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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
管理番号 1311828
異議申立番号 異議2015-700041  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-09-30 
確定日 2016-01-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5691687号「検査装置」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5691687号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5691687号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成23年3月14日に特許出願され、平成27年2月13日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 特許業務法人アイザック国際特許事務所(以下、単に、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第5691687号の請求項1ないし7に係る特許発明(以下、「本件特許発明1ないし7」などという。)は、それぞれ、その願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるつぎのとおりのものである。
【請求項1】
第1の偏光方向の直線偏光の光を検査対象に照射する光源と、
前記光源より照射された光のうち、前記検査対象において正反射された光を検出する正反射光検出器と、
前記光源より照射された光のうち、前記検査対象において拡散反射された光であって、前記第1の偏光方向に直交する第2の偏光方向の光を透過する光学素子と、
前記光学素子を通過した光を検出する拡散反射光検出器と、
前記光源、前記正反射光検出器、前記光学素子、前記拡散反射光検出器を覆い、前記光源より前記検査対象に光が照射される部分に開口を有する暗箱と、
前記暗箱の前記開口に設けられた前記検査対象と接する透明板と、
を有し、
前記透明板は、一方の面と他方の面とが平行ではないことを特徴とする検査装置。

【請求項2】
前記光源より出射された光は、前記検査対象における照射領域に照射され、
前記拡散反射光検出器は、前記照射領域において前記検査対象の表面に対し略垂直方向に設置されているものであることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。

【請求項3】
前記光源、前記正反射光検出器及び前記拡散反射光検出器を含む測定系を複数有することを特徴とする請求項1または2に記載の検査装置。

【請求項4】
前記光源は、
発光ダイオードと、
前記発光ダイオードより出射された光のうち、第1の偏光方向の成分のみを透過する光学素子と、を有するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の検査装置。

【請求項5】
前記光源は1または複数の面発光レーザを有するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の検査装置。

【請求項6】
前記光源は複数の前記面発光レーザが2次元的に配列されている面発光レーザアレイであることを特徴とする請求項5に記載の検査装置。

【請求項7】
前記正反射光検出器及び前記拡散反射光検出器は解析部と接続されており、
前記解析部には、前記正反射光検出器により得られた値及び前記拡散反射光検出器により得られた値に基づき前記検査対象の表面及び表面近傍の内部状態を前記解析部に接続された表示部に表示させることを特徴とすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の検査装置。

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として特許第3194152号公報(以下、「甲1号証」という。)、特開2000-20684号公報(以下、「甲2号証」という。)、特表2001-505675号公報(以下、「甲3号証」という。)、特表2010-503079号公報(以下、「甲4号証」という。)及び特開平4-132540号公報(以下、「甲5号証」という。)を提出し、本件請求項1ないし7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであること(以下、「異議理由1」という。)、また、本件請求項1ないし7に係る特許発明は、いずれも特許に係る出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであること(以下「異議理由2」という。)から、本件請求項1ないし7に係る特許は、いずれも特許法第113条2号又は4号に該当し、同法第114条第2項の規定により取り消すべきものである旨主張している。

第4 特許異議申立理由についての検討
1 異議理由1(特許法第29条第2項違反)について
(1)提出された甲1ないし5号証の記載について
ア 甲1号証の記載について
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲1号証には、「第1の偏光方向の直線偏光の光を検査対象(表面P)に照射する光源(指向性の光源(1)及び偏光子(2))と、前記光源より照射された光のうち、前記検査対象において正反射された光を検出する正反射光検出器(光検出素子(4)及び光検出素子(5))と、前記光源より照射された光のうち、前記検査対象において拡散反射された光であって、前記第1の偏光方向に直交する第2の偏光方向の光を透過する光学素子(偏光分離立方体3d)と、前記光学素子を通過した光を検出する拡散反射光検出器(光検出素子(7))と、前記光源、前記正反射光検出器、前記光学素子、前記拡散反射光検出器を覆い、前記光源より前記検査対象に光が照射される部分に開口を有する暗箱(基体(8))とを有する検査装置」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

イ 甲2号証の記載について
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲2号証には、「光源から生体表面に光を照射し、その反射光を受光素子で検出する検査装置において、その検査面12aを構成する透明体12を備えた検査装置」が記載されており。図1によれば、当該「透明体12」は、いわゆるプリズムと呼ばれる三角形状の光学素子であり、その各面は互いに平行でないものであることが見て取れる。

ウ 甲3号証の記載について
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲3号証には、「感知表面(102)と対向する位置に小型プリズムを有するシートプリズム(100)を備え、当該感知表面に接触する生体表面に光源(202)からの光を照射し、感知表面で反射した反射光を受光素子(206)で検出する装置」及び「感知表面を形成するプリズムを備え、当該感知表面に接触する生体表面に光源からの光を照射し、感知表面で反射した反射光を受光素子(検出アレイ)で検出する装置」が記載されている。

エ 甲4号証の記載について
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲4号証には、「検出対象である指表面が載置されるファセット(403e)であって光源(409)からの光がTIR反射するファセット(403e)と、ファセット(403e)からのTIR反射光(503)をTIR反射させた反射光を撮像システム(411)に透過させるファセット(403c)と、光源(413)からファセット(403a)を介して入射する光(601)がファセット(403e)における指表面で拡散反射された拡散反射光(603)を通過させて撮像システム(411)へ入射させるファセット(403b)を備え、ファセット(403e)、ファセット(403b)及びファセット(403c)がそれぞれ平行でない平面である透明プラテン(403)を備える生体認証システム」が記載されている。

オ 甲5号証の記載について
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲5号証には、「ケース11内に非測定部位である各層SC表面に当接するプリズム12が配置されている測定装置」が記載されている。

(2)判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明と甲1発明とを対比すると、『本件特許発明が「暗箱」の「開口」に設けられた「検査対象と接する透明板」を有し、「透明板」は「一方の面と他方の面とが平行でない」ものであるのに対して、甲1発明は、そのような透明板を有しているものと特定できない点』(以下、「相違点」という。)で相違し、その余の点で一致する。
(イ)上記相違点について検討する。
a 特許異議申立人が提出した甲2号証には、上記(1)アにおいて認定したとおり、「光源から生体表面に光を照射し、その反射光を受光素子で検出する検査装置において、その検査面12aを構成する透明体12であって、当該透明体12は、三角形状であり、各面は互いに平行でないものを備えた検査装置」の発明が記載されているものと認められるものの、ここでの「透明体12」は、いわゆる「プリズム」と呼ばれる三角形状のものであって、板状のものではないから、本件特許発明の「透明板」に相当するものということはできない。
さらに、甲2号証の「透明体12」を甲1発明に適用した場合には、甲1発明の光検出器6及び7により検出される表面からの拡散反射光の光路Rd方向にプリズムの頂点が配置されることとなることにより、当該拡散反射光の検出に悪影響を生じることは明らかであるから、甲1発明に甲2号証の「透明体12」を適用することには、阻害要因が存在するものというほかない。
b 特許異議申立人は、さらに甲3ないし5号証にも光学検査装置において、一方の面と他方の面とか平行でない透明板を使用することが記載されていることを根拠に、上記相違点に係る構成が容易に想到し得るものと主張している。
この点についてさらに検討するに、上記(1)エで認定したように、甲4号証に記載の透明体である「プラテン403」は五角形の光学部材であって板状のものとはいえないし、同(1)オで認定したように、甲5号証に記載の透明体である「プリズム12」は、甲2号証の「透明体12」と同様に板状のものではない三角形のものである。いずれも、本件特許発明1の「透明板」に相当するものとはいえない。
そして、上記(1)ウで認定したように、甲3号証に記載の「シートプリズム」は、その形状は、「透明板」と言い得るものであるものの、甲3号証の「シートプリズム」も、甲2号証の「透明体12」と同様に、甲1発明に適用した場合には、表面からの拡散反射光の検出に悪影響を生じることから、甲1発明に甲3号証の「シートプリズム」や甲5号証の「プリズム」を適用することには、阻害要因が存在するものである。
また、甲4号証については、「ファセット(403e)」からのTIR反射光(503、505)及び拡散反射光(603)を単一の受光手段である撮像システム(111)で受光するように構成された「プラテン」であることから、このような構成を、「正反射光検出手段」及び「拡散反射光検出手段」のそれぞれにより検査対象からの正反射光及び拡散反射光を受光するように構成された甲1発明に適用する動機付けは見出せないし、阻害要因を有するものともいえる。
さらに、甲2ないし5号証には、本件特許発明1の「透明基板の一方の面と他方の面とが平行でないことにより、他方の面からの反射した光が正反射検出器30に入射しないようにする」という、技術的意義ないし作用効果については記載も示唆もされていない。
c してみると、上記相違点は、当業者が容易に想到し得るものということはできない。
(ウ)以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2ないし5に記載の技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものということはできない。

イ 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、いずれも本件特許発明1を引用するものである(上記第2の摘記参照)から、本件特許発明2ないし7と甲1発明とを対比すると、本件特許発明2ないし7と甲1発明とは、それぞれ、少なくとも上記相違点において相違するものである。
そして、上記相違点は当業者が容易に想到し得るものということができないことは上記ア(イ)のとおりであるから、本件特許発明2ないし7は、甲1発明及び甲2ないし5に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)小括
上記のとおり、本件特許発明1ないし7は、いずれも、甲1発明及び甲2ないし5号証に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、異議理由1の理由及び証拠によっては、本件特許発明1ないし7を取り消すことはできない。

2 異議理由2(特許法第36条6項1号違反)について
(1)異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「透明基板360の内側の他方の面で反射された光を正反射光検出器30に入れない」ことを目的(当審注:申立書では課題と記載している。なお、ここでの解決しようとする課題は、正反射光検出器に、透明基板360の内側の他方の面で反射された光が入射してしまうことである。)として、図9のように外側の一方の面(即ち、散乱反射検出器40と対向する透明体360の上の面)と、内側の他方の面(即ち、透明体360の皮膚等と接している下の面)と、が平行に形成されていないことが記載されている(段落【0047】)のに対して、本件特許発明1には、「前記透明板は、一方の面と他方の面とが平行ではないこと」として規定されておらず、図9における皮膚等と接している面とこの面に対向する上の面とが平行でないことが特定されていないことを理由に、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなることを根拠に、本件請求項1の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。

(2)当審の判断
ア 本件特許発明1の「透明板」について検討する。
(ア)本件特許発明1は、上記第2において摘示した請求項1に記載の事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、本件特許発明1における「透明板」について検討するに、請求項1に記載の事項によれば、「透明板」は、「暗箱の開口に設けられ」、「検査対象と接する」ものであって、「一方の面と他方の面とが平行でない」ものであることが規定されていることから、本件特許発明1において「透明板」は、開口に設けられるものであると共に、検査対象と接するものであることが明確に特定されている。
ここで「板」とは、「金属や石などを薄く平たくしたもの。(広辞苑第六版)」を意味する語句であることに鑑みると、本件特許発明1の「透明板」とは、透明な平たい形状のものであると解することができる。
そして、このような平たい形状のものにおける「面」とは、いわゆる厚みを形成する面(小さい面)ではなく、幅と長さを形成する面(大きい面)を意味するものと認識するのが通常であるといえる。
してみると、本件特許発明1において規定されている「一方の面と他方の面」とは、いずれも幅と長さを形成する面について特定するものと解することが相当であるから、本件特許発明1においては、その「透明板」の「一方の面」と「他方の面」が「外側の面」及び「内側の面」を意味することが理解でき、その「一方の面」と「他方の面」とが「平行に形成されていない」ことが明確に規定されているものと認めることができる。
そして、本件特許発明1において「透明板」が「暗箱の開口に設けられ」ていると規定されており、特に明示的な規定がなくとも本件特許発明1のような構成の検査装置において「透明板」が当該開口が覆われることは明らかであるから、ここでの「一方の面」と「他方の面」のいずれかが検査対象と接する面となることも明確に把握できることである。
(イ)また、ここでの「一方の面」と「他方の面」との規定において、「一方」及び「他方」が、通常一対のものとして認識されるものについて、それぞれを区別して指し示す際に使われることが多い用語であることに鑑みれば、請求項1において特定されている「一方の面と他方の面」とが一対のものとして認識されるもの、すなわち、対向する面であると解することが自然であることからも、本件特許発明1において規定される「透明板」の「一方の面」と「他方の面」が、「透明板」の「内側の面」及び「外側の面」を特定するものと理解することができる。

イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、「透明板」に関して、つぎの記載がある。
(ア)「【0027】
次に、図1に基づき本実施の形態における検査装置について説明する。本実施の形態における検査装置は、光学センサを有する光学式検査装置である。具体的には、光源10、偏光フィルタ11、コリメートレンズ20、正反射光検出器30、拡散反射光検出器40、偏光フィルタ41を有している。光源10、偏光フィルタ11、コリメートレンズ20、正反射光検出器30、拡散反射光検出器40、偏光フィルタ41は、暗箱50内に収納されており、検査対象となる皮膚等と接する面には透明板60が設けられている。また、正反射光検出器30及び拡散反射光検出器40は、解析部70に接続されており、正反射光検出器30及び拡散反射光検出器40により得られた情報に基づき、皮膚等の解析を行ない、表示部80において、検査された皮膚等の状態の表示を行なう。
【0028】
暗箱50は、アルミニウム製であり、外乱光及び迷光の影響を低減するため、表面に黒アルマイト処理が施されており、検査対象となる皮膚等と接する面には開口を有している。この開口には、光源10から出射された波長の光が透過する透明板60が設置されている。
【0029】
図2は、本実施の形態における検査装置の光学センサ部分を示すものである。光源10には、LED(Light Emitting Diode)が用いられている。偏光フィルタ11により、光源10から出射された光は、S偏光の光となり、コリメータレンズ20を介し、皮膚等に照射される。この際、光源10からの出射された光の皮膚等の入射角θは、60°である。即ち、皮膚表面の法線方向に対し60°の角度で、透明板60を介して入射するように設置されている。尚、本実施の形態においては、透明板60に入射する光は、屈折するが、図面等においては、光が屈折している様子は図示されていないものとする。
【0030】
コリメートレンズ20は、光源10から出射された光の光路上に設置されており、光源10から出射された光を略平行光とするものである。本実施の形態では、コリメートレンズ20から出射された光の光束の幅が4mmとなるように形成されている。コリメートレンズ20から出射された光は、透明板60を介して、皮膚等に照射される。尚、光源10からの光が皮膚等の表面に照射される領域を照明領域と記載し、この照明領域の中心を「照明中心」と記載する場合がある。また、コリメートレンズ20より出射された光を「照射光」とも記載する場合がある。尚、本実施に形態における検査装置は、透明板60の外側の面で皮膚等が接触した状態で検査を行なうものであるが、皮膚等を透明板60の外側の面と接触させることにより皮膚等における照明中心の位置を正確に確定させることができる。」
(イ)【0050】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態における検査装置は、光源に面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER)素子を用いた構造のものである。・・・
【0054】
尚、光源110、コリメートレンズ20、正反射光検出器30、拡散反射光検出器40、偏光フィルタ41は、第1の実施の形態と同様に、暗箱50内に収納されており、検査対象となる皮膚等と接する面には透明板60が設けられている。 」
(ウ)「【0060】
〔第3の実施の形態〕
次に、第3の実施の形態における検査装置ついて説明する。本実施の形態は、光源、正反射光検出器及び散乱反射光検出器からなる測定系を2つ有するものである。・・・
【0062】
暗箱260は、アルミニウム製であり、外乱光及び迷光の影響を低減するため、表面に黒アルマイト処理が施されており、検査対象となる皮膚等と接する面の一部には開口を有している。この開口には、第1の光源部210及び第2の光源部220から出射された波長の光が透過する透明板261が設置されている。 」
(エ)「 〔第4の実施の形態〕
次に、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、透明板360の両面は平行ではなく、一方の面に対し他方の面が傾斜している。即ち、図9に示されるように、本実施の形態における検査装置は、平行平板ではない透明板360を有している。この透明板360は外側の一方の面と内側の他方の面が平行には形成されてはいないため、光源10から出射された光のうち、透明板360の外側の一方の面と皮膚等との間で正反射された光は、正反射光検出器30において検出されるが、透明基板360の内側の他方の面で反射された光は、一方の面とは異なる角度で反射されるため、正反射光検出器30に入射することはない。
【0075】
よって、透明板360において裏面反射した光、即ち、他方の面からの反射した光が正反射光検出器30に入射しないように形成されているため、正確な検査を行なうことができる。 」

ウ 上記イの(ア)によれば、「透明板」が、「外側の面」を「皮膚等と接触」させることで「皮膚等における照明中心の位置を正確に確定させる」ものであることが記載されており、また「透明板60に入射する光は、屈折する」こと、すなわち、透明板と空気との境界面において、光が反射するものであることが記載されている。
そして、上記(エ)によれば、「透明板」はその「両面は平行ではなく、一方の面に対し他方の面が傾斜している」こと、即ち、図9に示されるように、「平行平板ではない透明板」であって、その「透明板」の外側の一方の面と内側の他方の面が平行には形成されてはいないものであること、そしてそのような「透明板」を用いることにより、当該「透明板」の皮膚等と接触していない方の「裏面」、「内側の面」での正反射光が正反射光検出器に入射しないように、透明板を形成したことにより正確な検査を行うことができることについて記載されているものと認められる。

エ 上記アで検討したように、本件特許発明1においては、その「透明板」の「一方の面」と「他方の面」が「外側の面」及び「内側の面」を意味することが理解でき、その「一方の面」と「他方の面」とが「平行に形成されていない」ことが明確に規定されているものであると認められるところ、そのような「透明板」により、所定の課題を解決することができることが本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえることは上記ウで検討したとおりであるから、本件特許発明1が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないということはできない。

オ 異議申立人は異議理由2に関して以下のように主張しているが、そのいずれの主張も以下に検討するように採用することはできない。
(ア)異議申立人は、本件特許発明1では、「一方の面」が「散乱反射検出器40と対向する透明体360の上の面」であり「他方の面」が「透明体360の皮膚等と接している下の面」であることが特定されていないと主張しているが、本件特許発明1において、一方の面及び他方の面が、それぞれ、「散乱反射検出器40と対向する透明体360の上の面」と「透明体360の皮膚等と接している下の面」であると解することができることは、上記ア(ア)で検討したとおりである。
(イ)異議申立人は、「一方の面」と「他方の面」、「皮膚等と接している下の面と、この面に対向する上の面は平行であるが、他に平行でない一組の面を有した透明体(例えばZ軸-X軸の断面形状が台形のもの)のような、上記課題を解決し得ない透明体を有するものについても本件特許発明1の技術的範囲に含まれることとなるとも主張しているが、本件特許発明1の「透明板」のような平たい形状のものにおける「面」とは、いわゆる厚みを形成する面(小さい面)ではなく、幅と長さを形成する面(大きい面)、すなわち、異議申立人のいう「下の面」と「上の面」を指し示すものと通常解されることも上記ア(ア)で検討したとおりである。
(ウ)異議申立人はさらに、「本件特許発明1の図1の透明板60であっても、本件特許発明1における「一方の面」が「透明板60の側面(X軸とZ軸で形成される面と平行な面)」に相当し、「他方の面」が「皮膚等に接する面又はこれに対向する面(X軸とY軸で形成される面と平行な面)」に相当すると解釈すれば、「一方の面」と「他方の面」は当然平行ではない(垂直である)。即ち図1の透明板60では、上記課題を解決し得ないにも係わらず、当該透明板60を有するものが本件特許発明1の技術的範囲に含まれていることになる」旨主張する。
しかしながら、上記ア(イ)で検討したように、で説示したように、「一方」及び「他方」が、通常一対のものとして認識されるものについて、それぞれを区別して指し示す際に使われることが多い用語であることに鑑みれば、異議申立人のこのような解釈は「一方の面」と「他方の面」が一対のものとして認識され得ない関係のものと解することとなる点で、通常の文言解釈として採用することができないものである。


(3)小括
上記の検討によれば、本件特許発明1の「透明体」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、異議理由2の理由によって、本件特許発明1ないし7を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上検討したとおり、本件特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2015-12-16 
出願番号 特願2011-55826(P2011-55826)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61B)
P 1 651・ 537- Y (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 湯本 照基  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 藤田 年彦
尾崎 淳史
登録日 2015-02-13 
登録番号 特許第5691687号(P5691687)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 検査装置  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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