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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23D
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  B23D
管理番号 1309852
審判番号 無効2013-800051  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-28 
確定日 2015-11-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5107325号発明「卓上切断機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 1. 請求のとおり訂正を認める。2. 特許第5107325号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。3. 請求人の請求のうち、訂正前の請求項4に係る発明についての請求を却下する。4. 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5107325号の請求項1ないし4に係る発明についての手続の経緯は、以下のとおりである。

平成16年 3月26日 特願2004-92737号出願
平成21年 9月25日 上記出願の一部を新たな出願(特願2009-219863号)として出願(本件特許に係る出願)
平成24年 3月14日 拒絶理由通知書(発送日 平成24年3月21日)
平成24年 5月13日 手続補正書提出
平成24年 6月29日 拒絶理由通知書(発送日 平成24年7月5日)
平成24年 8月22日 手続補正書提出
平成24年 9月24日 特許査定(発送日 9月27日)
平成24年10月12日 設定登録
平成25年 3月28日 本件審判請求書提出
平成25年 6月18日 審判事件答弁書提出
平成25年 8月 1日 審理事項通知
平成25年 9月 6日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成25年 9月 6日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成25年 9月20日 上申書提出(被請求人)
平成25年 9月20日 別件である無効2013-800050号と併合して口頭審理。その後その審理を分離
平成25年10月 4日 上申書提出(請求人)
平成25年10月17日 上申書(第2)提出(被請求人)
平成25年11月27日 審決の予告
平成26年 2月 3日 上申書(被請求人)及び訂正請求書提出
平成26年 3月11日 平成26年2月3日付け訂正請求書の手続補正書提出(被請求人)
平成26年 4月16日 弁駁書提出
平成26年 4月21日 補正許否の決定
平成26年 4月21日 答弁指令(特許法第134条第2項)
平成26年 5月23日 答弁書提出
平成26年 5月23日 訂正請求書提出
平成26年 7月 1日 弁駁書2提出

なお、上記平成26年2月3日付け訂正請求書は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 平成26年5月23日付け訂正請求書による訂正について
(以下、上記訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。また、本件訂正前の本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面を、それぞれ「本件明細書」などといい、これらをまとめて「本件明細書等」ということがある。さらに、本件訂正後の明細書などを、「本件訂正明細書」などという。)

1. 訂正の内容
本件訂正は、本件明細書を、本件訂正請求書に添付した本件訂正明細書等のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容を訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲のうち請求項1について
「【請求項1】
被加工材を載置可能なベース部と、
電動機を収納し、前記電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、
前記丸鋸刃の軸方向と平行な揺動軸を支点として該丸鋸部を所定の最上方位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持する支持部材と、
前記丸鋸刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として傾動し、前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能なホルダと、
前記ベースに対する前記ホルダの傾動を規制する傾動規制手段と、
前記ホルダに固定されると共に、前記ホルダから前記ベース部側に延在する第1及び第2のガイドバーとを有し、
前記支持部材を前記ガイドバーに沿って摺動可能とした卓上切断機において、
前記第1及び第2のガイドバーの軸心を結ぶ平面が、前記丸鋸刃側面に対して平行で、且つ、前記丸鋸刃側面から離間して配置され、
前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置されると共に、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置され、
前記ホルダから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする1の固定手段と、
前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段とを備えたことを特徴とする卓上切断機。」
とあるのを、

「【請求項1】
被加工材を載置可能なベース部と、
電動機を収納し、前記電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、
前記丸鋸刃の軸方向と平行な揺動軸を支点として該丸鋸部を所定の最上方位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持する支持部材と、
前記丸鋸刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として傾動し、前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能なホルダと、
前記ベースに対する前記ホルダの傾動を規制する傾動規制手段と、
前記ホルダに固定されると共に、前記ホルダから前記ベース部側に延在する第1及び第2のガイドバーとを有し、
前記支持部材を前記ガイドバーに沿って摺動可能とした卓上切断機において、
前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し前記ガイドバーと平行となるサブハンドルを前記丸鋸部に設け、
前記第1及び第2のガイドバーの軸心を結ぶ平面が、前記丸鋸刃側面に対して平行で、且つ、前記丸鋸刃側面から離間して配置され、
前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置されると共に、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置され、
前記第1のガイドバーが挿入される上側の穴部、及び前記第2のガイドバーが挿入される下側の穴部を、前記支持部材に設け、前記上側の穴部は、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内に位置し、
前記ホルダから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内において前記上側の穴部に突出し、前記第1のガイドバーを押圧することにより前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする第1の固定手段と、
前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段とを備え、
前記第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記サブハンドルの前記把持部を持って持ち運び可能であることを特徴とする卓上切断機。」
と訂正する。
そして、上記訂正事項1は、以下の訂正事項aないしeからなるものである。

ア. 訂正事項a
請求項1に、「前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し前記ガイドバーと平行となるサブハンドルを前記丸鋸部に設け、」との発明特定事項を付加する。

イ. 訂正事項b
請求項1に、「前記第1のガイドバーが挿入される上側の穴部、及び前記第2のガイドバーが挿入される下側の穴部を、前記支持部材に設け、前記上側の穴部は、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内に位置し、」との発明特定事項を付加する。

ウ. 訂正事項c
請求項1に、「前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内において前記上側の穴部に突出し、前記第1のガイドバーを押圧することにより」との発明特定事項を付加する。

エ. 訂正事項d
請求項1に「前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする1の固定手段」との記載において、「1の固定手段」を「第1の固定手段」とする。

オ. 訂正事項e
請求項1に「前記第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記サブハンドルの前記把持部を持って持ち運び可能である」との発明特定事項を付加する。

(2) 訂正事項2
請求項4を削除する。

(3) 訂正事項3
本件明細書の発明の詳細な説明のうち段落【0009】について、
「【0009】
上記の目的を達成するための本発明は、被加工材を載置可能なベース部と、電動機を収納し、前記電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、前記丸鋸刃の軸方向と平行な揺動軸を支点として該丸鋸部を所定の最上方位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持する支持部材と、前記丸鋸刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として傾動し、前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能なホルダと、前記ベースに対する前記ホルダの傾動を規制する傾動規制手段と、前記ホルダに固定されると共に、前記ホルダから前記ベース部側に延在する第1及び第2のガイドバーとを有し、前記支持部材を前記ガイドバーに沿って摺動可能とした卓上切断機において、前記第1及び第2のガイドバーの軸心を結ぶ平面が、前記丸鋸刃側面に対して平行で、且つ、前記丸鋸刃側面から離間して配置され、前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置されると共に、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置され、前記ホルダから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする第1の固定手段と、前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段とを備えたことに一つの特徴を有する。」
とあるのを、

「【0009】
上記の目的を達成するための本発明は、被加工材を載置可能なベース部と、電動機を収納し、前記電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、前記丸鋸刃の軸方向と平行な揺動軸を支点として該丸鋸部を所定の最上方位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持する支持部材と、前記丸鋸刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として傾動し、前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能なホルダと、前記ベースに対する前記ホルダの傾動を規制する傾動規制手段と、前記ホルダに固定されると共に、前記ホルダから前記ベース部側に延在する第1及び第2のガイドバーとを有し、前記支持部材を前記ガイドバーに沿って摺動可能とした卓上切断機において、前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し前記ガイドバーと平行となるサブハンドルを前記丸鋸部に設け、前記第1及び第2のガイドバーの軸心を結ぶ平面が、前記丸鋸刃側面に対して平行で、且つ、前記丸鋸刃側面から離間して配置され、前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置されると共に、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置され、前記第1のガイドバーが挿入される上側の穴部、及び前記第2のガイドバーが挿入される下側の穴部を、前記支持部材に設け、前記上側の穴部は、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内に位置し、前記ホルダから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内において前記上側の穴部に突出し、前記第1のガイドバーを押圧することにより前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする第1の固定手段と、前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段とを備え、前記第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記サブハンドルの前記把持部を持って持ち運び可能であることに一つの特徴を有する。」
と訂正する。

2. 本件訂正の適否

(1) 訂正事項1について

ア. 訂正事項aについて
訂正事項aは、本件訂正前に特定された事項である「丸鋸部」を、「前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し前記ガイドバーと平行となるサブハンドルを前記丸鋸部に設け」たものと限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、願書に添付した明細書の段落【0048】の「また、モータハウジング25には丸鋸部12が図6に示すように最もベース部側に近づくように揺動した際に把持部がガイドバー7の軸方向とほぼ平行となる形状をしたサブハンドル36が設けられていると共に、最下方に揺動した状態で支持部材8と丸鋸部12との揺動を固定する図示しない固定手段が設けられている。前記固定手段を動作させ、サブハンドル36を持って持ち運びを行なえば持ち運びが容易に行うことができるようにしている。」との記載から、訂正事項aは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。かつ、訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでないことも明らかである。

イ. 訂正事項bについて
訂正事項bは、本件訂正前に特定された事項である「支持部材」を、「前記第1のガイドバーが挿入される上側の穴部」及び「前記第2のガイドバーが挿入される下側の穴部」が設けられ、かつ、「前記上側の穴部は、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内に位置し」たものと、限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ア)訂正事項bが願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるか否かの検討
本件明細書には以下の記載がある(なお、下線は理解の便のため当審で付した)。

a.
「【0008】
本発明の目的は、上記欠点を解消し、小型化を図ると共に、作業スペースが小さい、操作性の良い卓上切断機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明は、被加工材を載置可能なベース部と、電動機を収納し、前記電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、前記丸鋸刃の軸方向と平行な揺動軸を支点として該丸鋸部を所定の最上方位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持する支持部材と、前記丸鋸刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として傾動し、前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能なホルダと、前記ベースに対する前記ホルダの傾動を規制する傾動規制手段と、前記ホルダに固定されると共に、前記ホルダから前記ベース部側に延在する第1及び第2のガイドバーとを有し、前記支持部材を前記ガイドバーに沿って摺動可能とした卓上切断機において、前記第1及び第2のガイドバーの軸心を結ぶ平面が、前記丸鋸刃側面に対して平行で、且つ、前記丸鋸刃側面から離間して配置され、前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置されると共に、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置され、前記ホルダから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする第1の固定手段と、前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段とを備えたことに一つの特徴を有する。」

b.
「【0016】
更に、一方のガイドバー外周部と当接可能な摺動部をボールベアリングとし、他方のガイドバー外周部と当接可能な摺動部をガイドバーの径方向に移動可能な摺動部とすると共に、他方のガイドバー外周部と当接可能な固定手段を支持部材に設けた構成とすることによって、支持部材におけるガイドバーの軸方向寸法を必要最低限なボールベアリングの軸方向寸法内で収めることができ、丸鋸部の摺動量の確保及び小型化を図ることができる。」

c.
「【0031】
ガイドバー7上であってホルダ5とサポート9との間には、丸鋸部12の揺動軸11を支持する支持部材8が設けられている。支持部材8にはガイドバー7とほぼ同心の穴部8aが2個形成されており、一方の穴部8a(図3の下側穴部8a)内にはガイドバー7の外径寸法とほぼ同寸法の内径を有し、ガイドバー7外径部に当接可能な一方の摺動部であるボールベアリング8bが設けられている。他方の穴部8a(図3の上側穴部8a)内にはガイドバー7との間に他方の摺動部である2個の移動部材8cが設けられており、この移動部材8cは支持部材8に螺合したボルト8dの先端によって穴部8a内からの抜け落ちが防止されていると共に、ボルト8dの先端の押圧によって移動調整可能となっている。」

d.
「【0034】
なお、支持部材8の穴部8aを有する部分の穴部8aの軸方向寸法は、一方の摺動部であるボールベアリング8bの軸方向寸法とほぼ同じ寸法で、支持部材8が摺動性を損なわない必要最低限以上の寸法となっており、他方の摺動部である移動部材8cを移動可能として角度微調整機構を備えさせると共に他方の摺動部近辺に固定手段を設けた構成としたことにより、支持部材8の寸法を小さく抑えることができ、卓上丸鋸本体の小型化、丸鋸部12の摺動量の確保を行うことができるようになる。」

上記摘記事項c.の「支持部材8にはガイドバー7とほぼ同心の穴部8aが2個形成されており、一方の穴部8a(図3の下側穴部8a)内にはガイドバー7の外径寸法とほぼ同寸法の内径を有し、ガイドバー7外径部に当接可能な一方の摺動部であるボールベアリング8bが設けられている。他方の穴部8a(図3の上側穴部8a)内にはガイドバー7との間に他方の摺動部である2個の移動部材8cが設けられており、」との記載及び上記摘記事項d.の「他方の摺動部である移動部材8cを移動可能として角度微調整機構を備えさせると共に他方の摺動部近辺に固定手段を設けた構成とした」との記載から、本件明細書記載には、「上側の穴部8a」及び「下側の穴部8a」を有し、さらに「上側の穴部8a」には、「移動部材8c」及び「固定手段」が設けられ、「下側の穴部8a」には「ボールベアリング8b」が設けられた「支持部材8」が記載されているといえる。
また、上記摘記事項b.の「支持部材におけるガイドバーの軸方向寸法を必要最低限なボールベアリングの軸方向寸法内で収めることができ、丸鋸部の摺動量の確保及び小型化を図ることができる。」との記載及び上記摘記事項d.の、「支持部材8の穴部8aを有する部分の穴部8aの軸方向寸法は、一方の摺動部であるボールベアリング8bの軸方向寸法とほぼ同じ寸法で、支持部材8が摺動性を損なわない必要最低限以上の寸法となっており、他方の摺動部である移動部材8cを移動可能として角度微調整機構を備えさせると共に他方の摺動部近辺に固定手段を設けた構成としたことにより、支持部材8の寸法を小さく抑えることができ、」との記載から、上記「支持部材8」のガイドバーの軸方向寸法は、「ボールベアリング8b」とほぼ等しくなるように抑えることで、「支持部材8」の小型化を図るものであるといえる。
ここで、「支持部材8」に設けた「上側の穴部8a」と「下側の穴部8a」のガイドバー軸方向の位置関係は、一方が他方の軸方向長さの範囲内に位置するようにすれば、「支持部材8」の軸方向長さが最小となることは技術常識である。そうすると、本件明細書に記載された、ガイドバー軸方向寸法を「ボールベアリング8b」とほぼ等しくなるように抑えようとする「支持部材8」は、「上側の穴部8a」の軸方向長さが、「ボールベアリング8b」が挿入された「下側の穴部8a」の軸方向長さの範囲内に位置するものであると、当業者は理解できる。
そうすると、訂正事項bは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができる。

(イ) 訂正事項bが、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものであるか否かの検討
訂正事項bは、実質上特許請求の範囲を拡張ないし、または変更するものでないことは明らかである。

(ウ) 請求人の主張について
請求人は、平成26年7月1日付け弁駁書2において、訂正事項bは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合しないものであって認められるべきではない、と主張する(4ページ10行ないし9ページ3行)から、以下に検討する。
請求人は、本件明細書等には、第1のガイドバーが挿入される上側の穴部が第2のガイドバーが挿入される下側の穴部よりも短い発明は記載がされていないから、訂正事項2は、本件明細書等に記載された範囲内のものではない旨主張している(5ページ1ないし5行)。しかし、上記(ア)で示したように、当業者であれば、本件特許明細書等に、「上側の穴部8a」の軸方向長さが、「ボールベアリング8b」が挿入された「下側の穴部8a」の軸方向長さの範囲内に位置する「支持部材8」が記載されていることが理解できるから、たとえ本件明細書等で、「第1のガイドバーが挿入される上側の穴部が第2のガイドバーが挿入される下側の穴部よりも短い発明」について直接的な記載はなくとも、訂正事項bが、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないということはできない。

ウ. 訂正事項cについて
訂正事項cは、本件訂正前に特定された事項である「1の固定手段」が、同「支持部材」を「ベース部上方の位置で固定可能」とするものであるところ、「前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内において前記上側の穴部に突出し、前記第1のガイドバーを押圧することにより」「固定可能」とするものであると限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
願書に添付した明細書の段落【0032】には「支持部材8には上側穴部8a内に突出可能な固定手段であるノブ10が設けられており、ノブ10の先端がガイドバー7外形部を押圧することによって、ガイドバー7上で支持部材8の位置を固定可能となっている」との記載がある。また、願書に添付された【図1】、【図3】、【図6】、【図7】及び【図9】には、「固定手段であるノブ10」が支持部材に形成された上側の穴である「上側穴部8a」内に突出していることの図示があり、さらに「ノブ10」が設けられている位置が、「下側穴部8b」の軸方向長さの範囲内であることの図示があるから、訂正事項cは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして、当該訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないことは明らかである。

エ. 訂正事項dについて
訂正事項dは、本件訂正前の特定事項である「前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする1の固定手段」の、「1の固定手段」を「第1の固定手段」と訂正するものである。
本件特許請求の範囲の請求項1には特定事項として、「前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする1の固定手段」及び「前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段」が記載されている。また、本件明細書には、「前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする第1の固定手段と、前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段とを備えたことに一つの特徴を有する。」(段落【0009】)との記載がある。そうすると、「前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする」手段について、当該請求項1には「1の固定手段」と記載され、本件明細書においては「第1の固定手段」と記載されており、一致しない。
そうすると、訂正事項dは、請求項1に特定された「1の固定手段」が明細書において記載された「第1の固定手段」であることを明りょうにするために「第2の固定手段」に倣って訂正しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、訂正事項dが、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないことは明らかである。

オ. 訂正事項eについて
訂正事項eは、本件訂正前の請求項1の「卓上切断機」が「前記第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記サブハンドルの前記把持部を持って持ち運び可能である」との事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書には、「また、モータハウジング25には丸鋸部12が図6に示すように最もベース部側に近づくように揺動した際に把持部がガイドバー7の軸方向とほぼ平行となる形状をしたサブハンドル36が設けられていると共に、最下方に揺動した状態で支持部材8と丸鋸部12との揺動を固定する図示しない固定手段が設けられている。前記固定手段を動作させ、サブハンドル36を持って持ち運びを行なえば持ち運びが容易に行うことができるようにしている。」(段落【0048】)と記載されているから、訂正事項eは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないことは明らかである。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項4で特定された「サブハンドル」に関する事項を、本件訂正により請求項1に特定される事項とするのに伴い、当該請求項4を削除しようとするものである。したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。さらに、訂正事項2が、本件明細書等にした事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないことは明らかである。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、上記(1)の訂正事項aないしeに係る訂正をなされた本件請求項1の記載と、本件明細書の記載を整合させるために、本件明細書の段落【0009】を訂正するものであるから、不明瞭な記載の釈明を目的とするものに該当する。また、訂正事項3が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないことは明らかである。

3. 本件訂正についてのまとめ
上記2.において検討したとおり、本件訂正のいずれの訂正事項も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、結論の第1項のとおり本件訂正を認める。

4. 削除された請求項に係る特許に対する審判請求について
上記1.ないし3.のとおり、本件においては、本件訂正前の請求項4を削除する訂正が認容される。
ところで、請求項を削除する訂正事項を含む訂正請求がされ、当該訂正請求につき「訂正を認める」との審決がされた場合は、当該請求項は、審決送達時に、当該訂正された内容のものすなわち削除されたものとして確定すると解される。けだし、審決のうち、当該請求項について「訂正を認める」とした部分は、その確定により、特許を無効にすべき旨の審決が確定したときと同等の効力を生ずるので(特許法第125及び128条)、請求人にとっては、審決取消を求める法律上の利益がないこととなり、また被請求人は、訂正の請求を認容した審決部分に対して不服を申し立てることができないこととなるからである。
そうすると、請求人の請求のうち、本件訂正前の請求項4に係る発明についての請求については、請求人は、もはや特許無効を求めるにつき法律上の利益を有しないこととなる。
よって、結論の第3項のとおり、当該請求を却下する。

第3 本件訂正特許発明
(以下、本件訂正前の本件特許の請求項1ないし4に係る発明を「本件特許発明1」などといい、まとめて「本件特許発明」ということがある。さらに、本件訂正後の本件特許の請求項1ないし3に係る発明を「本件訂正特許発明1」などといい、まとめて「本件訂正特許発明」ということがある。)
以上のとおり、本件訂正は認められたので、本件訂正特許発明1ないし3は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであると認めるところ、本件訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3を、構成要件に分説して記載すると、以下のとおりである。

「【請求項1】
A 被加工材を載置可能なベース部と、
B 電動機を収納し、前記電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、
C 前記丸鋸刃の軸方向と平行な揺動軸を支点として該丸鋸部を所定の最上方位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持する支持部材と、
D 前記丸鋸刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として傾動し、前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能なホルダと、
E 前記ベースに対する前記ホルダの傾動を規制する傾動規制手段と、
F 前記ホルダに固定されると共に、前記ホルダから前記ベース部側に延在する第1及び第2のガイドバーとを有し、
G 前記支持部材を前記ガイドバーに沿って摺動可能とした卓上切断機において、
H 前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し前記ガイドバーと平行となるサブハンドルを前記丸鋸部に設け、
I 前記第1及び第2のガイドバーの軸心を結ぶ平面が、前記丸鋸刃側面に対して平行で、且つ、前記丸鋸刃側面から離間して配置され、
J 前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置されると共に、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置され、
K 前記第1のガイドバーが挿入される上側の穴部、及び前記第2のガイドバーが挿入される下側の穴部を、前記支持部材に設け、前記上側の穴部は、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内に位置し、
L 前記ホルダから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内において前記上側の穴部に突出し、前記第1のガイドバーを押圧することにより前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする第1の固定手段と、
M 前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段とを備え、
N 前記第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記サブハンドルの前記把持部を持って持ち運び可能であることを特徴とする卓上切断機。
【請求項2】
O 前記丸鋸刃を挟んで一方側に前記第1及び第2のガイドバーを配置すると共に、他方側に前記電動機を配置し、前記ホルダを前記電動機側に45°傾動したときに前記電動機が前記ベース部に接触しないように配置されていることを特徴とする請求項1記載の卓上切断機。
【請求項3】
P 前記第1及び第2のガイドバーの前記ホルダと反対側の端面には両者と係合する係合部材が設けられており、前記支持部材は前記ホルダに当接することで前記丸鋸部の前記ホルダ側への摺動が規制され、前記係合部材に当接することで前記ホルダから離れる方向への摺動が規制されることを特徴とする請求項1又は2記載の卓上切断機。

第4 当事者の主張
本件無効審判事件における無効理由についての両当事者の主張の概要は以下のとおりである。なお、摘記箇所を行数で示すときは、空白行は含まない。
ここで、本件特許に係る願書に最初に添付した明細書を、以下、「当初明細書」ということがある。また、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面をまとめて、「当初明細書等」ということがある。

1. 請求人の主張する請求の趣旨及び理由

(1) 要点
請求人は、本件訂正特許発明1ないし3についての特許を無効とする、との審決を求め、その請求の理由は、本件訂正特許発明は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない平成24年8月22日付け手続補正書により補正されたものであるから、その特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、同項の規定により無効とすべきものであるという理由(以下、「無効理由1」という。)、及び、本件訂正特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、その特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、同項の規定により無効とすべきものであるという理由(以下、「無効理由2」という。)である。
なお、無効理由1について、請求人は、「本件特許に係る出願の平成24年5月13日付けの手続補正書による補正は、いずれの請求項についても、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものではありません」(請求書、3ページ7ないし10行)と主張している。しかし、平成24年8月22日付け手続補正書により特許請求の範囲、明細書全文が補正されたので、本審決では、平成24年8月22日付け手続補正書による補正が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているか否かについて検討する(請求人も、請求書の7ページ1ないし9行において、平成24年8月22日付け手続補正書により含まれることとなった以下の「本件補正事項」に、当初明細書等に明記されていない事項が含まれる旨、主張している。)。

(2) 無効理由1について
(審判請求書3ページ7ないし12行、6ページ末行ないし9ページ16行、口頭審理陳述要領書(請求人)2ページ下から4行ないし9ページ7行、9ページ13行ないし10頁下から10行、平成25年10月4日付け上申書2ページ下から9行ないし9ページ11行及び弁駁書22ページ8行ないし24ページ下から9行。)
本件訂正特許発明1は、特許請求の範囲全文を補正する平成24年8月22日付け手続補正書(甲第3号証、以下、「本件手続補正書」という。)によって補正された請求項1により特定されるもので、平成24年5月13日付け手続補正書による補正により追加された以下の構成を含むものである。

「前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置されると共に、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置され」(以下、「本件補正事項」という。)

しかし、出願当初の明細書には、「丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置する」点は、文言として明記されていない。また、本件補正事項に係る技術的意義について、平成24年5月13日付けの意見書において、被請求人は「本願発明は、ガイドバーの設けられた側にホルダを45°傾動したときに、ガイドバーがベースに接触しない程度に高い位置に配置すると共に、丸のこの上下方向の回動位置にかかわらず、どの回動位置においてもガイドバーは丸のこ部の上端より下方に位置するように配置したために全体の構成をコンパクトにすると共に、重心が下方にあるため操作上安定性がよく、持ち運びも容易であるという効果があります。」(甲第4号証、3ページ5ないし9行) と主張しているが、当初明細書等には、当該技術的意義は何ら記載がされていない。当初明細書等には、「電動機がその軸が丸鋸刃の軸方向とほぼ平行となるように配置される構成」のものしか開示されていないから、明細書に開示されたベルト伝動機構という構成を離れて、いかなる動力伝達機構であっても、モータ、丸鋸部12の上端がガイドバー7の上にくるように構成し、なんらかの技術的な効果を生じさせるという技術的思想は開示されていない。
本件訂正請求によっても、電動機と丸鋸刃の軸方向との関係は特定されていないから、無効理由1は依然として解消されていない。

(3) 無効理由2について
(審判請求書3ページ13行ないし4ページ3行、9ページ17行ないし29ページ5行、口頭審理陳述要領書(請求人)9ページ8ないし10行、10ページ下から9行ないし16ページ下から9行、平成25年10月4日付け上申書9ページ12行ないし11ページ下から3行、平成26年4月16日付け弁駁書4ページ10行ないし22ページ7行及び平成26年7月1日付け弁駁書2の20ページ1ないし33ページ下から10行。)
本件訂正特許発明1ないし3は、甲第6号証記載の発明、甲第7ないし9号証記載の事項及び甲第10号証記載の従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
以下、詳述する。

ア. 本件訂正特許発明1について

(ア) 本件訂正特許発明1と甲第6号証記載の発明との相違点
本件訂正特許発明1と甲第6号証記載の発明とを対比すると、以下の相違点1ないし4で相違し、本件訂正特許発明は、相違点1ないし4に加えて、相違点5及び6でさらに相違する。

(ア-1) 相違点1
本件訂正特許発明1のホルダが、「前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能」であるのに対し、甲第6号証記載の発明は、「ホルダが1方向に傾動するものではあるが、両方向に傾動可能であるか否かは、明らかでない点」。

(ア-2) 相違点2
「本件訂正特許発明1が、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置されるのに対し」、甲第6号証記載の発明は、そのようにはなっていない点。

(ア-3) 相違点3
本件訂正特許発明1が、「前記ガイドバーから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする第1の固定手段」を備えているのに対し、甲第6号証には、固定手段について何らの記載もない点。

(ア-4) 相違点4
本件訂正特許発明1が、「前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段」を備えているのに対し、甲第6号証には、固定手段について何らの記載もない点。

(アー5) 相違点5
本件訂正特許発明1は、「前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し、前記ガイドバーと平行となるサブハンドルを前記丸鋸部に設け」、「前記第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記サブハンドルの前記把持部を持って持ち運び可能」であるのに対し、甲第6号証記載の発明は、サブハンドル及び第2の固定手段を備えていない点。

(アー6) 相違点6
本件訂正特許発明1は、「第1のガイドバー」を押圧することにより「支持部材」を「ベース部上方」の位置で固定可能にする「第1の固定手段」が、「前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内において前記上側の穴部内に突出し」ているのに対し、甲第6号証記載の発明は、「第1のガイドバー」を押圧する固定手段を備えていない点。

(イ)相違点についての請求人の主張

(イ-1) 相違点1について
マイターソーにおいて、丸鋸刃を両方向に45度まで傾動可能としたものは、甲第8号証に記載されている。甲第6号証記載の発明のべベルピボット手段は、甲第8号証に記載されたものと同様、ねじクランプ手段によって固定されるものであるから、甲第6号証記載の発明を、本件訂正特許発明1の如く両方向に傾動可能とすることに格別の困難性はない。

(イ-2) 相違点2について
卓上丸鋸全体の高さを低くするということは、当業者が通常認識している課題であるから、ガイドバーの高さをホルダが最大に傾動した際にはベースに接触せずに、かつできる限り低くすることは、通常の設計の範囲内のことである。また、このようなガイドバーの高さを低くすることと、丸鋸部の上端とガイドバーの位置関係とは無関係である。
本件訂正特許発明1の実施例が、丸鋸部が最下方の揺動位置にあるときに第1及び第2のガイドバーが丸鋸部の上端よりも下方に位置することとなったのは、丸鋸の駆動機構としてベルトを用い、電動機の軸を丸鋸刃の回動軸から大きくシフトした位置としたことによるもの。本件訂正特許発明1は、モータの駆動機構を限定しているものではないから、相違点2は何ら技術的意義を持つものではない。
また、鋸刃の駆動機構として直接駆動機構を採用した場合であっても、甲第8号証に記載されているように、駆動歯車にべベルギヤを採用すれば、必然的に本願発明と同様、のこぎりマウント11の一部を構成するモータのカバー部分は、スライドレール20よりも上方に位置することになり、本件訂正特許発明1の構成となる。甲第6号証記載の発明の丸鋸刃の駆動機構として甲第8号証記載のべベルギヤを採用することに格別の困難性はないから、相違点2は、当業者が容易に想到することができるものである。

(イ-3) 相違点3について
甲第7号証には、甲第6号証記載の発明と同様、支持シャフト(主支持シャフト226及び補助支持シャフト246)に摺動可能に支持された切断ユニット294を構成するべベル支持体298を備えた摺動複合マイターソーが記載されている。甲第7号証記載の事項は、切断ユニット294を補助支持シャフトに固定する滑りロック542を備えている。
甲第6号証記載の発明と甲第7号証記載の事項は、いずれもスライドレール20(支持シャフト226,246)上をピボットアームキャリッジ15(べベル支持体298)が摺動することにより、のこぎりの摺動を可能としたものである。また、甲第6号証記載の発明のように、可搬型の工具は、搬送する際に可動部分が移動しないように固定する必要があるから、そのための固定手段として甲第7号証記載のべベル支持体298と支持シャフトとの関連構成である滑りロック542を甲第6号証記載の発明に適用することに困難性はない。また、甲第6号証記載の発明の摺動複合マイターソーは小型のものであるが、このような切断機は、床に置いて使用されることも多く、一般的に切断機の上端が胸よりも下に置かれた状態で使用される。そうすると操作性を考慮すると、滑りロック機構は上方にノブを配置することが自然であるから、滑りロック機構を適用するレールとして、上方のレールを選択することについても何ら困難性はない。

(イ-4) 相違点4について
甲第7号証には、甲第6号証記載の発明のピボットアームに相当するソーアーム578を輸送中に切断位置に固定するロックボルト722を備えている。切断位置は、丸鋸が位置し得る最下方の位置であるから、甲第7号証記載のロックボルト722は、本件訂正特許発明1の、丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段に相当する。甲第6号証記載の発明も可搬式のものであるから、搬送に適した技術である甲第7号証記載のロックボルトを採用することは、当業者が容易に想到することができたものである。

(イー5) 相違点5について
相違点5に係る構成は、本件特許発明4の限定事項である「前記丸鋸部は持ち運び用のサブハンドルを有することを特徴とする」に、さらに「前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し、前記ガイドバーと平行になる」との限定を付加したものである。運搬用のハンドルを設けたものは、甲第9号証に記載されていて、甲第9号証の【図2】には、「運搬用ハンドル」が「回転刃物部」の上方に設けられ、回転刃物部が最下方にあるときベース1の上面とほぼ平行になっている点図示されている。したがって、甲第9号証記載のサブハンドルを甲第6号証記載の発明に適用すれば、のこぎりマウントが最下方に揺動した状態で、サブハンドルはスライドレール20とほぼ平行になる。また、上記(イー4)に示したように「第2の固定手段」を設けること自体は容易であり、当該「第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記把持部を持って持ち運び可能」とすることは、サブハンドルと第2の固定手段を備えた卓上切断機の使い方の可能性を限定したものに過ぎず、甲第9号証のサブハンドルも、把持部を持って持ち運びが可能なものである。

(イー6) 相違点6について
甲第6号証記載の発明に、第1のガイドバーを押圧する第1の固定手段を設けることは当業者が容易になし得た事項である。また、甲第10号証には、一方のスライドバー5に対してテーブル2を固定する固定手段20を、当該一方のスライドバーを受け入れる保持筒部2aに続く円筒部2bに設けられた円筒部2b内に突出しスライドバー5を押圧する固定ねじ11で構成することの記載がある。そうすると、甲第6号証記載発明に、第1の固定手段を設ける際には、ピボットアームキャリッジにおいて、第1の固定手段を設けるスペースを確保するために、上側の穴部な長くなるようにピボットアームキャリッジの寸法を変更することになるが、この程度の変更は、例えば上記甲第10号証に記載された従来周知の技術事項を適用することで、当業者が適宜行う設計的事項に過ぎない。

(ウ)
以上のとおりであるから、本件訂正特許発明1は、甲第6号証記載の発明、甲第7ないし9号証記載の事項及び甲第10号証記載の従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ. 本件訂正特許発明2について
「前記ホルダを前記電動機側に45°傾動したときに前記電動機が前記ベース部に接触しないように配置」した点は、甲第6号証には記載がない。しかし、甲第8号証には、丸鋸刃を両方向に45度まで傾動可能にしたものが記載されている。甲第6号証記載の発明に上記甲第8号証記載の事項を適用するにあたって、電動機側に45°傾斜した際に電動機がベース側に接触しないようにすることは当然のことである。したがって、本件訂正特許発明2は、甲第6号証記載の発明、甲第7ないし9号証記載の事項及び甲第10号証記載の従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ. 本件訂正特許発明3について
甲第6号証に記載された発明も、本件訂正特許発明の支持部材に相当するピボットアームキャリッジ15は、スライドレール端ストップ32によってスライドレール20から外れないようにされており、一方、ピボットアームキャリッジは、スライドレール20を固定するピボットアームタワーに当接すればそれ以上移動することはできない。請求項3で限定された事項は、甲第6号証に記載されている。したがって、本件訂正特許発明3は、甲第6号証記載の発明、甲第7ないし9号証記載の事項及び甲第10号証記載の従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2. 請求人の証拠方法
証拠方法として、審判請求書において、以下の甲第1ないし9号証が提出され、平成26年4月16日付け弁駁書において、甲第10号証が提出されている。

甲第1号証 特許第5107325号公報
甲第2号証 本件特許に係る出願(特願2009-219863号)の公開特許公報である特開2010-17847号公報
甲第3号証 本件特許に係る出願(特願2009-219863号)の平成24年8月22日付け手続補正書
甲第4号証 本件特許に係る出願(特願2009-219863号)の平成24年5月13日付け意見書
甲第5号証 本件特許に係る出願(特願2009-219863号)の平成24年8月22日付け意見書
甲第6号証 カナダ国特許出願公開第02372451号明細書
甲第7号証 特開平9-164504号公報
甲第8号証 特開平8-252801号公報
甲第9号証 特開2004-1551号公報
甲第10号証 特開平11-90730号公報

3. 被請求人の主張する答弁の趣旨
被請求人の主張する答弁の趣旨は、本件特許無効審判の請求は成り立たない、との審決を求めるものであり、無効理由1に対しては、平成24年8月22日付け手続補正書による補正は平成17条の2第3項に規定する要件を満たしたものであり、無効理由2に対しては、本件訂正特許発明1ないし3は、甲第6号証記載の発明、甲第7ないし10号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、というものである。

(1) 無効理由1について
(答弁書3ページ2行ないし6ページ5行、平成25年9月20日付け上申書2ページ4行ないし4ページ10行、平成25年10月17日付け上申書(第2)2ページ1行ないし4ページ4行、平成26年5月23日付け答弁書20ページ7行ないし21ページ2行)

本件当初明細書等には、以下のとおり記載されており、上記本件補正事項を付加する補正は、新たな技術的事項を導入するものではない。

ア. 明細書の記載
(ア) 段落【0050】
当初明細書の段落【0050】には、「また、ガイドバー7は、丸鋸部12がベース部上面から最も離れた上方位置に揺動している状態で、丸鋸刃14の回動軸の延長線と近接する位置に位置し、丸鋸部12がベース部上面に最も近づく下方位置に揺動している状態(図6の状態)ではハンドル26との丸鋸刃14の回動軸方向の距離が小さくなる位置に設けられて、ガイドバー7が工具全体の高さ方向寸法に影響をきたさず小型化を阻害するものではないと共に、丸鋸部12が下方位置にある切断加工時の摺動操作をよりスムーズに行うことができるようになっている。」(当審注:下線は平成25年6月17日付け答弁書において被請求人が付した。)との記載がある。この記載と、図面の図1、2、6、及び9等の記載とを併せて考慮すれば、請求項1における「前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置する」点は、実質的に、出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内である。

(イ) 段落【0022】、【0043】ないし【0048】
当初明細書の段落【0022】には、「図に示す本発明卓上丸鋸は、・・・電動機であるモータ21を収納し、モータ21の駆動により回動する丸鋸刃14を回動可能に支持する丸鋸部12と、・・・を有し」という記載があり、この記載から、丸鋸部14がモータ21を含むことが明らかである。また、同明細書の段落【0043】には「丸鋸部12のハウジングは、・・・モータハウジング25とから構成される。」という記載、同明細書の段落【0047】には「モータハウジング25には丸鋸刃14側面の延長線上に位置するハンドル部26が一体的に設けられており、・・・」という記載があり、この記載から、丸鋸部14がモータハウジング25、ハンドル部26を含むことが明らかである。さらに、同明細書の段落【0048】には「また、モータハウジング25には・・・サブハンドル36が設けられている・・・」という記載があり、この記載から、丸鋸部14がサブハンドル36を含むことも明らかである。

イ. 図面
「丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに第1及び第2のガイドバーは丸鋸部の上端より下方に位置する」ことは、図1において2本のガイドバー7、7がモータ21、モータハウジング25、ハンドル部26の上端より下方に位置すること、図6において2本のガイドバー7、7がモータ21、モータハウジング25、サブハンドル36の上端より下方に位置することからも明白である。
本件特許は、図6の実施例がベルト伝動機構の例であるというだけであり、動力伝動機構を限定する記載は一切ないのであるから、本件訂正特許発明は、「ベルト伝動機構」のみに限定されるべきものではなく、それ以外の動力伝動機構も含むものであることは明白である。

(2) 無効理由2について
(答弁書6ページ6行ないし21ページ下から6行、口頭審理陳述要領書(被請求人)2ページ5行ないし20ページ下から4行、平成25年9月20日付け上申書4ページ11行ないし8ページ下から3行、平成25年10月17日上申書(第2)4ページ5行ないし6ページ下から3行、平成26年2月3日付け上申書12ページ8行、平成26年5月23日付け答弁書3ページ13行ないし20ページ6行)

(2-1) 本件訂正特許発明1について
本件訂正前の本件特許発明1は、ガイドバー傾動構造、2軸貫通構造、直接固定構造及びガイドバー下方位置構造の4点の基本構造を具備することで、卓上切断機の小型化が達成されたものである。甲第6ないし9号証には、これら基本構造を同時に具備したものは記載されていない。
さらに、本件訂正によって、本件訂正特許発明1は、上記4つの基本構造に加えて、サブハンドル運搬構造、上側の穴部の非突出構造及び揺動固定運搬構造の3つの基本構造を備えることとなり、卓上切断機をバランス良く安定した状態で容易に運搬することができ、卓上切断機の作業性を向上させることができるという特段の効果が得られるのである。

ア. 甲6記載発明との対比
本件訂正前の本件特許発明1と甲第6号証記載の発明とを対比すると、以下の2点で構成上相違する。
本件特許発明1においては、「ホルダを第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーを、ベース部に接触しない高さ位置に配置すると共に、丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに第1及び第2のガイドバーを丸鋸部の上端より下方に位置するように配置するように構成されている」のに対し、甲第6号証記載の発明は一つの固定手段しか備えていない点。
本件特許発明1においては、「第1及び第2のガイドバーがホルダからベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に支持部材を固定することにより、前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする1の固定手段(被請求人注:第1の固定手段)と、丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段との両方を備えた構成を有する」のに対し、甲第6号証記載の発明はそのように構成されていない点。
上記2点により、本件特許発明1は、「丸鋸刃を最下方の位置に揺動した状態で切断部の揺動を固定し運搬する際に、ガイドバーの任意の位置で切断部を固定し、バランスの良い持ち運びしやすい場所に卓上丸鋸全体の重心を位置させることができるために運搬が極めて容易になる」との格別な作用・効果を奏する。
一方、甲第6号証記載の「ピボットアームキャリッジ15」には、「リニアアキシャルベアリング」が設けられており、「ピボットアームキャリッジ15」には固定手段を設けることはできない。
以上に加え、本件訂正後の本件訂正特許発明1と対比すると、さらに次の点でも相違する。
本件訂正特許発明1は、「第1のガイドバーが挿入される上側の穴部を、第2のガイドバーが挿入される下側の穴部の軸方向長さの範囲内に位置させ、上側の穴部を軸方向に突出させない構造とし、かつ、第1の固定手段を下側の穴部の軸方向長さの範囲内において上側の穴部に突出させるようにした構造であるのに対し、甲第6号証は、固定手段をピボットアームキャリッジ15の穴部に、その軸方向長さの範囲内において突出させて設けることができず、固定手段を設ける場合には、固定手段をピボットアームキャリッジ15から軸方向に迫り出さなければならない構造である。」したがって、「固定手段を含めたピボットアームキャリッジ15の軸方向の長さがその分長くなることが避けられない。固定手段を寸法Mだけ突出させると、丸鋸の移動ストロークを確保しつつ丸鋸盤の小型化を達成することができない。」

イ. 甲第7号証記載の事項
甲第7号証に記載の「第1の固定手段(滑りロック542)は、ベース部の図1で見て左側(図6では右側)の端部を超えてさらに左側に突出して位置する」から、その結果、甲第7号証記載の事項は、「本件特許発明1とは違って、コンパクト化や、運搬性ないし持ち運び易さの改善は実現できない」。
しかも、甲第7号証記載の事項は、「第1の固定手段を構成する滑りロック542は、丸鋸部を支持する支持部材であるベベル支持体298に設けられておらず、補助支持体434に設けられており、かつ、ベベル支持体298(支持部材)自体は、本件特許発明における第1のガイドバーに相当する補助支持シャフト246に固定することはできないのである」。
さらに、甲第7記載の事項は、「切断部を左右方向に傾動させたときに切断部と共に傾動するのは、ホルダ及び支持部材に相当するベベル支持体298のみで、補助支持シャフト246、補助支持体434及び滑りロック542はベース部の外側において傾動することなく位置している」ので、本件特許発明1が有する「切断部を左右方向に傾動させたときに、当該第1の固定手段が邪魔になることがなく、かつ傾動した状態であっても当該第1の固定手段の操作が容易であるという利点」を何ら示唆しない構成をしている。 甲第7号証に記載されたものは、「ベベル支持体298の摺動案内を主支持シャフト226により行い、ベベル支持体298の軸方向位置の固定を滑りロック542が設けられたロック専用の補助支持シャフト246により行うようにした」もので、本件特許発明1のように、ガイドバーを傾動させるようにし、支持部材8を傾動させない構造とした卓上切断機とは、その基本構造が全く相違している。したがって、甲第7号証に記載されたものは、「滑りロック542を設けなければならず、卓上切断機を小型化することができない。」しかも、「主支持シャフト226は、ボールベアリングが設けられたベベル支持体298により支持されており、」固定手段を突出させることはできないので、「支持部材8を第1の固定手段により第1のガイドバーに直接固定するようにした本件特許発明が示唆されることはあり得ない。」
甲第7号証記載の事項は、本件訂正特許発明1のような第1の固定手段は有していない。

ウ. 甲第8号証記載の事項
請求人は、「マイターソーにおいて、丸鋸刃を両方向に45度まで傾動可能としたものは、甲第8号証に記載されている」と主張している。
しかし、甲第8号証はそれだけのものであり、また、甲第8号証記載の事項を甲第6号証記載の発明と組み合わせてみても本件訂正特許発明1ないし3を想到することは決してできない。
本件訂正特許発明との対比においては、甲第8号証に記載されたものは、「スライドバー8を摺動させると、スライドバー8が後方に突出することになり、狭い場所での作業性が悪く、持ち運びの操作性が悪いという本件特許発明が解決しようとする課題を有している。」したがって、本件訂正特許発明とは基本構造が全く相違するだけでなく、本件訂正特許発明のように、上側の穴部内への第1の固定手段突出構造の技術は甲第8号証によって示唆されることはない。

エ. 甲第9号証記載の事項
請求人は、「支持部材に対して、回転刃物部の揺動を固定するためのロックピンを配設したうえで、さらに運搬用のハンドルを設けたものは、甲第9号証に記載されており、甲第6号証記載の発明に、搬送に適するように甲第7号証記載のロックボルトを採用することは容易であるから、さらに搬送用のハンドルを設けることも容易」と主張している。
しかし、甲第9号証はそれだけのものであり、また、甲第9号証は、本件特許発明4の進歩性を否定する証拠としてのみ提出されている。
本件訂正特許発明1との対比においては、甲第9号証に記載されたものは、「回転刃物部5がシャフト4により支持部材3に揺動自在に装着された卓上切断機」である点や、「ロックピン6を回転刃物部5に挿入するようにしている」点で、本件訂正特許発明1とは相違する。

オ. 甲第10号証
甲第10号証に記載されたものは、「テーブル2の内部に固定された保持筒部2a、2aによりスライドバー5,5を移動可能に支持するようにしたスライドバー摺動構造であるのに対し、本件特許発明は、ガイドバー7,7に対して支持部材8を摺動させるようにした支持部材摺動構造であり、相互に移動方式が逆発想の技術であり、基本構造が相違している。」
固定構造にしても、本件特許発明が「固定手段が摺動部材である支持部材8に設けられ」ているのに対し、甲第10号証に記載されたものは、「スライドストッパ装置20,30が固定部材に取り付けられている」点で相違する。
さらに、「甲第10号証の保持筒部2a,2aに固定手段を設ける場合のように、本件特許発明における支持部材8に固定手段を取り付けるために上側の穴部の長さを長くすると、移動部材である支持部材8の移動ストロークが短くなり、卓上切断機の小型化を達成することができ」ない。
本件訂正特許発明との対比において被請求人は、甲第10号証に記載された「スライドストッパ装置20,30は、スライドバー5,5の移動ストロークとは無関係であり、かつ固定構造である水平方向配置の一方の保持筒部2aの円筒部2bに取り付けられているので、本件特許発明のように、摺動することから丸鋸部の移動ストロークに影響を与えることになる支持部材8に、上側の第1のガイドバー7を固定する第1の固定手段を設けるようにした技術が、甲第10号証によって示唆されることはない。」

カ. 甲第6号証記載の発明と甲第7号証記載の事項の組み合わせ
甲第7号証記載の「滑りロック542」は、「ベベル支持体298と一体的に移動する補助支持体434と組み合わされて初めてベベル支持体298の主支持シャフト226に沿った移動を規制するのであって、単独ではベベル支持体298の移動を規制し得ない」。「滑りロック542のみを抽出することは、甲7号証に開示されている技術思想の本質を無視するものであって、許されない」。仮に「滑りロック542のみを抽出し、これを甲第6号証記載の発明のマイターソーに適用することが許されたとしても」、「甲7号証に開示されている補助支持体434に相当する部材が必須」である。
また、「甲第6号証のようにピボットアームキャリッジ15には、スライドレール20が勘合する軸受けつまりリニアアキシャルベアリングが実質的に軸方向全長にわたって設けられており、ピボットアームキャリッジ15には固定手段を設けることはできない技術と、甲第7号証のようにベベル支持体298から分離された滑りロック542により間接的にベベル支持体298から分離された滑りロック542により間接的にベベル支持体298から分離された滑りロック542により間接的にベベル支持体298を固定するようにした技術を組み合わせても、本件特許発明が示唆されることはない。」

キ. 甲第6号証記載の発明及び甲第7号証記載の事項と、甲第8号証記載の事項の組み合わせ
甲8号証には、確かに、「鋸刃12の左右45度傾斜」について記載されているものと認めるが、甲第8号証の記載はそれだけのものに過ぎず、仮に、甲第8号証の当該記載と、甲第6および7号証とを寄せ集めたとしても、本件訂正特許発明1を得ることは到底できない。

ク. 本件訂正特許発明の効果
「本件特許発明の第1の特徴は、ガイドバー(従前のスライドパイプに相当)は摺動させずに、丸鋸部だけをスライドさせるようにした点である。」
「本件特許発明の第2の特徴は、丸鋸刃を最下方の位置に揺動した状態で切断部の揺動を固定する固定手段(第2の固定手段)だけではなく、ホルダからベース部側に延在し、かつ第2のガイドバーの上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置において支持部材を固定するために支持部材に設けられ、支持部材をベース部上方の位置で固定可能にする固定手段(1の固定手段=第1の固定手段)を設けたこと、言い換えれば、『第1及び第2の2つの固定手段を併せ持つこと』を特徴とするものである。」
「本件特許発明の第3の特徴は、ガイドバーの高さが丸鋸部の上端より下方に位置するように配置したことである。」
「本件特許発明は、上記の第1ないし第3の3つの特徴を単独に有するのではなく、3つ全てを併せ持つことにより、従来技術に比較して、スライド式卓上丸鋸を格段に持ち運びやすいものとすることが可能になったのであり、その結果、スライド式卓上丸鋸を大型化することなく切断幅を拡大するという要求と、持ち運びを容易にするという要求との2つの要求を両立させることができたのである。」
さらに本件訂正特許発明1については、「丸鋸部12が最下方に揺動した状態で、把持部がガイドバー7よりも上方に位置しガイドバー7と平行となるサブハンドル36が丸鋸部12に設けられた構造(サブハンドル運搬構造)となっている。しかも、本件訂正特許発明1では、第2の固定手段により丸鋸部の揺動を固定した状態でサブハンドルの把持部を持って持ち運びが可能である」との卓上切断機の小型化を達成することができた。したがって、「卓上切断機の持ち運び時には、作業者がサブハンドル36を手で持って容易に運搬することができる。このときには、丸鋸部12が最下方に揺動した状態で、把持部がガイドバー7よりも上方に位置し、ガイドバー7と平行となるので、運搬時に卓上切断機が揺れても作業者の腕にガイドバーが当たりにくく、且つガイドバーに邪魔されることなくサブハンドル36を握ることができ、第2の固定手段により丸鋸部12の揺動が固定された状態のもとで卓上切断機を容易に運搬することができる。」
さらに、「上側の穴部を下側の穴部よりも軸方向に突出させない構造となっている」。したがって、本件訂正特許発明1は、「支持部材8を大型化することなく、切断作業に必要な摺動ストロークを確保して、卓上切断機の小型化を達成することができるという特段の効果が得られるのである。」

(2-2) 本件訂正特許発明2及び3について
本件訂正特許発明2及び3は、本件訂正特許発明1をそれぞれ限定するものであり、当該限定事項は、本件訂正により訂正されていない。そして、本件特許発明2及び3について、被請求人は以下のとおり主張している。
「本件特許発明1は各甲号証に記載された発明に基づいて容易に導出されるものでない。よって、本件特許発明1に限定を加えた本件特許発明2?4も各甲号証に記載された発明に基づいて容易に導出されるものではなく、進歩性を具備するものである。」

第5 無効理由1についての当審の判断

1. 本件当初明細書等の記載事項
本件当初明細書等には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
被加工材を載置可能なベース部と、
電動機を収納し、該電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、
前記丸鋸刃の軸方向とほぼ平行な揺動軸により該丸鋸部を揺動可能に支持する支持部材と、
前記丸鋸刃の軸方向にほぼ直交すると共に、前記ベース部上面に対してほぼ平行に延びる傾動軸を支点として前記丸鋸刃の両側面側に傾動可能なホルダと、
前記ホルダに固定され、前記傾動軸とほぼ平行に延びるガイドバーを有するガイド部と、
を有し、
前記支持部材を前記ガイド部上で摺動可能な構成としたことを特徴とする卓上切断機。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、丸鋸部がベース上面に対して揺動可能であると共に、丸鋸刃の側面に沿う方向に摺動可能な構成をした卓上切断機に関するものである。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の卓上切断機は、丸鋸部を前方側(ホルダから離れる方向側)に移動させた際には、工具全体がコンパクトとなるようにガイドバーが摺動するものであるが、丸鋸部を後方側(ホルダ側)に移動させた際には、ガイドバーがホルダより後方側にベース部から後方端部が離れるように突出する(特許文献1)、あるいはホルダがベース部から離れるように移動する(特許文献2)ものであった。
【0005】
このため、ホルダの反ベース側すなわち後方側に壁や物等がある状態では切断作業を行うことができず、狭い場所での作業性が悪いものであった。
【0006】
なお、卓上丸鋸を持ち運ぶ際には、通常丸鋸部を前方側に移動させ工具全体をコンパクト化した状態で持ち運ぶものであるが、この状態で壁や物の近傍にホルダが位置するように卓上丸鋸を設置した際には丸鋸部を後方側に移動させることができず、切断作業を行うことができないものであり、卓上丸鋸の設置の際にはガイドバーやホルダの移動量を考慮する必要があり操作性が悪いものであった。また、上記のように卓上丸鋸を持ち運ぶ際には卓上丸鋸をコンパクト化させる作業が必要があり、操作性が悪いものであった。」
「【0008】
本発明の目的は、上記欠点を解消し、小型化を図ると共に、作業スペースが小さい、操作性の良い卓上切断機を提供することである。」

「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明は、被加工材を載置可能なベース部と、電動機を収納し、該電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、前記丸鋸刃の軸方向とほぼ平行な揺動軸により該丸鋸部を揺動可能に支持する支持部材と、前記丸鋸刃の軸方向にほぼ直交すると共に、前記ベース部上面に対してほぼ平行に延びる傾動軸を支点として前記丸鋸刃の両側面側に傾動可能なホルダと、前記ホルダに固定され、前記傾動軸とほぼ平行に延びるガイドバーを有するガイド部と、を有し、前記支持部材を前記ガイド部上で摺動可能な構成としたことに一つの特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、切断作業時にガイドバーがホルダから突出することや、ホルダがベース部から離れるように移動することがなく、製品の小型化を図ることができ、狭い場所等での切断作業が可能となると共に、摺動性及び操作性の向上を図ることができる卓上切断機を提供できるようになる。
【0011】
また、ガイドバーを2本設けると共に、両者を結ぶ仮想線が丸鋸刃側面に対してほぼ平行となるように配置することにより、丸鋸部揺動時に支持部材の摺動部及びホルダのガイドバーを固定する部分に加わる荷重に対する剛性を向上させることができると共に、持ち運び時にガイドバーに加わる荷重に対する剛性を向上させることができるようになる。
【0012】
また、少なくとも2本のガイドバーのホルダと反対側の端面には両者と係合する係合部材が設けられており、支持部材はホルダに当接することで丸鋸部のホルダ側への摺動が規制され、係合部材に当接することでホルダから離れる方向への摺動が規制される構成とすることで、容易に支持部材及び丸鋸部の抜け止めを行うことができるようになる。
【0013】
更に、電動機は丸鋸刃の側面の延長線と交差する部分を有するよう配置され、丸鋸部は電動機の回転力を丸鋸刃に伝達するためのベルト機構を有する構成とすることにより、丸鋸部における丸鋸刃の軸方向の寸法を小さくすることができるようになる。
【0014】
更に、電動機はその軸が丸鋸刃の軸方向とほぼ平行となるように配置されている構成とすることによって、丸鋸部及び卓上切断機本体の高さ方向寸法を小さくすることができるようになる。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明卓上切断機の一実施形態を図1ないし図8を用いて以下説明する。以下、卓上切断機を卓上丸鋸として説明する。
【0022】
図に示す本発明卓上丸鋸は、被加工材35を載置可能なベース部1、2と、電動機であるモータ21を収納し、モータ21の駆動により回動する丸鋸刃14を回動可能に支持する丸鋸部12と、丸鋸刃14の軸方向とほぼ平行な揺動軸11により丸鋸部12を揺動可能に支持する支持部材8とを有し、ベース部1、2上面に対する丸鋸刃14側面の角度を変更可能な構成をしている。
【0023】
ベース部は床面等に載置可能なベース1と、ベース1に埋設されベース1上面とほぼ面一となる上面を有し、上面に直交する回動軸を介して回動可能にベース1と連結されたターンテーブル2を有する構成をしている。作業時には、ベース部であるベース1及びターンテーブル2に被加工材35が載置可能となっている。」

「【0037】
図3に示すように支持部材8にはガイドバー7の軸方向と直交する方向に延びる揺動軸11が固定され、揺動軸11を介して支持部材8には丸鋸部12が連結されている(図1、図6)。」

「【0039】
また、揺動軸11外周にはスプリング13が設けられ、スプリング13によって丸鋸部12はベース部から丸鋸刃14が離れる方向(上方)に揺動するよう付勢されており、通常時には図示しないストッパ機構によって図1に示す最も上方(反ベース部側)に揺動した位置となる。切断加工は、スプリング13の付勢力に抗して丸鋸部12を揺動軸11を支点に下方(ベース部側)に揺動させることにより行なわれる。
【0040】
丸鋸部12を下方(ベース部側)に揺動させると、丸鋸刃14は図示しないターンテーブル2に設けられた溝部内に侵入し、所定量侵入した状態で図示しないストッパ機構によって図6に示すように揺動が停止される。
【0041】
本発明卓上丸鋸は、図6に示すように丸鋸部12をベース部側に揺動させた状態から丸鋸部12をホルダ5側に付勢することで、支持部材8がガイドバー7上を摺動し丸鋸部12及び丸鋸刃14がホルダ5側に移動しながら幅広の被加工材35の切断加工を行うことができる。
【0042】
丸鋸部12は、図8に示すようにギヤ16と回転固定された鋸刃軸部15を回転可能に支持し、鋸刃軸部15上に丸鋸刃14を回転固定されるよう取付け可能な構成をしている。また、ギヤ16と噛合うピニオン17aを有するプーリ軸17と、プーリ軸17と回転固定されたプーリ18と、丸鋸刃14の回転軸となる鋸刃軸部15と平行に且つ丸鋸刃14側面の延長線と交差するように配置されたモータ21と、モータ軸22と回転固定されたプーリ23と、プーリ18及びプーリ23に巻き付きモータ軸22の回転力をプーリ18に伝達するための伝達ベルト24とを有している。本発明ベルト機構は伝達ベルト24、プーリ18、23によって構成される。」

「【0048】
また、モータハウジング25には丸鋸部12が図6に示すように最もベース部側に近づくように揺動した際に把持部がガイドバー7の軸方向とほぼ平行となる形状をしたサブハンドル36が設けられていると共に、最下方に揺動した状態で支持部材8と丸鋸部12との揺動を固定する図示しない固定手段が設けられている。前記固定手段を動作させ、サブハンドル36を持って持ち運びを行なえば持ち運びが容易に行うことができるようにしている。」
「【0050】
また、ガイドバー7は、丸鋸部12がベース部上面から最も離れた上方位置に揺動している状態で、丸鋸刃14の回動軸の延長線と近接する位置に位置し、丸鋸部12がベース部上面に最も近づく下方位置に揺動している状態(図6の状態)ではハンドル26との丸鋸刃14の回動軸方向の距離が小さくなる位置に設けられて、ガイドバー7が工具全体の高さ方向寸法に影響をきたさず小型化を阻害するものではないと共に、丸鋸部12が下方位置にある切断加工時の摺動操作をよりスムーズに行うことができるようになっている。
【0051】
モータ21は上述したように丸鋸刃14側面の延長線と交差する部分を有するよう配置され、丸鋸部12はモータ25の回転力を丸鋸刃14に伝達するためのベルト機構を有する構成となっていることによって、丸鋸部12における丸鋸刃14の軸方向の寸法を小さくすることができるようになり、これによって図4に示すようにガイドレバー7側にホルダ5及び丸鋸部12を傾斜させる構成とすることができ、左右方向に45度傾斜可能な構成となっている。」

図1

図6



2. 当審の判断
本件補正によって補正された本件特許請求の範囲の請求項1で特定される事項は、上記第4、1.(2)に記載した構成を包含するものである。
そこで、以下に検討する。

ア.願書に最初に添付された【図1】、【図6】
上記本件補正事項のうち、「丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上方より下方に位置する」点は、本件当初明細書に明記されていない。
願書に最初に添付された【図1】は、丸鋸部12が「スプリング13によって丸鋸部12はベース部から丸鋸刃14が離れる方向(上方)に揺動するよう付勢されており、通常時には図示しないストッパ機構によって図1に示す最も上方(反ベース部側)に揺動した位置」(甲第2号証、段落【0039】)にある状態を図示したものであり、【図6】は、「丸鋸部12がベース部上面に最も近づく下方位置に揺動している状態(図6の状態)」(甲第2号証、段落【0050】)である。
【図1】を見ると、点線で図示された二本のガイドバー7の両方が、実線で図示された丸鋸部12に収納されるモータ21よりも下方に位置することが看取できる。【図6】を見ると、二本のガイドバー7の両方が、モータ21の図上最上端よりも下方に位置することが看取できる。
そうすると、本件補正事項のうち、上記当初明細書において明記されていない事項は、願書に最初に添付された図面から看取できるものであるから、実質的に記載されている、ということができる。

イ. 本件当初明細書段落【0050】
本件当初明細書には、「ガイドバー7は、丸鋸部12がベース部上面から最も離れた上方位置に揺動している状態で、丸鋸刃14の回動軸の延長線と近接する位置に位置し、丸鋸部12がベース部上面に最も近づく下方位置に揺動している状態(図6の状態)ではハンドル26との丸鋸刃14の回動軸方向の距離が小さくなる位置に設けられて、ガイドバー7が工具全体の高さ方向寸法に影響をきたさず小型化を阻害するものではない」(甲第2号証、段落【0050】)との記載がある。この記載に対し、請求人は、以下のとおり主張している。

「段落【0050】の『ガイドバー7が工具全体の高さ方向寸法に影響をきたさず小型化を阻害するものではない』との記載は、段落【0050】前段の『ガイドバー7は、丸鋸部12がベース部上面から最も離れた上方位置に揺動している状態で、丸鋸刃14の回動軸の延長線と近接する位置に位置し』という構成を採用したことにより奏する作用を記載したものであり、段落【0050】の後半の『丸鋸部12がベース部上面に最も近づく下方位置に揺動している状態(図6の状態)ではハンドル26との丸鋸刃14の回転軸方向の距離が小さくなる位置に設けられ』の構成を採用したことにより奏される効果とは理解されない」(口頭審理陳述要領書(請求人)、5ページ22行ないし6ページ2行)

この請求人の主張について以下に検討する。
本件当初明細書には、発明が解決しようとする課題として、「卓上丸鋸を持ち運ぶ際には卓上丸鋸をコンパクト化させる作業が必要があり、操作性が悪い」(甲第2号証、段落【0006】)と記載されている。一方、「モータハウジング25には丸鋸部12が図6に示すように最もベース部側に近づくように揺動した際に把持部がガイドバー7の軸方向とほぼ平行となる形状をしたサブハンドル36が設けられていると共に、最下方に揺動した状態で支持部材8と丸鋸部12との揺動を固定する図示しない固定手段が設けられている。前記固定手段を動作させ、サブハンドル36を持って持ち運びを行なえば持ち運びが容易に行うことができる」(甲第2号証、段落【0048】)との記載もあるから、上記【図6】に示された丸鋸部12の揺動位置は、卓上丸鋸を持ち運ぶ際のものでもある。そして、上記段落【0006】の記載から、そうした持ち運ぶ際の状態は、コンパクトであることが求められる。
上記本件当初明細書記載の「ガイドバー7が工具全体の高さ方向寸法に影響をきたさず小型化を阻害するものではない」は、コンパクトであることが求められる上記【図6】に示された卓上丸鋸を持ち運ぶ際の丸鋸部12の揺動位置に対しての記載でもあると解することが相当である。

ウ. 「モータ25」について
請求人は、本件当初明細書等の【図6】につき、以下のとおり主張している。

「図6に丸鋸部12が最下方にあるときに第1及び第2のガイドバーより上方に丸鋸部の上端が位置するものが記載されているとしても、それは丸鋸刃の駆動機構にベルト伝動機構を採用した場合の図であると認識するだけであって、丸鋸刃の駆動機構にベルト伝動機構以外の動力伝達機構を一般的に採用した場合でも『丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置』された発明が開示されているとは認識しません。換言すれば、明細書に開示された『ベルト伝動機構』という構成を離れて、いかなる動力伝達機構であっても、モータ、丸鋸部12の上端がガイドバ-7の上にくるように構成し、何らかの技術的な効果を生じさせるという技術思想は図6には開示されていません。」(口頭審理陳述要領書7ページ7ないし16行)

この請求人の主張について、以下に検討する。
丸鋸刃の駆動機構にベルト伝動機構を採用したことによる作用・効果として、本件当初明細書には、「電動機は丸鋸刃の側面の延長線と交差する部分を有するよう配置され、丸鋸部は電動機の回転力を丸鋸刃に伝達するためのベルト機構を有する構成とすることにより、丸鋸部における丸鋸刃の軸方向の寸法を小さくすることができるようになる」(甲第2号証、段落【0013】)と記載されている。
一方、本件当初明細書には、「電動機はその軸が丸鋸刃の軸方向とほぼ平行となるように配置されている構成とすることによって、丸鋸部及び卓上切断機本体の高さ方向寸法を小さくすることができるようになる」(甲第2号証、段落【0014】)との記載もある。
そうすると、電動機の回転力を丸鋸刃に伝達する機構として「ベルト機構」を採用したことによる技術的意義は、「丸鋸部における丸鋸刃の軸方向の寸法を小さくすることができる」ことであって、本件補正事項と関連する「丸鋸部及び卓上切断機本体の高さ方向の寸法を小さくすることができる」のは、ベルト機構も含まれる、「電動機はその軸が丸鋸刃の軸方向とほぼ平行となるように配置されている構成」を採用することによるものであると解するのが自然である。
ここで、二本のほぼ平行に配置された軸の間で回転力を伝達する機構としては、ベルト機構以外にも、歯車列によるもの等が、従来より慣用されている。さらに、電動機の軸と電動機により回転される軸とを平行に配置せずに、ベルトや歯車列等を適宜用いて回転力を伝達する機構も、従来より慣用されている。そうすると、上記本件当初明細書の記載とあわせて上記【図6】に接したならば、請求人の上記主張のように、「明細書に開示された『ベルト伝動機構』という構成を離れて、いかなる動力伝達機構であっても、モータ、丸鋸部12の上端がガイドバ-7の上にくるように構成し、何らかの技術的な効果を生じさせるという技術思想は図6には開示されてい」ないとまでいうことはできない。
また、請求人が、平成26年4月16日付け弁駁書において主張するような、「当初明細書等には、「電動機がその軸が丸鋸刃の軸方向とほぼ平行となるように配置される構成」のものしか開示されていなかったのです、電動機がどのように配置されるものでもよい発明は記載されていなかったのです」(弁駁書24ページ12ないし15行)とまでいうこともできない。

以上のとおりであるから、本件補正事項は、上記ア及びイ.で検討したとおり、本件当初明細書等において実質的に記載されているということができ、上記ウ.で検討したとおり、丸鋸刃の駆動機構としてベルト伝動機構に限定されるべきものでも無い。
よって、平成24年8月22日付け手続補正書による補正は、新たな技術的事項を導入するものということはできない。

3. 無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、平成24年8月22日付け手続補正に係る本件補正事項は、本件当初明細書等に記載された事項の範囲内であるから、本件訂正特許発明は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対して特許されたものということはできず、特許法123条第1項第1号に該当しない。

第6 無効理由2についての当審の判断

1. 各書証の記載事項、各書証記載の発明及び各書証記載の技術的事項

(1)甲第6号証について

ア. 甲第6号証の記載
甲第6号証には、「Compact Sliding Compound Mitre Saw」(小型な摺動複合マイターソー)に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の日本語は、主に請求人による英和仮訳である(以下、同様)。
摘記箇所を示すページ数は、各ページ右上記載の「Page」の数に依った。摘記箇所を示す行数は、空白行及び各ページ最上部にある「Compact Sliding Compound Mitre Saw.」とページ数を記載した行は含まない(空白行を行数に含めない点は、以下同様)。

(ア) 17ページ3行ないし18ページ11行
「1. A sliding pivot arm saw, including a fixed slide rail system, comprising in combination
a main table, defining a base for the saw, and having a flat top working surface for holding materials to be cut,
a pivot arm tower, defining a vertical mount, attached to said table,
two slide rails, defining two straight elongated rails, arranged in parallel, said rails mounted rigidly at their backward ends to the top end of said pivot arm tower to be parallel to said working surface, and oriented to reach forward across said working surface,
a pivot arm carriage, defining a provision for mounting bearings on both sides, each bearing on one side parallel to the bearings on the other side, said bearings in combination slideably disposed on said two slide rails in combination to allow said carriage linear travel only, said provision further having a pivot mount for which the axis of rotation or long axis is square to the long axis of said slide rails, and parallel to said working surface,
a pivot arm, defining an elongated arm, the backward end of which is provided with a pivot means to mate with and engage said pivot mount on the pivot arm carriage to allow arcing motion only for said pivot arm within limits, on a plane which is square to said axis of rotation of said pivot mount on the said carriage and thus parallel to the linear travel of the said carriage,
a saw mount, defining a housing to rotatably support a shaft on bearings which allow rotating motion only for said shaft, and further including a drive to rotate said shaft, on an axis which is parallel to the axis of said pivot means on said pivot arm,
a circular saw, mounted on said shaft of said saw mount,
a chop travel limit stop, defining a means to limit the downward arcing of said pivot arm,
a handle, rigidly attached to said saw mount, to operare the saw,
a fence, attached to the main table, to retain material to be cut, whereby a sliding pivot arm saw is provided with rigidly attached slide rails.」
(1.固定スライドレールシステムを含む摺動ピボットアームソーであって、組合せにおいて、
のこぎりのための基部を画成し、被切断材料を保持するための平坦な頂部作業面を有する主作業台と、
垂直マウントを画成し、前記作業台に取り付けられたピボットアームタワーと、
2本のまっすぐな細長いレールを画成し、平行に配置された2本のスライドレールと、
前記レールは、前記作業面に平行であるように前記ピボットアームタワーの頂端にそれぞれの後端で剛直に取り付けられ、そして前記作業面にわたって前方に及ぶように向けられており、
ベアリングを両側で取り付けるための備えを画成するピボットアームキャリッジと、
片側の各ベアリングは他方側のベアリングと平行であり、組合せの前記ベアリングは、前記キャリッジの線形行程だけを可能にするために組合せの前記2本のスライドレールに摺動可能に配設されており、前記備えは、その回転軸または長軸が前記スライドレールの長軸と直角であり、かつ前記作業面に平行であるピボットマウントをさらに有しており、
細長いアームを画成するピボットアームと、
その後端には、前記キャリッジの前記ピボットマウントの前記回転軸と直角であり、それゆえ前記キャリッジの線形行程に平行な平面において前記ピボットアームだけの円弧運動を限度内で可能にするために、ピボットアームキャリッジの前記ピボットマウントと嵌合し係合するピボット手段を備えており、
前記シャフトだけの回転運動を可能にするベアリングでシャフトを回転自在に支持するハウジングを画成し、そして前記ピボットアームの前記ピボット手段の軸に平行な軸において前記シャフトを回転させる駆動装置をさらに含むのこぎりマウントと、
前記のこぎりマウントの前記シャフトに取り付けられた丸のこと、
前記ピボットアームの下方円弧運動を制限する手段を画成する切断行程制限ストップと、
前記のこぎりマウントに剛直に取り付けられのこぎりを操作するためのハンドルと、
主作業台に取り付けられ、被切断材料を保持するためのフェンスとを備えており、
それによって摺動ピボットアームソーは剛直に取り付けられたスライドレールを備える、摺動ピボットアームソー。)

(イ) 18ページ12ないし15行
「2. A sliding pivot arm saw in accordance with claim 1 for which said fence is provided with a vertical axis pivot, including locking means for same,
whereby a sliding pivot arm mitre saw is provided.」
(2.前記フェンスは垂直ピボットを備えており、同品のためのロック手段を含み、
それによって摺動ピボットアームマイターソーが提供される、請求項1に記載の摺動ピボットアームソー。)

(ウ) 18ページ16ないし26行
「3. A sliding pivot arm mitre saw in accordance with claim 2 wherein said pivot arm tower is provided with a bevel pivot means at its bottom end, said means having an axis of rotation which is parallel to the centerplane of said circular saw and also parallel to the top working surface of said main table, and wherein the main table is provided with a bevel pivot means to engage said bevel pivot means of said pivot arm tower to allow planar rotating travel within limits of said pivot arm tower in a plane which is square to the linear travel of said carriage, and further including a means to lock said bevel pivot means to said main table,
whereby a sliding pivot arm compound mitre saw is provided.」
(前記ピボットアームタワーはその底端にベベルピボット手段を備えており、前記手段は前記丸のこの中心平面に平行であるとともに前記主作業台の頂部作業面にも平行である回転軸を有しており、主作業台は、前記キャリッジの線形行程に直角である平面において前記ピボットアームタワーの限度内のプレーナ回転行程を可能にするために前記ピボットアームタワーの前記ベベルピボット手段と係合するベベルピボット手段を備えており、そして前記ベベルピボット手段を前記主作業台に固定する手段をさらに含み、
それによって摺動ピボットアーム複合マイターソーが提供される、請求項2に記載の摺動ピボットアームマイターソー。)

(エ) 8ページ3ないし7行
「A "saw" is a circular blade mounted on a rotating shaft, the "arbor", capable of severing, named the "cut", a piece of material in two pieces, the whole piece being the "cut member". The arbor has a gear at one end, which is driven by a pinion gear on the motor; this arrangement is a "direct drive",」
(「のこぎり」は回転シャフトである「アーバ」取り付けられ、1片の材料を2つの部片に分断することができ、すなわち指定された「切断」が可能な、円形の刃であり、部片全体は「被切断部材」である。アーバは一端に、モータのピニオンギヤによって駆動される歯車を有し、この構成は「直接駆動」である。)

(オ) 8ページ19ないし23行
「If a cut is square to all surface of the cut member, it is a “straight” cut. If square to the top and bottom, but not to the edges, it is a “mitre” cut. If square to the edges, but not to the top and bottom, it is a “bevel” cut. If neither square to top and bottom nor the edges, it is a “compound” cut.
(切り口が被切断部材の全部の表面に直角であれば、それは「垂直」切断である。上面及び底面に直角であるが端面にはそうでない場合、それは「留継ぎ」切断である。端面に直角であるが上面及び底面にはそうでない場合、それは「ベベル」切断である。上面および底面にも端面にも直角でない場合、それは「複合」切断である。)

(カ) 10ページ7ないし10行
「In both cases of the existing art of sliding compound mitre saws the pivot arm is longer than in the conventional arrangement, to create a deeper “throat depth”, necessary to accommodate the wider lumber for which these saws are intended.」
(摺動複合マイターソーの現行技術の両者の場合において、ピボットアームは従来の構成におけるよりも長く、これらののこぎりが意図されるより幅広の木材に対応するために必要な深い「のど深さ」を生じる。)

(キ) 11ページ11ないし18行
「The generic name for a complete saw of the kind described is a “sliding pivot arm saw”, since all combine ne the motion of an arc provided by a pivot arm with the ability, if desired, to move the saw linearly. The complete package of saw and its drive is the “saw mount”. The combined ability of a mitre and a bevel cut makes the complete saw a “sliding pivot arm compound mitre saw”; if bevel cut ability is excluded, the saw is a “sliding pivot arm mitre saw”.」
(上述の形式の完全なのこぎりの一般名は、全部が、必要に応じてのこぎりを直線上に移動させる能力を備えるピボットアームによって付与される円弧の動きを結合することから、「摺動ピボットアームソー」である。のこぎり及びその駆動装置の完全なパッケージは「のこぎりマウント」である。留継ぎおよびベベル切断の組合わせ能力は完全なのこぎりを「摺動ピボットアーム複合マイターソー」にし、ベベル切断能力が除外された場合、のこぎりは「摺動ピボットアームマイターソー」である。)

(ク) 13ページ1ないし7行
「FIG. 4 is a vertical cross section, taken on the centerplane of the saw, showing the main novel feature of the invention, namely two cantilevered rigidly mounted slide rails attached at their backward ends to a vertical extension of the bevel pivot, the bevel pivot tower, and provided with a pivot arm carriage, slideably mounted on the fixed slide rails, form which the saw unit is suspended via a conventional pivot arm rigidly attached to the gearcase of the direct drive. This embodiment has also many of the advantages of the conventional radial arm saw.」
(図4は、のこぎりの中心平面で得られる垂直断面図であり、本発明の主要な新規の特徴、すなわち2本の片持ちにされ剛直に取り付けられたスライドレールを図示しており、スライドレールはそれぞれの後端でベベルピボットの垂直拡張部、ベベルピボットタワーに取り付けられ、固定スライドレールに摺動可能に取り付けられたピボットアームキャリッジを備えており、そこからのこぎりユニットが直接駆動の歯車箱に剛直に取り付けられた従来のピボットアームによって垂下されている。この実施形態はまた、従来のラジアルのこ盤の利点の多くを有する。)

(ケ) 13ページ8ないし18行
「FIG. 5 is a cross section, of the novel pivot arm carriage having outboard linear axial bearings slideable mounted on fixed cantilevered slide rails, also showing the carriage clearance, in this case 33/4(当審注:原文は、3と4分の3を帯分数で記載している。以下同様) inches, in the 45 degrees bevel position, in phantom outline, all taken on a plane labelled A A in Fig. 4. It is understood that normally dimensional relationships, even if novel, do not affect patentability, but in the case of tools like sliding compound mitre saw, component relationships particularly dimension wise, effect marketability greatly, since compactness is a prime prerequisite for portable tools; portability is the key and any serious protrusions are a detriment. In this invention, the slide rails do not protrude beyond the envelop size required to complete the cut. All figures are drawn to scale and for the identical capacity of 14 inches wide material,」
(図5は、固定の片持ちにされたスライドレールに摺動可能に取り付けられた機外リニアアキシャルベアリングを有する新規なピボットアームキャリッジの断面図であり、45度のベベル位置においてこの場合3と4分の3インチであるキャリッジクリアランスをファントム輪郭線で示しており、すべて図4においてAAで表記された平面で得られる。通常、寸法関係は、たとえ新規であるとしても、特許性に影響を及ぼさないが、摺動複合マイターソーのような工具の場合、小型さが可搬型工具の主要な必要条件である、すなわち可搬性が鍵であり、あらゆる重大な突出も不利益であるので、特に寸法関係の構成要素の関係は市販可能性に大きく影響を及ぼすことが理解される。この発明において、スライドレールは、切断を完了するために要求される包絡面の大きさを越えて突出しない。全部の図は、縮尺に従って、14インチ幅材料の同一容量について描かれている。)

(コ) 14ページ2ないし9行
「Turning now to FIG, 4. there is shown a vertical cross section, taken on the centerplane of saw 12, of a preferred embodiment of the invention. Sliding compound mitre saw 10 includes a saw mount 11, a circular saw 12, a rigidly attached (to saw mount 11,) pivot arm 13, a pivot arm pivot 14, a pivot arm carriage 15, slideably mounted on cantilevered forward pointing rigidly attached slide rails 20 via outboard mounted integrally attached linear axial bearings 31, having downward oriented ears to pick up pivot arm pivot 14 in a manner which allows true planar travel within limits for saw 12 only.」
(ここで図4に注目すれば、本発明の好ましい実施形態ののこぎり12の中心平面で得られる垂直断面図が示されている。摺動複合マイターソー10は、のこぎりマウント11、丸のこ12、(のこぎりマウント11に)剛直に取り付けられたピボットアーム13、ピボットアームピボット14、のこぎり12だけの限度内の真平面行程を可能にする様態でピボットアームピボット14を取り上げる下向きの耳を有する、機外取り付けされた一体取付けリニアアキシャルベアリング31を介して片持ち式の前向きの剛直取付スライドレール20に摺動可能に取り付けられたピボットアームキャリッジ15を含む。)

(サ) 14ページ13ないし20行
「From the high rest position the saw must be brought down, by pushing handle 36, to a level whereby the top surface of saw mount 11 just slides underneath the free forward ends of slide rails 20, at which level this embodiment has a 33/4 inch maximum capacity, which is also the maximum capacity of the 10 inch dia. saw blade shown. Unlike known existing art in some cases, the invention therefore does not reduce the capacity of the saw blade. Similarly, when the saw is adjusted for a maximum bevel of 45 degrees, saw carriage 15 clears the working surface by 33/4 inches, as shown in phantom outline in Fig. 5.」
(高位休止位置から、のこぎりは、ハンドル36を押すことによって、のこぎりマウント11の上面がスライドレール20の自由前端の下でまさに摺動するレベルまで下げられなければならず、そのレベルにおいてこの実施形態は3.75インチの最大能力を有しており、それはまた図示された10インチ径のこ刃の最大能力でもある。従って本発明は、一部の場合の既知の現行技術と異なり、のこ刃の能力を低減しない。同様に、のこぎりが45度の最大ベベルに調整された場合、ソーキャリッジ15は、図5においてファントム輪郭線で図示されたように、3と4分の3インチ分、作業面をクリアする。)

(シ) 14ページ20ないし25行
「Returning now to Fig. 4 slide rails 20 are press fitted in the top end of pivot arm tower 37, which is approximately symmetrically disposed above bevel pivot ring 38, which may rotate within limits about bevel pivot 16, which has an axis of rotation or long axis which lies on the centerplane of saw 12 as well as lying on the spacial extension of the working surface of the saw.」
(ここで図4に戻って、スライドレール20はピボットアームタワー37の頂端に圧入されており、ピボットアームタワーは前記ベベルピボットリング38の上方にほぼ対称に配設されており、ベベルピボットリングはベベルピボット16に関して限度内で回転することができ、ベベルピボットはのこぎり12の中心平面ばかりでなくのこぎりの作業面の空間的広がりにも位置する回転軸または長軸を有する。)

(ス) 14ページ26-30行
「Pivot arm tower 37 is manually locked rigid to the working surface by tightening screw clamping means 17, which is prevented from being loosened too far by a locknut on pivot 16 as shown. Bevel pivot ring 38 mates with and engages a matching machined planar surface on bevel pivot boss 18, which is rigidly attached to rotunda 21.」
(ピボットアームタワー37はねじクランプ手段17を締めることによって作業面に手動で剛直に固定され、ねじクランプ手段は図示の通りピボット16の止めナットによって過度に遠くまで緩められないようにされている。ベベルピボットリング38は、ロタンダ21に剛直に取り付けられたベベルピボットボス18の対応する機械仕上げプレーナ表面と嵌合し係合する。)

(セ) 15ページ9-10行
「Pivot arm carriage 15 is prevented from running off slide rails 20 by slide rail end stop 32.」
(ピボットアームキャリッジ15は、スライドレール端ストップ32によってスライドレール20から外れないようにされている。)

(ソ) 15ページ36行ないし16ページ14行
「Turning now to FIG. 7, there is shown a cross section of the preferred embodiment of the invention, taken on the centerplane of the saw, except for the slide rails and pivot arm carriage, for which a sideview in the same direction as the rest of the drawing is shown. The description and numerals given for Fig. 4 applies, except as follows; slide rails 20 are in a stacked arrangement on the side of circular saw 12 on the opposite side of saw mount 11. This has the advantage over the embodiment of Fig. 4 of allowing saw mount 11 to be raised to any position desired, within limits, and be locked in a raised position by adjusting a screw in chop travel limit stop 35. This makes limited depth cuts simple. Pivot arm 13 is pivotably mounted on an outboard extension of pivot arm carriage 15, which simply comprises a pair of sleeves for mounting linear axial bearings 31, said sleeves connected together by an integral web and having an outboard mount for pivot arm pivot 14, as shown in Fig. 8. In addition to the advantage described above, this embodiment has the advantage of allowing a robust bridge, slide rail end stop 32, to rigidly connect the ends of slide rails 20 together for improved overall rigidity of linear guidance means for carriage 15.」
(ここで図7に注目すれば、のこぎりの中心平面で得られる本発明の好ましい実施形態の断面図がスライドレールおよびピボットアームキャリッジを除いて図示されており、それらについては図面の残りと同じ方向での側面図が図示される。図4に提示された説明および数字が適用されるが、次の点が異なる。すなわち、スライドレール20は、のこぎりマウント11の反対側の丸のこ12の側にスタック構成で存在する。これは、のこぎりマウント11を、限度内でいずれかの所望の位置まで持ち上げ、切断行程制限ストップ35のねじを調整することによって持ち上げ位置に固定することを可能にするという図4の実施形態に優る利点を有する。これは限定された深さの切断を単純にする。ピボットアーム13はピボットアームキャリッジ15の機外拡張部にピボット式に取り付けられており、それは単にリニアアキシャルベアリング31を取り付けるための1対のスリーブよりなり、前記スリーブは一体ウェブによって一緒に連結され、図8に図示の通り、ピボットアームピボット14のための機外マウントを有する。上述の利点に加えて、この実施形態は、頑丈なブリッジ、スライドレール端ストップ32が、キャリッジ15の線形案内手段の向上した全剛性を得るためにスライドレール20の端を一緒に剛直に連結することを可能にするという利点を有する。)

(タ) FIG.7ないし9
FIG.7ないしFIG.9には、スライドレール20が直接駆動ユニットの反対側にある実施形態が示されており、2本のスライドレール20の軸心を結ぶ線が丸のこ12の側面に平行であり、かつ、丸のこ12の側面から離れていることが看取できる。
また、FIG.7から、丸のこ12の下端が主作業台24及びロタンダ21の頂部作業面よりも下方に位置した状態で、丸のこ12の上端よりも、下側のスライドレール20が下方に配置されている点、看取できる。
そして、FIG.9には、丸のこ12を挟んで、一方側に上側及び下側のスライドレール20を配置すると共に、他方側にモータを配置した点、看取できる。
さらに、ピボットアームタワー37が直接駆動ユニットと反対側に45°傾斜した線がファントム輪郭線で示されている点、看取できる。

イ. 甲6発明
上記摘記事項(ア)ないし(ソ)、FIG.7ないし9及び認定事項(タ)から、甲第6号証記載の事項を技術常識を考慮して本件訂正特許発明1に沿って整理すると、甲第6号証には、以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。

「被切断部材を支持可能な主作業台24及びロタンダ21と、
モータを含み、前記モータの駆動により回動する丸のこ12を回動可能に支持するのこぎりマウント11と、
前記丸のこ12の軸方向と平行なピボットアームピボット14を支点として該丸のこ12を所定の最上位位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持するピボットアームキャリッジ15と、
前記丸のこ12の軸方向と直交するとともに、前記主作業台24の頂部作業面に対して平行に延びる回転軸を支点として傾動し、前記丸のこ12の側面を、前記主作業台24の頂部作業面に対して垂直な位置から傾動可能なピボットアームタワー37と、
前記主作業台12及びロタンダ21に対する前記ピボットアームタワー37の傾動を規制するねじクランプ手段17と、
前記ピボットアームタワー37に固定されると共に、前記ピボットアームタワー37から前記主作業台24及びロタンダ21に延在する上側及び下側のスライドレール20とを有し、
前記ピボットアームキャリッジ15を前記スライドレール20に沿って摺動可能とした小型な摺動複合マイターソーにおいて、
前記上側及び下側のスライドレール20の軸心を結ぶ平面が、前記丸のこ12側面に対して平行で、且つ、前記丸のこ12側面から離間して配置され、
前記丸のこ12を挟んで一方側に前記上側及び下側のスライドレール20を配置すると共に、他方側に前記モータを配置し、
前記上側及び下側のスライドレール20の前記ピボットアームタワー37と反対側の端面には両者と係合するスライドレール端ストップ32が設けられており、前記ピボットアームキャリッジ15は前記ピボットアームタワー37に当接することで、前記のこぎりマウント11の前記ピボットアームタワー37側への摺動が規制され、前記スライドレール端ストップ32に当接することで、前記ピボットアームタワー37から離れる方向への摺動が規制され、
前記ピボットアームタワー37を、前記上側及び下側のスライドレール20が設けられた側に45°傾動したときにも、該スライドレール20は、主作業台及びロタンダ21に接触しない高さ位置に配置される、
前記上側のスライドレール20が挿入される上側の貫通孔、及び前記下側のスライドレール20が挿入される下側の貫通孔を、前記ピボットアームキャリッジ15に設け、
た摺動ピボットアーム複合マイターソー」

(2)甲第7号証について
甲第7号証には、「滑り複式マイターソー用支持組立体」に関し、図面とともに以下の事項(以下、「甲7記載事項」という。)が記載されている。

(ア) 段落【請求項1】
「【請求項1】ベース、
垂直軸を中心に回転自在に前記ベース上に取り付けられた回転台で、その上に被加工物を支持するほぼ平面状の回転台支持面を有する回転台、
前記回転台上に一体移動可能に取り付けられた縦方向に延びる支持シャフトで、前記回転台支持面と同一平面の縦方向のベベル角軸を有する支持シャフト、及び前記回転台に対して接近及び離反する縦方向移動と前記回転台に対して前記ベベル角軸を中心とした回転動が自在可能に前記支持シャフトに取り付けられた切断ユニット、
を備える滑り複式マイターソー。」

(イ) 段落【0024】、【0025】
「【0024】添付の図面中図1に、本発明を実施した滑り複式マイターソー10が示してある。滑り複式マイターソー10はベース14を有する。ベース14は支台18を備え、支台18はマイターソー10をある一面上に支持するための4本の脚22(そのうち2本だけが図1に示してある)、上面26及び下面30(図2と図3にだけ示す)を有する。・・・(以下略)・・・
【0025】ベース14は、垂直軸60を中心に旋回動自在に支台18上に装着された回転台58を備えている。回転台58は上面62を有する。支台18、ベース延長部50及び回転台58の各上面26、54及び62が協働して、被加工物をその切断中支持する滑らかな、連続状の被加工物支持面を形成する。・・・(以下略)・・・」

(ウ) 段落【0031】、【0032】
「【0031】図1と図6に最も明瞭に示してあるように、ベース14は回転台58上に取り付けられた主支持シャフト226も備えている。主支持シャフト226は、クロムメッキした硬化ヘビーゲージ鋼管である。主支持シャフト226の一端230で、その一部が切除され、一対の貫通孔234(図1のみ)を有するスプーン状部材を形成している。ネジ(図示せず)が各孔を通して下方に差し込まれ、回転台58の上面62内へと延び、主支持シャフト226を回転台58に固定している。また主支持シャフト226は他端238(図7に想像線で示す)を備え、両端230と238間に延びた軸心242(図7のみ)を有する。好ましい実施例において、軸心242は回転台58の上面62と同一平面上にある。
【0032】ベース14は、両端250(図6)と254(図14)を有する補助支持シャフト246も備えている。補助支持シャフト246は、クロムメッキした硬化鋼管である。支持部材258と補助支持シャフト246の一端250は、補助支持シャフト246と支持部材258を貫き回転台58の上面62内へと延びる2本の締付具(図示せず)によって、主支持シャフト226の一端230近くで回転台58の上面62に固定されている。」

(エ) 段落【0034】
「【0034】滑り複式マイターソー10は、切断ユニット294(図1)も備えている。切断ユニット294は、主支持シャフト226に取り付けられたベベル支持体298を有する。図12に最も明瞭に示してあるように、ベベル支持体298は第1及び第2の支持部302と306を有する。両支持部302と306は一体に結合されて縦方向に延びた孔310を形成し、主支持シャフト226が孔310を貫いて延びている。孔310は縦方向に延びた軸心を有し、孔310の側壁は軸方向の両端部314(図7)を有し、各端部314にそれぞれ縦方向に延びた7つの貝殻状凹部(スカロップ)318(図12)が形成されている。また孔310は、両端部314の内径よりわずかに大きい内径を有するほぼ滑らかな円筒状中央部322を備えている。」

(オ) 段落【0041】、【0042】
「【0041】切断ユニット294は、補助支持体434の前面に取り付けられた滑りロック542(図6)も備えている。滑りロック542は切断ユニット294が両支持シャフト226と246に対して軸方向に滑るのを防止し、図15に示すように、取付タブ550を有する保持リング546を備え、保持リング546は取付タブ550によって補助支持体434に結合される。また保持リング546は延出部554を備え、ここに補助支持体434の軸心に対して半径方向に延びた貫通孔558が形成されている。浮動ピストン562が貫通孔558内に装着されている。ピストン562はディスク状ヘッド566を有する一端と、ディスク状ヘッド566より小さい球状ヘッド570を有する他端と、両ヘッド566と570間に延びた細い中央部もしくはシャフト574を備える。シャフト574は貫通孔558の内径より小さい外径を有し、一端(つまりディスク状ヘッド)566は貫通孔558の内径より大きい外径を有する。また滑りロック542は、貫通孔558にネジ込まれる止めネジ578を備えている。止めネジ578を締め付けると、ピストン562のディスク状ヘッド566が補助支持シャフト246に当接される。切断ユニット294を補助支持シャフト246に沿って軸方向に移動させようと試みると、ピストン562の長さ対ディスク状ヘッド566の比によってピストン562は傾こうとする(図16に想像線で示す)。ディスク状ヘッド566のエッジから球状ヘッド570までの直線距離はディスク状ヘッド566の中心から球状ヘッド570までの距離より常に大きいので、ピストンの傾き作用はディスク状ヘッド566のエッジを補助支持シャフト246の表面に対してのめり込ませつまりくさび作用で締め付け、切断ユニット294の補助支持シャフト246に対する移動を防止する。 【0042】図12を参照すれば、ベベル支持体298はベベル角軸242を中心として、被加工物の通常のマイター切断のため切断ユニット294が垂直方向を向いている垂直位置と、切断ユニット294が垂直方向から45゜の角度傾いている横方向において45゜のベベル角度との間で自由に旋回移動可能である。・・・(以下略)・・・」

(カ) 段落【0044】、【0045】
「【0044】図1に最も明瞭に示してあるように、滑り複式マイターソー1はソーアーム578も備えており、ソーアーム578はハウジング半体582と586を有すると共に、ヒンジピン594によってUリンク414と418間に結合されたヒンジ部590を備える。同様のヒンジピン及び取付構成は米国特許第5,265,511号に図示及び記載されており、同特許は参照によってここに包含されるものとする。ヒンジピン594は軸心598を有し、ソーアーム578はヒンジピンの軸心598を中心として切断位置と非切断位置との間で旋回する。・・・・(中略)・・・
【0045】さらに図1を参照すれば、ソーアーム578はソーモーター602を備え、ソーモータ602は心軸610を有する心棒606を備えている。モータ602を駆動すると、心棒606が心軸610を中心に回転する。鋸刃614が心棒606にそれと一体回転するように取り付けられ、2つの半体からなるハウジングが鋸刃614の上部を覆う上方刃ガード618を形成している。」

(キ) 段落【0050】、【0051】
「【0050】また滑り複式マイターソー10は、Uリンク414を貫いて延びるロック締付具(ボルト)722も備えている。ロックボルト722はヒンジピンを中心として、ソーアーム578の自由移動を可能とする引出位置から、滑り複式マイターソー10の輸送中ソーアーム578を切断位置に固定するロック位置へ移動可能である。
【0051】動作時、ロックボルト722を開放位置に引き出すと、ソーアーム578が非切断位置へ上昇可能となる。・・・(以下略)・・・」

(ク) 【図1】、【図17】
甲7記載事項である「滑り複式マイターソー」は、【図1】において、「鋸刃614」や「モータ602」を備える「ソーアーム578」が上方へ回動した状態において、「ソーアーム578」の上端よりも「支持シャフト226」や「補助シャフト246」が下方に位置する点看取できる。また、「切断位置にあるソーアーム」を図示した【図17】を見ると、「ソーアーム578」の上端は「Uリンク418」よりも上方に位置し、一方【図1】には、「Uリンク418」が「支持シャフト226」や「補助シャフト246」よりも上方に位置する点記載されているから、「ソーアーム578」が切断位置にあるときにも、「ソーアーム578」の上端よりも「支持シャフト226」や「補助シャフト246」は下方に位置する点も看取できる。

(3)甲第8号証について
甲第8号証には、「左右傾斜式鋸装置」に関し、図面とともに以下の事項(以下、「甲8記載事項」という。)が記載されている。

(ア) 段落【0002】ないし【0004】
「【0002】
【従来の技術】従来の左右傾斜式鋸装置については、実開平5-49301号公報及び特開平6-71602号公報等に、その構造が開示されている。このうち、特開平6-71602号公報に記載されている左右傾斜式鋸装置を図1乃至図3に示す。これらの図において、支持部材4には、被切削材を支持するための支持面4aが形成されている。また、揺動アーム6は、支持部材4に対して左右方向に、すなわち図3に示す矢印L,R方向に揺動可能に構成されている。さらに、鋸刃12は上下揺動部材10とスライドバー8を介して、揺動アーム6に取り付けられている。この鋸刃12の刃面は、揺動アーム6の揺動に追従して傾斜する。図2と図3に示すモータ14は、鋸刃12を駆動する駆動源である。
【0003】なお、図1乃至図3において、支持部材4はベース2に対して回動可能なターンテーブルとなっているが、支持部材4が固定されているタイプも存在する。また、図に示す鋸刃12と揺動アーム6の間にはスライドバー8と上下揺動部材10が介装されているが、スライドバー8がなくて揺動アーム6に上下揺動部材10が取り付けられているタイプや、上下揺動部材10がなくてスライドバー8に鋸刃12が取り付けられているタイプも存在する。さらには、揺動アーム6に直接鋸刃12が取り付けられることもある。最後のタイプでは被切削材が支持面上を送られる。
【0004】いずれのタイプにせよ、左右傾斜式鋸装置は、図3に示すように、揺動アーム6の揺動に追従して、鋸刃12が図面左側に傾斜させる左傾斜角12L、支持面4aに直交する中立角12C及び図面右側に傾斜させる右傾斜角12Rの間で相互に揺動可能となっている。」

(イ) 段落【0007】
「【0007】
【課題を解決するための第1の手段】請求項1に記載された発明は、被切削材を支持するための支持面が形成されている支持部材と、その支持部材に対して左右方向に揺動可能な揺動アームと、その揺動アームの揺動に追従して左右方向に傾斜可能な鋸刃と、その鋸刃を駆動する駆動源とを備えた左右傾斜式鋸装置において、前記支持部材には、前記鋸刃の左揺動限界角と右揺動限界角を規制する一対の左右ストッパと、前記鋸刃を前記支持面に直交する角に規制する中立ストッパとの三つのストッパが形成されており、前記揺動アームには、弾性力によって所定の方向に付勢されている一つの操作ピンが備えられており、その操作ピンは前記弾性力によって付勢された状態にあるときには前記三つのストッパに当接し、付勢されている方向に抗して前記操作ピンを移動させる操作を行うときには前記中立ストッパとの当接が回避される構成とする。」

(ウ) 段落【0013】ないし【0015】
「【0013】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。まず、第1の実施例について説明する。第1の実施例における全体構成は、図1乃至図3に示した左右傾斜式鋸装置とほぼ同様である。すなわち、支持部材4としてターンテーブルが用いられており、揺動アーム6と鋸刃12の間にスライドバー8と上動揺動部材10が介装されている。ただし、図1乃至図3に示した左右傾斜式鋸装置と異なるのは、次の二点である。すなわち、図4に示すように、ばねによって奥行き方向(図4において、図面右方向)に付勢されている操作ピン52が揺動アーム6に設けられている。さらに、詳細は後述するが、鋸刃12を支持面に対して所定の揺動角(例えば、ターンテーブルの水平面に対して90度,±45度等の角度)に調整する複数のストッパが支持部材4に設けられている。
【0014】次に、支持部材4と揺動アーム6のリンク構造について、図5を参照しつつ説明する。図5において、支持部材4の後端部4eに、揺動中心となるシャフト34が片持ち状に固定されている。また、支持部材4の後端部4eにはシャフト34を取り巻く円筒状の壁部4cが形成されており、壁部4cの後端面にシャフト34と同心の円周状ガイド面4bが形成されている。この円周状ガイド面4bには円周状の被ガイド面6aが摺接して形成されている。そして、揺動アーム6の基部と支持部材4の壁部4cには、シャフト34に挿入されるボス6c,4dがそれぞれ形成されている。このように形成された部材によって、揺動アーム6はシャフト34を揺動中心として揺動可能となっている。
【0015】シャフト34の端部にはネジ26が形成されており、このネジ26にワッシャ28を介してナット24が螺合している。また、ナット24はネジ50でハンドル20の軸部22に回り止めされている。ここで、ハンドル20を一方向に回転させると、ナット24が図面右方向に前進する。このナット24の前進によってワッシャ28が揺動アーム6の後面に圧接され、最終的には被ガイド面6aが円周状ガイド面4bと圧接することになる。このため、支持部材4に対する揺動アーム6の位置を固定させることが可能になっている。一方、ハンドル20を逆方向に回転させると、被ガイド面6aと円周状ガイド面4bの圧接状態が緩和されるので、再び揺動アーム6は揺動可能になる。」

(エ) 【図3】
図3には、従来の左右傾斜装置の正面図が示されており、「上下搖動部材10」に取り付けられた「鋸刃12」を「モータ14」で駆動することが示されている。また、モータ14の外形は、「支持面4a」に対して斜め上方に延びる形状であり、「鋸刃12」からみて「モータ14」側へ傾斜した14Rの位置においても、「支持面4a」に干渉しない形状であることが看取できる。また、「鋸刃12」の下端が「支持面4a」よりも下方へ達した位置であって、「支持面4aに直交する中立角12C」の位置においては、「モータ14C」の上端が、「鋸刃12C」の上端や「上下揺動部材10C」の上端よりも高い点、看取できる。

(4)甲第9号証について
甲第9号証には、「卓上切断機」に関し、図面とともに以下の事項(以下、「甲9記載事項」という。)が記載されている。

(ア) 【請求項1】、【請求項2】
「【請求項1】
被切削材を支持するベース後方に支持部材を設け、該支持部材の上方には、回転刃物と該回転刃物を回転駆動するモーターと切り込み用ハンドルとモーターを動作させるための主スイッチを配設した回転刃物部を、ベースに対し上下方向に揺動自在に軸支すると共に、前記支持部材に回転刃物部の揺動を固定するためのロックピンを配設した卓上切断機において、前記モータの電源を前記回転刃物部に着脱可能な電池としたことを特徴とする卓上切断機。
【請求項2】
前記回転刃物部は運搬用ハンドルを有することを特徴とする請求項1記載の卓上切断機。」

(イ) 段落【0002】
「【0002】
【従来の技術】
卓上切断機は、被切削材を支持するベース後方に支持部材を設け、支持部材の上方には、回転刃物と回転刃物を回転駆動するモーターと切り込み用ハンドルとモーターを動作させるための主スイッチを配設した回転刃物部を、ベースに対し上下方向に揺動自在に軸支すると共に、支持部材に回転刃物部の揺動を固定するためのロックピンを配設した構成をしており、卓上切断機本体の運搬時には、ロックピンによって回転刃物部の揺動を固定し、運搬用ハンドルやベースを持って運んでいる。」

(ウ) 段落【0007】、【0008】
「【0007】
図において、ベース1上面に被切削材14を支持するフェンス2を固定する。ベース1後端には支持部材3を立設する。支持部材3上方にシャフト4を支点として、ベース1上面に対し上下揺動自在の回転刃物部5が軸支されている。回転刃物部5は図示しないスプリングによって上方に付勢されている。また、支持部材3上方にはロックピン6が出し入れ自在に配設されており、回転刃物部5を下方に位置させたときに、回転刃物部5に設けた穴7にロックピン6を挿入することにより、回転刃物部5が固定できる。
【0008】
支持部材3上方にはロックピン6に係合する遮断スイッチ8を装着し、ロックピン6が穴7に挿入されたとき遮断スイッチ8の接点は開放の状態となる。回転刃物部5には、回転刃物9、回転刃物9を駆動するモーター10、図示しないモーター10の動力を回転刃物9へ伝達する伝達機構、電源となる電池11、切り込み用ハンドル12が配設されている。切り込み用ハンドル12には、モーター10を動作させるための主スイッチ13が配設されており、図5に示すようにモーター10と主スイッチ13と遮断スイッチ8の接点は回路上直列に接続されている。」

(エ) 【図1】、【図2】
【図1】には、「ハンドル12」が設けられていることに加えて、「電池11」の上側にハンドル状のものが看取できる。

(5)甲第10号証について
甲第10号証には、「スライド機構のストッパ装置」に関し、図面とともに以下の事項(以下、「甲10記載事項」という。)が記載されている。

(ア) 段落【0016】、【0017】
「【0016】さて、本実施形態に係るストッパ装置20は、2本のスライドバー5,5のうち一方についてのみ設定されている。なお、両スライドバー5,5について以下説明するストッパ装置20を設定してもよいことは言うまでもない。両軸受6,6は、テーブル2の下面に形成した円筒形状の保持筒部2aの内周側に相互に平行に保持されている。図示上側の保持筒部2aの後部(図示左端部)はやや拡径された円筒部2bとなっている。この円筒部2bに本実施形態のストッパ装置20が組み込まれており、その詳細が図3に示されている。上記円筒部2bの内周側には固定リング10が位置し、この固定リング10の内周側にスライドバー5が挿通されている。円筒部2bの上部には、頭部に回転操作用のノブ11aが取り付けられた固定ねじ11が装着されている。この固定ねじ11は円筒部2の上部に取り付けたスリーブ12の内周側(挿通孔12a)に挿通され、かつ固定リング10の上部に形成したねじ孔10aにねじ込まれている。
【0017】上記スリーブ12はウレタンゴム製で、その内径は固定ねじ11のねじ径よりも若干小径に形成されている。このため、固定ねじ11は当該スリーブ12の挿通孔12aをわずかに押し広げた状態で挿通されており、従って固定ねじ11はこのスリーブ12の弾性力により適度な力で保持され、これにより振動等によって緩まないようになっている。一方、固定リング10のねじ孔10aは内周側に貫通しているため、固定ねじ11を締め込めばその先端が内周側に突き出される。この固定リング10は、円筒部2bの内径よりも若干小さな外径に形成されているため、両者間には円環形状のわずかな隙間が形成され、これにより固定リング10は円筒部2bに対してその径方向にわずかではあるが移動可能となっている。また、固定リング10の内径は、スライドバー5の外径よりも若干大径に形成されており、このため両者間にもわずかな隙間が形成され、これにより固定リング10の円筒部2b内における径方向の移動が許容される。」

2. 本件訂正特許発明1について

2-1. 本件訂正特許発明1と甲6発明との対比
甲6発明の「被切断部材」、「主作業台24及びロタンダ21」、「モータ」、「丸のこ12」、「のこぎりマウント11」、「ピボットアームピボット14」、「ピボットアームキャリッジ15」、「主作業台24の頂部作業面」、「回転軸」、「ピボットアームタワー37」、「ねじクランプ手段17」、「上側のスライドレール20」、「下側のスライドレール20」、「上側の貫通孔」、「下側の貫通孔」及び「摺動ピボットアーム複合マイターソー」は、それぞれ本件訂正特許発明1の「被加工部材」、「ベース部」、「電動機」、「丸鋸刃」、「丸鋸部」、「揺動軸」、「支持部材」、「ベース部上面」、「傾動軸」、「ホルダ」、「傾動規制手段」、「第1のガイドバー」、「第2のガイドバー」、「上側の穴部」、「下側の穴部」及び「卓上切断機」に相当する。
したがって、本件訂正特許発明1と甲6発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。

(1) 一致点
「A 被加工材を載置可能なベース部と、
B 電動機を収納し、前記電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、
C 前記丸鋸刃の軸方向と平行な揺動軸を支点として該丸鋸部を所定の最上方位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持する支持部材と、
D’ 前記丸鋸刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として傾動し、前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から傾動可能なホルダと、
E 前記ベースに対する前記ホルダの傾動を規制する傾動規制手段と、
F 前記ホルダに固定されると共に、前記ホルダから前記ベース部側に延在する第1及び第2のガイドバーとを有し、
G 前記支持部材を前記ガイドバーに沿って摺動可能とした卓上切断機において、
I 前記第1及び第2のガイドバーの軸心を結ぶ平面が、前記丸鋸刃側面に対して平行で、且つ、前記丸鋸刃側面から離間して配置され、
J’ 前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置され、
K’ 前記第1のガイドバーが挿入される上側の穴部、及び前記第2のガイドバーが挿入される下側の穴部を、前記支持部材に設けた卓上切断機。」である点。

(2) 相違点

(2-1) 相違点1
本件訂正特許発明1のホルダが、「丸鋸刃の側面を、ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能」であるのに対し、甲6発明の「丸のこ12」の側面は、1方向に傾動するものではあるが、両方向に傾動可能であるか否かは、明らかでない点

(2-2) 相違点2
本件訂正特許発明1が、「丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに第1及び第2のガイドバーは丸鋸部の上端より下方に位置するように配置される」ものであるのに対し、甲6発明の「のこぎりマウント11」と「上側及び下側のスライドレール20」との高さ方向の位置関係は明らかではない点。

(2-3) 相違点3
本件訂正特許発明1が、「前記ホルダから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする」ものであって、「第1のガイドバー」を押圧することにより「支持部材」を「ベース部上方」の位置で固定可能にするために「上側の穴部内に突出」する「第1の固定手段」を備えたものであるのに対し、甲6発明がそのような構成を備えているか明らかではない点。

(2-4) 相違点4
本件訂正特許発明1が、「前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段」を備えているのに対し、甲6発明がそのような構成を備えているか否かは明らかではない点。

(2-5) 相違点5
本件訂正特許発明1は、「前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し、前記ガイドバーと平行となるサブハンドルを前記丸鋸部に設け」、「前記第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記サブハンドルの前記把持部を持って持ち運び可能」であるのに対し、甲6発明は、サブハンドル及び第2の固定手段を備えていない点。

(2-6) 相違点6
本件訂正特許発明1は、「支持部材」に設けた「第1のガイドバーが挿入される上側の穴部」と「第2のガイドバーが挿入される下側の穴部」との関係を、「上側の穴部」は「下側の穴部」の「軸方向の長さの範囲内に位置」するものとし、「第1の固定手段」が、「前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内において前記上側の穴部内に突出」するものであるのに対し、甲6発明は、「上側の貫通孔」及び「下側の貫通孔」の関係がそのようなものであるか不明である点。

2-2. 相違点についての判断

(1) 相違点1及び2について
甲8記載事項である「鋸刃12」は、「揺動アーム6は、支持部材4に対して左右方向に、すなわち図3に示す矢印L,R方向に揺動可能に構成されている。さらに、鋸刃12は上下揺動部材10とスライドバー8を介して、揺動アーム6に取り付けられている。この鋸刃12の刃面は、揺動アーム6の揺動に追従して傾斜する」(甲第8号証、段落【0002】)ものであるから、「鋸刃12」の側面は、「支持部材4」に対して垂直な位置から左右の両方向に傾動可能に構成されている。また、甲第8号証の認定事項(エ)から、【図3】において、「鋸刃12」を駆動させる構成である「モータ14」の外形形状を「支持面4a」に対して斜め上方に延びるようなものとすることで、「鋸刃12」の「モータ14」側への傾動を可能とすることを、当業者に対して少なくとも示唆している。
甲6発明は、「摺動ピボットアーム複合マイターソー」であり、上記摘記事項(オ)(キ)から、「垂直」、「留継ぎ」、「ベベル」並びにそれらを組み合わせた「複合」切断が可能であるから、甲6発明にはより多様な切断の仕方を可能とすることへの動機付けが内在するといえる。一方、鋸刃の傾動を1方向ではなく両方向へ可能とすることで、「ベベル」切断の方向が2方向となり、切断の仕方が多様となることは、当業者にとって自明である。 甲6発明と甲8記載事項とは、被加工材料を支持する面に対して、鋸刃を傾動させて切断することを可能とする鋸装置である点で共通するから、1方向のみ傾動可能な甲6発明の「丸のこ12」を両方向へ傾動可能とすることは、上記動機付けにしたがって、甲6発明の「のこぎりマウント11」に含まれる「モータ」の外形形状を、「上側及び下側のスライドレール20」が「モータ」の外形形状の上端より下方に位置するようになるまで斜め上方へ延びるものとしつつ、上記甲8記載事項を適用することで当業者が容易になし得た事項である。
上記1.(2)に記載した認定事項(ク)より、甲7記載事項の「ソーアーム578」が上方へ回動した位置にあるとき及び切断位置にあるときに、「支持シャフト226」や「補助シャフト246」を「ソーアーム578」の上端より下方に位置させた点看取できる。一方、甲第6号証の上記1.(1)に記載した摘記事項(ケ)の「・・・since compactness is a prime prerequisite for portable tools; ・・・. In this invention, the slide rails do not protrude beyond the envelop size required to complete the cut. 」(13ページ14ないし17行)(摺動複合マイターソーのような工具の場合、小型さが可搬型工具の主要な必要条件である、・・・この発明において、スライドレールは、切断を完了するために要求される包絡面の大きさを越えて突出しない。)との記載から、甲6発明には、「摺動ピボットアーム複合マイターソー」を小型化すること、そして小型化の手法として「スライドレール」が「切断を完了する」までに、一定の範囲内から突出させないようにすることの動機付けがあるといえる。そうすると、甲6発明において、「のこぎりマウント11」が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに「上側及び下側のスライドレール20」を「のこぎりマウント11」の上端より下方に位置するまで低いものとすることは、上記動機付けにしたがって、上記甲7記載事項である「ソーアーム578」の上端と「支持シャフト226」や「補助シャフト246」との関係を適用することで、当業者が自然に採用し得る事項である。

(2) 相違点3について
甲第6号証、摘記事項(ク)には、

「It is understood that normally dimensional relationships, even if novel, do not affect patentability, but in the case of tools like sliding compound mitre saw, component relationships particularly dimension wise, effect marketability greatly, since compactness is a prime prerequisite for portable tools; portability is the key and any serious protrusions are a detriment.」(13ページ11ないし16行)
(通常、寸法関係は、たとえ新規であるとしても、特許性に影響を及ぼさないが、摺動複合マイターソーのような工具の場合、小型さが可搬型工具の主要な必要条件である、すなわち可搬性が鍵であり、あらゆる重大な突出も不利益であるので、特に寸法関係の構成要素の関係は市販可能性に大きく影響を及ぼすことが理解される。)

と記載されていて、甲第6号証には甲6発明に可搬性を具備せしめることが示唆されている。搬送中に、甲6発明の「スライドレール20」に対して摺動する「ピボットアームキャリッジ15」や、「ピボットアームピボット14」を中心に揺動する「ピボットアーム13」等が意図しない動きをすることは不都合であるから、したがって、搬送中にそうした意図しない動きを防止する固定手段を甲6発明に設けることは、甲6発明に内在する課題である。
甲7記載事項の「補助支持体434」の前面に取り付けられた「滑りロック542」は、「両支持シャフト226と246に対して軸方向に滑るのを防止」(甲第7号証、段落【0041】)するものである。甲7記載事項の「補助支持体434」は、回転する鋸刃が水平方向に移動可能とするために、棒状体を摺動するものである点で、甲6発明の「ピボットアームキャリッジ15」と機能的に共通する。
ここで、「ピボットアームキャリッジ15」が摺動する「スライドレール20」は、上下の二本あるが、そのうち上側のものに対して固定手段を設けることは、固定手段の操作のしやすさに鑑みて、当業者が容易に決定し得る二者択一の事項である。
また、甲6発明の「スライドレール20」のような他部材と相対的に摺動する長尺部材を当該他部材に対して固定するにあたって、当該長尺部材が貫通する他部材の穴部内に突出する固定手段を用いることは、例えば、上記甲第7号証記載の「滑りロック542」や、甲第10号証記載の「固定ねじ11」のように従来周知の技術事項である。その際、通常操作者が見下ろして使用する甲6発明において、当該固定手段を、上下二本ある「スライドレール20」のうち、上側の「スライドレール20」を押圧するように配置したほうが、操作しやすいことは明らかである。
そうすると、甲6発明の「上側のスライドレール20」の任意の位置に対して「ピボットアームキャリッジ15」を固定するために、「ピボットアームキャリッジ15」の「上側の貫通孔」内に突出して「上側スライドレール20」を押圧する手段を設けることは、上記甲6発明に内在する課題に基づいて、甲7記載事項の「滑りロック542」のような固定手段を、上記従来周知の技術事項を採用しつつ甲7記載事項「補助支持体434」と機能的に共通する甲6発明の「ピボットアームキャリッジ15」に設けることで当業者が容易になし得た事項である。

ここで被請求人は第4、3.(2-1)、イ及びカにおいて、甲7記載事項の「滑りロック542」は、「補助支持シャフト246」を摺動する「補助支持体434」に設けられたものであって、丸鋸部を支持する支持部材である「ベベル支持体298」を「主支持シャフト226」上で固定するものではない旨指摘し、甲7記載事項の「滑りロック542」のみを取り出して、甲6発明の「ピボットアームキャリッジ15」に適用することはできない旨主張する。
そこでこの点検討する。
甲7記載事項の「ベベル支持体298」は、「主支持シャフト226」上で、軸方向の摺動と、「ベベル角軸242」を中心とした傾動が可能である。「滑りロック542は切断ユニット294が両支持シャフト226と246に対して軸方向に滑るのを防止」(甲第7号証摘記事項(オ)、段落【0041】)するものである。甲7記載事項の「ベベル支持体298」と「補助支持体434」は、傾動方向において両者は相対的に変位するものである一方、「主支持シャフト226」や「補助支持シャフト246」の軸方向に対しては変化しないから、「滑りロック542」は、「ベベル支持体298」に直接設けることに代えて、「補助支持体434」に取り付けることによって、間接的に「ベベル支持体298」の「主支持シャフト226」の軸方向の摺動を防止しつつも、傾動可能とするものであると解される。ここで、甲6発明の「ピボットアームキャリッジ15」は、「スライドレール20」に対して、相対的に摺動はするものの、傾動はしない。そうすると、「ピボットアームキャリッジ15」の摺動を固定するに際して傾動可能とする必要はないから、「ピボットアームキャリッジ15」を直接「スライドレール20」に対して固定する構成を設けることを阻害する事由は見あたらない。
よって、上記被請求人の主張には理由がなく、相違点3に係る上記構成は、甲6発明、甲7記載事項及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(3) 相違点4について
甲7記載事項の「ロックボルト722」は、「ヒンジピンを中心として、ソーアーム578の自由移動を可能とする引出位置から、滑り複式マイターソー10の輸送中ソーアーム578を切断位置に固定するロック位置へ移動可能である」(甲第7号証、段落【0050】)ものである。一方、上記1.(2)の摘記事項(カ)より、「ソーアーム578」は「鋸刃614」を支持するものであるから、「ロックボルト722」によって「ロックボルト722」を固定することで「鋸刃614」も固定できるものである。
ここで、揺動する部材を固定するためのタイミングとして、丸鋸刃がなおも下方向へ揺動することができない「最下方に揺動した状態」を選択することに格別の困難性は認められない。
そうすると甲6発明の「丸のこ12」とともに揺動する「のこぎりマウント11」の揺動を「最下方に揺動した状態」で固定するための手段を設けることは、上記(3)に記載した甲6発明に内在する課題にしたがって、甲7記載事項の「ロックボルト722」のような固定手段を、甲6発明の「のこぎりマウント11」に設けることで、当業者が容易になし得た事項である。

(4) 相違点5について
上記(2)で検討したとおり、甲第6号証には、甲6発明に可搬性を具備せしめることが示唆されている。
甲第9号証の上記摘記事項(ア)、(ウ)には、「卓上切断機」の「回転刃物9」が取り付けられた「回転刃物部5」に、「切り込み用ハンドル12」とは別に「運搬用ハンドル」を有したものが記載されている(甲第9号証、【請求項2】、段落【0008】)。
甲6発明も甲9記載事項も、回転する丸鋸を揺動させて切断加工をおこなう運搬可能な切断機である点で、共通する。
そうすると、甲6発明において、回転刃物である「丸のこ12」と、「丸のこ12」を切り込むための「ハンドル36」を有している「のこぎりマウント11」に対して、「ハンドル36」とは別にサブハンドルを設けることは、上記甲第6号証が示唆するところにしたがって、甲9号証記載の「運搬用ハンドル」を適用することは容易である。そして、上記(2)に示した甲6発明の搬送中の意図しない動きを防止するための固定手段により、「のこぎりマウント11」の揺動を固定した状態でサブハンドルの把持部を持って持ち運び可能とすることは当然に採用し得る構成である。さらに、甲6発明にサブハンドルを設けるに際して、「のこぎりマウント11」が最下方に揺動した状態で、把持部が「スライドレール20」よりも上方に位置し、サブハンドルが前記「スライドレール20」と平行となるように構成することは、通常摺動ピボットアーム複合マイターソーは、作業台等の平面に「スライドレール20」が水平となるように置かれているところ、そうした状態からサブハンドルを把持して甲6発明を搬送しようとするならば、サブハンドルの把持部が「スライドレール20」よりも上方に位置し、かつ、「スライドレール20」と平行であれば、当該把持が容易であり、重量物である甲6発明を容易に持ち上げられるであろうことは、当業者にとって自明である。
そうすると、甲6発明において、相違点5に係る構成とした点は、上記甲9記載事項である「運搬用ハンドル」を甲6発明の運搬が容易となるように取り付けることで、当業者が容易になし得た事項である。

(5) 相違点6について
甲第6号証の上記摘記事項(カ)には、以下のとおり記載されている。
「In both cases of the existing art of sliding compound mitre saws the pivot arm is longer than in the conventional arrangement, to create a deeper “throat depth”, necessary to accommodate the wider lumber for which these saws are intended.」(10ページ7ないし10行)
(摺動複合マイターソーの現行技術の両者の場合において、ピボットアームは従来の構成におけるよりも長く、これらののこぎりが意図されるより幅広の木材に対応するために必要な深い「のど深さ」を生じる)

甲6発明において、「ベアリング」すなわち「リニアアキシャルベアリング31」は、「ピボットアームキャリッジ15」に備えられたものであり、さらに、「より幅広の木材に対応する」ためには、「ピボットアームキャリッジ15」の「スライドレール20」に沿う長さを短くした方が、「ピボットアームキャリッジ15」が「スライドレール20」に沿ってより長く摺動でき、切断できる木材の幅の範囲が拡がることは明らかであるから、上記記載から、甲6発明の上側及び下側二本の「スライドレール20」に摺動可能に取り付けられた「ピボットアームキャリッジ15」において、「スライドレール20」に沿う長さを短くすることの動機が甲6発明には存在するといえる。さらに、そのためには、上側及び下側の「スライドレール20」のうち、「ピボットアームキャリッジ15」の「貫通孔」を貫いている部分の両端部が、貫いている部分の長さが短い方の両端部が長い方の両端部の間に位置させることが上記動機に適う配置であることは当業者にとって自明である。
ここで、「ピボットアームキャリッジ15」の「スライドレール20」に沿う長さを短くしようとする中で、上記(2)で検討した固定手段を、上側の「スライドレール20」を押圧するように「ピボットアームキャリッジ15」に取り付けようとして、上側の「スライドレール20」を支持する「リニアアキシャルベアリング31」の軸方向の長さを短くし、下側の「スライドレール20」を支持する「リニアキシャルベアリング31」の長さを長くして、「上側の貫通孔」を「下側の貫通孔」の「軸方向の長さの範囲内に位置」させることは、上記「固定手段」を設けるために長さを短くせざるを得ない上側の「リニアアキシャルベアリング31」の負担する荷重が軽くなることを補おうとして、下側の「リニアアキシャルベアリング31」を長くし、さらに、「ピボットアームキャリッジ15」の「スライドレール20」方向の長さを短くしようとして、当業者が容易に想到し得た事項であり、そのような上下の「リニアアキシャルベアリング31」の配置とするならば、甲6発明は、自ずから、当該固定手段について、「下側貫通孔の軸方向長さの範囲内において上側貫通孔内に突出」する構成をとることとなる。
そうすると、甲6発明において、相違点6に係る構成を備えることは、当業者が容易になし得た事項である。

(6) 作用効果について
本件訂正特許発明1による作用・効果も、甲6発明、甲7ないし9記載事項及び従来周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

被請求人は、上記第4、3.(2-1)、クに示したように、本件訂正特許発明1が、従来技術に比較して、スライド式卓上丸鋸を格段に持ち運びやすいものとすることが可能となったのであり、その結果、スライド式卓上丸鋸を大型化することなく切断幅を拡大するという要求と、持ち運びを容易にするという要求との2つの要求を両立させることができたとの、格別な効果を奏する旨主張している。
そこでこの点検討する。
甲第6号証には、上記1.(1)ア.の摘記事項(ケ)に示した、以下の記載がある。

「It is understood that normally dimensional relationships, even if novel, do not affect patentability, but in the case of tools like sliding compound mitre saw, component relationships particularly dimension wise, effect marketability greatly, since compactness is a prime prerequisite for portable tools; portability is the key and any serious protrusions are a detriment. 」(13ページ11ないし16行)
(通常、寸法関係は、たとえ新規であるとしても、特許性に影響を及ぼさないが、摺動複合マイターソーのような工具の場合、小型さが可搬性工具の主要な必要条件である、すなわち可搬性が鍵であり、あらゆる重大な突出も不利益であるので、特に寸法関係の構成要素の関係は市販可能性に大きく影響を及ぼすことが理解される。)

また、甲第6号証には、上記1.(1)ア.の摘記事項(カ)に示した、以下の記載もある。
「・・・the pivot arm is longer than in the conventional arrangement, to create a deeper “throat depth”, necessary to accommodate the wider lumber for which these saws are intended.」(10ページ8ないし10行)
(・・・ピボットアームは従来の構成におけるよりも長く、これらののこぎりが意図されるより幅広の木材に対応するために必要な「のど深さ」を生じる。)

そうすると、上記被請求人が主張する「切断幅を拡大する」と「持ち運びを容易にする」の要求は、甲6発明において両立すべきものとされていることは当業者にとって自明である。そうすると、上記被請求人の主張する「格別な効果」は、甲第6号証の上記記載に基づいて当業者が予測し得る範囲を超えるものであるとは認められない。

2-3. 本件訂正特許発明1についての小括
上記2-2.(1)ないし(5)で検討したとおり、相違点1ないし6は、甲6発明に甲7ないし9記載事項及び従来周知の技術事項を適用することで、当業者が容易になし得たものであるから、本件訂正特許発明1は、甲6発明、甲7ないし9記載事項及び従来周知の技術事項から当業者が容易に発明できたものである。

3. 本件訂正特許発明2について

3-1. 本件訂正特許発明2と甲6発明との対比
本件訂正特許発明2は、本件訂正特許発明1の特定事項を全て含み、加えて以下の事項を包含する。

「N 前記丸鋸刃を挟んで一方側に前記第1及び第2のガイドバーを配置すると共に、他方側に前記電動機を配置し、前記ホルダを前記電動機側に45°傾動したときに前記電動機が前記ベース部に接触しないように配置されていることを特徴とする。」

本件訂正特許発明2と甲6発明を対比すると、上記2-1.(1)で一致し、上記2-1.(2)の相違点1ないし6に加えて、以下の点で相違する。

相違点7
本件訂正特許発明2は、「丸のこ刃」を挟んで一方側に「第1及び第2のガイドバー」を配置すると共に、他方側に「電動機」を配置し、「ホルダ」を前記「電動機」側に45°傾動したときに前記「電動機」が「ベース部」に接触しないように配置されているものであるのに対し、甲6発明は、「丸のこ12」を挟んで一方側に「上側及び下側のスライドレール20」を配置すると共に、他方側に「モータ」を配置したものであるが、「ピボットタワー37」が「モータ」側に傾動可能な否か、明らかでない点。

3-2. 相違点7についての判断
甲第8号証、【図3】には、上記1.(3)ア.の認定事項(エ)のとおり、「モータ14」の外形は、「支持面14a」に対して斜め上方に延びる形状であり、「鋸刃12」からみて「モータ14」側へ傾斜した14Rの位置においても、「支持面4a」に干渉しない形状であることが看取できる。
上記2-2.(1)の本件訂正特許発明1と甲6発明との対比における相違点1についての検討で示したように、甲8記載事項の「鋸刃12」を「モータ14」側へも傾動可能とした構成を甲6発明に適用するに際して、甲8記載事項の「モータ14R」の外形が「支持面4a」と干渉しない構成を適用して、甲6発明の「モータ」が、「主作業台24の頂部作業面」に接触しないように配置することは、当業者が容易になし得た事項である。また、「モータ」側への傾動角度を45度とした点は、甲第8号証の摘記事項1.(3)ア.(ウ)「鋸刃12を支持面に対して所定の揺動角(例えば、ターンテーブルの水平面に対して90度,±45度等の角度)に調整する複数のストッパが支持部材4に設けられている」(段落【0013】)の記載や、甲6発明の「スライドレール20側」への傾動角度が45度であることから、当業者が容易に採用し得る角度であるにすぎない。
また、当該構成によって作用・効果の点で当業者が予測し得た以上のものを奏するとは認められない。

3-3. 本件訂正特許発明2の小括
上記3-2.で検討したとおり、上記相違点7に係る本件訂正特許発明2の構成は、当業者が容易になし得たものであるから、本件訂正特許発明2は、甲6発明、甲7ないし9記載事項及び従来周知の技術事項から当業者が容易に発明できたものである。

4. 本件訂正特許発明3について

4-1. 本件訂正特許発明3と甲6発明との対比
本件訂正特許発明3は、本件訂正特許発明1の特定事項を全て含み、加えて以下の事項を包含する。

「P 前記第1及び第2のガイドバーの前記ホルダと反対側の端面には両者と係合する係合部材が設けられており、前記支持部材は前記ホルダに当接することで前記丸鋸部の前記ホルダ側への摺動が規制され、前記係合部材に当接することで前記ホルダから離れる方向への摺動が規制される」点。

本件訂正特許発明3と甲6発明を対比する。甲6発明の、「スライドレール端ストップ32」は、本件訂正特許発明3の「係合部材」に相当するから、本件訂正特許発明3と甲6発明は、上記特定事項Mにおいて実質的に相違しない。そうすると、本件訂正特許発明3と甲6発明の相違点は、本件訂正特許発明1との相違点である相違点1ないし6である。

4-2. 相違点についての判断
甲6発明と、本件訂正特許発明1との相違点である相違点1ないし6についての検討である上記2-2.(1)ないし(5)から、本件訂正特許発明3は、当業者が容易になし得た事項である。
また、当該構成によって作用・効果の点で当業者が予測し得た以上のものを奏するとは認められない。

4-3. 本件訂正特許発明3の小括
上記4-2.で検討したとおり、本件訂正特許発明3は、甲6発明、甲7ないし9記載事項及び従来周知の技術事項から当業者が容易に発明できたものである。

6. 無効理由2についてのむすび
以上のとおりであるから、上記第4、1.(3)の無効理由2について、本件訂正特許発明1ないし3に係る発明は、甲第6号証記載の発明、甲第7ないし9号証記載の事項及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件訂正特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1には理由がないが、無効理由2には理由がある。
したがって、本件訂正特許発明1ないし3に係る特許は、請求人主張の無効理由2および提出された証拠方法により、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論の第2項のとおり、審判費用については第4項のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
卓上切断機
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸鋸部がベース上面に対して揺動可能であると共に、丸鋸刃の側面に沿う方向に摺動可能な構成をした卓上切断機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の丸鋸部がベース上面に対して揺動可能であると共に丸鋸刃の側面に沿う方向に摺動可能な構成をした卓上切断機は、ベース後方上部のホルダがガイドバーを摺動可能に保持し、ガイドバーの前端部に支持部材、支持部材に丸鋸刃、モータを有する丸鋸部が揺動可能に取付けられた構成をしている。(例えば、特許文献1参照)
また、ホルダに丸鋸部を揺動可能に支持させると共に、ホルダとベース部との間にガイドバーを設け、ベース部とガイドバーが相対的に摺動可能な構成をした卓上切断機がある。(例えば、特許文献2参照)
上記した卓上切断機はベース部に対してホルダが傾動可能となっており、傾動によってベース部上面に対する丸鋸刃側面の角度が傾斜可能な構成をしている。
【0003】
【特許文献1】実開昭62-11526号公報(図1)
【特許文献2】特開平11-90730号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の卓上切断機は、丸鋸部を前方側(ホルダから離れる方向側)に移動させた際には、工具全体がコンパクトとなるようにガイドバーが摺動するものであるが、丸鋸部を後方側(ホルダ側)に移動させた際には、ガイドバーがホルダより後方側にベース部から後方端部が離れるように突出する(特許文献1)、あるいはホルダがベース部から離れるように移動する(特許文献2)ものであった。
【0005】
このため、ホルダの反ベース側すなわち後方側に壁や物等がある状態では切断作業を行うことができず、狭い場所での作業性が悪いものであった。
【0006】
なお、卓上丸鋸を持ち運ぶ際には、通常丸鋸部を前方側に移動させ工具全体をコンパクト化した状態で持ち運ぶものであるが、この状態で壁や物の近傍にホルダが位置するように卓上丸鋸を設置した際には丸鋸部を後方側に移動させることができず、切断作業を行うことができないものであり、卓上丸鋸の設置の際にはガイドバーやホルダの移動量を考慮する必要があり操作性が悪いものであった。また、上記のように卓上丸鋸を持ち運ぶ際には卓上丸鋸をコンパクト化させる作業が必要があり、操作性が悪いものであった。
【0007】
また、ガイドバーを摺動可能に支持する部分に加わる摺動方向に直交した力が大きく、摺動性が低下する、あるいは摺動性の低下しにくい高価な構成とする必要があるものであった。
【0008】
本発明の目的は、上記欠点を解消し、小型化を図ると共に、作業スペースが小さい、操作性の良い卓上切断機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明は、被加工材を載置可能なベース部と、電動機を収納し、前記電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、前記丸鋸刃の軸方向と平行な揺動軸を支点として該丸鋸部を所定の最上方位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持する支持部材と、前記丸鋸刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として傾動し、前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能なホルダと、前記ベースに対する前記ホルダの傾動を規制する傾動規制手段と、前記ホルダに固定されると共に、前記ホルダから前記ベース部側に延在する第1及び第2のガイドバーとを有し、前記支持部材を前記ガイドバーに沿って摺動可能とした卓上切断機において、前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し前記ガイドバーと平行となるサブハンドルを前記丸鋸部に設け、前記第1及び第2のガイドバーの軸心を結ぶ平面が、前記丸鋸刃側面に対して平行で、且つ、前記丸鋸刃側面から離間して配置され、前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置されると共に、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置され、前記第1のガイドバーが挿入される上側の穴部、及び前記第2のガイドバーが挿入される下側の穴部を、前記支持部材に設け、前記上側の穴部は、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内に位置し、前記ホルダから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内において前記上側の穴部内に突出し、前記第1のガイドバーを押圧することにより前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする第1の固定手段と、前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段とを備え、前記第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記サブハンドルの前記把持部を持って持ち運び可能であることに一つの特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、切断作業時にガイドバーがホルダから突出することや、ホルダがベース部から離れるように移動することがなく、製品の小型化を図ることができ、狭い場所等での切断作業が可能となると共に、摺動性及び操作性の向上を図ることができる卓上切断機を提供できるようになる。
【0011】
また、ガイドバーを2本設けると共に、両者を結ぶ仮想線が丸鋸刃側面に対してほぼ平行となるように配置することにより、丸鋸部揺動時に支持部材の摺動部及びホルダのガイドバーを固定する部分に加わる荷重に対する剛性を向上させることができると共に、持ち運び時にガイドバーに加わる荷重に対する剛性を向上させることができるようになる。
【0012】
また、少なくとも2本のガイドバーのホルダと反対側の端面には両者と係合する係合部材が設けられており、支持部材はホルダに当接することで丸鋸部のホルダ側への摺動が規制され、係合部材に当接することでホルダから離れる方向への摺動が規制される構成とすることで、容易に支持部材及び丸鋸部の抜け止めを行うことができるようになる。
【0013】
更に、電動機は丸鋸刃の側面の延長線と交差する部分を有するよう配置され、丸鋸部は電動機の回転力を丸鋸刃に伝達するためのベルト機構を有する構成とすることにより、丸鋸部における丸鋸刃の軸方向の寸法を小さくすることができるようになる。
【0014】
更に、電動機はその軸が丸鋸刃の軸方向とほぼ平行となるように配置されている構成とすることによって、丸鋸部及び卓上切断機本体の高さ方向寸法を小さくすることができるようになる。
【0015】
また、ガイドバーを2本とすると共に、支持部材のガイドバー外周部と当接可能な摺動部の少なくとも一方を、支持部材に対してガイドバーの径方向に移動可能とすることによって、一方の摺動部をガイドバーの径方向に移動させた際に他方の摺動部を支点と丸鋸部が回動し、これによりホルダに対する丸鋸刃の直角度を微調整することができるようになる。
【0016】
更に、一方のガイドバー外周部と当接可能な摺動部をボールベアリングとし、他方のガイドバー外周部と当接可能な摺動部をガイドバーの径方向に移動可能な摺動部とすると共に、他方のガイドバー外周部と当接可能な固定手段を支持部材に設けた構成とすることによって、支持部材におけるガイドバーの軸方向寸法を必要最低限なボールベアリングの軸方向寸法内で収めることができ、丸鋸部の摺動量の確保及び小型化を図ることができる。
【0017】
また、支持部材は丸鋸刃側面の延長線上にレーザーを照射可能なレーザー照射装置を支持する構成とすることにより、切断前において切断部の位置確認を容易に行うことができるようになり、操作性を向上させることができるようになる。
【0018】
更に、ホルダに傾動軸とほぼ直交する方向に移動可能な操作部材を設け、操作部材の操作によってベース部に対するホルダの傾動の規制・解除を可能とした構成とすることによって、作業時にホルダ後方のスペースを気にする必要がないと共に、ホルダ後方に回らずとも傾動の規制・解除を行うことができ操作性の向上を図ることができる。また、卓上切断機における傾動軸の軸方向の寸法を小さくすることができるようになる。
【0019】
更に、丸鋸部は切断作業時に発生する切粉を排出する切粉排出口と、切粉排出口に着脱可能に取付けられる集塵バックとを有し、集塵バックの端面はガイドバーの軸方向において最もベース部から離れる部分よりもベース部側に位置している構成とすることによって、壁際での作業時等に集塵バックによって卓上切断機の設置場所が制限されてしまうことがなく、作業性の向上を図ることができるようになる。
【0020】
更に、丸鋸部は持運び用のサブハンドルを有する構成とすることによって、持ち運び時の操作性を向上させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明卓上切断機の一実施形態を図1?図8を用いて以下説明する。以下、卓上切断機を卓上丸鋸として説明する。
【0022】
図に示す本発明卓上丸鋸は、被加工材35を載置可能なベース部1、2と、電動機であるモータ21を収納し、モータ21の駆動により回動する丸鋸刃14を回動可能に支持する丸鋸部12と、丸鋸刃14の軸方向とほぼ平行な揺動軸11により丸鋸部12を揺動可能に支持する支持部材8とを有し、ベース部1、2上面に対する丸鋸刃14側面の角度を変更可能な構成をしている。
【0023】
ベース部は床面等に載置可能なベース1と、ベース1に埋設されベース1上面とほぼ面一となる上面を有し、上面に直交する回動軸を介して回動可能にベース1と連結されたターンテーブル2を有する構成をしている。作業時には、ベース部であるベース1及びターンテーブル2に被加工材35が載置可能となっている。
【0024】
ベース1には上面とほぼ直交する押さえ面3a(図1に示す右側端面)を有する一対のフェンス3が設けられており、断面が直角形状をした図1に示すような被加工材35を切断加工する際にはフェンス3の押さえ面3aに被切断材35の一面を当接させた状態で切断作業を行うことにより、安定した切断作業を行うことができるようにしている。ターンテーブル2をベース1に対して回動させると、ターンテーブル2と連結されたホルダ5、ガイド部7、支持部材8及び丸鋸部12のフェンス3に対する位置が変化し、これによって、フェンス3の押さえ面3aと丸鋸刃14側面との角度が変化することとなり、フェンス3に当接された被加工材35を様々な角度で切断加工行うことができるようになっている。
【0025】
図1に示すようにターンテーブル2の後方側(図1に示す左側)端部付近には、上方に立設するホルダ5が丸鋸刃14側面及びターンテーブル2上面とほぼ平行に延びた傾動軸4を介して接続されている。この傾動軸4を支点としてホルダ5はターンテーブル2に対して傾動可能となっている(図4及び図5)。
【0026】
また、ターンテーブル2の後方側端部には上方に突出した突出部2aが設けられ、この突出部2aにホルダ5に設けられた傾動規制手段を構成するクランプレバー6が押接されることでベース1に対するターンテーブル2の傾動が規制(固定)される。このように、クランプレバー6の操作によってホルダ5とターンテーブル2との傾動を固定・解除可能となっている。なお、図示しないがターンテーブル2の突出部分には傾動軸4を支点とした円弧状の長穴が設けられており、長穴内にホルダ5に取付けられたクランプレバー6の軸部が位置する構成となっている。
【0027】
ホルダ5の上端部付近には、丸鋸刃14の側面及びベース部1の上面にほぼ平行に配列された穴部5cが2個形成されている(図6)。
【0028】
ホルダ5の穴部5cには、ほぼ同径あるいは若干大径のパイプ材からなる硬質のガイドバー7が挿入されている。本発明卓上丸鋸においては、ホルダ5に対するガイドバー7の抜け及び回動を防止するためにホルダ5に穴部5c内に突出可能な固定手段5dが設けられている(図6)。
【0029】
ホルダ5の穴部5c内に挿入される本発明ガイド部である2本のガイドバー7はほぼ同じ長さ寸法のものであり、長さ寸法はターンテーブル2の長手方向よりも短いものである。
【0030】
ガイドバー7の前方(図1に示す右側)端部には、丸鋸刃14の側面及びベース部1の上面にほぼ平行に配列された2個の穴部9aが設けられた係合部材であるサポート9が取付けられている。サポート9は穴部9a内に突出可能な固定手段9bが設けられており、固定手段9bによってガイドバー7に対するサポート9の抜け止め及びガイドバー7の回動を防止している。
【0031】
ガイドバー7上であってホルダ5とサポート9との間には、丸鋸部12の揺動軸11を支持する支持部材8が設けられている。支持部材8にはガイドバー7とほぼ同心の穴部8aが2個形成されており、一方の穴部8a(図3の下側穴部8a)内にはガイドバー7の外径寸法とほぼ同寸法の内径を有し、ガイドバー7外径部に当接可能な一方の摺動部であるボールベアリング8bが設けられている。他方の穴部8a(図3の上側穴部8a)内にはガイドバー7との間に他方の摺動部である2個の移動部材8cが設けられており、この移動部材8cは支持部材8に螺合したボルト8dの先端によって穴部8a内からの抜け落ちが防止されていると共に、ボルト8dの先端の押圧によって移動調整可能となっている。
【0032】
また、支持部材8には上側穴部8a内に突出可能な固定手段であるノブ10が設けられており、ノブ10の先端がガイドバー7外径部を押圧することによって、ガイドバー7上で支持部材8の位置を固定可能となっている。
【0033】
ボルト8dの操作によって移動部材8cの位置を調整することにより、穴部8a内におけるガイドバー7の位置を調整することができる。すなわち、2個の移動部材8cを図3に示す左側方向に移動させれば支持部材8は下方のガイドバー7を支点として図示時計回りに回動し、これに伴って丸鋸部12及び丸鋸刃14もガイドバー7を支点として図示時計回りに回動することとなる。このように一方のガイドバー7を支点として支持部材8を回動調整可能な構成とすることによって、ベース1上面に対する丸鋸刃14側面の角度の微調整を行うことができるようにしている。
【0034】
なお、支持部材8の穴部8aを有する部分の穴部8aの軸方向寸法は、一方の摺動部であるボールベアリング8bの軸方向寸法とほぼ同じ寸法で、支持部材8が摺動性を損なわない必要最低限以上の寸法となっており、他方の摺動部である移動部材8cを移動可能として角度微調整機構を備えさせると共に他方の摺動部近辺に固定手段を設けた構成としたことにより、支持部材8の寸法を小さく抑えることができ、卓上丸鋸本体の小型化、丸鋸部12の摺動量の確保を行うことができるようになる。
【0035】
2本のガイドバー7のホルダ5と反対側の端面には両者と係合する係合部材であるサポート9が設けられており、支持部材8はホルダ5に当接することで丸鋸部12のホルダ5側への摺動が規制され、サポート9に当接することでホルダ5から離れる方向への摺動が規制される構成となっており、容易に支持部材8及び丸鋸部12の抜け止めを行うことができるようになっている。
【0036】
なお、本発明卓上丸鋸によれば、ガイドバー7上を摺動するのが支持部材8及び丸鋸部12のみであり、摺動時にボールベアリング8bに加わる摺動方向に直交した力を小さく抑えることができると共に、従来の卓上丸鋸のように摺動位置によってボールベアリング8bに加わる上記した摺動方向に直交する力が増加するものではないため、ボールベアリング8bの小型化を図ることができるものである。
【0037】
図3に示すように支持部材8にはガイドバー7の軸方向と直交する方向に延びる揺動軸11が固定され、揺動軸11を介して支持部材8には丸鋸部12が連結されている(図1、図6)。
【0038】
図1及び図3に示すように支持部材8の揺動軸11下方には凹部8eが設けられ、凹部8e内にはレーザー発振器40が設けられている。レーザー発振器40は、少なくとも丸鋸刃14の軸方向に移動調整可能な構成をしており、丸鋸刃14の側面の延長線上に延びるレーザー光を被加工材35上に照射可能となっている。
【0039】
また、揺動軸11外周にはスプリング13が設けられ、スプリング13によって丸鋸部12はベース部から丸鋸刃14が離れる方向(上方)に揺動するよう付勢されており、通常時には図示しないストッパ機構によって図1に示す最も上方(反ベース部側)に揺動した位置となる。切断加工は、スプリング13の付勢力に抗して丸鋸部12を揺動軸11を支点に下方(ベース部側)に揺動させることにより行なわれる。
【0040】
丸鋸部12を下方(ベース部側)に揺動させると、丸鋸刃14は図示しないターンテーブル2に設けられた溝部内に侵入し、所定量侵入した状態で図示しないストッパ機構によって図6に示すように揺動が停止される。
【0041】
本発明卓上丸鋸は、図6に示すように丸鋸部12をベース部側に揺動させた状態から丸鋸部12をホルダ5側に付勢することで、支持部材8がガイドバー7上を摺動し丸鋸部12及び丸鋸刃14がホルダ5側に移動しながら幅広の被加工材35の切断加工を行うことができる。
【0042】
丸鋸部12は、図8に示すようにギヤ16と回転固定された鋸刃軸部15を回転可能に支持し、鋸刃軸部15上に丸鋸刃14を回転固定されるよう取付け可能な構成をしている。また、ギヤ16と噛合うピニオン17aを有するプーリ軸17と、プーリ軸17と回転固定されたプーリ18と、丸鋸刃14の回転軸となる鋸刃軸部15と平行に且つ丸鋸刃14側面の延長線と交差するように配置されたモータ21と、モータ軸22と回転固定されたプーリ23と、プーリ18及びプーリ23に巻き付きモータ軸22の回転力をプーリ18に伝達するための伝達ベルト24とを有している。本発明ベルト機構は伝達ベルト24、プーリ18、23によって構成される。
【0043】
丸鋸部12のハウジングは、丸鋸刃14の一部外周を覆うと共に、鋸刃軸部15を覆う形状をしたソーカバー20と、ソーカバー20と連結し、鋸刃軸部15、ギヤ16、プーリ軸17、プーリ18、プーリ23等を覆う形状をしたギヤカバー37と、ギヤカバー28と連結しモータ21、モータ軸22を覆う形状をしたモータハウジング25とから構成される。
【0044】
ソーカバー20のホルダ5側部分には開口した切粉排出口20aが形成されており(図6)、図1の破線で示す集塵バック41を切粉排出口20aと接続する、あるいは切粉排出口20aに集塵機と接続したホースを接続することで、切断加工時に発生する切粉の飛散を抑制することができる。
【0045】
なお、最も支持部材8がホルダ5側に位置した際に集塵バック41の後端面が、ガイドバー7の軸方向において最もベース部から離れる部分(図1ではクランプレバー6)よりもベース部側に位置する構成とすることによって、ホルダ5後方に壁や物等の障害物がある状態での作業時においても切断作業に影響をきたすことを抑制することができる。このような構成は、集塵バック41の寸法を考慮することや、集塵バック41が丸鋸刃14の側方に配置されるよう例えば切粉排出口20aが丸鋸刃14に対して角度を持って延びる形状とすることで達成される。
【0046】
また、ソーカバー20内にはソーカバー20より突出する部分の丸鋸刃14外周を覆う形状をした鋸カバー19が回動可能に設けられている。鋸カバー19は図1に示すように丸鋸部12が上方に揺動している状態では、ソーカバー20より突出する部分の丸鋸刃14外周を覆う位置に回動し、図6に示すように丸鋸部12が下方に揺動している状態では図示しないリンク機構によってソーカバー20内に収納され、ソーカバー20より突出する部分の丸鋸刃14外周を露出する位置に回動する。
【0047】
モータハウジング25には丸鋸刃14側面の延長線上に位置するハンドル部26が一体的に設けられており、ハンドル部26にはモータ21の駆動を制御するスイッチ27が設けられている。ハンドル部26を丸鋸刃14側面の延長線上に設けることにより、切断加工時(揺動時)に丸鋸刃14を介して丸鋸部12に加わる反力を丸鋸部12に傾き等が起きることなく受けることができる。
【0048】
また、モータハウジング25には丸鋸部12が図6に示すように最もベース部側に近づくように揺動した際に把持部がガイドバー7の軸方向とほぼ平行となる形状をしたサブハンドル36が設けられていると共に、最下方に揺動した状態で支持部材8と丸鋸部12との揺動を固定する図示しない固定手段が設けられている。前記固定手段を動作させ、サブハンドル36を持って持ち運びを行なえば持ち運びが容易に行うことができるようにしている。
【0049】
図2及び図8に示すように、ガイドバー7は丸鋸刃14の側面に対してほぼ平行に配列されている。すなわち、2本のガイドバー7を結ぶ仮想線が丸鋸刃14側面に対してほぼ平行となるように配置しており、このような構成とすることによって、丸鋸部12の揺動時に支持部材8の摺動部8b、8c及びホルダ5のガイドバー7を固定する部分に加わる荷重に対する剛性を向上させることができると共に、持ち運び時にガイドバー7に加わる荷重に対する剛性を向上させることができるようになる。
【0050】
また、ガイドバー7は、丸鋸部12がベース部上面から最も離れた上方位置に揺動している状態で、丸鋸刃14の回動軸の延長線と近接する位置に位置し、丸鋸部12がベース部上面に最も近づく下方位置に揺動している状態(図6の状態)ではハンドル26との丸鋸刃14の回動軸方向の距離が小さくなる位置に設けられて、ガイドバー7が工具全体の高さ方向寸法に影響をきたさず小型化を阻害するものではないと共に、丸鋸部12が下方位置にある切断加工時の摺動操作をよりスムーズに行うことができるようになっている。
【0051】
モータ21は上述したように丸鋸刃14側面の延長線と交差する部分を有するよう配置され、丸鋸部12はモータ25の回転力を丸鋸刃14に伝達するためのベルト機構を有する構成となっていることによって、丸鋸部12における丸鋸刃14の軸方向の寸法を小さくすることができるようになり、これによって図4に示すようにガイドレバー7側にホルダ5及び丸鋸部12を傾斜させる構成とすることができ、左右方向に45度傾斜可能な構成となっている。
【0052】
なお、図2、図4及び図5に示すように、ホルダ5のベース部側部分には傾斜時の位置決め手段であるストッパ5a、5bが設けられ、ターンテーブル2上面にはストッパ5a、5bの移動軌跡上に位置する傾斜微調整手段であるストッパボルト30、31が垂直方向にねじ嵌合している。ホルダ5を傾動軸4を支点として傾斜させると、所定の傾斜角度でストッパ5a、5bがストッパボルト30、31の各々の頭部に当接し、丸鋸部12の傾動位置が位置決めされる。ストッパボルト30は、ホルダ5が左方向に45度の位置に傾斜したときにストッパ5aに係合するように設けられている。また、ストッパボルト31は、ホルダ5が右方向に45度の位置に傾斜したときにストッパ5bに係合するように設けられている。
【0053】
更に、ターンテーブル2上部には貫通孔2bが設けられると共に、貫通孔2b内には直角時の位置決め手段となるピン32が前後に水平移動自在に設けられており、図2に示すようにホルダ5にはピン32の移動軌跡上に位置するようにストッパボルト33が垂直方向にねじ嵌合している。ホルダ5が直角切断位置になったとき、ストッパボルト33の先端とピン32の外径部が接触する。
【0054】
上記した構成において、丸鋸部12を垂直位置に設定し加工材35を直角切断するには、ピン32を前方へ移動させた状態でホルダ5を傾動させ、ストッパボルト33先端とピン32外径部が接触する位置に傾動した際に、クランプレバー6を締めホルダ5の傾動位置を固定することで行なわれる。
【0055】
被加工材35を切断するには、ハンドル26に設けたスイッチ27を操作し、モータ21を回転駆動させ、のこ刃軸15を介して丸鋸刃14を回転させる。この状態で、ハンドル26を握りスプリング13の付勢力に抗して丸鋸部12を押し下げ、被加工材35を切断する。丸鋸刃14がターンテーブル2の溝部内へ侵入し被加工材35の切断が完了した時点で、丸鋸部12への押し下げ力を解除すると、スプリング13の付勢力によってもとの上限位置に復帰する。角度切りをする場合は、ターンテーブル2を回転し前述した切断方法で加工材35の切断作業を行う。
【0056】
次に、丸鋸部12を左右傾斜させる方法について説明する。クランプレバー6を緩めホルダ5の固定状態を解除してホルダ5を傾動軸4を支点として左または右方向へ傾動させる。この時、モータ21の重心はホルダシャフト4のほぼ真上に位置するため、丸鋸部12を左傾斜、右傾斜のどちら側でもほぼ一定の力で傾斜させることができる。クランプレバー6を緩めホルダ5の固定状態を解除してホルダ5を左方向へ傾動させると、ストッパ5aがストッパボルト30に当接し、丸鋸部12は左傾斜45度の状態に位置決めされる。この状態で、クランプレバー6を締めホルダ5の傾斜位置を固定する。あとは前述した切断方法で加工材35の切断作業を行う。
【0057】
更に、直角切り、角度切り、傾斜切りで幅の広い加工材を切断する場合には、フェンス3面に加工材35を押しつけ固定したあと、ノブ10を緩め、ハンドル26で手前側(図1の右方向)に引くと、丸のこ部ホルダ8、及び丸のこ部12は一体となって移動する。
【0058】
ハンドル26を押し下げ切込みを与えたあと、ホルダ5側に丸鋸部12を摺動させながら切断を行う(図6の状態)。切断終了後、丸鋸部12への押し下げ力を解除すると、スプリング13の付勢力によってもとの上限位置に復帰する。
【0059】
上記したように、スライド、直角、角度、傾斜切り、また、前述した角度切りの切断方法と傾斜切りの方法を組み合わせた複合切断が可能である。
【0060】
次に、本発明卓上丸鋸の他の実施形態を図9及び図10に示す。本実施形態は上記実施形態の傾動規制手段の構成を改良したものであり、他の部分については上記実施形態と同一であるので説明を省略する。
【0061】
図に示すように、ターンテーブル2のホルダ5側端面には上方に突出する上端面が円弧形状をした突出部2aが形成されており、突出部2aの一部分はホルダ5の後端面とホルダ5に設けられた突部28とによって覆われている。傾動軸4の軸方向において突出部2aと突部28との間には移動部材であるスライダー29が配置されている。
【0062】
突部28には図に示すように傾動軸4の軸心延長線上にほぼ向うように、すなわち傾動軸4の径方向に延びた貫通穴28bが形成されており、貫通穴28b内にはクランプボルト6が回動可能に位置して、クランプボルト6にはスライダー29が螺合している。図に示すスライダー29の上端面と突部28の下端との間には、クランプボルト6の外周に配置された付勢手段であるバネ34が配置されており、スライダー29はバネ34によって常に傾動軸4側に付勢されている。
【0063】
突部28のホルダ5後端面及び突出部2aと対向する個所には、傾動軸4側(図示下方)に向うに従ってホルダ5後端面及び突出部2aから離れるように傾斜したテーパー部28aが設けられている。また、図に示すようにスライダー29にもテーパー部28aと面接触可能なようにテーパー部28aとほぼ同様の傾斜角度で形成されたテーパー部29aが形成されている。
【0064】
図9に示す状態は、ターンテーブル2に対してホルダ5の傾動が固定されている状態であるが、図に示す状態では、ターンテーブル2の突出部2aはホルダ5後端面とスライダー29によって傾動軸4の軸方向に挟持され、相対回動不能な状態となっている。詳細には、スライダー29のテーパー部29aと突部28のテーパー部28aとは当接状態にあると共に、バネ34は軸方向に圧縮された状態、クランプボルト6は締め付け状態にあり、スライダー29は突部28と突出部2aとの間に入り込んだ状態にある。
【0065】
この状態から丸鋸部12を左右方向に傾斜させるには、まずクランプボルト6を緩める。
【0066】
この緩め作業によってバネ34の付勢力及び自身の重力によってスライダー29は傾動軸4側(図1の下方)に移動する。
【0067】
上記したスライダー29の移動によってスライダー29とホルダ5後端面とによる突出部2aの挟持は解除され、ターンテーブル2に対するホルダ5の傾動が可能となる。
【0068】
その後、丸鋸部12を把持する等してターンテーブル2に対してホルダ5を任意の角度に傾動させ、傾動位置を保持した状態で再度クランプボルト6を締め付け操作することで、スライダー29がバネ34の付勢力に抗しながらクランプボルト6の軸方向に移動し、両テーパー部28a、29aが接触し、更にスライダー29がクランプボルト6の軸方向に移動することでスライダー29がホルダ5側に突出部2aを押圧するため、突出部2aがスライダー29とホルダ5とで挟持され、ターンテーブル2に対するホルダ5の傾動を固定し丸鋸部12の傾動位置を固定することができる。
【0069】
なお、スライダー29が突出部2aとテーパー面28aとの間に比較的強固に食い込んだ状態となり、クランプボルト6を緩めたとしてもバネ34の付勢力及び自身の重力によって傾動軸4側(図示下方)に移動しなかった場合においても、緩め操作によって上方に突出したクランプボルト6を下方に押し下げればスライダー29を傾動軸4側に移動させ、ターンテーブル2に対してホルダ5を傾動可能な状態とすることができる。
【0070】
また、ホルダ5の傾動固定は、上記したようにスライダー29がクランプボルト6の軸方向に移動することにより行なわれるが、詳細には、スライダー29はクランプボルト6と貫通穴28b間の隙間によって突出部2a側へも移動するものである。また、ホルダ5の後端面と突出部2aとの間に僅かな隙間がある場合には、この隙間が無くなるようにホルダ5が移動や傾くことによりスライダー29とホルダ5後端面とで突出部2aが挟持される。
【0071】
上述したようにホルダ5の傾動固定を解除することで、ホルダ5を傾動軸4を支点として左または右方向へ傾動させることができるものであるが、モータ21の重心はホルダシャフト4のほぼ真上に位置するため、丸鋸部12を左傾斜、右傾斜のどちら側でもほぼ一定の力で傾斜させることができる。クランプボルト6を緩めホルダ5の固定状態を解除してホルダ5を左方向へ傾動させると、ストッパ5aがストッパボルト30に当接し、丸鋸部12は左傾斜45度の状態に位置決めされる。この状態で、クランプボルト6を締めホルダ5の傾斜位置を固定した後には、前述した切断方法で加工材35の切断作業を行うことができる。
【0072】
上記したような構成とすることによって、傾動作業時にホルダ5後方側に手を回り込ます必要がなく、ホルダ5後方に壁や物等がある場合であっても傾動作業を行うことができ、且つ傾動作業時に本体側方後方側に位置せずとも操作部材6に手が届き、傾動作業の操作性を良くすることができる。また、卓上切断機本体を配置させる際には、ホルダ5及び操作部材後方のスペースを考慮する必要が無く、作業スペースを小型化することができるものである。
【0073】
なお、上記実施形態ではガイドバー7を2本で構成したが、1本あるいは3本であっても良い。
【0074】
また、上記実施形態では左右両傾斜の構成としたが片傾斜の構成としても良いものであると共に、上記実施形態では、丸鋸刃14の右側に動力を伝達するギヤ16やプーリ18、23及びガイドバー7を配置させたが、上記実施形態と逆の左側に各部材を配置した構成としても、良いものである。更には、ベース部がターンテーブル2を有さないベース1のみの構成であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明卓上丸鋸の一実施形態を示す正面図。
【図2】図1の右側面図。
【図3】本発明卓上丸鋸を構成する支持部材の一実施形態を示す図1のB-B線断面図。
【図4】本発明卓上丸鋸における右側傾斜状態を示す図1の右側面図。
【図5】本発明卓上丸鋸における左側傾斜状態を示す図1の右側面図。
【図6】図1に示す卓上丸鋸の一動作状態を示す正面図。
【図7】図1に示す卓上丸鋸の平面図。
【図8】図1のA-A線断面図。
【図9】本発明卓上丸鋸の他の実施形態を示す正面図。
【図10】図9の要部拡大左側面図。
【符号の説明】
【0076】
1はベース、2はターンテーブル、3はフェンス、4は傾動軸、5はホルダ、6はクランプレバー、7はガイドバー、8は支持部材、8aは穴部、8bはボールベアリング、8cは移動部材、8dはボルト、9はサポート、10はノブ、11は揺動軸、12は丸鋸部、13はスプリング、14は丸鋸刃である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材を載置可能なベース部と、
電動機を収納し、前記電動機の駆動により回動する丸鋸刃を回動可能に支持する丸鋸部と、
前記丸鋸刃の軸方向と平行な揺動軸を支点として該丸鋸部を所定の最上方位置と、所定の最下方位置との間で揺動可能に支持する支持部材と、
前記丸鋸刃の軸方向と直交すると共に、前記ベース部上面に対して平行に延びる傾動軸を支点として傾動し、前記丸鋸刃の側面を、前記ベース部上面に対して垂直な位置から両方向に傾動可能なホルダと、
前記ベースに対する前記ホルダの傾動を規制する傾動規制手段と、
前記ホルダに固定されると共に、前記ホルダから前記ベース部側に延在する第1及び第2のガイドバーとを有し、
前記支持部材を前記ガイドバーに沿って摺動可能とした卓上切断機において、
前記丸鋸部が最下方に揺動した状態で、把持部が前記ガイドバーよりも上方に位置し前記ガイドバーと平行となるサブハンドルを前記丸鋸部に設け、
前記第1及び第2のガイドバーの軸心を結ぶ平面が、前記丸鋸刃側面に対して平行で、且つ、前記丸鋸刃側面から離間して配置され、
前記ホルダを、前記第1及び第2のガイドバーが設けられた側に45°傾動したときにも、該ガイドバーは、ベース部に接触しない高さ位置に配置されると共に、前記丸鋸部が最上方の揺動位置にあるとき及び最下方の揺動位置にあるときに前記第1及び第2のガイドバーは前記丸鋸部の上端より下方に位置するように配置され、
前記第1のガイドバーが挿入される上側の穴部、及び前記第2のガイドバーが挿入される下側の穴部を、前記支持部材に設け、前記上側の穴部は、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内に位置し、
前記ホルダから前記ベース部側に延在し、第2のガイドバーより上方に位置する第1のガイドバーの任意の位置に前記支持部材を固定するために前記支持部材に設けられた部材であって、前記下側の穴部の軸方向長さの範囲内において前記上側の穴部内に突出し、前記第1のガイドバーを押圧することにより前記支持部材を前記ベース部上方の位置で固定可能にする第1の固定手段と、
前記丸鋸刃を最下方に揺動した状態で、前記丸鋸部の揺動を固定する第2の固定手段とを備え、
前記第2の固定手段により前記丸鋸部の揺動を固定した状態で前記サブハンドルの前記把持部を持って持ち運び可能であることを特徴とする卓上切断機。
【請求項2】
前記丸鋸刃を挟んで一方側に前記第1及び第2のガイドバーを配置すると共に、他方側に前記電動機を配置し、前記ホルダを前記電動機側に45°傾動したときに前記電動機が前記ベース部に接触しないように配置されていることを特徴とする請求項1記載の卓上切断機。
【請求項3】
前記第1及び第2のガイドバーの前記ホルダと反対側の端面には両者と係合する係合部材が設けられており、前記支持部材は前記ホルダに当接することで前記丸鋸部の前記ホルダ側への摺動が規制され、前記係合部材に当接することで前記ホルダから離れる方向への摺動が規制されることを特徴とする請求項1又は2記載の卓上切断機。
【請求項4】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-09-17 
結審通知日 2015-09-28 
審決日 2015-10-09 
出願番号 特願2009-219863(P2009-219863)
審決分類 P 1 113・ 561- ZAA (B23D)
P 1 113・ 121- ZAA (B23D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩瀬 昌治▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 長屋 陽二郎
渡邊 真
登録日 2012-10-12 
登録番号 特許第5107325号(P5107325)
発明の名称 卓上切断機  
代理人 筒井 章子  
代理人 筒井 大和  
代理人 筒井 章子  
代理人 筒井 大和  
代理人 小林 武  
代理人 青山 仁  
代理人 小塚 善高  
代理人 青山 仁  
代理人 小塚 善高  

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