板面上に複数の受光素子を所定の周期Pで配列すると共に該複数の受光素子に各々対応させて集光性の複数のマイクロレンズを該基板面の中心部と周辺部とで異なる周期で配列したことを特徴としている。

従って、この引例2も上記引例1と同様、マイクロレンズ付きCCD単体の性能向上を図るものであり、これは出願当時の技術常識からはビデオカメラ装置に適用するものであることは推測され得るが、本件訂正発明の様な2次元コードリーダーの分野に適用することに関しては何ら示唆はない。その為、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いる上での課題に関して一切示していないのも、上記引例1と同様である。

○3 引例3
引例3はテレセントリック光学系の結像レンズに関するものである。

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、物体の像を形成するための結像レンズ装置に関する。

そして、引例3の結像レンズ装置はCCD74,86,94と共に用いられ、CCDに関しては詳細説明はないが、CCDにマイクロレンズを用いることは伺われる。
ただ、引例3の結像レンズ装置は、指紋照合装置の用途の開示はあるものの、2次元コードリーダーに用いる旨の説明はどこにもない。

【0003】例えば、手指の指紋の形状を検出して参照指紋と照合する指紋照合装置においては、図12及び図13に示すように、照合対象となる物体104である手指の像を結像レンズ装置のレンズ106により形成し、この像を固体撮像素子(CCD)により撮像することとしている。この固体撮像素子は、受像面を上記像が形成される像面107上に位置させて配設される。

従って、引例3にテレセントリック光学系の結像レンズと共に用いられるマイクロレンズ付きCCDの開示があるとしても、上記引例1及び引例2と同様、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いる上での課題に関しては、一切示していないのである。

○4 引例4
引例4は、マイクロレンズ付きCCDと共に使用される長短2焦点切換式レンズに関するものである。

【0001】
【産業上の利用分野】本発明はオンチップマイクロレンズ付き固体撮像素子用として使用される射出瞳の遠い2焦点切換式レンズに関し、詳しくは、固体撮像素子の各エレメントに光が有効に取り込まれるようにオンチップマイクロレンズを付した固体撮像素子の前面に配される正の屈折力を有する長短2焦点切換式レンズに関するものである。

そして、この引例4も用途としては、スチルビデオカメラの例は示されているが、2次元コードリーダーに用いることの示唆はなく、従って、2次元コードリーダーにマイクロレンズ付きCCDを使用する上での課題等に関しては全く示されていない。

【0003】したがって、スチルビデオカメラの受光部を固体撮像素子で構成する場合に、固体撮像素子のエレメント数はより多くなる傾向にある反面各エレメントのサイズはより小さくなる傾向にある。

そして、この引例4は、上述の通り、前判決で甲第8号証として考慮されている。即ち、前判決では、87頁及び88頁で以下の様に判事している。
甲8?10は、スチルビデオカメラ装置乃至ビデオカメラ装置に関するものである。スチルビデオカメラ装置乃至ビデオカメラ装置と光学情報読取装置とが、光学系という点で関連した技術分野であるとしても、光学情報読取装置において、かかる構成を採用することが容易であるというためには、光学情報読取装置においてかかる構成を採用することに相応の動機付けが必要であるというべきであるが、刊行物1(引例11)には、上記周知技術を適用することについて動機付けとなるような記載や示唆はなく、また、甲8?10にも、上記周知技術を光学情報読取装置における2次元コードの読み取りに適用することを開示又は示唆する記載もないのであるから、甲8?10の記載を前提としても、引用発明(引例11記載発明)において、相違点に係る本件訂正発明1の構成を備えるようにする動機付けは見出し難いというべきである。

○5 引例5
引例5も上記引例4と同様、結像レンズに関するものである。

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は3枚玉による結像レンズに関し、特にTV電話用、ドアホーン用、監視用等のビデオカメラやスチルビデオカメラ等の撮影レンズとして好適な3枚玉による結像レンズに関するものである。

そして、引例5の結像レンズもマイクロレンズ付きCCDと共に用いることの記載がある。ただ、引例5の結像レンズも、上記引例4と同様使用用途にはビデオカメラやスチルビデオカメラ等が挙がっているが、本件訂正発明の2次元コードリーダーへの用途は全く示されていない。
そして、この引例5は前判決で甲第9号証として判断されたものであり、前判決の判事事項は上記の通りである。

○6 引例6
引例6は、撮影用トリプレットレンズに関するもので、その用途としては、ビデオカメラやスチールビデオカメラが挙がっている。

【0001】
【産業上の利用分野】この発明は撮影用トリプレットレンズに関する。この発明は、ビデオカメラやスチールビデオカメラに好適に利用できる。

また、引例6もマイクロレンズ付きCCDを用いる旨の記載はある。ただ、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに応用する上での課題等に関しては、上記引例1乃至引例5と同様一切説明はない。
そして、この引例6も前判決で甲第10号証として判断されており、前判決の判事事項は上述の通りである。

○7 引例7
引例7も、上記引例4乃至引例5と同様、撮影レンズ装置に関し、その用途としては、ビデオカメラや電子スティルカメラを挙げている。

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ビデオカメラや電子スティルカメラに使用される固定焦点型の撮影レンズ装置に関し、特に、レンズ群より物体側に絞りが設けられた撮影レンズ装置に関するものである。

そして、引例7にもマイクロレンズ付きCCDを用いる旨の説明はある。ただ、この引例7もマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに使用する上での課題に関しては、上記各引例と同様、全く触れられていない。

○8 引例14
引例14は固体撮像装置単体に関する発明である。

(産業上の利用分野)
本発明は、CCD(電荷転送素子)を用いた固体撮像装置に係り、特にダイナミックレンジの拡大を図った固体撮像装置に関する。

そして、引例14のCCDもマイクロレンズ付きであると判断できる。しかし、この引例14も上記各引例と同様、2次元コードリーダーに用いることの説明は一切ない。引例14のCCDの用途としては、ビデオカメラが挙げられている。

(従来の技術)
CCD撮像素子等の固体撮像装置では、撮像管に比べて小型軽量、高信頼性といった特徴がある為、NTSC方式の放送用ビデオカメラや民生用ビデオカメラ等に普及している。また、次世代のハイビジョン放送(HD-TV)用のビデオカメラとしても期待されている。

従って、この引例14もマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに使用する上での課題に関して、全く触れられていないのは、上記各引例と同様である。

○9 引例19
引例19は、マイクロレンズ付きCCDの製造方法を開示したものである。

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、オンチップレンズの製造方法に関し、さらに詳しくは、固体撮像装置等のセンサ部の受光感度を向上させるためのオンチップレンズの製造方法に関する。

この引例19の製法で製造されるマイクロレンズ付きCCDの用途も、ビデオカメラ、カメラ一体型ビデオテープレコーダ、ファクシミリ、バーコードリーダ等としており、2次元コードリーダーに用いられることまで想定したものではない。

【0002】
【従来の技術】CCD(Charge Coupled Device)をはじめとする固体撮像素子は、ビデオカメラやカメラ一体型ビデオテープレコーダ等に用いるエリアセンサと、ファクシミリやバーコードリーダ等に用いるラインセンサとに大別されるが、いずれも情報化社会における電子の目として必要不可欠のデバイスとなっている。

従って、この引例19もマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに使用する上での課題に関して、全く触れられていないのは、上記各引例と同様である。
且つ、この引例19は上述した通り、前判決で甲第6号証として判断されたものである。

○10 引例20
この引例20は、上記引例19と同様、マイクロレンズ付きCCDの製造方法を開示したものであり、この引例20の製法で製造されるマイクロレンズ付きCCDの用途も上記引例19と同じく、ビデオカメラ、カメラ一体型ビデオテープレコーダ、ファクシミリ、バーコードリーダ等となっている。即ち、引例20も、2次元コードリーダーに用いられることまで想定したものではない。

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は固体撮像装置およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、遮光層上の平坦化層が高度に平坦化された固体撮像装置およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】CCD(Charge Coupled Device)をはじめとする固体撮像装置は、ビデオカメラやカメラ一体型ビデオテープレコーダ等に用いるエリアセンサと、ファクシミリやバーコードリーダ等に用いるラインセンサとに大別されるが、いずれも情報化社会における電子の目として必要不可欠のデバイスとなっている。

従って、この引例20もマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに使用する上での課題に関して、全く触れられていないのは、上記各引例と同様である。
また、この引例20も引例19と同様、前判決で甲第7号証として判断されたものである。

○11 小括
この様に、第1グループに属する引例は、いずれもマイクロレンズ付きCCDの開示はあるものの、その用途として2次元コードリーダーに用いることを示唆したものは一つもないのである。
本件訂正発明は、上記「第2進歩性(1)本件訂正発明」で前判決認定の通り、この第1グループの公知技術に記載のマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いるうえでの工夫を特徴としたものである。従って、2次元コードリーダーに用いることの示唆が一切ない第1グループの引用例から本件訂正発明が容易に想到し得ないことは明らかである。

2-2 第2グループ
この第2グループは、二次元コードのリーダを開示した公知例で、そこには二次元配置のCCDが開示されている。ただ、この第2グループのCCDにはマイクロレンズは用いられていない。

○1 引例8
引例8には、CCDカメラの使用例として2次元コードの読み取りを行うことが記載されている。ただ、引例8のCCDカメラは、対応の特表平10-501360号公報の17頁及び18頁に開示の様に、ソ二-製の高解像度CCIRフォーマットCCDカメラM37/CE型を用いているが、これはマイクロレンズ付きCCDではない。

図5は、カメラアセンブリ65と照射光源75のさらに詳しい例示を提供している。このカメラアセンブリは、ソニー製の高解像度CCIRフォーマットCCDカメラM37/CE型である。焦点距離5mmのレンズアセンブリ120は、CCDアレイ122でイメージを形成するために用いられる。これは、およそ、横530(H)で縦410(V)の比較的広い視野を提供する。CCDアレイ122で形成されるイメージのサイズは、4.89mm(H)で3.64mm(V)である。理想焦点のための被写体距離は、149mmである。理想焦点距離(149mm)での視野は、141mm(H)で105mm(V)(5.54"x4.13")。被写界深度は、前記理想焦点から+50mmである。(17頁、18頁)

その為、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いる上での配慮はなされておらず、光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定する為に、絞りを、読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するように配置することも行われてはいない。
引例8では、対応する特表平10-501360号公報の21頁に絞りの配置位置を記載しているが、レンズの絞り面は、前方レンズグループ及び後方レンズグループの間に位置していると説明している。

カメラレンズアセンブリ120は、前方レンズグループ140と後方レンズグループ145を含んでいる。レンズの絞り面は、前記前方及び後方グループの間に位置している。
好適な手持ちタイプのラベルリーグにおいて、カメラは、固定の絞りを伴って作動する。これは、調整可能なアイリスあるいは前記絞り面内の他のアセンブリの必要性を排除する。代わりに、偏光フィルタ135と狭帯域フィルタ150が、前記絞り面に設けられている。(21頁)

むろん、射出瞳位置を、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことに関しては、引例8には一切説明が無い。

○2 引例9
引例9も2次元コードリーダーが記載されている。また、引例9の2次元コードリーダーには、2次元配置のCCDが用いられている。
ただ、引例9ではCCDがマイクロレンズ付きである事に関しては、勿論、何らの示唆もない。本件出願当時の技術常識に鑑みれば、引例9のCCDはマイクロレンズを備えないものであると考えるのが妥当である。
その為、2次元コードリーダーにマイクロレンズ付きCCDを採用する上での工夫に関しては、全く説明がなく、引例9の光学機構部がレンズを含むものであることは理解できるが、レンズが1枚なのか複数枚であるのかも説明がなく、図1を参照すれば、レンズの枚数も1枚と考えるのが妥当である。更に、絞りについても何ら説明がなされていない。

【0019】このエリアセンサ2の前面には、レンズ等から構成された光学機構部3が配置され、読取窓4から反射ミラー5を介して入射された印刷媒体上のシンボルからの反射光が前記光学機構部3へ供給され、この光学機構部3で前記エリアセンサ2のCCDの表面で結像する。

従って、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、射出瞳位置を設定することは、引例9からは全く示唆されない。

○3 引例10
引例10は、ドットコードを読み取るための情報再生装置であり、手動走査される手持ちペン型の入力装置である。そして、引用例10はペン型人力装置のシートに対する傾きによる影響の除去を図ったものである。

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、音声、音楽等のオーディオ情報、カメラ、ビデオ機器等から得られる映像情報、及びパーソナルコンピュータ、ワードプロセッサ等から得られるディジタルコードデータ、等を含めた所謂マルチメディア情報を光学的に読み取り可能なコードとして紙や各種樹脂フィルム、金属等のシートに記録されたドットコードを読み取るための情報再生装置に係り、特に、手動走査される手持ちタイプ、とりわけペン型の入力装置を用いた場合に於けるペン型入力装置のシートに対する傾きによる影響の除去に関する。

ここで、引例10のドットコードを2次元コードの範疇に含めて、引例10に2次元配置CCDの開示かおるとしても、引例10のCCDはマイクロレンズ付きCCDではない。
その為、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるように、射出瞳位置を、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように設定したことに関して、引例10には一切説明が無い。

○4 引例11
引例11にも、2次元コードリーダーが記載されている。そして、2次元コードリーダーにTVカメラ及びCCDを用いる旨は記載がある。
ただ、引例11には単にTVカメラ及びCCDの開示があるのみで、CCDが2次元配置である事もマイクロレンズ付きCCDである事も、全く示唆が無い。
引例11は、前判決で甲第1号証として判断されているので、判決86頁及び87頁の判事事項を以下に引用する。

引用発明(引例11記載発明)は、本件訂正発明1と異なり、従来から用いられている光学的センサ(CCD)についての問題点の解決を課題とするものではないから、刊行物1(引例11)には、その全体を通じて、2次元コード読取装置を構成する2次元画像検出手段として「TVカメラ等」、「CCD4」が用いられる旨の記載があるのみで、光学的センサ(CCD)の問題点や結像レンズや絞り等の光学系を含めた構成や構造については全く記載がない。

刊行物1(引例11)には、2次元コード読取装置を構成する2次元画像検出手段として「TVカメラ等」、「CCD4」が用いられる旨の記載があることから、当業者であれば、引用発明(引例11記載発明)における2次元画像検出手段が「結像レンズ」や「絞り」の構成を備え、光学的センサ(CCD)が「複数の受光素子が2次元的に配列されているもの」であることを理解したとしても、刊行物1(引例11)には、光学的センサ(CCD)の問題点や前記光学系も含めた構成や構造については全く記載はなく、そもそも刊行物1(引例11)に記載された発明は、光学的センサ等についての課題の解決を目的とするものではないから、刊行物1(引例11)に接した当業者において、光学的センサ(CCD)として「複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を用いることを想定し、その上で、かかる光学的センサを用いた場合における周辺部での感度低下等の問題点を想起し、かかる問題点の解決の為に、結像レンズや絞り等の光学系に係る技術の適用を試みるであろうとは認められない。

この様に、引例11から本件訂正発明が想起されないことは、前判決の認定の通りである。

○5 引例15
引例15は、2次元コードリーダーに関するものである。

【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、光学パターン読取装置、特に、光学的記録媒体に記録された光学的パターン、例えば多段バーコード、二次元コード、更には文字、記号等をも、電子走査形のラインイメージセンサを使用して光学的に読取るための、光学的パターン読取装置に関する。

ただ、引例15は2次元コードの読み取りにTVカメラを用いることを課題として挙げ、TVカメラではなく、1次元センサ(可動ラインイメージセンサ10)を用いることを特徴としており、従って、引例15のCCDは2次元配置とはなっていない。

【0008】
【発明の作用】この発明による可動光学ユニットは、垂直面内において、光学ユニット回動軸33を中心として、周期的な揺動運動を行う。それに連れて、可動反射ミラー7は、その位置と角度が周期的に変化する。そのとき、揺動する可動光学ユニットの互いに区別された回動位置には、被読取部材3上の互いに区別された線状エリアが対応する。一つの線状エリアから発した反射光が可動ラインイメージセンサ10に到達した時は、他の線状エリアから同時に発した反射光は可動ラインイメージセンサ10には到達しない。一方、可動ラインイメージセンサ10においては、上記の揺動運動と同時併行的に、横方向の電子的走査が、周期的ないし間欠的に行われる。そのとき、可動ラインイメージセンサ10においては、線状の受光面への光入力(光学的パターン4上の線状エリアの結像)が、線状に配列された画素(ピクセル)の列によって空間的にサンプリングされ、サンプル値毎に光電変換一電荷蓄積がなされ、横方向のサンプル値(電荷)の列が得られる。横方向のサンプル値(電荷)の列は、横方向の電子的走査によって、時間軸上のサンプル値(電圧値若しくは電流値)の列、即ち時間軸上の電気的アナログ信号に変換される。叙上の如き、可動光学ユニットの揺動運動と、可動ラインイメージセンサ10における電子的走査の協働の結果、被読取部材3上には、等価的に平行線群形の走査パターンが生成される。従って、この出願の発明の光学的パターン読取装置によれば、普通のバーコードは勿論のこと、多段バーコードや、二次元コード、更には文字、記号等の光学的パターンをも、正しくかつ高速で読取ることが出来る。

この様に、引例15は2次元コードリーダーに関するものであるが、むしろ2次元配置のCCD利用を否定するものであり、且つ、引例15に記載のラインセンサはマイクロレンズ付きでもない。

○6 引例16
引例16も2次元コードを読み取る読取り装置である。そして、引例16の読取り装置は、1次元配置CCDの他に2次元配置CCDを用いることについても記載はある。
ただ、前述の各引用例と同様、単に2次元配置CCDの使用が示されているのみであって、そのCCDはマイクロレンズ付きCCDではない。従って、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに採用する上での工夫点が引例16から伺うことが出来ないのは、上記引例11における前判決認定と同様である。そして、この引例16も甲第5号証として、前判決で考慮されている。
勿論、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、射出瞳位置を設定することは、引例16からは全く示唆されない。

○7 引例17
引例17は、所謂QRコード(デンソーウェーブの登録商標)の基本的な構造を説明した2次元コード自体であり、従って、引例17は2次元コードリーダーでもない。

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、コンピュータ等に情報を入力するための光学的に読み取り可能なコード、特に二進コードで表されるデータをセル化して、二次元のマトリックス上にパターンとして配置した二次元コードに関する。

2次元コードであるので、その読取にも言及しているが、「TVカメラ」と「CCD」を用いることを挙げているのみで、2次元コードリーダーの構成に関して具体的に説明したもの
でもない。

従って、複数のレンズと絞りとの位置関係に関しても説明がなく、射出瞳位置の設定によって、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるようにすることも、引例17からは示唆されない。

○8 小括
上述の通り、第2グループの公知資料は、2次元コードリーダーに2次元配置のCCDを用いることが記載の全てであり、本件訂正発明の課題とするマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに適用する上での工夫点に関しては、いずれの引用例にも記載も示唆もないのである。

2-3 第3グループ
この第3グループは、バーコード若しくはドットコードのリーダで、レンズや絞りが記載されている例で、そもそもCCD自体も2次元配置とはなっていない。特にバーコードではコードが1次元配置の為もともと光量不足は顕在化しておらず、従って、CCDにマイクロレンズを設けることの要請は全くなかった為、第3グループのCCDもマイクロレンズ付きでない。

○1 引例12
引例12は、2次元コードリーダーではなく、バーコードリーダである。

産業上の利用分野
本発明は、バーコードを電子走査にて読み取る読取りセンサを用いたバーコード検出装置に関するものである。

その為、イメージセンサも1次元配置となっており、CCDにマイクロレンズを用いたものでもない。

○2 引例13
引例13も、引例12と同様のバーコードリーダーであり、本件訂正発明の2次元コードリーダーとは、光学センサが異なっている。即ち、引例13のCCDは1次元配置のリニアセンサーであり、CCDにはマイクロレンズが用いられていない。

【0002】
【従来の技術】光学情報読取り装置の一種として知られるバーコードリーグは、図7に示す通り、ケーシング1内に収容したランプなどの光源2から光を出射し、この光を読取り口3から外部の記録票(記録紙)4に照射して記録票4の表面で反射させるようになっている。この記録票4には図示しないバーコードが記録されているので記録票4の表面で反射された反射光はバーコードのパターンに応じた物体像となり、この物体像は上記読取りロ3から反射体5に導かれ、この反射体5で反射される。反射された物体像は結像光学系6の結像レンズ7に向わされ、この結像レンズ7で上記物体像をCCD撮像素子などからなるリニアセンサー8に結像される。リニアセンサー8に結像された光学情報は処理回路9により解読されるようになっている。


○3 引例18
引例18は、ドットコードを読み取るための情報再生装置であり、手動走査される手持ちペン型の入力装置である。そして、引用例10はペン型入力装置のシートに対する傾きによる影響の除去を図ったものである。

その為、ペン型スキャナの傾き量を検出してそれに応じた絞り制御を行うことの開示はあるが、撮像光学系16及び撮像素子回路部20とあるのみで、CCDを用いることは推定できても、それが2次元配置であるのかは不明であり、ましてやマイクロレンズ付きCCDである事に関しては、一切の示唆が無い。

○4 小括
この様に、第3グループの公知資料は、2次元コードリーダーに関するものでもなく、マイクロレンズ付きCCDを用いることの記載もなく、本件訂正発明の課題とするマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに適用する上での工夫点に関しては、いずれの引用例からも全く示唆されないのである。

(3)進歩性要件1 (引例1から容易想到)
3-1拒絶理由
○1 一致点
引例1は「光学式読取装置」であるところ、本件訂正発明と同様に「光学情報読取装置」と言える。
引例1の「カメラレンズ」は、本件訂正発明の「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」で共通する。
引例1の「CCD固体撮像素子」は、本件訂正発明の「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」と言え、引例1も「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を備える。
引例1の「絞り」も「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」と言える。

従って、一致点を以下の様に認定する。
「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
を備える光学情報読取装置」

○2 相違点1
引例1の「カメラレンズ」の枚数や当該「カメラレンズ」と「絞り」との位置関係は不明で、「射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」され、「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となる」と言えるものであるか否か不明である。

○3 相違点2
引用発明が「カメラ部制御装置」に相当するものを有するか否か不明である。

○4 相違点3
引用発明が「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものであるか否かは不明である。

○5 相違点1の判断
マイクロレンズを設けた撮像装置において、射出瞳を結像面からなるべく離した構造とすることは技術常識に過ぎず、結像レンズを2枚以上で構成することも周知慣用技術に過ぎない。(必要に応じ、引例2、引例3、引例4、引例5、引例6、引例7参照)
光学情報読取装置においては、部分的な感度低下や輝度ムラなどが無いよう構成することは、技術常識に過ぎない。(必要に応じ、引例8、引例9、引例10、引例11、引例12、引例13参照)
全てのレンズの前面に絞りを配置した構成も周知である。(必要に応じ、引例4、引例5、引例6、引例7参照)
引例1でも、「射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」していると言える。

○6 相違点2の判断
CCDなどにおいて増幅器が必要であることは技術常識にほかならず、アンプ等を設けることも周知慣用技術にほかならない。(必要に応じ、引例8、引例9、引例14、引例15、引例16参照)
情報読取装置において2値化することも周知慣用技術にほかならない。(必要に応じ、引例9、引例11、引例12、引例15、引例17)
位置決めマークを周波数成分比を検出することによって検出できる2次元コードは周知慣用である。(必要に応じ引例11、引例17)
信号処理回路にCPUを用いることも周知慣用の事項に過ぎない。(必要に応じ、引例8、引例9、引例10、引例11、引例16、引例17)

○7 相違点3の判断
相違点3は、相違点1の採用に伴って当然に奏される作用効果に過ぎない。
露光時間の調整は周知慣用技術にほかならない。(必要に応じ、引例8、引例18)

3-2 意見
拒絶理由では、本件訂正発明と引例1との一致点の認定で誤りがある。上記(1)訂正発明の内容で説明した通り、本件訂正発明は2次元コードリーダーに特有の課題を取り上げて、その対策として、光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたものである。即ち、本件訂正発明の光学情報読取装置は2次元コードリーダーである。
それに対し、引例1は2次元配置のマイクロレンズ付きCCD自体であって、2次元コードリーダーへの採用を想定したものではない。拒絶理由で、引例1を「光学情報読取装置」と認定したのは、引例1の内容に基づかない解釈である。
同様に、本件訂正発明の「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」は、「読み取り対象からの反射光」とある通り、2次元コードからの反射光であり、2次元コードリーダーの用途を想定していない引例1の「カメラレンズ」とは、一致するものではない。
繰り返しにもなるが、本件訂正発明の「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」は、やはり「前記読み取り対象の画像を受光する」ものであるので2次元コードリーダーに限定されるものである。その為、2次元コードリーダーの用途を想定していない引例1の「CCD固体撮像素子」は、一致点として共通するものではない。
「絞り」も同様である。本件訂正発明では「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」としているのであるから、「前記反射光」より2次元コードリーダーに用いられる「絞り」であって、引例1の「カメラレンズの絞り」と共通するものではない。

従って、引例1に記載されているのは、2次元配置のマイクロレンズ付きCCD自体であるので、引例1の記載内容は拒絶理由38頁の認定通り、
「CCD固体撮像素子を用いた光学式読取装置であって、
前記CCD固体撮像素子に被写体の像を結像させるカメラレンズと
前記CCD固体撮像素子への被写体からの光を制限する絞りと
を有し、
前記CCD固体撮像素子は複数の受光部が行列状に配列され、該各受光部の上部に光を集光するオンチップレンズが形成されたものである
光学式読取り装置。」
である。その為、一致点は以下の様に認定すべきである。
「光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記光の通過を制限する絞りと、
を備える光学式読取装置」
この様に、引例1からでは、2次元配置のマイクロレンズ付きCCDは理解できるものの、2次元配置のマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いることの動機付けは生じないのである。
この点に関して、引例1と同じく第1グループに属する引例4乃至引例6(甲第8号証乃至甲第10号証)に対して前判決が認定した、「甲8?10にも、上記周知技術を光学情報読取装置における2次元コードの読み取りに適用することを開示又は示唆する記載もないのであるから、甲8?10の記載を前提としても、引用発明(引例11記載発明)において、相違点に係る本件訂正発明1の構成を備えるようにする動機付けは見出し難い」との判断は尊重すべきである。

拒絶理由では、上記の様に引例1のCCDを2次元コードリーダーに用いることを前提として相違点を認定しているので、相違点の判断もやはり誤りとなる。
相違点1は、単純に引例1の「カメラレンズ」の枚数や当該「カメラレンズ」と「絞り」との位置関係とすべきではない。2次元コードリーダーとするためのカメラレンズの構成や、カメラレンズと絞りとの関係は、引例1からは全く窺うことが出来ず、その為、2次元コードリーダーとして用いる上で特に重要となる、「射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」して、「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となる」ようにする点は、引例1に全く示唆がないという点である。尚、ここで「全く示唆がない」としたのは、後述する相違点の判断における技術常識や周知慣用技術の組合せが思い及ばないという意味で強調したものである。
また、相違点2に関しても、引用発明が「カメラ部制御装置」に相当するものを有するか否か不明であるとするのは、認定として誤りである。引例1には2次元コードリーダーの用途に関して全く動機づけが無いのであるから、正しくは、引例1は2次元コードリーダーの「カメラ部制御装置」を備えていないとすべきである。
相違点3も同様である。引例1には2次元コードリーダーの用途に関して全く動機づけが無いのであるから、正しくは、引用発明では「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるように」することは出来ないとすべきである。

既に、言及しているが、拒絶理由では一致点及び相違点の認定に誤りがあるので、相違点の判断においても正しく判断できていない。即ち、本件訂正発明は、引例1のような2次元配置のマイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いる上での課題に初めて取り組み、その為の工夫を特定したものである。それに対し、拒絶理由では引例1が2次元コードリーダーに用いられることを前提としており、その上で容易性を判断しているので、相違点は全て技術常識や周知慣用技術であるとしている。
即ち、拒絶理由では、「マイクロレンズを設けた撮像装置において、射出瞳を結像面からなるべく離した構造とすること」、「結像レンズを2枚以上で構成すること」、「部分的な感度低下や輝度ムラなどが無いよう構成すること」、「全てのレンズの前面に絞りを配置した構成」を、技術常識や周知慣用技術とするが、そもそも2次元コードリーダーに用いる動機付けが無い引例1では、拒絶理由で挙げる引例2乃至引例20との組合せが当然としてなされるものでもない。
且つ、技術常識等として挙げられる各引例は、上述したように、2次元コードリーダーへの用途がない公知技術(第1グループ)か、2次元コードリーダーではあるもののマイクロレンズ付きCCDを備えない公知技術(第2グループ)、若しくは、バーコードリーダ(第3グループ)であり、いくら公知技術を組み合わせたとしても、本件訂正発明が想到されるものではない。
この点は、相違点2でも同様である。相違点2では、拒絶理由は、「CCDなどにおいて増幅器が必要であること」、「情報読取装置において2値化すること」、「位置決めマークを周波数成分比を検出することによって検出できる2次元コード」、「信号処理回路にCPUを用いること」を技術常識等とするが、やはり、2次元コードリーダーの用途の示唆の無い引例1に技術常識等を組合すことには、動機付けが無い。
尚、拒絶理由では、「位置決めマークを周波数成分比を検出することによって検出できる2次元コード」の例として、所謂QRコードを挙げるが、前述したように、本件訂正発明は2次元コードであればよく、QRコードに限定されるものではない。周波数成分比によって検出するのは、2次元コードリーダーの情報であって、必ずしもQRコードの位置決めマークの検出に限られるものではない。

相違点3に関しても、相違点3が相違点1の採用に伴って奏される作用効果であるとしても、そもそも相違点1が引例1と訂正発明との実質的な相違であるので、この作用効果も技術常識等で当然に得られるものではない。加えて、「露光時間の調整」自体が周知慣用技術であるとしても、2次元コードリーダーの用途の示唆の無い引例1に組み合わせるには、やはり動機付けが無い。

(4)進歩性要件2(引例3から容易想到)
4-1 拒絶理由
○1 一致点
複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
を備える光学情報読取装置において、
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした装置。

引例3の「テレセントリック光学系」は射出瞳位置が無限遠点にあるものであるから「相対的に長く設定」されていると言える。
「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」を相違点としても、進歩性は認められない。

○2 相違点
前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置

○3 判断
位置決めマークを周波数成分比を検出することによって容易に検出できる2値の2次元コードは周知慣用である。
被写体と撮像素子が傾斜した状態での読取時の問題は、2次元コードの読み取りにおいても発生する(引例10)。
従って、訂正発明は引例3から容易に発明しえたものである。

4-2 意見
上述したように、引例3はテレセントリック光学系の結像レンズに関するものである。そして、引例3の結像レンズ装置は、指紋照合装置の用途の開示はあるものの、2次元コードリーダーに用いる旨の説明はどこにもない。且つ、引例3は結像レンズを主とする発明である為、CCD74,86,94に関しては詳細説明はない。
従って、引例3にテレセントリック光学系の結像レンズと共に用いられるマイクロレンズ付きCCDの開示があるとしても、上記引例1及び引例2と同様、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いる上での課題に関しては、一切示していないのである。

その為、拒絶理由では、一致点の認定において正確ではない。まず、訂正発明の「読取り対象」は、装置が読取り可能な対象を全て包含するものではなく、上記本件訂正発明の内容で説明した通り、2次元コードと判断すべきである。2次元コードは明度が閾値以上(白い)か閾値以下(黒い)かで情報を判断するものであり、引例3の光学系の用途である指紋照合とは異なる。また、指紋照合装置では反射面に指が接することで、指からCCDまでの距離が一定となるのに対し、2次元コードリーダーの場合、2次元コードとCCDとの距離は必ずし一定の距離に定まるものでもない。
・・・〈引例3を表す図及び本件訂正発明を表す図 省略〉・・・

本件訂正発明の絞りは、2次元コードからの反射光の通過を制限するものであり、射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定するのも、本件図面の図6(a)の様に組レンズの中心付近に絞りを配置するのに対し、本件図面の図6(b)の様に読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後でレンズに入射するように絞りを配置することで、射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにならないようにしているのである。
それに対し、引例3では絞りも前側レンズと後側レンズとの間に配置しており、従って、絞りの位置も本件訂正発明と引例3とでは相違している。

拒絶理由では、絞りの位置を相違点としても進歩性を認めないとしているが、その理由は、全てのレンズの前面に絞りを配置する構成は周知である(必要なら、引例4、引例5、引例6、引例7を参照)としている。しかし、引例3は二次元コードリーダではない為、拒絶理由認定の通り全てのレンズの前面に絞りを配置する構成は周知であるとしても、それを本件訂正発明の想到の為に引例3に組合す動機づけはない。

拒絶理由では、「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした装置」を一致点として挙げているが、この点も、本件訂正発明の読取り対象が2次元コードである事を看過した判断である。即ち、本件訂正発明は台形歪みの抑制や歪曲収差の抑制という結像レンズ装置自体としてではなく、マイクロレンズ付き二次元配置CCDを用いる2次元コードリーダーでの工夫であって、中心部においても周辺部においても適切に読取り可能としたのである。
従って、本件訂正発明を2次元コードリーダーと捉えた場合、この点は、一致点とはならない。

拒絶理由では、相違点として出力信号を増幅して、闇値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置を挙げ、これを周波数成分比を検出することによって容易に検出できる2値の2次元コードは周知慣用として、容易想到としている。
この判断は、引例3の結像レンズ装置は2次元コードリーダーと同様であることを前提に、2次元コードリーダーのカメラ部制御装置を引例3に組み込むことは容易と判断したものと思料する。
ただ、引例3は2次元コードリーダーとは異なる指紋照合装置を用途とするものであって、上述した通り、複数のレンズで構成され結像レンズと絞りとの配置で射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することも、引例3からは伺えないのである。従って、2次元コードリーダーのカメラ部制御装置が公知であるとしても、それを引例3に適用する動機づけはない。
従って、本件訂正発明は引例3から容易に発明し得たものでもない。

(5)進歩性要件3(引例8から容易想到)
5-1 拒絶理由
○1 一致点
複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列される光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
前記光学的センサからの出力信号を増幅するカメラ部制御装置と、
を備える光学情報読取装置において、
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。

○2 相違点
・「当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものである点
・「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」ている点
・「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものである点
・カメラ制御部が「閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力する」点

○3 判断
「当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとすることは、一般的な技術的趨勢にほかならない(必要なら、引例1、引例2、引例3、引例4、引例5、引例6、引例7、引例14、引例19、引例20参照)
光学センサを「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとした場合、「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」することは、技術常識的な設計事項にすぎない。
「相対的に長く設定」することは一致点と解することもできる。
「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるように」する作用効果も当業者が当然に予測し得る程度である。
位置決めマークを周波数成分比を検出することによって容易に検出できる2値の2次元コードは周知慣用であるので、「閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力する」よう構成することも容易に想到する。

5-2 意見
引例8は、第2グループに属する公知技術であり、2次元コードリーダーの開示はあるが、CCDにマイクロレンズを設けることの示唆はない。上記引用文献の説明でも記載した通り、引例8では、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いる上での配慮はなされておらず、光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定する為に、絞りを、読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するように配置することも行われてはいない。
寧ろ、引例8では、レンズの絞り面は、前方レンズグループ及び後方レンズグループの間に位置していると説明している。
・・・〈引例8を表す図及び本件訂正発明を表す図 省略〉・・・

端的に言えば、引例8は本件明細書の従来技術で説明した2次元コードリーダーに他ならない。

【0002】
【従来の技術】
従来、例えば2次元コードラべルなどの読み取り対象に光を照射し、2次元コードラベルからの反射光を受光して2次元コードラベルの画像データである2次元コードデータを読み取る装置(2次元コードリーダー)が知られている。この2次元コードリーダーでは、2次元コードからの反射光を結像レンズによって所定の読取位置に結像させ、その読取位置に配置された例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサによって2次元コードデータを読み取るようにしていた。なお、結合レンズは通常複数枚のレンズが組にされた組レンズとして構成されており、その中心付近に絞りが配置されている。

従って、拒絶理由で「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたこと」を一致点としたのは、誤りである。本件訂正発明におけるこの構成は、既に繰り返した通り、2次元配置のマイクロレンズ付きCCDを前提としたものであり、マイクロレンズ付きではない引例8では一致点ではない。

拒絶理由の判断は、「当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとすることは、一般的な技術的趨勢に他ならないとの判断に基づくものであるが、本件出願当時確かにマイクロレンズ付きCCD自体は知られており、ビデオカメラ等での使用例はあったが、2次元コードリーダーでは一切採用されていなかったのである。従って、2次元コードリーダーの技術分野でマイクロレンズ付きCCDを用いることは、一般的な技術的趨勢とまではなっていない。
この点に関して、引例8と同じく第2グループに属する公知技術である引例11に関してなされた「刊行物1(引例11)には、光学的センサ(CCD)の問題点や前記光学系も含めた構成や構造については全く記載はなく、そもそも刊行物1(引例11)に記載された発明は、光学的センサ等についての課題の解決を目的とするものではないから、刊行物1(引例11)に接した当業者において、光学的センサ(CCD)として「複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を用いることを想定し、その上で、かかる光学的センサを用いた場合における周辺部での感度低下等の問題点を想起し、かかる問題点の解決の為に、結像レンズや絞り等の光学系に係る技術の適用を試みるであろうとは認められない。」との前判決の判事事項は尊重されるべきである。
そして、拒絶理由の容易想到性の判断は、光学センサが「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものである事を前提になされているので、やはり前提が正しくない。マイクロレンズ付きではないCCDを用いる場合には、上述した通り、「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたこと」も技術常識として採用されるものではない。
拒絶理由では、「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」することを、技術常識として引例2、引例3、引例4、引例5、引例6、引例7を参照するが、そもそもマイクロレンズ付きCCDを用いない場合には、技術常識と組み合わせる動機付けが生まれないのである。
加えて、「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものである点も、マイクロレンズ付きCCDを2次元コードリーダーに用いる際の特別な効果を示したのであって、マイクロレンズ付きCCDを用いない引例8から当然に予測し得る程度の作用効果ではない。

(6)進歩性要件4 (引例17から容易想到)
6-1拒絶理由
○1 一致点
光学的センサと、
前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、
を備える光学情報読取装置。

○2 相違点
・「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」
・「複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」
・「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」
・「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」
・「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して」
・「前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し」
・「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」

○3 判断
光学情報読取装置において、部分的な感度低下や輝度ムラなどが無いように構成することは、当業者が当然に心得る技術常識である。
「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」、「複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」、「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」、「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」、「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して」は、周知である(必要であれば、引例4、引例5、引例6、引例17参照)。周知のカメラの採用は、当業者の通常の創作力の発揮に他ならない。
「増幅」は、技術常識である。
「露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」は格別なものではない。

6-2 意見
引例17も、第2グループに属する公知技術であり、所謂QRコードの基本的な構造を説明した2次元コード自体である。特にこの引例17は引例11と同様、2次元コードリーダーでもない。その為、複数のレンズと絞りとの位置関係に関しても説明がなく、射出瞳位置の設定によって、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるようにすることも、引例17からは示唆されない。これは、拒絶理由で相違点として認定された通りである。
拒絶理由では、これらの相違点を2次元コードリーダーの用途には用いられないマイクロレンズ付きCCDを示す第1グループの公知資料の存在を理由に当業者の通常の創作力の発揮に他ならないとするが、そもそも、2次元コード自体の発明で、2次元コードリーダーに関して具体的説明が無い引例17にマイクロレンズ付きCCDを用いることを検討する動機づけはないのである。
上記引例8と同様、第2グループに属する公知技術である引例11に関してなされた前判決の「刊行物1(引例11)には、光学的センサ(CCD)の問題点や前記光学系も含めた構成や構造については全く記載はなく、そもそも刊行物1(引例11)に記載された発明は、光学的センサ等についての課題の解決を目的とするものではないから、刊行物1(引例11)に接した当業者において、光学的センサ(CCD)として「複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を用いることを想定し、その上で、かかる光学的センサを用いた場合における周辺部での感度低下等の問題点を想起し、かかる問題点の解決の為に、結像レンズや絞り等の光学系に係る技術の適用を試みるであろうとは認められない。」との判事事項は尊重されるべきである。

(7)進歩性要件のまとめ
進歩性に関する4件の拒絶理由は、いずれも単一の引例に基づき、周知慣用技術を参酌の上、当業者が容易想到とするものである。
一つ目は、マイクロレンズ付きCCDの開示はあるが2次元コードリーダーへの適用に関して示唆が無い第1グループに属する引例1に、技術常識や周知慣用技術を参酌するもので、二つ目は、同じく第1グループに属する引例3に周知慣用技術を参酌したものである。
三つ目と四つ目は、2次元コードリーダーの公知技術であるがマイクロレンズ付きCCDを用いることには全く触れていない引例8、2次元コード自体の公知技術であって同じくマイクロレンズ付きCCDを用いることには全く触れていない引例17(共に第2グループ)に周知慣用技術を参酌したものである。
進歩性の判断は簡単に周知慣用技術を適用すべきではなく、慣用されていない技術では夫々を公知技術として扱って、その組合せの動機付けを検討すべきである。本件訂正発明の属する2次元コードリーダーの技術分野では、本件の出願当時マイクロレンズ付きCCDを用いることは当然視されていた訳ではなく、マイクロレンズ付きCCDを用いることを技術的趨勢であるとするのは、進歩性判断の前提において誤りである。
前判決でも判事されているが、やはり各公知技術の記載内容を確認の上組合せの動機付けを検討すべきであり、そのように個別の公知技術を検討すれば、本件訂正発明が周知慣用技術によって格別な困難性なく発明できたものではないことは、既述の通りである。
よって、本件訂正発明は特許法第29条2項進歩性を有し、特許出願の際独立して特許を受けることが出来たものである。

(8)請求項2に係る発明の進歩性
8-1 拒絶理由
引例3、引例8、引例17もCCDを用いるものであるから、当業者が容易に発明することが出来たものである。

8-2 意見
請求項2は請求項1に従属する請求項であり、請求項1に係る本件訂正発明が特許出願の際独立して特許を受けることが出来たものであるので、この請求項2に係る本件訂正発明も独立特許要件を備える。

第4 まとめ
上述した通り、請求項1及び請求項2に係る本件訂正発明はいずれも、記載要件及び進歩性要件共に独立特許を備えるものであり、訂正を認めるとの審決を希求する。』


第2 当審判断

1.訂正の趣旨・訂正事項
本件訂正審判請求の趣旨は
「特許3823487号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり一群の請求項毎に訂正することを認める,との審決を求める。」
というものであり,審判請求書及び上記平成25年2月19日付けの手続補正書によって補正された訂正明細書及び特許請求の範囲の記載からみて,本件訂正は請求項1,2からなる一群の請求項についてする次の訂正事項よりなるものと認められる。

<訂正事項a>
特許請求の範囲の請求項1の
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定したことを特徴とする光学情報読取装置。」を,
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。」と訂正する。

<訂正事項b>
上記訂正事項aの訂正に伴い,明瞭でない記載の釈明を目的として,特許明細書の段落番号【0006】欄の
「【課題を解決するための手段及び発明の効果】
上記課題を解決するためになされた本発明の光学情報読取装置は,複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りとを備える光学情報読取装置において,前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定したことを特徴とする。」を,
「【課題を解決するための手段及び発明の効果】
上記課題を解決するためになされた本発明の光学情報読取装置は,複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする。」に訂正する。


2.特許法第126条第1項で規定する要件(目的要件)
訂正事項a,bの目的を検討する。
訂正事項aは特許法第126条第1項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,訂正事項bは該訂正事項aによって生じる特許請求の範囲と発明の詳細な説明の不整合を正すものであるから,特許法第126条第1項第3号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。


3.特許法第126条第7項で規定する要件(独立特許要件)
上記2.のとおり,本件訂正のうち,訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで,本件訂正後の各請求項に記載されている事項により特定される発明が本願の出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて,以下に検討する。


3-1.請求項1,2の記載要件

(1)サポート要件
ア.本件訂正後の請求項1の「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」との記載と本件訂正後の発明の詳細な説明の記載とが整合せず(本件訂正後の請求項1の当該記載によれば,「カメラ部制御装置」は本件訂正後の発明の詳細な説明および図面(以下「本件訂正明細書等」と記載する。)における「AGCアンプ52」「補助アンプ56」「2値化回路57」「周波数分析器58」に対応するものと解されるが,本件訂正明細書等においては「カメラ部制御装置50」は「32bitのRISCCPU」である。),両者の対応関係が不明なものとなっている点について検討する。

上述するように,本件訂正後の請求項1における「カメラ部制御装置」との発明特定事項は,本件訂正明細書等における「カメラ制御装置50」との記載とは明らかに相違するものである。
しかしながら,意見書の「本件訂正発明のカメラ部制御装置が,光学的センサからの出力信号を増幅して,閾地に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する上で必要な制御を行うものであることは,これら本件訂正明細書の記載及び図4によって裏付けられている。」との主張や,この主張の根拠として説明されている本件訂正明細書等の段落【0027】,【0028】,【0033】等の「カメラ部制御装置50」が「各種制御を行っている」旨の記載,及び「カメラ部制御装置50側に関連する構成」として,「AGCアンプ52」,「補助アンプ56」,「2値化回路57」並びに「周波数分析器58」などが挙げられる旨の記載,及び,カメラ部制御装置50がこれらの関連する構成を「制御することができるようにされている」との記載を斟酌・参酌すれば,当該発明特定事項は「カメラ部制御装置50」という構成のみではなく,「カメラ部制御装置50,およびこれに関連する構成」を表現することを意図した記載であると理解することも可能であり,必ずしも当該発明特定事項が発明の詳細な説明に当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとは言えない。

イ.本件訂正後の請求項1に「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」とあるが,「所定値」はゼロをも含むものであるから,本件訂正発明は本件訂正明細書等に従来例として開示されるものに比し何ら改善がなされていないものや更に悪化させたものをも包含することになるところ,このようなものが本件訂正明細書等記載の課題(以下「所期の課題」と記載する。)を解決し得ないことは明らかである。してみると,本件訂正後の請求項1の記載は,所期の課題を達成するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求したものとなっていると言える点について検討する。

上述するように,本件訂正後の請求項1における「周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上」との発明特定事項は,「周辺部に位置する受光素子からの出力の比がゼロ以上を含み」うるものである。
しかしながら,意見書の「『所定値』以上とするとの表現が,・・・〈中略〉・・・『所定レベル以上』にすることの意味で用いられている」との主張や,本件訂正明細書等の段落【0042】における,「適切な読み取りを実現するためには,センサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要がある。」及び「例えば,センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよう射出瞳位置を設定することが考えられる。」との記載を斟酌・参酌すれば,当該発明特定事項は「所定値の範囲を限定はしていないが,光学的センサの周辺部からも,ゼロよりも大きな数値となるある程度の出力値が必要である」ことを意図した記載であると理解することも可能であり,必ずしも当該発明特定事項が発明の詳細な説明に当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとは言えない。

ウ.本件訂正後の請求項1には「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との記載があり,これは「露光時間などの調整」が要因となって「中心部においても周辺部においても読取が可能となる」との因果関係があることを明示するものと解されるが,これは本件訂正後の発明の詳細な説明には記載されていない事項である点について検討する。

上述のように,本件訂正後の請求項1における「露光時間などの調節で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との発明特定事項は,「露光時間などの調整」(原因・理由)によって「中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」(結果・目的)と解されるものと認められ,本件訂正明細書等における「周辺部において適切な読取が可能となる」ことに関する記載とは明らかに相違するものである。
しかしながら,請求人が意見書で主張するように,本件訂正明細書等の段落【0042】の「中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる」との記載を斟酌・参酌すれば,当該発明特定事項は「中央部と周辺部の出力差を考慮しながら」調整する為の手段として,「露光時間などの調整」を行うことを意図した記載であると理解することも可能であり,必ずしも当該発明特定事項が発明の詳細な説明に当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとは言えない。

エ.上記ア.からウ.の検討の結果,本件訂正後の請求項1は,本件訂正明細書等から読み取ることができるものとして,サポート要件を満たしていると解釈することができる。

(2)明確性要件
ア.本件訂正後の請求項1に「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」を備え,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置する」旨の記載があるが,本件訂正明細書等の記載を参酌してもその意味が明確でないという点について検討する。

本件訂正後の請求項1の上記記載では,図6(a)記載の構成を包含するものであるのか明確ではないが,請求人が意見書で主張するように,図6(a)記載の構成は従来例であり,かつ,本件訂正発明にかかる配置を示す図6(b)の比較例であるとの主張を考慮すると,本件訂正後の請求項1の記載は,図6(b)に記載されているように,「読み取り対象からの反射光が,射出瞳位置を経由し,絞りを通過した後で,複数のレンズで構成される結像レンズに入射し,光学的センサに到達する」構成を指すものであり,被写体と絞りとの間にレンズが存在するような図6(a)に記載の構成を含まないものと認められる。
そのように解釈することで,本件訂正後の上記記載は明確であるものと認める。

イ.本件訂正後の請求項1の「カメラ部制御装置」の意味が明確でないという点について検討する。

本件訂正後の請求項1では,「カメラ部制御装置」について,「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」と記載されており,「増幅」,「2値化」,「所定の周波数成分比の検出」及び「検出結果を出力」という処理を全て行う構成であると認められるが,本件訂正明細書等には,32bit RISC CPUである「カメラ部制御装置50」が記載されている上に,「AGCアンプ52」,「補助アンプ56」,「2値化回路57」あるいは「周波数分析器58」等の各処理を行う構成が別途記載されていることから,上記の各処理を行うように記載されている「カメラ部制御装置」がどのような構成を包含しているのかが明確ではないものである。
請求人が意見書で主張するように,「カメラ部制御装置50」は,「増幅」する制御を行うものであり,「2値化」する制御も行うものであり,「所定の周波数成分比を検出」する制御をも行うものであり,「カメラ部制御装置50側に関連する構成」として,「AGCアンプ52」等が挙げられているものである。
一般的に,「増幅」する処理と,「増幅」する「制御を行う」処理とは異なるものと解釈されるものであり,本件訂正明細書等の説明でも異なるものとして記載されているものの,本件訂正後の請求項1に記載の「カメラ部制御装置」と,本件訂正明細書等に記載の「32bitのRISCCPU」である「カメラ部制御装置50」とは,同一のものではないものであり,本件訂正後の請求項1に記載の「カメラ部制御装置」が,「カメラ部制御装置50」だけではなく,「カメラ部制御装置50」が関連している構成である「AGCアンプ52」等を包含した構成であると解釈することで,本件訂正後の上記記載は,明確であるものと認める。

ウ.本件訂正後の請求項1の「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との記載があるが,該「相対的」の基準が明確でないため,この記載が射出瞳位置までの距離がどのように設定されていることを意味するのかが,明確でない点について検討する。

「相対的」とは,「物事が他との比較において,そうであるさま。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]と辞書に記載があることから,比較する対象が他にあるものと認められるが,本件訂正後の請求項1の記載では,比較する対象が明確には記載されていないものである。
したがって,本件訂正後の請求項1の発明における「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との記載は,その技術的な意味が明確なものではなく,特許請求の範囲の記載からは本件訂正後の請求項1の発明の技術的範囲を明確に把握することはできないと言える。
ここで,本件訂正明細書等の発明の詳細な説明や意見書における請求人の主張を参酌するに,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」,との記載が,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,『そのように配置されていないものに比べて,』前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,」という解釈をすることによって,比較する対象は明確にはなるものと認める。
してみると,本件訂正後の請求項1の発明における「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との記載の技術的な意味は,例えば,2枚のレンズが配置され,従来は,図6(a)の如く,当該2枚のレンズ間に絞りが配置された構成が採用されていた2次元コードリーダー用の結像レンズであったものに対して,図6(b)に示すように,被写体側に絞りを配置させることで,射出瞳位置までの距離をより長くできるような結像レンズを採用することを限定しているものと解することができる。
よって,本件訂正後の請求項1の発明における「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との記載の技術的な意味は本件訂正明細書の発明の詳細な説明や意見書における請求人の主張を参酌すれば,必ずしも不明確なものではないと言える。

エ.本件訂正後の請求項1に「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」と,すなわち,文言通りに解釈すれば「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置すること」が要因となって「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」する旨の記載があるところ,その技術的な意味が明確でない点について検討する。

当該記載は,本件訂正後の請求項1の「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置すること」を原因・理由として,「光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定する」ものと解されるところ,意見書の「2次元コードの読取が周辺部においても適切に行えるよう,結像レンズの複数のレンズ間に絞りが介装される比較例(図6(a))に比べて,複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に絞りを配置した本件訂正発明(図6(b))が光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなることが2次元コードリーダーにおいて明確か否かで判断すべきである」との主張,本件訂正明細書等の段落【0009】の記載等を参酌するに,例えば,2枚のレンズが配置され,従来は,図6(a)の如く,当該2枚のレンズ間に絞りが配置された構成が採用されていた2次元コードリーダー用の結像レンズであったものに対して,図6(b)に示すように,被写体側に絞りを配置させることで,射出瞳位置までの距離をより長くできるような結像レンズを採用することを限定しているものと解することができる。
したがって,本件訂正明細書等の図6(a)の配置に比べて,図6(b)の配置にした方が,絞りから光学的センサまでの光学的な距離が,相対的に長くなるということを限定しているという請求人の主張を参酌すれば,本件訂正後の請求項1の上記記載は必ずしも不明確なものではないと言える。

次に,テレセントリック光学系に関する主張について検討する。意見書における,請求人の主張を解釈すると,図6(a)の構成に含まれる絞りを複数のレンズ群の間に位置させたレンズ構成,いわゆる「両側テレセントリックレンズ」の場合は,本件訂正後の請求項1の構成には含まれないが,図6(b)の構成に含まれる「像側テレセントリックレンズ」であれば,所期の課題を解決した上で,相対的にレンズ群配置の小型化も達成しうるものと解することができることから,テレセントリック光学系に関する主張を参酌したとしても,本件訂正後の請求項1の上記記載を理解しうるものと言える。

オ.本件訂正後の請求項1に「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」とあるが,ここでの「光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力」は如何なる条件下での出力を意味するのかが明確でない点について検討する。

一般的な光学情報読取装置においては,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となる」ように限定することは難しいものと認められるが,意見書の「本件訂正発明は2次元コードの読取を行う光学情報読取装置である」旨や「二次元コードは閾値以上の明度(白い)か閾値以下の明度(黒い)かの2値化で判断されるものであるので,被写体である読み取り対象の明暗は,原則として白いか黒いかである」旨の主張を参酌するに,例えば,一般的な二次元バーコードのように読取対象となる画像の周囲に白い領域が所定面積以上存在すれば,光学的センサの周辺部の出力が常に所定値以上となる場合も想定しうるのであるから,本件訂正発明はこのような用途のものと理解することができる。
よって,本件訂正後の請求項1の発明における「出力の比が所定値以上となる」との記載の技術的な意味は本件訂正明細書等の発明の詳細な説明や意見書における請求人の主張を参酌すれば,必ずしも不明確なものではないと言える。

カ.本件訂正後の請求項1記載の「光学情報読取装置」とは如何なるものを意味するのか不明である点について検討する。

通常,「光学情報読取装置」という構成は,光学的な手段を用いて,対象となる画像や物体から,何らかの情報を読み取ることができる装置全般を指すものと認められるが,どのような用途が限定されているのか,本件訂正後の請求項1の記載では明確ではないところである。
しかしながら,意見書の「本件訂正発明が2次元コードの読取が出来る光学情報読取装置に関するもの」との主張や,本件訂正明細書等の段落【0001】等の記載を参酌するに,本件訂正後の請求項1の「光学情報読取装置」が,もっぱら2次元コードの読取のためのものであると限定しているものと理解することが出来る。
よって,本件訂正後の請求項1の発明における「光学情報読取装置」の技術的な意味は本件訂正明細書等の発明の詳細な説明や意見書における請求人の主張を参酌すれば,必ずしも不明確なものではないと言える。

(3)実施可能要件
ア.本件訂正後の請求項1に「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」とあり,本件訂正明細書には「【0040】・・・〈中略〉・・・」「【0041】・・・〈中略〉・・・」とあるが,上記(2)エ.でも述べたように,光学的センサから射出瞳位置までの距離は絞りの配置のみによって定まるものではなく,絞りを光学的センサから遠くにしたからといって光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなるわけではない(・・・〈中略〉・・・)ので,上記段落【0040】【0041】の記載は技術的に正しくない記載であり,この記載からはこのようなレンズ系を具体的にどの様な構成とすれば実現できるのかを理解することができない。さらに,本件訂正後の発明の詳細な説明の他の箇所にも,このようなレンズ系を具体的にどの様な構成とすれば実現できるのかを開示する記載は見当たらないという点について検討する。

上述のように,本件訂正後の請求項1の発明における「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との発明特定事項をどのような構成とすれば実現できるのかは,本件訂正明細書等の発明の詳細な説明に明確に説明されてはいない。
しかしながら,意見書の「本件訂正発明のように複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に絞りを配置した(図6(b))方が,結像レンズの複数のレンズ間に絞りが介装される比較例(図6(a))に比べて,光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなる。」との主張を参酌すると,当該発明特定事項は,上記(2)ウ.及びエ.で論じた如きものと解することができ,必ずしも実現不可能なものとは言えない。
してみると,当該発明特定事項の具体的な構成が本件訂正発明の明細書に記載されていなくとも,当業者であればその具体的な構成を想到することができ,本件訂正明細書は,本件訂正後の請求項1の発明を当業者が実施できる程度の記載はなされているものと認められることから,この点をもって本件訂正発明の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項の規定に違反するとまでは言えない。

(4)委任省令要件
下記のア.からカ.で指摘する技術的事項について,まとめて検討する。

ア.本件訂正後の請求項1の「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」との記載があるが,結像レンズを「複数」とすることの技術上の意義が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない点。

イ.本件訂正後の請求項1には「光学的センサ」が「複数の受光素子が2次元的に配列される」ものである旨の限定がなされているが,受光素子が「2次元的に」配列されるものとすることの技術上の意義が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない点。

ウ.本件訂正後の請求項1には「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」を備える旨の限定がなされているが,「2値化」することの技術上の意義が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない点。

エ.本件訂正後の請求項1には「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」旨の限定がなされているが,「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」ことの技術上の意義が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない点。

オ.本件訂正後の請求項1において「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」との事項を採用することの技術上の意義が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に説明されていない点。

カ.本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2においては,前記光学的センサが「CCDエリアセンサ」であることを限定するものであるが,その技術上の意義が本件訂正後の発明の詳細な説明に明確に記載されていない点。

上記に記載の技術的事項それぞれの技術上の意義は必ずしも明確ではないものの,意見書の「(4)記載要件4(委任省令要件)」における主張,及び,本件訂正明細書等の記載を参酌すれば,これらの技術的事項は,格別新規な課題を解決するためのものではなく,また格別な作用効果の奏功を目論むものでもなく,単に周知慣用の常識的な構成を限定したにすぎないものと解することができる。
してみると,当該技術的事項の技術上の意義が本件訂正明細書等に明確に記載されていなくとも,当業者であればその技術上意義を把握することができ,この点をもって本件訂正発明の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項の規定に違反するとまでは言えない。


3-2.請求項1,2に係る発明の進歩性

3-2-1.本件訂正発明
本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」と記す。)は,本件訂正特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。(再掲する。)

「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。」

3-2-2.先行技術

(1)引用文献1
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-270501号公報(平成9年10月14日出願公開,以下「引用文献1」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(1-1)「【0002】
【従来の技術】CCD固体撮像素子の構造として,画素の垂直方向及び水平方向において受光検出するために,各画素を正方形の形状としたものが従来より用いられている。
【0003】このCCD固体撮像素子の構造を図4に示す。尚,同図は撮像領域の要部を示す。図4に示すCCD固体撮像素子40は,複数の受光部61が行列状に配列され,各受光部列の一側に読み出しゲート部62を介してCCD構造の垂直転送レジスタ44が形成されてなる。各受光部61の上部には,光を集光するOCL(オンチップレンズ)41が形成され,これにより集光した光が受光部開口42を通して受光部61内に入射され,光電変換されて光量に応じた信号電荷が電荷蓄積部43に蓄積される。受光部61の信号電荷は,読み出しゲート部62を介して垂直転送レジスタ44に読み出された後,垂直転送レジスタ44内を順次転送される。このCCD固体撮像素子40では,各画素に対応する正方形の形状のユニットセル50が形成される。
【0004】図5Aに図4の水平方向(H方向),図5Bに図4の垂直方向(V方向)の断面図を示す。半導体基板51には,図示しないが,電荷蓄積部43を構成する半導体領域,垂直転送レジスタ44を構成する転送チャネル領域,読み出しゲート領域,チャネルストップ領域などが形成されている。この半導体基板51の転送チャネル領域及び読み出しゲート領域上にゲート絶縁膜45を介して転送電極層46が形成され,この転送電極層46を覆って層間絶縁層47が全面的に形成される。転送電極層46,ゲート絶縁膜45及び転送チャネル領域によって,CCD構造の垂直転送レジスタ44が構成される。層間絶縁層47の上に,受光部61を除く他部への光を遮断する遮光金属層48,パッシベーション膜49が順次形成されてなり,その上に透明層52が形成されてなる。透明層52の上部は,球面状に加工され,光を集光するOCL(オンチップレンズ)41を構成している。
【0005】遮光金属層48の受光部61に対応する部分には,開口48aがなされ,この開口が受光部開口42に相当している。
【0006】このCCD固体撮像素子40は,ピクセル(画素)及びこれに対応したユニットセル50が正方形形状とされているが,受光部開口42は受光する光量をなるべく多くするために,開口幅が最大限広く形成され,その結果,図4に示すように垂直方向(V方向)が長い長方形となっている。」

(1-2)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで,オンチップレンズ付きのCCD固体撮像素子において,平行光が集光するようにオンチップレンズを形成するが,カメラレンズの絞りや,射出瞳特性等により一部集光されない光がある。すなわち,図5に示すように,集光する通常光Lに対して,この集光されない斜め光L′が存在する。
【0008】このために,前述の従来構造のCCD固体撮像素子40において,受光部開口42が長方形形状とされ,受光部開口42のH方向の開口幅W_(H) とV方向の開口幅W_(V) とが異なることから,H方向とV方向とで入射する斜め光L′の量および入射光の入射方向の限界が異なっていた。これにより,H方向とV方向とでそれぞれ画像の解像度が異なってしまい,そのため,画像に歪みが生じていた。
【0009】特に,最近行われているようにCCD固体撮像素子をOCR(Optical Chracter Recognition)等の光学式読みとりに用いる場合には,受光量を多くすることや画像の明度を上げることよりも,受光部の解像度を上げて読みとり精度を向上させることが望まれる。しかしながら,上述のように画像に歪みが生じていると,高精度の読みとりを行うことができなかった。
【0010】上述のように,正方形形状の画素(ピクセル)を有するCCD固体撮像素子において,H方向とV方向との解像度の違いによる歪みを低減する方法が求められていた。
【0011】上述した問題の解決のために,本発明においては,方向による解像度の違いに起因する歪みをなくし,画像の精度のよい固体撮像素子を提供するものである。」

(2)引用文献2
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平5-227468号公報(平成5年9月3日出願公開,以下「引用文献2」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(2-1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は固体撮像装置に関し,特に所定の周期で配列した複数の受光素子(受光部)の光入射側に各々の受光素子に対応させて集光性の複数のマイクロレンズを所定の周期で設けたエリアセンサやラインセンサ等の固体撮像素子を用いた固体撮像装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来よりエリアセンサやラインセンサ等の固体撮像素子を用いた固体撮像装置は光検出効率を高める為に所定の周期で配列した複数の受光素子(受光部)の光入射面側に各受光素子に対応させて集光性の複数のマイクロレンズを所定の周期で配列している。
【0003】これによりチップサイズの小型化及び多画素化に伴い,これに形成される画素としての受光素子の面積が縮小し,各受光素子での受光量が減少したときの検出感度の低下を防止している。
【0004】図3は従来のこの種のカラー固体撮像装置の要部断面図である。
【0005】同図においては半導体基板21面上にフォトダイオードより成る複数の受光素子(受光部)22(22a,22b?)と各受光素子に発生蓄積した電荷を転送する為の複数の転送部23(23a,23b?)を設けている。そして各受光素子22の光入射側にゼラチン又はカゼイン等の赤色R,緑色G,青色Bに染色したワンチップカラーフィルター24R,24G,24B・・・を形成した後,該各々のカラーフィルターの光入射側に複数のマイクロレンズ25(25a,25b・・・)を設けている。
【0006】このような構成により受光素子で光検出する際の光検出効率を高めている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従来の固体撮像装置で用いているマイクロレンズは無限遠からの光束を集光し,受光素子に入射するように屈折力や形状等が最適化されている。この為,このような固体撮像装置を光電変換手段として像面に用いる撮影レンズ(対物レンズ)は,その射出瞳位置が無限遠位置にある,所謂テレセントリック系であることが前提となっている。」


(3)引用文献3
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平8-334691号公報(平成8年12月17日出願公開,以下「引用文献3」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(3-1)「【請求項1】 絞りと,
上記絞りの前方側に位置され,該絞り上に後側焦点位置を位置させ,物空間においてテレセントリック光学系を構成している第1のレンズ群と,
上記絞りの後方側に位置され,該絞り上に前側焦点位置を位置させ,像空間においてテレセントリック光学系を構成している第2のレンズ群とを備えている結像レンズ装置。」

(3-2)「【0003】例えば,手指の指紋の形状を検出して参照指紋と照合する指紋照合装置においては,図12及び図13に示すように,照合対象となる物体104である手指の像を結像レンズ装置のレンズ106により形成し,この像を固体撮像素子(CCD)により撮像することとしている。この固体撮像素子は,受像面を上記像が形成される像面107上に位置させて配設される。」

(3-3)「【0018】さらに,上記受像面を光軸に対して傾斜させることにより,この受像面に対する光束の入射角度が所定角度以下となる領域が生ずると,この領域では,該受像面上の全面に亘って配設されている複数のマイクロレンズのため,該光束が受光されないこととなる。」

(3-4)「【0037】
【実施例】以下,本発明の具体的な実施例を図面を参照しながら説明する。
【0038】[本発明の概念]本発明に係る結像レンズ装置は,図1に示すように,光軸上にピンホール5を有する絞り62と,この絞り62の前後に配置された第1及び第2のレンズ群61,63を有して構成されている。
【0039】上記第1のレンズ群61は,上記絞り62の前方側に位置され,該絞り62上に後側焦点位置を位置させ物空間においてテレセントリック光学系を構成している。すなわち,この第1のレンズ群61は,この第1のレンズ群61の中心が上記絞り62より該第1のレンズ群61の焦点距離f_(1)に等しい距離を隔てた位置となるように配置されている。この第1のレンズ群61は,光軸に平行な入射光束を,上記ピンホール5上に集光させる。この第1のレンズ群61は,第1及び第2の凸レンズ64,65から構成されている。
【0040】上記第2のレンズ群63は,上記絞り62の後方側に位置され,該絞り62上に前側焦点位置を位置させ像空間においてテレセントリック光学系を構成している。すなわち,この第2のレンズ群63は,この第2のレンズ群63の中心が上記絞り62より該第2のレンズ群63の焦点距離f_(2)に等しい距離を隔てた位置となるように配置されている。この第2のレンズ群63は,上記ピンホール5を通過した拡散光束を,光軸に平行な出射光束として出射する。この第2のレンズ群63は,第3及び第4の凸レンズ66,67から構成されている。
【0041】上記第1及び第2のレンズ群61,63は,上記絞り62を挟んで,互いに所定の相似比率の相似形となっている。
【0042】この結像レンズ装置は,上記第1のレンズ群61の前方側に位置する物体面2上の物体1の像4を,像面3上に形成する。
【0043】この結像レンズ装置においては,上記ピンホール5を通過する光は物空間において光軸に平行な光線であるので,上記物体面2が光軸に対して傾斜していても,上記像4は,いわゆる台形歪みを生ずることがない。すなわち,この結像レンズ装置においては,上記第1のレンズ群61と上記物体面2との距離は,上記物体1の像4の像倍率に影響しない。また,同様に,この結像レンズ装置においては,上記第2のレンズ群63と上記像面3との距離は,上記像4の像倍率に影響しない。」

(3-5)「【0063】[実施例2]上述のような指紋照合装置の光学系を構成する結像レンズ装置としては,図3に示すように,上記第1及び第2のレンズ群をそれぞれ2枚のレンズから構成されるものとしてもよい。」

(3-6)「【0079】そして,この光学系においては,台形歪みや歪曲収差の発生が充分に抑えられているため,上記反射面88上で上記指6が移動しても,正確な指紋照合が行える。さらに,この光学系においては,像面に対して入射する主光線入射角がこの像面上のいずれの点に対しても等しくなるため,該像面上における光量分布が平坦となり,指紋の形状の認識が容易となる。」


(4)引用文献4
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平5-203873号公報(平成5年8月13日出願公開,以下「引用文献4」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(4-1)「【0002】
【従来の技術】近年,映像の高画質化の要請に伴ない,スチル画像もその画面をより多くの画素数によって構成するようになってきている。
【0003】したがって,スチルビデオカメラの受光部を固体撮像素子で構成する場合に,固体撮像素子のエレメント数はより多くなる傾向にある反面各エレメントのサイズはより小さくなる傾向にある。しかも,各エレメントに光束が入射するためのセンサ開口部は各エレメントの全表面のうち一部に形成されているため検出光量が不足するおそれがある。このような事情から,各エレメントの前面にセンサ開口部よりも大きい口径を有するマイクロ凸レンズを配設し,このマイクロ凸レンズで集光することによって各エレメントに入射する光の光量不足を補い,検出感度の低下を防止するようにしたものが知られている。
【0004】すなわち,例えば図5に示すように,固体撮像素子101 上にオンチップマイクロレンズ群102 が配され,各エレメントの開口部103 の直上にオンチップマイクロレンズ群102 の各マイクロレンズ素子104 が配されるように位置決めされている。各マイクロレンズ素子104 は凸レンズとして機能し,マイクロレンズの開口部である凸レンズ部分に入射した光(図中の実線部分)をエレメントの開口部103 に集束させるので各エレメントには明るい像が結像され感度を高めることが可能となる。」

(4-2)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで,従来の上述した如き長短2焦点切換レンズとしてはオンチップマイクロレンズを配設していない固体撮像素子に使用されていたものをそのまま使用しており,カメラ設計上の制約等から射出瞳が近いレンズ系とされていた。
【0007】しかしながら,この切換レンズをオンチップマイクロレンズ付き固体撮像素子にそのまま使用すると画面周辺部に対応するマイクロレンズには光束がかなり斜めから入射し,図5の破線で示す如くマイクロレンズの集束作用によりエレメントの開口部に入射する光量が大幅に減少するため,十分な検出感度を得ることが困難となる。
【0008】本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり,オンチップマイクロレンズ付き固体撮像素子を用いた場合に,マイクロレンズを介して画面周辺部に対応する各エレメントの開口部に入射する光束の光量が減少するのを防止し,高い検出感度を実現し得る射出瞳の遠い2焦点切換式レンズを提供することを目的とするものである。」

(4-3)「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の射出瞳の遠い2焦点切換式レンズは,物体側から順に,短焦点設定時にレンズ系の光軸外に移動する正の屈折力を有する第1レンズ群,絞り,長焦点設定時にレンズ系の光軸外に移動する正の屈折力を有する第2レンズ群およびレンズ系の光軸内に固定される正の屈折力を有する第3レンズ群からなり,この第3レンズ群を,その物体側焦点位置が上記絞り位置付近となるように配設したことを特徴とするものである。
【0010】すなわち,レンズ系の光軸外に移動可能な正の屈折力を有する第1レンズ群,絞りおよびレンズ系の光軸外に移動可能な正の屈折力を有する第2レンズ群を物体側からこの順に配設し,短焦点設定時には前記第1レンズ群を前記光軸外に移動させるように,長焦点設定時には前記第2レンズ群を前記光軸外に移動させるように切換可能とし,前記絞りを短焦点設定時および長焦点設定時の両者に共用する,オンチップマイクロレンズ付き固体撮像素子用の射出瞳の遠い2焦点切換式レンズにおいて,前記短焦点設定時および長焦点設定時のいずれの場合にも前記絞りの配設位置付近を物体側の焦点位置とする正の屈折力を有する第3レンズ群を前記第2レンズ群と固体撮像素子との間に配設したことを特徴とするものである。」


(5)引用文献5
本願の出願前に頒布され,本件審判請求書において第1公知資料として請求人が引用した刊行物である,特開平7-168093号公報(平成7年7月4日出願公開,以下「引用文献5」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(5-1)「【請求項1】 被写体側に凹面を向けた負の屈折力を有するメニスカスレンズからなる第1のレンズと,正の屈折力を有する第2のレンズと,負の屈折力を有する第3のレンズが被写体側からこの順に配列されるとともに絞りまたは仮想絞りがレンズ系全体の被写体側端部近傍もしくはレンズ系よりも被写体側に配されてなり,
前記第3のレンズのアッベ数をν_(3)としたとき,
ν_(3)≦40
なる条件式を満足することを特徴とする3枚玉による結像レンズ。」

(5-2)「【0004】また,最近固体撮像素子の各受光素子の受光面に各々凸レンズからなるマイクロレンズを配設し,受光素子の不感帯に向う光束も受光素子に集めて感度を向上せしめるようにした固体撮像素子が実用化されている。このような固体撮像素子に入射する光束が上記マイクロレンズの光軸に対して大きく傾くとマイクロレンズの開口でいわゆるケラレが生じ入射光束が受光素子に有効に入射しなくなる。その結果,画面の周辺部の明るさが画面の中心部の明るさに比較して不足し,画面の周辺部が暗くなる現像を生じる。このような現像を回避するためには固体撮像素子への入射光束の入射角をなるべく小さくすることが必要で,撮影レンズの射出瞳を結像面からなるべく離して配することが必要となる。」


(6)引用文献6
本願の出願前に頒布され,本件審判請求書において第2公知資料として請求人が引用した刊行物である,特開平5-188284号公報(平成5年7月30日出願公開,以下「引用文献6」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(6-1)「【請求項1】物体側に前置された絞りの像側に,上記絞り側から像側に向かって順次,第1ないし第3群を配してなり,
・・・〈中略〉・・・
の範囲にあることを特徴とする,撮影用トリプレットレンズ。
【請求項2】物体側に前置された絞りの像側に,上記絞り側から像側に向かって順次,第1ないし第3群を配してなり,
・・・〈中略〉・・・
の範囲にあることを特徴とする,撮影用トリプレットレンズ。
【請求項3】物体側に前置された絞りの像側に,上記絞り側から像側に向かって順次,第1ないし第3群を配してなり,
・・・〈中略〉・・・
の範囲にあることを特徴とする,撮影用トリプレットレンズ。
【請求項4】物体側に前置された絞りの像側に,上記絞り側から像側に向かって順次,第1ないし第3群を配してなり,
・・・〈中略〉・・・
の範囲にあることを特徴とする,撮影用トリプレットレンズ。」

(6-2)「【0004】また近来,各受光素子の受光面に凸のマイクロレンズを形成し,各受光素子への入射光量の増加を意図した固体撮像素子も実用化されている。このような固体撮像素子では,受光素子に入射する光線がマイクロレンズ光軸に対して大きく傾くと,マイクロレンズの開口により「ケラレ」て受光素子に入射しなくなる事態が生じる。この傾向は撮影レンズの光軸から離れるに従って生じ易く,かかる事態が生ずると画像中心部に比して画像周辺部の光量不足を助長する結果を招く。このような問題を避けるためには,固体撮像素子への入射光線を,なるべく受光面法線に近い角度で入射させる必要がある。このために撮影レンズの射出瞳は像面からなるべく離れていることが望ましい。」


(7)引用文献7
本願の出願前に頒布された,本件審判請求書において第3公知資料として請求人が引用した刊行物である,特開平8-278443号公報(平成8年10月22日出願公開,以下「引用文献7」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(7-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 物体側より順に,絞り,両凸の第1レンズ,両凹の第2レンズ,像側に凸面を向けた正の屈折力を持つメニスカス形状の第3レンズ,負の屈折力を持つレンズと正の屈折力を持つレンズとの接合により全体で正の屈折力を持つ第4レンズ群とが配設された4群5枚構成から成り,
・・・〈中略〉・・・
【請求項2】 前記絞りと前記第1レンズとの間に,中間の画角の光束を限定する遮光板を設けたことを特徴とする請求項1に記載の撮影レンズ装置。」

(7-2)「【0002】
【従来の技術】ビデオカメラや電子スティルカメラにおいては,撮影レンズ装置を介して結像された被写体像を固体撮像素子によって撮像する構成を有し,この固体撮像素子の撮像面に微小のレンズが形成されることによって,受光量を増大させる工夫が成されている。
【0003】このため,撮影レンズ装置より固体撮像素子の撮像面に入射する光束の入射角を可能な限り小さくすることが必要である。言い換えれば撮影レンズ装置の射出瞳位置ができるだけ遠いことが望ましい。」


(8)引用文献8
本願の出願前に頒布された刊行物である,国際公開第96/13798号(1996年5月9日国際公開,以下「引用文献8」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。また,訳として特表平10-501360号公報の対応部分を付す。)

(8-1)「15. An electronic camera for producing a desirable digital image over a range of light intensities reflected from a subject, said camera including an image sensor assembly including an adjustable shutter speed control and means for generating an analog image signal, a video gain circuit configured to receive said analog image signal and to output an amplified analog image signal, an analog-to-digital (A/D) converter including an A/D gain controller responsive to an A/D reference input and configured to convert said amplified analog image signal to a digital image signal, characterized by:
an intensity evaluator circuit configured to receive said digital image signal and to output a correction signal varying with the intensity of at least a portion of said digital image signal; and
said shutter speed control, said video gain circuit, and said A/D reference input being responsive to said correction signal.」(特許請求の範囲15)
訳:「15.被写体から反射した光度の範囲をカバーする好適なディジタルイメージを生成する電子カメラであって,前記カメラは,可変シャッタスピードコントロールとアナログイメージ信号生成手段とを含むイメージセンサアセンブリと,前記アナログイメージ信号を受領しかつ増幅された前記アナログイメージ信号を出力するよう構成されたビデオゲイン回路と,A/Dリファレンス入力に応答し,かつ,前記増幅アナログイメージ信号をディジタルイメージ信号に変換するように構成された,A/Dゲインコントローラを含むアナログディジタル(A/D)コンバータと,を包含しており,
ディジタルイメージ信号の受領と,前記ディジタルイメージ信号の少なくとも一部分の明るさにつれて変化する矯正信号の出力と,をするよう構成されている輝度評価回路と;
前記シャッタスピードコントロール,前記ビデオゲイン回路,及びA/Dリファレンス入力は,前記矯正信号に応答可能であること;
を特徴とする:
電子カメラ。」(第3頁第27行(空行含む)?第4頁第12行)

(8-2)「Even when the target label is perfectly illuminated, the CCD camera's lens assembly causes attenuation that affects the captured image. For example, in some CCD cameras, the image produced by the lens falls off by a factor of nearly cos 4 (θ) even when the object is perfectly illuminated. At the corners of the image, the intensity may be little as 50% of the intensity at the center. Therefore, there is a need in the art for a camera that corrects the attenuation caused by the camera's lens assembly.」(明細書第4頁第29行?第5頁2行)
訳:「対象のラベルが完全に照射されたときでも,CCDカメラのレンズアセンブリはキャプチャイメージに影響する減衰を生起せしめる。例えば,いくつかのCCDカメラにおいては,たとえ対象物が完全に照射されたときでも,レンズで生成されるイメージが,cos4(θ)に近い要因により減衰される。イメージの隅部分での明るさは中央部での明るさの50%程であろう。それゆえ,当分野においては,カメラのレンズアセンブリにより生起される減衰をカメラが修正するような要請がある。」(第11頁第11行?第17行)

(8-3)「The camera lens assembly 120 includes a front lens group 140 and a rear lens group 145. The lens aperture plane is located between the front and rear lens groups. In the preferred hand held label reader, the camera operates with a fixed circular aperture. This eliminates the need for an adjustable iris or other assembly in the aperture plane. Instead, the polarizing filter 135 and a narrow bandpass filter 150 are placed in the aperture plane.」(明細書第16頁第6行?13行)
訳:「カメラレンズアセンブリ120は,前方レンズグループ140と後方レンズグループ145を含んでいる。レンズの絞り面は,前記前方及び後方グループの間に位置している。好適な手持ちタイプのラベルリーダにおいて,カメラは,固定の絞りを伴って作動する。これは,調整可能なアイリスあるいは前記絞り面内の他のアセンブリの必要性を排除する。代わりに,偏光フィルタ135と狭帯域フィルタ150が,前記絞り面に設けられている。」(第21頁第16行(空行含む)?第21行(空行含む))

(8-4)「The analog CCD video output from the camera is boosted by a video amplifier circuit 175. The preferred video amplifier circuit 175 includes a type HA5024 Quad current feedback amplifier, manufactured by Harris Semiconductor. In the preferred label reader, the gain of the video amplifier circuit can be adjusted from 6 dB to 24 dB in 6 dB steps, which provides a gain adjustment range of 8:1 or 18 dB. When using the LED illuminator, the output of the CCD is about 100 millivolts (mv). The video amplifier circuit's maximum gain of 24 dB allows the camera's 100 mv output to be boosted to approximately 1.6 V.」(明細書第19頁第29行?第20頁第3行)
訳:「カメラからのアナログCCDビデオ出力は,ビデオアンプ回路175により増強される。好適なビデオアンプ175は,ハリス セミコンダクタ製の四重電流帰還アンプHA5024型を含んでいる。好適なラベルリーダにおいては,ビデオアンプ回路のゲインは,6dB刻みで6dBから24dBまでに調整可能であり,これにより,8:1又は18dBのゲイン調整範囲が提供される。LED照射器を利用するとき,CCDの出力は,約100ミリボルト(mv)である。ビデオアンプ回路の最大ゲインが24dBのとき,カメラの100mv出力が約1.6Vに増強される。」(第24頁第27行(空行含む)?25頁第4行)

(8-5)「The gain control circuit 195 uses a gain look-up table to set the new relative system gain value based on the bin number provided by the histogram circuit and the last gain value. The new gain value provides output signals that are used to control the overall gain adjustment of the system. As mentioned above, this is accomplished by adjusting the camera's electronic shutter speed, the gain of the video amplifier circuit, and the A/D converter's reference voltage. A video amplifier gain output from the gain control circuit is provided directly to the video amplifier circuit 175. An A/D converter gain output from the gain control circuit is provided to a parabola generator circuit 200, which provides an analog input signal to the A/D converter's reference voltage input. A shutter control signal from the gain control circuit is provided to a shutter control circuit 205, which provides a trigger pulse to the camera when the exposure is to begin. The details of this process are described more completely below. The A/D board 90 is connected to the CPU board 85 and control board 80 via a connector 210.」(明細書第23頁第24行?同第24頁第6行)
訳:「ゲインコントロール回路195は,ヒストグラム回路と最終ゲイン値により持らされるビン数に基づく,新しい,相対的システムゲイン値を設定するために,ゲインルックアップテーブルを利用する。新しいゲイン値は,本システムの全体的ゲイン調整を制御するのに用いられる出力信号を提供する。このことは,上述したように,カメラの電子シャッタスピードと,ビデオアンプ回路のゲインと,そして,A/Dコンバータのリファレンス電圧とを調整することによって達成される。ゲインコントロール回路からのビデオアンプゲイン出力は,直接的にビデオアンプ回路175に供給される。ゲインコントロール回路からのA/Dコンバータゲイン出力は,A/Dコンバータのリファレンス電圧信号へアナログ出力信号を供給するところの,放物線生成回路200に供給される。ゲインコントロール回路からのシャッタコントロール信号は,シャッタコントロール回路205に供給され,そこで,露光が始まるとトリガパルスをカメラにもたらす。このプロセスの詳細は,後にさらに完全に説明しよう。A/Dコンバータ90は,CPUボード85とコントロールボード80にコネクタ210経由で接続されている。」(第28頁第18行(空行含む)?第29頁第2行)

(8-6)「Fig. 8 is a block diagram of the circuitry located on the CPU board 85. The CPU board 85 includes a microprocessor 225, electronically programmable read only memory (EPROM) 230, random access memory (RAM) 235, serial communication circuitry 240, and a connector 245.」(明細書第24頁第7行?第11行)
訳:「図8は,CPUボード85上に設けられた回路のブロック図である。CPUボード85は,マイクロプロセッサ225,電子的にプログラム可能なリードオンリーメモリ(EPROM)230,ランダムアクセスメモリ(RAM)235,シリアル通信回路240,及び,コネクタ245,を含んでいる。」(第29頁第3行?第6行)


(9)引用文献9
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平8-30715号公報(平成8年2月2日出願公開,以下「引用文献9」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(9-1)「【0003】この電気信号( 撮像信号 )はコンパレータ等により白・黒に対応する2値の信号に変換されるが,このとき,電気信号は所定のスライスレベルより高ければ白と判定され,スライスレベルより低ければ黒と判定される。」

(9-2)「【0006】このようにイメージセンサからの電気信号の全体のレベルが変動すると,この電気信号を白と黒とに対応する2値の信号へ正確に変換できない虞がある。例えば,2値化回路においてスライスレベル( 基準電圧 )を固定値とすると,電気信号の全体のレベルが低くなると,相対的にスライスレベルが高くなり,白に対応する信号の幅が短くなり,黒に対応する信号の幅が長くなる。つまり,白であると判定すべき部分が黒と判定される可能性がある。
【0007】従って,従来のコードリーダでは,例えば,2値化回路のスライスレベルを複雑な回路によりイメージスキャナからの電気信号の低周波成分の変動に追従して変化するようにしたものが知られている。」

(9-3)「【0023】図2は,この2次元コードリーダの要部回路構成を示すブロック図である。
【0024】21は,制御部本体を構成するCPU(central processing unit )である。」

(9-4)「【0027】このAGC回路32は,前記信号処理回路30からの撮像信号をそのハイレベル値が予め設定された所望のハイレベル値となるように,自動的にゲインが調整されて撮像信号を適正なレベルに増幅する回路である。」


(10)引用文献10
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平7-230519号公報(平成7年8月29日出願公開,以下「引用文献10」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(10-1)「【0007】検出部218に於いては,光源232にてシート200上のドットコード206を照明し,反射光をレンズ等の結像光学系234及びモアレ等の除去等のための空間フィルタ236を介して,光の情報を電気信号に変換する例えばCCD,CMD等の撮像部238で画像信号として検出し,プリアンプ240にて増幅して出力する。これらの光源232,結像光学系234,空間フィルタ236,撮像部238,及びプリアンプ240は,外光に対する外乱を防ぐための外光遮光部242内に構成される。そして,上記プリアンプ240で増幅された画像信号は,A/D変換部244にてディジタル情報に変換されて,次段の走査変換部220に供給される。」

(10-2)「【0025】このように,一部分が暗くなったり,段々ボケてきたり,ドットの大きさが変わったり,ドットの位置がずれてくると,後段の信号処理部分の処理で正しいマーカ210の検出ができなくなったり,正しいデータの再生ができなくなるという不具合が発生する。」

(10-3)「【0033】ここで,上記アドレス・係数発生回路16は,フィールドメモリ18の書き込みアドレスを発生すると共に,CPU30より設定された座標変換用係数に応じて座標変換回路32で変換出力された読出しアドレス及び補間係数をフィールドメモリ18と補間回路20に振り分けたり,また,ライトイネーブル信号などを発生してタイミングを整えるなどの各種制御を行う。ここで,CPU30は,詳細は後述するような各検出部及び算出部等の出力からペン型入力装置のシートに対する傾き量を求め,座標変換回路32内に構成された不図示レジスタに設定する。座標変換回路32は,レジスタに設定された値を詳細は後述するように累積加算することにより,書き込みアドレス,読出しアドレス,及び補間係数を発生する。
・・・中略・・・
【0038】CPU30は,これら入力される輝度ムラ,ボケ量,マーカ210の大きさ,データ配列方向,ずれ量,傾斜センサ出力,レンズ収差などに基づいて,座標変換回路32に座標変換用係数を設定することにより読出しアドレス及び補間係数を発生させ,アドレス・係数発生回路16を介して,シートに対するペン型入力装置の傾きの影響を取り除いたデータを後段の信号処理系に供給する。あるいは,各入力に優先順位をつけて,優先順位の高い入力に従って座標変換用係数を設定するようにしても良く,各入力をどのように利用して座標変換係数を設定するかは,CPU30を用いていることにより,使用状況などに応じて適宜変更可能となっているので,効率の良い信号処理を行うことができる。
【0039】また,このCPU30は,後述するようにスイッチ28の開閉制御も行う。なお,スイッチ28以降の回路は,図17に示したような回路のデータ列調整部226以降と同様である。即ち,このデータ列調整部226では,まずブロックアドレス検出部262により前述した二次元ブロックのブロックアドレスを検出し,その後,ブロックアドレスの誤り検出,訂正部264によりブロックアドレスのエラー検出及び訂正を行った後,アドレス制御部266に於いてそのブロック単位でデータをデータメモリ部268に格納していく。このようにブロックアドレスの単位で格納することで,データが途中抜けた場合,あるいは途中から入った場合でも,無駄なくデータを格納していくことができる。」

(10-4)「【0060】まず,上記撮像プロセス部12には,特に被写体が暗かった場合などには,その暗いことを検出して,AGC(オートゲインコントロール)を制御するようになっている。これは,輝度レベル検出回路34にて,A/D変換部14の出力であるディジタルデータにローパスフィルタをかけて高い周波数成分を抜き,低い周波数成分のみの平均輝度データを算出して,その平均輝度データから全体の明るさを判断して,AGCにより撮像プロセス部12のゲインを変えるようにして行われる。」


(11)引用文献11
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平8-180125号公報(平成8年7月12日出願公開,以下「引用文献11」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(11-1)「【請求項1】2進コードで表されるデータをセル化して,2次元のマトリックス上にパターンとして配置し,マトリックス内の,少なくとも2個所の所定位置に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得られるパターンからなる位置決め用シンボルを配置した2次元コードを読み取るための2次元コード読取装置であって,
2次元画像検出手段と,
上記2次元画像検出手段から出力される走査線信号中での,上記周波数成分比の信号の存在を検出する周波数成分比検出回路と,
を備えたことを特徴とする2次元コード読取装置。」

(11-2)「【請求項5】更に,
上記2次元画像検出手段からの走査線信号を2値化して上記周波数成分比検出回路に送信する2値化手段と,
上記2値化された走査線信号の状態に応じて,上記2値化手段による2値化の閾値を調節する2値化調節手段と,
を備えた請求項1?4のいずれか記載の2次元コード読取装置。」

(11-3)「【0049】尚,図5(B)は,2値化回路6からの2値化された走査線信号に該当する。次に上述した2次元コード52の内容を解読するために,2次元コード52の存在および配置を認識する処理のフローチャートを図6に示す。本処理は,CPU24により実行される。」

(11-4)「【0076】2値化制御回路204は,CPU24によるデータセルの読み取りにおいて,例えば,ほとんど白部として認識されたり,黒部として認識されたりする領域が現われた場合に,そのような領域においては,2値化回路6における閾値が不適切であると考えられる。したがって,2値化制御回路204は,CPU24の指示により,アドレスにより閾値を変化させるためのアドレス-閾値変更テーブルを記憶して,アドレス発生回路12のアドレスに応じて2値化回路6の閾値を変更している。」


(12)引用文献12
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開昭62-180483号公報(昭和62年8月7日出願公開,以下「引用文献12」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(12-1)「2,特許請求の範囲
バーコードを照射する光源と,その反射光を集光する複数のレンズと,前記複数のレンズの間に配置された絞り手段と,前記集光された反射光を受光し前記バーコードを検出するイメージセンサとを具備したバーコード検出装置。」

(12-2)「 発明が解決しようとする問題点
このような従来の検出装置では,絞り手段7を複数のレンズ6の背後に配置しているので,第7図に示すように,視野周辺部の反射光が遮断されるためイメージセンサ6の周辺光量が減少して,第8図に示すようにバーコード2を読み取る場合,視野周辺部において,地の反射とバーの反射とのコントラストが悪くなり,2値化できなくなり,その結果,バーコード2を判読できないことがあった。
問題点を解決するための手段
本発明は,上記問題点を解決するため,バーコードを照射する光源と,その反射光を集光する複数のレンズと,前記複数のレンズの間に配置された絞り手段と,前記集光された反射光を受光し前記バーコードを検出するイメージセンサとから構成したものである。」(第1ページ下右欄第5行?第2ページ上左欄第1行)


(13)引用文献13
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-147048号公報(平成9年6月6日出願公開,以下「引用文献13」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(13-1)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで,従来のバーコードリーダは,読取り口3を記録票4に接触させるか,またはきわめて近い位置(30mm以内)に接近させてバーコードを読み取るようになっていた。しかしながら,最近,バーコードリーダの読取り口3からかなり離れた位置の記録票4を読み取ることが要請されている。
【0005】遠くの記録票4を読み取る場合,結像レンズ7のデフォーカス位置に存在する物体15の像を結像レンズ7によってリニアセンサー8に鮮明に結像させるには,カメラなどで採用されているように,絞り11の開口部12の面積を非常に小さくする必要がある。しかし,絞り11の開口部12を小さくすると,絞り11の厚さによる像のケラレが大きくなる。
【0006】すなわち,通常,バーコードリーダで記録票4を読み取る場合,図10(A)図に示す概略図のように,リニアセンサー8が結像レンズ7,絞り11を通して記録票4を見ている。なお,13はセンサー7の視野を示す。
【0007】この場合,絞り11を通過する光は,図10(B)図に示すように,センサー8の視野が13aのようになっているにも拘らず,実際には13bのような視野に制限される。これは絞り11の厚みのために視野が規制されることに起因している。このため,リニアセンサー8の出力波形は,図10(C)図に示すように,本来Aとなる筈がBのような出力波形となってしまう。
【0008】この結果,幅の広い記録票(記録紙)や画角の周辺部に位置する記録情報を読み取ることができなくなり,いわゆるケラレという現象が生じるという不具合がある。
【0009】これを回避する手段として,絞り11の厚みを薄くすればよい。しかし,絞り11を遮光性プレート部材で形成した場合は厚みを薄くするには限度がある。したがって,本発明の目的は,絞りの厚みを薄くして,像のケラレ現象を解消し,性能が向上する光学情報読取り装置の結像光学系構造を提供しようとするものである。」

(13-2)「【0036】第2の実施例は,結像レンズ7として複数のレンズ71,72を用いた例である。これら複数のレンズ71,72は鏡筒10に取り付けられている。結像レンズ7の前方には透明部材20が配置されており,この透明部材20も上記鏡筒10に固定されている。この透明部材20の前面20には遮光被膜24が形成されており,この遮光被膜24は光学軸O-O上に位置する箇所に所定形状の透光開口部23が形成されており,これにより絞り22が形成されている。」


(14)引用文献14
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平3-117281号公報(平成3年5月20日出願公開,以下「引用文献14」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(14-1)「このCCD撮像素子では,撮像エリアから入力した光信号は第1及び第2の感光画素1,2で信号電荷に変換される。変換された信号電荷は,垂直CCD3に読出されて転送された後,水平CCD4で転送される。垂直CCD3は4相のクロックパルスφ_(V1),φ_(V2),φ_(V3),φ_(v4)で駆動され,水平CCD4は2相のクロックパルスφ_(H1),φ_(H2)で駆動される。そして,垂直CCD3及び水平CCD4で転送された信号電荷は,出力アンプ6で電圧に変換されて出力されるものとなっている。」(第3頁下右欄第7行?同頁同欄第17行)

(14-2)「第2図は,第1図に示すCCD撮像素子を用いた固体撮像装置の回路構成を示すブロック図である。この装置は,CCD撮像素子10とその周辺回路,即ち同期パルス発生回路21,高ダイナミックレンジ(DR)パルス発生回路22,高DRパルスドライバ23,水平(H)CCDタイミング発生回路24,HCCDドライバ25,バイアス回路26,プリアンプ27及びプロセスアンプ28等より構成される。そして,CCD撮像素子10には,光入力信号11がレンズ12で集光されて結像するものとなっている。」(第3頁下右欄第18行?第4頁上左欄第9行)

(14-3)「本装置では,CCD撮像素子10に必要なタイミングを垂直CCD3用の高DRパルス発生回路22と,HCCDタイミング発生回路24で発生させる。基準タイミングは,同期パルス発生回路21より供給する。CCD撮像素子10は,垂直CCD3を高DRパルスドライバ23で駆動し,水平CCD4をHCCDドライバ25で駆動する。また,CCD撮像素子10に必要な直流バイアスは,バイアス回路26より供給する。CCD撮像素子10の出力信号は,プリアンプ27を経てプロセスアンプ28で,γ(ガンマ),黒レベル再生等を行って出力する。」(第4頁上左欄第10行?第4頁上右欄第2行)


(15)引用文献15
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-231306号公報(平成9年9月5日出願公開,以下「引用文献15」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(15-1)「【0005】
【従来技術の問題点】第一に,TVカメラ式情報パターン読取スキャナでは,上述したように,TVカメラ21,画像処理装置22,及びTVモニタ23等の,高価な装置が必要であった。第二に,TVカメラ式情報パターン読取スキャナでは,室内照明の明るさに応じてTVカメラ21の絞りを調整しなければならないから,情報パターン読取前の,段取りに時間が掛かるという問題があった。第三に,TVカメラ21の画像を光電変換する二次元的エリアセンサは,どうしても水平方向の有効画素数が限定されるため,情報パターン読取装置の解像度(分解能)の向上には限界があった。ここに,解像度(分解能)とは,読取り可能な情報パターンの最小線幅の寸法をいう。第四に,ミラーの回動-停止-回動-停止…を繰り返す形式の上記光学的情報読取装置は,読取速度が非常に遅く,その向上は本質的に困難である。」

(15-2)「【0014】上記の可動集光光学系9は,例えば,1個の絞りと1個のレンズとから成る。或は,2個のレンズと,それらの中間に配設された1個の絞りとから成る。可動ラインイメージセンサ10は,可動ユニットケース31内の所定の位置即ち奥部に配設される。かくして,可動反射ミラー7と,可動集光光学系9と,可動ラインイメージセンサ10とは,図示の如く,一直線上に配置されることとなる。可動ラインイメージセンサ10は,線状の受光面上に結像した光像の横方向の線上の強弱分布を,時間軸上の電気的強弱信号に,瞬時的に光電変換することが出来る。」

(15-3)「【0022】可動ラインイメージセンサ10の線状の受光面上に結像した光像は,光電変換されて,電気的アナログ信号となる。上記の電気的アナログ信号は,例えば,対数増幅回路に与えられる。対数増幅回路は,与えられた電気的アナログ信号が小振幅の時は,対数特性に従ってその振幅を伸長し,そうでない時はその振幅を圧縮する。スライス回路は,与えられた電気的アナログ信号をスライスして,これを2値信号に変換する。即ち,黒色パターン信号に由来するアナログ信号の振幅は,例えば “論理1”レベルに変換し,白色パターン信号に由来するアナログ信号の振幅は,例えば“論理0”レベルに変換するのである。」


(16)引用文献16
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平8-16699号公報(平成8年1月19日出願公開,以下「引用文献16」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(16-1)「【0193】情報読取り装置において,例えば,LEDアレイのような第2の任意の光源240を搭載し,ドライブユニット210によって制御を行う。光検出器206の出力は,そのゲイン及びバンド幅が調節可能又は選択可能であるアナログ増幅器213に供給される。増幅器制御ユニット214は,制御バス226を介して制御ユニット214に供給される制御信号に応答して,アナログ増幅器213内の回路値を適切に調整するためにアナログ増幅器213に接続される。周囲光センサ241は,制御バス226に出力を供給する。前記アナログ増幅器213の1つの出力は,A/Dコンバータ215に供給され,サンプルされたアナログ信号をディジタル信号に変換し,制御バス226を介してCPU219により処理するために,そのディジタル信号を転送する。」

(16-2)「【0202】本実施例において,パルス幅データ又は復号済みデータのいずれかの処理は,CPU219の制御の下にソフトウェアにおいて実行される。情報読取り装置内のコンピュータプログラムにおいて実行可能なアルゴリズムの例について述べる。」


(17)引用文献17
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平7-254037号公報(平成7年10月3日出願公開,以下「引用文献17」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(17-1)「【請求項1】 二進コードで表されるデータをセル化して,二次元のマトリックス上にパターンとして配置した二次元コードにおいて,
マトリックス内の,少なくとも2個所の所定位置に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得られるパターンの位置決め用シンボルを配置したことを特徴とする二次元コード。」

(17-2)「【0026】位置決め用シンボル2は,二次元コード1の4つの頂点の内,3つに配置されている。そのセルの明暗配置は,黒部からなる正方形2a内の中心に白部からなる縮小した正方形2bが形成され,その内の中心に黒部からなる更に縮小した正方形2cが形成されているパターンである。
【0027】この位置決め用シンボル2をスキャンした場合の明暗検出を図2に示す。図2(A)に示すように,位置決め用シンボル2の中心を代表的な角度で横切る走査線(a),(b),(c)での明暗検出パターンは,図2(B)に示すごとく,すべて同じ周波数成分比を持つ構造になっている。即ち,位置決め用シンボル2の中心を横切るそれぞれの走査線(a),(b),(c)の周波数成分比は暗:明:暗:明:暗=1:1:3:1:1となっている。勿論,走査線(a),(b),(c)の中間の角度の走査線においても比率は1:1:3:1:1である。
【0028】このことにより,二次元コードがいかなる方向に回転していても,一定方向の走査処理のみで位置決め用シンボル2の持つ特定周波数成分比を検出することができる。このため走査方向を繰り返し何度も変更して基準となる所定のパターンを検出する必要がない。したがって,位置決め用シンボル2の中心位置が容易に早期に判明するので,二次元コード1の位置が迅速に特定でき,その後の処理も早期に開始できる。
【0029】またこのように少なくとも位置決めは一方向のスキャンのみで済むので,TVカメラ等の画像検出装置から取り込んだ画像に,二次元コード1以外の各種のノイズが検出されていても,ノイズが二次元コード1か否かをスキャンする方向を変えて何度も判定処理することがなく,直ちに二次元コード1の位置が判明する。更にそれ以後は検出された位置決め用シンボル2の周辺だけを検索すればよく,高速にデータ領域のコードが切り出される。また,特定周波数成分比を検出する手段は,ハードウェア処理に適しており,TVカメラ等からの画像取り込みと並列した処理ができることとなり,さらに高速にコードを切り出すことができる。」

(17-3)「【0062】次に,図15,16のフローチャートにより読み取り処理について説明する。この処理は図17に示すデコーダ500により二次元コード81をCCD500aにて読み取ることにより開始される。まず,CCD500a側から読み込まれた画像信号の2値化がなされる(ステップ300)。この2値化された画像がハード処理にて順次メモリに格納される(ステップ310)。これと並列のハード処理にてこの2値画像から,位置決め用シンボル2の位置座標が検出される(ステップ320)。
【0063】次に位置決め用シンボル2が3個以上見つけられたか否かが判定される(ステップ330)。この場合は図1と同じ位置決め用シンボル2が3個の二次元コード81の検出であることから,3個存在しなければ次の処理に移れない。したがってステップ300の処理に戻り,再度画像の読み直しをすることになる。尚,検出される位置決め用シンボル2は3個でなく4個以上の場合もある。これは二次元コード81内の他の領域,あるいは二次元コード81外の領域に位置決め用シンボル2と同じ周波数成分比のパターンが存在することを示している。
・・・中略・・・
【0069】このようにして,二次元コードからデータが得られると,図示しないホストコンピュータ側にデータ送信され,ホストコンピュータ側ではこのデータに基づいて,所定の制御を実施する。」

(17-4)「
【図17】




(18)引用文献18
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平7-282178号公報(平成7年10月27日出願公開,以下「引用文献18」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(18-1)「【0017】また,光源照度制御回路26により光源光量を増加させる代わりに,制御回路32により,傾き検出器34で検出された傾き量に応じて,あるいは,開口絞り駆動回路24からの絞り量を表す出力に応じて,AGC回路28による撮像素子18の出力信号のゲインを増加させ,またシャッタ速度制御回路30によるシャッタ速度を変化させるようにして感度を変化させても良い。」


(19)引用文献19
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-8266号公報(平成9年1月10日出願公開,以下「引用文献19」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(19-1)「【0002】
【従来の技術】CCD(Charge Coupled Device)をはじめとする固体撮像素子は,ビデオカメラやカメラ一体型ビデオテープレコーダ等に用いるエリアセンサと,ファクシミリやバーコードリーダ等に用いるラインセンサとに大別されるが,いずれも情報化社会における電子の目として必要不可欠のデバイスとなっている。CCDに対する小型化と高解像度化の要請は高く,高集積化の進展にともない単位画素あたりの占有面積は縮小され,同時にセンサ部の開口面積も縮小の方向にある。
【0003】かかるセンサ部の開口面積の縮小により,センサ部に採り込まれる光量が不足し,S/N比を確保するのに充分な光誘起電荷を確保することが困難となってきた。そこで,高集積度と高感度の両特性をともに満たす要求に鑑みて採用されている構造がオンチップレンズである。オンチップレンズを採用したCCD撮像装置の垂直レジスタ方向の概略断面図を,図2を参照して説明する。シリコン等の半導体基板1上に第1層ポリシリコンゲート3および第2層ポリシリコンゲート4を形成し,これらゲート電極をマスクとしてセルフアラインでイオン注入および活性化熱処理を施すことにより,センサ部2を形成する。つぎに全面にアルミニウムを堆積し,センサ部上部を開口して遮光層5を形成する。遮光層の開口平面形状は一例として1.5μm×2.5μmの長方形である。この後Si_(3) N_(4) 等の保護層6を全面に形成し,さらに第1層ポリシリコンゲート3および第2層ポリシリコンゲート4により形成された段差を埋めてアクリル樹脂等による平坦化層7を形成し,さらにカラーフィルタ層8を形成する。この後センサ部2上部に位置するように,オンチップレンズ14を形成する。かかる構造により,オンチップレンズ12で集光された入射光はセンサ部2に集光され,入射光の利用効率を数倍以上に向上することが可能となる。」

(19-2)「【0030】その他,CCD撮像装置の構造も例示したものに限定されるものではない。本発明のオンチップレンズの製造方法は,CCDに限らず有機高分子材料層によるマイクロレンズや回折格子を用いる各種OEIC等にも用いることが可能でる。」


(20)引用文献20
本願の出願前に頒布された刊行物である,特開平9-55488号公報(平成9年2月25日出願公開,以下「引用文献20」と記載する。)には,次の事項が記載されている。(下線は参考のため当審で付与したものである。)

(20-1)「【0002】
【従来の技術】CCD(Charge Coupled Device)をはじめとする固体撮像装置は,ビデオカメラやカメラ一体型ビデオテープレコーダ等に用いるエリアセンサと,ファクシミリやバーコードリーダ等に用いるラインセンサとに大別されるが,いずれも情報化社会における電子の目として必要不可欠のデバイスとなっている。CCDに対する小型化と高解像度化の要請は高く,高集積化の進展にともない単位画素あたりの占有面積は縮小され,同時にセンサ部の開口面積も縮小の方向にある。
【0003】かかるセンサ部の開口面積の縮小により,センサ部に採り込まれる光量が不足し,S/N比を確保するのに充分な光誘起電荷を発生させることが困難となってきた。そこで,高集積度と高感度の両特性をともに満たす要求に鑑みて採用されている構造がオンチップレンズである。オンチップレンズを採用したCCD撮像装置の垂直レジスタ方向の概略断面図を,図5を参照して説明する。シリコン等の半導体基板1上に第1層ポリシリコンゲート3および第2層ポリシリコンゲート4を形成し,これらゲート電極をマスクとしてセルフアラインでイオン注入および活性化熱処理等を施すことにより,センサ部2を形成する。つぎに全面にアルミニウム等の金属膜を堆積し,センサ部上部を開口して遮光層5を形成する。遮光層の開口平面形状は一例として1.5μm×2.5μmの長方形である。この後Si_(3) N_(4) 等の保護層6を全面に形成し,さらに第1層ポリシリコンゲート3および第2層ポリシリコンゲート4により形成された段差を埋めてアクリル樹脂やSiO_(2) 等による平坦化層7を形成し,さらにカラーフィルタ層8を形成する。この後センサ部2上部に位置するように,センサ部2より大面積のオンチップレンズ9を形成する。かかる構造により,オンチップレンズ9への入射光はセンサ部2に集光され,入射光の利用効率を数倍以上に向上してS/N比を確保することが可能となる。」

(20-2)「【0037】固体撮像装置はエリアセンサ,リニアセンサの別なく適用できる。その他,撮像装置の構造も例示したものやCCD構造に限定されるものではない。」


3-2-3.引用発明の認定
(1)上記(1-2)の「CCD固体撮像素子をOCR(Optical Chracter Recognition)等の光学式読みとりに用いる」等の記載から,引用文献1には
「CCD固体撮像素子を用いた光学式読みとり装置」
が記載されていると言える。

(2)上記(1-2)の「カメラレンズの絞りや,射出瞳特性等により一部集光されない光がある。」等の記載から,当該「光学式読みとり装置」に「カメラレンズ」と「絞り」が設けられていることを読み取ることができる。
そして,当該「カメラレンズ」が前記CCD固体撮像素子に被写体の像を結像させるものであること,及び,当該「絞り」が前記CCD固体撮像素子への被写体からの光を制限するものであることは,当業者であれば当然に了知する技術常識であり,「カメラレンズ」「絞り」という用語自体の技術的意味内容の一部にほかならない。(昭和56(行ヶ)93判決参照)
したがって,上記「光学式読みとり装置」は
「前記CCD固体撮像素子に被写体の像を結像させるカメラレンズと
前記CCD固体撮像素子への被写体からの光を制限する絞りと」
を有したものであると言える。

(3)上記(1-1)の「CCD固体撮像素子40は,複数の受光部61が行列状に配列され」「各受光部61の上部には,光を集光するOCL(オンチップレンズ)41が形成され」等の記載から,
「前記CCD固体撮像素子は複数の受光部が行列状に配列され,該各受光部の上部に光を集光するオンチップレンズが形成されたものである」
ことが読み取れる。

(4)よって,引用文献1には下記の事項によって特定される発明(以下「引用発明」と記載する。)が記載されていると認められる。

「CCD固体撮像素子を用いた光学式読みとり装置であって,
前記CCD固体撮像素子に被写体の像を結像させるカメラレンズと
前記CCD固体撮像素子への被写体からの光を制限する絞りと
を有し,
前記CCD固体撮像素子は複数の受光部が行列状に配列され,該各受光部の上部に光を集光するオンチップレンズが形成されたものである
光学式読みとり装置。」


3-2-4.対比
以下,本件訂正発明と引用発明とを比較する。

(1)引用発明は「光学式読みとり装置」であるので,引用発明も本件訂正発明と同様に「光学読取装置」と言えるものである。

(2)引用発明における「カメラレンズ」は本件訂正発明における「結像レンズ」に対応付けられるものであるところ,前者は「CCD固体撮像素子に被写体の像を結像させる」ものであるから,両者は「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」である点で共通する。
したがって,引用発明と本件訂正発明とは
「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」
を備える点で共通すると言える。

(3)引用発明における「CCD固体撮像素子」は本件訂正発明における「光学的センサ」に対応付けられるものであるところ,前者は「カメラレンズ」によって「像」が「結像させ」られるものであり,しかも,「複数の受光部が行列状に配列され,該各受光部の上部に光を集光するオンチップレンズが形成されたもの」なのであるから,後者と同様に「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」と言えるものである。
したがって,引用発明も本件訂正発明と同様に
「読み取り対象の画像を受光するために読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」
を備えるものであると言える。

(4)引用発明における「絞り」は本件訂正発明における「絞り」に対応付けられるものであるところ,前者は「CCD固体撮像素子への被写体からの光を制限する」ものなのであるから,後者と同様に「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」と言えるものである。
したがって,引用発明も本件訂正発明と同様に
「該光学的センサへの反射光の通過を制限する絞り」
を備えるものであると言える。

(5)よって,本件訂正発明と引用発明とは,次の一致点で引用発明と一致していると言える。

[一致点]
「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
を備える光学読取装置。」

(6)しかして,本件訂正発明と引用発明とは,次の相違点で相違する。

[相違点1]
本件訂正発明における結像レンズは「複数のレンズで構成され」ており,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,」「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」いる(以下,これを「相違点1に係る事項」と記載する。)のに対して,引用発明における「カメラレンズ」の枚数や当該「カメラレンズ」と「絞り」との位置関係は不明で,「射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」され,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となる」と言えるものであるか否か不明である。

[相違点2]
本件訂正発明は,「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」を有する(以下,これを「相違点2に係る事項」と記載する。)のに対し,引用文献1には「CCD固体撮像素子」から出力された信号を如何に処理するかを説明する記載はないため,引用発明が「カメラ部制御装置」に相当するものを有するか否かは不明である。

[相違点3]
本件訂正発明は「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものである(以下,これを「相違点3に係る事項」と記載する。)のに対し,引用発明がそのようなものであるか否かは不明である。

[相違点4]
本件訂正発明は「光学情報読取装置」すなわち「もっぱら2次元コードを読み取るための光学情報読取装置」であるのに対し,引用発明は単に「光学式読みとり装置」である点


3-2-5.判断
以下,上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
ア.上記相違点1に係る事項の技術的な意味・意義は,上記3-1.(2)ア.,ウ.,エ.,カ.,(4)ア.で示したように,必ずしも明確なものではなく多義的な解釈が可能なものではあるものの,要は,2枚以上の結像レンズを有した光学情報読取装置において光学的センサから射出瞳位置までの距離をなるべく長く設定することで,光学的センサの周辺部に位置する受光素子の感度低下を抑止することを表現したものであると解することができる。
イ.一般に,マイクロレンズを設けた撮像装置においては,受光素子への入射角による感度低下を防止するため,射出瞳を結像面からなるべく離した構造とする対策が採られることは,このような撮像光学系設計における技術常識に過ぎず,また,結像レンズを2枚以上で構成することも必要に応じて適宜に採用されている周知慣用技術に過ぎない(必要があれば,引用文献2(特に上記(2-1)),引用文献3(特に上記(3-1)?(3-6)),引用文献4(特に上記(4-2),(4-3)),引用文献5(特に上記(5-1),(5-2)),引用文献6(特に上記(6-1),(6-2)),引用文献7(特に上記(7-1),(7-2))等を参照。)。
ウ.また,光学情報読取装置においては,部分的な感度低下や輝度ムラなどがないように構成する必要があることは,当業者が当然に心得る技術常識に過ぎない(必要があれば,引用文献8(特に上記(8-2)),引用文献9(特に上記(9-2)),引用文献10(特に上記(10-2)),引用文献11(特に上記(11-4)),引用文献12(特に上記(12-2)),引用文献13(特に上記(13-1))等を参照。)。
エ.そして,引用文献1には上記(1-2)に「カメラレンズの絞りや,射出瞳特性等により一部集光されない光がある。」「H方向とV方向とで入射する斜め光L′の量および入射光の入射方向の限界が異なっていた。」とあり,カメラレンズの絞りや,射出瞳特性等による入射光の入射方向の限界という,本件訂正発明が解決しようとする課題と同等の問題点も示唆されている。
オ.してみると,引用発明において,上記相違点1に係る事項を採用することは,当業者であれば当然に想到する技術常識的な設計事項に過ぎず,その作用効果も当業者が当然に予測する程度のものである。
カ.なお,射出瞳を結像面からなるべく離した構造としては,全てのレンズの前面に絞りを配置した構成も従来から周知の構成である(必要があれば,引用文献4(特に上記(4-3)),引用文献5(特に上記(5-1)),引用文献6(特に上記(6-1)),引用文献7(特に上記(7-1))等を参照。)から,仮に上記相違点1に係る事項が,このような全てのレンズの前面に絞りを配置した構成を意味するとしてもこの点に進歩性を認め得るものではない。
キ.なお,引用発明における光学系が所定の射出瞳位置を有することは明らかであり,当該所定の射出瞳位置に比してCCD固体撮像素子側に射出瞳位置を有する他の光学系が存在し得ることも明らかであるから,引用文献1に記載されるものにおいても光学的センサに対応付けられるCCD固体撮像素子から当該所定の射出瞳位置までの距離は「相対的に長く設定」されていると言える。そして,本件訂正後の請求項1には上記3-1.(2)ア.,ウ.,エ.,オ.等で指摘した不備があるため,「前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,」「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」いることは一致点と解することもできる。

(2)相違点2について
ア.CCDなどの固体撮像素子においては微弱な検出電荷を電圧に変換するための電荷電圧変換用の増幅器が必須であることは当業者の技術常識にほかならず,また,プリアンプや,AGCアンプ等の増幅器を設ける事も一般的に採用されている周知慣用技術にほかならない(必要があれば,引用文献8(特に上記(8-4) ),引用文献9(特に上記(9-4)),引用文献14(特に上記(14-1),(14-3)),引用文献15(特に上記(15-3)),引用文献16(特に上記(16-1))等を参照。)。
イ.また,情報読み取り装置において,読み取り対象物が2値の情報である場合に画像の2値化をすることも一般的に採用されている周知慣用技術にほかならない(必要があれば,引用文献9(特に上記(9-1)),引用文献11(特に上記(11-2)),引用文献12(特に上記(12-2)),引用文献15(特に上記(15-3)),引用文献17(特に上記(17-3))等を参照。)。
ウ.そして,位置決めマークを,周波数成分比を検出することによって容易に検出できる2値の2次元コードが,本件出願時には既に周知慣用のものとなっており(必要があれば,引用文献11(特に上記(11-1)),引用文献17(特に上記(17-1),(17-2))等を参照。),引用発明の用途をこのような2次元コードの読み取りとすることも当業者であれば普通に想到し得る事項である。そして,その際には必然的に「2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」ように構成することになることは明らかである。
エ.さらに,信号処理回路を制御するためにCPU等を設けることも一般的に採用されている周知慣用の事項に過ぎない(必要があれば,引用文献8(特に上記(8-6)),引用文献9(特に上記(9-3)),引用文献10(特に上記(10-3)),引用文献11(特に上記(11-3)),引用文献16(特に上記(16-2)),引用文献17(特に上記(17-4))等を参照。)。
オ.してみると,上記相違点2に係る構成は,その技術的な意味・意義が,上記3-1.(2)イ.,(4)ウ.,エ.等で示した如く必ずしも明確なものではなく,多義的な解釈が可能なものであるものの,いずれの解釈をしたとしても,当業者が適宜に採用し得る周知慣用技術を付加する程度のものに過ぎないものであって,これによって格別な作用効果が奏されるものでもない。
カ.したがって,引用発明に上記相違点2に係る事項を採用することは,当業者であれば適宜に採用し得る周知慣用技術の付加に過ぎないものであり,これによって格別な作用効果が奏されるものでもない。

(3)相違点3について
ア.上記相違点3に係る事項は,本件訂正前の明細書の段落【0011】【0042】の「照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読み取りが可能となる。」との記載を表現しようとしたものと解することができるところ,これは当該分野における一般的な課題,あるいは,上記相違点1の採用に伴って当然に奏される作用効果に過ぎない。
イ.また,露光時間の調整を行う事も,当該分野における周知慣用技術にほかならず(必要があれば,引用文献8(特に上記(8-5)),引用文献18(特に上記(18-1))等を参照。),上記相違点3に係る事項を文言通りに「露光時間などの調整」を要因として「中心部においても周辺部においても読取が可能となる」ことを意味するものと解釈したとしても,この点に進歩性を認め得るものではない。

(4)相違点4について
引用文献1の上記(1-2)においては,(「OCR(Optical Chracter Recognition)等の光学式読みとり」とあり,バーコードリーダーと極めて共通性の高い「OCR」の例示がなされており,しかも「等」との語からみて引用発明を「OCR」に限定解釈すべきものではないところであるが,引用文献1には「もっぱら2次元コードを読み取るための光学情報読取装置」におけるマイクロレンズの採用の明確な動機付けに関する記載がなされていないのであるから,上記相違点4にかかる構成が引用発明から容易に想到し得るものであるとは言えない。

(5)してみると,本件訂正発明の構成は引用発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものとは言えないものである。


3-2-6.その他の引用文献記載の発明に基づく進歩性の判断
(1)引用文献3に記載の発明に基づく進歩性の判断
ア.引用文献3の記載(特に上記(3-1)?(3-6)等を参照。)から,引用文献3には,
「絞りと,
上記絞りの前方側に位置され,該絞り上に後側焦点位置を位置させ,物空間においてテレセントリック光学系を構成している第1のレンズ群と,
上記絞りの後方側に位置され,該絞り上に前側焦点位置を位置させ,像空間においてテレセントリック光学系を構成している第2のレンズ群とを備えている結像レンズ装置であって,
CCDの固体撮像素子を,受像面を上記像が形成される像面上に位置させて配設し,該固体撮像素子は受像面上の全面に亘って複数のマイクロレンズ配設されているものである装置。」(以下「引用文献3記載の発明」と記載する。)が記載されていると認められる
イ.当該引用文献3記載の発明と,本件訂正発明とを比較すると,両者は
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
を備える装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした装置。」である点で一致し,本件訂正発明は「前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置」を備える「光学情報読取装置」である点で引用文献3記載の発明と相違する。(「テレセントリック光学系」は射出瞳位置が無限遠点にあるものであるから,その光学的センサから射出瞳位置までの距離は射出瞳位置が有限の距離にある光学系に比し「相対的に長く設定」されていると言える。また,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」する点は一致点としたが,仮にこの点が全ての結像レンズの前面に絞りを配置した構成を意味するとしても上記3-2-5.(1)カ.で述べたとおりであるから,この点に進歩性を認め得るものではない。)
ウ.上記3-2-5.(2)で述べたように,位置決めマークを,周波数成分比を検出することによって容易に検出できる2値の2次元コードが,本件出願時には既に周知慣用のものとなっており,また,被写体と撮像素子が傾斜した状態での読み取り時の問題は2次元コードの読み取りにおいても発生する問題である(必要があれば,引用文献10(特に上記(10-2),(10-3)等を参照。))から,引用文献3記載の発明の用途をこのような2次元コードの読み取りとすることも当業者であれば普通に想到し得るものであるといえる。
エ.ここで,引用文献3においてはバーコードリーダーと極めて共通性の高い「指紋読み取り装置」の例示がなされており,しかもこれは単に例示として記載されているのであるから引用文献3記載の発明を「指紋読み取り装置」に限定解釈すべきものではない。
しかしながら,引用文献3には「もっぱら2次元コードを読み取るための光学情報読取装置」におけるマイクロレンズの採用の明確な動機付けに関する記載がなされていないのであるから,本件訂正発明が引用文献3記載の発明から容易に想到し得たものであるとは言えない。
オ.したがって,本件訂正発明は引用文献3記載の発明からも容易に発明し得たものとは言えないものである。

(2)引用文献8に記載の発明に基づく進歩性の判断
ア.引用文献8の記載(特に上記(8-1)?(8-6)等を参照。)から,引用文献8には,
「被写体から反射した光度の範囲をカバーする好適なディジタルイメージを生成する電子カメラであって,前記カメラは,可変シャッタスピードコントロールとアナログイメージ信号生成手段とを含むイメージセンサアセンブリと,前記アナログイメージ信号を受領しかつ増幅された前記アナログイメージ信号を出力するよう構成されたビデオゲイン回路と,A/Dリファレンス入力に応答し,かつ,前記増幅アナログイメージ信号をディジタルイメージ信号に変換するように構成された,A/Dゲインコントローラを含むアナログディジタル(A/D)コンバータと,を包含しており,
ディジタルイメージ信号の受領と,前記ディジタルイメージ信号の少なくとも一部分の明るさにつれて変化する矯正信号の出力と,をするよう構成されている輝度評価回路と,
前記シャッタスピードコントロール,前記ビデオゲイン回路,及びA/Dリファレンス入力は,前記矯正信号に応答可能であり,
前記イメージセンサはCCDであり,
前記カメラのカメラレンズアセンブリは前方レンズグループと後方レンズグループと前記前方及び後方グループの間に位置している絞り面を有するものであり,
前記シャッタスピードコントロールはカメラの電子シャッタスピードを調整することである
ラベルイメージキャプチャ用電子カメラ。」(以下「引用文献8記載の発明」と記載する。)が記載されていると認められる。
イ.当該引用文献8記載の発明と,本件訂正発明とを比較すると,両者は
「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列される光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした光学機器。」
である点で一致し,本件訂正発明においては「当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものである点,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」ている点,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものである点,カメラ部制御装置が「閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」点,及び「もっぱら2次元コードを読み取るための光学情報読取装置」である点で,引用文献8記載の発明と相違する。
ウ.しかしながら,光学的センサを「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとすることは,本件出願時には当業者にとっては一般的な技術的趨勢にほかならないものであり(必要があれば,引用文献1(特に上記(1-1),(1-2)),引用文献2(特に上記(2-1)),引用文献3(特に上記(3-3)),引用文献4(特に上記(4-1)),引用文献5(特に上記(5-2)),引用文献6(特に上記(6-2)),引用文献7(特に上記(7-2)),引用文献14(特に上記(14-2)),引用文献19(特に上記(19-1)),引用文献20(特に上記(20-1))等を参照。),引用文献8に記載されるものにおける「CCDカメラ」のCCDを「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとすることは当業者であれば普通に着想し得たものである。
エ.そして,光学的センサを「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとした場合に,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」することも,上記3-2-5.(1)で述べたように,当業者であれば当然に想到する技術常識的な設計事項に過ぎず,その作用効果も当業者が当然に予測し得る程度のものである。
オ.なお,引用文献8記載の発明における光学系が所定の射出瞳位置を有することは明らかであり,当該所定の射出瞳位置に比してCCD側に射出瞳位置を有する他の光学系が存在し得ることも明らかであるから,引用文献8に記載されるものにおいてもCCDから当該所定の射出瞳位置までの距離は「相対的に長く設定」されていると言える。そして,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定」することも一致点と解することもできる。
カ.また,上記3-2-5.(2)で述べたように,位置決めマークを周波数成分比を検出することによって容易に検出できる2値の2次元コードが,本件出願時には既に周知慣用のものとなっており,引用文献8に記載されるものにおけるラベルのコードとして該周知慣用の2次元コードを採用し,「閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する」ように構成することも当業者が容易に想到し得たことである。
キ.そして,光学機器において,撮像光量の確保という技術的要求は周知であり,撮像光量の確保の為の手段としてのマイクロレンズの採用自体も周知慣用されることで,どちらも当該技術分野における一般的な技術的趨勢であるものと認められる。
したがって,光学機器における撮像光量の確保という技術的要求とその為の手段としてのマイクロレンズの採用という解決手段は,当業者であれば容易に想到し得たものである。
ク.しかしながら,上記のように,当業者は光学機器における撮像光量の確保という技術的要求とその為の手段としてのマイクロレンズの採用を容易に想到することはできても,引用文献8には「もっぱら2次元コードを読み取るための光学情報読取装置」におけるマイクロレンズの採用の明確な動機付けに関する記載がなされていないのであるから,引用文献8記載の発明において,当該技術を,「2次元コードを読み取る」という目的のために採用することまでは容易に想到し得たものであるとは言えない。
ケ.したがって,本件訂正発明は引用文献8記載の発明からも容易に発明し得たものとは言えない。

(3)引用文献17に記載の発明に基づく進歩性の判断
ア.引用文献17の記載(特に上記(17-1)?(17-4)等を参照。)から,引用文献17には
「二進コードで表されるデータをセル化して,二次元のマトリックス上にパターンとして配置した二次元コードにおいて,
マトリックス内の,少なくとも2個所の所定位置に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得られるパターンの位置決め用シンボルを配置した二次元コードを読み取る読み取り装置であって,
CCDカメラとデコーダとで構成され,
CCDカメラから読み込まれた画像信号が2値化され,この2値画像から,位置決め用シンボルの位置座標が検出され,該位置決め用シンボルの位置座標の検出は前期周波数成分比を検出することでなされるものである
読み取り装置。」(以下「引用文献17記載の発明」と記載する。)が記載されていると認められる。
イ.当該引用文献17記載の発明と,本件訂正発明とを比較すると,両者は
「光学的センサと,
前記光学的センサからの出力信号を閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置。」である点で一致し,
本件訂正発明においては,光学的センサが「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものであり,さらに「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」,「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備え,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」いる点,光学的センサからの出力信号を「増幅して」から閾値に基づいて2値化している点,及び,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」ものである点で引用文献17記載の発明と相違する。
ウ.しかしながら,上記3-2-5.(1)ウ.で述べたように,光学情報読取装置においては,部分的な感度低下や輝度ムラなどがないように構成する必要があることは,当業者が当然に心得る技術常識であり,引用文献17記載の発明におけるCCDカメラとして,部分的な感度低下や輝度ムラなどがないカメラを選択して採用することは,当業者が当然に考慮する設計事項に過ぎない。そして,部分的な感度低下や輝度ムラなどがないカメラとしては,光学的センサが「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものであり,さらに「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと」,「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備え,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定して」いるカメラは周知のものである(必要があれば,引用文献4(特に上記(4-3)),引用文献5(特に上記(5-1)),引用文献6(特に上記(6-1)),引用文献7(特に上記(7-1))等を参照。)から,引用文献17記載の発明におけるCCDカメラとして,かかる周知のカメラを採用することは,公知の部品の中から最適な部品を選択するという,当業者の通常の創作力の発揮にほかならないものである。
エ.また,光学的センサからの出力信号を「増幅」することは上記3-2-5.(2)ア.等でも述べたように,技術常識あるいは一般的に採用されている周知慣用技術にほかならない。
オ.なお,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能となるように」することも,上記3-2-5.(3)で述べたように格別なものではない。
カ.そして,引用文献17記載の発明におけるCCDカメラとして,かかる周知のカメラを採用することは,公知の部品の中から最適な部品を選択するという,当業者の通常の創作力の発揮にほかならないものである。
しかしながら,引用文献17記載の発明におけるCCDカメラとして,撮像光量が確保でき,しかも,周辺部での輝度低下のないものが望ましいものであることは容易に想到し得るものであるものの,引用文献17においては引用文献3に記載のごとき絞りを結像レンズの前面に配置したマイクロレンズ付きの固体撮像素子を「もっぱら2次元コードを読み取るための光学情報読取装置」のカメラとして採用することの明確な動機付けに関する記載がなされていないのであるから,上記相違点に係る構成が引用文献17記載の発明から容易に想到し得たものであるとは言えない。
キ.したがって,本件訂正発明は引用文献17に記載される発明からも容易に発明し得たものとは言えない。


3-2-7.小結
以上のとおり,本件訂正発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものとは言えない。


3-3.請求項2に係る発明の進歩性
引用発明は「CCD固体撮像素子」を用いたものである。また,引用文献3,8,17記載の発明もCCDを用いるものである。
しかしながら,本件訂正後の請求項1に係る発明が,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではないことから,本件訂正後の請求項1に記載された発明を引用する請求項2にかかる発明も,引用文献1?引用文献20に記載の発明から当業者が容易に発明することができたものとは言えない。


3-4.中結
以上のとおり,本件訂正後の請求項1,2に係る発明は独立して特許を受けることができるものであるから,本件訂正は特許法第126条第7項に規定する要件を満たしている。


4.特許法第126条第3?6項で規定する要件

4-1.本件訂正前の特許請求の範囲は独立請求項1とこれを引用する従属請求項2の一群の請求項によって構成されていたものであるところ,上記訂正事項aもbも該一群の請求項毎になされていると認められる。
したがって,本件訂正は特許法第126条第3項,第4項で規定する要件を満たしている。

4-2.本件訂正事項aもbも,本願の願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内においてするものと認められる。
したがって,本件訂正は特許法第126条第5項で規定する要件を満たしている。

4-3.本件訂正事項aもbも,実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもない。
したがって,本件訂正は特許法第126条第6項で規定する要件を満たしている。


第3 むすび
以上のとおり,請求項1,2からなる一群の請求項についてするものである本件訂正は,特許法第126条第1項ただし書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,かつ同条第3項?第7項に規定する要件を満たしている。

よって,上記結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光学情報読取装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、
を備える光学情報読取装置において、
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。
【請求項2】
前記光学的センサは、CCDエリアセンサであることを特徴とする請求項1記載の光学情報読取装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2次元コードなどの読み取り対象に光を照射し、その反射光から読み取り対象の画像を読み取る光学的読取装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば2次元コードラベルなどの読み取り対象に光を照射し、2次元コードラベルからの反射光を受光して2次元コードラベルの画像データである2次元コードデータを読み取る装置(2次元コードリーダ)が知られている。この2次元コードリーダでは、2次元コードからの反射光を結像レンズによって所定の読取位置に結像させ、その読取位置に配置された例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサによって2次元コードデータを読み取るようにしていた。なお、結像レンズは通常複数枚のレンズが組にされた組レンズとして構成されており、その中心付近に絞りが配置されている。
【0003】
ところで、例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサでは、受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されている。そして、感度向上のため、例えば図5に示すように、受光素子41a毎に集光用のマイクロレンズ(集光レンズと称す)41bが設けられたCCDエリアセンサ41もある。これは、図5(a)に示すように、受光素子41aに対して垂直に入射する光が集光レンズ41bによって集光されることで見かけ上の開口面積を拡大し、感度を向上させるというものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図5(b)に示すように、受光素子41aに対して光が斜めに入射した場合には、集光レンズ41bによって集光されることで逆に受光素子41aへの集光率が低下し、その結果、感度が低下する。センサ単位で見てみると、図5(a)に示すように受光素子41aに対して光が垂直に入射するのはセンサの中央部にある受光素子41aであり、センサ周辺部にある受光素子41aに対しては光が斜めに入射する。その結果、図5(c)のグラフ中に実線で示すように、CCDエリアセンサ41からの出力は、センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込んだ状態となり、その周辺部において読取に必要な光量が確保できず、適切な読み取りができないという問題も生じる。
【0005】
そこで、上述したような受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを備えている場合に、光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止し、適切な読み取りを実現する光学情報読取装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
上記課題を解決するためになされた本発明の光学情報読取装置は、複数のレンズで構成され、読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと、
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され、その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に、当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと、
該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと、
前記光学的センサからの出力信号を増幅して、閾値に基づいて2値化し、2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し、検出結果を出力するカメラ部制御装置と、
を備える光学情報読取装置において、
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう、前記絞りを配置することによって、前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し、
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、前記射出瞳位置を設定して、露光時間などの調整で、中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする。
【0007】
本光学情報読取装置によれば、結像レンズが読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させ、その読取位置に配置された光学的センサが読み取り対象の画像を受光する。ここで、光学的センサは、受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されていると共に、受光素子毎に集光レンズが設けられているため、結像レンズによって結像された読み取り対象からの反射光は、集光レンズによって集光されて受光素子に入射する。
【0008】
したがって、反射光が受光素子に対して垂直に入射する場合には、集光レンズによって集光されることで見かけ上の開口面積が拡大し、感度を向上させる効果があるが、反射光が受光素子に対して斜めに入射する場合には、集光レンズによって集光されることで逆に受光素子への集光率が低下して感度が低下する原因ともなる。光学的センサ単位で見ると、センサの中央部にある受光素子には反射光が垂直に入射するが、センサ周辺部にある受光素子に対しては反射光が斜めに入射する傾向にある。そのため、このセンサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにならないようにすれば、適切な読取の点で有効である。
【0009】
そこで、本光学情報読取装置においては、読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう、絞りを配置している。つまり、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなる。絞りよりも像側(つまり光学的センサ側)にある光学系によって物体空間に生じる絞りの虚像を射出瞳(exit pupil)というが、光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳距離)は、光学的センサから絞りまでの光学的距離が長くなれば、それに伴って長くなるため、このような絞りの配置とすることで、結果的に光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。
【0010】
そして、光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなれば、センサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合も、それに伴って小さくなる。したがって、光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止することができ、適切な読み取りの実現に寄与する。
【0011】
最終的には適切な読み取りを実現することが目的であるので、本発明の光学情報読取装置においては、光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように、射出瞳位置を設定している。このようにしておけば、中央部と周辺部の出力差を考慮しながら、例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。
【0012】
なお、光学的センサとしては、例えばCCDエリアセンサなどを用いることが考えられる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。尚、本発明の実施の形態は、下記の実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0014】
図1は、実施例としての2次元コード読取装置4の概略構成図であり、(a)は上面図、(b)は一部破断側面図、(c)は底面図である。また、図2は照明部及び撮像部などの各部品が組み付けられて一体化された光学モジュール40の概略断面図である。
【0015】
本実施例の2次元コード読取装置4は携帯用であり、上ケース11aと下ケース11bからなるケース12内に各種部品を組み込んだものであり、外観上、図1に示すように、装置後方部にケース本体部12a、装置前方部にケースヘッド部12bを備え、ケースヘッド部12bはケース本体部12aに対して下方に湾曲するように一体形成されている。なお、本実施形態では、ケースヘッド部12bの中心軸はケース本体部12aの中心軸に対して約70度下方に傾いている。
【0016】
前記ケース本体部12aは操作者が手で握るための把持部としても機能し、その上面には、情報を入力するためのキーパット74、読み込んだ2次元コードなどを表示するための液晶ディスプレイ20、2次元コードを読み込んだことを確認するための認識用LED21が設けられている。そして、ケース本体部12aからケースヘッド部12bへ湾曲する部分には、赤外光を通過させるための通信プレート22が設けられており、ケースヘッド部12bの先端には読取口25が設けられている。
【0017】
なお、上ケース11aと下ケース11bは樹脂成形加工によって作られたものであり、ケースヘッド部12bの先端部分には、それら上ケース11aと下ケース11bに外嵌し、上下ケース11a,11bが離反することを防止する環状の口開き防止用ホルダ13が取り付けられている。そして、さらに口開き防止用ホルダ13を外嵌するように、環状のゴム部材14が取り付けられている。
【0018】
また、ケース本体部12aの側面であって、液晶ディスプレイ20が設けられている両脇部分には、ケース本体部12aの側面よりも突出して落下時の衝撃を吸収するための耐落下用ゴム部材15が、上ケース11aと下ケース11bによって挟み込まれて固定されている。なお、ケース本体部12aの側面であって、キーパット74が設けられている脇の部分には、読み取り用スイッチ17が配置されている。
【0019】
一方、ケース本体部12aの内部には、上述したキーパット74、液晶ディスプレイ20、認識用LED21に加えて、データ処理部27や電源部30などが配置されている。電源部30には図示しない電池が電源として収納されており、電源回路によって各回路へ電源が供給される。また、ケースヘッド部12bの内部には、上述した通信プレート22に面して通信モジュール35が配置されており、ケースヘッド部12bのほぼ中心に光学モジュール40が配置されている。
【0020】
次に、光学モジュール40の詳しい構成について図2の概略断面図を参照して説明する。なお、図2において二点鎖線で示したケースヘッド部12bの外形は、光学モジュール40のケースヘッド部12b内における概略的な位置を示すためのものである。
【0021】
図2に示すように、光学モジュール40は、CCDエリアセンサ41(受光手段に該当)、鏡筒43、照明発光ダイオード45(発光手段に該当)、塵の侵入を防ぐ防塵プレート47、照射範囲制限部材49などを備えている。なお、これらの概略的な位置関係は、ケースヘッド部12b先端の読取口25から最も遠い位置にCCDエリアセンサ41が配置され、読取口25に向けて、鏡筒43、防塵プレート47、照射範囲制限部材49の順番で配置されている。また、照明発光ダイオード45は鏡筒43の周囲に配置されている。
【0022】
前記鏡筒43は略円筒状に形成されており、図3(a)の斜視拡大図および図3(b)の側面断面拡大図にて示すように、その内部に、円状の絞り34a及び複数の結像レンズ34b,34cを備えている。そして、絞り34aは、結像レンズ34b,34cよりも読取口25側に配置されている。そのため、2次元コードからの反射光は、防塵プレート47を通過して入射側開口43aより鏡筒43に入射するが、鏡筒43内においては、入射した反射光をまず絞り34aによって結像に利用される光線束の大きさに制限した後、結像レンズ34b,34cによって所定の読取位置に結像するようにして出射側開口43bより出射させる。
【0023】
この所定の読取位置に設けられているのがCCDエリアセンサ41であり、このCCDエリアセンサ41は、センサ基板42に取り付けられている。そして、2次元的に配列された複数の受光素子41a(図5参照)を有している。また、図5に示すように、各受光素子41aにはそれぞれ集光用のマイクロレンズ(集光レンズ)41bが設けられており、鏡筒43内の結像レンズ34b,34c(図3参照)によって結像された反射光はこの集光レンズ41bによって集光されてから受光素子41aに受光される。このように、本実施例ではマイクロレンズ付きのCCDエリアセンサ41を採用している。2次元コードの像を光電変換して読み取ったCCDエリアセンサ41は、像のパターンを表す電気信号としてデータ処理側に出力する。
【0024】
また、照明発光ダイオード45は、上述したように鏡筒43の周囲に配置されているが、本実施形態においては、略円筒状の鏡筒43の周囲に約90度間隔で4つの照明発光ダイオード45が配置されている。具体的には、照明発光ダイオード45は、LED基板44に取り付けられ、LEDホルダ46によって保持されている。なお、図2においては4つの照明発光ダイオード45の内の2つだけを示している。
【0025】
そして、防塵プレート47は、これら鏡筒43及び照明発光ダイオード45よりも読取口25側に設けられているため、塵が読取口25から鏡筒43及び照明発光ダイオード45側へ侵入してくるのを防止することができる。また、防塵プレート47は、少なくとも照明発光ダイオード45から照射される読み取り光(照射光)としての赤色光は通過可能である。
【0026】
また、防塵プレート47と読取口25との間に配置されることとなる照射範囲制限部材49は、筒状に形成された部材であり、その筒状部材の読取口25側の開口49aによって、照明発光ダイオード45からの照射光の照射範囲を制限することができる。詳しくは、照射範囲制限部材49の内壁49bは、照明発光ダイオード45からの照射光が反射しても鏡筒43内に入射しないような角度に設定されており、さらに前記読取口25側の開口49aは、その開口49aによって制限された照射光の照射範囲が、CCDエリアセンサ41にて読み取り可能な最大の画像範囲と同じかあるいは所定量だけ大きな範囲となるようなサイズに設定されている。
【0027】
次に、2次元コード読取装置4の制御系統のブロック図である図4を参照してさらに説明を進める。
本実施例の2次元コード読取装置4は、カメラ部制御装置50とシステム制御装置70の2つの制御装置を備えており、それぞれで分担して各種制御を行っている。
【0028】
まず、カメラ部制御装置50側に関連する構成としては、CCDエリアセンサ41と、AGCアンプ52と、ローパスフィルタ(LPF)53と、基準電圧生成部54と、負帰還アンプ55と、補助アンプ56と、2値化回路57と、周波数分析器58と、A/D変換器59と、画像メモリ60と、画像メモリコントローラ61と、メモリ62と、照明発光ダイオード(照明LED)45などが挙げられる。
【0029】
CCDエリアセンサ41は、2次元的に配列された複数の受光素子であるCCDを有しており、外界を撮像してその2次元画像を水平方向の走査線信号として出力する。この走査線信号はAGCアンプ52によって増幅されて補助アンプ56及びA/D変換器59に出力される。
【0030】
AGCアンプ52は、外部から入力したゲインコントロール電圧に対応する増幅率で、CCDエリアセンサ41から出力された走査線信号を増幅するのであるが、このゲインコントロール電圧は負帰還アンプ55から出力される。この負帰還アンプ55には、AGCアンプ52から出力される走査線信号をローパスフィルタ53で積分して得た出力平均電圧Vavと、基準電圧生成部54からの基準電圧Vstとが入力されており、これらの電圧差△Vに所定ゲインを掛けたものがゲインコントロール電圧として出力される。
【0031】
補助アンプ56は、AGCアンプ52によって増幅された走査線信号を増幅して2値化回路57に出力する。この2値化回路57は、上記走査線信号を、閾値に基づいて2値化して周波数分析器58に出力する。周波数分析器58は、2値化された走査線信号の内から所定の周波数成分比を検出し、その検出結果は画像メモリコントローラ61に出力される。
【0032】
一方、A/D変換器59は、AGCアンプ52によって増幅されたアナログの走査線信号をディジタル信号に変換して、画像メモリコントローラ61に出力する。
画像メモリコントローラ61は、アドレスバス及びデータバスによって画像メモリ60と接続されていると共に、やはりアドレスバス及びデータバスによってカメラ部制御装置50及びメモリ62と接続されている。
【0033】
カメラ部制御装置50は、ここでは32bitのRISCCPUを用いて構成されており、基準電圧生成部54、A/D変換器59及び照明発光ダイオード45を制御することができるようにされている。基準電圧生成部54に対する制御とは、基準電圧を変更設定するなどの制御である。また、照明発光ダイオード45は、読取対象の2次元コードに対して照明用の赤色光を照射するものである。
【0034】
また、カメラ部制御装置50は、システム制御装置70との間でデータのやり取りができるようにされている。
一方、システム制御装置70側に関連する構成としては、認識用LED21と、ブザー72と、液晶ディスプレイ(LCD)20と、キーパット74と、読み取り用スイッチ17と、シリアルI/F回路76と、IrDAI/F回路77と、FLASHメモリ78と、DRAM79と、リアルタイムクロック80と、メモリバックアップ用電池81などを備えている。
【0035】
認識用LED21は、読み取り対象の画像情報が適切にデコードされた場合に点灯され、所定時間後に消灯される。また、ブザー72も、読み取り対象の画像情報が適切にデコードされた場合に鳴動される。
液晶ディスプレイ20は、読み込んだ2次元コードなどを表示するためなどに用いられる。本実施例では2階調表示のLCDとして構成されている。キーパット74は、例えばテンキーや各種ファンクションキーを備えており、情報入力のために用いられる。読み取り用スイッチ17は、利用者が読取処理の開始を指示するためのスイッチである。
【0036】
IrDAI/F回路77は、IrDA(Infrared Data Association)規格に準じた方法により図示しない外部装置との間で通信を行うものであり、通信モジュール35(図1(b)参照)を介してデータを外部装置に送信したり、外部装置からの信号(例えばシステムを動かすためのプログラムや送信を待機する命令等)を受信する。
【0037】
システム制御装置70、FLASHメモリ78、DRAM79、リアルタイムクロック80は、アドレスバス及びデータバスによって相互に接続されている。画像メモリ60と接続されていると共に、やはりアドレスバス及びデータバスによってカメラ部制御装置50及びメモリ62と接続されている。
【0038】
システム制御装置70は、ここでは16bitのCPUを用いて構成されており、上述したキーパット74や読み取り用スイッチ17の入力を受け付けたり、認識用LED21やブザー72への出力を制御したり、シリアルI/F回路76やIrDAI/F回路77を介した通信制御を行なう。そして、カメラ部制御装置50を介して入力した2次元コードの画像を液晶ディスプレイ20に表示させることもできる。
【0039】
このような構成の本実施例の2次元コード読取装置4によれば、結像レンズ34b,34c(図3参照)によって結像された2次元コードからの反射光は、CCDエリアセンサ41において、集光レンズ41bによって集光されてから受光素子41aに入射する。したがって、図5(a)に示すように、受光素子41aに対して垂直に入射する光は、集光レンズ41bによって集光されることで見かけ上の開口面積が拡大し、感度を向上させる効果があるが、図5(b)に示すように、受光素子41aに対して斜めに入射する光は、集光レンズ41bによって集光されることで逆に受光素子41aへの集光率が低下して感度が低下する原因ともなる。特に、CCDエリアセンサ41の中央部にある受光素子41aには反射光が垂直に入射するが、センサ周辺部にある受光素子41aに対しては反射光が斜めに入射する傾向にある。
【0040】
この周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が極力斜めにならないようにするため本実施例の2次元コード読取装置4では、図3に示すように、鏡筒43内において絞り34aを結像レンズ34b,34cよりも読取口25(図1,2参照)側に配置している。つまり、2次元コードにより反射された赤色光がまず絞り34aを通過し、その後、結像レンズ34b,34cに入射するよう、絞り34aが配置されている。これにより、結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)参照)に比べて、複数のレンズで構成される結像レンズ(図3の34b,34cが相当する)よりも前に配置した場合(図6(b)参照)には、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的に長くなる。
【0041】
CCDエリアセンサ41から射出瞳までの距離(射出瞳距離)は、CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的距離が長くなれば、それに伴って長くなるため、本実施例のように絞り34aを結像レンズ34b,34cよりも前(読取口25側)に配置することで、結果的にCCDエリアセンサ41から射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定することができる。そして、CCDエリアセンサ41から射出瞳位置までの距離が長くなれば、センサ周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が斜めになる度合も、それに伴って小さくなる。したがって、図5(c)のグラフ中に破線で示すように、CCDエリアセンサ41の周辺部の受光素子41aに対する集光レンズ41bによる集光率の低下を極力防止することができ、適切な読み取りの実現に寄与する。
【0042】
なお、適切な読み取りを実現するためには、センサ周辺部にある受光素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要がある。そのため、例えば、センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対するセンサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上となるよう射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり、このような射出瞳位置となるように絞り34aの位置を設定するのである。このようにしておけば、中央部と周辺部の出力差を考慮しながら、例えば照射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり、中心部においても周辺部においても適切に読取が可能となる。そして、絞り34aの位置を設定する場合においても利点がある。つまり、結像レンズ34b,34cの間に絞り34aが存在する構成の場合には、絞り34aの位置を変更すると、それに伴って結像レンズ34b,34cの位置も変更しなくてはならなくなるが、結像レンズ34b,34cよりも前に絞り34aが存在する本実施例の場合には、結像レンズ34b,34cの位置はそのままで絞り34aの位置だけを変更することができる。
【0043】
以上、本発明はこのような実施例に何等限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得る。
例えば、上記実施例では絞り34aを円状に形成したが、それ以外にも方形(正方形や長方形)に形成してもよい。
【0044】
また、上記実施例では、結像レンズ34b,34cが2個であったが、3個以上を組み合わせて構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の2次元コード読取装置の概略構成図であり、(a)は上面図、(b)は一部破断側面図、(c)は底面図である。
【図2】実施例の光学モジュールの概略断面図である。
【図3】実施例の絞り及び結像レンズの構成説明図である。
【図4】実施例の2次元コード読取装置の制御系統のブロック図である。
【図5】(a)は集光レンズ付きの受光素子に光が垂直に入射した場合の様子、(b)は斜めに入射した場合の様子をそれぞれ示す説明図であり、(c)は射出瞳距離の長短とセンサ出力との関係を示すグラフである。
【図6】(a)は絞りが結像レンズの間にある場合、(b)は絞りが結像レンズの前にある場合の様子を示す説明図である。
【符号の説明】
4…2次元コード読取装置 11a…上ケース
11b…下ケース 12a…ケース本体部
12b…ケースヘッド部 13…口開き防止用ホルダ
14…ゴム部材 15…耐落下用ゴム部材
17…読み取り用スイッチ 20…液晶ディスプレイ
21…認識用LED 22…通信プレート
25…読取口 27…データ処理部
30…電源部 34a…絞り
34b…結像レンズ 35…通信モジュール
40…光学モジュール 41…CCDエリアセンサ
41a…受光素子 41b…集光レンズ
42…センサ基板 43…鏡筒
43a…入射側開口 43b…出射側開口
44…LED基板 45…照明発光ダイオード
46…LEDホルダ 47…防塵プレート
49…照射範囲制限部材 49a…開口
49b…内壁 50…カメラ部制御装置
52…AGCアンプ 53…ローパスフィルタ
54…基準電圧生成部 55…負帰還アンプ
56…補助アンプ 57…2値化回路
58…周波数分析器 59…A/D変換器
60…画像メモリ 61…画像メモリコントローラ
62…メモリ 70…システム制御装置
72…ブザー 74…キーパット
76…シリアルI/F回路 77…IrDAI/F回路
78…FLASHメモリ 80…リアルタイムクロック
81…メモリバックアップ用電池
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2015-07-02 
出願番号 特願平9-294447
審決分類 P 1 41・ 856- Y (G06K)
P 1 41・ 851- Y (G06K)
P 1 41・ 853- Y (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 木村 貴俊
田中 秀人
登録日 2006-07-07 
登録番号 特許第3823487号(P3823487)
発明の名称 光学情報読取装置  
代理人 井口 亮祉  
代理人 中村 広希  
代理人 中村 広希  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 井口 亮祉  
代理人 碓氷 裕彦  

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