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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する A61D
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する A61D
管理番号 1305241
審判番号 訂正2015-390076  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2015-07-09 
確定日 2015-08-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3361778号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3361778号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3361778号(以下「本件特許」という。)に係る発明は、平成11年7月9日に特許出願(特願平11-195969号)したものであって、平成14年2月27日付けで拒絶の理由が通知され、同年5月1日に意見書が提出された後、同年9月6日付けで特許査定がなされ、同年10月18日に特許権の設定登録がなされた。
その後、平成27年7月9日に本件訂正審判が請求されたものである。

第2 本件訂正審判における請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の明細書を、審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、具体的には、以下の訂正事項1ないし3のようにすること(以下これらをまとめて単に「本件訂正」ということがある。)を求めるものである。
なお、下線部は訂正箇所を示すものであって請求人が付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1及びその従属形式請求項である請求項2ないし7に「家畜」とあるのを、全て「牛」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「該外側パイプの後端から該チューブを前方に繰り出すことによって該チューブを該外側パイプの先端から前方に押出して該ノズル体を子宮角深部まで送り出し、」とあるのを、「該外側パイプの後端から該チューブを前方に繰り出すことによって該チューブを該外側パイプの先端から前方に押出し、該押し出されたチューブをその先端の該ノズル体の重量によって下方に湾曲させて、該ノズル体を子宮角深部まで送り出し、」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書段落【0015】に「本発明に係る家畜の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器では、家畜の子宮体内挿入用外側パイプの内部に可撓性のチューブを押出し自在に挿入配設し、該チューブの先端にノズル体を一体的に取付け、該ノズル体は先端を球面状に閉鎖形成するとともに後端を該チューブと結合しかつ側部に該チューブと連通する透孔を設けてなり、該ノズル体は該パイプの先端に密接して該パイプの先端を閉塞可能としてなり、該チューブの後端には精子または卵子を前方へ送り出す押送手段を取付自在とし、該外側パイプを家畜の子宮体内に挿入した後に該外側パイプの後端から該チューブを前方に繰り出すことによって該チューブを該外側パイプの先端から前方に押出して該ノズル体を子宮角深部まで送り出し、しかる後に該押送手段によって精子または卵子を該チューブ内を経由して該ノズル体の該透孔から該子宮角深部へと吐出し得るようにしてなるのである。」とあるのを、「本発明に係る牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器では、牛の子宮体内挿入用外側パイプの内部に可撓性のチューブを押出し自在に挿入配設し、該チューブの先端にノズル体を一体的に取付け、該ノズル体は先端を球面状に閉鎖形成するとともに後端を該チューブと結合しかつ側部に該チューブと連通する透孔を設けてなり、該ノズル体は該パイプの先端に密接して該パイプの先端を閉塞可能としてなり、該チューブの後端には精子または卵子を前方へ送り出す押送手段を取付自在とし、該外側パイプを牛
の子宮体内に挿入した後に該外側パイプの後端から該チューブを前方に繰り出すことによって該チューブを該外側パイプの先端から前方に押出し、該押し出されたチューブをその先端の該ノズル体の重量によって下方に湾曲させて、該ノズル体を子宮角深部まで送り出し、しかる後に該押送手段によって精子または卵子を該チューブ内を経由して該ノズル体の該透孔から該子宮角深部へと吐出し得るようにしてなるのである。」に訂正する。

第3 当審の判断

1 訂正の目的の適否、新規事項の有無について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の「家畜」をその下位概念である「牛」に限定しようとするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
上記訂正事項1については、願書に添付した明細書の段落【0022】に、「本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を参照して詳細に説明する。図1、2は本発明に係る牛の人工授精用精子の注入器の全体的構成を示し」とあり、本件特許発明の好ましい実施の形態として、牛に用いる注入器であることが明記されているから、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面(以下「特許明細書等」ということがある。)に記載した事項の範囲内において行うものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の「該外側パイプの後端から該チューブを前方に繰り出すことによって該チューブを該外側パイプの先端から前方に押出して該ノズル体を子宮角深部まで送り出し、」における、「チューブ」の「送り出し」の態様について、「押し出されたチューブをその先端の該ノズル体の重量によって下方に湾曲させて」送り出すという発明特定事項を付加するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
上記訂正事項2については、特許明細書等の段落【0050】に、「外側パイプから前方に繰り出された可撓性チューブはその先端のノズル体の重量によって下方に湾曲するから確実に子宮角内に入り、その後は子宮角の湾曲に沿って子宮角深部まで挿入される。」とあり、「チューブ」を「その先端の該ノズル体の重量によって下方に湾曲」させることが明記されているから、上記訂正事項2は、特許明細書等に記載した事項の範囲内において行うものであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、上記訂正事項1及び2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の整合性を図るべく、発明の詳細な説明の段落【0015】の記載を訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項の有無
上記訂正事項2については、訂正事項1及び2と同様の理由により、特許明細書等に記載した事項の範囲内において行うものであることも明らかであり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

2 特許請求の範囲の拡張、又は変更の有無について
上記訂正事項1ないし3は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではないことは明らかであり、特許法第126条第6項の規定に適合する。

3 独立特許要件
上記1で指摘したように上記訂正事項1及び2は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そこで、訂正後における特許請求の範囲に記載された各発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明であるか、特許法第126条第7項で規定されるいわゆる独立特許要件について検討する。

(1)本件訂正発明
上記各訂正事項1及び2による訂正後の請求項1ないしに7に係る発明(以下「本件訂正発明1」などという。)は、訂正明細書に記載された請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

(2)刊行物
本件の審査において引用された刊行物は、実願昭60-202071号(実開昭62-107819号)のマイクロフィルムである。

(3)判断
ア 本件訂正発明1
上記刊行物には、本件訂正発明1の、
(a)チューブの先端にノズル体を一体的に取付け、ノズル体は先端を球面状に閉鎖形成するとともに後端をチューブと結合しかつ側部にチューブと連通する透孔を設けてなり、
(b)押し出されたチューブをその先端のノズル体の重量によって下方に湾曲させて、ノズル体を子宮角深部まで送り出す、
という事項が記載も示唆もされておらず、本件訂正発明1は、上記刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ 本件訂正発明2ないし7
本件訂正発明2ないし7は、本件訂正発明1の従属形式請求項に係るものであるから、本件訂正発明1と同様、上記刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)小括
以上のとおりであるから、訂正後の請求項1ないし7に係る発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明とすることはできないから、上記訂正事項1及び2は特許法第126条第7項の規定に適合する。

第4 むすび
したがって、本件訂正は、特許法第126条第1項第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
家畜の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器及びその操作方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛の子宮体内挿入用外側パイプの内部に可撓性のチューブを押出し自在に挿入配設し、該チューブの先端にノズル体を一体的に取付け、該ノズル体は先端を球面状に閉鎖形成するとともに後端を該チューブと結合しかつ側部に該チューブと連通する透孔を設けてなり、該ノズル体は該パイプの先端に密接して該パイプの先端を閉塞可能としてなり、該チューブの後端には精子または卵子を前方へ送り出す押送手段を取付自在とし、該外側パイプを牛の子宮体内に挿入した後に該外側パイプの後端から該チューブを前方に繰り出すことによって該チューブを該外側パイプの先端から前方に押出し、該押し出されたチューブをその先端の該ノズル体の重量によって下方に湾曲させて、該ノズル体を子宮角深部まで送り出し、しかる後に該押送手段によって精子または卵子を該チューブ内を経由して該ノズル体の該透孔から該子宮角深部へと吐出し得るようにしてなることを特徴とする牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器。
【請求項2】
前記外側パイプの後縁部外側面に保温筒を取付け、前記チューブの先端が該保温筒の後端から内部に入りその前端から外部に延出した後ほぼ一回転して該外側パイプの後端から該外側パイプ内に挿入されて該パイプ内の先端へ向けて延出してなることを特徴とする請求項1記載の牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器。
【請求項3】
前記チューブの後端と前記押送手段の間に精液または卵子収納ストローを着脱自在とし、該ストローが前記保温筒内に収納されるようにしてなることを特徴とする請求項2記載の牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器。
【請求項4】
前記保温筒が透明な素材により形成されていることを特徴とする請求項2乃至3の何れか1項記載の牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器。
【請求項5】
前記ストローの前端と後端に異なるストローの口径に適合できるソケット部材を着脱自在に取付け、該それぞれのソケット部材を介して該ストローを前記チューブ及び前記押送手段と接合してなることを特徴とする請求項3または4記載の牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器。
【請求項6】
前記押送手段の内部には前記ストローと接合する前に精子または卵子の活性維持有効物質を予め注入しておくことを特徴とする請求項3乃至5の何れか1項に記載の牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器。
【請求項7】
請求項2乃至6の何れか1項に記載の牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器において、前記外側パイプの外周を先端封止された水密性の薄い透明な第1のプラスチック袋で覆うとともに、前記保温筒の外周を後端封止された水密性の薄い透明な第2のプラスチック袋で覆い、両透明プラスチック袋の重合部分を結束手段を介して封止した状態で前記注入器の前記外側パイプを牛の子宮内に所定の長さ挿入し、次いで該第1のプラスチック袋を該外側パイプに対して相対的に移動して該第1のプラスチック袋の先端封止部を破り、その後該第2のプラスチック袋の外側から前記チューブを指先で摘んで該チューブを前方へ押送してなることを特徴とする牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器の操作方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、牛等の家畜の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器及びその操作方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、牛の人工授精に用いられる、いわゆる種牛の精液は極めて貴重で高価であり、ストローと称される細長状の閉封されたチューブに凍結保存され、人工授精時に解凍して用いられる。この精液を雌牛の子宮に注入する作業としては、一般的に直腸膣法が採用されている。
【0003】
この直腸膣法による牛精液の注入作業を図10を例示して説明する。図は雌牛の子宮の部位を一部断面して示し、符号1は牛の直腸、2は子宮の入口側位置にある細くくびれた子宮頸管、3はその奥部の子宮体、4は子宮体3の内奥位置から二股状に分岐して半球状に湾曲した一対の子宮角である。
【0004】
従来の精液注入器は、細長い小径パイプ5の先端に、内部にストローを装着し先端に精液吐出口を穿設した嘴管6を螺着し、小径パイプ5の後端に押し棒7を摺動自在に挿着したものである。そして、押し棒7の先端は上記ストローの後端に挿入されてストロー内の綿栓を押送し得るようになっている。
【0005】
注入作業にあたっては、まず片手を肛門を通じて直腸1内に挿入し、子宮頸管2を直腸1を介して把持し、次いで、他方の手で精液注入器の小径パイプ5の後端部を把持してパイプ5の先端部を子宮内に挿入し、子宮頸管2位置で手の感触によりパイプ5の先端位置を確かめつつ子宮頸管2を通過させ、パイプの先端を子宮角4の手前で停止させる。そして、パイプ5の後端から外部に露出した押し棒7を前方に押送することにより押し棒の先端がストローの後端部の綿栓を前方へ押送し、これによってストロー内の精液が嘴管の先端の精液吐出口から子宮内に吐出される。
【0006】
また、牛用の受精卵の移植器としては特公昭61-36935号公報に示されているものが公知となっている。この移植器では外側パイプの内側に先端を丸めて閉塞した内側パイプを摺動自在に配設し、内側パイプの先端部側面に小孔を穿設するとともに内側パイプの内部に挿通した柔軟性を有するチューブが前記小孔を通って突出し得るようにしている。
【0007】
使用に際しては、ストロー内にて冷凍保存されている受精卵を解凍し、このストローから受精卵をアタッチメントを用いてチューブの後端に吸引し、注射器をチューブの後端に取り付ける。この移植器の外側パイプを牛の子宮内に挿入する際には外側パイプは内側パイプに対して前進位置を占めて、内側パイプの先端部側面に形成された小孔は外側パイプによって覆われている。この状態で、外側パイプを子宮体内の子宮角入口まで挿入し、次いで外側パイプを後退させて内側パイプの先端部側面に形成された小孔を露出させる。その後、柔軟性を有する前記チューブを後方から前方に繰り出し、チューブの先端を内側パイプの小孔から外部に突出させ、このチューブの先端を子宮角深部にまで延出させる。この状態で注射器を操作して空気をチューブ内に送り込むことによって、受精卵をチューブの先端から子宮角深部に注入するのである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した精液注入器においては、小径パイプは子宮角の手前までしか挿入することができないため、受精率は比較的低いものとなっていた。
【0009】
また、後者の受精卵移植器では、受精卵を子宮の深部に注入することは可能であるが、その構造は外側パイプと内側パイプの二重管構造となっており、内側パイプの内部には柔軟性を有するチューブを繰出自在に収容するため、内側パイプは所定の内径を有する必要があり、それに伴い外側パイプも比較的外径の大きな太いものとなっている。このため、外側パイプを子宮頸管を通して挿入する際に、この挿入が比較的困難であると共に子宮内膜を損傷する虞があった。
【0010】
また、内側パイプの内径を大きくすることには限界があるため、その内部に挿通されるチューブは細くて弱いものとなり、チューブを子宮角深部まで確実に導くことは困難であった。
【0011】
さらにまた、後者の移植器では内側パイプの先端部側面に形成した小孔の開口が正しく下方に向いているか否かを外部から確認できないため、子宮内に挿入するときに予め下方に向くようにしていても、挿入後にその位置がずれて上記小孔が下方を向かない場合があり、この場合には、小孔から突出されたチューブは正しく子宮角深部まで挿入されず、その小孔が上を向いているような場合にはチューブは子宮体の上壁に当たって入口側に戻ってしまうことがあり、その挿入操作が大変困難であった。
【0012】
さらに、この種の作業を寒冷地において屋外で行う場合、特に後者の場合には、解凍したストローからチューブ内に吸引された受精卵がチューブを介して直接外気に長距離さらされるため、受精卵は温度ショックを受けて不活性化する危険性があった。
【0013】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、子宮内膜を傷つけることなく、精液あるいは受精卵を確実に子宮角深部まで注入することのできる牛等の家畜の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器を提供するにある。
【0014】
本発明の第2の目的は、精子または卵子の子宮への注入作業を寒冷地の屋外において行う場合においても、精子または卵子の温度ショックによる影響を少なくすることができ、操作性の優れた家畜の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器及びその操作方法を提供するにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
以上の目的を達成するため、本発明に係る牛の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器では、牛の子宮体内挿入用外側パイプの内部に可撓性のチューブを押出し自在に挿入配設し、該チューブの先端にノズル体を一体的に取付け、該ノズル体は先端を球面状に閉鎖形成するとともに後端を該チューブと結合しかつ側部に該チューブと連通する透孔を設けてなり、該ノズル体は該パイプの先端に密接して該パイプの先端を閉塞可能としてなり、該チューブの後端には精子または卵子を前方へ送り出す押送手段を取付自在とし、該外側パイプを牛の子宮体内に挿入した後に該外側パイプの後端から該チューブを前方に繰り出すことによって該チューブを該外側パイプの先端から前方に押出し、該押し出されたチューブをその先端の該ノズル体の重量によって下方に湾曲させて、該ノズル体を子宮角深部まで送り出し、しかる後に該押送手段によって精子または卵子を該チューブ内を経由して該ノズル体の該透孔から該子宮角深部へと吐出し得るようにしてなるのである。
【0016】
好ましくは、前記の注入器において、前記外側パイプの後縁部外側面に保温筒を取付け、前記チューブの先端が該保温筒の後端から内部に入り前端から外部に延出した後ほぼ一回転して該外側パイプの後端から該外側パイプ内に挿入されて該パイプ内の先端へ向けて延出するようにする。
【0017】
また、好ましくは、前記の注入器において、前記チューブの後端と前記押送手段の間に精液または卵子収納ストローを着脱自在とし、該ストローが前記保温筒内に収納されるようにすることである。
【0018】
また、好ましくは、前記の注入器において、前記保温筒を透明な素材により形成することである。
【0019】
また、好ましくは、前記の注入器において、前記ストローの前端と後端に異なるストローの口径に適合できるソケット部材を着脱自在に取付け、該それぞれのソケット部材を介して該ストローを前記チューブ及び前記押送手段と接合することである。
【0020】
また、好ましくは、前記の注入器において、前記押送手段の内部には前記ストローと接合する前に精子活性維持有孔物質を予め注入しておくことである。
【0021】
また、本発明に係る家畜の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器の操作方法では、前記の注入器において、前記外側パイプの外周を先端封止された水密性の薄い透明な第1のプラスチック袋で覆うとともに、前記保温筒の外周を後端封止された水密性の薄い透明な第2のプラスチック袋で覆い、両透明プラスチック袋の重合部分を結束手段を介して封止した状態で前記注入器の前記外側パイプを家畜の子宮内に所定の長さ挿入し、次いで該第1のプラスチック袋を該外側パイプに対して相対的に移動して該第1のプラスチック袋の先端封止部を破り、その後該第2のプラスチック袋の外側から前記チューブを指先で摘んで該チューブを前方へ押送することである。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を参照して詳細に説明する。図1、2は本発明に係る牛の人工授精用精子の注入器の全体的構成を示し、図1は分解斜視図、図2は同組立状態の斜視図である。
【0023】
図において、注入器10は、保温筒12と、保温筒12の外側略半周を覆う保護カバー14と、保護カバー14の先端下部に設けたホルダ部16に基端を嵌合される外側パイプ18と、保温筒12及び保護カバー14の外周に脱着可能に嵌合されて外側パイプ18の基端をホルダ部16に嵌合状態に固定するピンチコック20と、前方部が外側パイプ内に挿通される精液注入用の可撓性チューブ24と、保温筒12の後端に筒部を挿入される注射器22と、注射器22の先端に一端が接続されるとともに他端が精液注入用チューブ24に接続される精液ストロー26とを備えている。
【0024】
保温筒12は、後端開口部にフランジ12aを有し、先端に小孔12bを穿設している。この保温筒12は内部に収容される注射器22及びストロー26の保温及び保護を兼用するもので、透明なアクリル樹脂成形体から構成され、注射器22及びストロー26を装填した状態でその内部を目視できるようにしている。
【0025】
保護カバー14は、外側パイプ18の位置決め保持及び保温を兼用するもので、ステンレス薄板により保温筒12の外周に嵌合するように半円筒状に形成され、その先端下部に前記ホルダ部16を一体にスポット溶接している。このホルダ部16はその長さ方向全長にわたって半円状の溝を有している。
【0026】
外側パイプ18は、ステンレス製などの中空パイプであり、子宮頸管を通過し易いようにその外径を3mm程度の小径とし、また図では一部省略されているが、その長さは約50cmとしている。
【0027】
精液注入チューブ24は、テフロン(登録商標)などの可撓性を有する半透明の中空チューブであり、外側パイプ18の後方においてこのチューブ24を指で摘んで前方に押送したときにこのチューブ24の前端部が外側パイプ18の前端からスムースに繰り出されるような可撓性を有する素材から選択される。
【0028】
この精液注入用チューブ24の先端には、図4に拡大して示すように、吐出ノズル28が取り付けられている。この吐出ノズル28は、ステンレス製であり、チーブ24の先端内周に嵌合される中空筒部28aと、筒部28aの先端にあってその基部が外側パイプ18の外径と同じで、先端が半球状に丸められた鏡面仕上げのノズルヘッド28bと、ノズルヘッド28bの外周部に180度対向して開口された一対の吐出口28cとからなっている。
【0029】
精液注入用チューブ24は上記の吐出ノズル28から外側パイプ18内を通り、外側パイプ18の後端を出てからそこでほぼ一回転され、次いで、保温筒12の前端の小孔12bからその内部に挿入される。
【0030】
注射器22は、ストロー26内の精液を押出すためのピストンとしての機能を有するもので、好ましくは、その内部に精子活性維持のための有効物質を含むブドウ糖液等の薬液を予め収納しておき、この薬液を精液と共に前記吐出ノズルから押出すようにすることである。
【0031】
ストロー26は、一端が閉封され他端が綿栓で閉止されることにより、内部に牛の精液を凍結保存したポリエチレン製のチューブであり、精液を解凍した後、両端を切り落し、それぞれをソケット30,32を介して注射器22及びチューブ24に接続される。
【0032】
図4は、その接続状態を示すものである。図において、各ソケット30、32はそれぞれ高密度ポリエチレンの成形体であって、ソケット30の一端側は注射器ノズル22aのテーパにあわせたテーパ形状であり、他端側は、図においては直線的に描かれているが、ストロー26の外径に応じた外開き状のやや小さなテーパ形状であって、全体が鼓形をなし、接続時の操作性と連結性との調和を図っている。
【0033】
また、他方のソケット32の一端はストロー26の外周に嵌合されるもので、図では直線的に描かれているが、前記と同様やや外開きのテーパ状となっている。また他端側はチューブ22の内周に予め固嵌合される径に設定されている。
【0034】
なお、ストロー26は、0.25ml容量の径、0.5ml容量の径の二種類があるが、その径に応じたソケット30、32を用意すればいずれも接続可能である。
【0035】
外側パイプ18を保温筒12に取り付けるには、保護カバー14を保温筒12の下面に嵌合し、保護カバー14の前端縁部のホルダ部16に外側パイプ18の後端側基部を嵌合し、この嵌合状態を一方の手で保持しながら他方の手でピンチコック20を外側パイプ18の前端から挿入し、ピンチコックの摘みを強く挾んでピンチコックを開きながら上記嵌合した3者の外周に移動させ、ピンチコックの摘みに加えていた挾持力を緩めると、外側パイプ18は保温筒12に保護カバー14を介して図2に示すように固定される。
【0036】
なお、保温筒12及び外側パイプ18の外周部には組立状態では、それぞれ後述する袋状の透明なビニール等のプラスチック製のカバー(袋体)等によって覆われ、操作初期における汚染を防止できるようにしている。
【0037】
次に、以上の注入器10を用いて、精液を人工授精するための作業を説明する。まず、作業に先立ち、予め外側パイプ18を保温筒12に前記のようにピンチコック20を用いて取り付けておく。そしてこの時、精液注入用チューブ24が後退位置を占めてその先端の吐出ノズル28が外側パイプ18の先端開口部に嵌合してこれを閉塞するようにしておく。次に、以下の手順により、注入器10のセッティング作業を行う。
【0038】
(1)外側パイプ18の外周を、先端封止された後述のビニールカバー34で覆う。(2)次に凍結精液の融解する。この作業は、37℃に保たれた温湯中にストローを12秒間浸積し、精液温度が4℃以上に上昇しないようにする。
(3)取出したストローをアルコール綿で清拭する。ストロー閉封部を持ち、軽く振り、空気層を閉封部に集め、閉封部先端をストローカッターで切断する。
(4)予め室温に保たれたブドウ糖液(精子活性維持のための有効物質を含む薬液)2mlを吸引させておいた注射器22のノズル22aにストローの切断側をソケット30を介して装着する。
(5)綿栓部側をストローカッターで切断し、ソケット32を介してチューブ24に接続する。
(6)注射器22とストロー部を保温筒12の後部よりその内側に納める。これによって精液は外気にさらされることなく、保温され、温度ショックによる活性低下を未然に防止できる。
(7)保温筒12の外周を後端封止された後述のビニールカバー36で覆う。このとき外側パイプ18のカバー34が保温筒12側のカバーの内側にはいるようにして、両者の重合部分を結束線により封止固定する。チューブ24の保温筒12からの突出部分でほぼ円形に巻かれた余長部24aは保温筒12を被覆するビニールカバー中に入るようにする。
【0039】
図5ないし図7は以上のようにして組立てられ直後の注入器10を用いた直腸膣法による授精作業の説明図である。なお、各図中破線で示すのは外側パイプ18及び保温筒の外周を覆う前述するビニールカバー34,36である。
【0040】
この方法は、図5に示すように、まず従来法と同様に、片手を肛門を通じて直腸1内に挿入し、子宮頸管2を直腸1を介して把持し、次いで、他方の手で精液注入器10の外側パイプ18を子宮内に挿入し、子宮頸管2位置での手の感触により外側パイプ18の位置を確かめつつ、子宮頸管2を通過させる。
【0041】
子宮頸管2を通過したら、図6に示すように、外側パイプ18を排卵側の子宮角3に向けてさらに約5cm挿入する。尚、二つある子宮角3の排卵側の確認は、手による卵巣の感触によって判断可能である。
【0042】
次に、図8(a)(b)に示すように、外側パイプに被せたビニールカバー34を手前に引っ張り、ビニールカバー34の封止部34aを破って吐出ノズル28の先端がビニールカバー34から外方に露出されるようにする。
【0043】
次に、図71に示すように、注入器10を操作する側の手でビニールカバー36上からループ状に巻かれたチューブ24の余長部分を注意深く繰出して外側パイプ18の先端から吐出ノズル28を押し出す。
【0044】
このようにして吐出ノズル28が押し出されると、この吐出ノズル28はステンレス製で形成されているためチューブ24より比重はかなり大きく、このためチューブは下方に湾曲し、ノズルヘッド28bは子宮内膜にソフトに接触しながら、図示のごとく子宮角4の深部まで到達する。チューブ24の繰出長の目安は経産牛で15?20cm、未経産牛で10?15cmであるが、個体差に応じて調整する。この繰出長はチューブに印刷された印によって容易に知ることができる。
【0045】
上記のようにチューブ24が所定の長さ繰り出されたならば、図72に示すように、注射器22のピストンを押す。これによって、精液はチューブ24を通じてノズルヘッド28bの吐出口28cより吐出され、子宮深部に注入される。この場合、最初に精液が注入され、次いでブドウ糖液等の精子活性維持のための有効成分が残部精液を洗い出しながら注入され、その状況はビニールカバー36及び保温筒12を通じて目視確認可能である。
【0046】
なお、実績によれば、従来の200分の1の精子数であっても、良好な受胎成績を得ることが確認されている。最終的に、チューブ24を引戻し、外側パイプ18に納めてから外側パイプ18を引抜けば、作業を完了する。
【0047】
その後は、注入器10を図1のごとく各部品に分解し、洗浄、及び殺菌消毒を行えば、再使用が可能となる。
【0048】
なお、以上の実施形態では、本発明の注入器を牛の人工授精に適用した場合を示したが、同一要領で卵子の移植作業にも適用可能である。また牛のみでなく、馬その他の直腸膣法が適用可能な動物に利用することができる。
【0049】
また、本発明の注入器は上記実施形態に限られず種々の変更が可能であり、例えば、注射器を、図9に示すような、胴部と首部からなるカプセル状の透明または半透明のプラスチック容器40から構成してもよい。このプラスチック容器40の胴部内には予めブドウ糖液のような精子または卵子活性化のための有効物質を含む薬液41を注入して、首部先端42は平坦に潰して気密シールしておき、使用時に首部先端を切断してそこに、上記実施態様で示したようにソケット30を介して、ストローを装着するようにしても良い。このプラスチック容器40はセルロイドのように塑性変形する素材から選択することが好ましいが、弾性変形するプラスチックから形成する場合には、弾性変形した後に元の状態に復帰しないように変形状態を維持させる部材を取り付ける必要がある。
【0050】
【発明の効果】
以上の説明により明らかなように、本発明によれば、次の効果がある。請求項1に係る発明では、外側パイプの内部には可撓性のチューブが直接的に挿通されているから、外側パイプの外径を小さくして子宮頸管を傷つけることなく容易に挿通することができる。また、外側パイプから前方に繰り出された可撓性チューブはその先端のノズル体の重量によって下方に湾曲するから確実に子宮角内に入り、その後は子宮角の湾曲に沿って子宮角深部まで挿入される。本発明の注入器を従来の精液注入器と比較した場合、本発明の注入器では従来の200分の1の精子数でも良好な受精成績を挙げることができることが確認された。
【0051】
請求項2に係る発明では、比較的温度の低い外気中で作業をする場合においても精子または卵子は保温筒において外気との接触が遮断されるから、温度ショックによる精子または卵子の不活性化を防止できる。また、保温筒を透明な素材から形成することによって透明または半透明としたチューブ内を精液または卵子が押送手段によって押し出される状況を目視確認することができる。また、チューブが外側パイプの後端から出てほぼ一回転しているので、この部分を指先で挾んでチューブを外側パイプ内に押送する繰出作業が大変し易くなる。またこの一回転しているチューブの余長部分の長さと外側パイプ先端からチューブを繰り出す長さとを合致させておけば、上記繰出作業時に必要とする繰出長さを正確に把握することができる。尚、この余長部分のチューブに目盛りを付けておけば、より一層繰出長さの確認が容易になる。
【0052】
請求項3に係る発明では、解凍処理したストローをそのままチューブに装着することができるため、従来のように卵子をストローから一旦取り出してチューブ内に吸引する作業が不要になり、作業性の改善と共に卵子の生存率を大きく改善することができる。
【0053】
請求項4に係る発明では、チューブを透明または半透明とすることによって、チューブ内を精液または卵子が押送手段によって押し出される状況を目視確認することができる。
【0054】
請求項5に係る発明では、種々の径のストローに他の部品を変えることなく適合でき、使用性が極めて良い。
【0055】
請求項6に係る発明では、精子または卵子の活性維持有孔物質が精子または卵子と混合された状態でノズル体の先端から吐出されるので、受精率または受胎率の向上を図ることができる。
【0056】
請求項7の発明では、無菌的な注入作業が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る精液注入器の全体的構成を示す分解斜視図である。
【図2】同組立状態を示す斜視図である。
【図3】図1A部における吐出ノズルの拡大図である。
【図4】図1B部におけるストローの接続状態を示す部分拡大断面図である。
【図5】本発明の注入器を用いた注入作業初期段階を示す説明図である。
【図6】本発明の注入器を用いた注入作業中途段階を示す説明図である。
【図7】本発明の注入器を用いた注入作業終段階を示す説明図である。
【図8】(a),(b)は吐出ノズルがビニールカバー先端に収納されていると状態と、これを突破って突出する状態を示す説明図である。
【図9】本発明の注入器に使用する注射器の変形例を示す斜視図である。
【図10】従来の精液注入器を用いた直腸膣法による精液注入作業を示す説明図である。
【符号の説明】
10 精液注入器
12 保温筒
18 外側パイプ
22 注射器
24 精液注入用チューブ
24a 余長部
26 ストロー
28 吐出ノズル
28c 吐出口
30,32 ソケット
34,36 ビニールカバー
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2015-08-04 
出願番号 特願平11-195969
審決分類 P 1 41・ 853- Y (A61D)
P 1 41・ 851- Y (A61D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 玲子  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 平瀬 知明
長屋 陽二郎
登録日 2002-10-18 
登録番号 特許第3361778号(P3361778)
発明の名称 家畜の人工授精用精子または受精卵移植用卵子の注入器及びその操作方法  
代理人 中島 勝  
代理人 津田 英直  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 古賀 哲次  
代理人 福本 積  
代理人 武居 良太郎  
代理人 青木 篤  
代理人 福本 積  
代理人 石田 敬  
代理人 津田 英直  
代理人 中島 勝  
代理人 石田 敬  
代理人 武居 良太郎  

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